(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155565
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】イオントラップ
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20221005BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
H01J49/06 300
H01J49/42 500
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022054966
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】2104522.4
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー グリンフェルト
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ワーグナー
(57)【要約】
【課題】改良されたイオントラップ、又は少なくともその商業的に有用な代替物を提供する。
【解決手段】イオントラップは、多極電極アセンブリ、第1及び第2の閉じ込め電極を備える。多極電極アセンブリは、第1の極性のイオンを多極電極アセンブリの軸方向に延びるイオンチャネルに閉じ込めるように構成されている。第1電極は、多極電極アセンブリに隣接して設けられ、多極電極アセンブリの軸方向に延びる。第2電極は、多極電極アセンブリに隣接して設けられ、第1電極と整列して多極電極アセンブリの軸方向に延びる。第1及び第2の閉じ込め電極は、第1と第2の閉じ込め電極の間にイオンチャネルのイオン閉じ込め領域を画定するために軸方向に離間されている。第1及び第2の閉じ込め電極は、第1の極性のDC電位を受けて、イオンチャネル内のイオンをイオン閉じ込め領域内にさらに閉じ込めるように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析のために第1の極性のイオンを冷却するためのイオントラップであって、
多極電極アセンブリであって、前記第1の極性のイオンを前記多極電極アセンブリの軸方向に延びるイオンチャネルに閉じ込めるように構成されている多極電極アセンブリと、
前記多極電極アセンブリに隣接して設けられ、前記多極電極アセンブリの前記軸方向に延びる第1の閉じ込め電極と、
前記多極電極アセンブリに隣接して設けられ、前記第1の閉じ込め電極と整列して前記多極電極アセンブリの前記軸方向に延びる第2の閉じ込め電極と、を備え、
前記第1及び第2の閉じ込め電極が、前記第1の閉じ込め電極と前記第2の閉じ込め電極との間に前記イオンチャネルのイオン閉じ込め領域を画定するために前記軸方向に離間され、
前記第1及び第2の閉じ込め電極が、前記第1の極性のDC電位を受けて、前記イオンチャネル内のイオンを前記イオン閉じ込め領域内にさらに閉じ込めるように構成されている、イオントラップ。
【請求項2】
前記イオントラップが、前記イオン閉じ込め領域内の分析物イオンを冷却し、その後、質量分析のために冷却された前記分析物イオンを質量分析計に排出するように構成されている、請求項1に記載のイオントラップ。
【請求項3】
前記第1の閉じ込め電極及び前記第2の閉じ込め電極が、一緒に電気的に接続されている、請求項1又は2に記載のイオントラップ。
【請求項4】
前記第1の閉じ込め電極及び/又は前記第2の閉じ込め電極が、前記軸方向に少なくとも2mmの距離だけ延びている、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオントラップ。
【請求項5】
前記第1の閉じ込め電極及び/又は前記第2の閉じ込め電極が、前記イオンチャネルに沿って可変距離だけ前記イオンチャネルの中心軸から離間されている、請求項4に記載のイオントラップ。
【請求項6】
前記イオンチャネルの前記中心軸からの前記第1の閉じ込め電極及び/又は前記第2の閉じ込め電極の間隔が、前記多極電極アセンブリの端部から前記イオンチャネルの前記イオン閉じ込め領域に向かって増加する、請求項5に記載のイオントラップ。
【請求項7】
前記第1の閉じ込め電極及び前記第2の閉じ込め電極が、前記軸方向に配置されたスロット付き電極によって提供され、前記スロット付き電極が、前記スロット付き電極内に形成されたスロットによって分離された第1の閉じ込め電極領域及び第2の閉じ込め電極領域を備え、前記スロットが、前記イオンチャネルの前記イオン閉じ込め領域と整列する、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオントラップ。
【請求項8】
前記スロット付き電極がプレート電極である、請求項7に記載のイオントラップ。
【請求項9】
複数の第1の閉じ込め電極が設けられ、前記複数の第1の閉じ込め電極が、前記多極電極アセンブリの中心軸の周りに均等に分布されており、
複数の第2の閉じ込め電極が設けられ、前記複数の第2の閉じ込め電極が、前記多極電極アセンブリの前記中心軸の周りに均等に分布されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオントラップ、又は
複数のスロット付き電極が設けられ、前記複数のスロット付き電極が、前記多極電極アセンブリの中心軸の周りに均等に分布されている、請求項7又は8に記載のイオントラップ。
【請求項10】
前記多極電極アセンブリの対向する両端部に配置されている第1及び第2の端部電極をさらに備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオントラップ。
【請求項11】
コントローラをさらに備え、前記コントローラが、
RF電位を前記多極電極アセンブリに印加して、前記イオンチャネル内にイオンを閉じ込め、
第1のDC電位を前記第1及び第2の端部電極に印加し、かつ
第2のDC電位を前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加するように構成されている、請求項10に記載のイオントラップ。
【請求項12】
前記第1のDC電位が、前記第2のDC電位よりも大きい、請求項11に記載のイオントラップ。
【請求項13】
前記コントローラが、
イオンが前記イオントラップに入る第1の期間中に、前記第2のDC電位を前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加し、かつ
イオンが前記イオントラップに入った後の第2の期間中に、第3のDC電位を前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加するように構成され、前記第3のDC電位が前記第2のDC電位よりも大きい、請求項11又は12に記載のイオントラップ。
【請求項14】
前記多極電極アセンブリが、四重極電極アセンブリ、六重極電極アセンブリ、又は八重極電極アセンブリである、請求項1~13のいずれか一項に記載のイオントラップ。
【請求項15】
質量分析計であって、
請求項1~14のいずれか一項に記載のイオントラップと、
前記イオントラップからイオンを受けるように構成されている質量分析器と、を備える質量分析計。
【請求項16】
イオントラップにイオンを注入する方法であって、
第1の極性のイオンを前記イオントラップの多極電極アセンブリに注入する注入ステップであって、前記イオンが、前記多極電極アセンブリの軸方向に延びるイオンチャネルに閉じ込められる、前記注入ステップを含み、
前記イオントラップが、
前記多極電極アセンブリに隣接して設けられ、前記多極電極アセンブリの前記軸方向に延びる第1の閉じ込め電極と、
前記多極電極アセンブリに隣接して設けられ、前記第1の閉じ込め電極と整列して前記多極電極アセンブリの前記軸方向に延びる第2の閉じ込め電極と、を備え、
前記第1及び第2の閉じ込め電極が、前記第1の閉じ込め電極と前記第2の閉じ込め電極との間に前記イオンチャネルのイオン閉じ込め領域を画定するために前記軸方向に離間されており、
前記イオンチャネル内のイオンを前記イオン閉じ込め領域内にさらに閉じ込めるために、前記第1及び第2の閉じ込め電極に前記第1の極性のDC電位を印加することによって、イオンが、前記イオンチャネルのイオン閉じ込め領域にさらに閉じ込められる、方法。
【請求項17】
前記イオンが、前記多極電極アセンブリの対向する両端部に配置された第1及び第2の端部電極によって、前記多極電極アセンブリのイオンチャネル内に閉じ込められる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
RF電位が前記多極電極アセンブリに印加され、前記イオンチャネル内にイオンが閉じ込められ、
第1のDC電位が前記第1及び第2の端部電極に印加され、前記イオンチャネル内に前記イオンが閉じ込められ、
第1のDC電位が、前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
イオンが前記イオントラップに入る第1の期間中に、第2のDC電位が前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加され、
イオンが前記イオントラップに入った後の第2の期間中に、第3のDC電位が前記第1及び第2の閉じ込め電極に印加され、前記第3のDC電位が前記第2のDC電位よりも大きい、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオントラップ及びイオントラップの方法に関する。特に、本開示は、質量分析計で使用するためのイオントラップに関する。
【背景技術】
【0002】
イオントラップは、質量分析器に注入する前にイオンを蓄積するために使用することができる。特に、そのようなイオントラップ(しばしば抽出トラップと称される)は、軌道捕捉質量分析器または飛行時間型質量分析器に注入する前に、イオンを蓄積するために使用されてもよい。抽出トラップへのイオンの蓄積は、連続イオンビームを質量分析器の受容特性に合わせた空間特性を有する濃縮された冷却イオン雲に変換するのに有用であり得る。
【0003】
当該技術分野において既知の線形イオントラップは、何らかの形態の多極電極アセンブリを使用して放射方向にイオンを閉じ込めるために、RF電位の組み合わせを利用することができる。多極電極アセンブリにおける軸方向の閉じ込めは、多極電極アセンブリの対向する端部において、端部電極に印加されるDC電位によって提供され得る。イオントラップ内に閉じ込められたイオンを、関連する質量分析器に注入するために、蓄積し、冷却することができる。
【0004】
典型的には、イオントラップ内に閉じ込められたイオンは、窒素またはヘリウムなどの緩衝ガスとの衝突を介して、イオントラップの中心軸まで冷却される。イオンの熱化は、通常、端部電極に印加されたDC電位によって生成された遅延静電場間でトラップの軸に沿って何度か振動させた後に達成される。緩衝ガスと熱平衡になった後、さらにDC電場を印加することを通じて、イオンをイオントラップから抽出することができる。
【0005】
このような配置の1つの問題は、イオンをイオントラップに閉じ込めるために、注入後にイオンを冷却しなければならないことである。特に、イオンは、イオンが端部DC電位によって反射されるほど十分に冷却されるように、イオントラップの軸方向に沿って移動しつつ、十分に冷却されなければならない。
【0006】
所望の冷却を提供するための既知の選択肢の1つは、イオントラップ内の圧力を増加させることである。しかしながら、イオントラップ内の圧力を増加させると、イオントラップ内のイオンの飛散と、イオンの断片化も引き起こされる。
【0007】
別の選択肢は、イオントラップの長さを長くして、イオントラップに沿った移動時間を長くすることで、イオンを冷却する時間を増やすことである。ただし、このような解決策では、冷却されたイオン雲の軸方向の長さが長くなってしまう。冷却されたイオン雲のサイズを大きくすることは、そのような冷却されたイオン雲が質量分析器の空間受容特性に一致しなくなるため、望ましいことではない。
【0008】
イオン閉じ込めを改善するためのさらなる選択肢は、EP-A-3462476に開示されている。EP-A-3462476は、すべてのイオンがトラップに入った後に、開口電圧が増加するイオントラップを開示している。これにより、イオンが最初に克服する必要のない軸方向のトラップバリアの創出が許容されるので、より少ないエネルギーでイオンがトラップに入ることが許容され、トラップ内に保持するための冷却/ガス圧も少なくて済むようになる。
【0009】
イオン閉じ込めを改善するためのさらなる選択肢は、GB-A-2570435に開示されている。GB-A-2570435は、イオントラップの中心に向かって位置する補助ピン電極を含むイオントラップを開示している。反対極性のDC電位がピン電極に印加され、ピン電極の周囲のイオントラップの領域にイオンを閉じ込める。
【0010】
以上のことから、本開示の目的は、改良されたイオントラップ、または少なくともその商業的に有用な代替物を提供することにある。
【発明の概要】
【0011】
本開示の第1の態様によれば、質量分析のために第1の極性のイオンを冷却するためのイオントラップが提供される。イオントラップは、多極電極アセンブリ、第1の閉じ込め電極、及び第2の閉じ込め電極を備える。多極電極アセンブリは、第1の極性のイオンを多極電極アセンブリの軸方向に延在するイオンチャネルに閉じ込めるように構成されている。第1の閉じ込め電極は、多極電極アセンブリに隣接して設けられ、多極電極アセンブリの軸方向に延在する。第2の閉じ込め電極は、多極電極アセンブリに隣接して設けられ、第1の閉じ込め電極と整列して多極電極アセンブリの軸方向に延在する。第1及び第2の閉じ込め電極は、第1の閉じ込め電極と第2の閉じ込め電極との間にイオンチャネルのイオン閉じ込め領域を画定するために軸方向に離間されている。第1及び第2の閉じ込め電極は、第1の極性のDC電位を受けて、イオンチャネル内のイオンをイオン閉じ込め領域内にさらに閉じ込めるように構成されている。
【0012】
本開示の第1の態様のイオントラップは、イオンを第1及び第2の閉じ込め電極間のイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に閉じ込めるために、反発DC電位(すなわち、DC電位はイオンと同じ極性である)を使用する第1及び第2の閉じ込め電極を提供する。適用されるDC電位は、イオントラップのイオン閉じ込め領域にイオンを冷却して、閉じ込める方法を提供する。このように、イオントラップのイオン閉じ込め領域の長さは、多極電極アセンブリの長さによってではなく、第1の閉じ込め電極と第2の閉じ込め電極との間の間隔によって決定される。すなわち、イオントラップの長さは、イオン閉じ込め領域の長さから切り離される。
【0013】
第1及び第2の閉じ込め電極は、イオンチャネルの軸方向の長さに沿って、イオンチャネル(すなわち、イオン閉じ込め領域)の領域(部分)にイオンを閉じ込める。すなわち、イオン閉じ込め領域は、イオンチャネルの長さ(例えば、多極電極アセンブリの長さ)よりも短い軸方向の長さを有する。第1及び第2の閉じ込め電極を使用してイオントラップ内のイオン閉じ込め領域を画定することにより、イオントラップの長さ(すなわち、多極電極アセンブリによって画定されるイオンチャネルの長さ)を増加させて、イオン閉じ込め領域の長さに悪影響を及ぼすことなく、イオントラップ内を移動するイオンを冷却するための追加の時間を許容することができる。
【0014】
イオンがイオントラップの閉じ込め領域に閉じ込められると、閉じ込められたイオンの空間電荷が増加することが理解されよう。この空間電荷の増加は、それに関連する電圧電位を効果的に有するものであり、これはイオントラップのイオン閉じ込め領域に存在する。有利には、第1の態様のイオントラップでは、第1及び第2の閉じ込め電極は、イオントラップのイオン閉じ込め領域と整列せず、むしろそれと離間している。このように、第1及び第2の閉じ込め電極に印加されるDC電位は、空間電荷の電圧電位と重複しない。したがって、第1及び第2の閉じ込め電極はイオン閉じ込め領域と重複しないため、イオン閉じ込め領域におけるイオンの閉じ込めの増加による空間電荷の増加は、第1及び第2の閉じ込め電極に印加されるトラップ電位を乱すことはない。
【0015】
さらに、第1の態様の第1及び第2の閉じ込め電極は、反発DC電位を受けるように構成されている。反発DC電位を使用してイオンを閉じ込めることによって、例えば、多極電極アセンブリの第1の閉じ込め電極と隣接電極との間の電位場は、イオンを捕捉しない。対照的に、引力DC電位が使用される場合(GB-A-2570435のイオントラップなど)、本発明者らは、そのような電位が軸方向及び半径方向の両方にイオンを引き寄せることに気付いている。したがって、RF疑似電位に強く含まれていないイオン、特に質量対電荷比が高いイオンは、DCピン電極の半径方向への拘束障壁が減少する。このように、イオンを閉じ込めるために引力DC電位を使用すると、イオン(特に高質量対電荷比イオン)がイオントラップからDCピン電極の方に引き寄せられ得る。反発DC電位を使用することによって、第1の態様のイオントラップは、放射状にイオンを損失させるポンテシャルなしで、より広い範囲の質量対電荷比のイオンを閉じ込めることができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、イオントラップは、イオン閉じ込め領域内の分析物イオンを冷却し、その後、質量分析のために冷却された分析物イオンを質量分析器に排出するように構成されている。そのため、イオントラップは、質量分析器に注入するためのイオンのパケットを形成するために抽出トラップとして動作するように構成されてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、第1の閉じ込め電極及び第2の閉じ込め電極は、ともに電気的に接続されている。そのため、第1及び第2の閉じ込め電極は、それらに印加されるのと同じDC電位を有し得る。いくつかの実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極は、電気ケーブルによって接続されてもよく、他の実施形態では、第1及び第2の電極は、それらが互いに直接電気接続されるように一体的に形成されてもよい。第1及び第2の閉じ込め電極に同じDC電位を提供することにより、イオントラップの制御が簡素化される。
【0018】
いくつかの実施形態では、第1の閉じ込め電極及び/又は第2の閉じ込め電極は、軸方向に少なくとも2mmの距離だけ延在している。そのため、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、軸方向に延在する細長い閉じ込め電極であってもよい(すなわち、第1及び第2の閉じ込め電極は、軸方向に延びる)。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、イオンチャネルの中心軸の周りの円周方向に延在するよりも大きな距離で軸方向に延在するように細長くてもよい。軸方向に延在する第1及び/又は第2の閉じ込め電極を提供することによって、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、イオン閉じ込め領域に向かってイオンを集束させるDC電位を提供してもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、第1の閉じ込め電極及び/又は第2の電極は、イオンチャネルに沿って可変距離だけイオンチャネルの中心軸から離間されている。多極電極アセンブリの電極に対して、第1及び/又は第2の閉じ込め電極が、イオンの半径方向に突出または凹み得ることが理解されるであろう。そのため、第1及び/又は第2の閉じ込め電極の半径間隔は、イオントラップの軸方向に沿って変化し得るが、多極電極アセンブリの電極の半径間隔は、イオントラップの軸方向に沿って概ね一定であり得る。第1及び/又は第2の閉じ込め電極のための可変の半径方向の間隔を提供することによって、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、イオントラップのイオン閉じ込め領域に向かってイオンを集束させるようにさらに構成され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、イオンチャネルの中心軸からの第1の閉じ込め電極及び/又は第2の電極の間隔は、多極電極アセンブリの端部からイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に向かって増加する。そのため、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、概して、イオン閉じ込めチャネルに向かって凹んでいる。いくつかの実施形態では、第1の閉じ込め電極及び/又は第2の閉じ込め電極の可変間隔は、それぞれの電極を一般的にくさび形の電極として形成することによって提供され得る。このようにして第1及び/又は第2の閉じ込め電極を提供することによって、イオントラップは、イオン閉じ込め領域に向かってイオンを誘導する反発DC電位を提供し得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、複数の第1の閉じ込め電極が提供され、複数の第1の閉じ込め電極は、多極電極アセンブリの中心軸の周りに均等に分布し、複数の第2の閉じ込め電極が提供され、複数の第2の閉じ込め電極は、多極電極アセンブリの中心軸の周りに均等に分布する。第1の閉じ込め電極の各々は、軸方向にそれぞれの第2の閉じ込め電極と整列していてもよい。いくつかの実施形態では、複数の第1の閉じ込め電極は、対で提供されてもよく、各対は、イオントラップの対向する側に配置される。いくつかの実施形態では、複数の第2の閉じ込め電極は、対で提供されてもよく、各対は、イオントラップの対向する側に配置される。例えば、少なくとも2個、4個、6個または8個の第1及び/又は第2の閉じ込め電極が提供されてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1の閉じ込め電極及び第2の閉じ込め電極は、軸方向に配置されたスロット付き電極によって提供され、スロット付き電極は、スロット付き電極内に形成されたスロットによって分離された第1の閉じ込め電極領域及び第2の閉じ込め電極領域を備え、スロットは、イオンチャネルのイオン閉じ込め領域と整列している。そのため、第1及び第2の閉じ込め電極は、一体的に提供され得る。スロットは、スロット付き電極に印加されるDC電位がイオン閉じ込め領域に影響を与えないことを確実にするために提供される。いくつかの実施形態では、スロット付き電極のスロットは、イオン閉じ込め領域の意図されたサイズとほぼ同じ長さである。
【0023】
いくつかの実施形態では、スロット付き電極は、プレート電極である。そのため、スロット付き電極は、多極電極アセンブリに容易に組み込むことができる経済的な方式で提供されてもよい。例えば、スロット付き電極は、多極電極アセンブリの隣接電極間に配置することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、複数のスロット付き電極が提供され得る。いくつかの実施形態では、複数のスロット付き電極は、多極電極アセンブリの中心軸の周りに均等に分布している。いくつかの実施形態では、複数のスロット付き電極は、対で提供されてもよく、各対は、イオントラップの対向する側に配置される。例えば、少なくとも2つ、4つ、6つ、または8つのスロット付き電極が提供され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、イオントラップは、多極電極アセンブリの対向する端部に配置されている第1及び第2の端部電極をさらに備える。第1及び第2の端部電極を使用して、イオントラップ内へ及び/又はイオントラップからのイオンの軸方向への注入及び/又は抽出を制御することができる。他の実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極と組み合わせた多極電極アセンブリを使用して、イオントラップ内へのイオンの注入を制御することができる。例えば、第1及び第2の閉じ込め電極はまた、(例えば、第1及び第2の閉じ込め電極に電位を印加することによって)イオントラップの軸方向にイオンを排出するように個別に制御可能であってもよい。いくつかの実施形態では、イオントラップに隣接するイオン輸送デバイス(例えば、他のイオントラップ、多極、または断片化チャンバなど)を使用して、イオントラップからのイオンの注入/排出を制御することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、イオントラップは、コントローラをさらに備えてもよい。コントローラは、RF電位を多極電極アセンブリに印加して、イオンチャネル内にイオンを閉じ込めるように構成されてもよい。コントローラはまた、第1のDC電位を第1及び第2の端部電極に印加するように構成されてもよい。コントローラはまた、第2のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極に印加するように構成されてもよい。そのため、イオン閉じ込め領域内にイオンを閉じ込めるために、イオントラップのRF電位および第1及び第2のDC電位は、コントローラによって制御され得る。コントローラはまた、イオントラップの端部電極に印加された第1のDC電位を制御するように構成されてもよい。端部電極に印加される第1のDC電位は、イオンがイオントラップに注入され、その後、イオントラップ内に閉じ込められることを許容するように制御され得る。次に、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される第2のDC電位は、イオントラップのイオン閉じ込め領域内のイオンをさらに閉じ込め得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1のDC電位は、第2のDC電位よりも大きい。したがって、第1及び第2のDC電位の組み合わせは、第1の閉じ込め電極と第2の閉じ込め電極との間のイオン閉じ込め領域に向かってイオンを集束させる静電界を画定する。
【0028】
いくつかの実施形態では、コントローラは、イオンがイオントラップに入る第1の期間中に第2のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極に印加するように、かつイオンがトラップに入った後の第2の期間中に第3のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極に印加するように構成されており、第3のDC電位は第2のDC電位よりも大きい。したがって、第1及び第2の閉じ込め電極の効果は、イオンがイオントラップ内に注入される第1の期間中に低減され得る。イオントラップ内にイオンが注入され、冷却を開始した後、第1及び第2の閉じ込め電極に印加されるDC電位を増加させて、閉じ込め効果を強化することができる。例えば、いくつかの実施形態では、第2のDC電位は、比較的低いDC電位であってもよく、例えば、2V以下、または0Vであってもよい。イオントラップ内にイオンが注入された後、第2のDC電位は、次いで、第3の電位、例えば、少なくとも10Vまで増加され得る。いくつかの実施形態では、第3のDC電位が印加される第2の期間は、イオントラップにイオンが入った直後に開始され得る。いくつかの実施形態では、注入されたイオンがイオントラップ内で冷却することを許容するために、第1の期間と第2の期間との間に遅延が存在し得る。例えば、イオンがイオン閉じ込め領域に向かって冷却を開始することを可能にするために、少なくとも0.5ms、またはより好ましくは少なくとも1ms、または少なくとも2msの第1の期間と第2の期間との間に遅延があり得る。いくつかの実施形態では、遅延は、イオンを閉じ込めるのにかかる時間が過剰にならないように、10ms以下であってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、多極電極アセンブリが、四重極電極アセンブリ、六重極電極アセンブリ、または八重極電極アセンブリである。多極電極アセンブリは、複数のポールロッドペアを含み得、各ポールロッドペアは軸方向に延在する。第1及び第2の閉じ込め電極は、多極電極アセンブリの隣接電極間(例えば、隣接ポールロッド間)に配置されてもよい。
【0030】
本開示の第2の態様によれば、質量分析計が提供される。質量分析計は、第1の態様に従ったイオントラップと、イオントラップからイオンを受け取るように構成されている質量分析器とを備える。質量分析計のイオントラップは、第1の態様に関連して上で考察した任意の特徴のいずれかを組み込むことができる。質量分析器は、第1の態様のイオントラップ内で冷却されたイオンを受け取り得る。
【0031】
本開示の第3の態様によれば、イオントラップにイオンを注入する方法が提供される。本方法は、
第1の極性のイオンをイオントラップの多極電極アセンブリに注入することをであって、イオンが、多極電極アセンブリの軸方向に延在するイオンチャネルに閉じ込められる、注入することを含み、
イオントラップは、
多極電極アセンブリに隣接して設けられ、多極電極アセンブリの軸方向に延在する第1の閉じ込め電極と、
多極電極アセンブリに隣接して設けられ、第1の閉じ込め電極と整列して多極電極アセンブリの軸方向に延在する第2の閉じ込め電極と、を備え、
第1及び第2の閉じ込め電極は、第1の閉じ込め電極と第2の閉じ込め電極との間にイオンチャネルのイオン閉じ込め領域を画定するために軸方向に離間され、
イオンチャネル内のイオンをイオン閉じ込め領域に向けてバイアスするために、第1及び第2の閉じ込め電極に第1の極性のDC電位を印加することによって、イオンは、イオンチャネルのイオン閉じ込め領域にさらに閉じ込められる。
【0032】
本開示の第3の態様によれば、イオントラップにイオンを注入する方法が提供される。第3の態様の方法は、第1の態様のイオントラップまたは第2の態様の質量分析計を使用して実行され得る。第3の態様の方法は、イオントラップにイオンを注入する方法を提供し、イオンは冷却され、イオントラップの全長に依存しないイオン閉じ込め領域に閉じ込められる。このようにしてイオンを冷却することにより、イオンを質量分析器内に排出することで、イオンを次いでさらなる分析に使用することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、イオンは、多極電極アセンブリの対向する端部に配置された第1及び第2の端部電極によって、多極電極アセンブリのイオンチャネル内に閉じ込められる。
【0034】
いくつかの実施形態では、RF電位が多極電極アセンブリに印加され、イオンチャネル内にイオンが閉じ込められる。いくつかの実施形態では、イオンチャネル内にイオンを閉じ込めるために、第1のDC電位が第1及び第2の端部電極に印加される。いくつかの実施形態では、第1のDC電位が、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される。
【0035】
いくつかの実施形態では、イオンがイオントラップに入る第1の期間中に、第2のDC電位が第1及び第2の閉じ込め電極に印加される。次いで、イオンがトラップに入った後の第2の期間中に、第3のDC電位が第1及び第2の閉じ込め電極に印加されることができ、第3のDC電位は第2のDC電位よりも大きい。
【0036】
本発明は、いくつかの方法で実践されてもよく、具体的な実施形態は、例としてのみ、及び図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】GB-A-2570435から既知のイオントラップの一例を示す。
【
図2】本開示の一実施形態による質量分析計の概略配置を示す。
【
図3】本開示の一実施形態によるイオントラップの概略図を示す。
【
図4】イオン電位に対するイオントラップの軸方向のイオン移動の概略図である。
【
図5a】イオントラップ内の電位の、軸方向にわたる半径方向の変動のグラフを示す。
【
図5b】イオントラップの軸方向に沿ったイオントラップ内の電位の変動のグラフを示す。
【
図7a】GB-A-2570435のイオントラップを組み込んだ質量分析計の質量分析走査のグラフを示す。
【
図7b】本開示の一実施形態による、イオントラップを組み込んだ質量分析計の質量分析走査のグラフを示す。
【
図8】本開示の実施形態による、イオントラップにイオンを注入する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図2は、本開示の一実施形態による、質量分析計10の概略配置を示す。
【0039】
図2では、分析される試料は、(例えば、オートサンプラから)液体クロマトグラフィー(LC)カラム(
図2には示されていない)などのクロマトグラフィー装置に供給される。LCカラムのそのような例の1つは、Thermo Fisher Scientific,Inc.,PROSWIFT(RTM)Monolithic Columnであり、高圧下で移動相中に運ばれる試料を、静止相を構成する不規則または球状の粒子の静止相に強制的に通すことを通じて高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を提供するものである。HPLCカラムにおいて、試料分子は、静止相との相互作用の程度に応じて異なる速度で溶出する。例えば、試料分子は、タンパク質またはペプチド分子であってもよい。
【0040】
したがって、液体クロマトグラフィーによって分離された試料分子を、大気圧にあるエレクトロスプレーイオン化(ESI)源20を使用してイオン化し、試料イオンを形成する。
【0041】
ESI源20によって生成された試料イオンは、質量分析計10のイオン輸送手段によってイオントラップ80に輸送される。イオン輸送手段によれば、ESI源20によって生成された試料イオンは、質量分析計10の真空チャンバに入り、キャピラリ25によってRF専用Sレンズ30に向けられる。イオンは、Sレンズ30によって、軸方向の磁場を有する屈曲した平極子50にイオンを注入する、注入平極子40に集束される。屈曲した平極子50は、それを通る曲線経路に沿って(荷電した)イオンを誘導する一方で、取り込まれた溶媒分子などの不要な中性分子は、曲線経路に沿って誘導されず、失われてしまう。イオンゲート60は、屈曲した平極子50の遠位端に位置付けられ、屈曲した平極子50から輸送多極子70内へのイオンの通過を制御する。
図2に示される実施形態では、輸送多極子70は、輸送八極子である。移送多極子70は、分析物イオンを屈曲した平極子50からイオントラップ80に誘導する。
図2に示される実施形態では、イオントラップ80は、質量分析器90内への抽出するためにイオンを冷却するように構成されている。
【0042】
上述のイオン輸送手段は、本実施形態による、イオン源からイオントラップ80へのイオン輸送のための実施態様の一つであることが理解されるであろう。イオン源からイオントラップ80にイオンを輸送するのに好適な、イオン輸送光学系の他の配置または上記アセンブリの変形は、当業者には明らかであろう。例えば、
図2に示されるイオン輸送手段は、必要に応じて修正されるか、または他のイオン光学部品によって置き換えることができる。例えば、四重極質量フィルタ及び/もしくは質量選択イオントラップ、及び/もしくはイオン移動性セパレータなどの質量セレクタの少なくとも1つは、例えば、屈曲した平極子50と移送多極子70との間に提供され、イオン源20からイオンを選択してイオントラップ80に誘導する能力を提供することができる。
【0043】
イオントラップ80は、その中に注入されたイオンを閉じ込め、冷却するように構成されている。イオントラップ80の詳細な動作及び構造は、以下でより詳細に説明される。イオントラップ80内に閉じ込められた冷却イオンは、イオントラップ80から質量分析器90に向かって直交して排出され得る。
図2に示されるように、質量分析器は、軌道捕捉質量分析器90であり、例えば、Thermo Fisher Scientific社によって販売されるOrbitrap(RTM)Mass Analyserである。軌道捕捉質量分析器90は、フーリエ変換質量分析器の例である。軌道捕捉質量分析器90は、その外部電極にオフセンタ注入開口部を有し、イオンは、オフセンタ注入開口部を通して、コヒーレントパケットとして軌道捕捉質量分析器に注入される。次いで、イオンは、超対数静電場によって軌道捕捉質量分析器内に捕捉され、内部電極の周りを回りつつ、長手方向に往復運動する。軌道捕捉質量分析器におけるイオンパケットの移動の軸方向成分は、軸方向の角周波数が所定のイオン種の質量対電荷比の平方根に関係する単純な調和運動として(多かれ少なかれ)定義される。したがって、時間の経過とともに、イオンは、それらの質量対電荷比に従って分離する。
【0044】
上述した構成では、試料イオンは、断片化することなく、軌道捕捉質量分析器90によって分析される。得られる質量スペクトルはMS1と表記される。
【0045】
軌道捕捉質量分析器90は
図2に示されるが、代わりに他のフーリエ変換質量分析器が採用され得る。例えば、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器は、質量分析器として利用され得る。他のタイプの静電トラップもフーリエ変換質量分析器として使用することができる。軌道捕捉質量分析器90及びイオンサイクロトロン共鳴質量分析器などのフーリエ変換質量分析器はまた、フーリエ変換以外の他の種類の信号処理が、過渡信号から質量スペクトル情報を取得するために使用される場合でさえも、本発明で使用されてもよい(例えば、WO-A-2013/171313、Thermo Fisher Scientificを参照されたい)。他の実施形態では、質量分析器は、飛行時間(ToF)分析器であり得る。ToF質量分析器は、多重反射ToF質量分析器などの、延長された飛行経路を有するToFであってもよい。
【0046】
イオントラップ80の第2の動作モードでは、輸送多極子70を通過してイオントラップ80に入るイオンは、イオントラップ80を通ってその経路を継続し、イオンが断片化チャンバ100内に移動するようにイオンが通って入った端部と反対のイオントラップ80の軸方向端部を通って出ることもできる。イオントラップ80によるイオンの伝送または捕捉は、イオントラップ80の端部電極に印加される電圧を調整することによって選択することができる。そのため、イオントラップ80はまた、第2の動作モードでイオンガイドとして効果的に動作し得る。代替的に、イオントラップ80内の捕捉及び冷却されたイオンは、イオントラップ80から軸方向に断片化チャンバ100内に排出され得る。そのような排出は、イオントラップ80の端部電極に好適な電圧を印加することによって制御されてもよい。
【0047】
断片化チャンバ100は、衝突ガスが供給される、より高いエネルギー衝突的解離(HCD)デバイスである
図2の質量分析計10内にある。断片化チャンバ100に到達した試料イオンは、衝突ガス分子と衝突し、それにより、試料イオンが断片化して断片イオンとなる。これらの断片イオンは、断片化チャンバ100及びイオントラップ80の端部電極に印加される適切な電位によって、断片化チャンバ100からイオントラップ80に戻され得る。断片イオンは、冷却され、抽出トラップ80内に閉じ込められてもよく、次いで、断片イオンは、抽出トラップ80から質量分析器90または質量分析に排出されてもよい。得られる質量スペクトルはMS2と表記される。MS2スキャンの場合、輸送八極子はまた、イオントラップ80及び破片化チャンバ100への試料イオンの注入前に、試料イオンを濾過するために使用され得る。このように、輸送八極子70はまた、質量分離八極子であってもよい。
【0048】
HCD断片化チャンバ100は
図2に示されているが、衝突誘起解離(CID)、電気的捕捉解離(ECD)、電気的移送解離(ETD)、光解離などの方法を採用して、代わりに他の断片化デバイスを用いることができる。
【0049】
図3は、本開示の一実施形態によるイオントラップ200の概略図を示す。イオントラップ200は直線的な形状を有している。そのため、イオントラップ200は、
図2の質量分析計に示されるイオントラップ80の代わりに使用され得る。イオントラップ200は、図示されるように、直線的な形態で、または代替的に、Cトラップに類似した湾曲した形態で提供されてもよいことが理解されよう。
【0050】
図3のイオントラップ200は、第1の端部電極210、第2の端部電極212、第1の閉じ込め電極214、第2の閉じ込め電極216、及び多極電極アセンブリ220を備える。多極電極アセンブリ220、ならびに第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、第1の端部電極210と第2の端部電極212との間に配置されている。本例における第1の端部電極210及び第2の端部電極212は、プレート電極の形態である。第1の端部電極210及び第2の端部電極212の各々は、そこを通るイオンの伝達のために、中央に設けられたイオン開口部211、213を有する。イオンは、例えば、第1の端部電極210内のイオン開口部211を通して、または第2の端部電極212内のイオン開口部213を通して、イオントラップ200に軸方向に入り、かつ/またはそこから出ることができる。
【0051】
図3に示される多極電極アセンブリ220は、細長いイオンチャネルを画定するために中心軸の周りに配置された複数の細長い電極を備える。多極電極アセンブリは、細長いプッシュ電極222及び対向する細長いプル電極224を含む。細長いプッシュ電極222及び細長いプル電極224は、細長いイオンチャネルの反対側に離間している。細長いプッシュ電極222及び細長いプル電極224は、細長いイオンチャネルの長さに沿って、互いに実質的に平行に整列している。
図3に示されるように、細長いプッシュ電極222及び細長いプル電極224は、実質的に平坦な対向する面を有する。いくつかの実施形態では、対向する表面は、双曲線プロファイルを有し得る。細長いプル電極224は、その長さに沿った点においてプル電極開口部225を含む。
図3に示されるように、プル電極開口部225は、細長いプル電極224の比較的中心的な領域に位置する。プル電極開口部225は、電極の厚さを通過し、イオンがイオントラップ200を出るための経路をイオントラップ200の軸方向を概ね横切る方向に提供する。このようにして、イオンは、
図2に示すように、イオントラップ200から、質量分析器90に向かって、かつそれに入る方向に抽出することができる。プル電極開口部225は、以下でさらに考察されるように、イオントラップ200のイオン閉じ込め領域と一致するように整列していてもよい。
【0052】
多極電極アセンブリはまた、第1の細長い分割電極226、228及び第2の細長い分割電極230、232を備える。第1の細長い分割電極226、228は、第2の細長い分割電極230、232に対する細長いイオンチャネルの対向する側に離間されている。第1及び第2の細長い分割電極226、228、230、232は、細長いイオンチャネルの長さに沿って互いに実質的に平行に整列している。第1の細長い分割電極226、228、及び第2の細長い分割電極230、232は、細長いプッシュ電極222、及び細長いプル電極224が離間する方向に対して横切る方向で、細長いイオンチャネルにわたって離間している。そのため、第1及び第2の細長い分割電極226、228、230、232、細長いプッシュ電極222、及び細長いプル電極224は、概して長方形の断面を有する細長いイオンチャネルの境界を画定する。
【0053】
第1の細長い分割電極226、228は、2つの細長い棒状電極から形成されてもよい。2つの細長いロッド電極は、第1及び第2の閉じ込め電極が2つの第1の細長い分割電極間に設けられ得るように離間されている。2つの細長い棒状電極は、イオンチャネルの長さに沿って平行に整列してもよい。
【0054】
第2の細長い分割電極230、232は、2つの細長い棒状電極から形成されてもよい。
図3に示すように、2つの第2の細長い分割電極230、232は、第1及び第2の閉じ込め電極が2つの細長い分割電極230、232の間の領域に設けられ得るように、離間されている。
【0055】
図3に示されるように、細長いプッシュ電極222、細長いプル電極224、第1の細長い分割電極226、228、及び第2の細長い分割電極230、232は、四重極イオントラップを形成するように配置されることが理解されるであろう。
【0056】
多極電極アセンブリ220は、イオントラップの半径方向にイオンを閉じ込めるように構成されている。細長い多極電極アセンブリ220は、イオンを閉じ込めるためにRF可変電位を受けるように構成されている。RF可変電位は、多極電極アセンブリ220の対向する細長い電極対にわたって印加されて、疑似電位ウェルを形成し得る。例えば、一実施形態によれば、多極電極アセンブリ220は、0Vを中心に、少なくとも10V、より好ましくは少なくとも50V、及び10,000V以下、より好ましくは5,000V以下の振幅で、細長いイオンチャネルにRF電位を印加するように配置されてもよい。もちろん、当業者は、正確なRF電位の振幅及び周波数は、多極電極アセンブリ220の構造及び閉じ込められるイオンに応じて変化し得ることを理解するであろう。例えば、いくつかの実施形態では、多極電極アセンブリ220は、4.5MHzの周波数及び1000Vの振幅で変化する正弦波電圧を供給され得る。
【0057】
多極電極アセンブリ220の細長い電極はまた、それらに印加されるDC電位を有してもよい。好ましくは、細長い電極のDC電位は0Vである。
【0058】
多極電極アセンブリ220は、第1の端部電極210と第2の端部電極212との間に延在する。イオントラップの全長(すなわち、第1の端部電極210と第2の端部電極212との間の間隔)は、少なくとも20mmであり得る。このような長さは、イオントラップに沿って移動するときにイオンが冷却する時間を提供する。また、イオントラップの全長はまた、一般に300mm以下であり得、これを超える長さは特に空間効率が良くない可能性がある。
【0059】
多極電極アセンブリ220は、イオントラップ80の軸方向に沿って延在するイオンチャネルを画定する。典型的には、多極電極アセンブリ220は、イオントラップの軸方向を中心に配置され、少なくとも1mmの半径(中心軸を中心に)を有するイオンチャネルを画定する。典型的には、イオンチャネルは、約10mm以下の半径を有するが、必要に応じて、より大きな半径を提供することができる。例えば、
図3のイオントラップは、約80mmの全長及び半径2mmを有する。
【0060】
イオントラップ80は、真空チャンバ内に提供される。典型的には、真空チャンバには、イオントラップ内のイオンを冷却するための手段を提供するための不活性ガスが提供される。
図2の実施形態では、イオントラップ80は、約10
-4mbar~10
-2mbarの圧力においてN
2を含む真空チャンバ内に提供される。
【0061】
図3に示されるように、第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、各々、細長いイオンチャネル、及び第2の細長い分割電極230、232の両方と実質的に平行に整列する細長い電極として提供され得る。第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域の対向する側に位置決めされる。
図3の実施形態では、細長いイオンチャネルのイオン閉鎖領域は、細長いイオンチャネルの中心領域である。そのため、第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、第1の閉じ込め電極214と第2の閉じ込め電極216との間のイオン閉じ込め領域を画定するために、細長いイオンチャネルの中央領域の両側で互いに離間されている。
【0062】
第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、イオントラップ80内に閉じ込められるイオンと同じ極性のDC電位を受けるように構成されている。したがって、第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、該DC電位が提供されるとき、イオンチャネルの中心領域に向かってイオンを誘導する反発電位を創出し、それによってイオンを細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域内に閉じ込める。第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加されるDC電位は、以下でより詳細に説明される。
【0063】
図3に示される第1及び第2の閉じ込め電極214、216は各々、イオントラップ200の軸方向に各々が延在する細長い電極である。そのため、細長い電極は各々、多極電極アセンブリ220の電極と整列している。細長い電極は各々、軸方向に少なくとも2mm延在してもよい。いくつかの実施形態では、細長い電極は、少なくとも、5mm、10mm、20mm、または50mm延在している。いくつかの実施形態では、細長い電極は、イオントラップ200の全長の少なくとも10%(すなわち、第1の端部電極210と第2の端部電極212との間の距離)延在してもよい。
【0064】
イオン閉じ込め領域は、イオントラップ200の第1の閉じ込め電極と第2の閉じ込め電極との間に延在する。そのため、イオン閉じ込め領域の軸方向の長さは、第1の閉じ込め電極214と第2の閉じ込め電極216との間の間隔に依存する。いくつかの実施形態では、イオン閉じ込め領域は、少なくとも2mmの軸方向に延在し得る。短すぎるイオン閉じ込め領域は、著しい空間電荷効果、または限られたイオン閉じ込め容量を経験する可能性がある。いくつかの実施形態では、イオン閉じ込め領域の軸方向長さは、(端部電極間の)イオントラップの全長の少なくとも10%である。例えば、いくつかの実施形態では、イオントラップの軸方向長さは、少なくとも2mm、3mm、5mmまたは10mmであってもよい。いくつかの実施形態では、イオン閉じ込めトリゴンの軸方向長さは、イオントラップの全長の20%以下であってもよい。例えば、軸方向長さは、20mm、15mm、または12mm以下であってもよい。
【0065】
図3の実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極は、棒状電極として提供される。もちろん、第1及び第2の閉じ込め電極は、イオン閉じ込め領域の両側に反発DC電位を提供するための任意の好適な形状で提供されてもよいことが理解されるであろう。
【0066】
例えば、
図6は、第1及び第2の閉じ込め電極214、216を提供するために使用され得るスロット付き電極218のさらなる例を示す。
図6に示すように、スロット付き電極218は、第1の閉じ込め電極214を画定する領域(第1の閉じ込め電極領域)と、第2の閉じ込め電極216を画定する領域(第2の閉じ込め電極領域)とを含む。第1の閉じ込め電極領域及び第2の閉じ込め電極領域は、スロット付き電極218内に形成されたスロット217によって分離され、スロット217は、イオンチャネルのイオン閉じ込め領域(抽出領域)と整列している。
【0067】
スロット付き電極218は、実質的に平坦な電極(すなわち、プレート電極)として提供されてもよい。スロット付き電極218は、
図3に示される実施形態の第1及び第2の閉じ込め電極214、216と同様の方法で、多極電極アセンブリ220の電極間に設けられてもよい。
図6に示されるように、一対のスロット付き電極218は、イオントラップ200の対向する側に設けられてもよい。
【0068】
スロット付き電極218は、スロット217が概して軸方向に対して横切る方向に整列するように、イオントラップ内に配置されてもよい。例えば、スロット付き電極がプレート電極である場合、プレートは、イオントラップの中心軸と交差する平面に沿って配置され得る。スロット付き電極218は、第1及び第2の閉じ込め電極214、216が中心軸から多極電極アセンブリ220の電極と同様の距離で位置決めされるように、イオントラップの中心軸に対して位置決めされてもよい。例えば、
図6の例では、多極電極アセンブリ220は、中心軸から半径方向に約2mm離れて位置され得る。したがって、イオン閉じ込め領域に向かう領域では、第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、中心軸から多極電極アセンブリ220の電極と同様の距離で位置決めされている。
図6から、第1及び第2の閉じ込め電極は、イオントラップの軸方向に沿って半径方向に可変量延在し得ることが理解されるであろう。このように、イオンチャネルの中心軸からの第1の閉じ込め電極214及び/又は第2の電極216の間隔は、イオントラップの長さに沿って変化し得る。
図6の実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極214、216の中心軸からの間隔は、多極電極アセンブリの端部からイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に向かって軸方向に沿って増加する。
【0069】
例えば、
図6の例では、第1の閉じ込め電極214は、第1の端部電極210に最も近いスロット付き電極の端部において中心軸から1.85mm離間している。第1の閉じ込め電極218の間隔は、2mmの間隔までイオン閉じ込め領域に向かって増加する。そのため、スロット付き電極の第1の閉じ込め電極領域は、概してくさび形である。いくつかの実施形態では、間隔は直線的に、または
図6に示すように直線的な勾配と一定間隔の区画の組み合わせにおいて変化し得る。他の実施形態では、一定間隔、直線的な勾配、曲線または指数関数的勾配などの非直線的な勾配の1つ以上の区画を含む他の可変間隔プロファイルも提供され得る。このような可変間隔は、DC電位がイオン閉じ込め領域からさらに離れた領域においてイオントラップの中心軸により近い位置に印加されるため、イオンをイオン閉じ込め領域に向かって誘導するのに役立つ。
【0070】
第2の閉じ込め電極216はまた、イオントラップの中心軸から変化する間隔を有する。いくつかの実施形態では、間隔は、第1の閉じ込め電極と同様の方法で変化し得るが、
図6の例では、可変間隔は異なる。
図6に示すように、第2の端部電極212に最も近いスロット付き電極218の端部における中心軸からの間隔が1.5mmであり、イオン閉じ込め領域に最も近いところでは間隔が2mmである。そのため、スロット付き電極の第2の閉じ込め電極領域は、概してくさび形である。
【0071】
スロット付き電極のスロット217領域では、スロット付き電極の材料が半径方向にくぼむようにスロット217が提供される。スロット付き電極218のスロット217は、スロット付き電極218の任意の材料がイオン閉じ込め領域の中心軸から少なくとも3mm凹むように提供される。そのため、スロットは、第1及び第2の閉じ込め電極領域に対して少なくとも1mmの深さを有する。
【0072】
スロット付き電極218のスロット217は、イオン閉じ込め領域の軸方向長さに対応する。
図6のスロット付き電極では、スロット付き電極218は、軸方向に10mm延在するスロット217を有する。
図6の実施形態では、スロット付き電極は、第1の端部電極210よりも第2の端部電極212に近く位置する。
【0073】
図6に示すように、一対のスロット付き電極が提供される。一対のスロット付き電極は、イオンチャネルの対向する側に提供される。各スロット付き電極218のスロット217は、イオン閉じ込め領域の対向する側に整列している。
【0074】
したがって、スロット付き電極218を使用して、空間効率の高い設計において第1及び第2の閉じ込め電極214、216を提供してもよい。イオントラップのイオン閉じ込め領域に向かうイオン集束を改善するために、第1及び第2の閉じ込め電極214、216にはまた、イオントラップの中心軸に対して可変の間隔が提供されていてもよい。
【0075】
次に、
図2に示す質量分析計10及び
図3に示すイオントラップ200を参照して、イオントラップにイオンを注入する方法を説明する。イオントラップにイオンを注入する方法100のフローチャートを
図8に示す。
【0076】
質量分析計10は、例えば、ESI源20における試料イオンの生成を制御して、試料イオンを誘導、集束、フィルタリング(イオン輸送手段が質量セレクタを備える場合)するように、上述のイオン輸送手段の電極に適切な電位を設定し、質量分析器90から質量スペクトルデータを取り込む、などの制御ができるように構成されているコントローラ(図示せず)の制御下にある。コントローラは、質量分析計10に本開示による方法のステップを実行させるための命令を含むコンピュータプログラムに従って動作し得るコンピュータを備え得ることが理解されるであろう。
【0077】
図2に示される構成要素の特定の配置が、本明細書に後に記載される方法に不可欠ではないことを理解されたい。実際、他の質量分析計の配置は、本開示に従ってイオントラップ80、200にイオンを注入する方法を実行するのに好適であってもよい。本方法の実施形態によれば、試料分子は、上記の装置の一部としてLCカラムから供給される。いくつかの実施形態では、試料分子は、LCカラムから供給される試料のクロマトグラフィーのピークの持続時間に対応する持続時間にわたって、LCカラムから供給されてもよい。そのため、コントローラは、そのベースにおけるクロマトグラフィーのピークの幅(持続時間)に対応する期間内に方法を実行するように構成されてもよい。
【0078】
図2に示されるように、軌道捕捉質量分析器90は、イオントラップ80内に注入される試料イオンを質量分析するために利用される。イオントラップ内にイオンを注入するために、LCカラムからの試料分子を、ESI源20を使用してイオン化し、試料イオンを作り出す。ESI源20は、第1の電荷を有する試料イオンを生成するようにコントローラによって制御されてもよい。第1の電荷は、正電荷であっても負電荷であってもよい。本明細書に記載される方法に従って、試料イオンは正に帯電される(すなわち、正の極性を有する)。
【0079】
試料イオンはその後、質量分析計10の真空チャンバに入る。試料イオンは、上述したように、キャピラリ25、RF専用Sレンズ30、注入平極子40、屈曲平極子50を通り、輸送多極子70に向けられる。次いで、試料イオンは、それらが蓄積されるイオントラップ80に通過し得る。したがって、第1の電荷の試料イオンは、上述のステップに従って、イオントラップ80に輸送され、イオントラップ80に注入されてもよい。このように、方法100の第1のステップ101では、第1の極性のイオンがイオントラップ80に注入される。
【0080】
次に、
図3に示されるイオントラップ200を参照して、イオントラップ80の制御をより詳細に説明する。
【0081】
第1の期間において、コントローラは、イオンがイオントラップ80、200に入るように、イオン輸送手段を制御する。第1の期間中、コントローラは、注入されたイオンがイオントラップ200のイオンチャネル内に閉じ込められるように、第1のDC電位を第1の端部電極210及び第2の端部電極212に印加するように構成することができる。第1の期間の間、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位は、イオンがイオントラップ内に閉じ込められるように、注入されたイオンと同じ極性を有し得る。いくつかの実施形態では、第1の期間中、イオンが入る端部電極(例えば、第1の端部電極210)に初期のDC電位が印加されてもよく、これは、イオンが電極の開口部を通って移動する間、対向する端部電極に印加される第1のDC電位に対して減少される。次いで、イオンが第1の端部電極210に示される開口部211を通してイオントラップ200に入った後、第1のDC電位を第1の端部電極210に印加することができる。
【0082】
例えば、いくつかの実施形態では、イオンが第1の端部電極210を通って移動している間、第1の端部電極210に印加される初期のDC電位は0Vであってもよい。次いで、第1のDC電位は、すべてのイオンがイオントラップ200に入った後に、イオンのいずれかが第2の端部電極212を反射して第1の端部電極210に向かって戻る時間がある前に、第1のDC電位を第1の端部電極210に印加することができる。第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位は、試料イオンと同じ電荷である。そのため、正に帯電したイオンについて、コントローラは、正の第1のDC電位を第1の端部電極210及び第2の端部電極212に印加して、第1の期間に正に帯電した試料イオンを閉じ込めるように構成されている。第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位は、細長いイオンチャネルの中心領域に向かって軸方向に試料イオンを反発させるように作用する。このように、試料イオンは、最初に、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位によって閉じ込められる。例えば、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位は、+10Vであってもよい。
【0083】
イオンがイオントラップ80、200に入る第1の期間中、イオンは、比較的高いエネルギー量を有し得る。最初の注入期間中に第1及び第2の閉じ込め電極にDC電位を印加することができるが、イオンが比較的高エネルギーのため、いくつかの実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加される第2のDC電位は比較的小さく、またはイオントラップに入る間ゼロでさえあり得る。これにより、イオントラップに入るイオンは、最初にイオントラップの全長を移動することが許容され、イオンの冷却を促進する。イオンがトラップに入り、冷却し始めると、イオン閉じ込め領域にイオンを閉じ込めるために、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加される第2のDC電位は、次いで、第3のDC電位に増加され得る。例えば、第1の期間中、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加される第2のDC電位は、0Vであってもよい。いくつかの実施形態では、第2のDC電位は、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位よりも小さくてもよい。例えば、第2のDC電位は、第1のDC電位の70%、50%、30%、20%、または10%以下であってもよい。いくつかの実施形態では、第2のDC電位は、7V、5V、3V、2V、または1V以下であってもよい。そのため、方法100のステップ102において、1つ以上のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極に印加して、イオントラップ内のイオンを閉じ込めてもよい。
【0084】
コントローラはまた、疑似電位ウェルが細長いイオンチャネル内に形成されるように、RF電位を多極電極アセンブリ220に印加するように構成されている。いくつかの実施形態では、RF電位の周波数は、少なくとも3MHzであってもよく、RF電位は、例えば、-500V~500Vとの間で振動してもよい。
【0085】
第1の期間は、イオントラップ80、200にイオンが注入される期間を提供する。第1の期間の持続時間は、イオントラップに注入されるイオンの数に依存する。第1の期間の持続時間はまた、イオントラップの長さ、及びイオンがイオントラップの長さを移動し、イオンがイオントラップに入っている端部電極に向かって反射するまでにかかる時間に依存し得る。いくつかの実施形態では、第1の期間は、イオンがイオントラップに沿って移動し、イオンがイオントラップに入る端部電極に戻るための時間よりも大きくないことが望ましい場合がある。例えば、第1の期間は、好適な数のイオンがイオントラップに入ることを許容するために、少なくとも100μs、200μs、500μsまたは1msの持続時間を有し得る。いくつかの実施形態では、第1の期間は、10ms、5ms、3msまたは2ms以下の期間を有し得る。
【0086】
イオン注入プロセスが完了すると、コントローラは、イオンを冷却し、イオントラップのイオン閉じ込め領域にイオンを閉じ込めるために、イオントラップを制御するように構成されている。イオン注入プロセスの後、イオンは、比較的エネルギッシュであるため、第1の端部電極と第2の端部電極との間を移動し、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第1のDC電位によって閉じ込められる。初期のイオン運動の例を
図4のグラフに示す。
【0087】
イオンが第1の端部電極210と第2の端部電極212との間に閉じ込められると、コントローラは、第2の期間中に第1の閉じ込め電極214及び第2の閉じ込め電極216に第3のDC電位を印加し、イオンをさらに閉じ込めるように構成されている。第2の期間は、イオンがイオントラップに入る第1の期間の直後に続いてよい(すなわち、イオンがイオントラップに入ることを終えたときに第2の期間が開始される)。いくつかの実施形態では、イオンがトラップ内でさらに冷却されることを許容するために、第1の期間と第2の期間との間に短い冷却期間が存在し得る。冷却時間は、イオントラップのイオン冷却の全体的な持続時間が過剰にならないように、例えば2ms以下の持続時間を有してもよい。そのため、方法100のステップ103の間、イオンは、イオントラップのイオン閉じ込め領域内で冷却され得る。
【0088】
第2の期間中、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加された第1のDC電位は、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加された第3のDC電位とは独立して提供され得る。第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加される第3のDC電位は、試料イオンを細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に閉じ込めるために提供される。第3のDC電位は、イオンとしての試料極性である。第2の期間中のイオンが概してイオントラップの中心に向かって(端部電極から離れて)冷却されているため、第1及び第2の閉じ込め電極に印加された第3のDC電位は、イオンを第1及び第2の閉じ込め電極214、216から細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に向かって離れて反発させる。
図4はさらに、第3のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極に印加することが、イオントラップのイオン閉じ込め領域におけるイオン閉じ込めをどのように増加させるかを示す。
【0089】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される第3のDC電位は、第2のDC電位と同じである。好ましくは、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される第3のDC電位の大きさは、第1の期間に印加される第2のDC電位と比較して増加する。第2の期間に第1及び第2の閉じ込め電極に印加されるDC電位を増加させることにより、イオンは既に大まかにイオン閉じ込め領域に閉じ込められるため、イオン閉じ込め領域から離れた領域におけるイオン捕捉に悪影響を及ぼすことなく、イオン閉じ込めを増加させることができる。すなわち、第1及び第2の閉じ込め電極214、216のDC電位を上げる効果は、捕捉擬似電位がイオン閉じ込め領域から離れるように歪む可能性があるが、この点ではイオントラップにおけるイオン保持への影響が低減されることになる。例えば、いくつかの実施形態では、第1及び第2の端部電極210、212に印加される第3のDC電位は、約+5Vであり得る。
【0090】
上述のように、
図4は、端部電極ならびに第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加されたDC電位の下でのイオントラップ内のイオン運動の概略図を示す。
図4に示すように、第2及び第3のDC電位を第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加することによって、試料イオンを細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域内に閉じ込める細長いイオンチャネルの中央領域に第1の電位ウェルを形成することができる。そのため、第1の電位ウェルは、多極電極アセンブリ220のDC電位に対して形成され得る。第1の電位ウェルの大きさは、ウェルの底部において捕捉されたイオンが電位ウェルから逃れるために必要なエネルギーとして定義され得る。電位ウェルの極性は、閉じ込めようとするイオンの極性に基づいて定義することができる。例えば、負の極性を有する電位ウェルは、正のイオンを閉じ込め、正の極性を有するウェルは負のイオンを閉じ込める。
【0091】
図4は、イオントラップ200のイオン閉じ込め領域の周りのイオントラップの軸方向に沿ったDC電位の概略図である。
図4に示すように、電位ウェルは、イオントラップのイオン閉じ込め領域内に形成される。電位ウェルは、試料イオンを軸方向に閉じ込めるために、イオントラップ200の細長いイオンチャネルの軸方向に延在する。第1の閉じ込め電極214と第2の閉じ込め電極216との間に形成された電位ウェルはまた、第1及び第2の端部電極210、212に対して形成されてもよい。
図4に示すように、イオン閉じ込め領域内の電位は、軸方向におけるイオントラップの低い点である。これは、第1及び第2の端部電極からの距離に起因し、かつイオン閉じ込め領域に近接する第1及び第2の閉じ込め電極にも起因する。イオン閉じ込め領域内の第1及び第2の閉じ込め電極214、216に近接して、イオントラップのイオン閉じ込め領域と、第1及び第2の閉じ込め電極214、216が延在するイオントラップの領域との間に、DC電位の急激なステップ状の変化が存在している。第1のイオン閉じ込め電極と第1の端部電極との間では、DC電位の違い(例えば5Vでの第1の閉じ込め電極、例えば10Vでの第1の端部電極)により、第1の端部電極に向かってDC電位がさらに増加する。
【0092】
図4に示すように、イオンチャネル内のイオンは、最初に、第1の端部電極210と第2の端部電極212との間に閉じ込められる。イオンチャネル内でイオンが冷却されると、エネルギーが失われ、イオン閉じ込め領域に向かって集束される。イオンが十分に冷却されると、もはやイオン閉じ込め領域の電位ウェルから逃れるエネルギーを持たず、そこでさらに冷却され閉じ込められる。
【0093】
図5a及び5bは、本開示によるイオントラップ200の第1及び第2の閉じ込め電極に適用されるDC電位を変化させる効果のさらなる説明を提供する図である。
図5aは、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される異なるDC電位(すなわち、第2または第3の電位)についてのイオントラップの半径方向(x方向)に沿って形成された疑似電位ウェルのグラフを示す。
図5aのグラフは、イオントラップに沿った点での断面のx方向の疑似電位ウェルが、第1及び第2の閉じ込め電極214、216のうちの1つに重複していることを示す。
図5bは、第1及び第2の閉じ込め電極に印加される異なるDC電位(すなわち、第2または第3の電位)についてのイオントラップの軸方向(z方向)に沿って形成された疑似電位ウェルのグラフを示す。
図5a及び5bのグラフは、
図5a及び5bに示す断面を有するイオントラップのシミュレーションの結果である。
図5a及び5bのシミュレーションにおける多極電極アセンブリ220は、500の質量対電荷比を有するイオンについて、3MHzにおいて500VのRF電位を有する。
【0094】
図5aに示されるように、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加されるDC電位を増加させると、イオントラップの半径方向の疑似電位ウェルの深さが減少する。したがって、イオンがイオントラップ200に最初に入るとき、イオンが比較的エネルギッシュである可能性があるので、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加されるDC電位(第2のDC電位)を下げることが有利となり得る。イオントラップ内でイオンが冷却を開始すると、放射方向のイオン閉じ込めに悪影響を及ぼすことなく、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加されるDC電位を増加させることができる(第3のDC電位)。
図5bに示されるように、第1及び第2の閉じ込め電極に印加されるDC電位を増加させると、軸方向の電位ウェルの深さが増加する。したがって、イオンはますますイオン閉じ込め領域内に閉じ込められるようになる。
【0095】
そのため、電位ウェルによって細長いイオンチャネルのイオン閉じ込め領域内にイオンを閉じ込めることによって、イオントラップ200内のイオンの空間分布を低減させることができる。第1及び第2の閉じ込め電極214、216に第1のDC電位を印加することを通してイオンを電位ウェルに閉じ込めることによって、第1及び第2の端部電極210、212に印加される初期のDC電位は、イオントラップ200内で試料イオンを軸方向に閉じ込めることをもはや必要としない場合がある。したがって、正に帯電したイオンは、第1及び第2の端部電極210、212に印加された第1のDC電位、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加された第2のDC電位(及び任意選択的に第3のDC電位)、及び多極電極アセンブリ220に印加されたRF電位の組み合わせを通して、イオントラップ200の細長いイオンチャネル内に(軸方向に閉じ込められ、半径方向に閉じ込められた)閉じ込められ得る。
【0096】
イオントラップ200のイオン閉じ込め領域内に閉じ込められたイオンは、第1及び第2の閉じ込め電極214、216に印加された第2または第3のDC電位を維持することによって、イオントラップ内に格納され得る。イオントラップ200内に格納されたイオンは、次いで、
図1の質量分析計10によるさらなる処理のために、イオントラップから排出されてもよい。イオンは、開口部211または213のいずれかを通して軸方向に、またはプル電極開口部225を通して軸方向を横断する方向に、イオントラップ200から排出され得る。
【0097】
イオンは、開口部211、213のうちの1つを通してイオンを方向付けるために、端部電極にDC電位を印加することを通じて軸方向に排出されてもよい。
【0098】
イオンはまた、イオントラップ200から試料イオンを排出するために、細長いプッシュ電極222へのプッシュDC電位及び対向するプル電極224へのプルDC電位の印加を通して、プル電極開口部225を通して排出されてもよい。プッシュDC電位は、イオンを押す(すなわち、反発)ように構成されているDC電位であり、プルDC電位は、イオンを引く(すなわち、誘引)ように構成されているDC電位である。好ましくは、試料イオンをイオントラップ200から排出する間、RF電位は多極電極アセンブリ220に印加されない。例えば、上述の方法における正のイオンの場合、コントローラは、プル電極224に負のDC電位(例えば、-500V)、及びプッシュ電極222に正のDC電位(例えば、+500V)を適用するように構成されてもよい。したがって、正に帯電した試料イオンは、細長いプル電極224の開口部225を通してイオントラップ200から排出され得る。イオントラップ200からイオンが排出される前の試料イオンの空間分布を減少させることにより、イオントラップ200から射出される際の試料イオンの空間分布も小さくすることができる。これにより、試料イオンをより正確に質量分析器に集束させることができるため、イオントラップ200から質量分析器への試料イオン(試料イオンパケット)の伝送効率が向上する。そのため、方法100のステップ104において、冷却されたイオンは、イオントラップ80、200から排出され得る。
【0099】
図2の質量分析計10に示されているように、イオントラップ80から排出されたイオンは、質量分析器90に入る前に、比較的狭い一連の集束レンズ95を通して排出される。当業者は、集束レンズ95が、質量分析器90への比較的狭いイオン経路を画定する比較的狭い開口部を有することを理解するであろう。典型的には、狭いイオン経路の幅は数百μm程度である。したがって、イオントラップ80内のイオンの空間分布を小さくすることで、比較的狭いイオン経路に沿って、かつ質量分析器90に順調に集束できるイオンの割合が増加する。そのため、本開示の実施形態によるイオントラップ80の使用は、イオントラップ80から質量分析器90への透過効率の増加をもたらす。
【0100】
本開示の実施形態によるイオントラップの効果の比較例を、
図7a及び7bに示す。
図7aは、質量分析計を使用して得られた質量スペクトルを示し、ここで、イオンは、GB-A-2570435に記載されるように、イオントラップから質量分析計に注入された。
図7aの比較例では、イオン閉じ込め領域に位置するピン電極に-10VのDC電位を印加した。
図7bは、本開示の
図3に記載されるイオントラップを使用して、
図7aと同じ実験条件下で得られた質量スペクトルを示す。
図7bの例では、イオン注入中に2Vの第2のDC電位が印加され(第1の期間)、続いて+10Vの第3のDC電位が適用された(第2の期間)。
図7bの質量スペクトルは、イオン種、特に高m/zのイオン種がより多く存在することが理解されるであろう。これは、本開示のイオントラップのイオン閉じ込めの改善に起因しており、ひいては、これにより、イオン注入の質量分析器への効率が改善される。
【0101】
本開示のイオントラップ200は、第1及び第2の端部電極210、212を備えるが、他の実施形態では、イオントラップ200、80は、アウトエンド電極210、212なしで提供され得ることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、イオントラップへのイオン注入は、質量分析計の他のイオン輸送構成要素によって制御され得る。例えば、
図2の実施形態では、イオン注入は、輸送多極子70によって制御され得る。
【0102】
イオントラップに注入されると、イオンは、第1及び第2の閉じ込め電極によって提供される電位ウェルによって制御され得ることが理解されるであろう(例えば、
図5bを参照されたい)。(例えば、
図6のスロット付き電極218で示されるように)第1及び第2の閉じ込め電極214、216にくさび形状のプロファイルを提供することによって、第1及び第2の閉じ込め電極の閉じ込め電位をさらに上げることができる。このようなくさび形電極(すなわち、イオンチャネルの中心軸からの第1の閉じ込め電極214及び/又は第2の電極216の間隔が、多極電極アセンブリの端部からイオンチャネルのイオン閉じ込め領域に向かって増加する)を提供することによって、イオントラップの閉じ込め電位を上げることができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、第1及び第2の閉じ込め電極214、216は、イオントラップ80と隣接するイオン輸送デバイス(例えば、
図2の質量分析計における輸送多極子70)との間のブリッジングを提供し得る。そのため、第1及び/又は第2の閉じ込め電極は、イオントラップ80と輸送多極子との間の間隙をブリッジングするために、多極電極アセンブリ220の端部を越えて、隣接するイオン輸送デバイスに向かって延在し得る。イオントラップのこのようなブリッジングは、イオントラップ80へのイオン注入が、第1及び/又は第2の閉じ込め電極214、216によって制御されることを許容にし得る。
【0104】
したがって、本開示によるイオントラップ及びイオントラップにイオンを注入する方法は、改善されたイオン冷却及びイオン閉じ込めを提供する。特に、イオントラップ200は、質量分析器などのさらなる質量分析デバイスへの注入のために、イオン、特に高質量対電荷比イオンを効率的に閉じ込めるのに適している。
【0105】
本開示は、上記の実施形態に限定されず、上記の実施形態に対する修正及び変形は、当業者にとって容易に明らかであることが理解されるであろう。上述の実施形態の特徴は、当業者には容易に明らかとなるように、任意の好適な組み合わせで、上述の他の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。そのため、上記の実施形態に記載された特徴の特定の組み合わせは、限定的であると理解されるべきではない。
【外国語明細書】