(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015568
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】真空ポンプおよび制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118497
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA09
3H131BA11
3H131BA15
(57)【要約】
【課題】 真空ポンプの状態情報が適切なタイミングで収集される真空ポンプおよび制御装置を得る。
【解決手段】 制御装置200において、制御部201,202,204は、真空ポンプ本体に配置された内部デバイス(モータ121、ヒータ、冷却バルブなど)の動作状態を制御する。情報収集部207は、真空ポンプ本体の状態情報を収集し、記録処理部208は、情報収集部207により収集された状態情報を不揮発性メモリ209に記録する。そして、情報収集部207は、制御部201,202,204によって内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ本体に配置された内部デバイスと、
前記内部デバイスの動作状態を制御する制御部と、
前記真空ポンプ本体の状態情報を収集する情報収集部と、
前記情報収集部により収集された前記状態情報を不揮発性メモリに記録する記録処理部とを備え、
前記情報収集部は、前記制御部によって前記内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで前記真空ポンプ本体の状態情報を収集すること、
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記内部デバイスは、温度管理用デバイスを含み、
前記温度管理用デバイスは、ヒータおよび冷却バルブのうちの少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記内部デバイスは、動力系デバイスを含み、
前記動力系デバイスは、モータおよび磁気軸受のうちの少なくとも1つを含むこと、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記記録処理部は、(a)前記不揮発性メモリにおける所定サイズの記憶領域に前記状態情報を記録し、(b)前記記憶領域をリングバッファとして使用して、前記状態情報を記録していくことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記情報収集部は、当該真空ポンプの起動時の前記真空ポンプ本体の状態情報を収集することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記情報収集部は、当該真空ポンプの起動時から、前記制御部によって前記内部デバイスの動作状態が切り換えられたか否かを監視し、定期的に前記真空ポンプ本体の状態情報を収集せずに、前記制御部によって前記内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで前記真空ポンプ本体の状態情報を収集することを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【請求項7】
真空ポンプ本体に配置された内部デバイスを制御する制御装置において、
前記内部デバイスの動作状態を制御する制御部と、
前記真空ポンプ本体の状態情報を収集する情報収集部と、
前記情報収集部により収集された前記状態情報を不揮発性メモリに記録する記録処理部とを備え、
前記情報収集部は、前記制御部によって前記内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで前記真空ポンプ本体の状態情報を収集すること、
を特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプおよび制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある真空ポンプの監視装置は、(a)真空ポンプのモータ電流値および回転数の時間変化に基づいて、真空ポンプがガス流入状態であるか否かを判定し、(b)真空ポンプがガス流入状態である期間において、所定周期で収集されたベース温度データセットを記憶部に記憶している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように収集された真空ポンプの状態情報は、真空ポンプの不具合発生時に、その原因分析などに使用されることがある。
【0005】
一般的に、状態情報は、不揮発性メモリにおける特定の記憶領域に記憶されるが、定期的に得られる状態情報データのうち、所定数の最新の状態情報データのみが、不揮発性メモリにおいて保持されるため、保持されている状態情報データから、特定長(収集周期と上述の所定数との積)の期間の真空ポンプの状態しか把握できず、適切な原因分析などが行われない可能性がある。つまり、ある原因による事象が発生する期間に対して収集周期が短すぎる場合には、その事象の一部しか把握できない可能性がある。また、ある原因による事象が発生する期間に対して収集周期が長すぎる場合には、その事象の発生自体を把握できなかったり、その事象の断片しか把握できない可能性がある。
【0006】
このように、真空ポンプの状態情報が適切なタイミングで収集されない可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、真空ポンプの状態情報が適切なタイミングで収集される真空ポンプおよび制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る真空ポンプは、真空ポンプ本体に配置された内部デバイスと、内部デバイスの動作状態を制御する制御部と、真空ポンプ本体の状態情報を収集する情報収集部と、情報収集部により収集された状態情報を不揮発性メモリに記録する記録処理部とを備える。そして、情報収集部は、制御部によって内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【0009】
本発明に係る制御装置は、真空ポンプ本体に配置された内部デバイスの動作状態を制御する制御部と、真空ポンプ本体の状態情報を収集する情報収集部と、情報収集部により収集された状態情報を不揮発性メモリに記録する記録処理部とを備える。そして、情報収集部は、制御部によって内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、真空ポンプの状態情報が適切なタイミングで収集される真空ポンプおよび制御装置が得られる。
【0011】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図3】
図3は、電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、
図1に示すターボ分子ポンプ(真空ポンプ)を制御する制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すターボ分子ポンプ(真空ポンプ)の状態遷移の一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す制御装置の情報収集タイミングを説明する図である(1/2)。
【
図8】
図8は、
図5に示す制御装置の情報収集タイミングを説明する図である(2/2)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0015】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、図示せぬ制御装置に送るように構成されている。
【0016】
この制御装置においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0017】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0018】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0019】
そして、制御装置において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0020】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0021】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0022】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0023】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0024】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0025】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。ベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0026】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付きスペーサ131が配設される。ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0027】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0028】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0029】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0030】
なお、上記では、ネジ付きスペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付きスペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0031】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0032】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0033】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0034】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0035】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付きスペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0036】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0037】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0038】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0039】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0040】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0041】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0042】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0043】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0044】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0045】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0046】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0047】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0048】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0049】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0050】
上述のターボ分子ポンプ100は、真空ポンプの一例である。また、上述の制御装置は、後述する機能を有する。
図5は、
図1に示すターボ分子ポンプ(真空ポンプ)を制御する制御装置200の構成を示すブロック図である。
【0051】
図5に示す制御装置200は、磁気軸受制御部201、モータ駆動制御部202、温度計測部203、出力制御部204、カウンタ部205、保護機能処理部206、情報収集部207、記録処理部208、不揮発性メモリ209、インターフェイス処理部210、表示装置211、およびインターフェイス212を備える。
【0052】
磁気軸受制御部201は、ロータ軸113の磁気軸受(上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105、軸方向電磁石106A、106B、上側径方向センサ107、下側径方向センサ108、および軸方向センサ109)の動作状態を電気的に制御し、上述のようにロータ軸113の径方向位置および軸方向位置を調整する。
【0053】
モータ駆動制御部202は、モータ121の動作状態を電気的に制御し、所定回転速度でモータ121を回転させる。
【0054】
温度計測部203は、上述のTMS用の温度センサで、温度センサの配置された位置の温度を計測する。具体的には、温度計測部203は、温度センサの出力信号に基づいて、その位置の温度を特定する。
【0055】
出力制御部204は、上述のヒータ、水冷管149のバルブ(冷却バルブ)などといった、TMS用の出力デバイスの動作状態を電気的に制御する。上述の温度センサ配置位置の温度が所定温度になるように、ヒータのオン/オフおよび冷却バルブの開閉を行う。
【0056】
カウンタ部205は、例えば当該真空ポンプの起動からの時間や実時間をカウントする。カウンタ部205は、経過時間をカウントアップするタイマー、リアルタイムクロックなどである。
【0057】
保護機能処理部206は、上述の磁気軸受制御部201、モータ駆動制御部202、温度計測部203などから当該真空ポンプの状態情報を取得し、その状態情報に基づいて、当該真空ポンプに異常が発生した場合にはその異状を検知する。
【0058】
この状態情報は、ヒータ温度、冷却温度、ロータ翼の温度などといった各部の温度、モータ121の回転速度(回転数)、ヒータのオン/オフ状態、冷却バルブの開/閉状態などを含む。
【0059】
情報収集部207は、保護機能処理部206により取得された真空ポンプ本体の状態情報のうち、特定タイミングの状態情報を保護機能処理部206から収集する。
【0060】
具体的には、情報収集部207は、真空ポンプ本体に配置された内部デバイス(TMS出力デバイス、モータ121など)の動作状態を制御する制御部(出力制御部204、モータ駆動制御部202など)によってその内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【0061】
つまり、この実施の形態では、この内部デバイスは、温度管理用デバイス(つまり、上述のTMS出力デバイス)を含み、その温度管理用デバイスは、ヒータおよび冷却バルブのうちの少なくとも1つを含む。また、この実施の形態では、この内部デバイスは、動力系デバイスを含み、その動力系デバイスは、モータ121および磁気軸受のうちの少なくとも1つを含む。
【0062】
特に、この実施の形態では、情報収集部207は、当該真空ポンプの起動時の真空ポンプ本体の状態情報を状態情報の初期値として収集する。具体的には、当該真空ポンプが起動するとただちに自己診断処理が実行され、情報収集部207は、その自己診断処理時の真空ポンプ本体の状態情報を状態情報の初期値として収集する。これにより、不揮発性メモリ209に記録された状態情報から、電源投入回数(つまり、起動回数)を特定することが可能となる。
【0063】
また、この実施の形態では、情報収集部207は、当該真空ポンプの起動時から、上述の制御部によって上述の内部デバイスの動作状態が切り換えられたか否かを監視し、定期的に真空ポンプ本体の状態情報を収集せずに、その制御部によって内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【0064】
記録処理部208は、情報収集部207により収集された状態情報を内蔵の不揮発性メモリ209に記録する。その際、状態情報とともに、その状態情報の収集タイミングを示す時刻情報が記録される。その時刻情報はカウンタ部205によって得られる。不揮発性メモリ209は、フラッシュメモリなどの不揮発性のメモリである。具体的には、記録処理部208は、(a)不揮発性メモリ209における所定サイズの記憶領域に状態情報を記録し、(b)その記憶領域をリングバッファとして使用して、状態情報を記録していく。つまり、1つのタイミングの状態情報が、1つのデータセットとして、リングバッファにおける所定数のバッファ領域のうちの1つのバッファ領域に記憶され、所定数のバッファ領域のすべてに状態情報のデータセットが記憶された後は、最も古い状態情報のデータセットが、最新の状態情報のデータセットで上書きされていく。
【0065】
インターフェイス処理部210は、保護機能処理部206で取得された真空ポンプ本体の状態情報を表示装置211で表示し、また、不揮発性メモリ209に記憶された状態情報を読み出し、インターフェイス212で外部へ出力する。
【0066】
表示装置211は、LEDなどのインジケータ、液晶ディスプレイなどを備え、ユーザーに対して各種情報を表示する。インターフェイス212は、所定通信規格のシリアル通信などで外部の端末装置とデータ通信を行う。
【0067】
次に、上記真空ポンプの動作について説明する。
【0068】
図6は、
図1に示すターボ分子ポンプ(真空ポンプ)の状態遷移の一例を説明する図である。例えば
図6に示すように、電源が投入されると、制御装置200は、所定の自己診断処理を実行し、自己診断処理が完了すると、磁気軸受制御部201は、磁気軸受を制御して、当該真空ポンプを静止浮上状態とする。その後、当該真空ポンプの運転が開始されると、モータ駆動制御部202は、モータ121の制御を開始してモータ121を加速し、当該真空ポンプを加速運転状態とする。当該真空ポンプの回転速度が許容範囲内に入ると、モータ駆動制御部202は、当該真空ポンプを定格運転状態とする。その後、当該真空ポンプの回転速度が許容範囲内に入るように(つまり、定格運転状態を維持するように)、モータ駆動制御部202は、当該真空ポンプを適宜加速運転状態または減速運転状態とする。運転終了時には、モータ駆動制御部202は、当該真空ポンプを減速運転状態とし、モータ121の回転が検出されなくなると、当該真空ポンプは、静止浮上状態に移行する。また、非運転時にモータの回転が検出された場合も、モータ駆動制御部202は、当該真空ポンプを減速運転状態とし、モータ121の回転が検出されなくなると、当該真空ポンプは、静止浮上状態に移行する。
【0069】
このように、当該真空ポンプの運転時には、定格運転状態を維持するようにモータ121の動作状態が切り替えられて制御される。また、モータ121の負荷やガス流量などによってモータ121の発熱量が変化するとともに、環境温度も変化するため、上述のようにTMSでガス流路の温度管理が動的に行われる。
【0070】
保護機能処理部206は、磁気軸受制御部201、モータ駆動制御部202、温度計測部203などから状態情報を定期的に取得して、当該真空ポンプの異状発生の有無を監視する。
【0071】
また、情報収集部207は、磁気軸受制御部201、モータ駆動制御部202、出力制御部204などの制御の切り替えタイミングを検出し、その切り替えタイミングを検出すると、特定の項目の状態情報を、この切り替えタイミングを示す時間情報とともに、保護機能処理部206から収集し、記録処理部208を使用して、不揮発性メモリ209に記憶する。なお、この時間情報は、カウンタ部205によって提供されるものである。
【0072】
図7および
図8は、
図5に示す制御装置の情報収集タイミングを説明する図である。
図7は、真空ポンプ起動時の情報収集タイミングを説明する図である。
図8は、真空ポンプ運転時の情報収集タイミングを説明する図である。
【0073】
例えば
図7に示すように、当該真空ポンプの起動後、出力制御部204は、ヒータをオン状態とし冷却バルブを閉状態とする。これにより、ヒータ温度(ヒータに対応する温度センサの検出値)および冷却温度(冷却バルブに対応する温度センサの検出値)が上昇していく。
【0074】
出力制御部204は、ヒータ温度が所定目標温度を超えると、ヒータをオフ状態とし、その後、ヒータ温度が所定目標温度を下回ると、ヒータをオン状態とし、ヒータ温度が所定目標温度となるようにヒータを制御する。
図7では、タイミングt11,t13,t15,t17,t19,t21,t23,t25において、ヒータの動作状態がオン状態からオフ状態へ切り替えられ、タイミングt12,t14,t16,t18,t20,t22,t24,t26において、ヒータの動作状態がオフ状態からオン状態へ切り替えられている。
【0075】
また、出力制御部204は、冷却温度が所定目標温度を超えると、冷却バルブを開状態とし、その後、冷却温度が所定目標温度を下回ると、冷却バルブを閉状態とし、冷却温度が所定目標温度となるように冷却バルブを制御する。
図7では、タイミングt41,t43,t45,t47,t49,t51,t53,t55,t57,t59において、冷却バルブの動作状態が閉状態から開状態へ切り替えられ、タイミングt42,t44,t46,t48,t50,t52,t54,t56,t58,t60において、冷却バルブの動作状態が開状態から閉状態へ切り替えられている。
【0076】
情報収集部207は、当該真空ポンプの起動時から、TMS出力デバイスや、モータ121などといった動力系デバイスの動作状態が切り換えられたか否かを監視し、定期的に真空ポンプ本体の状態情報を収集せずに、内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集し、記録処理部208を使用して、不揮発性メモリ209に記憶する。
【0077】
したがって、例えば
図7に示す場合では、情報収集部207は、タイミングt11~t26,t41~t60で、真空ポンプ本体の状態情報を収集し、記録処理部208で、不揮発性メモリ209に記憶する。なお、例えば
図7に示すように、起動後、ヒータ温度または冷却温度が目標温度に到達する前は、状態情報は、不揮発性メモリ209に記憶されない。
【0078】
また、モータ121の制御開始後、モータの運転状態が加速運転、定格運転、および減速運転の間で変化すると、その状態変化のタイミングでも、真空ポンプ本体の状態情報が収集され、記録処理部208で、不揮発性メモリ209に記憶される。
【0079】
したがって、例えば
図8に示す場合では、情報収集部207は、ヒータの動作状態の切り替えタイミングt71~t76、および冷却バルブの動作状態の切り替えタイミングt81~t92の他、モータの運転状態の状態変化のタイミングでも、真空ポンプ本体の状態情報を収集し、記録処理部208で、不揮発性メモリ209に記憶する。なお、磁気軸受の動作状態が、静止浮上状態およびタッチダウン状態の間で変化した場合も、同様に状態情報が収集され記録される。
【0080】
このようにして、不揮発性メモリ209に記憶された状態情報は、インターフェイス212およびインターフェイス処理部210を介して外部装置に読み出され、例えば、真空ポンプの不具合の原因分析などに使用される。
【0081】
以上のように、上記実施の形態によれば、制御部201,202,204は、真空ポンプ本体に配置された内部デバイス(モータ121、ヒータ、冷却バルブなど)の動作状態を制御する。情報収集部207は、真空ポンプ本体の状態情報を収集し、記録処理部208は、情報収集部207により収集された状態情報を不揮発性メモリ209に記録する。そして、情報収集部207は、制御部201,202,204によって内部デバイスの動作状態が切り換えられたタイミングで真空ポンプ本体の状態情報を収集する。
【0082】
これにより、真空ポンプの状態情報が適切なタイミングで収集される。したがって、不揮発性メモリ209における状態情報の記憶領域が大きくなくても、真空ポンプの不具合の原因分析が円滑に行われやすくなる。
【0083】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0084】
例えば、上記実施の形態では、情報収集部207は、複数の内部デバイスのいずれかの動作状態の切り替えに対応して、特定の複数の項目の状態情報のすべてを収集しているが、その代わりに、複数の内部デバイスのいずれかの動作状態の切り替えに対応して、特定の複数の項目のうち、動作状態が切り替えられた内部デバイスに対応する一部の項目の状態情報のみを収集するようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態において、状態情報を不揮発性メモリ209に記憶した時点から所定時間内に情報収集タイミング(内部デバイスの動作状態の切り替え)が検出されても、不揮発性メモリ209への状態情報の記憶を行わないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、例えば、真空ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプの一例)
121 モータ(内部デバイスの一例)
200 制御装置
201 磁気軸受制御部(制御部の一例)
202 モータ駆動制御部(制御部の一例)
204 出力制御部(制御部の一例)
207 情報収集部
208 記録処理部
209 不揮発性メモリ
【手続補正書】
【提出日】2020-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】