(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155600
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル及び誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/40 20060101AFI20221006BHJP
H05B 6/10 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
H05B6/40
H05B6/10 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058910
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 力
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB23
3K059AD04
3K059CD48
3K059CD75
(57)【要約】
【課題】内周面に歯部等を有する略円筒状の被加熱物であっても、誘導加熱を利用して内周面に焼入れ等の所定の熱処理を簡単に行うことが可能な誘導加熱コイル及び誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】内部に冷却水流路が設けられると共に長手方向他端部に冷却水噴射部が設けられた絶縁体からなる円柱状部材と、該円柱状部材の長手方向所定位置の外周面に配置されたコイル部材と、該コイル部材と前記冷却水噴射部の外側を覆うことが可能なリング状のガイド部材を備え、前記円柱状部材を被加熱物の内周面の内側に配置し被加熱物の外周面の外側に前記ガイド部材を上下動可能に配置した状態で誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成したことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷却水流路が設けられると共に長手方向他端部に冷却水噴射部が設けられた絶縁体からなる円柱状部材と、該円柱状部材の長手方向所定位置の外周面に配置されたコイル部材と、該コイル部材と前記冷却水噴射部の外側を覆うことが可能なガイド部材を備え、
前記円柱状部材を被加熱物の内周面の内側に配置しその外周面の外側に前記ガイド部材を上下動可能に配置した状態で、前記被加熱物の誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成したことを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記円柱状部材は、その長手方向一端側に前記冷却水流路の供給口が設けられ、当該円柱状部材の長手方向他端側に前記冷却水噴射部が設けられてその外周面から外側方向に冷却水が噴射可能であることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記ガイド部材は、上昇位置で前記被加熱物の内周面が前記コイル部材の外周面に対向し下降位置で前記被加熱物の内周面が前記円柱状部材の冷却水噴射部の外周面に対向することを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記被加熱物の内周面の誘導加熱時に当該被加熱物の外周面への熱影響を抑制可能な材質及び又は形態であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記コイル部材は、所定の導体の巻回により略円筒状に形成されたコイルと、該コイルの上下面と内周面を覆う如く配置された断面略コ字状のコアを備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【請求項6】
内部に冷却水流路が設けられると共に長手方向他端部に冷却水噴射部が設けられた絶縁体からなる円柱状部材、該円柱状部材の長手方向所定位置の外周面に配置されたコイル部材、該コイル部材と前記冷却水噴射部の外側を覆うことが可能なガイド部材を有して、前記円柱状部材が被加熱物の内周面の内側に配置可能で当該被加熱物の外周面の外側に前記ガイド部材を上下動可能に配置可能な誘導加熱コイルと、前記コイル部材の両端部に所定の高周波電流を供給可能な高周波発振機と、前記円柱状部材の冷却水流路に冷却水を供給可能な冷却水供給装置と、前記ガイド部材を上下動させるためのガイド上下装置を備えることを特徴とする誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内周面に歯部を有する被加熱物の内周面に、誘導加熱を利用して焼入れ等の熱処理を行う際に使用される誘導加熱コイル及び誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱コイルは、例えば特許文献1に開示されている。この誘導加熱コイル(内径面誘導加熱コイル)は、絶縁体で形成され板状部の中央部位に内径突出部が形成されたベース部材、及び大径の膨出部と細径の外径突出部を備えたカバー部材からなる中空のケースと、このケースの内部に配設された薄板状の導体を所定回数巻回した加熱部材とを備え、加熱部材に高周波電流を供給すると共に加熱部材を配設したケース内に冷却水を供給して、被加熱物(ワーク)の内径面を誘導加熱するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような誘導加熱コイルにあっては、銅板等の薄板状の導体をコイル状に巻回した加熱部材のケース内に冷却水を供給して加熱部材の通電時の発熱を抑えるようにしているため、被加熱物の内周面を誘導加熱するだけで、誘導加熱コイルで加熱した被加熱物の内周面(内径面)等を冷却することはできず、例えば内周面に歯部を有する被加熱物の内周面に形成された歯部に焼入れ等の熱処理を行うことは困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、例えば内周面に歯部等を有する被加熱物であっても、誘導加熱を利用して内周面に焼入れ等の所定の熱処理を行うことが可能な誘導加熱コイル及び誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内部に冷却水流路が設けられると共に長手方向他端部に冷却水噴射部が設けられた絶縁体からなる円柱状部材と、該円柱状部材の長手方向所定位置の外周面に配置されたコイル部材と、該コイル部材と前記冷却水噴射部の外側を覆うことが可能なガイド部材を備え、前記円柱状部材を被加熱物の内周面の内側に配置しその外周面の外側に前記ガイド部材を上下動可能に配置した状態で、前記被加熱物の誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成したことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記円柱状部材が、その長手方向一端側に前記冷却水流路の供給口が設けられ、当該円柱状部材の長手方向他端側に前記冷却水噴射部が設けられてその外周面から外側方向に冷却水が噴射可能であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、前記ガイド部材が、上昇位置で前記被加熱物の外周面が前記コイル部材の内周面に対向し下降位置で前記被加熱物の内周面が前記円柱状部材の冷却水噴射部の外周面に対向することを特徴とする。また、請求項4に記載の発明は、前記ガイド部材が、前記被加熱物の内周面の誘導加熱時に当該被加熱物の外周面への熱影響を抑制可能な材質及び又は形態であることを特徴とする。さらに、請求項5に記載の発明は、前記コイル部材が、所定の導体の巻回により略円筒状に形成されたコイルと、該コイルの上下面と内周面を覆う如く配置された断面略コ字状のコアを備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項6に記載の発明は、内部に冷却水流路が設けられると共に長手方向他端部に冷却水噴射部が設けられた絶縁体からなる円柱状部材、該円柱状部材の長手方向所定位置の外周面に配置されたコイル部材、該コイル部材と前記冷却水噴射部の外側を覆うことが可能なガイド部材を有して、前記円柱状部材が被加熱物の内周面の内側に配置可能で当該被加熱物の外周面の外側に前記ガイド部材を上下動可能に配置可能な誘導加熱用コイルと、前記コイル部材の両端部に所定の高周波電流を供給可能な高周波発振機と、前記円柱状部材の冷却水流路に冷却水を供給可能な冷却水供給装置と、前記ガイド部材を上下動させるためのガイド上下装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、冷却水噴射部が設けられた円柱状部材、円柱状部材の外周面に配置されたコイル部材、及びコイル部材の外面を覆うことが可能なガイド部材を備え、円柱状部材を被加熱物の内周面の内側に配置しその外周面の外側にガイド部材を上下動可能に配置した状態で誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成しているため、例えば内周面に歯部等を有する略リング状の被加熱物であっても、コイル部材に高周波電流を供給した後に略連続して冷却水噴射部から冷却水を噴射することで、被加熱物の内周面を誘導加熱を利用して焼入れ等の所定の熱処理を簡単に行うことが可能になり、被加熱部材の内周面に所定品質の熱処理状態を安定かつ高精度に形成することができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、円柱状部材の長手方向一端側に冷却水流路の供給口が設けられ、円柱状部材の長手方向他端側に冷却水噴射部が設けられてその外周面から外側方向に冷却水が噴射可能であるめ、所定量の冷却水を冷却水噴射部に供給しつつ噴射孔から被加熱物の内周面に均一かつスムーズに噴射できて、内周面に良好な熱処理状態を得ることができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、ガイド部材が、上昇位置で被加熱物の内周面がコイル部材の外周面に対向し下降位置で被加熱物の内周面が円柱状部材と冷却水噴射部の外周面に対向するため、ガイド部材内に被加熱物をセットし、円柱状部材の外周面に沿って上下動させるだけで、加熱位置と冷却位置とに簡単かつ確実に設定できて、焼入れ処理等の作業能率を高めることができる。
【0013】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、ガイド部材が、被加熱物の内周面の誘導加熱時にその外周面の熱影響を抑制可能な材質及び又は形態であるため、ガイド部材を例えば真鍮製カイド板等で有底円筒形に形成することにより、内周面を誘導加熱して所定の焼入れパターンを形成する場合に、焼入れパターンの外周面側への流れこみ等を防止できて、被加熱物の内周面に一層高精度な熱処理状態を得ることができる。
【0014】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし4に記載の発明の効果に加え、コイル部材が、所定の導体を所定回数巻回することで略円筒状に形成されたコイルと、コイルの上下面と内周面を覆う如く配置されたコアとを備えるため、コイル部材による加熱効率を高めることができて、加熱コイルの省電力化を図ったり、小径の内周面から大径の内周面にも適用できて、各種形態の被加熱物への対応を容易に行うことができる。
【0015】
また、請求項6に記載の誘導加熱装置は、誘導加熱コイルが円柱状部材、高周波発振機に接続されたコイル部材及びガイド上下装置で上下動可能なガイド部材を備え、円柱状部材を被加熱物の内周面の内側に配置し当該被加熱物の外周面の外側にガイド部材を上下動可能に配置した状態で誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成しているため、請求項1に記載の発明の効果と同様に、例えば内周面に歯部等を有する略円筒形状の被加熱物であっても、コイル部材に高周波電流を供給した後に円柱状部材の冷却水噴射部から冷却水を噴射することで、被加熱物の内周面を誘導加熱を利用して焼入れ等の所定の熱処理を行うことが可能になり、被加熱部材の内周面に所定品質の熱処理状態を安定かつ高精度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係わる誘導加熱用コイルの一実施形態を示す平面図
【
図5】本発明に係わる誘導加熱コイルを使用可能な誘導加熱装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1~
図6は、本発明に係わる誘導加熱コイルの一実施形態を示している。
図1及び
図2に示すように、誘導加熱コイル1(加熱コイル1という)は、略円柱状のコイル体2と、このコイル体2の上端部を支持するコイルクランプ部3を備えている。
【0018】
前記コイル体2は、
図1~
図4に示すように、例えば樹脂製で所定長さの円柱状部材4と、この円柱状部材4の長手(中心軸)方向の略中間部の外周面に配置されたコイル部材5と、このコイル部材5の外周面と前記円柱状部材4の下部を覆うことが可能なガイド部材6を有している。
【0019】
前記円柱状部材4は、
図3に示すように、その内部の軸方向(
図3の上下方向)に一端が円柱状部材4の上面に開口した冷却水流路4aが2本形成されており、この冷却水流路4aの下端は、円柱状部材4の下端部に設けられた空間状の冷却水噴射部4bの上部にそれぞれ連通している。この冷却水噴射部4bの外周面には、所定形態で小径の噴射孔4b1が多数形成されると共に、冷却水噴射部4bの下面開口は底板4cで閉塞されている。
【0020】
前記コイル部材5は、
図3及び
図4に示すように、例えば丸もしくは角の銅パイプを所定回数(1回もしくは複数回)巻回等して外形が略円筒状に形成されたコイル5aと、このコイル5aの内周面と上下面を覆うように配置されたコア5bを有している。コア5bは、上下面の径方向の幅が内側が狭く外側が広い幅狭な断面略コ字状のコアを円周方向に多数個連設することで、コイル5aの内周面と上下面の略全域に配置され、また、コイル5aの外周面は、例えば絶縁テープ等で被覆されている。なお、コイル5aの銅パイプの両端部は、例えば後述するコイルクランプ部3の冷却用の角銅銅イプ13に電気的及び機械的に接続されている。
【0021】
前記ガイド部材6は、
図1~
図3に示すように、側壁6aと底壁6bを有し、側壁6aは例えば4枚の半円弧形状の真鍮製ガイド板を円周方向に連設することで平面視で有底リング形状に形成されている。側壁6aの下面側の開口には底壁6bが固定され、この底壁6の下面(外面)の中心位置には、ガイド部材6を
図3の矢印イの如く上下動させるための突起6b1が設けられると共に、底壁6b外周部と側壁6aの下部には冷却水噴射部4bに供給される冷却水を下方の排水タンク等に排水するための所定形態の小径の排水孔6b2が複数個形成されている。
【0022】
なお、このガイド部材6の側壁6aの内周面と前記コイル部材5のコイル5aの外周面との間には、リング形状の被加熱物(ワークWという)がセット可能な所定寸法の隙間が形成されると共に、側壁6aの内周面の所定高さ位置(中間位置)には、ワークWをガイド部材6内の上部に支持するための凸部6a1(
図3参照)が、円周方向の全域もしくは円周方向の複数箇所に一体成形されている。
【0023】
前記コイルクランプ部3は、
図1~
図4に示すように、平面視でL字形状に屈曲された一対の銅板7を有し、これが複数のボルト8とナット9により絶縁板10を介して圧接固定されている。そして、各銅板7の基端側となる一対の屈曲部が端子部7aとして機能し、後述する誘導加熱装置20のトランジスタインバータや変流器等を有する高周波発振機21の出力端子に接続可能となっている。また、各銅板7の先端側には、絶縁性の支持板11が連結固定され、この支持板11の先端部下面に前記円柱状部材4の上端部がボルト12等により支持固定されている。
【0024】
なお、各銅板7の外面には、各銅板7を冷却するための角銅パイプ13がそれぞれ固定され、この各角銅パイプ13の基端部には、ホースジョイント14がそれぞれ固定されると共に、各角銅パイプ7の先端が、前記コイル部材5のコイル5aの両端に電気的及び機械的に接続固定されている。これにより、一方のホースジョイント14から供給される冷却水が、コイル5aの銅パイプ内を流れて他方のホースジョイント14から後述する冷却水供給装置22に戻されるようになっている。
【0025】
また、前記コイル部材5を支持する支持板11の先端には、円柱状部材4の冷却水流路4aの開口に固定したホースジョイント15の上部が突出しており、この突出部分に図示しないワーク冷却用の冷却水を冷却水噴射部4bに供給するためのホースが接続可能となっている。つまり、前記加熱コイル1の場合、コイル部材5を支持する円柱状部材4にワーク冷却用の冷却水流路4aが形成されると共に、コイル部材5を支持するコイルクランプ部材3からコイル5aに掛けてコイル5a自体を冷却するための角銅パイプ13からなる冷却水流路が形成されていることになる。
【0026】
次に、このように構成された加熱コイル1によるワークWの焼入れ方法の一例を、
図5等に基づいて説明する。先ず、前記加熱コイル1が設置される誘導加熱装置20は、所定の高周波電流を出力可能な高周波発振機(高周波発信機)21と、冷却水を循環供給可能な冷却水供給装置22及びガイド部材6を上下動可能なガイド上下装置23と、これらを制御可能な制御装置等を備えている。そして、加熱コイル1は、その端子部7aを高周波発振機21の出力端子に電気的に接続し、そのホースジョイント14とホースジョイント15を冷却水供給装置22にホースでそれぞれ接続する。
【0027】
この状態で、内周面に歯部Waを有するワークWの歯部Waを焼入れする場合、前記ガイド上下装置23を作動させて前記ガイド部材6を下降位置に設定し、その上面開口部の上方を開放した状態でガイド部材6の側壁6a内側にワークWをセットする。このとき、ワークWは、その内周面の歯部Waの内周面全域がコイル部材5の外周面全域と対向するようにしてセットされる。
【0028】
ワークWをガイド部材6内部にセットしたら、ガイド上下装置23を作動させて上昇させ
図5に示す位置、すなわちワークWの内周面(歯部Wa)の内側に加熱コイル1のコイル5を位置させる。この状態で、高周波発振機21を作動させて加熱コイル1に所定の高周波電流を所定時間供給することにより、ワークWの内周面が所定温度まで誘導加熱される。
【0029】
誘導加熱が終了したら、ガイド上下装置23を作動させて下降させワークWの内周面(歯部Wa)が円柱状部材4の冷却水噴射部4bの外周面と対向する位置に設定し、冷却水供給装置22を作動させて冷却水噴射部4bの噴射孔6b2から冷却水をワークWの歯部Waの全域に向けてに向けて放射状に噴射する。この冷却水の噴射により、所定温度まで加熱されているワークWの歯部Wa全域が同時に急速冷却されて歯部Waが所定パターンで焼入れ処理される。
【0030】
この歯部Waの焼入れ時に、ワークWの外周面がガイド部材6の真鍮製ガイド板に接触状態か略接触状態とされていることから、内周面の歯部Waに形成される焼入れパターンが、ワークWの外周面側にまで流れることを抑制できて、歯部Waに所定形状の焼入れパターンを高精度に形成することが可能になる。特に、ガイド部材6の側壁6aを真鍮製ガイド板で4分割していることから、誘導加熱時の熱によるガイド部材6自体の熱膨張等を各ガイド板の接合部やその材質等で吸収できて、歯部Waのみに一層高精度な焼入れパターンの形成が可能となる。
【0031】
つまり、前記誘導加熱装置20においては、ワークWがセットされたガイド部材6を上昇位置に設定した状態でコイル部材5によりワークWの歯部Waの誘導加熱が行われ、この誘導加熱されたワークWをガイド部材6と一体で下降位置に設定して冷却水供給部4bから冷却水を噴射、すなわち誘導加熱と冷却を略連続して行うことで、加熱された歯部Waが急速冷却される。これにより、ワークWの焼入れに必要な誘導加熱工程と急速冷却工程が制御装置の制御で自動化されることになる。
【0032】
このように、前記加熱コイル1によれば、冷却水流路4aと冷却水噴射部4bが設けられた円柱状部材4、円柱状部材4の外周面に配置されたコイル部材5、及びコイル部材5の外面側を覆うことが可能なリング状のガイド部材6を備え、円柱状部材4をワークWの歯部Waの内側に位置させると共に、ワークWの外周面の外側にガイド部材6を上下動可能に配置した状態で誘導加熱と冷却を略連続して可能に構成しているため、内周面に歯部Waを有するワークWであっても、コイル部材5に高周波電流を供給した後に冷却水噴射部4bから冷却水を噴射することで、ワークWの内周面を誘導加熱を利用して焼入れ等の所定の熱処理を簡単に行うことが可能になり、ワークWの内周面に所定品質の熱処理状態を安定かつ高精度に形成することができる。
【0033】
また、円柱状部材4の長手方向の一端側に冷却水流路4aの供給口(ホースジョイント15)が設けられ、円柱状部材4の他端側に冷却水噴射部4bが設けられてその外周面から外側方向に冷却水が噴射可能であるめ、所定量の冷却水を冷却水噴射部4aに供給しつつ噴射孔4b1からワークWの内周面に放射状に均一かつスムーズに噴射できて、内周面の歯部Waに高精度な熱処理を施すことができる。
【0034】
また、ガイド部材6が、上昇位置でワークWの内周面がコイル部材5の外周面に対向し下降位置でワークWの内周面が円柱状部材4の冷却水噴射部4bの外周面に対向するため、ガイド部材6内にワークWをセットし、これを円柱状部材4の外周面に沿って上下動させるだけで、加熱位置と冷却位置に簡単かつ確実にセットできて、焼入れ作業の段取り時間が短縮できる等、その作業能率を高めることができる。
【0035】
さらに、ガイド部材6の側壁6aが4分割された半円弧形状の真鍮製ガイド板の連設で形成されているため、ワークWの内周面の誘導加熱時にその外周面への熱影響を抑制できて、焼入れパターンの外周面への流れこみ等を防止できる等、ワークWの内周面に一層高精度な熱処理品質を得ることができる。
【0036】
また、コイル部材5が、銅パイプからなるコイル5aと、コイル5aの上下面と内周面を覆う如く配置された幅狭な断面略コ字状の多数のコア5bを備えると共に、コイル5a内に冷却水が循環供給されるため、コイル5aからの磁束をワークに効率良く供給したりコイル部材5への通電による発熱が抑えられる等、加熱効率を高めることができて、コイル装置1の省電力化を図ることも可能になる。また、ガイド部材6の形状を熱処理するワークWの形状に合わせて複数種類準備することにより、ガイド部材6の交換で各種形態のワークWに適用できて、加熱コイル1の汎用性を高めることもできる。
【0037】
なお、上記実施形態における、円柱状部材4やコイル部材5あるいはガイド部材6の形状や材質等の形態は一例であって、同等の作用効果が得られかつ本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、内面に歯部を有する被加熱物に限らず、内外周面を有する全ての各種形状の被加熱物の内周面の焼入れや焼鈍し等の熱処理に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・誘導加熱コイル、2・・・コイル体、3・・・コイルクランプ部、4・・・円柱状部材、4a・・・冷却水流路、4b・・・冷却水噴射部、4b1・・・噴射孔、5・・・コイル部材、5a・・・コイル、5b・・・コア、6・・・ガイド部材、6a・・・側壁、6a1・・・凸部、6b・・・底壁、6b1・・・突起、6b2・・・排水孔、7・・・銅板、7a・・・端子部、10・・・絶縁板、11・・・支持板、13・・・角銅パイプ、20・・・誘導加熱装置、21・・・高周波発振機、22・・・冷却水供給装置、23・・・ガイド上下装置、W・・・ワーク(被加熱物)Wa・・・歯部。