(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155781
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】直流き電システムの地絡検出装置および地絡検出方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/16 20060101AFI20221006BHJP
H02H 3/36 20060101ALI20221006BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20221006BHJP
【FI】
H02H3/16 A
H02H3/36 D
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059178
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆之
【テーマコード(参考)】
2G033
5G004
5G058
【Fターム(参考)】
2G033AA05
2G033AB04
2G033AC02
2G033AD01
2G033AE01
2G033AE07
2G033AE09
2G033AF01
2G033AF02
2G033AG14
5G004AA04
5G004AB03
5G004BA01
5G004DA02
5G004DC14
5G004EA01
5G004FA01
5G058AA01
5G058EE06
5G058EF03
(57)【要約】
【課題】電流の比較的小さい地絡であってもどのフィーダで地絡事故が発生したかを判断することができる直流き電システムの地絡検出装置を提供する。
【解決手段】複数のフィーダ11~14を備えた直流き電システムにおいて、前記各フィーダに流れる電流を一定周期毎に検出する直流電流検出器21~24と、大地~レール5間の電圧Veを検出する大地~レール間電圧検出手段(地絡過電圧継電器64P、高速電圧変換器V-TD)と、大地~レール間電圧の上昇カーブと、フィーダ11~14のフィーダ電流の上昇カーブが相似であるか否かを判定し、相似であればそのフィーダで地絡が発生していると判定する地絡リレー64FP…とを設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィーダを備えた直流き電システムにおいて、
前記各フィーダに設けられ、フィーダに流れる電流を一定周期毎に検出する直流電流検出器と、
直流き電システムの大地~レール間の電圧を一定周期毎に検出する大地~レール間電圧検出手段と、
前記大地~レール間電圧検出手段により、設定した地絡演算開始時刻に検出した大地~レール間電圧および前記地絡演算開始時刻よりも所定時間前に設定した基準時刻に検出した大地~レール間電圧の差分と、前記地絡演算開始時刻から所定時間経過した地絡回線特定時刻に検出した大地~レール間電圧および前記基準時刻に検出した大地~レール間電圧の差分との比である電圧変化幅比RDVeと、前記複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により、前記地絡演算開始時刻に検出したフィーダ電流および前記基準時刻に検出したフィーダ電流の差分と、前記地絡回線特定時刻に検出したフィーダ電流および前記基準時刻に検出したフィーダ電流の差分との比である電流変化幅比RDIfとが同一又は略同一であるか否かを判定し、同一又は略同一であるときに当該フィーダが地絡回線であると判定する地絡判定手段と、
を備えたことを特徴とする直流き電システムの地絡検出装置。
【請求項2】
前記地絡演算開始時刻は、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧が、設定した第1の電圧を超えた時刻であることを特徴とする請求項1に記載の直流き電システムの地絡検出装置。
【請求項3】
前記地絡演算開始時刻は、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧が、前記基準時刻に検出された電圧から設定した第2の電圧分増加した時刻であることを特徴とする請求項1に記載の直流き電システムの地絡検出装置。
【請求項4】
前記大地~レール間電圧検出手段は、大地~レール間に接続され、内部抵抗を有した地絡電圧継電器と、該地絡電圧継電器の両端間電圧を検出する高速電圧変換器とを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の直流き電システムの地絡検出装置。
【請求項5】
前記大地~レール間電圧検出手段は、大地~レール間に接続された専用抵抗と、該抵抗の両端間電圧を検出する高速電圧変換器とを有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の直流き電システムの地絡検出装置。
【請求項6】
複数のフィーダを備えた直流き電システムの地絡検出方法であって、
前記各フィーダに設けられ、フィーダに流れる電流を一定周期毎に検出する直流電流検出器と、直流き電システムの大地~レール間の電圧を一定周期毎に検出する大地~レール間電圧検出手段と、を備え、
設定した地絡演算開始時刻よりも所定時間前に設定した基準時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻から所定時間経過した地絡回線特定時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻に読み込んだ大地~レール間電圧および前記基準時刻に読み込んだ大地~レール間電圧の差分DVe1と、前記地絡演算開始時刻に読み込んだフィーダ電流および前記基準時刻に読み込んだフィーダ電流の差分DIf1とを演算するステップと、
前記地絡回線特定時刻に読み込んだ大地~レール間電圧および前記基準時刻に読み込んだ大地~レール間電圧の差分DVe2と、前記地絡回線特定時刻に読み込んだフィーダ電流および前記基準時刻に読み込んだフィーダ電流の差分DIf2とを演算するステップと、
前記差分DVe1とDVe2の比(DVe2/DVe1)である電圧変化幅比RDVeと、前記差分DIf1とDIf2の比(DIf2/DIf1)である電流変化幅比RDIfとを演算するステップと、
前記演算された電圧変化幅比RDVeと電流変化幅比RDIfが同一又は略同一であるか否かを判定し、同一又は略同一であるときに、当該フィーダが地絡回線であると判定するステップと、
を有したことを特徴とする直流き電システムの地絡検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鉄用直流き電変電設備に係り、直流き電システムの地絡検出装置および地絡検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電鉄直流き電線の保護方式としては、「過電流検出」と「電流増加率di/dt検出」の2種類が有る。短絡事故については前述の2個でカバーできるが、地絡事故については完全地絡に近い地絡でなければ検出が難しい。その理由は抵抗を介した地絡の場合、電流値が制限されるため検出レベルに達しない事が多いためである。
【0003】
また、電鉄の直流き電線は交流3相回路における零相の概念が無いため、電流検出回路にて負荷電流と地絡電流の分離を行う事ができない(3相交流回路ではCTとZCT等で分離が可能)。
【0004】
このため数千アンペアにもなる負荷電流に数百アンペア程度の地絡電流が重畳しても地絡事故の判断を行う事は難しい。
【0005】
電鉄直流き電線における前述の問題を解決するために、従来、例えば特許文献1に記載の直流き電システムの構成を図示した
図5のように、大地~レール間に設けた地絡電圧継電器64Pの検出電圧に基づいて地絡事故を検出することがなされていた。
【0006】
図5において、1は変電所からの3相交流電力を整流する整流器である。整流器1の正側出力端(P)は遮断器2を介して正極母線(P母線)3に接続されている
正極母線3には複数のフィーダ11~14が接続され、フィーダ11~14には、直流高速度遮断器(HSCB)F11~F14が各々介挿されている。
【0007】
21~24は、各フィーダ11~14に設けられ、フィーダに流れる電流を検出する直流電流検出器(HCT)である。直流電流検出器21~24の各検出電流は、フィーダ11~14毎に設けられた短絡選択継電器50Fに各々入力される。
【0008】
整流器1の負側出力端(N)は遮断器4を介してレール(マイナス(N)電車線を兼用)5に接続されている。レール5(N)と大地(アースE)の間には、内部抵抗R0を備えた地絡過電圧継電器64Pが接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5の構成において、前述の「過電流検出」と「電流増加率di/dt検出」は、直流電流検出器(HCT)21~24と短絡選択継電器50Fで行う。
【0011】
地絡事故発生時は、大地~レール(負極)間に接続されている地絡過電圧継電器64Pの検出電圧が上昇する。この検出電圧に基づいて地絡事故を検出している。
【0012】
しかしこの方法は、原則、変電所内の地絡を検出するのが目的であり、複数のフィーダ11~14の負荷側で地絡が発生した場合、どのフィーダで地絡事故が発生したのかを判別することはできない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、電流の比較的小さい地絡であってもどのフィーダで地絡事故が発生したかを判断することができる直流き電システムの地絡検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための請求項1に記載の直流き電システムの地絡検出装置は、
複数のフィーダを備えた直流き電システムにおいて、
前記各フィーダに設けられ、フィーダに流れる電流を一定周期毎に検出する直流電流検出器と、
直流き電システムの大地~レール間の電圧を一定周期毎に検出する大地~レール間電圧検出手段と、
前記大地~レール間電圧検出手段により、設定した地絡演算開始時刻に検出した大地~レール間電圧および前記地絡演算開始時刻よりも所定時間前に設定した基準時刻に検出した大地~レール間電圧の差分と、前記地絡演算開始時刻から所定時間経過した地絡回線特定時刻に検出した大地~レール間電圧および前記基準時刻に検出した大地~レール間電圧の差分との比である電圧変化幅比RDVeと、前記複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により、前記地絡演算開始時刻に検出したフィーダ電流および前記基準時刻に検出したフィーダ電流の差分と、前記地絡回線特定時刻に検出したフィーダ電流および基準時刻に検出したフィーダ電流の差分との比である電流変化幅比RDIfとが同一又は略同一であるか否かを判定し、同一又は略同一であるときに当該フィーダが地絡回線であると判定する地絡判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の直流き電システムの地絡検出装置は、請求項1において、
前記地絡演算開始時刻は、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧が、設定した第1の電圧を超えた時刻であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の直流き電システムの地絡検出装置は、請求項1において、
前記地絡演算開始時刻は、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧が、前記基準時刻に検出された電圧から設定した第2の電圧分増加した時刻であることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の直流き電システムの地絡検出装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記大地~レール間電圧検出手段は、大地~レール間に接続され、内部抵抗を有した地絡電圧継電器と、該地絡電圧継電器の両端間電圧を検出する高速電圧変換器とを有していることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の直流き電システムの地絡検出装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記大地~レール間電圧検出手段は、大地~レール間に接続された専用抵抗と、該抵抗の両端間電圧を検出する高速電圧変換器とを有していることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の直流き電システムの地絡検出方法は、
複数のフィーダを備えた直流き電システムの地絡検出方法であって、
前記各フィーダに設けられ、フィーダに流れる電流を一定周期毎に検出する直流電流検出器と、直流き電システムの大地~レール間の電圧を一定周期毎に検出する大地~レール間電圧検出手段と、を備え、
設定した地絡演算開始時刻よりも所定時間前に設定した基準時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻から所定時間経過した地絡回線特定時刻に、前記大地~レール間電圧検出手段により検出された大地~レール間電圧と、複数のフィーダに設けられた直流電流検出器により検出されたフィーダ電流を読み込むステップと、
前記地絡演算開始時刻に読み込んだ大地~レール間電圧および前記基準時刻に読み込んだ大地~レール間電圧の差分DVe1と、前記地絡演算開始時刻に読み込んだフィーダ電流および前記基準時刻に読み込んだフィーダ電流の差分DIf1とを演算するステップと、
前記地絡回線特定時刻に読み込んだ大地~レール間電圧および前記基準時刻に読み込んだ大地~レール間電圧の差分DVe2と、前記地絡回線特定時刻に読み込んだフィーダ電流および前記基準時刻に読み込んだフィーダ電流の差分DIf2とを演算するステップと、
前記差分DVe1とDVe2の比(DVe2/DVe1)である電圧変化幅比RDVeと、前記差分DIf1とDIf2の比(DIf2/DIf1)である電流変化幅比RDIfとを演算するステップと、
前記演算された電圧変化幅比RDVeと電流変化幅比RDIfが同一又は略同一であるか否かを判定し、同一又は略同一であるときに、当該フィーダが地絡回線であると判定するステップと、を有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、地絡抵抗を介した電流の比較的小さい地絡でも地絡事故と判断することができる。また、どのフィーダにおける地絡かを判断し、選択遮断することができる。また、地絡発生と同時に高速演算を開始するので、迅速な地絡検出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態例による地絡検出装置の構成図。
【
図3】地絡発生時の、大地~レール間の電圧上昇とフィーダ電流の上昇を示す電圧、電流波形図。
【
図4】本発明の実施形態例による地絡検出方法の処理フローチャート。
【
図5】従来の直流き電システムにおける地絡検出装置の一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。一般的な直流き電の場合、レールがマイナス(N)電車線を兼用しており、レールと大地間には漏れ抵抗が存在する。そのため架線(プラス(P))地絡が発生すると大地~レール(N)間の漏れ抵抗に地絡電流が流れ、大地~レール間の電圧が上昇する。
【0023】
電車線にはリアクタンス分が存在するため、地絡電流はある時定数で上昇するが、同時に大地~レール間の電圧も同じ時定数で上昇する。この性質を利用し、地絡を判断し、地絡回線を特定しようというのが本発明の主旨である。
【0024】
図1は本実施形態例による回路構成例を示し、
図5と同一部分は同一符号をもって示している。
図1において
図5と異なる点は、アナログ出力機能を備え、地絡過電圧継電器64Pの電圧(大地~レール間電圧)を検出する高速電圧変換器V-TDを設け、直流電流検出器(HCT)21~24の各検出電流および高速電圧変換器V-TDの検出電圧が入力される地絡リレー(高抵抗地絡リレー)64FPを各フィーダ11~14毎に設けた点にあり、その他の部分は
図5と同様に構成されている。
【0025】
尚、直流電流検出器(HCT)21~24は、
図1のように短絡選択継電器50Fと共用するように構成してもよいし、短絡選択継電器50F用の直流電流検出器(HCT)を別途設けてもよい。
【0026】
前記地絡過電圧継電器64Pおよび高速電圧変換器V-TDが本発明の大地~レール間電圧検出手段を構成し、フィーダ11~14に各々設けられた地絡リレー64FPが本発明の地絡判定手段を構成している。
【0027】
尚、地絡過電圧継電器64Pを、高インピーダンス値の専用抵抗に置き換える構成としてもよい。
【0028】
フィーダ(11~14)の個数は4本に限らず他の個数であってもよい。
【0029】
本発明の原理の概要は、大地~レール間電圧(高速電圧変換器V-TDのアナログ出力)の上昇カーブと複数のフィーダ11~14のフィーダ電流(直流電流検出器HCTの検出電流)の上昇カーブが相似であれば地絡発生と検出することができるので、異なる2点の時刻において電圧・電流の増加分の比がほぼ一致したことを検出して、特定回線(フィーダ)の地絡を検出することにある。
【0030】
次に、本発明の原理の詳細を、例えば
図1のフィーダ11で地絡が発生したときの電流分布を表す
図2と、負荷電流がある状態で地絡が発生したときのフィーダ電流Ifと大地(E)~レール(N)間の電圧Veの様子を示す
図3とともに説明する。
【0031】
地絡が発生した回線には、
図2の電車30へ供給している負荷電流Itと地絡電流Igの合成電流(Ifとする)が流れる。地絡電流Igは電線路抵抗Rl、地絡抵抗Rg、E~N間(大地~レール間)抵抗Re及び電線路リアクタンスXlにて決まる値となり、ある時定数で上昇する。
【0032】
E~N間電圧(大地~レール間電圧)Veは、レール漏れ抵抗により発生する電圧をVf0とするとIg×Re+Vf0であるので、地絡電流Igの上昇カーブと大地~レール間電圧Veの上昇カーブは相似若しくは略相似となる。言い換えれば、ある異なる2点の時刻における電流および電圧の変化幅の比が同じであれば地絡確認ができることになる。
【0033】
異なる2点の時刻で、測定されたフィーダ電流には負荷電流Itと地絡電流Igが合成されているが、本発明の地絡検出する時間程度では負荷電流(It)はほぼ一定であるのでこの定常値(It)を除いた地絡電流Igの変化分を算出し、同時にE~N間電圧(大地~レール間電圧)Veも定常値Vf0を除いた地絡による電圧変化分を算出し、相似性から地絡を判断する。この特性を利用して地絡回線の特定を行うのが本方式の原理となる。
【0034】
次に、本実施形態例の動作の一例を説明する。以下の演算は地絡リレー64FPで行われる。
【0035】
1) フィーダ電流If(各直流電流検出器21~24(HCT)の検出値)とE~N間電圧(大地~レール間電圧)Ve(高速電圧変換器V-TDのアナログ出力)を一定周期(例えば1μs)毎に計測する。
【0036】
2) 地絡が発生し、E~N間電圧(大地~レール間電圧)Veがある値(=地絡演算開始電圧=
図3の設定値Ve1)に達したとき、各フィーダ11~14の地絡リレー64FPは以下の手順で地絡演算を開始(
図3の時刻t1)する。
【0037】
3) 地絡演算開始時のIf,Veと一定時間前(
図3の時刻t0=基準時刻)のIf,Veを定常値If0,Ve0として記憶する。
【0038】
4) 時刻t1のIf,Veと時刻t1から所定時間経過後の時刻t2(地絡回線特定時刻)のIf,Veの測定値から、定常値(If0,Ve0)を式(1)、式(2)のように減算し、変化幅(DVe1,DVe2,DIf1,DIf2)を得る。
【0039】
すなわち、
E~N間電圧(大地~レール間電圧)の差分1 DVe1=Ve1-Ve0
E~N間電圧(大地~レール間電圧)の差分2 DVe2=Ve2-Ve0
二つの差分の比RDVe(電圧変化幅比)=DVe2/DVe1…式(1)、
フィーダ電流の差分1 DIf1=If1-If0
フィーダ電流の差分2 DIf2=If2-If0
二つの差分の比RDIf(電流変化幅比)=DIf2/DIf1…式(2)。
【0040】
5) 定常値を除いたフィーダ電流とE~N間電圧(大地~レール間電圧)Veのカーブが相似であるかの判断は、時刻t1と時刻t2での大地~レール間電圧Veの二つの変化幅の比(式(1)の電圧変化幅比RDVe)と、フィーダ電流Ifの二つの変化幅の比(式(2)の電流変化幅比RDIf)が同一か又は略同一となったフィーダが地絡発生した回線となる。
【0041】
すなわち、RDVe≒RDIf(ある時間2区間(互いに所定時間隔てた2つの時刻)における電圧および電流の変化幅の比が略同じ)である場合、2つの上昇カーブは相似であるので地絡回線であると判断する。
【0042】
尚、本発明で言う相似とは、
図3において、DVe1/DIf1=DVe2/DIf2が成立することで、これを変形しDIf2/DIf1=DVe2/DVe1が得られ、前述のRDVe=RDIfが得られるものである。
【0043】
次に、
図1の地絡リレー64FPが行う処理のフローチャートの一例を
図4とともに説明する。ステップS1では、大地~レール間電圧Veが、設定した地絡演算開始電圧Ve1を超えたか否かを判定し、超えた場合はステップS2において地絡検出演算を開始する(t=地絡演算開始時刻t1)。
【0044】
次にステップS3では、現時点t1の大地~レール間電圧Ve1およびフィーダ電流If1を読み込み、t1より一定時限前のt0時点の電圧Ve0およびフィーダ電流If0を読み込む。
【0045】
次にステップS4では、時刻t1から所定時間経過して時刻t2(地絡回線特定時刻)になったか否かを判定し、時刻t2になった場合はステップS5において、t2時点の大地~レール間電圧Ve2およびフィーダ電流If2を読み込む。
【0046】
尚、ステップS3、S5におけるデータ読み込み処理は、一定周期(例えば1μs)毎にVeとIfをサンプリングし、サンプリングデータは移動しながら一定時間メモリに保存する。
【0047】
次にステップS6では、前記式(1)、式(2)で述べたDVe1=Ve1-Ve0、DVe2=Ve2-Ve0、DIf1=If1-If0、DIf2=If2-If0を算出し、二つの差分の比RDVe=DVe2/DVe1と、二つの差分の比RDIf=DIf2/DIf1を算出する。
【0048】
次にステップS7において、0.9<(RDVe/RDIf)<1.1であるか否かを判定する(尚、相似ではRDVe/RDIf=1であるが、1の近辺で良い。このステップS7の式を満足するのならば、RDVeとRDIfは同一又は略同一であると判定する)。
【0049】
ステップS7の判定結果がYES(RDVeとRDIfは同一又は略同一)の場合はステップS8において地絡警報発信、地絡発生フィーダに設けられたHSCB(直流高速度遮断器)トリップ指令の発信を行い、ステップS7の判定結果がNOの場合は処理を終了する。
【0050】
前記地絡演算開始時刻は、大地~レール間電圧Veが、設定した第1の電圧(
図3の固定の設定値Ve1)を超えた時刻t1とする他に、
図3のVe0は負荷状態により変化するので、Ve0を基準とした電圧増分を用いても良い。すなわち、基準時刻t0に検出した電圧Ve0から、設定した第2の電圧分増加した時刻を地絡演算開始時刻としても良い。例えば、第2の電圧を50Vに設定すると、Ve0=100VのときはVe1=150Vになった時刻が地絡演算開始時刻であり、Ve0=200VのときはVe1=250Vになった時刻が地絡演算開始時刻である。
【0051】
以上のように本実施形態例によれば、地絡抵抗を介した電流の比較的小さい地絡でも地絡事故と判断することができる。
【0052】
直流き電回路には3相交流回路における零相という概念が無いため、地絡事故の検出も電流の大きさで判断しており、負荷電流(数千A)より大きな値でしか事故検出できなかったが、本発明を適用すれば1000A未満の電流であっても地絡による電流と判断することが可能となる。
【0053】
且つ、どの電車線(フィーダ)における地絡かを判断し、選択遮断することができる。また、地絡発生と同時に高速演算を開始するため迅速な地絡検出ができる。
【符号の説明】
【0054】
1…整流器
2、4…遮断器
3…正極母線
5…レール
11~14…フィーダ
21~24…直流電流検出器
30…電車
64P…地絡過電圧継電器
64FP…地絡リレー
V-TD…高速電圧変換器
F11~F14…直流高速度遮断器