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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155528
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】はんだ合金
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20221005BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20221005BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20221005BHJP
   C22C 30/04 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/02
B23K35/22 310A
C22C30/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046663
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021058897
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
(72)【発明者】
【氏名】坂本 伊佐雄
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 利昭
(72)【発明者】
【氏名】大久保 功一
(57)【要約】
【課題】 高い温度環境下においても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制し得るはんだ合金の提供。
【解決手段】 Agを0.1質量%以上3質量%以下と、Cuを8質量%以上15質量%以下と、Sbを30質量%以上40質量%以下含み、残部がSnからなるはんだ合金。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを0.1質量%以上3質量%以下と、Cuを8質量%以上15質量%以下と、Sbを30質量%以上40質量%以下含み、残部がSnからなるはんだ合金。
【請求項2】
Ag、Cu及びSbの含有量(質量%)は、下記式(A)を満たす、請求項1に記載のはんだ合金。
57.00≦Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46≦82.00 …(A)
上記式(A)において、Ag、Cu及びSbは、それぞれAg、Cu及びSbの含有量(質量%)を表す。
【請求項3】
更にNiを0.01質量%以上0.5質量%以下含む請求項1または請求項2に記載のはんだ合金。
【請求項4】
更にCoを0.01質量%以上0.5質量%以下含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のはんだ合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ合金からなる粉末と、
樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスとを含む、ソルダペースト。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ合金を含むソルダプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成される電子回路に電子部品や半導体デバイス(半導体素子を使用する電子部品)を接合する接合材料としては、主としてはんだ合金が用いられている。
【0003】
ここで、電子部品や半導体デバイスに要求される特性は年々高まっており、これに伴って高い電圧及び大きな電流を扱うことのできるパワー半導体デバイス(パワー半導体素子を実装した半導体デバイスを指す。以下、「パワーデバイス」という。)を使用した電子製品も増えている。
【0004】
上述の通り、パワーデバイスは高い電圧及び大きな電流を扱うことができ、また高い動作温度にも耐え得る。そのため、パワーデバイスと基板(例えば、放熱基板、Cu基板等)とのはんだ接合にあたっては、形成されるはんだ接合部がその動作温度下で再溶融し難いことが求められる。
【0005】
またパワーデバイス内でも、パワー半導体素子(例えば、Si素子、SiC素子、GaN素子等)が、基板(例えば、Cu基板、両面にCu層を有するDBC(Direct Bonded Copper)基板、両面にAl層を有するDBA(Direct Bonded Aluminum)基板等)に実装(ダイボンディング)されている。そのため、パワーデバイス内にあるはんだ接合部も、その動作温度下で再溶融し難いことが求められる。
また当然ながら、このパワーデバイス内のはんだ接合部は、パワーデバイスと電子回路実装基板とをはんだ接合するに際しても再溶融し難いことが求められる。
【0006】
このような、パワーデバイスの動作温度下でのはんだ接合部の再溶融の抑制、パワーデバイスの基板実装時におけるパワーデバイス内のはんだ接合部の再溶融を抑制するはんだ合金として、例えば、Sbが10~40質量%、Cuが0.5~10質量%、残部Snからなることを特徴とする高温鉛フリーはんだ合金(特許文献1参照)、質量%で、Sb:35~40%、Ag:8~25%、Cu:5~10%、ならびにAl:0.003~1.0%、Fe:0.01~0.2%、およびTi:0.005~0.4からなる群から選択される少なくとも一種、および残部Snから成る合金組成を有する高温鉛フリーはんだ合金(特許文献2参照)、質量%で、Sb:9.0~33.0%、Ag:4.0%超え11.0%未満、Cu:2.0%超え6.0%未満、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金(特許文献3参照)が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-298931号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2014/024715号パンフレット
【特許文献3】国際公開番号WO2020/122253号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するパワーデバイスの動作温度下のように、比較的高い温度環境下におけるはんだ接合部の再溶融の抑制は、今後もはんだ合金に求められる課題の1つである。
【0009】
本発明の目的は上記の課題を解決するものであり、高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制し得るはんだ合金を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のはんだ合金は、Agを0.1質量%以上3質量%以下と、Cuを8質量%以上15質量%以下と、Sbを30質量%以上40質量%以下含み、残部がSnからなる。
【0011】
本発明のはんだ合金において、Ag、Cu及びSbの含有量(質量%)は、下記式(A)を満たすことが、好ましい。
57.00≦Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46≦82.00 …(A)
上記式(A)において、Ag、Cu及びSbは、それぞれAg、Cu及びSbの含有量(質量%)を表す。
【0012】
本発明のはんだ合金は、更にNiを0.01質量%以上0.5質量%以下含むことができる。
【0013】
本発明のはんだ合金は、更にCoを0.01質量%以上0.5質量%以下含むことができる。
【0014】
本発明のはんだ合金は、以下の(1)から(5)の条件に従い計測するボイド面積α及びボイド面積βが、下記式(B)を満たすことが好ましい。
100-(ボイド面積β/ボイド面積α×100)<5% … (B)
(1)はんだ合金からなる粉末と、樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスとを含むソルダペーストを塗布した銅板上にSiチップを載置し、当該銅板を窒素雰囲気下でリフロー(ピーク温度:360℃)して、前記銅板と、前記Siチップと、これらを接合するはんだ接合部とを有するはんだ接合体を作製し、
(2)前記はんだ接合体を封止材を用いて封止し、これを100℃で60分間加熱後、更に150℃で60分間加熱して試験片を作製し、
(3)前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測して、この値をボイド面積αとし、
(4)前記試験片を130℃85%RHの条件下で24時間放置した後、これを以下のリフロー条件で3回連続リフローし、
温度プロファイル:150℃から180℃で80秒、220℃以上で40秒から50秒、230℃以上で35秒から45秒、ピーク温度262℃、ピーク時間5秒から10秒
加熱雰囲気:大気
(5)リフロー後の前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)から前記X線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測して、この値をボイド面積βとする。
【0015】
本発明のはんだ合金は、以下の(1)’から(5)’の条件に従い計測するボイド面積α’及びボイド面積β’が、下記式(B)’を満たすことが好ましい。
100-(ボイド面積β’/ボイド面積α’×100)<5% … (B)’
(1)’はんだ合金からなるソルダプリフォームの表面に樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスを塗布し、これを銅板上に載置し、前記ソルダプリフォームの表面にSiチップを載置し、当該銅板を窒素雰囲気下でリフロー(ピーク温度:360℃)して、前記銅板と、前記Siチップと、これらを接合するはんだ接合部とを有するはんだ接合体を作製し、
(2)’前記はんだ接合体を封止材を用いて封止し、これを100℃で60分間加熱後、更に150℃で60分間加熱して試験片を作製し、
(3)’前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測して、この値をボイド面積α’とし、
(4)’前記試験片を130℃85%RHの条件下で24時間放置した後、これを以下のリフロー条件で3回連続リフローし、
温度プロファイル:150℃から180℃で80秒、220℃以上で40秒から50秒、230℃以上で35秒から45秒、ピーク温度262℃、ピーク時間5秒から10秒
加熱雰囲気:大気
(5)’リフロー後の前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)から前記X線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測して、この値をボイド面積β’とする。
【0016】
本発明のソルダペーストは、上記はんだ合金からなる粉末と、樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスとを含む。
【0017】
本発明のソルダプリフォームは、上記はんだ合金を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明のはんだ合金は、比較的高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例及び比較例に係る「はんだ接合体」を作製する際のリフロー温度条件を表す温度プロファイル。
図2】実施例及び比較例に関し、(2)接合強度確認試験において、各はんだ接合体を超音波顕微鏡を用いて撮影した画像の一例であり、Siチップ側から撮影した接合界面画像(画像A)を表す。
図3】実施例及び比較例に関し、エポキシ封止材にて封止された「はんだ接合体」を表す概略斜視図。
図4】実施例及び比較例に関し、(3)吸湿後リフロー試験に使用する「吸湿加熱後試験片」を作製する際のリフロー温度条件を表す温度プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のはんだ合金の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明が当該実施形態に限定されないのはもとよりである。
【0021】
1.はんだ合金
本実施形態のはんだ合金は、Agを0.1質量%以上3質量%以下と、Cuを8質量%以上15質量%以下と、Sbを30質量%以上40質量%以下含み、残部がSnからなる。
【0022】
本実施形態のはんだ合金に含まれるAgの含有量は0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
Agは、形成されるはんだ接合部にAgSn金属間化合物を析出させることにより、はんだ接合部の残留応力を低減させることができる。そしてこれにより、その機械的強度を保つことができる。
また、はんだ接合部内でのAgSn金属間化合物の析出により、はんだ接合部内に占めるSn相(低融点相)の割合が減少することから、高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0023】
そして本実施形態のはんだ合金は、Agの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の機械的強度を向上させることができ、また高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。更に、このようなはんだ合金は、はんだ接合部と被接合材との接合強度を向上させることができる。
【0024】
Agのより好ましい含有量は、1質量%以上3質量%以下であり、更に好ましい含有量は、2質量%以上3質量%以下である。
Agの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の機械的強度を更に向上させることができ、高い温度環境下におけるはんだ接合部の再溶融を更に抑制することができ、はんだ接合部と被接合材との接合強度を更に向上させることができる。
【0025】
本実施形態のはんだ合金に含まれるCuの含有量は、8質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
Cuは、形成されるはんだ接合部にCuSn金属間化合物等を析出させることにより、はんだ接合部の強度を向上させることができる。
また、はんだ接合部内でのCuSn金属間化合物等の析出により、はんだ接合部内に占めるSn相(低融点相)の割合が減少することから、高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0026】
そして本実施形態のはんだ合金は、Cuの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を向上させ、また高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
一方で、このようなはんだ合金は、はんだ接合を行う際の加熱時には十分に溶融し得る。そのため、はんだ接合部と被接合材との接合強度を阻害することなく、高い温度環境下でのはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0027】
Cuのより好ましい含有量は、8質量%以上12質量%以下であり、更に好ましい含有量は、8質量%以上10質量%以下である。
Cuの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を更に向上させ、また、はんだ接合部と被接合材との接合強度を阻害することなく、高い温度環境下におけるはんだ接合部の再溶融を更に抑制することができる。
【0028】
本実施形態のはんだ合金に含まれるSbの含有量は、30質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
Sbは、形成されるはんだ接合部にSbSn金属間化合物等を析出させることにより、はんだ接合部の強度を向上させることができる。
また、はんだ接合部内でのSbSn金属間化合物等の析出により、はんだ接合部内に占めるSn相(低融点相)の割合が減少することから、高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0029】
そして本実施形態のはんだ合金は、Sbの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を向上させ、また高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0030】
Sbのより好ましい含有量は、32質量%以上38質量%以下であり、更に好ましい含有量は、33質量%以上35質量%以下である。
Sbの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を更に向上させ、また高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を更に抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態のはんだ合金に含まれる、Ag、Cu及びSbの含有量(質量%)は、下記式(A)を満たすことが、好ましい。
57.00≦Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46≦82.00 …(A)
上記式(A)において、Ag、Cu及びSbは、それぞれAg、Cu及びSbの含有量(質量%)を表す。
【0032】
上記式(A)は、はんだ接合部内に含まれる(析出する)金属間化合物のうち、AgSn、CuSn及びSbSnの析出に使用される(これらの金属間化合物に含まれる)Snの含有量を算出するものである。
即ち、それぞれの金属間化合物の単位格子に含まれる、各合金元素の原子数と、その原子量とから、Sn以外の各合金元素と、Snとの質量比を、以下のように算出する。
Sn以外の合金元素の原子数×原子量:Snの原子数×原子量
そして、この質量比から、各金属間化合物が析出する際に使用されるSn量(質量%)を仮定する。
【0033】
まず、AgSnについて、Ag及びSnの質量比は、以下の通りとなる。
(Ag:3×107.8682):(Sn:1×118.71)=323.6046:118.71
従って、AgSnが析出する際の、Ag1質量%当たりのSn使用量(質量%)は、118.71/323.6046=0.37(小数点第三位四捨五入)、即ち、Ag×0.37と仮定できる。
【0034】
次に、CuSnについて、Cu及びSnの質量比は、以下の通りとなる。
(Cu:6×63.546):(Sn:5×118.71)=381.276:593.55
従って、CuSnが析出する際の、Cu1質量%当たりのSn使用量(質量%)は、593.55/381.276=1.56(小数点第三位四捨五入)、即ち、Cu×1.56と仮定できる。
【0035】
そして、SbSnについて、Sb及びSnの質量比は、以下の通りとなる。
(Sb:2×121.76):(Sn:3×118.71)=243.52:356.13
従って、SbSnが析出する際の、Sb1質量%当たりのSn使用量(質量%)は、356.13/243.52=1.46(小数点第三位四捨五入)、即ち、Sb×1.46と仮定できる。
【0036】
そして、これらの金属間化合物の析出に使用されるSn量が、上記式(A)の範囲内にある場合、はんだ接合部内に含まれるSn相(低融点相)の割合を減少させることができるため、高い温度環境下であっても、形成されるはんだ接合部の再溶融を更に抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態のはんだ合金に含まれる、Ag、Cu及びSbの含有量(質量%)は、下記式(A)’を満たすことがより好ましく、下記式(A)’’を満たすことが更に好ましい。
58.00≦Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46≦68.00 …(A)’
60.00≦Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46≦65.00 …(A)’’
上記式(A)’及び(A)’’において、Ag、Cu及びSbは、それぞれAg、Cu及びSbの含有量(質量%)を表す。
【0038】
本実施形態のはんだ合金には、更にNiを含有させることができる。
Niは、形成されるはんだ接合部内に、微細な構造の(Cu,Ni)Sn金属間化合物を析出させることにより、はんだ接合部の強度を向上させることができる。
【0039】
本実施形態のはんだ合金に含まれるNiの含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。Niの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度をより向上させることができ、また、はんだ接合部と被接合材との接合強度を向上させることができる。
【0040】
Niのより好ましい含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下であり、更に好ましい含有量は、0.1質量%以上0.5質量%以下である。
Niの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を更に向上させることができ、また、はんだ接合部と被接合材との接合強度を更に向上させることができる。
【0041】
本実施形態のはんだ合金には、更にCoを含有させることができる。
Coは、形成されるはんだ接合部内に、微細な構造の(Cu,Co)Sn金属間化合物を析出させることにより、はんだ接合部の強度を向上させることができる。
【0042】
本実施形態のはんだ合金に含まれるCoの含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。Coの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度をより向上させることができ、また、はんだ接合部と被接合材との接合強度を向上させることができる。
【0043】
Coのより好ましい含有量は、0.01質量%以上0.3質量%以下であり、更に好ましい含有量は、0.01質量%以上0.1質量%以下である。
Coの含有量をこの範囲とすることにより、はんだ合金の強度を更に向上させることができ、また、はんだ接合部と被接合材との接合強度を更に向上させることができる。
【0044】
また本実施形態のはんだ合金には、当然ながら不可避不純物も含まれるものである。
【0045】
また本実施形態のはんだ合金は、その残部がSnからなることが好ましい。
【0046】
そして本実施形態のはんだ合金は、このような構成を有することにより、高い温度環境下、例えば、パワーデバイスの動作環境下のような、250℃以上の温度環境下においても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
【0047】
即ち、パワーデバイスは、その動作温度が、例えば、250℃以上の高温に達する場合がある。そして、この動作温度下で、パワーデバイスと基板とをはんだ接合するはんだ接合部の全て若しくはその大半が再溶融してしまうと、即ち、上記動作温度下において、はんだ接合部における液相の占める割合が多くなってしまうと、パワーデバイスと基板との接合強度が低下し、またこれが組み込まれている電子製品の信頼性も低下してしまう虞がある。
【0048】
またパワーデバイス内には、基板上に実装されたパワー半導体素子が備えられており、この基板とパワー半導体素子とは、はんだ接合部を介して接合されている。そして、上述したパワーデバイスの動作温度下で、このはんだ接合部の全て若しくはその大半が再溶融してしまうと、パワーデバイス自体の信頼性が低下するだけではなく、このようなパワーデバイスが組み込まれている電子製品の信頼性の低下にも繋がり得る。
【0049】
またパワーデバイスと電子回路実装基板とのはんだ接合にあたっては、はんだ接合時の加熱により、パワーデバイスに、例えば、250℃以上の熱が加わることになる。そのため、この加熱によってパワーデバイス内のはんだ接合部の全て若しくはその大半が再溶融してしまうと、パワーデバイスの信頼性が低下するだけではなく、これが組み込まれている電子製品の信頼性の低下にも繋がり得る。
【0050】
従って、特に、パワーデバイスのはんだ接合や、パワーデバイス内の基板とパワー半導体素子とのはんだ接合にも用いられるはんだ合金においては、このような高温の温度環境下におけるはんだ接合部の再溶融を抑制し得ることが求められる。
【0051】
そして本実施形態のはんだ合金は、上述の通り、例えば250℃以上といった高い温度環境下においても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる(即ち、はんだ接合部における液相の占める割合が少ない)ことから、パワーデバイスのはんだ接合や、パワーデバイス内の基板と半導体素子とのはんだ接合にも好適に用いることができる。
【0052】
また、本実施形態のはんだ合金は、はんだ接合部の強度を向上させることができる。これにより、はんだ接合部が、各被接合材(例えば、半導体素子と基板)の線膨張係数の違いにより生じる応力を吸収し得るため、各被接合材に生じる亀裂を抑制することができる。
また、本実施形態のはんだ合金は、はんだ接合を行う際のはんだ合金の溶融を阻害することなく、形成されるはんだ接合部の高温の温度環境下での再溶融を抑制できるため、はんだ接合部と被接合材との接合強度を向上させることができる。
【0053】
なお、本実施形態のはんだ合金は、パワーデバイス以外の半導体デバイスと基板とのはんだ接合、半導体デバイス以外の電子部品と基板とのはんだ接合、及びパワー半導体素子以外の半導体素子の基板への実装にも用いることができる。
【0054】
また、パワーデバイスのようなパッケージ部品は、例えば、はんだ接合された基板と半導体素子を含む内部部品が封止樹脂にて封止されている。そしてこの封止樹脂は、その種類によってはパッケージ部品の周辺空気中の水分を吸湿し易く、内部に水分を溜めこんでいく虞がある。また吸湿性の低い封止樹脂を用いた場合であっても、パッケージ部品の保存環境下によっては、周辺空気中の水分を吸湿してしまう虞もある。
そして封止樹脂が水分を吸湿した状態のパッケージ部品を基板上に実装すると、はんだ接合時の加熱(リフロー時の加熱)により、封止樹脂内部の水分が気化し、封止樹脂の体積が膨張してしまう虞がある。またこの体積膨張を起因として、パッケージ部品が破損してしまう虞がある。
【0055】
このような現象を防ぐことを目的として、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council、米国共同電子機器技術委員会)がMoisture Sensitivity Level(MSL)という規格を設けている。
MSLでは、防湿包装されたパッケージ部品について、その包装開封後に30℃以下60%RHの大気中に放置した場合の水分吸湿寿命をフロワーライフ(室内放置寿命)と定義している。そして、このフロワーライフに基づき1から6までのレベルを設定し、上記破損のリスクを表している。
各パッケージ部品には、所定の試験結果に基づいて、該当するMSLレベルが認証される。そしてMSLでは、パッケージ部品の包装開封時から、MSLレベルに応じて定められたフロワーライフが経過した場合には、パッケージ部品をベーキング処理等することが求められている。
例えば、MSLレベル2のフロワーライフは1年間であるため、包装開封から1年経過したパッケージ部品(MSLレベル2)には、ベーキング処理等を行う必要がある。
【0056】
また、例えば、MSLのレベル1の認証を受けるためには、125℃で24時間乾燥後、85℃85%RHで168時間吸湿させた後に、260℃ピークのリフローで2回加熱を行った場合であっても、パッケージ部品に上記破損が生じていないことが求められる。
【0057】
このように、パッケージ部品の封止樹脂の吸湿に関しては厳しい保管条件が求められる一方、ベーキングによっても完全に封止樹脂に含まれる水分を排出できない虞もある。
【0058】
また、上述の破損にまでは至らないものの、はんだ接合時の加熱による内部水分の気化によって体積が膨張した封止樹脂には、はんだ接合された基板と半導体素子とを含む内部部品から剥がれようとする力、即ち、パッケージ部品外部に向かう力が生じ得る。そして、この力は、封止樹脂とパッケージ部品内部の基板やリードフレームとの間に隙間を発生させる。
更に、この際、はんだ接合時の加熱により、パッケージ部品内部の基板と半導体素子とを接合するはんだ接合部の全部もしくはその大半が再溶融してしまうと、はんだ接合部由来の再溶融はんだが上記隙間に流出して、ショートを引き起こす虞がある。
【0059】
また、はんだ接合部由来の再溶融はんだが上記隙間に流出すると、はんだ接合部内にボイドが発生し易くなる。そのため、このような現象は、はんだ接合部自体の信頼性も低下させてしまう。
【0060】
一方、本実施形態のはんだ合金は、上述の通り、例えば、250℃以上といった高い温度環境下においても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制することができる。
そのため、本実施形態のはんだ合金は、例えば、水分を吸湿した封止樹脂を含むパッケージ部品をはんだ接合した場合であっても、上記隙間へのはんだ接合部由来の再溶融はんだの流出を抑制することができるため、パッケージ部品の信頼性を損なうことなく、はんだ接合を行うことができる。
【0061】
また、本実施形態のはんだ合金は、以下の(1)から(5)の条件及び手順にて試験を行った場合の、ボイド面積の初期値と吸湿加熱後の値との変動率(100-(吸湿加熱後の値/初期値×100))が5%未満であることが好ましい。
即ち、本実施形態のはんだ合金は、以下の(1)から(5)の条件に従い計測するボイド面積α及びボイド面積βが、下記式(B)を満たすことが、好ましい。
100-(ボイド面積β/ボイド面積α×100)<5% … (B)
(1)はんだ合金からなる粉末と、樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスとを含むソルダペーストを塗布した銅板上にSiチップを載置し、当該銅板を窒素雰囲気下でリフロー(ピーク温度:360℃)して、前記銅板と、前記Siチップと、これらを接合するはんだ接合部とを有するはんだ接合体を作製する。
(2)前記はんだ接合体を封止材を用いて封止し、これを100℃で60分間加熱後、更に150℃で60分間加熱して試験片を作製する。
(3)前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測する。そして、この値(初期値)をボイド面積αとする。
(4)前記試験片を130℃85%RHの条件下で24時間放置した後、これを以下のリフロー条件で3回連続リフローする。
温度プロファイル:150℃から180℃で80秒、220℃以上で40秒から50秒、230℃以上で35秒から45秒、ピーク温度262℃、ピーク時間5秒から10秒
加熱雰囲気:大気
(5)リフロー後の前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)から前記X線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測し、この値(吸湿加熱後の値)をボイド面積βとする。
【0062】
上記計測の詳細な条件は、以下の通りである。
<用具>
銅板のサイズ:20mm×20mm×0.5mmt
Siチップのサイズ:5mm×5mm×0.3mmt(裏面電極に、Siチップ側から順に、Ti成膜及びNi成膜を有する。Ti成膜の厚み:0.1μm、Ni成膜の厚み:0.5μm)
ソルダペースト:本実施形態のはんだ合金からなる粉末と、樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスとを含む。なお、後述するソルダペーストを用いることができる。
封止材:エポキシ樹脂(製品名:T693/R1001、ナガセケムテックス(株)製)
【0063】
(1)について
銅板上に塗布するソルダペーストの塗布範囲(サイズ):3.5mm×3.5mm×0.2mmt
Siチップを載置した銅板をリフローする際の条件は、以下の通りである。
マウント荷重条件を30gとし、リフロー装置(製品名:SMT Scope SK-5000、山陽精工(株)製)を用いて、図1に示す温度プロファイル条件(ピーク温度:360℃)に基づき、リフローを行う。
なお、リフローにおいては、酸素濃度500ppmのN2雰囲気下及び大気圧下で加熱を開始し、リフロー温度が360℃に到達した時点で真空引きを行い、リフロー装置内の圧力を100Paまで減圧する。また、ピーク温度が360℃に達した時点からリフロー装置内の圧力が100Paとなるまでの時間を30秒に設定する。
そして、加熱を停止し、リフロー装置内の温度が340℃になった時点で減圧を解除してリフロー装置内の圧力を大気圧まで戻し、大気雰囲気下にて冷却を行う。温度プロファイルに伴うリフロー装置内の圧力の変化(点線で表示)を併せて図1に示す。
【0064】
(2)について
はんだ接合体を封止材に浸漬し、これを真空引きすることにより、封止材を用いてはんだ接合体を封止する。これにより、はんだ接合体を封止材に密着させる。この封止状態を図3に示す。
そして、送風定温恒温器(製品名:DKN402、ヤマト科学(株)製)を用いて、封止したはんだ接合体を加熱する。
【0065】
(4)について
高加速寿命試験装置(製品名:PC-422R8D、(株)平山製作所製)を用い、130℃85%RHの条件下で試験片を24時間放置する。その後、リフロー炉(製品名:TNV30-508EM2-X、(株)タムラ製作所製)を用いて、リフローを行う。
【0066】
また、本実施形態のはんだ合金は、以下の(1)’から(5)’の条件及び手順にて試験を行った場合の、ボイド面積の初期値と吸湿加熱後の値との変動率(100-(吸湿加熱後の値/初期値×100))が5%未満であることが好ましい。
即ち、本実施形態のはんだ合金は、以下の(1)’から(5)’の条件に従い計測するボイド面積α’及びボイド面積β’が、下記式(B)’を満たすことが、好ましい。
100-(ボイド面積β’/ボイド面積α’×100)<5% … (B)’
(1)’ はんだ合金からなるソルダプリフォームの表面に樹脂、活性剤及び溶剤を含むフラックスを塗布し、これを銅板上に載置し、前記ソルダプリフォームの表面にSiチップを載置し、当該銅板を窒素雰囲気下でリフロー(ピーク温度:360℃)して、前記銅板と、前記Siチップと、これらを接合するはんだ接合部とを有するはんだ接合体を作製する。
(2)’前記はんだ接合体を封止材を用いて封止し、これを100℃で60分間加熱後、更に150℃で60分間加熱して試験片を作製する。
(3)’前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測してこの値(初期値)をボイド面積α’とする。
(4)’前記試験片を130℃85%RHの条件下で24時間放置した後、これを以下のリフロー条件で3回連続リフローする。
温度プロファイル:150℃から180℃で80秒、220℃以上で40秒から50秒、230℃以上で35秒から45秒、ピーク温度262℃、ピーク時間5秒から10秒
加熱雰囲気:大気
(5)’リフロー後の前記試験片の前記はんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)から前記X線検査装置で観察し、前記はんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測してこの値(吸湿加熱後の値)をボイド面積β’とする。
【0067】
上記計測の詳細な条件は、以下の通りである。
<用具>
ソルダプリフォーム以外は、上記ボイド面積α及びボイド面積βの計測に用いる用具と同じ用具を使用する。
ソルダプリフォームのサイズ:3.5mm×3.5mm×0.1mmt
なお、後述するソルダプリフォームを用いることができる。
【0068】
(1)’について
ソルダプリフォームをフラックスに浸漬し、その後、(ソルダプリフォームの表面に塗布された)フラックスを乾燥させて溶剤分を揮発させることにより、ソルダプリフォームの表面にフラックスを塗布する。
なお、Siチップを載置した銅板をリフローする際の条件は、上記(1)における条件と同じである。
【0069】
(2)’から(4)’について
上記(1)から(4)における条件と同じである。
【0070】
上記式(B)及び(B)’を満たすはんだ合金は、はんだ接合時において封止樹脂とパッケージ部品内部の基板やリードフレームとの間に隙間が生じた場合であっても、この隙間にはんだ接合部由来の再溶融はんだが流出することをより抑制できる。また、これにより、この流出を起因とするはんだ接合部内のボイドの発生を抑制し得るため、信頼性のより高いはんだ接合部及びパッケージ部品を提供することができる。
【0071】
2.ソルダペースト
本実施形態のソルダペーストは、例えば本実施形態のはんだ合金からなる粉末と、フラックスとを含む。
前記フラックスは、例えば樹脂、活性剤及び溶剤を含む。
本実施形態のソルダペーストは、例えば、上記はんだ合金からなる粉末と、フラックスとを、公知の方法により混練することにより作製される。両者の混合比率は、特に限定されない。例えば、この混合比率を、はんだ合金からなる粉末:フラックス=65:35から95:5とすることもできる。
【0072】
前記樹脂としては、例えばロジン系樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
【0073】
前記ロジン系樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン類;水添ロジン(部分水添、完全水添)、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、ホルミル化ロジン等のロジン系変性樹脂;並びにこれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0074】
前記活性剤としては、例えば有機酸、ハロゲンを含む化合物、アミン系活性剤等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0075】
前記溶剤としては、例えばアルコール系、エタノール系、アセトン系、トルエン系、キシレン系、酢酸エチル系、エチルセロソルブ系、ブチルセロソルブ系、グリコールエーテル系、エステル系の活性剤等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0076】
前記フラックスには、チクソ剤を配合することができる。前記チクソ剤としては、例えば硬化ひまし油、ビスアマイド系チクソ剤(飽和脂肪酸ビスアマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、芳香族ビスアマイド等)、ジメチルジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0077】
前記のフラックスには、酸化防止剤を配合することができる。
前記酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でも特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。
また本実施形態のフラックスには、更につや消し剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。
【0078】
3.ソルダプリフォーム
本実施形態のソルダプリフォームは、本実施形態のはんだ合金を含む。
本実施形態のソルダプリフォームとしては、例えばディスク状、角状、テープ状等のものを使用することができる。これらのソルダプリフォームの作製にあたっては、公知の方法を使用することができる。
またソルダプリフォームの形状や厚みは、使用する基板、はんだ接合方法、はんだ接合する電子部品や半導体素子の種類等によって適宜調整し得る。
【0079】
また本実施形態のソルダプリフォームを用いたはんだ接合においては、その表面に上記フラックスを塗布して行うこともでき、またソルダプリフォームの表面に有機酸等を予めフラックスコートすることにより行うこともできる。
また本実施形態のソルダプリフォームは、例えば、還元性雰囲気のギ酸リフローや水素リフロー等を用いることではんだ接合を行うことも可能である。
【0080】
なお本実施形態のはんだ合金は、上述したソルダペースト、ソルダプリフォーム以外にも、例えばはんだボール、ワイヤーといった他の用途にも使用することができる。
【実施例0081】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<フラックスの作製>
以下の各成分を調整し、フラックスを得た。
樹脂:KE-604(アクリル変性水添ロジン 荒川化学工業(株)製) 50質量%
活性剤:スベリン酸 2質量%、マロン酸 0.5質量%、ジブロモブテンジオール 1質量%
溶剤:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH) 38.5質量%
チクソ剤:ヒマコウ(12-ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド ケイエフ・トレーディング(株)製) 5質量%
添加剤:イルガノックス245(ヒンダードフェノール系酸化防止剤 BASFジャパン(株)製) 3質量%
【0083】
前記フラックス11.0質量%と、表1に記載の各はんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから38μm)89.0質量%とを混合し、実施例及び比較例に係る各ソルダペーストを作製した。
なお、表1に示す「式(a)の値」とは、各はんだ合金のAg、Cu及びSbの含有量(質量%)に基づき、下記式(a)を用いて算出した値である。
Ag×0.37+Cu×1.56+Sb×1.46 …(a)
上記式(a)において、Ag、Cu及びSbは、それぞれAg、Cu及びSbの含有量(質量%)を表す。
【0084】
【表1】
【0085】
(1)Siチップ破壊確認試験
実施例及び比較例毎に、以下の用具を用意した。
・銅板(サイズ:20mm×20mm×0.5mmt)
・Siチップ(サイズ:5mm×5mm×0.3mmt、裏面電極に、Siチップ側から順に、Ti成膜及びNi成膜を有する。Tiの厚み:0.1μm、Niの厚み:0.5μm)
・メタルマスク(開口部:3.5mm×3.5mm、厚み:0.2mm)
前記銅板上(中央)に、前記メタルマスクを用いて各ソルダペーストを印刷した。
次いで、印刷された各ソルダペーストの表面(中央)に前記Siチップを載置し、これを以下の条件下でリフローし、前記銅板と、前記Siチップと、これらを接合するはんだ接合部とを有する、各はんだ接合体を作製した。
・リフロー条件
マウント荷重条件を30gとし、リフロー装置(製品名:SMT Scope SK-5000、山陽精工(株)製)を用いて、図1に示す温度プロファイル条件(ピーク温度:360℃)に基づき、リフローを行った。
なお、リフローにおいては、酸素濃度500ppmのN2雰囲気下及び大気圧下で加熱を開始し、リフロー温度がピーク温度の360℃に到達した時点で真空引きを行い、リフロー装置内の圧力を100Paまで減圧した。なお、ピーク温度が360℃に達した時点から、リフロー装置内の圧力が100Paとなるまでの時間を30秒に設定した。
そして、加熱を停止し、リフロー装置内の温度が340℃になった時点で減圧を解除してリフロー装置内の圧力を大気圧まで戻し、大気雰囲気下にてその後の冷却を行った。温度プロファイルに伴うリフロー装置内の圧力の変化(点線で表示)を併せて図1に示す。
【0086】
そして、各はんだ接合体につき、顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープ VHX-900、株式会社キーエンス製)を用いて、Siチップに亀裂が生じているか否かを確認し、以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
〇:Siチップに亀裂が生じていない
△:Siチップに1mm未満の亀裂が生じている
×:Siチップに1mm以上の亀裂が生じている
【0087】
(2)接合強度確認試験
上記(1)Siチップ破壊確認試験に用いた各はんだ接合体について、超音波顕微鏡(製品名:C-SAM Gen6、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いて、前記Siチップ側から撮影した接合界面画像A(画像A)を取得した。
そして、画像A上、前記Siチップと前記はんだ接合部とが重複して見える領域(領域A)のうち、両者が接合している領域の面積(面積X)を、以下の方法にて算出した。
即ち、領域Aの面積(面積Y)と、領域Aにおける未接合部分(図2に示す、領域A内で白色を示す部分)の面積(面積Z)とを算出し、面積Yから面積Zを引いた値を面積Xとした。
そして、算出した面積Xを面積Yにて割った値(面積X/面積Y×100)を接合率(%)とし、以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
○:接合率が80%以上である
△:接合率が50%以上80%未満である
×:接合率が50%未満である
【0088】
(3)吸湿後リフロー試験
エポキシ封止材(製品名:T693/R1001、ナガセケムテックス(株)製)を用いて、上記(2)接合強度確認試験を行った前記各はんだ接合体を以下の方法により封止した。
即ち、前記各はんだ接合体を、それぞれ前記エポキシ封止材に浸漬した後、真空引きを行った。これにより、前記はんだ接合体と、前記エポキシ封止材とを密着させた。この封止状態を、図3に示す。
そして、前記エポキシ封止材にて封止した前記各はんだ接合体を送風定温恒温器(製品名:DKN402、ヤマト科学(株)製)を用い、100℃で60分間加熱した後、更に150℃で60分間加熱して各試験片を作製した。
そして、前記各試験片の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記各試験片のはんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測してこの値をボイド面積α(初期値)とした。
【0089】
次に、前記各試験片を高加速寿命試験装置(製品名:PC-422R8D、(株)平山製作所製)を用いて130℃85%RHの条件下で24時間放置した後、リフロー炉(製品名:TNV30-508EM2-X、(株)タムラ製作所製)を用いて、大気雰囲気下で図4に示す温度プロファイル条件(ピーク温度:262℃)に基づき、3回連続してリフローを行い、各吸湿加熱後試験片を作製した。
前記各吸湿加熱後試験片のはんだ接合部の表面状態を上面(前記Siチップ側)からX線検査装置で観察し、前記各吸湿加熱後試験片のはんだ接合部内に発生したボイドの面積を計測してこの値をボイド面積β(吸湿加熱後の値)とした。
【0090】
そして、各実施例及び各比較例について計測した「ボイド面積α(初期値)」と「ボイド面積β(吸湿加熱後の値)」について、以下の式に基づき、ボイド面積の変動率(%)を算出した。
ボイド面積の変動率(%)=100-(ボイド面積β/ボイド面積α×100)
この算出した各実施例及び各比較例のボイド面積の変動率(%)を、以下の基準に従い評価した。その結果を表2に示す。
○:ボイド面積の変動率が0%である
△:ボイド面積の変動率が5%未満である
×:ボイド面積の変動率が5%以上である
【0091】
【表2】
【0092】
以上に示す通り、実施例のはんだ合金は、Ag、Cu、Sb及びSnの含有量が、それぞれ所定の範囲内であることにより、高い温度環境下においても、形成されるはんだ接合部の再溶融を抑制し得る。
そのため、実施例のはんだ合金は、吸湿した封止材(封止樹脂)が加熱により膨張し、銅板及びSiチップと封止材との間に隙間が生じた場合であっても、はんだ接合部由来の再溶融はんだの上記隙間への流出を抑制でき、また、この再溶融はんだの流入を起因とする、はんだ接合部内のボイドの発生を抑制できる。
【0093】
更に、実施例のはんだ合金は、Ag、Cu、Sb及びSnの含有量が、それぞれ所定の範囲内であることにより、形成されたはんだ接合部の強度を高くすることができ、また、はんだ接合を行う際の加熱時に、はんだ合金が十分に溶融し得る。
そのため、実施例のはんだ合金は、はんだ接合部と被接合材(銅板とSiチップ)との接合強度を向上させることができ、信頼性の高いはんだ接合部を提供することができる。
なお、実施例のはんだ合金(実施例2から14)は、Ag、Cu、Sb及びSnの含有量が、それぞれ所定の範囲内であって、且つ、Ni及びCoの少なくとも一方を所定量含有することにより、特に、実施例7及び8において、全ての試験結果が良好となっている。
【0094】
このように、本発明のはんだ合金は、信頼性のより高いはんだ接合部を提供することができる。
【0095】
なお、比較例1から3は、Ag、Cu及びSbのいずれかを含まない。そのため、高い温度環境下において、はんだ接合部由来の再溶融はんだが、上述した隙間へ流出したと考えられる。よって、これらの(3)吸湿後リフロー試験の結果は、×となった。
【0096】
比較例5は、Agを含んでいないにも関わらず、(3)吸湿後リフロー試験の結果が、〇となっている。これは、比較例5のはんだ合金は、比較例3よりもSbを多く含有しているため、吸湿後の連続リフロー時において、はんだ接合部が再溶融し難かったためと考えられる。
しかし、比較例5のはんだ合金は、上述の通り、Agを含んでいない。そのため、このはんだ合金は、はんだ接合部と被接合材との接合強度が十分ではなく、よって、比較例5の(2)接合強度確認試験の結果は、×となった。
【0097】
比較例4及び7は、Cu及びSbの含有量が所定の範囲外(下限未満)であるため、高い温度環境下において、はんだ接合部由来の再溶融はんだが、上述した隙間へ流出したと考えられる。よって、これらの(3)吸湿後リフロー試験の結果は、×となった。
【0098】
比較例6は、Agの含有量が所定の範囲外(上限超)であるため、Ag由来の金属間化合物の粗大化を招き、却ってはんだ接合部の強度を低下させたと考えられる。そのため、比較例6の(1)Siチップ破壊確認試験の結果は、×となった。
【0099】
比較例8は、Cu及びSbの含有量が所定の範囲外(上限超)であるため、はんだ接合を行う際の加熱時の溶融が十分ではなく、そのために、はんだ接合部と被接合材との接合強度が低下したと考えられる。そのため、比較例8の(2)接合強度確認試験の結果は、×となった。
また、比較例8は、Cu及びSb由来の金属間化合物が粗大化し、却ってはんだ接合部の強度を低下させたと考えられる。そのため、比較例8の(1)Siチップ破壊確認試験の結果も、×となった。
【0100】
比較例9は、Ag、Cu及びSbの含有量が所定の範囲外(下限未満)であるため、高い温度環境下において、はんだ接合部由来の再溶融はんだが、上述した隙間へ流出したと考えられる。よって、比較例9の(3)吸湿後リフロー試験の結果は、×となった。
【0101】
比較例10は、Ag、Cu及びSbの含有量が所定の範囲外(上限超)であるため、はんだ接合を行う際の加熱時の溶融が十分ではなく、そのために、はんだ接合部と被接合材との接合強度が低下したと考えられる。そのため、比較例10の(2)接合強度確認試験の結果は、×となった。
また、比較例10は、Ag、Cu及びSb由来の金属間化合物が粗大化し、却ってはんだ接合部の強度を低下させたと考えられる。そのため、比較例10の(1)Siチップ破壊確認試験の結果は、×となった。
図1
図2
図3
図4