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特開2022-155620校正方法、校正システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155620
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】校正方法、校正システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G05B23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058949
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
(72)【発明者】
【氏名】浦上 貢輔
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 北斗
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 翔平
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑紀
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA03
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF24
3C223FF35
3C223FF47
3C223GG01
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】計測器の計測値を自動的に校正することができる。
【解決手段】校正方法は、コンピュータによる校正方法であって、プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、安定状態と判定された場合、対象パラメータの計測値と対象パラメータに関連するパラメータとを用いて、計測値の校正要否を判断するステップと、校正が必要と判定された場合、前記計測値の校正値を計算するステップと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによる校正方法であって、
プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、
安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判定するステップと、
校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと、
を有する校正方法。
【請求項2】
前記安定状態にあるかどうかを判定するステップでは、
所定期間における所定のパラメータの初期値と最終値の差分が閾値以内であり、かつ
所定期間における前記パラメータの最大値と最小値の差分が閾値以内である場合に安定状態にあると判定する
請求項1に記載の校正方法。
【請求項3】
前記計測値の校正要否を判断するステップでは、
前記関連パラメータと、当該関連パラメータの値から前記校正対象パラメータの推定値を算出する関数と、を用いて、前記校正対象パラメータの真値を推定し、推定した真値と前記校正対象パラメータの計測値との差が閾値以上の場合、校正が必要と判定する、
請求項1または請求項2に記載の校正方法。
【請求項4】
前記計測値の校正要否を判定するステップにおいて校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップでは、前記校正対象パラメータの校正値を、前記関連パラメータと前記関数に基づいて算出し、前記計測値を前記校正値に変換する変換係数を算出する、
請求項3に記載の校正方法。
【請求項5】
前記校正対象パラメータの校正値を、前記校正対象パラメータの計測値との差が所定の範囲内となるような値が計測される他の計測点における前記校正対象パラメータの値と比較し、前記校正値の妥当性を判定するステップ、
をさらに有する請求項1から請求項4の何れか1項に記載の校正方法。
【請求項6】
前記校正値を計算するステップで計算された校正値によって前記計測値の校正を行うステップ、
をさらに有する請求項1から請求項5の何れか1項に記載の校正方法。
【請求項7】
プラントが安定状態にあるかどうかを判定する状態判定部と、
安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判断する校正要否判定部と、
校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算する校正値計算部と、
を有する校正システム。
【請求項8】
コンピュータに、
プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、
安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判定するステップと、
校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、校正方法、校正システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、オリフィスプレートやフローノズル等を用いて冷却水などの流量を計測することがある。オリフィスプレート等にスケールが付着すると、流量の計測値が見かけ上変動する。これに対し、定期的に他のパラメータから、真の流量を推定し、真の流量と計測値とを比較し、この差異が大きい場合には、計測値を真値に合わせて補正する作業を実施している。例えば、真の流量の推定は、数週間に1回程度行われ、真の流量の推定値と計測値の差異が大きいか否かが判断され、差異が大きい場合に計測値の補正が行われる。また、定格流量が100(m/s)、現在の流量計測値が50(m/s)であれば、現在の流量を50%と換算し、この値によってプラントの制御や監視を行う場合がある。このように所定の定格値や最大値との比率・割合でパラメータの値を管理する場合には、真の流量が100(m/s)であって、スケールの付着により102(m/s)と計測されるような場合には、換算時の分母である100(m/s)を102(m/s)に置き換える。この作業を計測値の校正と呼ぶ。
【0003】
特許文献1には、原子力プラントの主給水管路に設置されたベンチュリを用いて測定した給水流量が、ベンチュリの汚れに起因する計測誤差を含む可能性があることに着目し、給水流量に代わる他のパラメータに基づいて、原子力プラントの制御を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3087766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、真の計測値の推定、推定値と計測値の差異が大きいか否かの判断、計測値の校正という一連の作業は、全て人手にて行われており、この作業負担を低減することや、計測値の校正に要する時間の短縮が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる校正方法、校正システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の校正方法は、コンピュータによる校正方法であって、プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判定するステップと、校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと、を有する。
【0008】
本開示の校正システムは、プラントが安定状態にあるかどうかを判定する状態判定部と、安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判断する校正要否判定部と、校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算する校正値計算部と、を有する。
【0009】
本開示のプログラムは、コンピュータに、プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判定するステップと、校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の校正方法、校正システム及びプログラムによれば、計測値の校正作業の負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る原子力プラントの概略図である。
図2】実施形態に係る校正システムの一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る校正処理の一例を示す第1のフローチャートである。
図4】実施形態に係る校正処理の一例を示す第2のフローチャートである。
図5】実施形態に係る校正システム等のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の校正方法について、図1図5を参照して説明する。
<実施形態>
(構成)
本実施形態の校正システムの構成について、図1図2を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る原子力プラントの概略図である。図2は、実施形態に係る校正システムの一例を示すブロック図である。本実施形態の校正システム50は、原子力プラント1に設けられた計測器が計測するパラメータの値を校正する。計測器にはスケール等が付着することがあり、この影響により計測値と実際のパラメータの値との間に誤差が生じることがある。校正システム50は、この誤差を自動的に検出し、正しい校正値を計算し、自動(又は半自動)で計測値を校正する。
【0013】
図1に加圧水型の原子力プラント1の概略を示す。原子力プラント1は、原子炉設備2と、タービン設備12と、を備えている。原子炉設備2は、原子炉3と、加圧器7と、蒸気発生器8と、一次冷却ループ10と、原子炉格納容器11とを備えている。原子炉3は、原子炉容器6と、燃料棒4と、制御棒5と、その他の炉内構造物(図示せず)と、を備えている。一次冷却ループ10は、原子炉容器6と蒸気発生器8との間で、一次冷却水を循環させる流路を形成している。一次冷却ループ10は、一次冷却水を循環させるための一次冷却ポンプ9を有している。加圧器7は、一次冷却水が沸騰しないように、一次冷却ループ10の内部を加圧する。蒸気発生器8は、タービン設備12を流通する二次冷却水と、一次冷却ループ10を循環する一次冷却水とを熱交換させて、二次冷却水を加熱し、蒸気を発生させる。原子炉格納容器11は、原子炉3、一次冷却ループ10、加圧器7、蒸気発生器8を格納する。
【0014】
タービン設備12は、蒸気タービン13と、発電機14と、復水器15と、二次冷却ループ16と、タービン建屋18を備えている。蒸気タービン13は、蒸気発生器8から供給された水蒸気の熱エネルギーを回転エネルギーに変換する。蒸気タービン13の回転軸は、発電機14のロータに連結され、この発電機14のロータが回転することで発電される。二次冷却ループ16は、蒸気発生器8と蒸気タービン13との間で、二次冷却水を循環させる流路を形成している。復水器15は、二次冷却ループ16における蒸気タービン13の下流側に配置され、蒸気タービン13で仕事をした後の蒸気を水へ凝縮する。二次冷却ループ16は、二次冷却水を循環させるポンプ17を有している。ポンプ17により、蒸気発生器8と蒸気タービン13との間を二次冷却水が循環するようになっている。
【0015】
原子力プラント1には、図示しない計測器が設けられており、例えば、(a)蒸気発生器8から蒸気タービン13へ供給される蒸気の流量、(b)一次冷却ループ10を循環する一次冷却水の流量、(c)蒸気タービン13の高圧側の入口圧力、(d)二次冷却ループ16によって蒸気発生器8へ戻される二次冷却水の流量などが計測される。これらのパラメータの計測値は、制御・監視システム20へ送信され、原子力プラント1の制御や監視に利用されている。例えば、制御装置30は、パラメータの計測値を取得して、制御棒5の位置や各種バルブ(図示せず)の開度制御などを行う。また、監視装置40は、パラメータの計測値を取得して、計測値の推移を表示装置に表示したり、閾値と比較して異常検知を行ったりする。また、制御装置30や監視装置40では、パラメータの計測値に基づいて、制御や監視に必要な他のパラメータの値が計算される。図2に示すように制御・監視システム20は、校正システム50を備える。校正システム50は、制御装置30や監視装置40で利用されるパラメータの計測値を正しい値に補正(校正)し、校正後の値を制御装置30や監視装置40に提供する。図2では、校正システム50が制御装置30や監視装置40とは別体として設けられているが、校正システム50は、制御装置30の内部に設けられてもよいし、監視装置40の内部に設けられてもよい。また、制御装置30、監視装置40、校正システム50はそれぞれ2台以上設けられていてもよい。
【0016】
次に校正システム50の機能、構成について説明する。校正システム50は、パラメータ取得部51と、設定受付部52と、校正制御部53と、出力部54と、記憶部55と、通信部56と、を備える。
パラメータ取得部51は、原子力プラント1に設けられた各種の計測器が計測したパラメータの計測値や、監視装置40にて計測値に基づいて計算された監視対象のパラメータの計算値、制御装置30が出力した制御値などを取得する。
設定受付部52は、ユーザからの諸々の設定の入力を受け付ける。
校正制御部53は、パラメータの計測値の校正処理を制御する。校正制御部53は、状態判定部531と、真値推定部532と、校正要否判定部533と、校正値計算部534と、誤校正防止部535と、を備える。状態判定部531は、プラントの状態が安定しているか否かを判定する。真値推定部532は、校正対象パラメータの真の値を推定する。真値推定部532は、関連パラメータと所定の関数や推定モデルに基づいて、真値を推定する。ここで、関連パラメータとは、校正対象パラメータの値に影響する他のパラメータのことである。例えば、上記の(a)蒸気流量は、二次冷却ループ16を通じて蒸気発生器8に戻される二次冷却水の流量と関係する。この場合、校正対象パラメータを「蒸気流量」とすると、関連パラメータは「二次冷却水の流量」である。真値推定部532は、「蒸気流量」と「二次冷却水の流量」の関係を表す所定の関数や推定モデルを用いて、「二次冷却水の流量」の計測値から「蒸気流量」の真値を推定する。他の(b)~(d)の各パラメータについても、それぞれ1つ又は複数の関連パラメータが存在する。そして、(b)~(d)の校正対象パラメータに対応する関連パラメータを、それぞれ対応する関数や推定モデルへ入力することによって、(b)~(d)の各パラメータの真値を推定することができる。通常の状態(計測器にスケールなどが付着していない状態)では、各パラメータの計測値と関連パラメータと関数等から推定した真値は同様の値となる。しかし、計測器の汚れなどにより、計測値が誤差を含むようになると、計測値と真値の推定値は乖離するようになる。
【0017】
校正要否判定部533は、パラメータの計測値と真値推定部532が推定したパラメータの真値を比較して、当該パラメータについて校正が必要か否かを判定する。校正要否判定部533は、計測値と真値の差異が所定の範囲内であれば校正が不要と判定し、差異が所定値以上であれば校正が必要と判定する。校正値計算部534は、校正対象パラメータの校正値を関連パラメータと所定の関数等に基づいて計算する。誤校正防止部535は、校正値計算部534が計算した校正値が妥当か否かの判定を行う。校正制御部53は、プラントの状態が安定していて、校正の必要があり、校正値が妥当な場合のみ、校正対象パラメータの計測値を校正する。
【0018】
出力部54は、諸々の情報を表示装置や電子ファイルに出力する。例えば、出力部54が、校正値計算部534が計算した校正値を表示装置へ出力し、その校正値が適切かどうかの確認をユーザに求めてもよい。
記憶部55は、諸々の情報を記憶する。例えば、記憶部55は、真値の推定や校正値の計算に用いる関数、各種判定に用いる閾値、パラメータ取得部51が取得したパラメータの計測値などの情報を記憶する。
通信部56は、他装置と通信を行う。例えば、通信部56は、計測器が計測したパラメータの計測値を受信したり、校正値計算部534が計算した校正値を制御装置30や監視装置40へ送信したりする。
【0019】
(動作)
次に図3図4を参照して、校正システム50の動作について説明する。
【0020】
[全自動での校正]
図3は、実施形態に係る校正処理の一例を示す第1のフローチャートである。
校正システム50は、所定の周期で以下の校正処理を実行する。
まず、パラメータ取得部51が、校正対象パラメータ(例えば、上記した(a)~(d))とその関連パラメータの計測値や計算値を取得する(ステップS11)。ここでは、校正対象パラメータをパラメータAとし、関連パラメータをパラメータBとする。
【0021】
また、パラメータ取得部51が、プラントの状態判定に必要なパラメータの値を取得する(ステップS12)。例えば、パラメータ取得部51は、一次冷却水の温度、蒸気タービン13の入口側の圧力、蒸気発生器8から供給される蒸気の圧力、加圧器7の水位や圧力、特定のバルブの開度などのパラメータの計測値や制御値などを取得する。
【0022】
次に状態判定部531が、プラントの状態が安定しているか否かを判定する(ステップS13)。状態判定部531は、バルブの開度以外のパラメータについては、(1)所定の時間(例えば10分間)における初期値と終了値の偏差が第1閾値以下かどうか、(2)前記した時間における最大ピーク値と最小ピーク値の偏差が第2閾値以下かどうか、を判定する。状態判定部531は、バルブ開度については、(3)その開度が通常の運転を示す所定の範囲内かどうかを判定する。状態判定部531は、バルブ開度以外の全てのパラメータの各々について、(1)と(2)の判定を行う。状態判定部531は、状態判定に用いる全てのバルブの開度の各々について、(3)の判定を行う。そして、例えば、状態判定部531は、バルブ開度以外の全てのパラメータに対する(1)の判定結果が何れも第1閾値以下、(2)の判定結果が何れも第2閾値以下、全てのバルブ開度に対する(3)の判定結果が所定の範囲内の場合、プラントの状態は安定していると判定し、それ以外の場合、プラントの状態は安定していないと判定する。プラントの状態が安定していないと判定した場合(ステップS13;No)、校正処理を終了する。以降の処理を行うにあたり、プラントが安定していない状態のデータを用いると適切な校正が行えないため、安定状態でない場合には校正処理を中止する。なお、ここでは上記の(1)~(3)の基準でプラント状態が安定か否かを判定することとしたが、これに限定されない。例えば、(1)と(2)のみによって判定してもよいし、(1)と(3)又は(2)と(3)のみによって判定してもよい。
【0023】
プラント状態が安定していると判定した場合(ステップS13;Yes)、真値推定部532は、関連パラメータから真値を推定する(ステップS14)。真値推定部532は、関連パラメータBの計測値を所定の関数Fxへ入力する。関数FxはパラメータBに基づいてパラメータAの真値を推定し、この推定値を出力する。真値推定部532は、真値の推定値を校正要否判定部533に出力する。次に校正要否判定部533は、パラメータAの計測値と真値の推定値を比較して校正要否を判定する(ステップS15)。校正要否判定部533は、パラメータAの計測値とパラメータAの真値(推定値)の差を計算し、計算した差を第3閾値と比較して、差が第3閾値以上か否かを判定する。差が第3閾値以上の場合、校正要否判定部533は、パラメータAの計測値は、正確ではない可能性がある為、校正が必要と判定する。差が第3閾値未満の場合、校正要否判定部533は、パラメータAの計測値は、正確であり、校正の必要が無いと判定する。校正の必要が無いと判定した場合(ステップS16;No)、校正処理を終了する。
【0024】
校正の必要があると判定した場合(ステップS16;Yes)、校正値計算部534が、校正値を計算する(ステップS17)。例えば、対象パラメータAが、その計測値が、そのまま使用されるようなパラメータの場合(例えば、温度)、校正値計算部534は、真値推定部532と同様にして、関連パラメータBと関数Fxとから推定した対象パラメータAの真値をそのまま校正値とする。また、例えば、流量のように計測値が定格値や最大値などに対する割合(%)に換算されて使用されるパラメータの場合、校正値計算部534は、100%に相当する値を計算する。例えば、パラメータAの計測値が「102」、関連パラメータBと関数Fxとから推定したパラメータAの真値が「100」、パラメータAの定格値(100%に相当する値)が「100」の場合、校正値計算部534は、計測値÷真値の結果(=1.02)を定格値(=100)に乗じて、100%に相当する値(校正値)は「102」であると計算する。すると、今回計測されたパラメータAの計測値「102」は、100%として扱われるようになる。あるいは、校正値計算部534は、パラメータAの計測値を、真値を基準とする値に変換するための換算係数を算出してもよい。上記の例であれば、校正値計算部534は、真値÷計測値の結果を換算係数として算出する。すると、今回計測されたパラメータAの計測値102は、換算係数を乗じて100として扱われるようになる。校正値計算部534は、計算した校正値(又は換算係数)を誤校正防止部535に出力する。
【0025】
次に誤校正防止部535は、ステップS17で計算された校正値を他の値と比較して、計算された校正値が妥当か否かを判定する(ステップS18)。例えば、校正値計算部534が校正値を計算するときに途中で失敗したり、通信や伝送エラーなどにより真値(推定値)の計算に用いる関連パラメータBの値が取得できなかったりした場合、校正値計算部534が計算した校正値が適切では無い値となる可能性がある。ステップS18では、このような校正値のエラーを検出する。例えば、系統1~4が存在し、これらが並列的な関係にあり、通常、系統1にて計測されるパラメータAの計測値と、系統2~4にて計測されるパラメータAの計測値とは同様の値になるとする。そして、現在、校正対象パラメータが系統1のパラメータAであるとする。このような場合、誤校正防止部535は、校正値計算部534に指示して、系統2~4についてもパラメータAの校正値を計算させる。校正値計算部534は、系統2の関連パラメータBと関数Fxに基づいて、系統2のパラメータAの真値を推定する。校正値計算部534は、系統3、4についても同様に対象パラメータAの真値を推定し、これら系統2~4におけるパラメータAの値を誤校正防止部535へ出力する。誤校正防止部535は、系統1~4について計算された校正値を比較する。例えば、誤校正防止部535は、系統1と系統2~4との差を計算し、この差が所定の第4閾値より大きいものが半数以上あれば、今回計算された系統1についての校正値は正しくない可能性があり、妥当ではないと判定する。又は、誤校正防止部535は、系統1について計算されたパラメータAの校正値と、系統2~4で計測されたパラメータAの計測値との差を計算して、妥当性の判定を行ってもよい。
【0026】
また、パラメータAに関して、複数の系統が存在しない場合、誤校正防止部535は、同じ系統の異なる位置にて計測された関連パラメータBの計測値を用いて校正値の妥当性の判定を行う。例えば、ステップS17において、位置1で計測した関連パラメータBと関数Fxに基づいてパラメータAの校正値を計算した場合、誤校正防止部535は、校正値計算部534に指示して、他の位置2~4にて計測された関連パラメータBの計測値と関数Fxに基づいて対象パラメータAの校正値を計算させる。校正値計算部534は、位置2~4で計測された関連パラメータBと関数Fxに基づいて、3つのパラメータAの推定値を計算し、これらの推定値を誤校正防止部535へ出力する。誤校正防止部535は、例えば、位置1について計算された校正値と位置2~4について計算された推定値の差を計算し、この差が所定の第4閾値より大きいものが半数以上あれば、今回計算された位置1の校正値は妥当ではないと判定する。
【0027】
また、パラメータAの真値が、関連パラメータBと関数Fxの他に、関連パラメータB´と関数Fx´によっても計算できるような場合、誤校正防止部535は、関連パラメータBと関数Fxに基づいて計算された校正値を、関連パラメータB´と関数Fx´に基づいて計算された推定値と比較して、この差が所定の第4閾値より大きければ、今回計算された校正値は妥当ではないと判定してもよい。妥当ではないと判定した場合(ステップS19;No)、校正処理を終了する。あるいは、ステップS17からの処理を再度行ってもよい。
【0028】
校正値が妥当と判定した場合(ステップS19;Yes)、校正制御部53は、校正を実行する(ステップS20)。具体的には、校正制御部53は、ステップS17で計算した校正値を更新指示情報とともに制御装置30と監視装置40へ送信するように通信部56へ指示する。通信部56は、校正値と校正値の自動更新を指示する更新指示情報を制御装置30と監視装置40へ送信する。制御装置30は、校正値を受信すると、これまでの値を校正値で更新する。例えば、これまでの流量の定格値「100」を「102」で更新する。監視装置40でも同様に、流量の定格値「100」を「102」で更新する。仮にこのような校正を行わない場合、パラメータAの計測値「102」は102%ということになり、監視装置40では、閾値超過とみなされてアラームが発砲されたり、制御装置30では、パラメータAの計測値を「100」に減じるような制御が実行されたりして、パラメータAの実際の値は「100」であるにもかかわらず、「102」であるとしてプラントが運転されてしまう。これに対し、本実施形態の校正処理によれば、校正値によって対象パラメータAの計測値を正しい値に補正することができるので、このような不具合の発生を防ぐことができる。
【0029】
[半自動での校正]
図3のフローチャートでは、校正値の妥当性が評価された後、自動で制御装置30や監視装置40が記憶する定格値の値を妥当性が確認された校正値で更新することとしたが、監視員などユーザの許可を得た後に更新するような実施形態であってもよい。図4にユーザが確認してから校正値を適用する場合の処理の一例を示す。図4は、実施形態に係る校正処理の一例を示す第2のフローチャートである。ステップS19までは、図3を参照して説明した処理と同じの為、説明を省略する。ステップS19にて、校正値が妥当と判定されると(ステップS19;Yes)、校正制御部53は、校正値等を表示装置へ出力するよう指示する。出力部54は、例えば、対象パラメータAの名称と、対象パラメータAの計測値および校正値とともに、元の値を校正値で更新してもよいかどうかを確認するメッセージを表示装置に出力する(ステップS191)。ユーザは、更新を許可するかどうかを校正システム50へ入力する。設定受付部52は、ユーザの入力を受け付け、校正制御部53へ入力された情報を出力する。校正値の適用を許可しない場合(ステップS192;No)、校正制御部53は、校正処理を終了する。校正値の適用を許可する場合(ステップS192;Yes)、校正制御部53は、校正を実行する(ステップS201)。自動で更新する場合、図3のステップS20と同様である。つまり、通信部56が制御装置30、監視装置40へ校正値を送信し、制御装置30、監視装置40が、元の定格値を校正値で更新する。
【0030】
また、校正値の更新は、手動で行ってもよい。手動で更新する場合、例えば、ユーザが、ステップS191で表示装置に出力された校正値を、制御装置30や監視装置40に入力し、手動にて元の定格値を校正値で更新する。図4で例示した処理により、ユーザが確認してから校正を行うことができるので、プラント運用の安全性を確保することができる。また、手動で更新する場合であっても、プラントの安定状態の確認(ステップS13)から校正値の妥当性確認(ステップS19)までの処理(特に作業負担の高い校正要否の判断)を自動化することができるため、作業負荷を低減し、校正処理に要する時間を短縮することができる。
【0031】
なお、図3で例示した処理の順番について、ステップS13の判定は、図示した順番に限らず、ステップS20の前であれば、どの段階で実行されてもよい。また、校正値の妥当性の確認(ステップS19)は省略してもよい。例えば、ユーザの確認後、校正を行う図4の処理においては、ステップS191~S201の処理を、図3のステップS17の直後に行うようにしてもよい。
【0032】
(効果)
以上、説明したように、本実施形態によれば、真の計測値の推定、校正の要否判断、校正値の計算および妥当性の確認、校正値の適用という一連の作業を自動的(半自動的)に実行することができる。これにより、校正に要する作業負担を低減し、校正に要する時間を短縮することができる。例えば、(a)蒸気流量に関しては、プラント起動時にその値の校正工程が設けられているが、本実施形態によれば、自動的(半自動的)に校正処理を完了させたり、校正要否判定(ステップS16)により早々に校正工程を終了させたりすることができるので、早期に原子力プラント1を起動させ、プラントの稼働率を向上することができる。また、パラメータの計測値に誤差が生じると、誤った計測値に基づいてプラントの制御が行われる為、最適な運転状態からずれてしまうおそれがあるが、本実施形態によれば、パラメータの計測値が真値から乖離したことを早期に検知し、その値を校正することができるので、運転効率の低下を抑止することができる。
【0033】
図5は、実施形態に係る校正システム等のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の制御装置30、監視装置40、校正システム50は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0034】
なお、制御装置30、監視装置40、校正システム50の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0035】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0036】
<付記>
各実施形態に記載の校正方法、校正システム及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0037】
(1)第1の態様に係る校正方法は、コンピュータによる校正方法であって、プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと(ステップS13)、安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判断するステップと(ステップS16)、校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと(ステップS17)、を有する。
【0038】
これにより、計測器の汚れなどに起因する当該計測器が計測するパラメータの計測値の誤差を自動的に構成することができる。プラントが安定状態であることを確認してから校正処理を実行するので校正の精度を確保することができる。
【0039】
(2)第2の態様に係る校正方法は、(1)の校正方法であって、前記安定状態にあるかどうかを判定するステップでは、所定期間における所定のパラメータの初期値と最終値の差分が閾値以内であり、かつ所定期間における前記パラメータの最大値と最小値の差分が閾値以内である場合に安定状態にあると判定する。
これにより、プラントの状態が安定しているか否かを判定することができる。
【0040】
(3)第3の態様に係る校正方法は、(1)~(2)の校正方法であって、前記計測値の校正要否を判断するステップでは、前記関連パラメータと、当該関連パラメータの値から前記校正対象パラメータの推定値を算出する関数と、を用いて、前記校正対象パラメータの真値を推定し、推定した真値と前記校正対象パラメータの計測値との差が閾値以上の場合、校正が必要と判定する。
これにより、校正の必要がある場合のみ校正を実施することができる。従って、パラメータの校正が頻繁に行われることによるシステムの不安定化を防ぐことができる。
【0041】
(4)第4の態様に係る校正方法は、(3)の校正方法であって、前記計測値の校正要否を判定するステップにおいて校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップでは、前記対象パラメータの校正値を、前記関連パラメータと前記関数に基づいて算出し、前記計測値を前記校正値に変換する変換係数(規格値100を校正値102に変換する場合(計測値÷真値の結果(=1.02))も含む)を算出する。
これにより、以降計測された対象パラメータの計測値を真値に変換・補正することができる。
【0042】
(5)第5の態様に係る校正方法は、(1)~(4)の校正方法であって、前記校正対象パラメータの校正値を、前記校正対象パラメータの計測値との差が所定の範囲内となるような値が計測される他の計測点における前記校正対象パラメータの値と比較し、前記校正値の妥当性を判定するステップ(ステップS18、19)、をさらに有する。
これにより、校正対象パラメータの校正値について、同様の値を持つと推定される他の計測点における校正対象パラメータの計測値や推定値と比較することで、校正値の妥当性を確認することができる。
【0043】
(6)第6の態様に係る校正方法は、(1)~(5)の校正方法であって、前記校正値を計算するステップで計算された校正値による前記計測値の校正を行うステップ、をさらに有する。
これにより、校正値を自動的に反映させることができる。
【0044】
(7)第7の態様に係る校正システムは、プラントが安定状態にあるかどうかを判定する状態判定部と、安定状態と判定された場合、対象パラメータの計測値と対象パラメータに関連するパラメータとを用いて、計測値の校正要否を判断する校正要否判定部と、校正が必要と判定された場合、前記計測値の校正値を計算する校正値計算部と、を有する。
【0045】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータに、プラントが安定状態にあるかどうかを判定するステップと、安定状態と判定された場合、校正対象パラメータの計測値と、前記校正対象パラメータに関連する関連パラメータに基づいて計算された前記校正対象パラメータの推定値とに基づいて、計測値の校正要否を判断するステップと、校正が必要と判定された場合、前記校正対象パラメータの校正値を計算するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0046】
1・・・原子力プラント
2・・・原子炉設備
3・・・原子炉
4・・・燃料棒
5・・・制御棒
7・・・加圧器
6・・・原子炉容器
8・・・蒸気発生器
9・・・・ポンプ
10・・・一次冷却ループ
11・・・原子炉格納容器
12・・・タービン設備
13・・・蒸気タービン
14・・・発電機
15・・・復水器
16・・・二次冷却ループ
17・・・ポンプ
18・・・タービン建屋
20・・・制御・監視システム
30・・・制御装置
40・・・監視装置
50・・・校正システム
51・・・パラメータ取得部
52・・・設定受付部
53・・・校正制御部
531・・・状態判定部
532・・・真値推定部
533・・・校正要否判定部
534・・・校正値計算部
535・・・誤校正防止部
54・・・出力部
55・・・記憶部
56・・・通信部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5