(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155518
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】酵母入りチョコレート、酵母入りチョコレートを主成分とするサプリメント、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/42 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
A23G1/42
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042407
(22)【出願日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021057697
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301046972
【氏名又は名称】兼杉 範夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102749
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 紀一
(74)【代理人】
【識別番号】100081787
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 輝晃
(72)【発明者】
【氏名】兼杉 範夫
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GG11
4B014GG14
4B014GG18
4B014GL10
4B014GP01
4B014GP13
(57)【要約】
【課題】従来、酵母を入れたチョコレートの有能性はあるものの、酵母が生きたまま腸に届かせるのは難しかった。
【解決手段】本発明のチョコレートは、インスタントドライ酵母をチョコレートに含有させたことを特徴とする。また、本発明のチョコレートの製造方法は、インスタントドライ酵母と、チョコレートとをそれぞれ製造する第一の工程と、前記チョコレートを、該チョコレートが解ける温度以上、50℃以下の温度とし、前記インスタントドライ酵母を、該チョコレートに添加する第二の工程とよりなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスタントドライ酵母をチョコレートに含有させたことを特徴とするチョコレート。
【請求項2】
前記インスタントドライ酵母は、サッカロマイセス セレビシエであることを特徴とする請求項1に記載のチョコレート。
【請求項3】
前記インスタントドライ酵母は、パン酵母であることを特徴とする請求項1に記載のチョコレート。
【請求項4】
インスタントドライ酵母を含有させたチョコレートを主成分とすることを特徴とするサプリメント。
【請求項5】
前記インスタントドライ酵母は、サッカロマイセス セレビシエであることを特徴とする請求項4に記載のサプリメント。
【請求項6】
前記インスタントドライ酵母は、パン酵母であることを特徴とする請求項4に記載のサプリメント。
【請求項7】
インスタントドライ酵母と、チョコレートとをそれぞれ製造する第一の工程と、
前記チョコレートを、該チョコレートが解ける温度以上、50℃以下の温度とし、前記インスタントドライ酵母を、該チョコレートに添加する第二の工程とよりなることを特徴とする酵母入りチョコレートの製造方法。
【請求項8】
前記第二の工程の後に、前記チョコレートを冷凍する第三の工程を設けたことを特徴とする酵母入りチョコレートの製造方法。
【請求項9】
インスタントドライ酵母と、チョコレートとをそれぞれ製造する第一の工程と、
前記チョコレートを、該チョコレートが解ける温度以上、50℃以下の温度とし、前記インスタントドライ酵母を、該チョコレートに添加する第二の工程と、
前記チョコレートを主成分としたサプリメントを製造する第三の工程とよりなることを特徴とするサプリメントの製造方法。
【請求項10】
前記第三の工程の後に、前記サプリメントを冷凍する第四の工程を設けたことを特徴とするサプリメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質分解力を持つ酵母生菌と、低GI食品として知られるチョコレートの機能を生かしつつ、安定性と摂取しやすさを兼ね備えたダイエット用酵母入りチョコレート、及び、酵母入りチョコレートを主成分とするサプリメント、そしてこれらの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
酵母生菌は、ブドウ糖等の単糖類やショ糖等の二糖類を取り込んで、好気的環境では炭酸ガスに分解、嫌気的環境ではいわゆる発酵により炭酸ガスとエタノールを生成することが知られている。
【0003】
そして、酵母に「消化耐性加工」を施し生きた状態で摂取すれば、前記糖質が分解され、糖摂取後の血糖値上昇が抑えられることが報告されている。
【0004】
また、酵母生菌は、プロバイオティクスとして種々の効果が期待されており、サプリメントとしての製品開発もなされている。
【0005】
酵母生菌のサプリメントとしては、アクティブドライ酵母やインスタントドライ酵母を用いて、細粒状にして分包したもの、カプセル充填したものなどがある一方、酵母を発酵させて飲料タイプにした酵母ドリンクなどがある。なるべく生きた状態で腸に届ける工夫、独特の酵母臭の低減のための配合工夫等がなされているが、さらに誰でも簡単に飲みやすい形態が望まれている。
【0006】
また、プロバイティオクスに、胃酸や胆汁などからの消化耐性や、長期保存性を付与するため、保護剤とともにチョコレートで包み込む方法も提案されている(先行技術文献1)。
【0007】
そして、工業利用される酵母生菌は、生酵母、それを乾燥した乾燥酵母に分けられ、乾燥酵母はその乾燥手法によって、凍結乾燥酵母、アクティブドライ酵母(ADY)とインスタントドライ酵母(IDY)に大別される。
【0008】
生酵母は、培養、集菌、圧搾して得たブロック状のものであり、水分含量が高いので、水を嫌うチョコレートに添加するのは不可である。
【0009】
アクティブドライ酵母は、圧搾酵母を押し出し造粒後ベルト乾燥機又はドラム乾燥機で通常水分含量6~8%(w/w)に乾燥させたものである。
【0010】
また、インスタントドライ酵母は、圧搾酵母の押し出し造粒後、通常流動床乾燥機によって水分2~8%(w/w)、多くは4~6%に乾燥させたものである。
【0011】
アクティブドライ酵母、インスタントドライ酵母はいずれも圧搾酵母に含まれている自由水をまず気化させ、さらに酵母菌体に含まれている結合水を除去する必要あるが、結合水除去の過程で酵母細胞膜への損傷が生じる可能性があると言われている。そのため乾燥時の加工助剤として、グリセリン脂肪酸エステル等の湿潤剤やトレハロース等の糖が添加される場合が多く、内容、条件はメーカー各社のノウハウとなっている。
【0012】
アクティブドライ酵母は、多数の酵母が集塊して形成された主として径1~3mmの粒状の形態を成し、乾燥時に休眠状態となっており、とくに多孔質とはなっていないため、使用する前に、ある程度の時間をかけて再水和させる必要がある。
【0013】
また、インスタントドライ酵母は、通常、多数の酵母が集塊して形成された細かい短桿状(短径0.5~1mm、長径1~3mm)の形態を成し、その形成された時の状態が高度に多孔質状となっている。そのため、休眠状態になっているが、多孔質構造となっていることより、使用時にあらかじめ再水和することなくすぐに使用することができるというメリットがある。一方で、多孔質であるがゆえに大気に曝すと酸素に触れることによる活性低下につながる懸念がある。
【0014】
そのため、前記サプリメントは、いずれも凍結乾燥したプロバイオティクス菌体(凍結乾燥酵母)の使用を前提とし、更には、保護剤として種々の食品添加物の使用が必要となる。
【0015】
一方、ビール製造のろ過残渣に含まれるビール酵母菌体の活用のため、乾燥した菌体が医薬品やサプリメントとして利用されているが、これら製品の酵母は生菌ではない。これらを食品として利用するためには独特の酵母臭が課題となることより、菓子タイプの食品として加工することも提案されている。しかし、芯材を形成する手間が必要である他、加熱が必要であるなど生菌の加工には不向きである。
【0016】
また、チョコレートは、カカオの種子を発酵、焙煎、磨砕したカカオマスを主原料とし、これにカカオバター、砂糖、粉乳などを混ぜて練り調温して固めた食品であるが、甘い食品のイメージとは裏腹に低GI食品であることが知られている。最近はカカオポリフェノールの効用も明らかになってきており、健康食品として注目されている。また、カカオの量を明示して特徴づけしている製品も販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記の通り、酵母を入れたチョコレートの有能性はあるものの、酵母が生きたまま腸に届かせるのは難しく、保護剤等が別途必要であった。
【0019】
そこで、本発明者は、種々実験等した結果、摂取するには不適と考えられていたインスタントドライ酵母を、チョコレートに添加して摂取したところ、保護剤なしでも、酵母が生きたまま腸に届き、そして、糖質を分解する活性を発揮するのに最適の組合せとなることを見出したものである。
【0020】
そして、本発明は、酵母生菌の使用形態としてインスタントドライ酵母を用い、チョコレートに含有させることで、多孔質構造をもつインスタントドライ酵母の利点を生かし、一方多孔質ゆえに生じる欠点が改善された摂取しやすいチョコレート、または、サプリメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のチョコレートは、インスタントドライ酵母をチョコレートに含有させたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明のサプリメントは、インスタントドライ酵母を含有させたチョコレートを主成分とすることを特徴とする。
【0023】
インスタントドライ酵母は、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であることを特徴とする。
【0024】
また、前記インスタントドライ酵母は、パン酵母であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明のチョコレートの製造方法は、インスタントドライ酵母と、チョコレートとをそれぞれ製造する第一の工程と、前記チョコレートを、該チョコレートが解ける温度以上、50℃以下の温度とし、前記インスタントドライ酵母を、該チョコレートに添加する第二の工程とよりなることを特徴とする。また、前記第二の工程の後に、前記チョコレートを冷凍する第三の工程を設けたことを特徴とする。
【0026】
また、本発明のサプリメントの製造方法は、インスタントドライ酵母と、チョコレートとをそれぞれ製造する第一の工程と、前記チョコレートを、該チョコレートが解ける温度以上、50℃以下の温度とし、前記インスタントドライ酵母を、該チョコレートに添加する第二の工程と、前記チョコレートを主成分としたサプリメントを製造する第三の工程とよりなることを特徴とする。また、前記第三の工程の後に、前記サプリメントを冷凍する第四の工程を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、保護剤なしでも、酵母が生きたまま腸に届き、そして、糖質を分解する活性を発揮できるようになり、糖質分解力を持つ酵母生菌と低GI食品として知られるチョコレートの機能を生かしつつ、安定性と摂取しやすさを兼ね備えたダイエット用サプリメントを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を説明する。
【0030】
本発明のチョコレートは、例えば、
図1に示すように、インスタントドライ酵母1を含有させたチョコレート2よりなる。
【0031】
なお、
図1に示すチョコレートは、板状の固形チョコレートを示すが、チョコレートの形状に制限はなく、また、固体状、半固体状、液体状など、特に制限はない。
【0032】
前記インスタントドライ酵母は、圧搾酵母を押し出し造粒後、通常流動床乾燥機によって水分含量2~8%(w/w)、多くは4~6%(w/w)に乾燥させたもので、短桿状(短径約0.5~1mm、長径約1~3mm)の形態を成し、高度に多孔質となっており、休眠状態になっているものの使用時にあらかじめ再水和することなくすぐに使用することができる乾燥酵母で、通常真空包装されて市販されている。
【0033】
また、前記インスタントドライ酵母は、例えば、2μm程度の酵母が多数固められて形成された10μm~50μm程度の塊が多数固まって形成され、これら固められた塊間の間隙により形成される、例えば、10μm~50μm、またはそれ以上の長さの、多数の孔(溝)により多孔質構造となり、使用の際、あらかじめ長い時間、再水和しなくても、使用時には、この孔(溝)内に、水が入り込み、直ぐに再水和して、酵母活性を発揮できるようになる。
【0034】
なお、ここでいうインスタントドライ酵母とは、将来その分類や呼称が変わる可能性があるとしても、常温での長期保存が可能で、あらかじめ再水和しなくても、使用時には酵母活性を発揮できる多孔質構造を有する乾燥酵母を意味するものである。
【0035】
また、圧搾酵母とは、酵母の培養後、遠心分離機等により集菌し圧搾ろ過機によって通常固形分含量が27~34%となるよう圧搾・脱水し、ブロック状に成型され市販されている生酵母のことである。なお、圧搾酵母は冷蔵保存が基本である。
【0036】
そして、前記インスタントドライ酵母を、チョコレート温度をチョコレートが解ける温度以上、例えば、27℃以上とし、但し、酵母を保護するために、50℃以下として、添加するようにする。
【0037】
前記酵母は、特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス セレビシエや、パン酵母である。
【0038】
また、チョコレートは、カカオの種子を主原料とし、砂糖やバターなどを加えられたお菓子であり、特に、チョコレートの種類等に限定はない。
【0039】
また、前記チョコレートを主成分としたサプリメントとしてもよく、該サプリメントは、使用場面に応じて例えば、錠剤状とし、または、カプセル内に充填した、カプセル状とし、あるいは、酵母入りチョコレートを粉末状やペースト状に加工して、ココア飲料や麦芽飲料のように水やぬるめのお湯(50℃以下)、牛乳等に懸濁して飲む形態にしてもよい。また、冷凍耐性のインスタントドライ酵母を用いれば、アイスクリームやアイスキャンディのように冷凍形態のもの、あるいはスムージーのような形態も可能である。このように、酵母が死滅しない条件であれば酵母入りチョコレートのサプリメント加工形態は限定しない。
【0040】
本発明によれば、多孔質の構造をもつインスタントドライ酵母は再水和性が高いため、酵母含有チョコレートの発酵実験において早くガス発生が起こった。
【0041】
また、また多孔質であるがゆえに懸念される酸素に曝されやすいことによる活性低下が、チョコレートによって保護され、製品保管時の菌数が安定化した。
【0042】
また、本発明のインスタントドライ酵母をチョコレートに添加したサプリメントを、実際に摂取したところ、摂取後胃または腸でガスを発生することが体感できた。
【0043】
これは、従来、インスタントドライ酵母は多孔質なため、胃酸や胆汁などに触れることにより不活性になると考えられていたが、実験では、胃酸や胆汁などに打ち勝って酵母が活性化し、糖を分解し炭酸ガスを発生していると考えられる。
【0044】
即ち、インスタントドライ酵母は、多孔質で再水和しやすいものの、酸素に暴露されやすい一面ももち、活性低下につながる可能性もあるが、チョコレートに包まれると共に、多孔質構造の一部分にチョコレートが入り込むことにより、酵母が保護され、さらに胃酸や胆汁にも保護されると考えられる。
【0045】
以上のように、インスタントドライ酵母を添加したチョコレートは、酵母が生きたまま腸に届き糖質を分解する活性を発揮するのに最適の組合せとなることが分かった。
【0046】
また、例えば、乳酸菌入りチョコレートや凍結乾燥の酵母入りチョコレートは、そのチョコレートを見ても、これらの生菌が実際に含まれているどうかが不明である。しかしながら、インスタントドライ酵母を含有したチョコレートは、短桿状微顆粒の乾燥酵母であるため、
図1に示すように、その存在を視覚的に残すことができる。従って、使用者に関与成分の存在を視覚的に示すことができ、酵母入りであることを確認できることが使用者への安心感につながる。
【実施例0047】
酵母入りチョコレートの製造
【0048】
常法に基づき、カカオマス、砂糖、カカオバター、全粉乳等を混合、微細化、精練を行い、その後4日間の貯蔵を経て、テンパリング、成型を行い、チョコレート生地を調製した。そのチョコレート生地を40℃で溶解して、インスタントドライ酵母を5×108個/グラムとなるよう加えて混合し、冷却、固化させて、板チョコタイプの酵母入りチョコレートを製造した。
【0049】
酵母入りチョコレートの評価
【0050】
酵母は糖を取り込み発酵し炭酸ガスを生成するため、摂取後生きたままで胃や腸に到達し糖を分解すると、人によって差はあるものの生成した炭酸ガスがいわゆるげっぷとなって食道を上がってくる。今回はこの現象を確認することによって酵母入りチョコレートの評価を実施した。前記のとおり製造した酵母入りチョコレートと酵母を添加しないチョコレートを用意し、8名で先に酵母を添加しないチョコレート、10分後に酵母入りチョコレートをそれぞれ試食してもらい、ガスの発生の体感状況を比較した。結果を表1に示した。
【0051】
【0052】
酵母無添加チョコレートでは摂取後10分以内のガス発生の体感はなかったが、酵母入りチョコレートでは1名を除き全ての被験者で10分以内にガス発生を体感した。
【0053】
また、試食時の官能評価においては、全員が酵母入りチョコレートは若干のざらつきは感じるものの、味、風味については酵母臭もなく酵母無添加チョコレートと変わらず、非常に食べやすいとの評価であった。
【0054】
このように、酵母入りチョコレートはそれ自体酵母を生きたままおいしく摂取するために有効な、チュアブル形態のサプリメントであると確認できた。