(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155605
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】遠心脱水機及び有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法
(51)【国際特許分類】
B04B 1/20 20060101AFI20221006BHJP
B04B 11/02 20060101ALI20221006BHJP
C02F 11/127 20190101ALI20221006BHJP
C02F 11/14 20190101ALI20221006BHJP
【FI】
B04B1/20 ZAB
B04B11/02
C02F11/127
C02F11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058915
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(71)【出願人】
【識別番号】505279215
【氏名又は名称】株式会社広島メタル&マシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名越 収二郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】松井 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 章裕
(72)【発明者】
【氏名】北風 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 宏治
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】上刎 正士
【テーマコード(参考)】
4D057
4D059
【Fターム(参考)】
4D057AA11
4D057AB01
4D057AC01
4D057AC06
4D057AE03
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4D057BC16
4D059AA01
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4D059BE38
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4D059CB07
4D059DA05
4D059DA16
4D059DA17
4D059DA23
4D059DA24
4D059DB24
4D059DB25
4D059EB03
(57)【要約】
【課題】有機物を含むスラリーの遠心脱水処理において高分子凝集剤と無機凝集剤を合わせて添加し、脱水機内に的確に、かつ適切な位置に無機凝集剤を添加し、常時、良好なケーキ含水率を得る。
【解決手段】遠心脱水機において凝集剤を含む水がコンベア円筒部2に設置された凝集剤液供給口10からスラリー保持空間に供給される構造の脱水機を用いる。該脱水機内のスラリー水位を該コンベア円筒部2の外面から20mm以内に位置させることで無機凝集剤を添加する部分のケーキの流動性を良好にして無機凝集剤の反応効率を高める。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、
前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、
前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、
前記脱水室内のスラリー水位が、前記ボウルの直径方向において前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が20mm以内の範囲に位置し、
または、前記コンベア円筒部の外面が前記脱水室内の前記スラリーに浸かる状態とすることを特徴とする遠心脱水機。
【請求項2】
一方向に回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、
前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、
前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、
前記ボウルは回転軸心方向の一側に分離水排出口を有し、
前記分離水排出口の越流頂は、前記ボウルの直径方向において前記ボウルの内面に最も近い部分が、前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が23mm以内の範囲に位置することを特徴とする遠心脱水機。
【請求項3】
前記ボウルは、脱水室内の脱水に有効な範囲の全長に渡って前記スラリーに浸漬していることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心脱水機
【請求項4】
前記凝集剤液供給口は、前記コンベア円筒部の外面から突出するノズルを有し、前記ノズルはノズル先端が前記スラリーに浸漬していることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の遠心脱水機。
【請求項5】
一方向に回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、
前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、
前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、
前記凝集剤液供給口は、前記コンベア円筒部の外面から突出するノズルを有し、前記ノズルはノズル先端が前記スラリーに浸漬していることを特徴とする遠心脱水機。
【請求項6】
前記ノズルの長さは、5mm以上、かつ前記ボウルの内面と前記コンベア円筒部の外面との距雜の0.25倍以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の遠心脱水機。
【請求項7】
前記ボウルは、分離水排出口とケーキ排出口を回転軸心方向の相反する側に有し、
前記凝集剤液供給口は、前記スラリー供給口の位置から前記ケーキ排出口の方向に、前記スラリー供給口の位置と前記ケーキ排出口の位置との距離の0.22~0.44倍の距離を隔てた位置に設置することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の遠心脱水機。
【請求項8】
一方向に回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備える遠心脱水機を用いる際に、
スラリーを前記遠心脱水機に供給する前に、又は前記スラリーを前記遠心脱水機の脱水室に供給する際に、前記スラリーに高分子凝集剤を添加し、前記高分子凝集剤を含む前記スラリーを、前記コンベアのコンベア円筒部に設置したスラリー供給口から前記脱水室に供給し、
さらに凝集剤を、前記コンベア円筒部に設置した凝集剤液供給口から前記脱水室に供給する際に、
前記脱水室内のスラリー水位を、前記ボウルの直径方向において前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が20mm以内の範囲に位置させ、
または、前記コンベア円筒部の外面が前記脱水室内の前記スラリーに浸かる状態として脱水処理することを特徴とする有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法。
【請求項9】
一方向に回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備える遠心脱水機を用いる際に、
スラリーを前記遠心脱水機に供給する前に、又は前記スラリーを前記遠心脱水機の脱水室に供給する際に、前記スラリーに高分子凝集剤を添加し、前記高分子凝集剤を含む前記スラリーを、前記コンベアのコンベア円筒部に設置したスラリー供給口から前記脱水室に供給し、
さらに凝集剤を、前記コンベア円筒部に設置した凝集剤液供給口から前記脱水室に供給する際に、
前記凝集剤液供給口に設けた先端が前記脱水室内のスラリーに浸漬したノズルから供給して脱水処理することを特徴とする有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法。
【請求項10】
前記脱水室内の前記スラリーに供給する前記凝集剤が無機凝集剤であることを特徴とする請求項8又は9に記載の有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法。
【請求項11】
前記遠心脱水機が請求項1から7の何れか1項に記載の遠心脱水機であることを特徴とする請求項10に記載の有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥、し尿汚泥、工場排水の汚泥、食品や飲料などの製造工程から発生する有機物を含むスラリーを遠心脱水処理する技術に係り、スラリー中に凝集剤を添加することにより脱水ケーキの含水率を低下させる処理において、凝集剤添加率を低減できる遠心脱水機の構造及びスラリーの遠心脱水処理における凝集剤の添加方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心脱水機は、高速回転する円筒形の外筒(ボウル)とその内部に配置するスクリューコンベアを有する装置である。
ボウルに掛かる遠心力は、約2000~4000G(Gは重力加速度)である。スクリューコンベアは、ボウルに対して毎分0.5~10回転の差速をもって回転している。
その脱水原理は、液体(水、水溶液、有機溶剤等)と粉状の固体との比重差により分離するものである。粒子の沈降速度は、ボウル内のスラリーに掛かる遠心力以外に、液体と固体粒子の比重差及び粒子サイズによって決まる。
遠心力により沈降した濃縮物(ケーキ)をスクリューコンベアによりボウル末端に備えたケーキ排出口に送る。また、固体が分籬された液体(分籬液)は、ケーキ排出口とは反対側に備えた排水口から排水する。
【0003】
遠心脱水機は、種々の産業の生産工程での固液分離に用いられており、あるいは工場排水処理や下水処理場の汚泥処理にも用いられている。
また。装置内の沈殿を促進するために、脱水処理前に凝集剤を添加する場合がある。無機物の固体粒子を含むスラリーを処理する場合は、液体と固体の比重差が大きく遠心力による沈殿が速やかに起きることから凝集剤添加をしない場合(無薬注)や添加しても少量であることが多い。
【0004】
一方、有機系の固体を含むスラリーの場合は、液体と固体の比重差が小さいため、見掛けの粒子径が大きくないと良好な脱水処理ができない場合が多い。特に、下水汚泥、し尿汚泥、発酵残渣汚泥などのバクテリア処理をした汚泥では、事前の凝集処理によるフロック生成が上手くできないと、遠心脱水処理でケーキ含水率が低下しない。
【0005】
凝集剤の添加方法としては、高分子凝集剤の1種類の薬剤を添加する一液法と、高分子凝集剤と無機凝集剤の2種類の薬剤を添加する二液法がある。高分子凝集剤は、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸エステル系、ポリメタアクリル酸エステル系などでアニオン系、カチオン系、両性系があり、汚泥性状に応じて適正な種類を選ぶ。また、無機凝集剤は、ポリ硫酸第二鉄や塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウムポリ塩化アルミニウム消石灰などが一般的に用いられ、石炭灰を用いる例も報告されている。
【0006】
一液法は、比較的脱水が容易な汚泥処理に用いられている。二液法は、脱水が困難な汚泥処理、又はより低含水率のケーキが求められる処理に用いられる。二液法では、スラリーを遠心脱水機に供給する前に、全凝集剤をスラリーに添加すると以下の問題がある。
【0007】
すなわち、スラリーの固形物濃度が低い時点で無機凝集剤を添加するので、水中での固形物と無機凝集剤の接触効率が低く、無機凝集剤の添加率が高くなる問題がある。また、スラリーを遠心脱水機内に供給する際に、機内の水流の影響でせっかく生成したフロックが崩壊する問題がある。このため、二液法では、無機凝集剤を脱水機内でスラリーに添加する方法が行われている。
【0008】
二液法は、脱水促進に効率的であるが、さらに高分子凝集剤と無機凝集剤の添加方法を改善すると、比較的少量の凝集剤添加率でも良好な含水率が得られている。例えば、特許文献1には、無機凝集剤液をデカンタ型の遠心脱水機中に添加する装置構成が記載されている。この装置では、無機凝集剤液がノズル経由でスラリー中に添加されることで効果的な脱水処理が可能であることが記載されている。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、デカンタ型遠心脱水機、すなわちボウルの一側のケーキ排出側に、円筒直径がボウルの一側に向けて狭まるテーパーを持つ形式の遠心脱水機において、脱水機に供給される前のスラリーに高分子凝集剤を添加し、更に無機凝集剤を脱水機内のスラリー供給室内でスラリーに添加混合する方法が記載されている。この方法では、脱水機外で無機凝集剤を添加するよりも効率的に凝集が可能であるとしている。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、直胴型遠心脱水機、すなわちボウルの脱水に寄与する部分のボウル径が一定である遠心脱水機において、高分子凝集を脱水処理前のスラリーに添加し、その後に脱水機内で脱水中のスラリーに無機凝集剤を添加する装置が記載されている。
【0011】
このように、無機凝集剤を脱水中のスラリーに添加することで、無機凝集剤の添加量を低減する効果があるとしている。無機凝集剤はボウルとスクリューコンベアの間のスラリー保持空間に供給される。無機凝集剤を供給する際には、脱水がやや進んだ汚泥(ケーキ)の表面又は内部に供給することが更に良いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63-185466
【特許文献2】特開2012-11300
【特許文献3】特開2012-187570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
有機系スラリー処理において、凝集剤を添加する際の技術としては二液法が望ましい。しかし、従来技術の二液法では、ただ単に、遠心脱水機の遠心力が働く以前に、スラリーに高分子凝集を添加し、遠心脱水機内で無機凝集剤を添加しており、脱水機内でのケーキ形成状態に適合するように、無機凝集剤を添加するとの考えがなかった。このように、従来技術では、いずれも最適な添加方法とは言えず必要最小限以上の効果は得られていなかった。
【0014】
特許文献1では、無機凝集剤を含む水(以降、凝集剤液と称する)をノズル経由で脱水機内のスラリーに供給することで効率を高めていた。しかしながら、この方法では、ただ単に、脱水機内のスラリーに無機凝集剤液を添加すればよいのと考えしかなく、凝集剤液の最適な添加位置や液がスラリー水に流入する際の凝集剤液の流勢の影響などに特別な配慮がなかったことから十分な効果が得られない虞があった。
【0015】
特許文献1のデカンタ式脱水機では、ボウル長さ方向に平行なパイプから脱水室内にノズルを伸ばしていることから、該ノズルが長いことによりノズルの根元と先端部との距離が大きくなっていた。この結果、ノズル末端と先端との遠心力の差が大きくなり、凝集剤液の水勢が大きくなりすぎて、無機凝集剤がスラリー中に広く分散してしまい、最適な添加位置のみに無機凝集剤を添加することができていなかった。
また、凝集剤液の水流が強すぎることからフロックを破壊する虞もあった。さらに、ノズル先端がスラリー水面よりも内側(空気中)にあることから、無機凝集剤がスラリーに入る前に空気を巻き込んで沈殿状態を攪乱する虞もあった。
【0016】
特許文献2では、幾つかの無機凝集剤の添加方法が記載されている。例えば、第一の方法として、高分子凝集剤は供給配管中に添加し、無機凝集剤は、デカンタ型の脱水機機内でケーキがテーパー部において集積してスクリューコンベア円筒面に接する部分に添加する方法が記載されている。
また、第二の方法として、ケーキがテーパー部においてスクリューコンベア円筒面に接する部分に加え、更にケーキがまだスクリューコンベア円筒面に接しない直胴部分と、テーパー部分の接線部分の2箇所に添加する方法が記載されている。
【0017】
凝集剤が最も効果的に機能するのは、固体粒子から適度に水の分離が進んだ時点、つまり水とケーキの境界部の近くである。この境界部は、遠心力によりスラリーが凝集を始めた時点であり、水の多い部分とケーキが濃縮を始めた境界部分である。
ここでは、ケーキの水分が低下していると同時に、流動性もある程度維持できている。このため、無機凝集剤と固体粒子との接触効率が良好で、かつ内部での無機凝集剤の分散も良好である。
しかし、上記の従来技術での方法では、ケーキが十分に形成された部分に無機凝集剤を添加することで、接触効率を向上させる効果はあるものの、添加された時点でのケーキの含水率は、すでに本来の目標よりも低くなっている。
このため、ケーキの内部の流動性が低下しており、添加された無機凝集剤の分散が悪化していた。前述の2つの方法のうち、第一の方法においては、ケーキがスラリー水面よりもかなり上部にまで堆積しており、相当量の水分が脱水された状態である。このように、脱水されて集積状態がある程度以上に進んだケーキに無機凝集剤を添加するため、ケーキ内の無機凝集剤の拡散が不十分になる虞があった。
【0018】
また、第二の方法においては、無機凝集剤の一部が、まだ含水率の高いケーキ中に添加されるため、この点では改善されているものの、やはりケーキ表面が水面から大きく上がった部分に無機凝集剤を添加している。
また、前段の添加位置においては、無機凝集剤の添加口からケーキ表面までの距離があるため、空中で無機凝集剤を含む水が霧散して、効果的にケーキ内に無機凝集剤が添加されない虞があった。
さらに、前段と後段の無機凝集剤の比率を制御できないことから、ケーキの脱水状態に応じて適正に無機凝集剤を添加できない虞もあった。この結果、この方法では、二液法の効果を最大限に発揮できなかった。
【0019】
特許文献3の方法では、高分子凝集剤を供給配管中に添加し、直胴型脱水機内でスラリー中の汚泥分が濃縮されてケーキとなってスクリューニンベア円筒面に接する部分に、無機凝集剤を添加する方法が記載されている。
ここでは、スラリー水位は低く、ケーキが水面よりも大きく隆起している状態である。このようなスラリー水位とケーキの存在分布の関係から直胴式遠心脱水機の二液法であっても、スラリー水位よりも大きく隆起し、脱水がある程度進んだケーキに、無機凝集剤を添加していた。従って、流動性が乏しいケーキに無機凝集剤が添加されていたことから無機凝集剤の分散が悪い虞があった。
【0020】
更に、遠心脱水機では、原料スラリーの性状変化による固体濃度や凝集性の変化と処理水量の変動により、脱水状態が変化してケーキが形成され始める位置が大きく変わる。
このため、ボウルの長さ方向において1箇所の凝集剤添加口を設けるだけでは、無機凝集剤の添加に最適な状態のケーキに無機凝集剤を添加することが困難であった。
そこで、特許文献2では、ボウルの長さ方向においてスクリューコンベア円筒に設置される凝集剤添加口を複数設けていた。ここでは、凝集剤添加口を複数個設置されていた。また、添加効率を高めるために、ノズルを設置していた。
しかしながら、このように多数の凝集剤供給口を設置する装置では、個々の凝集剤供給口における流量制御が困難であり、適正な場所に適正な量の凝集剤を添加することができなかった。ノズルについても、ただ単にノズルを経由して凝集剤を添加すればよいとの考えしかなく最適な位置やノズル長さについての検討が行われてこなかった。
【0021】
更に、特許文献2では、スラリー供給側に最も近い凝集剤添加口では、ケーキ及び水位に対して大きく距籬があるため、ノズルなしでは、凝集剤を含む水が霧散してしまい、上手くスラリー又はケーキに添加できない虞があった。
また、ノズルから無機凝集剤を含む水を添加する場合においても、ノズル長さに十分な配慮がなかったために、ノズルが脱水室の幅(ボウル内面からスクリューコンベア円筒外面との間隔)に対して1/3程度と長いものになっていた。
この結果、ノズルが長すぎてしまい、スクリューコンベア円筒とノズル先端の間の部分のスラリーに凝集剤を添加することが困難である。また、ノズルの入口部と出口部の遠心力差が大きくなり、凝集剤がノズルから勢いよく流出してしまっていた。
このため、凝集剤が脱水室の中心側に少なく、ボウル内面付近に集中してしまうという凝集剤の偏在の虞があった。
更に、ノズル先端からスラリー水位までの距離が大きいために、スラリー水位よりもボウルの中心側にあるケーキの固形物濃度の高い部分に添加されている。このため、特に横方向の凝集剤の分散が悪化していた。しかし、ノズルを短くすると、水位とノズル先端が離れすぎてしまい、凝集剤が隆起したケーキ層を貫通できず、凝集が必要である水面下の比較的高含水率のケーキに十分に凝集剤を添加できない虞があった。
【0022】
また、従来技術では、ボウルの円周方向の無機凝集剤の分散についての十分な配慮がなされていなかった。遠心脱水機のボウルの直径は250~800mmであることが一般的であり、円周長さは約0.8~2.5mになる。従って、円周方向において2、3箇所での無機凝集剤の添加では、円周方向に十分に拡散しない虞があった。この結果、円周方向に多数の無機凝集剤の供給口を設けて分散状態を改善していた。
その数は中型機で4箇所程度であり、大型機では8箇所程度となることが一般的であり、このような多数の供給口から無機凝集剤を含む水を供給すると、個々の供給口での流量制御ができず、無機凝集剤の偏在が抑制できない虞があった。
【0023】
このように、従来技術では、高分子凝集剤を遠心脱水処理の前に添加し、無機凝集剤を遠心脱水処理されているスラリー又はケーキ中に無機凝集剤を添加する方法において添加位置や無機凝集剤を含む水を添加する水流の影響についての十分な配慮がなく二液法においても無機凝集剤の消費量が十分に減少しない虞があった。従ってこれらの問題を解決する新しい遠心脱水機とスラリーの処理方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0024】
(1)本発明に係る遠心脱水機は、一方向に高速回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を含む水を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、前記脱水室内のスラリー水位が、前記ボウルの直径方向において前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が20mm以内の範囲に位置し、または、前記コンベア円筒部の外面が前記脱水室内の前記スラリーに浸かる状態とすることを特徴とする。
【0025】
(2)本発明に係る遠心脱水機は、一方向に高速回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を含む水を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、前記ボウルは回転軸心方向の一側に分離水排出口を有し、前記分離水排出口の越流頂は、前記ボウルの直径方向において前記ボウルの内面に最も近い部分が、前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が23mm以内の範囲に位置することを特徴とする。
【0026】
(3)本発明に係る遠心脱水機において、前記ボウルは、脱水室内の脱水に有効な範囲の全長に渡って前記スラリーに浸漬していることを特徴とする。
(4)本発明に係る遠心脱水機において、前記凝集剤液供給口は、前記コンベア円筒部の外面から突出するノズルを有し、前記ノズルはノズル先端が前記スラリーに浸漬していることを特徴とする。
【0027】
(5)本発明に係る遠心脱水機は、一方向に高速回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備え、前記コンベアのコンベア円筒部と前記ボウルの間に脱水室を有し、前記コンベアは、スラリーを前記脱水室に供給するスラリー供給口と、凝集剤を含む水を前記脱水室に供給する凝集剤液供給口を前記コンベア円筒部に有する構造をなす脱水機であり、前記凝集剤液供給口は、前記コンベア円筒部の外面から突出するノズルを有し、前記ノズルはノズル先端が前記スラリーに浸漬していることを特徴とする。
【0028】
(6)本発明に係る遠心脱水機において、前記ノズルの長さは、5mm以上、かつ前記ボウルの内面と前記コンベア円筒部の外面との距雜の0.25倍以下であることを特徴とする。
【0029】
(7)本発明に係る遠心脱水機において、前記ボウルは、分離水排出口とケーキ排出口を回転軸心方向の相反する側に有し、前記凝集剤液供給口は、前記スラリー供給口の位置から前記ケーキ排出口の方向に、前記スラリー供給口の位置と前記ケーキ排出口の位置との距離の0.22~0.44倍の距離を隔てた位置に設置することを特徴とする。
【0030】
(8)本発明に係る有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法は、一方向に高速回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備える遠心脱水機を用いる際に、スラリーを前記遠心脱水機に供給する前に、又は前記スラリーを前記遠心脱水機の脱水室に供給する際に、前記スラリーに高分子凝集剤を添加し、前記高分子凝集剤を含む前記スラリーを、前記コンベアのコンベア円筒部に設置したスラリー供給口から前記脱水室に供給し、さらに凝集剤を含む水を、前記コンベア円筒部に設置した凝集剤液供給口から前記脱水室に供給する際に、前記脱水室内のスラリー水位を、前記ボウルの直径方向において前記コンベア円筒部の外面からの離隔距離が20mm以内の範囲に位置させ、または、前記コンベア円筒部の外面が前記脱水室内の前記スラリーに浸かる状態として脱水処理することを特徴とする。
【0031】
(9)本発明に係る有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法は、一方向に高速回転するボウルと、前記ボウルと同回転軸心廻りに差速をもって回転するスクリューフライトを有するコンベアを備える遠心脱水機を用いる際に、スラリーを前記遠心脱水機に供給する前に、又は前記スラリーを前記遠心脱水機の脱水室に供給する際に、前記スラリーに高分子凝集剤を添加し、前記高分子凝集剤を含む前記スラリーを、前記コンベアのコンベア円筒部に設置したスラリー供給口から前記脱水室に供給し、さらに凝集剤を含む水を、前記コンベア円筒部に設置した凝集剤液供給口から前記脱水室に供給する際に、前記凝集剤液供給口に設けた先端が前記脱水室内のスラリーに浸漬したノズルから供給して脱水処理することを特徴とする。
【0032】
(10)本発明に係る有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法において、前記脱水室内の前記スラリーに供給する前記凝集剤が無機凝集剤であることを特徴とする。
(11)前項に記載する有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法において、前記遠心脱水機が前記(1)から(7)の何れかの遠心脱水機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、有機汚泥などの有機物を含むスラリーの遠心脱水処理で高分子凝集剤と無機凝集剤を合わせて添加する二液添加において、脱水機内に的確な状態で無機凝集剤を添加することが可能となる。この結果、従来技術以上に無機凝集剤の添加比率を削減することができ、脱水処理費用を削減でき、脱水ケーキの後処理工程での費用削減が削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施の形態における遠心脱水機の構造を示す側面図であり、脱水に寄与するボウルの全長がスラリーに浸漬しており、ボウルの直径が一定で、コンベア円筒部の直径がケーキ排出部の近傍で拡大するテーパーを有する構造を示している。
【
図2】同実施の形態における遠心脱水機での機内のスラリー水とケーキの存在状態を示す概略図である。
【
図3】
図2におけるF部のケーキ排出部の拡大概略図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態における遠心脱水機の構造を示す側面図であり、ボウルの直径及びコンベア円筒の直径が一定である構造を示している。
【
図5】分離水排出口の例示の図であり、(a)は分離水が越流する部分が直線である場合を示し、(b)は円弧である場合を示している。
【
図6】分離水排出口の例示の図であり、(a)は分離水が越流する部分がV型である場合を示し、(b)は凹型である場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明に係る実施の形態を説明する。本発明に係る有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法において、スラリーは、有機物を含むものであり、大豆、小麦、大麦等の食品の懸濁液や、下水汚泥、し尿汚泥、消化汚泥などの有機系排水である。
本発明に係る有機系固体を含有するスラリーの遠心脱水処理方法では、有機物含有率(強熱減量VTS)が約50%以上のものが処理対象となる。また、下水汚泥、し尿汚泥、混合汚泥、生汚泥などのVTSが60%以上のスラリー水の場合に効果が大きい。また、VTSが65%以上では更に効果が大きい。なお、一般にスラリー中の固形物濃度は1~5質量%程度である。
【0036】
本発明の実施の形態に係る遠心脱水機の構造を
図1に例示する。また、
図2は、
図1の脱水機内の物質の存在状態を示す概略図である。以下、
図1と
図2を用いて本発明の遠心脱水機の構造を説明する。
主な構成部品は、処理水(以下においてスラリーと称する)を保持するボウル1と、ボウル1の内面に沈殿している凝集物(以下においてケーキと称する)を搬送するコンベア30であり、コンベア30はコンベア円筒部2とスクリューフライト3からなる。
遠心脱水機は、コンベア円筒部2の外面とボウル1の内面の間に、スラリー保持空間である脱水室4を形成し、ボウル1の回転軸心方向の相反する一側に分離水排出口15を有し、他側にケーキ排出隙間13を有する。
【0037】
図1に示すように、コンベア円筒部2は、外面にスラリー供給口7が開口し、スラリー供給口7の周辺で一定の直径の形状を有し、一側のケーキ排出隙間13に向けて途中から直径が広大するテーパーの形状を有する。これは、脱水室4から排出されるケーキ18を圧縮する構造になっているものであるが、コンベア円筒部2の直径が脱水処理に有効な範囲で一定である構造であっても良い。
遠心脱水機は、ボウル1が高速回転することで遠心力を発生させる。ボウル1にかかる遠心力は2000~400OG程度である。このため、ボウル1やコンベア円筒部2を回転させるモーターやコンベア円筒部2とボウル1とに差速を付ける差速装置が設置されているが、本発明の装置の説明に直接関係がないため、図中では省略している。この差速装置により、ボウル1とコンベア円筒部2は、毎分0.5~20回転程度の差速で回転している。この回転数の差によりスクリューフライト3がケーキ18をケーキ排出隙間13の方向に移動させる。
【0038】
スラリーには、遠心脱水機に供給される前に、もしくは脱水室4に流入する段階で、高分子凝集剤が添加される。高分子凝集剤は、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸エステル系ポリメタアクリル酉麦エステル系などでアニオン系カチオン系両性系があり、汚泥性状に応じて適正な種類を選ぶ。
【0039】
コンベア円筒部2は内部にスラリー供給室6を有し、スラリー供給口7がスラリー供給室6に連通している。また、コンベア円筒部2の回転軸心方向に配置したスラリー供給パイプ5がスラリー供給室6に連通しており、スラリーはスラリー供給パイプ5を通してスラリー供給室6に供給され、更にスラリー供給口7から脱水室4に流入する。
遠心脱水機内の遠心力場では、脱水室4の機内スラリー16中の固形物がボウル1の内面側に沈殿してケーキ18を形成する。ケーキ18は、スクリューフライト3の回転によりケーキ排出隙間13に向けて搬送される。
搬送に伴って徐々に脱水が進んだケーキ18は、脱水室4の末端に設置されているケーキ排出部入口12からケーキ排出隙間13に入り、ケーキ排出口14から機外に排出される。
一方、固形物を除去された後の機内スラリー16の水分は、分離水排出口15から排出される。脱水室4のスラリー水位17は、分離水排出口15の越流頂の位置、つまりボウル1の直径方向においてボウル1の内面に最も近い越流頂の位置によって決まるものである。この位置は、
図2中の点aで示されており、回転中心からの距離が線Aで示されている。
【0040】
本実施の形態において使用する無機凝集剤は、ポリ硫酸第二鉄や塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウムポリ塩化アルミニウム消石灰などから適正な種類のものを選定する。
無機凝集剤を含む水(以下において凝集剤液と称する)は、スラリー供給口7とは別の経路で脱水室4に供給される。スラリー供給パイプ5とは別に、コンベア円筒部2の回転軸心方向に配置した凝集剤液供給パイプ8がコンベア円筒部2の内部に設けた凝集剤液供給室9に通じている。凝集剤液供給室9の凝集剤液は、コンベア円筒部2の外面に開口する凝集剤液供給口10を通して脱水室4に流入する。
【0041】
スラリー供給室6と凝集剤液供給室9は、隔壁21によって区分けされている。ただし、遠心力によりスラリーも凝集剤液もコンベア円筒部2の内面に張り付くため、両室を完全に仕切る構造の隔壁21でなく、内面周辺を仕切る部分的な板を設置しても同様の結果が得られる。
なお、凝集剤液の供給経路は、必ずしも
図1に記載の構造である必要はなく、凝集剤液を供給する配管がスラリー供給パイプ5と二重管になっている構造や、外部から続くパイプにディヒューザーが付いて凝集剤液を円周方向に分配する構造などの別の構造でも構わない。ただし、凝集剤液を一度コンベア円筒部2の内壁に当てることで凝集剤液の流勢を止めることがより望ましい。
【0042】
凝集剤液供給口10は、コンベア円筒部2の円周方向に2~4箇所に設けている。また、凝集剤液の供給位置毎のバラツキを防止するため、コンベア円筒部2の長さ方向には、2箇所以内の設置が望ましく、1箇所であることが最も良い場合が多い。さらに、無機凝集剤の一層の効率向上のために、凝集剤夜供給口10にノズル11が設置されている。
【0043】
図2、
図3は、コンベア円筒部2の遠心脱水機内で機内スラリー16等が存在する状態を示す概略図および拡大概略図である。この
図2、
図3をもとに、本発明の実施の形態に係る遠心脱水機及び方法を説明する。
脱水室4の内部において、機内スラリー16は遠心力によりボウル1の内面に張り付いた状態である。従って、スラリー水位17は、ボウル1の内面よりも回転中心側にある。
本実施の形態では、スラリー水位17とコンベア円筒部2の外面の間隔を20mm以下にする。凝集剤液供給口10からの凝集剤液を機内スラリー16に添加する。この添加位置は機内スラリー16の固形物がある程度凝集した部分である。ここで固形物がある程度凝集した部分とは、固形物濃度が10~20質量%程度の軽度に脱水された状態のものを云い、以下においてはこの部分を濃縮境界19と称する。
【0044】
従来技術では、凝集剤液は、脱水室4内のスラリー水位17よりも離れた位置から空中に放出されるか、スラリー水位17から大きく隆起した部分のケーキ18に添加されていた。
この結果、凝集剤液が空中に霧散することで凝集剤液が機内スラリー16に入り込まない問題や、流動性の悪い状態の低含水部分のケーキ18の表面部分のみに添加される問題があった。従来技術の方法でのスラリー水位17から隆起したケーキ18は、比較的固形物濃度が高い状態である。この部分に無機凝集剤が直接添加される場合は、ケーキ18の流動性が乏しく凝集邦N夜の分散が悪い問題があった。
【0045】
本実施の形態では、これを解消するために、スラリー水位17をコンベア円筒部2の外面に近づけることで、ケーキ18がスラリー水位17よりも大きく隆起しない状態にする。
この条件では、適度な水分の領域を安定して維持でき、かつボウル1の直径方向と長さ方向での固形物濃度の変化率が小さく、凝集剤添加に最適な固形物濃度の位置を広く取れる利点がある。
この結果、スラリーの脱水状態が変化するなどの理由で濃縮境界19の位置が移動しても、濃縮境界19が幅広いことから適正状態である濃縮境界19に凝集剤液を添加することが可能な利点がある。
そのために、本実施の形態では、スラリー水位17をコンベア円筒部2の外面からの離隔距離20mm以内の位置、またはコンベア円筒部2の外面が機内スラリー16に浸かっている状態にする。
また、スラリー水位17とコンベア円筒部2の外面との離隔距離を20mm以下にすることで、脱水室4に供給されるスラリーが機内スラリー16の水面に衝突する速度が低下し、高分子凝集剤によってできたフロックが破壊されない効果もある。また、凝集剤液が空中で霧散しない効果もある。
なお、スラリー水位17の位置は、
図2中の点bで示し、回転中心からの距籬は、線Bによって示している。また、コンベア円筒部2の外面は、
図2中の点cで示し、回転中心からの距離は線Cで示している。
【0046】
スラリー水位17とコンベア円筒部2の外面との離隔距離を20mm以内、またはコンベア円筒部2の外面が機内スラリー16に浸かっている状態にするためには、分籬水排出口15の位置が重要である。分籬水排出口15の一般的な形状は、
図5に示すようなものであり、直線状又は緩い曲線状、円弧状のもので、幅が30~60mmの越流堰の形状をなすのが通常である。
この通常の越流堰における越流水位20は、ボウル1の直径方向におけるボウル1の内面に最も近い部分の越流頂より3~6mm程度回転中心に近い位置になる。この分籬水排出口15での越流水位20の高さも考慮して、越流堰の高さ、つまりボウル1の直径方向におけるボウル1の内面に最も近い部分の越流頂の位置を決める。
従って、コンベア円筒部2の外面に対してボウル1の直径方向に回転中心から外側に23mm出た位置よりも回転中心の側に越流堰の越流頂を設置することで、確実にスラリー水位17をコンベア円筒部2の外面からの離隔距離20mm以内に維持できる。
【0047】
また、分離水排出口15の形状が、
図6に示すようなV型や凹型などの特殊な形状の場合は、越流水位20が6mm以上となる場合もある。この場合は、開口面積のうち水の流れる部分の面積を100~200平方mmであるとして越流高さを想定すると実際の高さとほぼ一致する。
従って、分離水排出口15が特殊な形状をなす場合は、スラリー水位17がコンベア円筒部2の外面から最も離れた位置となる離隔距離20mmの条件に加えて、分離水排出口15のボウル1の内面に最も近い部分の越流頂から面積100平方mmに相当する仕切り線の位置を、コンベア円筒部2の外面からの離隔距離20mmにすることでスラリー水位17の位置を、本発明が定義する範囲内に設定できる。
【0048】
また、この条件で適正な脱水性能を得るためには、ケーキ排出口14の面積中心の位置(ケーキ排出の代表位置、
図3の点d)を、分離水排出口15の堰部分の位置に対して、回転中心から直径方向に-20mmから+15mmの範囲内にすれば更に良い。この距離が零又は正の値である状態は、つまりケーキ排出口14のボウル1の内面に最も近い位置が水面よりも水中に入ってしまう状態である。この状態において、浸漬の程度が軽度であれば、ケーキ排出隙間13はケーキで詰まっている状態であるために、スラリー水の越流は起きない。しかし、浸漬の距籬が15mm以上では、ケーキ18と一緒に水が流出するため、安定した脱水が困難になる。また、浸漬の距雜が負の値で-20mmよりも回転中心の側に近い場合は、ケーキ排出の際にケーキ18を掻き上げる距離が長くなり、排出抵抗の大きい低含水率ケーキの排出が不安定になる。
【0049】
なお、ここでケーキ排出の代表位置をケーキ排出口14の面積中心に選んだ理由を以下に述べる。ケーキ排出口14の形状には種々のものが適用可能であるため、特定部位の位置を代表位置とすることができないが、ケーキ排出口14の面積中心が最も代表性があるためである。
その位置関係は、
図3のケーキ隙間部の拡大概略図に示すように、回転軸心を含む断面においてケーキ排出隙間13でのボウル1の内面が直線状をなす場合は、ボウル1の内面に垂直な面(
図3中に線Eで示す)の面積中心で示される。
ボウル排出部22の内面が真っ直ぐでなく局面である場合は、回転軸心を含む断面におけるボウル排出部22の内面上でのケーキ排出部入口9の位置と脱水ケーキ排出口11の位置を直線で結んだ線に垂直な面として、脱水ケーキ排出口11の面積中心を採用すると良い。
【0050】
更に、凝集剤液供給口10にノズル11を設置する場合は、凝集剤の効果が大きい。ノズル11がない場合は、ただ単に無機凝集剤液を添加するだけで流れに勢いがなく、コンベア円筒部2の周辺に漂うだけである。
この結果、機内スラリー16の全体ヘの無機凝集剤液の混合が遅れて、凝集剤の添加効率が悪くなる。一方、ノズル11を設置すると、凝集剤液供給口10の位置とノズル11の先端の位置とにおいて、ボウル1の回転中心からの距離の差に応じて遠心力の差が生じるために、凝集剤液の流れに勢いが生じてボウル1の直径方向ヘの分散が改善する効果がある。
【0051】
コンベア円筒部2の外面からボウル1の直径方向に突出するノズル11の適切な長さは、5mm以上、かつ脱水室4の幅の0.25倍以下が良い。ノズル11の長さが5mm以下では、凝集剤液の水流の勢いが足りず、凝集剤液がコンベア円筒部2の近傍の機内スラリー16にのみに流れて行き、最終的には機内スラリー16中の水分の多い部で薄まってしまい、十分な効果が出ない場合がある。
一方、ノズル11の長さが5mm以上であれば、ノズル11の根元と先端の遠心力差が大きくなり、凝集剤液の水流に適度な勢いがついてスラリー中に広がりやすい。しかし、ノズル11の長さが脱水室4の幅の0.25倍以上の場合、凝集剤液の流れの勢いが強すぎてしまい、凝集剤液がボウル1の内面周辺に偏在する問題が起きやすくなる。また、ノズル11の長さが脱水室4の0.2倍以下であると更に望ましい。
【0052】
ノズル11の先端部が機内スラリー16中に浸漬している場合は、凝集剤液が空中に霧散することがないため、凝集剤効果が大きくなる。従って、このような条件を作るためには、ノズル11の先端部は、機内スラリー16の水位よりもボウル1の内面に近い位置にある(機内スラリー16に浸漬している)ことが良い。この状態であれば、濃縮境界19やケーキ18にノズル11が突っ込んでいない場合は、空中ヘの凝集剤液の露散が皆無となることから一層の効果が得られる。
【0053】
機内スラリー16の中にケーキ18の全部または大部分が浸漬している状態であれば、濃縮境界19では固形物濃度が徐々に変化し、濃縮境界19の厚みは以下のようになる。つまり、濃縮境界19は、回転軸心方向に沿った脱水室4の長さ方向において、スラリー供給口7からケーキ排出隙間13の方に向けて、スラリー供給口7からケーキ排出口14までの長さ(以下に有効脱水長と称する)の約0.15から0.2倍の長さに広がる。また、濃縮境界19は、ボウル1の直径方向に沿った脱水室4の幅方向において、脱水室4の幅の約40~60%に広がる。ここで、脱水室4の幅とは、凝集剤液供給口10の位置でのボウル1の内面とコンベア円筒部2の外面の間隔で定義される。
【0054】
また、本発明者らは実験によって以下の知見を得ている。すなわち、濃縮境界19のボウル1の長手方向の位置は、処理条件により変わり、正常な脱水性能を得られる場合は、スラリー供給口7から有効脱水長の0.22~0.44倍の位置において濃縮境界19の高水分側がスラリー水位17から隆起し、濃縮境界19がコンベア円筒部2の外面に接することが判明した。
なお、濃縮境界19の位置変動は、スラリーの性状(固形物濃度、PH、VTS、電気伝導度、混在物などに影響される)やスラリー濃度の変化が原因である。
【0055】
凝集剤液は、濃縮境界19の周辺に的確に添加されることが良い。本発明者らの実験では、凝集剤液供給口10がスラリー供給口7から有効脱水長の0.22倍の距離を隔てた位置にあれば、濃縮境界19が凝集剤液供給口10から最も遠い有効脱水長の0.4倍の距離を隔てた位置にある場合でも、凝集剤液はボウル1の回転軸心方向の水流により濃縮境界19に届くため、凝集剤効果が十に得られることが判明した。
また、凝集剤液供給口10がスラリー供給口7から有効脱水長の0.44倍の距離を隔てた位置にあれば、濃縮境界19が凝集斉川夜供給口10から最も遠い有効脱水長の2倍の距離を隔てた位置にある場合でも、濃縮境界19の厚みの範囲内に凝集剤液を供給できる。
このように、スラリー水位17がコンベア円筒部2に近い、又はコンベア円筒部2の外面が機内スラリー16に浸漬している状態では、濃縮境界19の幅が大きいため、濃縮境界19の位置が変わっても安定して凝集剤の効果が十分に得られる。
【0056】
本発明の効果を従来型のデカンタ型遠心脱水機よりも大きくするために必要な遠心脱水機の構造は、
図1に示すように、ボウル1の遠心脱水機能がある部分全域が機内スラリー16中に浸かっており、ケーキ18を排出する部分の断面積が、脱水室4の断面積よりも小さい構造である。
以上に説明した効果を得るためには、
図1に示す遠心脱水機以外に、
図3に示すような、コンベア円筒部2が全長に渡って直胴の遠心脱水機でもコンベア円筒部2の外面とスラリー水位17の関係を、上記に記載の条件(スラリー水位17とコンベア円筒部2の距離が20mm以内)とすれば、同様の効果が得られる。
【実施例0057】
図1に示す構造を有する実験用の遠心脱水機を用いて、本発明の上記の条件下で有機物固体を含むスラリーの処理を行った。
この脱水機は、
図1に示した構造を有し、標準で毎時2m
3のスラリーを処理する容量の遠心脱水機(遠心脱水機A)であり、2500Gの遠心力を作用させてスラリーを脱水させた。
この本発明の装置条件を備えた直胴型の遠心脱水機A(実施例)と本発明の装置条件を逸脱したデカンタ型の遠心脱水機(比較例)とで比較実験を行った。
また、
図1に示した構造を有し、コンベア円筒部2の形状が違う毎時5m
3のスラリーを処理する大型の直胴型の遠心脱水機Bでも性能確認実験を行った。これらの遠心脱水機の仕様を表1に示す。
【表1】
【0058】
実験では、消化汚泥、下水汚泥、混合汚泥を処理した。凝集剤は、高分子凝集剤にカチオン系アクリル酸ジメチルアミノエステル(KP1205E)(三菱ケミカル株式会社製)を使用し、無機凝集剤にポリ硫酸第一鉄(日鉄鉱業株式会社製)を使用した。脱水性能の評価は、ケーキ含水率と汚泥回収率を用いた。強熱減量(VTS)及びケーキ含水率は、財団法人下水道協会発行の下水試験方法上巻P.296~297に記載の方法に従って測定した。実験結果は表2に示す。
【0059】
実験1
VTSが76質量%の消化汚泥に対して一定量の高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加して脱水処理した。
実施例1~7は、ノズル11を設置していない遠心脱水機Aと、遠心脱水機Bで行った。また、比較例1は、遠心脱水機Aにおいてスラリー水位17とコンベア円筒部2の距離を23mmとして行い、比較例3は、デカンタ型の遠心脱水機で脱水処理した。
実験2
実施例8~13は、ノズル11を設置した遠心脱水機Aとノズル11を設置していない遠心脱水機Aを用いて、73.6質量%の下水汚泥に対して一定量の高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加して脱水処理した。また、比較例2は、ノズル11を設置した遠心脱水機Aにおいてスラリー水位17とコンベア円筒部2の距離を24mmとして行った。
実験3
実施例14は、ノズル11を設置していない遠心脱水機Aを用いて、VTSが61.2質量%の消化汚泥に対して一定量の高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加して脱水処理した。また、比較例4は、デカンタ型の遠心脱水機で脱水処理した。
各実験における高分子凝集剤の添加率は、固形分に対して1.2質量%で、無機凝集剤の添加率は、鉄分換算で固形物に対して4質量%であった。
【0060】
実験1の実施例1~8では、脱水処理後のケーキ含水率が73.6~76.3質量%となり、比較例1と比較例3の78~80質量%に比べて良好な成績であった。また、汚泥回収率も97%以上での問題なかった。ただし、本発明のより良い条件である凝集剤液供給口10の位置が有効脱水長の0.22から0.44倍の範囲を外れる実施例4と実施例6では、ケーキ含水率がそれぞれ76.2質量%と76.3質量%とやや高い結果となった。
【0061】
実験2の実施例9~14では、ケーキ含水率が70.3~73.8質量%であり、比較例2の74.6質量%よりも良好な成績であった。ただし、ノズル11がない条件、ノズル11の長さが3mmと短い条件、及びノズル11をスラリー水中に浸漬していな条件の処理では、ケーキ含水率が高くなる傾向にあった。比較例2では、スラリー水位とコンベア円筒部2の外面との位置の差が20mm以上で、かつノズルをスラリー水中に浸漬していない条件であったので、ケーキ含水率が高い結果となった。
【0062】
低VTSの汚泥の処理での効果確認のために行った実験3では、本発明の条件を満たす遠心脱水機での実験である実施例15では、ケーキ含水率が68.2質量%であったのに対して、従来技術のデカンタ型遠心脱水機の処理では、ケーキ含水率が71~73質量%であった。
【表2】