(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155582
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】ソール構造
(51)【国際特許分類】
A43B 13/18 20060101AFI20221005BHJP
A43B 13/41 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
A43B13/18
A43B13/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057041
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021057990
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 森
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】古川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖仙
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BA02
4F050BA49
4F050BF09
4F050HA23
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA58
4F050HA73
4F050JA09
(57)【要約】
【課題】シューズ着用者の足の負担を少なくする。
【解決手段】ソール構造10は、上側にシューズ着用者の足Ftが載置される載置面Sf1を有し、下側に路面に接地できる第1接地面Sf2を有する、載置部20と、載置部20の後端部20aから後方に向かって突出し、下側に路面に接地できる第2接地面Sf3を有する、突出部30とを備える。第2接地面Sf3の路面射影面積は、第1接地面Sf2の路面射影面積の10%以上であり、突出部30は、上側層31と、上側層31よりも下側に配置され且つ該上側層31よりもクッション性の高い下側層32とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのソール構造であって、
上側にシューズ着用者の足が載置される載置面を有し、下側に路面に接地できる第1接地面を有する、載置部と、
前記載置部の後端部から後方に向かって突出し、下側に前記路面に接地できる第2接地面を有する、突出部と
を備え、
前記第2接地面の路面射影面積は、前記第1接地面の路面射影面積の10%以上であり、
前記突出部は、上側層と、該上側層よりも下側に配置され且つ該上側層よりもクッション性の高い下側層とを有する、
ソール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のソール構造において、
前記載置部は、前記シューズ着用者の前足部において、後側から前側にいくにしたがい前記第1接地面が徐々に路面から離れ且つ徐々に前方を向くように側面視で湾曲した、ロッカー部を有し、
前記ロッカー部が設けられた領域は、足長方向で、前記載置部の先端部から、該載置部の足長方向の長さの25%後側にいった位置までの範囲内にあり、
前記ソール構造の厚さは、前記前足部で20mm以上である、
ソール構造。
【請求項3】
請求項2に記載のソール構造において、
前記前足部の位置において前記載置部の中又は上側に配置され、側面視で前記ロッカー部に沿うように湾曲した、前記載置部よりも剛性の高い、前側プレート部材をさらに備えた、
ソール構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記下側層の体積は、前記上側層の体積よりも大きい、ソール構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記突出部における前記上側層と前記下側層との間に配置され、前記上側層及び前記下側層よりも剛性の高い後側プレート部材をさらに備える、
ソール構造。
【請求項6】
請求項5に記載のソール構造において、
前記突出部は、平面視で、前記上側層が、前記後側プレート部材の周縁部よりも前側にのみ広がっている一方、前記下側層が、前記後側プレート部材の周縁部の前側及び後側の両方に広がっており、
前記後側プレート部材の形状は、側面視で、山部と谷部とを有する波形状であり、
前記後側プレート部材の後端部は前記山部である、ソール構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記載置部及び前記突出部の少なくとも一方には、上下方向に貫通する空洞部が設けられている、ソール構造。
【請求項8】
請求項3に記載のソール構造において、
前記突出部における前記上側層と前記下側層との間に配置され、前記上側層及び前記下側層よりも剛性の高い後側プレート部材をさらに備え、
前記前側プレート部材及び前記後側プレート部材の少なくとも一方には、上下方向に貫通するプレート空洞部が設けられている、ソール構造。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のソール構造において、
前記突出部の足長方向の長さは、30mm以上である、ソール構造。
【請求項10】
請求項1に記載のソール構造において、
前記第1接地面は、側面視において、前記載置部の後端部よりも前側の位置から、前記載置部の後端部に対応する位置に向かって前記路面から離れるように傾斜および/または湾曲しており、
前記第2接地面は、側面視において、前記第1接地面と連続し、かつ、前記載置部の後端部に対応する位置から前記突出部の後端部に向かって前記路面から離れるように傾斜および/または湾曲している、ソール構造。
【請求項11】
請求項10に記載のソール構造において、
前記突出部は、
内甲側に位置する第1突出部と、
外甲側に位置する第2突出部と、を含み、
前記第1突出部と前記第2突出部とは、足幅方向において互いに間隔をあけて配置されている、ソール構造。
【請求項12】
請求項10に記載のソール構造において、
アウトソールをさらに備え、
前記第1接地面および前記第2接地面は、前記アウトソールの下面により構成されており、
前記アウトソールは、着用者の足の後足部かつ外甲側に対応する領域が、該領域以外の他の領域よりも高い摩耗耐久性を有するように構成されている、ソール構造。
【請求項13】
請求項10に記載のソール構造において、
前記載置部は、
ミッドソールと、
前記ミッドソールよりも硬質な前側プレート部材と、を含み、
前記前側プレート部材は、前記載置部の、着用者の足の前足部に対応する位置に配置されている、ソール構造。
【請求項14】
請求項13に記載のソール構造において、
前記前側プレート部材の硬度は、デュロメーターAで70A以上に設定されている、ソール構造。
【請求項15】
請求項10に記載のソール構造において、
前記載置部は、
ミッドソールと、
前記ミッドソールよりも硬質な後側プレート部材と、を含み、
前記後側プレート部材は、前記載置部の、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲に配置されている、ソール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランニングシューズのソール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シューズのソール構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、ランニング用のスポーツシューズ(以下「シューズ」という)では、シューズ着用者の足の負担を少なくするという要請がある。特に、シューズのソール構造は、路面に接地した時(以下「接地時」という)に足裏が路面から受ける反力を小さくなるようにしたい。ここで、足裏が路面から受ける反力は、接地した瞬間に第1のピークとなるが、さらに第1のピーク後、身体が沈み込む時、すなわち、最も荷重が大きくなる(以下「最大荷重時」という)時が第2のピークとなる。以下、接地した瞬間の路面からの反力のピークを「第1ピーク」といい、最大荷重時を「第2ピーク」という。そして、これらの第1ピーク及び第2ピークの両方を下げるように、路面からの反力を総合的に下げることが、足の負担を少なくするためには重要である。
【0005】
しかし、従来のソール構造は、第1ピーク及び第2ピークを下げるという観点はなく、路面からの反力を総合的に下げることができない。このため、足の負担を十分に少なくできないという問題がある。
【0006】
本開示は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、着用者の足の負担を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の開示は、シューズのソール構造に係るものであり、上側にシューズ着用者の足が載置される載置面を有し、下側に路面に接地できる第1接地面を有する、載置部と、載置部の後端部から後方に向かって突出し、下側に路面に接地できる第2接地面を有する、突出部とを備え、第2接地面の路面射影面積は、第1接地面の路面射影面積の10%以上であり、突出部は、上側層と、該上側層よりも下側に配置され且つ該上側層よりもクッション性の高い下側層とを有する。なお、本明細書において、第1接地面及び第2接地面の路面射影面積とは、第1接地面及び第2接地面を、水平な路面にそれぞれ射影した面積を意味する。
【0008】
第1の開示では、ソール構造は、載置部の第1接地面及び突出部の第2接地面の2つの接地面を有するので、第1接地面のみを有する場合に比べて、走行時にソール構造と路面との接地時間が長くなる。すると、路面から受ける反力が小さくなり、路面から足裏にかかる負荷を小さくできる。その結果、着用者の足の負担を少なくできる。
【0009】
第2の開示は、第1の開示において、載置部は、着用者の前足部において、後側から前側にいくにしたがい第1接地面が徐々に路面から離れ且つ徐々に前方を向くように側面視で湾曲した、ロッカー部を有し、ロッカー部が設けられた領域は、足長方向で、載置部の先端部から、載置部の足長方向の長さの25%後側にいった位置までの範囲内にあり、ソール構造の厚さは、着用者の前足部で20mm以上である。
【0010】
第2の開示では、着用者の前足部においてロッカー部を有するため、走行時の蹴り出し前における、着用者の足及びソール構造の路面に対する動きは、ロッカー部の第1接地面に沿って前方に回るような動きとなる。すると、蹴り出し前に足裏が路面から受ける反力は、前足部の後側から前側に向かってなだらかに移動する。すなわち、走行時に足裏で反力を受ける部位が急激に変化するのを避けることができる。特に、ロッカー部が設けられた領域は、足長方向で、載置部の先端部から、載置部の足長方向の長さの25%後側にいった位置までの範囲内にあり、前足部におけるソール構造の厚さは20mm以上であるため、その効果は高くなる。以上の結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0011】
第3の開示は、第2の開示において、前足部の位置において載置部の中又は上側に配置され、側面視でロッカー部に沿うように湾曲した、載置部よりも剛性の高い、前側プレート部材をさらに備える。
【0012】
第3の開示では、前足部の位置において、ロッカー部に沿うように湾曲した、載置部よりも剛性の高い前側プレート部材をさらに備えるので、前側プレート部材によりロッカー部の形状が安定して維持される。このため、走行時の蹴り出し前に、着用者の足及びソール構造が路面に対して、ロッカー部に沿って前方に回るような動きとなるという第2の開示の効果を確実に奏することができる。その結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0013】
第4の開示は、第1~第3の開示のいずれか1つにおいて、下側層の体積は、上側層の体積よりも大きい。
【0014】
第4の開示では、下側層の体積は、上側層の体積よりも大きいので、ソール構造のクッション性を高くできる。その結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0015】
第5の開示は、第1~第4の開示のいずれか1つにおいて、突出部における上側層と下側層との間に配置され、上側層及び下側層よりも剛性の高い後側プレート部材をさらに備える。
【0016】
第5の開示では、上側層と下側層との間に配置され、上側層及び下側層よりも剛性の高い後側プレート部材をさらに備えるので、突出部の形状を確実に維持して第1の開示の効果をより奏しやすくできる。その結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0017】
第6の開示は、第5の開示において、突出部は、平面視で、上側層が、後側プレート部材の周縁部よりも前側にのみ広がっている一方、下側層が、後側プレート部材の周縁部の前側及び後側の両方に広がっており、後側プレート部材の形状は、側面視で、山部と谷部とを有する波形状であり、後側プレート部材の後端部は山部である。
【0018】
第6の開示では、上側層は、後側プレート部材の周縁部よりも前側にのみ広がっている一方、下側層は、後側プレート部材の周縁部の前側及び後側の両方に広がっているので、下側層の方が上側層よりも広い領域にわたって設けられる。また、上側層及び下側層の間に配置される後側プレート部材の後端部が山部であるので、下側層も、後側プレート部材の後端部の下方に位置で山部に沿った形状となる。以上の構成により、クッション性の高い下側層の体積を、上側層よりも大きくしやすくなる。すなわち、ソール構造のクッション性を高くできる。その結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0019】
第7の開示は、第1~第6の開示のいずれか1つにおいて、載置部及び突出部の少なくとも一方には、上下方向に貫通する空洞部が設けられている。
【0020】
第7の開示では、載置部及び突出部の少なくとも一方に、空洞部が設けられているので、空洞部が設けられる分、ソール構造を軽くできる。その結果、着用者の足の負担をさらに少なくできる。
【0021】
第8の開示は、第3の開示において、突出部における上側層と下側層との間に配置され、上側層及び下側層よりも剛性の高い後側プレート部材とを備え、前側プレート部材及び後側プレート部材の少なくとも一方には、上下方向に貫通するプレート空洞部が設けられている。
【0022】
第8の開示では、前側プレート部材及び後側プレート部材の少なくとも一方にプレート空洞部が設けられているので、ソール構造を軽くできる。その結果、着用者の足の負担をさらに小さくできる。
【0023】
第9の開示は、第1~第8の開示のいずれか1つにおいて、突出部の足長方向の長さは、30mm以上である。
【0024】
第9の開示では、突出部の足長方向の長さは、30mm以上であるので、第1の開示の効果が特に高くなる。その結果、着用者の足の負担をさらに小さくできる。
【0025】
第10の開示は、第1の開示において、第1接地面は、側面視において、載置部の後端部よりも前側の位置から、載置部の後端部に対応する位置に向かって路面から離れるように傾斜および/または湾曲している。そして、第2接地面は、側面視において、第1接地面と連続し、かつ、載置部の後端部に対応する位置から突出部の後端部に向かって路面から離れるように傾斜および/または湾曲している。
【0026】
第10の開示によれば、走行時において、特に第2接地面が路面に接地している時間を比較的長く保つことが可能となる。その結果、路面から受ける反力の第2ピークを下げることが可能となる。したがって、第10の開示では、走行時における着用者の身体(特に足)の負担を軽減することができる。特に、スローペースで走行している着用者に対して、滑らかな接地を促すように着用者の足をサポートすることができる。
【0027】
第11の開示は、第10の開示において、突出部は、内甲側に位置する第1突出部と、外甲側に位置する第2突出部と、を含む。そして、第1突出部と第2突出部とは、足幅方向において互いに間隔をあけて配置されている。
【0028】
第11の開示では、第1突出部と第2突出部とが足幅方向に分断されていることから、接地時において着用者の足が外甲側または内甲側に偏った場合であっても、第1突出部および第2突出部の各々のクッション性により、着用者が接地時のバランスを保ちやすくなる。特に、スローペースで走行している着用者では、接地時のバランスを保ちながら滑らかな走行感を得ることができる。
【0029】
第12の開示は、第10の開示において、アウトソールをさらに備え、第1接地面および第2接地面は、アウトソールの下面により構成されている。アウトソールは、着用者の足の後足部かつ外甲側に対応する領域が、該領域以外の他の領域よりも高い摩耗耐久性を有するように構成されている。
【0030】
第12の開示によれば、接地時における足の後足部かつ外甲側に対応する領域を適切に保護することができる。特にスローペースで走る着用者では、接地時において足の後足部かつ外甲側に対応する領域を路面に擦る傾向が比較的高くなるが、第12の開示によれば、スローペースで走る着用者におけるシューズの損耗を軽減することができ、特に突出部の外甲側領域の摩耗耐久性を向上させることができる。
【0031】
第13の開示は、第10の開示において、載置部は、ミッドソールと、ミッドソールよりも硬質な前側プレート部材と、を含む。前側プレート部材は、載置部の、着用者の足の前足部に対応する位置に配置されている。
【0032】
第13の開示によれば、ソール構造における着用者の足の前足部に対応する位置の屈曲剛性を高めることが可能となる。その結果、走行時において、接地後に前方への重心移動に移行しやすくなり、前方への転がりを促すことができる。
【0033】
第14の開示は、第13の開示において、前側プレート部材の硬度は、デュロメーターAで70A以上に設定されている。
【0034】
第14の開示によれば、第13の開示による上記作用効果と同様に、ソール構造における着用者の足の前足部に対応する位置の屈曲剛性を高めることができる。
【0035】
第15の開示は、第10の開示において、載置部は、ミッドソールと、ミッドソールよりも硬質な後側プレート部材と、を含む。後側プレート部材は、載置部の、着用者の足の中足部に対応する位置から後足部に対応する位置に亘る範囲に配置されている。
【0036】
第15の開示によれば、ソール構造における着用者の足の中足部および後足部に対応する位置の屈曲剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本開示によると、着用者の足の負荷を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るソール構造を示す全体斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るソール構造を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、着用者の足の骨格構造を仮想的に重ね合わせたソール構造を、上側から見て示す平面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るソール構造の下側から見て示す底面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るソール構造を内側から見て示す側面図である。
【
図7】
図7は、一般的なソール構造を備えたシューズの着用者の走行時に、ソール構造が路面から受ける反力が、時間に対してどのように変化するかを模式的に示すグラフである。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係るソール構造を後方かつ上方から見た全体斜視図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係るソール構造を後方かつ下方から見た全体斜視図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係るソール構造の平面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係るソール構造の底面図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係るソール構造を内甲側から見たときの側面図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係るソール構造を外甲側から見たときの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0040】
[第1実施形態]
図1~
図6は、本開示の第1実施形態に係るソール構造10を示し。このソール構造10を備えたシューズ(図示しない)は、ランニング用のスポーツシューズとして使用される。
【0041】
ここで、ソール構造10は、左足用シューズのものを例示している。右足用シューズのソール構造は、左足用シューズのものと左右対称となるように構成されている。このため、以下の説明では、左足用シューズのソール構造10のみについて説明し、右足用シューズのソール構造の説明を省略する。
【0042】
以下の説明において、上側(上方)及び下側(下方)とは、ソール構造10の上下方向の位置関係を表すものとする。具体的に、上側(上方)は、ソール構造10において後述するシューズ着用者の足Ftが位置する側を指すものとする。下側(下方)は、ソール構造10において路面(すなわち、足Ftと反対側)が位置する側を指すものとする。また、前側及び後側とは、ソール構造10の足長方向の位置関係を表すものとする。具体的に、前側は、ソール構造10において着用者の足Ftの爪先部分に対応する位置の側(
図3参照)を指すものとする。後側は、ソール構造10において着用者の足の踵部に対応する位置の側(
図3参照)を指すものとする。また、内側(内甲側)及び外側(外甲側)とは、ソール構造10の足幅方向の位置関係を表すものとする。また、
図3では、ソール構造10において、シューズ着用者の足Ftの前足部に対応する範囲を符号Fにより示し、着用者の足Ftの中足部に対応する範囲を符号Mにより示し、着用者の足Ftの後足部に対応する範囲を符号Hにより示すものとする。
【0043】
≪ソール構造≫
まず、ソール構造10の全体的な構成を説明する。
【0044】
ソール構造10は、上側にシューズ着用者の足Ftが載置される載置面Sf1を有し、下側に路面に接地できる第1接地面Sf2を有する、載置部20と、載置部20の後端部20aから後方に向かって突出し、下側に路面に接地できる第2接地面Sf3を有する、突出部30とを備えている。
【0045】
具体的に、突出部30の足長方向の長さは、30mm以上である。また、第2接地面Sf3の路面射影面積(すなわち、水平な路面に射影した面積)は、第1接地面Sf2の路面射影面積の10%以上である。
【0046】
突出部30は、上側層31と、上側層31よりも下側に配置され且つ上側層31よりもクッション性の高い下側層32とを有する(
図5参照)。平面視では(
図3参照)、下側層32の周縁部32aは、上側層31の周縁部31aよりも後側に位置している。このため、下側層32は、上側層31よりも平面視で広い領域にわたって設けられている。また、下側層32の体積は、上側層31の体積よりも大きい。例えば、下側層32の体積は上側層31の体積の120%以上である。
【0047】
次に、ソール構造10の構成部材について説明する。
【0048】
<ミッドソール>
図1~
図6に示すように、ソール構造10は、ミッドソール40を備えている。ミッドソール40は、着用者の足Ftを支持するように、足裏に沿った形状に形成されている。ミッドソール40の上面は載置面Sf1を構成している。ミッドソール40の載置面Sf1での厚さは、例えば、20~32mmであり、特に前足部Fでの厚さは、後述するロッカー部Rの機能を高くする観点から、20mm以上である。
【0049】
ミッドソール40には、載置面Sf1の外周に沿って、載置面Sf1から上方に突出した周縁部40aが設けられている。なお、ソール構造10を備えたシューズでは、周縁部40aに着用者の足Ftを覆うためのアッパー(図示しない)が設けられている。
【0050】
ミッドソール40は、第1ミッドソール部41、第2ミッドソール部42及び第3ミッドソール部43により構成されている。なお、ソール構造10の突出部30において、第2ミッドソール部42は上側層31を構成し、第3ミッドソール部43は下側層32を構成している(
図3参照)。
【0051】
第1ミッドソール部41の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、ブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーやその発泡体などが適している。第2ミッドソール部42及び第3ミッドソールの材料も、第1ミッドソール部41の材料について例示したものと同様のものが例として挙げられる。第3ミッドソール部43の材料は、第2ミッドソール部42の材料よりもクッション性の高い材料である。
【0052】
第1ミッドソール部41は、前足部Fを支持するように、平面視で、爪先部を除く前足部Fに沿った形状に形成されている(
図1~
図3参照)。第1ミッドソール部41の上面は、前足部Fにおける載置面Sf1を構成している。
【0053】
第2ミッドソール部42は、平面視で、着用者の足裏全体に沿った形状に形成され、足裏全体に対応する位置に配置されている。第2ミッドソール部42は、前足部Fにおいて下方に窪んだ凹部42aが形成されており、この凹部42aに第1ミッドソール部41が配置されている。言い換えると、第2ミッドソール部42は、前足部Fにおいて第1ミッドソール部41の下側に積層配置されている。
【0054】
第2ミッドソール部42は、前足部Fにおける下面が後側から前側にいくにしたがい、下面が徐々に徐々に高くなり且つ徐々に前方を向くように、側面視で湾曲したロッカー部Rを有している(
図2、
図5及び
図6参照)。ロッカー部Rが設けられた領域は、足長方向で、載置部20の先端部から、載置部20の足長方向の長さの25%後側にいった位置Pまでの範囲内にある(
図5及び
図6参照)。
【0055】
また、第2ミッドソール部42は、上側に第1ミッドソール部41が配置されていない部位(すなわち、爪先部、中足部M及び後足部H)において、上面が載置面Sf1を構成している。第2ミッドソール部42は、凹部42aから後方に向かって、その上面(載置面Sf1)が略平坦なっている(
図6参照)。
【0056】
第3ミッドソール部43は、中足部M及び後足部Hに沿った形状に形成されている(
図2参照)。第3ミッドソール部43は、中足部M及び後足部Hにおける第2ミッドソール部42の下側に積層配置されている。第3ミッドソール部43には、その厚さ方向(上下方向)に貫通する空洞部43aが設けられている(
図2及び
図6参照)。
【0057】
<プレート部材>
ソール構造10は、プレート部材50(後側プレート部材)を備えている(
図2参照)。プレート部材50は、中足部M及び後足部Hの外形に沿った形状に形成されている。プレート部材50は、中足部M及び後足部Hにおいて、第2ミッドソール部42と第3ミッドソール部43との間に積層配置されている。
【0058】
プレート部材50は、ソール構造10において中足部Mから後足部Hに亘る範囲の剛性を高めるための部材である。プレート部材50は、ミッドソール40及び後述するアウトソール60よりも剛性が高い薄肉層から構成されている。
【0059】
プレート部材50は、好ましくは硬質弾性材により構成されている。硬質弾性材の具体例としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、又はエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。なお、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)を用いてもよい。
【0060】
プレート部材50の形状は、側面視で、山部50aと谷部50bとを有する波形状である(
図5及び
図6参照)。具体的に、プレート部材50は、中足部Mから後方にいくにしたがい山部50aが形成されており、その後側で後方にいくにしたがい谷部50bが形成されている。谷部50bの後側には、さらに山部50aが形成されており、この後側の山部50aがプレート部材50の後端部となっている。
【0061】
また、プレート部材50の周縁部50cは、平面視で、上側層31の周縁部31aと一致している(
図3参照)。このため、前述の突出部30は、平面視で、上側層31が、プレート部材50の周縁部50cよりも前側にのみ広がっている一方、下側層32が、プレート部材50の周縁部50cの前側及び後側の両方に広がって構成されている(
図3参照)。
【0062】
<アウトソール>
ソール構造10は、アウトソール60を備えている(
図1、
図2及び
図4参照)。アウトソール60は、ミッドソール40の下側に、例えば接着剤により固定されて、積層配置されている。アウトソール60は、ソール構造10において前足部Fから後足部Hに亘る範囲に配置されている。アウトソール60の下面は、載置部20では第1接地面Sf2を構成し、突出部30では第2接地面Sf3を構成している。
【0063】
アウトソール60は、前後方向に互いに分割された複数の部材から構成されている。アウトソール60は、中足部Mから後側部Hにかけて、第3ミッドソール部43の空洞部43aに沿った空間60aが設けられている(
図2及び
図4参照)。
【0064】
アウトソール60は、第1ミッドソール部41~第3ミッドソール部43よりも剛性の高い硬質弾性部材により構成されている。具体的に、アウトソール60の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーが適している。アウトソール60の硬度は、デュロメーターCまたはAで、例えば50C~80A(より好ましくは60A~70A)に設定されるのが好ましい。
【0065】
≪作用・効果≫
図7は、1回の接地時において、一般的なソール構造が路面から受ける反力(縦軸)が、時間(横軸)に対してどのように変化するかを、模式的に示すグラフである。
図7では、実線及び一点鎖線の2種類の時間変化を示しており、これらの2種類は、力積(路面からの反力×接地時間)は互いに同じであるものの、接地時間が互いに異なっている。すなわち、実線のものの接地時間が比較的短く、一点鎖線のものの接地時間が比較的長い。これらの2種類の時間変化を互いに比較すると、接地時間が比較的長い一点鎖線のものが、接地時間が比較的短い実線のものよりも、路面から受ける反力が平均的に小さくなることがわかる。また、2種類の時間変化のいずれも、接地時に反力が最初に極大となる第1ピーク及び次に極大となる第2ピークがあることがわかる。
【0066】
ここで、本実施形態では、ソール構造10は、載置部20の第1接地面Sf2及び突出部30の第2接地面Sf3の2つの接地面を有するので、第1接地面Sf2のみを有する場合に比べて、走行時の路面との接地時間が長くなる。すると、
図7からわかるように、接地時間が長い分、路面から受ける反力が平均的に小さくなる。具体的に、発明者の実験・考察によると、ソール構造10が突出部30を備えることで、路面から受ける反力の第2ピークを大きく下げることができることがわかった。また、第2接地面Sf3の面積が第1接地面Sf2の面積を10%以上とすると、その効果が特に大きくなることがわかった。以上の結果、走行時における着用者の足Ftの負担を少なくできる。
【0067】
ところで、足裏が路面から受ける反力を小さくするには、ソール構造10のクッション性を高くすることが考えられる。しかし、クッション性の高い材料は、重量が大きい傾向がある。クッション性を高くするためにソール構造10の重量が大きくなってしまうと、走行時に、着用者の足Ftの負担が大きくなるという問題がある。
【0068】
ここで、本実施形態では、突出部30を、重量が比較的小さい上側層31と、クッション性の高い下側層32とから構成された2層構造とし、ソール構造10の軽量化を図りつつクッション性を確保できるようにした。しかも、上側層31は、下側層32に比べて剛性が高いので、走行時に、足裏を安定させることができる。その結果、走行時における着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0069】
また、本実施形態では、突出部30の足長方向の長さは、30mm以上であるので、シューズ着用者の足裏が路面から受ける反力の第2ピークを大きく下げるという効果が特に高くなる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに小さくできる。
【0070】
また、本実施形態では、突出部30の上側層31と下側層32との間に配置され、上側層31及び下側層32よりも剛性の高いプレート部材50を備えるので、突出部30の形状を確実に維持して、走行時の路面との接地時間が長くなるという上記効果を奏しやすくできる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0071】
また、本実施形態では、前足部Fにおいてロッカー部Rを有するため、走行時の蹴り出し前における、着用者の足Ft及びソール構造10の路面に対する動きは、ロッカー部Rの第1接地面Sf2を路面に沿わせるように前方に回るような動きとなる。すると、蹴り出し前に足裏が路面から受ける反力は、前足部Fの後側から前側に向かってなだらかに移動する。すなわち、走行時に足裏で反力を受ける部位が急激に変化するのを避けることができる。特に、ロッカー部Rが設けられた領域は、足長方向で、載置部20の先端部から、載置部20の足長方向の長さの25%後側にいった位置までの範囲内にあり、前足部Fにおけるソール構造10の厚さは20mm以上であるため、その効果は高くなる。以上の結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0072】
また、発明者の実験及び考察によると、ソール構造10が、前足部Fにおいてロッカー部Rを有していると、ロッカー部Rを有していない場合に比べ、走行時の第1ピークを下げることがわかった。これは、ロッカー部Rを有するソール構造10を備えるシューズを着用することによって、着用者の走行時の姿勢が変わり、その結果、第1ピークが下がるように足Ftの接地の仕方が変わるためと考えられる。
【0073】
また、本実施形態では、突出部30の下側層32の体積は、上側層31の体積よりも大きいので、ソール構造10のクッション性を高くできる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0074】
また、本実施形態では、上側層31は、プレート部材50の周縁部50cよりも前側にのみ広がっている一方、下側層32は、プレート部材50の周縁部50cの前側及び後側の両方に広がっているので、下側層32の方が上側層31よりも広い領域にわたって設けられる。また、上側層31及び下側層32の間に配置されるプレート部材50の後端部が山部50aであるので、下側層32も、プレート部材50の後端部の下方に位置で山部50aに沿った形状となる。以上の構成により、クッション性の高い下側層32の体積を、上側層31よりも大きくしやすくなる。すなわち、ソール構造10のクッション性を高くできる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0075】
また、本実施形態では、第3ミッドソール部43に、空洞部43aが設けられているので、空洞部43aが設けられる分、ソール構造10を軽くできる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0076】
また、本実施形態では、下側層32の体積は上側層31の体積の120%以上であるので、路面からの反力を吸収する大きな効果が得られる。
【0077】
[第1実施形態の変形例]
前述の第1実施形態では、ソール構造10は、突出部30における後側プレート部材50を備えているが、これに加えて又はこれに代えて、側面視でロッカー部Rに沿うように湾曲した、ミッドソール40(載置部20)よりも剛性の高い、前側プレート部材(図示しない)を、前足部Fに設けてもよい。例えば、前側プレート部材は、第1ミッドソール部41と第2ミッドソール部42との間に配置してもよく、第1ミッドソール部41の上側に配置してもよい。
【0078】
この変形例のように、前足部Fの位置において、ロッカー部Rに沿うように湾曲した、載置部20(ミッドソール40)よりも剛性の高い前側プレート部材を設けると、前側プレート部材によりロッカー部Rの形状が安定して維持される。このため、走行時の蹴り出し前に、着用者の足Ft及びソール構造10が路面に対して、ロッカー部Rに沿って前方に回るような動きとなるという効果を確実に奏することができる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに少なくできる。
【0079】
[第1実施形態に関するその他の実施形態]
第1接地面Sf2及び第2接地面Sf3は、平坦でなくてもよく、平均的な体形の着用者の直立時又は走行時に、平坦な路面と接することができればよい。例えば、第2接地面Sf3は、後方にいくにしたがって、少し上方に湾曲していてもよい。
【0080】
ソール構造10は、ミッドソール40の上側に配置されたインソールを備えていてもよい。その場合、インソールの上面が載置面Sf1を構成する。
【0081】
ソール構造10は、アウトソール60を備えていなくてもよい。その場合、ミッドソール40の下面が第1接地面及び第2接地面を構成する。
【0082】
前側プレート部材及び後側プレート部材50の少なくとも一方に、上下方向に貫通するプレート空洞部が設けられていてもよい。例えば、後側プレート部材50に、第3ミッドソールの空洞部hと連通するプレート空洞部を設けてもよい。プレート空洞部を設けることで、ソール構造10を軽くできる。その結果、着用者の足Ftの負担をさらに小さくできる。
【0083】
[第2実施形態]
図8~
図16は、本開示の第2実施形態に係るソール構造10を示す。第2実施形態に係るソール構造10は、例えばスローペースで走行しているランナー(着用者)が滑らかに接地しやすくするための構成を備えている。以下、第2実施形態に係るソール構造10について具体的に説明する。以下の説明において、
図1~
図7と同じ要素については同じ符号を付している。なお、
図10では、図示の便宜上、着用者の足の骨格構造を省略している。
【0084】
図8~
図14に示すように、第2実施形態に係るソール構造10は、載置部20および突出部30を備えている。載置部20は、載置面Sf1および第1接地面Sf2を有している。なお、突出部30については後述する。
【0085】
図12~
図14に示すように、ソール構造10には、ロッカー部Rが設けられている。ロッカー部Rの構成については、上記第1実施形態と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0086】
<ミッドソール>
図8および
図9に示すように、ソール構造10は、ミッドソール40を備えている。上記第1実施形態と同様に、ミッドソール40の上面は、載置面Sf1を構成している。ミッドソール40の載置面Sf1での厚さは、例えば、20~32mmである。特に、ロッカー部Rの機能を高くする観点から、ミッドソール40における着用者の足の前足部Fに対応する位置の厚さは20mm以上である。また、ミッドソール40には、周縁部40aが設けられている。周縁部40aには、図示しないアッパーが設けられている。
【0087】
図8~
図16に示すように、第2実施形態のミッドソール40は、上記第1実施形態のミッドソール40と異なり、第4ミッドソール部44および第5ミッドソール部45により構成されている。第4ミッドソール部44の上面は、載置面Sf1として構成されている。第5ミッドソール部45は、第4ミッドソール部44の下側に積層配置されている。第5ミッドソール部45には、その厚さ方向(上下方向)に貫通する空洞部43aが設けられている(
図9および
図16参照)。
【0088】
第4ミッドソール部44および第5ミッドソール部45の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、ブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーやその発泡体などが適している。第5ミッドソール部45は、第4ミッドソール部44の材料よりも高いクッション性を有する材料により構成されている。
【0089】
<アウトソール>
図8~
図16に示すように、ソール構造10は、アウトソール60を備えている。アウトソール60は、ソール構造10において着用者の足の前足部Fから後足部Hに亘る範囲に対応する位置に配置されている。アウトソール60は、ミッドソール40の下側に積層配置されている。具体的に、アウトソール60は、第5ミッドソール部45の下側に積層配置されている。アウトソール60の下面は、第1接地面Sf2よび第2接地面Sf3として構成されている。
【0090】
アウトソール60は、第4ミッドソール部44および第5ミッドソール部45よりも剛性の高い硬質弾性部材により構成されている。具体的に、アウトソール60の材料としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、又はブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバーが適している。アウトソール60の硬度は、デュロメーターCまたはAで、例えば50C~80Aに設定されるのが好ましい。アウトソール60のより好ましい硬度は、60A~70Aである。
【0091】
アウトソール60は、前後方向に互いに分割された複数の部材から構成されている。具体的に、第2実施形態のアウトソール60は、第1アウトソール部61、第2アウトソール部62、および、第3アウトソール部63により構成されている。
【0092】
第1アウトソール部61は、主に、ソール構造10における着用者の足の前足部Fに対応する領域に配置されている。第2アウトソール部62は、主に、ソール構造10における着用者の足の後足部Hかつ内甲側に対応する領域に配置されている。第3アウトソール部63は、主に、ソール構造10における着用者の足の後足部Hかつ外甲側に対応する領域に配置されている。
【0093】
アウトソール60は、着用者の足の後足部Hかつ外甲側に対応する領域が、該領域以外の他の領域よりも高い摩耗耐久性を有するように構成されている。すなわち、第3アウトソール部63は、第1アウトソール部61および第2アウトソール部62よりも高い摩耗耐久性を有している。具体的に、第3アウトソール部63の摩耗耐久性を高めるために、第3アウトソール部63は、その厚みが第1アウトソール部61および第2アウトソール部62の各々の厚みよりも大きくなるように構成されている。例えば、第1アウトソール部61および第2アウトソール部62の各々の厚みは2.0~4.0mmに設定される一方、第3アウトソール部63の厚みは4.0~7.0mmに設定される。
【0094】
<前側プレート部材>
図10~
図15に示すように、ソール構造10は、硬質な前側プレート部材49を備えている。前側プレート部材49は、ソール構造10において着用者の足の前足部Fに亘る範囲の屈曲剛性を高めるための部材である。前側プレート部材49は、ソール構造10において着用者の足の前足部Fに対応する位置に配置されている。前側プレート部材49は、第4ミッドソール部44と第5ミッドソール部45との間に積層配置されている。前側プレート部材49は、断面視でロッカー部Rの形状に沿うような湾曲状を有している(
図14参照)。
【0095】
前側プレート部材49は、ミッドソール40およびアウトソール60よりも剛性が高い薄肉層として構成されている。前側プレート部材49の硬度は、デュロメーターAで70A以上に設定されている。前側プレート部材49の材料としては、例えば、ポリアミドエラストマー(PAE)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が挙げられる。特に、前側プレート部材49の材料がエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)であれば、材料費を抑えつつ、後述する作用効果を得ることが可能となる。
【0096】
<後側プレート部材>
図10~
図14および
図16に示すように、ソール構造10は、硬質な後側プレート部材50を備えている。後側プレート部材50は、ソール構造10において着用者の足の中足部Mから後足部Hに亘る範囲の剛性を高めるための部材である。後側プレート部材50は、ソール構造10において着用者の足の中足部Mおよび後足部Hに対応する位置に配置されている。後側プレート部材50は、第4ミッドソール部44と第5ミッドソール部45との間に積層配置されている。後側プレート部材50は、断面視で略波形状を有している(
図14参照)。
【0097】
後側プレート部材50は、ミッドソール40およびアウトソール60よりも剛性が高い薄肉層として構成されている。後側プレート部材50は、好ましくは硬質弾性材により構成されている。硬質弾性材としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、又はエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が挙げられる。なお、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)を用いてもよい。
【0098】
この実施形態の後側プレート部材50では、内甲側に対応する部分が外甲側に対応する部分よりも剛性が高められている。具体的に、後側プレート部材50は、内甲側に位置する部分が多層構造を有するように構成されている(
図12参照)。この多層構造により、ソール構造10の、内甲側に対応する位置での剛性が高められている。その結果、接地時において、着用者の足が内甲側に倒れ込まないようになっている。すなわち、後側プレート部材50により、いわゆるオーバープロネーションが抑制される。これにより、接地時において、着用者の足が怪我することを未然に防ぐことが可能となる。
【0099】
<突出部>
図12~
図14に示すように、突出部30は、第2接地面Sf3を有している。突出部30の足長方向の長さは、上記第1実施形態と同様に、30mm以上である。第2接地面Sf3の路面射影面積は、第1接地面Sf2の路面射影面積の10%以上である。
【0100】
図10および
図12~
図14に示すように、突出部30は、上側層31および下側層32を有している。第2実施形態の突出部30では、第4ミッドソール部44の後部が上側層31に相当する一方、第5ミッドソール部45の後部が下側層32に相当する。
【0101】
下側層32は、上記第1実施形態と同様に、上側層31よりも下側に配置されている。下側層32は、上側層31のクッション性よりも高いクッション性を有している。下側層32の周縁部は、平面視において、上側層31の周縁部よりも後側に位置している。すなわち、下側層32は、上側層31よりも平面視で広い領域に亘って設けられている。また、下側層32の体積は、上側層31の体積よりも大きい。例えば、下側層32の体積は、上側層31の体積の120%以上である。
【0102】
図9、
図11、および
図16に示すように、第2実施形態の突出部30は、上記第1実施形態と異なり、底面視において足幅方向に分断されている。具体的に、第2実施形態の突出部30は、各々が足幅方向に分断された第1突出部33および第2突出部34により構成されている。
【0103】
第1突出部33および第2突出部34は、底面視において足幅方向に互いに間隔をあけて配置されている。第1突出部33は、ソール構造10において内甲側に対応する位置に配置されている。第1突出部33は、載置部20の、内甲側に位置する部分と連続している。第2突出部34は、ソール構造10において外甲側に対応する位置に配置されている。第2突出部34は、載置部20の、外甲側に位置する部分と連続している。
【0104】
[第2実施形態の特徴的構成]
図12および
図13に示すように、第1接地面Sf2は、側面視において、載置部20の後端部20aよりも前側の位置Aから、載置部20の後端部20aに対応する位置に向かって路面Rsから離れるように傾斜している。第2接地面Sf3は、側面視において、第1接地面Sf2と連続し、かつ、載置部20の後端部20aに対応する位置から突出部30の後端部に向かって路面Rsから離れるように傾斜および湾曲している。なお、この実施形態において、後端部20aの位置は、ソール構造10における着用者の足の後足部Hの後端部に対応する位置に相当する(
図10参照)。
【0105】
ここで、側面視において、載置部20の後端部20aの位置から路面Rsに対して垂直(鉛直方向)に引いた線を「垂線L1」とする。この垂線L1は、側面視において第1接地面Sf2と第2接地面Sf3との境目に位置する。また、垂線L1と、第2接地面Sf3との交点を通る第2接地面Sf3の接線を「接線L2」とする。この場合において、路面Rsと接線L2とのなす角度θは、10°~20°の範囲で設定されるのが好ましい。より好ましくは、角度θが15°である。かかる設定によれば、後述の作用効果が得られる。なお、この実施形態において、第2接地面Sf3は、側面視で緩やかな湾曲状となるように形成されている。
【0106】
[第2実施形態の作用効果]
以上のように、第2実施形態に係るソール構造10では、第2接地面Sf3の路面射影面積が第1接地面Sf2の路面射影面積の10%以上となるように構成されている。かかる構成によれば、上記第1実施形態と同様に、路面から受ける反力の第2ピーク(
図7参照)を大きく下げることができる。また、第2実施形態に係るソール構造10では、上側層31および下側層32を有する突出部30により、上記第1実施形態と同様に、ソール構造10の軽量化を図りつつ、クッション性を確保することができる。さらに、下側層32よりも高い剛性を有する上側層31により、走行時における着用者の足裏の安定性を保ちつつ、着用者の足の負担を軽減することができる。
【0107】
また、第2実施形態に係るソール構造10の特徴的構成として、第1接地面Sf2は、側面視において、載置部20の後端部20aよりも前側の位置Aから、載置部20の後端部20aに対応する位置に向かって路面から離れるように傾斜および湾曲している。第2接地面Sf3は、側面視において、第1接地面Sf2と連続し、かつ、載置部20の後端部20aに対応する位置から突出部30の後端部に向かって路面から離れるように傾斜および湾曲している。すなわち、ソール構造10の、X範囲の路面Rsに接地する長さが比較的長くなる。これにより、走行時において、特に第2接地面Sf3が路面Rsに接地している時間を比較的長く保つことが可能となる。その結果、路面Rsから受ける反力の第2ピーク(
図7参照)を下げることが可能となる。したがって、第2実施形態に係るソール構造10では、走行時における着用者の身体(特に足)の負担を軽減することができる。特に、スローペースで走行している着用者に対して、滑らかな接地を促すように着用者の足をサポートすることができる。
【0108】
なお、上述の作用効果を得るためには、路面Rsと接線L2とのなす角度θを10°~20°の範囲で設定するのが好ましい。より好ましくは、角度θが15°である。
【0109】
また、突出部30は、内甲側に位置する第1突出部33と、外甲側に位置する第2突出部34と、を含み、第1突出部33と第2突出部34とは、足幅方向において互いに間隔をあけて配置されている。かかる構成によれば、第1突出部33と第2突出部34とが足幅方向に分断されていることから、接地時において着用者の足が外甲側または内甲側に偏った場合であっても、第1突出部33および第2突出部34の各々のクッション性により、着用者が接地時のバランスを保ちやすくなる。特に、スローペースで走行している着用者では、接地時のバランスを保ちながら滑らかな走行感を得ることができる。
【0110】
ここで、第1突出部33と第2突出部34とは、それぞれ独立していてもよく、溝によって分断されていてもよい。例えば、本実施形態の突出部30は第1突出部33と第2突出部34とが溝によって分断(独立)され、その溝が突出部から踵底面、中足部を通り前足部まで延びている(
図11参照)。これにより、走行時の荷重が突出部30から踵底面、中足部、前足部と移行する際にミッドソールの圧縮変形を抑制することなく、より滑らかな走行感を得ることができる。なお、
図11では溝が突出部30から前足部まで連続して延びる例を示しているが、これに限定されない。例えば、溝は中足部まで延びていてもよく、踵底面まで延びていてもよい。
【0111】
また、第1接地面Sf2および第2接地面Sf3は、アウトソール60の下面により構成されており、アウトソール60は、着用者の足の後足部Hかつ外甲側に対応する領域(第3アウトソール部63)が、該領域以外の他の領域よりも高い摩耗耐久性を有するように構成されている。かかる構成によれば、接地時における足の後足部Hかつ外甲側に対応する領域を適切に保護することができる。特にスローペースで走る着用者では、接地時において足の後足部Hかつ外甲側に対応する領域を路面に擦る傾向が比較的高くなるが、上記構成によれば、スローペースで走る着用者におけるシューズの損耗を軽減することができ、特に突出部30の外甲側領域の摩耗耐久性を向上させることができる。
【0112】
また、載置部20は、ミッドソール40と、ミッドソール40よりも硬質な前側プレート部材49と、を含み、前側プレート部材49は、載置部20の、着用者の足の前足部Fに対応する位置に配置されている。前側プレート部材49の好ましい硬度は、デュロメーターAで70A以上である。かかる構成によれば、ソール構造10における着用者の足の前足部Fに対応する位置の屈曲剛性を高めることが可能となる。その結果、走行時において、接地後に前方への重心移動に移行しやすくなり、前方への転がりを促すことができる。
【0113】
また、載置部20は、ミッドソール40と、ミッドソール40よりも硬質な後側プレート部材50と、を含み、後側プレート部材50は、載置部20の、着用者の足の中足部Mに対応する位置から後足部Hに対応する位置に亘る範囲に配置されている。かかる構成によれば、ソール構造10における着用者の足の中足部Mおよび後足部Hに対応する位置の屈曲剛性を高めることができる。
【0114】
[第2実施形態に関連するその他の実施形態]
ソール構造10は、第4ミッドソール部44(ミッドソール40)の上側に配置されたインソール(図示せず)を備えていてもよい。この場合、インソールの上面が載置面Sf1を構成する。
【0115】
上記第2実施形態では、第1接地面Sf2が、側面視において、位置Aから後端部20aに対応する位置に向かって路面から離れるように傾斜および湾曲した形態を示したが、この形態に限られない。例えば、第1接地面Sf2が、側面視において、位置Aから後端部20aに対応する位置に向かって路面から離れるように真っ直ぐに傾斜した形態であってもよい。
【0116】
上記第2実施形態では、第2接地面Sf3が、側面視において、後端部20aに対応する位置から突出部30の後端部に向かって路面から離れるように傾斜および湾曲した形態を示したが、この形態に限られない。例えば、第2接地面Sf3が、側面視において、後端部20aに対応する位置から突出部30の後端部に向かって路面から離れるように真っ直ぐに傾斜した形態であってもよい。
【0117】
上記第2実施形態では、突出部30が第1突出部33および第2突出部34を含む形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、上記第2実施形態に係るソール構造10では、突出部30が内甲側に対応する部分と外甲側に対応する部分とに分断されていない構成を含む。
【0118】
また、上記第2実施形態では、アウトソール60を備えた形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、上記第2実施形態では、アウトソール60を備えない構成を含む。この場合において、第5ミッドソール部45の下面が、第1接地面Sf2および第2接地面Sf3に相当する。
【0119】
また、上記第2実施形態では、前側プレート部材49および後側プレート部材50を備えた形態を示したが、この形態に限られない。例えば、上記第2実施形態に係るソール構造10としては、前側プレート部材49および後側プレート部材50の少なくともいずれか一方を備える構成を含む。あるいは、上記第2実施形態に係るソール構造10としては、前側プレート部材49および後側プレート部材50の双方を備えていない構成も含む。
【0120】
また、上記第2実施形態では、後側プレート部材50の内甲側に位置する部分が多層構造を有する形態を示したが、この形態に限られない。すなわち、後側プレート部材50は、上記多層構造を有していなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本開示は、ランニングシューズのソール構造として産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0122】
10:ソール構造
Ft:足
20:載置部
20a:載置部の後端部
R:ロッカー部
30:突出部
31:上側層
32:下側層
33:第1突出部
34:第2突出部
Sf1:載置面
Sf2:第1接地面
Sf3:第2接地面
43a:空洞部
44:第4ミッドソール部
45:第5ミッドソール部
49:前側プレート部材
50:プレート部材(後側プレート部材)
50a:山部
50b:谷部
50c:プレート部材の周縁部
61:第1アウトソール部
62:第2アウトソール部
63:第3アウトソール部