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特開2022-155562潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイス
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  • 特開-潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155562
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054204
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021058811
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521134754
【氏名又は名称】株式会社K-マテリアルズラボ
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 永大
(72)【発明者】
【氏名】飯村 兼一
(57)【要約】
【課題】固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイスの提供。
【解決手段】下記の式(I)で表される化合物を含む潜熱蓄熱材、及びその応用。式(I)中、n及びmは、n=mの場合には、nが奇数を表し、n≠mの場合には、n及びmが、各々独立に、6~24の整数を表す。Xは、陰イオンを表す。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表される化合物を含む潜熱蓄熱材。
【化1】

式(I)中、n及びmは、n=mの場合には、nが奇数を表し、n≠mの場合には、n及びmが、各々独立に、6~24の整数を表す。Xは、陰イオンを表す。
【請求項2】
前記式(I)におけるn及びmが、n=mであり、かつ、nが、5~17の奇数である請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項3】
前記式(I)におけるn及びmが、n=mであり、かつ、nが、7~13の奇数である請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項4】
前記式(I)におけるn及びmが、n≠mであり、かつ、n及びmが、各々独立に、7~14の整数を表す請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項5】
前記式(I)におけるXが、硝酸イオン又は塩素酸イオンを表す請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項6】
相変化温度が、60℃以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項7】
電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体。
【請求項9】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材を備える電子デバイス。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているデジタル家電製品では、高速大容量の情報を取り扱う電子機器からの発熱が増大の一途をたどっている。また、小型化、軽量化、及び薄型化の進展により、部品の放熱をいかに効率良く行うかという熱対策の重要性が増している。特に、スマートフォン、タブレットPC(personal computer)等のモバイルデバイスは、小型でありながら、高機能化及び高性能化が進んでおり、発熱密度が著しく増加している。モバイルデバイスでは、発熱密度の増加が、熱暴走、はんだの熱サイクルによる疲労の加速等を招く危険性が高まっており、信頼性向上のため、熱対策が求められている。
【0003】
電子機器の冷却方法として、相変化材料(PCM:Phase Change Material)を用いた受動的な冷却方法が注目を集めている。PCMは、潜熱蓄熱材とも称され、潜熱により、温度をほとんど変化させることなく熱を吸収できるため、PCMを用いると、温度上昇にかかる時間を遅らせる効果、いわゆる遅延効果が得られる。
潜熱蓄熱材は、物質が状態変化する際の吸熱及び放熱を利用するものであり、繰り返して使用できることに加えて、蓄熱容量が他の蓄熱材に比べて大きいという利点を有する。潜熱蓄熱材としては、例えば、パラフィン〔融点:36.4℃(エイコサン:C2042)〕、酢酸ナトリウム三水和物(融点:58℃)、エリスリトール(融点:119℃)等の化合物が知られている。また、潜熱蓄熱材としては、イミダゾール系イオン液体である1-hexadecyl-3-methylimidazolium chlorideが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。これらの化合物は、いずれも固相から液相への相変化に伴う融解潜熱を利用する潜熱蓄熱材である。
【0004】
上記のような固相から液相への相変化に伴う融解潜熱を利用する潜熱蓄熱材を、モバイルデバイスの冷却に用いた場合には、融解して液体となった潜熱蓄熱材が、モバイルデバイスの外部に漏れ出るという問題が生じ得る。この問題を解決する方法の1つとして、潜熱蓄熱材をマイクロカプセル化させる方法が挙げられる。しかし、潜熱蓄熱材をマイクロカプセル化すると、単位体積当たりの潜熱量が減少するという欠点がある。単位体積当たりの潜熱量の減少は、モバイルデバイスの薄型化を妨げる要因となる。一方、漏出の問題が生じない潜熱蓄熱材として、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材がある。このような潜熱蓄熱材として、例えば、式(C2n+1NO で表されるジアルキルアンモニウム硝酸塩(但し、nは8~19の偶数を表す。)が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
ところで、近年、エネルギーの高効率利用のため、高性能電池を搭載した電気自動車の普及が進んでいる。電気自動車に搭載する高性能電池として、特に、リチウムイオン電池の開発が積極的に行われており、リチウムイオン電池の高出力化及び高容量化が図られている。しかし、高出力化による過度の高温状態、及び、高容量化に伴い大量に発生する充放電時の熱は、電池としての寿命を著しく低下させる要因となり、最悪の場合、発火及び爆発を引き起こす危険性もある。一般に、リチウムイオン電池では、60℃を超える使用温度領域において性能の劣化が顕著に表れる傾向がある。このため、電池特性の最適化、電池の長寿命化、及び電池の安全性向上には、電池の温度を最適な温度領域(例えば、15℃~60℃)に維持する熱管理技術が必要不可欠となる。この点に関し、非特許文献3に記載されたジアルキルアンモニウム硝酸塩は、単位体積当たりの潜熱量が大きいものの、相変化温度(「相転移温度」ともいう。)が高い傾向があり、電池に用いられる潜熱蓄熱材としては、適当とは言い難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E.Thomas, D.Thomas, S. Bhuvaneswari, K. P.Vijayalakshmi, B. K.George, “1-Hexadecyl-3-methylimidazolium chloride: Structure, thermal stability and decomposition mechanism”, J.Mol. Liq., vol. 249(2018), pp. 404-411.
【非特許文献2】M. Bendovaa, M. Canjia, M. G. Bogdanovb, Z. Wagnera, N. Zdolsekc, F. Quirion, “Phase Transitions in Higher-Melting Ionic Liquids: Thermal Storage Materials or Liquid Crystals?” Chemical Engineering Transactions Vol. 69, (2018) ISBN 978-88-95608-66-2(著者である「M. Bendovaa」の後ろから2番目の「a」は、チャールカ付きの「a」であり、「M. Canjia」の「C」は、ハーチェク付きの「C」であり、「N. Zdolsekc」の「s」は、ハーチェク付きの「s」である。)
【非特許文献3】S. Steinert, W. Voigt, R. Glausch, M. Neuschutz, “Thermal characteristics of solid-solid phase transitions in long-chain dialkyl ammonium salts” Thermochimica Acta vol. 435 (2005) pp. 28-33.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、潜熱蓄熱材に対しては、相変化に伴う融解による漏出の問題が生じることなく、60℃以下の低い相変化温度を示し、かつ、潜熱量が大きいことが求められている。また、潜熱蓄熱材には、吸熱及び放熱を繰り返す性質(所謂、繰り返し特性)が求められる。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねる過程で、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であるジアルキルアンモニウム塩に着目した。そして、ジアルキルアンモニウム塩に関し、鋭意研究を重ねたところ、ジアルキルアンモニウム塩の2つのアルキル鎖の炭素数が同じ場合に、炭素数が奇数であると、偶数である場合と比較して、相変化温度が低く、かつ、潜熱量が大きいことを見出した。また、ジアルキルアンモニウム塩は、2つのアルキル鎖の炭素数をそれぞれ特定の異なる値にすることで、潜熱量を減少させることなく、相変化温度を低下できることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記の式(I)で表される化合物を含む潜熱蓄熱材。
【0011】
【化1】
【0012】
式(I)中、n及びmは、n=mの場合には、nが奇数を表し、n≠mの場合には、n及びmが、各々独立に、6~24の整数を表す。Xは、陰イオンを表す。
【0013】
<2> 上記式(I)におけるn及びmが、n=mであり、かつ、nが、5~17の奇数である<1>に記載の潜熱蓄熱材。
<3> 上記式(I)におけるn及びmが、n=mであり、かつ、nが、7~13の奇数である<1>に記載の潜熱蓄熱材。
<4> 上記式(I)におけるn及びmが、n≠mであり、かつ、n及びmが、各々独立に、7~14の整数を表す<1>に記載の潜熱蓄熱材。
<5> 上記式(I)におけるXが、硝酸イオン又は塩素酸イオンを表す<1>~<4>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材。
<6> 相変化温度が、60℃以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材。
<7> 電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる<1>~<6>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材。
<8> <1>~<6>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体。
<9> <1>~<6>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材を備える電子デバイス。
<10> <1>~<6>のいずれか1つに記載の潜熱蓄熱材を備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一実施形態によれば、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1~4及び比較例1~5における化合物の炭素数n(式(I)中、n=m)と潜熱量との関係を示すグラフである。
図2】実施例5~7及び比較例3における化合物の炭素数n及びmと相変化温度及び潜熱量との関係を示すグラフである。
図3】実施例8~10及び比較例4における化合物の炭素数n及びmと相変化温度及び潜熱量との関係を示すグラフである。
図4】実施例11及び実施例12、並びに比較例6における化合物の炭素数n及びmと相変化温度及び潜熱量との関係を示すグラフである。
図5】合成例2で得られた化合物2のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の潜熱蓄熱材、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスについて、詳細に説明する。以下に記載する要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0017】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、潜熱蓄熱材中の各成分の量は、潜熱蓄熱材中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、潜熱蓄熱材中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。なお、潜熱蓄熱体についても同様である。
【0019】
[潜熱蓄熱材]
本開示の潜熱蓄熱材は、既述の式(I)で表される化合物を含む。
本開示の潜熱蓄熱材は、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材である。
【0020】
本発明者らは、ジアルキルアンモニウム塩の2つのアルキル鎖の炭素数が同じ場合に、炭素数が奇数であると、偶数である場合と比較して、相変化温度が低く、かつ、潜熱量が大きいことを見出した。また、ジアルキルアンモニウム塩は、2つのアルキル鎖の炭素数をそれぞれ特定の異なる値にすることで、潜熱量を減少させることなく、相変化温度を低下できることを見出した。
【0021】
本開示の潜熱蓄熱材に対し、非特許文献3に記載された式(C2n+1NO で表されるジアルキルアンモニウム硝酸塩(但し、nは8~19の偶数を表す。)は、2つのアルキル鎖の炭素数が同じ偶数値であり、潜熱量は大きいものの、相変化温度が高い傾向にある。2つのアルキル鎖の炭素数が同じ偶数値であるジアルキルアンモニウム硝酸塩の場合、相変化温度及び潜熱量は、nの値(即ち、アルキル鎖の炭素数)と関係しており、nの値が小さくなると、相変化温度は低くなるが、潜熱量も小さくなるといったトレードオフの関係にある。また、2つのアルキル鎖の炭素数が同じ偶数値であるジアルキルアンモニウム硝酸塩の場合、nの値が小さいと繰り返し特性を有さない。
【0022】
ところで、ジアルキルアンモニウム塩のエンタルピー変化が、アルキル鎖の対称性と強く関係していることは知られている〔例えば、M.J.M. van Oort, M.A. White, Ber. Bunsenges. Phys. Chem. 92 (1988) 168.参照〕。また、有機化合物の特性が、炭素数が偶数であるか奇数であるかによって変化すること(所謂、偶奇効果)も知られている〔例えば、F. Tao, S. L. Bernasek, “Understanding Odd-Even Effects in Organic Self-Assembled Monolayers”, Chem. Rev. 2007, Vol. 107, pp. 1408-1453.参照〕。
しかし、潜熱量に関しては、炭素数が偶数か奇数かによる効果の予測は難しい。例えば、長鎖アルカンの場合には、潜熱量に偶奇効果が見られ、炭素数が偶数である長鎖アルカンの潜熱量が、炭素数が奇数である長鎖アルカンの潜熱量よりも大きくなるのに対し、長鎖カルボン酸の場合には、潜熱量に偶奇効果が見られないことが報告されている〔例えば、T. Hasl, I. Jiricek, “The prediction of heat storage properties by the study of structural effect on organic phase change materials,”Energy Procedia Vol. 46 (2014) pp. 301-309.参照〕。これらの例からもわかるように、潜熱量に関する偶奇効果は、化合物の種類によって異なるため、明確に予測することは困難といえる。
【0023】
〔式(I)で表される化合物〕
本開示の潜熱蓄熱材は、下記の式(I)で表される化合物を含む。
【0024】
【化2】
【0025】
式(I)中、n及びmは、n=mの場合には、nが奇数を表す。nは、5~17の奇数を表すことが好ましく、5~15の奇数を表すことがより好ましく、5~13の奇数を表すことが更に好ましく、7~13の奇数を表すことが特に好ましい。
式(I)中、n=mの場合に、nが5以上の奇数であると、潜熱量がより大きくなる傾向がある。また、式(I)中、n=mの場合に、nが5~17の奇数であると、潜熱蓄熱材を使用する上で最適な温度領域(例えば、25℃~60℃)において相転移(「相変化」ともいう。)が起こりやすい傾向がある。
【0026】
式(I)中、n及びmは、n≠mの場合には、n及びmが、各々独立に、6~24の整数を表し、6~22の整数を表すことが好ましく、6~20の整数を表すことがより好ましく、6~18の整数を表すことが更に好ましく、6~16の整数を表すことが更により好ましく、7~14の整数を表すことが特に好ましい。
式(I)中、n≠mの場合に、n及びmが、各々独立に、6以上の整数であると、潜熱量がより大きくなる傾向がある。また、式(I)中、n≠mの場合に、n及びmが、各々独立に、6~24の整数であると、潜熱蓄熱材を使用する上で最適な温度領域(例えば、25℃~60℃)において相転移(「相変化」ともいう。)が起こりやすい傾向がある。
【0027】
式(I)中、Xは、陰イオンを表す。
で表される陰イオンとしては、特に限定されず、例えば、硝酸イオン(NO )、塩素酸イオン(ClO )、フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)、硫酸水素イオン(HSO )、過塩素酸イオン(ClO )、リン酸二水素イオン(HPO )、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CFSO )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン〔(CFSO)〕、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、トリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、及び酢酸イオン(CHCOO)が挙げられる。
は、硝酸イオン又は塩素酸イオンを表すことが好ましく、硝酸イオンを表すことがより好ましい。
【0028】
本開示の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0029】
本開示の潜熱蓄熱材における式(I)で表される化合物の含有率は、特に限定されないが、例えば、潜熱蓄熱材中の全固形分量に対して、30質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましく、70質量%~100質量%であることが更に好ましい。
本開示において、「潜熱蓄熱材中の全固形分量」とは、潜熱蓄熱材が溶媒を含まない場合には、潜熱蓄熱材の全質量を意味し、潜熱蓄熱材が溶媒を含む場合には、潜熱蓄熱材から溶媒を除いた残渣の質量を意味する。
本開示において、「溶媒」とは、水及び有機溶剤を意味する。
【0030】
〔式(I)で表される化合物の合成方法〕
式(I)で表される化合物の合成方法は、特に限定されない。
式(I)で表される化合物は、公知の方法により合成できる。具体的には、式(I)で表される化合物は、実施例に記載の方法により合成できる。
【0031】
式(I)で表される化合物は、例えば、既述の文献〔S. Steinert, W. Voigt, R. Glausch, M. Neuschutz, “Thermal characteristics of solid-solid phase transitions in long-chain dialkyl ammonium salts” Thermochimica Acta vol. 435 (2005) pp. 28-33.〕に記載された方法に準じて合成できる。この文献に記載の合成方法は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0032】
〔バインダー〕
本開示の潜熱蓄熱材は、バインダーを含んでいてもよい。
バインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニル、ABS(acrylonitrile butadiene styrene)樹脂、及びAS(acrylonitrile styrene)樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂が挙げられる。
【0033】
また、バインダーとしては、例えば、ゴムが挙げられる。
ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリル酸エステルと他の単量体との共重合により得られるアクリルゴム(ACM)、チーグラー触媒を用いたエチレンとプロピレンとの配位重合により得られるエチレン-プロピレンゴム、イソブチレンとイソプレンとの共重合により得られるブチルゴム(IIR)、ブタジエンとスチレンとの共重合により得られるスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合により得られるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0034】
また、バインダーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、及びポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)が挙げられる。
【0035】
本開示の潜熱蓄熱材は、バインダーを含む場合、バインダーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0036】
本開示の潜熱蓄熱材がバインダーを含む場合、バインダーの含有率は、特に限定されないが、例えば、潜熱蓄熱材中の全固形分量に対して、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~95質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることが更に好ましい。
【0037】
〔その他の成分〕
本開示の潜熱蓄熱材は、その効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述した成分以外の成分(所謂、その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、結合剤、熱伝導性材料、難燃材料等の各種添加剤が挙げられる。添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
本開示の潜熱蓄熱材が、バインダーとしてゴムを含む場合、ゴムに加えて、加硫剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等を含んでいてもよい。
加硫剤としては、例えば、硫黄、有機硫黄化合物、及び金属酸化物が挙げられる。
【0038】
本開示の潜熱蓄熱材がその他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、本開示の潜熱蓄熱材の効果を損なわない範囲において、適宜設定できる。
【0039】
<<相変化温度及び潜熱量>>
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度は、60℃以下であり、55℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、45℃以下であることが更に好ましい。
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度が60℃以下であると、潜熱蓄熱材を適用した物品(例えば、電子機器、電池等の物品)の性能劣化を良好に抑制できる傾向がある。
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度の下限は、特に限定されないが、例えば、15℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることが更に好ましい。
【0040】
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、特に限定されないが、例えば、90J/g以上であることが好ましく、100J/g以上であることがより好ましく、110J/g以上であることが更に好ましく、120J/g以上であることが特に好ましい。
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、高いほど好ましく、上限は、特に限定されない。
【0041】
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度は、測定装置として示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用い、下記の条件により測定される昇温時の吸熱ピークの温度である。
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、測定装置として示差走査熱量計を用い、下記の条件により測定される昇温時の吸熱ピークの熱量である。
示差走査熱量計としては、例えば、マックサイエンス社製の示差走査熱量計〔型式:DSC3200〕を好適に用いることができる。但し、示差走査熱量計は、これに限定されない。
【0042】
-条件-
測定温度範囲:30℃~100℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気ガス:空気
測定試料量:6.0mg
【0043】
<潜熱蓄熱材の用途>
本開示の潜熱蓄熱材の用途は、特に限定されない。
本開示の潜熱蓄熱材は、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有するため、電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる潜熱蓄熱材として好適である
電子デバイス及び蓄電デバイスの具体例は、後述するため、ここでは説明を省略する。
【0044】
本開示の潜熱蓄熱材は、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材である。このため、固相から液相への相変化に伴う融解潜熱を利用する従来のPCM(例えば、パラフィン、酢酸ナトリウム三水和物、エリスリトール、1-hexadecyl-3-methylimidazolium chloride等の化合物)のように、融解して液体になることがないため、漏出の問題が生じない。また、本開示の潜熱蓄熱材は、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材であるため、電子デバイス及び蓄電デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。本開示の潜熱蓄熱材は、特に、高温かつ大量の熱の発生を伴う、高出力及び高容量の蓄電デバイスに用いられる潜熱蓄熱材として好適である。
【0045】
[潜熱蓄熱体]
本開示の潜熱蓄熱体は、本開示の潜熱蓄熱材を含む。
本開示の潜熱蓄熱体は、本開示の潜熱蓄熱材を含むため、相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する
【0046】
本開示の潜熱蓄熱体の形状は、特に限定されず、目的に応じて、適宜設定できる。
本開示の潜熱蓄熱体は、平面形状を有していてもよく、立体形状を有していてもよい。
平面形状としては、例えば、シート状及びフィルム状が挙げられる。
立体形状は、特に限定されず、例えば、本開示の潜熱蓄熱体を適用する対象の形状に応じて、適宜設定できる。
【0047】
本開示の潜熱蓄熱体の製造方法は、特に限定されない。
本開示の潜熱蓄熱体は、例えば、本開示の潜熱蓄熱材と溶剤とを用いて、公知の方法により製造できる。
【0048】
本開示の潜熱蓄熱体は、例えば、以下の方法Xにより製造できる。
【0049】
(方法X)
式(I)で表される化合物及びバインダーを含む本開示の潜熱蓄熱材と、溶剤と、を含む潜熱蓄熱体形成用組成物を、仮支持体上に塗布し、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を形成する。次いで、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を乾燥させることにより、仮支持体上に潜熱蓄熱体を形成する。次いで、潜熱蓄熱体から仮支持体を剥離することにより、平面形状の潜熱蓄熱体を製造できる。
【0050】
方法Xにおける溶剤は、特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びi-プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン)、塩素系溶剤(例えば、クロロホルム、及びジクロルメタン)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及びトルエンが挙げられる。
【0051】
潜熱蓄熱体形成用組成物における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潜熱蓄熱体形成用組成物に配合される成分の種類及び量により、適宜設定できる。
【0052】
潜熱蓄熱体形成用組成物中において、式(I)で表される化合物とバインダーとは、単に混合されていればよい。
式(I)で表される化合物とバインダーとを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、例えば、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌装置の種類、潜熱蓄熱体形成用組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0053】
仮支持体は、特に限定されない。
仮支持体としては、例えば、金属板、ガラス板、樹脂シート、及び各種フィルムが挙げられる。
樹脂シートは、表面に離型処理が施されていることが好ましい。
【0054】
仮支持体の大きさは、特に限定されず、例えば、潜熱蓄熱体の大きさに応じて、適宜設定できる。
仮支持体の厚みは、特に限定されず、例えば、作業性を考慮し、適宜設定される。
【0055】
仮支持体上に、潜熱蓄熱体形成用組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、ダイコーター、ナイフコーター、アプリケーター等を用いる方法が挙げられる。
【0056】
潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を乾燥させる方法としては、特に限定されず、例えば、オーブン等の加熱装置を用いる方法が挙げられる。
乾燥温度及び乾燥時間は、特に限定されず、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜に含まれる溶剤を揮発させることができればよい。
【0057】
本開示の潜熱蓄熱体は、上記方法X以外に、例えば、以下の方法Yにより製造できる。
【0058】
(方法Y)
式(I)で表される化合物及びバインダーを含む本開示の潜熱蓄熱材と、必要に応じて、溶剤と、を含む混合物を、加熱しながら、混練機を用いて混練し、混練物を得る。次いで、得られた混練物を成形加工することにより、本開示の潜熱蓄熱体を製造できる。
【0059】
方法Yにおける溶剤は、方法Xにおける溶剤と同義である。
【0060】
混合物が溶剤を含む場合、混合物における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば、混合物に配合される成分の種類及び量により、適宜設定できる。
【0061】
混合物中において、式(I)で表される化合物とバインダーとは、単に混合されていればよい。
式(I)で表される化合物とバインダーとを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、例えば、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌装置の種類、混合物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0062】
混合物の加熱温度は、特に限定されず、例えば、バインダーの種類に応じて、適宜設定できる。
加熱温度は、バインダーを溶融させることができる温度であることが好ましく、例えば、170℃~200℃とすることができる。
【0063】
混練手段としては、特に限定されず、一般的な混練装置を用いることができる。
混練装置としては、ミキサー、二本ロール、ニーダー等が挙げられる。
混練条件は、特に限定されず、混練装置の種類、混合物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0064】
成形加工としては、例えば、プレス成形、押し出し成形、射出成形、インモールド成形、3次元造形機を用いる成形等による加工が挙げられる。
成形加工条件は、特に限定されず、例えば、成形加工装置の種類、混合物の組成、及び潜熱蓄熱体の大きさに応じて、適宜設定できる。
【0065】
[電子デバイス]
本開示の電子デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備え、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱体)を備えていてもよい。
本開示の電子デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、融解による漏出の問題が生じない。また、本開示の電子デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、電子デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。
本開示の電子デバイスとしては、例えば、IC(Integrated Circuit)、ICモジュール等の半導体デバイス、及び、LED(Light Emitting Diode)デバイスが挙げられる。
【0066】
本開示の電子デバイスが本開示の潜熱蓄熱材を備える態様は、特に限定されない。
本開示の電子デバイスが、例えば、半導体デバイスである場合の態様としては、半導体デバイスとヒートシンクとの間に、平面形状(例えば、シート状)の本開示の潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体)が配置された態様が挙げられる。このような態様によれば、半導体デバイスにおいて発生した熱を、本開示の潜熱蓄熱材に含まれる式(I)で表される化合物が潜熱として吸収し、式(I)で表される化合物が相変化する。相変化の間は、温度が一定に保持されるため、半導体デバイスを一定温度に保つことができる。式(I)で表される化合物によって蓄熱された熱は、例えば、ヒートシンクにより熱輸送され、放熱される。
【0067】
[蓄電デバイス]
本開示の蓄電デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備え、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱体)を備えていてもよい。
本開示の蓄電デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、融解による漏出の問題が生じない。また、本開示の蓄電デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、蓄電デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。
本開示の蓄電デバイスとしては、例えば、バッテリーが挙げられる。
バッテリーとしては、例えば、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池、及び全固体電池が挙げられる。
【0068】
本開示の蓄電デバイスが本開示の潜熱蓄熱材を備える態様は、特に限定されない。
本開示の蓄電デバイスが、例えば、バッテリーである場合、電池セル間、及び/又は、電池セルとヒートシンクとの間に、電池セルの全部又は一部を覆うように、立体形状の本開示の潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体)が配置された態様が挙げられる。このような態様によれば、電池セルにおいて発生した熱を、本開示の潜熱蓄熱材に含まれる式(I)で表される化合物が潜熱として吸収し、式(I)で表される化合物が相変化する。相変化の間は、温度が一定に保持されるため、バッテリーモジュール内を一定温度に保つことができる。式(I)で表される化合物によって蓄熱された熱は、例えば、ヒートシンクにより熱輸送され、放熱される。
【実施例0069】
以下、本開示の潜熱蓄熱材を実施例により更に具体的に説明する。本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
各化合物の核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定には、バリアン社製の核磁気共鳴装置〔型式:UNITY INOVA 500(500MHz)〕を用いた。また、各化合物の赤外線吸収スペクトルの測定には、日本分光(株)製のフーリエ変換赤外分光光度計〔型式:FT/IR-400〕を用いた。また、各化合物の元素分析には、パーキンエルマー社製の全自動元素分析装置(CHNS/O)〔型式:2400IIシリーズ〕を用いた。
【0071】
[ジアルキルアンモニウム硝酸塩の合成]
〔合成例1〕
化合物1:ジヘプチルアンモニウム硝酸塩〔(C7H15)2N+H2NO3 -
ジヘプチルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物1:ジヘプチルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0072】
得られた化合物1のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.766 (2H brs), 3.010-2.970 (4H m), 1.711 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.322-1.204 (m, 16H), 0.875 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3014, 2958, 2918, 2853, 1624, 1470, 1350
【0073】
得られた化合物1の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C14H32N2O3): C, 60.83; H, 11.67; N, 10.13
測定値(%): C, 60.97; H, 11.77; N, 10.30
【0074】
〔合成例2〕
化合物2:ジノニルアンモニウム硝酸塩〔(C9H19)2N+H2NO3 -
ノニルアミンと、上記ノニルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ノニルアミンと等モル量のノナン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ノニルノナンアミド(C8H17CONHC9H19)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ノニルノナンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジノニルアミンを得た。次いで、ジノニルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物2:ジノニルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0075】
得られた化合物2のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.742 (2H brs), 2.987-2.956 (4H m), 1.696 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.350-1.190 (m, 24H), 0.865 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3015, 2957, 2919, 2853, 1624, 1470, 1350
【0076】
得られた化合物2の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C18H40N2O3): C, 65.02; H, 12.13; N, 8.42
測定値(%): C, 64.85; H, 12.22; N, 8.37
【0077】
〔合成例3〕
化合物3:ジウンデシルアンモニウム硝酸塩〔(C11H23)2N+H2NO3 -
ウンデシルアミンと、上記ウンデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ウンデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ウンデシルウンデカンアミド(C10H21CONHC11H23)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ウンデシルウンデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジウンデシルアミンを得た。次いで、ジウンデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物3:ジウンデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0078】
得られた化合物3のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.805 (2H brs), 3.010-2.930 (4H m), 1.727 (4H quintet/J=7.8Hz), 1.360-1.204 (32H, m), 0.874 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3014, 2957, 2917, 2853, 1624, 1471, 1353
【0079】
得られた化合物3の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C22H48N2O3) : C, 67.99; H, 12.45; N, 7.21
測定値(%): C, 68.13; H, 12.66; N, 6.87
【0080】
〔合成例4〕
化合物4:ジトリデシルアンモニウム硝酸塩〔(C13H27)2N+H2NO3 -
トリデシルアミンと、上記トリデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記トリデシルアミンと等モル量のトリデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-トリデシルトリデカンアミド(C12H25CONHC13H27)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-トリデシルトリデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジトリデシルアミンを得た。次いで、ジトリデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物4:ジトリデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0081】
得られた化合物4のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.760 (2H brs), 3.020-2.970 (4H m), 1.725 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.350-1.200 (m, 40H), 0.875 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3015, 2958, 2919, 2853, 1624, 1470, 1351
【0082】
得られた化合物4の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C26H56N2O3) : C, 70.22; H, 12.69; N, 6.30
測定値(%): C, 70.34; H, 12.80; N, 6.40
【0083】
〔合成例5〕
化合物5:ヘプチルデシルアンモニウム硝酸塩〔C7H15(C10H21)N+H2NO3 -
ヘプチルアミンと、上記ヘプチルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ヘプチルアミンと等モル量のデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-ヘプチルデカン酸アミド(C9H19CONHC7H15)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ヘプチルデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ヘプチルデシルアミンを得た。次いで、ヘプチルデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物5:ヘプチルデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0084】
得られた化合物5のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.773 (2H brs), 2.983 (4H quintet/J=7.0Hz), 1.703 (4H quintet/J=7.4Hz), 1.370-1.200 (m, 22H), 0.868 (3H t/J=7.0Hz), 0.862(3H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2956, 2853, 1637, 1472, 1354
【0085】
得られた化合物5の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C17H38N2O3): C, 64.11; H, 12.03; N, 8.80
測定値(%): C, 64.53; H, 12.25; N, 8.68
【0086】
〔合成例6〕
化合物6:オクチルデシルアンモニウム硝酸塩〔C8H17(C10H21)N+H2NO3 -
オクチルアミンと、上記オクチルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記オクチルアミンと等モル量のデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-オクチルデカンアミド(C9H19CONHC8H17)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-オクチルデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、オクチルデシルアミンを得た。次いで、オクチルデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物6:オクチルデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0087】
得られた化合物6のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.708 (2H brs), 3.010-2.960 (4H m), 1.710 (4H quintet/J=7.2Hz), 1.360-1.200 (m, 24H), 0.871 (3H t/J=7.0Hz), 0.864(3H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2956, 2853, 1635, 1470, 1354
【0088】
得られた化合物6の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C18H40N2O3): C, 65.02; H, 12.13; N, 8.42
測定値(%): C, 64.47; H, 12.13; N, 8.45
【0089】
〔合成例7〕
化合物7:ノニルデシルアンモニウム硝酸塩〔C9H19(C10H21)N+H2NO3 -
ノニルアミンと、上記ノニルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ノニルアミンと等モル量のデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-ノニルデカンアミド(C9H19CONHC9H19)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ノニルデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ノニルデシルアミンを得た。次いで、ノニルデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物7:ノニルデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0090】
得られた化合物7のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.760 (2H brs), 3.100-2.970 (4H m), 1.703 (4H quintet/J=7.0Hz), 1.360-1.200 (m, 26H), 0.872 (3H t/J=7.0Hz), 0.865(3H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2957, 2853, 1637, 1470, 1355
【0091】
得られた化合物7の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C19H42N2O3): C, 65.84; H, 12.22; N, 8.08
測定値(%): C, 64.72; H, 12.21; N, 8.08
【0092】
〔合成例8〕
化合物8:ヘプチルドデシルアンモニウム硝酸塩〔C7H15(C12H25)N+H2NO3 -
ヘプチルアミンと、上記ヘプチルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ヘプチルアミンと等モル量のドデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-ヘプチルドデカンアミド(C11H23CONHC7H15)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ヘプチルドデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ヘプチルドデシルアミンを得た。次いで、ヘプチルドデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物8:ヘプチルドデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0093】
得られた化合物8のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.697 (2H brs), 3.012-2.960 (4H m), 1.701 (4H quintet/J=7.1Hz), 1.370-1.200 (m, 26H), 0.872 (3H t/J=7.0Hz), 0.865 (3H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2957, 2852, 1636, 1470, 1354
【0094】
得られた化合物8の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C19H42N2O3): C, 65.84; H, 12.22; N, 8.08
測定値(%): C, 64.79; H, 13.19; N, 8.09
【0095】
〔合成例9〕
化合物9:オクチルドデシルアンモニウム硝酸塩〔C8H17(C12H25)N+H2NO3 -
オクチルアミンと、上記オクチルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記オクチルアミンと等モル量のドデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-オクチルドデカンアミド(C11H23CONHC8H17)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-オクチルドデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、オクチルドデシルアミンを得た。次いで、オクチルドデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物9:オクチルドデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0096】
得られた化合物9のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.766 (2H brs), 3.020-2.950 (4H m), 1.711(4H quintet/J=7.6Hz), 1.370-1.210 (m, 28H), 0.870 (6H t/J=7.0Hz), 0.864 (3H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2956, 2853, 1635, 1470, 1355
【0097】
得られた化合物9の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C20H44N2O3): C, 66.62; H, 12.30; N, 7.77
測定値(%): C, 66.60; H, 12.46; N, 7.79
【0098】
〔合成例10〕
化合物10:ノニルドデシルアンモニウム硝酸塩〔C9H19(C12H25)N+H2NO3 -
ノニルアミンと、上記ノニルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ノニルアミンと等モル量のドデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ノニルドデカンアミド(C11H23CONHC9H19)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ノニルノナンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ノニルドデシルアミンを得た。次いで、ノニルドデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物10:ノニルドデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0099】
得られた化合物10のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.675 (2H, brs), 3.010-2.950 (4H, m), 1.725 (4H, quintet/J=7.6Hz), 1.360-1.200 (m, 30H), 0.875(3H, t/J=7.0Hz), 0.871(3H, t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2957, 2853, 1637, 1470, 1353
【0100】
得られた化合物10の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C21H46N2O3): C, 67.33; H, 12.38; N, 7.48
測定値(%): C, 67.54 H, 12.45; N, 7.50
【0101】
〔比較合成例1〕
比較化合物1:ジヘキシルアンモニウム硝酸塩〔(C6H13)2N+H2NO3 -
ジヘキシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物1:ジヘキシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0102】
得られた比較化合物1のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.782 (2H brs), 2.991 (4H br quintet/J=7.5Hz), 1.704 (4H quintet/J=7.5Hz), 1.370-1.210 (m, 12H), 0.863 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3017, 2918, 2853, 1622, 1472, 1351
【0103】
得られた比較化合物1の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C12H28N2O3): C, 58.03; H, 11.36; N, 11.28
測定値(%): C, 58.03; H, 11.42; N, 11.38
【0104】
〔比較合成例2〕
比較化合物2:ジオクチルアンモニウム硝酸塩〔(C8H17)2N+H2NO3 -
ジオクチルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、エタノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物2:ジオクチルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0105】
得られた比較化合物2のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.748 (2H brs), 3.020-2.900 (4H m), 1.716 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.370-1.100 (m, 20H), 0.873 (6H t/J=6.8Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3018, 2917, 2853, 1623, 1472, 1351
【0106】
得られた比較化合物2の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C16H36N2O3): C, 63.12; H, 11.92; N, 9.20
測定値(%): C, 63.37; H, 12.00; N, 9.28
【0107】
〔比較合成例3〕
比較化合物3:ジデシルアンモニウム硝酸塩〔(C10H21)2N+H2NO3 -
ジデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、エタノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物3:ジデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0108】
得られた比較化合物3のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.774 (2H brs), 3.01-2.90 (4H m), 1.705 (4H quintet/J=7.0Hz), 1.350-1.170 (m, 28H), 0.874 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3010, 2918, 2853, 1624, 1472, 1353
【0109】
得られた比較化合物3の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C20H44N2O3): C, 66.62; H, 12.30; N, 7.77
測定値(%): C, 66.94; H, 12.51; N, 7.84
【0110】
〔比較合成例4〕
比較化合物4:ジドデシルアンモニウム硝酸塩〔(C12H25)2N+H2NO3 -
ジドデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、エタノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物4:ジドデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0111】
得られた比較化合物4のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.772 (2H brs), 3.00-2.91 (4H m), 1.75-1.63 (4H m), 1.40-1.10 (m, 36H), 0.863 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 3011, 2919, 2852, 1623, 1470, 1351
【0112】
得られた比較化合物4の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C24H52N2O3): C, 69.18; H, 12.58; N, 6.72
測定値(%): C, 69.49; H, 12.80; N, 6.74
【0113】
〔比較合成例5〕
比較化合物5:ジテトラデシルアンモニウム硝酸塩〔(C14H29)2N+H2NO3 -
テトラデシルアミンと、上記テトラデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記テトラデシルアミンと等モル量のテトラデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-テトラデシルテトラデカンアミド(C13H27CONHC14H29)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-テトラデシルテトラデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジテトラデシルアミンを得た。次いで、ジテトラデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、エタノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物5:ジテトラデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0114】
得られた比較化合物5のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.766 (2H brs), 2.972 (4H m), 1.716 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.322-1.204 (m, 44H), 0.875 (6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1):3015, 2919, 2853, 1623, 1473, 1350
【0115】
得られた比較化合物5の元素分析の結果を以下に示す。
計算値(%)(C28H60N2O3): C, 71.13; H, 12.79; N, 5.93
測定値(%): C, 72.39; H, 13.20; N, 5.55
【0116】
[ジアルキルアンモニウム塩素酸塩の合成]
〔合成例11〕
化合物11:ジノニルアンモニウム塩素酸塩〔(C9H19)2N+H2ClO3 -
ノニルアミンと、上記ノニルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ノニルアミンと等モル量のノナン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ノニルノナンアミド(C8H17CONHC9H19)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ノニルノナンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジノニルアミンを得た。次いで、ジノニルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、60質量%塩素酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物11:ジノニルアンモニウム塩素酸塩)を得た。
【0117】
得られた化合物11のH-NMRスペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 6.931 (2H brs), 3.070 (4H quintet /J=3.9Hz), 1.778 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.390-1.210 (m, 24H), 0.874 (6H t/J=7.0Hz)
【0118】
〔合成例12〕
化合物12:ジウンデシルアンモニウム塩素酸塩〔(C11H23)2N+H2ClO3 -
ウンデシルアミンと、上記ウンデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ウンデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ウンデシルウンデカンアミド(C10H21CONHC11H23)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ウンデシルウンデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ジウンデシルアミンを得た。次いで、ジウンデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、60質量%塩素酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物12:ジウンデシルアンモニウム塩素酸塩)を得た。
【0119】
得られた化合物12のH-NMRスペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 6.917 (2H brs), 3.073 (4H quintet /J=5.4Hz), 1.775 (4H quintet/J=7.6Hz), 1.410-1.210 (32H, m), 0.876 (6H t/J=7.0Hz)
【0120】
〔比較合成例6〕
比較化合物6:ジデシルアンモニウム塩素酸塩〔(C10H21)2N+H2ClO3 -
ジデシルアミンをイソプロパノールに溶解させ、ジデシルアミンのイソプロパノール溶液を得た。得られたジデシルアミンのイソプロパノール溶液に、60質量%塩素酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(比較化合物6:ジデシルアンモニウム塩素酸塩)を得た。
【0121】
得られた比較化合物6のH-NMRスペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 6.918 (2H brs), 3.073 (4H quintet /J=5.4Hz), 1.775 (4H quintet/J=7.0Hz), 1.396-1.190 (m, 28H), 0.874 (6H t/J=7.0Hz)
【0122】
[ジアルキルアンモニウム硝酸塩の合成]
〔合成例13〕
化合物13:デシルウンデシルアンモニウム硝酸塩〔C10H21(C11H23)N+H2NO3 -
ウンデシルアミンと、上記ウンデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ウンデシルアミンと等モル量のデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ウンデシルデカンアミド(C9H19CONHC11H23)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ウンデシルデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶をn-ヘキサンに加熱溶解させた後に冷却し、析出した原料のN-ウンデシルデカンアミドをろ過して取り除いた。ろ液を濃縮してデシルウンデシルアミンを得た。次いで、デシルウンデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物13:デシルウンデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0123】
得られた化合物13のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.720 (2H, brs), 3.014-2.957 (4H, m), 1.721-1.660 (4H, m), 1.360-1.200 (m, 30H),0.869(6H, t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2957, 2855, 1637, 1472, 1354
【0124】
〔合成例14〕
化合物14:ウンデシルドデシルアンモニウム硝酸塩〔C11H23(C12H25)N+H2NO3 -
ドデシルアミンと、上記ドデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ドデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-ドデシルウンデカンアミド(C10H21CONHC12H25)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-ドデシルウンデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶をn-ヘキサンに加熱溶解させた後に冷却し、析出した原料のN-ドデシルウンデカンアミドをろ過して取り除いた。ろ液を濃縮してウンデシルドデシルアミンを得た。次いで、ウンデシルドデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物14:ウンデシルドデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0125】
得られた化合物14のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.727 (2H, brs), 3.011-2.954 (4H, m), 1.737-1.676 (4H, m), 1.360-1.200 (m, 34H),0.874(6H, t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2958, 2853, 1638, 1472, 1352
【0126】
〔合成例15〕
化合物15:ウンデシルトリデシルアンモニウム硝酸塩〔C11H23(C13H27)N+H2NO3 -
トリデシルアミンと、上記トリデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記トリデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-トリデシルウンデカンアミド(C10H21CONHC13H27)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-トリデシルウンデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶をn-ヘキサンに加熱溶解させた後に冷却し、析出した原料のN-トリデシルウンデカンアミドをろ過して取り除いた。ろ液を濃縮してウンデシルトリデシルアミンを得た。次いで、ウンデシルトリデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物15:ウンデシルトリデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0127】
得られた化合物15のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.731 (2H, brs), 3.015-2.959 (4H, m), 1.735-1.674 (4H, m), 1.360-1.200 (m, 36H),0.876(6H, t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2957, 2854, 1638, 1471, 1353
【0128】
〔合成例16〕
化合物16:ウンデシルテトラデシルアンモニウム硝酸塩〔C11H23(C14H29)N+H2NO3 -
テトラデシルアミンと、上記テトラデシルアミンの1.5倍モル量のトリエチルアミンと、をクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記テトラデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で撹拌した後に2時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルム及びn-ヘキサンの混合溶媒を用いた再結晶を行い、N-テトラデシルウンデカンアミド(C10H21CONHC14H29)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-テトラデシルウンデカンアミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて2時間還流させた後、常温で2時間反応させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶をn-ヘキサンに加熱溶解させた後に冷却し、析出した原料のN-テトラデシルウンデカンアミドをろ過して取り除いた。ろ液を濃縮してウンデシルテトラデシルアミンを得た。次いで、ウンデシルテトラデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、濃硝酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加えた。得られた液を10℃に冷却した後、ろ過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、目的とする化合物(化合物16:ウンデシルテトラデシルアンモニウム硝酸塩)を得た。
【0129】
得られた化合物16のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.734 (2H, brs), 3.009-2.954 (4H, m), 1.739-1.679 (4H, m), 1.370-1.194 (m, 38H),0.879(3H, t/J=7.0Hz) , 0.876(3H, t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax (cm-1): 2958, 2854, 1636, 1471, 1354
【0130】
[評価]
(実施例1~16及び比較例1~6)
合成例1~16で合成した化合物1~16、及び、比較合成例1~6で合成した比較化合物1~6について、相変化温度(単位:℃)及び潜熱量(単位:J/g)の測定、繰り返し特性の有無の確認、並びに、相変化が固相-固相の相変化であるか否かの確認を行った。結果を表1~6及び図1~5に示す。
相変化温度及び潜熱量は、測定装置としてマックサイエンス社製の示差走査熱量計〔型式:DSC3200〕を用い、下記の条件にて測定した。なお、相変化温度は、昇温時の吸熱ピークの温度であり、潜熱量は、昇温時の吸熱ピークの熱量である。
繰り返し特性の有無は、冷却時に発熱が起きるか否かにより判断した。具体的には、100℃まで加熱した後、約1時間かけて30℃まで冷却したときに発熱が起きなければ、繰り返し特性を有さないと判断した。
相変化が固相-固相の相変化であるか否かは、相変化前後における融解の有無により判断した。具体的には、相変化前後で融解がなければ、相変化が固相-固相の相変化であると判断した。
【0131】
-条件-
測定温度範囲:30℃~100℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気ガス:空気
測定試料量:6.0mg
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
実施例1~4の結果を表1に示し、比較例1~5の結果を表2に示す。
実施例1~4及び比較例1~5は、いずれも式(I)における炭素数n及びmが同じ値のジアルキルアンモニウム硝酸塩である。実施例1~4と比較例1~5とは、前者の炭素数n及びmが奇数であるのに対し、後者の炭素数n及びmが偶数である点で異なる。
実施例1~4及び比較例1~5は、いずれも相変化前後で融解がなく、相変化が固相-固相の相変化であることを確認した。
表1に示すように、実施例1~4は、いずれも相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。
一方、表2に示すように、比較例1は、潜熱量が顕著に小さく、また、繰り返し特性を有さないことがわかった。比較例2は、低い相変化温度で、比較的大きい潜熱量を有していたが、繰り返し特性を有さないことがわかった。具体的には、比較例1及び比較例2は、冷却時に発熱を起こさず、その後に昇温しても当初のような吸熱を示さなかった。比較例3~5は、相変化温度が60℃を超えることがわかった。
【0135】
実施例1~4及び比較例1~5の潜熱量を図1に示す。
図1からは、式(I)における炭素数n及びmが同じ値のジアルキルアンモニウム硝酸塩の場合、炭素数n及びmが奇数である実施例1~4は、炭素数n及びmが偶数である比較例1~5と比較して、潜熱量が明らかに大きいことがわかる。
【0136】
表1及び表2、並びに図1に示す結果から、式(I)における炭素数n及びmが同じ奇数値であるジアルキルアンモニウム硝酸塩は、相変化温度を60℃以下と低く保ちながら、式(I)における炭素数n及びmが同じ偶数値であるジアルキルアンモニウム硝酸塩と比較して、顕著に大きい潜熱量を有することが明らかとなった。
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
実施例5~7の結果を表3及び図2に示し、実施例8~10の結果を表4及び図3に示す。なお、表3及び図2に記載の比較例3は、実施例5~7との対比のために記載したものであり、既述の表2に記載の比較例3と同じものであり、表4及び図3に記載の比較例4は、実施例8~10との対比のために記載したものであり、既述の表2に記載の比較例4と同じものである。
実施例5~10は、いずれも式(I)における炭素数n及びmが異なる値のジアルキルアンモニウム硝酸塩であるのに対し、比較例3及び比較例4は、いずれも式(I)における炭素数n及びmが同じ偶数値のジアルキルアンモニウム硝酸塩である。
実施例5~10は、いずれも相変化前後で融解がなく、相変化が固相-固相の相変化であることを確認した。
表3及び表4に示すように、実施例5~10は、いずれも相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が高く、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。
図2からは、実施例5~7が、大きい潜熱量を確保しながら、比較例3と比較して低い相変化温度を示すことがわかる。また、図3からは、実施例8~10が、大きい潜熱量を確保しながら、比較例4と比較して低い相変化温度を示すことがわかる。
表3及び表4、並びに、図2及び図3に示す結果から、式(I)における炭素数が異なる値のジアルキルアンモニウム硝酸塩は、式(I)における炭素数が同じで偶数値のジアルキルアンモニウム硝酸塩と比較して、より低い相変化温度で、大きい潜熱量を有することが明らかとなった。
【0140】
【表5】
【0141】
実施例11及び実施例12、並びに比較例6の結果を表5及び図4に示す。
実施例11及び実施例12、並びに比較例6は、いずれも式(I)における炭素数n及びmが同じ値のジアルキルアンモニウム塩素酸塩である。実施例11及び実施例12と比較例6とは、前者の炭素数n及びmが奇数であるのに対し、後者の炭素数n及びmが偶数である点で異なる。
実施例11及び実施例12は、いずれも相変化前後で融解がなく、相変化が固相-固相の相変化であることを確認した。
表5に示すように、実施例11及び実施例12は、いずれも相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。一方、比較例6は、相変化温度が60℃以下であるものの、潜熱量が顕著に小さいことがわかった。
図4からは、実施例11及び実施例12が、比較例6と比較して、潜熱量が明らかに大きいことがわかる。
表5及び図4に示す結果から、式(I)における炭素数n及びmが同じ奇数値であるジアルキルアンモニウム塩素酸塩は、相変化温度を60℃以下と低く保ちながら、式(I)における炭素数n及びmが同じ偶数値であるジアルキルアンモニウム塩素酸塩と比較して、顕著に大きい潜熱量を有することが明らかとなった。
【0142】
以上より、式(I)で表される化合物であるジアルキルアンモニウム化合物では、硝酸塩のみならず塩素酸塩についても、式(I)における炭素数n及びm(即ち、アルキル鎖の炭素数)が同じ値である場合には、奇数値の方が偶数値よりも潜熱量が大きくなることがわかった。これらの結果は、式(I)におけるXの種類に関わらず、同様の効果を奏し得ることを示唆するものであると考えられる。
【0143】
【表6】
【0144】
実施例13~16のDSCによる熱分析結果を表6に示す。なお、表6に記載の比較例3は、実施例13との対比のために記載したものであり、既述の表2に記載の比較例3と同じものであり、表6に記載の比較例4は、実施例14との対比のために記載したものであり、既述の表2に記載の比較例4と同じものであり、表6に記載の比較例5は、実施例16との対比のために記載したものであり、既述の表2に記載の比較例5と同じものである。
実施例13~16は、いずれも式(I)における炭素数n及びmが異なる値のジアルキルアンモニウム硝酸塩である。
実施例13~16は、いずれも相変化前後で融解がなく、相変化が固相-固相の相変化であることを確認した。
表6に示すように、実施例13~16は、いずれも相変化温度が60℃以下と低く、潜熱量が高く、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。
表6に示す結果からも、式(I)における炭素数n及びmが異なる値のジアルキルアンモニウム硝酸塩は、炭素数が同じで偶数値のジアルキルアンモニウム硝酸塩と比較して、より低い相変化温度で、大きい潜熱量を有することが明らかとなった。
【0145】
<X線回折スペクトルの測定>
測定装置として(株)リガク社製のX線回折装置〔製品名:SmartLab(登録商標)、X線源の出力:9kW〕を用いて、上記化合物2の粉末状態における26℃でのX線回折スペクトルと、サンプルホルダーを加熱して70℃でのX線回折スペクトルとを測定した。相変化前後での化合物2のX線回折スペクトルを図5に示す。
図5からは、相変化前の温度では結晶構造を示すピークが存在するが、相変化後では非晶質を示すピークが存在することがわかる。また、化合物2を常温で2時間冷却することにより結晶構造に戻ることが明らかになった。このような結果から、化合物2の相変化が結晶から非晶質、つまり固相-固相の相変化であり、一連の実施例の化合物が相変化における繰り返し特性に優れていることが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5