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特開2022-155529ロール金型の製造方法、ロール金型、及び転写物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155529
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ロール金型の製造方法、ロール金型、及び転写物
(51)【国際特許分類】
   B23B 5/48 20060101AFI20221005BHJP
   B23B 5/08 20060101ALI20221005BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20221005BHJP
   B23B 1/00 20060101ALN20221005BHJP
【FI】
B23B5/48
B23B5/08
B29C59/04 C
B23B1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047425
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021057810
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】土井 克浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 和彦
【テーマコード(参考)】
3C045
4F209
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C045CA30
3C045DA03
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH73
4F209PA03
4F209PB02
4F209PC05
4F209PN09
4F209PQ03
(57)【要約】
【課題】ロール表面に対して複数本の溝を高精度に形成できる上、加工時間の短縮化が図られた、ロール金型の製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状又は円柱状のロール基材を円周方向に回転させる回転装置10と、複数の切削刃を備える所定の加工ステージとを備えるロール金型製造装置を用いた、ロール金型の製造方法であって、前記加工ステージをロール長さ方向の一方の向きPに移動させながら、前記加工ステージにおけるP切削用刃で、ロール基材表面を切削するP切削ステップ、その後、前記加工ステージ上で、前記P切削用刃からN切削用刃に切り替えるステップ、その後、前記加工ステージをロール長さ方向の他方の向きNに移動させながら、前記加工ステージにおける前記N切削用刃で、ロール基材表面を切削するN切削ステップ、を含むことを特徴とする、ロール金型の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状又は円柱状のロール基材を円周方向に回転させる回転装置と、ロール長さ方向及びロール径方向に移動可能な加工ステージとを備えるロール金型製造装置を用いた、ロール金型の製造方法であって、
前記加工ステージには、複数の切削刃を備えるとともに、当該複数の切削刃の前記ロール基材に対する相対位置を変更可能な切り替えステージが載置され、
前記加工ステージをロール長さ方向の一方の向きPに移動させながら、前記加工ステージにおけるP切削用刃で、ロール基材表面を切削するP切削ステップ、
その後、前記加工ステージ上で、前記P切削用刃からN切削用刃に切り替えるステップ、
その後、前記加工ステージをロール長さ方向の他方の向きNに移動させながら、前記加工ステージにおける前記N切削用刃で、ロール基材表面を切削するN切削ステップ、
を含むことを特徴とする、ロール金型の製造方法。
【請求項2】
前記P切削用刃と前記N切削用刃との切り替えが、前記切り替えステージを回転させて行われる、請求項1に記載のロール金型の製造方法。
【請求項3】
前記P切削用刃の断面及び前記N切削用刃の断面が、互いに対称である、請求項1又は2に記載のロール金型の製造方法。
【請求項4】
前記切り替えステージにおける複数の切削刃が、1個の前記P切削用刃及び1個の前記N切削用刃のみからなる、請求項1~3のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【請求項5】
前記P切削ステップ及び前記N切削ステップの少なくともいずれかにおいて、前記ロール基材を回転させる、請求項1~4のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【請求項6】
前記複数の切削刃がダイヤモンド刃である、請求項1~5のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【請求項7】
前記ロール基材の母材が金属である、請求項1~6のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【請求項8】
ロール長さ方向又はロール長さ方向に対して傾斜した方向に並んで延びる複数本の線状溝を外周面に備えるロール金型であって、
前記複数本の線状溝は、第1の傾斜角度で平行に並ぶ第1の線状溝群と、第2の傾斜角度で平行に並ぶ第2の線状溝群とを含み、
前記第1の線状溝群と前記第2の線状溝群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記複数の交差点が、ロール長さ方向の一方の向きPへの切削に由来するバリが形成された交差点Pと、ロール長さ方向の他方の向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点Nとを含む、ことを特徴とする、ロール金型。
【請求項9】
基材上に硬化性樹脂が配置され、複数本の線状凸部を当該硬化性樹脂の表面に備える転写物であって、
前記複数本の線状凸部は、第1の方向に平行に並ぶ第1の線状凸部群と、第2の方向に平行に並ぶ第2の線状凸部群とを含み、
前記第1の線状凸部群と前記第2の線状凸部群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記硬化性樹脂の表面形状が、請求項8に記載のロール金型の外周面の反転形状である、ことを特徴とする、転写物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール金型の製造方法、ロール金型、及び転写物に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の一つとして、円筒状又は円柱状のロール基材の外周面を加工して微細凹凸構造を形成し、かくして得られたロール金型を樹脂シートや樹脂フィルムに押し当て、ロール基材上の微細凹凸構造を転写するインプリント技術が知られている。上述したロール金型は、典型的には、ロール基材の表面(外周面)に対し、切削工具を用いた切削加工により複数本の溝又は1本の溝(螺旋状など)を形成することで得られる。
【0003】
ロール基材表面の切削加工では、通常、ロール基材の円周方向(ラジアル方向、と称する)、及び/又は、ロール基材の長さ方向(スラスト方向、と称する)に、複数本の線状溝を形成する。或いは、複数本の線状溝を、ロール基材の長さ方向に対して所定程度に傾斜した方向(斜めスラスト方向、と称する)に形成することもある。
【0004】
ロール基材表面に対して線状溝を高精度に加工する方法は、これまでいくつか報告されている。例えば、特許文献1は、回転するロールの表面をダイヤモンドバイトで加工して、周方向の溝を一定のピッチで形成する工程と、フライカッターをロールの軸方向に送りながらロール表面を加工して、軸方向の溝を一定のピッチで形成する工程とを組み合わせることにより、立体形状パターンを高精度に加工することを開示している。また、この技術では、フライカッターを高速で回転させるので、フライカッターに理想の切削速度を与えることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-320022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロール基材に対しスラスト方向又は斜めスラスト方向に溝を形成する際には、切削工具を、ロール基材の長さ方向に移動させながら切削する必要がある。このとき、ロール基材の長さ方向の切削向きは、ロール基材の両端部をそれぞれ端部A及び端部Bとすると、端部Aから端部Bへの向き、及び端部Bから端部Aへの向きの2つが挙げられる。そして、どちらの向きにするかにより、ロール基材に当接させる切削工具(刃先)の取り付け向きが決定される。また、上述したフライカッターを用いる場合であっても、フライカッターの刃先の取り付け向きは、スピンドルの回転方向により決定されるし、その上、切削面の状態を均一に合わせるために、切削方式はアップカット又はダウンカットのいずれかに統一される。
【0007】
つまり、従来技術では、ロール基材の端部Aから端部Bへの向きの切削が終了したら、次の切削工程のため、切削工具を一旦ロール基材から退避し、逆向きに移動させて、元の切削開始位置に戻す操作が必要となる。このように、これまでのスラスト溝又は斜めスラスト溝の形成においては、1回の切削ごとに切削工具の位置を戻す操作を余儀なくされ、これが、ロール金型の一連の加工時間のうちの大きなウエイトを占めていた。
【0008】
なお、上述したフライカッターを用いる場合には、かかる切削工具を取り換えることなく、ロール基材の端部Aから端部Bへの向きの切削、及び、端部Bから端部Aへの向きの切削を行うこと自体は可能である。しかしながら、その場合、切削面の状態を全て均一に合わせることが困難であり、切削精度の点で課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ロール表面に対して複数本の溝を高精度に形成できる上、加工時間の短縮化が図られた、ロール金型の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上述した製造方法によって製造することが可能なロール金型、及び、かかるロール金型を用いた転写により得ることが可能な転写物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための手段としては以下の通りである。
【0011】
<1> 円筒状又は円柱状のロール基材を円周方向に回転させる回転装置10と、ロール長さ方向及びロール径方向に移動可能な加工ステージとを備えるロール金型製造装置を用いた、ロール金型の製造方法であって、
前記加工ステージには、複数の切削刃を備えるとともに、当該複数の切削刃の前記ロール基材に対する相対位置を変更可能な切り替えステージが載置され、
前記加工ステージをロール長さ方向の一方の向きPに移動させながら、前記加工ステージにおけるP切削用刃で、ロール基材表面を切削するP切削ステップ、
その後、前記加工ステージ上で、前記P切削用刃からN切削用刃に切り替えるステップ、
その後、前記加工ステージをロール長さ方向の他方の向きNに移動させながら、前記加工ステージにおける前記N切削用刃で、ロール基材表面を切削するN切削ステップ、
を含むことを特徴とする、ロール金型の製造方法。
【0012】
<2> 前記P切削用刃と前記N切削用刃との切り替えが、前記切り替えステージを回転させて行われる、<1>に記載のロール金型の製造方法。
【0013】
<3> 前記P切削用刃の断面及び前記N切削用刃の断面が、互いに対称である、<1>又は<2>に記載のロール金型の製造方法。
【0014】
<4> 前記切り替えステージにおける複数の切削刃が、1個の前記P切削用刃及び1個の前記N切削用刃のみからなる、<1>~<3>のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【0015】
<5> 前記P切削ステップ及び前記N切削ステップの少なくともいずれかにおいて、前記ロール基材を回転させる、<1>~<4>のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【0016】
<6> 前記複数の切削刃がダイヤモンド刃である、<1>~<5>のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【0017】
<7> 前記ロール基材の母材が金属である、<1>~<6>のいずれかに記載のロール金型の製造方法。
【0018】
<8> ロール長さ方向又はロール長さ方向に対して傾斜した方向に並んで延びる複数本の線状溝を外周面に備えるロール金型であって、
前記複数本の線状溝は、第1の傾斜角度で平行に並ぶ第1の線状溝群と、第2の傾斜角度で平行に並ぶ第2の線状溝群とを含み、
前記第1の線状溝群と前記第2の線状溝群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記複数の交差点が、ロール長さ方向の一方の向きPへの切削に由来するバリが形成された交差点Pと、ロール長さ方向の他方の向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点Nとを含む、ことを特徴とする、ロール金型。
【0019】
<9> 基材上に硬化性樹脂が配置され、複数本の線状凸部を当該硬化性樹脂の表面に備える転写物であって、
前記複数本の線状凸部は、第1の方向に平行に並ぶ第1の線状凸部群と、第2の方向に平行に並ぶ第2の線状凸部群とを含み、
前記第1の線状凸部群と前記第2の線状凸部群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記硬化性樹脂の表面形状が、<8>に記載のロール金型の外周面の反転形状である、ことを特徴とする、転写物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロール表面に対して複数本の溝を高精度に形成できる上、加工時間の短縮化が図られた、ロール金型の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上述した製造方法によって製造することが可能なロール金型、及び、かかるロール金型を用いた転写により得ることが可能な転写物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のロール金型の製造方法に用いることが可能な、ロール金型製造装置の構成の一例を示す概略図である。
図2A】P切削ステップの開始時におけるロール金型製造装置1の状態の一例である。
図2B】P切削ステップの終了時におけるロール金型製造装置1の状態の一例である。
図2C】N切削ステップの開始時におけるロール金型製造装置1の状態の一例である。
図2D】N切削ステップの終了時におけるロール金型製造装置1の状態の一例である。
図3】ロール金型製造装置の加工ステージにおける切削刃の配置態様の一例である。
図4】従来の一般的なロール金型製造装置1aの構成を示す図である。
図5】本発明の一実施形態のロール金型における切削表面を示す部分概略図である。
図6図5の切削表面を模式的に表した図である。
図7】本発明の別の実施形態のロール金型における切削表面を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0023】
(ロール金型の製造方法)
本発明の一実施形態のロール金型の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、所定のロール金型製造装置を用い、円筒状又は円柱状のロール基材の表面を切削するものである。かかる切削により、ロール基材の表面に線状溝が形成することができる。なお、線状溝は、直線状に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態の製造方法に用いることが可能な、ロール金型製造装置1の構成の一例を示す概略図である。図1に示すように、ロール金型製造装置1は、回転装置10を備える。この回転装置10は、特に限定されないが、回転駆動部11と回転従動部12とからなり、回転駆動部11、切削対象であるロール基材100’の中心軸、及び回転従動部12を同軸(C軸)上に配置することで、ロール基材100’を円周方向に回転させることができる。なお、回転装置10は、エンコーダなどの、回転角度や回転速度を制御するための機構を適宜内蔵していてもよい。
【0025】
ロール基材100’は、円筒状又は円柱状である。ロール基材100’は、自身を冷却するための回路を内部に備えていてもよい。また、ロール基材100’は、表面にめっき層を備えていてもよい。この場合には、めっき層に線状溝が形成されることとなる。めっき層の材料としては、例えば、ニッケルリン(Ni-P)、銅(Cu)等が挙げられる。
【0026】
ロール基材100’の母材(めっき層を備える場合には、その土台となる部分)は、金属であることが好ましい。この場合、製造されるロール金型(めっき層を含む)の剛性を維持することができる。上記母材としては、S45C、SUS304等の鉄系素材が一般的に用いられる。
【0027】
また、図1に示すように、上記ロール金型製造装置1は、切削工具を搭載可能な加工ステージ30を備える。加工ステージ30は、回転装置10の回転軸に平行な(言い換えれば、ロール基材100’の長さ方向に平行である)Z軸方向に移動可能となっている。また、加工ステージ30は、ロール基材100’の径方向(切り込み軸方向、或いは深さ方向と称されることもある)に平行であるX軸方向にも移動可能となっている。従って、ロール金型製造装置1は、加工ステージ30によってZ軸方向(ロール長さ方向)及びX軸方向(ロール径方向)にそれぞれ移動可能であるので、適切に移動させることで、加工ステージ30に搭載させた切削工具をロール基材100’の表面に当接させて切削し、ロール基材100’の表面に線状溝110(切削溝)を形成することができる。
【0028】
そして、本実施形態の製造方法に用いるロール金型製造装置1は、加工ステージ30が複数の切削刃(図1では、第1切削刃51及び第2切削刃52)を備える点、及び、これら複数の切削刃が、加工ステージ30上に載置された切り替えステージ40に設けられて、ロール基材100’に対する相対位置が変更可能となっている点が、それぞれ特徴的である。換言すると、上記ロール金型製造装置1は、加工ステージ30に、複数の切削刃を備えるとともに、当該複数の切削刃の前記ロール基材100’に対する相対位置を変更可能な切り替えステージ40が載置されている点が特徴的である。
【0029】
切り替えステージ40は、特に限定されないが、図1に示すように、X-Z平面に垂直なB軸回りに回転する機構を有することができる。この切り替えステージ40は、B軸回りの回転角度を高精度に制御することができ、また、複数の切削刃(第1切削刃51及び第2切削刃52)が、B軸の放射方向に先端が向くように並んで搭載されている。よって、この切り替えステージ40をB軸回りに回転させることで、加工ステージ30上で、ロール基材100’に対する各切削刃の相対位置を変更することできる。更に、第1切削刃51及び第2切削刃52は、特に限定されないが、互いに逆の向きで、切り替えステージ40に搭載されている。
【0030】
比較として、図4に、従来の一般的なロール金型製造装置1aの構成を示す。図4のロール金型製造装置1aは、特にはZ軸方向及びX軸方向に移動可能な加工ステージ上の構成が図1とは異なり、加工ステージ30aの上に工具設置部40aが設置され、この工具設置部40aに切削刃50aが単純搭載された構造を有している。
【0031】
このような従来のロール金型製造装置1aを用い、ロール基材100’の長さ方向(スラスト方向)、或いは、ロール基材100’の長さ方向に対して所定程度に傾斜した方向(斜めスラスト方向)に溝を形成する際には、あらかじめ、ロール基材100’の長さ方向の切削向きをいずれか(即ち、回転駆動部11側から回転従動部12側への向き、又は、回転従動部12側から回転駆動部11側への向きのいずれか)に決定し、これを踏まえ、切削工具(刃先)の取り付け向きを適切に定める必要がある。そのため、例えば、ロール基材100’の回転駆動部11側から回転従動部12側への向きの切削によって複数本の線状溝を形成する場合、具体的には、以下の(1)~(4)の工程を繰り返す必要がある(図4中の括弧書きの数字に対応。図4中の点線の矢印は、切削刃50aの模式的な軌道を表す)。
(1)加工ステージ30aをX軸方向(ロール基材100’に近接する向き)に移動させて、切削刃50aを溝深さ位置まで到達させる。
(2)加工ステージ30aをZ軸方向(回転駆動部11側から回転従動部12側への向き)に移動させて、ロール基材100’表面を切削刃50aで切削する。
(3)加工ステージ30aをX軸方向(ロール基材100’から離隔する向き)に移動させて、切削刃50aをロール基材100’から退避させる。
(4)加工ステージ30aをZ軸方向(回転従動部12側から回転駆動部11側への向き)に移動させて、切削刃50aを切削開始位置に戻す。
【0032】
一方、本実施形態の製造方法では、図1のようなロール金型製造装置1を用いるため、切削刃を切削開始位置に戻すといった操作を省略でき、従来対比において、加工時間の短縮化を図ることができる。
【0033】
即ち、本実施形態の製造方法は、図1のようなロール金型製造装置1を用い、
上記加工ステージ30をロール長さ方向の一方の向きPに移動させながら、上記加工ステージ30におけるP切削用刃(図1では第1切削刃51)で、ロール基材110’表面を切削するP切削ステップ、
その後、上記加工ステージ30上で、上記P切削用刃からN切削用刃(図1では第2切削刃52)に切り替えるステップ、
その後、上記加工ステージ30をロール長さ方向の他方の向きNに移動させながら、上記加工ステージ30における上記N切削用刃で、ロール基材110’表面を切削するN切削ステップ、
を含む。
【0034】
なお、ロール長さ方向についての上記「向きP」及び「向きN」の名称は、それぞれ「Positive」及び「Negative」の語に由来する。しかし、これらの名称は、説明の便宜の観点で付したものであって、互いに区別されることを意図するものではない。但し、以下では、説明の便宜上、ロール長さ方向のうち、回転駆動部11側から回転従動部12側への向きをPとし、回転従動部12側から回転駆動部11側への向きをNとする。
【0035】
以下では、一例として、図1に示すロール金型製造装置1を用い、ロール基材100’の長さ方向(スラスト方向)に複数本の線状溝を形成する方法について説明する。
【0036】
図2Aは、P切削ステップの開始時におけるロール金型製造装置1の状態の一例を示す。図2Aでは、加工ステージ30上の切り替えステージ40による切り替えにより、第1切削刃51が回転装置10に対向しており、また、ロール基材100’から向きN側へとある程度離隔したロール長さ方向の位置で、切削スタンバイ状態となっている。一方、第2切削刃52は、切り替えステージ40による切り替えにより、退避状態となっている。更に、図2Aでは、第1切削刃51が、(加工ステージ30のX軸方向への移動により)形成しようとする溝の深さ位置まで到達した状態となっている。
【0037】
そして、P切削ステップでは、図2Aの状態から、加工ステージ30をロール長さ方向の向きPに移動させながら、加工ステージ30における第1切削刃51で、ロール基材100’表面を切削する。これにより、1本の線状溝110が形成される。このとき、スラスト方向に延びる線状溝を形成するため、ロール基材100’がC軸回りに回転しないように、ロール基材100’を回転装置10で固定する。
【0038】
図2Bは、P切削ステップの終了時におけるロール金型製造装置1の状態の一例を示す。P切削ステップは、図2Bに示すように、第1切削刃51がロール基材100’の切削を完了し、ロール基材100’から向きP側へとある程度離隔した位置で、加工ステージ30の向きPへの移動を停止させることができる。
【0039】
P切削ステップの後には、加工ステージ30上で、第1切削刃51から第2切削刃52に切り替える。図2Cは、そのときのロール金型製造装置1の状態の一例を示す。図2Cでは、切り替えステージ40をB軸回りに回転させることにより、第2切削刃52が回転装置10に対向して切削スタンバイ状態となり、一方、第1切削刃51は退避状態となる。
【0040】
また、P切削ステップの後には、回転装置10により、ロール基材100’を、形成しようとする線状溝の1ピッチ分だけC軸方向に回転させたのち、固定することができる。
【0041】
そして、N切削ステップでは、図2Cの状態から、加工ステージ30をロール長さ方向の向きNに移動させながら、加工ステージ30における第2切削刃52で、ロール基材100’表面を切削する。これにより、1本の線状溝110が形成される。
【0042】
図2Dは、N切削ステップの終了時におけるロール金型製造装置1の状態の一例を示す。N切削ステップは、図2Dに示すように、第2切削刃52がロール基材100’の切削を完了し、ロール基材100’から向きN側へとある程度離隔した位置で、加工ステージ30の向きNへの移動を停止させることができる。
【0043】
N切削ステップの後には、加工ステージ30上で、第2切削刃52から第1切削刃51に切り替えることができる。本例では、切り替えステージ40をB軸回り(先ほどとは逆回り)に回転させることにより、第1切削刃51が回転装置10に対向して切削スタンバイ状態となり、一方、第2切削刃52は退避状態となる。
【0044】
また、N切削ステップの後には、回転装置10により、ロール基材100’を、形成しようとする線状溝の1ピッチ分だけC軸方向に回転させたのち、固定することができる。
【0045】
以上(P切削ステップ、切削刃の切り替え、N切削ステップ、切削刃の切り替え)を1ターンとして、必要に応じて当該ターンを複数行う。こうして、最終的に、ロール長さ方向(スラスト方向)に複数本の線状溝が形成されたロール金型100を得ることができる。なお、上記のターンは、加工ステージ30をロール径方向(X軸方向)に移動させる操作をせずとも、行うことができる。
【0046】
このように、本実施形態の製造方法では、切り替えステージ40に搭載された複数の切削刃を適宜切り替えて、ロール長さ方向における一方の向き(向きP)及び他方の向き(向きN)の交互の切削を可能としている。そのため、従来必要であった切削刃をロール基材から退避させて切削開始位置に戻す時間を、本実施形態では切削に費やすことができるため、加工時間を大幅に短縮することができる。
【0047】
また、本実施形態の製造方法では、P切削用刃を、P切削ステップに適した向きで切り替えステージに取り付けるとともに、N切削用刃を、N切削ステップに適した向きで切り替えステージに取り付ける。例えば、P切削用刃及びN切削用刃は、互いに逆の向きでロール基材100’に当接するように、切り替えステージに取り付けることができる。これにより、P切削ステップによる切削溝及びN切削ステップによる切削溝の状態を均一に合わせることができるので、ロール表面に対して複数本の溝(スラスト溝又は斜めスラスト溝)を高精度に形成することができる。
【0048】
その上、本実施形態の製造方法では、複数の切削刃を併用するので、1個当たりの切削距離を低減できる結果、摩耗に起因する切削面の形状崩れを有意に抑制することもできる。
【0049】
なお、上記一例の方法では、P切削ステップ及びN切削ステップの際、ロール基材がC軸回りに回転しないように固定したので、複数本の線状溝がロール基材の長さ方向(スラスト方向)に形成される。しかし、本実施形態の製造方法は、これに限定されず、P切削ステップ及び前記N切削ステップの少なくともいずれかにおいて、ロール基材を回転させてもよい。このように、ロール基材を回転させながら切削した場合には、ロール基材の長さ方向に対して傾斜した方向(斜めスラスト方向)に延びる線状溝を形成することができる。
【0050】
また、複数の切削刃を備える切り替えステージ40は、当該複数の切削刃のロール基材に対する相対位置が変更可能なものであれば、特に限定されず、例えば、1個の切削刃に対して1個の切り替えステージを設け、各切り替えステージが、加工ステージ30上で独立して移動可能としたものであってもよい。この場合の移動可能なステージとしては、ピエゾステージ等が挙げられる。
【0051】
本実施形態の製造方法では、P切削用刃とN切削用刃との切り替え(或いは、複数の切削刃の切り替え)が、切り替えステージを回転させて行われることが好ましい。P切削用刃とN切削用刃との切り替え(或いは、複数の切削刃の切り替え)時の操作の容易性が高いからである。なお、かかる切り替えは、例えば、図1に示す切り替えステージ40により行うことができる。
【0052】
図1に示す切り替えステージ40を用いる場合、第1切削刃51及び第2切削刃52は、一方の切削刃が切削しているときに他方の切削刃が退避されるように、切り替えステージに搭載されることが好ましい。具体的に、複数の切削刃(第1切削刃51及び第2切削刃52)がなす角度は、形成しようとする溝の深さなどにもよるが、5°以上であることが好ましい。また、上記角度は、切り替え操作の時間短縮の観点から、15°以下であることが好ましい。
【0053】
また、切り替えステージにおける複数の切削刃の数は、特に限定されないが、図1などに示すように、1個のP切削用刃及び1個のN切削用刃のみからなることが好ましい。この場合、P切削用刃からN切削用刃への切り替え(または、その逆の切り替え)の際の操作が、容易に且つ短時間にできるという利点がある。
なお、図1及び図2における第1切削刃51及び第2切削刃52は、互いの刃先が近接するように対向して並んで搭載されている。しかしながら、これに限定されず、第1切削刃51及び第2切削刃52は、図3に示すように、互いの刃先が遠ざかるように対向して並んで搭載されていてもよい。
【0054】
本実施形態の製造方法では、P切削用刃の断面及びN切削用刃の断面が、互いに対称であることが好ましい。この場合、P切削ステップによる切削溝及びN切削ステップによる切削溝の状態の均一性が向上し、ロール表面に形成される複数本の溝(スラスト溝又は斜めスラスト溝)の精度をより高めることができる。
なお、上記「対称」は、同一であることも含むこととする。
【0055】
切削刃の材質としては、例えば、ダイヤモンド、超硬合金、ハイスピード工具鋼、立方晶窒化ホウ素(CBN)等が挙げられ、切削刃は、これらの材料を研磨することで作製できる。また、レーザー照射、イオンミリング等によっても作製可能である。特に、本実施形態で用いる複数の切削刃は、耐摩耗性が高い観点、及び加工面の精度(寸法精度、面粗さを含む)の観点で、ダイヤモンド刃であることが好ましい。
【0056】
切削刃の先端は、テーパ形状とすることができる。切削刃の先端がロール基材100’に押し当てられて、ロール基材100’の表面を切削する。そして、ロール基材100’に形成される線状溝110の形状は、切削刃の先端の形状に対応することとなる。
【0057】
本実施形態の製造方法では、ロール基材に対し、スラスト方向又は斜めスラスト方向に延びる線状溝を形成することに加えて、ロール基材の円周方向(ラジアル方向)の線状溝を更に形成してもよい。ラジアル方向の線状溝は、例えば、ロール長さ方向への切削刃の移動はせず、ロール基材をC軸回りに回転させながら切削することにより、形成できる。
【0058】
(ロール金型)
本発明の一実施形態のロール金型(以下、「本実施形態のロール金型」と称することがある。)は、ロール長さ方向又はロール長さ方向に対して傾斜した方向に並んで延びる複数本の線状溝を外周面に備えるロール金型であって、
前記複数本の線状溝は、第1の傾斜角度で平行に並ぶ第1の線状溝群と、第2の傾斜角度で平行に並ぶ第2の線状溝群とを含み、
前記第1の線状溝群と前記第2の線状溝群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記複数の交差点が、ロール長さ方向の一方の向きPへの切削に由来するバリが形成された交差点Pと、ロール長さ方向の他方の向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点Nとを含む、ことを特徴とする。
【0059】
本実施形態のロール金型は、実質的には、上述した本実施形態の製造方法により製造されたロール金型に相当する。より具体的に、本実施形態のロール金型は、向きPの切削(P切削ステップ)と向きNの切削(N切削ステップ)とを交互に繰り返しながら、交差する複数のスラスト溝又は斜めスラスト溝を外周面に形成することにより、製造することができる。
【0060】
通常、既に形成された線状溝と交差するように切削して新たな線状溝を形成する場合には、交差箇所(交差点)のうち、後に形成された線状溝の抜け側の切削面に、バリが発生する。このバリは、製造技術上、完全になくすことができないという事情がある。
【0061】
図5に、本実施形態のロール金型における切削表面を部分的、概略的に示す。図5に概略的に示すように、本実施形態のロール金型は、ロール長さ方向に対して第1の傾斜角度で平行に並ぶ第1の線状溝群110Aと、ロール長さ方向に対して第2の傾斜角度で平行に並ぶ第2の線状溝群110Bとを含む。また、これら第1の線状溝群110A及び第2の線状溝群110Bは、互いに交差しており、それにより複数の(図5では4個の)交差点が形成されている。なお、第1の線状溝群110A又は第2の線状溝群110Bの一方は、ロール長さ方向に平行(即ち、傾斜角度が0°)であってもよい。
【0062】
ここで、図5(及び図6図7)において、括弧書きの数字((1)~(4))は、ロール金型の製造の際の切削の順序を示し、矢印は、切削の向きを示す。図5では、ロール長さ方向における一方の向き(向きP)及び他方の向き(向きN)の交互の切削が行われている。このとき、(2)回目の切削では、既に形成された(1)回目の切削溝と交差するように向きNへ切削するため、これら(1)回目と(2)回目の交差点のうち、(2)回目の切削溝の抜け側の切削面に、バリ111が発生する。同様に、(3)回目の切削では、既に形成された(2)回目の切削溝と交差するように向きPへ切削するため、これら(2)回目と(3)回目の交差点のうち、(3)回目の切削溝の抜け側の切削面に、バリ111が発生する。同様に、(4)回目の切削では、既に形成された(1)回目の切削溝、次いで(3)回目の切削溝と交差するように向きNへ切削するため、(1)回目と(4)回目の交差点のうち、(4)回目の切削溝の抜け側の切削面、及び、(3)回目と(4)回目の交差点のうち、(4)回目の切削溝の抜け側の切削面に、それぞれバリ111が発生する。
【0063】
図6は、図5の切削表面を模式的に表した図である。かかる切削表面には、第1の線状溝群110Aと第2の線状溝群110Bとが交差して、複数の交差点112が形成される。そして、かかる複数の交差点112は、上述したような切削ステップを行ったことで、向きPへの切削に由来するバリ111が形成された交差点P(112P、実線の丸囲み)と、向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点N(112N、破線の丸囲み)とを含むこととなる。
【0064】
また、図7は、本発明の別の実施形態のロール金型における切削表面を、図6と同様に模式的に表した図である。図7は、向きPの切削と向きNの切削とが交互に行われている点で図6と共通するが、線状溝の形成順序が図6と相違する。図7における複数の交差点112も、向きPへの切削に由来するバリ111が形成された交差点P(112P、実線の丸囲み)と、向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点N(112N、破線の丸囲み)とを含むこととなる。
【0065】
上述したような、向きPの切削(P切削ステップ)と向きNの切削(N切削ステップ)とを交互に繰り返しながら、交差する複数のスラスト溝又は斜めスラスト溝を外周面に形成して得られる本実施形態のロール金型は、従来のロール金型製造装置で作製したものとの対比において、新規である。
【0066】
本明細書において、「向きPへの切削」とは、向きPのベクトル成分を含む向きへの切削を包含することとする。同様に、「向きNへの切削」とは、向きNのベクトル成分を含む向きへの切削を包含することとする。
【0067】
なお、向きPへの切削に由来するバリが形成された交差点Pは、好ましくは、向きNへの切削に由来するバリが形成されていない。同様に、向きNへの切削に由来するバリが形成された交差点Nは、好ましくは、向きPへの切削に由来するバリが形成されていない。
【0068】
本実施形態のロール金型の母材については、ロール基材100’の母材について既述したものと同様である。
【0069】
本実施形態のロール金型は、複数本の線状溝(第1の線状溝群及び/又は第2の線状溝群)が所定のピッチで等間隔に並んでいることが好ましいが、ある程度のピッチの誤差も許容されるものとする。また、ロール金型の設計のバリエーションにおいて、複数本の線状溝(第1の線状溝群及び/又は第2の線状溝群)がランダムなピッチで形成されてもよい。
【0070】
本実施形態のロール金型は、ロール長さ方向又はロール長さ方向に対して傾斜した方向に延びる線状溝に加えて、ロール円周方向の複数本の線状溝を備えてもよい。
【0071】
なお、線状溝の構造は、転写によって当該線状溝に対応する線状凸部を樹脂に形成し、かかる線状凸部の断面を、レーザー顕微鏡等の光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡などで観察することにより、測定することができる。また、バリは、ロール金型における線状溝同士の交差箇所(交差点)を顕微鏡などで観察することにより、確認することができる。
【0072】
本実施形態のロール金型において、複数本の線状溝の数は、特に限定されず、800以上100000以下とすることができる。
【0073】
本実施形態のロール金型の直径としては、特に限定されないが、例えば、130mm以上1000mm以下とすることができる。また、本実施形態のロール金型における線状溝(第1の線状溝群及び第2の線状溝群)のピッチとしては、特に限定されないが、例えば、それぞれ独立して30μm以上500μm以下とすることができる。
【0074】
(転写物)
本発明の一実施形態の転写物(以下、「本実施形態の転写物」と称することがある。)は、基材上に硬化性樹脂が配置され、複数本の線状凸部を当該硬化性樹脂の表面に備える転写物であって、
前記複数本の線状凸部は、第1の方向に平行に並ぶ第1の線状凸部群と、第2の方向に平行に並ぶ第2の線状凸部群とを含み、
前記第1の線状凸部群と前記第2の線状凸部群とが交差して、複数の交差点が形成され、
前記硬化性樹脂の表面形状が、上述のロール金型の外周面の反転形状である、ことを特徴とする。
【0075】
本実施形態の転写物は、上述した本実施形態のロール金型を用い、その表面形状を、基材上に配置された硬化性樹脂に転写することで製造することができる(形状転写法)。従って、本実施形態の転写物における転写面の形状は、本実施形態のロール金型の外周面の反転形状に相当する。具体的に、本実施形態の転写物における複数本の線状凸部の形状は、本実施形態のロール金型における複数本の線状溝の反転形状に相当する。
【0076】
形状転写法としては、例えば、溶融転写、熱転写、UV(紫外線)転写等が挙げられる。
【0077】
本実施形態の転写物は、シート状(転写シート或いは転写フィルム)とすることができる。
【0078】
基材の材質としては、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、ポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、塩化ビニル等が挙げられる。
【0079】
硬化性樹脂としては、エポキシ系硬化性樹脂、アクリル系硬化性樹脂等の紫外線硬化性樹脂が挙げられる。また、硬化性樹脂には、必要に応じて、フィラー、機能性添加剤、無機材料、顔料、帯電防止剤、増感色素等を適宜配合してもよい。
【0080】
なお、線状凸部の構造は、その断面を、レーザー顕微鏡等の光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡などで観察することにより、測定することができる。
【0081】
本実施形態の転写物における複数本の線状凸部(第1の線状凸部群及び第2の線状凸部群)のピッチとしては、特に限定されないが、例えば、それぞれ独立して30μm以上500μm以下とすることができる。
【実施例0082】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0083】
(比較例1)
図4に示す構成を有するロール金型製造装置を準備した。具体的に、ロール基材100’としては、直径250mm、長さ1350mm、金属製の円柱状のロール基材を用いた。切削刃50aとしては、ダイヤモンド刃を用いた。そして、切削向きを回転駆動部11側から回転従動部12側への向きに決定した上で、上述の(1)~(4)の工程を1ターンとして、ロール基材100’をピッチ分だけ回転する操作を適宜挟みながら、8000ターン繰り返した。こうして、ロール基材表面に、スラスト方向の線状溝を8000本形成した。
【0084】
その結果、1ターン当たりの時間は、およそ15秒であり、全体の加工時間は、およそ32時間であった。
【0085】
(実施例1)
図1に示す構成を有するロール金型製造装置を準備した。具体的に、Z軸方向(ロール長さ方向)及びX軸方向(ロール径方向)にそれぞれ移動可能な加工ステージ30を設けた。また、X-Z平面に垂直なB軸回りに回転する機構を有するとともに、第1切削刃51及び第2切削刃52がB軸の放射方向に先端が向くように並んで搭載させた切り替えステージ40を、加工ステージ30上に載置した。第1切削刃51及び第2切削刃52は、互いに逆の向きで、6°の離間にて切り替えステージ40に搭載させた。この位置関係により、一方の切削刃をX軸に平行にして(ロール基材100’に対向させて)所定深さに切削するときには、他方の切削刃はロール基材から退避される。また、ロール基材100’は、比較例1と同じものとし、2つの切削刃の材質も、比較例1と同じとした。
【0086】
P切削ステップ開始時には、第1切削刃51がX軸に平行になるよう、事前に切り替えステージ40をB軸回りに回転させ、また、N切削ステップ開始時には、第2切削刃52がX軸に平行になるよう、事前に切り替えステージ40をB軸回りに回転させておくようにした。そして、既述した、「P切削ステップ、切削刃の切り替え、N切削ステップ、切削刃の切り替え」を1ターンとして、8000ターン繰り返した。こうして、切削パターンが比較例1と同様となるように、ロール基材表面に、スラスト方向の線状溝を8000本形成した。
【0087】
その結果、全体の加工時間は、およそ20時間であった。即ち、スラスト方向の線状溝の形成について、本発明の製造方法により、加工時間を従来対比でおよそ12時間短縮することができた。
【0088】
(比較例2)
本例では、図4に示す構成を有するロール金型製造装置を用い、切削刃50aとしては、V形状のダイヤモンドバイトを用いて、ロール基材の長さ方向に対して30°傾斜した方向及び-30°傾斜した方向(斜めスラスト方向)の複数本の線状溝を形成した。具体的に、切削向きを回転駆動部11側から回転従動部12側への向きに決定した上で、上述の(1)~(4)の工程を複数ターン繰り返して、ロール基材表面に一方の方向の線状溝を複数本形成した。当該方向の溝形成が完了した後、切削向きを回転従動部12側から回転駆動部11側への向きに決定した上で、上述の(1)~(4)の工程を複数ターン繰り返して、ロール基材表面に他方の方向の線状溝を複数本形成した。得られたロール金型においては、30°傾斜した方向の線状溝と-30°傾斜した方向の線状溝とが交差して、四角錘の凸部が形成された。
【0089】
その結果、全体の加工時間は、およそ75時間であった。
【0090】
(実施例2)
本例では、図1に示す構成を有するロール金型製造装置を用い、実施例2と同様の操作を、ロール基材を回転させながら適切に行った。こうして、切削パターンが比較例2と同様となるように、ロール基材表面に、ロール基材の長さ方向に対して30°傾斜した方向及び-30°傾斜した方向(斜めスラスト方向)の複数本の線状溝を形成した。
【0091】
その結果、全体の加工時間は、およそ46時間であった。即ち、斜めスラスト方向の線状溝の形成について、本発明の製造方法により、加工時間を従来対比でおよそ29時間短縮することができた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、ロール表面に対して複数本の溝を高精度に形成できる上、加工時間の短縮化が図られた、ロール金型の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上述した製造方法によって製造することが可能なロール金型、及び、かかるロール金型を用いた転写により得ることが可能な転写物を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 ロール金型製造装置
10 回転装置
11 回転駆動部
12 回転従動部
30 加工ステージ
40 切り替えステージ
51 第1切削刃
52 第2切削刃
100’ ロール基材
100 ロール金型
110 線状溝
110A 第1の線状溝群
110B 第2の線状溝群
111 バリ
112P、112N 交差点
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7