(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155616
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】不動産に滞在する移動体を用いて不動産市場価格を予測する装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/16 20120101AFI20221006BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20221006BHJP
【FI】
G06Q50/16 300
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058944
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515303481
【氏名又は名称】金子 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】美嶋 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 真弥
(72)【発明者】
【氏名】木村 塁
(72)【発明者】
【氏名】大角 良太
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 紀明
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC27
(57)【要約】
【課題】不動産市場価格を予測する装置、プログラム及び方法を提供する。
【解決手段】予測装置は、不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録手段と、不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録手段と、不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する相関係数推定手段と、相関係数を用いて、予測対象の不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する不動産市場価格予測手段とを有する。また、予測対象の不動産について、現在の移動体価値に対する現在の不動産市場価格が、相関係数から見て高いか安いかを判定する価格変動予測手段を更に有する。更に、尚、相関係数は、移動体価値に対する不動産市場価格のグラフにおける単回帰直線である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動産市場価格を予測する予測装置であって、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録手段と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録手段と、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する相関係数推定手段と、
相関係数を用いて、予測対象の不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する不動産市場価格予測手段と
を有することを特徴とする予測装置。
【請求項2】
予測対象の不動産について、現在の移動体価値に対する現在の不動産市場価格が、相関係数から見て高いか安いかを判定する価格変動予測手段と
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
相関係数は、移動体価値に対する不動産市場価格のグラフにおける単回帰直線である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の予測装置。
【請求項4】
単回帰直線が引かれ、所定期間毎に移動体価値に対する不動産市場価格をプロットしたグラフを、ユーザに表示するグラフ表示手段と
を更に有することを特徴とする請求項3に記載の予測装置。
【請求項5】
移動体は、ユーザによって所有される車両であり、
不動産市場価格は、不動産投資証券の市場価格、又は、ゴルフ会員権の市場価格であり、
不動産は、当該不動産を利用するユーザの車両を駐車可能な駐車場を備えている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項6】
車両毎に、車種に基づくランク値が付与されており、
移動体価値は、不動産毎に滞在する車両毎のランク値の総和である
ことを特徴とする請求項5に記載の予測装置。
【請求項7】
車種毎に、ランク値が付与されており、
ランク値は、当該車種の市場価格に比例する値である
ことを特徴とする請求項6に記載の予測装置。
【請求項8】
車両に設置された通信端末に搭載された測位部から、位置情報及び車種情報を、無線ネットワークを介して収集して蓄積した位置情報データベースを更に有し、
移動体価値は、位置情報データベースを用いて、所定の不動産に滞在する車両それぞれの車種から算出したものである
ことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項9】
不動産市場価格を予測する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録手段と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録手段と、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する相関係数推定手段と、
相関係数を用いて、予測対象となる不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する不動産市場価格予測手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
不動産市場価格を予測する装置の予測方法において、
装置は、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録部と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録部と
を有し、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する第1のステップと、
相関係数を用いて、予測対象となる不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する第2のステップと
を実行することを特徴とする予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不動産市場価格を予測する技術に関する。例えば不動産金融証券やゴルフ場会員権の市場価格の予測に適する。
【背景技術】
【0002】
不動産としての店舗の売上げ状況は、その店舗に滞在する人の混雑さによって、ある程度予想することできる。例えばゴルフ場の場合、駐車場の車両の混雑さを知ることができれば、その売上げ状況をある程度予想することができる。また、多数のゴルフ場で人や車両が混雑していればゴルフ関連用品の販売企業の売上げも上がり、閑散としていればその売上げも下がると、予想することができるかもしれない。
【0003】
ここで、ゴルフ場における人や車両が混雑していれば、そのゴルフ会員権の市場価格も上がり、閑散としていればその市場価格も下がると考えられる。ゴルフ会員権とは、会員制のゴルフ場の利用権であり、株式のように時価で、市場で売買される。ゴルフ会員権の市場価格は、インターネットを介してWebサイトから確認することができ、上場株式の価格と同様に日々変動している。
【0004】
従来、ゴルフ場の使用価値、即ちゴルフ会員権の資産価値を、総合的に評価する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、データベースに記憶されたゴルフ場形態、法的整理状況、会員種類、会員数等の情報を用いて、複数の評価区分について資産価値の評価結果を表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不動産の市場価格を予想するために、その不動産における人の混雑さを確認することは難しい。例えばゴルフ場のような不動産は、地域が広大であって、都心からの遠隔地にあり、人の混雑さを日々主観的に確認することはできない。また、複数のゴルフ場の混雑さを全体的に把握することなど、到底できない。
【0007】
一方で、不動産における人や車両が単に混雑しているからといって、その不動産市場価格も高騰するとは限らない。例えばゴルフ会員権の場合、価格帯に応じて、売買注文数や約定数が異なる。また、ゴルフ会員権は、上場株式に比べると圧倒的に流動性が低く、その所望価格で売買できるかどうかもわからない。
【0008】
更に、不動産金融証券が市場で活発に売買されていても、その不動産における人や車両の存在が閑散としており、会計上の倒産の危機に面している場合もある。近年、ゴルフ会員権が市場で活発に売買されているにもかかわらず、多くのゴルフ場が破綻している。
【0009】
即ち、不動産の場合、実際にその場所に訪れて、主観的に人の混雑さを見ないことには、その不動産市場価格が高いのか安いのか又は妥当なのかを、主観的に予想することもできない。特にゴルフ会員権の市場価格は、他のゴルフ会員権の市場価格との相対的なものであって、売買の仲介業者であっても予想することが難しい。
【0010】
これに対し、本願の発明者らは、不動産に滞在する人や車両の混雑さを主観的に判断することなく、位置に基づく客観的なビッグデータを用いて、不動産市場価格を予測することはできないか、と考えた。
【0011】
そこで、本発明は、不動産に滞在する移動体に基づくビッグデータを用いて、不動産市場価格を予測することができる予測装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、不動産市場価格を予測する予測装置であって、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録手段と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録手段と、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する相関係数推定手段と、
相関係数を用いて、予測対象の不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する不動産市場価格予測手段と
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
予測対象の不動産について、現在の移動体価値に対する現在の不動産市場価格が、相関係数から見て高いか安いかを判定する価格変動予測手段と
を更に有することも好ましい。
【0014】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
相関係数は、移動体価値に対する不動産市場価格のグラフにおける単回帰直線である
ことも好ましい。
【0015】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
単回帰直線が引かれ、所定期間毎に移動体価値に対する不動産市場価格をプロットしたグラフを、ユーザに表示するグラフ表示手段と
を更に有することも好ましい。
【0016】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
移動体は、ユーザによって所有される車両であり、
不動産市場価格は、不動産投資証券の市場価格、又は、ゴルフ会員権の市場価格であり、
不動産は、当該不動産を利用するユーザの車両を駐車可能な駐車場を備えている
ことも好ましい。
【0017】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
車両毎に、車種に基づくランク値が付与されており、
移動体価値は、不動産毎に滞在する車両毎のランク値の総和である
ことも好ましい。
【0018】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
車種毎に、ランク値が付与されており、
ランク値は、当該車種の市場価格に比例する値である
ことも好ましい。
【0019】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
車両に設置された通信端末に搭載された測位部から、位置情報及び車種情報を、無線ネットワークを介して収集して蓄積した位置情報データベースを更に有し、
移動体価値は、位置情報データベースを用いて、所定の不動産に滞在する車両それぞれの車種から算出したものである
ことも好ましい。
【0020】
本発明によれば、不動産市場価格を予測する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録手段と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録手段と、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する相関係数推定手段と、
相関係数を用いて、予測対象となる不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する不動産市場価格予測手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、不動産市場価格を予測する装置の予測方法において、
装置は、
不動産毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく移動体価値を記録した移動体価値記録部と、
不動産毎に、不動産市場価格を記録した不動産市場価格記録部と
を有し、
不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する第1のステップと、
相関係数を用いて、予測対象となる不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の予測装置、プログラム及び方法によれば、不動産に滞在する移動体に基づくビッグデータを用いて、不動産市場価格を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明における予測装置を含むシステム構成図である。
【
図2】本発明における予測装置の機能構成図である。
【
図3】移動体価値記録部におけるゴルフ場毎の移動体価値を表す説明図である。
【
図4】相関係数推定部における移動体価値と不動産市場価格との相関関係を表すグラフである。
【
図5】不動産市場価格予測部及び価格変動予測部の予測を表すグラフである。
【
図6】グラフ表示部によって表示された期間経過に応じてプロットされたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
本発明の実施形態によれば、「不動産市場価格」は例えば「ゴルフ会員権」であり、その不動産は「ゴルフ場」であるとして説明する。
勿論、本発明によれば、ゴルフ場会員権に限られるものでもなく、例えばJ-REIT(Japan Real Estate Investment Trust)の投資ファンドのような不動産金融商品であってもよい。商業用不動産を裏付け資産として、証券取引所で日々売買されている証券化金融商品であってもよい。
【0026】
【0027】
図1によれば、ゴルフ場では、不特定多数の車両(移動体)が常時出入りしている。車両はそれぞれ、ユーザによって所有されたものであり、車種も異なる。また、各車両は、通信端末を搭載しており、例えばConnected Carとして携帯通信事業者設備と常に通信している。携帯通信事業設備は、車両ID(例えば加入者ID)毎に、時刻と位置とを対応付けて蓄積することができる。
【0028】
車両の位置とは、例えば以下のようなものである。
(1)車両に搭載された通信端末によって測位された端末測位位置
通信端末2が自ら、GPS(Global Positioning System)によって測位した緯度経度情報である。
(2)通信事業者の基地局やアクセスポイントに接続した通信端末の基地局測位位置
通信端末2を配下とする基地局やアクセスポイントの位置情報から、通信端末の位置を推定したものであってもよい。但し、この位置情報は、空間的粒度が粗いものとなる。
これら位置情報は、緯度経度又は地図座標によって表記されるものであってもよいし、住所名や地図メッシュ番号に変換されたものであってもよい。
【0029】
不動産の中でもゴルフ場は特に、敷地が広大で、不動産同士が隣接することがないために、ゴルフ場に滞在する車両の位置が特定しやすい。そのために、ゴルフ場の範囲内に滞在する車両数もカウントしやすい。尚、ゴルフ場の範囲は、住所の中心位置からの所定半径内であってもよいし、メッシュ状に区分された地域であってもよい。
【0030】
ここで、重要な点として、ゴルフ場に滞在する車両数(移動体数)は、特定の通信事業者の通信事業設備による捕捉車両数であって、現実の車両全てでなくてもよい。特定の通信事業者による捕捉車両は、ゴルフ場に滞在する実際の車両数よりも、少数しかカウントできない。即ち、全ての通信事業者から、全ての車両の位置情報を収集できるわけでもない。本発明によれば、ゴルフ場における絶対的な車両数を特定する必要はない。
【0031】
図2は、本発明における予測装置の機能構成図である。
【0032】
予測装置1は、不動産市場価格を予測するものである。不動産市場価格は、不動産投資証券の市場価格、又は、ゴルフ会員権の市場価格である。また、不動産は、当該不動産を利用するユーザの車両を駐車可能な駐車場を備えている。
【0033】
図2によれば、予測装置1は、位置情報データベース100と、移動体価値記録部101と、不動産市場価格記録部102と、相関係数推定部11と、不動産市場価格予測部12と、価格変動予測部13と、グラフ表示部14を有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、不動産市場価格の予測方法としても理解できる。
【0034】
[位置情報データベース100]
位置情報データベース100は、車両に設置された通信端末2に搭載された測位部(例えばGPS)から、位置情報及び車種情報を、無線ネットワークを介して収集して蓄積したものである。
また、位置情報データベース100は、多数のゴルフ場について、ゴルフ場毎に滞在する車両IDを対応付けて記録する。車両IDから、車種情報も取得可能であるとする。即ち、各ゴルフ場について、所定期間(例えば日、週又は月単位)毎に、車両数のみならず、どのような車種が何台滞在したか、についても集計することができる。
【0035】
[移動体価値記録部101]
移動体価値記録部101は、位置情報データベース100を用いて、不動産(例えばゴルフ場)毎に、当該不動産に滞在する移動体総数に基づく「移動体価値」を記録したものである。移動体価値は、各不動産について、所定期間毎に集計されたものである。
また、移動体が車両である場合、移動体価値には、車両毎の車種に基づく「ランク値」が加味されるものであってもよい。この場合、移動体価値は、不動産毎に滞在する車両毎のランク値の総和となる。
不動産の移動体価値=Σi=1
N(当該不動産に滞在した車両iのランク値)
i:当該不動産に滞在した車両
N:当該不動産に滞在した車両数
【0036】
ランク値は、当該車種の価格(例えば現状の市場価格)に比例する値である。即ち、車種とは、その車両を所有するユーザの経済指標の1つと理解できる。車種は、車格(車の格式(ステータス))を表す。本発明によれば、移動体価値は、不動産に滞在する車両数のみならず、車種に基づくランク値(車格)も考慮することに特徴がある。
勿論、本発明によれば、移動体が車両ではなく、人のようにランク付けできない場合、移動体価値=移動体数と認識してもよい。
【0037】
実社会の中では、人の年収に応じて、所有する自家用車の車格も異なると考えられる。車格が高い車両ほど価格は高額であり、高いランク値が付与される。例えば最高級車や高級車が相当する。一方で、車格が低い車両ほど価格は低額であり、低いランク値が付与される。例えばファミリーカーや軽自動車が相当する。
即ち、ユーザが所有する車両は、そのユーザの経済指標の1つであり、それら車両が複数滞在する不動産(ゴルフ場)は、その不動産の経済指標を表す、と考えることができる。
【0038】
例えば年収が高い人ほど、最高級車のようなランク値の高い車両を所有しがちで、ゴルフ会員権の市場価格が高いゴルフ場へ行くであろう。一方で、年収が低い人ほど、ファミリーカーのようなランク値の低い車両を所有しがちで、ゴルフ会員権の市場価格が低いゴルフ場へ行くであろう。
このような不動産に対する1つの経済指標は、その不動産金融商品(ゴルフ会員権)を取引する投資家や市場関係者にとっては有益な情報となる。また、その不動産金融商品についての売買の判断指標となる。
【0039】
図3は、移動体価値記録部におけるゴルフ場毎の移動体価値を表す説明図である。
【0040】
図3によれば、ゴルフ場A及びゴルフ場Bそれぞれに滞在する車両が表されている。また、車両毎に、車種(車格)に応じて異なるランク値(ポイント)が割り当てられている。
車種A(最高級車) :12ポイント
車種B(高級車) :5ポイント
車種C(ファミリーカー):2ポイント
また、ゴルフ場A及びゴルフ場Bにはそれぞれ、100台の車両が駐車しているとする。この場合、車両毎のランク値を総和した値を、そのゴルフ場の「移動体価値」とする。
ゴルフ場A:(12ポイント×50台)+(5ポイント×50台)=850ポイント
ゴルフ場B:(2ポイント×100台) =200ポイント
更に、ゴルフ場Aのゴルフ会員権価格(不動産市場価格)と、ゴルフ場Bのゴルフ会員権価格とは、300万円で同額であったとする。
【0041】
[不動産市場価格記録部102]
不動産市場価格記録部102は、不動産毎に、不動産市場価格を記録したものである。本発明の実施形態によれば、不動産が「ゴルフ場」である場合、不動産市場価格は「ゴルフ会員権の市場価格」であってもよい。不動産市場価格は、インターネットを介したWebサイトや証券サーバから収集される。
【0042】
[相関係数推定部11]
相関係数推定部11は、不動産毎に、移動体価値と不動産市場価格とを対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数を推定する。相関係数推定部11は、線形の単回帰に基づく機械学習エンジンであってもよい。
【0043】
図4は、移動体価値と不動産市場価格との相関関係を表すグラフである。
【0044】
図4のグラフによれば、縦軸は不動産市場価格を表し、横軸は移動体価値を表す。各プロットは、各不動産における不動産市場価格及び移動体価値を表す。
そして、
図4のグラフによれば、相関係数としての単回帰直線が表されている。本来、移動体価値が高い(車格の高い車両が多く来場する)ほど、その不動産市場価格も高い(ゴルフ会員権の市場価格も高い)ようになる。即ち、単回帰直線は、正の傾きを持った直線をとり、その近辺にプロットが分布する。
【0045】
「相関係数」とは、2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標をいう。相関係数は、-1~+1の実数値をとる。ここでは、相関係数が正であって、2つの変数は正比例となる。
【0046】
相関係数推定部11は、過去の所定期間t'(例えば月単位で過去n(>0)月分)における、以下のような教師データを入力する。
所定期間t'の移動体価値M(t')
所定期間t'の不動産市場価格A(t')
過去の所定期間t’は、現在の所定期間tより前のある1ヶ月を表す(t'=t-N,・・・,t-1、Nは過去期間)。
M(t')とA(t')とは相関性を有するために、単純な線形回帰で訓練することによって、以下のような関係式における相関係数α及びβを推定することができる。
A(t')=α*M(t')+β
推定された相関係数α及びβは、不動産市場価格予測部12へ出力される。
【0047】
[不動産市場価格予測部12]
不動産市場価格予測部12は、相関係数を用いて、予測対象となる不動産の移動体価値を入力し、不動産市場価格を導出する。
【0048】
不動産市場価格予測部12は、相関係数α及びβを用いて、対象期間tの移動体価値M(t)から、同一の対象期間tの予測不動産市場価格P(t)を算出する。
P(t)=α*M(t)+β
予測不動産市場価格P(t)は、例えば対象期間tにおける予測されたゴルフ会員権の市場価格である。これによって、不動産市場価格A(t)が公表される前であっても、予測不動産市場価格P(t)を導出することができる。
【0049】
図5は、不動産市場価格予測部及び価格変動予測部の予測を表すグラフである。
【0050】
図5のグラフによれば、
図4と同様に、ゴルフ場Aのゴルフ会員権の市場価格と、ゴルフ場Bのゴルフ会員権の市場価格とは、300万円であって同額である。しかしながら、相関係数の単回帰直線に対する対称位置が異なる。
ゴルフ場Aのゴルフ会員権の市場価格は、単回帰直線の下側にある。ゴルフ場Aについて、移動体価値は850ポイントであって、単回帰直線から見るとゴルフ会員権の市場価格は330万円であると予測される。
一方で、ゴルフ場Bのゴルフ会員権の市場価格は、単回帰直線の上側にある。ゴルフ場Bについて、移動体価値は200ポイントであって、単回帰直線から見るとゴルフ会員権の市場価格は270万円であると予測される。
【0051】
[価格変動予測部13]
価格変動予測部13は、予測対象となる不動産について、現在の移動体価値に対する現在の不動産市場価格が、相関係数から見て高いか安いかを判定する。
【0052】
図5のグラフによれば、ゴルフ場Aのゴルフ会員権の市場価格は、安値であって、将来的に値上がりする潜在性が高いと予測することができる。即ち、単回帰直線よりも下側に位置するゴルフ場Aのゴルフ会員権の市場価格は、来場者の経済指標に対して過小評価されているとみるべきである。
一方で、ゴルフ場Bのゴルフ会員権の市場価格は、高値であって、将来的に値下がりする潜在性が高いと予測することができる。即ち、単回帰直線よりも上側に位置するゴルフ場Bのゴルフ会員権の市場価格は、来場者の経済指標に対して過大評価されているとみるべきである。
【0053】
[グラフ表示部14]
グラフ表示部14は、単回帰直線が引かれ、所定期間毎に移動体価値に対する不動産市場価格をプロットしたグラフを、ユーザに表示する。
【0054】
図6は、グラフ表示部によって表示された期間経過に応じてプロットされたグラフである。
【0055】
図6によれば、ゴルフ場A及びゴルフ場Bに注目して、期間経過に応じて逐次、移動体価値に対するゴルフ会員権の市場価格(不動産市場価格)をプロットしたものである。
ゴルフ場Aについては、プロットが少しずつ単回帰直線へ近づくように移動している。ここでは、期間経過に応じて、ゴルフ場Aの移動体価値も少しずつ高くなっていき、ゴルフ会員権の市場価格も、単回帰直線によって指示される350万円に達している。
ゴルフ場Bについても、プロットが少しずつ単回帰直線へ近づくように移動している。ここでは、期間経過に応じて、ゴルフ場Bの移動体価値も少しずつ低くなっていき、ゴルフ会員権の市場価格も、単回帰直線によって指示される250万円に達している。
ゴルフ場A及びゴルフ場Bにおけるゴルフ会員権は、当初、
図5のように同額(300万円)であったものが、移動体価値に応じた市場価格(ゴルフ場Aは350万円、ゴルフ場Bは250万円)に落ち着くこととなる。
【0056】
以上、詳細に説明したように、本発明の予測装置、プログラム及び方法によれば、不動産に滞在する移動体に基づくビッグデータを用いて、不動産市場価格を予測することができる。このような情報は、不動産の市場関係者や投資家、経営者や、特に富裕層にとっては、極めて有用なものとなる。
【0057】
改めて、本発明の有用性について詳述する。
例えばゴルフ会員権の場合、その市場価格は、売り手又は買い手の希望価格によって成立し、それが妥当であるのかどうかを判断することは極めて難しい。ゴルフ会員権の場合、売買の取引数が少ないことに基づく。本来、多くの富裕層が訪れるゴルフ場のゴルフ会員権の市場価格は高額であろうし、少ない一般収入層しか訪れないゴルフ場のゴルフ会員権の価格は低額となるべきであろう。
【0058】
ゴルフ会員権の売買を検討する投資家は、ゴルフ場の経営状況を把握するために、そのゴルフ場の決算書を確認する。しかしながら、ゴルフ場の決算書の発行頻度は、多くても四半期毎であって、経営状況を確認できる頻度が極めて少ない。一般的な不動産であっても、月毎又は四半期毎にしか公表されない。勿論、経営者としては、自社のゴルフ場のゴルフ会員権の市場価格を、他のゴルフ場のゴルフ会員権の市場価格と比較しながら、自社のゴルフ場の経営状況を判断しようとする。そのためにも、経営者は、自らのゴルフ場及び他のゴルフ場の経営状況をリアルタイムに把握したい、とする需要もある。
【0059】
ゴルフ場への来場者について、富裕層のような個人情報(年収や、銀行口座残高、居住地の地価、所持品など)を知ることができれば、ゴルフ場の経営状況を判断する経済指標となり得る。しかしながら、そのような来場者の個人情報を収集することはできない。一方で、高額なゴルフ会員権となるゴルフ場への来場者は、一般的に、自らの富裕度合いを見せたい人も多い。それが端的に表れるのが、自家用車であって、その車種に基づく車格である。
【0060】
そこで、本願の発明者らは、ゴルフ会員権の市場価格と、ゴルフ場における車両の混雑さ及びその車格とは、相関性を有するものとして。本発明を創作した。即ち、ゴルフ会員権の市場価格は、そのゴルフ場への来場者数や年収層に裏付けられたものであると考えた。
本発明によれば、日毎又は週毎に集計可能な、不動産に滞在する移動体に基づくビッグデータを用いて、不動産市場価格を予測することができる。
【0061】
尚、これにより、例えば「不動産に滞在する移動体を用いて不動産市場価格を予測することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標8(SDGs)の「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」に貢献することが可能となる。
【0062】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0063】
1 予測装置
100 位置情報データベース
101 移動体価値記録部
102 不動産市場価格記録部
11 相関係数推定部
12 不動産市場価格予測部
13 価格変動予測部
14 グラフ表示部
2 通信端末