(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155703
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】脇見判定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20221006BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20221006BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20221006BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B60W40/08
B60W50/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059062
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】李 亦楊
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA60
3D241BA70
3D241BB27
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DC25Z
3D241DC43Z
3D241DD07Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181FF04
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL15
5H181LL20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自車両の走行車線に割り込もうとする挙動を見せる他車両が存在する場合にも、脇見状態の不適切な判定を抑制可能な脇見判定装置を提供すること。
【解決手段】カーブ検出部26で検出されるカーブ方向の情報に基づいて判定基準範囲変更部28により脇見判定部27における判定基準範囲をカーブ方向に所定角度変更する一方、他車両検出部30により検出した他車両について相対方向取得部31が取得した自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向に、視線方向検出部24により検出された運転者の視線方向が沿う場合には、その視線方向が脇見状態に該当しない判定基準範囲より外に向かう場合であっても脇見状態であると判定しない脇見判定装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の視線方向を検出する視線方向検出部と、
前記視線方向検出部により検出された前記視線方向が所定の判定基準範囲を逸脱している場合に前記運転者が脇見状態であると判定する脇見判定部と、
自車両から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向を検出して検出結果を出力するカーブ検出部と、
前記自車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記自車両の周辺情報に基づいて前記自車両が前記カーブを走行中に前記カーブ検出部で検出されるカーブ方向と反対方向の前記自車両の走行する自車線に隣接する車線における他車両の存在有無を検出する他車両検出部と、
前記自車両のカーブ進入時において、前記脇見判定部における前記判定基準範囲を前記カーブ検出部で検出されるカーブ方向に所定角度変更する判定基準範囲変更部と、
前記自車両を基準に見た場合の前記他車両の相対方向を表す相対方向情報を演算により取得する相対方向取得部と、を備え、
前記脇見判定部は、前記視線方向検出部により検出された前記視線方向が前記相対方向取得部で取得された前記他車両の相対方向から所定範囲内の方向である場合には、前記視線方向が前記判定基準範囲以外の範囲に向かう場合であっても前記運転者が脇見状態であると判定しない、
脇見判定装置。
【請求項2】
前記相対方向取得部は、前記周辺情報取得部が前記他車両の前記自車両の走行する自車線への車線変更を検出したときに、前記相対方向情報を取得する演算を実行する、請求項1に記載の脇見判定装置。
【請求項3】
前記相対方向取得部は、前記自車両の平面投影における中央を原点とし、前記自車両の走行方向をX軸とし、前記自車両の車幅方向をY軸とするXY直交座標系を設定した場合に、前記原点から前記他車両後尾の幅方向の中央部位に延長した直線と前記X軸とのなす角として前記他車両の相対方向を演算により取得する、請求項1または2に記載の脇見判定装置。
【請求項4】
前記脇見判定部が前記運転者が脇見状態であると判定した場合に前記運転者に対して所定の報知を行う報知部を備え、
前記報知部は、前記報知を行っている場合に前記相対方向取得部が前記相対方向の取得に係る演算を開始するタイミングで前記所定の報知を停止する、請求項1から3の何れか一項に記載の脇見判定装置。
【請求項5】
前記カーブ検出部は、当該カーブのカーブ方向と共に当該カーブの曲率を検出し、
前記判定基準範囲変更部は、前記カーブ検出部が検出した当該カーブの曲率に係る情報を用いて前記判定基準範囲を変更する、請求項1から4のいずれか一項に記載の脇見判定装置。
【請求項6】
前記自車両に設けられた所定の車両状態センサからの検出出力に基づき前記自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を含む自車両の状態に関する車両情報を取得する車両状態取得部を備え、
前記判定基準範囲変更部は、前記車両状態取得部が取得した前記自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を用いて前記判定基準範囲を変更する、請求項1から5のいずれか一項に記載の脇見判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脇見判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転者の脇見状態を判定する脇見判定装置が種々提案されている。本出願人は、車両挙動が変化して車両の旋回方向がカーブ方向に変化する以前のタイミングで脇見状態の判定に係る対象範囲を所定量だけ変位させ、脇見ではない状態を脇見状態であると誤判定してしまうことを防止する脇見判定装置を既に提案した(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の脇見判定装置によれば、カーブへの進入時やカーブの通過時においても、運転者が脇見状態であるか否かの判定精度を向上させることができる。一方、自車両の速度が遅い場合などにおいては、他車両から自車両の走行車線への割り込みを受けやすい。このような場合に、割り込もうとする挙動を見せる他車両への運転者の視線が脇見運転と判定されてしまうおそれがある。しかしながら、特許文献1の技術では、この点は特に技術課題として取り上げていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされものであり、自車両の走行車線に割り込もうとする挙動を見せる他車両が存在する場合にも、脇見状態の誤判定を抑制可能な脇見判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)運転者の視線方向を検出する視線方向検出部(例えば、後述する視線方向検出部24)と、前記視線方向検出部により検出された前記視線方向が所定の判定基準範囲を逸脱している場合に前記運転者が脇見状態であると判定する脇見判定部(例えば、後述する脇見判定部27)と、自車両から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向を検出して検出結果を出力するカーブ検出部(例えば、後述するカーブ検出部26)と、前記自車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部(例えば、後述する周辺情報取得部29)と、前記自車両の周辺情報に基づいて前記自車両が前記カーブを走行中に前記カーブ検出部で検出されるカーブ方向と反対方向の前記自車両の走行する自車線に隣接する車線における他車両の存在有無を検出する他車両検出部(例えば、後述する他車両検出部30)と、前記自車両のカーブ進入時において、前記脇見判定部における前記判定基準範囲を前記カーブ検出部で検出されるカーブ方向に所定角度変更する判定基準範囲変更部(例えば、後述する判定基準範囲変更部28)と、前記自車両を基準に見た場合の前記他車両の相対方向を表す相対方向情報を演算により取得する相対方向取得部(例えば、後述する相対方向取得部31)と、を備え、前記脇見判定部は、前記視線方向検出部により検出された前記視線方向が前記相対方向取得部で取得された前記他車両の相対方向から所定範囲内の方向である場合には、前記視線方向が前記判定基準範囲以外の範囲に向かう場合であっても前記運転者が脇見状態であると判定しない、脇見判定装置。
【0007】
(2)前記相対方向取得部は、前記周辺情報取得部が前記他車両の前記自車両の走行する自車線への車線変更を検出したときに、前記相対方向情報を取得する演算を実行する、上記(1)の脇見判定装置。
【0008】
(3)前記相対方向取得部は、前記自車両の平面投影における中央を原点とし、前記自車両の走行方向をX軸とし、前記自車両の車幅方向をY軸とするXY直交座標系を設定した場合に、前記原点から前記他車両後尾の幅方向の中央部位に延長した直線と前記X軸とのなす角として前記他車両の相対方向を演算により取得する、上記(1)または(2)の脇見判定装置。
【0009】
(4)前記脇見判定部が前記運転者が脇見状態であると判定した場合に前記運転者に対して所定の報知を行う報知部(例えば、後述する報知部3)を備え、前記報知部は、前記報知を行っている場合に前記相対方向取得部が前記相対方向の取得に係る演算を開始するタイミングで前記所定の報知を停止する、上記(1)から(3)のいずれかの脇見判定装置。
【0010】
(5)前記カーブ検出部は、当該カーブのカーブ方向と共に当該カーブの曲率を検出し、前記判定基準範囲変更部は、前記カーブ検出部が検出した当該カーブの曲率に係る情報を用いて前記判定基準範囲を変更する、上記(1)から(4)のいずれかの脇見判定装置。
【0011】
(6)前記自車両に設けられた所定の車両状態センサからの検出出力に基づき前記自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を含む自車両の状態に関する車両情報を取得する車両状態取得部(例えば、後述する車両状態取得部25)を備え、前記判定基準範囲変更部は、前記車両状態取得部が取得した前記自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を用いて前記判定基準範囲を変更する、上記(1)から(5)のいずれかの脇見判定装置。
【発明の効果】
【0012】
(1)の脇見判定装置では、カーブ検出部で検出されるカーブ方向の情報に基づいて判定基準範囲変更部により脇見判定部における判定基準範囲をカーブ方向に所定角度変更する。一方、視線方向検出部により検出された視線方向が相対方向取得部で取得された他車両の相対方向から所定範囲内の方向である場合には、視線方向が脇見状態に該当しない判定基準範囲より外に向かう場合であっても前記運転者が脇見状態であると判定しない。これにより、他車両が車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を示す場合における脇見状態の不適切な判定が防止される。
【0013】
(2)の脇見判定装置では、上記(1)の脇見判定装置において更に、相対方向取得部は、周辺情報取得部が他車両の自車両の走行する自車線への車線変更を検出したときに、相対方向情報を取得する演算を実行する。これにより、他車両の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0014】
(3)の脇見判定装置では、上記(1)または(2)の脇見判定装置において更に、判定基準範囲変更部は、相対方向取得部が取得した自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報を用いて所定範囲を変更する。これにより、自車両と他車両との相対方向を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0015】
(4)の脇見判定装置では、上記(1)から(3)のいずれかの脇見判定装置おいて更に、自車両の運転者が安全確認のために視線を転じている蓋然性が高い、相対方向取得部が相対方向の検出に係る演算を開始するタイミングで、報知部における警報などの報知が停止される。これにより、無駄な警報などの報知が抑制され、運転中の快適性が阻害され難くなる。
【0016】
(5)の脇見判定装置では、上記(1)から(4)のいずれかの脇見判定装置おいて更に、判定基準範囲変更部は、カーブ検出部が検出した当該カーブの曲率に係る情報をも用いて判定基準範囲を変更する。このため、カーブの曲率を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0017】
(6)の脇見判定装置では、上記(1)から(5)のいずれかの脇見判定装置おいて更に、判定基準範囲変更部は、車両状態取得部が取得した自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を用いて判定基準範囲を変更する。このため、自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る脇見判定装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る脇見判定装置が他車両の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みの可能性があると判断した場合を示す図である。
【
図3】
図2の場合における相対方向取得部での自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向の算出を説明する図である。
【
図4】運転者が脇見状態に該当しない判定基準範囲を逸脱する方向に視線を向けても脇見状態と判定しない場合を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る脇見判定装置の処理装置で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態としての脇見判定装置について詳述することにより本発明を明らかにする。
図1は、本発明の一実施形態に係る脇見判定装置1の構成図である。脇見判定装置1は車両に設けられるものであり、処理装置2、報知部3、光源11、乗員カメラ12、車両状態センサ13、ナビゲーション装置14、外界カメラ15、ミリ波レーダー16、LIDAR17とを備えて構成されている。
【0020】
光源11は、撮像対象(例えば、運転席に着座した運転者の顔など)に可視光線または赤外線などの光を照射する。
【0021】
乗員カメラ12は、少なくとも運転席に着座した運転者の顔を撮視野に含むように設置され、可視光領域または赤外線領域で運転者の顔を含む映像出力を得る。
【0022】
車両状態センサ13は、車速センサ、ジャイロセンサ、ヨーレートセンサおよび舵角センサを含む。車速センサにより自車両の速度(車速)を検出し、ジャイロセンサにより車体の姿勢や進行方向を検出し、ヨーレートセンサによりヨーレート(車両重心の上下方向軸回りの回転角速度)を検出する。また、舵角センサによりステアリングホイールの舵角(操舵角度)あるいはステアリングホイールの舵角に応じた実舵角(転舵角度)を検出する。車両状態センサ13は、上述のように検出された各種の車両情報である、車速、姿勢、ヨーレート、操舵角度および転舵角度に係る信号を処理装置2に供給する。
【0023】
ナビゲーション装置14は、例えば人工衛星を利用して自車両の位置を測定するためのGPS(Global Positioning System)信号などの測位信号を受信し、この測位信号によって自車両の現在位置を算出する。また、ナビゲーション装置14は、車両状態センサ13における車速センサおよびヨーレートセンサ(図示略)などから出力される自車両の速度(車速)およびヨーレートの検出信号に基づく自律航法の算出処理によって、自車両の現在位置を算出する。
【0024】
また、ナビゲーション装置14は、自車両の現在位置に基づくマップマッチングの処理に必要とされる道路座標データを地図データとして備えている。さらに、ナビゲーション装置14は、経路探索や経路誘導などの処理に必要とされるデータ、例えば交差点および分岐点などの所定位置の緯度および経度からなる座標点であるノードと、各ノード間を結ぶ線であるリンクと、各リンクの距離と、道路の形状(例えば、カーブの曲率半径に関する情報)および幅員および交差角度および種別となどの道路データを地図データとして備えている。
【0025】
外界カメラ15は、少なくとも上記車両の周辺を含む車両の外部を撮像視野とするように設置され、可視光領域または赤外線領域で、撮像情報を取得する。外界カメラ15は、
図1では代表的に1つのブロックとして表記されているが、上記車両の仕様によって複数設けられる。
【0026】
ミリ波レーダー16は、上記車両の周囲の物標を検出し、物標との距離を測距する。ミリ波レーダー16は、
図1では代表的に1つのブロックとして表記されているが、上記車両の仕様によって複数設けられる。
【0027】
LIDAR(Light Detection and Ranging)17は、車両の周囲の物標を検出し、物標との距離を測距する。LIDAR17は、
図1では代表的に1つのブロックとして表記されているが、上記車両の仕様によって複数設けられる。
【0028】
処理装置2は、照射制御部21、撮像制御部22、顔画像取得部23、視線方向検出部24、車両状態取得部25、カーブ検出部26、脇見判定部27、判定基準範囲変更部28、周辺情報取得部29、他車両検出部30、相対方向取得部31および報知制御部32を備えて構成される。
【0029】
照射制御部21は、光源11による光の照射を制御する。撮像制御部22は、乗員カメラ12による撮像を制御する。顔画像取得部23は、乗員カメラ12から出力される顔画像を取得する。視線方向検出部24は、顔画像取得部23により取得された顔画像から運転者の左右の眼球を検出対象物とした特徴量算出および形状判別などの認識処理を行う。視線方向検出部24は、さらに、認識処理の結果に基づき、眼の虹彩や瞳孔の中心位置、角膜表面における赤外線の反射像であるプルキニエ像の中心位置、眼球中心位置および目頭の位置などを用いて、所定の視線検出処理により運転者の視線方向および注視点を検出する。
【0030】
車両状態取得部25は、車両状態センサから出力される各種の検出結果の信号に基づいて、自車両の各種の状態に関する車両状態情報を取得する。即ち、車両状態取得部25は、自車両の走行挙動の情報として、自車両の速度(車速)、車体の姿勢、進行方向および旋回方向、ステアリングホイールの舵角(操舵角度)に応じた実舵角(転舵角度)の情報などを取得する。
【0031】
カーブ検出部26は、ナビゲーション装置14の道路データ、あるいは、車両状態センサ13から出力されるステアリングホイールの舵角(操舵角度)またはステアリングホイールの舵角に応じた実舵角(転舵角度)などに基づき、自車両から所定距離以内(例えば、カーブ入口に到達するまで2秒以内の距離以内など)の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向を検出してその検出出力を判定基準範囲変更部28に供給する。
【0032】
カーブ検出部26は、また、自車両から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向に加えて、当該カーブの曲率を検出する。
【0033】
脇見判定部27は、視線方向検出部24により検出された運転者の視線方向に基づいて、運転者が脇見状態にあるか否かを判定する。即ち、脇見判定部27は、運転者の視線方向が、脇見状態に該当しない判定基準範囲内にあるか否かを弁別する。脇見判定部27は、さらに、運転者の視線方向が判定基準範囲外に所定時間以上留まっていることを弁別したときに、脇見状態の判定出力を発する。一方、運転者の視線方向が判定基準範囲内にあることをことを弁別したときに、非脇見状態の判定出力を発する。
【0034】
脇見判定部27における判定基準範囲は、次に説明する判定基準範囲変更部28によって、種々の条件に応じて変更される。これにより、脇見判定部27による脇見状態の判定が運転者による実際の運転状況から見て不適切なものとなってしまうことが回避される。
【0035】
判定基準範囲変更部28は、車両状態取得部25により取得された車両状態情報である自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報と、カーブ検出部26により検出されたカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向ならびにカーブの曲率を表す情報と、視線方向検出部24により検出される視線方向を表す情報と、後述する相対方向取得部31からの他車両の相対位置に係る検出情報とに基づき、脇見判定部27における判定基準範囲を所定量だけ変更させる指令を脇見判定部27に与える。
【0036】
判定基準範囲変更部28は、自車両から所定距離以内の前方にカーブが存在すること、および、このカーブのカーブ方向がカーブ検出部26によって検出された場合に、車両状態取得部25により取得された車両状態情報による自車両の旋回方向がカーブ方向に変化する以前の所定タイミングで判定基準範囲をカーブ方向に所定量だけ変更する。この所定タイミングでは、自車両の運転者が安全確認のためにカーブ方向に視線を転じている蓋然性が高いが、このような場合に不適切に脇見状態であると判定されることが回避される。また特に、判定基準範囲変更部28は、カーブ検出部26が検出した当該カーブの曲率に係る情報をも用いて所定範囲を変更する。このため、カーブの曲率を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0037】
なお、自車両の旋回方向がカーブ方向に変化する以前の所定タイミングは、例えば視線方向検出部24により検出される視線方向が、この時点で設定されている判定基準範囲をカーブ方向側に逸脱して、この判定基準範囲の外の範囲に向かうときなどである。
【0038】
周辺情報取得部29は、外界カメラ15、ミリ波レーダー16およびLIDAR17から自車両周辺の状態に係る周辺情報を取得する。この周辺情報は、例えば、自車両の前方、側方及び後方における他車両やその他の障害物などの有無や、存在する他車両やその他の障害物までの距離や方位に関する情報である。周辺情報取得部29は、取得した周辺情報を他車両検出部30に供給する。
【0039】
他車両検出部30は、カーブ検出部26から供給される自車両から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向に係る検出出力、および、周辺情報取得部29から供給される周辺情報に基づいて、自車両がカーブを走行中にカーブ検出部26で検出されるカーブ方向と反対方向の自車両の走行する自車線に隣接する車線における他車両の存在有無と相対位置とを検出して検出情報を発する。
【0040】
相対方向取得部31は、他車両検出部30の検出出力に基づいて、他車両検出部30で他車両の存在が検出された場合に、自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報を演算により取得し、該相対方向情報を脇見判定部27に供給する。該相対方向情報は、後述する角度α±θを表す情報である。
【0041】
判定基準範囲変更部28は、上述の車両状態取得部25により取得された車両情報、カーブ検出部26により検出されたカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向の情報、視線方向検出部24により検出される視線方向の情報に加えて、相対方向取得部31からの他車両の相対位置に係る検出情報とに基づき、脇見判定部27における判定基準範囲を所定量だけ変更させる指令を脇見判定部27に与える。
【0042】
脇見判定部27は、判定基準範囲変更部28からの判定基準範囲を所定量だけ変更させる指令に応じて判定基準範囲を変更し、視線方向検出部24により検出される視線方向が変更した判定基準範囲にある場合には非脇見状態の判定出力を発する。一方、運転者の視線方向が判定基準範囲外に所定時間以上留まっていることを弁別したときに、脇見状態の判定出力を発する。
【0043】
ここで、脇見判定部27は、相対方向取得部31から、上述の自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報を受けている場合には、視線方向検出部24により検出される視線方向が判定基準範囲外に所定時間以上留まっていても、非脇見状態の判定出力を発する。
【0044】
脇見判定部27の判定出力は、報知制御部32に供給される。報知制御部32は、脇見判定部27から供給される判定出力が脇見状態の判定出力である場合に、報知部3に発報制御指令を与えて報知部3における発報の形態を制御する。報知部3における発報の形態は、警報音の強弱や断続の周期、メッセージの発音、警告灯の発光や文字表示、或いは、パターン表示などの形態である。
【0045】
報知部3は報知制御部32の制御下で報知を行っている場合に、相対方向取得部31が相対方向の取得に係る演算を開始するタイミングで報知を停止する。相対方向取得部が相対方向の検出に係る演算を開始するタイミングでは、自車両の運転者が安全確認のために視線を転じている蓋然性が高いので、このタイミングで報知部における警報などの報知が停止される。これにより、無駄な警報などの報知が抑制され、運転中の快適性が阻害され難くなる
【0046】
次に、
図2、
図3および
図4ならびに
図1を参照して、本発明の実施形態に係る脇見判定装置1が他車両の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みの可能性があると判断した場合における脇見判定装置1の作用について説明する。
【0047】
図2は、本発明の実施形態に係る脇見判定装置1が他車両の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みの可能性があると判断した場合を示す図である。
図2において、脇見判定装置1を搭載した自車両10がカーブに差し掛かっている。このとき、運転者Dの視線方向Aは自車両10の現在時点での走行方向であるカーブに対する接線方向よりも、運転者Dの前方視野であるカーブの内周側に寄っている。
図2中のBは、脇見判定部27が、運転者10における脇見状態の有無を判定する基準とする判定基準範囲である。
【0048】
図2において、視線方向Aは、脇見判定装置1の視線方向検出部24によって常時捕捉されている。自車両10から所定距離以内(例えば、カーブ入口に到達するまで2秒以内の距離以内など)の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向がカーブ検出部26により検出されている。カーブ検出部26はカーブに係る検出出力を判定基準範囲変更部28および他車両検出部30に供給する。
【0049】
一方、周辺情報取得部29が、自車両の前方、側方及び後方における他車両90やその他の障害物などの有無や、存在する他車両90やその他の障害物までの距離や方位に関する情報を取得している。
図2の状態は、周辺情報取得部29が、他車両9の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みの可能性がある旨の情報を取得した状態である。
【0050】
この場合、さらに、他車両検出部30が、カーブ検出部26から供給される自車両10から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向に係る検出出力、および、周辺情報取得部29から供給される周辺情報に基づいて、自車両10がカーブを走行中にカーブ検出部26で検出されるカーブ方向と反対方向の自車両の走行する自車線に隣接する車線における他車両の存在有無と相対位置とを検出して検出情報を発する。
【0051】
相対方向取得部31が、他車両検出部30の検出出力に基づいて、他車両検出部30で他車両90の存在が検出された場合に、自車両10を基準に見た場合の他車両90の相対方向を表す相対方向情報を演算により取得し、該相対方向情報を判定基準範囲変更部28に供給する。
【0052】
図3は、
図2の場合における相対方向取得部31での自車両10を基準に見た場合の他車両90の相対方向の算出を説明する図である。自車両10の平面投影における中央を原点とし、自車両10の走行方向をX軸とし、自車両10の車幅方向をY軸とするXY直交座標系を設定し、XY直交座標系の原点から他車両90後尾の幅方向の中央部位に延長した破線図示の直線とX軸とのなす角度αとして、自車両10を基準に見た場合他車両90の相対方向を演算により取得する。
【0053】
図4は、運転者Dが判定基準範囲Bを逸脱する方向に視線を向けても脇見状態と判定しない場合を説明する図である。自車両10の運転者Dは、車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みの可能性がある他車両90を発見すると、必然的に、自身の視線を白抜きの矢線Cで示す如く他車両90に向ける。運転者D自身の視線Cの向け方は、本来的に安全確保のためのものである。ところが、矢線Cで示す場合における運転者Dの視線の方向は、脇見判定における判定基準範囲Bを逸脱したものとなる。このため、何等の手段も講じなければ、運転者D自身の視線方向Cは、脇見状態であると判定される。
【0054】
即ち、脇見判定部27が脇見状態である旨の判定出力を報知制御部32に供給する。報知制御部32はこれに応答して、報知部3に発報制御指令を与えて報知部3に警報音、メッセージの発音、警告灯の発光や文字表示、或いは、パターン表示などを発報させることになってしまう。
【0055】
本発明の実施形態である脇見判定装置1では、このように本来的に安全確保のための視線移動までが脇見状態であると判定されてしまう不都合が一掃される。即ち、相対方向取得部31で、
図3を参照して説明した如く、自車両10を基準に見た場合の他車両90の相対方向を自車両10に設定したXY直交座標系で、原点から他車両90に延長した直線とX軸とのなす角度αとして取得し、運転者Dの視線方向が角度α向かっている場合には運転者Dが脇見状態であると判定しない。これにより、他車両90が車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を示す場合における脇見状態の不適切な判定が防止される。この場合、より具体的には、運転者Dの視線方向が、範囲微調整用パラメータ(検出誤差や公差を吸収するための猶予角度)±θを角度αに加算した角度α±θにある場合に、運転者Dが脇見状態であると判定しない。
【0056】
図5は、本発明の実施形態に係る脇見判定装置1の処理装置2で行われる処理の一例を示すフローチャートである。先ず、視線方向検出部24が、所定の視線検出処理により運転者の視線方向を検出する(ステップS1)。
【0057】
次いで、カーブ検出部26が、ナビゲーション装置14の道路データ、あるいは、車両状態センサ13から出力されるステアリングホイールの舵角(操舵角度)またはステアリングホイールの舵角に応じた実舵角(転舵角度)などに基づき、自車両から所定距離以内の前方におけるカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向ならびにカーブの曲率を検出する(ステップS2)。
【0058】
次いで、判定基準範囲変更部28が、車両状態取得部25により取得された車両状態情報、カーブ検出部26により検出されたカーブの存在有無および当該カーブのカーブ方向ならびにカーブの曲率を表す情報、視線方向検出部24により検出される視線方向を表す情報および相対方向取得部31からの他車両の相対位置に係る検出情報に基づき、脇見判定部27における判定基準範囲を所定量だけ変更させる指令を脇見判定部27に与える。脇見判定部27はこの指令に基づいて判定基準範囲を所定量だけ変更する(ステップS3)。
【0059】
ステップS3で、脇見判定部27における判定基準範囲が所定量だけ変更されてから、他車両検出部30が、自車両がカーブを走行中にカーブ検出部26で検出されるカーブ方向と反対方向の自車両の走行する自車線に隣接する車線における他車両の存在有無と相対位置とを検出した場合を想定する(ステップS4)。
【0060】
ステップS4の想定における場合には、相対方向取得部31が、他車両検出部30の検出出力に基づいて、自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報である上述の角度α±θを表す情報を演算により取得し、該相対方向情報を脇見判定部27に供給する(ステップS5)。
【0061】
次いで、脇見判定部27は、相対方向取得部31から、上述の自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報を受けている場合には、視線方向検出部24により検出される視線方向が判定基準範囲外に所定時間以上留まっていても、脇見状態の判定を解除する(ステップS6)。これにより、他車両が車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を示す場合における本来的に安全確保のための視線移動までが脇見状態であると判定されてしまうことが予防される。
【0062】
本実施形態の脇見判定装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0063】
(1)の脇見判定装置1では、カーブ検出部26で検出されるカーブ方向の情報に基づいて判定基準範囲変更部28により脇見判定部27における判定基準範囲をカーブ方向に所定角度変更する。一方、視線方向検出部24により検出された視線方向が相対方向取得部31で取得された他車両の相対方向から所定範囲内の方向である場合には、視線方向が脇見状態に該当しない判定基準範囲より外に向かう場合であっても運転者が脇見状態であると判定しない。これにより、他車両が車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を示す場合における脇見状態の不適切な判定が防止される。
【0064】
(2)の脇見判定装置1では、相対方向取得部31は、周辺情報取得部29が他車両の自車両の走行する自車線への車線変更を検出したときに、相対方向情報を取得する演算を実行する。これにより、他車両の車線はみだしや自車両の走行車線への割り込みなどの挙動を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0065】
(3)の脇見判定装置1では、判定基準範囲変更部28は、相対方向取得部31が取得した自車両を基準に見た場合の他車両の相対方向を表す相対方向情報を用いて所定範囲を変更する。これにより、自車両と他車両との相対方向を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0066】
(4)の脇見判定装置1では、自車両の運転者が安全確認のために視線を転じている蓋然性が高い、相対方向取得部31が相対方向の検出に係る演算を開始するタイミングで、報知部における警報などの報知が停止される。これにより、無駄な警報などの報知が抑制され、運転中の快適性が阻害され難くなる。
【0067】
(5)の脇見判定装置1では、判定基準範囲変更部28は、カーブ検出部26が検出した当該カーブの曲率に係る情報をも用いて判定基準範囲を変更する。このため、カーブの曲率を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0068】
(6)の脇見判定装置1では、判定基準範囲変更部28は、車両状態取得部25が取得した自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を用いて判定基準範囲を変更する。このため、自車両の操舵角度および/または転舵角度の情報を判定の要因に加えた、より適切な脇見状態の判定を行うことができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。例えば、他車両から車車間通信によって自車両の走行車線への割り込みの希望が受信されたときには、車車間通信の発信元である当該他車両の相対方向を他の条件を俟たずに取得し、取得された相対方向に沿う視線方向については、脇見状態と判定しないように構成してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…脇見判定装置
2…処理装置
3…報知部
10…自車両
11…光源
12…乗員カメラ
13…車両状態センサ
14…ナビゲーション装置
15…外界カメラ
16…ミリ波レーダー
17…LIDAR
21…照射制御部
22…撮像制御部
23…顔画像取得部
24…視線方向検出部
25…車両状態取得部
26…カーブ検出部
27…脇見判定部
28…判定基準範囲変更部
29…周辺情報取得部
30…他車両検出部
31…相対方向取得部
32…報知制御部