(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155988
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】高さ情報付与システム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059468
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元気
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032HB11
2C032HB22
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、ノイズとなる3次元測点を極力排除したうえで地物に高さ情報を付与することができる、高さ情報付与システムを提供することにある。
【解決手段】本願発明の高さ情報付与システムは、基線上に配置された複数の測点に基づいて基線に高さ情報を付与するシステムであって、点間勾配算出手段と、適正点抽出手段を備えたものである。点間勾配算出手段は、2つの対象測点に係る3次元座標に基づいて点間順勾配を算出する手段であり、適正点抽出手段は、点間順勾配があらかじめ定められた勾配要件を満たすときその点間順勾配に係る終点側の対象測点を適正点として抽出する手段である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起点側と終点側が設定された基線の上、又は帯領域の内側に配置され、起点側から終点側に向かう順方向に並べられる複数の対象測点に基づいて、該基線、又は該帯領域に高さ情報を付与するシステムであって、
2つの前記対象測点に係る3次元座標に基づいて、該対象測点間の前記順方向の勾配である点間順勾配を算出する点間勾配算出手段と、
前記点間順勾配があらかじめ定められた勾配要件を満たすとき、該点間順勾配に係る終点側の前記対象測点を適正点として抽出する適正点抽出手段と、を備え、
前記適正点に係る3次元座標に基づいて、前記基線、又は前記帯領域に高さ情報を付与する、
ことを特徴とする高さ情報付与システム。
【請求項2】
前記点間勾配算出手段は、前記適正点を起点側とする前記点間順勾配を算出し、
前記適正点抽出手段は、前記点間順勾配があらかじめ定められた順勾配閾値を下回るとき、該点間順勾配に係る終点側の前記対象測点を前記適正点として抽出し、
前記点間勾配算出手段は、前記適正点抽出手段によって前記適正点が抽出されるまで、前記順方向の順に前記対象測点を変えながら前記点間順勾配を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の高さ情報付与システム。
【請求項3】
前記点間勾配算出手段は、2つの前記対象測点に係る3次元座標に基づいて、終点側から起点側に向かう該対象測点間の逆方向の勾配であって前記適正点を終点側とする点間逆勾配を算出し、
前記適正点抽出手段は、前記点間逆勾配があらかじめ定められた逆勾配閾値を下回るとき、該点間逆勾配に係る起点側の前記対象測点を前記適正点として抽出し、
前記点間勾配算出手段は、前記適正点抽出手段によって前記適正点が抽出されるまで、前記逆方向の順に前記対象測点を変えながら前記点間順勾配を算出し、
前記点間順勾配によって抽出され、かつ前記点間逆勾配によって抽出された前記適正点に係る3次元座標に基づいて、前記基線、又は前記帯領域に高さ情報を付与する、
ことを特徴とする請求項2記載の高さ情報付与システム。
【請求項4】
前記基線、又は前記帯領域は、起点側と終点側が一致する無端の環状であり、
前記基線、又は前記帯領域の一方向を前記順方向とするとともに、該順方向の反対方向を前記逆方向とする、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高さ情報付与システム。
【請求項5】
複数の前記対象測点のうち最小の高さ情報を具備する該対象測点を分岐点として設定する分岐点設定手段と、
前記基線、又は前記帯領域を、前記分岐点を境界として2つの該基線、又は該帯領域に分割する対象範囲分割手段と、をさらに備え、
前記点間勾配算出手段は、ぞれぞれの前記基線、又は前記帯領域に対して前記点間順勾配を算出し、
前記適正点抽出手段は、ぞれぞれの前記基線、又は前記帯領域に対して前記適正点を抽出する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高さ情報付与システム。
【請求項6】
複数の前記対象測点の中から出発点と到達点を設定するとともに、該出発点と該到達点を前記適正点として設定する基点設定手段と、
2つの前記適正点の間に配置された前記対象測点のうち1つの該対象測点を着目測点として選出する着目測点選出手段と、をさらに備え、
前記点間勾配算出手段は、終点側の前記適正点と前記着目点に係る3次元座標に基づいて前記点間順勾配を算出するとともに、起点側の前記適正点と該着目点に係る3次元座標に基づいて終点側から起点側に向かう逆方向の勾配である点間逆勾配を算出し、
前記適正点抽出手段は、前記着目点に係る前記点間順勾配があらかじめ定められた順勾配閾値を下回り、かつ該着目点に係る前記点間逆勾配があらかじめ定められた逆勾配閾値を下回るとき、該着目点を前記適正点として抽出し、
前記着目測点選出手段は、前記適正点抽出手段によって前記適正点が抽出されるまで、高さ情報が小さい順に前記対象測点を変えながら前記着目測点として選出する、
ことを特徴とする請求項1記載の高さ情報付与システム。
【請求項7】
前記着目測点選出手段は、前記適正点抽出手段によって既に抽出された前記適正点を除く前記対象測点のうち最も小さい高さ情報を具備する該対象測点を新たな前記着目測点として選出する、
ことを特徴とする請求項6記載の高さ情報付与システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、標高や基準面からの比高差といった「高さ情報」を付与する技術に関するものであり、より具体的には、複数の測点(3次元座標点)の中から測点間の勾配に基づいて適正な測点を抽出したうえで、適切な高さ情報を付与することができる高さ情報付与システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、地形情報(空間情報)の需要が高まっており、道路上や沿道に設置された施設をより高度に管理することを目的として、その形状や設置位置といった施設の空間情報を要望する管理者が増加している。同時に、現在官民一体となって推進しているSociety5.0の実現にとっても、社会インフラストラクチャー(以下、単に「社会インフラ」という。)の高度な維持管理は重要な課題と位置付けられている。さらに、自動運転技術の実用化が進むなか、道路縁(道路境界線)をはじめとする道路に関する種々の空間情報が多方面から切望されているところである。
【0003】
従来、空間情報を示すものとしては、地形図など2次元(2D)の平面的な図面(平面図)が主流であった。平面図は、等高線や端点標高など「高さ情報」を示すことはあるものの、専ら平面位置を示すことに主眼が置かれており、3次元(3D)の空間として対象範囲を把握することは難しかった。一方、近年では計測技術の進歩に伴い大量の3次元計測点の集合(以下、「3次元点群」という。)を容易に取得することができるようになり、しかも情報技術の進歩に伴いこの3次元点群を容易にハンドリングできるようになってきた。
【0004】
例えば道路を含む地形の3次元点群を取得するには、空中写真測量や航空レーザー計測、地上型レーザー計測、MMS(Mobile Mapping System)といった計測手法が好んで用いられている。このうちMMSは、レーザースキャナやカメラ、自己位置を取得するための衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)、IMU(Inertial Measurement Unit)、オドメトリなどのセンサを移動車両に搭載したものであり、これにより車道上を移動しながらレーザースキャナによって3次元点群を取得することができる。
【0005】
空中写真測量や航空レーザー計測などによって得られた3次元点群は、計測対象の地形の3次元モデル(以下、「3Dモデル」という。)として利用するのが一般的である。この3Dモデルは、対象地形を3次元座標で表したものであって、DSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)、DTM(Digital Terrain Model)に代表される地形モデルである。
【0006】
通常、3Dモデルは対象とする平面範囲を複数分割した小領域によって構成される。この小領域は、メッシュとも呼ばれ、例えば直交するグリッドに区切られて形成されるもので、それぞれの小領域は代表点を備えている。計測によって得られる3次元点群はランダムデータ(平面的に不規則な配置のデータ)であることが多いため、小領域の代表点に高さ情報を与えるには幾何計算されることが多い。この計算方法としては、ランダムデータから形成される不整三角網によって高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による手法、最も近いレーザー計測点を採用する最近傍法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0007】
3Dモデルは、対象地形を平面的かつ立体的に把握することができることから、従来の平面図に比べると多様な用途に利用することができる。しかしながら、計測結果に基づく3Dモデルはあくまで3次元座標を基本とする空間情報を提示するにとどまり、地物の属性までは示すことができない。すなわち3Dモデルを目視しただけでは、オフィスビルの外縁(いわゆるエッジ)がどこなのか、道路縁がどこなのか、理解することができないわけである。
【0008】
3Dモデルに対して地物の属性情報を付与するとなると、地物の調査が必要となる。つまり、作業者が直接現地に赴いて目視した情報を図面に記録したり、あるいは空中写真を目視しながら地物の属性を抽出したりするなど、人による調査が必要になるわけである。しかしながら、例えば道路延長は一般に相当の延長を有していることから、調査にかかる作業量は膨大であり、その労力や作業時間を考えると多大なコストを要することとなる。
【0009】
ところで、上記したように従来は主に平面図を利用していた。そしてこの平面図を、ラスターデータやベクターデータとして(つまりデジタル化して)利用するケースもあり、さらに地物を図形(ポリラインやポリゴン)化したうえで属性情報を付与したものを利用するケースもあった。あるいは、近年の機械学習技術の進歩によって、空中写真や平面図から機械的(自動的)に地物を抽出し、その図形とともに属性情報を抽出することも可能になってきた。このように、標高などの高さ情報は備えていないものの地物の属性情報を有する平面図(以下、「2次元地図情報」という。)が別に用意されているケースも少なくない。そして、この2次元地図情報を利用すれば、人による地物の調査は省略(あるいは大幅に削減)することができることとなる。
【0010】
そこで特許文献1では、2次元地図データに表される地物の形状線に、計測による点群を用いて標高を付与することで3次元の地物形状線を生成する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
相互の平面座標を用いて3Dモデルと2次元地図データを平面的に合わせることによって、3Dモデルに属性情報を付与することができ、属性情報に高さ情報を付与することができる。つまり、例えば道路縁やオフィスビルのエッジなどに高さ情報を付与することができるわけである。
【0013】
ところで本願の発明者は、道路を計測して得られる3次元点群(つまり、3Dモデル)にはノイズが多く含まれることを見出した。すなわち、例えば上記した手法によって道路縁に高さ情報を付与したとしても、実際の道路縁を正確に再現できない傾向があることを確認している。これは道路上に設置された種々の施設が原因であると考えられる。より詳しくは、空中写真測量や航空レーザー計測などによって得られる3次元の計測点(以下、「3次元測点」という。)は、道路面ではなくその上方に位置する電線や標識などを計測することがあり、これが道路にとってはノイズに該当することとなるわけである。実際に特段の処理を行うことなく道路縁に高さ情報を付与したところ、多くのケースで上下数m~10m程度のばらつきが生じていた。
【0014】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、ノイズとなる3次元測点を極力排除したうえで地物に高さ情報を付与することができる、高さ情報付与システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、線上あるいは細幅の帯状領域(以下、単に「帯領域」という。)内に配置され、上下にばらつきが生じている3次元測点の中から、高さ情報が比較的小さい3次元測点を採用したうえで地物に高さ情報を付与する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0016】
本願発明の高さ情報付与システムは、基線上(あるいは帯領域の内側)に配置された複数の対象測点に基づいて基線(あるいは帯領域)に高さ情報を付与するシステムであって、点間勾配算出手段と、適正点抽出手段を備えたものである。なお、基線(あるいは帯領域)には起点側と終点側が設定されており、複数の対象測点は順方向(起点側から終点側に向かう方向)に並べられている。点間勾配算出手段は、2つの対象測点に係る3次元座標に基づいて点間順勾配(対象測点間の順方向の勾配)を算出する手段であり、適正点抽出手段は、点間順勾配があらかじめ定められた勾配要件を満たすときその点間順勾配に係る終点側の対象測点を適正点として抽出する手段である。そして適正点に係る3次元座標に基づいて、基線(あるいは帯領域)に高さ情報を付与する。
【0017】
本願発明の高さ情報付与システムは、点間順勾配があらかじめ定められた順勾配閾値を下回るとき、その点間順勾配に係る終点側の対象測点を適正点として抽出するものとすることもできる。この場合、点間勾配算出手段は、適正点を起点側とする点間順勾配を算出し、点間勾配算出手段は、適正点抽出手段によって適正点が抽出されるまで順方向の順に対象測点を変えながら繰り返し点間順勾配を算出する。
【0018】
本願発明の高さ情報付与システムは、点間勾配算出手段によって算出される点間順勾配と点間逆勾配に基づいて、適正点を抽出するものとすることもできる。ここで点間逆勾配とは、対象測点間の逆方向(終点側から起点側に向かう方向)の勾配であって適正点を終点側とする勾配である。この場合、適正点抽出手段は、点間逆勾配があらかじめ定められた逆勾配閾値を下回るとき、その点間逆勾配に係る起点側の対象測点を適正点として抽出し、点間勾配算出手段は、適正点抽出手段によって適正点が抽出されるまで逆方向の順に対象測点を変えながら繰り返し点間順勾配を算出する。そして、点間順勾配に基づいて抽出され、かつ点間逆勾配に基づいて抽出された適正点に係る3次元座標によって、基線(あるいは帯領域)に高さ情報を付与する。
【0019】
本願発明の高さ情報付与システムは、起点側と終点側が一致する無端の環状の基線(あるいは帯領域)に高さ情報を付与するものとすることもできる。この場合、基線(あるいは帯領域)の一方向(例えば、時計回り)が順方向であって、その反対方向(例えば、反時計回り)が逆方向とされる。
【0020】
本願発明の高さ情報付与システムは、分岐点設定手段と対象範囲分割手段をさらに備えたものとすることもできる。この分岐点設定手段は、複数の対象測点のうち最小の高さ情報を具備する対象測点(つまり、最下点)を分岐点として設定する手段であり、一方の対象範囲分割手段は、分岐点を境界として2つの基線(あるいは帯領域)に分割する手段である。この場合、点間勾配算出手段は、ぞれぞれの基線(あるいは帯領域)に対して点間順勾配を算出し、適正点抽出手段は、ぞれぞれの基線(あるいは帯領域)に対して適正点を抽出する。
【0021】
本願発明の高さ情報付与システムは、基点設定手段と着目測点選出手段をさらに備えたものとすることもできる。この基点設定手段は、複数の対象測点の中から出発点と到達点を設定するとともにこれら出発点と到達点を適正点として設定する手段であり、一方の着目測点選出手段は、2つの適正点の間に配置された対象測点のうち1つの対象測点を着目測点として選出する手段である。この場合、点間勾配算出手段は、終点側の適正点と着目点に係る3次元座標に基づいて点間順勾配を算出するとともに、起点側の適正点と着目点に係る3次元座標に基づいて点間逆勾配を算出する。また適正点抽出手段は、着目点に係る点間順勾配が順勾配閾値を下回り、かつ着目点に係る点間逆勾配が逆勾配閾値を下回るとき、この着目点を適正点として抽出する。なお着目測点選出手段は、適正点抽出手段によって適正点が抽出されるまで、高さ情報が小さい順に対象測点を変えながら繰り返し着目測点として選出していく。
【0022】
本願発明の高さ情報付与システムは、適正点抽出手段によって既に抽出された適正点を除いたうえで、対象測点のうち最も小さい高さ情報を具備する対象測点(つまり、最下点)を新たな着目測点として選出するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0023】
本願発明の高さ情報付与システムには、次のような効果がある。
(1)道路など目的の対象地物にとってノイズとなる3次元測点を除いたうえで当該地物に対して高さ情報を付与することができる。その結果、例えば実際の道路縁をより正確に再現することが可能となる。
(2)ユーザの判断が必要とされないため、ユーザの労力が軽減されるとともに、主観等による人為的なミスも回避され、効率的かつ高精度の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は道路縁の2次元情報(平面座標や属性情報)を具備する2次元地図情報を示す平面図、(b)は道路縁に配置された3次元測点で構成される縦断図。
【
図2】(a)は基線に配置された3次元測点を模式的に示す平面図、(b)は帯領域に配置された3次元測点を模式的に示す平面図。
【
図3】本願発明の高さ情報付与システムの主な構成を示すブロック図。
【
図4】(a)は無端環状の道路縁に係る対象測点を配列する処理を説明するモデル図、(b)は分岐点を境界にして道路縁を2つに分割する処理を説明するモデル図。
【
図5】測点配列手段によって配列された9個の対象測点を示す模式的な縦断図。
【
図6】本願発明の高さ情報付与システムを使用するときの主な処理の流れを示すフロー図。
【
図7】(a)は測点配列手段によって配列され特段のノイズ処理が施されない状態の縦断図、(b)はメディアンフィルタ処理が施された縦断図、(c)は適正点を連結した実線と真値である道路縁の標高を重ねて示した縦断図。
【
図8】往路方式によって適正点を抽出していく主な処理の流れを示すフロー図。
【
図9】(a)は出発点を基準として往路方式により適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図、(b)は既抽出の適正点を基準として往路方式により適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図。
【
図10】往復方式によって適正点を抽出していく主な処理の流れを示すフロー図。
【
図11】到達点を基準として往復方式により逆方向適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図。
【
図12】本願発明の高さ情報付与システムの主な構成を示すブロック図。
【
図13】本願発明の着目型高さ情報付与システムを使用するときの主な処理の流れを示すフロー図。
【
図14】(a)は着目型高さ情報付与システムが出発点と到達点を基準として適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図、(b)は着目型高さ情報付与システムが既抽出の適正点と到達点を基準として適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図。
【
図15】抽出された4つの適正点を破線で連結した縦断図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明の高さ情報付与システムの実施の一例を図に基づいて説明する。なお本願発明の高さ情報付与システムは、線状や帯状など軸方向の寸法が卓越した形状の地物に対して高さ情報を付与するケースで特に有効であり、このような形状を呈する種々の地物に適用することができるが、便宜上ここでは「道路縁(道路境界線)」を対象地物とする例で説明する。また本願発明の情報付与システムが付与する「高さ情報」には、任意の基準面からの比高差など高さに関する様々な情報が含まれるが、便宜上ここでは「標高」を高さ情報とする例で説明する。
【0026】
1.全体概要
図1(a)は道路縁の2次元情報(平面座標や属性情報)を具備する「2次元地図情報」を示す平面図であり、
図1(b)は道路縁に配置された「3次元測点」で構成される縦断図である。ここで2次元地図情報とは、既述したとおり標高などの高さ情報は備えていないものの地物の平面座標と属性情報を有する平面図のことであり、また3次元測点とは、空中写真測量や航空レーザー計測などによって得られる3次元の計測点のことである。
【0027】
図1(b)の縦断図は、道路縁の直上の3次元測点、あるいは道路縁周辺の3次元測点(例えば、道路縁に掛かるメッシュの代表点など)を起点側から終点側に向けて並べたものであり、横軸は起点側から各3次元測点までの距離(点間距離や、X軸座標差、Y軸座標差など)を示し、縦軸は3次元測点の標高を示している。換言すれば、最も起点側となる3次元測点(以下、「出発点」という。)から最も終点側となる3次元測点(以下、「到達点」という。)まで複数の3次元測点を順に並べるとともに、それぞれの標高に応じて上下にプロットしたものが
図1(b)の縦断図である。なお、
図1(a)が示す道路縁は無端の環状(いわゆるループ状)であるため、
図1(b)では所定の3次元測点で道路縁を切断したうえで道路縁を展開している。したがって、
図1のようなケースでは出発点と到達点が一致することになる。
【0028】
上記したとおり本願発明の高さ情報付与システムは、
図2(a)に示すような線状の地物(例えば、道路縁など)や、
図2(b)に示すような帯状の地物に対して高さ情報を付与するケースで特に有効である。
図2(a)に示す例では、線状の地物を「基線」として扱い、この基線上あるいは基線周辺に配置された3次元測点を用いて
図1(b)の縦断図を作成する。一方、
図2(b)に示す例では、帯状の地物を「帯領域」として扱い、この帯領域内に配置された3次元測点を用いて
図1(b)の縦断図を作成する。
【0029】
既に説明したように、道路を計測して得られる3次元点群(つまり、3Dモデル)にはノイズが多く含まれる傾向にある。そのため、3次元点群を構成する複数の3次元測点を
図1(b)に示す縦断図で表すと、上下に相当のばらつきが生じることが明確になる。そこで本願発明は、縦断図のうち上方に配置された(つまり、標高が高い)3次元測点は採用せず、縦断図のうち下方に配置された(つまり、標高が低い)3次元測点のみを用いて地物に高さ情報を与えることとした。すなわち、電線などを表すと考えられる3次元測点は排除し、道路縁を表すと考えられる3次元測点のみを選出して利用するわけである。
【0030】
2.適正画像選択システム
次に、本願発明の高さ情報付与システムについて、図を参照しながら詳しく説明する。
図3は、本願発明の高さ情報付与システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の高さ情報付与システム100は、点間勾配算出手段101と適正点抽出手段102を含んで構成され、さらに分岐点設定手段103や対象範囲分割手段104、地物抽出手段105、対象測点抽出手段106、測点配列手段107、高さ情報付与手段108、3D地形モデル記憶手段109、2D地図情報記憶手段110、高さ情報記憶手段111などを含んで構成することもできる。
【0031】
高さ情報付与システム100を構成する点間勾配算出手段101と適正点抽出手段102、分岐点設定手段103、対象範囲分割手段104、地物抽出手段105、対象測点抽出手段106、測点配列手段107、高さ情報付与手段108は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサと、ROMやRAMといったストレージやメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、タブレット型コンピュータ(iPad(登録商標)など)やスマートフォンといった携帯型端末機器、あるいはパーソナルコンピュータ(PC)やサーバーなどを例示することができる。
【0032】
また、3D地形モデル記憶手段109と2D地図情報記憶手段110、高さ情報記憶手段111は、コンピュータ装置の記憶装置を利用することもできるし、そのほかデータベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(例えば、無線通信)で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0033】
以下、高さ情報付与システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0034】
(2D地図情報記憶手段と地物抽出手段)
2D地図情報記憶手段110は、2D地図情報を記憶する手段であり、地物抽出手段105は2D地図情報の中から対象とする地物(この場合は道路縁)を抽出する手段である。この地物抽出手段105は、オペレーターが指定した地物の種別(道路縁)を自動的に抽出する仕様とすることもできるし、オペレーターが2D地図情報を目視しながらポインティングデバイスやキーボードを操作することによって抽出する仕様とすることもできる。
【0035】
(3D地形モデル記憶手段と対象測点抽出手段)
3D地形モデル記憶手段109は、多数の3次元測点(つまり、3次元点群)を記憶する手段である。また対象測点抽出手段106は、基線上(基線周辺)に、あるいは帯領域内に配置された3次元測点(以下、「対象測点」という。)を抽出する手段である。より詳しくは、平面座標に基づいて3次元点群と2D地図情報の平面的な位置合わせを行い、基線あるいは帯領域に係る3次元測点を対象測点として抽出していく。
【0036】
(測点配列手段)
測点配列手段107は、対象測点の中から出発点と到達点を選出するとともに、複数の対象測点を起点側から終点側(つまり、出発点から到達点)に順に配列する手段である。対象測点を配列するにあたっては出発点と到達点を結ぶ線分上に順に並べていき、また出発点(あるいは到達点)を選出するにあたっては対象測点のうち最も標高が低いもの(以下、「最小標高点」という。)を選出するとよい。例えば
図4(a)に示す無端の環状(いわゆるループ状)の道路縁の場合、対象測点のうち最小標高点を出発点かつ到達点として選出し、そして出発点と到達点を結ぶ線分上に対象測点を配列していくとよい。このとき、もちろん出発点に近い順に対象測点を起点側(図では左側)から並べていく。
【0037】
図4(b)に示す道路縁のように、途中に最小標高点があるときはこれを出発点や到達点として選出することができない。この場合、最小標高点を分岐点として設定するとともに、当該分岐点を境界にして道路縁を2つに分割するとよい。すなわち
図4(b)に示すように、分岐点を出発点、他端を到達点としたうえで分割された2つの道路縁それぞれに対して後続の処理を行うわけである。なお、分岐点は分岐点設定手段103(
図3)によって設定され、道路縁は対象範囲分割手段104(
図3)によって2つに分割される。
【0038】
図5は、測点配列手段107によって配列された9個(PA1~PA9)の対象測点を示す模式的な縦断図である。この図では、対象測点PA1が出発点、対象測点PA9が到達点としてそれぞれ選出されており、起点側から順に対象測点PA2~対象測点PA8が配列されている。なお便宜上ここでは、起点側から終点側(つまり、出発点から到達点)に向かう方向(図では右向き)のことを「順方向」、終点側から起点側(つまり、到達点から出発点)に向かう方向(図では左向き)のことを「逆方向」ということとし、また順方向に向かう勾配のことを「順勾配」、逆方向に向かう勾配のことを「逆勾配」ということとする。例えば
図5で対象測点PA4に着目すると、対象測点PA4から対象測点PA5に向かう勾配が「順勾配」となり、対象測点PA4から対象測点PA3に向かう勾配が「逆勾配」となるわけである。もちろん順勾配や逆勾配は、対象測点(3次元測点)が有する3次元座標に基づいて算出される。
【0039】
(点間勾配算出手段)
点間勾配算出手段101は、
図5に示す対象測点を連結する縦断図において、着目された対象測点と、その対象測点の終点側に位置する他の対象測点とによって、これら対象測点間の順勾配(以下、「点間順勾配」という。)を算出する手段である。また点間勾配算出手段101は、点間順勾配の算出に加え、着目された対象測点と、その対象測点の起点側に位置する他の対象測点とによって、これら対象測点の逆勾配(以下、「点間逆勾配」という。)を算出する手段とすることもできる。
【0040】
(適正点抽出手段)
適正点抽出手段102は、対象測点に係る点間順勾配や点間逆勾配に基づいて「適正点」を抽出する手段である。例えば、対象測点に係る点間順勾配があらかじめ定められた「勾配要件」を満たすときに、その対象測点を適正点として抽出する仕様とすることができる。ここで勾配要件とは、例えば-3%~3%といった範囲や、1%~3%といった範囲のように、上限の勾配と下限の勾配によって規定される要件である。したがって適正点抽出手段102は、点間順勾配が勾配要件に規定される範囲にあるときに、その点間順勾配に係る対象測点を適正点として抽出する。
【0041】
また適正点抽出手段102は、対象測点に係る点間順勾配があらかじめ定められた閾値(以下、「順勾配閾値」)を下回るときに、その対象測点を適正点として抽出する仕様とすることもできる。例えば順勾配閾値が3%とされるケースでは、適正点抽出手段102は、点間順勾配が3%を下回るときに、その点間順勾配に係る対象測点を適正点として抽出する。さらに適正点抽出手段102は、対象測点に係る点間逆勾配があらかじめ定められた閾値(以下、「逆勾配閾値」)を下回るときに、その対象測点を適正点として抽出する仕様とすることもできる。例えば逆勾配閾値が2%とされるケースでは、適正点抽出手段102は、点間逆勾配が2%を下回るときに、その点間逆勾配に係る対象測点を適正点として抽出する。なお、順勾配閾値と逆勾配閾値は、異なる値で設定することもできるし、両者ともに3%とするなど同一の値として設定することもできる。なお、出発点と到達点については、ここで説明した条件に関わらず適正点として設定される仕様とすることもできる。
【0042】
(高さ情報付与手段と高さ情報記憶手段)
高さ情報付与手段108は、適正点抽出手段102によって抽出された適正点に基づいて、道路縁に対して標高を付与する手段である。このとき高さ情報付与手段108は、適正点(3次元座標点)が有する平面座標に相当する位置に、適正点が有する標高を付与する。ここで道路縁に付与された標高(あるいは適正点の3次元座標)は、高さ情報記憶手段111に記憶される。
【0043】
(処理の流れ)
続いて、
図6を参照しながら本願発明の高さ情報付与システム100を使用するときの主な処理の流れについて説明する。なお
図6や後述する
図8のフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0044】
はじめに地物抽出手段105によって、2D地図情報記憶手段110に記憶された2D地図情報から目的の道路縁を抽出する(
図6のStep210)。既述したとおりこの地物抽出手段105は、オペレーターが指定した道路縁を自動的に抽出する仕様とすることもできるし、オペレーターが2D地図情報を目視しながらポインティングデバイスやキーボードを操作することによって目的の道路縁を抽出する仕様とすることもできる。なお、2次元座標を具備する目的の道路縁が用意されている場合は、この処理(
図6のStep210)を省略(スキップ)することもできる。
【0045】
道路縁が抽出されると、対象測点抽出手段106が道路縁に配置された3次元測点を「対象測点」として抽出する(
図6のStep220)。そして測点配列手段107が、対象測点の中から出発点と到達点を選出するとともに、複数の対象測点を起点側から終点側(つまり、出発点から到達点)に順に配列し、
図1(b)や
図5に示す対象測点を連結する縦断図を生成する(
図6のStep230)。
【0046】
縦断図が生成されると、点間勾配算出手段101が対象測点に係る「点間順勾配」や「点間逆勾配」を算出する(
図6のStep240)。そして点間順勾配や点間逆勾配が得られると、適正点抽出手段102が対象測点に係る点間順勾配や点間逆勾配に基づいて適正点を抽出し(
図6のStep250)、高さ情報付与手段108が適正点の3次元座標に基づいて道路縁に対して標高を付与する(
図6のStep260)。
【0047】
なお、上記したように測点配列手段107によって生成された縦断図をそのまま用いて後続の処理を行うこともできるし、測点配列手段107によって生成された縦断図に対してメディアンフィルタ処理といったノイズ処理を施したうえで後続の処理を行うこともできる。
図7(a)は、測点配列手段107によって生成され、特段のノイズ処理が施されない状態の縦断図を示している。これに対して
図7(b)は、メディアンフィルタ処理が施された縦断図(図では破線)を示しており、さらに適正点抽出手段102によって抽出された適正点を連結した実線も示している。また
図7(c)では、適正点を連結した実線に加え、真値である(実測された)道路縁の標高を一点鎖線で示している。この
図7(c)から分かるように、本願発明の高さ情報付与システム100によって付与された道路縁の標高は、真値である道路縁の標高と概ね一致している。すなわち情報付与システム100は、種々の用途に利用できる程度に、高い精度で道路縁に対して標高を付与することができる。
【0048】
ところで適正点は、所定の手順にしたがって適宜抽出されていく。以下、対象測点の中から適正点を抽出していく処理について詳しく説明する。なお、適正点を抽出していく処理には、出発点から到達点に向けて順次抽出していく「往路方式」と、出発点から到達点に向けて暫定的に抽出するとともに到達点から出発点に向けて暫定的に抽出していく「往復方式」と、に大別することができる。そこで、往路方式と往復方式についてそれぞれ順に説明する。
【0049】
往路方式では、適正点抽出手段102によって抽出された適正点を基準として、次の適正点を抽出していく。より詳しくは、既に抽出された適正点を点間順勾配に係る起点側の点(以下、「勾配起点」という。)として設定するとともに、当該適正点(つまり勾配起点)よりも終点側に配置された対象測点を点間順勾配に係る終点側の点(以下、「勾配終点」という。)として設定し、これら勾配起点と勾配終点から算出される点間順勾配に基づいて適正点抽出手段102が新たな適正点を抽出する。したがって、点間勾配算出手段101は、勾配起点(既に抽出された適正点)を固定しつつ終点側に向けて(順方向の順に)対象測点を変えながら、適正点が抽出されるまで点間順勾配を繰り返し算出し、そして適正点抽出手段102は、要件を満たしたときに点間順勾配に係る勾配終点を新たな適正点として抽出する。
【0050】
図8は、往路方式によって適正点を抽出していく主な処理の流れを示すフロー図である。この図に示すように、測点配列手段107によって対象測点を連結する縦断図が生成されると(Step230)、既に抽出された適正点を勾配起点として設定する(
図8のStep241)。ただし、最初の適正点を抽出するときは当然ながら適正点が抽出されていないため、出発点を適正点としたうえでこれを勾配起点として設定するとよい。
【0051】
既に抽出された適正点(あるいは出発点)を勾配起点として設定すると、その勾配起点よりも終点側に配置された対象測点を探索し、これを勾配終点として設定する(
図8のStep242)。そして、点間勾配算出手段101がこれら勾配起点と勾配終点に基づいて点間順勾配を算出し(
図8のStep243)、適正点抽出手段102が点間順勾配と順勾配閾値を照らし合わせる(
図8のStep244)。ここで点間順勾配が順勾配閾値を上回るときは(
図8のStep244のNo)は、この勾配終点とは異なる対象測点を新たな勾配終点として設定し(
図8のStep242)、点間順勾配の算出(
図8のStep243)~点間順勾配と順勾配閾値との照合(
図8のStep244)を繰り返し行う。一方、点間順勾配が順勾配閾値を下回るときは(
図8のStep244のYes)、この勾配終点を適正点として抽出する(Step250)とともに、ここで抽出された適正点(つまり、ここまでの勾配終点)を新たに勾配起点として設定し(
図8のStep241)、勾配終点の設定(
図8のStep242)~適正点の抽出(Step250)を繰り返し行う。
【0052】
図9は、往路方式によって適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図である。
図9(a)では、はじめに出発点PSTが勾配起点として設定されている。そして、勾配終点として対象測点PA11を探索したうえで点間順勾配を算出している。ところが、出発点PST(勾配起点)と対象測点PA11(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を上回るため、次に終点側にある対象測点PA12を探索して点間順勾配を算出している。出発点PST(勾配起点)と対象測点PA12(勾配終点)からなる点間順勾配も順勾配閾値を上回るため、さらに終点側にある対象測点PA13を探索して点間順勾配を算出している。そして、出発点PST(勾配起点)と対象測点PA13(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を下回る結果、この対象測点PA13が新たな適正点として抽出される。
【0053】
対象測点PA13が適正点として抽出されると、
図9(b)に示すように、今度は対象測点PA13が新たな勾配起点として設定される。そして、勾配終点として対象測点PA14を探索したうえで点間順勾配を算出している。ところが、対象測点PA13(勾配起点)と対象測点PA14(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を上回るため、次に終点側にある対象測点PA15を探索して点間順勾配を算出している。対象測点PA13(勾配起点)と対象測点PA15(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を下回る結果、この対象測点PA15が新たなを適正点として抽出される。このように、適正点を抽出しながら順方向(終点側)に処理を進めていき、適正点が抽出されなくなったとき適正点の抽出処理を終了し、高さ情報付与手段108が適正点の3次元座標に基づいて道路縁に対して標高を付与する(Step260)。
【0054】
往復方式では、一旦、
図8や
図9で説明した往路方式によって適正点を抽出する。ただし、ここで抽出される適正点はあくまで暫定的な適正点(以下、「順方向適正点」という。)である。そして往路方式の処理を経た後に、往路とは逆の方向(つまり、復路)に向かって往路方式と同等の処理を行い、適正点を抽出する。より詳しくは、既に抽出された適正点を点間逆勾配に係る終点側の点(ここでも、「勾配終点」という。)として設定するとともに、当該適正点(つまり勾配終点)よりも起点側に配置された対象測点を点間逆勾配に係る起点側の点(ここでも、「勾配起点」という。)として設定し、これら勾配終点と勾配起点から算出される点間逆勾配に基づいて適正点抽出手段102が新たな適正点を抽出する。したがって、点間勾配算出手段101は、勾配終点(既に抽出された適正点)を固定しつつ起点側に向けて(逆方向の順に)対象測点を変えながら、適正点が抽出されるまで点間逆勾配を繰り返し算出し、そして適正点抽出手段102は、要件を満たしたときに点間逆勾配に係る勾配起点を新たな適正点として抽出する。ただし、復路で抽出される適正点もあくまで暫定的な適正点(以下、「逆方向適正点」という。)とされる。そして、順方向適正点と逆方向適正点が一致する対象測点(つまり、順方向適正点であって逆方向適正点である対象測点)を最終的な適正点として決定する。
【0055】
図10は、往復方式によって適正点を抽出していく主な処理の流れを示すフロー図である。この図に示すように、まずはここまで説明した往路方式によって順方向適正点を抽出する(Step241~Step251)。順方向適正点が抽出されると(Step251)、既に抽出された適正点を勾配終点として設定する(
図10のStep245)。ただし、往路における最初の適正点を抽出するときは当然ながら適正点が抽出されていないため、到達点を適正点としたうえでこれを勾配終点として設定するとよい。
【0056】
既に抽出された適正点(あるいは到達点)を勾配終点として設定すると、その勾配終点よりも起点側に配置された対象測点を探索し、これを勾配起点として設定する(
図10のStep246)。そして、点間勾配算出手段101がこれら勾配終点と勾配起点に基づいて点間逆勾配を算出し(
図10のStep247)、適正点抽出手段102が点間逆勾配と逆勾配閾値を照らし合わせる(
図10のStep248)。ここで点間逆勾配が逆勾配閾値を上回るときは(
図10のStep248のNo)は、この勾配起点とは異なる対象測点を新たな勾配起点として設定し(
図10のStep246)、点間逆勾配の算出(
図10のStep246)~点間逆勾配と逆勾配閾値との照合(
図10のStep248)を繰り返し行う。一方、点間逆勾配が逆勾配閾値を下回るときは(
図10のStep248のYes)、この勾配起点を逆方向適正点として抽出する(
図10のStep252)とともに、ここで抽出された逆方向適正点(つまり、ここまでの勾配起点)を新たに勾配終点として設定し(
図10のStep245)、勾配起点の設定(
図10のStep246)~逆方向適正点の抽出(Step252)を繰り返し行う。
【0057】
図11は、往復方式によって逆方向適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図である。この図では、到達点PENが勾配終点として設定されている。そして、勾配起点として対象測点PA25を探索したうえで点間逆勾配を算出している。ところが、到達点PEN(勾配終点)と対象測点PA25(勾配起点)からなる点間逆勾配が逆勾配閾値を上回るため、次に起点側にある対象測点PA24を探索して点間逆勾配を算出している。到達点PEN(勾配終点)と対象測点PA24(勾配起点)からなる点間逆勾配も逆勾配閾値を上回るため、さらに起点側にある対象測点PA23を探索して点間逆勾配を算出している。そして、到達点PEN(勾配終点)と対象測点PA23(勾配起点)からなる点間逆勾配が逆勾配閾値を下回る結果、この対象測点PA23が新たな適正点として抽出される。
【0058】
このように、適正点を抽出しながら逆方向(起点側)に処理を進めていき、適正点が抽出されなくなったとき適正点の抽出処理を終了する。そして、順方向適正点と逆方向適正点を照らし合わせ(
図10のStep253)、これらが一致する対象測点を最終的な適正点として決定する(
図10のStep254)。最終的な適正点が決定すると、高さ情報付与手段108が適正点の3次元座標に基づいて道路縁に対して標高を付与する(Step260)。
【0059】
(変形例)
本願発明の高さ情報付与システム100は、着目した対象測点に係る点間順勾配と点間逆勾配に基づいて適正点を抽出する仕様(以下、便宜上「着目型高さ情報付与システム100a」という。)とすることもできる。
図12は、本願発明の高さ情報付与システム100aの主な構成を示すブロック図である。この図に示すように着目型高さ情報付与システム100aは、
図3に示す高さ情報付与システム100を構成する各手段に加え、基点設定手段112と着目測点選出手段113をさらに含んで構成される。これら基点設定手段112と着目測点選出手段113も、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。
【0060】
基点設定手段112は、複数の対象測点の中からここまで説明した出発点と到達点を設定するとともに、これら出発点と到達点を適正点として設定する手段である。一方の着目測点選出手段113は、出発点と到達点との間に配置された対象測点の中から1つの対象測点を「着目測点」として選出する手段である。
【0061】
図13は、着目型高さ情報付与システム100aを使用するときの主な処理の流れを示すフロー図である。なおこの図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0062】
はじめに、基点設定手段112が対象測点の中から出発点と到達点を設定する(
図13のStep301)。出発点と到達点が設定されると、既に抽出された適正点の中から勾配起点と勾配終点を設定する(
図13のStep302)。ただし、最初の勾配起点と勾配終点を設定するときは当然ながら適正点が抽出されていないため、出発点を勾配起点、到達点を勾配終点として設定するとよい。そして着目測点選出手段113が、勾配起点と勾配終点の間に配置される対象測点の中から着目点を選出する(
図13のStep303)。なお着目測点選出手段113は、対象となる対象測点(勾配起点と勾配終点との間にある対象測点)のうち、最小標高点となる対象測点を着目点として選出する。
【0063】
着目点が選出されると、点間勾配算出手段101が着目点に係る点間順勾配と点間逆勾配を算出する。より詳しくは、着目点と勾配起点に基づいてこの着目点に係る点間逆勾配を算出する(
図13のStep304)とともに、着目点と勾配終点に基づいてこの着目点に係る点間順勾配を算出する(
図13のStep305)。
【0064】
着目点に係る点間順勾配と点間逆勾配が得られると、この点間順勾配と順勾配閾値とを照らし合わせるとともに、この点間逆勾配と逆勾配閾値とを照らし合わせる(
図13のStep306)。ここで点間順勾配が順勾配閾値を上回るかあるいは点間逆勾配が逆勾配閾値を上回るときは(
図13のStep306のNo)は、この着目点とは異なる対象測点を新たな着目点として設定し(
図13のStep303)、点間逆勾配の算出(
図13のStep304)~各勾配閾値との照合(
図13のStep306)を繰り返し行う。一方、点間順勾配が順勾配閾値を下回り、かつ点間逆勾配が逆勾配閾値を下回るときは(
図13のStep306のYes)、この着目点を適正点として抽出する(Step250)とともに、ここで抽出された適正点(つまり、ここまでの着目点)を新たに勾配起点あるいは勾配終点として設定し(
図13のStep302)、着目点の選出(
図13のStep303)~適正点の抽出(Step250)を繰り返し行う。
【0065】
図14は、着目型高さ情報付与システム100aが適正点を抽出していく状況を模式的に示す縦断図である。
図14(a)では、はじめに出発点PSTが勾配起点、到達点PENが勾配終点として設定されている。そして、出発点PST(勾配起点)と到達点PEN(勾配終点)との間に配置された対象測点のうち最小標高点である対象測点PA31を着目点として選出している。ところが、対象測点PA31(着目点)と到達点PEN(勾配終点)からなる点間順勾配は順勾配閾値を下回るものの、対象測点PA31(着目点)と出発点PST(勾配起点)からなる点間逆勾配が逆勾配閾値を上回る。そのため、対象測点PA33が新たな着目点として選出されている。なお対象測点PA33は、対象測点PA31を除くと、出発点PSTと到達点PENとの間に配置された対象測点のうち最小標高点(つまり、2番目に標高が低い対象測点)となる。そして、対象測点PA33(着目点)と到達点PEN(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を下回り、しかも対象測点PA33(着目点)と出発点PST(勾配起点)からなる点間逆勾配が逆勾配閾値を下回る結果、この対象測点PA33が新たな適正点として抽出される。
【0066】
対象測点PA33が適正点として抽出されると、
図14(b)に示すように、今度は対象測点PA33が新たな勾配起点あるいは勾配終点として設定される。そして、まずは対象測点PA33(勾配起点)と到達点PEN(勾配終点)との間に配置された対象測点のうち最小標高点である対象測点PA35を着目点として選出している。ところが、対象測点PA35(着目点)と対象測点PA33(勾配起点)からなる点間逆勾配は逆勾配閾値を下回るものの、対象測点PA35(着目点)と到達点PEN(勾配終点)からなる点間順勾配が順勾配閾値を上回る。次に、出発点PST(勾配終点)と対象測点PA33(勾配起点)との間に配置された対象測点のうち最小標高点である対象測点PA32を着目点として選出している。この対象測点PA32(着目点)と出発点PST(勾配起点)からなる点間逆勾配は逆勾配閾値を下回り、しかも対象測点PA32(着目点)と対象測点PA33(勾配終点)からなる点間順勾配も順勾配閾値を下回る結果、この対象測点PA32が新たな適正点として抽出される。
図15に4つの適正点(出発点PSTと、対象測点PA32、対象測点PA33、到達点PEN)を破線で連結した縦断図を示す。このように、適正点を抽出しながら標高が低い順に対象測点を変えながら処理を進めていき、適正点が抽出されなくなったとき適正点の抽出処理を終了する。そして、高さ情報付与手段108が適正点の3次元座標に基づいて道路縁に対して標高を付与する(Step260)。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明の高さ情報付与システムは、道路施設をはじめとする様々な施設の管理や、自動運転に使用される地図情報として、特に好適に利用することができる。また本願発明によれば、高齢者や車いすにとって有益な段差情報を高い精度で提供することができ、さらに防災計画にも有効活用することができるなど、本願発明の高さ情報付与システムは、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0068】
100 本願発明の高さ情報付与システム
100a 本願発明の着目型高さ情報付与システム
101 (本願発明の高さ情報付与システムの)点間勾配算出手段
102 (本願発明の高さ情報付与システムの)適正点抽出手段
103 (本願発明の高さ情報付与システムの)分岐点設定手段
104 (本願発明の高さ情報付与システムの)対象範囲分割手段
105 (本願発明の高さ情報付与システムの)地物抽出手段
106 (本願発明の高さ情報付与システムの)対象測点抽出手段
107 (本願発明の高さ情報付与システムの)測点配列手段
108 (本願発明の高さ情報付与システムの)高さ情報付与手段
109 (本願発明の高さ情報付与システムの)3D地形モデル記憶手段
110 (本願発明の高さ情報付与システムの)2D地図情報記憶手段
111 (本願発明の高さ情報付与システムの)高さ情報記憶手段
112 (本願発明の着目型高さ情報付与システムの)基点設定手段
113 (本願発明の着目型高さ情報付与システムの)着目測点選出手段