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特開2022-155557トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法、食用組成物の製造方法、及びトリゴネリン含有植物抽出物
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  • 特開-トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法、食用組成物の製造方法、及びトリゴネリン含有植物抽出物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155557
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法、食用組成物の製造方法、及びトリゴネリン含有植物抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20221005BHJP
   A61K 31/4425 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 36/31 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 36/74 20060101ALI20221005BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 31/14 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20221005BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/4425
A61K36/31
A61K36/74
A61P25/28
A61K31/14
A61K31/197
A61K31/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053606
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021056822
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】須藤 亨
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD48
4B018MD53
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZA16
4C088AB14
4C088AB15
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA33
4C088CA05
4C088CA08
4C088CA13
4C088CA14
4C088MA52
4C088NA20
4C088ZA16
4C206FA42
4C206FA45
4C206HA32
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA20
4C206ZA16
(57)【要約】
【課題】固形分当たりのトリゴネリン含有比率が高く、食用素材として好適なトリゴネリン含有植物抽出物、及び当該植物抽出物の製造方法の提供。
【解決手段】トリゴネリンを含有する植物から、トリゴネリンを含有する抽出物を調製する抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させた後、固液分離処理によって前記吸着剤を除去する吸着剤処理工程と、を有する、トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリゴネリンを含有する植物から、トリゴネリンを含有する抽出物を調製する抽出工程と、
前記抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させた後、固液分離処理によって前記吸着剤を除去する吸着剤処理工程と、を有する、トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記トリゴネリンを含有する植物が、アブラナ科植物である、請求項1に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記トリゴネリンを含有する植物が、根菜類である、請求項1に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記トリゴネリンを含有する植物が、ダイコンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記トリゴネリンを含有する植物が、アカネ科植物である、請求項1に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項6】
前記トリゴネリンを含有する植物が、コフィア属植物である、請求項1に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項7】
前記トリゴネリンを含有する植物が、コーヒー生豆である、請求項1~3のいずれか一項に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項8】
前記抽出工程において、前記トリゴネリンを含有する植物から、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び、2-プロパノールからなる群より選択される1種以上の溶媒を抽出溶媒として、トリゴネリンを抽出する、請求項1~7のいずれか一項に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項9】
前記吸着剤処理工程において、前記吸着剤と前記抽出物を、pH6.5~7.5で接触させる、請求項1~8のいずれか一項に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によってトリゴネリン含有植物抽出物を製造し、
得られたトリゴネリン含有植物抽出物を原料として、食用組成物を製造する、食用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記食用組成物が、健康の維持又は促進のために摂取される飲食品又は食品添加物である、請求項10に記載の食用組成物の製造方法。
【請求項12】
トリゴネリンを含有する植物の抽出物から、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤とpH6.5~7.5で吸着する物質が除去されており、
前記植物が、アブラナ科植物又はアカネ科植物である、トリゴネリン含有植物抽出物。
【請求項13】
前記植物が、ダイコン又はコーヒー生豆である、請求項12に記載のトリゴネリン含有植物抽出物。
【請求項14】
トリゴネリンとコリンを含有し、トリゴネリンとコリンの合計含有量が、抽出物全体の1質量%以上である、トリゴネリン含有植物抽出物。
【請求項15】
トリゴネリンと、コリン、GABA、及びアルギニンからなる群から選択される1種以上とを含有し、トリゴネリン、コリン、GABA、及びアルギニンの合計含有量が、抽出物全体の1質量%以上である、トリゴネリン含有植物抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリゴネリンを含有する植物から調製される、トリゴネリン含有植物抽出物、及び当該植物抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、治療薬は、疾患に対して即効性の効果を有することが求められており、このため、医薬品の多くは化学合成品である。しかし、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を目指す上では、生活習慣の改善や疾病予防が求められており、医薬品ではなく、栄養補助食品(サプリメント)や機能性食品のような形態での摂取が望まれている。
【0003】
食品に近い形態で摂取する場合、比較的安全に摂取可能のものであることが好ましく、このため、有効成分は、化学合成品ではなく、農作物のような食用可能な植物由来成分が好ましい。ただし、農作物の多くは露地栽培であり、自然環境に強く影響されるため、必要量の薬効成分を保有する植物体を安定して供給することは難しい場合がある。このような場合でも、特許文献1に記載されている水耕栽培装置を利用することにより、自然環境に強く影響される露地栽培では難しい環境条件の調節が可能となり、目的の品質の農作物を安定的に供給することが可能になる。
【0004】
例えば、アルツハイマー型認知症は、記憶障害や学習障害等の認知障害をもたらす認知症の一種であって、高齢者が罹患する最も一般的な病である。同疾患の発病前に起きる、軽度認知障害(MCI)という前駆的時期から認知症への移行の予防が重要とされ、生活習慣や食生活の中で改善できる予防方法が求められている。栄養補助食品の形態で摂取することにより脳機能や血行を改善してアルツハイマー型認知症を予防することが期待されるものとして、イチョウ葉抽出物のような植物抽出物が利用されている。また、薬効成分としてチロソールを含む植物コウケイテン抽出物も、アルツハイマー型認知症の予防や治療に有効であると報告されている(特許文献2)。
【0005】
また、近年、桜島大根に含まれるトリゴネリンの成分が、血管内皮細胞による一酸化窒素(NO)の産生を高める力があることが報告されている(非特許文献1)。NOは、血管を拡張させて血圧を下げたり、血小板凝集を抑えて動脈硬化を防いだりする作用がある。また、トリゴネリンを含有するコーヒー生豆エキスと、イチョウ葉エキス及び/又はココアを有効成分とする組成物は、脳機能改善作用を有しており、アルツハイマー型認知症の予防及び治療効果が期待できることが報告されている(特許文献3)。一方で、トリゴネリンは水溶性が高いため、トリゴネリンを誘導体化剤として用いる化学的改変により、様々な薬効成分の溶解度や薬物動態特性を改善した新規化合物の合成も試みられている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/093410号
【特許文献2】特開2020-176111号公報
【特許文献3】特開2018-070464号公報
【特許文献4】特表2019-508505号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sasaki et al., Nutrients, 2020, 1872(12), doi:10.3390/nu12061872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決すべき課題は、固形分当たりのトリゴネリン含有比率が高く、食用素材として好適なトリゴネリン含有植物抽出物、及び当該植物抽出物の製造方法を提供すること等である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ねたところ、トリゴネリンを含有する植物から極性溶媒で抽出したトリゴネリン含有植物抽出物に対して、活性炭処理又は強酸性陽イオン交換樹脂処理を行うことにより、植物から抽出されたトリゴネリン以外の様々な成分とは分離した状態でトリゴネリンを回収できるため、固形分当たりのトリゴネリン含有比率を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一態様に係るトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法は、トリゴネリンを含有する植物から、トリゴネリンを含有する抽出物を調製する抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させた後、固液分離処理によって前記吸着剤を除去する吸着剤処理工程と、を有する。
本発明の第二態様に係る食用組成物の製造方法は、前記トリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によってトリゴネリン含有植物抽出物を製造し、得られたトリゴネリン含有植物抽出物を原料として、食用組成物を製造する。
本発明の第三態様に係るトリゴネリン含有植物抽出物は、トリゴネリンを含有する植物の抽出物から、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤とpH6.5~7.5で吸着する物質が除去されており、前記植物が、アブラナ科植物又はアカネ科植物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、固形分当たりのトリゴネリン含有比率が高く、食用素材として好適なトリゴネリン含有植物抽出物を、比較的簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において、吸着剤処理後のダイコン葉抽出物乾燥粉末を精製水に溶解させた水溶液を、ODSカラムで精製した際のクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
トリゴネリンは、下記式で表される化合物(1-メチルピリジン-1-イウム-3-カルボキシラート)(CAS No.:535-83-1)である。トリゴネリンは、血管内皮細胞による一酸化窒素(NO)の産生を高める力があることが報告されており(非特許文献1)、脳内の神経変性を抑え、アルツハイマー型認知症の予防の効果を発揮できる可能性がある。すなわち、トリゴネリンは、ヒトを含む動物の健康の維持や促進、疾病の予防等を目的として摂取される機能性素材として有用な成分である。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明の一実施形態に係るトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法は、トリゴネリンを含有する植物から、トリゴネリンを含有する抽出物を調製する抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させた後、固液分離処理によって前記吸着剤を除去する吸着剤処理工程と、を有する。トリゴネリンを含有する植物からトリゴネリンを抽出する場合、トリゴネリン以外の様々な物質も当該植物から同時に抽出される。植物体に含有されているトリゴネリンの量は微量であり、比較的トリゴネリン量の多い植物であっても、植物抽出物の固形分1g当たり、数mgのトリゴネリンが含まれている程度に過ぎない。このため、得られた植物抽出物の固形分当たりのトリゴネリン含有比率は非常に低く、また、食用素材としてはあまり好ましくない成分を含む場合も多い。本発明においては、植物抽出物を特定の吸着剤処理することにより、トリゴネリン以外の夾雑物の多くが除去され、植物抽出物の固形分当たりのトリゴネリン含有比率を高めることができる。
【0017】
[トリゴネリンを含有する植物]
トリゴネリンは、様々な植物に広く含有されている物質である。本発明において、植物抽出物の原料として用いられる植物は、トリゴネリンを含有していればよく、特に限定されるものではないが、可食性の植物であることが好ましい。可食性の植物から抽出することにより、得られた植物抽出物をより安全に摂取できる。
【0018】
トリゴネリンを含有している可食性の植物としては、例えば、ダイコン、ハツカダイコン、ホースラディッシュ、カブ、カリフラワー、ブロッコリー、キャベツ、メキャベツ、クレソン、ケール、ルッコラ、コマツナ、チンゲンサイ、カラシナ、タカナ、ハクサイ、ミズナ、アブラナ等のアブラナ科植物;カボチャ、キュウリ、ゴーヤ、ズッキーニ、トウガン、ヘチマ、ヒョウタン、メロン、スイカ、マクワウリ等のウリ科植物;セロリ、アシタバ、パクチー、セリ、パセリ、ミツバ等のセリ科植物;ゴボウ、ヤーコン、アーティチョーク、シュンギク等のキク科植物;ハス等のハス科植物;ジャガイモ、シシトウ、トウガラシ、トマト、ナス、ピーマン等のナス科植物;サツマイモ、クウシンサイ等のヒルガオ科植物;ダイズ、インゲン、サヤエンドウ、ソラマメ、ヒヨコマメ、ラッカセイ、レンズマメ等のマメ科植物;ショウガ、ミョウガ、ウコン等のショウガ科植物;コーヒー、クチナシ等のアカネ科植物;等が挙げられる。本発明において植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物としては、比較的多くのトリゴネリンを含有していることから、アブラナ科植物、ウリ科植物、セリ科植物、マメ科植物、ショウガ科植物、又はアカネ科植物が好ましく、ダイコン、カボチャ、セロリ、ダイズ、ショウガ、コーヒー等がより好ましい。
【0019】
本発明において、植物抽出物の原料としては、トリゴネリンを含有する植物のうち、いずれの組織を用いてもよい。例えば、植物体全体を用いてもよく、葉、茎、花、実、根、地下茎等のいずれかを用いてもよい。本発明においては、組織の外皮が柔らかく、トリゴネリン抽出が比較的容易であることから、葉、茎、実を用いることが好ましく、葉を用いることがより好ましい。なかでも、根菜類の葉は、その多くは可食性であり、かつ食用としては廃棄されやすい部分であり、植物抽出物の原料として用いることは、廃物利用の点でも好ましい。根菜類としては、ダイコン、カブ、ハツカダイコン、ホースラディッシュ、ゴボウ、ヤーコン、ジャガイモ、サツマイモ、ショウガ等が挙げられる。
【0020】
本発明において、植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物としては、ダイコン、ハツカダイコン、ホースラディッシュ等のアブラナ科ダイコン属の植物が好ましく、ダイコンがより好ましい。使用されるダイコンの品種は特に限定されるものではないが、特にトリゴネリン含有量が多いことから、桜島大根が好ましい。桜島大根が特にトリゴネリン含有量が多い理由は明らかではないが、桜島大根の育成環境は、農産物には極めて厳しい環境であり、その環境に耐えて身を守るために、トリゴネリンの産生量を増大させたのではないかとされている(非特許文献1)。つまり、桜島大根ではなく、より流通量の多い青首大根であっても、桜島大根の栽培環境と同様の環境となるように、栽培環境を制御して栽培することにより、トリゴネリン含有量が多く、本発明における原料植物として好適なダイコンが得られる。栽培環境の制御は、特許文献1に記載されているような水耕栽培装置を用いることにより、容易に行うことができる。
【0021】
本発明において、植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物としては、コーヒー等のアカネ科コフィア属の植物が好ましく、コーヒーがより好ましい。使用されるコーヒーの品種は特に限定されるものではなく、アラビカ種であってもよく、カネフォーラ(ロブスタ)種であってもよく、リベリカ種であってもよい。トリゴネリンは焙煎処理により分解されやすいため、本発明に係る植物抽出物の原料としては、コーヒー生豆を用いる。
【0022】
本発明において、植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物は、いずれの生育環境で生育されたものであってもよい。例えば、露地栽培されたものであってもよく、水耕栽培されたものであってもよく、自然界から採取されたものであってもよい。例えば、特許文献1に記載されているような水耕栽培装置を用いることにより、トリゴネリンの含有量を高められるような比較的厳しい栽培条件で栽培した植物が、年間を通して効率良く安定的に供給される。
【0023】
植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物は、いかなる生育ステージの植物体であってもよい。例えば、植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物としてダイコンを用いる場合、胚軸及び幼根が分かるカイワレダイコンの時期から、成熟した植物体となる時期までの、いずれの時期の植物体を用いてもよい。原料とするダイコンの乾燥重量とトリゴネリン含有量の観点からは、撒種後、60日~90日の植物体を用いることが好ましい。また、収穫後、直ちに抽出工程に供してもよいが、常温又は冷蔵庫で保管したものを、抽出工程に供することもできる。
【0024】
本発明において、植物抽出物の原料として用いられるトリゴネリンを含有する植物は、抽出工程に供される前に、細断(カット)又は破砕しておくことが好ましく、さらに、乾燥させておくことも好ましい。
【0025】
原料とするトリゴネリンを含有する植物の植物体のカット及び乾燥は、常法により行うことができる。例えば、カットは、一般的な家庭用のカット器具、調理用のカット機械等を用いて、乾燥しやすい大きさにカットすればよい。植物体の根部は、表皮と、維管束形成層が分布している形成層輪と、2次形成組織と呼ばれる微小な導通組織を含む柔組織とに分かれているため、根部を原料とする場合には、これらの複雑な組織構造を鑑みてカットすることが好ましい。葉の場合も同様に、その組織構造を鑑みてカットすることが好ましく、茎や葉の部分で枯れている部分は、予め取り除いて用いることが好ましい。
【0026】
カットされた植物体は、温風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の方法を用いて乾燥させることができる。例えば、30℃~40℃の温風を用いた温風乾燥や、-20℃の予備凍結後に真空乾燥を行う方法等により乾燥を行うことができる。乾燥時間は、乾燥方法、植物体の容量、植物体の部位によるが、24時間~72時間が好ましい。成分の揮発、酸化などの化学的変化を鑑みて、カット後は速やかに乾燥させることが好ましい。また、乾燥物は、出工程に供するまで、-80度冷凍庫で保管することができる。
【0027】
植物体の乾燥物は、そのまま抽出工程に供してもよいが、必要に応じて予め粉末化しておいてもよい。植物体の乾燥物の粉末化は、ハンマーミル、回転ミル、ローラーミル、ジェットミル等の公知の粉砕機を用いた粉砕を組み合わせることで行うことができる。本発明においては、例えば、市販の粉砕用ミルを用いて機械的な粉砕をしてもよく、この際には、ブレードの摩擦熱を考慮して、30秒間~1分間以内で完了する容量で粉砕をすることが好ましい。また、抽出効率を鑑みて、植物体の乾燥粉末は、粒径が好ましくは300μm~100μm以下、より好ましくは100μm以下になるように、金属メッシュを用いて複数回ふるいにかける等の方法によって、粒径をできるだけ均一に揃えることが好ましい。得られた植物体の乾燥粉末は、水分の吸湿によるカビや腐敗を防ぐため、真空デシケーター又は乾燥処理機能を有する保管庫の中で保管することが好ましい。保管期間は、試薬類と同様、1年程度の期間内であることが好ましい。
【0028】
[抽出工程]
本発明においては、抽出工程として、トリゴネリンを含有する植物から、トリゴネリンを含有する抽出物を調製する。例えば、トリゴネリンを含有する植物の乾燥物又はその粉末を、抽出溶媒と混合して、植物乾燥物中のトリゴネリンを当該抽出溶媒に抽出させて、植物抽出物を調製する。
【0029】
トリゴネリンは、一分子内に両荷電基を持つベタイン型分子であり、極性溶媒で溶出可能である。このため、植物抽出物の抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましい。また、極性溶媒の中でも特に、飲食品やその素材の調製に使用可能とされている極性溶媒を用いることが好ましい。このような極性溶媒を用いることにより、得られた植物抽出物が、より安全に摂取可能となる。本発明においては、例えば、水(水蒸気を含む)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールを用いることが好ましく、これらのうちの2種以上の混合溶媒を用いることも好ましい。また、これらの極性溶媒に、少量のヘキサンや酢酸エチルのような極性の低い溶媒を混合させた混合溶媒を用いることもできる。本発明において用いられる抽出溶媒としては、安全性及び簡便性の観点から、水(20~40℃)が好ましく、抽出効率の点から水とアルコールの混合溶媒も好ましい。水とアルコールの混合溶媒の場合、アルコールは、特に限定されるものではないが、メタノールであることが好ましく、メタノール含量が5~95質量%の含水メタノールであることがより好ましい。
【0030】
植物乾燥物に対して接触させる抽出溶媒の量は、当該植物乾燥物からトリゴネリンが抽出可能である限り特に限定されない。例えば、簡便性の観点から、植物乾燥物1質量部に対して、例えば10~50質量部、好ましくは10~20質量部の抽出溶媒を用いて抽出を行うことができる。
【0031】
抽出時間及び抽出温度も、当該植物乾燥物からトリゴネリンが抽出可能である限り特に限定されない。一般的には、抽出温度が高い場合にはより短い抽出時間を、抽出温度が低い場合にはより長い抽出時間を、それぞれ採用することができる。例えば、20~40℃の常温水又は40~60℃の温水を用いて、10~60分間、好ましくは20~40分間抽出を実施することができる。
【0032】
[吸着剤処理工程]
次いで、抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させた後、固液分離処理によって前記吸着剤を除去する。これらの吸着剤と接触させることにより、植物から抽出されたトリゴネリン以外の物質を除去でき、固形分当たりのトリゴネリンの含有比率が高い植物抽出物が得られる。また、吸着剤処理により色調や風味に影響する物質が除去されることにより、植物抽出物の色調や風味を改善することもできる。
【0033】
抽出処理により得られた抽出物は、そのまま吸着剤処理工程に供してもよいが、吸着剤処理の効率の点から、吸着剤に接触させる際には、溶媒に溶解又は希釈させた、固形分濃度が1~10質量%の溶液であることが好ましい。当該溶媒としては、抽出溶媒と同じであってもよく、異なっていてもよいが、水又は水にアルコール等を混合した溶媒が好ましい。植物抽出物の濃度を1質量%以上にすることによって、吸着剤による夾雑物の除去効率が著しく良好となる。また、植物抽出物の濃度が10質量%以上の場合においても、植物抽出物溶液の粘度は十分に低いため、特段希釈せずに吸着剤と接触させてもよい。植物抽出物の濃度が10質量%以上の場合、植物抽出物中の成分が活性炭や強酸性陽イオン交換樹脂と接触しやすいという利点がある。例えば、抽出処理により得られた抽出物を、シリカゲルカラム、ODSカラム(オクタデシルシリル基を有する充填剤が充填されたカラム)、イオン交換樹脂(ただし、強酸性陽イオン交換樹脂を除く)等のカラムを用いて分画することにより、トリゴネリンを含む抽出成分を多く含む濃縮液を調製することができる。
【0034】
抽出溶媒が水の場合には、必要に応じて、得られた抽出物を水又は水にアルコール等を溶解させた混合溶媒で希釈する、若しくは、当該抽出物から水を除去して濃縮することにより、固形分濃度が1~10質量%の水溶液に調製することができる。水の除去は、例えば、凍結濃縮法、逆浸透膜による膜濃縮法、超音波霧化分離法等を公知の機器等を用いて実施することができる。抽出溶媒が水以外の場合には、例えば、エバポレーター(遠心式薄膜真空蒸発装置等の真空蒸発装置、減圧濃縮装置等を含む)を用いて溶媒を除去して乾燥粉末とした後、水に再溶解させて適切な濃度の水溶液を調製することができる。
【0035】
吸着剤に接触させる植物抽出物溶液のpHは7付近、例えば、pH6.5~7.5とすることが好ましい。pHが中性付近であることにより、トリゴネリンが活性炭や強酸性陽イオン交換樹脂と結合して失われることを抑制することができる。植物抽出物溶液のpHは、トリゴネリンの回収率以外にも、処理後の植物抽出物の風味や色調に影響がある。pHの調整には、塩酸の使用が好ましいが、リン酸等を使用することもできる。また、クエン酸やコハク酸等の、一般的に飲食品において酸味料として使用されている各種有機酸の中から適宜選択して使用することもできる。
【0036】
吸着剤処理工程では、抽出工程で得られた抽出物を、活性炭及び強酸性陽イオン交換樹脂からなる群より選択される1種以上の吸着剤と接触させて、トリゴネリンをはじめとする所望の成分を吸着剤に吸着させた後、当該吸着剤からこれらの成分を分離するために、固液分離させて当該吸着剤を除去してもよい。
【0037】
(活性炭処理)
本発明において、活性炭に植物抽出物溶液を接触させることにより、植物抽出物中の様々な夾雑物を除去させることができる。トリゴネリンを吸着させるため、当該活性炭は、pH4.0~7.5、好ましくはpH5.5~7.5であることが好ましい。活性炭としては、おがくず、木質チップ、竹、ヤシ殻、石炭、もみ殻等を原料に、ガス賦活処理あるいは薬品賦活処理されたものが挙げられる。使用できる活性炭は、効率の観点から、薬品賦活活性炭であることが好ましい。また、活性炭の形状としては、粉末状であってもよく、適切な賦形剤と共に顆粒化したものであってもよい。
【0038】
接触させる活性炭の添加量は、トリゴネリンの吸着効率を鑑みて、適宜調整することができる。接触させる活性炭の添加量は、例えば、植物抽出物溶液100gに対し、好ましくは50~500g、より好ましくは250gである。植物抽出物溶液100gに対する活性炭の添加量が250gより大きい場合、活性炭による夾雑物除去をも効率良く行うことができ、例えば、褐色物質の除去による色調の改善効果を得ることができる。
【0039】
活性炭を接触させる方法としては、特に制限はなく、植物抽出物溶液に直接活性炭を添加するバッチ方式や、活性炭を充填したカラムに植物抽出物溶液を通液するカラム方式が挙げられる。
【0040】
植物抽出物溶液と活性炭の分離は、固液分離処理を用いて実施することができる。当該固液分離処理としては、例えば、濾紙、フィルタ等を使用する通常の濾別手段を用いて、植物抽出物溶液と活性炭を分離できる。また、分離手段には、静置して活性炭を沈降する沈降分離手段や、水溶液中にバブルを発生してバブルと共に活性炭を浮上させる浮上分離手段や、遠心力により活性炭を分離する遠心分離手段等も含まれる。なお、カラム方式により、活性炭を充填したカラムを使用する場合には、結果として植物抽出物溶液と活性炭を分離することになる。
【0041】
活性炭に接触させる植物抽出物溶液の温度は、好ましくは0~40℃、より好ましくは20~40℃である。処理温度が0℃以上の場合は、植物抽出物溶液の凍結を防止することができる。また、80℃程度に高温にすることにより、活性炭の作用効率が向上することもあるが、本実施形態では、温水程度の中温が好ましい。一方、40℃以下にすることにより、植物抽出物の凝集の発生を抑制することができる。
【0042】
活性炭に吸着させたトリゴネリンは、活性炭に吸着させた物質を乖離させる際に一般的に行われている手法又はその改変方法を用いて、回収することができる。例えば、活性炭に植物抽出物溶液を接触させた際のアルコール濃度よりも高いアルコール濃度の溶媒を溶出用溶媒として、活性炭からトリゴネリンを乖離させることができる。この際に、溶出溶媒のアルコール濃度の濃度勾配をかけて、トリゴネリンが溶出された画分を回収することにより、より濃縮された状態でトリゴネリンを回収することができる。活性炭から乖離させたトリゴネリンを含む画分を、本発明に係るトリゴネリン含有植物抽出物とすることができる。
【0043】
(強酸性陽イオン交換樹脂処理)
本発明において、強酸性陽イオン交換樹脂に植物抽出物溶液を接触させることにより、植物抽出物中の様々な夾雑物を除去させることができる。強酸性陽イオン交換樹脂としては、スチレン系、アクリル系、及びハイドロゲル系の樹脂にスルホン酸基が結合した樹脂
等が挙げられる。また、ゲル型、ポーラス型が挙げられるが、ゲル型が好ましい。樹脂の形態としては、例えば、粉状、球状、繊維状、膜状等が挙げられるが、特に限定はされない。
【0044】
強酸性陽イオン交換樹脂の総イオン交換容量は、植物抽出物溶液100gに対し、好ましくは500~1,000g、より好ましくは1,000gである。強酸性陽イオン交換樹脂に吸着した植物乾燥物由来の物質は、当該樹脂にアンモニア水を添加することによって乖離させて回収することができる。なお、強酸性陽イオン交換樹脂の使用量を増やすことによって処理効率を高めることができる。使用する強酸性陽イオン交換樹脂は、製造コストを鑑みて調整することが好ましい。
【0045】
強酸性陽イオン交換樹脂を接触させる方法として、特に制限はなく、植物抽出物溶液に直接強酸性陽イオン交換樹脂を添加するバッチ方式や、強酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラムに植物抽出物溶液を通液するカラム方式が挙げられる。
【0046】
植物抽出物溶液と強酸性陽イオン交換樹脂の分離は、固液分離処理を用いて実施することができる。当該固液分離処理としては、例えば、濾紙、フィルタ等を使用する通常の濾別手段を用いて、植物抽出物溶液と強酸性陽イオン交換樹脂を分離できる。また、分離手段は、沈降分離手段、浮上分離手段や遠心分離手段等を用いて分離する場合も含まれる。なお、カラム方式により、強酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラムを使用する場合には、結果として植物抽出物溶液と強酸性陽イオン交換樹脂を分離することになる。
【0047】
強酸性陽イオン交換樹脂に接触させる植物抽出物溶液の温度は、活性炭の条件と同様とし、植物抽出物溶液の温度は、好ましくは0~40℃、より好ましくは20~40℃である。また、植物抽出物溶液のpHは7付近、例えば、pH6.5~7.5とすることが好ましい。
【0048】
強酸性陽イオン交換樹脂に吸着させたトリゴネリンは、強酸性陽イオン交換樹脂に吸着させた物質を乖離させる際に一般的に使用されている溶出用溶媒又はその改変溶媒を用いて、当該樹脂から溶出させて回収することができる。当該溶出用溶媒としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の水溶液を用いることができる。この際に、溶出用溶媒に濃度勾配をかけて、トリゴネリンが溶出された画分を回収することにより、強酸性陽イオン交換樹脂に吸着されたトリゴネリン以外物質から分離して、より濃縮された状態でトリゴネリン含有画分を回収することができる。強酸性陽イオン交換樹脂から乖離させたトリゴネリンを含む画分を、本発明に係るトリゴネリン含有植物抽出物とすることができる。
【0049】
本発明における吸着剤処理工程では、活性炭処理のみを行ってもよく、強酸性陽イオン交換樹脂処理のみを行ってもよく、両処理を組み合わせて行ってもよい。例えば、植物抽出物溶液に対して、まず活性炭処理を行った後、活性炭を除去した後の水溶液を強酸性陽イオン交換樹脂処理してもよい。
【0050】
[トリゴネリン含有植物抽出物]
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、トリゴネリンを含有している植物から抽出された吸着剤未処理の抽出物に比べて、活性炭や強酸性陽イオン交換樹脂とpH6.5~7.5で吸着しない物質が除去されているため、抽出物全体の固形分当たりのトリゴネリン含有量が多い。本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物(すなわち、吸着剤処理後の植物抽出物)のトリゴネリンの含有量としては、抽出物全体の乾燥固形分100g当たり、20mg以上が好ましく、40mg以上がより好ましく、100mg以上がさらに好ましい。また、本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物の抽出物全体に対するトリゴネリンの含有比率は、1質量%以上が好ましい。
【0051】
本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物に含まれているトリゴネリンは、塩の形状であってもよい。本発明及び本願明細書において、トリゴネリン塩とは、薬学的に許容でき、トリゴネリンと塩基との反応により得られる塩をいい、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0052】
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、必要に応じて、適宜希釈や濃縮を行うことができる。希釈や濃縮は、前記抽出工程で得られた抽出物と同様の方法で行うことができる。
【0053】
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、溶媒を含む液体であってもよく、溶媒を留去し、乾燥させた固体であってもよい。乾燥物として得られた固形分の形態は、粉砕して粉末にしたものであってもよい。
【0054】
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、そのまま食用素材として用いてもよく、必要に応じて公知の賦形剤を添加して粉末化又は顆粒化し、これを食用素材としてもよい。トリゴネリンの含有比率を高めて、寄り少量で有効な食用素材とするために、賦形剤を添加した後、賦形剤を添加後更に濃縮し、これを粉末化又は顆粒化してもよい。なお、食用素材とは、経口摂取可能な組成物の原料となる素材を意味する。ここで、経口摂取可能な組成物には、飲食品のみならず、医薬品も含まれる。
【0055】
賦形剤としては、医薬品、サプリメント等に一般に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、乳糖、麦芽糖、還元麦芽糖水飴、デンプン、デキストリン、セルロース等を用いることができる。乾燥物の形状及び品質の安定性の観点から、好ましくはデキストリンを用いる。トリゴネリン含有植物抽出物の乾燥・粉末化は、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の方法を用いることができ、必要に応じてハンマーミル、回転ミル、ローラーミル、ジェットミル等公知の粉砕機を用いた粉砕を組み合わせることができる。
【0056】
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物には、トリゴネリンと同様に原料の植物から抽出された各種成分も含まれている。当該成分としては、例えば、コリン等のビタミン類や、アミノ酸等が挙げられる。つまり、前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、トリゴネリンだけではなく、ビタミン類やアミノ酸を含有するため、当該トリゴネリン含有植物抽出物を食用素材として用いることにより、トリゴネリンに加えてビタミン類やアミノ酸を含有する飲食品等を、ビタミン類やアミノ酸を別添することなく製造することができる。なお、本願明細書においては、ビタミンとビタミン様物質を総称して「ビタミン類」という。ビタミン様物質とは、ビタミンに類似した作用を持つが、ヒト体内で合成可能であり、欠乏症が起こらない物質をいう。
【0057】
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、必要に応じて、含まれているトリゴネリンを誘導体化してもよい。「トリゴネリン誘導体」とは、トリゴネリンの効果と同等の効果を得ることができ、薬学的に許容できる範囲でトリゴネリンの構造の一部を改変させた化合物をいう。トリゴネリン誘導体の構造は、特に限定されるわけではなく、例えば、トリゴネリンの側鎖のカルボキシル基又はヒドロキシル基を他の基に置換した化合物、及びトリゴネリン中のピリジン環の水素原子を他の置換基に置き換えた置換化合物等が挙げられる。置換基の例としては、例えば、抽出溶媒含有のアルコール等によるエステル化が挙げられるが、これに限定されない。また、トリゴネリン含有植物抽出物中に含まれているトリゴネリン以外の物質、例えばコリン等を、トリゴネリンと同様に誘導体化してもよい。これらの誘導体は、塩の形状でトリゴネリン含有植物抽出物中に含まれていてもよい。
【0058】
本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物は、前記吸着剤処理により、雑多な夾雑物と共に、色調や風味に影響する物質も除去されている。このため、当該トリゴネリン含有植物抽出物は、風味や外観にほとんど影響を与えずに、様々な飲食品に対して安全に充分な量を添加することができ、非常に優れた食用素材である。
【0059】
トリゴネリンは、血管内皮細胞による一酸化窒素(NO)の産生を高める力があり、脳内の神経変性を抑え、アルツハイマー型認知症の予防の効果を発揮できる可能性がある。このため、本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物は、脳機能改善素材や血行改善素材として有用であり、健康の維持又は促進のために摂取される飲食品又は食品添加物の原料として公的である。
【0060】
特に、ダイコンやコーヒーを原料として前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物には、トリゴネリンに加えて、コリン、GABA(γ-アミノ酪酸)、及びアルギニンからなる群より選択される1種以上を含む。コリンは、トリゴネリンと同様に、脳機能改善素材・血行改善素材として、サプリメント等に含有されている薬効成分である。GABAは脳機能改善素材として、アルギニンは血行改善素材として、いずれもサプリメント等に含有されている薬効成分である。つまり、ダイコンやコーヒーを原料として前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物を食品素材とすることにより、トリゴネリン、コリン、GABA、及びアルギニンをさらに原料として添加することなく、これ等を含有する飲食品等を製造することができる。トリゴネリン含有植物抽出物が、トリゴネリンに加えて、コリン、GABA、及びアルギニンからなる群より選択される1種以上を含有する場合、トリゴネリン、コリン、GABA、及びアルギニンの合計含有量が、抽出物の固形分全体の1質量%以上であることが好ましい。なお、トリゴネリン含有植物抽出物が、コリン、GABA、及びアルギニンのうちの1種又は2種を含有していない場合には、当該トリゴネリン含有植物抽出物の「トリゴネリン、コリン、GABA、及びアルギニンの合計含有量」は、含有されていない成分の含有量を0mgとして測定される。
【0061】
特に、活性炭処理を行って得られたトリゴネリン含有植物抽出物は、トリゴネリンに加えてコリンを含有している。すなわち、活性炭処理を行って得られたトリゴネリン含有植物抽出物には、トリゴネリンとコリンの2種類の薬効成分が含まれており、機能改善素材・血行改善素材として非常に好適である。トリゴネリン含有植物抽出物がトリゴネリンとコリンを含有する場合、トリゴネリンとコリンの合計含有量が抽出物の固形分全体の1質量%以上であることが好ましい。
【0062】
[食用組成物の製造方法]
前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物は、そのまま、又は適宜濃縮や粉末化・顆粒化等したものを、食用素材として用いることができる。すなわち、本実施形態の食用組成物の製造方法は、前記のトリゴネリン含有植物抽出物の製造方法によって製造されたトリゴネリン含有植物抽出物を原料として、食用組成物を製造する。
【0063】
本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物を原料として製造される食用組成物としては、特に限定されるものではなく、飲食品、食品添加物、医薬品、医薬品添加物等が挙げられる。飲食品としては、一般の加工食品の他に、健康食品、機能性食品、濃厚流動食、栄養補助食品等の健康の維持又は促進のために摂取される飲食品が挙げられる。例えば、本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物は、清涼飲料水、サプリメント等に配合することができるが、特にこれらへの配合に限定させるものではない。
【0064】
本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物を配合する食用組成物の形態は特に限定されるものではなく、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、液体状等のいずれであってもよい。また、当該食用組成物には、飲食品や医薬品中に含有させることが認められている公知の添加物、例えば、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、乳化剤、甘味料、香料、増量剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、食品添加物、調味料等を適宜含有させることができる。
【0065】
発明に係る食用組成物の製造方法において、食用組成物中の本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物の配合量は、形態や利用方法などに応じて適宜決めることができる。例えば、本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物を配合して製造加工する場合、食用組成物の全量中、本実施形態のトリゴネリン含有植物抽出物を、固形分換算で、0.1~10mg、好ましくは0.1~3.0mg、さらに好ましくは0.1~1.0mg程度を含有するように食用組成物を製造することもできる。
【実施例0066】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
[実施例1]
ダイコンの葉からトリゴネリンを抽出し、得られたダイコン葉抽出物を吸着剤処理して精製した。
【0068】
(1)葉抽出物の調製
まず、ダイコンの葉を適当な大きさにカットした後、30~40℃の温風で乾燥させ、さらに粉砕用ミルを用いて粉砕した。得られたダイコン葉乾燥粉末に、50%メタノール含有水(水:メタノール=50:50(容量比))を、ダイコン葉乾燥粉末1gに対して10gとなる割合で混合した。得られた混合物を、室温で、20分間の超音波処理し、さらに2時間撹拌した後、吸引濾過を行うことにより、トリゴネリンを含有するダイコン葉抽出物を得た。
【0069】
(2)ダイコン葉抽出物溶液の調製
得られたダイコン葉抽出物溶液を、エバポレーターにて減圧濃縮させて、ダイコン葉抽出物溶液を調製した。当該ダイコン葉抽出物溶液は、pH7付近であった。
【0070】
(3)吸着剤処理
(活性炭処理)
前記ダイコン葉抽出物溶液を、顆粒状活性炭を充填させたカラムに液温25℃で通過させて、当該活性炭にトリゴネリンを含む成分を吸着させた。次いで、当該活性炭から、トリゴネリンを含む画分を回収した。トリゴネリンを含む画分の回収は、具体的には、当該活性炭に、ダイコン葉抽出物溶液時のメタノール濃度(50%)から100% メタノール濃度まで濃度勾配を上げた溶出用溶媒を通過させて、当該活性炭に吸着した各種物質を濃度勾配に準じて乖離させた。当該活性炭から乖離したトリゴネリンを含む画分を、溶出液ごと回収した。
なお、活性炭は、顆粒状の活性炭3種(「SG840」(活性炭A)、「CW130A」(活性炭B)、及び「CW830Z」(活性炭C)、いずれもフタムラ化学社製)を用いた。顆粒状の活性炭は、ダイコン葉抽出物溶液100gに対し100gとなるように、すなわち、3,000gのダイコン葉抽出物溶液に3,000gの顆粒状活性炭を添加した。
【0071】
(強酸性陽イオン交換樹脂処理)
前記ダイコン葉抽出物溶液を、植物乾燥物100gに対し1,000gの強酸性陽イオン交換樹脂A(「DIAION SK1B」、ナトリウムイオン形ゲル型、三菱ケミカル社製)で処理した。具体的には、3,000gのダイコン葉抽出物溶液を、30,000gの強酸性陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに液温25℃で通過させた後、液温25℃でアンモニア水を通過させ、当該陽イオン交換樹脂に吸着したトリゴネリンを含む成分を乖離させた。当該陽イオン交換樹脂から乖離したトリゴネリンを含む画分を、溶出液ごと回収した。
【0072】
(4)吸着剤処理後のダイコン葉抽出物の分析
活性炭処理又は強酸性陽イオン交換樹脂処理後のダイコン葉抽出物に含まれている成分を、ODSカラムを用いて精製した後、LC/MS/MSにより分析した。
【0073】
(ODSカラムによる精製)
まず、活性炭処理又は強酸性陽イオン交換樹脂処理後のダイコン葉抽出物溶液を、ODSカラムに通液させた後、移動相として水とメタノールを使用して、トリゴネリンが含まれていると期待される画分を分取した。得られたクロマトグラムを図1に示す。図1中、ベースライン下の「CV」はカラムボリュームを意味する。例えば、「CV」が1の範囲を、第1番目のカラムに分取した。
【0074】
図1に示すように、溶出開始から1~2カラム目に大きなピークがあり、6~7カラム目に小さなピークがあった。トリゴネリンは水溶性のため、移動相が水100%の時点でODSカラムから乖離する。そこで、溶出開始から1~2カラム目にある大きなピークの分画部分を回収し、これに含まれる成分をLC/MS/MSにより分析した。また、回収したカラムボリュームの水溶液の固形物量より、抽出物重量や回収率を算出した。この結果、当該ピークの画分に含まれている固形分量は、ダイコン葉抽出物の総固形分の1%(質量)程度であった。
【0075】
分取した画分中の植物抽出物の含有量(画分溶液中の固形分量)は、所定の容量の画分溶液をナス型フラスコに分取し、ロータリーエバポレーターで溶媒を減量させた後、-20℃の予備凍結し、さらに-80℃の条件下で凍結乾燥して、残分を植物抽出物の重量として求めた。乾燥時間は、適宜ナス型フラスコを計量し、重量の減量が認められなくなるまで、すなわち、植物抽出物中の水分量が1質量%未満になるまで、乾燥させた。
【0076】
(LC/MS/MS分析)
LC/MS/MSは、以下の条件で行った。
【0077】
測定装置:LCMC-8050(島津製作所社製)
モード:ポジティブモード、ネガティブモード
カラム:Discovery HS F5-3(2.1mm×150mm、3.0μm)
カラム温度:40℃
移動相A:0.1% ギ酸水溶液
移動相B:アセトニトリル
流速:0.2mL/分
注入量:1μL
【0078】
ODSカラムで精製した画分について、LC/MS/MS分析を行ったところ、活性炭処理後のダイコン葉抽出物と強酸性陽イオン交換樹脂処理後のダイコン葉抽出物のいずれにおいても、ポジティブのマススペクトルより、m/z100-300の分子量近傍にのみスペクトルが見られた。これらの結果から、吸着剤処理後のダイコン葉抽出物には、低分子領域の成分のみが含まれていることが確認された。得られたマススペクトルのプロダクトイオンより、組成物解析を行った。
【0079】
表1に、活性炭処理後のダイコン葉抽出物のODSカラム精製後のサンプルの組成物解析の結果を示す。代表的な構成物に対して解析を行ったところ、スペクトル2はトリゴネリンであり、スペクトル3及び4は、移動相由来のトリゴネリンの塩類であった。スペクトル1は、コリンであった。活性炭処理後のダイコン葉抽出物の固形分当たりのトリゴネリンの含有比率は、1質量%程度であり、活性炭処理前のダイコン葉抽出物よりも大幅に改善されていた。
【0080】
【表1】
【0081】
表2に、強酸性陽イオン交換樹脂処理後のダイコン葉抽出物のODSカラム精製後のサンプルの組成物解析の結果を示す。代表的な構成物に対して解析を行ったところ、スペクトル2はトリゴネリンであった。スペクトル1、3、及び4については、アミノ酸類であった。強酸性陽イオン交換樹脂処理後のダイコン葉抽出物の固形分当たりのトリゴネリンの含有比率は、1質量%程度であり、強酸性陽イオン交換樹脂処理前のダイコン葉抽出物よりも大幅に改善されていた。
【0082】
【表2】
【0083】
(5)吸着剤処理後のダイコン葉抽出物の評価
ダイコンに含まれているイソチアシネート(硫黄と窒素を含む化合物)の1種であるラファサチンは、水溶液中で分解して2-チオキソー3-ピロリジンカルバルデヒド(TPC)という抗菌性を示す物質となる。このTPCにアミノ酸であるトリプトファンが結合すると、1-(2’-ピロリジンチオン-3’-イル)―1,2,3,4-テトラヒドロ-β-カルボリン-3-カルボン酸(PTCC)が形成される。このPTCCを中性水溶液中で放置すると、2-[3-(2-チオキソピロリジン-3-イリデン)メチル]-トリプトファン(TPMT)という黄色色素が形成される。このTPMTは、タクアンの黄色の原因成分(タクアン黄色色素)である。さらに、ラファサチンが分解によりTPCになる際に生成されるメタンチオールは、玉ねぎが劣化した際の独特な硫黄臭(タクアン臭)の原因成分である。活性炭や強酸性陽イオン交換樹脂にトリゴネリンが吸着することを抑制するために、これらの吸着剤に接触させるためのダイコン葉抽出物溶液は、中性とすることが好ましい。しかし、中性環境下では、ラファサチンからタクアン黄色色素及びタクアン臭の形成がされやすく、このため、中性のダイコン葉抽出物溶液は、強い褐色であり、タクアン臭がある。
【0084】
一方で、機能性食品素材としては、飲食品に添加した際に当該飲食品本来の風味を損なわないよう、無味無臭であることが好ましく、無色に近い方が好ましい。そこで、各吸着剤処理により得られたダイコン葉抽出物について、風味や色を評価した。
【0085】
(風味評価)
ダイコン葉抽出物の10~30質量%の水溶液を調製し、これの匂いを評価した。風味の評価は、7名のパネラーにより、3段階(評価点1:特有の味、臭いがある、評価点2:やや特有の味、臭いがある、評価点3:無味無臭である)で行った。各サンプルについて、パネラー全員の評価点の平均値を、当該サンプルの評価点とし、評価点に基づいて4段階(1.5未満:風味が悪い、1.5以上2.0未満:風味がやや良好である、2.0以上2.5未満:風味が良好である、2.5以上:風味が非常に良好である)で評価した。評価結果を表3に示す。
【0086】
(色調評価)
ダイコン葉抽出物の10~30質量%の水溶液を調製し、この色調を目視で評価した。色調の評価は、7名のパネラーにより、3段階(評価点1:褐色である、評価点2:やや褐色である、評価点3:無色透明である)で行った。各サンプルについて、パネラー全員の評価点の平均値を、当該サンプルの評価点とし、評価点に基づいて4段階(1.5未満:色調が悪い、1.5以上2.0未満:色調がやや良好である、2.0以上2.5未満:色調が良好である、2.5以上:色調が非常に良好である)で評価した。評価結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
活性炭処理したダイコン葉抽出物は、使用した活性炭の種類にかかわらず、風味と色調の両方とも改善効果が見られた。特に、活性炭Bで処理したダイコン葉抽出物は、無味無臭であり、その水溶液は無色透明であり、食用素材として優れていた。一方で、強酸性陽イオン交換樹脂Aで処理したダイコン葉抽出物は、色調は褐色がなくなり色調は改善されたものの、風味はほとんど改善がみられなかった。
【0089】
[実施例2]
聖護院ダイコン(京都産)と桜島ダイコン(鹿児島産)の葉と茎を原料として、トリゴネリン含有植物抽出物を調製し、各種成分を分析した。
【0090】
具体的には、まず、ダイコンの葉と茎を原料として、実施例1と同様にして、50%メタノール含有水を用いて抽出させてダイコン葉茎抽出物の乾燥粉末を得た。次いで、活性炭Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、当該乾燥粉末を50%メタノール含有水に溶解させたダイコン葉茎抽出物溶液に活性炭処理をした。さらに、実施例1と同様にして、活性炭処理後のダイコン葉茎抽出物に含まれている成分を、ODSカラムを用いて精製した後、LC/MS/MSにより分析した。結果を表4に示す。
【0091】
また、聖護院ダイコンについては、皮を除いた根の部分を原料とした以外は同様にして、ダイコン根抽出物を得、これを活性炭処理した後、ODSカラムを用いて精製して、LC/MS/MSにより分析した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
表4に示すように、聖護院ダイコンと桜島ダイコンのいずれを原料とした場合でも、葉と茎から得られた抽出物の活性炭処理物には、トリゴネリンと共に、コリン、GABA及びアルギニン等のアミノ酸も含まれていた。特に、トリゴネリン、コリン、GABA及びアルギニンの合計量は、抽出物の固形分全量に対して1質量%以上であり、これらが豊富に含まれていた。これらの結果から、ダイコンの種類にかかわらず、ダイコンの葉や茎を原料とすることにより、トリゴネリンを含有する植物抽出物が調製できることが明らかとなった。
【0094】
なお、原料の聖護院ダイコン(京都産)は露地栽培のものを用いた。一般的に、露地栽培の作物は、成育時や収穫時の気候や温度などの環境の影響により、栄養成分値が大きく変動する。特にコリンは、後記参考例1に示すように、ダイコンでは、根よりも皮に多く含まれている。表4に示すように、コリンは、聖護院ダイコンの皮を除いた根の部分からは検出されなかった。これは、原料とした聖護院ダイコンがたまたまコリン含有量の比較的少ないものであったため、もともと含有量が少ない根(皮なし)からは極少量のコリンしか抽出されず、その後の活性炭処理やODSカラム精製によってもロスが生じてしまったものと推察される。
【0095】
[参考例1]
聖護院ダイコン(京都産)の様々な部位について、各種成分を分析した。
【0096】
具体的には、聖護院ダイコンの各部分を原料として、75% メタノール含有水(水:メタノール=25:75(容量比))を用いた混合物を、室温で、ジルコニアビーズを用いてホモジナイズすることにより、トリゴネリンを含有するダイコン抽出物溶液を得た。得られた抽出物溶液は、固相抽出カラム(ODSカラム)に入れ、遠心処理(5000×g、2分間)した。遠心処理後に得られた上清を、超純水にて10倍希釈した後、0.22μm フィルタで濾過した。得られた濾液を分析試料とした。当該分析試料は、測定濃度範囲におさまる様に希釈調整された後、LC/MS/MSにより分析した。LC/MS/MSによる分析は、実施例1と同様にして行った。
【0097】
各部位(n=3)に含有されていたトリゴネリン、コリン、及びGABAの濃度(乾燥重量換算)(μg/g)の測定結果を表5に示す。表中、「葉+茎」は葉と茎を、「皮白」は根の白色部分の皮を、「皮青」は根の青色部分の皮を、「根上(皮なし)」は皮を除いた根の上部分を、「根下(皮なし)」は皮を除いた根の下部分を、それぞれ原料とした抽出物の結果を示す。
【0098】
【表5】
【0099】
表5に示すように、ダイコンのいずれの部分にも、トリゴネリン、コリン、GABAが含有されていた。なかでも、トリゴネリンは、葉と茎に最も多く含まれていた。コリンは根の部分よりも、皮や葉、茎の部分に多く含まれていることが分かった。逆にGABAは、根に最も多く含まれていた。
【0100】
[実施例4]
コーヒー生豆を原料として、トリゴネリン含有植物抽出物を調製し、各種成分を分析した。
【0101】
(1)50%メタノール含有水によるコーヒー生豆抽出物
まず、コーヒー生豆(ジャワ産)を、粉砕用ミルを用いて粒子径100μm程度にまで粉砕し、得られたコーヒー生豆粉末を原料として、実施例1と同様にして、50%メタノール含有水を用いて抽出させてコーヒー生豆抽出物を得た。得られたコーヒー生豆抽出物をエタノール沈殿させ、沈殿物を除去して、上清をコーヒー生豆抽出物溶液として回収した。次いで、活性炭Aを用いた以外は、実施例1と同様にして、当該コーヒー生豆抽出物溶液に活性炭処理をした。さらに、実施例1と同様にして、活性炭処理後のコーヒー生豆抽出物に含まれている成分を、ODSカラムを用いて精製した後、LC/MS/MSにより分析した。結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
(2)熱水によるコーヒー生豆抽出物
コーヒー生豆として、ジャワ品種、サントス品種、及びコロンビア品種の3種を用いた。各品種について、それぞれ以下の通りにして、コーヒー生豆抽出物を得た。
まず、コーヒー生豆を、粉砕用ミルを用いて粒子径100μm程度にまで粉砕した。得られたコーヒー生豆粉末(30g程度)を、3個のお茶用不織布パックにそれぞれ10gずつ充填した後、個別に90℃のお湯100mL(粉末の約10倍量)内で30分間程度なじませた。次いで、バススターラーを用いて90℃で温めながら攪拌(300rpm、30分間)した。その後、室温まで冷却して、30分間静置した後、不織布パックを取り出したものを吸引ろ過し、得られた濾液をコーヒー生豆抽出物とした。それぞれの不織布パックから抽出されたコーヒー生豆抽出物は、コーヒー品種ごとにまとめた。このコーヒー生豆抽出物に対して、活性炭Bを用いた以外は実施例1と同様にして活性炭処理をした。さらに、実施例1と同様にして、活性炭処理後のコーヒー生豆抽出物に含まれている成分を、ODSカラムを用いて精製した後、LC/MS/MSにより分析した。結果を表7に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
表7に示すように、いずれの品種のコーヒー生豆を原料とした場合でも、トリゴネリンとコリンを含有する抽出物が調製できること、特に、ジャワ品種コーヒー生豆とサントス品種コーヒー生豆を原料とした場合には、トリゴネリンとコリンとGABAとアルギニンの全てを含有する抽出物が得られることがわかった。
【0106】
[参考例2]
ショウガの根について、各種成分を分析した。
【0107】
具体的には、家庭用ミルと乳鉢を併用してショウガの根を粉砕した後、100μmふるいを使用して、均一化したショウガ根粉末を得た。75%メタノール含有水(水:メタノール=25:75(容量比))を、得られたショウガ根粉末1gに対して10gとなる割合で混合した。得られた混合物を、室温で、ジルコニアビーズを用いてホモジナイズすることにより、トリゴネリンを含有するショウガ根抽出物を得た。得られた抽出物溶液は、固相抽出カラム(ODSカラム)に入れ、遠心処理(5000×g、2分間)した。遠心処理後に得られた上清を、超純水にて10倍希釈した後、0.22μm フィルタで濾過した。得られた濾液を分析試料とした。当該分析試料は、参考例1と同様にして、LC/MS/MSにより分析した。
【0108】
ショウガ根に含有されていたトリゴネリン、コリン、及びGABAの濃度(乾燥重量換算)(μg/g)の測定結果を表8に示す。表8に示すように、ショウガ根には、トリゴネリン、コリン、GABAが含有されていたことから、ショウガ根を原料とすることにより、トリゴネリン含有植物抽出物が製造できることがわかった。
【0109】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、トリゴネリンを含有する可食性植物から、比較的安全に摂取可能であり、かつ固形分当たりのトリゴネリン含有比率が高く、食用素材として好適なトリゴネリン含有植物抽出物を、比較的簡便に提供することができる。したがって、本発明は、機能性食品や医薬品等の分野において有用である。
図1