(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155768
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
B60B 35/02 20060101AFI20221006BHJP
F16F 15/10 20060101ALI20221006BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20221006BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B60B35/02 L
F16F15/10 C
F16C19/18
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059160
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 英雄
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA51
3J701BA53
3J701EA02
3J701EA03
(57)【要約】
【課題】ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる構造を実現する。
【解決手段】ハブ3を構成する軸部9は、中心部に、軸方向外側の端面に開口する外側凹部14を有する。外側凹部14の内面の少なくとも一部を覆うように、該外側凹部14の内面に、軸部9の振動を低減するための制振部材5が取り付けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、中心部に、軸方向外側の端面に開口する外側凹部を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に複数個ずつ転動自在に配置された転動体と、
前記外側凹部の内面の少なくとも一部を覆う制振部材と、
を備える、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記ハブは、ハブ輪と内輪とを備え、
前記ハブ輪は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道と、前記外側凹部とを有し、かつ、前記軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向内側に位置する部分に、嵌合筒部を有しており、
前記内輪は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向内側の内輪軌道を有し、前記嵌合筒部に外嵌されており、
前記制振部材は、前記外側凹部の底面全体と、前記外側凹部の内周面のうち、軸方向内側の端部から前記嵌合筒部の外周面よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆っている、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記ハブは、前記複列の内輪軌道同士の間に円筒面部を有しており、
前記制振部材は、前記外側凹部の底面全体と、前記外側凹部の内周面のうち、軸方向内側の端部から前記円筒面部よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆っている、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
前記外輪は、懸架装置を構成するナックルに支持固定され、使用時にも回転しない。
【0004】
前記ハブは、車輪を構成するホイール、および、ディスクやドラムなどの制動用回転体が支持固定され、前記ホイールおよび前記制動用回転体とともに回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ハブユニット軸受のNVH(Noise(騒音)、Vibration(振動)、およびHarshness(不快音))特性の向上に対する要求が高まっている。特に、エンジンの振動や騒音がなく、静粛性が高い電気自動車では、ハブユニット軸受のNVH特性の向上への要求が高い。
【0007】
特開2017-19429号公報(特許文献1)には、ハブに備えられた回転フランジの軸方向内側面に、合成ゴムからなる制振部材(制振部材)を取り付けたハブユニット軸受が記載されている。このようなハブユニット軸受によれば、前記回転フランジに支持固定された車輪を構成するタイヤと、路面との間の摩擦に基づいて、前記回転フランジに加振力が付与された場合でも、前記回転フランジの振動を低減することができる。すなわち、前記制振部材によって、前記回転フランジが軸方向に倒れるように振動(曲げモードにより振動)することが抑制される。この結果、前記タイヤと前記路面との間の摩擦に起因するロードノイズの、車室内への伝播を防止することができる。
【0008】
特開2017-19429号公報に記載のハブユニット軸受は、タイヤと路面との間の摩擦に基づく振動などのように、周波数が比較的低い振動(概ね5kHz以下の振動)の車室内への伝播の防止には有効である。しかしながら、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動(せん断変形モードによる振動)などのように、周波数が比較的高い振動(概ね6kHz~20kHzの振動)を十分に低減することはできない。つまり、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができない。
【0009】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる、ハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、制振部材とを備える。
【0011】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。前記外輪は、懸架装置を構成するナックルに対し支持固定され、使用時にも回転しない。
【0012】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、中心部に、軸方向外側の端面に開口する外側凹部を有する。前記ハブは、使用時に、車輪を構成するホイール、および、ディスクやドラムなどの制動用回転体が支持されて、前記車輪および前記制動用回転体とともに回転する。
【0013】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0014】
前記制振部材は、前記外側凹部の内面の少なくとも一部を覆っている。
【0015】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記ハブは、ハブ輪と内輪とを備えることができる。
この場合、前記ハブ輪は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向外側の内輪軌道と、前記外側凹部とを有し、かつ、前記軸方向外側の内輪軌道よりも軸方向内側に位置する部分に、嵌合筒部を有する。
前記内輪は、前記複列の内輪軌道のうちの軸方向内側の内輪軌道を有し、前記嵌合筒部に外嵌されている。
前記制振部材は、前記外側凹部の底面(軸方向外側を向いた面)全体と、前記外側凹部の内周面のうち、軸方向内側の端部から前記嵌合筒部の外周面よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆うことができる。
【0016】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記ハブは、前記複列の内輪軌道同士の間に、円筒面部を有することができる。
この場合、前記制振部材は、前記外側凹部の底面全体と、前記外側凹部の内周面のうち、軸方向内側の端部から前記円筒面部よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆うことができる。
【0017】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記制振部材は、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)若しくはフッ素ゴム(FKM)などの合成ゴム、または、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂若しくはシリコン樹脂などの合成樹脂により構成することができる。
【0018】
前記制振部材は、内部に隙間が存在しない中実構造、材料中にガスを分散させることで、発泡状若しくは多孔質状に成形してなる発泡体(スポンジ)構造、または、ハニカム構造を有することができる。
【0019】
前記制振部材を、前記外側凹部の内部に保持する方法は、特に限定されず、例えば、圧入により支持したり、接着剤を使用して接着したりすることができる。あるいは、前記外側凹部の内面にポッティング剤を塗布、または、前記外側凹部の内部に、ポッティング剤を充填して凝固させることで、前記制振部材を成形すると同時に、前記制振部材を前記外側凹部の内面に接着することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様のハブユニット軸受によれば、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す、断面図である。
【
図2】
図2は、第1例のハブユニット軸受からハブを取り出して示す、断面図である。
【
図3】
図3(A)~
図3(C)は、第1例に関する変形例の3例を示す、
図2に相当する図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第2例のハブユニット軸受を示す、断面図である。
【
図5】
図5は、第2例に関する変形例を示す、断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第3例を示す、
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1例]
図1および
図2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のものであって、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4と、制振部材5とを備える。
【0023】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に複列の外輪軌道6a、6bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0024】
本例では、支持孔8は、雌ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0025】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、軸部9と、回転フランジ10とを有する。
【0026】
軸部9は、外周面に、複列の内輪軌道11a、11bを有し、かつ、外周面のうち、複列の内輪軌道11a、11b同士間部分に、円筒面部12を有する。軸部9は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部13を有し、かつ、中心部に、軸方向外側の端面に開口する外側凹部14を有する。本例では、外側凹部14は、円形の開口形状を有し、有底に構成されている。すなわち、軸部9は、中心部に、軸方向内側の端面に開口する有底の内側凹部15を有し、かつ、軸方向に関して外側凹部14と内側凹部15との間部分に、隔壁部16を有する。
【0027】
外側凹部14は、略台形の断面形状を有する。すなわち、外側凹部14は、ハブ3の中心軸に直交する平坦面により構成された底面17と、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなる略円すい台面により構成された内周面18とを有する。本例では、外側凹部14の底面17は、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向外側の内輪軌道11aの軸方向内側の端部(軸方向外側の内輪軌道11aのうちで最も外径が小さい部分)よりも軸方向内側に位置している。また、内周面18の軸方向外側部分は、パイロット部13の内周面により構成されている。
【0028】
回転フランジ10は、軸部9の外周面のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分から、径方向外側に向けて突出している。回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔19を有する。取付孔19のそれぞれには、スタッド20が軸方向内側から圧入(セレーション嵌合)されている。すなわち、本例では、取付孔19は、圧入孔により構成されている。
【0029】
ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールは、中心部を軸方向に貫通する中心孔にパイロット部13を内嵌することにより、ハブ3に対して径方向に位置決めされる。この状態で、前記制動用回転体および前記ホイールの径方向中間部の円周方向複数箇所を軸方向に貫通する通孔にスタッド20を挿通し、かつ、スタッド20の先端部にハブナットを螺合することにより、ハブ3に対して前記制動用回転体および前記ホイールが結合固定される。
【0030】
なお、回転フランジの取付孔を、雌ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体およびホイールに備えられた通孔を挿通したハブボルトを、前記取付孔に螺合することにより、前記制動用回転体および前記ホイールを前記回転フランジに対して結合固定する。
【0031】
本例では、ハブ3は、内輪21とハブ輪22とを組み合わせてなる。
【0032】
内輪21は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪21は、外周面に、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向内側の内輪軌道11bを有する。
【0033】
ハブ輪22は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪22は、外周面の軸方向中間部に、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向外側の内輪軌道11aを有する。ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道11aよりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ10を有し、かつ、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部13を有する。また、ハブ輪22は、軸方向外側の端面に開口する外側凹部14と、軸方向内側の端面に開口する内側凹部15と、軸方向に関して外側凹部14と内側凹部15との間に位置する隔壁部16とを有する。
【0034】
さらに、ハブ輪22は、軸方向外側の内輪軌道11aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪21が外嵌される嵌合筒部23を有する。さらに、ハブ輪22は、嵌合筒部23の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面24を有し、かつ、嵌合筒部23の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部25を有する。
【0035】
ハブ3は、ハブ輪22の嵌合筒部23に内輪21を締り嵌めで外嵌し、かつ、ハブ輪22の段差面24とかしめ部25との間で内輪21を軸方向両側から挟持することにより、内輪21とハブ輪22とを結合固定することで構成されている。すなわち、本例では、内輪21と、ハブ輪22のうち、回転フランジ10を除く径方向内側部分とにより、軸部9が構成されている。
【0036】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、前記ハブ輪と前記内輪とを結合することもできる。
【0037】
転動体4のそれぞれは、玉により構成されており、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、列ごとに複数個ずつ、保持器26a、26bにより保持された状態で転動自在に配置されている。
【0038】
なお、本例のハブユニット軸受1は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、転動体4が配置された、円筒状の転動体設置空間27の軸方向両側の開口部を塞ぐ、1対のシール装置28a、28bをさらに備える。
【0039】
1対のシール装置28a、28bのうち、軸方向外側のシール装置28aは、ハブ3の外周面または回転フランジ10の軸方向内側面に全周にわたり摺接するシールリップを有する。すなわち、軸方向外側のシール装置28aは、シールリングにより構成されている。
【0040】
1対のシール装置28a、28bのうち、軸方向内側のシール装置28bは、スリンガとシールリングとを備える組み合わせシールリングにより構成されている。前記スリンガは、金属板を断面L字形に曲げ成形してなり、内輪21の軸方向内側の端部外周面に外嵌固定されている。前記シールリングは、前記スリンガの表面に摺接するシールリップを有し、外輪2の軸方向内側の端部内周面に内嵌固定されている。
【0041】
なお、転動体設置空間の軸方向内側の開口部を塞ぐ、軸方向内側のシール装置は、外輪の軸方向内側の端部に内嵌固定された有底円筒状のカバーにより構成することもできる。この場合、必要に応じて、内輪の軸方向内側の端部に、車輪の回転数(回転速度)を検出するためのエンコーダを外嵌固定することができる。
【0042】
制振部材5は、外側凹部14の内面の少なくとも一部を覆っている。本例では、制振部材5は、外側凹部14の底面17全体と、外側凹部14の内周面18のうち、軸方向内側の端部から嵌合筒部23の外周面よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆っている。すなわち、制振部材5の径方向外側の端部の外径D5を、嵌合筒部23の外径D23よりも大きくしている。このために、制振部材5は、外側凹部14の軸方向内側の半部、すなわち外側凹部14の底面17から、外側凹部14の軸方向深さの半分程度までの範囲に充満されている。
【0043】
制振部材5は、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、周波数が比較的高い振動と同期して、軸部9が振動(共振)することを抑制するために備えられている。このために、制振部材5は、ハブ輪22を構成する金属材料よりも軟質の材料により構成されている。具体的には、例えば、制振部材5は、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)若しくはフッ素ゴム(FKM)などの合成ゴム、または、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂若しくはシリコン樹脂などの合成樹脂により構成することができる。
【0044】
制振部材5は、内部に隙間が存在しない中実構造に限らず、外側凹部14の内面(底面17および内周面18)との接触状態を適正に維持することができる限り、任意の構造を有することができる。例えば、制振部材5は、材料中にガスを分散させることで、発泡状若しくは多孔質状に成形してなる発泡体(スポンジ)構造、または、ハニカム構造を有することができる。
【0045】
また、制振部材5を外側凹部14の内部に保持する方法は、ハブ輪22のうち、軸方向外側の内輪軌道11aを含む部分に形成された焼き入れ硬化層の焼き戻し温度以下の温度環境で実施することができる限り、特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0046】
例えば、制振部材5を、外面形状が、外側凹部14の内面形状と略合致し、かつ、外径が、内周面18の内径よりもわずかに大きくなるように成形しておき、制振部材5を外側凹部14に圧入することで、制振部材5を外側凹部14の内面に保持させることができる。
【0047】
または、制振部材5を、外径が、内周面18の内径よりも大きい発泡体若しくはハニカム構造に成形しておき、制振部材5を弾性的に収縮させた状態で、外側凹部14内に押し込んだ後、制振部材5を収縮する力を解放して制振部材5を弾性的に復元させることにより、制振部材5を外側凹部14の内面に保持させることができる。
【0048】
追加的または代替的に、制振部材5を外側凹部14の内面に、接着剤を使用して接着することができる。
【0049】
あるいは、制振部材5が合成ゴムにより構成されている場合には、制振部材5を加硫接着により、外側凹部14の内面に支持することもできる。具体的には、ハブ輪22に、軸方向外側の内輪軌道11aを含む部分に焼き入れ硬化層を形成するための熱処理を施した後、ハブ輪22の軸方向外側部分を接着剤に浸漬するか、または、外側凹部14の内面に接着剤を塗布する。その後、外側凹部14の内側に合成ゴムを、前記焼き入れ硬化層の焼き戻し温度以下の温度で加硫成形して制振部材5を形成する。
【0050】
あるいは、制振部材5をポッティング加工により成形することもできる。具体的には、合成樹脂を主成分とする主剤と、硬化剤とを、外側凹部14の内部に充填するか、または、外側凹部14の内面に塗布する。その後、室温で放置するか、または、必要に応じて、加熱乾燥するか、若しくは、放射線を照射することで凝固させることにより、制振部材5を成形すると同時に、制振部材5を外側凹部14の内面に接着する。
【0051】
本例のハブユニット軸受1は、ハブ3を構成する軸部9の外側凹部14の内面を覆うように取り付けられた、合成ゴムまたは合成樹脂製の制振部材5を備えている。このため、せん断変形モードによる振動に伴う外側凹部14の内周面18の変形の、制振部材5の表面への伝播を抑えることができる。すなわち、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、せん断変形モードによる振動の発生時には、外側凹部14の内周面18が、軸方向から見て楕円形に歪んだり縮径したりするように高い周波数で変形(振動)する。本例では、制振部材5を合成ゴムまたは合成樹脂により構成しているため、外側凹部14の内周面18が高い周波数の変形を起こしても、制振部材5の弾性変形が追随することなく、制振部材5の表面のうち、外側凹部14の内面と接していない軸方向外側面に伝播される外側凹部14の内周面18の変形は小さく、かつ、周波数は低く抑えられる。これにより、回転フランジ10の固有振動数を低くすることができ、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような周波数が比較的高い振動の周波数と大きく異ならせることができる。この結果、周波数が比較的高い振動に対する回転フランジ10の共振を抑制することができ、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる。したがって、ハブユニット軸受1のNVH特性を向上させることができる。
【0052】
また、制振部材5は、軸部9の中心部に設けられた外側凹部14の内側に備えられている。このため、特開2017-19429号公報に記載の従来構造のように、回転フランジの軸方向内側面に制振部材を備える場合と比べて、制振部材5の体積を小さく抑えることができ、その重量も少なく抑えることができる。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、制振部材5を備えることによるバネ下荷重の増大を、前記従来構造と比べて小さくできて、乗り心地や操縦安定性の低下を防止することができる。さらに、本例のハブユニット軸受1は、ハブ3の慣性モーメントの増大を、前記従来構造と比べて小さくできて、動力性能や燃費の低下を防止することができる。これらの効果は、制振部材5を、発泡体やハニカム構造により構成することでより顕著に得ることができる。
【0053】
ハブユニット軸受1の使用状態においては、外側凹部14の開口部は、車輪を構成するホイールやホイールカバーにより塞がれる。このため、外側凹部14の内面に取り付けられた制振部材5の汚損を防止できる。また、制振部材5を、接着剤により、外側凹部14の内面に接着している場合には、接着力の低下を防止することができる。
【0054】
なお、本例では、制振部材5は、外側凹部14の底面17全体と、外側凹部14の内周面18のうち、軸方向内側の端部から嵌合筒部23の外周面よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆っている。すなわち、制振部材5の径方向外側の端部の外径D5を、嵌合筒部23の外径D22よりも大きくしている。ただし、制振部材5により、外側凹部14の底面17全体と、外側凹部14の内周面18のうち、軸方向内側の端部から円筒面部12よりも径方向外側に位置する部分までの範囲とを覆うこともできる。すなわち、制振部材5の径方向外側の端部の外径D5を、円筒面部12の外径D12よりも大きくすることもできる。さらに、制振部材5により、外側凹部14の内面全体を覆うこともできる。これにより、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播防止効果をより向上させることができる。
【0055】
本例のハブユニット軸受では、転動体4として玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、本発明は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが等しい、等径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできるし、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0056】
また、本発明のハブユニット軸受は、本例のような、ハブ輪22が中実体である従動輪用のハブユニット軸受1に限らず、ハブ輪が、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0057】
[第1例の変形例]
図3(A)~
図3(B)は、実施の形態の第1例に関する変形例の第1例~第3例を示している。
【0058】
図3(A)に示す変形例の第1例では、外側凹部14の内周面18の軸方向中間部に、軸方向に関して内径が変化しないハブ側円筒面部29が備えられている。本変形例では、制振部材5の軸方向外側の端部外周面に備えられた制振部材側円筒面部30を、ハブ側円筒面部29に圧入することで、制振部材5を外側凹部14の内側に支持している。なお、追加的に、制振部材5と外側凹部14の内面とを接着剤により接着することもできる。
【0059】
図3(B)に示す変形例の第2例では、外側凹部14の内周面18の軸方向中間部に、軸方向外側に向かうほど内径が小さくなる円すい台面状の傾斜面部31が備えられている。本変形例では、制振部材5を、発泡体若しくはハニカム構造に成形しておき、制振部材5を弾性的に収縮させた状態で、外側凹部14内に押し込んだ後、制振部材5を収縮する力を解放して制振部材5を弾性的に復元させることにより、制振部材5を外側凹部14の内面に保持させる。なお、本変形例においても、追加的に、制振部材5と外側凹部14の内面とを接着剤により接着することができる。
【0060】
図3(C)に示す変形例の第3例では、外側凹部14の内面を覆う制振部材5の厚さを、略一定としている。本変形例の制振部材5は、例えば、合成ゴムの加硫成形、または、ポッティング加工により成形することができる。
【0061】
[第2例]
図4は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のハブユニット軸受1aは、駆動輪用の構造を備える。すなわち、本例では、ハブ3aを構成する軸部9aは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔32を有する。スプライン孔32の軸方向外側の端部は、外側凹部14aの底面17aに開口している。なお、本例では、外側凹部14aは、略矩形の断面形状を有する。すなわち、外側凹部14aの内周面18aは、底面17aとの接続部を除き、軸方向に関して内径が変化しない円筒面により構成されている。
【0062】
スプライン孔32には、等速ジョイント33を構成するスプライン軸部34がスプライン係合されている。ハブユニット軸受1aと等速ジョイント33とは、スプライン軸部34の先端部(軸方向外側の端部)にナット35を螺合し、スプライン軸部34と一体に構成されたジョイント用外輪36と、ナット35との間で、ハブ3aを軸方向両側から挟持することにより結合固定されている。
【0063】
本例のハブユニット軸受1aでは、周波数が比較的高い振動に対する軸部9aの共振を抑制するための制振部材5aは、外側凹部14aの内周面18aと、ナット35の外周面との間に充満されている。本例では、制振部材5aは、主剤と硬化剤とを、内周面18aとナット35の外周面との間に充填し、凝固させることで成形すると同時に、内周面18aおよびナット35の外周面に接着されている。
【0064】
本例のハブユニット軸受1aによれば、実施の形態の第1例のハブユニット軸受1と同様に、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0065】
[第2例の変形例]
図5は、実施の形態の第2例に関する変形例を示している。本変形例では、周波数が比較的高い振動に対する軸部9aの共振を抑制するための制振部材5aにより、外側凹部14aの内周面18aと、ナット35の外周面との間を充満するとともに、スプライン軸部34およびナット35の軸方向外側の端部を覆っている。本変形例によれば、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播防止効果をより向上させることができる。
【0066】
[第3例]
図6は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例のハブユニット軸受は、実施の形態の第1例の構造と、特開2017-19429号公報に記載の構造とを組み合わせた構造を有する。
【0067】
すなわち、外側凹部14の内面に、周波数が比較的高い振動に対する軸部9aの共振を抑制するための制振部材5が取り付けられている。制振部材5は、外側凹部14の軸方向内側の半部に充満されている。
【0068】
また、回転フランジ10の軸方向内側面の円周方向複数箇所に、回転フランジ10の振動を低減するための制振部材37が支持されている。具体的には、回転フランジ10は、略中空円形板状で、取付孔19が備えられた厚肉部38と、厚肉部38よりも軸方向厚さが小さい薄肉部39とを円周方向に交互に配置することにより構成されている。制振部材37は、回転フランジ10のうち、薄肉部39のそれぞれの軸方向内側面に取り付けられている。制振部材37は、例えば、合成ゴムにより構成することができる。
【0069】
本例では、軸部9の外側凹部14の内面を覆うように制振部材5を取り付けているため、ブレーキ装置による制動時に発生する摩擦振動などのような、周波数が比較的高い振動の車室内への伝播を防止することができる。また、回転フランジ10の軸方向内側面の円周方向複数箇所に制振部材37を支持しているため、タイヤと路面との間の摩擦に基づく振動などのように、周波数が比較的低い振動の車室内への伝播の防止することができる。したがって、本例によれば、車室内への振動の伝播を広帯域で防止することができて、NVH特性をより一層向上させることができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0070】
上述した実施の形態の第1例~第3例およびそれぞれの変形例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、1a ハブユニット軸受
2 外輪
3、3a ハブ
4 転動体
5 制振部材
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9、9a 軸部
10 回転フランジ
11a、11b 内輪軌道
12 円筒面部
13 パイロット部
14、14a 外側凹部
15 内側凹部
16 隔壁部
17、17a 底面
18、18a 内周面
19 取付孔
20 スタッド
21 内輪
22 ハブ輪
23 嵌合筒部
24 段差面
25 かしめ部
26a、26b 保持器
27 転動体設置空間
28a、28b シール装置
29 ハブ側円筒面部
30 制振部材側円筒面部
31 傾斜面部
32 スプライン孔
33 等速ジョイント
34 スプライン軸部
35 ナット
36 ジョイント用外輪
37 制振部材
38 厚肉部
39 薄肉部