(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155738
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】粘着性ガラス組成物および粘着転写ガラスシート
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C03C8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059109
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】住田 健一
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 一将
(72)【発明者】
【氏名】小出 剛士
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB01
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4G062NN33
4G062NN40
4G062PP13
4G062PP15
(57)【要約】
【課題】曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対して、均質な厚みの接合部を簡便かつ安定的に形成することができる粘着性ガラス組成物を提供すること。
【解決手段】ここで開示される粘着性ガラス組成物は、焼成により一の無機部材と一の他部材とを接合する組成物であって、少なくともガラスフリットとアクリル系樹脂と溶媒とを含む。前記ガラスフリットの質量Waに対する前記アクリル系樹脂の質量Wbの質量比(Wb/Wa)が、0.2以上0.7以下である。前記アクリル系樹脂は、モノマー成分として少なくとも第1モノマーと第2モノマーとを含み、前記第1モノマーはガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステルであり、前記第2モノマーはガラス転移温度が10℃以上の(メタ)アクリル酸エステルであり、ここで、前記第1モノマーに対する前記第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)が、0.1以上0.4以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成により一の無機部材と一の他部材とを接合する粘着性ガラス組成物であって、
少なくともガラスフリットと、アクリル系樹脂と、溶媒と、を含み、
前記ガラスフリットの質量Waに対する前記アクリル系樹脂の質量Wbの比(Wb/Wa)が、0.2以上0.7以下であって、
前記アクリル系樹脂は、モノマー成分として少なくとも第1モノマーと第2モノマーとを含み、
前記第1モノマーはガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステルであり、
前記第2モノマーはガラス転移温度が10℃以上の(メタ)アクリル酸エステルであり、
ここで、前記第1モノマーに対する前記第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)が、0.1以上0.4以下である粘着性ガラス組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂は、組成物全体を100質量%としたときに、15質量%以上35質量%以下の割合で含まれている、請求項1に記載の粘着性ガラス組成物。
【請求項3】
前記ガラスフリットは、組成物全体を100質量%としたときに、少なくとも50質量%以上含む、請求項1または2に記載の粘着性ガラス組成物。
【請求項4】
前記ガラスフリットのガラス転移温度は、大気雰囲気下における加熱処理後の前記アクリル系樹脂の重量減少率が90%以上となる温度よりも、少なくとも50℃以上高い温度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着性ガラス組成物。
【請求項5】
前記ガラスフリットのガラス転移温度が650℃以上である、請求項4に記載の粘着性ガラス組成物。
【請求項6】
前記ガラスフリットは、酸化物換算の質量%で、
BaO :25~50質量%、
MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種:1~10質量%、
SiO2 :35~60質量%、
Al2O3:5~15質量%、
であり、これら成分の合計が該ガラスフリット全体の95質量%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着性ガラス組成物。
【請求項7】
焼成により一の無機部材と一の他部材とを接合する粘着転写ガラスシートであって、
前記粘着転写ガラスシートは、剥離基材と、該剥離基材の上に配置される粘着性ガラス層と、を備え、
前記粘着性ガラス層は、請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着性ガラス組成物の乾燥物から構成されている、粘着転写ガラスシート。
【請求項8】
45°引きはがし粘着力が、0.5N/24mm以上である、請求項7に記載の粘着転写ガラスシート。
【請求項9】
前記粘着性ガラス層の厚みが、10μm以上500μm以下である、請求項7または8に記載の粘着転写ガラスシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性ガラス組成物および粘着転写ガラスシートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナやジルコニア等のセラミック材料を主成分とするセラミック部材や、ステンレス鋼等の金属材料を主成分とする金属部材などの無機部材は、種々の分野において広く使用されている。かかる無機部材の接合には、用途や接合条件等に応じて様々な接合材が用いられている。例えば、特許文献1および2に挙げられるようなガラス組成物(接合材)が用いられている。
【0003】
かかるガラス接合材は、主成分としてガラスフリットを含んでおり、所定の温度の焼成処理で融着固化させることによって接合部を形成する。ガラス接合材は、典型的にはパウダー状のガラス粉体(ガラスフリット)や、該ガラス粉体とバインダや有機溶媒等の有機材料とを混合してペースト状の組成物等の形態で用いられており、被接合部材の形状に応じて適宜選択されている。近年では、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材を接合することにも、ガラス接合材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-20927号公報
【特許文献2】特開2017-141124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果によれば、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対して、従来のペースト状のガラス組成物をディップコーティング等の方法で塗布した場合には、塗布されたガラス組成物の厚みが薄くなる傾向にあり、焼成後に十分な接合性が確保することができないことを見出した。また、被接合部材が複雑な形状を有しているため、焼成後の接合部を均質な厚みとするように塗布することが困難であった。また、ガラス粉体をロール成型によって成膜した塗膜では、塗膜の形状維持性が低いため、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対して貼り付ける際に、塗膜が破れる等して密着させることができないことを見出した。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対して、均質な厚みの接合部を簡便かつ安定的に形成することができる粘着性ガラス組成物を提供することにある。他の目的は、該組成物から構成される粘着転写ガラスシートを提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここに開示される粘着性ガラス組成物が提供される。ここに開示される粘着性ガラス組成物は、焼成により一の無機部材と一の他部材とを接合する粘着性ガラス組成物であって、少なくともガラスフリットと、アクリル系樹脂と、溶媒と、を含む。前記ガラスフリットの質量Waに対する前記アクリル系樹脂の質量Wbの比(Wb/Wa)が、0.2以上0.7以下である。前記アクリル系樹脂は、モノマー成分として少なくとも第1モノマーと第2モノマーとを含み、前記第1モノマーは、ガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステルであり、前記第2モノマーは、ガラス転移温度が10℃以上の(メタ)アクリル酸エステルである。ここで、前記第1モノマーに対する前記第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)が、0.1以上0.4以下である。
【0008】
上記粘着性ガラス組成物は、焼成によって融着固化して被接合部材同士を接着させるガラスフリットと、粘着性を好適に発現し得るアクリル系樹脂とをかかる質量比で含む。これにより、被接合部材に塗布された際には一定の粘着力が確保され、焼成時にはアクリル系樹脂が消失しガラスフリットが溶融されることで、焼成後に所望する位置に接合部を形成することができる。また、第1モノマーによる粘着性の発現と第2モノマーによる形状維持性の発現が好適に調整された粘着性ガラス組成物を提供することができる。かかる構成によれば、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材であっても、均質な厚みの接合部を形成することができる。
なお、本明細書において「ガラス転移温度(Tg)」とは、一般的な示差走査熱量分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)によって測定した値をいう。また、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステルとは、該(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体(ホモポリマー)のTgが0℃以下であることを意味する。ホモポリマーのTgは、各種文献値や製品データシート等の値を参考にするとよい。
【0009】
前記アクリル系樹脂は、組成物全体を100質量%としたときに、15質量%以上35質量%以下の割合で含まれている。
かかる構成によれば、アクリル系樹脂の上述した特性をより好適に発揮させることができる。
【0010】
ここに開示される粘着性ガラス組成物の好適な一態様では、ガラスフリットは、組成物全体を100質量%としたときに、少なくとも50質量%以上含む。
かかる構成によれば、焼成後の被接合部材間に気密性が高い接合部を形成することができる。これにより、焼成により一の無機部材と一の他部材とが好適に接合される。
【0011】
ここに開示される粘着性ガラス組成物の好適な一態様では、前記ガラスフリットのガラス転移温度は、前記アクリル系樹脂が大気雰囲気下における加熱処理後の重量減少率が90%以上となる温度よりも、少なくとも50℃以上高い温度である。また、別の好ましい一態様においては、前記ガラスフリットのガラス転移温度が650℃以上である。
かかる構成によれば、アクリル系樹脂が十分に除去されてから、ガラスフリットが溶融する。これにより、アクリル系樹脂が十分に除去される前に、ガラスフリットが溶融してアクリル系樹脂の除去が阻害されることが防止できるとともに、焼成後の接合部において樹脂またはその残渣(燃えかす)が残存することを抑制することができる。
なお、本明細書において「重量減少率」とは、一般的な熱重量測定(Thermogravimetry Analysis:TGA)によって確認することができる。
【0012】
ここに開示される粘着性ガラス組成物の好適な一態様では、前記ガラスフリットは、酸化物換算の質量%で、
BaO :25~50質量%、
MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種:1~10質量%、
SiO2 :35~60質量%、
Al2O3:5~15質量%、
であり、これら成分の合計が該ガラスフリット全体の95質量%以上である。
かかる構成によれば、高温域(例えば650℃以上)において、適当な熱膨張係数を有し、気密性に優れる接合部を形成することができる。
【0013】
上記他の目的を実現するべく、ここに開示される粘着転写ガラスシートが提供される。ここに開示される粘着転写ガラスシートは、焼成により一の無機部材と一の他部材とを接合する粘着転写ガラスシートである。前記粘着転写ガラスシートは、剥離基材と、該剥離基材の上に配置される粘着性ガラス層と、を備え、前記粘着性ガラス層は、上記に記載の粘着性ガラス組成物の乾燥物から構成されている。
かかる構成によれば、粘着性ガラス層は、焼成前の室温(例えば、20℃±15℃程度)付近の温度域において一時的に被接合部材を固定する性質と、焼成された後に被接合部材間に気密性に優れた接合部を形成する性質と、を併せ持っている。これにより、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材であっても、簡便にかつ安定的に均質な厚みの接合部を形成することができる。
【0014】
ここに開示される粘着転写ガラスシートの好適な一態様では、45°引きはがし粘着力が、0.5N/24mm以上である。
かかる構成によれば、室温において、被接合部材に密着し被接合部材同士を固定し得る程度の粘着力を有する。これにより、曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対して、均質な厚みの接合部を好適に形成することができる。
【0015】
ここに開示される粘着転写ガラスシートの好適な一態様では、前記粘着性ガラス層の厚みが、10μm以上500μm以下である。
かかる構成によれば、被接合部材同士の接合強度が一定以上の強度を保ち、粘着性ガラス層自体の形状維持性が確保された粘着転写ガラスシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る粘着転写ガラスシートの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0018】
ここに開示される粘着性ガラス組成物は、必須の構成成分としてガラスフリットと、アクリル系樹脂と、溶媒と、を含んでいる。粘着性ガラス組成物は、室温(例えば、20℃±15℃程度)においてペースト状の組成物である。本明細書において「ペースト状」とは、液状、スラリー状、サスペンション、粘流動体等の意味を包含する用語である。
また、粘着転写ガラスシートは、上記粘着性ガラス組成物を乾燥することで構成される。典型的には、室温において粘着転写ガラスシートを2つ以上の被接合部材の間に貼り付けて、焼成により粘着転写ガラスシートに含まれるガラスフリットが融着固化されて、被接合部材同士を接合することができる。
なお、本明細書においては、上記粘着性ガラス組成物および粘着転写ガラスシートを供給する対象のことを「被接合部材」という。
【0019】
<ガラスフリット>
ガラスフリットは、例えば焼成処理によって融着固化して被接合部材同士を接着させる接着成分である。本明細書において「ガラスフリット」とは、通常の非晶質ガラスの他、結晶相を有する結晶化ガラスをも包含する用語である。
ガラスフリットとしては、焼成処理を行ったときに被接合部材間に接合部を形成することができるガラスフリットであれば特に限定されず、従来この種のガラス接合材に一般的に使用されるものを用いることができる。
【0020】
好適な一態様では、ガラスフリットのガラス転移温度は、後述するアクリル系樹脂が、大気雰囲気下における加熱処理後の重量減少率が90%以上となる温度よりも、少なくとも50℃程度(例えば、50℃~200℃程度)高い温度に設定されることが求められる。すなわち、アクリル系樹脂の重量減少率が、典型的には90%以上、例えば95%以上、さらには99%以上(あえて言えば100%)となる温度を超えてからガラスフリットが溶融するように設定されている。かかる構成によれば、ガラスフリットが溶融してアクリル系樹脂の除去が阻害されることが防止できるとともに、焼成後の接合部において樹脂またはその残渣(燃えかす)が残存することを抑制することができる。
好適な一態様ではガラスフリットのガラス転移温度は、例えば650℃以上(典型的には700℃以上、例えば750℃以上)であって、1000℃以下(典型的には950℃以下、例えば900℃以下)であってよい。
【0021】
好適な一態様では、ガラスフリットを構成する組成は、酸化物換算の質量%で、
BaO :25~50質量%
MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種:1~10質量%
SiO2 :35~60質量%
Al2O3:5~15質量%
であり、それらの成分の合計が、該ガラスフリット全体の95質量%以上である。
このような組成とすることで、例えば650℃以上という比較的高温域において被接合部材となり得る金属部材やセラミック部材に近似する適当な熱膨張係数を有し、気密性の高い接合部を形成することができ得る。また、ガラスフリットは多成分系で構成され物理的安定性や耐熱性を向上させることができ得る。
【0022】
バリウム成分(典型的にはBaO)は、ガラスフリットの熱膨張係数を調整し、ガラスフリットの熱的安定性を向上させることができる成分である。ガラスフリット全体に占めるBaOの割合は、特に限定されないが、概ね25質量%以上(例えば30質量%以上)であって、50質量%以下(例えば45質量%以下)とするとよい。これにより、ガラスフリットの熱膨張係数を好適な範囲に調整することができる。さらには、好適な量のバリウムシリケート結晶(Ba4Si6O16)をガラス中に析出させることができ、より高い高温耐久性を実現することができる。
【0023】
アルカリ土類金属成分(RO:具体的には、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)および酸化ストロンチウム(SrO)のうちの少なくとも1種)は、熱膨張係数の増大に寄与する成分であり、網目修飾酸化物(ネットワークモディファイア)として機能する。また、ガラスフリット全体の物理的安定性や熱的安定性を向上し得る成分でもある。一般に、RO成分の割合が高いほど、ガラス転移点を下げる傾向にある。ガラスフリット全体に占めるROの割合は、特に限定されないが、概ね1質量%以上(例えば2質量%以上)であって、10質量%以下(例えば8質量%以下)であるとよい。ROの割合を上述した範囲内とすることで、ガラス転移点が低くなりすぎることを抑制することができる。
なかでもカルシウム成分(典型的にはCaO)は、化学的耐久性や耐摩耗性を向上し得る成分である。このため、好適な一態様では、アルカリ土類金属成分として少なくとも酸化カルシウム(CaO)を含んでいる。ガラスフリット全体に占めるCaOの割合は、概ね1質量%以上(例えば2質量%以上)であって、10質量%以下(例えば8質量%以下)とするとよい。
【0024】
ケイ素成分(典型的にはSiO2)は、ガラスの骨格を構成する成分であり、一般にケイ素成分の割合が高いほどガラス転移点が高くなる傾向にある。また、かかるケイ素成分は、接合部の耐水性、耐薬品性、耐熱衝撃性のうちの少なくとも1つを向上することができる。ガラスフリット全体に占めるSiO2の割合は、特に限定されないが、典型的には主成分(最も大きな割合を占める成分)であって、35質量%以上(例えば40質量%以上)であって、60質量%以下(例えば55質量%以下)であるとよい。ケイ素成分の割合を上述した範囲内とすることで、ガラス転移点が高くなりすぎることを抑制して、ガラス溶融時の流動性を適切に維持確保することができる。
【0025】
アルミニウム成分(典型的にはAl2O3)は、焼成処理におけるガラス溶融時の流動性を制御して付着安定性に関与する成分である。また、接合部の耐薬品性や科学的耐久性を向上することができる。このような観点から、ガラスフリット全体に占めるアルミニウム成分の割合は、特に限定されないが、5質量%以上(例えば7質量%以上)であって、15質量%以下(例えば12質量%以下)であるとよい。これにより、被接合部材間を安定的に接合することができる。また、耐薬品性を向上させることができる。
【0026】
ここに開示される粘着性ガラス組成物のガラスフリットは、上述した4種の主要構成成分のみから構成されていてもよく、あるいは、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記以外の任意の成分を含むものであってもよい。そのような添加成分としては、酸化物の形態で、例えば、Bi2O3、ZnO、TiO2、ZrO2、V2O5、Nb2O5、FeO、Fe2O3、Fe3O4、CuO、Cu2O、SnO、SnO2、P2O5、La2O3、CeO2等が挙げられる。また、必要に応じて従来この種のガラス接合材に一般的に使用されている添加剤をも含むことができる。これら付加的な構成成分や各種添加剤の割合は、ガラスフリット全体の概ね5質量%未満(典型的には4質量%未満、例えば1質量%未満)とすることが好ましい。なお、不可避的な不純物等による微量な元素の混入が許容されることは言うまでもない。
【0027】
ガラスフリットは、所望する被接合部材(例えばセラミック部材)との間で熱膨張係数を近似させる観点で適宜選択することがより好ましい。例えば、ガラスフリットと被接合部材との熱膨張係数の差が、概ね2×10-6K-1以下、例えば1×10-6K-1以下であると好ましい。これにより、被接合部材との膨張量の差異によって接合部が破損することを抑制できる。なお、本明細書における「熱膨張係数」は、30℃から500℃における平均線熱膨張係数を指す。
【0028】
粘着性ガラス組成物全体を100質量%としたときにガラスフリットが占める割合は、接合性の観点からは、典型的には組成物全体の50質量%以上であってよく、例えば55質量%以上であってよい。粘着性ガラス組成物の主成分(最も大きな割合を占める成分)として、上述したガラスフリットを含むことにより、焼成後の被接合部材間に好適に接合部を形成することができる。また、アクリル系樹脂との含有割合を考慮すると、ガラスフリットが占める割合は、典型的には70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。かかる構成によれば、焼成前においては被接合部材と好適に粘着し得る粘着力を維持しつつ、焼成後においてはガラスフリットによる接合性を発揮する粘着性ガラス組成物を実現することができる。
【0029】
なお、このようなガラスフリットの製造方法は、従来公知のものに準じればよい。具体的には、まず、上述のような各構成成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料を用意し、これらが所望する組成となるように混合する。好適な一態様では、かかるガラス原料粉末が、酸化物換算の質量比で、BaO:25~50質量%;MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種:1~10質量%;SiO2:35~60質量%;Al2O3:5~15質量%;の組成となるように調整する。次に、このようにして得られたガラス原料粉末を乾燥した後、高温(典型的には1000~1500℃)条件下で加熱・溶融して、冷却または急冷する。得られたガラスを粉砕や篩いがけ(分級)によって適当な大きさ(粒径)に調整することでガラスフリットを用意することができる。ガラスフリットの平均粒径は、概ね0.01~50μm(例えば1~10μm)であってよい。
なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザ回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
【0030】
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂は、粘着性を付与する成分である。かかるアクリル系樹脂としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体が挙げられる。ここで、主モノマーとは、アクリル系樹脂を構成するモノマー成分の主成分(最も大きな割合を占める成分)であり、例えば60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90%質量%以上、95質量%以上であって、実質的に100質量%を占めることができる。副モノマー成分とは、アクリル系樹脂を構成するモノマー成分のうち、主モノマー成分以外のモノマー成分である。
なお、本明細書においては「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する用語である。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレートは、例えば、一般式:CH2=C(R1)COOR2;で表される(メタ)アクリル酸化合物であり得る。ここで、式中のR1は水素原子またはメチル基を示し、R2はアルキル基を示している。主モノマーとしては、上式中のR2によって示されるアルキル基の炭素原子数が1~20のアルキル(メタ)アクリレートであって、炭素原子数が1~14のアルキル(メタ)アクリレートであってよく、典型的には炭素原子数が1~10、例えば炭素原子数が1~8のアルキル(メタ)アクリレートであってよい。このようなアルキル(メタ)アクリレートは、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
副モノマーとしては、例えば、アクリル系樹脂の粘弾性等の特性を調製する目的で各種の官能基を含むモノマー成分を用いることができる。かかる官能基は、例えばカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、アミノ基、エポキシ基等であり得る。アクリル系樹脂全体に占める副モノマーの割合は、特に限定されないが、概ね20質量%以下(典型的には10質量%以下、例えば8質量%以下)であってよい。
【0033】
アクリル系樹脂は、少なくともガラス転移温度(Tg)が0℃以下のアルキル(メタ)アクリレートと、ガラス転移温度(Tg)が10℃以上のアルキル(メタ)アクリレートを、モノマー成分として含むように構成されるとよい。以下、このようなTgが0℃以下のモノマー成分を第1モノマー、Tgが10℃以上のモノマー成分を第2モノマーと称する。
【0034】
第1モノマー成分としては、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のアルキル(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む限り、特に限定されない。第1モノマー成分の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上が組み合わされていてもよい。なかでも、第1モノマーとしてTgが-20℃以下のアクリル酸エステルを含むことが好ましい。Tgが-20℃以下の第1モノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられる。より好ましくは、Tgが-30℃以下(例えば-40℃~-50℃程度)の、アクリル酸n-ブチル(nBA)、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)の少なくとも1つである。特に好ましい例としては、アクリル酸n-ブチル(nBA)が挙げられる。かかる第1モノマー成分の存在により、アクリル系樹脂が柔軟性を備え、良好な自己粘着性を備え得る。
【0035】
アクリル系樹脂を構成するために用いられるモノマー成分のうち、全モノマー成分に占める第1モノマー成分の割合は概ね70質量%以上程度(典型的には75~95質量%、例えば80~90質量%)であるとよい。第1モノマー成分の割合をかかる範囲とすることで、粘着性ガラス組成物の柔軟性を向上させて、曲面形状等を有する被接合部材への粘着性を高めることができる。
【0036】
第2モノマーは、ガラス転移温度(Tg)が10℃以上のアルキル(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む限り、特に限定されない。第2モノマー成分の具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシルであるとよい。これらは1種を単独でまたは2種以上が組み合わされていてもよい。なお、第2モノマーのTgについては10℃を超えていればよく、典型的には20℃以上、通常は50℃以上、好ましくは70℃以上、例えば90℃以上であり、100℃以上であってよい。第2モノマーのTgの上限は特に制限されない。例えば、第2モノマーのTgは、典型的には180℃以下、通常は150℃以下、例えば120℃以下であってよい。かかる第2モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)が好ましい例として挙げられる。
【0037】
また、上記第1モノマー成分の含有量に対応して、アクリル系樹脂を構成するために用いられるモノマー成分のうち、全モノマー成分に占める第2モノマー成分の割合は概ね30質量%以下程度(典型的には5~25質量%、例えば10~20質量%)であるとよい。第2モノマー成分の割合をかかる範囲とすることで、粘着性ガラス組成物の強度を向上させて、曲面形状等を有する複雑形状の被接合部材への塗布された際の形状維持性を高めることができる。
【0038】
アクリル系樹脂は、いわゆる熱可塑性エラストマー(ガラス転移点以下ではゴム的な弾性性質を示し、ガラス転移点以上に加熱すると軟化して流動性を示す性状のエラストマー)であるとよい。一好適例として、少なくとも一つのメタクリル酸エステルの重合体ブロック(以下、重合体ブロックAともいう。)と、少なくとも一つのアクリル酸エステルの重合体ブロック(以下、重合体ブロックBともいう。)と、を備えるアクリル系ブロック共重合体が挙げられる。アクリル系ブロック共重合体は、2種の重合体ブロックAと重合体ブロックBとが、互いにランダムに配置されていてもよいし、互いが交互に配置されていてもよい。また、アクリル系ブロック共重合体は、例えば、一つずつ結合したジブロック共重合体であってもよいし、いずれかのブロックがさらにもう一つ結合したトリブロック共重合体であってもよい。かかる2種類のブロックの合計ブロック数は3以上(例えば3~5)であることが好ましく、典型的には、両端に重合体ブロックAが配置された構造のアクリル系ブロック共重合体(ABA型、ABABA型等)を好ましく採用し得る。かかる構造のアクリル系ブロック共重合体は、凝集性と熱可塑性とのバランスが良いものとなり得る。
なお、このようなアクリル系ブロック共重合体は、公知の方法により容易に合成することができ、あるいは市販品を購入してもよい。市販品の例としては、株式会社クラレ製の商品名「LAポリマー」シリーズ等が挙げられる。
【0039】
重合体ブロックAは、弾性に優れ硬質性が高いため、粘着性ガラス組成物の形状を維持するためのハードセグメントとして機能し得る。かかる重合体ブロックAを構成するモノマー成分としては、典型的には、上述した第2モノマーが挙げられる。
重合体ブロックBは、粘性に優れ柔軟性が高いため、粘着性ガラス組成物の被接合部材に対する粘着性を担保するためのソフトセグメントとして機能し得る。かかる重合体ブロックBを構成するモノマー成分としては、典型的には、上述した第1モノマーが挙げられる。
【0040】
アクリル系樹脂のガラス転移点(複数種類を併用する場合は、その平均値。)は、概ね10℃以下、典型的には0℃以下(例えば0~-100℃、好ましくは-40~-50℃)であるとよい。ガラス転移点が所定値以上であると粘着性ガラス組成物の柔軟性や粘着性が高まり、例えば複雑形状を有する被接合材に対しても好適に密着させることができる。また、ガラス転移点が所定値以下であると、過度な粘着性を有することが抑えられ、被接合部材への塗布された際の形状維持性を高めることができる。
【0041】
第1モノマー成分と第2モノマー成分は、上述したように粘着性と形状維持性とを兼ね備えるような配合比に調整されることが好ましい。例えば、第1モノマーに対する第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)を典型的には0.01以上、例えば0.05以上、好ましくは0.1以上とすることができる。また、第1モノマーに対する第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)は、典型的には0.4以下、例えば0.3以下、好ましくは0.25以下とすることができる。
【0042】
アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、典型的には1×104以上であることが好ましく、3×104以上であることがより好ましく、5×104以上であることが特に好ましい。また、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、典型的には100×104以下であることが好ましく、50×104以下であることがより好ましく、10×104以下であることが特に好ましい。アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)がこのように調製されていることにより、被接合部材への適切な供給性や密着性、レベリング性を良好なものとすることができる。また、粘度が高くなりすぎることを抑制し、取扱性や作業性を向上することができる。
【0043】
粘着性ガラス組成物全体を100質量%としたときにアクリル系樹脂が占める割合は、粘着性の観点からは、典型的には組成物全体の15質量%以上であってよく、例えば20質量%以上であってよい。ガラスフリットとの含有割合を考慮すると、典型的には35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。かかる構成によれば、焼成前においてはかかるアクリル系樹脂によって被接合部材と好適に粘着し得る粘着力を維持しつつ、焼成後においては該アクリル系樹脂が好適に消失することにより、ガラスフリットによる接合性を発揮する粘着性ガラス組成物を実現することができる。
【0044】
ここに開示される粘着性ガラス組成物は、焼成によって融着固化して被接合部材同士を接着させるガラスフリットと、粘着性を好適に発現し得るアクリル系樹脂とのバランスが好適に調整されていることが求められる。ガラスフリットの質量Waに対するアクリル系樹脂の質量Wbの比(Wb/Wa)が例えば0.19以上0.85以下であって、好ましくは0.2以上0.75以下、より好ましくは0.2以上0.7以下である。このような、質量比に調整することで、ガラスフリットによる接合部の形成と、アクリル系樹脂による被接合部材への粘着性の発現を高いレベルで発揮することができる。
【0045】
<溶媒>
溶媒としては、ガラスフリットおよびアクリル系樹脂を溶解または分散させるものであって、混合した時に均一なペースト状に調製可能な液媒体であれば特に限定されず、従来から知られているものの中から1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。溶媒は、例えば、水であってもよく、水とアルコールとの混合溶液であってもよいし、有機溶剤であってもよい。粘着性ガラス組成物の取扱性や乾燥特性、保存安定性等の観点からは、沸点が概ね150℃以上、例えば200~300℃の高沸点有機溶剤を主成分(溶媒全体の50質量%以上を占める成分、以下同じ。)とするとよい。かかる高沸点有機溶剤の具体例としては、ジヒドロターピネオール、ターピネオール等のアルコール系溶剤、イソボルニルアセテート等のテルペン系溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、その他ミネラルスピリット等の、高沸点を有する有機溶剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
粘着性ガラス組成物の全体に占める溶媒の割合は、特に限定されないが、例えば粘着性ガラス組成物のハンドリング性等を考慮して適宜調整することができる。粘着性ガラス組成物全体を100質量%としたときに溶媒が占める割合は、概ね30質量%以下(典型的には1~25質量%、例えば5~20質量%)とすることができる。
【0047】
<他の成分>
粘着性ガラス組成物は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない範囲において、他の添加成分を必要に応じて含有することができる。このような添加成分としては、この種の一般的なガラス組成物で使用されている各種の添加剤を考慮することができる。このような添加剤としては、例えば、アクリル系樹脂の耐薬品性、物理的強度、化学的耐久性等を抑制しうる安定化剤などがある。その他、例えば、界面活性剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、顔料や染料等の着色剤等を使用することができる。粘着性ガラス組成物全体に占める添加成分の割合は特に限定されず、一般的には各々が独立して5質量%以下程度、概ねその総量が15質量%以下、好ましくは10質量%以下、例えば8質量%
以下となるように添加するとよい。
【0048】
なお、ここに開示されるアクリル系樹脂組成物は、そのままでも粘着性を発現し得るた
め、粘着付与剤を含まない構成とすることができる。しかしながら上記のアクリル系樹脂は、粘着付与剤を含むこともできる。粘着付与剤としては、例えば、アクリル系樹脂の粘
着付与剤として公知の各種の樹脂材料を考慮することができる。例えば、ロジン系樹脂、
テルペン系樹脂、炭化水素系樹脂、フェノール系樹脂等の各種粘着付与樹脂が例示される
。このような粘着付与剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することがで
きる。粘着付与剤を含む場合、その添加量は、アクリル系樹脂を100質量部としたとき
、その総量が20質量部以下程度、例えば10質量部以下程度の範囲で添加することがで
きる。
【0049】
ここに開示される粘着性ガラス組成物は、上述したような材料を所定の割合となるように秤量し、均質に撹拌混合することによって、調整することができる。混合は、上記原料の混合物を加熱しながら行ってもよい。これらの材料の撹拌混合には、従来公知の撹拌混合装置を用いることができる。例えば、三本ロールミル、加圧ニーダー、プラネタリーミキサーラインミキサー等が挙げられる。原料としてのガラスフリットと、アクリル系樹脂とを、溶媒中に均質に分散させることで粘着性ガラス組成物を好適に調製することができる。一好適例では、粘着性ガラス組成物全体を100質量%としたときに、各材料の混合割合が、質量基準で、ガラスフリット:50~70質量%;アクリル系樹脂:15~35質量%;溶媒:1~15質量%;その他の成分:0~15質量%;を満たすように組成物を調製するとよい。
【0050】
<粘着転写ガラスシート>
図1は、ここに開示される粘着転写ガラスシート1の構成を模式的に示す断面図である。被接合部材(無機部材)への貼り付け前の粘着転写ガラスシート1は、剥離基材10と、剥離基材10上に配置された粘着性ガラス層20とを備えている。粘着転写ガラスシート1は、焼成することにより少なくとも一の無機部材と一の他部材との物理的な接合に好適に用いることができる。かかる粘着転写ガラスシート1は、粘着性ガラス層20が、剥離基材10から剥離されて被接合部材の接合部位(典型的には一の無機部材と一の他の部材との間)に貼り付けられ、例えばこの被接合部材同士が固定される程度に粘着させることができる。この粘着性ガラス層20が付与された複合体を焼成することにより、被接合部材間に気密性に優れた接合部を形成することができる。かかる構成によれば、粘着転写ガラスシート1は、従来のペースト状のガラス接合材を使用する場合と比較して、曲面形状や複雑な形状の被接合部材に対して厚みが均一な接合部を簡便にかつ安定的に形成することができる。
【0051】
粘着転写ガラスシートは、上記のとおりのアクリル系樹脂の特性を備えるため、乾燥後においても粘着性を有している。かかる粘着性(粘着力)は、被接合部材同士が固定される程度の粘着力であればよく、例えば、45°引きはがし粘着力が、0.5N/24mm以上であることが好ましく、1N/24mmであることがより好ましく、1.15N/24mmであることがさらに好ましい。かかる範囲の粘着力を有することにより、該粘着性ガラスシートを被接合部材に好適に付着させることができる。また、該粘着性ガラスシートが付与された被接合部材の焼成中に、被接合部材同士が所定の位置からずれることを抑制することができ得るため、被接合部材を所望する位置で接合することができる。
【0052】
剥離基材10としては、粘着性ガラス層20を支持可能であるとともに、粘着性ガラス層20を容易に剥離可能なものであれば特に限定されず、従来知られているものの中から用途等に応じて適宜選択して用いることができる。なかでも、独立して形状維持が可能な部材であるとよく、一例として、プラスチックフィルム、発泡体シート、金属箔等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルを主成分(剥離基材全体の50質量%以上を占める成分、以下同じ。)とするポリエステルフィルム、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンを主成分とするポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)等を主成分とする塩化ビニルフィルム、ポリスチレン(PS)等のスチロールを主成分とするスチロールフィルム等が挙げられる。発泡体シートとしては、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等の発泡体からなるシートが挙げられる。金属箔としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
【0053】
剥離基材10は、粘着性ガラス層20の性状を安定的に維持する観点から例えば、機械的強度、耐水性、耐薬品性、耐熱性等に優れることが好ましい。かかる観点からは、非多孔質のプラスチックフィルム、例えばPETフィルムを好ましく用いることができる。剥離基材10の平均厚みは特に限定されないが、粘着性ガラス層20の形状安定性や剥離基材10から粘着性ガラス層20を剥離させる際の作業等を考慮して、概ね10~500μm程度(例えば50~200μm)であるとよい。
【0054】
なお、剥離基材10における粘着性ガラス層20と接する側の面には、例えば剥離を容易にするための表面処理が施されていてもよい。例えば、コロナ放電処理等の物理的処理が施されていてもよいし、シリコーン系剥離剤、フッ素樹脂系剥離剤、ポリオレフィン樹脂系剥離剤、セルロース樹脂系剥離剤、メラミン樹脂系剥離剤等の剥離剤が塗布されていてもよい。
【0055】
粘着転写ガラスシート1の輸送時や保管時等において、粘着転写ガラスシート1が保護されることを目的として、粘着性ガラス層20の剥離基材10と接していない側の表面に上述したような剥離基材が配置されていてもよい。すなわち、粘着性ガラス層20が2つの剥離基材に挟まれるように配置されていてもよい。このような構成にすることで、粘着性ガラス層20の性状、例えば剥離基材10からの剥離容易性や、被接合部材への粘着性(密着性)等が好適に維持される。
2つの剥離基材は、同じものであってもよく、例えば材質や厚み、表面処理等が異なるものであってもよい。好適な一態様では、2つの剥離基材との間で材質、厚みおよび表面処理のうち、少なくとも一つを異ならせるとよい。これにより、2つの剥離基材に対する粘着性ガラス層20の引きはがし粘着力を相互に異ならせることができる。その結果、粘着性ガラス層20を剥離させる際の作業性を高めることができる。
【0056】
粘着性ガラス層20は、典型的には室温付近の温度域(例えば20℃±15℃)において、粘弾性を有し、剥離基材10から剥離可能なように構成されている。かかる粘弾性により、粘着性ガラス層20は、典型的には室温付近の温度域において被接合部材に粘着することができる。すなわち、粘着性ガラス層20を被接合部材の表面へ貼り付ける際には、加熱等の処理を行うことなく付着させることができる。粘着性ガラス層20は、被接合部材と共に焼成されることにより、被接合部材間に容易に剥離できない気密性に優れた接合部を形成することができる。換言すれば、粘着性ガラス層20は、焼成前の室温付近の温度域において一時的に被接合部材を固定する性質と、焼成後に被接合部材間に気密性に優れた接合部を形成する性質と、を併せ持っている。
粘着性ガラス層20は、実質的な構成成分として上述したガラスフリットとアクリル系樹脂とを含んでいる。なお、かかる粘着性ガラス層20は、上記粘着性ガラス組成物から乾燥により溶媒が除去されることによって構成される。このため、上記粘着性ガラス組成物に含まれていた溶媒は、ほとんど存在しない構成(典型的には1質量%未満、例えば0.5質量%未満、さらには0.1質量%未満)である。
【0057】
粘着性ガラス層20の各成分は、粘着性ガラス層20が、例えば以下の性状:(1)剥離基材から剥離可能である;(2)室温付近の温度域で被接合部材同士を固定し得る程度の粘着性を有する;(3)焼成した後に、被接合部材間に気密性に優れた接合部を形成する;を具備するようにその種類や配合比を調製するとよい。
【0058】
粘着性ガラス層20においてガラスフリットが占める割合は、質量基準で、概ね50質量%以上(典型的には50~90質量%、例えば55~85質量%)であるとよい。ガラスフリットの割合を所定値以上とすることで、焼成後の被接合部材間の気密性が向上する。また、粘着性ガラス層20の粘着力が過度に上昇することを抑制し、剥離基材から容易に剥離できる程度の粘着力に調整し得る。ガラスフリットの割合を所定値以下とすることで、室温付近の温度域における被接合部材への粘着性を確保することができる。
【0059】
粘着性ガラス層20においてアクリル系樹脂が占める割合は、質量基準で概ね10質量%以上(典型的には10~50質量%、例えば15~45質量)であるとよい。アクリル系樹脂の割合を所定値以上とすることで、粘着性ガラス層20に優れた柔軟性や伸縮性を付与することができる。これにより、複雑形状を有する被接合部材であっても、密着性を好適に確保することができる。また、アクリル系樹脂の割合を所定値以下とすることで、所定の温度で焼成することにより消失するため、樹脂またはその残渣(燃えかす)が残存することや焼成不良を好適に防止することができる。これに加えて、粘着性を適度に抑制し、剥離基材10からの剥離容易性を高めることができる。
また、粘着性ガラス層20中に添加剤(例えば、界面活性剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、顔料や染料等の着色剤等)を含む場合には、粘着性ガラス層20において添加剤が占める割合は、質量基準で、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下であるとよい。
【0060】
粘着性ガラス層20においては、ガラスフリットによる接合性と、アクリル系樹脂による粘着性の付与とのバランスが重要になり得る。ガラスフリットやアクリル系樹脂の種類等によっても異なり得るが、一好適例では、アクリル系樹脂の質量Wbに対するガラスフリットの質量Waの比(Wa/Wb)は、概ね1.0~5.0、典型的には1.2~4.8、例えば1.4~4.7であるとよい。かかる範囲内の質量比に調整することにより、室温付近の温度域における被接合部材への粘着性と、焼成後における被接合部材間の接合性とを高いレベルで実現することができる。
【0061】
粘着性ガラス層20の平均厚みは、特に制限されるものではないが、典型的には500μm以下、例えば400μm以下、さらには200μm以下であってよい。また、粘着性ガラス層20の平均厚みは、典型的には10μm以上、例えば20μm以上、さらには30μm以上であってよい。平均厚みが厚すぎる場合には、被接合部材同士が滑ったりずれたりしやすくなる傾向にある。また、平均厚みが薄すぎる場合には、接合部を形成するために十分な量のガラスフリットを供給することができず、被接合部材の一方にのみ溶融したガラスが付着する等、被接合部材間の接合に不具合が生じやすくなる。また、平均厚みが薄すぎる場合には、粘着性ガラス層20そのものの強度が低下する傾向にある。このため、上述した範囲内の平均厚みを有することで、不具合が発生し難い粘着転写ガラスシートを提供することができる。
【0062】
<粘着転写ガラスシートの作成方法>
図1に示す粘着転写ガラスシート1は、例えば次のようにして作成することができる。 まず、剥離基材10を用意する。また、粘着性ガラス層20の構成成分として、ガラスフリットと、アクリル系樹脂と、溶媒と、その他任意の添加剤とを用意し、上述したように混合して、ここに開示される粘着性ガラス組成物を調製する。
粘着性ガラス組成物の剥離基材10への供給の手法は特に限定されず、各種の印刷方法、コーティング方法を採用することができる。例えば、スクリーン印刷、バーコーター、スリットコーター、グラビアコーター、ディップコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。粘着性ガラス組成物の供給量は、乾燥後の塗膜(粘着転写ガラスシート)の厚みが所望する厚みとなるような供給量に適宜設定すればよい。
【0063】
次いで、剥離基材10の上に供給された粘着性ガラス組成物から、乾燥により溶媒が除去される。かかる乾燥は、自然乾燥であってもよいし、製造時間短縮の観点から加熱乾燥をしてもよい。この場合の加熱温度は、典型的には、60℃以上120℃以下、例えば、90℃以上110℃以下程度とすることができる。これによって、粘着性ガラス組成物から溶媒が除去される。改めて言うまでもないが、粘着性ガラス組成物に含まれる材料が意図しない変質を招く温度よりも低い温度に設定するとよい。
【0064】
<粘着転写ガラスシートの用途>
ここに開示される粘着転写ガラスシートは、剥離基材10から剥がして被接合部材に貼り付けた状態で焼成することにより使用することができる。これにより、曲面形状や複雑な形状を有する被接合部材に対しても均一な厚みで接合部を形成することができるため、作業者の利便性を大きく向上させることができる。
被接合部材としては、ガラスフリットのガラス転移温度よりも高い温度(例えば700℃以上)で焼成した際に、その形状を維持可能な程度の耐熱性を有するものが好ましい。換言すれば、融点が800℃以上の材料を含んで構成されるものが好ましい。融点が800℃以上の材料の具体例としては、アルミナ、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、イットリア、クロミア、ジルコニア、部分安定化ジルコニア等のセラミック材料や、ステンレス鋼、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、銀、マンガン等の金属材料が挙げられる。被接合部材は、上記材料の複合体、具体的には融点が600℃以上(例えば660℃±10度程度)の合金等であっておよい。また、被接合部材の表面は、平坦であってもよいし、例えば曲面や水平でない面、凹凸形状の面等であってもよい。
【0065】
粘着転写ガラスシート1は、同種基材間または異種基材間の物理的な封止接合に好適に用いられる。かかる封止接合の対象としては、上述した金属部材やセラミック部材等の無機部材が挙げられる。すなわち、ここに開示される粘着性ガラスシートは、金属部材同士の封止接合、セラミック部材同士の封止接合、金属部材とセラミック部材との封止接合等に使用され得る。かかる金属部材の熱膨張係数は、特に限定されるものではないが、10×10-6K-1~15×10-6K-1程度であり得る。また、セラミック部材の熱膨張係数についても、特に限定されるものではないが、6×10-6K-1~8×10-6K-1程度であり得る。
【0066】
ここに開示される粘着転写ガラスシート1は、上述した被接合部材間の所望する位置に貼り付けられた後に、焼成処理を行うことにより、被接合部材間に接合部を形成する。
焼成処理は、大気雰囲気下においてガラスフリットのガラス転移温度よりも高温で粘着転写ガラスシート1を加熱する。これにより、粘着転写ガラスシート1中のガラスフリットが被接合部材に融着および固化して接合部が形成される。焼成温度は、使用するアクリル樹脂とガラスフリットの種類に合わせて適宜設定すればよく、典型的には700℃以上、例えば700℃以上1000℃以下であって、好ましくは750℃以上900℃以下である。また、焼成処理の時間も特に限定されず、概ね30分以上5時間以下(例えば1時間以上3時間以下)であってよい。
【0067】
粘着転写ガラスシート1は、上述した焼成処理の前に、アクリル系樹脂等の有機物の焼失を目的として脱脂処理を行ってもよい。かかる脱脂処理では、大気雰囲気下において上記アクリル系樹脂の重量減少率が90%以上となる温度よりも高温、かつ、ガラスフリットのガラス転移温度よりも低温の温度域において粘着転写ガラスシート1を加熱する。これによって、アクリル性樹脂等の有機物を除去することができる。
脱脂温度は、使用するアクリル樹脂とガラスフリットによって異なるため、特に限定されないが、典型的には500℃以上700℃以下、例えば550℃以上675℃以下であってよい。また、脱脂処理の時間も特に限定されず、概ね30分以上5時間以下(例えば1時間以上3時間以下)であってよい。
【0068】
ここに開示される技術では、ガラスフリットのガラス転移温度は、アクリル系樹脂が大気雰囲気下における加熱処理後の重量減少率が90%以上となる温度よりも、少なくとも50℃以上高い温度に設定されることが求められる。かかる構成によれば、アクリル系樹脂を上記脱脂処理によって十分に除去したのちに、上記焼成処理によってガラスを溶融することができるため、樹脂またはその残渣(燃えかす)が残存することや焼成不良を好適に防止することができる。
【0069】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0070】
<粘着性ガラス組成物の調整>
ガラスフリットと、アクリル系樹脂と、溶媒とを下記の表1に示す質量割合となるように秤量し、3本ロールミルで混錬することで、実施例1~6および比較例1~4の10通りの粘着性ガラス組成物を調製した。なお、表1中の(Wb/Wa)はガラスフリットの質量Waに対する樹脂(アクリル系樹脂またはセルロース系樹脂)の質量(Wb)を示す。
【0071】
まず、ガラスフリットとしては、以下の組成を有するガラス粉末に使用した。
SiO2 :53質量%
BaO :35質量%
CaO :3質量%
Al2O3:9質量%
【0072】
アクリル系樹脂としては、第1モノマーとしてアクリル酸ブチル(nBA)、第2モノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA)とを用い、下記に記載の質量比でブロック共重合させた共重合体(アクリル系樹脂A~C;重量平均分子量80000)を用意した。
アクリル系樹脂A <nBA:MMA=90:10>
アクリル系樹脂B <nBA:MMA=80:20>
アクリル系樹脂C <nBA:MMA=70:30>
【0073】
比較対象としてセルロース系樹脂(エチルセルロース;重量平均分子量44000)を用意した。また、溶媒としては、沸点が209℃のターピネオールを使用した。
【0074】
【0075】
<粘着転写ガラスシート>
次に、上記調製した粘着性ガラス組成物をPETフィルム上にアプリケーターを用いて平均厚みが100μmとなるように塗布した。これを100℃の乾燥器にて、大気中で15分乾燥させることにより、PETフィルム(剥離基材)上に粘着性ガラス層を備えた粘着転写ガラスシート(実施例1~6および比較例1~4)を作製した。
【0076】
<評価>
上記得られた粘着転写ガラスシート(実施例1~6および比較例1~4)の性状を評価するため、下記3つの試験を実施した。
(1)粘着力評価
上記作製した粘着転写ガラスシート(実施例1~6および比較例1~4)の粘着性ガラス層の上に、PETフィルムを張り付け、「PETフィルム-粘着性ガラス層-PETフィルム」の3層構造の積層体を作製した。次に、片方のPETフィルムの上からスキージで積層体の表面を擦り、PETフィルムと粘着性ガラス層とを密着させた。かかる積層体を幅24mm、長さ75mmの大きさに切り取り、作業台に固定した。該作業台を45°の角度で固定し、該作業台に接していないほうのPETフィルムの端をテンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デー株式会社製、RTC-1210)を用いて100mm/分の引張速度で垂直方向に引張り、このときの粘着力(N/24mm)を測定した。なお、最初の25mmの測定値は除いて、その後作業台から引きはがされた50mmの長さの粘着力を測定した。各例につき3回実施し、平均粘着力(N/24mm)を算出した。また、このときに粘着性ガラス層に破断等の変形がないか目視にて確認した。結果を表2に示す。なお、比較例2、3および4については、粘着力が不足して積層体そのものが作製できず評価することができなかった。
【0077】
(2)被接合部材への粘着性評価
被接合部材としてのセラミック部材に対する粘着性を評価した。具体的には、アルミナ板(30mm×30mm、厚さ2mm)を用意した。室温(25℃)の環境下で、該アルミナ板の表面に上記作製した粘着転写ガラスシート(実施例1~6および比較例1~4)の粘着性ガラス層側の面を張り付けて、PETフィルムをはがした。このとき、該アルミナ板の表面側に、粘着性ガラス層が転写された割合(転写率)を面積基準(%)で評価した。結果を表2に示す。なお、粘着転写ガラスシートを張り付けられなかったものに関しては、「×」で示している。
【0078】
(3)焼成後の接合評価
被接合部材と上記作製した粘着転写ガラスシート(実施例1~6および比較例1~4)とを用いて、焼成後の接合性を評価した。具体的には、上記アルミナ板を2枚用意して、一方のアルミナ板の表面に粘着転写ガラスシートの接着性ガラス層側の面を張り付けて、PETフィルムをはがした。他方のアルミナ板を、接着性ガラス層の表面に押し付けて固定した。これにより、「アルミナ板-接着性ガラス層-アルミナ板」の積層体を得た。かかる積層体を加熱温度850℃で1時間焼成した。室温まで冷却したのちに、一方のアルミナ板を持ち上げて、他方のアルミナ板が接合されていれば、接合部が形成され被接合部材(アルミナ板)間が接合されていると判断した。被接合部材間が接合されているものを「○」、接合されていなかったものを「×」として結果を表2に示す。なお、比較例2、3および4については、粘着力が不足して積層体そのものが作製できず評価することができなかった。
【0079】
【0080】
表2に示すように、比較例1では焼成後の接合部の形成ができなかった。また、比較例2においては、粘着性が不足し、PETフィルムおよび被接合部材に粘着させることができなかった。これは、ガラスフリットの質量Waに対するアクリル系樹脂の質量(Wb)の質量比(Wb/Wa)が適切な範囲にないため、接合性および粘着力のいずれか一方が不足することによるものと推測される。一方で、実施例1~6においては、ガラスフリットの質量Waに対するアクリル系樹脂の質量(Wb)の質量比(Wb/Wa)が好適な範囲内に調整されることにより、接合性と粘着力とを兼ね備えることがわかる。
【0081】
比較例3についても粘着力が不足し、PETフィルムおよび被接合部材に粘着させることができなかった。比較例3は、(第2モノマー/第1モノマー)の比率が、0.4以上であったため、第1モノマーによる粘着性の発現が小さく、十分な粘着性が確保できなかったことによるものと考えられる。また、比較例4ではアクリル系樹脂を含まないため、十分な粘着性が確保できなかったと考えられる。
【0082】
これに対して、ガラスフリットの質量Waに対する前記アクリル系樹脂の質量Wbの比(Wb/Wa)が、0.2以上0.7以下であって、アクリル系樹脂は、第1モノマー成分としてガラス転移温度が0℃以下の(メタ)アクリル酸エステル、第2モノマー成分としてガラス転移温度が10℃以上の(メタ)アクリル酸エステルを含み、第1モノマーに対する前記第2モノマーの質量比(第2モノマー/第1モノマー)が0.1以上0.4以下である、例1~6の粘着性ガラス組成物から構成される粘着転写ガラスシートは、45°引きはがし粘着力が0.5N/24mm以上であって、剥離時の変形もなく、被接合部材への転写性に優れ、焼成後において好適に接合部を形成することができた。
以上のとおり、ここに開示される粘着性ガラス組成物および該組成物からなる粘着転写ガラスシートによれば、室温において被接合部材に密着させその後焼成することにより、簡便な方法で均質な厚みの接合部を形成することができる。また、粘着性や加工性に優れるため曲面形状や複雑な凹凸形状を有する被接合部材に対しても、安定的に均質な厚みの接合部を形成することができる。
【0083】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 粘着転写ガラスシート
10 剥離基材
20 粘着性ガラス層