IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光変調器 図1
  • 特開-光変調器 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155576
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20221005BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056246
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】202110341976.5
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210296417.1
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】田家 裕
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・レイモンド・メラド・ビナラオ
(72)【発明者】
【氏名】王 進武
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA04
2K102CA30
2K102DA05
2K102DB05
2K102DB08
2K102DC08
2K102DD05
2K102EA03
2K102EA17
(57)【要約】
【課題】本発明は光変調器を提供する。
【解決手段】光変調器は、基板と、基板の所定の領域上に形成された電気光学材料層と、電気光学材料層を覆うように基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成された電極とを有し、電気光学材料層は、変調信号が印加されるパターニングされたRF部光導波路と、直流電圧が印加されるパターニングされたDC部光導波路とを有し、電極は、RF部光導波路が位置するバッファ層上に形成されたRF部電極と、DC部光導波路が位置するバッファ層上に形成されたDC部電極とを有し、DC部電極の膜厚は、RF部電極の膜厚よりも薄くなっている。本発明によれば、DC部電極で発生したノイズ信号による電気的クロストークを抑制し、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善し光帯域の広帯域化を図ることができる光変調器を提供することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の所定の領域上に形成された電気光学材料層と、
前記電気光学材料層を覆うように前記基板上に形成されたバッファ層と、
前記バッファ層上に形成された電極と、を有し、
前記電気光学材料層は、変調信号が印加されるパターニングされたRF部光導波路と、直流電圧が印加されるパターニングされたDC部光導波路とを有し、
前記電極は、前記RF部光導波路が位置する前記バッファ層上に形成されたRF部電極と、前記DC部光導波路が位置する前記バッファ層上に形成されたDC部電極とを有し、
前記DC部電極の膜厚は、前記RF部電極の膜厚よりも薄くなっていることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記DC部電極の膜厚は、前記RF部電極の膜厚の1/2以下になっていることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記DC部電極の膜厚が0.1~3.2μmであり、前記RF部電極の膜厚が1~8μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記DC部光導波路と前記RF部光導波路のうち、少なくともいずれか一方は、折り返して形成され、
前記DC部電極と前記RF部電極も、それぞれ前記DC部光導波路と前記RF部光導波路に沿って折り返して形成され、
前記DC部電極と前記RF部電極は、その折り返しにより隣接していることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信または光学計測の分野において使用される光変調器に関するものであり、特にマッハツェンダー型光変調器の電極構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴い、通信量が急激に増加し、光ファイバー通信の重要性が非常に高まっている。光ファイバー通信は電気信号を光信号に変換し、光ファイバーにより光信号を伝搬するものであり、広帯域、低損失、ノイズに強いという特徴を有する。
【0003】
電気信号を光信号に変換する方式としては、半導体レーザを利用した直接変調方式と光変調器を使用した外部変調方式が知られている。直接変調は光変調器を必要とせずかつ低コストであるが、高速変調には限界があり、高速かつ長距離の応用においては、外部変調方式を採用している。
【0004】
光変調器としては、ニオブ酸リチウム単結晶基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路を形成したマッハツェンダー型光変調器が実用化されている(例えば特許文献1参照)。マッハツェンダー型光変調器は、1つの光源から出た光を2つに分け、異なる経路を通過させた後、再び重ね合わせて干渉を起こさせるマッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路(マッハツェンダー光導波路)を用いるものであり、40Gb/s以上の高速の光変調器が商用化されているが、全長が10cm前後と長いことが大きな欠点になっている。
【0005】
これに対して、特許文献2にc軸配向のニオブ酸リチウム膜を使用したマッハツェンダー型光変調器が開示されている。ニオブ酸リチウム膜を使用した光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を使用した光変調器と比べて、大幅な小型化、低駆動電圧化を可能にした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4485218号公報
【特許文献2】特開2019-74595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1および2に開示されている光変調器の電極構造について繰り返し研究した結果、当業者がこれまで考慮していない下記の課題を発見した。即ち、特許文献1および2に開示されているような複数の電極を有する光変調器において、電極間が互いに近接しているため、隣り合うDC部電極におけるノイズ信号はRF部電極に影響を与え、電気的クロストークを発生させ、かつ、RF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善できず、帯域を狭めるという不具合が発生していた。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、DC部電極で発生したノイズ信号による電気的クロストークを抑制し、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善し光帯域の広帯域化を図ることができる光変調器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面に係る光変調器は、基板と、前記基板の所定の区域上に形成された電気光学材料層と、前記電気光学材料層を覆うように前記基板上に形成されたバッファ層と、前記バッファ層上に形成された電極とを有し、前記電気光学材料層は、変調信号が印加されるパターニングされたRF部光導波路と、直流電圧が印加されるパターニングされたDC部光導波路とを有し、前記電極は、前記RF部光導波路が位置する前記バッファ層上に形成されたRF部電極と前記DC部光導波路が位置する前記バッファ層に形成されたDC部電極とを有し、前記DC部電極の膜厚は前記RF部電極の膜厚よりも薄くなっていることを特徴としている。
【0010】
上記のRF部電極とDC部電極を有する光変調器において、DC部電極の膜厚をRF部電極の膜厚に対して薄くすることで、電気的クロストークの低減効果を十分に発揮することができ、DC部電極で発生したノイズ信号によるクロストークを効果的に抑えることができ、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善し光帯域の広帯域化を図ることが可能である。また、上記の光変調器において、薄いDC部電極を使用することで、電極に使用する材料を低減し光変調器の低コスト化を図ることも可能である。
【0011】
また、上記の本発明の一側面に係る光変調器は、前記DC部電極の膜厚が前記RF部電極の膜厚の1/2以下であることが好ましい。このように、DC部電極の膜厚をRF部電極の膜厚に対して1/2以下まで薄くすることで、DC部電極で発生したノイズ信号によるクロストークをより効果的に抑えることができ、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号においてより高周波特性を改善し光帯域のさらなる広帯域化を図ることが可能である。
【0012】
また、上記の本発明の一側面に係る光変調器は、前記DC部電極の膜厚が0.1~3.2μmであり、前記RF部電極の膜厚が1~8μmであることが好ましい。
【0013】
また、上記の本発明の一側面に係る光変調器は、前記DC部光導波路と前記RF部光導波路のうち、少なくともいずれか一方は、折り返して形成され、前記DC部電極と前記RF部電極も、それぞれ前記DC部光導波路と前記RF部光導波路に沿って折り返して形成され、前記DC部電極と前記RF部電極は、その折り返しによって隣り合うことが好ましい。ここで、本発明者らは特許文献1に開示した光変調器の電極の構造について更に深く研究し、その結果、新たに下記のことを発見した。即ち、特許文献1に開示された折り返す2つの電極を有する光変調器において、電極間は互いに近づきやすくなっているため、本発明の上記作用効果は、DC部光導波路とRF部光導波路のうち、少なくともいずれか一方は、折り返して形成され、DC部電極とRF部電極も、それぞれDC部光導波路とRF部光導波路に沿って折返して形成され、DC部電極とRF部電極がその折り返しによって隣り合う構造において、より顕著になる。
【0014】
本発明の一側面によれば、DC部電極で発生したノイズ信号による電気的クロストークを抑制し、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善し光帯域の広帯域化を図ることができる光変調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る光変調器の上面図である。
図2】本発明の実施形態に係る光変調器の図1のA-A’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について詳しく説明する。ここで、図面の説明において、同じまたは同等な要素に対して同じ符号を割り当て、重複する説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は本発明の実施形態に係る光変調器の上面図である。図2は本発明の実施形態にかかる光変調器の図1のA-A’線断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る光変調器100は基板1上に形成された4つの光導波路10を有する。ただし、光導波路10の数は特に限定されず、1~3あるいは5以上の光導波路10を有してもよい。
【0018】
光導波路10は平面上に折り返して形成されている。例えば、本実施形態において、光導波路10は平面上に2回折り返して形成されており、互いに平行に配置された第1から第3直線部10e、10e、10eと、第1直線部10eと第2直線部10eとを連結する第1湾曲部10fと、第2直線部10eと第3直線部10eとを連結する第2湾曲部10fとを含む。ただし、これに限らず、光導波路10は平面上に3回以上折り返して形成してもよい。
【0019】
光変調器において、素子の長さが長いことは、実用上の大きな課題であったが、図1に示すように、光導波路を折り返すように構成することで、大幅に素子の長さを縮めることができ、顕著な効果が得られる。特に、ニオブ酸リチウム膜からなる光導波路は、曲率半径を例えば50μm程度まで小さくしても、損失が小さいという特徴を有しており、本実施形態に適している。
【0020】
光導波路10は第1光導波路10aと第2光導波路10bを有するマッハツェンダー光導波路である。マッハツェンダー光導波路10はマッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路である。一本の入力光導波路10iから分波部10cにより分岐した第1及び第2の光導波路10a、10bを有し、第1及び第2の光導波路10a、10bは合波部10dを介して複数本の出力光導波路10o、10o、10o、10oを有している。入力光Siは分波部10cで分波されて第1及び第2の光導波路10a、10bをそれぞれ進行した後、合波部10dで合波され、変調光Soは複数の出力光導波路10o、10o、10o、10oから出力される。具体的には、入力光Siは第1直線部10eの一端に入力されて、第1直線部10eの一端から他端へ向かって進行し、第1湾曲部10fで折り返して、第2直線部10eの一端から他端へ向かって第1直線部10eと反対の方向に進行し、さらに、第2湾曲部10fで折り返して第3直線部10eの一端から他端へ向かって、第1直線部10eと同じ方向に進行する。
【0021】
図2に示すように、光変調器100は基板1、電気光学材料層としての導波層2、バッファ層3及び電極層4がこの順に積層してなる多層構造を有する。基板1は例えばサファイア基板である。基板1の表面上には、ニオブ酸リチウム(LiNbO、以下「LN」と称する)に代表される電気光学材料からなる導波層2が形成される。導波層2はリッジ部2rからなる第1及び第2の光導波路10a、10bを有する。
【0022】
バッファ層3は第1及び第2の光導波路10a、10b中で伝搬される光が電極4a、4bに吸収されることを防ぐため、導波層2の上表面のうちリッジ部が形成されていない区域の全面、および、リッジ部2rの側面と上表面を覆うように、基板1上に形成された層である。バッファ層3は光導波路と電極との間の中間層としての役割を果たせばよく、かつ、バッファ層3の材料が非金属であれば、幅広く選択できる。例えば、バッファ層3は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの絶縁材料からなるセラミック層を使用してもよい。バッファ層3の材料は結晶性の材料であってよく、非晶質の材料でもよい。バッファ層3は、屈折率が導波層2より低くかつ透明性が高い材料より構成されることが好ましく、例えばAl、SiO、LaAlO、LaYO、ZnO、HfO、MgO、Y等を使用してよい。光導波路上に形成されるバッファ層3の厚みは0.2~1.2μm程度であっても良い。本実施形態において、バッファ層3は第1及び第2の光導波路10a、10bの上表面だけでなく、導波層2の上表面のうちリッジ部2rが形成されていない区域の全面、およびリッジ部2rの側面を覆うが、バッファ層3は少なくとも導波層2のリッジ部2rの上表面に形成すればよく、バッファ層3は第1及び第2の光導波路10a、10bの上表面付近だけを選択的に覆うようにパターニングされてもよい。
【0023】
電極による光吸収を低減するために、バッファ層3の膜厚は厚いほどよく、第1及び第2の光導波路10a、10bに高い電場を加えるためには、バッファ層3の膜厚は薄いほどよい。電極の光吸収と電極の印加電圧はいわゆる「トレードオフ」関係にあるため、目的に応じて適切な膜厚を設定する必要がある。バッファ層3の誘電率が高いほどVπL(電場効率を表す指標)を減らすことができるため好ましく、バッファ層3の屈折率が低いほど、バッファ層3を薄くすることができるため好ましい。用途に合わせ誘電率や屈折率を適宜選択することが好ましい。光変調器用途においては、比誘電率を配慮して設計するのが好ましい。本実施形態ではVπL低減のため比誘電率は6~18であることが好ましい。その際、好ましく使用可能な材料は、LaAlO、LaYO等の材料が挙げられる。もちろん記載した組成に限られず比誘電率の比較的高いものがより好ましい。
【0024】
電極層4はバッファ層3上に設置されている。電極層4にRF部電極4aとDC部電極4bが設置されている。RF部電極4aは、第1及び第2の光導波路10a、10b対応するリッジ部2rと重ねて設置されており、バッファ層3を介して第1及び第2の光導波路10a、10bと対向している。DC部電極4bは、第1及び第2の光導波路10a、10bに対応するリッジ部2rと重ねて設置されており、バッファ層3を介して第1及び第2の光導波路10a、10bと対向している。
【0025】
図示していないが、電極4の周りを比較的誘電率の低い材料で覆うこともできる。特に限定されるものではないが、SiN、SiO、Al、樹脂(ポリイミド、ポリアミド、エポキシ、アクリル)で覆うことができる。
【0026】
RF部電極4aに変調信号(交流信号)を入力した場合、第1及び第2の光導波路10a、10bがニオブ酸リチウムなど、電気光学効果を有する材料からなるため、第1及び第2の光導波路10a、10bに与える電場により、第1及び第2の光導波路10a、10bの屈折率がそれぞれ、+Δn、-Δnのように変化し、一対の光導波路10a、10bの間の位相差が変化する。当該位相差の変化により変調された信号光は出力光導波路から出力される。
【0027】
DC部電極4bに直流変圧(DC変圧)を入力した場合、DC部電極4bの形成区域はマッハツェンダー光導波路10の出力端側に近いように設置されるが、入力端側に近いように設置してもよい。図1に示したように、DC部電極はRF部電極よりも外側に配置されることが好ましい。さらに、RF部電極は複数のDC部電極によって挟まれているように配置されている形態がより好ましい。
【0028】
導波層2は電気光学材料から構成される電気光学材料層であれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム(LiNbO)からなることが好ましい。これはニオブ酸リチウムが大きな電気光学定数を有し、光変調器などの光学デバイスの構成材料に適したためである。以下、導波層2をニオブ酸リチウム膜とした場合の本実施形態の構造について詳しく説明する。
【0029】
基板1としてはニオブ酸リチウム膜より屈折率が低いものであれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成させることができる基板が好ましく、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。ニオブ酸リチウム膜はさまざまな結晶方位の単結晶基板に対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすいという性質を持っている。c軸配向のニオブ酸リチウム膜は3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0030】
ここで、エピタキシャル膜とは、下地の基板もしくは下地膜の結晶方位に対して、そろって配向している膜のことである。膜面内をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸及びZ軸方向にともにそろって配向しているものである。例えば、第1に2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認と、第2に極点の確認を行うことで、エピタキシャル膜を証明できる。
【0031】
具体的には、第1に2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。例えば、ニオブ酸リチウムのc軸配向エピタキシャル膜では、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0032】
第2に、極点測定において、極点が見えることが必要である。前述の第1の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみであり、前述の第1の条件を得たとしても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。LiNbOは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜の場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4×3=12個の極点が観測される。なお、本発明では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。
【0033】
ニオブ酸リチウム膜の組成はLiNbAである。Aは、Li、Nb、O以外の元素を表している。xは0.5~1.2であり、好ましくは、0.9~1.05である。yは、0~0.5である。zは1.5~4であり、好ましくは2.5~3.5である。Aの元素としては、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、Ceなどがあり、2種類以上の組み合わせでも良い。
【0034】
ニオブ酸リチウム膜の膜厚は2μm以下であることが望ましい。膜厚が2μmよりも厚くなると、高品質な膜を形成することが困難になるからである。一方、ニオブ酸リチウム膜の膜厚が薄すぎる場合は、ニオブ酸リチウム膜における光の閉じ込めが弱くなり、基板1やバッファ層3に光が漏れることになる。ニオブ酸リチウム膜に電界を印加しても、第1及び第2の光導波路10a、10bの実効屈折率の変化が小さくなるおそれがある。そのため、ニオブ酸リチウム膜は、使用する光の波長の1/10程度以上の膜厚が望ましい。
【0035】
ニオブ酸リチウム膜の形成方法としては、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などの膜形成方法を利用するのが望ましい。ニオブ酸リチウムのc軸が基板1の主面に垂直に配向されており、c軸に平行に電界を印加することで、電界に比例して光学屈折率が変化する。単結晶基板としてサファイアを用いる場合は、サファイア単結晶基板上に直接、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させることができる。単結晶基板としてシリコンを用いる場合は、クラッド層(図示せず)を介して、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長により形成する。クラッド層(図示せず)としては、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低く、エピタキシャル成長に適したものを用いる。例えば、クラッド層(図示せず)としてYを用いると、高品質のニオブ酸リチウム膜を形成できる。
【0036】
なお、ニオブ酸リチウム膜の形成方法として、ニオブ酸リチウム単結晶基板を薄く研磨したりスライスしたりする方法も知られている。この方法は、単結晶と同じ特性が得られるという利点があり、本発明に適用することが可能である。
【0037】
本実施形態において、導波層2は基板1の所定の区域上に形成され、変調信号が印加されるパターニングされたRF部光導波路2aと直流電圧が印加されるパターニングされたDC部光導波路2bを有する。図2において、RF部光導波路2aは4つのリッジ部2rを有し、DC部光導波路2bは2つのリッジ部2rを有することを図示した。
【0038】
電極は、RF部光導波路2aが位置するバッファ3層上に形成されたRF部電極4aと、DC部光導波路2bが位置するバッファ3層上に形成されたDC部電極4bを有する。DC部電極4bの膜厚t1はRF部電極4aの膜厚t2より薄い。
【0039】
上記のRF部電極とDC部電極を有する光変調器において、DC部電極の膜厚をRF部電極の膜厚に対して薄くすることで、クロストークの低減効果を十分に発揮することができ、DC部電極で発生したノイズ信号によるクロストークを効果的に抑えることができ、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号において高周波特性を改善し光帯域の広帯域化を図ることが可能である。また、上記の光変調器において、薄いDC部電極を使用することで、電極に使用する材料を低減し光変調器の低コスト化を図ることができるも可能である。
【0040】
また、本実施形態において、DC部電極4bの膜厚t1はRF部電極4aの膜厚t2の1/2以下であることが好ましい。このように、DC部電極の膜厚をRF部電極の膜厚に対して1/2以下まで薄くすることで、DC部電極で発生したノイズ信号によるクロストークをより効果的に抑えることができ、かつRF部電極中で伝搬される高周波信号においてより高周波特性を改善し光帯域のさらなる広帯域化を図ることが可能である。
【0041】
また、本実施形態において、DC部電極4bの膜厚t1は0.1~3.2μmであることが好ましく、RF部電極4aの膜厚t2は1~8μmであることが好ましい。
【0042】
また、図2において、4つに配列されたRF部電極4aの外側の電極を接地電極として使用することもできることにより、より高いクロストーク低減効果が得られる。
【0043】
(実施例)
下記の表1に示すようにそれぞれ実施例1~7および比較例1の光変調器を作成し、それらの電気的クロストークを測定し、その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
上記の表1から、実施例1~7と比較例1とを比較すると、実施例1~7においてRF部電極4aの膜厚t2に対してDC部電極4bの膜厚t1を薄くしたこと(即ち、DC部電極4bの膜厚t1とRF部電極4aの膜厚t2との比t1/t2を「t1/t2<1」とすること)で、DC部電極4bにおいて発生したノイズ信号に起因する電気的クロストークを効果的に抑えられたこと(電気的クロストークを「-45.0dB以下」に抑えられたこと)がわかった。また、上記の表1から、実施例1~5においてDC部電極4bの膜厚t1をRF部電極4aの膜厚t2の1/2以下としたこと(即ち、DC部電極4bの膜厚t1とRF部電極4aの膜厚t2との比t1/t2を「t1/t2≦0.5」とすること)で、DC部電極4bにおいて発生したノイズ信号に起因する電気的クロストークをより効果的に抑えられたこと(電気的クロストークを「-55.0dB以下」に抑えられたこと)がわかった。また、上記の表1から、好ましい範囲としては、DC部電極の膜厚t1が0.1~3.2μmの範囲内であり、RF部電極の膜厚が1~8μm範囲内であることがわかった。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて様々な変更や変形を実施してもよく、これらも本発明の範囲内に含まれていることは勿論である。
【0047】
例えば、上記の実施形態において、基板1上にエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜からなる一対の光導波路10a、10bをそれぞれ有する4つの光導波路10を備える光変調器を例示したが、本発明はこの構造に限定されず、チタン酸バリウム、ジルコンチタン酸鉛などの電気光学材料で光導波路を形成した光変調器であってもよい。また、導波層2として、電気光学効果を有する半導体材料、高分子材料などを使用してもよい。
【0048】
また、上記の実施形態において、光導波路が平面上に折り返して形成される例を示したが、これに限定されず、光導波路は平面上に折り返さず、直線状に延伸してもよい。この場合、入力光は、直線状の光導波路の一端から入力され、光導波路中で伝搬された後、他端から出力されることができる。
【0049】
また、RF部電極はDC部電極よりも厚く形成すればよく、その電極形状は問わない。RF部電極の上部が金属キノコ上にオーバーハングしてもよいし、逆台形の電極としてもよい。逆に上部の小さな台形型でもよい。なかでも、断面を見たときに電極の上部の幅が大きい電極が好ましい。
【0050】
また、その電極はメッキで形成されることが好ましい。
図1
図2