(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015556
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220114BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20220114BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20220114BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220114BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L33/32
C23C16/34
C30B29/38 D
C30B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118480
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AA03
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(57)【要約】
【課題】 Inを含むIII 族窒化物半導体層とこの層に隣接する半導体層との間の歪を緩和することの可能なIII 族窒化物半導体素子とその製造方法を提供することである。
【解決手段】 井戸層161はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層162はIII 族窒化物半導体層である。井戸層161を成長させる工程と障壁層162を成長させる工程との少なくとも一方では、井戸層161と障壁層162とを接触させる。井戸層161を成長させる工程および障壁層162を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いる。障壁層162を成長させる工程における水素ガスの流量は、井戸層161を成長させる工程における水素ガスの流量よりも多い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体層を成長させる工程と、
第2半導体層を成長させる工程と、
を有し、
前記第1半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記第2半導体層はIII 族窒化物半導体層であり、
前記第2半導体層のバンドギャップは前記第1半導体層のバンドギャップよりも大きく、
前記第1半導体層を成長させる工程および前記第2半導体層を成長させる工程では、
キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用い、
前記第2半導体層を成長させる工程における前記水素ガスの流量は、
前記第1半導体層を成長させる工程における前記水素ガスの流量よりも多いこと
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第2半導体層を成長させる工程では、
前記水素ガスの流量を線形的に変化させること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層を成長させる工程および前記第2半導体層を成長させる工程では、
前記キャリアガスとして水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層を成長させる工程と前記第2半導体層を成長させる工程との少なくとも一方では、
前記第1半導体層と前記第2半導体層とを接触させること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層を成長させる工程と前記第2半導体層を成長させる工程とでは、
Inを含む原料ガスの流量を同じにすること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量は、
前記第2半導体層を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量よりも多いこと
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第2半導体層を成長させる工程では、
前記第2半導体層の積層方向に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化する組成変化層と、
2つの前記組成変化層に挟まれた中間層と、
を形成すること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第2半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記第2半導体層の平均In組成は前記第1半導体層の平均In組成よりも小さいこと
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層は井戸層であり、
前記第2半導体層は障壁層であること
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体素子の製造方法において、
前記第1半導体層は活性層であり、
前記第2半導体層はガイド層であり、
前記活性層の平均In組成は、
前記ガイド層の平均In組成よりも大きいこと
を含むIII 族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項11】
第1半導体層と、
前記第1半導体層と接触する第2半導体層と、
を有し、
前記第1半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、
前記第2半導体層はIII 族窒化物半導体層であり、
前記第2半導体層のバンドギャップは前記第1半導体層のバンドギャップよりも大きく、
前記第2半導体層は、
前記第1半導体層と接触する面に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化する組成変化層と、
2つの前記組成変化層に挟まれた中間層と、
を含むIII 族窒化物半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、III 族窒化物半導体素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表されるIII 族窒化物半導体では、その組成を変化させることにより、バンドギャップが0.6eVから6eVまで変化する。そのため、III 族窒化物半導体は、近赤外から深紫外までの広い範囲の波長に相当する発光素子、レーザーダイオード、受光素子等に応用されている。
【0003】
例えば、III 族窒化物半導体発光素子においては、発光層は井戸層と障壁層とを有する。井戸層と障壁層とでは組成は異なっており、井戸層と障壁層とはヘテロ結合される。井戸層と障壁層とでは格子定数が異なるため、その界面では歪が生じる。そのため、歪を緩和する技術が開発されてきている。例えば、特許文献1では、井戸層43と障壁層41との間に領域42を設ける技術が開示されている。領域42は井戸層43の格子定数から障壁層41の格子定数に向かって徐々に組成が変化する層である(特許文献1の
図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、発光素子の発光層には井戸層と障壁層で構成される量子井戸構造が用いられる。量子井戸構造において、量子力学により井戸層の厚さがド・ブロイ波長より薄くなると、電子は波動の性質を示すようになる。量子井戸に閉じ込められた電子は跳び跳びのエネルギーを持っており、量子井戸内に不連続な準位(サブバンド)が形成される。サブバンドによるバンド間遷移は通常の遷移に比べて高速なため、光デバイスへの応用の際に、発光効率の向上や応答速度の向上が期待される。
【0006】
しかし、井戸層の格子定数と障壁層の格子定数とが異なるため、井戸層と障壁層との界面で歪が発生する。この歪は大きく2 つの問題を引き起こす。
【0007】
一つ目は、結晶品質の低下である。格子不整合差が大きすぎるとミスフィット転位などの欠陥が発生し、その欠陥が非発光中心となる。また、歪を原因とする3次元成長が起こり半導体の表面平坦性が失われる。その結果、面内不均一な結晶が形成されたり、点欠陥などの非発光中心が形成される。これらは発光素子の効率を低下させる要因である。
【0008】
二つ目は、ピエゾ電界による量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)または量子閉じ込めフランツケルディッシュ効果(QCFK)である。ピエゾ電界により、バンドベンディングが引き起こされると、バンド間遷移のブロードニングによる発光波長のFWHMが増大する。また、電子-正孔の重なりが減少し、発光確率が低下する。
【0009】
このような歪は発光層のみならず、発光層とその上下の層との間にも発生する。このため、上地層または下地層からの歪の影響も大きい。格子不整合差を生じるすべての界面において上記の問題が発生する。このため、可能な限り歪を緩和させることが好ましい。特許文献1の技術では、歪を緩和させる効果が必ずしも十分ではない。
【0010】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、Inを含むIII 族窒化物半導体層とこの層に隣接する半導体層との間の歪を緩和することの可能なIII 族窒化物半導体素子とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法は、第1半導体層を成長させる工程と、第2半導体層を成長させる工程と、を有する。第1半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層はIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層のバンドギャップは第1半導体層のバンドギャップよりも大きい。第1半導体層を成長させる工程および第2半導体層を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いる。第2半導体層を成長させる工程における水素ガスの流量は、第1半導体層を成長させる工程における水素ガスの流量よりも多い。
【0012】
このIII 族窒化物半導体素子の製造方法により製造されたIII 族窒化物半導体素子は、第1半導体層および第2半導体層を有する。第2半導体層の少なくとも一部は、第1半導体層と接触する面に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化する。このため、第1半導体層と第2半導体層との間で歪が十分に緩和されている。
【発明の効果】
【0013】
本明細書では、Inを含むIII 族窒化物半導体層とこの層に隣接する半導体層との間の歪を緩和することの可能なIII 族窒化物半導体素子とその製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の発光素子の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態の発光素子100の発光層160の積層構造とIn組成とバンド構造との間の関係を示す図である。
【
図3】第1の実施形態の発光素子100の発光層160の形成方法を示す図である。
【
図4】第1の実施形態の発光素子100の製造方法を説明するための図(その1)である。
【
図5】第1の実施形態の発光素子100の製造方法を説明するための図(その2)である。
【
図6】従来の発光素子の発光層のバンド構造と原料供給量との間の関係を示す図(その1)である。
【
図7】従来の発光素子の発光層のバンド構造と原料供給量との間の関係を示す図(その2)である。
【
図8】第1の実施形態の変形例における発光素子の発光層の形成方法を示す図である。
【
図9】第2の実施形態のレーザー素子200の概略構成図である。
【
図10】第2の実施形態の変形例におけるレーザー素子400の概略構成図である。
【
図11】第3の実施形態の太陽電池300の概略構成図である。
【
図12】キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その1)である。
【
図13】キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その2)である。
【
図14】キャリアガスに占める水素ガスの流量が0%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。
【
図15】キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.3%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。
【
図16】キャリアガスに占める水素ガスの流量が1.9%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。
【
図17】キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.5%のときのTMIの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフである。
【
図18】キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.5%のときのIn/Ga気相比と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフである。
【
図19】フォトルミネッセンスの強度を示すグラフである。
【
図20】フォトルミネッセンスのFWHMを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、具体的な実施形態について、III 族窒化物半導体素子とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みの比は、概念的に示したものであり、実際の厚みの比を示しているわけではない。
【0016】
(第1の実施形態)
1.半導体発光素子(LED)
図1は、第1実施形態の発光素子100の概略構成図である。発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。
図1に示すように、発光素子100は、基板110と、バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150と、発光層160と、電子ブロック層170と、p型コンタクト層180と、透明電極TE1と、p電極P1と、n電極N1と、を有している。
【0017】
基板110の主面上には、バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150と、発光層160と、電子ブロック層170と、p型コンタクト層180とが、この順序で形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。p電極P1は、透明電極TE1の上に形成されている。ここで、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150とは、n型半導体層である。電子ブロック層170と、p型コンタクト層180とは、p型半導体層である。ただし、これらの層は、ノンドープの層を部分的に含んでいる場合がある。このように、発光素子100は、n型半導体層と、n型半導体層の上の発光層と、発光層の上のp型半導体層と、p型半導体層の上の透明電極TE1と、透明電極TE1の上のp電極P1と、n型半導体層の上のn電極N1と、を有する。
【0018】
基板110は、各半導体層を支持する支持基板である。基板110の主面は、例えば、c面である。基板110は、例えば、サファイア基板、GaN基板、AlN基板、Si基板、SiC基板である。
【0019】
バッファ層120は基板110の主面上に形成されている。サファイア基板のようなヘテロ基板を用いる場合には、バッファ層120は、例えば、低温AlNバッファ層などである。バッファ層120は、それ以外の層であってもよい。GaN基板のようなホモ基板を用いる場合には、バッファ層120はなくてもよい。
【0020】
n型コンタクト層130は、例えば、Siをドープされたn型AlGaN(0≦Al<1)である。n型コンタクト層130は、バッファ層120の上に形成されている。n型コンタクト層130は、n電極N1と接触をしている。
【0021】
n側静電耐圧層140は、半導体層の静電破壊を防止するための静電耐圧層である。n側静電耐圧層140は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n側静電耐圧層140は、例えば、ノンドープのi-AlGaN(0≦Al<1)から成るi-AlGaN層と、Siをドープされたn型AlGaN(0≦Al<1)から成るn型AlGaN層とを積層したものである。
【0022】
n側超格子層150は、発光層160への電子の注入量を制御するための層である。より具体的には、n側超格子層150は、超格子構造を有する。n側超格子層150は、例えば、InGaN(0≦In<1)層と、n型AlGaN(0≦Al<1)層とを繰り返し積層したものである。もちろん、AlGaN層等、その他の半導体層を含んでいてもよい。
【0023】
発光層160は、電子と正孔とが再結合することにより発光する層である。発光層160は、n側超格子層150の上に形成されている。発光層は、少なくとも井戸層と、障壁層とを有している。
【0024】
電子ブロック層170は、発光層160の上に形成されている。電子ブロック層170は、例えば、p型GaN層と、p型AlGaN層と、p型InGaN層とを積層した積層体を、繰り返し形成したものである。電子ブロック層170のp型AlGaN層が、電子をブロックする役割を担う。このため、p型GaN層およびp型InGaN層はなくてもよい。つまり、電子ブロック層170は、単層のp型AlGaN層であってもよい。
【0025】
p型コンタクト層180は、p電極P1と電気的に接続された半導体層である。p型コンタクト層180は、透明電極TE1と接触している。p型コンタクト層180は、電子ブロック層170の上に形成されている。p型コンタクト層180は、例えば、Mgをドープされたp型AlGaN(0≦Al<1)から成る層である。
【0026】
透明電極TE1は、p型コンタクト層180の上に形成されている。透明電極TE1の材質は、ITOである。また、ITOの他に、IZO、ICO、ZnO、TiO2 、NbTiO2 、TaTiO2 の透明な導電性酸化物を用いることができる。
【0027】
p電極P1は、透明電極TE1の上に形成されている。p電極P1は、透明電極TE1を介してp型コンタクト層180と電気的に接続されている。p電極P1は、例えば、Ni、Au、Ag、Co、In等の金属から成る金属電極である。
【0028】
n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130と接触している。n電極N1は、例えば、Ni、Au、Ag、Co、In、Ti等の金属から成る金属電極である。
【0029】
2.発光層
図2は、第1の実施形態の発光素子100の発光層160の積層構造とIn組成とバンド構造との間の関係を示す図である。
図2の下側から順に、積層構造、In組成、バンド構造が示されている。
図2に示すように、発光層160は井戸層161と障壁層162とを繰り返し形成した層である。
【0030】
井戸層161は第1半導体層である。障壁層162は井戸層161と接触する第2半導体層である。井戸層161はInを含むIII 族窒化物半導体層である。障壁層162はIII 族窒化物半導体層である。第1の実施形態では、井戸層161はInGaN層であり、障壁層162はGaN層である。
図2に示すように、障壁層162のバンドギャップは、井戸層161のバンドギャップより大きい。
【0031】
障壁層162は、組成変化層162aと、中間層162bと、組成変化層163cと、を有する。組成変化層162aおよび組成変化層162cは、井戸層161と接触する面に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化している。中間層162bは、組成変化層162aおよび組成変化層162cに挟まれている。組成変化層162aおよび組成変化層162cは井戸層161に接触している。中間層162bは井戸層161に接触していない。
【0032】
井戸層161のバンドギャップは積層方向に一定である。中間層162bのバンドギャップは積層方向に一定である。組成変化層162aおよび組成変化層162cは積層方向に対してバンドギャップが変化している。組成変化層162aおよび組成変化層162cでは、In組成が積層方向に変化しているためである。ここで、積層方向とは、基板110の板面に垂直な方向である。
【0033】
組成変化層162aおよび組成変化層162cでは、井戸層161に向かってIn組成が増加している。つまり、井戸層161に近い位置ほど、組成変化層162aおよび組成変化層162cのIn組成は井戸層161のIn組成に近い。
【0034】
組成変化層162aおよび組成変化層162cでは、In組成は、井戸層161に近づくにつれて指数関数的に増加する。つまり、組成変化層162aおよび組成変化層162cでは、バンドギャップは、井戸層161に近づくにつれて指数関数的に増加する。つまり、In組成の指数関数的な変化にともなって、その半導体層のバンドエネルギーも指数関数的に変化する。
【0035】
井戸層161のバンドBB1(電子側)は、積層方向に一定である。中間層162bのバンドBB2b(電子側)は、積層方向に一定である。組成変化層162aのバンドBB2aは、井戸層161に近づくにつれて指数関数的に増加している。
【0036】
組成変化層162aのバンドBB2aと中間層162bのバンドBB2bとの境界は連続である。組成変化層162aのバンドBB2aと井戸層161のバンドBB1との境界は連続である。
【0037】
ここで、積層方向をJ1とする。積層方向の位置をxとし、In組成をf(x)と仮定する。井戸層161および中間層162bにおいては、f(x)は一定値をとる。組成変化層162aでは、f(x)は積層方向J1に対して指数関数的に減少する。組成変化層162cでは、f(x)は積層方向J1に対して指数関数的に増加する。
【0038】
組成変化層162aおよび中間層162bの境界では、f(x)は微分可能な滑らかな曲線である。組成変化層162cおよび中間層162bの境界では、f(x)は微分可能な滑らかな曲線である。つまり、障壁層162は、井戸層161と井戸層161との間に組成変化層162aおよび中間層162bおよび組成変化層162cを有する。組成変化層162aおよび中間層162bおよび組成変化層162cのIn組成は積層方向に向かって滑らかな曲線を有し、階段状の部分を有さない。
【0039】
一方、組成変化層162aおよび井戸層161の境界では、f(x)は微分可能ではない。組成変化層162cおよび井戸層161の境界では、f(x)は微分可能ではない。このように組成変化層162aおよび組成変化層162cは、階段状ではなく、流線形に連続的に変化する。
【0040】
3.発光層の形成方法
図3は、第1の実施形態の発光素子100の発光層160の形成方法を示す図である。
図3は、発光層160のバンド構造とガスの供給量との対応関係を示している。
図3は、井戸層161がInGaNであり、障壁層162がGaNである場合を示している。
図3では、左側から右側に向かって時間が進行する。第1の実施形態では、発光層160を有機金属化学気相成長法(MOCVD法)によりエピタキシャル成長させる。
【0041】
ここで用いるキャリアガスは、水素と窒素との混合気体(H2 +N2 )である。窒素源として、アンモニアガス(NH3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 )3 :「TMG」)を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 )3 :「TMI」)を用いる。
【0042】
TMIの流量はSPI1で一定である。TMGの流量はSPG1で一定である。NH3 の流量はSPA1で一定である。H2 の流量はSPH0からSPH1の間で変化している。N2 の流量はSPN1で一定である。このように、H2 の供給量のみ時間変化させ、その他のガスの供給量を時間変化させない。
【0043】
ここで、H2 の供給量SPH0は、例えば、0sccmである。H2 の供給量SPH1は、例えば、5SLMである。また、組成変化層162aおよび組成変化層162cを形成する際には、H2 の供給量は単調増加または単調減少している。また、単調増加または単調減少の際の変化量の傾きは一定である。
【0044】
これにより、組成変化層162aおよび組成変化層162cのIn組成を指数関数的に増加または指数関数的に減少させることができる。
【0045】
第1の実施形態では、TMG、TMI、NH3 といった原料ガスの流量を一定にするとともに、キャリアガスのN2 の流量を一定にし、H2 の流量を時間的に変化させる。これにより、H2 の流量を変化させている期間内に成長させた半導体層では、In組成が指数関数的に変化する。それにともなって、その半導体層のバンドエネルギーも指数関数的に変化する。
【0046】
第1の実施形態では、H2 の流量のみを変化させることでIn組成を調整することができる。H2 の流量の時間変化の傾きが一定であるかぎり、In組成は指数関数的に変化する。
【0047】
In組成が指数関数的に変化するのは、水素ガスがInをある程度エッチングするためであると考えられる。
【0048】
このように、発光層の形成方法は、井戸層161を成長させる工程と、障壁層162を成長させる工程と、を有する。井戸層161を成長させる工程と障壁層162を成長させる工程との少なくとも一方では、井戸層161と障壁層162とを接触させる。井戸層161を成長させる工程および障壁層162を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いる。障壁層162を成長させる工程における水素ガスの流量は、井戸層161を成長させる工程における水素ガスの流量よりも多い。
【0049】
また、障壁層162を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に変化させる。
【0050】
また、井戸層161を成長させる工程と障壁層162を成長させる工程とでは、Inを含む原料ガスの流量を同じにする。
【0051】
4.半導体発光素子の製造方法
第1の実施形態の発光素子100の製造方法について説明する。第1の実施形態では、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。
【0052】
ここで用いるキャリアガスは、水素と窒素との少なくとも一方を含む気体である。窒素源として、アンモニアガス(NH3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 )3 :「TMG」)を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 )3 :「TMI」)を用いる。Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 )3 :「TMA」)を用いる。n型ドーパントガスとして、シラン(SiH4 )を用いる。p型ドーパントガスとして、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Mg(C5 H5 )2 )を用いる。
【0053】
MOCVD炉の内圧は、例えば、1kPa以上1MPa以下である。必要に応じて減圧成長を行うことが好ましい。半導体製造装置における成長時の内部の圧力が低いほど、半導体層の横方向成長が促進されるからである。基板表面における原料のマイグレーションが促進されるためである。なお、高温条件下では、基板表面における原料のマイグレーションがさらに促進される。
【0054】
4-1.基板準備工程
基板準備工程では、基板110を準備する。基板110の主面はc面であるとよい。また、基板110の主面は凹凸を有していてもよい。基板110をMOCVD炉のサセプターに配置する。水素ガスにより基板110の表面を還元するとよい。
【0055】
4-2.半導体層形成工程
4-2-1.バッファ層形成工程
基板110の上にバッファ層120を成長させる。基板温度は、例えば、300℃以上1200℃以下の範囲内である。
【0056】
4-2-2.n型コンタクト層形成工程
次に、バッファ層120の上にn型コンタクト層130を形成する。基板温度は、例えば、900℃以上1200℃以下の範囲内である。
【0057】
4-2-3.n側静電耐圧層形成工程
次に、n型コンタクト層130の上にn側静電耐圧層140を形成する。基板温度は、例えば、750℃以上950℃以下の範囲内である。
【0058】
4-2-4.n側超格子層形成工程
次に、n側静電耐圧層140の上にn側超格子層150を形成する。例えば、InGaN層と、n型GaN層と、を繰り返し積層する。基板温度は、例えば、700℃以上950℃以下の範囲内である。
【0059】
4-2-5.発光層形成工程
次に、n側超格子層150の上に発光層160を形成する。井戸層161として、例えば、InGaN層を形成する。障壁層162として、例えば、GaN層を形成する。障壁層162として、組成変化層162a、中間層162b、組成変化層162cの順に形成する。基板温度は、例えば、600℃以上950℃以下である。好ましくは、850℃以下である。より好ましくは、800℃以下である。
【0060】
4-2-6.電子ブロック層形成工程
次に、発光層160の上に電子ブロック層170を形成する。例えば、p型GaN層と、p型AlGaN層と、p型InGaN層と、を繰り返し積層する。基板温度は、例えば、800℃以上1200℃以下である。
【0061】
4-2-7.p型コンタクト層形成工程
次に、電子ブロック層170の上にp型コンタクト層180を形成する。基板温度は、例えば、800℃以上1200℃以下である。これにより、
図4に示す積層体が得られる。
【0062】
4-3.透明電極形成工程
次に、p型コンタクト層180の上に透明電極TE1を形成する。その際、スパッタリング技術を用いてもよいし、蒸着技術を用いてもよい。
【0063】
4-4.電極形成工程
次に、
図5に示すように、レーザーもしくはエッチングにより、p型コンタクト層180の側から半導体層の一部を抉ってn型コンタクト層130を露出させる。そして、その露出箇所U1に、n電極N1を形成する。また、透明電極TE1の上にp電極P1を形成する。p電極P1の形成工程とn電極N1の形成工程は、いずれを先に行ってもよい。
【0064】
4-5.その他の工程
また、上記の工程の他、素子をダイシングする工程、絶縁膜で素子を覆う工程、熱処理工程等、その他の工程を実施してもよい。以上により、
図1の発光素子100が製造される。
【0065】
5.従来技術との比較
図6は、従来の発光素子の発光層のバンド構造と原料供給量との間の関係を示す図(その1)である。
図6に示すように、井戸層を成長させる際に、ある時刻でTMIの供給量を供給量SPI2aから供給量SPI2bに切り替えている。供給量SPI2aから供給量SPI2bに連続的に変化させる期間はない。
【0066】
図6では、井戸層と障壁層との界面で格子定数が急峻に変化する。そのため、井戸層と障壁層との界面で大きな歪が発生する。その結果、結晶品質の著しい低下および大きなピエゾ電界が生じ、発光効率が大きく低下する。
【0067】
図7は、従来の発光素子の発光層のバンド構造と原料供給量との間の関係を示す図(その2)である。
図7に示すように、井戸層を成長させる際に、TMIの供給量を供給量SPI3aから供給量SPI3bに徐々に変化させている。つまり、供給量SPI3aから供給量SPI3bに連続的に変化させる期間T1がある。
【0068】
図7に示すように、井戸層と障壁層との境界で格子定数が徐々に変化する。このため、
図6に比べると歪はある程度緩和されている。しかし、第1の実施形態の発光素子100に比べると、歪の緩和量は少ない。また、格子定数を線形的に変化させているため、量子効果によるサブバンドが形成されにくい。そのため、発光効率が低下する。
【0069】
6.第1の実施形態の効果
第1の実施形態の発光素子100は、井戸層161と障壁層162とを備える発光層160を有する。障壁層162は、組成変化層162aと中間層162bと組成変化層162cとを有する。組成変化層162aおよび組成変化層162cでは、In組成が指数関数的に変化する。このため、組成変化層162aおよび組成変化層162cでは格子定数が流線的に連続的に変化する。これにより、歪が緩和される。その結果、結晶品質が向上するとともに、形成されるピエゾ電界が弱まる。これにより、発光効率が向上する。
【0070】
また、In組成が指数関数的に変化するにともなって、バンドエネルギーも指数関数的に変化する。つまり、バンドエネルギーが井戸層161に近づくにつれて変化する。井戸層161と障壁層162との界面近傍では、
図6のバンド構造に近くなり、サブバンドが形成されやすい。サブバンド間では発光しやすいため、発光素子100の発光効率は高い。
【0071】
また、
図6の箇所EG1および
図7の箇所EG2においては、格子定数の異なる界面が存在し、歪が発生する。その歪によって発生するピエゾ電界によりバンドベンディングが形成され、キャリアの移動を妨げる障壁が発生してしまう。しかし、第1の実施形態の発光素子100では、箇所EG1および箇所EG2に相当する箇所においてIn組成がシームレスに変化している。このため、
図6および
図7に示す場合のようにキャリアの移動を妨げる障壁が形成されない。したがって、第1の実施形態の発光素子100では、従来の発光素子よりも多くのキャリアが井戸層に注入される。すなわち、発光素子100の発光効率は従来の発光素子に比べて高い。
【0072】
7.変形例
7-1.多段階の変化
図8は、第1の実施形態の変形例における発光素子の発光層の形成方法を示す図である。
図8に示すように、H
2 の流量を供給量SPH2から供給量SPH1に変化させ、この後、供給量SPH1から供給量SPH0に変化させてもよい。このようにH
2 の流量を二段階で変化させてもよい。また、H
2 の流量を二段階以上の多段階で変化させてもよい。
【0073】
7-2.TMIの変化
第1の実施形態では、組成変化層を形成する際にTMIの流量を一定としている。しかし、組成変化層を成長させる際に、TMIの流量を変化させてもよい。TMIを変化させる場合であっても、In組成を指数関数的に変化させることができる。例えば、
図3に示すように、H
2 の流量を変化させながら、
図6または
図7のようにTMIの流量を変化させてもよい。例えば、井戸層161を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量は、障壁層162を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量よりも多いとよい。また、Inを含む原料ガスはTMIに限らない。
【0074】
7-3.AlInGaN層
井戸層161はInGaN層に限らず、障壁層162はGaNに限らない。井戸層161は、Inを含むIII 族窒化物半導体であればよい。障壁層162は、III 族窒化物半導体であればよい。ただし、障壁層162のバンドギャップは井戸層161のバンドギャップよりも大きい。また、井戸層161のIn組成は5%以上であるとよい。
【0075】
7-4.第1半導体層と第2半導体層との間の層
井戸層161と障壁層162との間に薄い半導体層が存在してもよい。また、第1半導体層および第2半導体層を井戸層161および障壁層162に限定しない場合には、第1半導体層と第2半導体層との間に薄い半導体層が存在してもよい。この場合には、第1半導体層と第2半導体層とは接触していない。第1半導体層と第2半導体層との間の薄い半導体層の膜厚は、例えば、3nm以下である。
【0076】
7-5.キャリアガス
第1半導体層を成長させる工程および第2半導体層を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いることができる。ただし、キャリアガスは、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスであるとよい。
【0077】
7-6.平均In組成
第2半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層であってもよい。この場合には、第2半導体層の平均In組成は第1半導体層の平均In組成よりも小さい。
【0078】
7-7.井戸層および障壁層
井戸層161はInGaN以外であってもよい。障壁層162はGaN以外であってもよい。例えば、障壁層162はInを含有してもよい。井戸層161は、Alx Iny Gaz N(0≦x≦1、0<y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)であり、障壁層162はAlx Iny Gaz N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)であってもよい。ただし、少なくとも井戸層161はInを含有し、障壁層162のバンドギャップは井戸層161のバンドギャップよりも大きい。
【0079】
7-8.井戸層と中間層との関係
図2において、井戸層161と中間層162bとは接触していない。しかし、井戸層161と中間層162bとの一部が部分的に接触してもよい場合がある。
【0080】
7-9.膜厚
井戸層161および障壁層162の膜厚は、特に限定されない。半導体層の表面荒れの観点から、井戸層161の膜厚は0.5nm以上50nm以下であるとよい。好ましくは、1nm以上10nm以下である。より好ましくは、1.5nm以上5nm以下である。障壁層162の膜厚は、3nm以上100nm以下であるとよい。好ましくは、5nm以上50nm以下である。より好ましくは、5nm以上30nm以下である。
【0081】
7-10.成膜速度
井戸層161および障壁層162の成膜速度は、特に限定されない。半導体層の品質の観点から、成膜速度は0.5nm/min以上50nm/min以下であるとよい。
【0082】
7-11.発光層以外の層への適用
第1の実施形態では、組成変化層162aおよび組成変化層162cを障壁層162形成する。しかし、第1の実施形態の組成変調技術をn側超格子層150、電子ブロック層170等に適用してもよい。または、ガイド層に適用してもよい。適用した半導体層の歪が緩和されるからである。
【0083】
7-12.一方のみの組成変化層
組成変化層162aおよび組成変化層162cのうち一方のみを形成してもよい。このため、井戸層161からみてn層の側のみに組成変化層が存在する場合と、井戸層161からみてp層の側のみに組成変化層が存在する場合と、がある。
【0084】
7-13.フェイスダウン型
第1の実施形態の技術をフェイスアップ型のLEDのみならずフェイスダウン型のLEDに適用してもよい。その場合には、透明電極の代わりに高い反射率を備える金属電極を用いればよい。
【0085】
7-14.成長の一時中断
第1の実施形態では、井戸層161、組成変化層162a、中間層162b、組成変化層162cを連続的に成長させる。しかし、各層を成長させたところで成長を一時的に中断してもよい。
【0086】
7-15.周期
井戸層161と障壁層162との繰返し周期は、例えば、1周期以上50周期以下である。好ましくは、1周期以上10周期以下である。より好ましくは、1周期以上5周期以下である。さらに好ましくは、1周期以上3周期以下である。
【0087】
7-16.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0088】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
【0089】
1.レーザー素子
図9は、第2の実施形態のレーザー素子200の概略構成図である。レーザー素子200は、基板210と、n型コンタクト層220と、n側クラッド層230と、n側ガイド層240と、活性層250と、p側ガイド層260と、p側電子障壁層270と、p側クラッド層280と、p型コンタクト層290と、透明電極TE2と、n電極N2と、p電極P2と、を有する。
【0090】
活性層250は、井戸層と障壁層とを有する。活性層250の障壁層は、第1の実施形態の障壁層162のように、組成変化層と中間層とを有する。中間層は2つの組成変化層で挟まれており、2つの組成変化層はそれぞれ異なる井戸層に接触している。
【0091】
2.第2の実施形態の効果
第1の実施形態と同様に、レーザー素子200では、活性層250における歪が緩和されている。
【0092】
3.変形例
3-1.活性層
また、活性層が第1半導体層であり、ガイド層が第2半導体層であってもよい。活性層の平均In組成は、ガイド層の平均In組成よりも大きい。活性層の平均In組成は、井戸層と障壁層とを合わせた体積に対するInの量により表される。
【0093】
3-2.素子の構造
図10は、第2の実施形態の変形例におけるレーザー素子400の概略構成図である。レーザー素子400は、n型GaN基板410と、n型GaN層420と、n側クラッド層430と、n側ガイド層440と、活性層450と、p側ガイド層460と、p側電子障壁層470と、p側クラッド層480と、p側コンタクト層490と、n電極N4と、p電極P4と、を有する。
【0094】
n型GaN層420は、例えば、Siをドープしたn型GaNである。n側クラッド層430は、例えば、Siをドープしたn型AlGaN層である。n側ガイド層440は、例えば、InGaN層である。活性層450は、例えば、InGaN層とGaN層とを交互に繰り返し形成した層である。p側ガイド層460は、例えば、InGaN層である。p側電子障壁層470は、例えば、Mgをドープしたp型AlGaN層である。p側クラッド層480は、例えば、Mgをドープしたp型AlGaN層である。p側コンタクト層490は、例えば、Mgをドープしたp型GaN層である。
【0095】
レーザー素子は、VCSEL型であってもよい。
【0096】
3-3.組み合わせ
上記の変形例を組み合わせてもよい。
【0097】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。
【0098】
1.太陽電池
図11は、第3の実施形態の太陽電池300の概略構成図である。太陽電池300は、基板310と、バッファ層320と、n型GaN層330と、n型InGaN層340と、InGaN層350と、p型InGaN層360と、透明電極TE3と、n電極N3と、p電極P3と、を有する。
【0099】
透明電極TE3は、p型InGaN層360の上に形成されている。p電極P3は、透明電極TE3の上に形成されている。n電極N3は、n型InGaN層340の上に形成されている。
【0100】
ここで、InGaN層350のIn組成は、n型InGaN層340のIn組成と、p型InGaN層360In組成と、よりも大きい。このため、n型InGaN層340と、InGaN層350と、p型InGaN層360とに、第1の実施形態の技術を適用することができる。つまり、n型InGaN層340と、p型InGaN層360とは、InGaN層350と接触する箇所に組成変化層を有する。
【0101】
2.第3の実施形態の効果
第1の実施形態と同様に、太陽電池300では、InGaN層350の周辺における歪が緩和されている。
【0102】
3.変形例
太陽電池は、電子ブロック層を有していてもよい。
【0103】
(実施形態の組み合わせ)
第1の実施形態から第3の実施形態までを変形例を含めて組み合わせることができる場合がある。
【0104】
(実験)
1.サンプルの製作
サンプルを製作するためにMOCVD法を用いた。GaN基板の上にGaN層を成長させたテンプレート基板を製作した。そして、GaN層の上にTMI、TMG、NH3 、H2 、N2 を供給してInGaN層を成膜した。その際に、H2 の流量、TMIの流量を変化させた。そして、成長させた半導体のIn組成等を測定した。
【0105】
2.水素ガスとIn組成
図12は、キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その1)である。
図12の横軸はキャリアガスに占める水素ガスの流量(vol%)である。
図12の縦軸は半導体のIn組成である。
【0106】
図12に示すように、キャリアガスに占める水素ガスの流量が増加すると、半導体のIn組成は指数関数的に減少する。一方、キャリアガスに占める水素ガスの流量が減少すると、半導体のIn組成は指数関数的に増加する。
【0107】
一般的に、In組成(In/Ga固相比)はIn/Ga気相比よりも低い値となる。In/Ga気相比は、TMG供給分圧に対するTMI供給分圧である。InはGaに比べて表面吸着力が低く、熱やエッチングガスにより分解および再蒸発しやすいからである。エッチング作用を有するキャリアガスである水素ガスを含有しない場合には、In組成(In/Ga固相比)はIn/Ga気相比に最も近くなる。キャリアガス中の水素ガスを増加させるほどIn組成が減少する。これは水素ガスがInのエッチングをするためであると考えられる。
【0108】
図13は、キャリアガスに占める水素ガスの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフ(その2)である。
図13は、
図12の縦軸を対数にしたグラフである。
図13に示すように、In組成の測定値はある直線上にのる。つまり、キャリアガスに占める水素ガスの流量に対して、In組成は指数関数的に変化している。
【0109】
図14は、キャリアガスに占める水素ガスの流量が0%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。AFM画像は、原子間力顕微鏡(AFM)により撮影される写真である。
図14に示すように、半導体の表面は非常に荒れている。成長中のIn原子の表面マイグレーションが不十分であり、3次元成長しやすくなっているためであると考えられる。その結果、Inが局所的に集合したクラスターが形成され、Inドロップレットが発生しやすくなる。3次元成長が加速すると、面内の品質の不均一や欠陥が増加することによる結晶品質の著しい低下を引き起こす。
【0110】
3.AFM画像
図15は、キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.3%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。
図15に示すように、半導体の表面は平坦である。水素ガスによりInの表面のマイグレーションが改善したためと考えられる。キャリアガスがわずかでも水素ガスを含有すれば、Inをエッチングするため、In組成もわずかに低下する。水素ガスは、3次元成長によるInクラスターの形成を抑制するとともに結晶品質を著しく改善する。
【0111】
図16は、キャリアガスに占める水素ガスの流量が1.9%のときの半導体層の表面を示すAFM画像である。
図16に示すように、水素ガスの流量が0.3%のときと同様に、半導体の表面は平坦である。
【0112】
4.TMIの流量
図17は、キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.5%のときのTMIの流量と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフである。
図17の横軸はTMIの流量(sccm)である。
図17の縦軸は半導体のIn組成(%)である。
図17に示すように、TMIの流量を増加させると、半導体のIn組成は増加する。TMIの流量が600sccm以上で半導体のIn組成は飽和する。Inの供給が過剰であるにもかかわらず、半導体の表面荒れは観察されない。表面におけるInのマイグレーションが向上するとともに、エッチング作用によりInクラスターの形成が抑制されたからである。
【0113】
図18は、キャリアガスに占める水素ガスの流量が0.5%のときのIn/Ga気相比と半導体のIn組成との間の関係を示すグラフである。
図18の横軸はIn/Ga気相比(vol%)である。
図18の縦軸は半導体のIn組成(%)である。
図18に示すように、In/Ga気相比が増加すると、半導体のIn組成は増加する傾向にある。In/Ga気相比が60vol%を以上では、半導体のIn組成はある程度飽和する。
【0114】
5.フォトルミネッセンス
井戸層からみてn層の側のみに組成変化層を形成した発光素子を作製した。井戸層からみてp層の側には、中間層に相当する層が井戸層に隣接している。
【0115】
図19は、フォトルミネッセンスの強度を示すグラフである。
図19の横軸はピーク波長である。
図19の縦軸はフォトルミネッセンスの強度である。従来技術の発光素子のフォトルミネッセンスの強度の平均値を1とした。In組成を指数関数的に変化させた組成変化層を形成した実施例の発光素子のフォトルミネッセンスの強度の平均値は1.67程度である。このように、実施例の発光素子のフォトルミネッセンスの強度は従来技術の発光素子のフォトルミネッセンスの強度よりも大きい。
【0116】
図19は、実施形態の組成変化層が歪を緩和したことにより、半導体の結晶品質が向上したことと、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)および量子閉じ込めフランツケルディッシュ効果(QCFK)の影響が小さくなったことを示していると考えられる。
【0117】
図20は、フォトルミネッセンスのFWHMを示すグラフである。
図20の横軸はピーク波長である。
図20の縦軸はフォトルミネッセンスのFWHMである。実施例の発光素子のフォトルミネッセンスのFWHMの平均値は12.5nm程度である。従来技術の発光素子のフォトルミネッセンスのFWHMの平均値は18nm程度である。実施例の発光素子のフォトルミネッセンスのFWHMは、従来技術の発光素子のフォトルミネッセンスのFWHMよりも狭い。
【0118】
図20は、実施形態の組成変化層が歪を緩和したことにより、半導体の結晶品質が向上したことと、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)および量子閉じ込めフランツケルディッシュ効果(QCFK)の影響が小さくなったことと、発光層の平坦性が向上したことにより面内均一性が向上して面内発光のばらつきが改善したことと、を示していると考えられる。
【0119】
(付記)
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法は、第1半導体層を成長させる工程と、第2半導体層を成長させる工程と、を有する。第1半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層はIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層のバンドギャップは第1半導体層のバンドギャップよりも大きい。第1半導体層を成長させる工程および第2半導体層を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスを含むガスを用いる。第2半導体層を成長させる工程における水素ガスの流量は、第1半導体層を成長させる工程における水素ガスの流量よりも多い。
【0120】
第2の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第2半導体層を成長させる工程では、水素ガスの流量を線形的に変化させる。
【0121】
第3の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層を成長させる工程および第2半導体層を成長させる工程では、キャリアガスとして水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを用いる。
【0122】
第4の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層を成長させる工程と第2半導体層を成長させる工程との少なくとも一方では、第1半導体層と第2半導体層とを接触させる。
【0123】
第5の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層を成長させる工程と第2半導体層を成長させる工程とでは、Inを含む原料ガスの流量を同じにする。
【0124】
第6の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量は、第2半導体層を成長させる工程におけるInを含む原料ガスの流量よりも多い。
【0125】
第7の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第2半導体層を成長させる工程では、第2半導体層の積層方向に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化する組成変化層と、2つの組成変化層に挟まれた中間層と、を形成する。
【0126】
第8の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第2半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層であり、第2半導体層の平均In組成は第1半導体層の平均In組成よりも小さい。
【0127】
第9の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層は井戸層である。第2半導体層は障壁層である。
【0128】
第10の態様におけるIII 族窒化物半導体素子の製造方法においては、第1半導体層は活性層である。第2半導体層はガイド層である。活性層の平均In組成は、ガイド層の平均In組成よりも大きい。
【0129】
第11の態様におけるIII 族窒化物半導体素子は、第1半導体層と、第1半導体層と接触する第2半導体層と、を有する。第1半導体層はInを含むIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層はIII 族窒化物半導体層である。第2半導体層のバンドギャップは第1半導体層のバンドギャップよりも大きい。第2半導体層は、第1半導体層と接触する面に垂直な方向に対してIn組成が流線形に連続的に変化する組成変化層と、2つの組成変化層に挟まれた中間層と、を有する。
【符号の説明】
【0130】
100…発光素子
110…基板
120…バッファ層
130…n型コンタクト層
140…n側静電耐圧層
150…n側超格子層
160…発光層
161…井戸層
162…障壁層
162a…組成変化層
162b…中間層
162c…組成変化層
170…電子ブロック層
180…p型コンタクト層
TE1…透明電極
N1…n電極
P1…p電極
200…レーザー素子
300…太陽電池