(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155961
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】溶融めっき鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/20 20060101AFI20221006BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C23C2/20
C23C2/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059424
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】曽我 和彦
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB15
4K027AC52
(57)【要約】
【課題】本発明は、ワイピングノズルを移動させることなく、ワイピングガスの圧力を変化させることのみによって、ワイピングノズルの目詰まりの発生を抑制して、めっき鋼帯の外観不良の発生を抑制することができる溶融金属めっき鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る溶融めっき鋼帯の製造方法は、先行する鋼帯の尾端と後行する鋼帯の先端とが溶接部により接続された鋼帯を、その長手方向に沿って連続的に搬送し、鋼帯の搬送経路上において溶接部の位置を追跡しつつ、鋼帯を溶融金属浴に浸漬した後に鋼帯を溶融金属浴から引き上げ、続いてワイピングノズルから、鋼帯の両面に所定の圧力を有するワイピングガスを吹き付けて鋼帯から溶融金属の過剰付着分を除去することを含む溶融めっき鋼帯の製造方法であって、ワイピングノズルが、溶接部に所定の圧力よりも高い圧力のワイピングガスを吹き付ける。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行する鋼帯の尾端と後行する鋼帯の先端とが溶接部により接続された鋼帯を、その長手方向に沿って連続的に搬送し、前記鋼帯の搬送経路上において前記溶接部の位置を追跡しつつ、前記鋼帯を溶融金属浴に浸漬した後に前記鋼帯を前記溶融金属浴から引き上げ、続いてワイピングノズルから、前記鋼帯の両面に所定の圧力を有するワイピングガスを吹き付けて前記鋼帯から溶融金属の過剰付着分を除去することを含む溶融めっき鋼帯の製造方法であって、
前記ワイピングノズルが、前記溶接部に所定の圧力よりも高い圧力の前記ワイピングガスを吹き付ける、溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記ワイピングガスの吹き付け位置を前記溶接部が通過する時点より前に、前記ワイピングガスの吹き付け圧力を所定の圧力よりも高い高圧力に変更する信号を、前記吹き付け圧力を調整する調整弁に送信するステップを有する、請求項1に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ後であって前記ワイピングガスの吹き付け位置を前記溶接部が通過する時点より前に、前記吹き付け圧力を前記高圧力から前記高圧力よりも低い低圧力に変更する信号を前記調整弁に送信するステップを有する、請求項2に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記ワイピングガス吹き付け後の前記鋼帯の表面に付着した前記溶融金属の付着量を算出し、算出された前記溶融金属の付着量である計算付着量に基づいて、前記鋼帯を切断して前記溶接部を除去し、前記先行する鋼帯と前記後行する鋼帯に分離する、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項5】
前記計算付着量は、前記ワイピングガスの圧力と、前記鋼帯の搬送速度と、前記ワイピングノズルと前記鋼帯との距離と、前記溶融金属浴の浴面からの前記ワイピングガスの吹き付け位置の高さと、に基づいて算出される、請求項4に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯に連続的にめっきする連続溶融めっき装置では、鋼帯を溶融金属浴に浸漬して鋼帯の表面に溶融金属を付着させる。溶融金属浴から引き上げられた後の溶融金属が付着した鋼帯の表面には、ワイピングガスが吹き付けられて過剰な溶融金属が除去される。
【0003】
ワイピングガスを用いた過剰な溶融金属の除去では、鋼帯の幅方向における溶融金属の付着量を均一にするために、ガスの流れが乱れることなく、鋼帯の幅方向に均一なガスを吹き付けることが求められる。
【0004】
連続溶融めっき装置において搬送される鋼帯は、先に払い出される鋼帯(先行する鋼帯)の尾端と、この鋼帯の後に払い出される鋼帯(後行する鋼帯)の先端とが溶接されている。この先行材と後行材とが溶接により連結した箇所は、溶接点と呼ばれる。溶接点近傍(溶接部)では、溶接点を追跡するために、鋼帯の幅方向の中央部付近にパンチャー穴が設けられる場合や幅方向の端部に切欠き(ノッチャー部)が設けられる場合がある。また、溶接部では、鋼帯の厚さ、幅が変化する非定常部となっている。このような溶接部では、搬送状態が不安定となり、ワイピングガスの流れが乱れ、溶融金属がワイピングノズルに向かって飛散することがある。ワイピングノズルに向かって飛散した溶融金属は、ワイピングノズルにおけるワイピングガスの吐出口(ノズルリップ部)に付着することがある。ノズルリップ部に溶融金属が付着することを目詰まりと呼ぶ。この目詰まりにより、ワイピングガスの流れが乱れ、鋼帯の幅方向に亘って均一に溶融金属の過剰付着分を除去する作用が低下する。その結果、鋼帯の長手方向に線状に溶融金属が過剰に付着したままの領域が生じ、外観不良が発生する。この外観不良は線状オーバーコートと呼ばれる。
【0005】
線状オーバーコートを抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、長手方向に溶接点を有する金属鋼帯を連続的に搬送しつつ、溶融金属浴に浸漬後引き上げた金属帯の表面から溶融金属の過剰付着分を、歪誘起型アクチュエータが内蔵された加振ノズルでガス払拭する溶融めっき方法において、溶接点のトラッキング位置に基づいて、加振ノズルを振動させることを特徴とする溶融めっき方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、鋼帯の溶接点位置を含む鋼帯の長さ方向の所定の範囲内において、鋼帯の表面からの溶融金属の飛散性の評価指標であるウェーバー数があらかじめ設定した閾値以下になるように、ワイピングノズルと鋼板との距離、ワイピングノズルの角度、及びガスの圧力のうちの少なくとも1つを制御するステップを含むことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-231350号公報
【特許文献2】特開2019-167553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、歪誘起型アクチュエータは高価であり、使用環境が高温で厳しいためその寿命が短いことから、歪誘起型アクチュエータを頻繁に交換する必要がある。また、特許文献2に記載の方法は、溶接点がワイピング位置を通過する前にワイピングノズルを所定の位置から退避させ、溶接点がワイピング位置を通過した後にワイピングノズルを復帰させている。すなわち、特許文献2に記載の方法は、ウェーバー数があらかじめ設定した閾値以下になるようにワイピングノズルと鋼板との距離を制御している。ワイピングガスの圧力を制御する場合には、ウェーバー数をあらかじめ設定した閾値以下にするために、溶接点の通過前後に圧力を低下させることが示唆されるのみである。ワイピングノズルの移動及び圧力の制御では、応答速度が小さいため、所望のめっき付着量が得られない領域が大きくなり、歩留まりが低下する。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ワイピングノズルを移動させることなく、ワイピングガスの圧力を変化させることのみによって、ワイピングノズルの目詰まりの発生を抑制して、めっき鋼帯の外観不良の発生を抑制することができる溶融金属めっき鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
溶接部では搬送状態が不安定となり、ワイピングガスの流れが乱れ、パンチャー穴やノッチャー部等から、ノズルリップ部に向かって溶融金属が飛散することがある。本発明者らは、ワイピングガスの圧力を高めることで、目詰まりを防止することに想到した。従来は、ワイピングガスの圧力を制御して目詰まりを防止する際には、ワイピングガスの圧力を低くしていた。しかしながら、ワイピングガスの圧力が高ければ、ノズルリップ部から吐出したワイピングガスのエネルギーは、ノズルリップ部に向かう溶融金属の有するエネルギーよりも大きくなる。そのため、ワイピングノズルのノズルリップ部に向かって飛散した溶融金属は、ノズルリップ部に到達せず、ノズルリップ部への溶融金属の付着を防止することができる。一方、ワイピングガスの圧力が低ければ、ノズルリップ部から吐出したワイピングガスのエネルギーは、ノズルリップ部に向かう溶融金属の有するエネルギーよりも小さくなる。そのため、ノズルリップ部に向かって飛散した溶融金属は、ノズルリップ部に到達し、ノズルリップ部に溶融金属が付着する。そのため、ワイピングガスの圧力を下げて目詰まりを防止する従来の方法では、ノズルリップ部と鋼帯との距離を大きくしなければならなかった。
【0011】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法は、先行する鋼帯の尾端と後行する鋼帯の先端とが溶接部により接続された鋼帯を、その長手方向に沿って連続的に搬送し、上記鋼帯の搬送経路上において上記溶接部の位置を追跡しつつ、上記鋼帯を溶融金属浴に浸漬した後に上記鋼帯を上記溶融金属浴から引き上げ、続いてワイピングノズルから、上記鋼帯の両面に所定の圧力を有するワイピングガスを吹き付けて上記鋼帯から溶融金属の過剰付着分を除去することを含む溶融めっき鋼帯の製造方法であって、上記ワイピングノズルが、上記溶接部に所定の圧力よりも高い圧力の上記ワイピングガスを吹き付ける。
[2] 上記[1]に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、上記ワイピングガスの吹き付け位置を上記溶接部が通過する時点より前に、上記ワイピングガスの吹き付け圧力を所定の圧力よりも高い高圧力に変更する信号を、上記吹き付け圧力を調整する調整弁に送信するステップを有することが好ましい。
[3] 上記[2]に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、上記ステップ後であって上記ワイピングガスの吹き付け位置を上記溶接部が通過する時点より前に、上記吹き付け圧力を上記高圧力から上記高圧力よりも低い低圧力に変更する信号を上記調整弁に送信するステップを有することが好ましい。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、上記ワイピングガス吹き付け後の上記鋼帯の表面に付着した上記溶融金属の付着量を算出し、算出された上記溶融金属の付着量の値に基づいて、上記鋼帯を切断して上記溶接部を除去し、上記先行する鋼帯と上記後行する鋼帯に分離することが好ましい。
[5] 上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の溶融めっき鋼帯の製造方法では、上記計算付着量は、上記ワイピングガスの圧力と、上記鋼帯の搬送速度と、上記ワイピングノズルと鋼帯との距離と、上記溶融金属浴の浴面からの上記ワイピングガスの吹き付け位置の高さと、に基づいて算出されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワイピングノズルを移動させることなく、ワイピングガスの圧力を変化させることのみによって、ワイピングノズルの目詰まりの発生を抑制して、めっき鋼帯の外観不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法が適用され得る連続溶融金属めっき装置の一例を示す図である。
【
図2】溶融金属がワイピングノズルのノズルリップ部に付着する機構を説明するための模式図である。
【
図3】ノズルリップ部の先端と鋼帯との距離D及び溶融金属浴の浴面からのワイピングガスの吹き付け位置の高さHを説明するための模式図である。
【
図4】ワイピングガス圧力を変更するタイミング及びワイピングガスの吹き付け位置でのワイピングガス圧力の時間変化を示すグラフ図である。
【
図5】
図4に示すワイピングガス圧力で鋼帯にワイピングガスを吹き付けたときの、鋼帯における溶接点からの距離とめっきの計算付着量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図中の各構成要素の寸法、比率は、実際の各構成要素の寸法、比率を表すものではない。
【0015】
<連続溶融金属めっき装置の概略構成>
まず、本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法の説明に先立ち、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法が適用され得る連続溶融金属めっき装置を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法が適用され得る連続溶融金属めっき装置の一例を示す図である。
【0016】
図1の連続溶融金属めっき装置1では、鋼帯Sは、不図示の焼鈍炉で焼鈍された後、溶融金属浴2に導入される。溶融金属浴2に導入された鋼帯Sは、溶融金属浴2内に設けられたシンクロール3により、上向きに方向転換され、サポートロール4で反りが矯正された後、溶融金属が付着したまま溶融金属浴2から引き出される。
鋼帯Sの両面に向けてワイピングノズル5のノズルリップ部51からワイピングガスが吹き付けられ、溶融金属がめっきされた鋼帯Sのめっき付着量が調整される。めっき付着量が調整された鋼帯Sは、適宜、後処理が施された後、切断機(図示せず)にて切断される。このとき、溶接部は除去される。
【0017】
連続溶融金属めっき装置1は、鋼帯が搬送される搬送経路上に複数の溶接部検出器(図示せず)を備える。溶接部検出器は、例えば、投光器と受光器で構成され、鋼帯の溶接部に存在するパンチャー穴を通過した投光器からの光を受光器が受光することで溶接部を検出する。連続溶融金属めっき装置1は、搬送速度(ライン速度)の積分計算により溶接部を追跡する。溶接部の追跡は、複数の溶接部検出器を溶接部が通過する度にトラッキング補正され、溶接部が鋼帯出側のリールに巻き取られるまで行われる。
【0018】
ワイピングガスの圧力は、めっき付着量制御装置6によって制御される。めっき付着量制御装置6には、例えば、特開第2015-148006号公報に記載された溶融金属めっき付着量制御装置が用いられる。めっき付着量制御装置6は、ワイピングノズル5へワイピングガスを供給する供給管(図示せず)と、供給管に設けられた調整弁(図示せず)を備え、これらを制御する。当該めっき付着量制御装置6では、調整弁より上流に位置する管路内のワイピングガスの流れに乱れがないため、ワイピングガスの圧力変化に遅れが生じない。また、調整弁が高速で応答する。ワイピングガスの圧力変化に遅れがなく、調整弁が高速で応答するため、ワイピングガスの圧力を短時間で変更することができる。その結果、高精度でワイピングガスの圧力の変更タイミングを制御することができる。
【0019】
<溶融金属めっき鋼帯の製造方法>
続いて、本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法を説明する。
図2は、溶融金属がワイピングノズルのノズルリップ部に付着する機構を説明するための模式図である。
【0020】
本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、先行する鋼帯の尾端と後行する鋼帯の先端とが溶接部により接続された鋼帯Sを、その長手方向に沿って連続的に搬送し、鋼帯Sの搬送経路上において溶接部の位置を追跡しつつ、鋼帯Sを溶融金属めっき浴に浸漬する。浸漬後の鋼帯Sを溶融金属めっき浴から引き上げ、続いてワイピングノズル5から、鋼帯Sの両面に所定の圧力を有するワイピングガスを吹き付けて鋼帯Sから溶融金属の過剰付着分を除去することを含む溶融めっき鋼帯の製造方法であって、ワイピングノズル5が、溶接部に所定の圧力よりも高い圧力のワイピングガスを吹き付ける。
【0021】
上述したとおり、ワイピングガスの圧力を高めることで、
図2(A)に示すように、溶接部から飛散した溶融金属はワイピングノズル5のノズルリップ部51に到達せず、ノズルリップ部51への溶融金属の付着を防止することができる。その結果、溶接部を起点とする線状オーバーコートの発生を防止することができる。一方、ワイピングガスの圧力が低い場合、
図2(B)に示すように、溶接部から飛散した溶融金属はノズルリップ部51に付着することがある。溶融金属がノズルリップ部51に付着した場合、線状オーバーコートが発生する。
【0022】
上述した所定の圧力は、所望のめっき付着量が得られる範囲のワイピングガスの圧力であり、適宜調整される。
【0023】
本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、ワイピングガスを鋼帯Sに吹き付けるときは、ワイピングガスの吹き付け位置を鋼帯Sの溶接部が通過する時点より前に、ワイピングガスの吹き付け圧力を所定の圧力よりも高い高圧力に変更する信号を、吹き付け圧力を調整する調整弁に送信するステップを有する。これにより、溶接部に高圧力のワイピングガスを吹き付けることができる。その結果、ノズルリップ部51の目詰まりを防止することができる。
【0024】
ワイピングガスの吹き付け圧力を所定の圧力よりも高い高圧力に変更する信号の送信タイミングが、溶接部がワイピングガスの吹き付け位置を通過する時点よりも著しく前であると、めっき付着量が少ない領域が増大し、歩留まりが低下することがある。よって、増大信号の送信タイミングは、歩留まりの著しい低下が生じない程度に制御されることが好ましい。
【0025】
更に、上記ステップ後であって上記ワイピングガスの吹き付け位置を溶接部が通過する時点より前に、吹き付け圧力を高圧力から当該高圧力よりも低い低圧力に変更する信号を調整弁に送信するステップを有することが好ましい。溶接部がワイピングガスの吹き付け位置を通過する前に、吹き付け圧力を高圧力から低圧力に変更する信号を調整弁に送信することで、鋼帯Sにおけるワイピングガス圧力の増大に伴ってめっき付着量が低下した領域を低減することができる。その結果、歩留まりを向上させることが可能になる。
【0026】
ここでいう低圧力は、所望のめっき付着量が得られる程度のワイピングガスの圧力である。そのため、溶接部前後でめっき付着量を変更する場合は、低圧力は後行材のめっき付着量に応じた圧力であればよく、溶接部前後で等しい圧力であってもよいし、異なる圧力であってもよい。
【0027】
本実施形態に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法では、ワイピングガス吹き付け後の鋼帯Sの表面に付着しためっき付着量を算出し、算出されためっき付着量である計算付着量に基づいて、鋼帯Sを切断して溶接部を除去し、先行する鋼帯と後行する鋼帯に分離することが好ましい。
図3は、ワイピングノズル5の位置を模式的に示す図である。
【0028】
計算付着量は、ワイピングガスの圧力と、鋼帯Sの搬送速度と、ノズルリップ部51の先端と鋼帯Sとの距離と、溶融金属浴2の浴面からのワイピングガスの吹き付け位置の高さと、に基づいて算出されることが好ましい。溶融金属浴2の浴面からのワイピングガスの吹き付け位置の高さは、溶融金属浴2の浴面からノズルリップ部51の高さ方向中央位置までの距離である。
【0029】
計算付着量は、例えば、下記(1)式に基づいて算出される。
W=exp(y+p×lnP+v×lnV+d×lnD+h×lnH) ・・・(1)式
W:計算付着量(g/m2)
P:ノズル圧力(kPa)
V:鋼帯Sの搬送速度(m/分)
D:ノズルリップ部51の先端と鋼帯Sとの距離(m)
H:溶融金属浴の浴面からのワイピングガスの吹き付け位置の高さ(m)
y、p、v、d、h:係数
【0030】
実際のめっき付着量は、計算付着量との相関式を予め求めておき、算出された計算付着量及び相関式から求めることができる。
【実施例0031】
次に本発明の実施例を示すが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0032】
溶接部に吹き付けるワイピングガスの圧力を高めて、線状オーバーコートの発生の有無を調査した。
図4は、ワイピングガス圧力を変更するタイミング及びワイピングガスの吹き付け位置でのワイピングガス圧力の時間変化を示すグラフ図である。
図4に示すように、本発明例では、溶接部が吹き付け位置を通過する2秒前に、ワイピングガスを増大させる信号を送信し、溶接部が吹き付け位置を通過する1.2秒前にワイピングガス圧力を元の圧力に戻す信号を送信した。鋼帯の搬送速度Vは、一例として85m/分とした。
【0033】
図4に示すように、溶接部が吹き付け位置を通過する2秒前に、ワイピングガスを増大させる信号を送信し、溶接部が吹き付け位置を通過する1.2秒前にワイピングガス圧力を元の圧力に戻す信号を送信したとき、溶接部が吹き付け位置を通過する前後で、ワイピングガス圧力が増大した。その結果、得られた鋼帯には線状オーバーコートは発生しなかった。このように、溶接部が吹き付け位置を通過するときのワイピングガス圧力を高くすることで、ワイピングノズルの目詰まりが防止され、線状オーバーコートが抑制される。
【0034】
計算付着量は、下記(1)式に基づいて算出された。
W=exp(y+p×lnP+v×lnV+d×lnD+h×lnH) ・・・(1)式
W:計算付着量(g/m2)
P:ノズル圧力(kPa)
V:鋼帯Sの搬送速度(m/秒)
D:ノズルリップ部の先端と鋼帯Sとの距離(m)
H:溶融金属浴の浴面からのワイピングガスの吹き付け位置の高さ(m)
y、p、v、d、h:係数
【0035】
図5に、
図4に示すワイピングガス圧力で鋼帯にワイピングガスを吹き付けたときの、鋼帯における溶接点からの距離とめっきの計算付着量との関係を示す。
図5には、溶接点前後の鋼帯において、それぞれに要求されるめっき付着量の下限値を示している。
【0036】
図5に示すように、ワイピングガス圧力が増大した範囲では、計算付着量が要求される下限値を下回ることが分かった。実際のめっき付着量は、計算付着量との相関式から求めることができるため、計算付着量に基づいて切断領域を決定することができることがわかった。
【0037】
本実施形態に係る溶融めっき鋼帯の製造方法を適用しなかった比較例では、線状オーバーコートが生じた鋼帯が発生し、線状オーバーコートが生じた部分の除去が製造ラインの出側で必要となった。また、ワイピングノズルの目詰まりの解消も必要となった。その結果、比較例での単位質量あたりの溶融めっき鋼帯の製造コストに対する、本発明例での単位質量あたりの溶融めっき鋼帯の製造コストは、60%であった。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。