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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155833
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両用音生成装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20221006BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G10K15/04 303E
G10K15/04 302J
H04S7/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059253
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】服部 之総
(72)【発明者】
【氏名】大槻 修平
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】野村 貴俊
【テーマコード(参考)】
5D162
【Fターム(参考)】
5D162AA07
5D162CA06
5D162CA11
5D162CC04
5D162CD10
5D162CD34
5D162DA04
5D162EG03
(57)【要約】
【課題】車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させる。
【解決手段】音を表す音信号を生成するとともに、音の定位を設定するように構成されたコントローラ10(音制御部11)と、コントローラ10により定位が設定された音信号に応じた音を出力する左右のフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bとを有し、コントローラ10は、音の少なくとも一部の周波数成分(低周波数成分)の音像が、車両2のドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量(ピッチレート、トルク変化量、ロールレート、舵角速度等)に基づき音の定位を設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車両用音生成装置であって、
音を表す音信号を生成するとともに、前記音の定位を設定するように構成された音制御部と、
前記音制御部により定位が設定された前記音信号に応じた音を出力する音出力部と、を有し、
前記音制御部は、前記音の少なくとも一部の周波数成分の音像が、前記車両のドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、前記運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき前記音の定位を設定する、ことを特徴とする車両用音生成装置。
【請求項2】
前記音制御部は、前記物理量の単位時間当たりの変化量が所定値以下のとき、前記音像の位置が前記ドライバに対して特定の方向に偏らないように、前記音の定位を設定する、請求項1に記載の車両用音生成装置。
【請求項3】
前記車両は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行し、
前記音制御部は、複数の周波数を含む合成音信号を生成し、前記少なくとも一部の周波数成分以外の周波数成分の音像が、前記回転動力源の方向に位置するように、前記音の定位を設定する、請求項1又は2に記載の車両用音生成装置。
【請求項4】
前記少なくとも一部の周波数成分は、前記少なくとも一部の周波数成分以外の周波数成分よりも低周波数である、請求項3に記載の車両用音生成装置。
【請求項5】
前記車両は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行し、
前記運転操作に相関する物理量は、前記回転動力源の出力トルクを含み、
前記音制御部は、前記出力トルクの単位時間当たりの変化量に基づき、前記車両の前後方向における前記音の定位を設定する、
請求項1から4の何れか一項に記載の車両用音生成装置。
【請求項6】
前記運転操作に相関する物理量は、前記車両の舵角を含み、
前記音制御部は、前記舵角の単位時間当たりの変化量に基づき、前記車両の左右方向における前記音の定位を設定する、
請求項1から5の何れか一項に記載の車両用音生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用音生成装置に係り、特に車両走行中に所定の音を出力する車両用音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車速等の車両の運転状態やアクセル開度等のドライバの運転操作に応じて、疑似的なエンジン音やモータ音をドライバに向けて出力する技術が知られている。(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車室内音場制御装置では、運転状態に応じて音場制御手段の信号処理を制御することにより、複数のスピーカからエンジン音が再生され、そのエンジン音の音場が運転状態に応じて制御される。これにより、運転状態を反映した生々しいエンジン音を車室内に生成するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の車両用能動型効果音発生装置では、アクセル開度の単位時間当たりの変化量又はアクセル開度自体に応じてリアスピーカから出力する効果音に遅延を与えることにより、吸気音と排気音の時間差を考慮した効果音を出力したり、音源の移動感を演出したりするなど、運転者によるアクセルペダルの操作状態を反映した効果音を演出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-10810号公報
【特許文献2】特開2013-167851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献の技術は、単にエンジン音等の車両が元々発生させている音を再現するものに過ぎず、車両に加わる力の変化をドライバに知覚させることができなかった。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる車両用音生成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両に搭載された車両用音生成装置であって、音を表す音信号を生成するとともに、音の定位を設定するように構成された音制御部と、音制御部により定位が設定された音信号に応じた音を出力する音出力部と、を有し、音制御部は、音の少なくとも一部の周波数成分の音像が、車両のドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき音の定位を設定することを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき、音の少なくとも一部の周波数成分の音像位置を、ドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に移動させる。これにより、運転操作に応じて車両の荷重移動が発生しているときに、この荷重移動を、音の音像位置の移動によりドライバに容易に知覚させることができる。即ち、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量が所定値以下のとき、音像の位置がドライバに対して特定の方向に偏らないように、音の定位を設定する。
このように構成された本発明によれば、例えばドライバがステアリングホイールやアクセルペダルを一定に保持しており、車両において特定の方向への荷重移動が発生していないか、発生していても十分小さいときには、音像位置がドライバに対して特定の方向に偏らないようにするので、荷重移動が発生したときの音像位置の移動を一層容易にドライバに知覚させることができ、音出力部から出力される音が車両の荷重移動に関わる音であることをドライバに認識させやすくできる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、車両は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行し、音制御部は、複数の周波数を含む合成音信号を生成し、少なくとも一部の周波数成分以外の周波数成分の音像が、回転動力源の方向に位置するように、音の定位を設定する。
このように構成された本発明によれば、回転動力源の状態を伝える音と、車両の荷重移動に関わる音とを、音の到来方向の変化によりドライバが容易に区別することができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき定位を設定する少なくとも一部の周波数成分は、少なくとも一部の周波数成分以外の周波数成分よりも低周波数である。
このように構成された本発明によれば、重みや力強さを感じさせる低音の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させるので、車両の荷重が移動しているとドライバに一層容易に知覚させることができる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、車両は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行し、運転操作に相関する物理量は、回転動力源の出力トルクを含み、音制御部は、出力トルクの単位時間当たりの変化量に基づき、車両の前後方向における音の定位を設定する。
このように構成された本発明によれば、車両の加速度やサスペンションストロークより先に変化する回転動力源の出力トルクを用いて制御を行うので、車両の前後方向の挙動変化が生じるより早く低音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両の前後方向の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、運転操作に相関する物理量は、車両の舵角を含み、音制御部は、舵角の単位時間当たりの変化量に基づき、車両の左右方向における音の定位を設定する。
このように構成された本発明によれば、車両の加速度やサスペンションストロークより先に変化する舵角を用いて制御を行うので、車両の左右方向の挙動変化が生じるより早く低音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両の左右方向の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用音生成装置によれば、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の車両用音生成装置の説明図である。
図2】本発明の実施形態の車両用音生成装置の構成図である。
図3A】本発明の実施形態の車両用音生成装置による制御の基本概念の説明図である。
図3B】本発明の実施形態の車両用音生成装置による制御の基本概念の説明図である。
図4】本発明の第1実施形態の車両用音生成装置における音生成処理の流れの説明図である。
図5】本発明の第1実施形態の音生成処理のフローチャートである。
図6】本発明の実施形態のモータ回転数と音圧レベルとの関係を示す第1音圧レベル設定マップである。
図7】本発明の実施形態のモータトルク値と音圧レベルとの関係を示す第2音圧レベル設定マップである。
図8A】本発明の第1実施形態の音生成処理におけるイコライジング処理の一例を示すテーブルである。
図8B】本発明の第1実施形態の音生成処理におけるイコライジング処理の他の例を示すテーブルである。
図9】本発明の第2実施形態の車両用音生成装置における音生成処理の流れの説明図である。
図10】本発明の第2実施形態の音生成処理のフローチャートである。
図11】本発明の第2実施形態の前後方向の運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量と音圧レベルとの関係を示す第3音圧レベル設定マップである。
図12】本発明の第2実施形態の左右方向の運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量と音圧レベルとの関係を示す第4音圧レベル設定マップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明する。なお、特にこれらの実施形態を区別する必要が無い場合には単に「実施形態」といい、区別する場合には「第1実施形態」又は「第2実施形態」というものとする。
【0018】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の車両用音生成装置の構成を説明する。図1は車両用音生成装置の説明図、図2は車両用音生成装置の構成図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載されたコントローラ10と、車室内の運転席の前方から運転席に向かって音を出力する左右のフロントスピーカ20Aと、運転席の後方から運転席に向かって音を出力する左右のリアスピーカ20Bと、車両2の状態を検出する各種センサ群30とを備えている。
【0020】
車両2は、電動モータやエンジン等を含む回転動力源を用いて走行する車両であり、本実施形態では、電動モータ3を備えた電動車両(EV)であるが、これに限らず、車両2は、内燃機関と電動モータの両方を備えたハイブリッド車であってもよく、内燃機関のみを備えた車両であってもよい。
【0021】
コントローラ10は、プロセッサ、各種プログラムを記憶するメモリ(記憶部12)、データ入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。コントローラ10は、車内通信回線を介して、他の車載装置と通信可能に接続されている。コントローラ10は、センサ群30からの車両情報に基づいて、プロセッサがプログラムを実行することにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bに対して、音信号を出力するように構成されている。その際、コントローラ10のプロセッサは、以下に説明するように、音制御部11として機能する。
【0022】
フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、増幅器(アンプ)を備えた音出力部である。フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、コントローラ10から音信号を受け取り、音信号を所定の増幅率で増幅して、音信号に基づく音を出力する。なお、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bは、車室内に設けられていなくてもよく、ドライバに対してフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bが発生する音の定位ができればよい。また、本実施形態では、フロントスピーカ20Aは左右一対のスピーカFrL、FrRを備え、リアスピーカ20Bは左右一対のスピーカRrL、RrRを備えているが、それより多い数のスピーカを備えるようにしてもよい。
【0023】
センサ群30は、電動モータ3の回転数を検出する回転数センサ31と、電動モータ3を制御するPCM32と、車両2の舵角(ステアリングホイールの操舵角や操舵輪の実舵角を含む)を検出する舵角センサ33と、少なくとも車両2のピッチレート及びロールレートを検出するモーションセンサ34(例えば3Dジャイロセンサ)とを含む。これらセンサ群30は、車内通信回線を通して、検出した車両情報を示す信号を送信する。コントローラ10は、車内通信回線を介して、センサ群30から各種の車両情報信号を受け取ることができる。
【0024】
車両情報信号は、モータ回転数信号SR、モータトルク値信号ST、舵角信号SA、姿勢角信号SMを含む。コントローラ10(プロセッサ)は、モータ回転数信号SRからモータ回転数Rを読み取り、モータトルク値信号STからモータトルク値Tを読み取り、舵角信号SAから舵角速度ωsを読み取り、姿勢角信号SMからピッチレートωp及びロールレートωrを読み取る。モータトルク値Tは、電動モータ3への要求モータトルク値(又は、目標モータトルク値)である。なお、本実施形態では、反時計回りにステアリングホイールを操作しているときに舵角速度ωsが正になるものとする。また、車両2が前方にピッチングしているときに、ピッチレートωpが正になるものとする。また、車両2が右側にローリングしているときに、ロールレートωrが正になるものとする。
【0025】
PCM32は、コントローラ10と同様にプロセッサ、各種プログラムを記憶するメモリ,データ入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。PCM32は、車内通信回線を介して、車速信号、アクセル開度信号、その他信号を受け取る。PCM32は、アクセル開度及び変速段等(又はアクセル開度及びその変化率(アクセルの踏み込み速さ)並びに変速段等)と目標加速度との関係を規定する加速度特性マップ(PCM32のメモリに記憶されている)を用いて、現在のアクセル開度等から、目標加速度を計算する。さらに、PCM32は、目標加速度を実現するための要求モータトルク値(又は、目標モータトルク値)を算出する。
【0026】
なお、本実施形態では、モータトルク値Tが、電動モータ3への要求モータトルク値であるが、これに限らず、電動モータ3が実際に出力している実モータトルク値であってもよい。しかしながら、実モータトルク値よりも要求モータトルク値を用いる方が、ドライバのアクセル操作に対して、より迅速に音出力をドライバに提供することができるので、運転の操作性の向上に対するより大きな貢献が期待できる。この点において、実モータトルク値よりも要求モータトルク値を用いる方が好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、コントローラ10は、PCM32からモータトルク値信号STを受け取っているが、これに限らず、上述のようにコントローラ10が、加速度特性マップ等を用いて、アクセル開度等からモータトルク値Tを計算してもよい。
【0028】
次に、図3A及び図3Bを参照して、本実施形態の車両用音生成装置1による制御について説明する。図3A及び図3Bは、本実施形態の車両用音生成装置1による制御の基本概念の説明図である。これらの図3A及び図3Bにおいて、楕円の位置及び範囲はドライバを基準とする音像位置を概念的に表している。また、点線の楕円は、音像位置や音圧レベルが変化したときの変化前の状態を表し、実線は変化後の状態を表している。更に、二重線の楕円は、実線の楕円に比べて音圧レベルが高いことを示している。
【0029】
車両2が停止状態あるいは一定の速度で走行している状態から加速を開始すると、慣性力が車両2の重心に作用することにより前輪の荷重が減少すると共に後輪の荷重が増大する。即ち、前輪から後輪への荷重移動が発生する。また、車両2が直進状態から旋回を開始すると、慣性力が車両2の重心に作用することにより旋回内輪の荷重が減少すると共に旋回外輪の荷重が増大する。これらの場合、ドライバは、車両2が加速や旋回を開始したこと自体は知覚できても、加速度の変化速度(加加速度あるいは躍度)や荷重の移動を体の平衡感覚だけで知覚するのは難しい。そこで、本実施形態では、車両用音生成装置1は、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される音の音像定位を制御し、車両2の荷重移動に応じてドライバに対する音の到来方向を変化させることにより、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助けるようにしている。
【0030】
具体的には、コントローラ10は、複数の周波数の音の合成音を生成し、この合成音をドライバに対して左右のフロントスピーカ20A及び左右のリアスピーカ20Bから出力させる。ドライバの運転操作に相関する物理量(例えば、車両2の前後方向に関する運転操作に相関する物理量は、ピッチ角、モータトルク値、前後加速度等を含み、左右方向に関する運転操作に相関する物理量は、ロール角、舵角、左右加速度等を含む)の単位時間当たりの変化量(例えば、車両2の前後方向については、ピッチレート、トルク変化量、前後加加速度等であり、左右方向については、ロールレート、舵角速度、左右加加速度等)が所定値以下であるとき、即ち車両2において特定の方向への荷重移動が発生していないか、発生していても十分小さいときには、コントローラ10は、合成音のうち重みや力強さを感じさせる低周波数成分を、その音像位置がドライバに対して特定の方向に偏らないように(つまり重みや力強さを感じさせる低音がドライバの周囲から偏りなく聞こえるように)、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力させる。例えば、運転席のヘッドレストの前後左右における音圧レベルの差が4dB未満であれば、音像位置が偏っていないといえる。また、コントローラ10は、合成音のうちの高周波数成分の音像位置が、電動モータ3の方向に位置するように(つまり高音がドライバの前方から聞こえるように)、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bの定位を設定する(例えば、リアスピーカ20Bから出力される高周波数成分の音圧レベルを下げる)。
【0031】
図3Aは、車両2が一定車速で定常走行しているとき、あるいは、一定の加速度で加速を継続しているときの状態を表している。この場合、車両2の各車輪における接地荷重は一定になっており、特定の方向への荷重移動は発生していない。そこで、コントローラ10は、合成音のうち重みや力強さを感じさせる低周波数成分を、その音像位置がドライバに対して特定の方向に偏らないように、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力させる。
【0032】
一方、例えば、車両2が左カーブを走行しているときに、ドライバがステアリングホイールを左に切りながらアクセルペダルを踏み込んで加速を開始すると、図3Bに示すように車両2において右後輪の接地荷重が増加する(即ち右後輪への荷重移動が発生する)。この場合において、車両2のドライバの運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量が所定値より大きいとき、コントローラ10は、合成音のうちの重みや力強さを感じさせる低周波数成分の音像位置が、接地荷重が増加している車輪(ここでは右後輪)の方向に位置するように(つまり合成音の低周波数成分の発生源が右後輪の方向にあるとドライバが感じられるように)、右側のリアスピーカ20Bが出力する低周波数成分の音圧レベルを上昇させる。このように、重みや力強さを感じさせる低音の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させることにより、車両2の荷重が移動しているとドライバに知覚させることができる。なお、合成音の低周波数成分だけではなく、合成音の全成分の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させるようにしてもよい。また、コントローラ10が、単一の周波数の音を生成し、この音の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させるようにしてもよい。
【0033】
次に、図4を参照して、第1実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れを説明する。図4は、第1実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れの説明図である。
【0034】
図4に示すように、第1実施形態の車両用音生成装置1は、音生成処理において、まず、モータ回転数Rに基づいて、複数の周波数を設定する(周波数設定)。各周波数は、モータ回転数Rに比例するように設定される。つまり、モータ回転数Rが増加する程、各周波数が高くなる。
【0035】
次に、車両用音生成装置1は、設定した各周波数の音圧レベルを、モータ回転数Rとモータトルク値とに基づき設定する(音圧設定)。具体的には、モータ回転数Rと音圧レベルとの関係を規定した第1音圧レベル設定マップを参照して、モータ回転数Rに応じた第1音圧レベルp1を各周波数について設定し、モータトルク値と音圧レベルとの関係を規定した第2音圧レベル設定マップを参照して、モータトルク値に応じた第2音圧レベルp2を各周波数について設定する。そして、第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、各周波数の音の音圧レベルとする。なお、図4では第1音圧レベル設定マップと第2音圧レベル設定マップとがそれぞれ1つずつ示されているが、実際には複数の周波数それぞれについて第1及び第2音圧レベル設定マップが予め準備され、記憶部12に記憶されている。
【0036】
次に、車両用音生成装置1は、音圧を設定した各周波数の音を合成することにより、左右のフロントスピーカ20Aそれぞれのための前方チャンネルの合成音信号と、左右のリアスピーカ20Bそれぞれのための後方チャンネルの合成音信号との、計4チャンネルの合成音信号を生成する(合成音生成処理)。第1実施形態では、各チャンネルの合成音信号は、音圧設定において設定した全ての周波数の音を合成することにより生成される。つまり、この段階における各チャンネルの合成音信号は同じである。
【0037】
次に、車両用音生成装置1は、各チャンネルの合成音信号について、イコライジング及びゲイン調整を行う。このとき、車両用音生成装置1は、左右のリアスピーカ20B用のチャンネルの合成音信号における高周波数成分の音圧レベルを下げることにより、高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位を設定する。また、車両用音生成装置1は、ドライバの運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき、各チャンネルの合成音信号における低周波数成分の音圧レベルを調整することにより、低周波数成分の音像位置が、接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように定位を設定する。
【0038】
そして、車両用音生成装置1は、イコライジング及びゲイン調整後の左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRのそれぞれを、対応するスピーカに出力する。各スピーカ20A、20Bは合成音信号を受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する。
【0039】
次に、図5図8を参照して、第1実施形態の車両用音生成装置1の音生成処理について説明する。図5は第1実施形態の音生成処理のフローチャート、図6は本実施形態のモータ回転数と音圧レベルとの関係を示す第1音圧レベル設定マップ、図7は本実施形態のモータトルク値と音圧レベルとの関係を示す第2音圧レベル設定マップ、図8A及び図8Bは第1実施形態の音生成処理におけるイコライジング処理の概要を示すテーブルである。
【0040】
車両用音生成装置1は、図5に示す音生成処理を所定時間毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行する。
【0041】
音生成処理が開始されると、コントローラ10は、まず、車内通信回線を介して、センサ群30からセンサ情報を取得する(ステップS1)。上述のように、コントローラ10は、少なくともモータ回転数R、モータトルク値T、舵角速度ωs、ピッチレートωp及びロールレートωrを取得する。
【0042】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数設定処理を行う(ステップS2)。周波数設定処理では、モータ回転数Rに基づいて、複数の周波数を設定する。具体的には、1次周波数(基本周波数)であるモータ回転数Rに対する、5つの周波数f1~f5が以下の式により設定される。
fk(Hz)=R(Hz)×nk (式1)
【0043】
ここで、k=1~5であり、nkはモータ回転数Rに対する次数である。具体的には、例えば、n1は3.3、n2は4、n3は5.3、n4は6.7、n5は8である。例えば、3.3次周波数f1は、モータ回転数Rの3.3倍の周波数(R(Hz)×3.3)である。なお、本実施形態では、基本周波数をモータ回転数Rとしているが、これに限らず、基本周波数をモータ回転数Rの増加と共に増加する関係にある周波数としてもよい(例えば、比例関係)。
【0044】
例えば、モータ回転数Rが50Hz(3000rpm)の場合、周波数f1は165Hz、周波数f2は200Hz、周波数f3は265Hz、周波数f4は335Hz、周波数f5は400Hzである。
【0045】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12に記憶されている第1音圧レベル設定マップ(以下「マップM1」ともいう)を参照し、モータ回転数Rに基づいて、各周波数の第1音圧レベルp1を設定する(ステップS3)。図6に示すように、マップM1は、5つの次数n1~n5の周波数f1~f5の各々に対して設定されている。マップM1は、モータ回転数R(rpm)に対して、各周波数f1~f5の音S1~S5の第1音圧レベルp1(dB)が規定されている。
【0046】
マップM1では、概ねモータ回転数Rの増加に応じて第1音圧レベルp1も増加する。なお、本実施形態では、ドライバは、40dBよりも小さな音圧レベルの音をほとんど認識できず、目安として40dB以上の音圧レベル(可聴音圧レベル)の音を認識することができる。したがって、マップM1によれば、例えば、周波数f4では、モータ回転数Rが約2500rpm未満で第1音圧レベルp1が30dB未満に設定されているので、低速回転時には、ドライバは、周波数f4の音S4を聞き取ることができない。よって、ドライバは、合成音SCに含まれる30dB程度の周波数音を意識下で聞き取ることはできない。しかしながら、このような30dB程度の周波数音も無意識下でドライバの車両操作に影響を与えることもあり得る。
【0047】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第2音圧レベル設定マップ(「マップM2」ともいう)に基づいて、各周波数f1~f5の第2音圧レベルp2を設定する(ステップS4)。図7に示すように、マップM2は、次数n1~n5の周波数f1~f5の各々に対して設定されている。マップM2は、モータトルク値T(N・m)に対して、各周波数f1~f5における第2音圧レベルp2(dB)が規定されている。なお、マップM2において、正のモータトルクは、電動モータ3が力行状態で作動していることを示し、負のモータトルクは、電動モータ3が回生状態で作動していることを示している。
【0048】
マップM2では、各周波数f1~f5において、第2音圧レベルp2は負値であり、正のモータトルク値の増加に応じて第2音圧レベルp2も増加する。したがって、本実施形態では、モータ回転数Rにより第1音圧レベルp1が設定され、ドライバの加速要求(アクセル操作)が低いときは、第2音圧レベルp2により音圧レベルを下げるように補正された合成音が生成される。すなわち、加速時は、モータ回転数R又はモータトルク値Tが大きくなるほど、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bが出力する音の出力レベルが大きくなる。
【0049】
さらに、マップM2では、周波数f1、f3では、モータトルク値Tがゼロから増加しても、モータトルク値Tの増加量が所定量を超えるまでは、第2音圧レベルp2は増加しないように設定されている。これに対して、周波数f2、f4及び周波数f5では、モータトルク値Tがゼロから増加すると、所定量の増加を待つことなく、モータトルク値Tの増加量にほぼ比例して、第2音圧レベルp2が増加するように設定されている。したがって、ドライバがアクセル操作により、車両2を加速させるとき、必ず低い方の周波数f1、f3の音が強調されて出力される。すなわち、加速時は、少なくとも最も低い音域の音(k=1)の立ち上がりが早く、その後に、より高い音域の音(k=2、4、5)が追従する。
【0050】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数f1~f5の音S1~S5の第1音圧レベルp1と第2音圧レベルp2との和を、各周波数f1~f5の音S1~S5の音圧レベルとして設定し、音圧を設定した各周波数f1~f5の音S1~S5を合成することにより、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRを生成する(ステップS5)。
【0051】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRのそれぞれについて、個別にイコライジング処理を行う(ステップS6)。
【0052】
図8Aは、第1実施形態のイコライジング処理の一例として、ピッチレートωp及びロールレートωrに基づき各チャンネルの低周波数成分の音圧レベルを調整する場合の調整量を示している。この図8Aに示す例では、コントローラ10(音制御部11)は、車両2の前後方向に関する運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量としてピッチレートωpを使用し、車両2の左右方向に関する運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量としてロールレートωrを使用し、これらの変化量に基づき各チャンネルのイコライジングを行う。
【0053】
例えば、ロールレートωrの絶対値が所定値ωr0以下(-ωr0≦ωr≦ωr0)且つ、ピッチレートωpの絶対値が所定値ωp0以下(-ωp0≦ωp≦ωp0)の場合、つまりロールレートωrもピッチレートωpも十分に小さく、車両2において前後左右何れの方向においても荷重移動が十分小さいとき、コントローラ10(音制御部11)は、各チャンネルの合成音信号における低周波数成分の音圧レベルを、ステップS5の設定値から変更しない。
【0054】
また、例えばロールレートωrが負の所定値-ωr0より小さい場合(ωr<-ωr0、ここでは車両2の左方向へのロールレートの絶対値が所定値ωr0より大きい場合)、つまり車両2が右方向に旋回しており車両2の右から左への荷重移動が発生しているとき、コントローラ10(音制御部11)は、ピッチレートωpに応じて、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL及び左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRLの何れか又は両方における低周波数成分の音圧レベルを上昇させる。例えば、ピッチレートωpが所定値ωp0より大きい場合(ωp0<ωp、ここでは車両2の前方へのピッチレートが所定値ωp0より大きい場合)、つまり車両2が右方向に旋回しながら減速しており車両2の後方から前方への荷重移動も発生しているとき、コントローラ10(音制御部11)は、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFLにおける低周波数成分の音圧レベルだけを上昇させる。これにより、車両2の左前輪の接地荷重が増加しているときに、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音像位置が左前輪の方向に位置するように定位が設定される。
【0055】
同様に、図8Aに示すテーブルに従い、コントローラ10(音制御部11)は、ロールレートωr及びピッチレートωpのそれぞれの値に基づき、各チャンネルの合成音信号における低周波数成分の音圧レベルを調整する。これにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音像が、接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、合成音信号の定位を設定する。
【0056】
また、第1実施形態のイコライジング処理の他の例では、図8Bに示すように、コントローラ10(音制御部11)は、車両2の前後方向に関する運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量としてモータトルク値Tの変化量ΔTを使用し、車両2の左右方向に関する運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量として舵角速度ωsを使用し、これらの変化量に基づき各チャンネルのイコライジングを行う。この場合でも、図8Bに示すテーブルに従い、コントローラ10(音制御部11)は、舵角速度ωs及びモータトルク値Tの変化量ΔTのそれぞれの値に基づき、各チャンネルの合成音信号における低周波数成分の音圧レベルを調整する。これにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音像が、接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、合成音信号の定位を設定することができる。
【0057】
なお、図8A及び図8Bの例では、ピッチレートωp及びロールレートωr、あるいは舵角速度ωs及びモータトルク値Tの変化量ΔTのそれぞれ値が、3つに分割された数値範囲の何れに入るかに応じて低周波数成分の音圧レベルを調整するが、ピッチレートωp及びロールレートωr、あるいは舵角速度ωs及びモータトルク値Tの変化量ΔTに応じて連続的に低周波数成分の音圧レベルを調整するようにしてもよい。
【0058】
また、第1実施形態のイコライジング処理において、コントローラ10(音制御部11)は、左右のリアスピーカ20B用チャンネルの合成音信号SSRL、SSRRにおける高周波数成分の音圧レベルを40dB減少させる。図6及び図7に示したように、合成音の音圧レベルは最大で80dB程度に設定されているので、このイコライジング処理において音圧レベルを40dB減少させることにより、リアスピーカ20B用チャンネルの高周波数成分の音圧レベルは40dBより小さくなる。即ち、ドライバはリアスピーカ20Bから出力される音の高周波数成分を意識下で聞き取ることができなくなる。これにより、フロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される合成音の高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位が設定される。
【0059】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRのそれぞれについてゲイン調整処理を行い、各チャンネルの合成音全体としての振幅を調整する(ステップS7)。
【0060】
そして、各スピーカ20A、20Bは合成音信号を受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する(ステップS8)。
【0061】
次に、図9を参照して、第2実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れを説明する。図9は、第2実施形態の車両用音生成装置1における音生成処理の流れの説明図である。
【0062】
図9に示すように、第2実施形態の車両用音生成装置1は、音生成処理において、まず、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネル、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネル、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネル、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルのそれぞれについて、1つ又は複数の周波数を設定する(周波数設定)。各周波数は、モータ回転数Rに比例するように設定される。つまり、モータ回転数Rが増加する程、各周波数が高くなる。
【0063】
リアスピーカ20B用のチャンネルの周波数は、フロントスピーカ20A用のチャンネルの複数の周波数のうちの低周波数からなる。例えば、フロントスピーカ20A用のチャンネルの複数の周波数のうちの最も低い周波数をリアスピーカ20B用のチャンネルの周波数として設定する。あるいは、フロントスピーカ20A用の周波数より低い周波数を設定しても良い。これにより、合成音の高周波数成分はフロントスピーカ20Aのみから出力されるようになり、高周波数成分の音像位置がドライバの前方となるように定位が設定される。
【0064】
次に、車両用音生成装置1は、左右のフロントスピーカ20A用のチャンネル及び左右のリアスピーカ20B用のチャンネルのそれぞれについて設定した各周波数の音圧レベルを、モータ回転数Rと、モータトルク値Tと、ピッチレートωp又はモータトルク値Tの変化量ΔTと、ロールレートωr又は舵角速度ωsとに基づき設定する(音圧設定)。具体的には、第1実施形態と同様に、第1音圧レベル設定マップを参照して、モータ回転数Rに応じた第1音圧レベルp1を各周波数について設定し、第2音圧レベル設定マップを参照して、モータトルク値Tに応じた第2音圧レベルp2を各周波数について設定する。これらの第1音圧レベル設定マップ及び第2音圧レベル設定マップは、各チャンネルとも共通のマップが用いられる。
【0065】
更に、車両用音生成装置1は、第3音圧レベル設定マップを参照して、ピッチレートωp又はモータトルク値Tの変化量ΔTに応じた第3音圧レベルp3を各周波数について設定し、第4音圧レベル設定マップを参照して、ロールレートωr又は舵角速度ωsに応じた第4音圧レベルp4を各周波数について設定する。第3音圧レベルマップ及び第4音圧レベルマップにおいては、各マップのパラメータ(ピッチレートωp又はモータトルク値Tの変化量ΔTと、ロールレートωr又は舵角速度ωs)が所定値より大きいときに音圧レベルが上昇するように設定されている。また、第3音圧レベル設定マップ及び第4音圧レベル設定マップは、左右のフロントスピーカ20A用のチャンネル及び左右のリアスピーカ20B用のチャンネルのそれぞれについて異なるマップが用いられる。これにより、車両2において特定の方向への荷重移動が発生しているときに、接地荷重が増加している車輪の方向にあるスピーカから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するように、つまり合成音の低周波数成分の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させるように、合成音信号の定位を設定することができる。
【0066】
そして、このように設定した第1音圧レベルp1~第4音圧レベルp4の和を、各チャンネルにおける各周波数の音の音圧レベルとする。なお、図9では各チャンネルの第1音圧レベル設定マップ~第4音圧レベル設定マップがそれぞれ1つずつ示されているが、実際には各チャンネルの周波数それぞれについて第1~第4音圧レベル設定マップが予め準備され、記憶部12に記憶されている。
【0067】
次に、車両用音生成装置1は、音圧を設定した各チャンネルの各周波数の音を合成することにより、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRを生成する(合成音生成処理)。第2実施形態では、周波数設定において設定される周波数及び音圧設定において設定される音圧レベルが、各チャンネルで異なっているので、各チャンネルで異なる合成音信号が生成されることになる。
【0068】
そして、車両用音生成装置1は、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRのそれぞれを、対応するスピーカに出力する。各スピーカ20A、20Bは合成音信号を受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する。
【0069】
次に、図10図12を参照して、第2実施形態の車両用音生成装置1の音生成処理について説明する。図10は第2実施形態の音生成処理のフローチャート、図11は第2実施形態の運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量と音圧レベルとの関係を示す第3音圧レベル設定マップの一例、図12は第2実施形態の運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量と音圧レベルとの関係を示す音圧レベル設定マップの他の例である。
【0070】
車両用音生成装置1は、図10に示す音生成処理を所定時間毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行する。
【0071】
音生成処理が開始されると、コントローラ10は、まず、車内通信回線を介して、センサ群30からセンサ情報を取得する(ステップS11)。上述のように、コントローラ10は、少なくともモータ回転数R、モータトルク値T、舵角速度ωs、ピッチレートωp及びロールレートωrを取得する。
【0072】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、周波数設定処理を行う(ステップS12)。周波数設定処理では、モータ回転数Rに基づいて、左右のフロントスピーカ20A用のチャンネルのために複数の周波数を設定すると共に、左右のリアスピーカ20B用のチャンネルのために1つ又は複数の周波数を設定する。例えば、フロントスピーカ20A用のチャンネルについては、第1実施形態と同様に5つの周波数f1~f5を設定する。一方、リアスピーカ20B用のチャンネルについては、周波数f1を設定する。
【0073】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12に記憶されている第1音圧レベル設定マップ(マップM1)を参照し、モータ回転数Rに基づいて、各チャンネルについて設定した各周波数の第1音圧レベルp1を設定する(ステップS13)。
【0074】
フロントスピーカ20A用のチャンネルの第1音圧レベルp1は、第1実施形態と同様に設定される。即ち、図6に示すように、5つの周波数f1~f5の各々についてモータ回転数R(rpm)に応じた第1音圧レベルp1(dB)を規定したマップM1に基づき、フロントスピーカ20A用のチャンネルの第1音圧レベルp1が設定される。
【0075】
また、リアスピーカ20B用のチャンネルの第1音圧レベルp1は、1つの周波数f1についてモータ回転数R(rpm)に応じた第1音圧レベルp1(dB)を規定したマップM1に基づき設定される。このマップM1は、フロントスピーカ20A用のチャンネルの周波数f1について第1音圧レベルp1を設定するためのマップM1(図6(a))と同じものを用いることができる。
【0076】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第2音圧レベル設定マップ(マップM2)を参照し、モータトルク値Tに基づいて、フロントスピーカ20A用のチャンネルについて設定した各周波数の第2音圧レベルp2と、リアスピーカ20B用のチャンネルについて設定した周波数の第2音圧レベルp2とを設定する(ステップS14)。
【0077】
フロントスピーカ20A用のチャンネルの第2音圧レベルp2は、第1実施形態と同様に設定される。即ち、図7に示すように、5つの周波数f1~f5の各々についてモータトルク値T(N・m)に応じた第2音圧レベルp2(dB)を規定したマップM2に基づき、フロントスピーカ20A用のチャンネルの第2音圧レベルp2が設定される。
【0078】
また、リアスピーカ20B用のチャンネルの第2音圧レベルp2は、1つの周波数f1についてモータトルク値T(N・m)に応じた第2音圧レベルp2(dB)を規定したマップM2に基づき設定される。このマップM2は、前方チャンネルの周波数f1について第2音圧レベルp2を設定するためのマップM2(図7(a))と同じものを用いることができる。
【0079】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第3音圧レベル設定マップ(マップM3)を参照し、ピッチレートωp又はモータトルク値Tの変化量ΔTに基づいて、各チャンネルについて設定した周波数の第3音圧レベルp3を設定する(ステップS15)。第3音圧レベルp3は、図11(a)及び(b)に示すように、1つの周波数f1についてピッチレートωpに応じた第3音圧レベルp3(dB)を規定したマップM3、又は、図11(c)及び(d)に示すように、1つの周波数f1についてモータトルク値Tの変化量ΔTに応じた第3音圧レベルp3(dB)を規定したマップM3に基づき設定される。
【0080】
図11(a)及び(b)に示すように、ピッチレートωpに応じた第3音圧レベルp3(dB)を規定したマップM3では、ピッチレートωpが所定値(図11(a)では約5deg/s)より大きいとき、左右のフロントスピーカ20A(FrL、FrR)用のチャンネルの第3音圧レベルp3はステップ的に15dB増加するように設定されている。したがって、車両2の前方へのピッチレートωpが所定値を超え、車両2の後方から前方へ荷重移動が発生しているときに、左右のフロントスピーカ20Aから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの前方に位置するように定位が設定される。
【0081】
また、ピッチレートωpの絶対値が所定値以下(図11(a)及び(b)では-5deg/s≦ωp≦5deg/s)の場合、第3音圧レベルp3は0のまま増加しないように設定されている。更に、ピッチレートωpが所定値(図11(b)では約-5deg/s)より小さいとき、左右のリアスピーカ20B(RrL、RrR)用のチャンネルの第3音圧レベルp3はステップ的に15dB増加するように設定されている。したがって、車両2の後方へのピッチレートωpが所定値を超え、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに、左右のリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの後方に位置するように定位が設定される。
【0082】
また、図11(c)及び(d)に示す他の例でも、モータトルク値Tの変化量ΔTが負の所定値(約-250N・m/s)より小さく、車両2の後方から前方へ荷重移動が発生しているときに、左右のフロントスピーカ20Aから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇し、モータトルク値Tの変化量ΔTが所定値(約250N・m/s)より大きく、車両2の前方から後方へ荷重移動が発生しているときに、左右のリアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するように、第3音圧レベルp3(dB)が規定されている。
【0083】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、記憶部12内に記憶されている第4音圧レベル設定マップ(マップM4)を参照し、ロールレートωr又は舵角速度ωsに基づいて、各チャンネルについて設定した周波数の第4音圧レベルp4を設定する(ステップS16)。第4音圧レベルp4は、図12(a)及び(b)に示すように、1つの周波数f1についてロールレートωrに応じた第4音圧レベルp4(dB)を規定したマップM4、又は、図12(c)及び(d)に示すように、1つの周波数f1について舵角速度ωsに応じた第4音圧レベルp4(dB)を規定したマップM4に基づき設定される。
【0084】
図12(a)及び(b)に示すように、ロールレートωrに応じた第4音圧レベルp4(dB)を規定したマップM4では、ロールレートωrが負の所定値(図12(a)では約-5deg/s)より小さいとき、左フロントスピーカ20A(FrL)及び左リアスピーカ20B(RrL)用のチャンネルの第4音圧レベルp4はステップ的に15dB増加するように設定されている。したがって、車両2の左側へのロールレートωrが所定値を超え、車両2の右から左へ荷重移動が発生しているときに、左フロントスピーカ20A及び左リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの左に位置するように定位が設定される。
【0085】
また、ロールレートωrの絶対値が所定値以下(図12(a)及び(b)では-5deg/s≦ωr≦5deg/s)の場合、第4音圧レベルp4は0のまま増加しないように設定されている。更に、ロールレートωrが所定値(図12(b)では約5deg/s)より大きいとき、右フロントスピーカ20A(FrR)及び右リアスピーカ20B(RrR)用のチャンネルの第4音圧レベルp4はステップ的に15dB増加するように設定されている。したがって、車両2の右側へのロールレートωrが所定値を超え、車両2の左から右へ荷重移動が発生しているときに、右フロントスピーカ20A及び右リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するので、合成音の低周波数成分の音像位置がドライバの右に位置するように定位が設定される。
【0086】
また、図12(c)及び(d)に示す他の例でも、舵角速度ωsが負の所定値(約-40deg/s)より小さく、車両2の右から左へ荷重移動が発生しているときに、左フロントスピーカ20A及び左リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇し、舵角速度ωsが所定値(約40deg/s)より大きく、車両2の前左から右へ荷重移動が発生しているときに、右フロントスピーカ20A及び右リアスピーカ20Bから出力される合成音の低周波数成分の音圧レベルが上昇するように、第4音圧レベルp4(dB)が規定されている。
【0087】
次いで、コントローラ10(音制御部11)は、各周波数の音の第1音圧レベルp1、第2音圧レベルp2、第3音圧レベルp3及び第4音圧レベルp4の和を、各チャンネルにおける各周波数の音の音圧レベルとして設定し、音圧を設定した各周波数の音を合成することにより、左フロントスピーカ20A(FrL)用チャンネルの合成音信号SSFL、右フロントスピーカ20A(FrR)用チャンネルの合成音信号SSFR、左リアスピーカ20B(RrL)用チャンネルの合成音信号SSRL、及び右リアスピーカ20B(RrR)用チャンネルの合成音信号SSRRを生成する(ステップS17)。
【0088】
そして、左右のフロントスピーカ20A及び左右のリアスピーカ20Bのそれぞれは合成音信号を受け取り、増幅処理を行って合成音としてドライバに向けて出力する(ステップS18)。
【0089】
次に、本実施形態の車両用音生成装置1の作用効果について説明する。
本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載されており、音を表す音信号を生成するとともに、音の定位を設定するように構成されたコントローラ10(音制御部11)と、コントローラ10により定位が設定された音信号に応じた音を出力する左右のフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bと、を有し、コントローラ10(音制御部11)は、音の少なくとも一部の周波数成分(低周波数成分)の音像が、車両2のドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に位置するように、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量(例えば、車両2の前後方向については、ピッチレート、トルク変化量、前後加加速度等であり、左右方向については、ロールレート、舵角速度、左右加加速度等)に基づき音の定位を設定する。
【0090】
本実施形態では、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき、音の少なくとも一部の周波数成分の音像位置を、ドライバの運転操作に応じて接地荷重が増加している車輪の方向に移動させる。これにより、運転操作に応じて車両2の荷重移動が発生しているときに、この荷重移動を、音の音像位置の移動によりドライバに容易に知覚させることができる。即ち、車両に加わる力の変化をドライバが知覚することを助け、運転操作の精度を向上させることができる。
【0091】
また、本実施形態では、コントローラ10は、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量が所定値以下のとき、音像位置がドライバに対して特定の方向に偏らないように、音の定位を設定する。
【0092】
この構成により、本実施形態では、例えばドライバがステアリングホイールやアクセルペダルを一定に保持しており、車両2において特定の方向への荷重移動が発生していないか、発生していても十分小さいときには、音像位置がドライバに対して特定の方向に偏らないようにするので、荷重移動が発生したときの音像位置の移動を一層容易にドライバに知覚させることができ、左右のフロントスピーカ20A及びリアスピーカ20Bから出力される音が車両2の荷重移動に関わる音であることをドライバに認識させやすくできる。
【0093】
また、本実施形態では、コントローラ10は、複数の周波数を含む合成音信号を生成し、少なくとも一部の周波数成分(低周波数成分)以外の周波数成分(高周波数成分)の音像が、電動モータ3(回転動力源)の方向に位置するように、音の定位を設定する。
【0094】
この構成により、本実施形態では、電動モータ3(回転動力源)の状態を伝える音と、車両2の荷重移動に関わる音とを、音の到来方向の変化によりドライバが容易に区別することができる。
【0095】
また、本実施形態では、運転操作に相関する物理量の単位時間当たりの変化量に基づき定位を設定する少なくとも一部の周波数成分は、この少なくとも一部の周波数成分以外の周波数成分よりも低周波数である。
【0096】
この構成により、本実施形態では、重みや力強さを感じさせる低音の音像位置を、接地荷重が増加している車輪の方向に移動させるので、車両2の荷重が移動しているとドライバに一層容易に知覚させることができる。
【0097】
また、本実施形態では、運転操作に相関する物理量は、電動モータ3(回転動力源)のモータトルク値Tを含み、コントローラ10は、モータトルク値Tの単位時間当たりの変化量ΔTに基づき、車両2の前後方向における音の定位を設定する。
【0098】
この構成により、本実施形態では、車両2の加速度やサスペンションストロークより先に変化するモータトルク値Tを用いて制御を行うので、車両2の前後方向の挙動変化が生じるより早く低音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両2の前後方向の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【0099】
また、本実施形態では、運転操作に相関する物理量は、舵角を含み、コントローラ10は、舵角速度ωsに基づき、車両2の左右方向における音の定位を設定する。
【0100】
この構成により、本実施形態では、車両2の加速度やサスペンションストロークより先に変化する舵角を用いて制御を行うので、車両2の左右方向の挙動変化が生じるより早く低音の音像位置の移動をドライバに知覚させることができ、ドライバが車両2の左右方向の挙動変化を予測するのを助けることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 車両用音生成装置
2 車両
3 電動モータ
10 コントローラ
11 音制御部
12 記憶部
20A フロントスピーカ
20B リアスピーカ
30 センサ群
31 回転数センサ
32 PCM
33 舵角センサ
34 モーションセンサ
M1 第1音圧レベル設定マップ
M2 第2音圧レベル設定マップ
M3 第3音圧レベル設定マップ
M4 第4音圧レベル設定マップ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12