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特開2022-155770画像識別プログラム、画像識別方法、画像識別装置および情報処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155770
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】画像識別プログラム、画像識別方法、画像識別装置および情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20221006BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20221006BHJP
   G06T 7/11 20170101ALI20221006BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
G06T7/00 612
G06T7/11
G06T7/00 350B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059162
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】特許業務法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 信浩
(72)【発明者】
【氏名】武部 浩明
(72)【発明者】
【氏名】馬場 孝之
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 真智子
(72)【発明者】
【氏名】岩村 尚
【テーマコード(参考)】
4C093
5L096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA35
4C093FD03
4C093FF16
4C093FF19
5L096BA13
5L096CA04
5L096FA02
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】肺野領域の識別精度を向上させる。
【解決手段】画像識別装置1は、人体の胸部の断面を撮影した撮影画像11のデータに基づいて肺野条件で生成された画像12aおよび縦隔条件で生成された画像12bを取得し、画像12aと画像12bとに基づいて撮影画像11における肺野領域を識別する。肺野条件で生成された画像12aでは、陰影と胸壁についての画像上の特徴が似ていることから、肺野領域の境界付近に陰影が存在する場合に、その領域を誤って胸壁と判定することがある。一方、縦隔条件で生成された画像12bでは肺野領域の境界を正確に識別しやすいので、画像12a,12bを両方用いることで、肺野領域の識別精度を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、
前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて前記撮影画像における肺野領域を識別する、
処理を実行させる画像識別プログラム。
【請求項2】
前記肺野領域の識別は、あらかじめ生成された学習モデルを用いて実行され、
前記学習モデルは、人体の胸部の断面を撮影した複数の学習用撮影画像のデータのそれぞれに基づき、肺野条件で生成された画像と縦隔条件で生成された画像とを含む画像ペアを前記学習用撮影画像ごとに取得し、前記画像ペアのそれぞれを学習用データとして用い、前記画像ペアのそれぞれに対応する前記学習用撮影画像における肺野領域を示す情報を正解データとして用いて学習することによって生成される、
請求項1記載の画像識別プログラム。
【請求項3】
コンピュータが、
人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、
前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて前記撮影画像における肺野領域を識別する、
画像識別方法。
【請求項4】
人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、
前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて前記撮影画像における肺野領域を識別する、処理部、
を有する画像識別装置。
【請求項5】
人体の胸部の断面を撮影した複数の学習用撮影画像のデータのそれぞれに基づき、肺野条件で生成された画像と縦隔条件で生成された画像とを含む画像ペアを前記学習用撮影画像ごとに取得し、前記画像ペアのそれぞれを学習用データとして用い、前記画像ペアのそれぞれに対応する前記学習用撮影画像における肺野領域を示す情報を正解データとして用いた学習により、肺野領域を識別する学習モデルを生成する学習処理部と、
人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、前記第1の画像と前記第2の画像とを前記学習モデルに入力することで、前記撮影画像における肺野領域を識別する画像識別部と、
を有する情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像識別プログラム、画像識別方法、画像識別装置および情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
肺などの各種疾患の診断には、CT(Computed Tomography)画像などの医用画像が広く用いられている。医用画像を用いた画像診断では、医師は多数の画像を読影しなければならず、医師の負担が大きい。そのため、医師の診断作業をコンピュータによって何らかの形で支援する技術が求められている。
【0003】
そのような支援技術の一例として、胸部のCT画像から肺野領域を識別する技術がある。例えば、CT画像をCT値により二値化して空気領域と軟部組織領域とに分け、空気領域に基づいてロスト肺野領域を抽出し、ロスト肺野領域も含めて肺野領域全体の抽出を行う抽出方法が提案されている。また、CT画像から二値化の基準値が異なる複数の二値化画像を生成し、これらの二値化画像に基づいて肺野に対応する領域を切り出す画像解析装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-253293号公報
【特許文献2】国際公開第2019/102829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、CT画像には各種の生成方法が存在するが、その1つとして肺野条件による生成方法がある。肺野条件で生成されたCT画像は、肺野領域内の病変や血管が強調表現されることから、肺疾患の診断において広く用いられている。
【0006】
しかし、肺野条件で生成されたCT画像では、陰影と胸壁についての画像上の特徴が類似することから、陰影が肺野領域の境界付近に存在する場合に境界を正確に判別しにくい場合がある。このため、肺野条件で生成されたCT画像からコンピュータ技術によって肺野領域を識別すると、肺野領域の境界を正確に識別できない場合があるという問題がある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、肺野領域の識別精度が向上した画像識別プログラム、画像識別方法、画像識別装置および情報処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの案では、コンピュータに、人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、第1の画像と第2の画像とに基づいて撮影画像における肺野領域を識別する、処理を実行させる画像識別プログラムが提供される。
【0009】
また、1つの案では、上記の画像識別プログラムに基づく処理と同様の処理をコンピュータが実行する画像識別方法が提供される。
さらに、1つの案では、上記の画像識別プログラムに基づく処理と同様の処理を実行する画像識別装置が提供される。
【0010】
また、1つの案では、次のような学習処理部と画像識別部とを有する情報処理システムが提供される。この情報処理システムにおいて、学習処理部は、人体の胸部の断面を撮影した複数の学習用撮影画像のデータのそれぞれに基づき、肺野条件で生成された画像と縦隔条件で生成された画像とを含む画像ペアを学習用撮影画像ごとに取得し、画像ペアのそれぞれを学習用データとして用い、画像ペアのそれぞれに対応する学習用撮影画像における肺野領域を示す情報を正解データとして用いた学習により、肺野領域を識別する学習モデルを生成する。画像識別部は、人体の胸部の断面を撮影した撮影画像のデータに基づいて肺野条件で生成された第1の画像および縦隔条件で生成された第2の画像を取得し、第1の画像と第2の画像とを学習モデルに入力することで、撮影画像における肺野領域を識別する。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、肺野領域の識別精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施の形態に係る画像識別装置の構成例および処理例を示す図である。
図2】第2の実施の形態に係る診断支援処理システムの構成例を示す図である。
図3】画像識別装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】CT画像の階調の調整方法を示す図である。
図5】肺野領域識別処理の比較例を示す図である。
図6】肺野条件で生成されたCT画像を用いた場合の問題点を示す図である。
図7】診断支援システムの各装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
図8】識別器の学習に用いられる学習データについて示す図である。
図9】識別器の学習処理手順を示すフローチャートの例である。
図10】肺野領域の識別処理について示す図である。
図11】画像識別処理の手順を示すフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る画像識別装置の構成例および処理例を示す図である。図1に示す画像識別装置1は、人体の胸部を撮影した撮影画像11から肺野領域を識別する情報処理装置である。本実施の形態では、例として、撮影画像11は人体の胸部の断面を撮影して得られたスライス画像であるとする。
【0014】
この画像識別装置1は、処理部2を有する。処理部2は、例えば、プロセッサとして実現される。
処理部2は、撮影画像11のデータに基づいて肺野条件で生成された画像12aと、撮影画像11のデータに基づいて縦隔条件で生成された画像12bとを取得する(ステップS1)。処理部2は、取得した画像12a,12bに基づいて、撮影画像11における肺野領域を識別する(ステップS2)。図1では例として、肺野領域の識別結果として肺野識別画像13を示している。肺野識別画像13では、肺野領域が白色で表され、肺野外の領域が黒色で表されている。
【0015】
このような処理により、肺野領域の識別精度が向上する。特に、肺野領域の境界の識別精度を向上させることができる。
肺野条件で生成された画像では、陰影(特に浸潤影)と胸壁についての画像上の特徴が類似する場合がある。このため、肺野条件で生成された画像だけを用いて識別を行ったとすると、肺野領域の境界付近に陰影が存在する場合に、その領域を胸壁と区別できず、誤って肺野外の領域と識別してしまうことがある。
【0016】
一方、縦隔条件で生成された画像では、浸潤影と胸壁との間の胸膜が黒く表現されることから、肺野条件と比較して肺野領域の境界を正確に識別しやすい。そこで、上記の画像識別装置1は、肺野条件で生成された画像12aに加えて縦隔条件で生成された画像12bも用いて、肺野領域を識別する。これにより、肺野領域の境界付近に陰影が存在する場合でも、その陰影を胸壁と誤って識別する可能性が低減される。その結果、肺野領域の境界を精度よく識別できるようになる。
【0017】
〔第2の実施の形態〕
図2は、第2の実施の形態に係る診断支援処理システムの構成例を示す図である。図2に示す診断支援システムは、CT撮影による画像診断を支援するシステムであり、学習処理装置100、画像識別装置200およびCT装置300を含む。なお、画像識別装置200は、図1に示した画像識別装置1の一例である。
【0018】
CT装置300は、人体のX線CT画像を撮影する。本実施の形態では、CT装置300は、胸部領域におけるアキシャル断面のCTスライス画像を、人体の高さ方向(アキシャル断面に垂直な方向)に対する位置を所定間隔で変えながら所定枚数撮影する。
【0019】
画像識別装置200は、CT装置300によって撮影された各スライス画像から肺野領域を識別する。肺野領域の識別結果は、病変判定などの様々な診断支援のための利用可能である。
【0020】
学習処理装置100は、画像識別装置200による肺野領域の識別処理で利用される学習モデルを、機械学習によって生成する。学習処理装置100によって生成された学習モデルのデータは、例えばネットワークを介して、あるいは可搬型の記録媒体を介して画像識別装置200に読み込まれる。
【0021】
図3は、画像識別装置のハードウェア構成例を示す図である。画像識別装置200は、例えば、図3に示すようなハードウェア構成のコンピュータとして実現される。図3に示すように、画像識別装置200は、プロセッサ201、RAM(Random Access Memory)202、HDD(Hard Disk Drive)203、GPU(Graphics Processing Unit)204、入力インタフェース(I/F)205、読み取り装置206および通信インタフェース(I/F)207を有する。
【0022】
プロセッサ201は、画像識別装置200全体を統括的に制御する。プロセッサ201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Device)である。また、プロセッサ201は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLDのうちの2以上の要素の組み合わせであってもよい。
【0023】
RAM202は、画像識別装置200の主記憶装置として使用される。RAM202には、プロセッサ201に実行させるOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM202には、プロセッサ201による処理に必要な各種データが格納される。
【0024】
HDD203は、画像識別装置200の補助記憶装置として使用される。HDD203には、OSプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、補助記憶装置としては、SSD(Solid State Drive)などの他の種類の不揮発性記憶装置を使用することもできる。
【0025】
GPU204には、表示装置204aが接続されている。GPU204は、プロセッサ201からの命令にしたがって、画像を表示装置204aに表示させる。表示装置としては、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどがある。
【0026】
入力インタフェース205には、入力装置205aが接続されている。入力インタフェース205は、入力装置205aから出力される信号をプロセッサ201に送信する。入力装置205aとしては、キーボードやポインティングデバイスなどがある。ポインティングデバイスとしては、マウス、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0027】
読み取り装置206には、可搬型記録媒体206aが脱着される。読み取り装置206は、可搬型記録媒体206aに記録されたデータを読み取ってプロセッサ201に送信する。可搬型記録媒体206aとしては、光ディスク、半導体メモリなどがある。
【0028】
通信インタフェース207は、ネットワークを介して、CT装置300などの他の装置との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、画像識別装置200の処理機能を実現することができる。なお、学習処理装置100も、図3に示すようなハードウェア構成のコンピュータとして実現可能である。
【0029】
ところで、CT装置300によって撮影された元のCT撮影画像は、各画素がCT値によって表現されている。このようなCT撮影画像を各種の診断に活用する場合には、目的に応じて利用するCT値の範囲を限定し、限定した範囲の中で白黒の濃淡を付けるように階調が調整される。
【0030】
図4は、CT画像の階調の調整方法を示す図である。図4に示すように、CT画像についての階調パラメータとしては、一般的にWW(Window Width)とWL(Window Level)とが用いられる。WWは、画像表示に用いられるCT値の範囲の大きさを決定する。WLは、WWが示す範囲の中央値を決定する。表示用の画像生成時においては、元のCT撮影画像のCT値のうち、WWとWLとによって決定された利用範囲内のCT値が、例えば256階調(0~255)の輝度値に割り当てられる。また、利用範囲外のCT値はすべて0に変換される。これによって、白黒画像(グレースケール画像)が生成される。
【0031】
代表的な階調の設定条件として、肺野条件と縦隔条件がある。肺野条件では、例えばWL=-550~-700,WW=1000~1500に設定される。肺野条件で生成されたCT画像では、肺野領域内に存在する血管や病変が強調して表現される。このため、一般的に肺疾患の診断には、肺の陰影を確認可能な肺野条件が用いられることが多い。縦隔条件では、例えばWL=20~60,WW=300~400に設定される。縦隔条件で生成されたCT画像では、心臓や食道などの臓器が集中している縦隔(両肺に挟まれた空間)が強調して表現される。
【0032】
次に、図5図6を用いて、CT画像を用いた肺野領域識別処理の比較例について説明する。
図5は、肺野領域識別処理の比較例を示す図である。図5に示す比較例では、CT画像51が肺野領域識別器52に入力されることで、CT画像51における肺野領域が特定される。図5の例では、肺野領域識別器52により、CT画像51の画素ごとに、右肺、左肺、肺野外のいずれの領域であるかが識別される。図5の肺野識別画像53では、各画素がこれらのいずれの領域であるかを示す識別値を有している。また、肺野領域識別器52は、例えば、多数のCT画像を教師画像として用いた機械学習によって生成される。
【0033】
ここで、上記のように、肺疾患の診断では一般的に、肺野条件で生成されたCT画像が用いられる。このため、図5のような肺野領域の識別時においても、入力されるCT画像51として肺野条件で生成されたCT画像を用いることが考えられる。この場合、学習時に用いられる教師画像についても、肺野条件で生成されたCT画像が用いられることになる。
【0034】
ところが、肺野条件で生成されたCT画像を用いて識別を行うと、次の図6で説明するように、肺野領域の境界を正確に識別できない場合があるという問題がある。
図6は、肺野条件で生成されたCT画像を用いた場合の問題点を示す図である。図6では、肺野条件で生成されたCT画像61を用いた識別処理によって得られた肺野識別画像62の一例を示している。
【0035】
しかしながら、肺野条件で生成されたCT画像では、陰影(特に浸潤影)と胸壁についての画像上の特徴が類似する場合がある。このため、肺野領域の境界付近に浸潤影が存在する場合には、その領域を胸壁と区別できず、誤って肺野外の領域と識別してしまうことがある。
【0036】
図6に示す肺野識別画像62では、領域63内の肺野の境界付近において、本来は浸潤影が写っている領域が、識別処理によって誤って肺野外の領域と識別されている。このように、肺野領域の識別器に対する入力画像やその学習のための教師画像として、肺野条件で生成されたCT画像を用いた場合、浸潤影と胸壁とを正確に識別できず、その結果として肺野領域の境界の識別精度が低下するという問題がある。
【0037】
ここで、肺野領域の境界付近における浸潤影と胸壁とは、縦隔条件で生成されたCT画像を用いた方が見分けやすいという医学的知見がある。縦隔条件で生成されたCT画像では、浸潤影と胸壁との間の胸膜が黒く表現されることから、肺野条件と比較して肺野領域の境界を正確に識別可能である。
【0038】
そこで、本実施の形態に係る診断支援システムでは、肺野領域の識別器に対する入力画像やその学習のための教師画像として、肺野条件で生成されたCT画像と縦隔条件で生成されたCT画像の両方が用いられる。これにより、肺野領域の識別、特にその境界部分の識別を正確に実行できるようにする。
【0039】
図7は、診断支援システムの各装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
まず、学習処理装置100は、識別器学習部110と記憶部120を備える。
識別器学習部110の処理は、例えば、学習処理装置100が備えるプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。識別器学習部110は、複数の教師データセット130を学習データとして用いて、画像内の肺野領域を識別する識別器を学習する。後述するように、教師データセット130のそれぞれには、肺野条件で生成されたCT画像、縦隔条件で生成されたCT画像、および正解ラベル画像が含まれる。
【0040】
記憶部120は、学習処理装置100が備える記憶装置の記憶領域として実現される。記憶部120には、識別器学習部110による学習によって生成された識別器を示す学習モデル121のデータが記憶される。例えば、CNN(Convolutional Neural Network)を用いた深層学習が実行される場合、学習モデル121のデータとしては、モデルのネットワーク構造を示すデータやネットワーク上のノード間に設定される重み係数などが記憶される。
【0041】
一方、画像識別装置200は、記憶部210、画像生成部220、肺野領域識別部230および病変判定部240を備える。
記憶部210は、RAM102やHDD103などの画像識別装置200が備える記憶装置の記憶領域として実現される。記憶部210には、学習処理装置100によって生成された学習モデル121のデータが記憶される。学習モデル121のデータは、学習処理装置100からネットワークや可搬型記録媒体を介して画像識別装置200に入力され、記憶部210に格納される。
【0042】
画像生成部220、肺野領域識別部230および病変判定部240の処理は、例えば、プロセッサ201が所定のプログラムを実行することで実現される。また、これらの各処理機能は個別のプログラムによって実現されてもよい。例えば、画像生成部220の処理がCT画像のビューアプログラムによって実現され、肺野領域識別部230および病変判定部240の処理が病変解析プログラムによって実現されてもよい。
【0043】
画像生成部220は、CT装置300によって撮影対象者の胸部領域が撮影されたCT撮影画像(スライス画像)を取得し、CT撮影画像を基に肺野条件によるCT画像と縦隔条件によるCT画像とを生成する。
【0044】
肺野領域識別部230は、学習モデル121によって表される識別器として動作する。肺野領域識別部230は、肺野条件で生成されたCT画像と縦隔条件で生成されたCT画像の入力を受けて、CT画像から肺野領域を識別する。
【0045】
病変判定部240は、肺野領域の識別結果を用いた処理機能の一例であり、CT画像における肺野領域の画像情報に基づいて病変の判定を行う。例えば、病変判定部240は、肺野条件で生成されたCT画像における肺野領域内の画像から、所定の単位領域ごとに陰影の種別を識別する。
【0046】
図8は、識別器の学習に用いられる学習データについて示す図である。識別器の学習の際には、多数の教師データセット130が用意される。教師データセット130のそれぞれは、肺野条件で生成された教師画像131と、縦隔条件で生成された教師画像132と、正解ラベル画像133とを含む。教師画像131,132は、ともに元のCT撮影画像に基づいて生成されたCT画像であり、ともに同じ画素数を有する。正解ラベル画像133は、教師画像131,132と同じ画素数を有し、画素ごとに右肺、左肺、肺野外のいずれかを示すラベルが対応付けられている。
【0047】
識別器学習部110は、教師画像131,132を教師データとして、識別器を実現するネットワーク111に入力する。また、識別器学習部110は、例えば、正解ラベル画像133に基づいてラベル別の正解画像を生成する。図8に示す右肺画像141、左肺画像142、肺野外画像143は、このような正解画像の例である。右肺画像141は、正解ラベル画像133の画素のうち、右肺領域の画素の値を1とし、その他の画素の値を0としたものである。左肺画像142は、正解ラベル画像133の画素のうち、左肺領域の画素の値を1とし、その他の画素の値を0としたものである。肺野外画像143は、正解ラベル画像133の画素のうち、肺野外領域の画素の値を1とし、その他の画素の値を0としたものである。なお、図8では、右肺画像141、左肺画像142、肺野外画像143における画素値「0」の記載を省略している。
【0048】
識別器学習部110は、このような右肺画像141、左肺画像142、肺野外画像143を、ネットワーク111の出力層に対して正解ラベルとして与え、識別器の学習を行う。
【0049】
図9は、識別器の学習処理手順を示すフローチャートの例である。図9では例として、学習処理装置100に対して、CT撮影画像と、これに対応する正解ラベル画像との画像ペアが複数組入力され、これらの画像ペアに基づいて学習処理装置100において教師データセット130が生成されるものとする。
【0050】
識別器学習部110は、まず、ステップS11~S13の処理を、CT撮影画像のそれぞれについて実行する。
[ステップS11]識別器学習部110は、CT撮影画像と、これに対応する正解ラベル画像とを取得する。前述のように、CT撮影画像には、画素ごとにCT値が対応付けられている。また、正解ラベル画像には、画素ごとに右肺、左肺、肺野外のいずれかを示すラベルが対応付けられている。
【0051】
[ステップS12]識別器学習部110は、CT撮影画像のデータに基づいて、肺野条件によるCT画像と、縦隔条件によるCT画像とを生成する。これにより、肺野条件および縦隔条件によりそれぞれ生成されたCT画像と、正解ラベル画像とを含む教師データセット130が生成される。
【0052】
[ステップS13]識別器学習部110は、さらに、正解ラベル画像に基づいてラベル別の正解画像(右肺画像、左肺画像、肺野外画像)を生成する。
[ステップS14]識別器学習部110は、識別器のネットワーク(CNN)を設定する。識別器学習部110は、設定されたネットワークに対し、教師データとして肺野条件および縦隔条件によりそれぞれ生成されたCT画像を入力し、正解データとしてラベル別の正解画像を入力することにより、識別器の学習を実行する。
【0053】
[ステップS15]識別器学習部110は、ステップS14の学習によって生成された学習モデル121のデータを、記憶部120に格納する。この後、生成された学習モデル121のデータは、画像識別装置200に受け渡されて、画像識別装置200の記憶部210に格納される。
【0054】
以上の処理によれば、肺野条件で生成されたCT画像と縦隔条件で生成されたCT画像とを学習データとして用いた学習により、肺野領域を識別する識別器の学習モデル121が生成される。これにより、肺野領域を高精度に識別可能な識別器を生成することができる。特に、肺野領域の境界付近に浸潤影が存在する場合でも、浸潤影を胸壁と誤って識別せずに、肺野領域の境界を精度よく識別できるような識別器を生成可能になる。
【0055】
図10は、肺野領域の識別処理について示す図である。識別処理の実行時には、CT装置300によって撮影されたCT撮影画像のデータに基づいて、肺野条件によるCT画像251と縦隔条件によるCT画像252が生成される。そして、生成されたCT画像251,252が、学習モデル121に基づく識別器231に入力される。
【0056】
識別器231は、入力画像の画素ごとに、右肺である確率と、左肺である確率と、肺野外である確率とを算出する。図10に示す画像261,262,263は、それぞれ画素ごとに右肺である確率、左肺である確率、肺野外である確率をプロットした画像である。なお、図10では例として、画像261~263の画素のうち画素P1~P3についてのみ、算出された確率の値を記載している。
【0057】
肺野領域識別部230は、このような画像261~263(確率の配列)を基に、例えば、出力データとして右肺画像271、左肺画像272、肺野外画像273を生成する。右肺画像271は、右肺領域の画素の値が1に設定された画像であり、左肺画像272は、左肺領域の画素の値が1に設定された画像であり、肺野外画像273は、肺野外領域の画素の値が1に設定された画像である。
【0058】
すなわち、ある画素について、画像261~263のうち画像261での確率値が最大である場合には、右肺画像271の画素値が1に設定され、左肺画像272および肺野外画像273の画素値が0に設定される。また、画像261~263のうち画像262での確率値が最大である場合には、左肺画像272の画素値が1に設定され、右肺画像271および肺野外画像273の画素値が0に設定される。また、画像261~263のうち画像263での確率値が最大である場合には、肺野外画像273の画素値が1に設定され、右肺画像271および左肺画像272の画素値が0に設定される。
【0059】
なお、肺野領域識別部230はさらに、右肺画像271、左肺画像272、肺野外画像273に基づいて(または、画像261~263に基づいて)、画素ごとに右肺、左肺、肺野外のいずれかを示す識別値が対応付けられた肺野識別画像を生成して、出力データとして出力してもよい。
【0060】
図11は、画像識別処理の手順を示すフローチャートの例である。
[ステップS21]画像識別装置200において、画像生成部220は、CT装置300によって撮影されたCT撮影画像を取得する。
【0061】
[ステップS22]画像生成部220は、CT撮影画像のデータに基づいて、肺野条件によるCT画像と、縦隔条件によるCT画像とを生成する。
[ステップS23]肺野領域識別部230は、記憶部210に記憶された学習モデル121に基づいて、肺野条件および縦隔条件でそれぞれ生成されたCT画像から肺野領域を識別する。具体的には、前述のように、識別結果を示す情報として右肺画像、左肺画像、肺野外画像が生成される。あるいは、識別結果を示す情報として、肺野識別画像が生成されてもよい。
【0062】
[ステップS24]病変判定部240は、肺野領域識別部230による識別結果に基づいて、所定の病変判定処理を実行する。例えば、肺野領域識別部230は、肺野条件で生成されたCT画像を同一の大きさの単位領域に分割し、単位領域のうち、肺野領域に含まれる単位領域のそれぞれについて、陰影の種別を識別する。具体的な例としては、陰影の種別として、すりガラス影、浸潤影、蜂巣肺、肺気腫、その他の陰影のいずれであるかが識別される。
【0063】
以上の処理によれば、肺野条件で生成されたCT画像と縦隔条件で生成されたCT画像の両方が、入力画像として識別器に入力される。これにより、肺野領域の識別精度、特に、肺野領域の境界の識別精度を向上させることができる。例えば、肺野領域の境界付近に浸潤影が存在する場合でも、浸潤影を胸壁と誤って識別せずに、肺野領域の境界を精度よく識別できるようになる。
【0064】
なお、上記の第2の実施の形態では、識別器の学習処理機能と、学習結果を用いた識別器による識別処理機能とがそれぞれ別の情報処理装置に搭載されていたが、これらは同じ情報処理装置に搭載されていてもよい。例えば、図7に示した識別器学習部110が画像識別装置200に搭載されていてもよい。
【0065】
なお、上記の各実施の形態に示した装置(例えば、画像識別装置1、学習処理装置100、画像識別装置200)の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、各装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、半導体メモリなどがある。磁気記憶装置には、ハードディスク装置(HDD)、磁気テープなどがある。光ディスクには、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:BD、登録商標)などがある。
【0066】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CDなどの可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0067】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムにしたがった処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムにしたがった処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムにしたがった処理を実行することもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 画像識別装置
2 処理部
11 撮影画像
12a,12b 画像
13 肺野識別画像
S1,S2 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11