(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155807
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
H01G9/20 111C
H01G9/20 111A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059213
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(57)【要約】
【課題】簡易且つ環境負荷の低い方法で作製することができ、焼成時の割れが生じにくく、保存中に不均一化しにくく、エネルギー変換効率の高い電極を形成することができる金属酸化物ペースト組成物を提供する。
【解決手段】金属酸化物、バインダ及び有機溶媒を含有する光電変換素子用ペースト組成物であって、前記バインダは、水溶性又は水分散性バインダを含み、前記有機溶媒は、沸点120℃以上の水溶性有機溶媒を含み、且つ、前記光電変換素子用ペースト組成物の総量を100質量%として、前記金属酸化物の含有量が5~25質量%であり、前記有機溶媒の含有量が60~92.5質量%であり、前記金属酸化物の総量を100質量%として、前記バインダの含有量が30~70質量%である、ペースト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物、バインダ及び有機溶媒を含有する光電変換素子用ペースト組成物であって、
前記バインダは、水溶性又は水分散性バインダを含み、
前記有機溶媒は、沸点120℃以上の水溶性有機溶媒を含み、且つ、
前記光電変換素子用ペースト組成物の総量を100質量%として、前記金属酸化物の含有量が5~25質量%であり、前記有機溶媒の含有量が60~92.5質量%であり、
前記金属酸化物の総量を100質量%として、前記バインダの含有量が30~70質量%である、ペースト組成物。
【請求項2】
前記バインダが、水溶性セルロース化合物である、請求項1に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項3】
前記バインダが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、アルギン酸、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギナン、グァーガム、寒天、カラヤガム、サクシノグリカン、セルロースナノファイバー、デキストリン、キトサン、カードラン、アガロース、デキストラン、グルカン、グルコマンナン、キシラン及びキシログルカンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項4】
前記バインダの数平均分子量が15万以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒が、一般式(1):
R1(OR2)nOH
[式中、R1は水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。R2はアルキレン基を示す。nは0~5の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される有機溶媒を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、並びにこれらのモノアルキル誘導体及び酢酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項7】
前記金属酸化物が、酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項8】
色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項9】
色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池の負極用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の光電変換素子用ペースト組成物の製造方法であって、
(1)前記金属酸化物を含む水分散液と、前記バインダと、前記有機溶媒とを、同時又は逐次的に混合する工程
を備える、製造方法。
【請求項11】
前記工程(1)が、前記金属酸化物を含む水分散液と前記有機溶媒とを混合した後に、前記バインダと混合する工程である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、
(2)前記工程(1)で得られた分散液を濃縮する工程
を備える、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
導電性基板上に、請求項1~9のいずれかに記載の光電変換素子用ペースト組成物の乾燥物からなる多孔質塗膜が形成された、光電変換素子用負極。
【請求項14】
色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池用負極である、請求項13に記載の光電変換素子用負極。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の光電変換素子用負極を備える、光電変換素子。
【請求項16】
色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池である、請求項15に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池やペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子の負極は、酸化チタン等の金属酸化物ペースト組成物を導電性基板の上に塗布し、焼成したのち、色素を担持して作製する方法が最も一般的である。
【0003】
この金属酸化物ペースト組成物について、より高性能な(変換効率が高い)もの、より塗布性が良好で均質な膜が得られるものが望まれている。この際、金属酸化物ペースト組成物を構成する溶媒としては、通常α-テルピネオール等のアルコール性OH基を有する溶媒が使用されている(特許文献1等)。
【0004】
しかしながら、色素担持量を増やすために、粒径の小さい金属酸化物ナノ粒子を用いた場合、従来の金属酸化物ペースト組成物においては、上記のようにアルコール性OH基を有する溶媒を使用しているため、ペーストの焼成後、割れやすいという問題があった。
【0005】
このようなクラックの問題を解決するため、簡易且つ環境負荷の低い金属酸化物ペースト組成物を作製する方法として、金属酸化物に水と硝酸等の酸、アセチルアセトン等の表面改質剤、Triton X-100等の界面活性剤、ポリエチレングリコール等の高分子バインダを加え、ボールミル等で均一化する方法も知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】三重県科学技術振興センター工業研究部研究報告(29),24-28,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エネルギー変換効率の高い水ベースの金属酸化物ペースト組成物を作製するためには、水熱合成法によって合成された金属酸化物ナノ粒子を用いることが多いが、バインダとして最も用いられるエチルセルロースは水に溶けない。よって、溶媒をα-テルピネオールに置換することが行われているが、α-テルピネオールは非水溶性溶媒であるため、水からエタノールに置換し、次いで、エタノールからα-テルピネオールに置換する手法が用いられる。このように、複数回の溶媒置換が行われる一方で、水熱合成法によって合成された金属酸化物ナノ粒子は非常に粒子が小さく分散性がよいことから、ろ過で溶媒置換をすることは不可能で、遠心分離による溶媒置換もスケールアップが困難である。
【0009】
一方、上記に挙げた水ベースで金属酸化物ペースト組成物を作製する方法は、水熱合成法によって合成されたものから直接金属酸化物ペースト組成物を作製することができるが、水の沸点が低いために保存や印刷中に粘度上昇等状態が変わりやすい問題、保存中に不均一化しやすい問題、硝酸の有害性や周囲の腐食の問題等があり、工業的には使用できない。
【0010】
そこで、本発明は、簡易且つ環境負荷の低い方法で作製することができ、焼成時の割れが生じにくく、保存中に不均一化しにくく、エネルギー変換効率の高い電極を形成することができる金属酸化物ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、金属酸化物と、水溶性又は水分散性バインダと、特定の有機溶媒とを特定量使用したペースト組成物を使用することで、上記課題を解決し、簡易且つ環境負荷の低い方法で作製することができ、焼成時の割れが生じにくく、保存中に不均一化しにくく、エネルギー変換効率の高い電極を形成することができることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0012】
項1.金属酸化物、バインダ及び有機溶媒を含有する光電変換素子用ペースト組成物であって、
前記バインダは、水溶性又は水分散性バインダを含み、
前記有機溶媒は、沸点120℃以上の水溶性有機溶媒を含み、且つ、
前記光電変換素子用ペースト組成物の総量を100質量%として、前記金属酸化物の含有量が5~25質量%であり、前記有機溶媒の含有量が60~92.5質量%であり、
前記金属酸化物の総量を100質量%として、前記バインダの含有量が30~70質量%である、ペースト組成物。
【0013】
項2.前記バインダが、水溶性セルロース化合物である、項1に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0014】
項3.前記バインダが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、アルギン酸、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギナン、グァーガム、寒天、カラヤガム、サクシノグリカン、セルロースナノファイバー、デキストリン、キトサン、カードラン、アガロース、デキストラン、グルカン、グルコマンナン、キシラン及びキシログルカンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0015】
項4.前記バインダの数平均分子量が15万以下である、項1~3のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0016】
項5.前記有機溶媒が、一般式(1):
R1(OR2)nOH
[式中、R1は水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。R2はアルキレン基を示す。nは0~5の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される有機溶媒を含有する、項1~4のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0017】
項6.前記有機溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、並びにこれらのモノアルキル誘導体及び酢酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項1~5のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0018】
項7.前記金属酸化物が、酸化チタン及び/又は酸化亜鉛を含有する、項1~6のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0019】
項8.色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池用である、項1~7のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0020】
項9.色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池の負極用である、項1~8のいずれか1項に記載の光電変換素子用ペースト組成物。
【0021】
項10.項1~9のいずれかに記載の光電変換素子用ペースト組成物の製造方法であって、
(1)前記金属酸化物を含む水分散液と、前記バインダと、前記有機溶媒とを、同時又は逐次的に混合する工程
を備える、製造方法。
【0022】
項11.前記工程(1)が、前記金属酸化物を含む水分散液と前記有機溶媒とを混合した後に、前記バインダと混合する工程である、項10に記載の製造方法。
【0023】
項12.さらに、
(2)前記工程(1)で得られた分散液を濃縮する工程
を備える、項10又は11に記載の製造方法。
【0024】
項13.導電性基板上に、項1~9のいずれかに記載の光電変換素子用ペースト組成物の乾燥物からなる多孔質塗膜が形成された、光電変換素子用負極。
【0025】
項14.色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池用負極である、項13に記載の光電変換素子用負極。
【0026】
項15.項13又は14に記載の光電変換素子用負極を備える、光電変換素子。
【0027】
項16.色素増感太陽電池又はペロブスカイト太陽電池である、項15に記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡易且つ環境負荷の低い方法で作製することができ、焼成時の割れが生じにくく、保存中に不均一化しにくく、エネルギー変換効率の高い電極を形成することができる金属酸化物ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0030】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0031】
以下、本発明の実施形態を説明するが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【0032】
1.光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物は、金属酸化物、バインダ及び有機溶媒を含有する光電変換素子用ペースト組成物であって、前記バインダは、水溶性又は水分散性バインダを含み、前記有機溶媒は、沸点120℃以上の水溶性有機溶媒を含み、且つ、前記ペースト組成物の総量を100質量%として、前記金属化合物の含有量が5~25質量%であり、前記バインダの含有量が2~15質量%であり、前記溶媒の含有量が60~92.5質量%である。
【0033】
(1-1)金属酸化物
金属酸化物としては、光半導体であることが好ましい。具体的には、チタン、亜鉛、スズ等の酸化物が挙げられ、チタン、亜鉛等の酸化物が好ましい。つまり、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛等がより好ましく、酸化チタンがさらに好ましい。
【0034】
本発明において、「酸化チタン」とは、二酸化チタン(TiO2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3);一酸化チタン(TiO);Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含むものである。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。また同様に、「酸化亜鉛」も、ZnOだけでなく、アンチモン酸亜鉛等も含む概念である。さらに、「酸化スズ」についても同様に、二酸化スズ(SnO2)だけでなく、一酸化スズ(SnO)等も含む概念である。
【0035】
上記の金属酸化物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、上記の金属酸化物は、公知又は市販品を使用することができる。
【0036】
酸化チタンを用いる場合は、活性が高いアナターゼ型酸化チタンを含むことが好ましい。より詳細には、酸化チタンのうち50%以上、特に70%以上がアナターゼ型酸化チタンであることが好ましい。ただし、ルチル型、ブルッカイト型等の酸化チタン結晶の他、アモルファス酸化チタン等を含んでいてもよい。
【0037】
金属酸化物のサイズとしては、平均粒子径が5~100nmのナノサイズ、つまり、金属酸化物ナノ粒子であることが好ましく、その平均粒子径は10~50nmであることがより好ましい。ただし、光を散乱させるために、上記の平均粒子径5~100nmの金属酸化物ナノ粒子以外に、平均粒子径100nm以上の金属酸化物粒子や、アスペクト比を有する金属酸化物(酸化チタンナノチューブ、酸化チタンナノワイヤ等の繊維状又はチューブ状金属酸化物)を含有していてもよい。なお、金属酸化物のサイズ(平均粒子径)は、BET法により測定される比表面積から平均粒子径を計算により算出する。
【0038】
本発明においては、ペースト組成物を乾燥又は焼成させるときに、割れやすくなる小さい(平均粒子径が5~100nm程度である)金属酸化物を使用した場合であっても、割れを抑制できる点で有用である。このため、本発明では、色素担持量を増やすために、金属酸化物の平均粒子径を小さくすることが可能である。
【0039】
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物中の金属酸化物の含有量は、光電変換素子用ペースト組成物の総量を100質量%として、5~25質量%、好ましくは7~23質量%、より好ましくは10~20質量%である。金属酸化物の含有量が5質量%未満では、必要な膜厚を確保するための印刷回数が増え、効率的ではない。また、金属酸化物の含有量が25質量%をこえると、粘度が上がりすぎて印刷が困難になる。なお、金属酸化物を複数使用する場合は、合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。また、ペロブスカイト太陽電池用にペーストを希釈する場合、希釈後の金属酸化物の濃度は上記の限りではなく薄くてもよい。
【0040】
(1-2)バインダ
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物には、光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物の粘度を増大させてチキソ性を持たせ、且つ、焼成後に粒子間に空隙を与え多孔質化を促進し、焼成時の割れを抑制するバインダが含まれている。
【0041】
バインダとしては、上記のとおり、エチルセルロース等の水に溶解しないバインダを使用する場合は、溶媒をα-テルピネオールに置換するために複数回の溶媒置換を行うことが必要である一方、金属酸化物ペースト組成物においてはろ過で溶媒置換をすることは不可能で、遠心分離による溶媒置換もスケールアップが困難であることから、本発明では、水溶性又は水分散性バインダを使用する。なかでも、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物には有機溶媒(沸点120℃以上の水溶性有機溶媒)も含まれているため、本発明で使用するバインダは、有機溶媒中にも溶解又は分散する(有機溶媒溶解性又は有機溶媒分散性)であることが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、「水溶性」又は「有機溶媒溶解性」とは、それぞれ、水又は有機溶媒に溶解する性質を意味しており、具体的には、常温(25℃)において水又は有機溶媒に10g/L以上添加して均一且つ透明な状態が保持できることを意味する。ただし、その場合分子レベルまで均一であることを意味しない。例えば、一般的に「水溶性」とされているセルロース誘導体は水に添加して攪拌すると透明かつ均一な状態となるが、電子顕微鏡で観察するとナノファイバー状であるケースもある。
また、有機溶媒の水溶性については、任意の割合で水と均一にまじりあうことを意味する。
【0043】
また、本明細書において、「水分散性」又は「有機溶媒分散性」とは、それぞれ、水又は有機溶媒に対して乳化又は分散して微粒子状態で安定化できる性質を意味しており、具体的には、室温(25℃)において水100質量部にバインダを1質量部添加した場合に、1時間以上静置しても沈殿が確認できないことを意味し、上記の水溶性、有機溶媒溶解性を包含するが、必ずしも分子レベルで均一でなくてもよく、白濁していてもよい。
【0044】
このようなバインダとしては、なかでも、金属酸化物との親和性等の観点から、水酸基を有するバインダ(好ましくは、水酸基を有する高分子化合物、特に、水酸基を有する多糖類)が好ましい。
【0045】
このような特性を有するバインダとして、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、アルギン酸、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギナン、グァーガム、寒天、カラヤガム、サクシノグリカン、セルロースナノファイバー、デキストリン、キトサン、カードラン、アガロース、デキストラン、グルカン、グルコマンナン、キシラン、キシログルカン等の水酸基を有する多糖類が挙げられる。
【0046】
上記したバインダは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。上記のバインダは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、上記の金属酸化物は、公知又は市販品を使用することができる。
【0047】
これらのなかでも、金属酸化物との親和性や焼成時の分解しやすさ、チキソ性等の観点で、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩等の水溶性セルロース化合物が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース等がより好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等がさらに好ましく、後述の有機溶媒との親和性の観点からヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が特に好ましい。
【0048】
これら水溶性セルロース化合物を使用する場合は、その置換度は、特に制限されるわけではないが、水溶性、有機溶媒溶解性、金属酸化物との親和性、焼成時の分解しやすさ(クラックの発生しにくさ)、チキソ性、エネルギー変換効率等の観点から、0.3~5が好ましく、0.5~4がより好ましい。
【0049】
上記バインダの数平均分子量は特に制限されるものではなく、バインダの種類や要求される粘度によって最適な数平均分子量は異なるが、焼成時の焼け残りを抑制しやすい観点から、15万以下が好ましく、12万以下がより好ましい。なお、バインダの数平均分子量の下限値は特に制限はなく、通常1万程度である。
【0050】
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物中のバインダの含有量は、金属酸化物の総量を100質量%として、30~70質量%、好ましくは40~65質量%、より好ましくは45~60質量%である。バインダの金属酸化物に対する比率が30質量%未満の場合、細孔が十分に形成されず、印刷に必要な粘度やチキソ性が確保できない。また、バインダの金属酸化物に対する比率が70質量%をこえると、細孔が大きすぎて焼成後の多孔質構造がぜい弱になり強度が保持できず、電極の面積あたりのチタニアの表面積が確保できず、発電時の電流が低下する。なお、バインダを複数使用する場合は、金属酸化物に対する合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0051】
(1-3)有機溶媒
光電変換素子用ペースト組成物に使用される有機溶媒は、水溶性且つ金属酸化物(酸化チタン等)と親和性が高く、且つ、後述の添加剤を溶解する溶媒が好ましいとされている。
【0052】
このような観点から、本発明においては、有機溶媒としては、沸点120℃以上の水溶性有機溶媒を使用する。
【0053】
有機溶媒の沸点は、使用中及び保存中の乾燥、粘度増大、不均一化防止のため120℃以上、ろ過や遠心分離を経ずに水から有機溶媒に溶媒置換を行いやすい観点から好ましくは140℃以上、有機溶媒をロスせずに水を除去して溶媒置換を行いやすい観点からより好ましくは160℃以上である。なお、有機溶媒の沸点の上限値は特に制限されないが、通常450℃である。
【0054】
また、有機溶媒の蒸気圧は、低いほうが揮発しにくく金属酸化物ペースト組成物の経時変化が少なく好ましい。具体的には、20℃における蒸気圧は0.05mmHg以下が好ましく、0.01mmHg以下がより好ましい。なお、有機溶媒の20℃における蒸気圧の下限値は特に制限されないが、通常0.00001mmHg程度である。
【0055】
このような有機溶媒としては、水溶性の観点からは、水酸基を有することが好ましく、また、金属酸化物の表面に過度に強固に結合しにくくしエネルギー変換効率を向上させやすい観点から、水酸基を1つだけ有することが好ましい。
【0056】
このような有機溶媒としては、一般式(1):
R1(OR2)nOH
[式中、R1は水素原子、アルキル基又はアシル基を示す。R2はアルキレン基を示す。nは0~5の整数を示す。nが2以上の場合、複数のR2は同一でも異なっていてもよい。]
で表される有機溶媒が好ましい。
【0057】
一般式(1)において、R1で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~6(特に1~4)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0058】
一般式(1)において、R1で示されるアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6(特に1~4)のアシル基が挙げられる。
【0059】
一般式(1)において、R1としては、なかでも、水溶性、金属酸化物との親和性、焼成時の分解しやすさ(クラックの発生しにくさ)、チキソ性、エネルギー変換効率等の観点から、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アセチル基等が好ましく、水素原子、メチル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アセチル基等がより好ましい。
【0060】
一般式(1)において、R2で示されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、3-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、1-エチルエチレン基、2-エチルエチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数2~10(特に2~6)の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基等が挙げられる。なかでも、水溶性、金属酸化物との親和性、焼成時の分解しやすさ(クラックの発生しにくさ)、チキソ性、エネルギー変換効率等の観点から、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数2~10(特に2~6)の直鎖状アルキレン基が好ましい。
【0061】
なお、後述のnが2以上の整数である場合、複数のR2は同一でもよいし、異なっていてもよいが、複数のR2は同一であることが簡便である。
【0062】
一般式(1)において、水溶性、金属酸化物との親和性、焼成時の分解しやすさ(クラックの発生しにくさ)、チキソ性、エネルギー変換効率等の観点から、nは0~5の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、1~3の整数がさらに好ましい。
【0063】
このような有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~6(特に1~5、さらには1~4)のアルコール化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等のグリコール化合物又はそのモノアルキル誘導体(モノアルキルエーテル)若しくは酢酸エステル等が挙げられる。
【0064】
グリコール化合物のモノアルキル誘導体(モノアルキルエーテル)において、アルキル基としては、上記したものが挙げられる。つまり、グリコール化合物のモノアルキル誘導体(モノアルキルエーテル)としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル、ブタンジオールモノメチルエーテル、ブタンジオールモノエチルエーテル、ブタンジオールモノプロピルエーテル、ブタンジオールモノブチルエーテル、ペンタンジオールモノメチルエーテル、ペンタンジオールモノエチルエーテル、ペンタンジオールモノプロピルエーテル、ペンタンジオールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0065】
グリコール化合物の酢酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールアセテート、ジエチレングリコールアセテート、トリエチレングリコールアセテート、テトラエチレングリコールアセテート、プロピレングリコールアセテート、ジプロピレングリコールアセテート、トリプロピレングリコールアセテート、テトラプロピレングリコールアセテート、ブタンジオールアセテート、ペンタンジオールアセテート等が挙げられる。
【0066】
上記のとおり、一般式(1)で表される有機溶媒が好ましいが、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等、水酸基を有さなくても十分な水溶性を有する有機溶媒も存在しており、これらの有機溶媒も好ましく使用することができる。
【0067】
上記の有機溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、上記の有機溶媒は、公知又は市販品を使用することができる。
【0068】
なかでも、有機溶媒としては、水溶性、金属酸化物との親和性、焼成時の分解しやすさ(クラックの発生しにくさ)、チキソ性、エネルギー変換効率等の観点から、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等が好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等がより好ましい。
【0069】
本発明においては、有機溶媒の含有量は、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物の総量を100質量%として、60~92.5質量%、好ましくは65~90質量%である。有機溶媒の濃度が60質量%未満では、粘度が高すぎてスクリーン印刷に適さない恐れがあり、細孔が小さくなりエネルギー変換効率が低下する。また、有機溶媒の濃度が92.5質量%をこえると、固形分濃度が薄すぎて製膜効率が悪く、細孔が大きくなり割れやすくなる。ただし、ペロブスカイト太陽電池の負極としてスピンコートで数100nmの厚みで製膜する場合は有機溶媒の含有量を少なくすることもできる。
【0070】
本発明においては、溶媒として水が少量含まれることを排除するものではないが、乾燥又は焼成時の揮発等による性能の経時変化を抑制する観点から、水の含有量は極力少ないことが好ましい。このため、溶媒の総量を100質量%として、上記した有機溶媒の含有量は、95~100質量%が好ましく、98~100質量%がより好ましい。
【0071】
(1-4)その他成分
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物には、他にも、通常、色素増感太陽電池やペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物に配合される添加剤、例えば、金属酸化物を分散する分散剤、光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物の粘度を増大しチキソ性を持たせる増粘剤、塗膜の平滑性を増すレベリング剤、上記した有機溶媒と相溶性のある他の有機溶媒等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0072】
2.製造方法
本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物の製造方法は、特に制限されるわけではないが、
(1)前記金属酸化物を含む水分散液と、前記バインダと、前記有機溶媒とを、同時又は逐次的に混合する工程
を備えることが好ましい。
【0073】
工程(1)において、工程方法は、特に制限されず、常法にしたがい行うことができる。
【0074】
混合順序は特に制限はなく、同時でも逐次的でもよいが、バインダを投入した後は高粘度化するため、バインダは後から投入することが好ましい。つまり、工程(1)は、金属酸化物を含む水分散液と有機溶媒とを混合した後に、バインダと混合する工程とすることが好ましい。
【0075】
また、バインダがダマになることを抑制しやすくするため、あらかじめ溶媒に溶解しておくことが好ましい。この際使用できる溶媒としては、水、上記した有機溶媒、水及び上記した有機溶媒の双方に対して相溶性を有する溶媒等が使用できる。ただし、バインダをあらかじめ溶媒に溶解せずに添加することも可能である。
【0076】
また、作業性を考慮して、金属酸化物の濃度が低い状態で一度分散液を作製し、その後濃縮することも好ましく行われる。つまり、前記工程(1)の後、
(2)前記工程(1)で得られた分散液を濃縮する工程
を備えることが好ましい。
【0077】
濃縮の方法は特に制限されず、例えば、エバポレータ等を用いて行うことができる。
【0078】
3.負極
色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用の電極(特に負極)を形成する際には、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物を用いて得られる多孔質塗膜を、樹脂基板又はガラス基板の上に形成することが好ましい。
【0079】
樹脂基板としては、導電性の樹脂基板であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート樹脂基板(PEN樹脂基板)、ポリエチレンテレフタレート樹脂基板(PET樹脂基板)等のポリエステル;ポリアミド;ポリスルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンサルファイド;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリメチルメタクリレート;ポリスチレン;トリ酢酸セルロース;ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0080】
ガラス基板としても特に制限はなく、公知又は市販のものを使用でき、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等のいずれでもよい。
【0081】
この樹脂基板又はガラス基板としては、板厚が0.05~10mm程度のものを使用できる。
【0082】
本発明では、多孔質塗膜は、樹脂基板又はガラス基板の表面上に直接形成されていてもよいが、透明導電膜を介して形成されていてもよい。
【0083】
透明導電膜としては、例えば、スズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンドープ酸化スズ膜(ATO膜)アルミニウムドープ酸化亜鉛膜(AZO膜)、ガリウムドープ酸化亜鉛膜(GZO膜)等が挙げられる。これらの透明導電膜を介することで、発生した電流を外部にとりだすことが容易となる。これらの透明導電膜の膜厚は、0.02~10μm程度とするのが好ましい。
【0084】
本発明の電極(特に負極)としては、例えば、以下に示す2態様が挙げられる。
【0085】
(3-1)態様1
樹脂基板又はガラス基板上に、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物を用いて得られる多孔質塗膜を、透明導電膜を介して形成し、本発明の色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用電極とすることができる。なお、樹脂基板、ガラス基板及び透明導電膜は上述したとおりのものである。
【0086】
具体的には、以下のように、本発明の色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用電極を形成することができる。
【0087】
まず、樹脂基板又はガラス基板上に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、ゾルーゲル法、ナノ粒子コンポジット等により透明導電膜を形成する。これにより得られる基板の表面抵抗は、50Ω/□以下とすることが好ましい。
【0088】
そして、その上に、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物を塗布し、乾燥又は焼成することが好ましい。樹脂基板を使用する場合には、加熱条件は、150℃以下とすることが好ましい。
【0089】
この際、得られる塗膜の膜厚が2~40μm程度となるように塗布することが、割れ抑制及び基板との密着性の観点から好ましい。
【0090】
(3-2)態様2
樹脂基板又はガラス基板上に、本発明の光電変換素子用金属酸化物ペースト組成物を用いて得られる多孔質塗膜を直接形成し、さらにその上に、多孔質金属膜を形成して本発明の色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用電極としてもよい。なお、樹脂基板及びガラス基板は上述したとおりのものである。また、樹脂基板又はガラス基板上に多孔質塗膜を形成する際には、上記態様1と同様の方法を採用することができる。
【0091】
態様2で使用できる多孔質金属膜としては、ヨウ素イオン、臭素イオン等の電解液中に含まれるイオンに侵されない(反応しない)金属であれば特に限定されないが、例えば、チタン、タングステン、白金、金等が挙げられる。これらの多孔質金属膜を形成することで、発生した電流を外部にとりだすことがより容易となる。これらの多孔質金属膜の表面抵抗率は、特に限定されないが、10Ω/□以下が好ましく、膜厚も特に限定されないが、150nm以上とするのが好ましい。
【0092】
樹脂基板又はガラス基板上に形成された多孔質塗膜のさらに上に、多孔質金属膜は、スパッタ法等の薄膜形成法により形成できる。
【0093】
4.光電変換素子(色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等)
本発明の光電変換素子(特に色素増感太陽電池)は、本発明の色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用電極の多孔質塗膜の上に対向電極(対極)を形成し、これら電極間を電解液で満たすことにより得られる。
【0094】
電解液としては、ヨウ素イオン等の電解質をより多く溶解できるよう、誘電率の高いものが好ましく、また、溶解したイオンが移動し易いよう、粘度が低いものが好ましい。このような溶媒としては、特に制限されるわけではないが、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物;エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類;メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン極性物質;水等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0095】
対極は、導電性材料からなる単層構造でもよいし、導電層と基板とから構成されていてもよい。基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、樹脂でも良い。かかる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。また、電荷輸送層上に直接導電性材料を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)して対極を形成してもよい。
【0096】
導電性材料としては、白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属や、炭素材料、導電性有機物等の比抵抗の小さな材料が用いられる。
【0097】
また、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いても良い。金属リードは白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属からなるのが好ましく、アルミニウム又は銀からなるのが特に好ましい。
【0098】
本発明では、対極を形成する前に、本発明の電極の光吸収効率を向上すること等を目的として、多孔質塗膜に色素を担持(吸着、含有など)させることが好ましい。
【0099】
色素は、可視域や近赤外域に吸収特性を有し、半導体層の光吸収効率を向上(増感)させる色素であれば特に限定されないが、金属錯体色素、有機色素、天然色素、半導体等が好ましい。また、多孔質塗膜への吸着性を付与するために、色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ホスホニル基、カルボキシルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホニルアルキル基、ホスホニルアルキル基等の官能基を有するものが好適に用いられる。
【0100】
金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、亜鉛、水銀の錯体(例えば、メリクルクロム等)や、金属フタロシアニン、クロロフィル等を用いることができる。また、有機色素としては、例えば、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、金属フリーフタロシアニン系色素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。色素として用いることができる半導体としては、i型の光吸収係数が大きなアモルファス半導体や直接遷移型半導体、量子サイズ効果を示し、可視光を効率よく吸収する微粒子半導体が好ましい。通常、各種の半導体や金属錯体色素や有機色素の一種、又は光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することができる。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0101】
色素を多孔質塗膜に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に色素を溶解させた溶液を、多孔質塗膜上にスプレーコートやスピンコート等により塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。また、多孔質塗膜を溶液に浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は色素が充分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分~30時間、より好ましくは1~20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の色素の濃度としては、1~1000mmol/L、好ましくは10~500mmol/L程度である。
【0102】
用いる溶媒は特に制限されるものではないが、水及び有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2-ブタノン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0103】
色素間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を色素吸着液に添加し、多孔質塗膜に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0104】
未吸着の色素は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
【0105】
色素を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、多孔質塗膜の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4-t-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0106】
色素増感太陽電池は、上記のようにして得られる光電変換素子をモジュール化するとともに、所定の電気配線を設けることによって製造することができる。
【0107】
なお、上記では、色素増感太陽電池に適用する場合について説明したが、ペロブスカイト太陽電池に適用する場合についても、本発明の色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等の光電変換素子用電極を例えば負極として使用する他は、常法にしたがって形成することができる。
【実施例0108】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0109】
実施例1
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え15分撹拌し、水を550g加えた。この分散液のpHは2.5であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ60℃で沈殿がすべて溶解した。
【0110】
その後、常圧(0.1MPa)80℃で5時間撹拌した後、反応液に水を加え、合計800gに調製したところ半透明の分散液が得られた。この分散液には、酸化チタンは40g含まれていた。
【0111】
この分散液200gをチタン製オートクレーブに入れ、さらに220℃の熱風炉内で3時間反応を行った。この液を200℃で加熱してチタニアナノ粒子を回収し、平均粒子径をBET比表面積(93m2/g)から計算により算出したところ、16nmであった。またX線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ100%であった。
【0112】
この分散液200gに、40.6gの1,5-ペンタンジオールを加え、超音波分散を行った。さらに、ヒドロキシプロピルセルロース(分子量10万:富士フイルム和光純薬(株)製ヒドロキシプロピルセルロース3.0-5.9)を5g加え、超音波分散を行った。
【0113】
その後、60℃50hPaで水を留去し、55gの白色のペースト組成物を得た。
【0114】
なお、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0115】
このペースト組成物を、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)が形成されたガラス基板(10Ω/□)上に、乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、550℃で焼成したのち、5×10-4mol/LのRu色素(N719)に25℃で20時間浸漬し、色素増感太陽電池の負極を作製した。なお、焼成後、光学顕微鏡によりペースト組成物の焼成後にはクラック(割れ)が生じていないことを確認した。
【0116】
この負極を、白金をスパッタしたスズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)が形成されたガラス基板(正極)と貼り合わせ、電極間に電解液(3-メトキシプロピオニトリルにヨウ素0.15M、よう化リチウム0.1M、よう化エチルメチルイミダゾリウム0.5M、tert-ブチルピリジン0.5Mを溶解させたもの)を封入し、光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0117】
作製した光電変換素子(色素増感太陽電池)に、ソーラーシミュレータでAM1.5の条件下の100mW/cm2の強度の光を照射して、光電変換特性を評価した結果、光電変換効率は6.3%であった。
【0118】
なお、クラック(割れ)及び光電変換効率の測定は、以下の実施例及び比較例においても同様とした。
【0119】
実施例2
1,5-ペンタンジオール40.6gの代わりにジエチレングリコールモノブチルエーテル40.6gを使用する以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0120】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じず、透明な塗膜が得られた。また、光電変換効率は7.3%であった。
【0121】
また、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0122】
実施例3
ヒドロキシプロピルセルロース(分子量10万)をヒドロキシプロピルセルロース(分子量6万:冨士フイルム和光純薬(株)製ヒドロキシプロピルセルロース2.0-2.9)にする以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0123】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じず、透明な塗膜が得られた。また、光電変換効率は6.7%であった。
【0124】
また、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0125】
実施例4
ヒドロキシプロピルセルロース(分子量10万)をヒドロキシプロピルセルロース(分子量14万:富士フイルム和光純薬(株)製ヒドロキシプロピルセルロース6.0-10.0)にする以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0126】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じず、透明な塗膜が得られた。また、光電変換効率は6.2%であった。
【0127】
また、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0128】
実施例5
ジエチレングリコールモノブチルエーテル40.6gを36.1gとする以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0129】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じず、透明な塗膜が得られた。また、光電変換効率は6.9%であった。
【0130】
また、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0131】
実施例6
ジエチレングリコールモノブチルエーテル40.6gを33.4gとする以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0132】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じず、透明な塗膜が得られた。また、光電変換効率は6.2%であった。
【0133】
また、ペースト組成物の外観は1か月後も変化がなかった。
【0134】
比較例1
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製:平均粒子径7nm)18gに酢酸60g、エタノール100g、α-テルピネオール73g、エチルセルロース10質量%エタノール溶液90gを加え、40℃70hPaで濃縮を行い、ペースト組成物100gを得た。このペースト組成物を用いて実施例1と同様に実験を行った。
【0135】
その結果、ペースト組成物焼成後にクラック(割れ)が生じ、白濁していた。また、光電変換効率は5.8%であった。
【0136】
また、1週間後にはペースト組成物は高粘度化し、かつ滑らかさを失い不均一な状態となっていた。
【0137】
比較例2
チタニアナノ粒子ST-21(石原産業(株)製:平均粒子径30nm)18gに水30g、アセチルアセトン0.6g、界面活性剤(Triton X-100)0.1g、ポリエチレングリコール(数平均分子量20000:Sigma-Aldrich製)を9g加え、ペイントシェーカーで浸透した結果、ペースト組成物を得た。このペースト組成物を用いて実施例1と同様に実験を行った。
【0138】
その結果、ペースト焼成後にクラック(割れ)が生じなかったが、白濁していた。また、光電変換効率は5.7%であった。
【0139】
また、1か月後にはペースト組成物は高粘度化し、かつ滑らかさを失い不均一な状態となっていた。
【0140】
このように、バインダと溶媒とを選択することにより、高いエネルギー変換効率の金属酸化物ペースト組成物を作製することができた。また、従来の水系ペースト組成物と比較して経時安定性も優れていた。