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特開2022-155617企業同士の間の連鎖確率を予測する装置、プログラム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155617
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】企業同士の間の連鎖確率を予測する装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/04 20120101AFI20221006BHJP
【FI】
G06Q40/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058945
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515303481
【氏名又は名称】金子 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】美嶋 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 真弥
(72)【発明者】
【氏名】木村 塁
(72)【発明者】
【氏名】大角 良太
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 紀明
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB52
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現実の商取引状況を認識し、企業同士の連鎖確率を予測する装置等を提供する。
【解決手段】予約装置は、第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録部と、第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する移動割合算出部と、第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する連鎖確率算出部とを有する。また、第1の企業の株価と第2の企業の株価とを時系列に記録した株価記録手段と、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρを算出する株価相関係数算出手段と、を更に有する。連鎖確率算出部は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρに、第1の企業から第2の企業への移動割合Tを乗じたρ×Tとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測する予測装置であって、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録手段と、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する移動割合算出手段と、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する連鎖確率算出手段と
を有することを特徴とする予測装置。
【請求項2】
第1の企業の株価と第2の企業の株価とを時系列に記録した株価記録手段と、
第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρを算出する株価相関係数算出手段と
を更に有し、
連鎖確率算出手段は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρに、第1の企業から第2の企業への移動割合Tを乗じたρ×Tとする
を有することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを引数とした任意の関数によって、第1の企業の資産に対する第2の企業の資産の資産相関係数を算出する
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の予測装置。
【請求項4】
企業毎に、当該企業に滞在する人が所持する携帯端末における滞在数nを記録した滞在数記録手段と、
全ての企業の滞在数nに対する各企業の滞在数nから価値Aを設定する企業価値設定手段と
を更に有し、
連鎖確率算出手段は、連鎖確率Pを、ρ×Tに価値Aを乗じたρ×T×Aとする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項5】
連鎖確率Pを、第1の企業が倒産した場合に第2の企業が連鎖的に倒産する連鎖倒産確率とする連鎖倒産確率算出手段を
更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項6】
連鎖倒産確率算出手段は、マートンモデル式における株価相関係数ρに、連鎖確率を代入することによって連鎖倒産確率を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の予測装置。
【請求項7】
株の売買注文をオペレータへ通知する売買注文通知手段を更に有し、
売買注文通知手段は、
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pが所定閾値以下となる場合に、
第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が下落すると共に、第2の企業の株価も下落した際に、第2の企業の株に対する「買い」を通知する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項8】
株の売買注文をオペレータへ通知する売買注文通知手段を更に有し、
売買注文通知手段は、
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pが所定閾値以下となる場合に、
第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が上昇すると共に、第2の企業の株価も上昇した際に、第2の企業の株に対する「売り」を通知する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項9】
第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測するプログラムであって、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録手段と、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する移動割合算出手段と、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する連鎖確率算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測する装置の予測方法であって、
装置は、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録部を有し、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する第1のステップと、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを予測する第2のステップと
を実行することを特徴とする予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業同士の間の連鎖確率を予測する技術に関する。特に連鎖倒産確率を予測することに適する。
【背景技術】
【0002】
企業は、多様且つ多数の企業との間で商取引によって結び付くことで、自社の製品やサービスを需要者へ提供していく。このような、企業同士の間の商取引状況は、一般的に、企業の有価証券報告書における貸借対照表に記載された売掛金や手形、買掛金などによって確認される。また、ディスクロージャー誌によれば、企業毎の商取引状況を確認することができる。但し、このような開示情報は、決算時点や平均的な商取引状況の情報に過ぎない。
【0003】
例えば銀行のような金融機関は、与信先企業の取引先企業を把握することは、信用ポートフォリオを管理する上で重要である。与信先企業は、優良企業と商取引することによって、良い影響の連鎖を受ける可能性がある。一方で、与信先企業は、取引先企業の破綻によって、悪い影響の連鎖を受ける可能性もある。即ち、金融機関にとって、企業同士の間で連鎖するような商取引状況を知ることは、大変重要である。
また、投資家も、投資先企業の株価に対する潜在的影響を探る上で、企業同士の間の株価の変動リズムである相関係数を用いて、自らのポートフォリオのリスク管理に備える。即ち、過去の時系列の株価が連動している企業同士は、何らかの商取引によって「連鎖」しており、相関係数が高いと判断されていた。
このように、金融機関や投資家のポートフォリオリスク管理には、所在地や業種などの概要情報のみながら、企業同士の間の株価相関係数も、1つの要素として利用されている。
【0004】
実際に商取引している企業同士の間の連鎖として、最悪なものが、「連鎖倒産」である。ある企業が倒産した場合、他の企業も連鎖して倒産する確率を「連鎖倒産確率」と称する。この連鎖倒産確率には、過去の時系列の株価の「株価連動性」、即ち「株価相関係数」が重要な要素となる。
【0005】
従来、企業同士の間の連鎖倒産の関連性を把握することによって、金融機関が、顧客企業の融資債権に関する財務リスクを管理することができる技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、ある企業の倒産が、他の企業の倒産に影響を及ぼす倒産方向性のつながりを可視化することができる。特に、融資先企業間の相関係数に基づいて、融資先企業間の条件付き倒産確率を算出することができる。また、企業同士の倒産伝播における関連性を示す条件付き倒産確率のうち、最も重要な関連性のみを比較して判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5953416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、企業同士の間で株価連動性が高いとしても、両社の間に商取引関係が全くない場合もある。株価連動性は、値上がり及び値下がりの「変動リズム」が近いというだけである。
例えば同種の製品サービスを提供する企業同士の間で、株価連動性は高いが、商取引が全く無い場合であっても、連鎖倒産確率は高いと判断されていた。
【0008】
これに対し、本願の発明者らは、企業同士の間の連鎖確率は、商取引状況に応じて考慮すべきではないか、と考えた。
【0009】
例えば企業1が優良な新製品を発表した場合、企業1と商取引のある企業2にとっては、連鎖的な良い影響があるかもしれないが、企業1と商取引のない企業5にとっては、何ら影響はない。
当然、例えば企業1が倒産した場合、企業1商取引のある企業2にとっては、連鎖的な悪い影響があるかもしれないが、企業1と商取引のない企業5にとっては、何ら影響はない。
それにも拘わらず、企業1の株価と企業5の株価との「変動リズム」が同じであって、株価相関係数が高い場合、企業1が倒産すると、企業5の株価も一時的に暴落することとなるであろう。しかしながら、企業1と企業5との間で商取引がない場合、企業5の株価は、時間経過に応じて、本来の水準に収斂していくこととなる。
【0010】
そこで、本発明は、現実の商取引状況を認識することによって、企業同士の間の連鎖確率を予測する装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測する予測装置であって、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録手段と、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する移動割合算出手段と、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する連鎖確率算出手段と
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
第1の企業の株価と第2の企業の株価とを時系列に記録した株価記録手段と、
第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρを算出する株価相関係数算出手段と
を更に有し、
連鎖確率算出手段は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρに、第1の企業から第2の企業への移動割合Tを乗じたρ×Tとする
を有することも好ましい。
【0013】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを引数とした任意の関数によって、第1の企業の資産に対する第2の企業の資産の資産相関係数を算出する
を有することも好ましい。
【0014】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
企業毎に、当該企業に滞在する人が所持する携帯端末における滞在数nを記録した滞在数記録手段と、
全ての企業の滞在数nに対する各企業の滞在数nから価値Aを設定する企業価値設定手段と
を更に有し、
連鎖確率算出手段は、連鎖確率Pを、ρ×Tに価値Aを乗じたρ×T×Aとする
ことも好ましい。
【0015】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
連鎖確率Pを、第1の企業が倒産した場合に第2の企業が連鎖的に倒産する連鎖倒産確率とする連鎖倒産確率算出手段を
更に有することも好ましい。
【0016】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
連鎖倒産確率算出手段は、マートンモデル式における株価相関係数ρに、連鎖確率を代入することによって連鎖倒産確率を算出する
ことも好ましい。
【0017】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
株の売買注文をオペレータへ通知する売買注文通知手段を更に有し、
売買注文通知手段は、
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pが所定閾値以下となる場合に、
第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が下落すると共に、第2の企業の株価も下落した際に、第2の企業の株に対する「買い」を通知する
ことも好ましい。
【0018】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
株の売買注文をオペレータへ通知する売買注文通知手段を更に有し、
売買注文通知手段は、
第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pが所定閾値以下となる場合に、
第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が上昇すると共に、第2の企業の株価も上昇した際に、第2の企業の株に対する「売り」を通知する
ことも好ましい。
【0019】
本発明によれば、第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測するプログラムであって、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録手段と、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する移動割合算出手段と、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する連鎖確率算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測する装置の予測方法であって、
装置は、
第1の企業から他の企業毎へ移動体が移動した移動数を記録した移動数記録部を有し、
第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する第1のステップと、
第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを予測する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の予測装置、プログラム及び方法によれば、現実の商取引状況を認識するために、移動体に基づくビッグデータを用いて、企業同士の間の連鎖確率を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明におけるシステム構成図である。
図2】本発明における予測装置の第1の機能構成図である。
図3】移動数記録部における移動数を表す説明図である。
図4】移動割合に基づく連鎖確率を表す説明図である。
図5】本発明における予測装置の第2の機能構成図である。
図6】移動割合及び株価相関確率に基づく連鎖確率を算出する説明図である。
図7】本発明における予測装置の第3の機能構成図である。
図8】本発明における予測装置の第4の機能構成図である。
図9】携帯端末の滞在数に基づく企業価値を表す説明図である。
図10】企業価値及び移動割合に基づく連鎖確率を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0025】
図1によれば、企業同士の間で、多数の車両(移動体)が常時出入りしている。車両は、例えばトラックのような企業所有のものであって、ある企業からの他の企業へ製品を運搬する。
各車両は、通信端末2を搭載しており、例えばConnected Carとして携帯通信事業者設備と常に通信している。携帯通信事業設備は、車両ID(例えば加入者ID)毎に、時刻と位置情報とを対応付けて蓄積することができる。車両毎の位置情報を時系列に結ぶことによって、その移動を検知することができる。
【0026】
車両の位置情報とは、例えば以下のようなものである。
(1)車両に搭載された通信端末によって測位された端末測位位置
通信端末2が自ら、GPS(Global Positioning System)によって測位した緯度経度情報である。
(2)通信事業者の基地局やアクセスポイントに接続した通信端末の基地局測位位置
通信端末2を配下とする基地局やアクセスポイントの位置情報から、通信端末の位置を推定したものであってもよい。但し、この位置情報は、空間的粒度が粗いものとなる。
これら位置情報は、緯度経度又は地図座標によって表記されるものであってもよいし、住所名や地図メッシュ番号に変換されたものであってもよい。
企業の敷地(地理範囲)は、住所の中心位置からの所定半径内であってもよいし、メッシュ状に区分された地域であってもよい。
【0027】
ここで、重要な点として、検知される企業の敷地に滞在する車両数(移動体数)は、特定の通信事業者の通信事業設備による捕捉車両数であって、現実の車両全てでなくてもよい。特定の通信事業者による捕捉車両は、現実に企業に滞在する実際の車両数よりも、少数しかカウントできない。即ち、全ての通信事業者から、全ての車両の位置情報を収集できるわけでもない。本発明によれば、企業の敷地における絶対的な車両数を特定する必要はない。
【0028】
図1によれば、企業1によって保有される車両が、企業1の敷地から出て、企業2の敷地に入ったことが検出された際に、企業1から企業2へ車両1台の移動があったとカウントする。これは、例えば企業1から企業2へ商品が売買されたと推定してもよい。
同様に、企業2によって保有される車両が、企業2の敷地から出て、企業3の敷地に入ったことが検出された際に、企業2から企業3へ車両1台の移動があったとカウントする。
【0029】
図2は、本発明における予測装置の第1の機能構成図である。
【0030】
予測装置1は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率を予測するものである。
図2における第1の機能構成に基づく予測装置1は、最も簡易な構成であって、位置情報データベース100と、移動数記録部101と、移動割合算出部11と、連鎖確率算出部12と、売買注文通知部13とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムとして実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、連鎖確率の予測方法としても理解できる。
【0031】
[位置情報データベース100]
位置情報データベース100は、車両(移動体)毎に、当該車両に設置された通信端末2に搭載された測位部(例えばGPS)から、位置情報を、無線ネットワークを介して収集して蓄積したものである。位置情報データベース100は、所定期間(例えば日、週又は月単位)毎に、各車両IDの位置情報を収集する。位置情報は、携帯通信事業者によって逐次収集される。
【0032】
[移動数記録部101]
移動数記録部101は、企業毎に、他の企業へ移動体が移動した移動数を記録したものである。
移動数記録部101は、位置情報データベース100を用いて、単位時間毎に車両の位置から、企業同士の間で移動した「移動数」を集計する。
【0033】
図3は、移動数記録部における移動数を表す説明図である。
図3によれば、所定期間に集計された移動数m及び総移動数Mが、以下のように記録されている。
企業1->企業2:移動数m(1,2)=3
企業1->企業3:移動数m(1,3)=1
企業1->企業4:移動数m(1,4)=1
企業2->企業3:移動数m(2,3)=1
企業3->企業4:移動数m(3,4)=1
企業5->企業6:移動数m(5,6)=2
企業1の総移動数M(1)=5
企業2の総移動数M(2)=1
企業3の総移動数M(3)=1
企業4の総移動数M(4)=0
企業5の総移動数M(5)=2
【0034】
[移動割合算出部11]
移動割合算出部11は、第1の企業から他の全ての企業への総移動数に対する、第1の企業から第2の企業への移動数の移動割合Tを算出する。これは、企業毎に算出される。
【0035】
図4は、移動割合に基づく連鎖確率を表す説明図である。
図4によれば、企業同士毎の移動割合が、以下のように算出されている。
企業1->企業2:移動割合t(1,2)=3/5=0.6
企業1->企業3:移動割合t(1,3)=1/5=0.2
企業1->企業4:移動割合t(1,4)=1/5=0.2
企業2->企業3:移動割合t(2,3)=1/1=1.0
企業3->企業4:移動割合t(3,4)=1/1=1.0
企業5->企業6:移動割合t(5,6)=2/2=1.0
【0036】
[連鎖確率算出部12]
連鎖確率算出部12は、第1の企業から第2の企業への移動割合Tに応じて、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを算出する。
図2によれば、最も簡易な構成であって、図4によって算出された移動割合Tをそのまま、連鎖確率Pとしたものである。
算出された連鎖確率Pは、アプリケーションへ出力されると共に、売買注文通知部13へ出力されるものであってもよい。
【0037】
[売買注文通知部13]
売買注文通知部13は、第1の企業と第2の企業との株価を常時、証券サーバから取得し、株の売買注文をオペレータへ通知する。
【0038】
売買注文通知部13は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pが、所定閾値以下となる場合(連鎖確率P<所定閾値)に、以下のように機能させる。この場合は、例えば第1の企業から第2の企業への車両の移動に伴う商取引が少ないことを意味する。
(通知1)第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が下落すると共に、第2の企業の株価も下落した際に、第2の企業の株に対する「買い(ロングポジション)」を通知する。
ここで、通知1の「イベント」とは、例えば第1の企業の倒産であってもよい。これによって、第2の企業の株価も変動リズムに引き摺られて暴落したとする。そのような場合でも、第1の企業と商取引が少ない第2の企業の株価は、その後、元の水準に収斂して戻ると考えられる。
【0039】
(通知2)第1の企業にイベントが発生することによって、第1の企業の株価が上昇すると共に、第2の企業の株価も上昇した際に、第2の企業の株に対する「売り(ショートポジション)」を通知する。
ここで、通知2の「イベント」とは、例えば第1の企業の新商品発表であってもよい。これによって、第2の企業の株価も変動リズムに引き摺られて暴騰したとする。そのような場合でも、第1の企業と商取引が少ない第2の企業の株価は、その後、元の水準に収斂して戻ると考えられる。
【0040】
図5は、本発明における予測装置の第2の機能構成図である。
【0041】
図5における第2の機能構成に基づく予測装置1は、企業同士の間の車両の移動割合のみならず、株価相関係数を考慮した連鎖確率Pを予測するものである。予測装置1は、図2と比較して、株価記録部102と、株価相関係数算出部14とを更に有する。
【0042】
[株価記録部102]
株価記録部102は、第1の企業の株価と第2の企業の株価とを時系列に記録したものである。企業の株価は、証券サーバから時系列に取得することができる。
【0043】
[株価相関係数算出部14]
株価相関係数算出部14は、株価記録部102を用いて、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρを算出する。株価相関係数ρは、連鎖確率算出部12へ出力される。
「相関係数」とは、2つの確率変数の間にある線形な関係の強弱を測る指標をいう。相関係数は、-1~+1の実数値をとる。相関係数が正のときは、2つの確率変数は正比例となる。
【0044】
株価相関係数算出部14は、第1の企業の株価と第2に企業の株価とを時系列に対応付けた教師データを入力し、訓練によって相関係数ρ及びβを推定する。相関係数推定部11は、線形回帰に基づく機械学習エンジンであってもよい。
第2の企業の株価=ρ*第1の企業の株価+β
【0045】
[連鎖確率算出部12]
連鎖確率算出部12は、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを、第1の企業の株価と第2の企業の株価との間の株価相関係数ρに、第1の企業から第2の企業への移動割合Tを乗じたρ×Tとする。
【0046】
図6は、移動割合及び株価相関確率に基づく連鎖確率を算出する説明図である。
【0047】
図6における移動割合Tの行列は、移動元企業が行に並び、移動先企業が列に並んで、各要素に移動割合tが記述されている。例えば、企業1から企業2への移動割合は、0.6であることが理解できる。また、例えば、企業1から企業5への移動割合は、0.0であることも理解できる。
また、図6における株価相関確率ρの行列は、各企業が行及び列に並んで、各要素に株価相関確率ρが記述されている。ここでは、上三角行列と下三角行列とは対称となる。例えば、企業1と企業2との間の株価相関確率は、0.9であることが理解できる。また、例えば、企業1と企業5との間の株価相関確率は、0.8であることも理解できる。
【0048】
このような移動割合T及び株価相関確率ρを入力した連鎖確率算出部12は、アダマール積ρ○Tを、連鎖確率Pとして算出する。
図6によれば、例えば、企業1と企業2との間の連鎖確率Pは、0.9×0.6=0.54と算出される。また、例えば、企業1と企業5との間の連鎖確率Pは、0.8×0.0=0.0と算出される。
このように、連鎖確率算出部12は、企業同士の間の株価相関係数を考慮した連鎖確率Pを予測することができる。
【0049】
図6によれば、企業iから企業jへ流出する移動割合t(i,j)が表されている。企業iと企業jとの間の移動割合とは、企業iから企業jへの移動割合と、企業jから企業iへの移動割合との2方向がある。
ここで、企業iと企業jとの間の移動割合とは、企業iから企業jへの移動割合と、企業jから企業iへの移動割合との平均値としてもよい。その場合、移動割合Tの行列は、例えば下三角行列のみに要素が記述されたものとなる。
【0050】
図7は、本発明における予測装置の第3の機能構成図である。
【0051】
図7によれば、図5と比較して、連鎖倒産確率算出部15を更に有する。連鎖確率は、例えば連鎖倒産確率として算出する。連鎖倒産確率は、連鎖確率Pを、第1の企業が倒産した場合に第2の企業が連鎖的に倒産する確率とする。
【0052】
[連鎖倒産確率算出部15]
連鎖倒産確率算出部15は、連鎖確率Pに基づいて、第1の企業が倒産した場合に第2の企業が連鎖的に倒産する連鎖倒産確率(Conditional Default Probability)を算出するものである。具体的には、マートンモデルを用いた連鎖倒産確率であってもよい。
【0053】
貸借対照表によれば、借方に「資産」が表示され、貸方に「負債」及び「資本」が表示される。倒産とは、資産が負債よりも減少した状況を意味する(倒産=資産<負債)。ここで、負債が変動しない場合を想定すると、貸方における資本の変動が、借方における資産の変動につながる。また、資本の変動の要因として、株価の変動がある。そのように考えると、株価の変動は、資産の変動へ影響することとなる。
【0054】
即ち、第1の企業から第2の企業への連鎖確率Pを、移動割合Tと株価相関係数ρとの積とすることによって、連鎖確率Pに株価の影響を含めることができる。結果的に、連鎖確率Pを引数とした任意の関数f(P)によって、第1の企業の資産に対する第2の企業の資産の資産相関係数を算出することもできる。
【0055】
例えば、企業Aについて、現在の資産価値A0とするK期の資産価値AKは、以下のように算出される。
【数1】
r:リスク・フリーレート
σ:ボラティリティ
W:標準ブラウン運動
【0056】
企業Aの倒産確率Pは、K期の資産価値AKが負債DAよりも下回る確率P(AK<DA)である。
【数2】
N(・):標準正規分布の分布関数
ln:自然対数
A:企業Aにおける代替項
【0057】
次に、企業B(第1の企業)が倒産した条件で、企業A(第2の企業)が倒産する連鎖倒産確率P(AK<DA|BK<DB)は、以下のように算出される(例えば特許文献1参照)。
【数3】
ρAB:企業Aの株価と企業Bの株価との株価相関係数
B:企業Bにおける代替項
【0058】
ここで、本発明によれば、マートンモデル式における株価相関係数ρに、連鎖確率ρ○Tを代入することによって連鎖倒産確率を算出する。以下のように、企業Aと企業Bとの間の連鎖確率ρAB○TABが代入されている。
【数4】
この式によれば、企業Aと企業Bとの間の移動割合TAB=0である場合、N(dA)となり、企業Aの連鎖倒産確率は、企業Bの影響を全く受けることなく企業Aのみの倒産確率で表される。
【0059】
図4及び図6によれば、企業1と企業5との間では連鎖倒産確率ρ×T=0となり、企業1の倒産は、企業5の倒産に全く影響しないことが理解できる。
【0060】
図8は、本発明における予測装置の第4の機能構成図である。
【0061】
図8によれば、図7と比較して、予測装置1は、滞在数記録部103と、企業価値設定部16とを更に有する。
【0062】
[滞在数記録部103]
滞在数記録部103は、位置情報データベース100を用いて、企業の敷地毎に、当該企業に滞在する人が所持する携帯端末における滞在数nを記録したものである。
滞在数は、携帯通信事業者によって日々集計され、確定的な数値であっても短期間に取りまとめられる。ここでは、その企業の敷地に滞在する人数(例えば従業員数)を集計する。
【0063】
図9は、携帯端末の滞在数に基づく企業価値を表す説明図である。
図9によれば、各企業の敷地に滞在する携帯端末の位置情報から、以下の人数が検知されたとする。
企業1:価値A(1)=300人
企業2:価値A(2)=200人
企業3:価値A(3)=100人
企業4:価値A(4)=0人
企業5:価値A(5)=200人
例えば、企業1の製品の付加価値は、企業2の製品の1.5倍であり、企業3の製品の3倍であると推定される。
【0064】
[企業価値設定部16]
企業価値設定部16は、全ての企業の滞在数nに対する各企業の滞在数nから価値Aを設定する。企業価値Aは、連鎖確率算出部12へ出力される。
【0065】
ここで、企業価値として、人の携帯端末の位置情報を用いる理由について詳述する。
当然ながら、携帯端末の位置情報は、その時点における人の存在を表す。例えば企業に従事する労働者の収入には大きな差はないという自然な仮定を置く。そのとき、企業の敷地における携帯端末の滞在数は、当該企業から生産される製品サービスの付加価値の総和と、間接的に強い相関性を持つ。即ち、付加価値の高い産業は、多くの労働者に働く場を提供し、そうでない産業は、付加価値に合わせた労働者数しか提供しない。逆に言えば、多くの労働力を必要とする産業は、付加価値が高いということを意味する。
【0066】
図10は、企業価値及び移動割合に基づく連鎖確率を表す説明図である。
【0067】
連鎖確率算出部12は、連鎖確率Pを、ρ×Tに価値Aを乗じたρ×T×Aとする。
図10によれば、以下のように移動割合tを算出する。
企業1->企業2:移動割合t(1,2)=3×3/5=1.8
企業1->企業3:移動割合t(1,3)=3×1/5=0.6
企業1->企業4:移動割合t(1,4)=3×1/5=0.6
企業2->企業3:移動割合t(2,3)=1×1/1=1.0
企業3->企業4:移動割合t(3,4)=1×1/1=1.0
企業5->企業6:移動割合t(5,6)=1×1/1=1.0
【0068】
連鎖確率算出部12は、企業価値Aを考慮した移動割合Tを用いて、連鎖確率(ρ○T○A)を算出することができる。
【0069】
尚、他の実施形態として、前述した図8における連鎖倒産確率算出部15は、企業価値設定部16から出力された企業価値Aを、企業資産Aとして置き換えて、連鎖倒産確率を算出するものであってもよい。
【0070】
以上、詳細に説明したように、本発明の予測装置、プログラム及び方法によれば、現実の商取引状況を認識するために、移動体に基づくビッグデータを用いて、企業同士の間の連鎖確率を予測することができる。
【0071】
本発明によれば、車両の位置情報を商取引状況としてダイナミックに集計することによって、企業同士の間における連鎖確率を予測し、信用ポートフォリオのリスク管理に適用することができる。また、本発明によれば、企業同士の間における車両の移動割合に株価相関係数を乗算した連鎖確率を算出することによって、株価連動を考慮した連鎖確率を予測することもできる。更に、その連鎖確率を、例えばマートンモデルのような算出式に適用し、連鎖倒産確率を予測することもできる。本発明における連鎖確率及び連鎖倒産確率は、日々変化する企業同士の間の車両の位置情報を用いているために、リアルタイムに算出することができる。
【0072】
尚、これにより、例えば「企業同士の間の連鎖確率を予測することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標8(SDGs)の「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」に貢献することが可能となる。
【0073】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0074】
1 予測装置
100 位置情報データベース
101 移動数記録部
102 株価記録部
103 滞在数記録部
11 移動割合算出部
12 連鎖確率算出部
13 売買注文通知部
14 株価相関係数算出部
15 連鎖倒産確率算出部
16 企業価値設定部
2 通信端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10