(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155894
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受および車輪駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20221006BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20221006BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20221006BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20221006BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C19/18
B60B35/14 U
F16C33/58
F16C35/07
F16D1/06 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059331
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA02
3J117BA10
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB01
3J117DB05
3J701AA03
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA54
3J701BA56
3J701EA02
3J701FA01
3J701FA35
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】車両の加速時および減速時のいずれにおいても、ハブの雌スプラインと駆動軸部材の雄スプラインとの噛み合い位置を、雌スプラインと雄スプラインとのスプライン係合部の軸方向内側の端部とすることができるハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】外輪4と、内周面に雌スプライン12を有するハブ5と、転動体6a、6bとを備える。ハブ5は、径方向内側の端部の円周方向複数箇所に、ハブ5の軸方向外側面から雌スプライン12の軸方向内側の端部と径方向に重畳する位置まで直線状に伸長した中間孔21を有する。中間孔21は、軸方向内側の端部の内周面に、軸方向内側が小径側となるテーパ雌ねじ部22を有する。中間孔21のそれぞれに挿入されたねじ部材7を備える。ねじ部材7は、外周面に、テーパ雌ねじ部22に螺合されるテーパ雄ねじ部25を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道、および、内周面に雌スプラインを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、を備え、
前記ハブは、径方向内側の端部の円周方向複数箇所に、該ハブの軸方向外側面から前記雌スプラインの軸方向内側の端部と径方向に重畳する位置まで直線状に伸長した中間孔を有し、該中間孔は、軸方向内側の端部の内周面に、軸方向内側が小径側となるテーパ雌ねじ部を有し、
前記中間孔のそれぞれに挿入されたねじ部材を備え、該ねじ部材は、少なくとも軸方向一部分の外周面に、前記テーパ雌ねじ部に螺合されるテーパ雄ねじ部を有する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記中間孔の中心軸が、軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に、前記テーパ雌ねじ部の勾配角の分だけ傾斜している、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
ハブユニット軸受と、駆動軸部材と、を備え、
前記ハブユニット軸受は、請求項1または2に記載のハブユニット軸受であり、
前記駆動軸部材は、等速ジョイント用外輪と、該等速ジョイント用外輪の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出した軸部とを備え、
前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側面は、前記ハブの軸方向内側の端面に当接しており、
前記軸部は、外周面に雄スプラインを有し、かつ、該雄スプラインが前記雌スプラインにスプライン係合しており、
前記テーパ雌ねじ部のそれぞれに、前記テーパ雄ねじ部が螺合し、さらに締め付けられることに基づいて、前記雌スプラインの軸方向内側の端部が縮径し、かつ、該縮径した端部が前記雄スプラインに押し付けられている、
車輪駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の駆動輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受、および、該ハブユニット軸受と駆動軸部材とを備えた車輪駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、特開2003-72310号公報(特許文献1)に記載されている、ハブユニット軸受100と駆動軸部材110とを組み合わせてなる車輪駆動ユニット116の従来構造の1例を示している。なお、車輪駆動ユニット116に関して、軸方向外側は、車両への組付け状態で車両の幅方向外側となる
図6の左側であり、軸方向内側は、車両への組付け状態で車両の幅方向中央側となる
図6の右側である。
【0003】
ハブユニット軸受100は、自動車の駆動輪を懸架装置に対して回転自在に支持するための軸受であり、外輪101と、ハブ102と、複数個の転動体103a、103bとを備える。
【0004】
外輪101は、内周面に複列の外輪軌道104a、104bを有する。
【0005】
ハブ102は、外周面に複列の内輪軌道105a、105b、および、外輪101よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に向けて突出した回転フランジ106を有する。ハブユニット軸受100は、駆動輪用であるため、ハブ102は、内周面に、駆動軸部材110の雄スプライン113をスプライン係合させるための雌スプライン109を有する。
【0006】
図示の例では、ハブ102は、ハブ輪107と内輪108とを組み合わせてなる。ハブ輪107は、軸方向外側部に回転フランジ106、外周面の軸方向中間部に軸方向外側列の内輪軌道105a、および、内周面に雌スプライン109を有する。内輪108は、外周面に軸方向内側列の内輪軌道105bを有し、かつ、ハブ輪107の軸方向内側部に圧入により外嵌されている。
【0007】
転動体103a、103bは、複列の外輪軌道104a、104bと複列の内輪軌道105a、105bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されている。
【0008】
車両への組付け状態で、外輪101は、懸架装置に結合固定されて回転しない。ハブ102は、回転フランジ106に結合固定された駆動輪および制動用回転体と一体となって回転する。ハブ輪107の雌スプライン109には、駆動軸部材110の雄スプライン113がトルク伝達を可能にスプライン係合される。これにより、エンジン、電動モータなどの駆動源から駆動軸部材110に伝達された駆動トルクが、ハブ輪107を介して駆動輪に伝達される。
【0009】
駆動軸部材110は、カップ型の等速ジョイント用外輪111と、等速ジョイント用外輪111の底部を構成する軸方向外側の端部の径方向中央部から軸方向外側に向けて伸長した軸部112とを備える。軸部112は、軸方向中間部の外周面に雄スプライン113、および、軸方向外側の端部の外周面に雄ねじ部114を有する。
【0010】
車両への組付け状態では、図示のように、ハブ輪107の雌スプライン109に、軸部112の雄スプライン113をスプライン係合させる。さらに、この状態で、軸部112の雄ねじ部114に螺合したナット115を締め付ける。これにより、等速ジョイント用外輪111の軸方向外側の端面とナット115の軸方向内側面との間でハブ102を軸方向両側から挟持することで、ハブ102と駆動軸部材110とを結合固定する。
【0011】
上述したような車輪駆動ユニット116において、雌スプライン109と雄スプライン113とのスプライン係合部に円周方向の隙間(バックラッシ)が存在していると、該スプライン係合部でのトルク伝達の開始時に、雌スプライン109を構成するスプライン歯の円周方向側面と、雄スプライン113を構成するスプライン歯の円周方向側面とが、勢い良く衝突する。その結果、該衝突に伴う耳障りな異音が発生する可能性がある。
【0012】
このような問題が発生するのを防止するために、従来から、雌スプライン109を構成するスプライン歯を、ハブ輪107の軸方向に伸長する直線的なスプライン歯により構成する一方で、雄スプライン113を構成するスプライン歯を、軸部112の軸方向に対して僅かに傾斜する方向に伸長するヘリカルスプライン歯により構成することで、雌スプライン109と雄スプライン113とのスプライン係合部における円周方向の隙間(バックラッシ)をなくすことが行われている。
【0013】
また、特開2017-47716号公報(特許文献2)には、上記の問題が発生するのを防止するために、ハブ輪の内周面と駆動軸部材の軸部(ステム部)の外周面とのうちのいずれか一方に備えられたスプライン(軸方向に延びる凸部)を他方に圧入し、他方に該スプライン(凸部)により相手側のスプライン(凹部)を形成することで、これらのスプライン(凸部と凹部)を全域で密着するように接合、すなわちプレスカット接合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003-72310号公報
【特許文献2】特開2017-47716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、雌スプライン109と雄スプライン113とのスプライン係合部には、互いに逆方向のトルク、すなわち、加速時の駆動トルクと、減速時の制動トルクとが負荷される。特に、近年、電気自動車が普及し、回生ブレーキが使用されるようになったため、加速時の駆動トルクと減速時の制動トルクとが交互に負荷される頻度が高くなってきている。
【0016】
ここで、雄スプライン113のスプライン歯がヘリカルスプライン歯により構成されている場合、雌スプライン109と雄スプライン113とのスプライン係合部において、雌スプライン109と雄スプライン113との噛合い位置は、駆動トルクの伝達時と制動トルクの伝達時とで軸方向に変化する。すなわち、前記噛み合い位置は、駆動トルクの伝達時に軸方向内側なら、制動トルクの伝達時は軸方向外側というように変化し、あるいは、駆動トルクの伝達時に軸方向外側なら、制動トルクの伝達時は軸方向内側というように変化する。
【0017】
そして、このような噛み合い位置の変化により、等速ジョイント用外輪111の軸方向外側の端面とハブ102の軸方向内側の端面との当接部から、雌スプライン109と雄スプライン113との噛合い位置までの軸方向距離が変化し、これに伴い、軸部112の弾性的な捩れ量が変化する。特に、前記噛み合い位置が軸方向外側となる場合は、軸部112の弾性的な捩れ量が大きくなるため、等速ジョイント用外輪111の軸方向外側の端面とハブ102の軸方向内側の端面との当接部に、円周方向の微小滑りが生じ、該滑りによる異音や摩耗が発生する可能性がある。また、図示の例のように、等速ジョイント用外輪111の軸方向外側の端面が内輪108の軸方向内側面に当接している場合には、内輪108に姿勢変化が生じ、ハブ輪107に対する内輪108の微小クリープが発生する可能性がある。
【0018】
一方、ハブ輪の内周面と駆動軸部材の軸部の外周面とを、スプラインのプレスカット接合により嵌合させる技術によれば、上述したような微小滑りの発生を抑制することができる。しかしながら、プレスカット接合を行うためには大きな加工力が必要になるため、加工設備が大型化しやすくなる。また、プレスカット接合に伴って切粉が発生するため、該切粉の除去作業が面倒になる。したがって、他の方法によって、上記の問題を解決することが望まれる。
【0019】
本発明は、車両の加速時および減速時のいずれにおいても、ハブの雌スプラインと駆動軸部材の雄スプラインとの噛み合い位置を、該雌スプラインと該雄スプラインとのスプライン係合部の軸方向内側の端部とすることができるハブユニット軸受および車輪駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道、および、内周面に雌スプラインを有するハブと、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体とを備える。
前記ハブは、径方向内側の端部の円周方向複数箇所に、該ハブの軸方向外側面から前記雌スプラインの軸方向内側の端部と径方向に重畳する位置まで直線状に伸長した中間孔を有し、該中間孔は、軸方向内側の端部の内周面に、軸方向内側が小径側となるテーパ雌ねじ部を有する。
前記中間孔のそれぞれに挿入されたねじ部材を備え、該ねじ部材は、少なくとも軸方向一部分の外周面に、前記テーパ雌ねじ部に螺合されるテーパ雄ねじ部を有する。
【0021】
本発明の一態様のハブユニット軸受では、前記中間孔の中心軸が、軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に、前記テーパ雌ねじ部の勾配角の分だけ傾斜している。この場合に、好ましくは、前記ハブの軸方向外側面のうち、前記中間孔の軸方向外側の端部が開口する部分を、該中間孔の中心軸に対して直交する母線を有する円すい面により構成することができる。
【0022】
本発明の一態様の車輪駆動ユニットは、ハブユニット軸受と、駆動軸部材とを備える。
前記ハブユニット軸受は、本発明の一態様のハブユニット軸受である。
前記駆動軸部材は、等速ジョイント用外輪と、該等速ジョイント用外輪の径方向中央部から軸方向外側に向けて突出した軸部とを備える。
前記等速ジョイント用外輪の軸方向外側面は、前記ハブの軸方向内側の端面に当接している。
前記軸部は、外周面に雄スプラインを有し、かつ、該雄スプラインが前記雌スプラインにスプライン係合している。
前記テーパ雌ねじ部のそれぞれに、前記テーパ雄ねじ部が螺合し、さらに締め付けられることに基づいて、前記雌スプラインの軸方向内側の端部が縮径し、かつ、該縮径した端部が前記雄スプラインに押し付けられている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様のハブユニット軸受および車輪駆動ユニットによれば、車両の加速時および減速時のいずれにおいても、ハブの雌スプラインと駆動軸部材の雄スプラインとの噛み合い位置を、該雌スプラインと該雄スプラインとのスプライン係合部の軸方向内側の端部とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例の車輪駆動ユニットの断面図である。
【
図2】
図2は、第1例のハブユニット軸受の断面図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、
図1のα部拡大図であり、具体的には、
図3(A)は、テーパ雄ねじ部の締め付け前の状態を示す図であり、
図3(B)は、テーパ雄ねじ部の締め付け後の状態を示す図である。
【
図4】
図4(A)は、第1例のハブユニット軸受が備えるねじ部材の側面図、および、仮想線で示す中間孔の部分断面図であり、
図4(B)は、ねじ部材の別例の側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態の第2例のハブユニット軸受の断面図である。
【
図6】
図6は、従来の車輪駆動ユニットの1例を示す半部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図4を用いて説明する。
【0026】
本例の車輪駆動ユニット1は、ハブユニット軸受2と、駆動軸部材3とを備える。なお、車輪駆動ユニット1に関して、軸方向外側は、車両への組付け状態で車両の幅方向外側となる
図1および
図2の左側であり、軸方向内側は、車両への組付け状態で車両の幅方向中央側となる
図1および
図2の右側である。
【0027】
ハブユニット軸受2は、駆動輪用であって、外輪4と、ハブ5と、複数個の転動体6a、6bと、複数個のねじ部材7とを備える。
【0028】
外輪4は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されており、内周面に複列の外輪軌道8a、8bを有する。本例では、外輪4は、軸方向中間部に径方向外側に向けて突出した静止フランジ9を有する。静止フランジ9は、径方向中間部の円周方向複数箇所に軸方向に貫通する支持孔10を有する。外輪4は、静止フランジ9の支持孔10に螺合した支持ボルトにより、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0029】
ハブ5は、外周面に複列の内輪軌道11a、11b、および、内周面に雌スプライン12を有し、外輪4の径方向内側に外輪4と同軸に配置されている。本例では、雌スプライン12を構成するスプライン歯は、ハブ5の軸方向に伸長する直線状のスプライン歯により構成されている。本例では、ハブ5は、外輪4よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に向けて突出した回転フランジ13、および、軸方向外側の端部に円筒状のパイロット部14を有する。回転フランジ13は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔15を有する。
【0030】
ハブ5は、径方向内側の端部の円周方向複数箇所(本例では、円周方向等間隔となる複数箇所)に、ハブ5の軸方向外側面から雌スプライン12の軸方向内側の端部と径方向に重畳する位置まで直線状に伸長した中間孔21を有する。中間孔21の数は、3個以上であれば任意であるが、たとえば、6個以上18個以下であることが好ましく、8個以上12個以下であることがより好ましい。本例では、中間孔21のそれぞれの中心軸は、ハブ5の中心軸と平行に配置されている。
【0031】
本例では、中間孔21の軸方向外側の端部は、ハブ5の軸方向外側面の径方向内側の端部に備えられた座面部24に開口している。座面部24は、後述するナット32の軸方向内側面を当接させる面であり、ハブ5の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0032】
中間孔21は、軸方向内側の端部の内周面に、軸方向内側が小径側となるテーパ雌ねじ部22を有する。テーパ雌ねじ部22は、内径が軸方向内側に向かうにしたがって小さくなる方向に傾斜した円すい状の雌ねじ部である。中間孔21の中心軸に対するテーパ雌ねじ部22の傾斜角である勾配角θ1(
図4(A)参照)の大きさは、特に限定されることはないが、たとえば、管用テーパねじと同様の1/16の勾配を持つ角度とすれば、ねじ切りタップやねじ部材7に市販品を使用できるので好ましい。
【0033】
本例では、中間孔21のうち、テーパ雌ねじ部22よりも軸方向外側に位置する部分は、テーパ雌ねじ部22の大径側端部と同じか若干大きい内径を有する円孔部23により構成されている。
【0034】
本例では、ハブ5は、中炭素鋼などの硬質金属製のハブ輪16と、軸受鋼などの硬質金属製の内輪17とを組み合わせてなる。軸方向外側の内輪軌道11aは、ハブ輪16の軸方向中間部の外周面に備えられている。雌スプライン12は、ハブ輪16の内周面に備えられている。回転フランジ13およびパイロット部14は、ハブ輪16の軸方向外側部に備えられている。中間孔21は、ハブ輪16の径方向内側の端部の円周方向複数箇所に備えられている。軸方向内側の内輪軌道11aは、内輪17の外周面に備えられている。内輪17は、ハブ輪16の軸方向内側部に外嵌されている。
【0035】
より具体的には、ハブ輪16は、軸方向内側部の外周面に円筒面状の嵌合面部18、および、嵌合面部18の軸方向外端部に軸方向内側を向いた段差面19を有する。内輪17は、ハブ輪16の嵌合面部18に圧入により外嵌されている。内輪17の軸方向外側面は、段差面19に当接している。この状態で、内輪17の軸方向内側面は、ハブ輪16の軸方向内側の端面よりも軸方向内側に突出している。
【0036】
なお、本発明は、ハブ輪の軸方向内側の端部に、内輪の軸方向内側面を抑え付けるかしめ部を備えたハブユニット軸受や、軸方向外側列の内輪軌道が、ハブ輪に外嵌された別の内輪の外周面に備えられたハブユニット軸受にも適用することもできる。
【0037】
ハブ5は、使用状態で、制動用回転体および駆動輪と一体となって回転する。制動用回転体および駆動輪を構成するホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔にパイロット部14を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔を挿通したハブボルトを、取付孔15に螺合することにより、回転フランジ13に結合固定される。なお、取付孔15のそれぞれに圧入したハブボルトを、制動用回転体およびホイールのそれぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に挿通した状態で、該スタッドの先端部にハブナットを螺合することにより、制動用回転体およびホイールを回転フランジ13に結合固定することもできる。
【0038】
転動体6a、6bは、複列の外輪軌道8a、8bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、円周方向に離隔して配置され、かつ、それぞれの列の保持器20a、20bにより転動自在に保持されている。これにより、ハブ5は、外輪4の径方向内側に回転自在に支持されている。本例では、転動体6a、6bとして玉を使用しているが、転動体として円すいころを使用することもできる。本例では、軸方向外側列の転動体6aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体6bのピッチ円直径とを互いに同じとしている。ただし、本発明は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径とが互いに異なる異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0039】
ねじ部材7は、中間孔21の内側に1つずつ挿入されている。
図4(A)の左半部は、本例のねじ部材7の側面図を示している。ねじ部材7は、少なくとも軸方向一部分の外周面に、テーパ雌ねじ部22に螺合されたテーパ雄ねじ部25を有する。特に、本例では、ねじ部材7は、外周面の軸方向全長にわたり、テーパ雄ねじ部25を有する。すなわち、本例では、ねじ部材7は、中炭素鋼などの硬質金属により、全体を円すい台状に構成されている。テーパ雄ねじ部25は、このようなねじ部材7の外周面の軸方向全長にわたり備えられている。テーパ雄ねじ部25は、外径が軸方向内側に向かうにしたがって小さくなる方向に傾斜した円すい状の雄ねじ部である。ねじ部材7の中心軸に対するテーパ雄ねじ部25の傾斜角である勾配角θ2(
図4(A)参照)は、テーパ雌ねじ部22の勾配角θ1と同じ大きさである。本例では、ねじ部材7は、大径側端面である軸方向外側の端面に開口する六角孔などの係合孔26を有する。すなわち、本例では、中間孔21の内側に挿入したねじ部材7の係合孔26に、該中間孔21に挿入した六角レンチなどのねじ回し工具の先端部を係合させた状態で、該ねじ回し工具を回転させることにより、ねじ部材7のテーパ雄ねじ部25を中間孔21のテーパ雌ねじ部22に螺合させて締め付けられるようにしている。
【0040】
なお、本発明を実施する場合には、ねじ部材として、
図4(B)に示すようなねじ部材7aを用いることもできる。ねじ部材7aは、軸方向内側の端部(先端部)の外周面にテーパ雄ねじ部25、テーパ雄ねじ部25よりも軸方向外側に位置する部分に、中間孔21の円孔部23にがたつきなく挿入可能な円柱状の延長軸部27、および、延長軸部27の軸方向外側の端面に開口する係合孔26を有する。このようなねじ部材7aによれば、該ねじ部材7aを中間孔21に挿入した状態で、係合孔26を中間孔21の開口部に近い位置に配置できるため、ねじ回し工具を用いたねじ部材7aのねじ込み作業を容易に行うことができる。さらには、延長軸部27を中間孔21の円孔部23に嵌合させることで、ハブ5の強度を向上させることができる。
【0041】
駆動軸部材3は、カップ型の等速ジョイント用外輪28と、等速ジョイント用外輪28の底部を構成する軸方向外側の端部の径方向中央部から軸方向外側に向けて伸長した軸部29とを備える。軸部29は、軸方向中間部の外周面に雄スプライン30、および、軸方向外側の端部の外周面に雄ねじ部31を有する。本例では、雄スプライン30を構成するスプライン歯は、軸部29の軸方向に対して傾斜した方向に伸長するヘリカルスプライン歯により構成されておらず、軸部29の軸方向に伸長する直線状のスプライン歯により構成されている。このため、本例の構造を実施する場合には、雌スプライン12と雄スプライン30とのスプライン係合部に生じる円周方向の隙間(バックラッシ)が極力小さくなるように、雌スプライン12および雄スプライン30のそれぞれを構成するスプライン歯の円周方向幅を調整するのが好ましい。なお、軸部29の雄スプラインを、従来通りヘリカルスプライン歯として、バックラッシを小さくすることもできる。
【0042】
エンジン、電動モータなどの駆動源から駆動軸部材3に伝達された駆動トルクを、ハブ5を介して駆動輪に伝達可能とするために、軸部29の雄スプライン30は、ハブ5の雌スプライン12にスプライン係合している。等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面は、ハブ5の軸方向内側の端面、具体的には、内輪17の軸方向内側面に当接している。なお、前記かしめ部を備えた構造を採用する場合には、等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面は、該かしめ部の軸方向内側面に当接する。さらに、本例では、軸部29の雄ねじ部31に螺合したナット32の軸方向内側面を、ハブ5の座面部24に当接させた状態で、ナット32を締め付けている。これにより、等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面とナット32の軸方向内側面との間でハブ5を軸方向両側から挟持することで、ハブ5と駆動軸部材3とを結合固定している。
【0043】
特に、本例の構造では、たとえば自動車の生産ラインにおいて、雄スプライン30を雌スプライン12にスプライン係合させ、かつ、等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面をハブ5の軸方向内側の端面に当接させた後、軸部29の雄ねじ部31にナット32を螺合する前の状態で、中間孔21のそれぞれの内側に挿入したねじ回し工具を用いて、該中間孔21のテーパ雌ねじ部22に、ねじ部材7のテーパ雄ねじ部25を螺合し、さらに締め付けている。すなわち、テーパ雌ねじ部22にテーパ雄ねじ部25を強い力でねじ込んでいる。これにより、雌スプライン12の軸方向内側の端部を縮径させ、かつ、該縮径させた端部を雄スプライン30に押し付けている。
【0044】
すなわち、
図3(A)から
図3(B)の順に示すように、テーパ雌ねじ部22に螺合したテーパ雄ねじ部25を締め付けると、
図3(B)に矢印で示すように、テーパ雄ねじ部25からテーパ雌ねじ部22に、テーパ雌ねじ部22を拡径させる方向の力、具体的には、テーパ雌ねじ部22に内接する仮想円すい面の法線方向外側を向いた力が作用する。そして、この力によって、雌スプライン12の軸方向内側の端部のうち、テーパ雌ねじ部22と径方向に重畳する部分(
図3(B)におけるP部)が内径側に膨出することで、雌スプライン12の軸方向内側の端部が縮径する。本例では、このよう縮径した雌スプライン12の軸方向内側の端部を雄スプライン30に押し付けている。これにより、雌スプライン12と雄スプライン30とのスプライン係合部に生じる円周方向の隙間を、該スプライン係合部の軸方向内側の端部において、軸方向の他の部分に比べて小さくするか、またはゼロにしている。
【0045】
上述したように、本例のハブユニット軸受2によれば、テーパ雌ねじ部22のそれぞれに、テーパ雄ねじ部25を螺合させ、さらに締め付けることに基づいて、雌スプライン12の軸方向内側の端部を縮径させ、かつ、該縮径させた雌スプライン12の軸方向内側の端部を、雄スプライン30に押し付けることができる。
【0046】
換言すれば、本例の車輪駆動ユニット1では、テーパ雌ねじ部22のそれぞれに、テーパ雄ねじ部25が螺合し、さらに締め付けられることに基づいて、雌スプライン12の軸方向内側の端部が縮径し、かつ、該縮径した雌スプライン12の軸方向内側の端部が雄スプライン30に押し付けられている。これにより、雌スプライン12と雄スプライン30とのスプライン係合部に生じる円周方向の隙間が、該スプライン係合部の軸方向内側の端部において、軸方向の他の部分に比べて小さくなるか、またはゼロになっている。
【0047】
このため、車両の加速時および減速時のいずれにおいても、すなわち、雌スプライン12と雄スプライン30とのスプライン係合部に負荷されるトルクの方向がいずれの方向であっても、雌スプライン12と雄スプライン30との噛み合い位置を、雌スプライン12と雄スプライン30とのスプライン係合部の軸方向内側の端部とすることができる。したがって、車両の加速時および減速時のいずれにおいても、等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面とハブ5の軸方向内側の端面(=内輪17の軸方向内側面)との当接部から、雌スプライン12と雄スプライン30との噛合い位置までの軸方向距離を短くして、軸部29の弾性的な捩れ量を小さくすることができる。この結果、等速ジョイント用外輪28の軸方向外側の端面とハブ5の軸方向内側の端面との当接部に、円周方向の微小滑りが生じることを抑制し、該滑りによる異音や摩耗の発生を抑制することができる。また、内輪108に姿勢変化が生じることを抑制し、ハブ輪16に対する内輪17の微小クリープの発生を抑制することができる。
【0048】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図5を用いて説明する。
【0049】
本例では、ハブユニット軸受2aは、軸方向外側列の転動体6aのピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体6bのピッチ円直径よりも大きい、異径PCD型のハブユニット軸受である。本例では、軸方向外側列の転動体6aのピッチ円直径を、軸方向内側列の転動体6bのピッチ円直径よりも大きくするために、外輪4aの内周面に備えられた複列の外輪軌道8a、8bの径寸法、および、ハブ5aの外周面に備えられた複列の内輪軌道11a、11bの径寸法を、それぞれ軸方向外側列で軸方向内側列よりも大きくしている。本例では、回転フランジ13の取付孔15のそれぞれに、ハブボルト33が圧入されている。
【0050】
本例では、ハブ輪16aが備える中間孔21aのそれぞれの中心軸が、軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に、テーパ雌ねじ部22の勾配角θ1(
図4(A)参照)の分だけ傾斜している。このため、テーパ雌ねじ部22のうち、ハブ輪16aの径方向に関する内側の端部が、ハブ輪16aの中心軸に対して平行に配置されている。このような本例の構造では、テーパ雌ねじ部22のそれぞれに、テーパ雄ねじ部25を螺合させ、さらに締め付けることに基づいて、雌スプライン12の軸方向内側の端部を縮径させる場合に、縮径部分の軸方向幅を、実施の形態の第1例の場合よりも広くすることができる。このため、車両の加速時および減速時において、雌スプライン12と雄スプライン30とが噛み合う部分の軸方向幅を広くすることができ、該部分に作用する面圧を低く抑えることができる。したがって、該部分の耐久性を向上させることができる。
【0051】
本例では、中間孔21aのそれぞれの軸方向外側の端部は、ハブ輪16aの軸方向外側面のうち、座面部24の径方向外側に隣接する部分に備えられた傾斜面部34に開口している。このような中間孔21aのそれぞれの軸方向外側の端部が開口する部分である傾斜面部34は、中間孔21aの中心軸に対して直交する母線を有する円すい面により構成されている。これにより、傾斜面部34から直角に中間孔21aの円孔部23の穿孔を行えるようにすることで、該穿孔を行いやすくしている。
【0052】
本例では、中間孔21aのそれぞれの軸方向内側の端部開口は、駆動軸部材3の雄ねじ部31(
図1参照)にナット32を螺合して締め付けた後の状態でも、ナット32によって塞がれない。このため、雄ねじ部31にナット32を螺合して締め付けた後に、中間孔21aのそれぞれの内側に挿入したねじ回し工具を用いて、テーパ雌ねじ部22にテーパ雄ねじ部25を螺合し、さらに締め付ける作業を行うことができる。
【0053】
また、本例では、テーパ雄ねじ部25を有するねじ部材として、
図4(B)に示したような延長軸部27を有し、かつ、該延長軸部27の軸方向内側の端部に、ねじ回し工具を係合させるための六角頭部や六角孔付き頭部などの大径の頭部を備えたねじ部材を採用することができる。そして、該頭部を中間孔21aの外部に配置したまま、ねじ回し工具を用いたねじ部材のねじ込み作業を行うことができる。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0054】
本発明は、上述した各実施の形態の構造を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 車輪駆動ユニット
2 ハブユニット軸受
3 駆動軸部材
4、4a 外輪
5、5a ハブ
6a、6b 転動体
7、7a ねじ部材
8a、8b 外輪軌道
9 静止フランジ
10 支持孔
11a、11b 内輪軌道
12 雌スプライン
13 回転フランジ
14 パイロット部
15 取付孔
16、16a ハブ輪
17 内輪
18 嵌合面部
19 段差面
20a、20b 保持器
21、21a 中間孔
22 テーパ雌ねじ部
23 円孔部
24 座面部
25 テーパ雄ねじ部
26 係合孔
27 延長軸部
28 等速ジョイント用外輪
29 軸部
30 雄スプライン
31 雄ねじ部
32 ナット
33 ハブボルト
34 傾斜面部
100 ハブユニット軸受
101 外輪
102 ハブ
103a、103b 転動体
104a、104b 外輪軌道
105a、105b 内輪軌道
106 回転フランジ
107 ハブ輪
108 内輪
109 雌スプライン
110 駆動軸部材
111 等速ジョイント用外輪
112 軸部
113 雄スプライン
114 雄ねじ部
115 ナット
116 車輪駆動ユニット