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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155837
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】車両用音生成システム
(51)【国際特許分類】
   B60R 11/02 20060101AFI20221006BHJP
   G10K 15/04 20060101ALI20221006BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20221006BHJP
   B60W 30/192 20120101ALI20221006BHJP
【FI】
B60R11/02 S
G10K15/04 303E
G10K15/04 302J
B60W30/182
B60W30/192
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059257
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】服部 之総
(72)【発明者】
【氏名】大槻 修平
(72)【発明者】
【氏名】名越 匡宏
【テーマコード(参考)】
3D020
3D241
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BB01
3D020BC02
3D020BE03
3D241BA01
3D241BA51
3D241CA08
3D241CC03
3D241DA13Z
3D241DB02Z
3D241DD12Z
(57)【要約】
【課題】通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する音を的確に生成する。
【解決手段】車両用音生成システム100は、電動モータ3の要求トルクを算出し、車両2の所定の走行状態を判定し、所定の走行状態である場合に要求トルクを補正し、所定の走行状態である場合には補正された要求トルクを要求トルク関連値として決定する一方で、所定の走行状態でない場合には補正されていない要求トルクを要求トルク関連値として決定する動力源制御装置4と、モータ回転数と動力源制御装置4によって決定された要求トルク関連値とを取得し、モータ回転数に応じた複数の周波数を設定すると共に、この複数の周波数に適用すべき音圧を要求トルク関連値に基づき設定し、この設定された音圧が適用された複数の周波数の音を含む合成音を生成する車両用音生成装置1と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成システムであって、
前記回転動力源を制御する動力源制御装置であって、
前記回転動力源から出力させるべき要求トルクを算出する要求トルク算出部と、
前記車両が所定の走行状態であるか否かを判定する走行状態判定部と、
前記走行状態判定部によって前記車両が前記所定の走行状態であると判定された場合に、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを補正する要求トルク補正部と、
前記走行状態判定部によって前記車両が前記所定の走行状態であると判定された場合には、前記要求トルク補正部によって補正された要求トルクを要求トルク関連値として決定する一方で、前記走行状態判定部によって前記車両が前記所定の走行状態であると判定されなかった場合には、前記要求トルク補正部によって補正されていない要求トルクを前記要求トルク関連値として決定する要求トルク関連値決定部と、
を備える前記動力源制御装置と、
前記動力源制御装置と通信可能に接続された車両用音生成装置であって、
前記回転動力源の回転数と、前記動力源制御装置の前記要求トルク関連値決定部によって決定された前記要求トルク関連値とを取得し、前記回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を前記要求トルク関連値に基づき設定し、この設定された音圧が適用された前記1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、
前記音制御部により生成された合成音信号に基づいて、前記合成音を出力する音出力部と、
を備える前記車両用音生成装置と、
を有することを特徴とする車両用音生成システム。
【請求項2】
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記走行状態判定部によって判定された前記所定の走行状態の内容に応じて、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正と増加させる補正とを切り替えて行う、請求項1に記載の車両用音生成システム。
【請求項3】
前記動力源制御装置の前記走行状態判定部は、前記所定の走行状態として、前記車両が定常走行を行っている第1走行状態を判定し、
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記走行状態判定部によって前記車両が前記第1走行状態であると判定された場合に、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う、
請求項2に記載の車両用音生成システム。
【請求項4】
前記動力源制御装置の前記走行状態判定部は、前記所定の走行状態として、前記車両が自動速度制御によって走行している第2走行状態を判定し、
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記走行状態判定部によって前記車両が前記第2走行状態であると判定された場合に、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う、
請求項2又は3に記載の車両用音生成システム。
【請求項5】
前記動力源制御装置の前記走行状態判定部は、前記所定の走行状態として、前記車両が、ドライバにより走行モードとして選択されたスポーツモードによって走行している第3走行状態を判定し、
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記走行状態判定部によって前記車両が前記第3走行状態であると判定された場合に、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを増加させる補正を行う、
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の車両用音生成システム。
【請求項6】
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う場合には、前記要求トルクを予め設定された最小値まで低減させる、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の車両用音生成システム。
【請求項7】
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクを増加させる補正を行う場合には、前記要求トルクを、当該要求トルクに対して1よりも大きい係数を乗算した値まで増加させる、請求項2乃至6のいずれか一項に記載の車両用音生成システム。
【請求項8】
前記動力源制御装置の前記要求トルク補正部は、前記走行状態判定部によって前記車両が前記所定の走行状態であると判定されてからの時間経過に伴って、前記要求トルク算出部によって算出された要求トルクの大きさを徐々に変化させるように補正を行う、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両用音生成システム。
【請求項9】
前記車両用音生成装置の前記音制御部は、
前記要求トルク関連値に基づき設定された音圧とは別に、前記回転動力源の回転数に基づき、前記1又は複数の周波数に適用すべき音圧を更に設定し、
前記要求トルク関連値に基づき設定された音圧と、前記回転数に基づき設定された音圧とを合計した音圧を、前記1又は複数の周波数の音に適用することで、前記合成音を表す前記合成音信号を生成する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車両用音生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行中に所定の音を出力する車両用音生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の電動モータやエンジンのような回転動力源(以下では単に「動力源」とも呼ぶ。)の回転数に応じた所定の周波数の音(疑似音)を、ドライバに向けて出力する車両用音生成装置が開発されている。この車両用音生成装置は、車両や動力源の状態(車速や、加速度や、動力源の回転数やトルクなど)に応じて、音の周波数や音圧などを制御している。こうすることで、ドライバに演出効果を提供したり、ドライバによる車両や動力源の状態の知覚を助けたりしている。
【0003】
また、上記のような車両用音生成装置において、車両の走行状態に応じて、出力される音の音圧(音量)を補正する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両が定常走行状態であると判定された場合に、疑似サウンドの音量を小さくする技術が開示されている。具体的には、この技術では、エンジンを制御するECUとは別のコントローラが、車速信号及びアクセル開度信号をECUから受信し、これらの信号に基づき定常走行状態を判定して、疑似サウンドの音量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-171657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載された技術では、疑似サウンドの音生成を行う車両用音生成装置としてのコントローラが、車両の走行状態を判定するための信号を(これは音生成の処理自体には通常用いられない信号である)、動力源制御装置としてのECUから受信するので、車両用音生成装置の通信に係る構成が煩雑化してしまう。また、この技術では、車両用音生成装置が、本来の音生成の処理とは別に、車両の走行状態の判定処理も行うので、車両用音生成装置での情報処理も煩雑化してしまう。
【0006】
他方で、顧客のニーズに応じて、音圧を補正する種々の走行シーンを追加したり変更したりすることがあるが、その場合、上記した特許文献1に記載された技術では、車両用音生成装置を設計変更する必要がある。具体的には、車両用音生成装置に入力する信号を追加、変更したり、車両用音生成装置での走行シーンの判定処理を追加、変更したりする必要がある。また、このような設計変更を行うたびに、通信及び処理についての不具合の検証に多大な時間及び手間を要するため、車両用音生成装置の設計の難易度が高くなってしまう。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する音を的確に生成することができる車両用音生成システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成システムであって、回転動力源を制御する動力源制御装置であって、回転動力源から出力させるべき要求トルクを算出する要求トルク算出部と、車両が所定の走行状態であるか否かを判定する走行状態判定部と、走行状態判定部によって車両が所定の走行状態であると判定された場合に、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを補正する要求トルク補正部と、走行状態判定部によって車両が所定の走行状態であると判定された場合には、要求トルク補正部によって補正された要求トルクを要求トルク関連値として決定する一方で、走行状態判定部によって車両が所定の走行状態であると判定されなかった場合には、要求トルク補正部によって補正されていない要求トルクを要求トルク関連値として決定する要求トルク関連値決定部と、を備える動力源制御装置と、動力源制御装置と通信可能に接続された車両用音生成装置であって、回転動力源の回転数と、動力源制御装置の要求トルク関連値決定部によって決定された要求トルク関連値とを取得し、回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定すると共に、この1又は複数の周波数に適用すべき音圧を要求トルク関連値に基づき設定し、この設定された音圧が適用された1又は複数の周波数の音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、音制御部により生成された合成音信号に基づいて、合成音を出力する音出力部と、を備える車両用音生成装置と、を有することを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明による車両用音生成システムでは、動力源制御装置は、車両の所定の走行状態を判定し、車両が所定の走行状態であると判定された場合に、要求トルクを補正して要求トルク関連値を生成する一方で、車両用音生成装置は、この要求トルク関連値に基づき合成音の音圧(音量に相当する)を設定する。つまり、本発明では、合成音を生成する車両用音生成装置ではなく、車両や回転動力源に関する種々の情報が通常集められる動力源制御装置において、車両の走行状態を判定して、その判定結果に応じて、車両用音生成装置の音制御部において合成音の音圧の設定に用いるための要求トルク関連値を決定する。要求トルク関連値は、車両の走行状態が反映されたトルクに相当する値となっているので、この要求トルク関連値に基づき合成音の音圧を設定することで、車両用音生成装置において走行状態に応じて合成音の音圧を補正しなくても、走行状態に応じた音圧(つまり走行状態に応じて補正されたような音圧)を有する合成音を的確に生成することができる。
したがって、本発明に係る車両用音生成システムによれば、動力源制御装置において車両の走行状態に関係する処理、具体的には走行状態の判定及びこの判定結果に応じた情報(要求トルク関連値)の生成を行うので、車両用音生成装置において音生成に直接関係する処理以外の追加的な処理を行う必要がない。以上より、本発明によれば、車両用音生成装置での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する合成音を的確に生成することが可能となる。
【0010】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の要求トルク補正部は、走行状態判定部によって判定された所定の走行状態の内容に応じて、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正と増加させる補正とを切り替えて行う。
このように構成された本発明によれば、車両用音生成装置において、走行状態の内容に適した音圧を有する合成音を的確に生成することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の走行状態判定部は、所定の走行状態として、車両が定常走行を行っている第1走行状態を判定し、動力源制御装置の要求トルク補正部は、走行状態判定部によって車両が第1走行状態であると判定された場合に、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う。
このように構成された本発明によれば、第1走行状態において、車両用音生成装置からの合成音の音圧を低下させることができる。したがって、車両が定常走行を行っているときに、車両用音生成装置からの合成音によりドライバに煩わしさや不快感などを与えることを抑制できる。
【0012】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の走行状態判定部は、所定の走行状態として、車両が自動速度制御によって走行している第2走行状態を判定し、動力源制御装置の要求トルク補正部は、走行状態判定部によって車両が第2走行状態であると判定された場合に、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う。
このように構成された本発明によれば、第2走行状態において、車両用音生成装置からの合成音の音圧を低下させることができる。したがって、ドライバが積極的に運転操作を行わずに、車両が自動速度制御により走行しているときに、車両用音生成装置からの合成音によりドライバに煩わしさや不快感などを与えることを抑制できる。
【0013】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の走行状態判定部は、所定の走行状態として、車両が、ドライバにより走行モードとして選択されたスポーツモードによって走行している第3走行状態を判定し、動力源制御装置の要求トルク補正部は、走行状態判定部によって車両が第3走行状態であると判定された場合に、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを増加させる補正を行う。
このように構成された本発明によれば、第3走行状態において、車両用音生成装置からの合成音の音圧を増加させることができる。したがって、車両がスポーツモードによって走行しているときに、車両用音生成装置からの合成音によってドライバの気分を高揚させることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の要求トルク補正部は、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを低減させる補正を行う場合には、要求トルクを予め設定された最小値まで低減させる。
このように構成された本発明によれば、低減補正された要求トルクの適用により、合成音の音圧が低下されるような走行状態においては、当初の要求トルクの大きさに関係なく、固定値としての低い音圧の合成音を車両用音生成装置から出力させることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の要求トルク補正部は、要求トルク算出部によって算出された要求トルクを増加させる補正を行う場合には、要求トルクを、当該要求トルクに対して1よりも大きい係数を乗算した値まで増加させる。
このように構成された本発明によれば、増加補正された要求トルクの適用により、合成音の音圧が増加されるような走行状態においては、当初の要求トルクの大きさに応じた音圧(具体的には「要求トルク×係数」に応じた音圧)の合成音を、車両用音生成装置から出力させることができる。したがって、合成音の音圧を増加させる場合に、その合成音の音圧の大きさを、ドライバによるアクセル操作などに応じて的確に変化させることができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、動力源制御装置の要求トルク補正部は、走行状態判定部によって車両が所定の走行状態であると判定されてからの時間経過に伴って、要求トルク算出部によって算出された要求トルクの大きさを徐々に変化させるように補正を行う。
このように構成された本発明によれば、合成音の音圧を急激に変化させることなく、音圧を徐々に変化させるので、ドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、車両用音生成装置の音制御部は、要求トルク関連値に基づき設定された音圧とは別に、回転動力源の回転数に基づき、1又は複数の周波数に適用すべき音圧を更に設定し、要求トルク関連値に基づき設定された音圧と、回転数に基づき設定された音圧とを合計した音圧を、1又は複数の周波数の音に適用することで、合成音を表す合成音信号を生成する。
このように構成された本発明によれば、要求トルク関連値及び回転動力源の回転数の両方に基づき合成音の音圧を設定するので、回転動力源の状態がより反映された合成音を生成することができ、ドライバが回転動力源の状態を知覚するのを効果的に助けることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両用音生成システムによれば、通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する音を的確に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による車両用音生成装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による車両用音生成システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態において動力源制御装置により行われる処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態において、要求トルクを低減補正するための第1トルク補正マップを示す。
図5】本発明の実施形態において、要求トルクを増加補正するための第2トルク補正マップを示す。
図6】本発明の実施形態において車両用音生成装置により行われる処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態において、モータ回転数に応じて音圧を設定するための第1音圧マップを示す。
図8】本発明の実施形態において、要求トルク関連値に応じて音圧を設定するための第2音圧マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用音生成システムについて説明する。
【0021】
<車両用音生成装置の構成>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両用音生成装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態の車両用音生成装置の概略構成図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載された音制御装置10、及び、車室内のドライバに対して所定の音を出力するスピーカ20を備えている。車両2は、回転動力源としての電動モータ3を備えた電動車両(EV)である。車両2は、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を備えていないため、走行中にいわゆるエンジン音が生じない。電動モータ3は作動音を生じるが、モータ作動音は、エンジン音に比べて小さい。このため、車内のドライバは、モータ作動音をほとんど認識することができない。本実施形態では、ドライバが電動モータ3を含む車両2のパワートレインの作動状況を把握することができるように、車両用音生成装置1は、電動モータ3の作動状況に応じた音(典型的には疑似音)を発生するように構成されている。
【0023】
音制御装置10は、回路を含んで構成されており、周知のコンピュータをベースとする制御器である。音制御装置10は、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)としての1以上のプロセッサと、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されて各種プログラム及びデータベースを格納するメモリ(後述する記憶部14)と、電気信号の入出力を行うデータ入出力装置等を備えている。音制御装置10は、入力された各種情報に基づいて、プロセッサがプログラムを実行することにより、音情報(周波数や音圧等)を含む音信号を生成し、この音信号をスピーカ20に出力する。
【0024】
スピーカ20は、増幅器(アンプ)を備えた音出力部であり、音制御装置10から入力された音信号に応じた音を出力する。なお、スピーカ20は、車室内に設けられていなくてもよく、スピーカ20が発生する音をドライバが認識することができればよい。
【0025】
<車両用音生成システムの構成>
次に、図2を参照して、本発明の実施形態による車両用音生成システムの構成、及び、車両用音生成システムにおいて行われる処理の概要について説明する。図2は、本発明の実施形態の車両用音生成システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の車両用音生成システム100は、主に、上述した車両用音生成装置1に加えて、電動モータ3を制御するPCM(Power Control Module)としての動力源制御装置4を有する。車両用音生成装置1(特に音制御装置10)と動力源制御装置4とは、通信可能に接続されている。
【0027】
動力源制御装置4には、アクセル開度センサ31と、車速センサ32と、ADAS(Advanced Driver Assistance System)制御装置33と、走行モード選択スイッチ34と、が接続されている。アクセル開度センサ31は、ドライバによるアクセルペダルの操作に対応するアクセル開度に対応する信号を、動力源制御装置4に出力する。車速センサ32は、車両2の速度(車速)に対応する信号を、動力源制御装置4に出力する。
【0028】
ADAS制御装置33は、クルーズコントロール(典型的にはアダプティブクルーズコントロール)などの、車両2の速度を自動で制御するための自動速度制御を含む運転支援を行う制御ユニットである。ADAS制御装置33は、自動速度制御を実現するための要求加速度(以下では「ADAS要求加速度」と呼ぶ。)、及び、現在設定されている制御モードに対応する信号を、動力源制御装置4に出力する。例えば、制御モードは、クルーズコントロールなどの自動速度制御を行うための自動速度制御モードである。なお、ADAS制御装置33は、その一部又は全体が動力源制御装置4により実現されてもよい。
【0029】
走行モード選択スイッチ34は、ドライバが走行モード(スポーツモードやトーイングモードなど)を選択するためのスイッチであり、ドライバが運転姿勢において操作できるような位置(シフトレバー付近など)に設けられている。走行モード選択スイッチ34は、ドライバによって選択された現在の走行モードに対応する信号を、動力源制御装置4に出力する。なお、動力源制御装置4は、こうして走行モード選択スイッチ34において選択された走行モードに応答して、アクセル開度に応じて電動モータ3から出力されるトルクを変える。
【0030】
動力源制御装置4は、機能的な構成部として、加速度算出部41と、要求トルク算出部42と、走行状態判定部43と、要求トルク補正部44と、要求トルク関連値決定部45と、を有すると共に、各種プログラム及びデータベースを格納する記憶部46を有する。加速度算出部41は、アクセル開度センサ31によって検出されたアクセル開度や、ADAS制御装置33から供給されたADAS要求加速度などに基づき、車両2が実現すべき加速度(要求加速度)を算出する。要求トルク算出部42は、この要求加速度に応じて、電動モータ3から出力させるべきトルク(要求トルク)を算出する。
【0031】
走行状態判定部43は、車両2が所定の走行状態であるか否かを判定する。具体的には、走行状態判定部43は、アクセル開度センサ31によって検出されたアクセル開度や、車速センサ32によって検出された車速や、要求トルク算出部42によって算出された要求トルクや、ADAS制御装置33から供給された現在の制御モードや、走行モード選択スイッチ34から供給された現在の走行モードなどに基づき、所定の走行状態を判定する。例えば、走行状態判定部43は、車両2が定常走行を行っている第1走行状態や、車両2が自動速度制御によって走行している第2走行状態や、車両2がスポーツモードによって走行している第3走行状態などを判定する。
【0032】
要求トルク補正部44は、走行状態判定部43によって車両2が所定の走行状態であると判定された場合に、要求トルク算出部42によって算出された要求トルクを補正する(以下では、補正後の要求トルクを適宜「補正トルク」と呼ぶ)。特に、要求トルク補正部44は、所定の走行状態の内容に応じて、例えば第1乃至第3走行状態のいずれかに応じて、要求トルクを低減させる補正と増加させる補正とを切り替える。ここで、記憶部46は、要求トルクを低減補正するための第1トルク補正マップ、及び、要求トルクを増加補正するための第2トルク補正マップを記憶しており、要求トルク補正部44は、走行状態の内容に応じて、これら第1及び第2トルク補正マップのいずれかを用いて、要求トルクを低減させる補正及び増加させる補正のいずれかを行う。
【0033】
要求トルク関連値決定部45は、車両2が所定の走行状態である場合には、要求トルク補正部44によって補正された要求トルク(補正トルク)を要求トルク関連値として決定する一方で、車両2が所定の走行状態でない場合には、要求トルク補正部44によって補正されていない要求トルクを要求トルク関連値として決定する。つまり、要求トルク関連値決定部45は、要求トルクが要求トルク補正部44によって補正された場合には、補正トルクを要求トルク関連値として決定する一方で、要求トルクが要求トルク補正部44によって補正されなかった場合には、要求トルク算出部42によって算出された要求トルクをそのまま要求トルク関連値として決定する。この要求トルク関連値は、電動モータ3の要求トルクに関連する値であって、車両用音生成装置1の音制御装置10において合成音の音圧を設定するために用いられる値である(実際の電動モータ3の制御に用いられる値ではない)。
【0034】
そして、動力源制御装置4は、電動モータ3を駆動すべく、要求トルク算出部42によって算出された要求トルクを、電動モータ3に出力する一方で、要求トルク関連値決定部45によって決定された要求トルク関連値を、車両用音生成装置1の音制御装置10に出力する。
【0035】
次に、音制御装置10は、音制御部12及び記憶部14を有する。また、音制御装置10には、モータ回転数センサ36が接続されている。モータ回転数センサ36は、検出した電動モータ3の回転数(モータ回転数)を音制御装置10に出力する。
【0036】
音制御部12は、まず、モータ回転数センサ36によって検出されたモータ回転数に応じた複数の周波数を設定する。次いで、音制御部12は、モータ回転数に基づき、複数の周波数のそれぞれに適用すべき音圧(以下では適宜「音圧p1」と表記する。)を設定すると共に、上記の動力源制御装置4から供給された要求トルク関連値に基づき、複数の周波数のそれぞれに適用すべき音圧(以下では適宜「音圧p2」と表記する。)を設定する。記憶部14は、モータ回転数に応じて音圧p1を設定するための第1音圧マップ、及び、要求トルク関連値に応じて音圧p2を設定するための第2音圧マップを記憶しており、音制御部12は、この記憶部14に記憶された第1及び第2音圧マップを参照して、音圧p1、p2のそれぞれを設定する。
【0037】
そして、音制御部12は、これら音圧p1と音圧p2とを合計した音圧を、モータ回転数に応じて設定された複数の周波数の音にそれぞれ適用することで、合成音を表す合成音信号を生成し、この合成音信号をスピーカ20に出力する。スピーカ20は、この合成音信号を所定の増幅率で増幅して合成音を出力する。
【0038】
ここで、上述したように、車両用音生成装置1の音制御装置10では、電動モータ3の状態を表す合成音を生成するために、電動モータ3の状態(回転数及びトルク)に基づき合成音の音圧を設定している。そして、本実施形態では、合成音の音圧が車両2の走行状態も反映したものとなるようにしている。この場合、音制御装置10において、車両2の走行状態を判定して、その判定結果に応じて合成音の音圧を補正するようにすると、「発明が解決しようとする課題」のセクションで述べたような問題が生じる。すなわち、車両用音生成装置1での通信や処理に係る構成が煩雑化したり、車両用音生成装置1の設計の難易度が高くなったりする。
【0039】
したがって、本実施形態では、合成音を生成する車両用音生成装置1ではなく、車両2や電動モータ3に関する種々の情報が通常集められる動力源制御装置4において、車両2の走行状態を判定して、その判定結果に応じて、音制御装置10において合成音の音圧を設定するために用いられるべきトルクを決定するようにする。そのために、上述したように、動力源制御装置4において、車両2が所定の走行状態である場合に、要求トルク補正部44が、要求トルクを補正し、要求トルク関連値決定部45が、この補正後の要求トルク(補正トルク)を要求トルク関連値として決定して、この要求トルク関連値が、音制御装置10において合成音の音圧の設定のために用いられるようにしている。
【0040】
この要求トルク関連値は、電動モータ3に実際適用されるトルクではなく、車両2の走行状態が反映されたトルクに相当する値となっている。したがって、この要求トルク関連値に基づき合成音の音圧を設定することで、音制御装置10において走行状態に応じて合成音の音圧を補正しなくても、走行状態に応じた音圧(つまり走行状態に応じて補正されたような音圧)を有する合成音が、音制御装置10において的確に生成されることとなる。以上より、本実施形態に係る車両用音生成システム100によれば、動力源制御装置4において車両2の走行状態に応じた処理(具体的には走行状態の判定及びこの判定結果に応じた情報(要求トルク関連値)の生成)を行うので、車両用音生成装置1での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する合成音を的確に生成することができる。
【0041】
<動力源制御装置の処理>
次に、図3図5を参照して、本発明の実施形態において動力源制御装置4により行われる処理について具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態において動力源制御装置4により行われる処理を示すフローチャートであり、図4は、本発明の実施形態において、要求トルクを低減補正するための第1トルク補正マップを示し、図5は、本発明の実施形態において、要求トルクを増加補正するための第2トルク補正マップを示している。
【0042】
図3のフローチャートが開始されると、ステップS11において、動力源制御装置4は、この後の処理に必要な各種情報を取得する。具体的には、動力源制御装置4は、アクセル開度センサ31から供給されたアクセル開度と、車速センサ32から供給された車速と、ADAS制御装置33から供給されたADAS要求加速度及び現在の制御モードと、走行モード選択スイッチ34から供給された現在の走行モードと、を少なくとも取得する。
【0043】
次いで、ステップS12において、動力源制御装置4の加速度算出部41は、ステップS11で取得されたアクセル開度に基づき、ドライバからのアクセルペダル操作による要求加速度(以下では「ドライバ要求加速度」と呼ぶ。)を算出する。具体的には、加速度算出部41は、アクセル開度とドライバ要求加速度との関係が規定されたマップを参照して、現在のアクセル開度に対応するドライバ要求加速度を決定する。この場合、加速度算出部41は、ステップS11で取得された走行モードに応じて、使用するマップを変える。例えば、加速度算出部41は、現在の走行モードがスポーツモードである場合には、アクセル開度に対して比較的大きなドライバ要求加速度が規定されたマップを使用する。
【0044】
次いで、ステップS13において、動力源制御装置4の加速度算出部41は、ステップS12で算出されたドライバ要求加速度と、ステップS11で取得されたADAS要求加速度とを調停し、最終的に適用すべき要求加速度を決定する。具体的には、加速度算出部41は、ADAS要求加速度が設定されていない場合には、ドライバ要求加速度を適用し、ADAS要求加速度が設定されている場合には、ADAS要求加速度をドライバ要求加速度よりも優先適用するようにする。例えば、加速度算出部41は、ドライバ要求加速度がADAS要求加速度よりも高い場合には、ADAS要求加速度を適用する。他方で、加速度算出部41は、車速が上限速度(例えば自動速度制御によって設定された制限速度)に達している場合には、最終的に適用すべき要求加速度を0に決定する。
【0045】
次いで、ステップS14において、動力源制御装置4の要求トルク算出部42は、ステップS13で決定された要求加速度に応じて、電動モータ3の要求トルクを算出する。具体的には、要求トルク算出部42は、要求加速度と要求トルクとの関係が規定されたマップを参照して、ステップS13で決定された要求加速度に対応する要求トルクを決定する。
【0046】
次いで、ステップS15において、動力源制御装置4の走行状態判定部43は、ステップS11で取得されたアクセル開度、車速、制御モード及び走行モードや、ステップS14で算出された要求トルクに基づき、車両2が所定の走行状態であるか否かを判定する。典型的な例では、走行状態判定部43は、車両2が定常走行を行っている第1走行状態(具体的には車両2の挙動(車速や要求トルクなど)が一定である走行状態)や、車両2が自動速度制御によって走行している第2走行状態や、車両2がスポーツモードによって走行している第3走行状態を判定する。
【0047】
具体的には、走行状態判定部43は、1つの例では、車速の単位時間あたりの変化量がほぼ0で、且つアクセル開度の単位時間あたりの変化量がほぼ0である場合に、車両2が第1走行状態であると判定する。他の例では、走行状態判定部43は、要求トルクが所定の閾値よりも小さく、且つ要求トルクの単位時間あたりの変化量がほぼ0である場合に、車両2が第1走行状態であると判定する。なお、上記の単位時間として、動力源制御装置4の処理周期に対応する時間を用いることができる。また、走行状態判定部43は、ステップS13においてADAS要求加速度が適用すべき要求加速度として決定され、且つ現在の制御モードが自動速度制御モードに設定されている場合に、車両2が第2走行状態であると判定する。また、走行状態判定部43は、現在の走行モードがスポーツモードに設定されている場合に、車両2が第3走行状態であると判定する。
【0048】
ステップS15において、車両2が所定の走行状態であると判定された場合(ステップS15:Yes)、動力源制御装置4は、ステップS16に進み、ステップS14で算出された要求トルクを補正する。これに対して、動力源制御装置4は、車両2が所定の走行状態であると判定されなかった場合(ステップS15:No)、要求トルクを補正せずに、ステップS17に進む。
【0049】
ステップS16において、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、ステップS15で判定された走行状態の内容に応じて、要求トルクを低減させる補正及び増加させる補正のいずれかを行う。具体的には、要求トルク補正部44は、第1及び第2走行状態では、車両用音生成装置1からの合成音の音圧を小さくするべく、要求トルクを低減させる補正を行って、要求トルク関連値に適用される補正トルクを小さくするようにする。第1及び第2走行状態では、車両2が定常走行を行っているか、又はドライバが積極的に運転操作を行わずに車両2が自動速度制御により走行しているので、車両用音生成装置1からの合成音によりドライバに与える煩わしさや不快感などを抑制するために、音圧を小さくしている。この場合、要求トルク補正部44は、記憶部46に記憶された第1トルク補正マップ(図4参照)を読み出して、要求トルクを低減させる補正を行う。図4は、車両2が第1又は第2走行状態であるという判定成立からの経過時間(横軸)と、要求トルクを補正するための補正用パラメータz1(縦軸)との関係が規定された第1トルク補正マップを示している。要求トルク補正部44は、この第1トルク補正マップを参照して、判定成立からの経過時間に応じた補正用パラメータz1を決定する。そして、要求トルク補正部44は、以下の式に基づいて、決定された補正用パラメータz1によって要求トルクを補正して、補正トルクを求める。
T0’=T0×z1+Tmin
【0050】
上式において、「T0」は元の要求トルクを示し、「T0’」は補正トルクを示し、「Tmin」は、補正トルクに適用されるトルクの最小値を示す。具体的には、最小値Tminは、予め設定される値であり、十分小さな値が適用される。例えば、最小値Tminは、車両2のクリープ状態でのトルク(10N・m程度)が適用される。なお、最小値Tminをほぼ0に設定してもよい。
【0051】
図4に示すように、補正用パラメータz1は、判定成立からの経過時間が2秒未満である間は「1」に維持され、判定成立からの経過時間が2秒以上になると、経過時間の増加に伴って徐々に低減される。そして、判定成立からの経過時間が4秒以上になると、補正用パラメータz1は「0」に維持される。このような補正用パラメータz1によれば、上式より、補正トルクT0’として、元の要求トルクT0に最小値Tminを加算した値と、最小値Tminとの間の値が求められる(Tmin≦T0’≦T0+Tmin)。具体的には、判定成立からの経過時間が2秒未満である間は、要求トルクT0は補正されず、補正トルクT0’は要求トルクT0+Tminに維持される。そして、判定成立からの経過時間が2秒以上になると、経過時間の増加に伴って要求トルクT0が低減補正され、補正トルクT0’が徐々に小さくなる。そして、判定成立からの経過時間が4秒以上になると、補正トルクT0’が最小値Tminに維持される。この場合、要求トルクT0が当初如何なる値であったかに関わらずに、補正トルクT0’が、要求トルクT0の大きさに依存しない最小値Tminという固定値に維持されることとなる。例えば、車両2のクリープ状態でのトルクを最小値Tminに適用した場合には、クリープ状態での音圧を有する合成音が出力されることとなる。
【0052】
他方で、要求トルク補正部44は、第3走行状態では、車両用音生成装置1からの合成音の音圧を大きくするべく、要求トルクT0を増加させる補正を行って、要求トルク関連値に適用される補正トルクT0’を大きくするようにする。第3走行状態では、車両2がスポーツモードによって走行しているので、車両用音生成装置1からの合成音によりドライバの気分を高揚させるために、音圧を大きくしている。この場合、要求トルク補正部44は、記憶部46に記憶された第2トルク補正マップ(図5参照)を読み出して、要求トルクT0を増加させる補正を行う。図5は、車両2が第3走行状態であるという判定成立からの経過時間(横軸)と、要求トルクT0を補正するための補正用パラメータz2(縦軸)との関係が規定された第2トルク補正マップを示している。要求トルク補正部44は、この第2トルク補正マップを参照して、判定成立からの経過時間に応じた補正用パラメータz2を決定する。そして、要求トルク補正部44は、以下の式に基づいて、決定された補正用パラメータz2によって要求トルクT0を補正して、補正トルクT0’を求める。
T0’=T0×z2
【0053】
図5に示すように、補正用パラメータz2は、判定成立からの経過時間が1秒未満である間は、経過時間の増加に伴って徐々に増加され、判定成立からの経過時間が1秒以上になると「1.2」に維持される。このような補正用パラメータz2によれば、上式より、補正トルクT0’として、元の要求トルクT0と、この要求トルクT0の1.2倍との間の値が求められる(T0≦T0’≦T0×1.2)。具体的には、判定成立からの経過時間が1秒未満である間は、経過時間の増加に伴って要求トルクT0が増加補正され、補正トルクT0’が徐々に大きくなる。そして、判定成立からの経過時間が1秒以上になると、補正トルクT0’が要求トルクT0の1.2倍の値に維持される。この場合、上記した要求トルクT0を低減補正する場合と異なり、補正トルクT0’は、要求トルクT0の大きさに応じた値(T0×1.2)に設定される。これにより、第3走行状態では、ドライバによるアクセル操作に応じて、合成音の音圧を的確に変化させることができる。これは、アクセル開度に応じて要求トルクT0の大きさが変わり、この要求トルクT0の大きさが補正トルクT0’に反映されるからである。
【0054】
なお、シーンに応じて、図4に示す第1トルク補正マップの内容や最小値Tminを変更したり、図5に示す第2トルク補正マップの内容や補正用パラメータz2の最大値(1.2)を変更したりしてもよい。これにより、シーンに応じて補正後の音圧や補正の速さを変えることができる。
【0055】
次いで、ステップS17において、動力源制御装置4の要求トルク関連値決定部45は、車両2が所定の走行状態である場合には、要求トルク補正部44によって補正された要求トルク(補正トルクT0’)を要求トルク関連値として決定する一方で、車両2が所定の走行状態でない場合には、要求トルク補正部44によって補正されていない要求トルクT0を要求トルク関連値として決定する。つまり、要求トルク関連値決定部45は、要求トルクT0が要求トルク補正部44によって補正された場合には、補正トルクT0’を要求トルク関連値として決定する一方で、要求トルクT0が要求トルク補正部44によって補正されなかった場合には、要求トルク算出部42によって算出された要求トルクT0をそのまま要求トルク関連値として決定する。なお、要求トルク関連値は、要求トルク補正部44による補正トルクT0’が適用されるか否かに関わらず、他の何らかの処理(例えばローパスフィルタなど)が行われたものも含まれる。
【0056】
次いで、ステップS18において、動力源制御装置4は、ステップS14で算出された要求トルクを、電動モータ3に出力する一方で(厳密には電動モータ3のインバータに出力する)、ステップS17で決定された要求トルク関連値を、車両用音生成装置1の音制御装置10に出力する。
【0057】
<車両用音生成装置の処理>
次に、図6図8を参照して、本発明の実施形態において車両用音生成装置1により行われる処理について具体的に説明する。図6は、本発明の実施形態において車両用音生成装置1により行われる処理を示すフローチャートであり、図7は、本発明の実施形態において、モータ回転数に応じて音圧p1を設定するための第1音圧マップを示し、図8は、本発明の実施形態において、要求トルク関連値に応じて音圧p2を設定するための第2音圧マップを示す。なお、図6のフローチャートは、車両用音生成装置1の音制御装置10によって、所定の周期で繰り返し実行される。
【0058】
図6のフローチャートが開始されると、ステップS21において、音制御装置10は、この後の処理に必要な各種情報を取得する。具体的には、音制御装置10は、主に、モータ回転数センサ36により検出されたモータ回転数、及び、動力源制御装置4の要求トルク関連値決定部45により決定された要求トルク関連値を取得する。
【0059】
次いで、ステップS22において、音制御装置10は、ステップS21で取得されたモータ回転数に応じた複数の周波数を設定する。具体的には、音制御装置10の音制御部12は、以下の式に基づいて、1次周波数(基本周波数)であるモータ回転数に応じた複数の周波数を決定する。
fk(Hz)=R(Hz)×nk
この式において、「R」はモータ回転数であり、「k」は自然数(k=1、2、3…)であり、「nk」はモータ回転数Rに対する次数であり、「fk」は周波数である。
【0060】
本実施形態では、k=1~5とし、5つの周波数f1~f5を用いる(これは、後の処理にて、5つの周波数f1~f5の音を合成した合成音を生成することを意味する)。この場合、例えば、n1は3.3、n2は4、n3は5.3、n4は6.7、n5は8である。また、例えば、モータ回転数Rが50Hz(3000rpm)の場合、周波数f1は165Hz、周波数f2は200Hz、周波数f3は265Hz、周波数f4は335Hz、周波数f5は400Hzである。なお、n1~n5の次数に対応する5つの周波数f1~f5を用いることに限定はされず、これらとは異なる次数の周波数を用いてもよいし、また、5つ未満又は6つ以上の周波数を用いてもよい。
【0061】
次いで、ステップS23において、音制御装置10の音制御部12は、記憶部14に記憶された第1音圧マップ(図7参照)を読み出して、ステップS22で設定された5つの周波数f1~f5の音にそれぞれ適用する音圧p1を、ステップS21で取得されたモータ回転数に基づき設定する。図7(A)~(E)は、周波数f1~f5の音のそれぞれについて、モータ回転数に応じて設定すべき音圧p1が規定された第1音圧マップを示している。第1音圧マップでは、基本的には、周波数f1~f5の音の全てに関して、モータ回転数が高くなるほど、設定すべき音圧p1が高くなっている。音制御部12は、このような第1音圧マップを参照して、5つの周波数f1~f5の音にそれぞれについて、現在のモータ回転数に対応する音圧p1を決定する。
【0062】
次いで、ステップS24において、音制御装置10の音制御部12は、記憶部14に記憶された第2音圧マップ(図8参照)を読み出して、ステップS22で設定された5つの周波数f1~f5の音にそれぞれ適用する音圧p2を、ステップS21で取得された要求トルク関連値に基づき設定する。図8(A)~(E)は、周波数f1~f5の音のそれぞれについて、要求トルク関連値に応じて設定すべき音圧p2が規定された第2音圧マップを示している。第2音圧マップでも、基本的には、周波数f1~f5の音の全てに関して、要求トルク関連値が高くなるほど、設定すべき音圧p2が高くなっている。音制御部12は、このような第2音圧マップを参照して、5つの周波数f1~f5の音にそれぞれについて、現在の要求トルク関連値に対応する音圧p2を決定する。なお、図8(E)に示す8次の周波数f5の第2音圧マップのみ、負の要求トルク関連値においても音圧p2が規定されている。これは、電動モータ3の回生時に、この8次の周波数f5の音のみが出力されることを意味している。
【0063】
次いで、ステップS25において、音制御装置10の音制御部12は、ステップS23で設定された音圧p1とステップS24で設定された音圧p2とを合計した音圧を、周波数f1~f5の音にそれぞれ適用することで、合成音を表す合成音信号を生成する。そして、音制御部12は、この合成音信号をスピーカ20に出力する。次いで、ステップS26において、スピーカ20は、合成音信号を受信して、合成音を出力する。
【0064】
<作用及び効果>
次に、本発明の実施形態による車両用音生成システム100の作用及び効果について説明する。
【0065】
本実施形態による車両用音生成システム100では、動力源制御装置4は、車両2の所定の走行状態を判定し、車両2が所定の走行状態であると判定された場合に、要求トルクを補正して要求トルク関連値を生成し、車両用音生成装置1は、この要求トルク関連値に基づき合成音の音圧を設定する。つまり、本実施形態では、合成音を生成する車両用音生成装置1ではなく、車両2や電動モータ3に関する種々の情報が通常集められる動力源制御装置4において、車両2の走行状態を判定して、その判定結果に応じて、音制御装置10において合成音の音圧の設定に用いるための要求トルク関連値を決定する。要求トルク関連値は、車両2の走行状態が反映されたトルクに相当する値となっているので、この要求トルク関連値に基づき合成音の音圧を設定することで、車両用音生成装置1において走行状態に応じて合成音の音圧を補正しなくても、走行状態に応じた音圧(つまり走行状態に応じて補正されたような音圧)を有する合成音を的確に生成することができる。したがって、本実施形態に係る車両用音生成システム100によれば、動力源制御装置4において車両2の走行状態に応じた処理を行うので、具体的には走行状態の判定及びこの判定結果に応じた情報(要求トルク関連値)の生成を行うので、車両用音生成装置1での通信や処理に係る構成を煩雑化させることなく、種々の走行シーンに応じた音圧を有する合成音を的確に生成することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、走行状態判定部43によって判定された所定の走行状態の内容に応じて、要求トルクを低減させる補正と増加させる補正とを切り替えて行う。これにより、車両用音生成装置1において、走行状態の内容に適した音圧を有する合成音を的確に生成することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の走行状態判定部43は、所定の走行状態として、車両2が定常走行を行っている第1走行状態を判定し、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、車両2が第1走行状態であると判定された場合に、要求トルクを低減させる補正を行う。これにより、第1走行状態において、車両用音生成装置1からの合成音の音圧を低下させることができる。したがって、車両2が定常走行を行っているときに、車両用音生成装置1からの合成音によりドライバに煩わしさや不快感などを与えることを抑制できる。
【0068】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の走行状態判定部43は、所定の走行状態として、車両2が自動速度制御によって走行している第2走行状態を判定し、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、車両2が第2走行状態であると判定された場合に、要求トルクを低減させる補正を行う。これにより、第2走行状態において、車両用音生成装置1からの合成音の音圧を低下させることができる。したがって、ドライバが積極的に運転操作を行わずに、車両2が自動速度制御により走行しているときに、車両用音生成装置1からの合成音によりドライバに煩わしさや不快感などを与えることを抑制できる。
【0069】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の走行状態判定部43は、所定の走行状態として、車両2が、ドライバにより走行モードとして選択されたスポーツモードによって走行している第3走行状態を判定し、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、車両2が第3走行状態であると判定された場合に、要求トルクを増加させる補正を行う。これにより、第3走行状態において、車両用音生成装置1からの合成音の音圧を増加させることができる。したがって、車両2がスポーツモードによって走行しているときに、車両用音生成装置1からの合成音によってドライバの気分を高揚させることができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、要求トルクを低減させる補正を行う場合には、当該要求トルクを予め設定された最小値まで低減させる。これにより、低減補正された要求トルクの適用により合成音の音圧が低下されるような走行状態においては、当初の要求トルクの大きさに関係なく、固定値としての低い音圧の合成音を車両用音生成装置1から出力させることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、要求トルクを増加させる補正を行う場合には、要求トルクを、当該要求トルクに対して1よりも大きい係数を乗算した値まで増加させる。これにより、増加補正された要求トルクの適用により合成音の音圧が増加されるような走行状態においては、要求トルクの大きさに応じた音圧の合成音を車両用音生成装置1から出力させることができる。したがって、合成音の音圧を増加させる場合に、その合成音の音圧をドライバによるアクセル操作などに応じて的確に変化させることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、動力源制御装置4の要求トルク補正部44は、車両2が所定の走行状態であると判定されてからの時間経過に伴って、要求トルクの大きさを徐々に変化させるように補正を行う。これにより、合成音の音圧を急激に変化させることなく、音圧を徐々に変化させるので、ドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、車両用音生成装置1の音制御部12は、要求トルク関連値に基づき設定された音圧とは別に、モータ回転数に基づき、複数の周波数に適用すべき音圧を更に設定し、要求トルク関連値に基づき設定された音圧と、モータ回転数に基づき設定された音圧とを合計した音圧を、複数の周波数の音に適用することで、合成音を表す合成音信号を生成する。これにより、電動モータ3の状態がより反映された合成音を生成することができ、ドライバが電動モータ3の状態を知覚するのを効果的に助けることができる。
【0074】
<変形例>
上記した実施形態では、車両2は、電動車両(EV)であり内燃機関(エンジン)を備えていないが、他の例では、車両2は、回転動力源として内燃機関と電動モータの一方又は両方を備えた車両であってもよい。車両2が内燃機関のみを備える変形例では、エンジン作動音に加えて、車両用音生成装置1により発生される音により、ドライバは、車両状態及び車両状態の変化をより明確に把握することができる。また、この変形例では、合成音の周波数及び音圧を決定するために、内燃機関の回転数(エンジン回転数)を用いることができる。さらに、車両2が内燃機関と電動モータの両方を備える別の変形例では、合成音の周波数及び音圧を決定するために、電動モータ及び内燃機関の一方又は両方の回転数を用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 車両用音生成装置
2 車両
3 電動モータ
4 動力源制御装置
10 音制御装置
12 音制御部
20 スピーカ(音出力部)
31 アクセル開度センサ
32 車速センサ
33 ADAS制御装置
34 走行モード選択スイッチ
41 加速度算出部
42 要求トルク算出部
43 走行状態判定部
44 要求トルク補正部
45 要求トルク関連値決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8