(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155650
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】導電性繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20221006BHJP
D06M 13/328 20060101ALI20221006BHJP
D06M 13/144 20060101ALI20221006BHJP
D06M 13/188 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M13/328
D06M13/144
D06M13/188
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058986
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】トッパン・フォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】森 昭仁
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB31
4L031BA04
4L031CA08
4L031DA15
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC06
4L033AC15
4L033BA11
4L033BA17
4L033BA46
(57)【要約】
【課題】従来よりも細い導電性繊維と、その製造方法の提供。
【解決手段】繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有する、導電性繊維。前記導電性繊維の製造方法であって、前記製造方法は、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を、前記繊維に付着させる工程(A1)と、前記工程(A1)の後に、前記繊維に付着させた前記銀インク組成物の固化処理により、前記繊維の表面を覆う金属銀を形成する工程(A2)と、を有する、導電性繊維の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有する、導電性繊維。
【請求項2】
前記導電性繊維がさらに電解質を有する、請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
導電性繊維の製造方法であって、
前記導電性繊維は、繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有しており、
前記製造方法は、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を、前記繊維に付着させる工程(A1)と、
前記工程(A1)の後に、前記繊維に付着させた前記銀インク組成物の固化処理により、前記繊維の表面を覆う金属銀を形成する工程(A2)と、を有する、導電性繊維の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法が、前記工程(A1)の前に、さらに、前記繊維に電解質を付着させる工程(B1)を有する、請求項3に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法が、前記工程(A2)の後に、さらに、前記金属銀を形成後の前記繊維に電解質を付着させる工程(B2)を有する、請求項3又は4に記載の導電性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性繊維(導電性を有する繊維)は、ウエアラブルデバイスの生体電極への利用が期待されている。さらに、金属種として金属銀を有する導電性繊維は、抗菌材料、抗ウイルス材料等への利用も期待されている。
【0003】
導電性繊維としては、例えば、繊維をイミダゾール化合物又はその4級塩で前処理することでカチオン化した後、タンニン酸で処理し、次いで無電解メッキを行うことで金属皮膜を形成して得られた導電性繊維が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
導電性繊維としては、例えば、繊維材料の外周面に銅-銀合金の無電解メッキ膜が設けられ、さらに、前記銅-銀合金の無電解メッキ膜の外周面に銀無電解メッキ膜が設けられた導電性繊維も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5117656号公報
【特許文献2】特許第5160057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2で開示されているものをはじめとして、メッキ法を利用して得られた従来の導電性繊維は、その繊維径が20μm超であるなど、比較的太い繊維に限られており、ナノファイバーやそれに近い繊維径を有する細い導電性繊維は、これまで知られていなかった。さらに、特許文献2で開示されている導電性繊維は、2層のメッキ膜を有しており、構成が複雑で、その製造も煩雑であるという問題点があった。
このように、従来の導電性繊維は、その繊維径と製造方法に制約があるため、新規の細い導電性繊維が望まれていた。
【0007】
本発明は、従来よりも細い導電性繊維と、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有する、導電性繊維を提供する。
本発明の導電性繊維は、さらに電解質を有していてもよい。
【0009】
本発明は、導電性繊維の製造方法であって、前記導電性繊維は、繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有しており、前記製造方法は、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を、前記繊維に付着させる工程(A1)と、前記工程(A1)の後に、前記繊維に付着させた前記銀インク組成物の固化処理により、前記繊維の表面を覆う金属銀を形成する工程(A2)と、を有する、導電性繊維の製造方法を提供する。
本発明の導電性繊維の製造方法は、前記工程(A1)の前に、さらに、前記繊維に電解質を付着させる工程(B1)を有していてもよい。
本発明の導電性繊維の製造方法は、前記工程(A2)の後に、さらに、前記金属銀を形成後の前記繊維に電解質を付着させる工程(B2)を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも細い導電性繊維と、その製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】走査電子顕微鏡を用いて取得した、実施例113の洗濯前の導電性繊維の撮像データである。
【
図2】走査電子顕微鏡を用いて取得した、実施例113の洗濯後の導電性繊維の撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<導電性繊維>>
本発明の一実施形態に係る導電性繊維は、繊維径が20μm以下の非金属製の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有する。
本実施形態の導電性繊維は、その繊維径がナノファイバーレベルであるか又はそれに近く、これまでになく細い。
【0013】
本実施形態の導電性繊維は、その洗濯を行った場合に、導電性の低下(換言すると、表面抵抗率等の抵抗率の上昇)が抑制される。すなわち、本実施形態の導電性繊維は、洗濯による金属銀の脱落が抑制され、耐洗濯性を有する。
【0014】
本実施形態の導電性繊維は、後述する製造方法によって、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を用いて製造することができ、これにより、繊維(生地)の風合いを残したままとすることが可能である。これに対して、例えば、金属銀粒子と、バインダーである樹脂と、を含有する液状組成物を用いて、導電性繊維を製造すると、本実施形態のような繊維(生地)の風合いを残した導電性繊維は得られない。これは、このような組成物で用いる金属銀粒子の粒子径が大きく、さらに、前記樹脂が繊維の表面を覆ってしまうためである。
【0015】
前記繊維の繊維径は、20μm以下であればよく、例えば、15μm以下、10μm以下、5μm以下、3μm以下、及び1μm以下のいずれかであってもよい。
前記繊維の繊維径の下限値は、特に限定されない。例えば、繊維径が0.5μm(500nm)以上の繊維は、その入手又は調製が容易である。
前記繊維の繊維径は、例えば、0.5~20μm、0.5~15μm、0.5~10μm、0.5~5μm、0.5~3μm、及び0.5~1μmのいずれかであってもよい。
【0016】
本明細書においては、特に断りのない限り、単なる「繊維」との記載は、金属銀で表面が覆われる前の繊維、又は、前記導電性繊維の金属銀を除いた繊維部位、を意味し、導電性繊維を意味しない。
【0017】
前記繊維の繊維径は、例えば、以下の方法で求めることができる。
すなわち、クライオブロードイオンビーム(Cryo-BIB)法によって、前記繊維(導電性繊維)の断面を作製し、前記断面にプラチナを蒸着させた後、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、 FE-SEM)を用いて、前記断面を観察し、無作為に10本の単繊維を選択し、画像処理ソフトを用いて、前記単繊維の断面積を測定し、前記断面積の測定値を用いて、前記単繊維の断面形状が真円であると仮定したときの前記単繊維の繊維径(直径)を算出し、算出した10本の前記単繊維の前記繊維径の平均値を、前記繊維の繊維径として採用できる。
【0018】
前記繊維の繊維径は、例えば、繊維の紡糸条件を調節することで、調節できる。
【0019】
本実施形態において、前記繊維は、単繊維であってもよいし、繊維の集合体である基材(生地)であってもよい。
前記繊維(基材)の目付は、30~260g/m2であることが好ましく、例えば、65~260g/m2であってもよい。このような前記繊維を用いることで、前記導電性繊維をより容易に製造でき、また、前記導電性繊維は、より良好な特性を有する。
【0020】
前記繊維(基材)の目付は、JIS L 1096:2010に準拠して、標準状態における1m2当りの質量(g/m2)として、求められる。
【0021】
前記繊維(基材)の10cm2あたりの吸水量は、0.03~3.6gであることが好ましく、例えば、0.7~3.6gであってもよい。吸水量がこのような範囲である繊維は、後述する銀インク組成物によって金属銀を形成するのに、より有利である。
【0022】
ナノファイバーを主成分とする前記基材(繊維)としては、例えば、丸編みされた基材が挙げられる。
マイクロファイバーを主成分とする前記基材(繊維)としては、例えば、平織又は綾織された基材が挙げられる。
本明細書において、「ナノファイバー」とは、繊維径が1μm未満であるファイバーを意味し、「マイクロファイバー」とは、繊維径が1μm超1000μm未満であるファイバーを意味する。
【0023】
前記繊維は、非金属製であれば、その構成材料は特に限定されない。
前記繊維は、天然繊維及び合成繊維のいずれであってもよい。
前記天然繊維としては、例えば、コットン(綿)が挙げられる。
前記合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド等の樹脂からなる繊維が挙げられる。
これらの中でも、前記繊維の構成材料は、ポリエステル又はポリアミドであることが好ましい。
【0024】
前記繊維の構成材料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。例えば、構成材料が2種以上である前記繊維は、天然繊維及び合成繊維をともに含む複合繊維であってもよい。
【0025】
前記基材(生地)は、1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよい。前記基材が複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
本明細書においては、前記基材の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0026】
複数層からなる前記基材(生地)としては、例えば、ホットメルト材等の接着剤によって、2層以上の基材が積層されて構成されたものが挙げられ、そのうちの1層以上の基材は、布帛(換言すると織物)であってもよい。
【0027】
前記基材(生地)は、例えば、ホットメルト材等の接着剤によって、繊維径が20μm超である布帛(換言すると織物)が積層されていてもよい。
【0028】
前記導電性繊維は、さらに電解質を有していてもよい。
例えば、導電性繊維が、前記繊維の表面を覆う金属銀層を有する場合には、電解質を有する導電性繊維としては、前記繊維と前記金属銀層との間に電解質を有する導電性繊維;前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に電解質を有する導電性繊維;前記繊維と前記金属銀層との間、及び、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上、に電解質を有する導電性繊維等が挙げられる。
換言すると、前記導電性繊維としては、繊維径が20μm以下の繊維と、前記繊維の表面に付着している電解質と、前記繊維の表面を前記電解質ごと覆う金属銀層と、を有する導電性繊維;
繊維径が20μm以下の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀層と、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に付着している電解質と、を有する導電性繊維;
繊維径が20μm以下の繊維と、前記繊維の表面に付着している電解質と、前記繊維の表面を前記電解質ごと覆う金属銀層と、を有し、さらに、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に付着している電解質と、を有する導電性繊維が挙げられる。
【0029】
電解質を有する導電性繊維のうち、前記繊維の表面に付着している電解質を有する導電性繊維は、その製造時において、電解質を有しない導電性繊維の製造時よりも、後述する銀インク組成物の使用量を低減できる点で好ましい。
電解質を有する導電性繊維のうち、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に付着している電解質を有する導電性繊維は、前記面上に電解質を有しない導電性繊維よりも、導電性が高い(換言すると、表面抵抗率等の抵抗率が低い)点で好ましい。
【0030】
前記導電性繊維が有する電解質は、前記繊維に該当しなければ、特に限定されない。
前記電解質としては、例えば、塩が挙げられる。
前記塩は、有機塩及び無機塩のいずれであってもよい。
【0031】
前記有機塩としては、例えば、ヒスチジン塩(例えば、ヒスチジン塩酸塩)、グリシン塩(例えば、グリシン塩酸塩)、アラニン塩(例えばアラニン塩酸塩)等のアミノ酸塩;アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩;クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム等のクエン酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩;ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム等のギ酸塩;尿素塩酸塩等の尿素塩等が挙げられる。
前記無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等のアルカリ金属塩化物;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素塩;リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二塩等が挙げられる。
【0032】
前記電解質が、塩(有機塩又は無機塩)である場合、前記塩は水和物及び非水和物のいずれであってもよい。
【0033】
前記導電性繊維が有する電解質は、その導電性繊維中の存在箇所によらず、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0034】
好ましい前記電解質としては、前記酢酸塩、前記ギ酸塩が挙げられる。
【0035】
前記導電性繊維中の前記金属銀で覆われている前記繊維は、後述する塩基処理又は酸処理(例えば、後述するエッチング処理)を施されていてもよい。このような導電性繊維は、その製造時において、塩基処理又は酸処理を施されていない導電性繊維の製造時よりも、後述する銀インク組成物の使用量を低減できる点で好ましい。
【0036】
前記導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量は、特に限定されないが、0.007mg/cm2以上であることが好ましく、例えば、0.01mg/cm2以上、0.015mg/cm2以上、及び0.02mg/cm2以上のいずれかであってもよいし、3mg/cm2以上、3.6mg/cm2以上、及び4mg/cm2以上のいずれかであってもよい。前記含有量が前記下限値以上であることで、導電性繊維の導電性がより高くなる。
前記導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量の上限値は、特に限定されない。例えば、前記含有量が0.04mg/cm2以下である導電性繊維は、より容易に製造できる。また、例えば、導電性を向上させた導電性繊維としては、前記含有量が5.5mg/cm2以下であるものが挙げられる。
【0037】
前記導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量は、例えば、後述する導電性繊維の製造方法の工程(A1)における、銀インク組成物の前記繊維に対する付着量を調節することで、調節できる。
【0038】
前記導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量は、例えば、実施例で後述するように、誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy、ICP-AES)により導電性繊維を分析することで、測定できる。
【0039】
前記導電性繊維の表面抵抗率は、特に限定されず、例えば、880000Ω/□以下、3000Ω/□以下、及び350Ω/□以下のいずれかであってもよいが、100Ω/□以下であることが好ましく、50Ω/□以下であることがより好ましく、10Ω/□以下であることがさらに好ましい。導電性繊維の表面抵抗率が小さいほど、導電性繊維の導電性が高くなる。
導電性繊維の表面抵抗率の下限値は、特に限定されない。例えば、表面抵抗率が0.2Ω/□以上である導電性繊維は、より容易に製造できる。
【0040】
前記導電性繊維の表面抵抗率は、例えば、後述する導電性繊維の製造方法の工程(A1)における、銀インク組成物の前記繊維に対する付着量を調節することで、調節できる。また、導電性繊維の表面抵抗率は、後述する導電性繊維の製造方法の工程(A2)における、銀インク組成物の固化処理の条件を調節することでも、調節できる。
【0041】
前記導電性繊維が、前記繊維の表面を覆う金属銀層を有する場合、前記金属銀層の厚さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であってもよい。金属銀層の厚さが前記下限値以上であることで、導電性繊維の導電性がより高くなる。
前記金属銀層の厚さは、1000nm(1μm)以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。金属銀層の厚さが前記上限値以下である導電性繊維は、より容易に製造できる。
【0042】
前記金属銀層の厚さは、上記のいずれかの下限値と、いずれかの上限値と、を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。
例えば、一実施形態において、前記金属銀層の厚さは、10~1000nm、及び10~100nmのいずれであってもよいし、20~1000nm、及び20~100nmのいずれであってもよい。
【0043】
前記金属銀層の厚さは、例えば、上述の前記繊維の繊維径の算出時と同じ方法で、導電性繊維の断面を作製し、FE-SEMを用いて、前記断面を観察し、無作為に10本の単繊維を選択し、これら単繊維における金属銀層の厚さを測定して得られた測定値の平均値を、金属銀層の厚さとして採用できる。
【0044】
前記導電性繊維は、繊維径が20μm以下の前記繊維の表面を覆う金属銀を有する。本明細書において、金属銀が繊維の表面を覆う、ということは、必ずしも、繊維の表面全面を金属銀が覆うことを意味せず、繊維の表面の大部分(例えば、繊維の表面全面の80面積%以上)を金属銀が覆うことを意味する。前記導電性繊維は、その製造時に、後述する銀インク組成物の使用量を十分な量とすることで、繊維の表面全面を金属銀が覆っているものとすることが可能である。
【0045】
<<導電性繊維の製造方法>>
本発明の一実施形態に係る導電性繊維の製造方法は、上述の繊維径が20μm以下の繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀と、を有する導電性繊維の製造方法であって、前記製造方法は、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を、前記繊維に付着させる工程(A1)と、前記工程(A1)の後に、前記繊維に付着させた前記銀インク組成物の固化処理により、前記繊維の表面を覆う金属銀を形成する工程(A2)と、を有する。
【0046】
<工程(A1)>
前記工程(A1)においては、金属銀の形成材料が配合されてなる銀インク組成物を、前記繊維に付着させる。銀インク組成物を付着させる前記繊維は、単繊維であってもよいし、繊維の集合体である基材(生地)であってもよい。
【0047】
銀インク組成物を前記繊維に付着させる方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択できる。
銀インク組成物を前記繊維に付着させる方法としては、例えば、銀インク組成物を前記繊維に滴下する方法(滴下法)、印刷法、塗布法等が挙げられる。
【0048】
前記印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、ディップ式印刷法、インクジェット式印刷法、ディスペンサー式印刷法、ジェットディスペンサー式印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、パッド印刷法等が挙げられる。
【0049】
前記塗布法としては、例えば、スピンコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター等の各種コーターを用いる方法;ワイヤーバーを用いる方法;スロットダイ等のコーティング装置を用いる方法等が挙げられる。
次に、前記銀インク組成物について詳細に説明する。
【0050】
◎銀インク組成物
前記銀インク組成物は、前記金属銀の形成材料が配合されてなる。
前記金属銀の形成材料は、加熱等によって分解し、金属銀を形成する材料である。
前記金属銀の形成材料としては、例えば、下記一般式(1):
【0051】
【化1】
(式中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R
1-CY
1
2-」、「CY
1
3-」、「R
1-CHY
1-」、「R
2O-」、「R
5R
4N-」、「(R
3O)
2CY
1-」若しくは「R
6-C(=O)-CY
1
2-」で表される基であり;
Y
1はそれぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子であり;R
1は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基であり;R
2は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり;R
3は炭素数1~16の脂肪族炭化水素基であり;R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基であり;R
6は炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であり;
X
1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基、又は一般式「R
7O-」、「R
7S-」、「R
7-C(=O)-」若しくは「R
7-C(=O)-O-」で表される基であり;
R
7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基である。)
で表わされるβ-ケトカルボン酸銀(本明細書においては、「β-ケトカルボン酸銀(1)」と略記することがある)、及び有機銀錯体等が挙げられる。
【0052】
好ましい前記銀インク組成物としては、例えば、β-ケトカルボン酸銀(1)と、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、が配合されてなる銀インク組成物(本明細書においては、「銀インク組成物(I)」と称することがある);β-ケトカルボン酸銀(1)が配合されてなり、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されていない銀インク組成物(本明細書においては、「銀インク組成物(II)」と称することがある);有機銀錯体と、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、含窒素化合物と、が配合されてなる銀インク組成物(本明細書においては、「銀インク組成物(III)」と称することがある)等が挙げられる。
以下、各銀インク組成物について、詳細に説明する。
【0053】
〇銀インク組成物(I)
[β-ケトカルボン酸銀(1)]
β-ケトカルボン酸銀(1)は、前記一般式(1)で表わされる。
一般式(1)中、Rは1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基若しくはフェニル基、水酸基、アミノ基、又は一般式「R1-CY1
2-」、「CY1
3-」、「R1-CHY1-」、「R2O-」、「R5R4N-」、「(R3O)2CY1-」若しくは「R6-C(=O)-CY1
2-」で表される基である。
【0054】
Rにおける炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状(脂肪族環式基)のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。また、前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。そして、前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。Rにおける好ましい前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0055】
Rにおける直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、4-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基、1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、1,2,3-トリメチルペンチル基、1,2,4-トリメチルペンチル基、2,3,4-トリメチルペンチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1,4,4-トリメチルペンチル基、3,4,4-トリメチルペンチル基、1,1,2-トリメチルペンチル基、1,1,3-トリメチルペンチル基、1,1,4-トリメチルペンチル基、1,2,2-トリメチルペンチル基、2,2,3-トリメチルペンチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、1,3,3-トリメチルペンチル基、2,3,3-トリメチルペンチル基、3,3,4-トリメチルペンチル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
Rにおける環状の前記アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデシル基等が挙げられる。
【0056】
Rにおける前記アルケニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C-C)が二重結合(C=C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基(エテニル基、-CH=CH2)、アリル基(2-プロペニル基、-CH2-CH=CH2)、1-プロペニル基(-CH=CH-CH3)、イソプロペニル基(-C(CH3)=CH2)、1-ブテニル基(-CH=CH-CH2-CH3)、2-ブテニル基(-CH2-CH=CH-CH3)、3-ブテニル基(-CH2-CH2-CH=CH2)、シクロヘキセニル基、シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0057】
Rにおける前記アルキニル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基の炭素原子間の1個の単結合(C-C)が三重結合(C≡C)に置換された基等が挙げられる。
このような前記アルキニル基としては、例えば、エチニル基(-C≡CH)、プロパルギル基(-CH2-C≡CH)等が挙げられる。
【0058】
Rにおける炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。また、前記脂肪族炭化水素基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての置換基が同一であってもよいし、すべての置換基が異なっていてもよく、一部の置換基のみが異なっていてもよい。
【0059】
Rにおけるフェニル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、炭素数が1~16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基(-OH)、シアノ基(-C≡N)、フェノキシ基(-O-C6H5)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
置換基である前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0060】
RにおけるY1は、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子又は水素原子である。そして、一般式「R1-CY1
2-」、「CY1
3-」及び「R6-C(=O)-CY1
2-」においては、それぞれ複数個のY1は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0061】
RにおけるR1は、炭素数1~19の脂肪族炭化水素基又はフェニル基(C6H5-)である。R1における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR2は、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり、例えば、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR3は、炭素数1~16の脂肪族炭化水素基である。R3における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~16である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1~18の脂肪族炭化水素基である。すなわち、R4及びR5は、互いに同一でも異なっていてもよく、R4及びR5における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~18である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
RにおけるR6は、炭素数1~19の脂肪族炭化水素基、水酸基又は式「AgO-」で表される基である。R6における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~19である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0062】
Rは、上記の中でも、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、一般式「R6-C(=O)-CY1
2-」で表される基、水酸基又はフェニル基であることが好ましい。そして、R6は、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、水酸基又は式「AgO-」で表される基であることが好ましい。
【0063】
一般式(1)において、X1はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはベンジル基(C6H5-CH2-)、シアノ基、N-フタロイル-3-アミノプロピル基、2-エトキシビニル基(C2H5-O-CH=CH-)、又は一般式「R7O-」、「R7S-」、「R7-C(=O)-」若しくは「R7-C(=O)-O-」で表される基である。
X1における炭素数1~20の脂肪族炭化水素基としては、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0064】
X1におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
X1におけるフェニル基及びベンジル基は、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。好ましい前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ニトロ基(-NO2)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びベンジル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0065】
X1におけるR7は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、チエニル基(C4H3S-)、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基若しくはジフェニル基(ビフェニル基、C6H5-C6H4-)である。R7における前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数が1~10である点以外は、Rにおける前記脂肪族炭化水素基と同様のものが挙げられる。また、R7におけるフェニル基及びジフェニル基が有する前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。置換基を有する前記フェニル基及びジフェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されない。そして、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
R7がチエニル基又はジフェニル基である場合、これらの、X1において隣接する基又は原子(酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基)との結合位置は、特に限定されない。例えば、チエニル基は、2-チエニル基及び3-チエニル基のいずれでもよい。
【0066】
一般式(1)において、2個のX1は、2個のカルボニル基で挟まれた炭素原子と二重結合を介して1個の基として結合していてもよい。このようなX1としては、例えば、式「=CH-C6H4-NO2」で表される基等が挙げられる。
【0067】
X1は、上記の中でも、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ベンジル基、又は一般式「R7-C(=O)-」で表される基であることが好ましく、少なくとも一方のX1が水素原子であることが好ましい。
【0068】
β-ケトカルボン酸銀(1)は、2-メチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH3)-C(=O)-OAg)、アセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-エチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2CH3)-C(=O)-OAg)、プロピオニル酢酸銀(CH3CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、イソブチリル酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、ピバロイル酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、カプロイル酢酸銀(CH3(CH2)3CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-n-ブチルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2CH2CH2CH3)-C(=O)-OAg)、2-ベンジルアセト酢酸銀(CH3-C(=O)-CH(CH2C6H5)-C(=O)-OAg)、ベンゾイル酢酸銀(C6H5-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、ピバロイルアセト酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、イソブチリルアセト酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)、2-アセチルピバロイル酢酸銀((CH3)3C-C(=O)-CH(-C(=O)-CH3)-C(=O)-OAg)、2-アセチルイソブチリル酢酸銀((CH3)2CH-C(=O)-CH(-C(=O)-CH3)-C(=O)-OAg)、又はアセトンジカルボン酸銀(AgO-C(=O)-CH2-C(=O)-CH2-C(=O)-OAg)であることが好ましい。
【0069】
β-ケトカルボン酸銀(1)を用いて、銀インク組成物(I)の乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理により形成された導電体(金属銀)においては、残存する原料や不純物の濃度をより低減できる。このような導電体においては、原料や不純物が少ない程、例えば、形成された金属銀同士の接触が良好となり、導通が容易となり、抵抗率が低下する。
【0070】
β-ケトカルボン酸銀(1)は、後述するように、当該分野で公知の還元剤等を使用しなくても、好ましくは60~210℃、より好ましくは60~200℃という低温で分解し、金属銀を形成できる。そして、β-ケトカルボン酸銀(1)は、還元剤と併用することで、より低温で分解して金属銀を形成する。
【0071】
本実施形態において、β-ケトカルボン酸銀(1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0072】
β-ケトカルボン酸銀(1)は、2-メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、2-エチルアセト酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、イソブチリル酢酸銀、ピバロイル酢酸銀、カプロイル酢酸銀、2-n-ブチルアセト酢酸銀、2-ベンジルアセト酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、ピバロイルアセト酢酸銀、イソブチリルアセト酢酸銀、アセトンジカルボン酸銀、ピルビン酸銀、酢酸銀、酪酸銀、イソ酪酸銀、2-エチルへキサン酸銀、ネオデカン酸銀、シュウ酸銀及びマロン酸銀からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
そして、これらの中でも、2-メチルアセト酢酸銀、アセト酢酸銀、イソブチリル酢酸銀及びピバロイル酢酸銀は、後述する含窒素化合物(なかでもアミン化合物)との相溶性に優れ、銀インク組成物(I)の高濃度化に、特に適したものとして挙げられる。
【0073】
銀インク組成物(I)の総質量に対する、銀インク組成物(I)中のβ-ケトカルボン酸銀(1)に由来する銀の合計質量の割合(換言すると、銀インク組成物(I)の、β-ケトカルボン酸銀(1)に由来する銀の含有量)は、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、形成された導電体(金属銀)は、より優れた品質となる。前記割合の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、銀インク組成物(I)の取り扱い性等を考慮すると、25質量%であることが好ましい。
なお、本明細書において、「β-ケトカルボン酸銀(1)に由来する銀」とは、特に断りの無い限り、銀インク組成物(I)の製造時に配合されたβ-ケトカルボン酸銀(1)中の銀と同義であり、配合後も引き続きβ-ケトカルボン酸銀(1)を構成している銀と、配合後にβ-ケトカルボン酸銀(1)の分解で生じた分解物中の銀と、配合後にβ-ケトカルボン酸銀(1)の分解で生じた銀そのもの(金属銀)と、のすべてを含む概念とする。
【0074】
[炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸]
銀インク組成物(I)は、前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸(本明細書においては、「分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸」と略記することがある)が配合されていることで、光沢性と導電性がより高い金属銀を形成できる。
【0075】
前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が、カルボキシ基で置換された構造を有する。換言すると、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、1分子中の炭素数が8~10で、かつ、1個又は2個以上のカルボキシ基が分岐鎖状飽和脂肪族炭化水素基に結合している化合物である。
【0076】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、1分子中にカルボキシ基を1個のみ有する一価(モノ)カルボン酸、及び1分子中にカルボキシ基を2個以上有する多価カルボン酸、のいずれであってもよい。
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が1分子中に有するカルボキシ基の数は、1~3個であることが好ましく、1個又は2個であることがより好ましく、1個であることが特に好ましい。
【0077】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸において、カルボキシ基が結合している炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、カルボキシ基が結合している炭素原子は、分子の末端の炭素原子であってもよいし、分子の末端以外の炭素原子であってもよい。
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が多価カルボン酸である場合、すべてのカルボキシ基が、互いに異なる炭素原子に結合していてもよいし、2個又は3個のカルボキシ基が、同一の炭素原子に結合していてもよい。
【0078】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸において、分岐鎖が結合している、主鎖中の炭素原子の位置は、特に限定されない。例えば、分岐鎖が結合している前記炭素原子は、主鎖のカルボキシ基が結合している側の末端の炭素原子であってもよいし、主鎖のカルボキシ基が結合している側とは反対側の末端の炭素原子に隣接する炭素原子(前記反対側の末端から2番目の炭素原子)であってもよいし、上述のカルボキシ基が結合している側の末端の炭素原子と、上述のカルボキシ基が結合している側とは反対側の末端の炭素原子に隣接する炭素原子と、の間に位置する主鎖中の炭素原子であってもよい。
ここで、「主鎖」とは、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸中の鎖状構造のうち、炭素数が最大であるものを意味する。炭素数が最大である鎖状構造が複数ある場合には、いずれの鎖状構造を主鎖として取り扱ってもよい。主鎖の炭素数は、必ず分岐鎖の炭素数以上となる。
【0079】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、下記一般式(6)で表されるモノカルボン酸(本明細書においては、「モノカルボン酸(6)」と略記することがある)であることが好ましい。
R31-C(=O)-OH ・・・・(6)
(式中、R31は、炭素数7~9の分岐鎖状のアルキル基である。)
【0080】
R31の炭素数7~9の分岐鎖状のアルキル基(一価の飽和脂肪族炭化水素基)としては、例えば、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、4-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、1-プロピルブチル基等の炭素数7の分岐鎖状のアルキル基;
イソオクチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基、1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、1,2,3-トリメチルペンチル基、1,2,4-トリメチルペンチル基、2,3,4-トリメチルペンチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1,4,4-トリメチルペンチル基、3,4,4-トリメチルペンチル基、1,1,2-トリメチルペンチル基、1,1,3-トリメチルペンチル基、1,1,4-トリメチルペンチル基、1,2,2-トリメチルペンチル基、2,2,3-トリメチルペンチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、1,3,3-トリメチルペンチル基、2,3,3-トリメチルペンチル基、3,3,4-トリメチルペンチル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基等の炭素数8の分岐鎖状のアルキル基;
1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、5-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、6,6-ジメチルヘプチル基、5,5-ジメチルヘプチル基、4,4-ジメチルヘプチル基、3,3-ジメチルヘプチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、1,2-ジメチルヘプチル基、1,3-ジメチルヘプチル基、1,4-ジメチルヘプチル基、1,5-ジメチルヘプチル基、1,6-ジメチルヘプチル基、2,3-ジメチルヘプチル基、2,4-ジメチルヘプチル基、2,5-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチルヘプチル基、3,4-ジメチルヘプチル基、3,5-ジメチルヘプチル基、3,6-ジメチルヘプチル基、4,5-ジメチルヘプチル基、4,6-ジメチルヘプチル基、5,6-ジメチルヘプチル基、1,2,3-トリメチルヘキシル基、1,2,4-トリメチルヘキシル基、1,2,5-トリメチルヘキシル基、2,3,4-トリメチルヘキシル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、3,4,5-トリメチルヘキシル基、1,1,2-トリメチルヘキシル基、1,1,3-トリメチルヘキシル基、1,1,4-トリメチルヘキシル基、1,1,5-トリメチルヘキシル基、1,2,2-トリメチルヘキシル基、2,2,3-トリメチルヘキシル基、2,2,4-トリメチルヘキシル基、2,2,5-トリメチルヘキシル基、1,3,3-トリメチルヘキシル基、2,3,3-トリメチルヘキシル基、3,3,4-トリメチルヘキシル基、3,3,5-トリメチルヘキシル基、1,4,4-トリメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルヘキシル基、3,4,4-トリメチルヘキシル基、4,4,5-トリメチルヘキシル基、1,5,5-トリメチルヘキシル基、2,5,5-トリメチルヘキシル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、4,5,5-トリメチルヘキシル基、1,2,3,4-テトラメチルペンチル基、1,1,2,3-テトラメチルペンチル基、1,1,2,4-テトラメチルペンチル基、1,1,3,4-テトラメチルペンチル基、1,2,2,3-テトラメチルペンチル基、1,2,2,4-テトラメチルペンチル基、2,2,3,4-テトラメチルペンチル基、1,2,3,3-テトラメチルペンチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、1,3,3,4-テトラメチルペンチル基、1,2,4,4-テトラメチルペンチル基、2,3,4,4-テトラメチルペンチル基、1,3,4,4-テトラメチルペンチル基、1-エチル-1-メチルヘキシル基、1-エチル-2-メチルヘキシル基、1-エチル-3-メチルヘキシル基、1-エチル-4-メチルヘキシル基、1-エチル-5-メチルヘキシル基、2-エチル-1-メチルヘキシル基、2-エチル-2-メチルヘキシル基、2-エチル-3-メチルヘキシル基、2-エチル-4-メチルヘキシル基、2-エチル-5-メチルヘキシル基、3-エチル-1-メチルヘキシル基、3-エチル-2-メチルヘキシル基、3-エチル-3-メチルヘキシル基、3-エチル-4-メチルヘキシル基、3-エチル-5-メチルヘキシル基、4-エチル-1-メチルヘキシル基、4-エチル-2-メチルヘキシル基、4-エチル-3-メチルヘキシル基、4-エチル-4-メチルヘキシル基、4-エチル-5-メチルヘキシル基、1,1-ジエチルペンチル基、1,2-ジエチルペンチル基、1,3-ジエチルペンチル基、2,2-ジエチルペンチル基、2,3-ジエチルペンチル基、3,3-ジエチルペンチル基、1-エチル-1-プロピルブチル基、2-エチル-1-プロピルブチル基等の炭素数9の分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0081】
モノカルボン酸(6)に限定されず、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸1分子中の分岐鎖の数は、1~3本であることが好ましい。
モノカルボン酸(6)に限定されず、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の1本の分岐鎖の炭素数は、1~3であることが好ましい。
モノカルボン酸(6)に限定されず、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、これらの条件をともに満たすもの、すなわち、1分子中の分岐鎖の数が1~3本であり、かつ1本の分岐鎖の炭素数が1~3個であるものがより好ましい。
【0082】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、導電体(金属銀)の光沢性と導電性の低下を抑制する適度な反応性を有し、かつ、銀インク組成物(I)中から揮発し難い一方で、銀インク組成物(I)の固化処理時には気化し易い、適度な沸点を有しており、先に説明した効果を向上させるものとして、特に適した特性を有する。
例えば、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の沸点は、180~270℃であることが好ましく、200~260℃であることがより好ましく、215~255℃であることが特に好ましい。分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の沸点が前記下限値以上であることで、銀インク組成物(I)中からの分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の揮発が抑制されて、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸を用いたことによる効果がより顕著に得られる。また、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の沸点が前記上限値以下であることで、銀インク組成物(I)の固化処理によって得られた金属銀中での分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の残存が抑制され、光沢性、導電性等が高いなど、より好ましい特性の金属銀が得られる。
【0083】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸(例えば、モノカルボン酸(6))で特に好ましいものとしては、ネオデカン酸(C9H19COOH)、2-プロピル吉草酸(2-プロピルペンタン酸、(CH3CH2CH2CH(CH3CH2CH2)COOH)、3,5,5-トリメチルヘキサン酸((CH3)3CCH2CH(CH3)CH2COOH)等が挙げられる。
なお、本明細書において、ネオデカン酸とは、炭素数10の飽和脂肪族モノカルボン酸の異性体の混合物を意味し、前記混合物には炭素数10の分岐鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸が必ず含まれる。このように、ネオデカン酸とは、1種の化合物だけを意味するものではない。
そして、ネオデカン酸中の、2種以上の炭素数10の飽和脂肪族モノカルボン酸の組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0084】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0085】
上述のとおり、銀インク組成物(I)は、前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されていることで、銀インク組成物(I)の固化処理によって、光沢性と導電性がより高い金属銀を形成できる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
すなわち、金属銀の形成対象面に付着した銀インク組成物(I)中においては、カルボン酸銀から銀イオン(Ag+)が生じる。この場合、銀インク組成物(I)の初期の固化処理によって、銀イオンに酸素が配位する(Ag+・・・O)。次いで、金属銀を形成するための、銀インク組成物(I)の乾燥処理や加熱(焼成)処理等の固化処理によって、酸素が配位した銀イオンから酸化銀(Ag2O)が生じる。ここで、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されていない銀インク組成物の場合には、この銀インク組成物の固化処理によって最終的に生成した金属銀中に、副生した酸化銀が不純物として混入し、金属銀の光沢性が低下してしまい、導電性も低下してしまうと推測される。一方で、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されている銀インク組成物(I)の場合には、この分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が酸化銀と反応することで、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の銀塩(本明細書においては、「分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸銀」と略記することがある)が生じる。この分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸銀は、β-ケトカルボン酸銀(1)と同様に、銀インク組成物(I)の固化処理によって最終的に金属銀(銀層)を生成する。このように、銀インク組成物(I)を用いることにより、銀インク組成物(I)の固化処理が原因となって生じた酸化銀が、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の作用によって、金属銀の光沢性と導電性の低下原因である不純物ではなく、金属銀そのものに転換されることによって、光沢性と導電性がより高い金属銀を形成できると推測される。
【0086】
銀インク組成物(I)において、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の配合量は、β-ケトカルボン酸銀(1)中の銀原子の配合量1モルあたり、0.01~1モルであることが好ましく、0.02~0.7モルであることがより好ましく、0.03~0.4モルであることが特に好ましい。分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の前記配合量がこのような範囲であることで、光沢性と導電性が高い金属銀を形成する効果がより高くなる。
【0087】
分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸以外のカルボン酸にも、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と同様に、光沢性と導電性がより高い金属銀の形成を可能とするものがある。
このような分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸以外のカルボン酸(本明細書においては「他のカルボン酸」と称することがある)は、一価カルボン酸であってもよいし、二価以上の多価カルボン酸であってもよく、脂肪族カルボン酸であってもよいし、芳香族カルボン酸であってもよい。
【0088】
前記他のカルボン酸は、ホルミル基(-C(=O)-H)等の還元力を有する基を含まないものが好ましい。このような基を含まない他のカルボン酸が配合されてなる銀インク組成物(I)は、その保存中にカルボン酸銀由来の不溶物の生成が抑制され、取り扱い性がより高い。
【0089】
前記他のカルボン酸の炭素数は、5~17であることが好ましく、例えば、5~15、5~13及び5~11のいずれかであってもよい。
【0090】
前記他のカルボン酸の沸点は、150~290℃であることが好ましく、例えば、155~280℃、160~270℃及び160~260℃のいずれかであってもよい。他のカルボン酸の沸点が前記下限値以上であることで、銀インク組成物(I)中からの他のカルボン酸の揮発が抑制されて、他のカルボン酸を用いたことによる効果がより顕著に得られる。また、他のカルボン酸の沸点が前記上限値以下であることで、銀インク組成物(I)の固化処理によって得られた金属銀中での他のカルボン酸の残存が抑制され、光沢性、導電性等が高いなど、より好ましい特性の金属銀が得られる。
【0091】
前記他のカルボン酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0092】
銀インク組成物(I)において、前記他のカルボン酸の配合量は、上述の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の配合量と同じとすることができる。
【0093】
[含窒素化合物]
銀インク組成物(I)は、β-ケトカルボン酸銀(1)及び分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸以外に、さらに含窒素化合物が配合されてなるものが好ましい。
前記含窒素化合物は、炭素数25以下のアミン化合物(以下、「アミン化合物」と略記することがある)、炭素数25以下の第4級アンモニウム塩(以下、「第4級アンモニウム塩」と略記することがある)、アンモニア、炭素数25以下のアミン化合物が酸と反応してなるアンモニウム塩(以下、「アミン化合物由来のアンモニウム塩」と略記することがある)、及びアンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩(以下、「アンモニア由来のアンモニウム塩」と略記することがある)からなる群から選択される1種又は2種以上のものである。すなわち、配合される含窒素化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0094】
(アミン化合物、第4級アンモニウム塩)
前記アミン化合物は、炭素数が1~25であり、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンのいずれでもよい。また、前記第4級アンモニウム塩は、炭素数が4~25である。前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩は、鎖状及び環状のいずれでもよい。また、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子(例えば、第1級アミンのアミノ基(-NH2)を構成する窒素原子)の数は1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0095】
前記第1級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいモノアルキルアミン、モノアリールアミン、モノ(ヘテロアリール)アミン、ジアミン等が挙げられる。
【0096】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、このようなアルキル基としては、例えば、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が1~19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。
好ましい前記モノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、n-ブチルアミン、n-へキシルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、3-アミノペンタン、3-メチルブチルアミン、2-ヘプチルアミン(2-アミノヘプタン)、2-アミノオクタン、2-エチルヘキシルアミン、1,2-ジメチル-n-プロピルアミン等が挙げられる。
【0097】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。前記アリール基の炭素数は、6~10であることが好ましい。
【0098】
前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、芳香族環骨格を構成する原子として、ヘテロ原子を有するものであり、前記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ホウ素原子等が挙げられる。また、芳香族環骨格を構成する前記へテロ原子の数は特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよい。2個以上である場合、これらへテロ原子は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、これらへテロ原子は、すべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけ異なっていてもよい。
前記ヘテロアリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されないが、3~12員環であることが好ましい。
【0099】
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1~4個有する単環状のものとしては、例えば、ピロリル基、ピロリニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペラジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、フラニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1個有する単環状のものとしては、例えば、チエニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する単環状のものとしては、例えば、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、モルホリニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する単環状のものとしては、例えば、チアゾリル基、チアジアゾリル基、チアゾリジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、3~8員環であることが好ましく、5~6員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、窒素原子を1~5個有する多環状のものとしては、例えば、インドリル基、イソインドリル基、インドリジニル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラゾロピリジル基、テトラゾロピリダジニル基、ジヒドロトリアゾロピリダジニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ジチアナフタレニル基、ベンゾチオフェニル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、酸素原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
前記ヘテロアリール基で、硫黄原子を1~2個及び窒素原子を1~3個有する多環状のものとしては、例えば、ベンゾチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基等が挙げられ、このようなヘテロアリール基は、7~12員環であることが好ましく、9~10員環であることがより好ましい。
【0100】
前記ジアミンは、アミノ基を2個有していればよく、2個のアミノ基の位置関係は特に限定されない。好ましい前記ジアミンとしては、例えば、前記モノアルキルアミン、モノアリールアミン又はモノ(ヘテロアリール)アミンにおいて、アミノ基(-NH2)を構成する水素原子以外の1個の水素原子が、アミノ基で置換されたもの等が挙げられる。
前記ジアミンは炭素数が1~10であることが好ましく、より好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン等が挙げられる。
【0101】
前記第2級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいジアルキルアミン、ジアリールアミン、ジ(ヘテロアリール)アミン等が挙げられる。
【0102】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルアミン一分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
好ましい前記ジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N-メチル-n-ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、ジ(2-エチルへキシル)アミン等が挙げられる。
【0103】
前記ジアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6~10であることが好ましい。また、ジアリールアミン一分子中の2個のアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0104】
前記ジ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基は、前記モノ(ヘテロアリール)アミンを構成するヘテロアリール基と同様であり、6~12員環であることが好ましい。また、ジ(ヘテロアリール)アミン一分子中の2個のヘテロアリール基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0105】
前記第3級アミンとしては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいトリアルキルアミン、ジアルキルモノアリールアミン等が挙げられる。
【0106】
前記トリアルキルアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~19の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、トリアルキルアミン一分子中の3個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、3個のアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
好ましい前記トリアルキルアミンとして、具体的には、例えば、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0107】
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。また、ジアルキルモノアリールアミン一分子中の2個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
前記ジアルキルモノアリールアミンを構成するアリール基は、前記モノアリールアミンを構成するアリール基と同様であり、炭素数が6~10であることが好ましい。
【0108】
前記第4級アンモニウム塩としては、例えば、1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するアルキル基は、前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基と同様であり、炭素数が1~19であることが好ましい。また、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム一分子中の4個のアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、4個のアルキル基は、すべてが同じでもよいし、すべてが異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。
前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムを構成するハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
好ましい前記ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムとして、具体的には、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0109】
ここまでは、主に鎖状のアミン化合物及び第4級有機アンモニウム塩について説明したが、前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩は、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子が環骨格構造(複素環骨格構造)の一部であるようなヘテロ環化合物であってもよい。すなわち、前記アミン化合物は環状アミンでもよく、前記第4級アンモニウム塩は環状アンモニウム塩でもよい。この時の環(アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子を含む環)構造は、単環状及び多環状のいずれでもよく、その環員数(環骨格を構成する原子の数)も特に限定されず、脂肪族環及び芳香族環のいずれでもよい。
環状アミンであれば、好ましいものとして、例えば、ピリジン等が挙げられる。
【0110】
前記第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム塩において、「置換基で置換されていてもよい水素原子」とは、アミン部位又はアンモニウム塩部位を構成する窒素原子に結合している水素原子以外の水素原子である。この時の置換基の数は特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよく、前記水素原子のすべてが置換基で置換されていてもよい。置換基の数が複数の場合には、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、複数個の置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部だけが異なっていてもよい。また、置換基の位置も特に限定されない。
【0111】
前記アミン化合物及び第4級アンモニウム塩における前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、トリフルオロメチル基(-CF3)等が挙げられる。ここで、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0112】
前記モノアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基としてアリール基を有する、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は置換基として好ましくは炭素数が1~5のアルキル基を有する、炭素数が3~7の環状のアルキル基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアルキルアミンとして、具体的には、例えば、2-フェニルエチルアミン、ベンジルアミン、2,3-ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
また、置換基である前記アリール基及びアルキル基は、さらに1個以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。このようなハロゲン原子で置換された置換基を有するモノアルキルアミンとしては、例えば、2-ブロモベンジルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0113】
前記モノアリールアミンを構成するアリール基が置換基を有する場合、前記アリール基は、置換基としてハロゲン原子を有する、炭素数が6~10のアリール基であることが好ましい。このような置換基を有するモノアリールアミンとして、具体的には、例えば、ブロモフェニルアミン等が挙げられる。ここで、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0114】
前記ジアルキルアミンを構成するアルキル基が置換基を有する場合、前記アルキル基は、置換基として水酸基又はアリール基を有する、炭素数が1~9の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、このような置換基を有するジアルキルアミンとして、具体的には、例えば、ジエタノールアミン、N-メチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0115】
前記アミン化合物は、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-へキシルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-オクタデシルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、3-アミノペンタン、3-メチルブチルアミン、2-ヘプチルアミン、2-アミノオクタン、2-エチルヘキシルアミン、2-フェニルエチルアミン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、N-メチル-n-ヘキシルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ(2-エチルへキシル)アミン、1,2-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン又はN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンであることが好ましい。
そして、これらアミン化合物の中でも、2-エチルヘキシルアミンは、前記カルボン酸銀との相溶性に優れ、銀インク組成物(I)の高濃度化に特に適しており、さらに金属銀の表面粗さの低減に特に適したものとして挙げられる。
【0116】
(アミン化合物由来のアンモニウム塩)
前記アミン化合物由来のアンモニウム塩は、前記アミン化合物が酸と反応してなるアンモニウム塩である。前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸でもよいし、酢酸等の有機酸でもよく、酸の種類は特に限定されない。
前記アミン化合物由来のアンモニウム塩としては、例えば、n-プロピルアミン塩酸塩、N-メチル-n-ヘキシルアミン塩酸塩、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアミン塩酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
(アンモニア由来のアンモニウム塩)
前記アンモニア由来のアンモニウム塩は、アンモニアが酸と反応してなるアンモニウム塩である。ここで酸としては、前記アミン化合物由来のアンモニウム塩の場合と同じものが挙げられる。
前記アンモニア由来のアンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0118】
前記アミン化合物、第4級アンモニウム塩、アミン化合物由来のアンモニウム塩及びアンモニア由来のアンモニウム塩は、それぞれ1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
そして、前記含窒素化合物としては、前記アミン化合物、第4級アンモニウム塩、アミン化合物由来のアンモニウム塩及びアンモニア由来のアンモニウム塩からなる群から選択される1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0119】
本実施形態においては、例えば、前記含窒素化合物として、炭素数が8以上の第1含窒素化合物と、炭素数が7以下の第2含窒素化合物と、を併用してもよい。
前記第1含窒素化合物及び第2含窒素化合物を併用する場合、銀インク組成物(I)において、第1含窒素化合物の配合量に対する第2含窒素化合物の配合量の割合は、0モル%より大きく、18モル%未満であることが好ましく、1~17モル%であることがより好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、例えば、細線状の銀層をより安定して形成できる。
【0120】
前記含窒素化合物を用いる場合、銀インク組成物(I)において、前記含窒素化合物の配合量は、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり0.3~15モルであることが好ましく、0.3~12モルであることがより好ましく、0.3~8モルであることが特に好ましく、例えば、1~8モル、2.5~8モル、及び4~8モルのいずれかであってもよい。前記含窒素化合物の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物(I)は安定性がより向上し、金属銀の品質がより向上する。
【0121】
[アルコール]
銀インク組成物(I)は、前記カルボン酸銀及び分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸以外に、さらにアルコールが配合されてなるものが好ましい。
【0122】
前記アルコールは、下記一般式(2)で表されるアセチレンアルコール類(以下、「アセチレンアルコール(2)」と略記することがある)であることが好ましい。
【0123】
【化2】
(式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【0124】
(アセチレンアルコール(2))
アセチレンアルコール(2)は、前記一般式(2)で表される。
式中、R’及びR’’は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は1個以上の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基である。
R’及びR’’における炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよい。R’及びR’’における前記アルキル基としては、Rにおける前記アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0125】
R’及びR’’におけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基としては、例えば、炭素数が1~16の飽和又は不飽和の一価の脂肪族炭化水素基、前記脂肪族炭化水素基が酸素原子に結合してなる一価の基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、シアノ基、フェノキシ基等が挙げられる。これら前記置換基は、Rにおけるフェニル基の水素原子が置換されていてもよい前記置換基と同様のものである。そして、置換基を有する前記フェニル基において、前記置換基の数及び位置は特に限定されず、置換基の数が複数である場合、これら複数個の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0126】
R’及びR’’は、水素原子、又は炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子、又は炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
【0127】
好ましいアセチレンアルコール(2)としては、例えば、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2-プロピン-1-オール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、3-エチル-1-ヘプチン-3-オール等が挙げられる。
【0128】
アセチレンアルコール(2)を用いる場合、銀インク組成物(I)において、アセチレンアルコール(2)の配合量は、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたり0.01~0.7モルであることが好ましく、0.02~0.5モルであることがより好ましく、0.02~0.3モルであることが特に好ましい。アセチレンアルコール(2)の前記配合量がこのような範囲であることで、銀インク組成物(I)の安定性がより向上する。
【0129】
前記アルコールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0130】
[他の成分]
銀インク組成物(I)は、β-ケトカルボン酸銀(1)と、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、含窒素化合物と、アルコールと、のいずれにも該当しない、他の成分(本明細書においては、「他の成分」と略記することがある)が配合されてなるものでもよい。
銀インク組成物(I)における前記他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。前記他の成分で、好ましいものとしては、例えば、アルコール以外の溶媒等が挙げられ、配合成分の種類や量に応じて任意に選択できる。
銀インク組成物(I)において、前記他の成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0131】
(溶媒)
前記溶媒は、アルコール以外のもの(水酸基を有しないもの)であれば、特に限定されない。
ただし、前記溶媒は、常温で液状であるものが好ましい。
【0132】
前記溶媒としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、グルタル酸モノメチル、グルタル酸ジメチル等のエステル;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2-ジメトキシエタン(ジメチルセロソルブ)等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド等が挙げられる。
【0133】
銀インク組成物(I)における前記他の成分の配合量は、前記他の成分の種類に応じて、適宜選択すればよい。
【0134】
例えば、前記他の成分がアルコール以外の溶媒である場合、前記溶媒の配合量は、銀インク組成物(I)の粘度等、目的に応じて選択すればよい。ただし通常は、銀インク組成物(I)において、配合成分の総質量に対する、前記溶媒の配合量の割合は、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0135】
例えば、前記他の成分が前記溶媒以外の成分である場合、銀インク組成物(I)において、配合成分の総質量に対する、前記他の成分の配合量の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0136】
配合成分の総質量に対する、前記他の成分の配合量の割合が0質量%、すなわち他の成分を配合しなくても、銀インク組成物(I)は十分にその効果を発現する。
【0137】
銀インク組成物(I)においては、配合成分がすべて溶解していてもよいし、一部又は全ての成分が溶解せずに分散した状態であってもよいが、配合成分がすべて溶解していることが好ましく、溶解していない成分は均一に分散していることが好ましい。
【0138】
○銀インク組成物(I)の製造方法
銀インク組成物(I)は、前記カルボン酸銀、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸、及び、必要に応じて、これら以外の成分を配合することで得られる。各成分の配合後は、得られた配合物をそのまま銀インク組成物(I)としてもよいし、必要に応じて引き続き公知の精製操作を行って得られた精製物を銀インク組成物(I)としてもよい。本実施形態においては、β-ケトカルボン酸銀(1)を用いることで、上記の各成分の配合時において、光沢性及び導電性を低下させる不純物が生成しないか、又はこのような不純物の生成量を極めて少量に抑制できる。したがって、精製操作を行っていない銀インク組成物(I)を用いても、十分な光沢性及び導電性を有する金属銀が得られる。
【0139】
各成分の配合順序は、特に限定されない。各成分の好ましい配合方法の一例としては、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸を最後に配合する方法が挙げられる。すなわち、前記銀インク組成物(I)の好ましい製造方法の一例としては、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸以外の成分をすべて配合した後、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸を最後に配合する製造方法が挙げられる。
【0140】
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、すべての成分を順次添加しながら混合してもよい。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー、三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を使用して混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
銀インク組成物(I)において、溶解していない成分を均一に分散させる場合には、例えば、上記の三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を用いて分散させる方法を適用することが好ましい。
【0141】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、-5~60℃であることが好ましい。そして、配合時の温度は、配合成分の種類及び量に応じて、配合して得られた混合物が撹拌し易い粘度となるように、適宜調節するとよい。
また、配合時間も、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、10分~36時間であることが好ましい。
【0142】
〇銀インク組成物(II)
銀インク組成物(II)は、前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されていない点以外は、銀インク組成物(I)と同じであってよい。
すなわち、銀インク組成物(II)の配合成分としては、β-ケトカルボン酸銀(1)、前記含窒素化合物、前記アルコール、及び前記他の成分が挙げられる。
銀インク組成物(II)における、β-ケトカルボン酸銀(1)、含窒素化合物、アルコール、及び他の成分の配合量は、銀インク組成物(I)の場合と同じであってよい。
【0143】
○銀インク組成物(II)の製造方法
銀インク組成物(II)は、前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸を配合しない点以外は、銀インク組成物(I)の場合と同じ方法で製造できる。
すなわち、銀インク組成物(II)は、β-ケトカルボン酸銀(1)、及び、必要に応じて任意成分を配合することで得られる。ここで「任意成分」とは、β-ケトカルボン酸銀(1)に該当しない成分を意味する。例えば、銀インク組成物(II)の製造時においては、各成分の配合順序は、特に限定されない。
【0144】
○銀インク組成物(III)
銀インク組成物(III)は、有機銀錯体と、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸(前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸)と、含窒素化合物と、が配合されてなる。
このような銀インク組成物(III)としては、例えば、有機銀錯体の前駆体化合物と、これ以外の含窒素化合物と、の反応によって、有機銀錯体が形成され、かつ余剰の前記含窒素化合物が残存している反応液と、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、を含むものが挙げられる。このような銀インク組成物(III)として、より具体的には、「特許第5243409号公報」に記載のものに、さらに分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されてなるものが挙げられる。
すなわち、銀インク組成物(III)としては、例えば、下記一般式(91)で表される銀化合物(本明細書においては、「銀化合物(91)」と略記することがある)と、下記一般式(92)で表される化合物(本明細書においては、「含窒素化合物(92)」と略記することがある)及び下記一般式(93)で表される化合物(本明細書においては、「含窒素化合物(93)」と略記することがある)からなる群から選択される1種又は2種以上の含窒素化合物と、を反応させて得られた有機銀錯体を含有し、さらに、前記含窒素化合物と、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、を含有する液状組成物が挙げられる。
【0145】
【化3】
(式中、n
101は、1~3の整数であり;X
101は、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、シアノ基、シアネート基、カーボネート基、ニトレート基、ニトライト基、サルフェート基、ホスフェート基、チオシアネート基、クロレート基、パークロレート基、テトラフルオロボレート基、アセチルアセトネート基、カルボキシレート基、及びこれらの誘導体からなる群よから選択される基であり;R
101~R
111は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30の脂肪族若しくは脂環族アルキル基又はアリール基、官能基が置換されたアルキル基又はアリール基、及びヘテロ環式基からなる群から選択される基であり、ただし、R
101~R
111がすべて水素原子になることはない。)
【0146】
前記有機銀錯体としては、例えば、下記一般式(95)-1で表される化合物(本明細書においては、「有機銀錯体(95)-1」と略記することがある)、及び下記一般式(95)-2で表される化合物(本明細書においては、「有機銀錯体(95)-2」と略記することがある)が挙げられる。
【0147】
【化4】
(式中、R
101~R
111は、上記と同じであり;m
101及びm
102は、それぞれ独立に、0.5~1.5である。)
【0148】
[銀化合物(91)]
銀化合物(91)としては、例えば、酸化銀、チオシアネート化銀、シアン化銀、シアネート化銀、炭酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、リン酸銀、過塩素酸銀、四フッ素ボレート化銀、アセチルアセトネート化銀、酢酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀等が挙げられる。
【0149】
銀化合物(91)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0150】
銀インク組成物(III)において、銀化合物(91)に由来する銀の含有量は、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。前記銀の含有量がこのような範囲であることで、形成された導電体(金属銀)は品質により優れたものとなる。前記銀の含有量の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、銀インク組成物(III)の取り扱い性等を考慮すると、20質量%であることが好ましい。
なお、ここで、「銀化合物(91)に由来する銀」とは、特に断りの無い限り、銀インク組成物(III)の製造時に配合された銀化合物(91)中の銀と同義であり、配合後も引き続き銀化合物(91)を構成している銀と、配合後に銀化合物(91)の反応で生じた反応物中の銀と、配合後に銀化合物(91)の反応で生じた銀そのもの(金属銀)と、のすべてを含む概念とする。
【0151】
[含窒素化合物(92)]
含窒素化合物(92)は、アンモニウムカルバメート系化合物である。
含窒素化合物(92)において、R101~R105は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、シアノエチル基、メトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、ヘキサメチレンイミニル基、モルホリノ基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジニル基、カルボキシメチル基、トリメトキシシリルプロピル基、トリエトキシシリルプロピル基、フェニル基、メトキシフェニル基、シアノフェニル基、トリル基、ベンジル基、又はこれらの基において一部が置換された基であることが好ましい。ただし、R101~R105がすべて水素原子になることはない。
【0152】
含窒素化合物(92)としては、例えば、エチルアンモニウム エチルカルバメート、イソプロピルアンモニウム イソプロピルカルバメート、n-ブチルアンモニウム n-ブチルカルバメート、イソブチルアンモニウム イソブチルカルバメート、tert-ブチルアンモニウム tert-ブチルカルバメート、2-エチルヘキシルアンモニウム 2-エチルヘキシルカルバメート、オクタデシルアンモニウム オクタデシルカルバメート、2-メトキシエチルアンモニウム 2-メトキシエチルカルバメート、2-シアノエチルアンモニウム 2-シアノエチルカルバメート、ジブチルアンモニウム ジブチルカルバメート、ジオクタデシルアンモニウム ジオクタデシルカルバメート、メチルデシルアンモニウム メチルデシルカルバメート、ヘキサメチレンイミンアンモニウム ヘキサメチレンイミンカルバメート、モルホリノアンモニウム モルホリノカルバメート、ピリジニウムエチルヘキシルカルバメート、ベンジルアンモニウム ベンジルカルバメート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウム トリエトキシシリルプロピルカルバメート等が挙げられる。
そして、これら含窒素化合物(92)の中でも、2-エチルヘキシルアンモニウム 2-エチルヘキシルカルバメートは、銀化合物(91)との相溶性に優れ、銀インク組成物(III)の高濃度化に特に適しており、さらに金属銀の表面粗さの低減に特に適したものとして挙げられる。
【0153】
含窒素化合物(92)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0154】
含窒素化合物(92)は、公知の方法で製造でき、例えば、「米国特許第4542214号明細書」に記載の方法で製造できる。
【0155】
[含窒素化合物(93)]
含窒素化合物(93)は、アンモニウムカーボネート系化合物である。
含窒素化合物(93)において、R106~R111は、含窒素化合物(92)におけるR101~R105と同様のものである。ただし、R106~R111がすべて水素原子になることはない。
【0156】
含窒素化合物(93)としては、例えば、エチルアンモニウム エチルカーボネート、イソプロピルアンモニウム イソプロピルカーボネート、n-ブチルアンモニウム n-ブチルカーボネート、イソブチルアンモニウム イソブチルカーボネート、tert-ブチルアンモニウム tert-ブチルカーボネート、2-エチルヘキシルアンモニウム 2-エチルヘキシルカーボネート、2-メトキシエチルアンモニウム 2-メトキシエチルカーボネート、2-シアノエチルアンモニウム 2-シアノエチルカーボネート、オクタデシルアンモニウム オクタデシルカーボネート、ジブチルアンモニウム ジブチルカーボネート、ジオクタデシルアンモニウム ジオクタデシルカーボネート、メチルデシルアンモニウム メチルデシルカーボネート、ヘキサメチレンイミニルアンモニウム ヘキサメチレンイミニルカーボネート、モルホリノアンモニウム モルホリノカーボネート、ベンジルアンモニウム ベンジルカーボネート、トリエトキシシリルプロピルアンモニウム トリエトキシシリルプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0157】
含窒素化合物(93)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0158】
含窒素化合物(93)は、公知の方法で製造でき、例えば、「米国特許第4542214号明細書」に記載の方法で製造できる。
【0159】
銀化合物(91)と反応させる含窒素化合物は、1種又は2種以上の含窒素化合物(92)のみであってもよいし、1種又は2種以上の含窒素化合物(93)のみであってもよいし、1種又は2種以上の含窒素化合物(92)と、1種又は2種以上の含窒素化合物(93)と、の両方であってもよい。
【0160】
銀化合物(91)と、含窒素化合物(92)及び含窒素化合物(93)からなる群から選択される1種又は2種以上と、の反応は、例えば、窒素雰囲気下において、常圧の状態で又は加圧した状態で、溶媒を用いずに行うことができる。
【0161】
[溶媒]
前記反応は、溶媒を用いて行ってもよい。このときの溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール;エチレングリコール、グリセリン等のグリコール;エチルアセテート、ブチルアセテート、カルビトールアセテート等のアセテート;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0162】
前記溶媒は、銀インク組成物(III)の配合成分であってもよい。
【0163】
前記反応時において、含窒素化合物(92)及び含窒素化合物(93)の合計使用量は、使用する銀化合物(91)中の銀原子の量に対して、1~4倍モル量である([含窒素化合物(92)及び含窒素化合物(93)の合計使用量(モル)]/[使用する銀化合物(91)中の銀原子の量(モル)]の値が1~4である)ことが好ましい。
【0164】
[炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸]
銀インク組成物(III)における、炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、銀インク組成物(I)における炭素数8~10の分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸(前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸)と同じである。
銀インク組成物(III)における前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸は、銀インク組成物(I)における前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸と、同様の作用を示すと推測される。
【0165】
銀インク組成物(III)において、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の配合量は、前記有機銀錯体中の銀原子の配合量1モルあたり、0.01~1モルであることが好ましく、0.02~0.7モルであることがより好ましく、0.03~0.4モルであることが特に好ましい。分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の前記配合量がこのような範囲であることで、印刷対象物を加熱しながら印刷を行った場合であっても、光沢性が高い金属銀を形成する効果がより高くなる。
銀インク組成物(III)の製造時に、前記有機銀錯体の前駆体化合物を用いる場合には、前記前駆体化合物中の銀原子の配合量1モルあたりの、分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の配合量を、上述の数値範囲とすることができる。
【0166】
上述のとおり、前記銀インク組成物(III)は、前記分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が配合されていることで、印刷対象物を加熱しながら印刷を行った場合であっても、光沢性が高い金属銀を形成できる。その理由は定かではないが、上述の銀インク組成物(I)の場合と同じであると推測される。
【0167】
<工程(A2)>
前記工程(A1)の後、前記工程(A2)においては、前記繊維に付着させた前記銀インク組成物の固化処理により、前記繊維の表面を覆う金属銀を形成する。
銀インク組成物の固化処理は、銀インク組成物の乾燥処理や加熱(焼成)処理等によって行うことができる。本実施形態においては、加熱処理は、乾燥処理を兼ねて行ってもよい。
【0168】
銀インク組成物を乾燥処理する場合には、公知の方法で行えばよい。すなわち前記乾燥処理は、例えば、常圧下、減圧下及び送風条件下のいずれで行ってもよく、大気下及び不活性ガス雰囲気下のいずれでおこなってもよい。そして、乾燥温度も特に限定されず、加熱乾燥及び常温乾燥のいずれであってもよい。加熱処理が不要な場合の好ましい乾燥方法としては、例えば、18~30℃で大気下において乾燥させる方法が挙げられる。
【0169】
銀インク組成物を加熱(焼成)処理する場合、その条件は、銀インク組成物の配合成分の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、加熱温度が60~370℃であることが好ましく、70~280℃であることがより好ましく、例えば、70~200℃であってもよい。加熱時間は、加熱温度に応じて調節すればよいが、通常は、1分~24時間であることが好ましく、1分~12時間であることがより好ましく、例えば、1~60分であってもよい。β-ケトカルボン酸銀(1)は、例えば、酸化銀等の金属銀の形成材料とは異なり、当該分野で公知の還元剤等を使用しなくても、低温で分解する。そして、このような分解温度を反映して、前記銀インク組成物は、上記のように、従来のものより極めて低温で金属銀を形成できる。
【0170】
銀インク組成物を耐熱性が低い目的物に付着させて加熱(焼成)処理する場合には、加熱温度は130℃未満であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。
【0171】
銀インク組成物の加熱処理の方法は、特に限定されない。前記加熱処理は、例えば、電気炉による加熱、感熱方式の熱ヘッドによる加熱、遠赤外線照射による加熱、高熱ガスの吹き付けによる加熱、高周波照射による加熱、誘電加熱等で行うことができる。また、前記加熱処理は、大気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、加湿条件下で行ってもよい。そして、前記加熱処理は、常圧下、減圧下及び加圧下のいずれで行ってもよい。
【0172】
本明細書において「加湿」とは、特に断りのない限り、湿度を人為的に増大させることを意味し、好ましくは相対湿度を5%以上とすることである。加熱処理時には、処理温度が高いことによって、処理環境での湿度が極めて低くなるため、5%という相対湿度は、明らかに人為的に増大されたものであるといえる。
【0173】
銀インク組成物の加熱処理を加湿条件下で行う場合の相対湿度は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましく、90%以上であってもよいし、100%であってもよい。そして、加湿条件下での加熱処理は、100℃以上に加熱した高圧水蒸気の吹き付けにより行ってもよい。このように加湿条件下で加熱処理することにより、短時間でより高純度の金属銀を形成できる。
【0174】
<他の工程>
前記製造方法は、前記工程(A1)と、前記工程(A2)と、のいずれにも該当しない、他の工程を有していてもよい。
前記他の工程は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
【0175】
[工程(B1)]
好ましい前記他の工程としては、例えば、前記工程(A1)の前に行う、前記繊維に電解質を付着させる工程(B1)が挙げられる。
すなわち、前記製造方法は、前記工程(A1)の前に、さらに、前記繊維に電解質を付着させる工程(B1)を有していてもよい。前記工程(B1)は、前記繊維の表面を金属銀で覆う前に行う、前記繊維の前処理工程に相当する。
工程(B1)を行うことにより、前記繊維に導電性を付与するために必要な、工程(A1)における前記銀インク組成物の使用量を低減できる。
【0176】
前記工程(B1)で用いる前記電解質としては、前記導電性繊維がさらに有していてもよいものとして先に説明した電解質と同じものが挙げられる。
工程(B1)を有する製造方法で製造された前記導電性繊維としては、前記繊維と、前記繊維の表面に付着している電解質と、前記繊維の表面を前記電解質ごと覆う金属銀層と、を有する導電性繊維が挙げられる。これは、先に説明した、前記繊維の表面を覆う金属銀層を有する導電性繊維であって、前記繊維と前記金属銀層との間に電解質を有する導電性繊維である。
【0177】
前記工程(B1)は、例えば、前記電解質を含有する溶液(本明細書においては、「電解質溶液」と称することがある)を、前記繊維に付着させ、前記溶液を乾燥させることにより、行うことができる。
前記電解質溶液は、前記電解質の水溶液(電解質水溶液)であることが好ましい。
【0178】
前記電解質溶液の前記電解質の濃度は、特に限定されないが、0.001~2mol/Lであることが好ましく、例えば、0.02~1.4 mol/Lであってもよい。前記濃度が前記下限値以上であることで、工程(B1)を行ったことにより得られる効果が、より高くなる。例えば、前記導電性繊維が有する電解質の量を、より容易に増大させることができる。そして、工程(A1)における前記銀インク組成物の使用量を、より低減できる。前記濃度が前記上限値以下であることで、前記電解質溶液をより容易に調製できる。
【0179】
好ましい前記電解質溶液としては、例えば、酢酸塩水溶液、ギ酸塩水溶液が挙げられる。
より好ましい前記電解質溶液としては、例えば、濃度が0.02~1.4 mol/Lの酢酸塩水溶液、濃度が0.02~1.4 mol/Lのギ酸塩水溶液が挙げられる。
【0180】
前記工程(B1)においては、前記繊維に電解質を付着させる操作を1回だけ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。例えば、工程(B1)において、前記電解質溶液を前記繊維に付着させ、乾燥させる場合には、この電解質溶液の前記繊維への付着と乾燥を、1回だけ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。前記繊維に電解質を付着させる操作を、2回以上行う場合には、すべての回で同じ種類の電解質を前記繊維へ付着させてもよいし、すべての回で異なる種類の電解質を前記繊維へ付着させてもよいし、一部の回のみで同じ種類の電解質を前記繊維へ付着させてもよい。異なる種類の電解質を前記繊維へ付着させる場合には、その電解質の組み合わせは特に限定されない。
【0181】
前記工程(B1)においては、前記繊維に電解質を付着させる1回の操作で、電解質を1種のみ付着させてもよいし、電解質を2種以上付着させてもよく、電解質を2種以上付着させる場合、これら2種以上の電解質の組み合わせは、特に限定されない。例えば、工程(B1)において、前記電解質溶液を前記繊維に付着させ、乾燥させる場合には、この電解質溶液が含有する電解質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、これら2種以上の電解質の組み合わせは、特に限定されない。
【0182】
前記工程(B1)において、電解質溶液の乾燥は、例えば、前記工程(A1)における銀インク組成物の乾燥処理の場合と同様の方法で行うことができる。
【0183】
[工程(C1)]
前記他の工程としては、例えば、前記工程(A1)の前に行う、前記繊維を塩基処理又は酸処理する工程(C1)も挙げられる。
すなわち、前記製造方法は、前記工程(A1)の前に、さらに、前記繊維を塩基処理又は酸処理する工程(C1)を有していてもよい。前記工程(C1)も、前記繊維の表面を金属銀で覆う前に行う、前記繊維の前処理工程に相当する。
前記塩基処理又は酸処理は、その条件によっては、前記繊維を変質させるエッチング処理を含む。
工程(C1)を行う(特にエッチング処理を行う)ことにより、前記繊維に導電性を付与するために必要な、工程(A1)における前記銀インク組成物の使用量を低減できる。
【0184】
前記エッチング処理は、前記繊維の表面を部分的に溶解させる処理であり、エッチング処理によって前記繊維の質量は減少する。エッチング処理を行った前記繊維の表面は、凹凸を有しており、例えば、前記工程(A2)において形成した金属銀、又は、前記工程(B1)において用いた電解質と、前記繊維と、の密着性が、向上すると推測される。
【0185】
前記工程(C1)は、例えば、前記塩基を含有する溶液(本明細書においては、「塩基溶液」と称することがある)、又は前記酸を含有する溶液(本明細書においては、「酸溶液」と称することがある)を、前記繊維に付着させ、前記溶液を乾燥させることにより、行うことができる。
前記塩基溶液は、前記塩基の水溶液(塩基水溶液)であることが好ましい。
前記酸溶液は、前記酸の水溶液(酸水溶液)であることが好ましい。
【0186】
前記工程(C1)で用いる前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の強塩基等が挙げられる。これら強塩基での前記塩基処理は、前記エッチング処理として好適である。
【0187】
前記塩基溶液の前記塩基の濃度は、特に限定されないが、0.05~1mol/Lであることが好ましく、例えば、0.1~0.5mol/Lであってもよい。前記濃度が前記下限値以上であることで、工程(C1)を行ったことにより得られる効果が、より高くなる。例えば、工程(A1)における前記銀インク組成物の使用量を、より低減できる。前記濃度が前記上限値以下であることで、前記塩基溶液をより容易に調製できる。
【0188】
前記工程(C1)で用いる前記酸としては、例えば、塩酸(塩化水素)等の強酸等が挙げられる。これら強酸での前記酸処理は、前記エッチング処理として好適である。
前記酸溶液の前記酸の濃度は、特に限定されず、酸の種類に応じて適宜調節でき、例えば、0.05~1mol/Lであってもよい。
【0189】
前記工程(C1)において、塩基溶液又は酸溶液の乾燥は、例えば、前記工程(A1)における銀インク組成物の乾燥処理の場合と同様の方法で行うことができる。
【0190】
[工程(B2)]
好ましい前記他の工程としては、例えば、前記工程(A2)の後に行う、前記金属銀を形成後の前記繊維に電解質を付着させる工程(B2)も挙げられる。
すなわち、前記製造方法は、前記工程(A2)の後に、さらに、前記金属銀を形成後の前記繊維に電解質を付着させる工程(B2)を有していてもよい。前記工程(B2)は、前記繊維の表面を金属銀で覆った後に行う、前記導電性繊維の後処理工程に相当する。
工程(B2)を行うことにより、前記導電性繊維の導電性が向上する(換言すると、表面抵抗率等の抵抗率が低下する)。
【0191】
前記工程(B2)で用いる前記電解質としては、前記導電性繊維がさらに有していてもよいものとして先に説明した電解質と同じものが挙げられる。
工程(B2)で用いる電解質と、工程(B1)で用いる電解質とは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
工程(B2)を有する製造方法で製造された前記導電性繊維としては、前記繊維と、前記繊維の表面を覆う金属銀層と、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に付着している電解質と、を有する導電性繊維が挙げられる。これは、先に説明した、前記繊維の表面を覆う金属銀層を有する導電性繊維であって、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に電解質を有する導電性繊維である。
【0192】
前記工程(B2)は、例えば、前記工程(B1)で用いるものと同様の電解質溶液を、前記導電性繊維に付着させ、前記溶液を乾燥させることにより、行うことができる。
工程(B2)で用いる電解質溶液は、工程(B1)で用いる電解質溶液と同様であり、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0193】
前記工程(B2)は、電解質を付着させる対象として、前記繊維に代えて、前記導電性繊維を用いる点を除けば、前記工程(B1)の場合と同じ方法で行うことができる。
【0194】
例えば、前記工程(B2)においては、前記導電性繊維に電解質を付着させる操作を1回だけ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。例えば、工程(B2)において、前記電解質溶液を前記導電性繊維に付着させ、乾燥させる場合には、この電解質溶液の前記導電性繊維への付着と乾燥を、1回だけ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。前記導電性繊維に電解質を付着させる操作を、2回以上行う場合には、すべての回で同じ種類の電解質を前記導電性繊維へ付着させてもよいし、すべての回で異なる種類の電解質を前記導電性繊維へ付着させてもよいし、一部の回のみで同じ種類の電解質を前記導電性繊維へ付着させてもよい。異なる種類の電解質を前記導電性繊維へ付着させる場合には、その電解質の組み合わせは特に限定されない。
【0195】
前記工程(B2)においては、前記導電性繊維に電解質を付着させる1回の操作で、電解質を1種のみ付着させてもよいし、電解質を2種以上付着させてもよく、電解質を2種以上付着させる場合、これら2種以上の電解質の組み合わせは、特に限定されない。例えば、工程(B2)において、前記電解質溶液を前記導電性繊維に付着させ、乾燥させる場合には、この電解質溶液が含有する電解質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合には、これら2種以上の電解質の組み合わせは、特に限定されない。
【0196】
[工程(D1)]
好ましい前記他の工程としては、例えば、前記工程(A2)の後に行う、前記金属銀を形成後の前記繊維を変色防止処理する工程(D1)も挙げられる。
すなわち、前記製造方法は、前記工程(A2)の後に、さらに、前記金属銀を形成後の前記繊維を変色防止処理する工程(D1)を有していてもよい。前記工程(D1)は、前記繊維の表面を金属銀で覆った後に行う、前記導電性繊維の後処理工程に相当する。
工程(D1)を行うことにより、前記導電性繊維の変色が抑制され、その結果、導電性繊維の表面抵抗率等の抵抗率の上昇が抑制される。導電性繊維の変色は、導電性繊維中の金属銀の劣化(例えば、酸化、硫化等)が原因であると推測され、工程(D1)においては、このような金属銀の劣化を抑制する成分を、変色防止剤として用いることができる。
【0197】
前記製造方法は、前記他の工程を一のみ有していてもよいし、二以上有していてもよい。前記製造方法が前記他の工程を二以上有する場合、これら二以上の他の工程の組み合わせは、特に限定されない。例えば、前記製造方法は、前記他の工程として、工程(B1)、工程(C1)、工程(B2)及び工程(D1)のうちの二工程以上(二~四工程)を有していてもよい。
【0198】
工程(A1)の前に前記他の工程を有する前記製造方法としては、例えば、工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A1)の前に行う工程(B1)と、を有する製造方法;工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A1)の前に行う工程(C1)と、を有する製造方法;工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A1)の前に行う工程(C1)と、工程(A1)及び工程(C1)の間に行う工程(B1)と、を有する製造方法が挙げられる。
【0199】
工程(A2)の後に前記他の工程を有する前記製造方法としては、例えば、工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A2)の後に行う工程(B2)と、を有する製造方法;工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A2)の後に行う工程(D1)と、を有する製造方法;工程(A1)と、工程(A1)の後に行う工程(A2)と、工程(A2)の後に行う工程(B2)と、工程(A2)及び工程(B2)の間に行う工程(D1)と、を有する製造方法が挙げられる。
【0200】
工程(A1)の前と工程(A2)の後にともに前記他の工程を有する前記製造方法としては、例えば、工程(A1)の前に前記他の工程を有する上述のいずれか一の前記製造方法と、工程(A2)の後に前記他の工程を有する上述のいずれか一の前記製造方法と、が任意に組み合わされた製造方法が挙げられる。
【0201】
工程(B1)と工程(B2)をともに有する製造方法で製造された前記導電性繊維としては、前記繊維と、前記繊維の表面に付着している電解質と、前記繊維の表面を前記電解質ごと覆う金属銀層と、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上に付着している電解質と、を有する導電性繊維が挙げられる。これは、先に説明した、前記繊維の表面を覆う金属銀層を有する導電性繊維であって、前記繊維と前記金属銀層との間、及び、前記金属銀層の前記繊維側とは反対側の面上、に電解質を有する導電性繊維である。
【実施例0202】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0203】
各実施例及び比較例で用いた繊維(基材)を表1に示す。表1中、「PET」はポリエチレンテレフタレートを意味する。
【0204】
【0205】
表1中の繊維の繊維径は、以下の方法で求めた。
すなわち、Cryo-BIB法によって、目的とする繊維の断面を作製し、前記断面にプラチナを蒸着させた後、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、前記断面を観察し、無作為に10本の単繊維を選択し、画像処理ソフトを用いて、前記単繊維の断面積を測定し、前記断面積の測定値を用いて、前記単繊維の断面形状が真円であると仮定したときの前記単繊維の繊維径(直径)を算出し、算出した10本の前記単繊維の前記繊維径の平均値を、前記繊維の繊維径として採用した。
繊維の断面の観察は、FE-SEM(日立ハイテク社製「SU8020」)を用い、加速電圧を2kVとし、検出信号を2次電子、反射電子として行った。
【0206】
各実施例及び比較例において、繊維(基材)の前処理に用いた前処理液の一部(酸性人工汗、アルカリ性人工汗)を表2~表5に示す。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
[実施例1]
<<導電性繊維の製造>>
<銀インク組成物の製造>
ビーカー中に2-エチルヘキシルアミン(後述する2-メチルアセト酢酸銀に対して6.53倍モル量)と、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール(以下、「DMHO」と略記することがある)(後述する2-メチルアセト酢酸銀に対して0.1倍モル量)と、を加えて混合し、メカニカルスターラーを回転させて撹拌しながら、さらにここへ、液温が40℃以下となるように2-メチルアセト酢酸銀を添加して、各配合成分を溶解させ、室温でそのまま1日撹拌を続けた。
次いでこの撹拌液に、液温が30℃以下となるように、ネオデカン酸(2-メチルアセト酢酸銀に対して0.13倍モル量)を滴下して撹拌することにより、銀インク組成物として銀インク組成物(I)-1を得た。
なお、DMHOとしては、日信化学社製「サーフィノール61」を用い、ネオデカン酸としては、ジャパンケムテック社製「バーサティック10」を用いた。これは、以降の実施例及び比較例でも同様である。
【0212】
各配合成分の種類と配合比を表6に示す。表6中、「含窒素化合物(モル比)」とは、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたりの含窒素化合物の配合量(モル数)([含窒素化合物のモル数]/[β-ケトカルボン酸銀(1)のモル数])を意味する。「アルコール(モル比)」も同様に、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたりのアルコールの配合量(モル数)([アルコールのモル数]/[β-ケトカルボン酸銀(1)のモル数])を意味する。「分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸(モル比)」も同様に、β-ケトカルボン酸銀(1)の配合量1モルあたりの分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸の配合量(モル数)([分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸のモル数]/[β-ケトカルボン酸銀(1)のモル数])を意味する。
【0213】
【0214】
<導電性繊維の製造>
ピペットを用いて、上記で得られた銀インク組成物(銀インク組成物(I)-1)を、繊維(基材)である前記NF1に対して複数回滴下した。
次いで、この滴下済みNF1に対して、130℃の熱風を10分吹き付けることにより、滴下物(銀インク組成物(I)-1)の加熱処理を行い、NF1上で金属銀を形成した。
以上により、NF1の表面が金属銀で覆われた導電性繊維を得た。
【0215】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の表面抵抗率の測定>
上記で得られた導電性繊維の表面抵抗率を測定し、導電性繊維の表面抵抗率を100Ω/□まで低減するのに必要な銀インク組成物の使用量(換言すると、滴下量又は付着量)(g/m2)を算出した。本明細書においては、この銀インク組成物の使用量を、「銀インク組成物の基準使用量」と称することがある。結果を表7に示す。
【0216】
<<導電性繊維の製造及び評価>>
[実施例2~5]
常温下で、前記NF1を表2~表5のいずれかに記載の処理液に15時間浸漬して前処理を行い、次いで、NF1を処理液から引き上げ、50℃で乾燥させることにより、前処理済みNF1を得た。
表7に示すように、前記NF1(未処理NF1)に代えて、これら前処理済みNF1を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。
さらに、実施例1の場合と同じ方法で、「導電性繊維の表面抵抗率を100Ω/□まで低減するのに必要な銀インク組成物の使用量(g/m2)」を各実施例で算出した。本明細書においては、この銀インク組成物の使用量を、「銀インク組成物の比較使用量」と称することがある。そして、下記式:
[銀インク組成物の使用量低減率(%)]=([銀インク組成物の基準使用量(g/m2)]-[銀インク組成物の比較使用量(g/m2)])/[銀インク組成物の基準使用量(g/m2)]×100
により、各実施例での銀インク組成物の使用量低減率(%)を算出した。結果を表7に示す。
【0217】
[実施例6~91]
表2に記載の処理液による前処理に代えて、表7~表10に示す前処理を行った点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。結果を表7~表10に示す。
なお、表7以降の表中に示す「前処理」の欄の処理剤は、特に断りのない限り、「濃度」の欄に記載の濃度の水溶液として用いている。例えば、実施例6では、濃度が0.014mol/Lのリン酸二水素ナトリウム二水和物の水溶液を用いて、NF1の前処理を行っている。例えば、実施例65~75では、「(1)濃度(mol/L)」の欄に記載の濃度の酢酸カリウム水溶液を用いて、NF1の前処理を行い、乾燥させ、次いで「(2)濃度(mol/L)」の欄に記載の濃度の酢酸ナトリウム水溶液を用いて、NF1の前処理を行っている。
【0218】
[実施例92~96]
表2に記載の処理液による前処理に代えて、表10に示す前処理を行った点と、繊維(基材)として前記NF1に代えて前記NF2を用いた点、以外は、実施例2の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。実施例92では、前処理を行わなかった。結果を表10に示す。
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
表7~表10から明らかなように、前記銀インク組成物により、導電性繊維を問題なく製造できた。
繊維を塩で前処理することにより、繊維に導電性を付与するために必要な銀インク組成物の使用量を安定して低減できることを確認できた。なかでも、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウムを用いた場合に、銀インク組成物の使用量の低減効果が高かった。
なお、これら実施例では、NF1又はNF2を前記処理液に15時間浸漬して前処理を行っているが、浸漬時間を15時間に代えて1時間としても、同様の結果が得られることを、一部の実施例で確認した。
【0224】
[実施例97~106]
表2に記載の処理液による前処理に代えて、表11に示す前処理を行った点と、繊維(基材)として前記NF1に代えて前記NF2を用いた点、以外は、実施例2の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。
実施例97では、前処理を行わなかった。
実施例103では、濃度が0.25mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、NF2を50℃で5分エッチング処理を行い、次いで、このエッチング処理後のNF2を、乾燥させてから、濃度が0.647mol/Lのギ酸ナトリウム水溶液中に浸漬する処理を行うことにより、2段階でNF2の前処理を行った。
実施例104~106では、エッチング処理の時間を変更した点以外は、実施例103の場合と同じ方法で、2段階でNF2の前処理を行った。
実施例102~106では、NF2のギ酸ナトリウム水溶液中への浸漬時間は、1時間とした。結果を表11に示す。
【0225】
【0226】
繊維径が極めて小さいため、繊維をエッチング処理しようとすると、繊維が切断されてしまうことが懸念されたが、表11から明らかなように、繊維をエッチング処理しても、導電性繊維を問題なく製造できた。それだけでなく、実施例97~101の結果から、繊維のエッチングによる前処理によって、繊維に導電性を付与するために必要な銀インク組成物の使用量を低減できることを確認できた。
一方で、表11の結果は、繊維のエッチングによる前処理よりも、塩による前処理の方が、銀インク組成物の使用量の低減効果が大きいことを示唆していた。
【0227】
さらに、実施例98~101においては、エッチング処理の前後でのNF2の質量を測定し、それらの値から、NF2(繊維)の質量の減少率を算出した。結果を表12に示す。
【0228】
【0229】
[実施例107~113]
表2に記載の処理液による前処理に代えて、表13に示す前処理を行った点と、繊維(基材)として前記NF1に代えて前記MF1、RF1又はCF1を用いた点、以外は、実施例2の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。実施例108、109、111、112では、前記MF1又はRF1の処理液への浸漬時間は、1時間とした。CF1を用いた実施例113では、CF1のナノファイバー側に前記銀インク組成物を滴下した。実施例107、実施例110、実施例113では、繊維の前処理を行わなかった。結果を表13に示す。
【0230】
【0231】
表13から明らかなように、繊維としてナノファイバー(NF1、NF2)ではなく、これらよりも若干繊維径が大きいマイクロファイバー(MF1、RF1)を用いても、前記銀インク組成物により、導電性繊維を問題なく製造できた。
さらに、マイクロファイバーを用いた場合には、ナノファイバーを用いた場合よりも、銀インク組成物の使用量の低減効果が高かった。これは、織物であるマイクロファイバーの方が、編み物であるナノファイバーよりも、導電性の付与が容易であることを示唆していた。さらに、マイクロファイバーはナノファイバーよりも繊維径が大きく、繊維全体の表面積が小さくなるため、導電性の付与が容易であったと推測された。
【0232】
表13から明らかなように、CF1を用いても、前記銀インク組成物により、導電性繊維を問題なく製造できた。この場合、ナノファイバーを用いた場合よりも、銀インク組成物の使用量の低減効果が高かった。これは、ナノファイバーに裏地を設けることで、ナノファイバーを用いた場合よりも、銀インク組成物の使用量を低減できることを示していた。その理由は、CF1中のHM材及びナイロンニットが、CF1のナノファイバー側とは反対側への銀インク組成物の浸透を抑制しているからであると推測された。
【0233】
ここまでの結果から、繊維径が特定値以下である場合に、繊維径の大小に関わらず、また、繊維の形態に関わらず、前記銀インク組成物を用いることで、導電性繊維を製造できることを確認できた。
【0234】
[実施例114]
<<導電性繊維の製造>>
インクジェット印刷装置(コニカミノルタ社製「IJCS-1」、インクジェットヘッド「KM512MH」、液滴量14pL)と、実施例1で得られた銀インク組成物(銀インク組成物(I)-1)と、を用いて、繊維(基材)である前記PET1に対して、印刷解像度360×360dpi、1回吐出の条件で印刷を行った。このときの前記銀インク組成物の吐出量は、2.86g/m2であった。
次いで、この印刷済みPET1を180℃で30分加熱処理することにより、PET1上で金属銀を形成した。
以上により、PET1の表面が金属銀で覆われた導電性繊維を得た。
【0235】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の金属銀の含有量の測定>
得られた導電性繊維を酸に溶解させ、これにより得られた液状物をろ過して、不溶物を分離した。次いで、この不溶物をアルカリで溶解させ、得られた溶液を用いて、ICP-AESにより分析し、導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量P0を測定した。結果を表14中の「単位面積Ag量P0(mg/cm2)」の欄に示す。
【0236】
<<導電性繊維の製造及び評価>>
[実施例115~123]
繊維(基材)として、前記PET1に代えて、前記Ny1、PC1又はC1を用いた点と、印刷物の加熱処理の条件を、180℃、30分に代えて、表14に示すとおりとした点、以外は、実施例114の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、評価した。結果を表14に示す。
【0237】
【0238】
表14から明らかなように、実施例114~123の導電性繊維は、確かに金属銀を有することを確認できた。
【0239】
<<比較用導電性繊維の製造>>
[比較例1]
繊維(基材)として前記Ny1を用い、その無電解銀メッキによる、比較用導電性繊維の製造を試みた。このとき、銀メッキ層の厚さが0.2μmとなるように条件を設定した。しかし、銀メッキ層を形成できなかった。
【0240】
[比較例2]
前記Ny1を脱脂処理した後、パラジウム触媒を付与することにより、前処理行った。そして、繊維(基材)として、前記Ny1に代えて、この前処理後のNy1を用いた点以外は、比較例1の場合と同じ方法で、比較用導電性繊維の製造を試みた。しかし、銀メッキ層を形成できなかった。
【0241】
[比較例3]
繊維(基材)として、前記Ny1に代えて、前記C1を用いた点以外は、比較例1の場合と同じ方法で、比較用導電性繊維の製造を試みた。しかし、銀メッキ層を形成できなかった。
【0242】
[比較例4]
繊維(基材)として、前記Ny1に代えて、前記C1を用いた点以外は、比較例2の場合と同じ方法で、比較用導電性繊維の製造を試みた。しかし、銀メッキ層を形成できなかった。
【0243】
比較例1~4から明らかなように、繊維径が小さい繊維は、メッキによって導電性を付与する(金属銀を付着させる)ことができなかった。
【0244】
<<導電性繊維の評価>>
<耐洗濯性の評価>
[実施例1]
上記の実施例1で得られた導電性繊維を洗濯し、洗濯前後での導電性繊維の表面抵抗率を測定することにより、洗濯による繊維からの金属銀の脱落に対する耐性、すなわち耐洗濯性を評価した。
洗濯は、「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」(一般社団法人繊維評価技術協議会)に準拠して行った。
導電性繊維の表面抵抗率は、低抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製「Loresta-GP MCP-T610」を用いて測定した。プローブとしては「PSPプローブ」を用いた。
洗濯する前の導電性繊維の表面抵抗率R0(Ω/□)を測定し、n回(nは1以上の整数である。)洗濯した後の導電性繊維の表面抵抗率Rn(Ω/□)を測定して、下記式:
Rr=Rn/R0
により、n回洗濯後の導電性繊維の抵抗上昇割合Rrを算出した。
【0245】
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例1-1、1-2とした。結果を表15に示す。例えば、表15は、実施例1-1においては、洗濯前の導電性繊維の表面抵抗率R0が39(Ω/□)であり、15回洗濯後の導電性繊維の表面抵抗率R15が42(Ω/□)であり、15回洗濯後の導電性繊維の抵抗上昇割合Rrが1.1であることを示している。
【0246】
[実施例107]
上記の実施例107で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した。導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例107-1、107-2とした。結果を表15に示す。
【0247】
[実施例110]
上記の実施例110で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した。結果を表15に示す。
【0248】
【0249】
表15から明らかなように、これら実施例では、繊維径の大小に関わらず、洗濯による導電性繊維の表面抵抗率の上昇が抑制されており、導電性繊維は、洗濯による金属銀の脱落が抑制されており、耐洗濯性を有していた。
【0250】
[実施例82]
上記の実施例82で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、5回繰り返して行い、実施例82-1~実施例82-5とした。結果を表16に示す。
【0251】
[実施例83]
上記の実施例83で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、5回繰り返して行い、実施例83-1~実施例83-5とした。結果を表16に示す。
【0252】
[実施例88]
上記の実施例88で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、4回繰り返して行い、実施例88-1~実施例88-4とした。結果を表16に示す。
【0253】
[実施例89]
上記の実施例89で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、7回繰り返して行い、実施例89-1~実施例89-7とした。結果を表16に示す。
【0254】
【0255】
表16から明らかなように、塩による前処理を行って得られた導電性繊維においても、洗濯による表面抵抗率の上昇が抑制され、洗濯による金属銀の脱落が抑制されており、これら導電性繊維は、耐洗濯性を有していた。
【0256】
[実施例92]
上記の実施例92で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、6回繰り返して行い、実施例92-1~実施例92-6とした。結果を表17に示す。
【0257】
[実施例95]
上記の実施例95で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、6回繰り返して行い、実施例95-1~実施例95-6とした。結果を表17に示す。
【0258】
[実施例53]
上記の実施例53で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、6回繰り返して行い、実施例53-1~実施例53-6とした。結果を表17に示す。
【0259】
[実施例62]
上記の実施例62で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、6回繰り返して行い、実施例62-1~実施例62-6とした。結果を表17に示す。
【0260】
【0261】
表17から明らかなように、ナノファイバーの種類が異なっても、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
【0262】
[実施例96]
上記の実施例96で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、6回繰り返して行い、実施例96-1~実施例96-6とした。結果を表18に示す。
【0263】
【0264】
表17、表18から明らかなように、ナノファイバーの種類が異なっても、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
【0265】
[実施例97]
上記の実施例97で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、4回繰り返して行い、実施例97-1~実施例97-4とした。結果を表19に示す。
【0266】
[実施例98]
上記の実施例98で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例98-1~実施例98-3とした。結果を表19に示す。
【0267】
[実施例99]
上記の実施例99で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例99-1~実施例99-3とした。結果を表19に示す。
【0268】
[実施例100]
上記の実施例100で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例100-1~実施例100-3とした。結果を表19に示す。
【0269】
[実施例101]
上記の実施例101で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、4回繰り返して行い、実施例101-1~実施例101-4とした。結果を表19に示す。
【0270】
【0271】
表19から明らかなように、繊維をエッチング処理によって前処理しても、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
【0272】
[実施例102]
上記の実施例102で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例102-1~実施例102-3とした。結果を表20に示す。
【0273】
[実施例103]
上記の実施例102で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例103-1~実施例103-3とした。結果を表20に示す。
【0274】
[実施例104]
上記の実施例104で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例104-1~実施例104-3とした。結果を表20に示す。
【0275】
[実施例105]
上記の実施例105で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例105-1~実施例105-3とした。結果を表20に示す。
【0276】
[実施例106]
上記の実施例106で得られた導電性繊維について、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で、導電性繊維を評価した(洗濯回数n=10)。導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例106-1~実施例106-3とした。結果を表20に示す。
【0277】
【0278】
表20から明らかなように、繊維をエッチング処理と、塩による処理で前処理しても、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
【0279】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の金属銀の残留率の測定>
[実施例114~123]
上記の実施例114~123で得られた導電性繊維を、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で洗濯した。
n回(nは1以上の整数である。)洗濯した後の導電性繊維の単位面積あたりの金属銀の含有量Pnを、前記P0の場合と同じ方法で測定した。洗濯前後での前記金属銀の含有量(Pn、P0)から、下記式:
Pr=Pn/P0×100
により、n回洗濯後の導電性繊維の金属銀の残留率Pr(%)を算出し、洗濯による繊維からの金属銀の脱落に対する耐性、すなわち耐洗濯性を評価した。ここでは、n=10とした。結果を表21に示す。
【0280】
【0281】
表21から明らかなように、繊維としてナノファイバー(NF1、NF2)ではなく、これらよりも若干繊維径が大きいマイクロファイバー(PET1、Ny1、PC1、C1)を用いても、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
Ny1を用いた場合、他の繊維(マイクロファイバー)を用いた場合よりも、導電性繊維の耐洗濯性(金属銀の残留率Pr)が高かった。
加熱処理時の加熱温度が高い方が、導電性繊維の耐洗濯性(金属銀の残留率Pr)が高い傾向が見られた。
【0282】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の金属銀の残留量の測定、導電性繊維の撮像データの取得>
[実施例113]
上記の実施例113で得られた導電性繊維を、実施例1-1、1-2の場合と同じ方法で洗濯した。
洗濯前の導電性繊維と、10回洗濯(n=10)した後の導電性繊維について、それぞれ実施例114~123の場合と同じ方法で、単位面積あたりの金属銀の含有量(P
0、P
10)を測定した。このような評価を2回繰り返して行い、実施例113-1、113-2とした。結果を表22に示す。表22には、単位質量あたりの金属銀の含有量も示す(「単位質量Ag量(g)」として示している)。
さらに、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて、洗濯前後の導電性繊維の断面を観察した。このとき取得した実施例113-1での撮像データを
図1~
図2に示す。
図1は洗濯前の導電性繊維の撮像データであり、
図2は洗濯後の導電性繊維の撮像データである。
【0283】
【0284】
表22から明らかなように、繊維としてナノファイバーを用いた場合、洗濯の前後で金属銀の含有量に変化はほとんど認められず、導電性繊維は耐洗濯性を有していた。
【0285】
図1及び
図2中、色の濃い部分は繊維(ナノファイバー)であり、色が薄く白味がかっている部分は金属銀である。このように、導電性繊維においては、繊維の表面を金属銀が一様に覆っていることを確認できた。さらに、金属銀は粒子状であることも確認できた。繊維の表面を覆っている金属銀の層の厚さは、約17~60nmであった。そして、このような導電性繊維の特徴は、洗濯前後のいずれにおいても共通しており、導電性繊維が耐洗濯性を有することを、視覚的にも確認できた。
【0286】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の変色防止処理剤による処理効果の確認>
[実施例124]
実施例1の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
得られた導電性繊維を、表23に示すように、45℃に温度調節された、変色防止処理剤1の10倍希釈液中に、1分浸漬し、次いで、導電性繊維を前記希釈液中から引き上げ、イオン交換水で洗浄した後、50℃で乾燥させた。以上により、前記導電性繊維に対して、後処理として変色防止処理1を行った。
後処理前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例1の場合と同じ方法で測定した。
後処理前の導電性繊維の表面抵抗率Ra(Ω/□)と、後処理後の導電性繊維の表面抵抗率Rb(Ω/□)と、から、下記式:
Rc=Rb/Ra
により、後処理後の導電性繊維の抵抗上昇割合Rcを算出した。
【0287】
上記の導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例124-1、124-2、124-3とした。結果を表24に示す。
【0288】
[実施例125]
45℃に温度調節された変色防止処理剤1の10倍希釈液に代えて、表23に示すように、25℃に温度調節された変色防止処理剤2を用いて、導電性繊維の後処理として変色防止処理2を行った点以外は、実施例124の場合と同じ方法で、後処理後の導電性繊維の抵抗上昇割合Rcを算出した。
この導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例125-1、125-2、125-3とした。結果を表24に示す。
【0289】
[実施例126]
45℃に温度調節された変色防止処理剤1の10倍希釈液に代えて、表23に示すように、50℃に温度調節された、変色防止処理剤3の10倍希釈液を用いて、導電性繊維の後処理として変色防止処理3を行った点以外は、実施例124の場合と同じ方法で、後処理後の導電性繊維の抵抗上昇割合Rcを算出した。
この導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例126-1、126-2、126-3とした。結果を表24に示す。
【0290】
【0291】
【0292】
表24から明らかなように、後処理として、変色防止処理1~3のいずれを行っても、導電性繊維の表面抵抗率(Ra、Rb)にほとんど変化は認められず(Rc=は1程度であり)、変色防止処理1~3は導電性繊維の導電性に悪影響を与えないことを確認できた。変色防止処理剤1~3は、金属銀の劣化(特に硫化)を抑制可能な薬剤である。
【0293】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の汗堅牢度試験>
[実施例127]
実施例1の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
得られた導電性繊維を、37℃に温度調節された、表2に示す1倍濃度酸性人工汗に浸漬し、この状態で導電性繊維を12.5kPaの圧力で加圧したまま、4時間静置した。次いで、導電性繊維を前記人工汗中から引き上げ、乾燥させた。以上により、前記導電性繊維に対して、後処理として1倍濃度酸性人工汗処理を行った。
後処理前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例1の場合と同じ方法で測定した。
後処理前の導電性繊維の表面抵抗率Rd(Ω/□)と、後処理後の導電性繊維の表面抵抗率Re(Ω/□)と、から、下記式:
Rf=Re/Rd×100
により、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
【0294】
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例127-1、127-2とした。結果を表25に示す。
【0295】
[実施例128]
実施例124の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(このときの後処理を、以降、「後処理1」と称することがある)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例127の場合と同じ方法で、後処理(このときの後処理を、以降、「後処理2」と称することがある)として1倍濃度酸性人工汗処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例127の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例128-1、128-2とした。結果を表25に示す。
【0296】
[実施例129]
実施例127の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出し、この評価を、2回繰り返して行い、実施例129-1、129-2とした。結果を表25に示す。
【0297】
[実施例130]
実施例125の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例127の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として1倍濃度酸性人工汗処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例127の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例130-1、130-2とした。結果を表25に示す。
【0298】
[実施例131]
実施例127の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出し、この評価を、2回繰り返して行い、実施例131-1、131-2とした。結果を表25に示す。
【0299】
[実施例132]
実施例126の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例127の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として1倍濃度酸性人工汗処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例127の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例132-1、132-2とした。結果を表25に示す。
【0300】
【0301】
表25から明らかなように、導電性繊維の表面抵抗率は、変色防止処理の有無に関わらず、導電性繊維の酸性人工汗への暴露後に上昇しておらず、導電性繊維は酸性人工汗に対する耐性を有していた。むしろ、導電性繊維の表面抵抗率は、導電性繊維の酸性人工汗への暴露後に低下していた。酸性人工汗への暴露後の導電性繊維に、酸性人工汗中の塩の一部が付着していることを否定できないが、それによってもたらされる導電性繊維の表面抵抗率の低下幅は、計算上、ここで認められた低下幅よりも桁違いに小さいため、この導電性繊維の表面抵抗率の低下は、他の要因によってもたらされていた。
【0302】
[実施例133]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例127の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例133-1、133-2とした。結果を表26に示す。
【0303】
[実施例134]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例128の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例134-1、134-2とした。結果を表26に示す。
【0304】
[実施例135]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例129の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例135-1、135-2とした。結果を表26に示す。
【0305】
[実施例136]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例130の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例136-1、136-2とした。結果を表26に示す。
【0306】
[実施例137]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例131の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例137-1、137-2とした。結果を表26に示す。
【0307】
[実施例138]
表2に示す1倍濃度酸性人工汗に代えて、表3に示す1倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例132の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例138-1、138-2とした。結果を表26に示す。
【0308】
【0309】
表26から明らかなように、導電性繊維の表面抵抗率は、上述の導電性繊維の酸性人工汗への暴露時と同様の傾向を示した。すなわち、導電性繊維の表面抵抗率は、変色防止処理の有無に関わらず、導電性繊維のアルカリ性人工汗への暴露後に上昇しておらず、導電性繊維はアルカリ性人工汗に対する耐性を有していた。むしろ、導電性繊維の表面抵抗率は、導電性繊維のアルカリ性人工汗への暴露後に低下していた。アルカリ性人工汗への暴露後の導電性繊維に、アルカリ性人工汗中の塩の一部が付着しているとしても、それによってもたらされる導電性繊維の表面抵抗率の低下幅は、計算上、ここで認められた低下幅よりも桁違いに小さいため、この導電性繊維の表面抵抗率の低下は、他の要因によってもたらされていた。
【0310】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維のジャングルテスト>
[実施例139]
実施例1の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
得られた導電性繊維に対して、「人工汗液ジャングルテスト」(株式会社消費科学研究所)に準じて、以下に示すジャングルテストを行った。
すなわち、デシケータ内に、表4に示す5倍濃度酸性人工汗を入れ、この5倍濃度酸性人工汗に触れないように、デシケータ内で導電性繊維を吊るし、デシケータを密閉した。
次いで、70℃に温度調節された恒温器中にデシケータを配置し、この状態のままデシケータを保管して、導電性繊維を5倍濃度酸性人工汗の飽和蒸気に暴露する後処理を行った。後処理前(換言すると、後処理開始から0日後)にあらかじめ、導電性繊維の表面抵抗率を、実施例1の場合と同じ方法で測定した。さらに、後処理開始から2日後、4日後、6日後、8日後、及び10日後にそれぞれ、導電性繊維をデシケータ内から取り出し、水洗した後、乾燥させ、導電性繊維の表面抵抗率を、実施例1の場合と同じ方法で測定した。
後処理前の導電性繊維の表面抵抗率Rd(Ω/□)と、後処理後の導電性繊維の表面抵抗率Re(Ω/□)と、から、下記式:
Rf=Re/Rd×100
により、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
【0311】
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例139-1、139-2とした。結果を表27に示す。
【0312】
[実施例140]
実施例124の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例139の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、5倍濃度酸性人工汗の飽和蒸気暴露処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例139の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例140-1、140-2とした。結果を表27に示す。
【0313】
[実施例141]
実施例125の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例139の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、5倍濃度酸性人工汗の飽和蒸気暴露処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例139の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例141-1、141-2とした。結果を表27に示す。
【0314】
[実施例142]
実施例126の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例139の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、5倍濃度酸性人工汗の飽和蒸気暴露処理を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例139の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例142-1、142-2とした。結果を表27に示す。
【0315】
【0316】
表27から明らかなように、導電性繊維の表面抵抗率は、変色防止処理の有無に関わらず、後処理(後処理2)の開始から経時とともに低下する傾向を示し、導電性繊維の酸性人工汗への暴露後に上昇しておらず、導電性繊維は酸性人工汗に対する耐性を有していた。すなわち、導電性繊維の表面抵抗率は、導電性繊維の酸性人工汗への暴露後に低下していた。この場合も、酸性人工汗への暴露後の導電性繊維に、酸性人工汗中の塩の一部が付着していたとしても、それによってもたらされる導電性繊維の表面抵抗率の低下幅は、計算上、ここで認められた低下幅よりも桁違いに小さいため、この導電性繊維の表面抵抗率の低下は、他の要因によってもたらされていた。例えば、後処理(後処理2)の開始から経時とともに、繊維の70℃での加熱と、塩の飽和蒸気との接触によって、繊維上での金属銀粒子の成長と、それに伴う導電経路の形成が進行したと推測された。
【0317】
[実施例143]
表4に示す5倍濃度酸性人工汗に代えて、表5に示す5倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例139の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例143-1、143-2とした。結果を表28に示す。
【0318】
[実施例144]
表4に示す5倍濃度酸性人工汗に代えて、表5に示す5倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例140の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例144-1、144-2とした。結果を表28に示す。
【0319】
[実施例145]
表4に示す5倍濃度酸性人工汗に代えて、表5に示す5倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例141の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例145-1、145-2とした。結果を表28に示す。
【0320】
[実施例146]
表4に示す5倍濃度酸性人工汗に代えて、表5に示す5倍濃度アルカリ性人工汗を用いた点以外は、実施例142の場合と同じ方法で、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例146-1、146-2とした。結果を表28に示す。
【0321】
【0322】
表28から明らかなように、導電性繊維の表面抵抗率は、上述の導電性繊維の酸性人工汗への暴露時と同様の傾向を示した。すなわち、導電性繊維の表面抵抗率は、変色防止処理の有無に関わらず、後処理(後処理2)の開始から経時とともに低下する傾向を示し、導電性繊維のアルカリ性人工汗への暴露後に上昇しておらず、導電性繊維はアルカリ性人工汗に対する耐性を有していた。すなわち、導電性繊維の表面抵抗率は、導電性繊維のアルカリ性人工汗への暴露後に低下していた。この場合も、アルカリ性人工汗への暴露後の導電性繊維に、アルカリ性人工汗中の塩の一部が付着していたとしても、それによってもたらされる導電性繊維の表面抵抗率の低下幅は、計算上、ここで認められた低下幅よりも桁違いに小さいため、この導電性繊維の表面抵抗率の低下は、他の要因によってもたらされていた。例えば、後処理(後処理2)の開始から経時とともに、繊維の70℃での加熱と、塩の飽和蒸気との接触によって、繊維上での金属銀粒子の成長と、それに伴う導電経路の形成が進行したと推測された。
【0323】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の塩溶液による後処理効果の確認>
[実施例147]
実施例1の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
得られた導電性繊維を、25℃に温度調節された、表2に示す1倍濃度酸性人工汗に、5分浸漬した。次いで、導電性繊維を前記人工汗中から引き上げ、55℃で乾燥させた。以上により、前記導電性繊維に対して、後処理として1倍濃度酸性人工汗処理(塩溶液処理)を行った。
後処理前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例1の場合と同じ方法で測定した。
後処理前の導電性繊維の表面抵抗率Rd(Ω/□)と、後処理後の導電性繊維の表面抵抗率Re(Ω/□)と、から、下記式:
Rf=Re/Rd×100
により、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
【0324】
上記の導電性繊維の評価を、5回繰り返して行い、実施例147-1~147-5とした。結果を表29に示す。
【0325】
[実施例148]
実施例124の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例147の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、1倍濃度酸性人工汗処理(塩溶液処理)を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例147の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、3回繰り返して行い、実施例148-1、148-2、148-3とした。結果を表29に示す。
【0326】
[実施例149]
実施例125の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例147の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、1倍濃度酸性人工汗処理(塩溶液処理)を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例147の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rfを算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例149-1、149-2とした。結果を表29に示す。
【0327】
[実施例150]
実施例126の場合と同じ方法で、導電性繊維を製造し、後処理した(後処理1)。
得られた後処理済み導電性繊維に対して、さらに、実施例147の場合と同じ方法で、後処理(後処理2)として、1倍濃度酸性人工汗処理(塩溶液処理)を行い、後処理2前後での導電性繊維の表面抵抗率を、実施例147の場合と同じ方法で測定し、導電性繊維の抵抗率変化率Rf(%)を算出した。
上記の導電性繊維の評価を、2回繰り返して行い、実施例150-1、150-2とした。結果を表29に示す。
【0328】
【0329】
表29から明らかなように、導電性繊維の表面抵抗率は、変色防止処理の有無に関わらず、導電性繊維の酸性人工汗への暴露後に上昇しておらず、むしろ、低下していた。これら実施例では、導電性繊維の酸性人工汗への暴露時間が短いため、導電性繊維の酸性人工汗に対する耐性を確認するものではなく、導電性繊維の塩による後処理の効果を確認するものであった。そして、これら実施例では、この塩による後処理で、導電性繊維の表面抵抗率の低下が抑制されていた。
【0330】
[実施例151]
<<導電性繊維の製造>>
上記の実施例89の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
【0331】
<<導電性繊維の評価>>
<導電性繊維の洗濯後の塩の残存量の確認>
得られた導電性繊維を、実施例89-1の場合と同じ方法で洗濯した(洗濯回数n=10)。洗濯前の導電性繊維と、10回洗濯後の導電性繊維について、下記手順でICP-AESにより分析し、導電性繊維中の塩を構成する元素の濃度を定量した。
すなわち、測定対象の導電性繊維から試験片(10mg)を採取し、ポリテトラフルオロエチレン製容器中に入れて、ここへ酸を添加して密栓した。次いで、マイクロ波試料分解装置(Milestone社「UltraWAVE」)を用いて、前記容器にマイクロ波を照射し、前記容器中の内容物の温度を最高で250℃とすることで、加圧酸分解を行った。次いで、前記容器中の内容物に超純水を加えて、全量の体積を20mLに調節して、これを測定用サンプルとした。この測定用サンプルについて、ICP-AES分析装置(日立ハイテクサイエンス社製「SPS-3520UV」)を用いて、ナトリウム(測定波長:589.592nm)、カリウム(測定波長:766.490nm)、銀(測定波長:328.162nm)について、それぞれ、洗濯前の導電性繊維での元素濃度Xa(質量%)と、洗濯後の導電性繊維での元素濃度Xb(質量%)を定量した。
【0332】
ナトリウムのXaを銀のXaで除した値(本明細書においては、「洗濯前の元素濃度比Na/Ag」と略記することがある)を算出した。また、ナトリウムのXbを銀のXbで除した値(本明細書においては、「洗濯後の元素濃度比Na/Ag」と称することがある)を算出した。そして、ナトリウム(Na)の元素残存率Xc(%)を下記式:
[NaのXc]=[洗濯後の元素濃度比Na/Ag]/[洗濯前の元素濃度比Na/Ag]×100
により算出した。結果を表30に示す。
【0333】
<<導電性繊維の製造及び評価>>
[実施例152]
上記の実施例53の場合と同じ方法で導電性繊維を製造した。
この導電性繊維を用いた点以外は、実施例151の場合と同じ方法で、カリウムのXaを銀のXaで除した値(本明細書においては、「洗濯前の元素濃度比K/Ag」と略記することがある)と、カリウムのXbを銀のXbで除した値(本明細書においては、「洗濯後の元素濃度比K/Ag」と称することがある」と称することがある)を算出し、カリウム(K)の元素残存率Xc(%)を下記式:
[KのXc]=[洗濯後の元素濃度比K/Ag]/[洗濯前の元素濃度比K/Ag]×100
により算出した。結果を表30に示す。
【0334】
【0335】
表30中の銀のXa及びXbから明らかなように、いずれの実施例においても、洗濯前後で銀の濃度(換言すると金属銀の含有量)にほとんど変化は認められず、洗濯による繊維からの金属銀の脱落は抑制されていた。
これに対して、表30中のNa及びKのXcから明らかなように、繊維の前処理によって繊維に付着したナトリウムとカリウムの濃度はともに、洗濯後に大幅に減少しており、ナトリウムとカリウムは洗濯により導電性繊維から大幅に脱落していた。特に、カリウムよりもナトリウムの方が、脱落が顕著であった。ただし、ナトリウムとカリウムは、その定量が可能な程度の濃度で、依然、導電性繊維中に残存していた。なお、ナトリウムのXbをナトリウムのXaで除して100を乗じた値([ナトリウムのXb]/[ナトリウムのXa]×100)は、2.36%であり、上述のNaのXcと同等であった。そして、カリウムのXbをカリウムのXaで除して100を乗じた値([カリウムのXb]/[カリウムのXa]×100)は、19.38%であり、上述のKのXcと同等であった。
このように、塩は洗濯により導電性繊維から脱落していたが、洗濯による金属銀の繊維からの脱落は抑制されていた。洗濯による塩の導電性繊維からの脱落は、導電性繊維の導電性に影響を与えていなかった。
【0336】
ここまでで明らかになった、塩がもたらす導電性繊維の挙動から、繊維の塩による前処理と、導電性繊維の塩による後処理は、いずれも、導電性繊維の表面抵抗率の低減(換言すると、導電性繊維の導電性の向上)に寄与することを確認できた。