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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155575
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20221005BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056245
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】202110340372.9
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210309674.4
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】田家 裕
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・レイモンド・メラド・ビナラオ
(72)【発明者】
【氏名】王 進武
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147AC01
2H147BA05
2H147BE01
2H147DA08
2H147EA05A
2H147EA05B
2H147EA07D
2H147EA13C
2H147EA14D
2H147EA15C
2H147EA15D
2H147FA01
2H147FA03
2H147FA09
2H147FA18
2H147FA29
2H147FC05
2H147FC08
2H147FC09
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA00
2K102CA30
2K102DA05
2K102DB04
2K102DD05
2K102EA03
2K102EA16
(57)【要約】
【課題】本発明は、光の伝搬損失の少ない光学デバイスの提供を目的としている。
【解決手段】光学デバイスは、基板と、前記基板に形成される光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、を備え、前記光導波路は、前記基板と交差する複数の側面を有し、前記光導波路の少なくとも一方の前記側面に粗面を備える。本発明の光学デバイスによれば、光の伝搬損失を低減することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成される光導波路と、
前記光導波路に隣接して形成される保護層と、を備え、
前記光導波路は、前記基板と交差する複数の側面を有し、
前記光導波路の少なくとも一方の前記側面に粗面を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記粗面の粗さの最大値Rmaxは、8.6~55nmであることを特徴とする請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記粗面の粗さの最大値Rmaxは、17~40nmであることを特徴とする請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記粗面では、1.5μm×0.2μmの視野の中に2つ以上のピークを備えることを特徴とする請求項2または3に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記粗面は、前記基板と交差する方向に筋を持つことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記筋が縦筋状であることを特徴とする請求項5に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記光導波路は、LiNbOまたはLiTaOからなる膜であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記光導波路は、LiNbOに、Ti、Mg、Zn、In、Sc、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種の元素がドーピングされている膜であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記光導波路は、エピタキシャル膜であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記エピタキシャル膜は、前記基板と交差する方向に配向されていることを特徴とする請求項9に記載の光学デバイス。
【請求項11】
基板と、
前記基板に形成される複数の光導波路と、
前記光導波路に隣接して形成される保護層と、
前記保護層を介して前記光導波路に形成された電極と、を有し、
前記光導波路は、前記基板と交差する複数の側面を有し、
前記光導波路の少なくとも一方の前記側面に粗面を備えることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信と光学計測の分野に使用される光学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴い、通信量が飛躍的に増加し、光ファイバー通信の重要性が非常に高まっている。光ファイバー通信は、電気信号を光信号に変換し、光ファイバーにより光信号を伝搬する通信方式であり、広帯域、低損失、ノイズに強いという特徴を有する。
【0003】
電気信号を光信号に変換する方式としては、半導体レーザを利用した直接変調方式と光変調器を使用した外部変調方式が知られている。直接変調は光変調器を必要とせず、低コストであるが、高速変調には限界があり、高速かつ長距離の用途において、外部光変調方式を採用している。
【0004】
光変調器としては、ニオブ酸リチウム単結晶基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路を形成したマッハツェンダー型光変調器が実用化されている(特許文献1参照)。マッハツェンダー型光変調器は、一つの光源から出た光を2つに分け、異なる経路を経て、再び重ね合わせて干渉を起こさせるマッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路(マッハツェンダー光導波路)を用いるものであり、40Gb/s以上の高速な光変調器が商品化されているが、全長が10cm前後と長いことが大きな欠点になっている。
【0005】
これに対し、特許文献2には、ニオブ酸リチウム膜を使用したマッハツェンダー光変調器が開示されている。ニオブ酸リチウム膜(LN膜)を使用した光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を使用した光変調器と比べて、大幅な小型化、低駆動電圧化を可能にした。特許文献2では、基板上にLN膜を形成する工程、LN膜をエッチングして基板上に光導波路を形成する工程により、十分な光制限の効果を得るため、電気光学素子の動作を高速化にした。
【0006】
LN膜を使用した光導波路において、光の進入を制限することで駆動電圧を低くすることが重要であるため、LN膜が高品質でなければならず、保護層との密着性にも気をつける必要があり、LN膜上にクラックが発生すること避ける必要がある。例えば、保護層としての低屈折率のシリカを、光導波路としてのLN膜と隣り合わせに成形されているため、LN膜と保護層を構成する材料の膨張係数が異なることに起因する応力の影響によって光の伝搬損失を引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-221874号公報
【特許文献2】特開2006-195383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、光の伝搬損失の少ない光学デバイスの提供を目的としている。本発明によれば、光導波路の少なくとも一つの側面を粗面化し、ニオブ酸リチウムとシリカの膨張係数の異なりに起因する応力の影響を減らすことで、光導波路の破損によるクラックの発生を防止、光の伝搬損失を減らすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の開示
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、光の伝搬損失の少ない光学デバイスを提供することを目的としている。
【0010】
本発明の一実施の形態に係る光学デバイスは、基板と、前記基板に形成される光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、を備え、前記光導波路は、前記基板と交差する複数の側面を有し、前記光導波路の少なくとも一方の前記側面に粗面を備える保護層ことを特徴としている。
【0011】
本発明の光学デバイスによれば、導波路の表面に規定の粗面を有することによって、低屈折率を有する酸化ケイ素からなる保護層がニオブ酸リチウムからなる光導波路に隣接して設置されているため、酸化ケイ素とニオブ酸リチウムとの膨張係数の違いによる応力の影響により、光の伝搬損失を受けるおそれがあるが、光導波路の表面に所定の粗面を持つことによって、その影響を受けず、伝搬損失の劣化を抑えることができる。
【0012】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記粗面の粗さの最大値Rmaxは8.6~55nmである。
【0013】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記粗面の粗さの最大値Rmaxは17~40nmである。
【0014】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記粗面において、1.5μm×0.2μmの視野の中に2つ以上のピークを備える。
【0015】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記粗面は、前記基板と交差する方向に筋を持つ。
【0016】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記筋が縦筋状である。
【0017】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記光導波路は、LiNbOまたはLiTaOからなる膜である。
【0018】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記光導波路は、LiNbOに、Ti、Mg、Zn、In、Sc、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種の元素がドーピングされている膜である。
【0019】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記光導波路は、エピタキシャル膜である。
【0020】
また、本発明の一実施の形態に係る光学デバイスにおいて、好ましくは、前記エピタキシャル膜は、前記基板と交差する方向に配向されている。
【0021】
本発明の別の一実施の形態に係る光変調器は、基板と、前記基板に形成される複数の光導波路と、前記光導波路に隣接して形成される保護層と、前記保護層を介して前記光導波路に形成された電極と、を有し、前記光導波路は、前記基板と交差する複数の側面を有し、前記光導波路の少なくとも一方の前記側面に粗面を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光学デバイス及びその光学デバイスを備える光変調器によれば、光の伝搬損失を有効に減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1(a)と図1(b)は本発明の一実施形態に係る光変調器100の上面図であり、図1(a)において、光導波路のみを示し、図1(b)において、進行波電極を含めた光変調器100の全体を示す。
図2図2図1(a)と図1(b)のA-A’線に沿った光変調器100の模式的な断面図である。
図3図3は、SEMによって観察されたマッハツェンダー光導波路10の第1光導波路10aのニオブ酸リチウム膜の一つの側面101の粗面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための様態を詳しく説明する。
【0025】
図1(a)と図1(b)は本発明の一つの実施形態に係る光変調器100の上面図であり、図1(a)において、光導波路のみを示し、図1(b)において、進行波電極を含めた光変調器100の全体を示す。
【0026】
図1(a)と図1(b)に示すように、この光変調器100は、基板1上に形成されたお互い平行の第1光導波路10aと第2光導波路10bを有するマッハツェンダー光導波路10、第1光導波路10aに沿って設置された第1電極7と、第2光導波路10bに沿って設置された第2電極8とを有する
マッハツェンダー光導波路10はマッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路である。1つの入力光導波路10iから分波部10cにより分岐した第1光導波路10aと第2光導波路10bを有し、第1光導波路10aと第2光導波路10bは合波部10dによって、1つの出力光導波路10oに合成される。入力光Siは分波部10cで分波され、それぞれ第1光導波路10aと第2光導波路10b内で進行し、その後、合波部10dで合波され、変調光Soとして、出力光導波路10oから出力される。
【0027】
第1電極7は、俯瞰されたとき、第1光導波路10aを覆っており、同様に、第2電極8は、俯瞰されたとき、第2光導波路10bを覆っている。即ち、第1電極7は保護層(後文で詳述)を介して第1光導波路10a上に形成され、同様に、第2電極8は保護層を介して第2光導波路10b上に形成されている。第1電極7は例えば交流信号と接続しており、「ジャンピング電極」とも呼ばれる。第2電極8は例えば接地されており、「アース電極」とも呼ばれる。
【0028】
電気信号(変調信号)は第1電極7に入力される。第1光導波路10aがニオブ酸リチウムなど、電気光学効果を有する材料からなるため、第1光導波路10aに印加される電場により、第1光導波路10aの屈折率が例えば+Δn、-Δnのように変化し、一対の光導波路の間で位相差に変化が生じる。当該位相差の変化により変調された信号光は出力光導波路10oから出力される。
【0029】
また、第1光導波路10aと第2光導波路10bが設置された区域(規定の区域)以外の区域には、光を透過していない光導波路10x、10y、10zが基板上に設置されている。ここで、光を透過していない光導波路10x、10y、10zは実際の仕事をする際に光の伝播を行わない光導波路である。即ち、入力光Siは光を透過していない光導波路10x、10y、10z中で伝播せず、これにより、光を透過していない光導波路10x、10y、10z上には電場を印加するための電極を設置する必要もない。基板1の上から見たときに、光を透過していない光導波路10x、10y、10zは例えば第1光導波路10aと第2光導波路10bの直線部に沿って設置され、かつ複数(例えば3個)設置されてもよい。具体的には、光を透過していない光導波路10yは第1光導波路10aと第2光導波路10bの間にある。光を透過していない光導波路10x、10yは第1光導波路10aをその間に介するように設置される。光を透過していない光導波路10y、10zは第2光導波路10bをその間に介するように設置される。光を透過していない光導波路10x、10y、10zは第1光導波路10aと第2光導波路10bが延伸する方向に沿って延伸している。しかしながら、本実施形態の光変調器100は、必ずしも未透光の光導波路を含む必要がなく、マッハツェンダー光導波路10のみを含み、未透光の光導波路を含まなく構成してもよい。図2図1(a)と図1(b)のA-A’線に沿った光変調器100の模式的な断面図である。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の光変調器100は少なくとも基板1、光導波路2、保護層3および電極層4をこの順番に重ね合わせてなる多層構造である。基板1は例えばサファイア基板であって、基板1の表面上に、ニオブ酸リチウム膜からなる光導波路2が形成されている。光導波路2は、平板部2sと、平板部2s上に隆起したリッジ部2rにより構成された第1光導波路10aと第2光導波路10bを有する。
【0031】
第1光導波路10aと第2光導波路10b内で伝播する光が第1電極7と第2電極8に吸収されてしまうことを防止するため、保護層3は光導波路2(第1光導波路10aと第2光導波路10b)に隣接するように形成され、少なくとも導波路膜2のリッジ部2rの上表面に形成される。そのため、保護層3は光導波路と信号電極の間で中間層としての役割を果たせばよく、保護層3の素材が幅広く選択できる。例えば、保護層3として、酸化ケイ素などの酸化物、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、ポリイミドなどの樹脂材料、セラミックなどの絶縁材料を使用してもよい。保護層の材料は結晶性の材料であってよく、非晶質の材料でもよい。さらに好ましい実施形態として、保護層3は、屈折率が光導波路2より低い材料より構成されることが好ましく、例えばAl、SiO、LaAlO、LaYO、ZnO、HfO、MgO、Y等を使用してよい。
【0032】
電極層4には、第1電極7と第2電極8が設置されている。第1電極7は少なくとも保護層3を介して第1光導波路10aと対向し、第1光導波路10aに対応するリッジ部2rと重なるように設置され、第1光導波路10a内で進行する光の変調に関与する。第2電極8は少なくとも保護層3を介して第2光導波路10bと対向し、第2光導波路10bに対応するリッジ部2rと重なるように設置され、第2光導波路10b内で進行する光の変調に関与する。
【0033】
光導波路2として、電気光学材料で構成すれば限定されないため、電気光学材料膜と呼ばれることもある。導波路膜2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)からなることが好ましい。これはニオブ酸リチウムが大きな電気光学定数を有し、光変調器などの光学デバイスに適した構成材料のためである。光導波路2は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなることもできる。 なお、光導波路2がニオブ酸リチウムで構成されている場合、他の元素がドーピングされてもよく、例えば、ニオブ酸リチウムに、Ti、Mg、Zn、In、Sc、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種の元素がドーピングされている。以下に、光導波路2をニオブ酸リチウム膜とした場合の本実施形態の構造について詳しく説明する。
【0034】
基板1としてはニオブ酸リチウム膜より屈折率が低いものであれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成させることができる基板が好ましく、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。ニオブ酸リチウム膜はさまざまな結晶方位の単結晶基板に対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすいという性質を持っている。c軸配向のニオブ酸リチウム膜は3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0035】
ここで、エピタキシャル膜とは、下地の基板もしくは下地膜の結晶方位に対して、そろって配向している膜のことである。膜面内をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸及びZ軸方向にともにそろって配向しているものである。例えば、第1に2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認と、第2に極点の確認を行うことで、光導波路2がエピタキシャル膜であることを証明できる。
【0036】
具体的には、第1に2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。例えば、ニオブ酸リチウムのc軸配向エピタキシャル膜では、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0037】
次に、極点測定において、極点が見えることが必要である。前述の第1の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみであり、前述の第1の条件を得たとしても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。LiNbOは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜の場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4×3=12個の極点が観測される。なお、本発明では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。ニオブ酸リチウム膜の形成方法としては、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などの膜形成方法を利用するのが望ましい。ニオブ酸リチウムのc軸が基板1の主面に垂直に配向されており、c軸に平行に電場を印加することで、電場の強度に比例して光学屈折率が変化する。
【0038】
単結晶基板としてサファイアを用いる場合は、サファイア単結晶基板上に直接、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させることもできる。単結晶基板としてシリコンを用いる場合は、クラッド層(図示せず)を介して、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長により形成する。クラッド層(図示せず)としては、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低く、エピタキシャル成長に適したものを用いる。
【0039】
なお、ニオブ酸リチウム膜の形成方法として、ニオブ酸リチウム単結晶基板を薄く研磨したりスライスしたりする方法も知られている。この方法は、単結晶と同じ特性が得られるという利点があり、本発明に適用することが可能である。
【0040】
図2が示すように、第1及び第2光導波路10a、10bのそれぞれは基板1と略垂直な2つの側面101、102を有する。2つの側面101、102のうち少なくとも1つを粗面に形成される。即ち、側面101、102に同時に粗面を形成してもよく、側面101または側面102のうちいずれか一つに粗面を形成してもよい。
【0041】
粗面は、光導波路2のニオブ酸リチウム膜とシリカとの膨張係数が異なることに起因する応力の影響を低減し、光の伝搬損失を減らすために形成されるものである。粗面を形成するための方法は特に限定されず、公知の方法を用いてよい。以下、研削法とレジストパターン化を用いて第1光導波路10aの2つの側面101、102に粗面を有させる方法を例に説明する。
【0042】
研削法とレジストパターン化による粗面を形成させる方法は、表面を粗面化させる工程と、表面にレジスト層を形成する工程と、および、マスクを介して表面を露光してレジスト層を除去する工程と、を含む。粗面化の程度は粗面の粗さの最大値Rmaxによって定義される。粗さの最大値Rmaxとは、規定の長さの表面輪郭の最高点(ピーク)と最低点(バレー)の間の距離である。本実施形態の光変調器100のうち、第1光導波路10aの2つの側面101、102の粗さの最大値Rmaxは、8.6~55nmであることが好ましく、17~40nmであることがより好ましい。粗面の粗さの最大値Rmaxを8.6~55nmとすることで、光の伝搬損失を低く押させることができ、粗面の粗さの最大値Rmaxを17~40nmとすることで、光の伝搬損失をより低く押させることができる。
【0043】
粗面の粗さの最大値Rmaxは、例えば、AFM(Atomic Force Microscope,原子間力顕微鏡)によって測定される。上記粗面において、1.5μm×0.2μmの視野において、2つ以上10つ以下のピークを有する。これにより、上記表面に規定の粗面を形成することによって、光導波路がニオブ酸リチウム膜とシリカとの膨張係数の異なることに起因した応力の影響を受けて起きる光の伝搬損失を抑えることができる。
【0044】
上記粗面のパターン形状については、表面がフラットではない粗面であれば特に限定されない。例えば、光導波路10a、10bの側面101、102の表面に、複数個の突起を形成してもよく、ランダムに複数の点状の凹みを形成してもよく、他のパターンを形成してもよい。本実施形態では、上記側面101、102の粗面に、ストライプを有してよい。ここで言う「ストライプ」とは、複数の凹部と凸部が交互に配列してなる、非平坦なパターンである。ストライプのパターンについて、「縦ストライプ」とも呼ばれるストライプの長手方向が基板と交差する細長な形状であることが好ましい。以下、ストライプのパターンを筋と言い、横ストライプのパターンをを横筋と言い、縦ストライプのパターンを縦筋とと言う。
【0045】
上記の各粗面化されたパターンにおいて、横筋状またはランダムな粗さを有するパターンに対して、縦筋状は規定の視野において、総じてピークが出現する頻度のように、の特定の粗さを取得する最適なパターン表現方式である。これは、光導波路が2.0μm以下のニオブ酸リチウム膜について、縦筋は1.5μm×0.2μmの視野において2つ以上10つ以下のピークを有し、ピーク数が所定の間隔内に繰り返して連続に出現させることを保証できるが、横筋またはランダムな粗さの場合、所定の視野において0~1つ程度のピークしかない場合もある。そのため、ピークの出現確率が一定となる粗さを得るため、粗面化パターンは縦筋が最も好ましい。第1光導波路10aの2つの側面101、102に縦筋状の粗面を形成することによって、光導波路がニオブ酸リチウム膜とシリカとの膨張係数の異なることに起因した応力の影響による光の伝搬損失を抑制できる。
【0046】
図3は、光導波路2のマッハツェンダ光導波路10と、マッハツェンダ光導波路10の側面101をSEM(scanning electron microscope,走査型電子顕微鏡)によって観察したの状態の結果を示している。SEMによって観察されたマッハツェンダ光導波路10の第1の光導波路10aの側面101が粗面であることが確認できる。観察された側面には、縦筋状の粗面が形成されており、粗面の形成されていない従来の電気光学材料膜(図示せず)の表面状態とは全く異なっている。本実施形態の光導波路2の持つ光の伝搬損失を抑える効果は、本実施形態によって得られる。ここで、SEMで観察されたマッハツェンダ光導波路10の第1の光導波路10aの側面101のみ示されているが、実際には、SEMで観察された光導波路2の少なくとも一つの側面が、図3が示すような縦筋状の粗面であってもよい。
【0047】
また、光導波路2のニオブ酸リチウム膜の側面に対し粗面を形成する方法は上記方法に限られず、例えばレーザーエッチング法、または金属マクスによるパターン、および、RIEエッチングによって粗面を形成してもよい。具体的には、レーザーによって粗面を形成する方法において、光導波路2のニオブ酸リチウム膜の2つの側面101、102の表面に対しレーザーを照射し、繰り返し光の伝播方向と同じ方向で走査し、光導波路の側面に沿って進行することによって、基板と交差する方向上に細長い形状の縦筋を形成した。金属マスクパターン化およびRIEエッチングは、光導波路2のニオブ酸リチウム膜の2つの側面101、102の表面に、金属マスクパターンを形成して、RIEエッチングを行う方法である。RIE(Reactive Ion Etching)はドライエッチングの一種であり、RIEエッチングの原理は、平板電極の間に、10~100MHZの高周波電圧(RF :radio frequency)を印加したとき、数百ミクロン厚のイオン層(ion sheath)を生じさせ、その中にサンプルを入れて、イオンが高速で衝突することで、化学反応エッチングが行われる。
【0048】
また、ニオブ酸リチウム膜の少なくとも一つの側面で粗面を形成できればよく、その方法はいずれであってもよく、任意の方法であってよい。
【0049】
[実施例]
図2に示す光導波路2の断面構造を有する光変調器100について、粗面が異なる粗さRmaxにして光の伝搬損失を比較した。実施例について、粗さRmaxのみを変えており、その他の構造はいずれも同じであった。
【0050】
各実施例の粗さパラメータと光の伝搬損失の評価結果は表1に示すとおりである。
【0051】
【表1】
【0052】
表1からわかるように、粗さRmaxを8.6~55nmとしたことから、光の伝搬損失を10.5dB以下とすることができ、光の伝搬損失を小さく抑制することができた。粗さRmaxを17~40nmとしたことから、光の伝搬損失を8.4dB下とすることができ、光の伝搬損失をさらにを小さく抑制することができた。
【0053】
以上において、図面と実施例を組み合わせて本発明について説明したが、理解されるように、上記説明は本発明のいかなる制限にもならない。例えば、上記光変調器100の説明において、第1電極がジャンピング電極、第2電極がアース電極として説明した。しかし、これに限らず、第1と第2電極は光導波路に対し任意の電場を加えてもよく、例えば、第1電極が信号電極で、第2電極がアース電極であってもよい、光変調器は1つの信号電極を有するいわゆる「単駆動型」であるため、第1電極としての信号電極と第2電極としてのアース電極は対照構造であり、そのため、第1と第2光導波路の電場の大きさは等しく、符号は逆である。また、本発明の実施形態は、電極を含まない各種素子にも適用できる。さらに、例えば、上記光変調器100の説明において、第1光導波路10aの2つの側面101、102にいずれも粗面を有しているが、これに限らず、側面101または側面102のうちの1つの面のみに粗面を有してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、光導波路2は、基板1の表面に隆起したリッジ部として形成されているが、光導波路2の形成方法はこれに限定されず、基板にイオンを注入することで光導波路を形成してもよく、例えば、ニオブ酸リチウム単結晶基板にTiをドープして光導波路2を形成してもよく、これらの変更も本実施形態に含まれる。
【0055】
また、上記実施形態において、電極を含む光変調器の一つの例であったが、本発明は勿論、電極を含まなく、光導波路のみが設けられる光学デバイスに応用してもよく、光スイッチ、光共振器、光分岐回路、センサー素子、ミリ波発生器などの光通信または光学測定機能を実現できるいかなる電気光学デバイスに応用しても良い。本発明を電気光学効果膜を有する電気光学素子に応用する場合、電気光学効果膜を光導波路膜の代わりとしてもよい。当業者は本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて本発明に対し変形や改造を加えた場合、これら変形や改造も本発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0056】
1…基板;2…光導波路;3…保護層;4…電極層;7…第1電極;8…第2電極;10…マッハツェンダー光導波路;10a…第1光導波路;10b…第2光導波路;10c…分波部;10d…合波部;10i…入力光導波路;10o…出力光導波路;101…一つの側面;102…別の側面。
図1
図2
図3