IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人海上技術安全研究所の特許一覧

特開2022-155927アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶
<>
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図1
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図2
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図3
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図4
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図5
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図6
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図7
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図8
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図9
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図10
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図11
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図12
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図13
  • 特開-アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155927
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/00 20060101AFI20221006BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20221006BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20221006BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20221006BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F02M25/00 F
F01N3/08 B ZAB
F02D19/08 Z
F02D41/40
F02D45/00 369
F02M25/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059377
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁木 洋一
【テーマコード(参考)】
3G091
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA04
3G091AA21
3G091AA22
3G091AA24
3G091AB05
3G091BA14
3G091CA17
3G092AA06
3G092AB03
3G092AB19
3G092AC10
3G092BB06
3G092FA15
3G092HB05Z
3G301HA21
3G301HA24
3G301HA26
3G301JA21
3G301MA18
3G301MA26
3G301PB02Z
3G384AA13
3G384AA16
3G384AA26
3G384BA19
3G384BA33
3G384DA14
3G384FA21Z
(57)【要約】
【課題】排気ガスの性状を向上させたアンモニア混焼エンジンを提供する。
【解決手段】燃焼室14と、燃焼室14にアンモニアを供給する燃焼用アンモニア供給手段24と、燃焼室14に空気を供給する吸気経路16と、燃焼室14に液体燃料を供給する液体燃料供給手段28と、液体燃料とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率を設定する燃料比率設定手段36aと、比率の設定に応じて液体燃料供給手段28による液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段36bを備え、燃焼室14への液体燃料の供給タイミングをアンモニアと空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて液体燃料の供給タイミングを早める制御を行うアンモニア混焼エンジン100とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、
前記エンジンの燃焼室に前記アンモニアと空気と前記液体燃料とを供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記液体燃料の前記供給タイミングを早めることを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記液体燃料の供給は、多段噴射により供給することを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記液体燃料が軽油であることを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記アンモニアと前記空気を予め混合して前記燃焼室に供給することを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、
前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角を前記エンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°の範囲で設定することを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、
前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、
前記燃焼室から排出される排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を、前記アンモニアを用いて選択的触媒還元システムで浄化することを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項8】
請求項7に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、
前記燃焼室における前記アンモニアと前記液体燃料との混焼時にスリップしたアンモニアを利用して、前記窒素酸化物(NOx)を還元することを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項9】
アンモニアを混焼する圧縮着火式のアンモニア混焼エンジンあって、
燃焼室と、
前記燃焼室に前記アンモニアを供給するアンモニア供給手段と、
前記燃焼室に空気を供給する給気手段と、
前記燃焼室に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、
前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率を設定する燃料比率設定手段と、
前記燃料比率設定手段の比率の設定に応じて前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段を備え、
前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記燃料比率設定手段によって設定された前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記供給タイミング制御手段によって前記液体燃料の前記供給タイミングを早める制御を行うことを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項10】
請求項9に記載のアンモニア混焼エンジンであって、
前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を多段噴射する制御を行うことを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のアンモニア混焼エンジンであって、前記液体燃料が軽油であることを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載のアンモニア混焼エンジンであって、
前記アンモニアを前記給気手段の給気経路に噴射し、予め前記アンモニアと前記空気を混合して前記燃焼室に供給することを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項に記載のアンモニア混焼エンジンであって、
前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角をエンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°に前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御することを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載のアンモニア混焼エンジンであって、
前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか1項に記載のアンモニア混焼エンジンであって、
前記アンモニアを用いて前記燃焼室から排出される排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化する選択的触媒還元システムを前記排気ガスの排気経路に備えることを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項16】
請求項15に記載のアンモニア混焼エンジンであって、前記選択的触媒還元システムで利用される前記アンモニアの供給を制御するアンモニア供給制御手段を備えることを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項17】
請求項9~16のいずれか1項に記載のアンモニア混焼エンジンを搭載していることを特徴とするアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン及びそれを搭載した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス(GHG)の排出量の削減のために、船型の改良や運航方法の改善などが採用されている。舶用機関においては、代替燃料の利用によるGHG削減技術が検討されている。代替燃料としては、カーボンフリー燃料である水素やアンモニア(NH)の利用が挙げられる。アンモニアは、燃焼しても二酸化炭素(CO)を排出せず、大気圧下において容易に液化させることができるので貯蔵・運搬が容易である。この様なアンモニアの性質に着目し、燃料として利用する研究開発が実施されている。
【0003】
燃焼室内において中心部よりも内壁面側のアンモニア濃度が濃くなるようなアンモニア予混合気を形成するように制御することでアンモニアの燃焼率を高める技術が開示されている(特許文献1)。また、尿素水を利用して内燃機関の排出ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する場合に、尿素水を有効利用して内燃機関の燃焼効率を向上させる技術が開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、アンモニア燃焼内燃機関において、燃焼室内にアンモニアとアンモニア以外の高燃焼性物質を供給可能とした構成が開示されている(特許文献3,4)。燃焼室内へのアンモニア供給量が増大したとき又は燃焼室内へのアンモニア及び高燃焼性物質の総供給量に対するアンモニア供給割合が増大したときに燃焼室に供給された混合気が燃焼し易くなるように運転パラメータを制御する構成が開示されている。これにより、アンモニアによる補助燃料(高燃焼性物質)の燃焼性の低下を抑制している。また、内燃機関に供給される全燃料中に占めるアンモニアの割合が高いときには低いときに比べて非アンモニア燃料の噴射時期を進角する。これにより、燃焼室内での混合気を適切に燃焼させるようにしている。
【0005】
また、燃焼室にアンモニアを供給するアンモニア供給機と機関排気通路内に配置されている窒素酸化物選択還元触媒とを備えることによって、窒素酸化物の浄化性能に優れた排気浄化装置を備えるアンモニア燃焼用の内燃機関に関する技術が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-148198号公報
【特許文献2】特開2009-97419号公報
【特許文献3】国際公開第2011/136151号
【特許文献4】国際公開第2011/132604号
【特許文献5】特開2014-211155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、アンモニアを燃料とした内燃機関に関する技術が開発されているが、アンモニアの供給量が増えると排気ガスに含まれるアンモニアや地球温暖化係数の高い亜酸化窒素(NO)が大気汚染を引き起こすおそれがある。そこで、アンモニア混焼エンジンにおいて、排気ガス中に含まれるアンモニアや亜酸化窒素を低減させることが必要である。
【0008】
本願発明は、排気ガスの性状を向上させたアンモニア混焼エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に対応したアンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法は、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記エンジンの燃焼室に前記アンモニアと空気と前記液体燃料とを供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記液体燃料の前記供給タイミングを早めることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記液体燃料の供給は、多段噴射により供給することが好適である。
【0011】
また、前記液体燃料が軽油であることが好適である。
【0012】
また、前記アンモニアと前記空気を予め混合して前記燃焼室に供給することが好適である。
【0013】
また、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角を前記エンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°の範囲で設定することが好適である。
【0014】
また、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることが好適である。
【0015】
また、前記燃焼室から排出される排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を、前記アンモニアを用いて選択的触媒還元システムで浄化することが好適である。
【0016】
また、前記燃焼室における前記アンモニアと前記液体燃料との混焼時にスリップした前記アンモニアを利用して、前記窒素酸化物(NOx)を還元することが好適である。
【0017】
請求項9に対応したアンモニアを混焼する圧縮着火式のアンモニア混焼エンジンは、燃焼室と、前記燃焼室に前記アンモニアを供給するアンモニア供給手段と、前記燃焼室に空気を供給する給気手段と、前記燃焼室に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率を設定する燃料比率設定手段と、前記燃料比率設定手段の比率の設定に応じて前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段を備え、前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記燃料比率設定手段によって設定された前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記供給タイミング制御手段によって前記液体燃料の前記供給タイミングを早める制御を行うことを特徴とする。
【0018】
ここで、前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を多段噴射する制御を行うことが好適である。
【0019】
また、前記液体燃料が軽油であることが好適である。
【0020】
また、前記アンモニアを前記給気手段の給気経路に噴射し、予め前記アンモニアと前記空気を混合して前記燃焼室に供給することが好適である。
【0021】
また、前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角をエンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°に前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御することが好適である。
【0022】
また、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることが好適である。
【0023】
また、前記アンモニアを用いて前記燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを浄化する選択的触媒還元システムを前記排気ガスの排気経路に備えることが好適である。
【0024】
また、前記選択的触媒還元システムで利用される前記アンモニアの供給を制御するアンモニア供給制御手段を備えることが好適である。
【0025】
また、上記アンモニア混焼エンジンを搭載していることを特徴とするアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶とすることが好適である。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に対応したアンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法は、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記エンジンの燃焼室に前記アンモニアと空気と前記液体燃料とを供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記液体燃料の前記供給タイミングを早めることによって、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物(NOx)を低減させ、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0027】
ここで、前記液体燃料の供給は、多段噴射により供給することによって、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0028】
また、前記液体燃料が軽油であることによって、一般的な軽油を燃料としてアンモニア混焼方法において排気ガスの性状を向上させることができる。また、前記アンモニアと前記空気を予め混合して前記燃焼室に供給することによって、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0029】
また、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角を前記エンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°の範囲で設定することによって、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法における燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0030】
また、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることによって、アンモニアの混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0031】
また、前記燃焼室から排出される排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を、前記アンモニアを用いて選択的触媒還元システムで浄化することによって、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法において燃焼に用いられる前記アンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。さらに、前記アンモニアの供給源や供給系統を共通化することによって、システムを簡素化することができる。
【0032】
また、前記燃焼室における前記アンモニアと前記液体燃料との混焼時にスリップしたアンモニアを利用して、前記窒素酸化物(NOx)を還元することによって、同一の供給源から供給された排気ガス中に含まれる前記アンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0033】
請求項9に対応するアンモニアを混焼する圧縮着火式のアンモニア混焼エンジンは、燃焼室と、前記燃焼室に前記アンモニアを供給するアンモニア供給手段と、前記燃焼室に空気を供給する給気手段と、前記燃焼室に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率を設定する燃料比率設定手段と、前記燃料比率設定手段の比率の設定に応じて前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段を備え、前記燃焼室への前記液体燃料の供給タイミングを前記アンモニアと前記空気の供給開始タイミングより遅くするとともに、前記燃料比率設定手段によって設定された前記アンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて前記供給タイミング制御手段によって前記液体燃料の前記供給タイミングを早める制御を行うことによって、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物(NOx)を低減させ、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0034】
ここで、前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を多段噴射する制御を行うことによって、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0035】
また、前記液体燃料が軽油であることによって、一般的な軽油を燃料としてアンモニア混焼エンジンにおいて排気ガスの性状を向上させることができる。また、前記アンモニアを前記給気手段の給気経路に噴射し、予め前記アンモニアと前記空気を混合して前記燃焼室に供給することによって、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0036】
また、前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角をエンジンの上死点(TDC)に対して-25°から-70°に前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御することによって、アンモニアと液体燃料を混焼するアンモニア混焼エンジンにおける燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状を向上させることができる。
【0037】
また、前記液体燃料と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアの供給量の比率が1%以上95%以下の範囲であることによって、アンモニアの混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0038】
また、前記アンモニアを用いて前記燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを浄化する選択的触媒還元システムを前記排気ガスの排気経路に備えることによって、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼エンジンにおいて燃焼に用いられる前記アンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。さらに、前記アンモニアの供給源や供給系統を共通化することによって、システムを簡素化することができる。
【0039】
また、前記選択的触媒還元システムで利用される前記アンモニアの供給を制御するアンモニア供給制御手段を備えることによって、排気ガス中に含まれる前記アンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0040】
また、上記アンモニア混焼エンジンを搭載していることを特徴とするアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶とすることによって、排気ガスの性状を向上させた船舶を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の実施の形態におけるアンモニア混焼エンジンの構成図である。
図2】本発明の実施の形態におけるアンモニア混焼試験における条件を示す図である。
図3】未燃アンモニア等の排出量の削減試験の結果を示す図である。
図4】未燃アンモニア等の排出量の削減試験における燃焼の履歴を示す図である。
図5】未燃アンモニア等の排出量の削減試験における燃焼の履歴を示す図である。
図6】液体燃料の噴射のタイミングに対して正規化累積熱放出が所定値となるクランク角度の関係を示す図である。
図7】軽油のパイロット噴射量の影響確認試験の結果を示す図である。
図8】軽油のパイロット噴射量の影響確認試験における燃焼の履歴を示す図である。
図9】アンモニア供給量の影響確認試験の結果を示す図である。
図10】アンモニア供給量の影響確認試験における燃焼の履歴を示す図である。
図11】アンモニア供給量の影響確認試験における燃焼の履歴を示す図である。
図12】液体燃料の多段噴射の影響確認試験の結果を示す図である。
図13】液体燃料の多段噴射の影響確認試験の結果を示す図である。
図14】液体燃料の多段噴射の影響確認試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施の形態におけるアンモニア混焼エンジン100は、図1に示すように、ピストン10、シリンダ12、燃焼室14、吸気経路16、吸気弁18、排気経路20、排気弁22、燃焼用アンモニア供給手段24、圧力調整器26、液体燃料供給手段28、高圧ポンプ30、選択的触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システム32、還元用アンモニア供給手段34及び制御装置36を含んで構成される。なお、アンモニア混焼エンジン100は、船舶に搭載されプロペラを駆動する主機用エンジン、又は補機用エンジンとして機能することが好適である。
【0043】
アンモニア混焼エンジン100の各気筒では、ピストン10とシリンダ12とで燃焼室14が構成される。すなわち、シリンダ12は、シリンダブロックとシリンダヘッドを組み合わせて構成され、シリンダブロックのボア内でピストン10が往復運動可能となるように配置され、ピストン10に対向してボアを囲うようにシリンダヘッドが結合される。ピストン10及びシリンダ12により囲まれた空間が燃焼室14となる。
【0044】
アンモニア混焼エンジン100の各気筒には、吸気経路16及び排気経路20が設けられる。吸気経路16には、吸気弁18が設けられる。排気経路20には、排気弁22が設けられる。気筒には、ピストン10の動きに応じたクランク軸の回転角位置を検出するクランク角センサ(図示しない)が設けられており、制御装置36によって検出した回転角位置に応じて吸気弁18及び排気弁22を開閉させる制御が行われる。すなわち、クランク軸の回転角位置に応じて吸気弁18を開閉させ、気筒への吸気のタイミングが制御される。また、クランク軸の回転角位置に応じて排気弁22を開閉させ、気筒からの排気が制御される。
【0045】
また、吸気経路16には、燃焼用アンモニア供給手段24が設けられる。燃焼用アンモニア供給手段24には、圧力調整器26を介してアンモニア(NH)のボンベ102が接続される。ボンベ102には、液化されたアンモニアが貯蔵されている。燃焼用アンモニア供給手段24は、流量計及び噴射弁を備え、圧力調整器26によって圧力制御されたアンモニアの供給を受けて、吸気経路16内にアンモニアを設定された流量及び空気との混合比となるように噴射させる。圧力調整器26によるアンモニアの圧力の制御や燃焼用アンモニア供給手段24から供給されるアンモニア供給流量の制御は、後述する制御装置36の燃料比率設定手段36aによって行われる。なお、燃焼用アンモニア供給手段24は、吸気経路16以外にシリンダ12に直接アンモニアを供給するように構成することもできる。
【0046】
このように、吸気経路16に対してアンモニアを噴射することによって、供給されたアンモニアに酸化剤となる空気を混合して燃焼室14へ供給することができる。なお、アンモニアは液体としてではなく気体としても供給が可能である。また、空気の代わりに、酸素富化空気や純酸素等の他の酸化剤を用いてもよい。また、他の補助燃料、例えば水素(H)、天然ガス、LPG等を加えてもよい。燃焼室14へのアンモニアと空気の混合気の供給は、アンモニア混焼エンジン100における吸気行程と共に行われ、例えば、後述する液体燃料のパイロット噴射より前から開始される。
【0047】
また、アンモニア混焼エンジン100の各気筒には、液体燃料供給手段28と高圧ポンプ30が設けられる。液体燃料供給手段28は、電子式燃料噴射弁を備え、高圧ポンプ30によって加圧された液体燃料の供給を受けて、燃焼室14内に液体燃料を噴射させる。液体燃料は、例えば、軽油、重油、プロパン等とすることができる。高圧ポンプ30による液体燃料の加圧は、液体燃料が軽油である場合、100MPa程度とすることが好適である。液体燃料供給手段28から供給される液体燃料の供給量の制御は、後述する制御装置36の燃料比率設定手段36aによって行われる。また、液体燃料供給手段28による液体燃料の噴射のタイミングの制御は、後述する制御装置36の供給タイミング制御手段36bによって行われる。例えば、アンモニア混焼エンジン100の圧縮行程において上死点(TDC)より前のタイミングにおいて液体燃料のパイロット噴射が行われる。
【0048】
アンモニア混焼エンジン100には、SCRシステム32が設けられる。SCRシステム32は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減させるための後処理を行う。SCRシステム32は、触媒の作用を利用して排気ガスに含まれるアンモニアによって窒素酸化物を窒素(N)と水(HO)に還元して、排気ガスに含まれる窒素酸化物の排出量を抑制する。
【0049】
また、アンモニア混焼エンジン100は、還元用アンモニア供給手段34を備える。還元用アンモニア供給手段34は、供給弁を備え、SCRシステム32における窒素参加物の還元反応を促進させるために排気経路20内にアンモニアを供給する。還元用アンモニア供給手段34によるアンモニアの供給の制御は、制御装置36のアンモニア供給制御手段36cによって行われる。
【0050】
本実施の形態におけるアンモニア混焼エンジン100では、燃料として用いられるアンモニアとSCRシステム32における還元反応に用いられるアンモニアの供給源や供給系統の少なくとも一部を共通とすることによってシステムを簡素化することができる。
【0051】
なお、アンモニア混焼エンジン100に供給される燃料として用いられるアンモニアを増量し、未燃状態のスリップしたアンモニアとして選択的触媒還元システム32に供給し、窒素酸化物の還元に用いることもできる。この場合、微妙な比率制御を必要とするため、排気経路20にアンモニアの検出手段を設け、制御装置36の供給タイミング制御手段36bでアンモニアの供給量を精密に制御することが好適である。
【0052】
制御装置36は、アンモニア混焼エンジン100における制御を行う。制御装置36は、例えば、プログラム可能なコンピュータ及びアンモニア混焼エンジン100の各部へ送られる信号を生成するための信号生成回路を含んで構成される。制御装置36は、燃料比率設定手段36a、供給タイミング制御手段36b及びアンモニア供給制御手段36cとして機能する。
【0053】
燃料比率設定手段36aは、アンモニア混焼エンジン100において、アンモニア及び液体燃料の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率を制御する手段である。すなわち、燃料比率設定手段36aによって、燃料として使用されるアンモニアの供給量と液体燃料の供給量の比率が調整され、これによってアンモニア及び液体燃料の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率が所望の値に制御される。なお、アンモニア及び液体燃料の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率は、予め一定値に設定してもよいし、アンモニア混焼エンジン100の運転状態に応じて設定してもよい。例えば、アンモニア及び液体燃料の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率は、アンモニア供給量や液体燃料供給量を検出するセンサを設けて、当該センサの出力値に応じて設定するようにしてもよい。また、アンモニア混焼エンジン100にかかる負荷に応じてアンモニアの供給量の比率を制御してもよい。例えば、負荷が急に増大した場合は、発熱量の大きく燃焼速度も速い軽油の比率を増すように制御すればよい。
【0054】
供給タイミング制御手段36bは、燃焼用アンモニア供給手段24によるアンモニアの供給開始タイミング及び供給期間、液体燃料供給手段28による液体燃料の供給開始タイミング及び供給期間を制御する手段である。供給タイミング制御手段36bは、燃料比率設定手段36aによって設定されたアンモニア及び液体燃料の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率に応じてアンモニアの供給開始タイミング及び供給期間並びに液体燃料の供給開始タイミング及び供給期間を調整する。
【0055】
アンモニア供給制御手段36cは、SCRシステム32へのアンモニアの供給を制御する手段である。アンモニア供給制御手段36cは、アンモニア混焼エンジン100の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の量に応じて還元用アンモニア供給手段34を制御して、SCRシステム32へのアンモニアの供給量を調整する。
【0056】
[アンモニアと軽油の混合燃焼試験]
以下、アンモニア混焼エンジン100を用いたアンモニアと軽油の混合燃焼試験について説明する。図2は、試験に使用したアンモニア混焼エンジン100の主要諸元を示す。
【0057】
アンモニアは、ボンベ102において約40℃に保温されて液化された状態で取り出され、圧力調整器26によって0.3MPaに減圧された後,吸気経路16の燃焼室14の入口付近に設置された燃焼用アンモニア供給手段24の噴射弁(ガスインジェクタ:110764 QUANTUM)に供給した。噴射弁の前にはアンモニアの圧力脈動を抑制するためにバッファーシリンダを設けた。アンモニアの凝縮を防ぐために供給配管は264K以上の温度に維持した。噴射弁の開弁時間を調整することで、アンモニアの供給量を調整した。試験では、液体燃料として軽油を使用した。軽油は、高圧ポンプ30により燃料蓄圧器内に100MPaに加圧されて供給され、液体燃料供給手段28の電子制御噴射弁により所望のクランク角度において燃焼室14内に噴射した。
【0058】
試験中は、アンモニア混焼エンジン100に接続された電気式負荷装置によって設定した回転速度に保たれるようにトルクを自動で制御した。アンモニア混焼エンジン100の筒内圧力は、圧電式圧力計(GH14P AVL)とチャージアンプ(FI PIEZO AVL)を用いてクランク角度0.5°毎に50サイクル分を取得し、その平均を測定データとした。排気ガス成分について、トータルハイドロカーボン(THC)はFID式の分析器(600HFID CAI)で測定した。一酸化窒素(CO)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、アンモニア(NH)及び水(HO)等のTHC以外のガスはFTIR式排気ガス分析器(FAST2200 岩田電業)を用いて測定した。ガス分析器は、高温の複数成分を同時にサンプリングして測定した。サンプリングラインとサンプリングフィルタは191℃に加熱し、水を含む排気ガス中のアンモニアを正確に検出することができた。FTIR式排気ガス分析器のアンモニア濃度の定量に使用している検量線は3000ppmまで測定できるが、参考として3000ppmを大幅に超えるアンモニア濃度も測定した。また、排気ガス中のスモークはスモークメータ(GSM-3 司測研)により汚染度を測定した。
【0059】
<未燃アンモニア等の排出量の削減試験>
アンモニアと軽油を混合して燃料として用いたアンモニア混焼エンジン100を運転したときの二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(CO)、ハイドロカーボン(HC)、窒素酸化物(NOx)、亜酸化窒素(NO)、未燃アンモニア(NH)の排出量について試験を行った。
【0060】
試験において、液体燃料である軽油を液体燃料供給手段28から噴射させた。軽油の噴射は、吸気行程においてアンモニアを燃焼室14に供給開始した後、圧縮行程にて上死点(TDC)へ到達する前にパイロット噴射として行った。すなわち、アンモニアと空気の混合気の供給開始タイミングは、軽油のパイロット噴射の開始タイミングより前とした。
【0061】
軽油のパイロット噴射量、アンモニア供給流量及びエンジン回転数は、それぞれ24mg、45L/min及び1500rpmで一定に保った。また、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニア供給量の比率は約45%に維持した。軽油のパイロット噴射のタイミングは、エンジンの上死点前(BTDC)においてクランク角度で5°の間隔で-10°から-65°まで変化させた(マイナスの角度は上死点前であることを意味する)。試験中において、アンモニア混焼エンジン100における燃焼は安定しており、平均有効圧力の変動は1.5%未満であった。なお、軽油のパイロット噴射を上死点前(BTDC)の-70°としたときに負荷と速度が不安定となったために-65°までに制限した。
【0062】
図3は、軽油のパイロット噴射のタイミングの変化に対する正味熱効率、アンモニア供給量の比率及び各種ガスの排出量を示す。正味熱効率は、アンモニアと軽油の総低位発熱量に対する制動出力の比である。なお、図3において、窒素酸化物(NOx)の排出濃度は、NOとNOの合計を示している。また、未燃アンモニア(NH)比は、供給されたアンモニア(NH)の量に対する放出されたアンモニア(NH)の量の比率を示す。
【0063】
軽油のパイロット噴射のタイミングが上死点(TDC)に対して-25°を超えて進むと、一酸化窒素(CO)、亜酸化窒素(NO)、未燃アンモニア(NH)の排出量に減少傾向が生じた。したがって、一酸化窒素(CO)、亜酸化窒素(NO)、未燃アンモニア(NH)の排出量を低減するためには軽油のパイロット噴射のタイミングを上死点(TDC)に対して-25°より進めることが好適である。一方、アンモニア混焼エンジン100を安定的に運転するためには軽油のパイロット噴射のタイミングを上死点(TDC)に対して-70°より遅らせることが好適である。すなわち、軽油のパイロット噴射のタイミングは、上死点(TDC)に対して-25°から-70°の範囲に設定することが好適である。
【0064】
特に、軽油のパイロット噴射のタイミングが-30°から-65°の範囲において一酸化窒素(CO)、亜酸化窒素(NO)、未燃アンモニア(NH)の排出量は劇的に減少した。さらに、軽油のパイロット噴射のタイミングが-40°から-55°の範囲において一酸化窒素(CO)、亜酸化窒素(NO)、未燃アンモニア(NH)の排出量はより顕著に減少した。
【0065】
一方、軽油のパイロット噴射のタイミングが-30°から-45°の範囲において窒素酸化物(NOx)はピークに達した。さらに、-30°から軽油のパイロット噴射のタイミングを早めるにつれて、一酸化窒素(CO)とハイドロカーボン(HC)の排出量は増加傾向を示した。軽油のパイロット噴射のタイミングが-50°を超えると、窒素酸化物(NOx)と一酸化窒素(CO)の排出量が徐々に減少し、ハイドロカーボン(HC)の排出量が増加した。これらの変化は、アンモニア混焼エンジン100における燃焼温度が低いことと、噴射された軽油が燃焼室の壁に衝突することの組み合わせが原因と推察される。
【0066】
図4及び図5は、軽油のパイロット噴射のタイミングを-10°から-60°まで変化させたときのアンモニア混焼エンジン100のシリンダ12内の圧力、熱放出率及び正規化された累積熱放出、軽油のパイロット噴射のタイミングを示す噴射信号の履歴を示す。図4及び図5に示すように、軽油のパイロット噴射のタイミングが-40°までは燃焼位相を早め、対照的に-40°を超えると燃焼位相を遅らせる。
【0067】
図6は、軽油のパイロット噴射のタイミングで正規化累積熱放出が10%、50%及び90%の達するときのクランク角度を示す。図6において、正規化累積熱放出が10%、50%及び90%に達するときのクランク角度はそれぞれCA10、CA50及びCA90として示す。図6から、正規化累積熱放出が10%、50%及び90%のいずれの場合においても軽油のパイロット噴射のタイミングが-40°において燃焼段階が変化した。すなわち、軽油のパイロット噴射のタイミングが-10°から-40°においてはタイミングが早まるにつれて正規化累積熱放出が10%、50%及び90%に達するときのクランク角度は早まる傾向を示した。これに対して、軽油のパイロット噴射のタイミングが-40°から-65°においてはタイミングが早まるにつれて正規化累積熱放出が10%、50%及び90%に達するときのクランク角度は遅れてくる傾向を示した。軽油のパイロット噴射のタイミングが-10°から-30°に早められるにつれて正規化累積熱放出が10%及び90%となるクランク角度の差は短縮された。その後、軽油のパイロット噴射のタイミングが-30°よりさらに早められるにつれて正規化累積熱放出が10%及び90%となるクランク角度の差は増大した。すなわち、軽油のパイロット噴射のタイミングは燃焼位相に対する影響は進角から遅角に変化した。
【0068】
上死点(TDC)より早期に軽油をパイロット噴射させることによって、アンモニア(NH)及び空気の混合気と軽油との混合に対して多くの時間が利用できる。したがって、燃焼室14内において混合気がより均一になる。これによって、燃焼モードは、従来のディーゼル燃焼(CDC)から部分予混合圧縮点火着火(PPCI)燃焼に移行したと推察される。
【0069】
燃焼モードがディーゼル燃焼(CDC)から部分予混合圧縮点火着火(PPCI)に移行すると、より長い着火遅延時間中に非反応性のアンモニア(NH)と空気の混合気と噴射された軽油はより多く混合される。軽油の着火前ではOH種が生成され、アンモニア(NH)と反応し、アンモニア(NH)の分解が促進される。アンモニア(NH)が分解された後も燃焼室14が高温状態にある場合、亜酸化窒素(NO)は熱分解される。すなわち、非反応性のアンモニア(NH)と空気の混合物に軽油を混合してアンモニア(NH)の分解を加速させることで、未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出を削減することができると推察される。
【0070】
燃焼モードが部分予混合圧縮点火着火(PPCI)に移行すると、未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量は減少するが、図3に示したように、軽油のパイロット噴射のタイミングを早めると正味熱効率の低下が見られた。軽油のパイロット噴射のタイミングを早めると、正規化累積熱放出が50%となるクランク角(CA50)は上死点(TDC)よりも前になる。これが、正味熱効率が低下する主な理由であると推察される。
【0071】
<軽油のパイロット噴射量の影響確認試験>
アンモニアと軽油を混合して燃料として用いたアンモニア混焼エンジン100を運転したときの部分予混合圧縮点火着火(PPCI)燃焼における軽油のパイロット噴射量の影響を確認する試験を行った。試験において、エンジン回転数、軽油のパイロット噴射のタイミング及びアンモニア供給流量はそれぞれ1500rpm、-50°及び46L/minに維持しつつ、軽油のパイロット噴射量を変化させた。試験中において、アンモニア混焼エンジン100における燃焼は安定しており、平均有効圧力の変動は1.2%未満であった。
【0072】
図7は、軽油のパイロット噴射量を17.8mg~22.8mgまで変化させたときの正味熱効率、アンモニア供給量の比率及び各種ガスの排出量を示す。この軽油のパイロット噴射量は、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率に換算すると45%~51%に相当する。また、図8は、軽油のパイロット噴射量を変化させたときのアンモニア混焼エンジン100のシリンダ12内の圧力、熱放出率及び正規化された累積熱放出、軽油のパイロット噴射のタイミングを示す噴射信号の履歴を示す。
【0073】
図7に示すように、噴射された軽油の量が増加するにつれて正味熱効率は低下した。軽油の噴射量が増加するにつれて、二酸化炭素(CO)の排出量は増加し、一酸化窒素(CO)及びハイドロカーボン(HC)の排出量も僅かに増加した。図7及び図8に示されるように、窒素酸化物(NOx)の排出量とシリンダ12内の圧力のピークの傾向には相関関係がみられた。また、図7に示すように、軽油のパイロット噴射量が増加するにつれて一酸化窒素(CO)とハイドロカーボン(HC)の排出量は増加する傾向を示した。また、軽油のパイロット噴射量が増加するにつれて未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量は減少する傾向を示した。ただし、軽油のパイロット噴射量が19.7mgを超えると、未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量の減少傾向は小さくなった。これらの結果は、アンモニア(NH)の部分予混合圧縮点火着火(PPCI)燃焼において軽油が液体燃料として有効であることを示している。
【0074】
<アンモニア供給量の影響確認試験>
アンモニアと軽油を混合して燃料として用いたアンモニア混焼エンジン100を運転したときのアンモニア供給流量の影響を確認する試験を行った。上死点前(BTDC)の-45°と-60°の2つのタイミングにおいて軽油のパイロット噴射を行った場合について、エンジン回転数を1500rpm、軽油のパイロット噴射量を21mgで一定に保ちながらアンモニア供給量を変更した。アンモニア供給量は、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率に換算して38%~58%の範囲で変化させた。試験中において、アンモニア混焼エンジン100における燃焼は安定しており、平均有効圧力の変動は1.4%未満であった。平均有効圧力の変動は、アンモニア供給流量が増加するにつれて約1%に減少する傾向がみられた。
【0075】
図9は、アンモニア供給流量に対する正味熱効率、アンモニア供給量の比率及び各種ガスの排出量を示す。図10及び図11は、それぞれ上死点前(BTDC)の-45°と-60°の2つのタイミングにおいて軽油のパイロット噴射を行った場合にアンモニア供給流量を変化させたときのアンモニア混焼エンジン100のシリンダ12内の圧力、熱放出率及び正規化された累積熱放出、軽油のパイロット噴射のタイミングを示す噴射信号の履歴を示す。
【0076】
上記のように、アンモニア混焼エンジン100において、軽油等の液体燃料をアンモニアに混合させて燃焼させることによって未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量を減少させることができた。すなわち、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率に換算して1%以上95%以下の範囲で未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量を減少させることができる。特に、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率に換算して30%以上70%以下の範囲で未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量の減少は顕著であり、45%以上60%以下の範囲でより顕著である。
【0077】
ただし、図9に示すように、アンモニア供給流量の比率が増加すると、軽油のパイロット噴射のタイミングに関係なく、正味熱効率、窒素酸化物(NOx)及び未燃アンモニア(NH)の増加がみられた。窒素酸化物(NOx)の排出量の増加は、アンモニア(NH)の窒素原子と給気中の窒素原子の酸化に起因する可能性があるが、窒素酸化物(NOx)の発生源を特定することは困難であった。また、図10及び図11に示すように、燃焼位相はアンモニア供給流量の比率の増加に伴って遅角し、上死点(TDC)に近づいた。また、アンモニア供給流量の比率の増加に伴って、正味熱効率は高くなり、シリンダ12内の圧力のピークも高くなった。
【0078】
軽油のパイロット噴射のタイミングを-45°とした場合、アンモニア供給流量の比率の増加とともに一酸化窒素(CO)の排出量は増加した。また、軽油のパイロット噴射のタイミングを-60°とした場合、アンモニア供給流量の比率の増加に対して一酸化窒素(CO)の排出量は略一定値を維持した。アンモニア供給流量の比率が約46%未満の範囲では、軽油のパイロット噴射のタイミングを-60°とするより-45°とした場合の方が一酸化窒素(CO)の排出量は小さくなった。一方、アンモニア供給流量の比率が約46%以上の範囲では、軽油のパイロット噴射のタイミングを-45°とするより-60°とした場合の方が一酸化窒素(CO)の排出量は小さくなった。このことから、一酸化窒素(CO)の排出量の低減の観点から、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニアの供給量の比率が大きくなるにつれて軽油の供給タイミングを早めることが好適である。
【0079】
軽油のパイロット噴射のタイミングの変化に対してハイドロカーボン(HC)の排出量は比較的変化が小さかった。これには、一酸化窒素(CO)とハイドロカーボン(HC)の排出を生じさせる不完全燃焼が関わっていると推察される。
【0080】
図10及び図11に示されているように、シリンダ12内の最大圧力は、軽油のパイロット噴射のタイミングを-60°とした場合より-45°とした場合に高くなった。また、燃焼室14の温度はアンモニア供給流量の比率の増加とともに上昇した。図9に示すように、軽油のパイロット噴射のタイミングを-45°にした場合において一酸化窒素(CO)の排出量がアンモニア供給流量の比率と共に増加したのは、高温での二酸化炭素(CO)の熱解離によって引き起こされた可能性がある。対照的に、軽油のパイロット噴射のタイミングを-60°にした場合において、アンモニア供給流量の比率の変化に伴う一酸化窒素(CO)の排出量の変化は比較的小さかった。
【0081】
軽油を-60°のタイミングでパイロット噴射した場合において、アンモニア供給流量の比率が小さい範囲において亜酸化窒素(NO)の増加がみられた。これは、図11に示すように、シリンダ12内の圧力が比較的低く、燃焼温度が低くなったことが原因であると推察される。
【0082】
また、図10及び図11に示すように、アンモニア供給流量の比率の増加に伴って、軽油のパイロット噴射のタイミングを-45°及び-60°にしたいずれの場合においても燃焼の着火タイミングは遅れる傾向を示した。軽油のパイロット噴射のタイミングを-60°とした場合においてアンモニア供給流量が65L/minであるときに正味熱効率は32%に達した。これは、アンモニアを供給せず、軽油のみで運転を行ったときの正味熱効率が34%であったに近い値であった。
【0083】
<液体燃料の多段噴射の影響確認試験>
アンモニアと軽油を混合して燃料として用いたアンモニア混焼エンジン100を運転したときの軽油のパイロット噴射を多段階にしたときの影響を確認する試験を行った。試験において、軽油のパイロット噴射における総噴射量、アンモニア供給流量及びエンジン回転数は、それぞれ24mg、約48L/min及び1500rpmで一定に保った。また、軽油とアンモニアの総供給量に対するアンモニア供給量の比率は約45%に維持した。軽油のパイロット噴射のタイミングは、単噴射の場合にはエンジンの上死点前(BTDC)においてクランク角度で5°の間隔で-10°から-65°まで変化させた。また、軽油のパイロット噴射のタイミングは、2段階噴射の場合にはエンジンの上死点前(BTDC)においてクランク角度で5°の間隔でメイン噴射を-45°から-65°まで変化させ、それぞれについてサブ噴射を-35°から55°まで変化させた。すなわち、クランク角度においてメイン噴射に対して-5°だけ前においてサブ噴射を行った。以下の説明では、2段階噴射についてはメイン噴射のタイミングを用いて説明を行う。
【0084】
図12から図14は、軽油のパイロット噴射のタイミングに対する正味熱効率、アンモニア供給量の比率及び各種ガスの排出量を示す。図12図14において、丸印は軽油のパイロット噴射を単噴射で行った場合、三角印は軽油のパイロット噴射を2段階噴射で行った場合を示している。
【0085】
軽油のパイロット噴射のタイミングを-10°から-65°に変化させた場合、単噴射における一酸化窒素(CO)の排出量は、増加傾向を示し、-45°においてピークを示した後に減少傾向を示した。これに対して、2段階噴射における一酸化窒素(CO)の排出量は、増加傾向を示したが、いずれのタイミングにおいても単噴射よりも一酸化窒素(CO)の排出量は低減された。
【0086】
また、軽油のパイロット噴射のタイミングを-10°から-65°に変化させた場合、未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量は、減少傾向を示し、特に-30°より進角させたときに排出量は急激に低下した。ただし、未燃アンモニア(NH)と亜酸化窒素(NO)の排出量は、いずれのタイミングにおいても単噴射と2段階噴射とで大きな差はなかった。
【0087】
また、軽油のパイロット噴射のタイミングを-10°から-65°に変化させた場合、窒素酸化物(NOx)は、増加傾向を示し、-45°においてピークを示した後に減少傾向を示した。また、軽油のパイロット噴射のタイミングを-10°から-65°に変化させた場合、ハイドロカーボン(THC)の排出量は、増加傾向を示した。ただし、単噴射に対して2段階噴射において窒素酸化物(NOx)とハイドロカーボン(THC)の排出量は同程度又は低減された。
【0088】
以上のように、軽油のパイロット噴射において、多段噴射とすることによって単噴射のときよりも各種ガスの排出量は同程度又は低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、船舶の主機や補機としての発電機等の動力を必要とする装置のみならず、陸舶産業全体のアンモニア混焼エンジンに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 ピストン、12 シリンダ、14 燃焼室、16 吸気経路、18 吸気弁、20 排気経路、22 排気弁、24 燃焼用アンモニア供給手段、26 圧力調整器、28 液体燃料供給手段、30 高圧ポンプ、32 SCRシステム、34 還元用アンモニア供給手段、36 制御装置、36a 燃料比率設定手段、36b 供給タイミング制御手段、36c アンモニア供給制御手段、100 アンモニア混焼エンジン、102 ボンベ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14