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特開2022-155836車両用音生成装置及び車両用音生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155836
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両用音生成装置及び車両用音生成方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20221006BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G10K15/04 302J
B60R11/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059256
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】服部 之総
(72)【発明者】
【氏名】大槻 修平
(72)【発明者】
【氏名】名越 匡宏
【テーマコード(参考)】
3D020
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BB01
3D020BC02
3D020BE03
(57)【要約】
【課題】回転動力源が定常状態であるときに音圧を低下させる車両用音生成装置において、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を的確に判定する。
【解決手段】車両用音生成装置1は、モータ回転数に応じた複数の周波数を設定すると共に、この複数の周波数に適用すべき音圧をモータトルクに基づき設定し、この音圧が適用された複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部12と、この合成音信号に基づいて合成音を出力するスピーカ20と、を有し、更に、モータトルクが第1所定値未満で且つモータトルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、電動モータ3が定常状態であると判定する定常状態判定部13を有し、音制御部12は、電動モータ3が定常状態であると判定された場合に、合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、
前記回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を前記回転動力源のトルクに基づき設定し、この設定された音圧が適用された前記1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、
前記音制御部により生成された合成音信号に基づいて、前記合成音を出力する音出力部と、
を有し、
前記車両用音生成装置は、更に、前記トルクが第1所定値未満で且つ前記トルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、前記回転動力源が定常状態であると判定する定常状態判定部を有し、
前記音制御部は、前記定常状態判定部によって前記回転動力源が定常状態であると判定された場合に、前記定常状態判定部によって前記回転動力源が定常状態であると判定されなかった場合よりも、前記合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う、
ことを特徴とする車両用音生成装置。
【請求項2】
前記音制御部は、
前記トルクに基づき設定された音圧とは別に、前記回転動力源の回転数に基づき、前記1又は複数の周波数に適用すべき音圧を更に設定し、
前記トルクに基づき設定された音圧と、前記回転数に基づき設定された音圧とを合計した音圧を、前記1又は複数の周波数の音に適用することで、前記合成音を表す前記合成音信号を生成し、
前記音圧補正処理として、前記回転数に基づき設定された音圧を補正せずに、前記トルクに基づき設定された音圧を補正する処理を行う、
請求項1に記載の車両用音生成装置。
【請求項3】
前記定常状態判定部は、前記回転動力源の回転数が高いほど、前記第1所定値を大きくする、請求項1又は2に記載の車両用音生成装置。
【請求項4】
前記音制御部は、前記定常状態判定部によって前記回転動力源が定常状態であると判定されてからの時間経過に伴って、前記合成音の音圧が徐々に小さくなるように前記音圧補正処理を行う、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用音生成装置。
【請求項5】
前記音制御部は、前記定常状態判定部によって前記回転動力源が定常状態であると判定されてから所定時間が経過するまでは、前記音圧補正処理により音圧を補正せず、前記定常状態判定部によって前記回転動力源が定常状態であると判定されてから前記所定時間が経過した後に、前記音圧補正処理によって音圧を補正する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両用音生成装置。
【請求項6】
電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両において実行される車両用音生成方法であって、
前記回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を前記回転動力源のトルクに基づき設定し、この設定された音圧が適用された前記1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御工程と、
前記音制御工程によって生成された合成音信号に基づいて、前記合成音を出力する音出力工程と、
を有し、
前記車両用音生成方法は、更に、前記トルクが第1所定値未満で且つ前記トルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、前記回転動力源が定常状態であると判定する定常状態判定工程を有し、
前記音制御工程は、前記定常状態判定工程によって前記回転動力源が定常状態であると判定された場合に、前記定常状態判定工程によって前記回転動力源が定常状態であると判定されなかった場合よりも、前記合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う、
ことを特徴とする車両用音生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行中に所定の音を出力する車両用音生成装置及び車両用音生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の電動モータやエンジンのような回転動力源(以下では単に「動力源」とも呼ぶ。)の回転数に応じた所定の周波数の音(疑似音)を、ドライバに向けて出力する車両用音生成装置が開発されている。この車両用音生成装置は、車両や動力源の状態(車速や、加速度や、動力源の回転数やトルクなど)に応じて、音の周波数や音圧などを制御している。こうすることで、ドライバに演出効果を提供したり、ドライバによる車両や動力源の状態の知覚を助けたりしている。
【0003】
また、上記のような車両用音生成装置において、車両や動力源が定常状態であるときに、出力される音によりドライバに与える煩わしさや不快感などを抑制するために、音圧(音量)を低減させる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車速及びアクセル開度に基づき、車両が定常走行状態と判定された場合に、疑似サウンドの音量を小さくする技術が開示されている。また、特許文献2には、エンジン回転数がほぼ一定である場合に、疑似音信号のレベルを小さくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-171657号公報
【特許文献2】特許4669585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動力源の状態を出力される音によってドライバに的確に知覚させるよう構成された車両用音生成装置では、上述したように、ドライバに与える煩わしさなどを抑制するために、動力源が定常状態であるときに音圧を低下させることが望ましい。この場合、煩わしさなどを抑制するために音圧を低下させることとする動力源の定常状態を的確に規定して、この動力源の定常状態を正確に判定する必要がある。しかしながら、上記の特許文献1及び2に記載された技術では、そのような動力源の定常状態を正確に判定することは困難である。
【0006】
例えば、自動速度制御によって速度上限に応じて車両の加速が抑制されている状況では、動力源は定常状態であるが、アクセル開度が変化する。そのため、特許文献1に記載された技術では、アクセル開度に基づき定常状態を判定するので、動力源が定常状態ではないと判定してしまう。また、例えば、上り坂において車速を一定に保つためにアクセルペダルが踏み込まれた状況では、トルクが増加するように動力源の状態が変化しているが、エンジン回転数はほとんど変化しない。そのため、特許文献2に記載された技術では、エンジン回転数に基づき定常状態を判定するので、動力源が定常状態であると判定してしまう。
【0007】
更に、特許文献1に記載された技術では、そもそも、動力源の状態に直結しない車速やアクセル開度に基づき定常状態を判定しているので、動力源の定常状態を的確に判定できない。これに加えて、特許文献1に記載された技術では、車速やアクセル開度という音生成の処理自体には通常用いられない情報を、定常状態の判定のために用いているので、車両用音生成装置がこれらの情報を受信するために、当該装置の通信に係る構成が煩雑化してしまう。また、音生成の処理とは別に、定常状態の判定のためにこれらの情報を処理するので、車両用音生成装置での情報処理も煩雑化してしまう。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、回転動力源が定常状態であるときに音圧を低下させる車両用音生成装置及び車両用音生成方法において、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を的確に判定することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を回転動力源のトルクに基づき設定し、この設定された音圧が適用された1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、音制御部により生成された合成音信号に基づいて、合成音を出力する音出力部と、を有し、車両用音生成装置は、更に、トルクが第1所定値未満で且つトルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、回転動力源が定常状態であると判定する定常状態判定部を有し、音制御部は、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定された場合に、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定されなかった場合よりも、合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明では、車両用音生成装置からの合成音によって、回転動力源の状態をドライバに知覚させるために、音制御部は、回転動力源の状態を示す回転数及びトルクのそれぞれに応じて、合成音の周波数及び音圧(音量に相当する)を設定する。この場合、音制御部は、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定されたときに、ドライバに与える煩わしさや不快感などを抑制するために、音圧補正処理によって合成音の音圧を低下させる。特に、本発明では、定常状態判定部は、回転動力源のトルクが第1所定値未満で且つ当該トルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、回転動力源が定常状態であると判定する。
【0011】
上記したようにトルクは音圧を設定するときに用いられるものであるが、本発明では、このトルクを定常状態の判定にも用いるので、車両用音生成装置での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を判定することができる。つまり、本発明によれば、合成音の生成処理に通常用いられない情報を、定常状態の判定のためだけに用いることはないので、回転動力源の定常状態の判定に当たって通信や処理が複雑化することはない。また、本発明では、回転動力源のトルク及び当該トルクの単位時間あたりの変化量の両方を用いて、回転動力源の定常状態を判定するので、この定常状態を正確に判定することができる。以上より、本発明によれば、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を的確に判定することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、音制御部は、トルクに基づき設定された音圧とは別に、回転動力源の回転数に基づき、1又は複数の周波数に適用すべき音圧を更に設定し、トルクに基づき設定された音圧と、回転数に基づき設定された音圧とを合計した音圧を、1又は複数の周波数の音に適用することで、合成音を表す合成音信号を生成し、音圧補正処理として、回転数に基づき設定された音圧を補正せずに、トルクに基づき設定された音圧を補正する処理を行う。
このように構成された本発明によれば、音制御部は、合成音の音圧を、回転動力源のトルクと回転数のそれぞれに基づき別々に設定する。また、音制御部は、音圧補正処理として、回転数に基づき設定された音圧を補正せずに、トルクに基づき設定された音圧のみを補正する。こうした場合、音圧補正処理後の合成音の音圧は、回転数の影響が比較的大きく反映されたものとなる。そのため、音圧補正処理により音圧が低下された合成音であっても、この合成音には回転動力源の状態が的確に反映されているので、ドライバが回転動力源の状態を知覚するのを助けることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、定常状態判定部は、回転動力源の回転数が高いほど、第1所定値を大きくする。
このように構成された本発明によれば、車速域によらずに、回転動力源の定常状態を正確に判定することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、音制御部は、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定されてからの時間経過に伴って、合成音の音圧が徐々に小さくなるように音圧補正処理を行う。
このように構成された本発明によれば、合成音の音圧を急激に変化させることなく、音圧を徐々に小さくするので、音圧補正処理による音圧低下によってドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、音制御部は、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定されてから所定時間が経過するまでは、音圧補正処理により音圧を補正せず、定常状態判定部によって回転動力源が定常状態であると判定されてから所定時間が経過した後に、音圧補正処理によって音圧を補正する。
このように構成された本発明によれば、定常状態の判定成立直後に音圧を変化させることなく、定常状態の判定成立後ある程度の時間が過ぎてから音圧を小さくするので、音圧補正処理による音圧低下によってドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0016】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両において実行される車両用音生成方法であって、回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を回転動力源のトルクに基づき設定し、この設定された音圧が適用された1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御工程と、音制御工程によって生成された合成音信号に基づいて、合成音を出力する音出力工程と、を有し、車両用音生成方法は、更に、トルクが第1所定値未満で且つトルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、回転動力源が定常状態であると判定する定常状態判定工程を有し、音制御工程は、定常状態判定工程によって回転動力源が定常状態であると判定された場合に、定常状態判定工程によって回転動力源が定常状態であると判定されなかった場合よりも、合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を的確に判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転動力源が定常状態であるときに音圧を低下させる車両用音生成装置及び車両用音生成方法において、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、回転動力源の定常状態を的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による車両用音生成装置の説明図である。
図2】本発明の実施形態による車両用音生成装置の構成図である。
図3】本発明の実施形態による音生成処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態において、モータ回転数に応じて音圧を設定するための第1音圧マップである。
図5】本発明の実施形態において、モータトルクに応じて音圧を設定するための第2音圧マップである。
図6】本発明の実施形態において、モータトルクに応じて設定された音圧を補正するための音圧補正マップである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用音生成装置及び車両用音生成方法について説明する。
【0020】
<装置構成>
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態による車両用音生成装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態の車両用音生成装置の説明図であり、図2は、本発明の実施形態の車両用音生成装置の構成図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載された音制御装置10、及び、車室内のドライバに対して所定の音を出力するスピーカ20を備えている。車両2は、回転動力源としての電動モータ3を備えた電動車両(EV)である。車両2は、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を備えていないため、走行中にいわゆるエンジン音が生じない。電動モータ3は作動音を生じるが、モータ作動音は、エンジン音に比べて小さい。このため、車内のドライバは、モータ作動音をほとんど認識することができない。本実施形態では、ドライバが電動モータ3を含む車両2のパワートレインの作動状況を把握することができるように、車両用音生成装置1は、電動モータ3の作動状況に応じた音(典型的には疑似音)を発生するように構成されている。
【0022】
音制御装置10は、回路を含んで構成されており、周知のコンピュータをベースとする制御器である。音制御装置10は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のプロセッサと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されて各種プログラム及びデータベースを格納するメモリ(記憶部14)と、電気信号の入出力を行うデータ入出力装置等を備えている。
【0023】
記憶部14のデータベースには、モータ回転数に応じて音圧を設定するための第1音圧マップ、モータトルクに応じて音圧を設定するための第2音圧マップ、及び、モータトルクに応じて設定された音圧を補正するための音圧補正マップなどが記憶されている。音制御装置10は、車内通信回線を介して、他の車載装置と通信可能に接続されている。音制御装置10は、入力された各種情報に基づいて、プロセッサがプログラムを実行することにより、スピーカ20に対して、音情報(周波数、音圧等)を含む音信号Ssを出力するように構成されている。その際、音制御装置10のプロセッサは、後述するように、音制御部12及び定常状態判定部13として機能する。
【0024】
スピーカ20は、増幅器(アンプ)を備えた音出力部である。スピーカ20は、音制御装置10から音信号Ssを受け取り、音信号Ssを所定の増幅率で増幅して、音信号Ssに基づく合成音SCを出力する。なお、スピーカ20は、車室内に設けられていなくてもよく、スピーカ20が発生する合成音SCをドライバが認識することができればよい。
【0025】
音制御装置10には、主に、モータ回転数センサ31及びPCM(Power Control Module)32からの信号S31、S32が入力される。モータ回転数センサ31は、電動モータ3のモータ回転数を検出し、検出したモータ回転数に対応する信号S31を音制御装置10に出力する。PCM32は、電動モータ3から出力させるべきモータトルク(要求モータトルク)を求め、要求モータトルクに対応する信号S32を音制御装置10に出力すると共に、要求モータトルクに基づき電動モータ3を制御する。1つの例では、PCM32は、ドライバによるアクセルペダル操作に対応するアクセル開度や、変速機のギア段などに基づき要求加速度を求め、この要求加速度に応じた要求モータトルクを求める。他の例では、PCM32は、車両2の速度を自動で制御するための自動速度制御が実行されている場合には、上記の要求加速度(ドライバからの要求加速度)と、自動速度制御からの要求加速度とを調停して、調停後の要求加速度に応じた要求モータトルクを求める。この例では、PCM32は、自動速度制御からの要求加速度をドライバからの要求加速度よりも優先適用するようにする。
【0026】
<音生成処理>
次に、本発明の実施形態による車両用音生成装置1の音生成処理について説明する。本実施形態では、音制御装置10の音制御部12は、モータ回転数に応じた複数の周波数を設定すると共に、モータ回転数センサ31から入力されたモータ回転数に基づき、複数の周波数のそれぞれに適用すべき音圧(以下では適宜「音圧p1」と表記する。)を第1音圧マップから設定し、且つ、PCM32から入力されたモータトルク(要求モータトルク)に基づき、複数の周波数のそれぞれに適用すべき音圧(以下では適宜「音圧p2」と表記する。)を第2音圧マップから設定する。そして、音制御部12は、これら音圧p1と音圧p2とを合計した音圧を、複数の周波数の音にそれぞれ適用することで、合成音を表す合成音信号を生成する。
【0027】
また、本実施形態では、音制御装置10の定常状態判定部13は、PCM32から入力されたモータトルクに基づき、電動モータ3が定常状態であるか否かを判定する。具体的には、定常状態判定部13は、モータトルク(絶対値)が第1所定値未満で、且つ、モータトルクの単位時間あたりの変化量(絶対値)が第2所定値未満である場合に、電動モータ3が定常状態であると判定する。上記したようにモータトルクは音圧を設定するときに用いられるものであるが、本実施形態では、このモータトルクを定常状態の判定にも用いるので、車両用音生成装置1での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、電動モータ3の定常状態を判定することができる。つまり、本実施形態によれば、合成音の生成処理に通常用いられない情報を、定常状態の判定のためだけに用いることはないので、電動モータ3の定常状態の判定に当たって通信や処理が複雑化することはない。また、本実施形態では、モータトルク及び当該モータトルクの変化量の両方を用いることで、電動モータ3の定常状態を正確に判定することができる。
【0028】
そして、本実施形態では、上記のように定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定された場合に、音制御部12は、定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定されなかった場合よりも、合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う。具体的には、音制御部12は、音圧補正処理として、モータ回転数に基づき設定された音圧p1を補正せずに、モータトルクに基づき設定された音圧p2のみを音圧補正マップによって補正する処理を行い(以下では補正後の音圧p2を適宜「音圧p2’」と表記する)、これら音圧p1と補正後の音圧p2’とを合計した音圧から合成音を生成する。この場合、音圧補正処理により、モータトルクに応じた音圧p2のみを低下させ、モータ回転数に応じた音圧p1を低下させないので、音圧補正処理後の合成音の音圧は、モータ回転数の影響が比較的大きく反映されたものとなる。そのため、音圧補正処理により音圧が低下された合成音であっても、この合成音には電動モータ3の状態が的確に反映されているので、ドライバが電動モータ3の状態を知覚するのを助けることができる。
【0029】
次に、図3図6を参照して、本発明の実施形態による音生成処理について具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態による音生成処理を示すフローチャートであり、図4は、本発明の実施形態において、モータ回転数に応じて音圧p1を設定するための第1音圧マップを示し、図5は、本発明の実施形態において、モータトルクに応じて音圧p2を設定するための第2音圧マップを示し、図6は、本発明の実施形態において、モータトルクに応じて設定された音圧p2を補正するための音圧補正マップを示す。なお、図3の音生成処理は、車両用音生成装置1(主に音制御装置10)によって、所定の周期で繰り返し実行される。
【0030】
図3の音生成処理が開始されると、ステップS1において、音制御装置10は、この後の処理に必要な各種情報を取得する。具体的には、音制御装置10は、主に、モータ回転数センサ31により検出されたモータ回転数、及び、PCM32により求められたモータトルク(要求モータトルク)を取得する。
【0031】
次いで、ステップS2において、音制御装置10は、ステップS1で取得されたモータ回転数に応じた複数の周波数を設定する。具体的には、音制御装置10の音制御部12は、以下の式に基づいて、1次周波数(基本周波数)であるモータ回転数に応じた複数の周波数を決定する。
fk(Hz)=R(Hz)×nk
この式において、「R」はモータ回転数であり、「k」は自然数(k=1、2、3…)であり、「nk」はモータ回転数Rに対する次数であり、「fk」は周波数である。
【0032】
本実施形態では、k=1~5とし、5つの周波数f1~f5を用いる(これは、後の処理にて、5つの周波数f1~f5の音を合成した合成音を生成することを意味する)。この場合、例えば、n1は3.3、n2は4、n3は5.3、n4は6.7、n5は8である。また、例えば、モータ回転数Rが50Hz(3000rpm)の場合、周波数f1は165Hz、周波数f2は200Hz、周波数f3は265Hz、周波数f4は335Hz、周波数f5は400Hzである。なお、n1~n5の次数に対応する5つの周波数f1~f5を用いることに限定はされず、これらとは異なる次数の周波数を用いてもよいし、また、5つ未満又は6つ以上の周波数を用いてもよい。
【0033】
次いで、ステップS3において、音制御装置10の音制御部12は、記憶部14に記憶された第1音圧マップ(図4参照)を読み出して、ステップS2で設定された5つの周波数f1~f5の音にそれぞれ適用する音圧p1を、ステップS1で取得されたモータ回転数に基づき設定する。図4(A)~(E)は、周波数f1~f5の音のそれぞれについて、モータ回転数に応じて設定すべき音圧p1が規定された第1音圧マップを示している。第1音圧マップでは、基本的には、周波数f1~f5の音の全てに関して、モータ回転数が高くなるほど、設定すべき音圧p1が高くなっている。音制御部12は、このような第1音圧マップを参照して、5つの周波数f1~f5の音にそれぞれについて、現在のモータ回転数に対応する音圧p1を決定する。
【0034】
次いで、ステップS4において、音制御装置10の音制御部12は、記憶部14に記憶された第2音圧マップ(図5参照)を読み出して、ステップS2で設定された5つの周波数f1~f5の音にそれぞれ適用する音圧p2を、ステップS1で取得されたモータトルクに基づき設定する。図5(A)~(E)は、周波数f1~f5の音のそれぞれについて、モータトルクに応じて設定すべき音圧p2が規定された第2音圧マップを示している。第2音圧マップでも、基本的には、周波数f1~f5の音の全てに関して、モータトルクが高くなるほど、設定すべき音圧p2が高くなっている。音制御部12は、このような第2音圧マップを参照して、5つの周波数f1~f5の音にそれぞれについて、現在のモータトルクに対応する音圧p2を決定する。なお、図5(E)に示す8次の周波数f5の第2音圧マップのみ、負のトルクにおいても音圧p2が規定されている。これは、電動モータ3の回生時に、この8次の周波数f5の音のみが出力されることを意味している。
【0035】
次いで、ステップS5において、音制御装置10は、ステップS1で取得されたモータトルクに基づき、電動モータ3が定常状態であるか否かを判定する。具体的には、音制御装置10の定常状態判定部13は、モータトルク(絶対値)が第1所定値未満で、且つ、モータトルクの単位時間あたりの変化量(絶対値)が第2所定値未満である場合に、電動モータ3が定常状態であると判定する。ここで判定すべき定常状態は、電動モータ3において規定される状態であって、車両用音生成装置1からの合成音によってドライバに煩わしさや不快感などを与えるおそれがある状態、つまり、ドライバに与える煩わしさや不快感などを抑制するために、合成音を低下するのが望ましいと考えられる状態である。そして、第1及び第2所定値は、このような電動モータ3の定常状態を的確に判定するために、実験やシミュレーションなどを用いて適合により決定される、モータトルクの値及びモータトルクの変化量である。例えば、第1所定値は、定常走行に必要なモータトルクが適用される。この場合、定常走行に必要なモータトルクは車速域に応じて変化するので、定常状態判定部13は、モータ回転数が高くなるほど、第1所定値を大きくしてもよい。こうすることで、電動モータ3の定常状態を正確に判定することができる。
【0036】
1つの例では、第1所定値は50N・mであり、第2所定値は100N・m/sである。この例では、定常状態判定部13は、モータトルクが「-50N・m≦モータトルク≦50N・m」という関係を満たすか否かを判定すると共に、モータトルクの単位時間あたりの変化量が「-100N・m/s≦モータトルクの単位時間あたりの変化量≦100N・m/s」という関係を満たすか否かを判定する。なお、この例では、モータトルクの単位時間あたりの変化量として、1秒あたりの変化量を用いているが、つまり変化量を規定するための単位時間として1秒を用いているが、他の例では、音制御装置10の処理周期に対応する時間を単位時間として用いてもよい。また、この例では、モータトルク及びモータトルクの単位時間あたりの変化量を判定するに当たって、プラス側の閾値とマイナス側の閾値とを絶対値において同じ値に設定しているが、他の例では、プラス側の閾値とマイナス側の閾値とを絶対値において異なる値に設定してもよい。
【0037】
ステップS5において、電動モータ3が定常状態であると判定された場合(ステップS5:Yes)、音制御装置10の音制御部12は、ステップS6に進み、音圧補正処理を行う。これに対して、音制御部12は、電動モータ3が定常状態であると判定されなかった場合(ステップS5:No)、音圧補正処理を行わずに、ステップS7に進む。
【0038】
ステップS6において、音制御部12は、記憶部14に記憶された音圧補正マップ(図6参照)を読み出して、合成音の音圧を小さくするための音圧補正処理を行う。この場合、音制御部12は、モータ回転数に基づき設定された音圧p1を補正せずに、モータトルクに基づき設定された音圧p2のみを音圧補正マップによって補正する。図6は、電動モータ3が定常状態であるという判定成立からの経過時間(横軸)と、音圧p2を補正するための補正用パラメータz(縦軸)との関係が規定された音圧補正マップを示している。音制御部12は、この音圧補正マップを参照して、判定成立からの経過時間に応じた補正用パラメータzを決定する。そして、音制御部12は、以下の式に基づいて、決定された補正用パラメータzによって、モータトルクに基づき設定された音圧p2を補正して、補正後の音圧p2’を求める。
p2’=p2×z-p2min×(1-z)
この式において、「p2min」は、モータトルクに基づき設定される音圧p2の最小値であり、図5に示した音圧p2の例では「-21」である。
【0039】
図6に示すように、補正用パラメータzは、判定成立からの経過時間が2秒未満である間は「1」に維持され、判定成立からの経過時間が2秒以上になると、経過時間の増加に伴って徐々に減少される。そして、判定成立からの経過時間が4秒以上になると、補正用パラメータzは「0」に維持される。このような補正用パラメータzによれば、上式より、補正後の音圧p2’として、元の音圧p2と最小値p2minとの間の値が求められる(p2min≦p2’≦p2)。具体的には、判定成立からの経過時間が2秒未満である間は、音圧p2は補正されず、補正後の音圧p2’は音圧p2に維持される。そして、判定成立からの経過時間が2秒以上になると、経過時間の増加に伴って音圧p2が減少補正され、補正後の音圧p2’が徐々に小さくなる。そして、判定成立からの経過時間が4秒以上になると、補正後の音圧p2’が最小値p2minに維持される。
【0040】
次いで、ステップS7において、音制御装置10の音制御部12は、ステップS3で設定された音圧p1と、ステップS4で設定された音圧p2(ステップS6の音圧補正処理が行われなかった場合には音圧p2が用いられる)、又はステップS6で補正された音圧p2’(ステップS6の音圧補正処理が行われた場合には音圧p2’が用いられる)と、を合計した音圧を、周波数f1~f5の音にそれぞれ適用することで、合成音を表す合成音信号を生成する。そして、音制御部12は、この合成音信号をスピーカ20に出力する。次いで、ステップS8において、スピーカ20は、合成音信号を受信して、合成音を出力する。
【0041】
<作用及び効果>
次に、本発明の実施形態による車両用音生成装置1の作用及び効果について説明する。
【0042】
本実施形態に係る車両用音生成装置1では、音制御装置10の音制御部12は、モータ回転数に応じた複数の周波数を設定すると共に、この複数の周波数のそれぞれに適用すべき音圧p2をモータトルクに基づき設定し、この設定された音圧p2が適用された複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する。また、音制御部12は、定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定された場合に、ドライバに与える煩わしさや不快感などを抑制するために、出力させる合成音の音圧を低下させる音圧補正処理を行う。特に、本実施形態では、定常状態判定部13は、モータトルクが第1所定値未満で且つモータトルクの単位時間あたりの変化量が第2所定値未満である場合に、電動モータ3が定常状態であると判定する。
【0043】
上記したようにモータトルクは音圧p2を設定するときに用いられるものであるが、本実施形態では、このモータトルクを定常状態の判定にも用いるので、車両用音生成装置1での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、電動モータ3の定常状態を判定することができる。つまり、本実施形態によれば、合成音の生成処理に通常用いられない情報を、定常状態の判定のためだけに用いることはないので、電動モータ3の定常状態の判定に当たって通信や処理が複雑化することはない。また、本実施形態では、モータトルク及び当該モータトルクの単位時間あたりの変化量の両方を用いることで、電動モータ3の定常状態を正確に判定することができる。以上より、本実施形態によれば、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、電動モータ3の定常状態を的確に判定することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、音制御部12は、音圧補正処理として、モータ回転数に基づき設定された音圧P1を補正せずに、モータトルクに基づき設定された音圧P2を補正する。こうした場合、音圧補正処理後の合成音の音圧は、モータ回転数の影響が比較的大きく反映されたものとなる。そのため、音圧補正処理により音圧が低下された合成音であっても、この合成音には電動モータ3の状態が的確に反映されているので、ドライバが電動モータ3の状態を知覚するのを助けることができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、定常状態判定部13は、モータ回転数が高いほど、電動モータ3の定常状態を判定するための第1所定値を大きくする。これにより、車速域によらずに、電動モータ3の定常状態を正確に判定することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定されてからの時間経過に伴って、合成音の音圧が徐々に小さくなるように音圧補正処理を行う。これにより、音圧補正処理によりドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定されてから所定時間が経過するまでは、音圧補正処理により音圧を補正せず、定常状態判定部13によって電動モータ3が定常状態であると判定されてから所定時間が経過した後に、音圧補正処理によって音圧を補正する。これによっても、音圧補正処理によりドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0048】
<変形例>
上記した実施形態では、PCM32によって求められたモータトルク(電動モータ3から出力させるべき要求モータトルク)に基づき、音圧p2の設定及び定常状態の判定を行っていたが、他の例では、電動モータ3のモータトルクを検出するモータトルクセンサを用いて、このモータトルクセンサによって検出されたモータトルク(実トルク)に基づき、音圧p2の設定及び定常状態の判定を行ってもよい。
【0049】
また、上記した実施形態では、車両2は、電動車両(EV)であり内燃機関(エンジン)を備えていないが、他の例では、車両2は、回転動力源として内燃機関と電動モータの一方又は両方を備えた車両であってもよい。車両2が内燃機関のみを備える変形例では、エンジン作動音に加えて、車両用音生成装置1により発生される音により、ドライバは、車両状態及び車両状態の変化をより明確に把握することができる。また、この変形例では、合成音の周波数及び音圧を決定するために、内燃機関の回転数(エンジン回転数)を用いることができる。さらに、車両2が内燃機関と電動モータの両方を備える別の変形例では、合成音の周波数及び音圧を決定するために、電動モータ及び内燃機関の一方又は両方の回転数を用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 車両用音生成装置
2 車両
3 電動モータ
10 音制御装置
12 音制御部
13 定常状態判定部
14 記憶部
20 スピーカ(音出力部)
31 モータ回転数センサ
32 PCM
図1
図2
図3
図4
図5
図6