(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022155995
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】シリンダヘッドガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
F16J15/08 P
F16J15/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059478
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000228383
【氏名又は名称】日本ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】菅原 玲
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大地
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA01
3J040BA01
3J040EA07
3J040EA17
3J040EA30
3J040EA43
3J040EA48
3J040FA02
3J040FA06
3J040HA06
3J040HA17
(57)【要約】
【課題】燃焼ガスが水孔に浸入するのを抑制して、オーバーヒートを抑制可能なシリンダヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】第1ガスケット基板5と第2ガスケット基板6の表裏両面にはゴムコーティング12,13が施されているが、ボルト孔8と水孔9の間の位置においては、あえてゴムコーティング12,13を剥離させたK字形の剥離部12A、13Aが設けられている。
シリンダヘッドガスケット1がシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着された状態において、燃焼ガスGがフルビード5B(6B)を越えて、その外方側まで漏れた場合には、上記剥離部12A、13Aと相手材との隙間15を介して燃焼ガスGがシリンダヘッドガスケット1の外方縁1Bから外部へ排出される。そのため、水孔9への燃焼ガスGの浸入が抑制されてオーバーヒートの発生を効果的に抑制することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面または裏面の少なくともいずれか一方にコーティングが施された少なくとも1枚のガスケット基板と、該ガスケット基板の所定位置に穿設された複数の燃焼室孔、水孔及びボルト孔を備え、さらに、上記ガスケット基板には、上記各燃焼室孔を囲繞してビードが形成されたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記ガスケット基板に形成したコーティングに対し、上記水孔とボルト孔の間の位置であって、かつ、上記ビードの隣接外方位置からシリンダヘッドガスケットの外方縁まで到達するように、当該コーティングを剥離させた剥離部を形成したことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
上記剥離部は、上記ビードの隣接外方位置となる円弧部と、上記水孔とボルト孔との間に位置し、上記円弧部からシリンダヘッドガスケットの外方縁まで伸びる排出部とからなることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
上方側に位置する第1ガスケット基板と、下方側に位置する第2ガスケット基板と、上記第1ガスケット基板と第2ガスケット基板の間に設けられた中間板とを備えて、上記両ガスケット基板と中間板を積層して構成されており、
上記第1ガスケット基板及び第2ガスケット基板の燃焼室孔、水孔及びボルト孔に対応するように上記中間板の所定位置に穿設された複数の燃焼室孔、水孔及びボルト孔を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項4】
上記剥離部は、上記円弧部と排出部とによって略T字形に形成されており、
上記中間板には、上記剥離部と重合する位置に該剥離部の形状に合わせた略T字形の切り欠き部が形成されており、該切り欠き部は、上記ビードの隣接外方位置となる円弧部と、上記水孔とボルト孔との間に位置して、上記円弧部からシリンダヘッドガスケットの外方縁まで伸びる直線状の排出部とから構成されていること特徴とする請求項3に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項5】
上記第1ガスケット基板及び上記第2ガスケット基板の少なくとも一方の上記円弧部の位置に貫通孔が形成されており、該貫通孔は上記中間板の切り欠き部と連通していることを特徴とする請求項4に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項6】
さらに、上記第1ガスケット基板及び第2ガスケット基板の少なくとも一方には、上記剥離部の輪郭に沿ってビードが形成されており、該ビードによって断面V字状となる排出用の溝が形成されることを特徴とする請求項4に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項7】
上記第1ガスケット基板及び第2ガスケット基板の表裏両面にコーティングが形成されており、第1ガスケット基板及び第2ガスケット基板の表裏両面に上記剥離部を形成したことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項8】
上記剥離部及び中間板の切り欠き部は、上記排出部が二股に分かれて全体として略K字形となっており、直線状となった2箇所の排出部は、水孔とボルト孔の間に位置することを特徴とする請求項7に記載のシリンダヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダヘッドガスケットに関し、より詳しくは、燃焼ガスが水孔に浸入するのを抑制可能なシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のガスケット基板を積層して構成されて、ガスケット基板の所要位置に複数の燃焼室孔、水孔及びボルト孔が形成されるとともに、各ガスケット基板の表裏両面にゴムコーティングが施されたシリンダヘッドガスケットは知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、
図8(a)、
図8(b)は上記従来のシリンダヘッドガスケット1の要部とその断面を簡略化して示したものである。この従来のシリンダヘッドガスケット1は、複数のガスケット基板5,6とそれらの間に配置した中間板7を積層して構成されており、所要位置に複数の燃焼室孔1A(5A~7A)が形成されるとともに、燃焼室孔5A、6Aを囲繞してガスケット基板5,6にはフルビード5B、6Bが形成されている。また、所要位置に複数のボルト孔8と水孔9が形成されており、個別の水孔9を囲繞して両ガスケット基板5,6には、ハーフビード5C、6Cが形成されている。さらに、両ガスケット基板5,6の表裏両面には、ゴムコーティング12,13が施されている。
この従来のシリンダガスケット1においては、水孔9よりも外方側の位置においてボルト孔8に取り付けたボルトによってシリンダブロックとシリンダヘッドとの間でシリンダヘッドガスケット1が強く締め付けられる。そのため、燃焼室孔1A(5A、6A)を囲繞するフルビード5B、6Bを越えて、その外方へ燃焼ガスGが漏れた場合には、その燃焼ガスGは上下のガスケット基板5,6の間及びそれらの相手材の間からシリンダヘッドガスケット1の外方へ逃げにくくなっている。そのために、フルビード5B、6Bを越えて、そこから外方へ漏れた燃焼ガスGが水孔9に浸入してエンジンがオーバーヒートを起こす恐れがあった。
また、図面は省略するが、
図8(a)のような個別の水孔をハーフビード5C(6C)で囲繞するのではなく、複数の水孔を全て外方側から無端状に囲繞するハーフビードを設けた構成の従来のシリンダヘッドガスケットにおいては、前述したように燃焼ガスGがフルビード5B(6B)を越えて、その外方へ漏れた場合には、水孔9に燃焼ガスGが浸入しやすいためにオーバーヒートが生じやすいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、本発明は、表面または裏面の少なくともいずれか一方にコーティングが施された少なくとも1枚のガスケット基板と、該ガスケット基板の所定位置に穿設された複数の燃焼室孔、水孔及びボルト孔を備え、さらに、上記ガスケット基板には、上記各燃焼室孔を囲繞してビードが形成されたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記ガスケット基板に形成したコーティングに対し、上記水孔とボルト孔の間の位置であって、かつ、上記ビードの隣接外方位置からシリンダヘッドガスケットの外方縁まで到達するように、当該コーティングを剥離させた剥離部を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
このような構成によれば、上記剥離部を形成しているので、該剥離部とその相手材との間にわずかな隙間が維持されることになり、ビードを越えてその外方まで燃焼ガスが漏れた場合には、該隙間からシリンダヘッドの外方へ排出される。したがって、燃焼ガスが水孔に浸入するのを抑制して、燃焼ガスが水孔に浸入することによるオーバーヒートを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図7】
図6のVII―VII線に沿う簡略な断面図。
【
図8】
図8(a)は従来のシリンダヘッドガスケットの要部を簡略化した平面図、
図8(b)は
図8(a)のb―b線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、
図1ないし
図3において1はシリンダヘッドガスケットであり、このシリンダヘッドガスケット1は、シリンダヘッド2とシリンダブロック3との間に挟持されて、それらの間のシールを維持するようになっている。
シリンダヘッドガスケット1は、上方側に位置してシリンダヘッド2の接合面2Aに当接する第1ガスケット基板5と、下方側に位置してシリンダブロック3の接合面3Aに当接する第2ガスケット基板6と、これら両ガスケット基板5、6の間に配置された中間板7とを備えており、それらを積層して構成されている。シリンダヘッドガスケット1を構成する上記両ガスケット基板5、6と中間板7は、積層状態において所要箇所を一体に連結されている。
第1ガスケット基板5、第2ガスケット基板6及び中間板7は、長方形の同一形状に形成されており、一体となったそれらにはシリンダブロック3側の複数のシリンダボアの位置に合わせて複数の燃焼室孔1A(5A~7A)が穿設されている。これら4箇所の燃焼室孔1A(5A~7A)の内径は、シリンダボアの内径と略同一に設定されている。
また、両ガスケット基板5,6及び中間板7の所要位置には、締結ボルトを挿通するための8箇所のボルト孔8と、冷却水を流通させるための16箇所の水孔9が穿設されるとともに、締結ボルトを挿入する際のメインとなる10箇所のボルト孔10が穿設されている。
燃焼室孔1Aは、シリンダヘッドガスケット1の長手方向にわたって等間隔で順次隣接させて形成されており、4箇所の燃焼室孔1Aの中心を結ぶ仮想の直線に対して各燃焼室1Aの中心と直交する仮想の直線L上であって、各燃焼室1Aを挟んだ両側の位置にボルト孔8が形成されている。
また、上記各仮想の直線Lを挟んで、かつボルト孔8よりも内方側(燃焼室1A側)となる位置に各一対の水孔9が形成されている。
短手方向の一側(
図1の上方側)のボルト孔8は、シリンダヘッドガスケット1の長手方向の一直線上に位置しており、短手方向の他側(
図1の下方側)のボルト孔8も長手方向の一直線上に位置している。これと同様に、短手方向の一側及び他側の水孔9は、長手方向の一直線上に位置にしている。
また、メインとなるボルト孔10は、各燃焼室孔1Aを囲繞するように各燃焼室孔1Aの円周方向に沿った4箇所の位置に形成されており、全体としてメインとなる10個のボルト孔10が形成されている。
水孔9は、シリンダヘッドガスケット1(両ガスケット基板5,6と中間板7)の外方縁1Bよりも外方へ膨出させた張り出し部1Cに形成されている。各一対の水孔9は、ボルト孔8よりも内方側(燃焼室孔1A側)に位置している。なお、上記張り出し部1Cはあえて設けなくても良い。
【0009】
上記両ガスケット基板5、6は、同じ厚さ(例えば0.2mm程度)のSUS301やSUS304から製造されており、中間板7は厚さ0.08mm程度のSUS301やSUS304から製造されている。両ガスケット基板5,6及び中間板7は、それぞれシリンダヘッド2及びシリンダブロック3の接合面2A、3Aと一致する形状となっており、全域にわたって同じ板厚となっている。
両ガスケット基板5,6には、各燃焼室孔1A(5A、6A)を無端状に囲繞するフルビード5B,6Bが形成されている。これに対して、中間板7は全域が平坦に形成されている。
第1ガスケット基板5のフルビード5Bはシリンダブロック3に向けて下方へ膨出させてあり、他方、第2ガスケット基板6のフルビード6Bはシリンダヘッド2に向けて上方に膨出させて形成されている。つまり、中間板7を挟んで上下のフルビード5B、6Bが対称位置となり、かつ
図1の平面図で見たときにそれらは重合する位置に形成されている。
完成後のシリンダヘッドガスケット1がシリンダブロック3とシリンダヘッド2との間に挟持された際には、第1ガスケット基板5のフルビード5Bが中間板7の表面に密着し、第2ガスケット基板6のフルビード6Bは中間板7の裏面に密着するようになっている。
【0010】
両ガスケット基板5、6における水孔9の位置には、各水孔9を無端状に囲繞するハーフビード5C、6Cが形成されており、メインとなる各ボルト孔10の位置には、各々を無端状に囲繞するハーフビード5D、6Dが形成されている。
第1ガスケット基板5のハーフビード5C、5Dは、その内方縁が外方縁よりも中間板7A側へ退没した断面形状となっており、他方、第2ガスケット基板6のハーフビード6C、6Dは、その内方縁が外方縁よりも中間板7A側へ立ち上がった断面形状となっている。なお、上記フルビード5B(6B)及びハーフビード5C(6C)、5D(6D)の構成は従来公知である。
また、中間板7の裏面には、その燃焼室孔7Aを囲繞して、環状のシム板11が溶接されている。シム板11の厚さは、中間板7の厚さと同じかそれよりも薄くなっている。
さらに、上記両ガスケット基板5,6の表面(上面)及び裏面(下面)は、フッ素、ニトリル系等のゴムからなるゴムコーティング12、13によって被覆されている。ゴムコーティング12,13の厚さは、0.007~0.030mm程度になっている。
このように、両ガスケット基板5,6の表裏両面はゴムコーティング12,13で被覆されているので、両ガスケット基板5、6とそれらの上下位置となる相手材との密着性とシール性を向上させることが可能となっている。
【0011】
このように、両ガスケット基板5,6の表裏両面をゴムコーティング12,13で被覆しているが、本実施例においては、表裏両面の全域をゴムコーティング12,13で被覆するのではなく、水孔9とその隣のボルト孔8の間となる箇所については、あえてゴムコーティング12、13を剥離させた剥離部12A、13Aとしている。
すなわち、剥離部12A、13Aは、両ガスケット基板5,6の表面及び裏面における平面視で重合する箇所に同一形状、同一寸法で形成されており、略K字形となっている。
剥離部12A、13Aは、一対の水孔9、9の間でフルビード5B、6Bの隣接外方位置で、かつ、その円周方向に沿った円弧部12Aa(13Aa)と、その円弧部12Aa(13Aa)の一端側と他端側の箇所から水孔9とボルト孔8の間を通って外方縁1Bまで到達する直線状の2つの排出部12Ab(13Ab)とで形成されている。2本の排出部12Ab(13Ab)は、ボルト孔8と水孔9との間で、かつ、燃焼室孔1Aの略放射方向に形成されている。
このように、円弧部12Aa(13Aa)は、フルビード5B(6B)の隣接外方側に位置しており、直線状の2箇所の排出部12Ab(13Ab)の内方側(燃焼室側)の端部は円弧部12Aa(13Aa)と連通しており、排出部12Ab(13Ab)の外方側の端部は、外方縁1B(つまりシリンダヘッドガスケット1の外部)に開放された状態となっている。なお、2本の排出部12Ab(13Ab)の一方を省略して、後述する
図4、
図6で示す第2、第3実施例のように剥離部12A、13Aを全体として略T字形に形成しても良い。
図3の断面図に示すように、完成後のシリンダヘッドガスケット1が、シリンダブロック3とシリンダヘッド2との間に介在されて、メインのボルト孔10及びサブのボルト孔8のボルトで締め付けられた状態では、水孔9とボルト孔8の間の箇所には、剥離部12A、13Aとそれらの上下位置の相手材との間に僅かな隙間15が維持されるようになっている。
本実施例では、このように剥離部12A,13Aによって相手材との間に隙間15が維持されるので、燃焼ガスGがフルビード5B(6B))を越えて、その外方へ漏れた場合には、その燃焼ガスGを水孔9に浸入させることなく隙間15を介して外部へ排出させることができる。つまり、剥離部12A、13Aは、漏れてきた燃焼ガスGを誘導して外部へ排出するための排出通路として機能するようになっている。
前述したように、
図8(a)、
図8(b)に示す従来のシリンダヘッドガスケット1においては、水孔9とボルト孔8との間を含めたガスケット基板5,6の表裏両面の全域をゴムシート12,13で被覆していたものであり、このような従来技術においては燃焼ガスGが水孔9に浸入しやすいという問題点が指摘されていたものである。
【0012】
以上のように、本実施例のシリンダヘッドガスケット1は、あえてコーティング12,13を剥離させた剥離部12A、13Aを備えている。
このシリンダヘッドガスケット1には、燃焼室孔1A(5A、7A、6A)を囲繞してフルビード5B(6B)が形成されていることで、燃焼ガスGのシール漏れ対策は施されているわけであるが、例えば馬力が大きなレース用エンジンにシリンダヘッドガスケット1が装着された場合には、燃焼室孔1Aを囲繞したフルビード5B(6B)だけでは完全にシールを維持できないことがある。その場合には、燃焼ガスGがフルビード5B(6B)を越えて外方に漏れて水孔9に浸入する恐れがある。
この場合、本実施例のシリンダガスケット1は、ゴムコーティング12、13に対して剥離部12A、13Aが形成されているので、剥離部12A,13Aと相手材との間の僅かな隙間15が維持される。それにより、フルビード5B、6Bを越えてその外方まで漏れた燃焼ガスGは、上記隙間15内を流通してシリンダヘッドガスケット1の外方縁1Bから外部へ排出される。そのため、フルビード5B、6Bから外方へ漏れた燃焼ガスGが水孔9に浸入するのを抑制して、水孔9に燃焼ガスGが浸入することによるオーバーヒートの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
次に、
図4ないし
図5は本発明の第2実施例を示したものである。上記第1の実施例においては、両ガスケット基板5、6の表裏両面に剥離部12A、13Aを設けていたが、この第2実施例においては、第1ガスケット基板5の裏面のみに剥離部12Aを形成する一方、第2ガスケット基板6の表面のみに剥離部13Aを形成し、さらに、中間板7には外方縁1Bまで到達する略T字状の切り欠き部7Eが形成されている。
即ち、この第2実施例においては、第1ガスケット基板5の裏面に形成された剥離部12Aは略T字形になっており、第2ガスケット基板6の裏面に形成された剥離部13Aも略T字形になっている。そして、中間板7には、両ガスケット基板5,6の剥離部12A、13Aの形状に合わせて略T字形の切り欠き部7Eが形成されている。剥離部12A、13A及び中間板7の切り欠き部7Eは平面視で重合する位置に同一寸法で同一形状となるように形成されている。
第1ガスケット基板5の剥離部12Aは、フルビード5B、6Bの隣接外方側に位置して、その円周方向に沿って両水孔9の間に位置する円弧部12Aaと、その円弧部12Aaの略中央から水孔9とボルト孔8の間を通って外方縁1Bへ到達する直線状の排出部12Abからなる。第2ガスケット基板6の剥離部13Aも、上記剥離部12Aと同様に円弧部13Aaと直線状の排出部13Abとで構成されている。
中間板7の切り欠き部7Eは、フルビード5B、6Bの隣接外方側に位置して、それらの円周方向に沿って両水孔9の間に位置する円弧部7Eaと、円弧部7Eaの略中央から一方の水孔9とボルト孔8の間を通って、外方縁1Bへ到達する直線状の排出部7Ebとで構成されている。つまり、中間板7の切り欠き部7Eによって、上下位置の両ガスケット基板5,6の間に略T字状の隙間15が形成されている。
第1ガスケット基板5とゴムコーティング12には、裏面の剥離部12Aの円弧部12Aaの両端、中央と対応する位置に貫通孔5Fが形成されている。この3箇所の貫通孔5Fは上記中間板7の切り欠き部7Eと連通している。
また、第2ガスケット基板6とゴムコーティング13には、上面の剥離部13Aの円弧部13Aaの両端、中央と対応する位置に貫通孔6Fが形成されている。この3箇所の貫通孔6Fは上記中間板7の切り欠き部7Eと連通している。
つまり、この第2実施例においては、中間板7の切り欠き部7Eとその上下で重合した状態の剥離部12A、13Aによって、平面視で略T字形の隙間15が形成される構成となっている。その他の構成は、上記第1の実施例と同じであり、それと対応する部材には原則として同じ部材番号を付している。
この第2実施例のシリンダヘッドガスケット1においては、燃焼ガスGがフルビード5B、6Bを越えて、その外方に漏れた場合には、上記切り欠き部7E及び剥離部12A、13Aによる隙間15を介して、シリンダヘッドガスケット1の外方縁1Bから外部へ排出される。また、第1ガスケット基板5とシリンダヘッドとの間からフルビード5Bを越えて、外方に漏れた燃焼ガスGは、貫通孔5Fを通ってから切り欠き部7E、剥離部12Aの隙間15を介して外部へ排出される。また、第2ガスケット基板6とシリンダブロックとの間からフルビード6Bを越えて、外方に漏れた燃焼ガスGは、貫通孔6Fを通ってから切り欠き部7E、剥離部13Aの隙間15を介して外部へ排出される。
したがって、フルビード5B、6Bを越えて、その外方側に漏れた燃焼ガスGが水孔9に浸入するのを抑制することができる。したがって、この第2実施例の構成であっても上記第1の実施例と同様の作用、効果を得ることができる。
【0014】
次に、
図6ないし
図7は本発明の第3実施例を示したものである。この第3実施例においては、中間板7の切り欠き部7Eは上記第2実施例と同じ構成となっているが、両ガスケット基板5,6の構成が異なっている。
すなわち、第1ガスケット基板5の表面(上面)には、中間板7の切り欠き部7Eと重合する位置に、平面視で略T字形となる剥離部12Aが形成されるとともに、この剥離部12Aの略T字形の輪郭全域に沿って第1ガスケット基板5にハーフビード5Gが形成されている。これにより、第1ガスケット基板5の上面には、各部の縦断面がV字形となるT字溝16が形成されている。なお、ハーフビード5Gの代わりフルビードを形成しても良い。
また、第2ガスケット基板6の裏面(下面)には、中間板7の切り欠き部7Eと重合する位置に、平面視で略T字形となる剥離部13Aが形成されるとともに、この剥離部13Aの略T字形の輪郭全域に沿って第2ガスケット基板6の裏面にハーフビード6Gが形成されている。これにより、第2ガスケット基板6の下面には、縦断面が逆V字形となるT字溝17が形成されている。
この第3実施例においては、第1ガスケット基板5の裏面にはゴムコーティング12の剥離部は形成されておらず、第2ガスケット基板6の上面にはゴムコーティングの剥離部は形成されていない。また、第2実施例で示した貫通孔5F、6Fも形成されていない。その他の構成は、上記第1の実施例と同じであり、それと対応する部材には原則として同じ部材番号を付している。
この第3実施例のシリンダヘッドガスケット1においては、燃焼ガスGがフルビード5B、6Bを越えて、その外方に漏れた場合には、上記切り欠き部7Eによる隙間15を介して、シリンダヘッドガスケット1の外方縁1Bから外部へ排出される。また、第1ガスケット基板5とシリンダヘッドとの間からフルビード5Bを越えて、外方に漏れた燃焼ガスGは、上記T字溝16(剥離部12A)を通過して外部へ排出される。また、第2ガスケット基板6とシリンダブロックとの間からフルビード6Bを越えて、外方に漏れた燃焼ガスGは、上記T字溝17(剥離部13A)を通って外部へ排出される。したがって、フルビード5B、6Bを越えて、その外方側に漏れた燃焼ガスGが水孔9に浸入するのを抑制することができる。このような第3実施例の構成であっても、上記第1の実施例と同様の作用、効果を得ることができる。
【0015】
なお、上記実施例におけるゴムコーティング12、13の代わりにエラストマーの材料などのコーティング材を用いても良い。
また、
図1~
図3に示した第1の実施例においては、中間板7Aに切欠き部を設けない構成となっているが、
図4の第2実施例に倣って、上記
図1~
図3の第1の実施例において、中間板7における剥離部12A、13Aと重合する位置に略K字形の切り欠き部を形成しても良い。
また、上記各実施例においては、複数のガスケット基板5,6を積層して構成されるシリンダヘッドガスケット1を前提に説明しているが、単一のガスケット基板だけのシリンダヘッドガスケットにおいて、該ガスケット基板の表裏両面のゴムコーティングにおける少なくとも一方に上記剥離部(12A、13A)を設ける構成であってもよい。
【符号の説明】
【0016】
1…シリンダヘッドガスケット 1A…燃焼室孔
1B…外方縁 2…シリンダヘッド
3…シリンダブロック 5…第1ガスケット基板
6…第2ガスケット基板 5A、6A…燃焼室孔
8…ボルト孔 9…水孔
12、13…ゴムコーティング 12A、13A…剥離部