(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155526
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ピストンとピストンリングの組合せ構造及びパーティションリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/06 20060101AFI20221005BHJP
F16J 9/00 20060101ALI20221005BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20221005BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
F16J9/06 B
F16J9/00 A
F02F3/00 B
F02F5/00 C
F02F5/00 E
F02F5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045746
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021056717
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長倉 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】稲森 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】川合 清行
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA06
3J044AA20
3J044BA01
3J044CB02
3J044CB04
3J044CB16
3J044CB20
3J044CB31
3J044DA09
3J044DA16
3J044DA17
3J044DA18
(57)【要約】
【課題】ピストンとピストンリングの組合せ構造において、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】ピストンとピストンリングの組合せ構造は、ピストンの外周面に設けられたピストンリング装着用のリング溝と、リング溝に装着される1又は複数のピストンリングと、1又は複数のピストンリングと共にピストンの軸方向に並んでリング溝に装着されるパーティションリングと、を備え、パーティションリングは、シリンダの内壁との間に所定の間隔を空けて前記リング溝の底面である底溝壁面に嵌合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダに装着されるピストンとピストンリングの組合せ構造であって、
前記ピストンの外周面に設けられたピストンリング装着用のリング溝と、
前記リング溝に装着される1又は複数のピストンリングと、
前記1又は複数のピストンリングと共に前記ピストンの軸方向に並んで前記リング溝に装着されるパーティションリングと、を備え、
前記パーティションリングは、前記シリンダの内壁との間に所定の間隔を空けて前記リング溝の底面である底溝壁面に嵌合する、
ピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項2】
前記ピストンは、内燃機関の前記シリンダに装着されるピストンであり、
前記パーティションリングは、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関の燃焼室側の溝壁面である上溝壁面の側に面する上側隔壁面と、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関のクランク室側の溝壁面である下溝壁面の側に面する下側隔壁面と、前記パーティションリングの内周部に設けられ、前記リング溝の前記上溝壁面の内周縁と前記下溝壁面の内周縁とを接続する前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する内周嵌合面と、前記パーティションリングの外周部に設けられ、前記内燃機関のシリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する外周離間面と、を有する、
請求項1に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項3】
前記パーティションリングは、前記ピストンの径方向において前記上側隔壁面よりも内側に設けられると共に前記燃焼室側に突出することで前記ピストンの軸方向に支持される、上側突出部を有する、
請求項2に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項4】
前記パーティションリングは、前記ピストンの径方向において前記下側隔壁面よりも内側に設けられると共に前記クランク室側に突出することで前記ピストンの軸方向に支持される、下側突出部を有する、
請求項2又は3に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項5】
前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、
前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記パーティションリングの前記上側隔壁面との間に装着されるトップリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記パーティションリングの前記下側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、を含む、
請求項2から4の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項6】
前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、
前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記パーティションリングの前記上側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記パーティションリングの前記下側隔壁面との間に装着されるオイルリングと、を含む、
請求項2から4の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項7】
前記パーティションリングとしての第1パーティションリングと、前記リング溝における前記第1パーティションリングよりも前記クランク室側の位置に装着される第2パーティションリングと、を備え、
前記第1パーティションリングは、前記上側隔壁面としての第1上側隔壁面と、前記下
側隔壁面としての第1下側隔壁面と、前記内周嵌合面としての第1内周嵌合面と、前記外周離間面としての第1外周離間面と、を有し、
前記第2パーティションリングは、前記第1パーティションリングの前記第1下側隔壁面の側に面する第2上側隔壁面と、前記リング溝の前記下溝壁面の側に面する第2下側隔壁面と、前記第2パーティションリングの内周面に設けられ、前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する第2内周嵌合面と、前記第2パーティションリングの外周面に設けられ、前記シリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する第2外周離間面と、を有し、
前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、
前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記第1パーティションリングの前記第1上側隔壁面との間に装着されるトップリングと、前記第1パーティションリングの前記第1下側隔壁面と前記第2パーティションリングの前記第2上側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記第2パーティションリングの前記第2下側隔壁面との間に装着されるオイルリングと、を含む、
請求項2から4の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項8】
前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、
前記ピストンの軸方向において互いに重なるようにして前記複数のピストンリングの間に配置された複数の前記パーティションリングによって、前記リング溝を仕切るパーティション部が形成され、
前記パーティション部において、軸方向に隣り合う前記パーティションリングは、互いの性状が異なっている、
請求項2から4の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項9】
前記パーティション部において最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングの材質は、他のパーティションリングの材質よりも熱伝導性が高い、
請求項8に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項10】
前記パーティション部において最も前記クランク室側に配置される前記パーティションリングの材質は、他のパーティションリングの材質よりも耐熱へたり性が高い、
請求項8又は9に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項11】
前記パーティション部において最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングの前記上側隔壁面と最も前記クランク室側に配置される前記パーティションリングの前記下側隔壁面とのうち少なくとも一方には、空隙が形成された空隙形成部が設けられている、
請求項8から10の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項12】
前記パーティション部の少なくとも何れかの前記パーティションリングにおいて、前記外周離間面と前記下側隔壁面との間と、前記外周離間面と前記上側隔壁面との間とのうち、少なくとも何れか一方には、当該パーティションリングの周長方向に延在する切欠部が形成されている、
請求項8から11の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項13】
前記パーティション部に含まれる複数の前記パーティションリングのうち前記燃焼室側から2番目に配置される前記パーティションリングの方が、最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングよりも前記ピストンの径方向における厚さが小さい、
請求項8から12の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項14】
前記リング溝に装着される前記複数のピストンリングは、コンプレッションリングと、
前記コンプレッションリングよりも下側に配置されるオイルリングと、を含み、
前記パーティション部は、前記コンプレッションリングと前記オイルリングとの間に配置され、
前記オイルリングは、前記ピストンの軸方向に並んで設けられた一対のセグメントと、前記一対のセグメントの間に設けられて当該一対のセグメントを前記ピストンの径方向の外側へ付勢するスペーサエキスパンダと、を有し、
前記パーティション部において最もクランク室側に配置される前記パーティションリングの前記下側隔壁面の少なくとも一部は、前記ピストンの径方向の外側へ向かうに従って前記クランク室に接近するように傾斜している、
請求項8から13の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項15】
前記パーティション部において前記軸方向に隣り合う前記パーティションリング同士の間には、接着層が設けられている、
請求項8から14の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項16】
前記底溝壁面と前記パーティション部との間に設けられ、前記パーティション部のうち少なくとも何れかの前記パーティションリングを前記ピストンの軸方向の両側から保持する保持リングを更に備え、
前記複数のパーティションリングは、前記保持リングを介して前記底溝壁面と嵌合している、
請求項8から15の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項17】
前記パーティションリングは、互いに対向することで合口を形成する、一対の合口端部を有する、
請求項1から16の何れか一項に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項18】
前記一対の合口端部は、前記パーティションリングの径方向に重なった状態で互いが係止されるように、夫々が鍵状に形成されている、
請求項17に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項19】
前記ピストンは、前記リング溝に突設された突起体を有し、
前記合口は、前記突起体を受け入れ可能な受入部を含み、
前記突起体が前記受入部に受け入れられることで、前記パーティションリングの前記ピストンに対する相対的な回転が規制される、
請求項17に記載のピストンとピストンリングの組合せ構造。
【請求項20】
シリンダに装着されるピストンの外周面に設けられたピストンリング装着用のリング溝に1又は複数のピストンリングと共に軸方向に並んで装着されるパーティションリングであって、
前記パーティションリングが前記リング溝に装着された使用状態において、前記シリンダの内壁との間に所定の間隔を空けて前記リング溝の底面である底溝壁面に嵌合する、
パーティションリング。
【請求項21】
前記ピストンは、内燃機関の前記シリンダに装着されるピストンであり、
前記パーティションリングは、
前記パーティションリングが前記リング溝に装着された使用状態において、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関の燃焼室側の溝壁面である上溝壁面の側に面する上側隔壁面と、
前記使用状態において、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関のクランク室側の溝壁面である下溝壁面の側に面する下側隔壁面と、
前記パーティションリングの内周部に設けられ、前記使用状態において、前記リング溝の前記上溝壁面の内周縁と前記下溝壁面の内周縁とを接続する前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する内周嵌合面と、
前記パーティションリングの外周部に設けられ、前記使用状態において、前記内燃機関のシリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する外周離間面と、を備える、
請求項20に記載のパーティションリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンとピストンリングの組合せ構造及びパーティションリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、コンプレッションリング(圧力リング)とオイルリングとを含むピストンリングの組み合わせをピストンに形成されたリング溝に装着した構成を採用している。ピストンの軸方向において、コンプレッションリングが燃焼室側に設けられ、オイルリングがクランク室側に設けられ、これらがシリンダの内壁面を摺動することで能力を発揮する。燃焼室から最も遠いオイルリングは、シリンダの内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダの内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。
【0003】
上述のように複数のピストンリングの組み合わせをピストンに組み付けるためのピストンリング構造は、通常、ピストンの外周面にピストンリングの本数と同数の複数のリング溝を形成し、夫々のリング溝にピストンリングを1本ずつ装着する構造を採用している。一方で、近年、内燃機関の軽量化に伴い、ピストンの軸方向における長さ(以下、軸方向長さ)を短くしてピストンの軽量化を図ることが進められている。また、ピストンリングの幅(即ち、軸方向における厚み)についても薄幅化が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1-21852号公報
【特許文献2】実開昭63-9442号公報
【特許文献3】実公昭55-2290号公報
【特許文献4】実開平3-63745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ピストンリングをピストンに組み付ける従来の内燃機関においては、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁とが直接接触することになる。そのため、近年のエンジンの熱効率向上や高出力化に伴い、ピストンリングとリング溝の内壁との摺動によってピストンリングとリング溝との間で、凝着やリング溝の内壁の摩耗などの不具合が生じる問題があった。従って、このような問題の対策が求められている。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダに装着されるピストンとピストンリングの組合せ構造において、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用した。即ち、本発明は、シリンダに装着されるピストンとピストンリングの組合せ構造であって、前記ピストンの外周
面に設けられたピストンリング装着用のリング溝と、前記リング溝に装着される1又は複数のピストンリングと、前記1又は複数のピストンリングと共に前記ピストンの軸方向に並んで前記リング溝に装着されるパーティションリングと、を備え、前記パーティションリングは、前記シリンダの内壁との間に所定の間隔を空けて前記リング溝の底面である底溝壁面に嵌合する、ピストンとピストンリングの組合せ構造である。
【0008】
本発明において、リング溝の上溝壁または下溝壁とピストンリングの間にパーティションリングが装着される場合には、パーティションリングがピストンリングとリング溝の内壁とを隔てるピストンランドとして機能する。そのため、リング溝の上溝壁または下溝壁とピストンリングの間にパーティションリングを装着しない場合と比較して、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との接触箇所を減らすことができる。また、本発明において、ピストンリング同士の間にパーティションリングが装着される場合には、パーティションリングがピストンリング同士を隔てるピストンランドとして機能する。そのため、ピストンランドによりピストンリング同士を隔てる場合と比較して、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との接触箇所を減らすことができる。これにより、本発明によれば、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制することができる。
【0009】
更に、ピストンリング同士の間にパーティションリングが装着される場合には、パーティションリングがピストンリング同士を隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、1つのリング溝に複数のピストンリングを装着することが可能となる。そのため、本発明によると、シリンダ内を往復動するピストンに対して複数のピストンリングが組み付けられる装置(機器)において、ピストンリングごとにリング溝を形成する場合と比較して、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストンの軸方向長さを短くすることが容易となる。また、パーティションリングは、ピストンとは別体の部材であることから、軸方向における幅を薄肉とすることに対しての強度の観点からの制約はピストンランドと比較して小さい。そのため、パーティションリングの材質強度を高めることによりピストンランドに代えて当該ピストンランドよりも薄幅のパーティションリングを用いることができる。このことからも、ピストンの軸方向長さを短くすることが容易となる。その結果、ピストンの軽量化、ひいては装置の軽量化に資することができる。また、ピストンの外周面に形成すべきリング溝の数量を低減することで、ピストンリングごとにリング溝を形成する場合と比較して、ピストンの強度を高めることができる。そのため、内燃機関の高出力化に資することができる。また、リング溝に装着するパーティションリングの幅を調整することで、リング溝の薄幅加工をしなくとも薄幅のピストンリングを装着することができ、設計の自由度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明において、前記ピストンは、内燃機関の前記シリンダに装着されるピストンであり、前記パーティションリングは、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関の燃焼室側の溝壁面である上溝壁面の側に面する上側隔壁面と、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関のクランク室側の溝壁面である下溝壁面の側に面する下側隔壁面と、前記パーティションリングの内周部に設けられ、前記リング溝の前記上溝壁面の内周縁と前記下溝壁面の内周縁とを接続する前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する内周嵌合面と、前記パーティションリングの外周部に設けられ、前記内燃機関のシリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する外周離間面と、を有してもよい。
【0011】
また、本発明において、前記パーティションリングは、前記ピストンの径方向において前記上側隔壁面よりも内側に設けられると共に前記燃焼室側に突出することで前記ピストンの軸方向に支持される、上側突出部を有してもよい。
【0012】
また、本発明において、前記パーティションリングは、前記ピストンの径方向において前記下側隔壁面よりも内側に設けられると共に前記クランク室側に突出することで前記ピストンの軸方向に支持される、下側突出部を有してもよい。
【0013】
また、本発明において、前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記パーティションリングの前記上側隔壁面との間に装着されるトップリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記パーティションリングの前記下側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、を含んでもよい。
【0014】
また、本発明において、前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記パーティションリングの前記上側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記パーティションリングの前記下側隔壁面との間に装着されるオイルリングと、を含んでもよい。
【0015】
また、本発明において、前記パーティションリングとしての第1パーティションリングと、前記リング溝における前記第1パーティションリングよりも前記クランク室側の位置に装着される第2パーティションリングと、を備え、前記第1パーティションリングは、前記上側隔壁面としての第1上側隔壁面と、前記下側隔壁面としての第1下側隔壁面と、前記内周嵌合面としての第1内周嵌合面と、前記外周離間面としての第1外周離間面と、を有し、前記第2パーティションリングは、前記第1パーティションリングの前記第1下側隔壁面の側に面する第2上側隔壁面と、前記リング溝の前記下溝壁面の側に面する第2下側隔壁面と、前記第2パーティションリングの内周面に設けられ、前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する第2内周嵌合面と、前記第2パーティションリングの外周面に設けられ、前記シリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する第2外周離間面と、を有し、前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、前記複数のピストンリングは、前記リング溝の前記上溝壁面と前記第1パーティションリングの前記第1上側隔壁面との間に装着されるトップリングと、前記第1パーティションリングの前記第1下側隔壁面と前記第2パーティションリングの前記第2上側隔壁面との間に装着されるセカンドリングと、前記リング溝の前記下溝壁面と前記第2パーティションリングの前記第2下側隔壁面との間に装着されるオイルリングと、を含んでもよい。
【0016】
また、本発明において、前記リング溝には、複数のピストンリングが装着され、前記ピストンの軸方向において互いに重なるようにして前記複数のピストンリングの間に配置された複数の前記パーティションリングによって、前記リング溝を仕切るパーティション部が形成され、前記パーティション部において、軸方向に隣り合う前記パーティションリングは、互いの性状が異なっていてもよい。
【0017】
また、本発明において、前記パーティション部において最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングの材質は、他のパーティションリングの材質よりも熱伝導性が高くてもよい。
【0018】
また、本発明において、前記パーティション部において最も前記クランク室側に配置される前記パーティションリングの材質は、他のパーティションリングの材質よりも耐熱へたり性が高くてもよい。
【0019】
また、本発明において、前記パーティション部において最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングの前記上側隔壁面と最も前記クランク室側に配置される前記パーティションリングの前記下側隔壁面とのうち少なくとも一方には、空隙が形成された空
隙形成部が設けられていてもよい。
【0020】
また、本発明は、前記パーティション部の少なくとも何れかの前記パーティションリングにおいて、前記外周離間面と前記下側隔壁面との間と、前記外周離間面と前記上側隔壁面との間とのうち、少なくとも何れか一方には、当該パーティションリングの周長方向に延在する切欠部が形成されてもよい。
【0021】
また、本発明において、前記パーティション部に含まれる複数の前記パーティションリングのうち前記燃焼室側から2番目に配置される前記パーティションリングの方が、最も前記燃焼室側に配置される前記パーティションリングよりも前記ピストンの径方向における厚さが小さくてもよい。
【0022】
また、本発明において、前記リング溝に装着される前記複数のピストンリングは、コンプレッションリングと、前記コンプレッションリングよりも下側に配置されるオイルリングと、を含み、前記パーティション部は、前記コンプレッションリングと前記オイルリングとの間に配置され、前記オイルリングは、前記ピストンの軸方向に並んで設けられた一対のセグメントと、前記一対のセグメントの間に設けられて当該一対のセグメントを前記ピストンの径方向の外側へ付勢するスペーサエキスパンダと、を有し、前記パーティション部において最もクランク室側に配置される前記パーティションリングの前記下側隔壁面の少なくとも一部は、前記ピストンの径方向の外側へ向かうに従って前記クランク室に接近するように傾斜してもよい。
【0023】
また、本発明において、前記パーティション部において前記軸方向に隣り合う前記パーティションリング同士の間には、接着層が設けられていてもよい。
【0024】
また、本発明は、前記底溝壁面と前記パーティション部との間に設けられ、前記パーティション部のうち少なくとも何れかの前記パーティションリングを前記ピストンの軸方向の両側から保持する保持リングを更に備え、前記複数のパーティションリングは、前記保持リングを介して前記底溝壁面と嵌合してもよい。
【0025】
また、本発明において、前記パーティションリングは、互いに対向することで合口を形成する、一対の合口端部を有してもよい。
【0026】
また、本発明において、前記一対の合口端部は、前記パーティションリングの径方向に重なった状態で互いが係止されるように、夫々が鍵状に形成されてもよい。
【0027】
また、本発明において、前記ピストンは、前記リング溝に突設された突起体を有し、前記合口は、前記突起体を受け入れ可能な受入部を含み、前記突起体が前記受入部に受け入れられることで、前記パーティションリングの前記ピストンに対する相対的な回転が規制されてもよい。
【0028】
また、本発明は、シリンダに装着されるピストンの外周面に設けられたピストンリング装着用のリング溝に1又は複数のピストンリングと共に軸方向に並んで装着されるパーティションリングであって、前記パーティションリングが前記リング溝に装着された使用状態において、前記シリンダの内壁との間に所定の間隔を空けて前記リング溝の底面である底溝壁面に嵌合する、パーティションリングであってもよい。
【0029】
また、本発明において、前記ピストンは、内燃機関の前記シリンダに装着されるピストンであり、前記パーティションリングは、前記パーティションリングが前記リング溝に装着された使用状態において、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記
内燃機関の燃焼室側の溝壁面である上溝壁面の側に面する上側隔壁面と、前記使用状態において、前記リング溝において対向配置された一対の内壁のうち前記内燃機関のクランク室側の溝壁面である下溝壁面の側に面する下側隔壁面と、前記パーティションリングの内周部に設けられ、前記使用状態において、前記リング溝の前記上溝壁面の内周縁と前記下溝壁面の内周縁とを接続する前記底溝壁面と嵌合することで前記底溝壁面との間に接触状態を形成する内周嵌合面と、前記パーティションリングの外周部に設けられ、前記使用状態において、前記内燃機関のシリンダの内壁との間に所定の離間距離を確保する外周離間面と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、シリンダに装着されるピストンとピストンリングの組合せ構造において、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の断面図である。
【
図2】実施形態1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図3】実施形態に係るパーティションリングの上面図である。
【
図4】実施形態1の変形例1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図5】実施形態1の変形例2に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図6】実施形態1の変形例3に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図7】実施形態2に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図8】実施形態2の変形例1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図9】実施形態2の変形例2に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図10】実施形態3に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図11】実施形態4に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図12】実施形態4の変形例1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図13】実施形態4の変形例2に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図14】実施形態4の変形例3に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図15】実施形態4の変形例4に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図17】実施形態4の変形例5に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図18】実施形態4の変形例6に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図19】実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図20】実施形態4の変形例8に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図21】実施形態4の変形例9に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図22】実施形態5に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図23】実施形態5の変形例1に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図25】実施形態5の変形例2に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図26】実施形態5の変形例3に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図27】実施形態6に係るピストンリング構造を備える内燃機関の部分断面図である。
【
図28】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(1)である。
【
図29】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(2)である。
【
図30】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(3)である。
【
図31】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(4)である。
【
図32】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(5)である。
【
図33】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(6)である。
【
図34】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(7)である。
【
図35】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(8)である。
【
図36】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(9)である。
【
図37】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(10)である。
【
図38】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(11)である。
【
図39】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(12)である。
【
図40】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(13)である。
【
図41】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(14)である。
【
図42】パーティションリングのバリエーションを示す断面図(15)である。
【
図43】パーティションリングの合口形状のバリエーションを示す図である。
【
図44】回り止め手段を備えるピストンリング構造を説明するための図(1)である。
【
図45】回り止め手段を備えるピストンリング構造を説明するための図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0033】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るピストンとピストンリングの組合せ構造(以下、ピストンリング構造)110を備える内燃機関100の断面図である。
図2は、実施形態1に係るピストンリング構造110を備える内燃機関100の部分断面図である。
図2では、ピストンリングの周長方向に直交する断面が図示されている。
図1に示すように、実施形態に係る内燃機関100は、シリンダ10と、シリンダ10に装着されたピストン20と、を有する。内燃機関100において、符号30で示す燃焼室側を上側とし、符号40で示すクランク室側を下側とする。
図2に示すように、内燃機関100は、トップリング1及びセカンドリング2を含む2本のコンプレッションリング(圧力リング)と1本のオイルリン
グ3とを含む計3本のピストンリングの組み合わせをピストン20に組み付けた構成を採用している。
【0034】
[全体構成]
図2に示すように、内燃機関100では、ピストン20の外周面20aとシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離dが確保されることにより、ピストン隙間PC1が形成されている。また、ピストン20の外周面20aには、ピストン20の軸方向に所定の間隔を空けて上側(燃焼室30側)から順に第1リング溝201と第2リング溝202とが形成されている。ピストンリング構造110は、内燃機関100のピストン20にピストンリングを組み付ける構造である。ピストンリング構造110は、ピストン20の外周面20aに設けられたピストンリング装着用の第1リング溝201及び第2リング溝202と、トップリング1と、セカンドリング2と、オイルリング3と、パーティションリング4と、を含む。本明細書では、トップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3を区別しないで説明するときは、単に「ピストンリング」と称する。ピストンリングは、即ち、内燃機関のシリンダに装着されたピストンに組み付けられ、ピストンの往復運動に伴ってシリンダの内壁面を摺動する摺動部材である。また、
図2に示すように各ピストンリング及びパーティションリング4が組付けられたピストン20がシリンダ10に装着された状態を、「使用状態」と称する。また、
図2に示すように、ピストン20、ピストンリング、及びパーティションリング4の中心軸に沿う方向(軸方向)を「上下方向」と定義する。また、ピストンリングやパーティションリング4の軸方向のうち、内燃機関100における燃焼室30側(
図2における上側)を「上側」と定義し、その反対側、即ち、クランク室側(
図2における下側)を「下側」と定義する。
図2に示すように、ピストンリング構造110では、第1リング溝201にトップリング1、セカンドリング2、及びパーティションリング4が装着され、第2リング溝202にオイルリング3が装着されている。以下、ピストンリング構造110の各構成について説明する。
【0035】
[リング溝]
第1リング溝201及び第2リング溝202は、ピストン20の軸回りに環状に延びる断面矩形状の溝として外周面20aの全周に形成されている。
図2に示すように、第2リング溝202は、ピストン20の外周面20aにおける第1リング溝201よりも下側の位置に形成されている。第1リング溝201と第2リング溝202は、夫々、上下に対向配置された一対の溝壁(内壁)を含んで形成されている。一対の溝壁のうち、上側の溝壁を上溝壁W1と称し、下側の溝壁を下溝壁W2と称する。また、第1リング溝201と第2リング溝202の夫々における、上溝壁W1の内周縁と下溝壁W2の内周縁とを接続する溝壁を底溝壁W3と称する。本例では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。なお、上溝壁W1と底溝壁W3との接続部分(コーナー)や下溝壁W2と底溝壁W3との接続部分(コーナー)は、R面形状やC面形状であってもよい。
【0036】
[トップリング]
トップリング1は、3本のピストンリングのうちピストン20の軸方向において最も上側に組み付けられるコンプレッションリングである。本例のトップリング1は、いわゆるレクタンギュラ形状に形成されており、断面が矩形状となっている。このトップリング1は、外周面11と内周面12と上面13と下面14とを有する。上面13と下面14とによって、トップリング1の軸方向における幅が規定される。外周面11は、径方向外側に突出するように湾曲したバレルフェースに形成されている。トップリング1は、内燃機関100において、その軸方向における両端面の一方である上面13が上側に面すると共に他方である下面14が下側に面し、外周面11がシリンダ10の内壁面10aに摺接するように、ピストン20に組み付けられる。また、トップリング1は、使用状態において外周面11がシリンダ10の内壁面10aを押圧するように自己張力を有している。これにより、ガスシール機能やオイルシール機能が得られる。なお、本発明に係るトップリング
の形状は上記に限定されない。トップリングとしては、種々の形状を採用できる。例えば、トップリングは、その外周面がストレートフェースやテーパ形状であってもよい。また、トップリングは、その断面形状がキーストンやハーフキーストン、インターナルベベルであってもよい。
【0037】
[セカンドリング]
セカンドリング2は、ピストン20の軸方向においてトップリング1の下側に組み付けられるコンプレッションリングである。つまり、セカンドリング2は、トップリング1とオイルリング3との間に組付けられる。このセカンドリング2は、外周面21と内周面22と上面23と下面24とを有する。上面23と下面24とによって、セカンドリング2の軸方向における幅が規定される。セカンドリング2は、いわゆるレクタンギュラ形状に形成されており、セカンドリング2の外周面21は、下側に向かうに従って拡径するように傾斜したテーパ形状を有している。セカンドリング2は、内燃機関100において、その軸方向における両端面の一方である上面23が上側に面すると共に他方である下面24が下側に面し、外周面21がシリンダ10の内壁面10aに摺接するように、ピストン20に組み付けられる。また、セカンドリング2は、使用状態において外周面21がシリンダ10の内壁面10aを押圧するように自己張力を有している。これにより、ガスシール機能やオイルシール機能が得られる。なお、本発明に係るセカンドリングの形状は上記に限定されない。セカンドリングとしては、種々の形状を採用できる。例えば、セカンドリングは、その外周面がバレルフェースであってもよいし、ストレートフェースであってもよい。また、セカンドリングは、アンダーカットを有するスクレーパリングであってもよいし、ナピアリングであってもよい。また、セカンドリングは、その断面形状がキーストンやハーフキーストン、インターナルベベルであってもよい。
【0038】
[オイルリング]
オイルリング3は、3本のピストンリングのうちピストン20の軸方向において最も下側に組み付けられるピストンリングである。オイルリング3は、いわゆる3ピース型の組合せオイルリングであり、
図2に示すように、一対のセグメント31,31(一対の摺動部の一例)とスペーサエキスパンダ32(エキスパンダの一例)とを備える。
【0039】
一対のセグメント31,31は、オイルリング3の軸回りに環状に形成されており、互いに独立して軸方向に並んで設けられている。本例に係るオイルリング3は、一対のセグメント31,31を、同一の形状としている。但し、本発明は、一対のセグメントの形状が異なっていてもよい。以下、一対のセグメント31,31を区別して称する場合には、上側(燃焼室30側)に設けられたセグメント31を上側セグメント31Uと称し、下側(クランク室40側)に設けられたセグメント31を下側セグメント31Lと称する。これらを区別しないときは、単にセグメント31と称する。
図2に示すように、セグメント31は、外周面311、内周面312、上面313、及び下面314を有する。上面313と下面314とによって、セグメント31の軸方向における幅が規定される。セグメント31は、内燃機関100において、その軸方向における両端面の一方である上面313が上側に面すると共に他方である下面314が下側に面し、外周面311がシリンダ10の内壁面10aに摺接するように、ピストン20に組み付けられる。スペーサエキスパンダ32は、一対のセグメント31,31の間に設けられており、使用状態において拡径するように自己張力を有している。これにより、上側セグメント31U及び下側セグメント31Lがスペーサエキスパンダ32によって径方向の外側へ付勢され、外周面311がシリンダ10の内壁面10aを押圧する。これにより、オイルシール機能が得られる。なお、本発明に係るオイルリングの形状は上記に限定されない。オイルリングは、例えば、所謂2ピースのオイルリングであってもよい。2ピースのオイルリングとは、軸回りに環状に形成されたオイルリング本体と、オイルリング本体を径方向外側へ付勢するコイルエキスパンダ(エキスパンダの一例)と、を有し、オイルリング本体には、径方向外側に突出
する一対のレール(一対の摺動部の一例)がオイルリングの軸方向に並んで形成されたオイルリングのことをいう。また、オイルリングは、スペーサエキスパンダやコイルエキスパンダを有さず、単体で機能する形態であってもよい。
【0040】
[パーティションリング]
パーティションリング4は、1又は複数のピストンリング(本例ではトップリング1及びセカンドリング2)と共にリング溝(本例では第1リング溝201)に装着されることでピストンランドの代わりとして機能する、リング状の部材である。本例のパーティションリング4は、いわゆるレクタンギュラ形状に形成されており、周長方向に直交する断面が矩形状となっている。但し、本発明はこれに限定されない。パーティションリング4は、外周離間面41と内周嵌合面42と上側隔壁面43と下側隔壁面44とを有する。なお、パーティションリングの上側隔壁面は、リング溝の上溝壁と平行であってもよいし、上溝壁に対して傾斜していてもよい。同様に、パーティションリングの下側隔壁面は、リング溝の下溝壁と平行であってもよいし、下溝壁に対して傾斜していてもよい。また、パーティションリングの各角部には、面取りやステップカット等が形成されていてもよい。
【0041】
図2に示すように、上側隔壁面43は、使用状態において第1リング溝201の上溝壁W1の側に面している。これにより、上溝壁W1と上側隔壁面43の間には、トップリング1を装着可能な空間が画定されている。また、下側隔壁面44は、使用状態において第1リング溝201の下溝壁W2の側に面している。これにより、下溝壁W2と下側隔壁面44の間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。内周嵌合面42は、パーティションリング4の内周部に設けられている。内周嵌合面42は、使用状態において底溝壁W3と嵌合することで底溝壁W3との間に接触状態を形成する。本例の内周嵌合面42は、全周に亘って底溝壁W3と接触している。但し、本発明はこれに限定されず、内周嵌合面は、その少なくとも一部が底溝壁と接触していればよい。また、本例の内周嵌合面42は、パーティションリング4が軸方向に沿って底溝壁W3を摺動可能となるように底溝壁W3と嵌合している。そのため、パーティションリング4は、トップリング1及びセカンドリング2と共に軸方向に沿って移動可能となっている。但し、本発明はこれに限定されない。パーティションリングが軸方向に沿って移動できない程度に内周嵌合面が底溝壁と嵌合してもよい。外周離間面41は、パーティションリング4の外周部に設けられており、上側隔壁面43の外周縁と下側隔壁面44の外周縁とを接続している。また、外周離間面41は、使用状態においてシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離d1を確保する。つまり、パーティションリング4は、シリンダ10の内壁面10aと離れている。ここで、
図3は、実施形態1に係るパーティションリング4の上面図(軸方向の上側から視認した図)である。
図3に示すように、パーティションリング4は、互いに対向することで合口G1を形成する一対の合口端部410,420を含む。なお、パーティションリング4の組付方法としては、焼き嵌めや摩擦接合、螺子止め、接着、溶接等が例示されるがこれに限定されない。摩擦接合を行う場合、パーティションリング4を第1リング溝201に嵌め込んだ後で底溝壁W3に対して摺動させることで、これらを固着させる。
【0042】
パーティションリング4の材質は特に限定されないが、たとえば、鋼鉄製、鋳鉄製、Cu合金製、アルミニウム合金製のものを用いることができる。また、パーティションリング4の表面には、樹脂被膜、窒化処理被膜、Ni-Pめっき処理被膜、クロムめっき処理被
膜、化成処理被膜、酸化処理被膜、塗膜、PVD処理被膜、及びDLC被膜のうち少なくとも何れか1つの層を含む被膜が形成されてもよい。なお、「樹脂被膜」とは、樹脂材料により形成された被膜のことを指す。また、「窒化処理被膜」とは、窒化処理により金属表面に窒素を浸透させることで形成される被膜のことを指す。また、「Ni-Pめっき処理
被膜」とは、Ni-Pめっきにより形成された被膜のことを指す。「Ni-Pめっき」は、例えば、無電解Ni-Pめっきであるが、これに限定されない。また、「クロムめっき処理被膜
」とは、クロムめっきにより形成された被膜のことを指す。クロムめっきは工業用クロムめっきとも呼ばれる。また、「化成処理被膜」とは、化成処理により形成された被膜のことを指す。化成処理の例としては、四三酸化鉄処理(黒染め)、リン酸塩処理、クロム酸塩処理などが挙げられる。「酸化処理被膜」とは、酸化処理により金属表面を酸化させることで形成される被膜のことを指す。酸化処理の例としては、アルマイト処理などが挙げられる。なお、「塗膜」とは、ペイント(塗料)の塗布により形成された膜のことを指す。「塗膜」や「樹脂被膜」の例としては、水性又は油性の樹脂ペイントによる樹脂塗膜などが挙げられる。また、「PVD(physical vapor deposition)処理被膜」とは、PV
D法により形成された被膜のことを指す。また、「DLC(Diamond Like Carbon)被膜
」とは、主として炭化水素や炭素の同素体により構成される非晶質の硬質炭素膜のことを指す。このような被膜は、パーティションリング4と他の部材との接触部分である内周嵌合面42、上側隔壁面43、及び下側隔壁面44に形成することが好ましい。このような被膜を形成することで、パーティションリング4の耐摩耗性等を高めることができ、パーティションリング4と他の部材との凝着など、母材同士の直接接触による不具合を防止できる。
【0043】
図2に示すように、ピストンリング構造110では、トップリング1が第1リング溝201の上溝壁W1とパーティションリング4の上側隔壁面43との間に装着され、セカンドリング2が第1リング溝201の下溝壁W2とパーティションリング4の下側隔壁面44との間に装着され、オイルリング3が第2リング溝202に装着されている。ピストンリング構造110では、パーティションリング4の上側隔壁面43にトップリング1の下面14が対向し、パーティションリング4の下側隔壁面44にセカンドリング2の上面23が対向している。そのため、トップリング1が下側に移動するとパーティションリング4がトップリング1に当接し、セカンドリング2が上側に移動するとパーティションリング4がセカンドリング2に当接することとなる。つまり、トップリング1とセカンドリング2との間にパーティションリング4が介装されており、パーティションリング4によってトップリング1とセカンドリング2とが隔てられている。このように、ピストンリング構造110では、パーティションリング4がトップリング1とセカンドリング2とを隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、トップリング1の下面14とセカンドリング2の上面23とパーティションリング4の外周離間面41とシリンダ10の内壁面10aとによって囲まれた空間が形成され、トップリング1とセカンドリング2との間の圧力の調整機能や、オイル溜りとしての機能を発揮できる。
【0044】
[作用・効果]
以上のように、実施形態1に係るピストンリング構造110は、ピストン20の外周面20aに形成された第1リング溝201と、第1リング溝201に装着される複数のピストンリング(トップリング1及びセカンドリング2)と、トップリング1及びセカンドリング2と共にピストン20の軸方向に並んで第1リング溝201に装着されるパーティションリング4と、を備える。そして、パーティションリング4は、第1リング溝201の上溝壁W1の側に面する上側隔壁面43と、第1リング溝201の下溝壁W2の側に面する下側隔壁面44と、第1リング溝201の底溝壁W3と嵌合することで底溝壁W3との間に接触状態を形成する内周嵌合面42と、シリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離d1を確保する外周離間面41と、を有する。
【0045】
ここで、複数のピストンリングをピストンに組み付ける内燃機関において、ピストンリングごとにリング溝を形成した場合、ピストンの軸方向長さを短くするためには、リング溝の間隔を短くする必要がある。しかしながら、リング溝の間隔を短くすると、軸方向に隣り合うリング溝間のピストンランドが薄肉となるため、ピストンの強度維持が困難であった。また、リング溝の加工精度の観点でも、ピストンの軸方向長さを短くするのは困難であった。
【0046】
ピストンリング構造110によると、パーティションリング4がトップリング1とセカンドリング2とを隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、第1リング溝201にトップリング1とセカンドリング2とを装着することが可能となる。そのため、トップリング1を装着するためのリング溝とセカンドリング2を装着するためのリング溝とを別個にピストン20の外周面20aに形成する必要がない。つまり、ピストンリング構造110によると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではトップリング1及びセカンドリング2)を装着することができる。これにより、複数のピストンリングをピストンに対して組み付ける内燃機関において、ピストンリングごとにリング溝を形成する場合と比較して、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。その結果、ピストンリング構造110によると、ピストンの軽量化、ひいては内燃機関の軽量化に資することができる。また、ピストンリングやパーティションリングを薄幅化することで、ピストン20の軸方向長さを短くすることができる。また、ピストン20の外周面20aに形成すべきリング溝の数量を低減することで、ピストンリングごとにリング溝を形成する場合と比較して、ピストンの強度を高めることができる。そのため、内燃機関の高出力化に資することができる。
【0047】
更に、ピストンリング構造110によると、ランド容積に対する設計の制約を緩和することができる。ここで、「ランド容積」とは、軸方向において隣接するピストンリングとピストンの外周面とシリンダの内壁面とによって囲まれた空間の容積のことを指す。本例では、パーティションリング4がピストンランドの代わりとして機能するため、トップリング1の下面14とセカンドリング2の上面23とピストン20の外周面20aとによって囲まれた空間の容積がランド容積に相当する。パーティションリング4は、ピストン20とは別体の部材として形成されていることから、軸方向における幅を薄肉とすることに対しての強度の観点からの制約はピストンランドと比較して小さい。そのため、ピストンリング構造110によると、ランド容積に対する設計の自由度を高めることができる。これにより、圧力の調整機能やオイル溜りとしての機能に対する設計の自由度を向上させることができる。
【0048】
また、通常、ピストンはアルミニウム合金製であるため、ピストンリングとリング溝の内壁との接触箇所にはアルミニウム凝着が生じる可能性がある。また、ピストンリングとリング溝の内壁との間の摺動によりリング溝の内壁が摩耗する可能性がある。この点、ピストンリング構造110では、トップリング1とセカンドリング2との間にはピストンランドに代えてパーティションリング4が介在するため、ピストンランドによりピストンリング同士を隔てる場合と比較して、トップリング1とリング溝の内壁との接触箇所、及びセカンドリング2とリング溝の内壁との接触箇所を減らすことができる。そのため、アルミニウム凝着など、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制できる。また、パーティションリング4の材質や表面処理を適宜選択することで、トップリング1やセカンドリング2とパーティションリング4との接触箇所にアルミニウム凝着などの不具合の発生を防止することや、パーティションリング4の耐摩耗性を向上することができる。
【0049】
また、ピストンリング構造110では、第1リング溝201の底溝壁W3とパーティションリング4の内周嵌合面42との間に接触状態が形成されるため、第1リング溝201の底溝壁W3とパーティションリング4の内周嵌合面42との間を通過するオイルやガスの量を低減できる。つまり、パーティションリング4の内周側からのオイル上がりやガス流出を抑制できる。また、第1リング溝201の底溝壁W3とパーティションリング4の内周嵌合面42とが接触しているため、ピストン20の熱を底溝壁W3からパーティションリング4の内周嵌合面42を介してピストンリングへ伝え、ピストンリングが摺接するシリンダ10へ熱を逃がすことができる。なお、本発明は、内周嵌合面の少なくとも一部
が底溝壁と接触していればよい。
【0050】
更に、パーティションリング4は、互いに対向することで合口G1を形成する、一対の合口端部410,420を備える。パーティションリング4に合口G1が形成されていることで、パーティションリング4をリング溝に対して脱着可能となり、パーティションリング4の交換も可能となる。また、合口G1により熱膨張によるパーティションリング4の体積膨張を周長方向の伸びで吸収できる。そのため、熱膨張によりパーティションリング4の体積膨張が径方向内側へ進んでパーティションリング4の内周嵌合面42が第1リング溝201の底溝壁W3に食い込むことやパーティションリング4の体積膨張が径方向外側へ進んでランド容積が変化することを抑制できる。また、ピストン20の熱膨張によりパーティションリング4に過大な力が加わることやパーティションリング4がピストンに食い込むことを抑制できる。また、適度な合口隙間が形成されることで、パーティションリング4の熱膨張時に合口端部410,420同士が突き当たることが抑制され、結果、パーティションリング4の内周側に隙間ができることが防止される。
【0051】
なお、本発明に係るピストンリングの本数は3本に限定されるものではなく、ピストンリングの種類は上述のトップリング、セカンドリング、及びオイルリングに限定されるものではない。例えば、複数のピストンリングは、1本のコンプレッションリングと1本のオイルリングからなり、1つのリング溝に該コンプレッションリングと該オイルリングとパーティションリングとが装着される構成であってもよい。また、ピストンに組付けられるコンプレッションリングが3本以上であってもよく、例えば、オイルリングよりクランク室側の位置にコンプレッションリングを配置してもよい。その場合、1つのリング溝にオイルリングとコンプレッションリングとパーティションリングを装着し、オイルリングとコンプレッションリングの間にパーティションリングを介装してもよい。また、オイルリングが2本以上であってもよく、オイルリング同士の間にパーティションリングを介装してもよい。
【0052】
[実施形態1の変形例]
以下、実施形態1の変形例について説明する。以下の説明では、上述のピストンリング構造110との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0053】
[変形例1]
図4は、実施形態1の変形例1に係るピストンリング構造110Aを備える内燃機関100Aの部分断面図である。変形例1に係るピストンリング構造110Aは、パーティションリング4がセカンドリング2及びオイルリング3と共にピストン20の軸方向に並んで第2リング溝202に装着されている点で、ピストンリング構造110と異なる。本例では、第2リング溝202が本発明に係る「リング溝」に相当する。
【0054】
図4に示すように、ピストンリング構造110Aでは、パーティションリング4の上側隔壁面43が第2リング溝202の上溝壁W1の側に面することで、上溝壁W1と上側隔壁面43との間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング4の下側隔壁面44が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面44との間には、オイルリング3を装着可能な空間が画定されている。そして、
図4に示すように、ピストンリング構造110Aでは、トップリング1が第1リング溝201に装着され、セカンドリング2が第2リング溝202の上溝壁W1とパーティションリング4の上側隔壁面43との間に装着され、オイルリング3が第2リング溝202の下溝壁W2とパーティションリング4の下側隔壁面44との間に装着されている。ピストンリング構造110Aでは、パーティションリング4の上側隔壁面43にセカンドリング2の下面24が対向し、パーティションリング4の下側隔壁面44に上側セグメント31U
の上面313が対向している。そのため、セカンドリング2が下側に移動するとパーティションリング4がセカンドリング2に当接し、オイルリング3が上側に移動するとパーティションリング4がオイルリング3に当接することとなる。つまり、セカンドリング2とオイルリング3との間にパーティションリング4が介装されている。
【0055】
変形例1に係るピストンリング構造110Aにおいても、上述のピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、ピストンリング構造110Aによると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではセカンドリング2及びオイルリング3)を装着することができ、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。その結果、ピストンリング構造110Aによると、ピストンの軽量化、ひいては内燃機関の軽量化に資することができる。また、パーティションリング4がピストンリング同士を隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、ピストンランドによりピストンリング同士を隔てる場合と比較して、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との接触箇所を減らすことができる。これにより、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制することができる。
【0056】
[変形例2]
図5は、実施形態1の変形例2に係るピストンリング構造110Bを備える内燃機関100Bの部分断面図である。変形例2に係るピストンリング構造110Bは、ピストン20の外周面20aに第1リング溝201のみが形成されている点、第1リング溝201にトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3が装着されている点、パーティションリング4に加えて符号5で示すパーティションリングが第1リング溝201に装着されている点で、ピストンリング構造110と相違する。変形例2では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。また、変形例2では、パーティションリング4、外周離間面41、内周嵌合面42、上側隔壁面43、及び下側隔壁面44が、夫々、本発明に係る「第1パーティションリング」、「第1外周離間面」、「第1内周嵌合面」、「第1上側隔壁面」、及び「第1下側隔壁面」に相当する。パーティションリング5は、外周離間面51と内周嵌合面52と上側隔壁面53と下側隔壁面54とを有する。変形例2では、パーティションリング5、外周離間面51、内周嵌合面52、上側隔壁面53、及び下側隔壁面54が、夫々、本発明に係る「第2パーティションリング」、「第2外周離間面」、「第2内周嵌合面」、「第2上側隔壁面」、及び「第2下側隔壁面」に相当する。また、パーティションリング5は、本発明に係る「パーティションリング」にも相当する。
【0057】
図5に示すように、ピストンリング構造110Bでは、パーティションリング4及びパーティションリング5がトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3と共にピストン20の軸方向に並んで第1リング溝201に装着されている。パーティションリング4の上側隔壁面43が第1リング溝201の上溝壁W1の側に面することで、上溝壁W1と上側隔壁面43との間には、トップリング1を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング4の下側隔壁面44が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面44との間には、セカンドリング2及びオイルリング3を装着可能な空間が画定されている。
【0058】
また、ピストンリング構造110Bでは、第1リング溝201におけるパーティションリング4よりも下側の位置にパーティションリング5が装着されている。ピストンリング構造110Bでは、パーティションリング5の上側隔壁面53がパーティションリング4の下側隔壁面44の側に面することで、パーティションリング4の下側隔壁面44とパーティションリング5の上側隔壁面53との間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング5の下側隔壁面54が下溝壁W2の側に面
することで、下溝壁W2と下側隔壁面54との間には、オイルリング3を装着可能な空間が画定されている。
【0059】
また、パーティションリング5の内周部に設けられた内周嵌合面52は、使用状態において底溝壁W3と嵌合することで底溝壁W3との間に接触状態を形成する。本例の内周嵌合面52は、全周に亘って底溝壁W3と接触している。但し、本発明はこれに限定されず、第2内周嵌合面は、その少なくとも一部が底溝壁と接触していればよい。また、本例の内周嵌合面42は、パーティションリング4が軸方向に沿って底溝壁W3を摺動可能となるように底溝壁W3と嵌合している。そのため、パーティションリング4は、トップリング1及びセカンドリング2と共に軸方向に沿って移動可能となっている。但し、本発明はこれに限定されない。また、パーティションリング5の外周部に設けられた外周離間面51は、使用状態においてシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離d2を確保する。
【0060】
そして、
図5に示すように、ピストンリング構造110Bでは、トップリング1が第1リング溝201の上溝壁W1とパーティションリング4の上側隔壁面43との間に装着され、セカンドリング2がパーティションリング4の下側隔壁面44とパーティションリング5の上側隔壁面53との間に装着され、オイルリング3が第1リング溝201の下溝壁W2とパーティションリング5の下側隔壁面54との間に装着されている。つまり、ピストンリング構造110Bでは、トップリング1とセカンドリング2との間にパーティションリング4が介装されており、セカンドリング2とオイルリング3との間にパーティションリング5が介装されている。このように、ピストンリング構造110Bでは、パーティションリング4及びパーティションリング5がピストンランドの代わりとして機能している。
【0061】
変形例2に係るピストンリング構造110Bにおいても、上述のピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、ピストンリング構造110Bによると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3)を装着することができ、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。特に、変形例2では、1つのリング溝に3本のピストンリングを装着可能となることから、ピストン20の構造を一層単純化でき、ピストン20の軸方向長さを短くすることが一層容易となる。また、パーティションリング4及びパーティションリング5がピストンリング同士を隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制することができる。
【0062】
[変形例3]
図6は、実施形態1の変形例3に係るピストンリング構造110Cを備える内燃機関100Cの部分断面図である。変形例3に係るピストンリング構造110Cは、第1リング溝201の底溝壁W3に保持部H1が形成されている点で、ピストンリング構造110と相違する。
【0063】
図6に示すように、ピストンリング構造110Cでは、第1リング溝201の底溝壁W3の一部が凹むことで、パーティションリング4を保持する保持部H1が形成されている。保持部H1は、底溝壁W3の全周に亘って形成された溝の内壁として形成されており、パーティションリング4を保持することでパーティションリング4の軸方向に沿う移動を規制する。保持部H1は、上下に対向配置された上側規制壁W31及び下側規制壁W32と、上側規制壁W31の内周縁と下側規制壁W32の内周縁とを接続する嵌合壁W33と、を含んで形成されている。上側規制壁W31は、パーティションリング4の上側隔壁面43に当接することでパーティションリング4の上側への移動を規制する。下側規制壁W
32は、パーティションリング4の下側隔壁面44に当接することでパーティションリング4の下側への移動を規制する。嵌合壁W33は、パーティションリング4の内周嵌合面42と嵌合する。ここで、ピストンリング構造110Cでは、軸方向における上側規制壁W31と上溝壁W1との距離d3がトップリング1の軸方向における幅t1よりも大きくなるように設定されている。これにより、トップリング1と上溝壁W1との間やトップリング1と上側隔壁面43との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。また、ピストンリング構造110Cでは、軸方向における下側規制壁W32と下溝壁W2との距離d4がセカンドリング2の軸方向における幅t2よりも大きくなるように設定されている。これにより、セカンドリング2と下側隔壁面44との間やセカンドリング2と下溝壁W2との間にもクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。
【0064】
なお、保持部H1は、本発明の他の態様とも組み合わせることができる。例えば、ピストンリング構造110Aにおいて、パーティションリング4を保持部H1によって保持してもよい。また、ピストンリング構造110Bにおいて、パーティションリング4とパーティションリング5の何れか一方を保持部H1によって保持してもよいし、保持部H1を2つ形成し、パーティションリング4とパーティションリング5の両方を保持部H1によって夫々保持してもよい。
【0065】
<実施形態2>
図7は、実施形態2に係るピストンリング構造120を備える内燃機関200の部分断面図である。以下、実施形態2に係るピストンリング構造120について、実施形態1に係るピストンリング構造110との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0066】
図7に示すように、ピストンリング構造120は、パーティションリング4に代えてパーティションリング6が第1リング溝201に装着されている点で、ピストンリング構造110と相違する。パーティションリング6は、周長方向に直交する断面がT字状に形成されている点で、パーティションリング4と相違する。本例では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。
【0067】
パーティションリング6は、外周離間面61と内周嵌合面62と上側隔壁面63と下側隔壁面64と上側突出部65と下側突出部66とを有する。本例では、パーティションリング6が本発明に係る「パーティションリング」に相当する。
【0068】
図7に示すように、ピストンリング構造120では、パーティションリング6がトップリング1及びセカンドリング2と共にピストン20の軸方向に並んで第1リング溝201に装着されている。パーティションリング6の上側隔壁面63が第1リング溝201の上溝壁W1の側に面することで、上溝壁W1と上側隔壁面63との間には、トップリング1を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング6の下側隔壁面64が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面64との間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。
【0069】
また、パーティションリング6の内周部に設けられた内周嵌合面62は、使用状態において底溝壁W3と嵌合することで底溝壁W3との間に接触状態を形成する。本例の内周嵌合面62は、全周に亘って底溝壁W3と接触している。但し、本発明はこれに限定されず、第2内周嵌合面は、その少なくとも一部が底溝壁と接触していればよい。また、パーティションリング6の外周部に設けられた外周離間面61は、使用状態においてシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離d5を確保する。
【0070】
そして、
図7に示すように、ピストンリング構造120では、トップリング1が第1リング溝201の上溝壁W1とパーティションリング6の上側隔壁面63との間に装着され、セカンドリング2が第1リング溝201の下溝壁W2とパーティションリング6の下側隔壁面64との間に装着され、オイルリング3が第2リング溝202に装着されている。
【0071】
実施形態2に係るピストンリング構造120においても、実施形態1に係るピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、ピストンリング構造120によると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではトップリング1及びセカンドリング2)を装着することができ、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。
【0072】
更に、ピストンリング構造120では、パーティションリング6が上側突出部65と下側突出部66とを有している。
図7に示すように、上側突出部65は、ピストン20の径方向において上側隔壁面63よりも内側に設けられており、上側隔壁面63に対して燃焼室30側に突出している。上側突出部65は、ピストン20の径方向においてトップリング1よりも内側、つまり、トップリング1の内周面12側に設けられている。上側突出部65は、第1リング溝201の上溝壁W1に当接することで、ピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の上側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120では、上側突出部65の上側隔壁面63に対する突出量、つまり、軸方向における上側突出部65の頂部と上側隔壁面63との距離h1がトップリング1の軸方向における幅t1よりも大きくなるように設定されている。これにより、トップリング1と上溝壁W1との間やトップリング1と上側隔壁面63との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。上側突出部65は、第1リング溝201の内壁に当接して軸方向に支持されることでトップリング1と上側隔壁面63との間にクリアランスを形成できるように構成されていればよく、クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh1がt1よりも小さく設定されてもよい。また、上側突出部65の頂部は、上側隔壁面63と平行な平坦面であってもよいし、平坦面でなくともよい。頂部は、湾曲したR面や傾斜面などであってもよい。また、縁部に面取りが形成されていてもよい。また、下側突出部66は、ピストン20の径方向において下側隔壁面64よりも内側に設けられており、下側隔壁面64に対してクランク室40側に突出している。下側突出部66は、ピストン20の径方向においてセカンドリング2よりも内側、つまり、セカンドリング2の内周面22側に設けられている。下側突出部66は、第1リング溝201の下溝壁W2に当接することで、ピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の下側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120では、下側突出部66の下側隔壁面64に対する突出量、つまり、軸方向における下側突出部66の頂部と下側隔壁面64との距離h2がセカンドリング2の軸方向における幅t2よりも大きくなるように設定されている。これにより、セカンドリング2と下側隔壁面64との間やセカンドリング2と下溝壁W2との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。下側突出部66は、第1リング溝201の内壁に当接して軸方向に支持されることでセカンドリング2と下側隔壁面64との間にクリアランスを形成できるように構成されていればよく、クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh2がt2よりも小さく設定されてもよい。また、下側突出部66の頂部は、下側隔壁面64と平行な平坦面であってもよいし、平坦面でなくともよい。頂部は、湾曲したR面や傾斜面などであってもよい。また、縁部に面取りが形成されていてもよい。また、パーティションリング6は、軸方向に移動可能であってもよいし、軸方向への移動が規制されていてもよい。
【0073】
また、
図7に示すように、上側突出部65及び下側突出部66は、内周嵌合面62の一部を含んで形成されている。そのため、内周嵌合面62の軸方向における長さは、外周離間面61の軸方向における長さよりも長くなっている。これによると、第1リング溝20
1の底溝壁W3に接触する内周嵌合面62を軸方向において長くすることで、ピストン20の熱が底溝壁W3からパーティションリング6に伝わり易くなり、パーティションリング6からピストンリングを介してシリンダ10へ熱を逃がし易くすることができる。なお、パーティションリング6は、上側突出部65と下側突出部66の一方のみを有してもよい。つまり、パーティションリング6の周長方向に直交する断面がL字状に形成されていてもよい。
【0074】
[実施形態2の変形例]
以下、実施形態2の変形例について説明する。以下の説明では、上述のピストンリング構造120との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0075】
[変形例1]
図8は、実施形態2の変形例1に係るピストンリング構造120Aを備える内燃機関200Aの部分断面図である。変形例1に係るピストンリング構造120Aは、パーティションリング6がセカンドリング2及びオイルリング3と共にピストン20の軸方向に並んで第2リング溝202に装着されている点で、ピストンリング構造120と異なる。本例では、第2リング溝202が本発明に係る「リング溝」に相当する。
【0076】
図8に示すように、ピストンリング構造120Aでは、パーティションリング6の上側隔壁面63が第2リング溝202の上溝壁W1の側に面することで、上溝壁W1と上側隔壁面63との間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング6の下側隔壁面64が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面64との間には、オイルリング3を装着可能な空間が画定されている。そして、
図8に示すように、ピストンリング構造120Aでは、トップリング1が第1リング溝201に装着され、セカンドリング2が第2リング溝202の上溝壁W1とパーティションリング6の上側隔壁面63との間に装着され、オイルリング3が第2リング溝202の下溝壁W2とパーティションリング6の下側隔壁面64との間に装着されている。
【0077】
更に、ピストンリング構造120Aでは、上側突出部65が第2リング溝202の上溝壁W1に当接することでピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の上側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120Aでは、上側突出部65の上側隔壁面63に対する突出量h1がセカンドリング2の軸方向における幅t2よりも大きくなるように設定されている。これにより、セカンドリング2と上溝壁W1との間やセカンドリング2と上側隔壁面63との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh1がt2よりも小さく設定されてもよい。また、ピストンリング構造120Aでは、下側突出部66が第2リング溝202の下溝壁W2に当接することでピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の下側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120Aでは、下側突出部66の下側隔壁面64に対する突出量h2がオイルリング3の軸方向における幅t3よりも大きくなるように設定されている。これにより、オイルリング3と下側隔壁面64との間やオイルリング3と下溝壁W2との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh2がt3よりも小さく設定されてもよい。
【0078】
[変形例2]
図9は、実施形態2の変形例2に係るピストンリング構造120Bを備える内燃機関200Bの部分断面図である。変形例2に係るピストンリング構造120Bは、ピストン20の外周面20aに第1リング溝201のみが形成されている点、第1リング溝201に
トップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3が装着されている点、パーティションリング6に加えて符号7で示すパーティションリングが第1リング溝201に装着されている点で、ピストンリング構造120と相違する。変形例2では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。また、変形例2では、パーティションリング6、外周離間面61、内周嵌合面62、上側隔壁面63、及び下側隔壁面64が、夫々、本発明に係る「第1パーティションリング」、「第1外周離間面」、「第1内周嵌合面」、「第1上側隔壁面」、及び「第1下側隔壁面」に相当する。パーティションリング7は、外周離間面71と内周嵌合面72と上側隔壁面73と下側隔壁面74と上側突出部75と下側突出部76を有する。変形例2では、パーティションリング7、外周離間面71、内周嵌合面72、上側隔壁面73、及び下側隔壁面74が、夫々、本発明に係る「第2パーティションリング」、「第2外周離間面」、「第2内周嵌合面」、「第2上側隔壁面」、及び「第2下側隔壁面」に相当する。また、パーティションリング7は、本発明に係る「パーティションリング」にも相当する。
【0079】
図9に示すように、ピストンリング構造120Bでは、パーティションリング6及びパーティションリング7がトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3と共にピストン20の軸方向に並んで第1リング溝201に装着されている。第1リング溝201におけるパーティションリング6よりも下側の位置にパーティションリング7が装着されている。パーティションリング6の上側隔壁面63が第1リング溝201の上溝壁W1の側に面することで、上溝壁W1と上側隔壁面63との間には、トップリング1を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング7の上側隔壁面73がパーティションリング6の下側隔壁面64の側に面することで、パーティションリング6の下側隔壁面64とパーティションリング7の上側隔壁面73との間には、セカンドリング2を装着可能な空間が画定されている。また、パーティションリング7の下側隔壁面74が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面74との間には、オイルリング3を装着可能な空間が画定されている。これにより、1つのリング溝に3本のピストンリングを装着可能となっている。
【0080】
また、パーティションリング7の内周部に設けられた内周嵌合面72は、使用状態において底溝壁W3と嵌合することで底溝壁W3との間に接触状態を形成する。本例の内周嵌合面72は、全周に亘って底溝壁W3と接触している。但し、本発明はこれに限定されず、第2内周嵌合面は、その少なくとも一部が底溝壁と接触していればよい。また、パーティションリング7の外周部に設けられた外周離間面71は、使用状態においてシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の離間距離d6を確保する。
【0081】
また、
図9に示すように、パーティションリング7の上側突出部75は、ピストン20の径方向において上側隔壁面73よりも内側に設けられており、上側隔壁面73に対して燃焼室30側に突出している。また、下側突出部76は、ピストン20の径方向において下側隔壁面74よりも内側に設けられており、下側隔壁面74に対してクランク室40側に突出している。
【0082】
ピストンリング構造120Bでは、パーティションリング6の上側突出部65が第1リング溝201の上溝壁W1に当接することでピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の上側への移動が規制される。ピストンリング構造120Bでは、上側突出部65の突出量h1がトップリング1の軸方向における幅t1よりも大きくなるように設定されており、トップリング1と上溝壁W1との間やトップリング1と上側隔壁面63との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh1がt1よりも小さく設定されてもよい。また、ピストンリング構造120Bでは、パーティションリング6の下側突出部66がパーティションリング7の上側突出部75に当接すること
で下側突出部66及び上側突出部75がピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング6の下側への移動及びパーティションリング7の上側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120Bでは、下側突出部66の突出量h2と上側突出部75の突出量h3との合算値がセカンドリング2の軸方向における幅t2よりも大きくなるように設定されている。これにより、セカンドリング2と下側隔壁面64との間やセカンドリング2と上側隔壁面73との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。また、ピストンリング構造120Bでは、パーティションリング7の下側突出部76が第1リング溝201の下溝壁W2に当接することでピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング7の下側への移動が規制される。ここで、ピストンリング構造120Bでは、下側突出部76の突出量h4がオイルリング3の軸方向における幅t3よりも大きくなるように設定されている。これにより、オイルリング3と下側突出部76との間やオイルリング3と下溝壁W2との間にクリアランスを形成することができる。但し、本発明はこれに限定されない。クリアランスを確保するためにリング溝の内周縁の形状に応じてh4がt3よりも小さく設定されてもよい。
【0083】
なお、実施形態2は、上述の他の実施形態と組み合わせることができる。例えば、上述のピストンリング構造120Bにおいて、パーティションリング6に代えてピストンリング構造110Bのパーティションリング4を用いてもよい。また、パーティションリング7に代えてピストンリング構造110Bのパーティションリング5を用いてもよい。また、パーティションリング4やパーティションリング6を適用する場合、ピストンリング構造110Cの保持部H1によってこれらを保持してもよい。
【0084】
<実施形態3>
図10は、実施形態3に係るピストンリング構造130を備える内燃機関300の部分断面図である。以下、実施形態3に係るピストンリング構造130について、実施形態1に係るピストンリング構造110との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0085】
ピストンリング構造130は、ピストン20の外周面20aに設けられたピストンリング装着用の第1リング溝201、第2リング溝202、及び第3リング溝203と、トップリング1と、セカンドリング2と、オイルリング3と、パーティションリング4と、を含む。
図10に示すように、第3リング溝203は、ピストン20の外周面20aにおける第2リング溝202よりも下側の位置に形成されている。ピストンリング構造130では、第1リング溝201にトップリング1及びパーティションリング4が装着され、第2リング溝202にセカンドリング2が装着され、第3リング溝203にオイルリング3が装着されている。本例では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。
【0086】
図10に示すように、ピストンリング構造130では、パーティションリング4がトップリング1と共にピストン20の軸方向に並んで第1リング溝201に装着されている。パーティションリング4の上側隔壁面43が第1リング溝201の上溝壁W1の側に面することで、上側隔壁面43が上溝壁W1と接触している。また、パーティションリング4の下側隔壁面44が下溝壁W2の側に面することで、下溝壁W2と下側隔壁面44との間には、トップリング1を装着可能な空間が画定されている。そして、
図10に示すように、ピストンリング構造130では、トップリング1が第1リング溝201の下溝壁W2とパーティションリング4の下側隔壁面44との間に装着されている。そのため、トップリング1が上側に移動するとパーティションリング4がトップリング1に当接することとなる。つまり、第1リング溝201の上溝壁W1とトップリング1との間にパーティションリング4が介装されている。
【0087】
実施形態3に係るピストンリング構造130においても、上述のピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、パーティションリング4が第1リング溝201の上溝壁W1とトップリング1とを隔てるピストンランドの代わりとして機能することで、トップリング1とリング溝の内壁との接触箇所を減らすことができる。これにより、ピストンリングとピストンのリング溝の内壁との直接接触による不具合を抑制することができる。
【0088】
なお、実施形態3は、適宜変更することができる。例えば、第1リング溝201の下溝壁W2とトップリング1との間にパーティションリング4を介装してもよい。また、第2リング溝202の上溝壁W1とセカンドリング2との間や下溝壁W2とセカンドリング2の間にパーティションリング4を介装してもよい。また、第3リング溝203の上溝壁W1とオイルリング3との間や下溝壁W2とオイルリング3の間にパーティションリング4を介装してもよい。また、実施形態3は、上述の他の実施形態と組み合わせることができる。例えば、上述のピストンリング構造110において、第1リング溝201の上溝壁W1とトップリング1との間や下溝壁W2とセカンドリング2の間にパーティションリング4を介装してもよい。また、上述のピストンリング構造110Aにおいて、第2リング溝202の上溝壁W1とセカンドリング2との間や下溝壁W2とオイルリング3の間にパーティションリング4を介装してもよい。また、上述のピストンリング構造110Bにおいて、第1リング溝201の上溝壁W1とトップリング1との間や下溝壁W2とオイルリング3の間にパーティションリング4を介装してもよい。
【0089】
<実施形態4>
以下、
図11~
図21を参照して、実施形態4に係るピストンリング構造について説明する。
図11~
図21に示すように、実施形態4では、複数のピストンリングの間(詳細には、ピストンの軸方向において隣り合うピストンリング同士の間)に複数のパーティションリングが軸方向において互いに重なるようにして配置される点で、上述の実施形態と相違する。また、実施形態4では、複数のパーティションリングにおいて、軸方向に隣り合うパーティションリング同士の性状を異ならせている。つまり、実施形態4では、性状の異なる複数のパーティションリングを組み合わせて用いる。ここで、本明細書では、「パーティションリングの性状」とは、パーティションリングの性質や状態のことを指す。パーティションリングの性状は、例えば、パーティションリングの材質、形状、表面処理、表面粗さ、強度等を含む。
【0090】
以下の説明において、ピストンの軸方向において互いに重なるようにしてリング溝に装着された複数のパーティションリングによって形成され、複数のピストンリングの間に配置される構造体をパーティション部と称し、図中では符号P1で示す。パーティション部P1が複数のピストンリングの間に配置され、パーティション部P1のパーティションリングがシリンダ10の内壁面10aとの間に所定の間隔を空けてリング溝の底溝壁W3に嵌合することで、リング溝が仕切られる。なお、パーティション部P1を構成するパーティションリングの数量は、複数であれば限定されない。実施形態4は、第1リング溝201に装着されたトップリング1とセカンドリング2との間にパーティション部P1が配置される態様である。実施形態4では、第1リング溝201が本発明に係る「リング溝」に相当する。以下、実施形態4に係るピストンリング構造140~140Iについて、実施形態1に係るピストンリング構造110との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0091】
図11は、実施形態4に係るピストンリング構造140を備える内燃機関400の部分断面図である。
図11に示すように、実施形態4に係るピストンリング構造140は、第1リング溝201に2つのパーティションリング(パーティションリング4,5)がピス
トン20の軸方向に重なって装着されている点で実施形態1に係るピストンリング構造110と相違する。
【0092】
図11に示すように、ピストンリング構造140では、トップリング1とセカンドリング2との間にパーティション部P1が配置されることで、第1リング溝201が仕切られている。ピストンリング構造140に係るパーティション部P1は、2本のパーティションリング(パーティションリング4,5)を含んで構成されている。パーティションリング4とパーティションリング5は、ピストン20の軸方向において互いに重なるように第1リング溝201に装着されており、パーティションリング5の方がパーティションリング4よりも下側(クランク室40側)配置されている。具体的には、パーティションリング4の下側隔壁面44とパーティションリング5の上側隔壁面53とが当接している。そのため、パーティションリング4とパーティションリング5との間には、ピストンリングが介在しない状態となっている。そして、
図11に示すように、ピストンリング構造140では、トップリング1が第1リング溝201の上溝壁W1とパーティションリング4の上側隔壁面43との間に装着され、セカンドリング2が第1リング溝201の下溝壁W2とパーティションリング5の下側隔壁面54との間に装着されている。つまり、ピストンリング構造140では、トップリング1とセカンドリング2との間に2つのパーティションリング4,5が重なるようにしてリング溝に装着されている。このように、ピストンリング構造140では、パーティションリング4とパーティションリング5とが協働して、1つのピストンランドの代わりとして機能している。
【0093】
実施形態4に係るピストンリング構造140においても、実施形態1に係るピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、ピストンリング構造140によると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではトップリング1及びセカンドリング2)を装着することができ、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。
【0094】
ここで、実施形態4に係るピストンリング構造140では、パーティションリング4とパーティションリング5とで性状が異なっている。より具体的には、本例では、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの材質が異なっている。
【0095】
ピストンリング構造140に係るパーティション部P1においては、パーティションリング4の材質の方がパーティションリング5の材質よりも熱伝導性が高くなっている。本例に係るパーティションリング4は、熱伝導率の高い材質により形成されている。パーティションリング4に用いられる熱伝導率の高い材質は特に限定されないが、例えば、Cu、Cu系合金、Al-Si系合金(好ましくはアルマイトレスのもの)、Cuクラッド材(Cuを材料に含むクラッド材)等が例示される。パーティションリング4に用いられる材質の熱伝導率は特に限定されないが、例えば、40W/mK~400W/mKが好ましく、40W/mK~200W/mKが更に好ましく、40W/mK~150W/mKが更に好ましく、40W/mK~100W/mKが更に好ましい。
【0096】
また、ピストンリング構造140に係るパーティション部P1においては、パーティションリング5の材質の方がパーティションリング4の材質よりも耐熱へたり性が高くなっている。本例に係るパーティションリング5は、耐熱へたり性の高い材質により形成されている。パーティションリング5に用いられる耐熱へたり性の高い材質は特に限定されないが、耐熱性に優れ高温下でも強度低下の少ない耐クリープ性に優れる材質が好ましく、例えば、Ni基合金や鋼材が例示される。
【0097】
このように、実施形態4に係るピストンリング構造140では、パーティション部P1において最も上側(燃焼室30側)に配置されるパーティションリング(つまり、パーテ
ィションリング4)の材質が他のパーティションリング(つまり、パーティションリング5)の材質よりも熱伝導性が高くなっている。ここで、ピストンリング構造140を備える内燃機関400における熱伝導の流れは、ピストン、パーティションリング、ピストンリング、シリンダの順になると考えられる。このとき、燃焼室30でのガスの燃焼により、ピストン20の温度は燃焼室30に近いほど(つまり、より上側であるほど)高くなる傾向にある。そのため、実施形態4に係るピストンリング構造140では、パーティション部P1において最も上側に配置されたパーティションリング4を熱伝導率の高い材質により形成することで、ピストン20の冷却効果を高めることができる。なお、パーティションリング4の一部のみを熱伝導率の高い材質で形成してもよい。また、パーティションリング4を熱伝導率の高い材質で形成することに代えて、パーティションリング4の表面に高熱伝導率材で形成された被膜を設けてもよい。例えば、パーティションリング4においてトップリング1に当接する上側隔壁面43のみを高熱伝導率材で形成してもよいし、上側隔壁面43のみに高熱伝導率材の被膜を形成してもよい。
【0098】
更に、実施形態4に係るピストンリング構造140では、パーティション部P1において最も下側に配置されるパーティションリング(つまり、パーティションリング5)の材質が他のパーティションリング(つまり、パーティションリング4)の材質よりも耐熱へたり性が高くなっている。ここで、パーティションリングは、リング溝の底溝壁に嵌合するために、使用状態において底溝壁を押圧するように自己張力を有している。しかしながら、高温下においてパーティションリングがへたることで自己張力が低下すると、嵌合が維持できない虞がある。これに対して、実施形態4に係るピストンリング構造140では、パーティションリング5の耐熱へたり性を高くすることで、高熱下においてもパーティションリング5の自己張力が維持され、内周嵌合面52と第1リング溝201の底溝壁W3との嵌合(接触状態)が確りと維持される。これにより、パーティションリング5の軸方向における位置ずれを防止し、パーティションリング5の内周シール性(内周嵌合面52と底溝壁W3との間のシール性)を維持できる。特に、本例の場合、ピストン20の冷却効果を高めるために上側に配置されたパーティションリング4を熱伝導性の高い材質とすることでパーティションリング4の耐熱へたり性が低下することも起こり得るが、下側に配置されたパーティションリング5を耐熱へたり性の高い材質とすることで、これを補うことができる。その結果、パーティション部P1全体として、位置ずれを防止すると共に内周シール性を維持することができる。
【0099】
なお、パーティション部P1を構成する複数のパーティションリングのうち、少なくとも何れかのパーティションリングを、アルミニウムよりも軽量な材質で形成してもよい。これにより、パーティションリングを軽量化できる。パーティションリングに用いるアルミニウムよりも軽量な材料としては、例えば、Mg合金やFRP(Fiber Reinforced Plastics)が例示される。パーティションリングにFRPを用いる場合には、耐熱性に優れ
たPEEK(Polyether ether ketone)樹脂を材料とすることが好ましい。
【0100】
また、パーティション部P1を構成する複数のパーティションリングのうち、少なくとも何れかのパーティションリングを、中空状に形成してもよい。これによっても、パーティションリングを軽量化できる。
【0101】
パーティションリングを軽量化することで、内燃機関400の運転時におけるピストンリング構造140の慣性力を低減することができる。これにより、コンロッドやメタル(軸受)系の強度設計が容易となる。例えば、コンロッドやメタル系に要求される強度や耐焼き付き荷重が小さくなるため、これらの部品の設計自由度を広げることができる。
【0102】
なお、本例では、上側に配置されたパーティションリング4の材質を熱伝導性の高いものとし、下側に配置されたパーティションリング5の材質を耐熱へたり性の高いものとし
たが、本発明において、複数のパーティションリングの性状の組合せはこれに限定されない。また、パーティション部P1を構成するパーティションリングの数量は、3本以上であってもよい。
【0103】
[実施形態4の変形例]
以下、実施形態4の変形例について説明する。以下の説明では、上述のピストンリング構造140との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0104】
[変形例1]
図12は、実施形態4の変形例1に係るピストンリング構造140Aを備える内燃機関400Aの部分断面図である。
図12に示すように、実施形態4の変形例1に係るピストンリング構造140Aでは、パーティション部P1においてピストン20の軸方向に隣り合うパーティションリング同士(パーティションリング4,5)の間に、これらを密着させるための接着層50が設けられている。つまり、接着層50は、パーティションリング4の下側隔壁面44とパーティションリング5の上側隔壁面53との間に設けられている。接着層50の材質は特に限定されないが、例えば、Sn等に代表される軟質金属が例示される。接着層50は、例えば、パーティションリング4の下側隔壁面44とパーティションリング5の上側隔壁面53とのうち何れか又は両方に軟質金属をコーティングすることで設けられてもよい。また、接着層50は、例えば、シリコーン等の熱伝導性ペーストにより形成されてもよい。なお、本発明は、パーティションリングにおいてピストンに接触する面(例えば内周面)に接着層を設けてもよい。
【0105】
変形例1に係るピストンリング構造140Aによると、隣り合うパーティションリング同士の密着性を接着層50によって高めることができる。これにより、隣り合うパーティションリング同士の間、つまり、上側に配置されたパーティションリング4の下側隔壁面44と下側に配置されたパーティションリング5の上側隔壁面53との間をガスやオイルが通り抜けることを抑制できる。その結果、ブローバイガスやオイル消費を低減できる。また、隣り合うパーティションリング同士の熱伝導性が接着層50によって高められる結果、ピストン20の冷却効果を高めることができる。なお、密着性の向上の観点から、パーティションリング4の下側隔壁面44及びパーティションリング5の上側隔壁面53は、平滑面とすることが好ましい。
【0106】
[変形例2]
図13は、実施形態4の変形例2に係るピストンリング構造140Bを備える内燃機関400Bの部分断面図である。
図13に示すように、実施形態4の変形例2に係るピストンリング構造140Bは、第1リング溝201の底溝壁W3とパーティション部P1との間に設けられ、パーティション部P1のパーティションリング4,5をピストン20の軸方向の両側から保持する保持リング60を更に備える。
【0107】
保持リング60は、リング状の部材であり、その内周面602によって第1リング溝201の底溝壁W3と嵌合する。また、保持リング60の外周面601の一部が凹むことで、パーティションリング4,5が嵌合する嵌合部605が形成されている。嵌合部605は、外周面601の全周に亘って形成された溝の内壁として形成されており、パーティションリング4,5を保持することでパーティションリング4,5の軸方向に沿う移動を規制する。嵌合部605は、上下に対向配置された上側壁W10及び下側壁W20と、上側壁W10の内周縁と下側壁W20の内周縁とを接続する接続壁W30と、を含んで形成されている。
【0108】
本例では、保持リング60の上面603が第1リング溝201の上溝壁W1と当接し下
面604が第1リング溝201の下溝壁W2と当接することで、保持リング60がピストン20の軸方向に支持され、保持リング60が軸方向に移動することを規制される。更に、上側壁W10がパーティションリング4の上側隔壁面43に当接することでパーティション部P1の上側への移動が規制され、下側壁W20がパーティションリング5の下側隔壁面54に当接することでパーティション部P1の下側への移動が規制されている。また、接続壁W30とパーティションリング4の内周嵌合面42及びパーティションリング5の内周嵌合面52とが嵌合している。このようにして、パーティションリング4,5は、保持リング60に保持されると共に保持リング60を介して第1リング溝201の底溝壁W3と嵌合している。保持リング60の軸方向における移動が規制されることで、パーティション部P1の軸方向における位置ずれを防止できる。また、保持リング60の軸方向幅はパーティション部P1の軸方向幅よりも大きいため、保持リング60の自己張力はパーティションリング4,5の自己張力よりも大きい。このような保持リング60を介してパーティションリング4,5と第1リング溝201の底溝壁W3とが嵌合することによっても、パーティション部P1の軸方向における位置ずれを防止できる。なお、保持リング60が軸方向に移動することを規制するために、第1リング溝201の接続壁W30に凹溝を形成し、当該凹溝に保持リング60を嵌合させてもよい。また、保持リング60は、パーティション部P1をピストン20の軸方向の両側から(上下から)挟むように配置された一対のリングにより構成されてもよい。
【0109】
[変形例3]
図14は、実施形態4の変形例3に係るピストンリング構造140Cを備える内燃機関400Cの部分断面図である。
図14に示すように、実施形態4の変形例3に係るピストンリング構造140Cは、パーティション部P1のうち下側に配置されたパーティションリング5のみが保持リング60によって保持されている点で変形例2に係るピストンリング構造140Bと相違する。具体的には、本例では、上側壁W10がパーティションリング5の上側隔壁面53に当接し、下側壁W20がパーティションリング5の下側隔壁面54に当接し、接続壁W30とパーティションリング5の内周嵌合面52とが嵌合している。このような変形例3においてもパーティション部P1の軸方向における位置ずれを防止できる。なお、パーティションリング4のみが保持リング60によって保持されてもよい。
【0110】
[変形例4]
図15は、実施形態4の変形例4に係るピストンリング構造140Dを備える内燃機関400Dの部分断面図である。実施形態4の変形例4に係るピストンリング構造140Dでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの表面形状が異なっている。
【0111】
図15に示すように、実施形態4の変形例4に係るピストンリング構造140Dでは、パーティション部P1において最も上側(燃焼室30側)に配置されるパーティションリング4の上側隔壁面43と最も下側(クランク室40側)に配置されるパーティションリング5の下側隔壁面54とに、符号V1で示す空隙形成部が設けられている。空隙形成部V1には、保油のための空隙が形成されている。
【0112】
パーティションリング4の上側隔壁面43に空隙形成部V1が設けられることで、トップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43とが当接した状態であっても下面14と空隙形成部V1との間には空隙が確保され、当該空隙にオイルが保持される。これにより、トップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43との間の摩擦が低減され、トップリング1やパーティションリング4の摩耗を低減することができる。
【0113】
また、パーティションリング5の下側隔壁面54に空隙形成部V1が設けられることで、セカンドリング2の上面23とパーティションリング5の下側隔壁面54との接触面積を低減できる。これにより、セカンドリング2の上面23とパーティションリング5の下側隔壁面54とが凝着することを抑制できる。
【0114】
図15に示すように、空隙形成部V1をパーティションリング4の上側隔壁面43に設ける場合には、上側隔壁面43のうち、径方向外側における端部領域43aを除く領域に設けられることが好ましい。径方向外側の端部領域43aは、上側隔壁面43の径方向外側における端部に位置し所定の幅を有する領域である。空隙が形成されていない端部領域43aを上側隔壁面43に残しておくことで、トップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43とが当接した状態では、下面14と空隙形成部V1との間に空隙を確保しつつも、下面14と端部領域43aとの間にはシール性が確保される。そのため、ガスがトップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43との間を通って外周側に抜けることが抑制される。その結果、ブローバイガスの増加を抑制できる。同様の理由により、空隙形成部V1をパーティションリング5の下側隔壁面54に設ける場合には、下側隔壁面54のうち、径方向外側における端部領域54aを除く領域に設けられることが好ましい。なお、本発明はこれに限定されず、空隙形成部は、パーティションリングの上側隔壁面や下側隔壁面の全域に設けられてもよい。
【0115】
図16(A)~(D)は、空隙形成部V1の一例を示す図である。
図16(A)に示す空隙形成部V1は、周方向に等間隔に並んで設けられた複数の空孔V11によって空隙を形成している。空孔V11は、貫通孔であってもよいし、非貫通孔であってもよい。空孔V11は、周方向に長手な長孔として形成されている。空孔V11の大きさは限定されないが、例えば、長手方向における長さL1が4mm~8mmであることが好ましい。また、
図16(A)に示す態様の場合、表面における空孔V11を除く領域の算術平均粗さRaが1.0μm以下であることが好ましい。
図16(B)に示す空隙形成部V1は、表面に形成された複数のディンプル(窪み)V12によって空隙を形成している。複数のディンプルV12が一定のパターンで配置されることで、空隙形成部V1がテクスチャー状となっている。
図16(C)に示す空隙形成部V1は、周方向に等間隔に並んで設けられた複数の溝V13によって空隙を形成している。溝V13は、径方向に長手な溝として形成されている。
図16(D)に示す空隙形成部V1は、表面粗さを他の部位(端部領域)よりも粗くすることで空隙を形成している。
図16(D)に示す例では、例えば、焼結や表面溶射により表面を粗くすることで空隙を形成してもよい。
【0116】
図16(A)~(D)に示すように、空隙形成部V1は、空隙が不連続(断続的)に形成されていることが好ましい。これにより、オイルが空隙を通り抜けることを抑制し、空隙にオイルを保持することができる。なお、空隙形成部V1は、
図16(A)~(D)に示す態様を組み合わせたものであってもよい。
【0117】
また、空隙形成部V1は、パーティションリングとは別体の部材により形成されてもよい。その場合、空隙形成部V1は、例えば、Cu系多孔質材料や焼結材料により形成してもよい。
【0118】
また、空隙形成部V1には、樹脂材料を含侵させてもよい。これにより、パーティションリングとピストンリングとの凝着を抑制することができる。
【0119】
なお、本例では、パーティションリング4とパーティションリング5の両方に空隙形成部V1が設けられているが、本発明はこれに限定されない。空隙形成部は、パーティション部において最も燃焼室側に配置されるパーティションリングの上側隔壁面と最もクランク室側に配置されるパーティションリングの下側隔壁面とのうち少なくとも一方に設けら
れてもよい。
【0120】
[変形例5]
図17は、実施形態4の変形例5に係るピストンリング構造140Eを備える内燃機関400Eの部分断面図である。
図17に示すように、実施形態4の変形例5に係るピストンリング構造140Eでは、パーティション部P1において最も上側に配置されるパーティションリング4の上側隔壁面43と最も下側に配置されるパーティションリング5の下側隔壁面54とに、符号S1で示す表面処理被膜が設けられている。表面処理被膜S1は、例えば、樹脂被膜、窒化処理被膜、Ni-Pめっき処理被膜、クロムめっき処理被膜、化
成処理被膜、酸化処理被膜、塗膜、PVD処理被膜、及びDLC被膜のうち少なくとも何れか1つの層を含む被膜であってもよい。例えば、表面処理被膜S1をDLC被膜が含まれるものとすることで、ピストンリングとパーティションリングとの凝着を抑制することができる。また、パーティションリングの材質をSUSとし、表面処理被膜S1を窒化処理被膜が含まれるものとすることで、ピストンリングやパーティションリングの摩耗を低減することができる。
【0121】
なお、本例では、パーティションリング4とパーティションリング5の両方に表面処理被膜S1が設けられているが、本発明はこれに限定されない。表面処理被膜は、パーティション部において最も燃焼室側に配置されるパーティションリングの上側隔壁面と最もクランク室側に配置されるパーティションリングの下側隔壁面とのうち少なくとも一方に設けられてもよい。
【0122】
[変形例6]
図18は、実施形態4の変形例6に係るピストンリング構造140Fを備える内燃機関400Fの部分断面図である。実施形態4の変形例6に係るピストンリング構造140Fでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの形状が異なっている。
【0123】
図18に示すように、ピストンリング構造140Fに係るパーティションリング4は、外周離間面41と内周嵌合面42と上側隔壁面43と下側隔壁面44に加え、上側突出部UP1を有する。これにより、パーティションリング4の断面形状は、略L字状となっている。上側突出部UP1は、ピストン20の径方向において上側隔壁面43よりも内側に設けられており、上側隔壁面43に対して燃焼室30側に突出している。上側突出部UP1は、トップリング1の内周面12側において第1リング溝201の上溝壁W1に当接することで、ピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング4(ひいてはパーティション部P1)の上側への移動が規制される。
【0124】
また、
図18に示すように、ピストンリング構造140Fに係るパーティションリング5は、外周離間面51と内周嵌合面52と上側隔壁面53と下側隔壁面54に加え、下側突出部LP2を有する。これにより、パーティションリング5の断面形状は、略L字状となっている。下側突出部LP2は、ピストン20の径方向において下側隔壁面54よりも内側に設けられており、下側隔壁面54に対してクランク室40側に突出している。下側突出部LP2は、セカンドリング2の内周面22側において第1リング溝201の下溝壁W2に当接することで、ピストン20の軸方向に支持される。これにより、パーティションリング5(ひいてはパーティション部P1)の下側への移動が規制される。
【0125】
[変形例7]
図19は、実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造140Gを備える内燃機関400Gの部分断面図である。実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造140Gでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの形状が異なっている
。
【0126】
図19に示すように、実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造140Gでは、パーティション部P1に含まれる2本のパーティションリング4,5のうち、下側に配置されるパーティションリング5の方が、上側に配置されるパーティションリング4よりも径方向における厚さが小さくなっている。つまり、パーティション部P1に含まれる2本のパーティションリング4,5のうち燃焼室側から2番目に配置されるパーティションリング5の方が、最も燃焼室側に配置されるパーティションリング4よりもピストンの径方向における厚さが小さい。これにより、パーティションリング5の外周離間面51の方が、パーティションリング4の外周離間面41よりもピストン20の径方向において内側に位置している。つまり、パーティションリング5の外径の方がパーティションリング4の外径よりも小さくなっている。そのため、パーティションリング4の外周離間面41とシリンダ10の内壁面10aとの離間距離d1よりもパーティションリング5の外周離間面51とシリンダ10の内壁面10aとの離間距離d2の方が大きくなっている。
【0127】
実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造140Gでは、パーティションリング5の径方向における厚さを小さくすることで、ランド容積を確保することができる。これにより、トップリング1の下面14とセカンドリング2の上面23とパーティションリング4,5の外周離間面41,51とシリンダ10の内壁面10aとによって囲まれた空間(セカンドランド空間)の圧力(ランド圧)を下げることができる。一方で、パーティションリング4の径方向における厚さを大きくしておくことで、パーティションリング4においてトップリング1の下面14と当接する上側隔壁面43の面積を大きく確保することができる。つまり、トップリング1の下面14と上側隔壁面43との接触面積を大きく確保することができる。これにより、トップリング1の姿勢を安定させることができる。また、トップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43との間のシール性(側面シール性)を確保することができる。
【0128】
このように、実施形態4の変形例7に係るピストンリング構造140Gでは、パーティション部P1を構成するパーティションリング4,5の厚さを異ならせることで、ランド容積の設計の自由度を高めることができる。
【0129】
[変形例8]
図20は、実施形態4の変形例8に係るピストンリング構造140Hを備える内燃機関400Hの部分断面図である。実施形態4の変形例8に係るピストンリング構造140Hでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの形状が異なっている。
【0130】
図20に示すように、実施形態4の変形例8に係るピストンリング構造140Hでは、パーティションリング4の外周下部とパーティションリング5の外周上部に、符号N1で示す切欠部が形成されている。より詳細には、パーティションリング4の切欠部N1は、外周離間面41と下側隔壁面44との間に形成されている。また、パーティションリング5の切欠部N1は、外周離間面51と上側隔壁面53との間に形成されている。切欠部N1は、パーティションリング4,5の外周部の一部が凹むことで形成されており、パーティションリング4,5の周長方向に延在している。
【0131】
実施形態4の変形例8に係るピストンリング構造140Hでは、パーティションリング4の外周下部とパーティションリング5の外周上部に切欠部N1を形成することで、ランド容積を確保することができる。これにより、セカンドランド空間のランド圧を下げることができる。その結果、実施形態4の変形例8によれば、変形例7と同様に、ランド容積の設計の自由度を高めることができる。
【0132】
なお、本例では、パーティションリング4の外周下部とパーティションリング5の外周上部の両方に切欠部N1が形成されているが、本発明において切欠部が形成される位置はこれに限定されない。例えば、パーティションリング4の外周下部とパーティションリング5の外周上部の一方のみに切欠部N1が形成されてもよい。また、パーティションリング4の外周上部とパーティションリング5の外周下部に切欠部N1が形成されてもよい。
【0133】
但し、
図20に示すように、切欠部が形成される位置は、パーティション部において最も上側に配置されるパーティションリングの外周上部及び最も下側に配置されるパーティションリングの外周下部を除くことが好ましい。つまり、隣接するパーティションリングが存在する外周下部や外周上部(即ち、ピストンリングに隣接しない外周下部や外周上部)に切欠部を形成することが好ましい。そうすることで、ピストンリングとパーティションリングとの接触面積を大きく確保することができる。
【0134】
[変形例9]
図21は、実施形態4の変形例9に係るピストンリング構造140Iを備える内燃機関400Iの部分断面図である。ピストンリング構造140Iに係るパーティション部P1は、3本のパーティションリング(パーティションリング4,5,70)を含んで構成されている。パーティションリング4とパーティションリング5とパーティションリング70は、ピストン20の軸方向において互いに重なるように第1リング溝201に装着されており、上側からパーティションリング4、パーティションリング70、パーティションリング5の順に配置されている。
【0135】
実施形態4の変形例9に係るピストンリング構造140Iでは、隣り合うパーティションリングの形状が互いに異なっている。つまり、パーティションリング4の形状とパーティションリング70の形状とが異なっており、パーティションリング70の形状とパーティションリング5の形状とが異なっている。
【0136】
ピストンリング構造140Iに係るパーティションリング70は、外周離間面701と内周嵌合面702と上側隔壁面703と下側隔壁面704とを有している。
図21に示すように、ピストンリング構造140Iでは、パーティション部P1に含まれる3本のパーティションリング4,5,70のうち燃焼室側から2番目に配置されるパーティションリング70の方が、最も燃焼室側に配置されるパーティションリング4や最もクランク室側に配置されるパーティションリング5よりもピストンの径方向における厚さが小さくなっている。これにより、パーティションリング70の外周離間面701の方が、パーティションリング4,5の外周離間面41,51よりもピストン20の径方向において内側に位置している。つまり、パーティションリング70の外径の方がパーティションリング4,5の外径よりも小さくなっている。
【0137】
実施形態4の変形例9に係るピストンリング構造140Iでは、パーティションリング70の径方向における厚さを小さくすることで、ランド容積を確保することができる。これにより、セカンドランド空間のランド圧を下げることができる。一方で、パーティションリング4,5の径方向における厚さを大きくしておくことで、上側隔壁面43や下側隔壁面54の面積を大きく確保することができる。つまり、トップリング1の下面14とパーティションリング4の上側隔壁面43との接触面積やセカンドリング2の上面23とパーティションリング5の下側隔壁面54との接触面積を大きく確保することができる。これにより、トップリング1やセカンドリング2の姿勢を安定させることができ、また、トップリング1やセカンドリング2の側面シール性を確保することができる。また、ピストンランドをカットしなくともランド容積を確保できるという利点もある。
【0138】
また、ピストンリング構造140Iでは、パーティション部P1に含まれるパーティションリングの本数を3本とすることで、2本の場合よりもパーティションリングの1本あたりの張力を下げることができる。そのため、パーティションリングの組付が容易となる。
【0139】
なお、ピストンリング構造140Iでは、パーティション部P1においてピストンリングと接触するパーティションリング、つまり、最も上側に配置されるパーティションリング4や最も下側に配置されるパーティションリング5を、耐焼き付き性や凝着防止性の高い仕様としてもよい。例えば、上述の変形例4や変形例5のように、パーティションリング4の上側隔壁面43やパーティションリング5の下側隔壁面54に空隙形成部V1や表面処理被膜S1を設けてもよい。
【0140】
[その他の変形例]
上述した実施形態4の種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。ピストンリング構造140~140Iに係るパーティション部P1は、2本のパーティションリング(パーティションリング4,5)を含んで構成されているが、これらの態様はパーティション部P1に含まれるパーティションリングの本数が3本以上の場合にも適用することができる。
【0141】
<実施形態5>
以下、
図22~
図26を参照して、実施形態5に係るピストンリング構造について説明する。
図22~
図26に示すように、実施形態5は、第2リング溝202に装着されたセカンドリング2(コンプレッションリング)とオイルリング3との間にパーティション部P1が配置される態様である。実施形態5では、第2リング溝202が本発明に係る「リング溝」に相当する。実施形態5では、パーティション部P1において、軸方向に隣り合うパーティションリング同士の性状を異ならせている。以下、実施形態5に係るピストンリング構造150~150Cについて、実施形態4に係るピストンリング構造140との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0142】
図22は、実施形態5に係るピストンリング構造150を備える内燃機関500の部分断面図である。
図22に示すように、ピストンリング構造150では、セカンドリング2とオイルリング3との間にパーティション部P1が配置されることで、第2リング溝202が仕切られている。ピストンリング構造150に係るパーティション部P1は、実施形態4と同様に、2本のパーティションリング(パーティションリング4,5)を含んで構成されている。
図22に示すように、ピストンリング構造150では、セカンドリング2が第2リング溝202の上溝壁W1とパーティションリング4の上側隔壁面43との間に装着され、オイルリング3が第2リング溝202の下溝壁W2とパーティションリング5の下側隔壁面54との間に装着されている。つまり、ピストンリング構造150では、セカンドリング2とオイルリング3との間に2つのパーティションリング4,5が重なるようにしてリング溝に装着されている。
【0143】
実施形態5に係るピストンリング構造150においても、実施形態1に係るピストンリング構造110と同様の効果を得ることができる。つまり、ピストンリング構造150によると、1つのリング溝に複数のピストンリング(本例ではセカンドリング2及びオイルリング3)を装着することができ、リング溝の数量を減らすことができる。これにより、ピストン20の軸方向長さを短くすることが容易となる。
【0144】
また、実施形態5に係るピストンリング構造150では、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの材質が異なっている。ピストンリング構造150に係る
パーティション部P1においては、例えば、パーティションリング4の材質の方がパーティションリング5の材質よりも熱伝導性が高くなっていてもよい。パーティションリング4は、実施形態4で説明したような熱伝導率の高い材質により形成されている。
【0145】
また、ピストンリング構造140に係るパーティション部P1においては、パーティションリング5の材質の方がパーティションリング4の材質よりも耐熱へたり性が高くなっていてもよい。パーティションリング5は、実施形態4で説明したような耐熱へたり性の高い材質により形成されている。
【0146】
このように、実施形態5に係るピストンリング構造150では、パーティション部P1において最も上側に配置されるパーティションリング4の材質を他のパーティションリング(つまり、パーティションリング5)の材質よりも熱伝導性が高いものとすることで、実施形態4と同様に、ピストン20の冷却効果を高めることができる。
【0147】
また、実施形態5に係るピストンリング構造150では、パーティション部P1において最も下側に配置されるパーティションリング5の材質を他のパーティションリング(つまり、パーティションリング4)の材質よりも耐熱へたり性が高いものとすることで、パーティション部P1の位置ずれを防止すると共に内周シール性を維持することができる。
【0148】
[実施形態5の変形例]
以下、実施形態5の変形例について説明する。以下の説明では、上述のピストンリング構造150との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0149】
[変形例1]
図23は、実施形態5の変形例1に係るピストンリング構造150Aを備える内燃機関500Aの部分断面図である。実施形態5の変形例1に係るピストンリング構造150Aでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの形状が異なっている。
【0150】
図23に示すように、実施形態5の変形例1に係るピストンリング構造150Aでは、パーティションリング4の外周上部に切欠部N1が形成されている。より詳細には、切欠部N1は、パーティションリング4の外周離間面41と上側隔壁面43との間に形成されている。また、実施形態5の変形例1に係るセカンドリング2は、外周下部が切り欠かれたアンダーカット形状となっている。
【0151】
実施形態5の変形例1に係るピストンリング構造150Aでは、パーティションリング4の外周上部に切欠部N1を形成することで、ランド容積を確保することができる。これにより、セカンドリング2の下面24とオイルリング3の上側セグメント31Uの上面313とパーティションリング4,5の外周離間面41,51とシリンダ10の内壁面10aとによって囲まれた空間(サードランド空間)のランド圧を下げることができる。更に、セカンドリング2をアンダーカット形状とすることで、ランド容積をより大きく確保することができる。その結果、実施形態5の変形例1によれば、ランド容積の設計の自由度を高めることができる。
【0152】
ここで、
図24は、切欠部N1の形状の一例を示す図である。切欠部N1は、
図24に示すような形状であってもよい。
【0153】
[変形例2]
図25は、実施形態5の変形例2に係るピストンリング構造150Bを備える内燃機関
500Bの部分断面図である。実施形態5の変形例2に係るピストンリング構造150Bでは、パーティションリング4とパーティションリング5は、互いの形状が異なっている。
【0154】
図25に示すように、実施形態5の変形例2に係るピストンリング構造150Bでは、パーティション部P1において最も下側(クランク室40側)に配置されたパーティションリング(つまり、パーティションリング5)の下側隔壁面54が、ピストン20の径方向の外側へ向かうに従ってクランク室40に接近するように傾斜している。つまり、オイルリング3の上側セグメント31Uに当接する下側隔壁面54が、径方向外側へ下方傾斜となっている。より具体的には、パーティションリング5の下側隔壁面54は、径方向外側へ下方傾斜となる傾斜面541と軸方向に直交する平坦面542とを含んでいる。平坦面542は、傾斜面541よりも径方向の外側に配置されている。そのため、
図25に示すように、パーティションリング5の下側隔壁面54の傾斜面541がオイルリング3の上側セグメント31Uの上面313に当接することで、上側セグメント31Uは、径方向外側へ下方傾斜となる姿勢に維持される。これにより、上側セグメント31Uの上面313とパーティションリング5の下側隔壁面54との間のシール性(側面シール性)を向上させることができる。また、上側セグメント31Uの姿勢が安定することで、上側セグメント31Uの外周面311の形状にダレが発生することが抑制されるため、上側セグメント31Uの外周面311とシリンダ10の内壁面10aとの間のシール性(外周シール性)も向上させることができる。変形例2のように、パーティション部において最もクランク室側に配置されるパーティションリングの下側隔壁面の少なくとも一部を径方向外側へ下方傾斜とすることで、上側セグメントを下方傾斜の姿勢に維持できる。
【0155】
[変形例3]
図26は、実施形態5の変形例3に係るピストンリング構造150Cを備える内燃機関500Cの部分断面図である。実施形態5の変形例3に係るピストンリング構造150Cは、パーティションリング80を備える点で変形例2と相違する。
【0156】
ピストンリング構造150Cに係るパーティションリング80は、外周離間面801と内周嵌合面802と上側隔壁面803と下側隔壁面804とを有している。
図26に示すように、ピストンリング構造150Cでは、パーティションリング80は、オイルリング3と第2リング溝202の下溝壁W2との間に配置されている。これにより、パーティションリング80の上側隔壁面803がオイルリング3の下側セグメント31Lの下面314と接触し、下側隔壁面804が下溝壁W2と接触している。ここで、実施形態5の変形例3に係るピストンリング構造150Cでは、パーティションリング80の上側隔壁面803が、ピストン20の径方向の外側へ向かうに従って燃焼室30に接近するように(つまり、クランク室40から離れるように)傾斜している。つまり、オイルリング3の下側セグメント31Lに当接する上側隔壁面803が、径方向外側へ上方傾斜となっている。そのため、
図26に示すように、パーティションリング80の上側隔壁面803がオイルリング3の下側セグメント31Lの下面314に当接することで、下側セグメント31Lは、径方向外側へ上方傾斜となる姿勢に維持される。これにより、下側セグメント31Lのシール性(側面シール性及び外周シール性)を向上させることができる。
【0157】
[その他の変形例]
上述した実施形態5の種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。ピストンリング構造150~150Cに係るパーティション部P1は、2本のパーティションリング(パーティションリング4,5)を含んで構成されているが、これらの態様はパーティション部P1に含まれるパーティションリングの本数が3本以上の場合にも適用することができる。
【0158】
<実施形態6>
図27は、実施形態6に係るピストンリング構造160を備える内燃機関600の部分断面図である。実施形態6に係るピストンリング構造160では、第1リング溝201にトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3が装着されている。また、ピストンリング構造160では、上側突出部UP1を有するパーティションリング4がトップリング1とセカンドリング2との間に配置され、上側突出部UP2を有するパーティションリング5がセカンドリング2とオイルリング3との間に配置されている。更に、ピストンリング構造160は、第1リング溝201の底溝壁W3に嵌合するスペーサリング90を備える。
図27に示すように、オイルリング3の内周側においてスペーサリング90の上面901がパーティションリング5の下側隔壁面54と当接し下面902が第1リング溝201の下溝壁W2と当接することで、パーティションリング5がピストン20の軸方向に支持される。
【0159】
<その他>
図28~
図42は、パーティションリングのバリエーションを示す断面図である。
図28~
図42では、パーティションリングの周長方向に直交する断面が図示されている。
図28に示すパーティションリング4aの外周離間面41は、上側隔壁面43から下側に向かうに従って拡幅するように傾斜したテーパ面と、下側隔壁面44から上側に向かうに従って拡幅するように傾斜したテーパ面とが接続されて形成されている。
図29に示すパーティションリング4bの外周離間面41は、下側に向かうに従って拡幅するように傾斜したテーパ面により形成されている。
図30に示すパーティションリング4cの外周離間面41は、上側隔壁面43から下側に向かうに従って縮幅するように傾斜したテーパ面と、下側隔壁面44から上側に向かうに従って縮幅するように傾斜したテーパ面とが接続されて形成されている。
図31に示すパーティションリング4dの内周嵌合面42は、凹むように湾曲して形成されている。
図32に示すパーティションリング4eの内周嵌合面42は、上側隔壁面43から下側に向かうに従って拡幅するように傾斜したテーパ面と、下側隔壁面44から上側に向かうに従って拡幅するように傾斜したテーパ面とが接続されて形成されている。
図33に示すパーティションリング4fの上側隔壁面43は、上側に膨らむように湾曲して形成されている。また、パーティションリング4fの下側隔壁面44は、下側に膨らむように湾曲して形成されている。
図34に示すパーティションリング4gの下側隔壁面44には、パーティションリング4gの周長方向に沿って延びる溝45が形成されている。
図35に示すパーティションリング4hでは、上側隔壁面43に溝45が形成されている。
図36に示すパーティションリング4iでは、外周離間面41に溝45が形成されている。
図37に示すパーティションリング4jでは、内周嵌合面42に溝45が形成されている。また、パーティションリング4jには、溝45に連通する孔46がパーティションリング4jの外周側から内周側へ径方向に貫通している。
図38に示すパーティションリング4kでは、外周離間面41と内周嵌合面42の両方に溝45が形成されている。また、パーティションリング4kには、孔46が外周側の溝45から内周側の溝45へ径方向に貫通している。
図39に示すパーティションリング4lの上側隔壁面43は、径方向外側に向かうに従って下がるように傾斜している。
図40に示すパーティションリング4mの下側隔壁面44は、径方向外側に向かうに従って上がるように傾斜している。パーティションリング4lやパーティションリング4mは、キーストン形状のコンプレッションリングと組み合わせることができる。なお、上側隔壁面43が径方向外側に向かうに従って上がるように傾斜してもよいし、下側隔壁面44が径方向外側に向かうに従って下がるように傾斜してもよい。また、上側隔壁面43と下側隔壁面44の何れもが傾斜してもよい。
図41に示すパーティションリング4nの外周側の下角部には、面取り47が形成されている。面取り47は、外周側の上角部に形成されてもよい。また、面取り47は、内周側の上角部や下角部に形成されてもよい。
図42に示すパーティションリング4oの外周側の下角部には、面取りステップ48が形成されている。面取りステップ48は、外周側の上角部に形成されてもよい。また、面取りステップ48は、内周側の上
角部や下角部に形成されてもよい。
【0160】
図43は、パーティションリングの合口形状のバリエーションを示す図である。
図43では、使用状態におけるパーティションリング4pを軸方向に沿って視認した状態を図示している。
図43に示すように、パーティションリング4pの合口G1は、所謂カギステップ形状となっている。パーティションリング4pの一対の合口端部410,420は、パーティションリングの径方向に重なった状態で互いが係止されるように、夫々が鍵状に形成されている。より具体的には、第1合口端部410は、周長方向において第2合口端部420に向かって突出した第1凸部430を有し、第2合口端部420は、周長方向において第1合口端部410に向かって突出した第2凸部440を有し、使用状態では、径方向において第1凸部430と第2凸部440とが重なっている。
図43の例では、径方向において第1凸部430が第2凸部440よりも外側に配置されているが、これらは逆に配置されてもよい。更に、第1凸部430の先端側には径方向内側に突出する第1突起430aが設けられ、第2凸部440の先端側には径方向外側に突出する第2突起440aが設けられている。第1突起430aと第2突起440aとが係合することで、一対の合口端部410,420が互いに係止される。このように合口G1をカギステップ形状とすることで、パーティションリング4pのピストン20への装着が容易となり、また、合口G1を通り抜けるブローバイガスを低減することができる。更に、パーティションリング4pとリング溝の壁面との密着性を向上できる。
【0161】
図44~45は、回り止め手段を備えるピストンリング構造を説明するための図である。
図44は、使用状態におけるパーティションリング4qを径方向の外側から視認した状態を図示している。
図44の符号204は、ピストン20が有する突起体を示す。突起体204は、一例として略円柱状のピンであり、リング溝に突設されている。
図44に示すように、一対の合口端部410,420の先端の上部が切り欠かれることで、パーティションリング4qの合口G1は、その上部に突起体204を受け入れ可能(嵌合可能)な受入部49を含んでいる。突起体204と受入部49とによって回り止め手段が構成されている。使用状態において、突起体204が受入部49に受け入れられることで、パーティションリング4qがピストン20に対して周長方向へ相対的に回転することが突起体204によって規制される。これにより、パーティションリング4qの単独回転を防止できる。
図45は、使用状態におけるパーティションリング4rを軸方向に沿って視認した状態を図示している。
図45に示すように、一対の合口端部410,420の先端の内周部が切り欠かれることで、パーティションリング4rの合口G1は、その内周側に突起体204を受け入れ可能な受入部49を含んでいる。これにより、パーティションリング4rの単独回転を防止できる。
【0162】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。例えば、実施形態4と実施形態5とを組み合わせてもよい。具体的には、第1リング溝201にトップリング1、セカンドリング2、及びオイルリング3を装着し、パーティション部P1をトップリング1とセカンドリング2との間に配置し、これとは別のパーティション部P1をセカンドリング2とオイルリング3との間にも配置してもよい。つまり、本発明は、複数のパーティション部を備えてもよい。また、例えば、実施形態4では、トップリング1とセカンドリング2との間にパーティション部P1を配置した態様について説明したが、
図11~
図21で示した実施形態4のパーティション部P1をセカンドリング2とオイルリング3との間に配置してもよい。また、上述の実施形態は、本発明に係る技術を往復動機関の一例である内燃機関に適用したものであるが、本発明に係る技術は、内燃機関に限らず、シリンダ内をピストンが往復動する機構であれば適用することができる。本発明に係る技術の適用対象としては、例えば、内燃機関に例示される往復動機関やコンプレッサーに例示される空圧機器等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0163】
100,200,300,400,500,600:内燃機関
110,120,130,140,150,160:ピストンとピストンリングの組み合わせ構造
10 :シリンダ
20 :ピストン
201,202 :リング溝
30 :燃焼室
40 :クランク室
1 :トップリング
2 :セカンドリング
3 :オイルリング
4,4A,4B,4C,4D,4E,4F,5,6,7 :パーティションリング