(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155655
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20221006BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20221006BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 Z
C04B22/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058993
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】針貝 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮介
(72)【発明者】
【氏名】立川 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 幸之助
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112MB08
4G112PA28
4G112PB09
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物におけるコンクリートに塩化物イオンが含まれていても、コンクリート構造物に設けられる鉄筋における発錆を低コストで抑制する。
【解決手段】コンクリート組成物は、シリカフューム含有セメントと骨材と水とを含んでいる。上記コンクリート組成物における水セメント比が10%以上20%以下であり、上記コンクリート組成物における塩化物イオン量が0.7kg/m3以上1.5kg/m3以下である。上記シリカフューム含有セメントに含まれるポルトランドセメントのボーグ式による鉱物組成において、上記ポルトランドセメントのC2S含有率が50質量%以上65質量%以下であり、C3S含有率が20質量%以上30質量%以下であり、C3A含有率が5質量%以下であり、上記シリカフューム含有セメントにおけるシリカフュームの含有率が5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカフューム含有セメントと骨材と水とを含むコンクリート組成物であって、
前記コンクリート組成物における水セメント比が10%以上20%以下であり、
前記コンクリート組成物における塩化物イオン量が0.7kg/m3以上1.5kg/m3以下であることを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項2】
前記シリカフューム含有セメントに含まれるポルトランドセメントのボーグ式による鉱物組成において、前記ポルトランドセメントのC2S含有率が50質量%以上65質量%以下であり、前記ポルトランドセメントのC3S含有率が20質量%以上30質量%以下であり、前記ポルトランドセメントのC3A含有率が5質量%以下であり、
前記シリカフューム含有セメントにおけるシリカフュームの含有率が5質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンクリート組成物により構成されたコンクリートであって、
前記コンクリートの透水係数が0.00cm2/secであることを特徴とするコンクリート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のコンクリート組成物により構成されたコンクリートであって、
前記コンクリートの透気係数が0.0010×10-16m以下であることを特徴とするコンクリート。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のコンクリート組成物により構成されたコンクリートであって、
前記コンクリートにおけるモルタル部分の総細孔量が15mm3/g以下であることを特徴とするコンクリート。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のコンクリート組成物により構成されたコンクリートであって、
前記コンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数が0.15cm2/年以下であることを特徴とするコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、コンクリートの内部に補強材としての鉄筋を配設したコンクリート構造物が記載されている。この文献に記載の技術では、鉄筋の表面に防錆材を塗装することにより鉄筋における発錆を防いでいる。しかし、この技術には、このような塗装にコストを要するという問題がある。
【0003】
鉄筋における発錆を抑制するためには、コンクリートとして塩化物イオンがほとんど含まれていないものを用いるという手段も考えられる。しかし、実際上、塩化物イオンを含むセメントがコンクリートの材料として使用されると、コンクリートにおける塩化物イオン濃度が高まってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コンクリート構造物におけるコンクリートに塩化物イオンが含まれていても、コンクリート構造物に設けられる鉄筋における発錆を低コストで抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート組成物は、シリカフューム含有セメントと骨材と水とを含んでいる。このコンクリート組成物における水セメント比は10%以上20%以下とされており、このコンクリート組成物における塩化物イオン量は0.7kg/m3以上1.5kg/m3以下とされている。
【0007】
前記コンクリート組成物においては、例えば、前記シリカフューム含有セメントに含まれるポルトランドセメントのボーグ式による鉱物組成において、前記ポルトランドセメントのC2S含有率が50質量%以上65質量%以下とされており、前記ポルトランドセメントのC3S含有率が20質量%以上30質量%以下とされており、前記ポルトランドセメントのC3A含有率が5質量%以下とされている。また、例えば、前記シリカフューム含有セメントにおけるシリカフュームの含有率が5質量%以上15質量%以下とされている。
【0008】
前記コンクリート組成物により構成されたコンクリートの透水係数は、例えば0.00cm2/secとされている。前記コンクリートの透気係数は、例えば0.0010×10-16m以下とされている。前記コンクリートにおけるモルタル部分の総細孔量は、例えば15mm3/g以下とされている。前記コンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数は、例えば0.15cm2/年以下とされている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、コンクリート構造物におけるコンクリートに塩化物イオンが含まれていても、コンクリート構造物に設けられる鉄筋における発錆を低コストで抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の一実施形態に係るコンクリート組成物について説明する。このコンクリート組成物は、シリカフューム含有セメントと骨材と水とを含んでいる。この骨材は、細骨材と粗骨材とからなっている。このコンクリート組成物における水セメント比は10%以上20%以下とされており、このコンクリート組成物における塩化物イオン量は0.7kg/m3以上1.5kg/m3以下(あるいは0.7kg/m3より大きく1.5kg/m3以下)とされている。
【0011】
上記コンクリート組成物においては、例えば、上記シリカフューム含有セメントに含まれるポルトランドセメントのボーグ式による鉱物組成において、上記ポルトランドセメントのC2S含有率が50質量%以上65質量%以下とされており、上記ポルトランドセメントのC3S含有率が20質量%以上30質量%以下とされており、上記ポルトランドセメントのC3A含有率が5質量%以下とされている。また、例えば、上記シリカフューム含有セメントにおけるシリカフュームの含有率が5質量%以上15質量%以下とされている。
【0012】
なお、上記コンクリート組成物については、シリカフューム及びポルトランドセメントの混合粉末を骨材及び水と混練して作製するものであっても、シリカフューム及びポルトランドセメントを別々に骨材及び水と混練して作製するものであってもよい。
【0013】
次に、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物について説明する。このコンクリート構造物は、上記コンクリート組成物により構成されたコンクリートと鉄筋とを有している。
【0014】
上記コンクリートの透水係数は、例えば、0.00cm2/secとされている。上記コンクリートの透気係数は、例えば、0.0010×10-16m以下とされている。上記コンクリートにおけるモルタル部分の総細孔量は、例えば、15mm3/g以下とされている。なお、このモルタル部分とは、コンクリートを3mm以上5mm以下に粗砕した粒子の中から、目視にて粗骨材を含まない粒子を選別したものである。上記コンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数は、例えば、0.15cm2/年以下とされている。
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係るコンクリート組成物及びコンクリート構造物の実施例及び比較例について説明する。
【0016】
実施例1-4及び比較例1-6においては、セメントと第1細骨材と第2細骨材と粗骨材と水と混和剤とから作製されるコンクリートの配合設計を行った。その後、この配合設計通りに、上述したセメントと第1細骨材と第2細骨材と粗骨材と水と混和剤とを練り混ぜてフレッシュコンクリートを作製した。そして、このフレッシュコンクリートに含まれる空気量(%)をエアメータにより測定した。さらに、このフレッシュコンクリートに塩化ナトリウムを添加することにより、このフレッシュコンクリートの塩化物イオン量を調整した。さらに、上記フレッシュコンクリートに円柱状の鉄筋を配置して円柱供試体を作製した。なお、各実施例及び各比較例においては上記円柱供試体を3つずつ作製した。
【0017】
なお、各実施例においては、上記セメントとしてシリカフューム含有セメント(密度3.08g/cm3、比表面積5730cm2/g)を使用した。また、各比較例においては、上記セメントとして普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm3、比表面積3290cm2/g)を使用した。さらに、各実施例及び各比較例においては、上記第1細骨材として山砂(表乾密度2.61g/cm3、吸水率2.26%)を使用し、上記第2細骨材として砕砂(表乾密度2.59g/cm3、吸水率1.36%)を使用し、上記粗骨材として硬質砕石(表乾密度2.61g/cm3、吸水率1.38%)を使用した。
【0018】
なお、上記円柱供試体の直径は10cmである。上記円柱供試体の高さは20cmである。上記円柱供試体の高さ方向において、上記鉄筋の高さ方向端面と上記円柱供試体の高さ方向端面との距離は20mmである。上記円柱供試体の径方向において、上記鉄筋の径方向端面と上記円柱供試体の径方向端面との最短距離は25mmである。
【0019】
そして、各実施例及び各比較例において、3つの上記円柱供試体をそれぞれオートクレーブにより1サイクル、3サイクルまたは5サイクル養生した。なお、ここでの1サイクルとは、上記円柱供試体を常温から180℃まで3時間かけて昇温させ、上記円柱供試体を180℃かつ10気圧の環境で8時間保持し、上記円柱供試体を180℃から常温まで3時間かけて降温させることを意味している。
【0020】
さらに、養生後の上記円柱供試体から上記鉄筋を取り出した。この取り出した鉄筋の表面における状態をスキャナで読み取り、この表面における発錆面積率を画像解析処理により算出した。なお、この発錆面積率とは、スキャナで読み取った箇所の面積に対する、この箇所において錆が生じている箇所の面積の百分率を意味している。また、スキャナでの読み取りについては、この取り出した鉄筋の高さ方向中心部から高さ方向一方側及び他方側5cmの範囲を対象にした。
【0021】
また、上述した取り出した鉄筋を目視観察して、この鉄筋における発錆グレードをI、I+、II、III、IVの五段階で評価した。ここで、Iは、上記鉄筋に錆がないことを意味している。I+は、均一な薄い緻密な黒又は茶の単色の錆層が上記鉄筋にあることを意味している。IIは、黒、茶又は赤茶など複数の色が混ざった斑点状の錆が上記鉄筋に部分的にあることを意味している。IIIは、黒、黄、緑、赤茶又は茶など複数の色が混在した錆層が上記鉄筋において広範囲にあること、または、上記鉄筋の表面が部分的に凸凹状になっていることを意味している。IVは、上記鉄筋の表面が全体的に凸凹状になっていたり剥離していたりするか、あるいは、上記鉄筋の断面が欠損していることを意味している。なお、上記のI、I+、II、III、IVのうち複数に該当する場合、上記発錆グレードについてはローマ数字の大きい方に該当すると認定した。(ただし、I+はIIより小さくIより大きいと考える。)
【0022】
さらに、各実施例及び各比較例において、養生後の3つの上記円柱供試体それぞれについて、上記円柱供試体におけるコンクリ-トのモルタル部分における総細孔量を水銀圧入ポロシメータにより測定した。
【0023】
それから、実施例1、3及び比較例1、3、5においては、土木学会規準JSCE-G571:電気泳導によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(案)に準拠して、1サイクルの養生後の上記円柱供試体におけるコンクリートの透水係数と透気係数と塩化物イオンの実効拡散係数とを電気泳動法によって算出した。
【0024】
表1は、各実施例及び各比較例における上記コンクリートの組成を示している。表1において、単位水量、単位セメント量、単位第1細骨材量、単位第2細骨材量、単位粗骨材量とは、それぞれコンクリート1m3当たりに含まれる水、セメント、第1細骨材、第2細骨材、粗骨材の質量を示している。空気量とは、コンクリートの体積に対するコンクリートに混入している空気の体積の百分率である。細骨材率とは、1m3のコンクリート中の全骨材容積(細骨材+粗骨材)に占める細骨材の容積の割合(百分率)である。なお、表1において、空気量を除く項目は上記配合設計による結果であり、空気量は上記エアメータによる測定結果である。
【0025】
【0026】
表2は、各実施例及び各比較例において、3つの上記円柱供試体におけるコンクリートの塩化物イオン量と上記の発錆面積率及び発錆グレードとの関係を示している。表2において、1サイクル、3サイクル、5サイクルとは、それぞれ上記の養生を1サイクル、3サイクルまたは5サイクル行ったことを示している。なお、上記塩化物イオン量とは、上記円柱供試体におけるコンクリート1m3当たりに含まれる塩化物イオンの質量(kg/m3)を示している。
【0027】
表2に示すように、1サイクル、3サイクル及び5サイクルのいずれの場合においても、実施例1-4における発錆面積率の値は、比較例1-6における発錆面積率の値以下となっている。特に、3サイクル及び5サイクルの場合においては、実施例1-4における発錆面積率の値は、比較例1-6における発錆面積率の値を大幅に下回っている。また、1サイクル、3サイクル及び5サイクルのいずれの場合においても、実施例1-4における発錆グレードの値は、比較例1-6における発錆グレードの値以下となっている。特に、3サイクルの場合においては、実施例1-4における発錆グレードの値は、比較例1-6における発錆グレードの値を下回っている。
【0028】
【0029】
表3は、各実施例及び各比較例において、表2に示す塩化物イオン量と上記の総細孔量との関係を上記の養生の実施サイクル数ごとに示している。
【0030】
【0031】
表4は、実施例1、3及び比較例1、3、5における上記の透水係数と透気係数と塩化物イオンの実効拡散係数とを示している。なお、表4に示す結果は、上記の養生を1サイクル行った後の上記円柱供試体に係るものである。
【0032】
【0033】
以上により、表1に示す結果と表2に示す結果とを合わせて次の結論を導出することができる。シリカフューム含有セメントと骨材と水とを含むコンクリート組成物において、このコンクリート組成物における水セメント比が10%以上20%以下であり、このコンクリート組成物における塩化物イオン量が0.7kg/m3以上1.5kg/m3以下であれば、このコンクリート組成物に塩化物イオンが含まれており、このコンクリート組成物により構成されるコンクリートに設置される鉄筋に防錆材が塗装されていなくても、この鉄筋における発錆を抑制することができる。
【0034】
この原理を次のように推測することができる。すなわち、上記コンクリート組成物から構成されるコンクリートの製造工程においてはシリカフュームによるポゾラン反応が生じる。また、上記コンクリートにおいてはシリカフュームによるマイクロフィラー効果が生じている。これらにより、上記コンクリートは密実化されている。よって、上記コンクリートの内部においては水による塩化物イオンの移動が制限されている。したがって、上記コンクリートに設けられる鉄筋においては発錆が抑制されている。
【0035】
上記コンクリート組成物については、上記の実施例1-4において使用したシリカフューム含有セメントと同様の組成を有するセメントから作製されることが好ましい。すなわち、上記シリカフューム含有セメントに含まれるポルトランドセメントのボーグ式による鉱物組成において、上記ポルトランドセメントのC2S含有率が50質量%以上65質量%以下であり、上記ポルトランドセメントのC3S含有率が20質量%以上30質量%以下であり、上記ポルトランドセメントのC3A含有率が5質量%以下であることが好ましい。また、上記シリカフューム含有セメントにおけるシリカフュームの含有率が5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0036】
上記コンクリート組成物により構成されるコンクリートについては、上記の実施例1-4において作製されたコンクリートと同様の特性を有することが好ましい。すなわち、上記コンクリートの透水係数は0.00cm2/secであり、上記コンクリートの透気係数は0.0010×10-16m以下であり、上記コンクリートにおけるモルタル部分の総細孔量は15mm3/g以下であり、上記コンクリートにおける塩化物イオンの実効拡散係数は0.15cm2/年以下であることが好ましい。