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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155720
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ウォーターポンプのインペラ構造
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/22 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
F04D29/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059085
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】松下 耕一朗
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB07
3H130AB22
3H130AB47
3H130AC16
3H130BA01C
3H130BA08C
3H130CB01
3H130CB05
(57)【要約】
【課題】キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図ることができるウォーターポンプのインペラ構造を提供する。
【解決手段】ウォーターポンプのインペラ構造は、冷却媒体を回転することで押し出し可能とするインペラ(70)を備えるウォーターポンプのインペラ構造において、インペラ(70)は冷却媒体を押圧する押圧部(76)を備えており、押圧部(76)は、インペラ(70)の回転中心点(O)を中心とする基準円(C1)の接線(T1)に対して鋭角の角度(θ1)を有する第1押圧部(77)と、第1押圧部(77)よりも回転方向(R)の後側に設けられ且つ第1押圧部(77)よりも接線(T1)に対して大きな角度(θ2)を有する第2押圧部(79)と、で形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体を回転することで押し出し可能とするインペラ(70)を備えるウォーターポンプのインペラ構造において、
前記インペラ(70)は冷却媒体を押圧する押圧部(76)を備えており、
前記押圧部(76)は、前記インペラ(70)の回転中心点(O)を中心とする基準円(C1)の接線(T1)に対して鋭角の角度(θ1)を有する第1押圧部(77)と、前記第1押圧部(77)よりも回転方向(R)の後側に設けられ且つ前記第1押圧部(77)よりも前記接線(T1)に対して大きな角度(θ2)を有する第2押圧部(79)と、で形成されていることを特徴とするウォーターポンプのインペラ構造。
【請求項2】
前記第1押圧部(77)と前記第2押圧部(79)との間には、前記接線(T1)に対する角度が変化する曲部(78)が設けられており、
前記第2押圧部(79)と前記接線(T1)とが形成する角度(θ2)が、前記曲部(78)と前記回転中心点(O)を結んだ直線(L78)と、前記接線(T1)とが形成する角度(θ3)以下であることを特徴とする請求項1に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
【請求項3】
前記押圧部(76)を形成する延伸部(75)の付け根には切り欠き(75C)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
【請求項4】
前記押圧部(76)は、前記延伸部(75)に対して直角に曲がっていることを特徴とする請求項3に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
【請求項5】
前記押圧部(76)は偶数個設けられており、前記回転中心点(O)に対して対称となる位置に前記押圧部(76)が配置されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のウォーターポンプのインペラ構造。
【請求項6】
前記回転中心点(O)に対して対称となる位置に設けられた前記第2押圧部(79)は前記直線(L78)上で重なることを特徴とする請求項5に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーターポンプのインペラ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウォーターポンプのインペラが記載されている。特許文献1のインペラは、ボス部を備える基礎円部と、基礎円部から放射状に延びる羽根ベース部と、羽根ベース部に対して略直角に折曲形成されて冷却水を押す部分として機能する羽根板片と、羽根板片に対して略直角に折曲形成されて羽根ベース部に対向する羽根カバー片と、を備える。特許文献1に記載の羽根板片は、回転方向前縁が回転方向後縁よりも基礎円部の中心側寄りとなるようにして、一定の傾斜角度で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-2189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、インペラでは吐出量の増大に向けた課題が残っている。特許文献1に記載のインペラにおいて、吐出量を増大させようとする場合には、インペラの羽根板片の傾斜角度を大きくして冷却媒体に高圧を付与可能とすることが考えられる。しかしながら、特許文献1では、インペラの羽根板片の傾斜角度は一定のために、傾斜角度を大きくすると、羽根板片の周囲の冷却水の圧力差が大きくなり易く、キャビテーションが発生しやすくなるという課題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図ることができるウォーターポンプのインペラ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ウォーターポンプのインペラ構造は、冷却媒体を回転することで押し出し可能とするインペラを備えるウォーターポンプのインペラ構造において、前記インペラは冷却媒体を押圧する押圧部を備えており、前記押圧部は、前記インペラの回転中心点を中心とする基準円の接線に対して鋭角の角度を有する第1押圧部と、前記第1押圧部よりも回転方向の後側に設けられ且つ前記第1押圧部よりも前記接線に対して大きな角度を有する第2押圧部と、で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
第1押圧部よりも角度の大きな第2押圧部を設けることで、押圧部による冷却媒体への押圧力を高めることができ、押圧部が角度の大きな第2押圧部のみの場合に比べて、キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両の側面図である。
図2】本実施の形態のエンジンの側面図である。
図3図2に示すIV-IV線断面図である。
図4】本実施の形態のインペラの斜視図である。
図5】本実施の形態のインペラの側面図である。
図6図5の矢印VI方向に見た図に対応し本実施の形態のインペラの回転軸の軸線視を示す図である。
図7図6の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0009】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両10の側面図である。
鞍乗り型車両10は、車体フレーム11と、車体フレーム11に支持されるパワーユニット12と、前輪13を操舵自在に支持するフロントフォーク14と、後輪15を支持するスイングアーム16と、乗員用のシート17とを備える車両である。
鞍乗り型車両10は、乗員がシート17に跨るようにして着座する車両である。シート17は、車体フレーム11の後部の上方に設けられる。
【0010】
車体フレーム11は、車体フレーム11の前端部に設けられるヘッドパイプ18と、ヘッドパイプ18の後方に位置するフロントフレーム19と、フロントフレーム19の後方に位置するリアフレーム20とを備える。フロントフレーム19の前端部は、ヘッドパイプ18に接続される。
シート17は、リアフレーム20に支持される。
【0011】
フロントフォーク14は、ヘッドパイプ18によって左右に操舵自在に支持される。前輪13は、フロントフォーク14の下端部に設けられる車軸13aに支持される。乗員が把持する操舵用のハンドル21は、フロントフォーク14の上端部に取り付けられる。
【0012】
スイングアーム16は、車体フレーム11に支持されるピボット軸22に支持される。ピボット軸22は、車幅方向に水平に延びる軸である。スイングアーム16の前端部には、ピボット軸22が挿通される。スイングアーム16は、ピボット軸22を中心に上下に揺動する。
後輪15は、スイングアーム16の後端部に設けられる車軸15aに支持される。
【0013】
パワーユニット12は、前輪13と後輪15との間に配置され、車体フレーム11に支持される。
パワーユニット12は、内燃機関である。パワーユニット12は、クランクケース23と、往復運動するピストンを収容するシリンダー部24とを備える。シリンダー部24の排気ポートには、排気装置25が接続される。
パワーユニット12の出力は、パワーユニット12と後輪15とを接続する駆動力伝達部材によって後輪15に伝達される。
【0014】
また、鞍乗り型車両10は、前輪13を上方から覆うフロントフェンダー26と、後輪15を上方から覆うリアフェンダー27と、乗員が足を載せるステップ28と、パワーユニット12が使用する燃料を蓄える燃料タンク29とを備える。
フロントフェンダー26は、フロントフォーク14に取り付けられる。リアフェンダー27及びステップ28は、シート17よりも下方に設けられる。燃料タンク29は、車体フレーム11に支持される。
【0015】
図2は、本実施の形態のエンジン12の側面図である。図2では、ウォーターポンプ50の周辺を断面を示している。
本実施の形態のパワーユニット12は、並列2気筒の4ストローク水冷式エンジンである。以下、本実施の形態のパワーユニットとしてのエンジン12について説明する。
エンジン12は、クランクケース23およびシリンダー部24を備える。シリンダー部24は、クランクケース23側から順に、シリンダー31、シリンダーヘッド32、及び、シリンダーヘッドカバー33を備える。
エンジン12は、シリンダー部24のシリンダー軸線が車両側面視でやや前傾して上方に延びるエンジンである。
【0016】
クランクケース23は、クランク軸40を上下から挟んで軸支する上側クランクケース23Aと下側クランクケース23Bとを備える。上側クランクケース23Aから斜め上方にシリンダー31が延出して、上側クランクケース23Aとシリンダー31が一体に形成されている。
【0017】
クランクケース23は、左側のクランクケースカバー(不図示)と、右側のクランクケースカバー36とにより、車幅方向(左右方向)の側部が覆われる。
右側のクランクケースカバー36の前部には、ウォーターポンプ50が設けられている。ウォーターポンプ50は、回転して冷却水(冷却媒体)を押圧するインペラ70を備える。インペラ70は回転軸(回転中心線)L1を有する。インペラ70は、図2に示す側面視では、回転軸L1が通過する回転中心点Oを中心に回転する。インペラ70は、ポンプ室51に配置される。ポンプ室51は、インペラ70が配置され渦巻き状に拡径する送出室51Aと、送出室51Aの右側(回転軸L1の軸方向一端側)に連通する吸入室51Bと、を備える。送出室51Aの前端には、送出室51Aを形成する仕切壁52が形成されている。仕切壁52の前方には、上方に延びる吐出路53が形成されている。吐出路53は、上流側でポンプ室51の送出室51Aに連通し、下流側でシリンダー31に設けられたウォータジャケットに連通する。
【0018】
ポンプ室51の吸入室51Bには、前上方に延びる吸入接続管54が接続されている。吸入接続管54には、ラジエータ流出ホース56が接続される。ラジエータ流出ホース56は、ラジエータ55(図1参照)に接続される。なお、図1では、ウォーターポンプ50の配置部分は、カバー37で覆われている。
【0019】
ポンプ室51の吸入室51Bには、吸入接続管54よりも後方で、吸入室51Bから斜め後上方に延びるバイパス通路孔57が連通している。バイパス通路孔57は、クランクケースカバー36に形成されている。バイパス通路孔57には、バイパス連通ホース58が接続される。バイパス連通ホース58は、シリンダー31に設けられたバイパス用のウォータジャケット(不図示)に接続される。
【0020】
ウォーターポンプ50において吸入接続管54またはバイパス通路孔57から吸入室51Bに吸入された冷却水は、インペラ70により吐出路53に押し出され、吐出路53の吐出口53Aから、シリンダー31に設けられたウォータジャケット(不図示)に流入する。ウォータジャケットは下流側では、ラジエータ55側に流出する流出路と、バイパス連通ホース58に流出するバイパス流路とに分岐し、その分岐部には、サーモスタット弁(不図示)が設けられている。
【0021】
エンジン12の始動時の暖機運転中は、ウォーターポンプ50から吐出された冷却水は、吐出路53からウォータジャケットを流入すると、サーモスタット弁により、バイパス流路、バイパス連通ホース58、バイパス通路孔57の順に流れて、ウォーターポンプ50に戻る。
【0022】
また、エンジン12の暖機運転により冷却水の温度が上昇すると、ウォーターポンプ50から吐出した冷却水は、吐出路53からウォータジャケットに流れると、サーモスタット弁により、ラジエータ55側に流出する流出路、ラジエータ55、ラジエータ流出ホース56の順に流れて、ウォーターポンプ50に戻る。
このようにして、冷却水は、ウォーターポンプ50により、エンジン12やラジエータ55などを循環する。
【0023】
図3は、図2に示すIII-III線断面図である。
クランクケース23は、クランク軸40が収容されるクランク室23Cを有する。クランク室23Cの後方には変速機構(不図示)が収容される変速室(不図示)が形成されている。
【0024】
クランク軸40は、車幅方向に延びて、クランクケース23に回転可能に支持される。クランク軸40には、ピストン(不図示)がコンロッド(不図示)を介して連結される。このピストンは、シリンダー部24(図2参照)内を摺動可能に収容されている。
クランク軸40の左端部(軸方向他端部)には、発電機(不図示)を構成するロータ(不図示)が固定されている。ロータは、クランクケース23の外方に配置され、発電機カバー(不図示)で覆われている。そのロータとクランクケース23との間には、駆動歯車41が配置されている。駆動歯車41は、クランク軸40に固定されている。駆動歯車41は、被動歯車42と噛み合っている。被動歯車42は、バランサ軸43の左端部に固定されている。
【0025】
バランサ軸43は、クランクケース23に回転可能に支持される。バランサ軸43は、回転軸L2を有する。バランサ軸43は、クランク軸40と平行に配置される。バランサ軸43の右端部(軸方向一端部)には、バランサウエイト44が嵌合している。バランサウエイト44は、クランクケース23の外方に配置される。バランサウエイト44には、ウォーターポンプ50との接触を回避する逃げ凹部44Aが形成されている。
【0026】
バランサ軸43の右端側には、ウォーターポンプ50が設けられる。ウォーターポンプ50は、ポンプケース60を有する。ポンプケース60は、右側のクランクケースカバー36と、クランクケースカバー36の内面(左面)に締結されるポンプベースケース61と、により構成される。ポンプベースケース61は、複数のボルト62でクランクケースカバー36に締結される。ポンプベースケース61とクランクケースカバー36の間には、無端状のシール部材63が設けられている。
【0027】
ポンプベースケース61には、左方に突出する円筒状の軸支持部61Aが形成されている。軸支持部61Aには、ポンプ軸64が回転可能に支持される。ポンプ軸64は、軸方向に並ぶ一対のボールベアリング65、65を介して軸支持部61Aに回転可能に支持される。ポンプ軸64の外周面と軸支持部61Aの内周面との間には、ボールベアリング65、65の右側に、環状のシール部材66が設けられる。また、ポンプ軸64の外周面と軸支持部61Aの内周面との間には、シール部材66の右側に、メカニカルシール67が設けられている。ポンプ軸64は、回転中心としての回転軸L1を有する。ポンプ軸64は、回転軸L1が、バランサ軸43の回転軸L2と同軸となるように配置される。ポンプ軸64の右端(軸方向一端)には、インペラ70が固定される。インペラ70は、ポンプ室51に配置される。
【0028】
バランサ軸43の右端部には凸部43Aが設けられる。ポンプ軸64の他端部には、バランサ軸の凸部43Aが係合する凹部64Aが設けられる。バランサ軸43の凸部43Aとポンプ軸64の凹部64Aが係合することにより、バランサ軸43と一体となってポンプ軸64が回転する。なお、本実施の形態の凸部43Aと凹部64Aの構成に代えて、ポンプ軸64の他端部に凸部が設けられ、バランサ軸43には、ポンプ軸64の凸部に係合する凹部が設けられてもよい。
【0029】
クランクケースカバー36とポンプベースケース61の合わせ面間の互いの溝形状などにより、ポンプ室51や、吐出路53が形成される。また、ポンプベースケース61には、クランクケース23側に向けて突出する管状の吐出口53Aが形成されている。
【0030】
エンジン12が駆動すると、クランク軸40が回転し、クランク軸40からの動力が駆動歯車41、被動歯車42を介してバランサ軸43に伝達される。すなわち、エンジン12が駆動すると、バランサ軸43が回転し、バランサ軸43と共に、ポンプ軸64とインペラ70とが一体的に回転する。ポンプケース60内でインペラ70が回転することにより、冷却水が冷却経路を循環する。
ポンプケース60、ポンプ軸64、ボールベアリング65、65、シール部材66、メカニカルシール67、インペラ70などにより、本実施の形態のウォーターポンプ50が構成される。
【0031】
図4は、本実施の形態のインペラ70の斜視図である。図5は、本実施の形態のインペラ70の側面図である。図6は、図5の矢印VI方向に見た図であり、本実施の形態のインペラ70の回転軸L1の軸線視を示す図である。
本実施の形態のインペラ70は、一枚の金属板から形成される。インペラ70は、一枚のベースとなる金属板をプレス加工して得られるプレス成形品である。インペラ70は、プレス成形インペラである。
【0032】
インペラ70には、回転方向R(図6参照)が設定されている。インペラ70は、回転方向Rに回転することで冷却水を押し出し可能とするように構成される。インペラ70は、ポンプ軸64に支持されてポンプ軸64と一体に回転する。インペラ70の回転軸L1はポンプ軸64の回転軸L1が対応する。
【0033】
インペラ70は、ポンプ軸64が接続される円形状の軸部71と、軸部71の外周側に設けられた複数の羽根部74とを備える。
軸部71は、回転軸L1の軸方向一端側に多段状に膨出する形状であり、回転軸L1の軸方向他端側となる内面側は多段状に凹んでいる。軸部71は、大径部72と、大径部72と同軸で大径部72よりも小径の小径部73とを備える。小径部73は、大径部72に対して軸方向一端側に突出している。小径部73の内径は、ポンプ軸64の外径よりも小さく形成されており、小径部73には、ポンプ軸64が圧入される(図3参照)。また、大径部72の内径は、メカニカルシール67の回転部の外径よりも小さく形成されており、大径部72には、メカニカルシール67の回転部が圧入される(図3参照)。
【0034】
羽根部74は、軸部71の外周側に周方向に等間隔に設けられる。インペラ70は、回転中心点Oについての回転対称形状である。特に、本実施の形態では、羽根部74は偶数個、設けられている。羽根部74が偶数個であり等間隔に設けられるため、インペラ70は、回転中心点に対して点対称である。よって、ある羽根部74に対して、回転中心点Oの反対側に対をなす羽根部74が存在する。
これらにより、インペラ70が回転して冷却水を押圧する際に、インペラ70にかかる応力をインペラ70全体で均一化し易くできる。
【0035】
羽根部74は、軸部71の大径部72から、大径部72の接線方向に延伸する板状の延伸部75と、延伸部75に対して軸方向一端側に屈曲した形状の押圧部76(図5参照)と、を備える。
延伸部75は、ベースとなる金属板形状に沿った部分である。延伸部75は、軸線視(図6参照)では、接線方向で回転方向Rの下流側に延びる帯板状である。延伸部75は、大径部72の基端部(軸方向他端部)から延びている(図5参照)。延伸部75は、回転方向前辺75Aと、回転方向後辺75Bと、を備える。回転方向前辺75Aは回転方向後辺75Bよりも短く形成されている。
【0036】
回転方向Rで隣接する二つの延伸部75において、回転方向Rで先行する延伸部75の回転方向後辺75Bと、回転方向Rで後行する延伸部75の回転方向前辺75Aと、の付け根部分には、弧状に切り欠かれた切り欠き75Cが形成されている。切り欠き75Cにより、羽根部74が冷却水を押圧する際に、羽根部74の付け根、すなわち、延伸部75の付け根に作用する応力集中を抑制できる。
【0037】
延伸部75の先端の押圧部76は、ベースとなる金属板を直角に曲げた部分である。押圧部76は、回転軸L1に沿った板状である。押圧部76は、軸線視(図6参照)において、回転方向前端(入口端)77Aが、回転方向後端(出口端)79Bよりも、回転軸L1に近くなるように傾斜している。
【0038】
押圧部76は、インペラ70が回転した場合に、冷却水を押圧する。押圧部76は、図6に示すように、厚み方向に一対の面を備えており、冷却水を押圧する高圧面76Aと、高圧面76Aと厚み方向で反対側の低圧面76Bと、を備える。高圧面76Aと低圧面76Bとは、それぞれ、回転方向前端77Aから回転方向後端79Bまで延びている。
【0039】
押圧部76は、延伸部75の幅よりも回転方向Rに大きく形成されている。押圧部76は、延伸部75の回転方向後辺75Bよりも、回転方向後端79Bが回転方向Rで後側に突出している。
また、押圧部76は、図5に示すように、回転軸L1の軸方向の突出量においては、軸部71の大径部72よりも大きく、軸部71の小径部73よりも小さく形成されている。
【0040】
本実施の形態の押圧部76は、延伸部75に接続された平板状の第1押圧部77と、第1押圧部77の回転方向後端77Bに対して高圧面76A側に曲がる曲部78と、曲部78の回転方向後端から延びる平板状の第2押圧部79と、を備える。第1押圧部77と、曲部78と、第2押圧部79とは、ベースとなる金属板においては、押圧部76の部分が曲げられた部分である。押圧部76の部分が曲げられて、第1押圧部77と、曲部78と、第2押圧部79と、が形成される。第2押圧部79は、延伸部75の回転方向後辺75Bよりも回転方向Rで後側に突出した押圧部76の部分に形成される。
【0041】
インペラ70が回転する場合に、各押圧部76においては、第1押圧部76が冷却媒体の相対的な流れ方向で上流側となり、第2押圧部79が下流側となる。
第2押圧部79の軸方向一端部には、回転方向前端79Aから回転方向後端79Bに進むに連れて軸方向他端部に傾斜した傾斜部79Cが形成されている。傾斜部79Cは、軸方向においては、軸部71の大径部72より軸方向一端側で、軸部71の小径部73の先端(軸方向一端)よりも軸方向他端側に形成されている(図5参照)。
【0042】
図7は、図6の要部拡大図である。
ここで、インペラ70の軸線視(図6参照)において、インペラ70の回転中心点Oを中心とする仮想的な円であって、第1押圧部77の回転方向前端(入口端)77Aを通過する第1基準円(基準円)C1を想定する。本実施の形態では、押圧部76の低圧面76Bの回転方向前端77Aを通過する場合を第1基準円C1とする。この場合、第1基準円C1に関して、押圧部76の回転方向前端77Aを通過する第1接線(接線)T1を想定することが可能となる。
【0043】
このとき、第1押圧部77は、軸線視において、第1接線T1に対して鋭角の角度θ1を有する。具体的には、押圧部76の低圧面76Bにおいて、第1押圧部77の回転方向前端77Aと回転方向後端77Bとを結ぶ直線L77が第1接線T1と成す角度のうち、第1直線L77から第1接線T1に向けて回転方向Rとは逆側に回転する場合の角度θ1が鋭角となるように、第1押圧部77が形成されている。よって、回転方向Rにインペラ70が回転する場合に、第1押圧部77により冷却水を押圧して径方向外側に移動させることができる。
【0044】
また、第2押圧部79は、軸線視において、第1押圧部77よりも第1接線T1に対して大きな角度θ2を有する。具体的には、押圧部76の低圧面76Bにおいて、第2押圧部79の回転方向前端79Aと回転方向後端79Bとを結ぶ第2直線L79が第1接線T1と成す角度のうち、第2直線L79から第1接線T1に向けて回転方向Rとは逆側に回転する場合の角度θ2が、第1押圧部77の角度θ1よりも大きくなるように、第2押圧部79が形成されている。
したがって、インペラ70が回転する場合に、冷却水が緩い傾斜の第1押圧部77で押された後に、急な傾斜の第2押圧部79で押され易くなっている。
【0045】
特に、本実施の形態では、軸線視において、第2押圧部79と第1接線T1とが成す角度θ2が、曲部78と回転中心点Oとを結んだ径方向直線(直線)L78と、第1接線T1とが成す角度θ3以下である。具体的には、押圧部76の低圧面76Bにおいて、曲部78の中間点、すなわち、第1押圧部77の回転方向後端77Bと第2押圧部79の回転方向前端79Aとの中間点Pと、回転中心点Oとを結んだ直線である径方向直線L78が第1接線T1と成す角度のうち、径方向直線L78から第1接線T1に向けて回転方向Rとは逆側に回転する場合の角度を角度θ3とする。このとき、第2押圧部79の角度θ2が、その角度θ3以下となるように、第2押圧部79が形成されている。
【0046】
換言すれば、図7に示す状態から、第2押圧部79の第2直線L79が径方向直線L78に平行、あるいは、それ以上に角度θ2が大きくならないことである。つまり、軸線視(図6参照)において、インペラ70の回転中心点Oを中心とする仮想的な円であって、中間点Pを通過する第2基準円(第2の基準円)C2を想定し、第2基準円C2において、中間点Pを通過する第2接線T2を想定する。このとき、第2直線L79が第2接線T2と成す角度のうち、第2直線L79から第2接線T2に向けて回転方向Rとは逆側に回転する場合に成す角度θ4が、90度以下となるように第2押圧部79が形成されている。
したがって、第1押圧部77と第2押圧部79とを有する押圧部76の角度を抑えることで押圧部76が発生させる圧力差を抑制し、キャビテーションの発生を抑制できる。
【0047】
また、回転中心点Oに対して対称となる位置に設けられた第2押圧部79は径方向直線L78上で重なる(図6参照)。したがって、インペラ70にかかる応力をより均一化し易くできる。
【0048】
一般に、冷却水を押す押圧部をインペラの径方向に沿わせて急傾斜させることで、高圧面側の押圧力が高くなり吐出量は増大し易くなるが、この場合、押圧部の低圧面側では流速の低速領域が拡大し易くなる。このため、押圧部の周囲で冷却水の圧力差が増大しキャビテーションが生じ易くなる。これに対して、本実施の形態の押圧部76では、第1押圧部77と第2押圧部79とを備えるため、段階的に冷却水に圧力が付与されて圧力差が低減され易く、キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図り易くなっている。
【0049】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、冷却水を回転することで押し出し可能とするインペラ70を備えるウォーターポンプのインペラ構造において、インペラ70は冷却水を押圧する押圧部76を備えており、押圧部76は、インペラ70の回転中心点Oを中心とする第1基準円C1の第1接線T1に対して鋭角の角度θ1を有する第1押圧部77と、第1押圧部77よりも回転方向Rの後側に設けられ且つ第1押圧部77よりも第1接線T1に対して大きな角度θ2を有する第2押圧部79とで形成されている。したがって、第1押圧部77よりも角度の大きな第2押圧部79を設けることで、押圧部76による冷却水への押圧力を高めることができ、押圧部76が、角度の大きな第2押圧部79のみの場合に比べて、キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図ることができる。
【0050】
本実施の形態では、第1押圧部77と第2押圧部79との間には、第1接線T1に対する角度が変化する曲部78が設けられており、第2押圧部79と第1接線T1とが形成する角度θ2が、曲部78と回転中心点Oを結んだ径方向直線L78と、第1接線T1とが形成する角度θ3以下である。したがって、押圧部76の角度を抑えることで押圧部76が発生させる圧力差を抑制し、キャビテーションの発生を抑制できる。
【0051】
また、本実施の形態では、押圧部76を形成する延伸部75の付け根には切り欠き75Cが設けられている。したがって、延伸部75の付け根の応力集中を抑制することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、押圧部76は、延伸部75に対して直角に曲がっている。したがって、一枚のベースとなる金属板をプレス加工して延伸部75や押圧部76などを形成することができ、プレス成形でインペラ70を形成することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、押圧部76は偶数個設けられており、回転中心点Oに対して対称となる位置に押圧部76が配置されている。したがって、インペラ70にかかる応力を均一化し易くできる。
【0054】
また、本実施の形態では、回転中心点Oに対して対称となる位置に設けられた第2押圧部79は直線L78上で重なる。したがって、インペラ70にかかる応力を、より均一化し易くできる。
【0055】
[他の実施の形態]
上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
【0056】
上記実施の形態では、羽根部74が偶数個、設けられる構成を説明したが、羽根部74が奇数個、設けられる構成でもよい。
【0057】
上記実施の形態では、第1基準円C1や、第1直線L77、中間点P、第2直線L79などは、押圧部76の低圧面76Bにおいて定義されたが、第1基準円C1や、第1直線L77、中間点P、第2直線L79などは、押圧部76の高圧面76Bで定義してもよい。また、第1基準円C1や、第1直線L77、中間点P、第2直線L79などを、押圧部76の厚み方向の中心線上で定義してもよい。
【0058】
上記実施の形態では、鞍乗り型車両10として前輪13と後輪15とを有する自動二輪車を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、前輪または後輪を2つ備えた3輪の鞍乗り型車両や4輪以上を備えた鞍乗り型車両に適用可能である。
【0059】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0060】
(構成1)冷却媒体を回転することで押し出し可能とするインペラを備えるウォーターポンプのインペラ構造において、前記インペラは冷却媒体を押圧する押圧部を備えており、前記押圧部は、前記インペラの回転中心点を中心とする基準円の接線に対して鋭角の角度を有する第1押圧部と、前記第1押圧部よりも回転方向の後側に設けられ且つ前記第1押圧部よりも前記接線に対して大きな角度を有する第2押圧部と、で形成されていることを特徴とするウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、第1押圧部よりも角度の大きな第2押圧部を設けることで、押圧部による冷却媒体への押圧力を高めることができ、押圧部が角度の大きな第2押圧部のみの場合に比べて、キャビテーションの発生を抑制しながら吐出量の増大を図ることができる。
【0061】
(構成2)前記第1押圧部と前記第2押圧部との間には、前記接線に対する角度が変化する曲部が設けられており、前記第2押圧部と前記接線とが形成する角度が、前記曲部と前記回転中心点を結んだ直線と、前記接線とが形成する角度以下であることを特徴とする構成1に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、押圧部の角度を抑えることで押圧部が発生させる圧力差を抑制し、キャビテーションの発生を抑制できる。
【0062】
(構成3)前記押圧部を形成する延伸部の付け根には切り欠きが設けられていることを特徴とする構成2に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、延伸部の付け根の応力集中を抑制することができる。
【0063】
(構成4)前記押圧部は、前記延伸部に対して直角に曲がっていることを特徴とする構成3に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、プレス成形でインペラを形成することができる。
【0064】
(構成5)前記押圧部は偶数個設けられており、前記回転中心点に対して対称となる位置に前記押圧部が配置されていることを特徴とする構成2乃至4のいずれかに記載のウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、インペラにかかる応力を均一化し易くできる。
【0065】
(構成6)前記回転中心点に対して対称となる位置に設けられた前記第2押圧部は前記直線上で重なることを特徴とする構成5に記載のウォーターポンプのインペラ構造。
この構成によれば、インペラにかかる応力を、より均一化し易くできる。
【符号の説明】
【0066】
70 インペラ
75 延伸部
75C 切り欠き
76 押圧部
77 第1押圧部
78 曲部
79 第2押圧部
C1 第1基準円(基準円)
T1 第1接線(接線)
L78 径方向直線(直線)
O 回転中心点
R 回転方向
θ1 角度
θ2 角度
θ3 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7