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特開2022-156004燃料電池単セル、燃料電池スタック、および燃料電池単セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156004
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】燃料電池単セル、燃料電池スタック、および燃料電池単セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221006BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221006BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221006BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M4/88 T
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059489
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞絵
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB11
5H018HH02
5H018HH03
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応単セルの性能を向上させる。
【解決手段】
電気化学反応単セルは、空気極と燃料極との対向方向である第1の方向に電解質層と空気極と燃料極とが重なっている発電部と、発電部に含まれない非発電部とを有する。非発電部は、燃料極の一部である燃料極非発電部を含む。燃料極非発電部は、燃料電池単セルを構成する燃料極以外の部材から露出する露出表面を有し、燃料極非発電部に、露出表面に開口する入り口の長さが当該入り口の幅の5倍以上である溝が形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、
前記電解質層の第1の方向の一方側に配置された空気極と、
前記電解質層の前記第1の方向の他方側に配置された燃料極であって、改質触媒を備える燃料極と、を備え、
前記第1の方向に前記電解質層と前記空気極と前記燃料極とが重なっている発電部と、前記発電部に含まれない非発電部であって、前記燃料極の一部である燃料極非発電部を含む非発電部と、を有する、燃料電池単セルにおいて、
前記燃料極非発電部は、前記燃料電池単セルを構成する前記燃料極以外の部材から露出する露出表面を有し、
前記燃料極非発電部に、前記露出表面に開口する入り口の長さが当該入り口の幅の5倍以上である溝が形成されている、
ことを特徴とする燃料電池単セル。
【請求項2】
前記第1の方向に並べて配置された複数の発電単位から構成される発電ブロックを有し、かつ、各前記発電単位は請求項1に記載の燃料電池単セルを備える燃料電池スタックであって、
前記溝の入り口が形成された前記燃料極非発電部の露出表面は、燃料ガスが流れる燃料室に面している、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池スタックであって、
前記溝の入り口は、前記燃料極非発電部の露出表面のうち、前記燃料室を流れる燃料ガスの流れに対向する部分である対向面に形成されている、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池スタックであって、
前記燃料室を流れる燃料ガスの流れの方向視において、
前記溝の面積は、前記対向面の全面積に対して1/10以下である、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載の燃料電池スタックであって、
前記燃料極のうち、前記発電部に含まれる部分を燃料極発電部としたときに、
前記溝は、前記燃料極発電部の少なくとも一部に対して、前記燃料室を流れる燃料ガスの流れの上流側に位置している、
ことを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料電池単セルの製造方法であって、
前記燃料極を形成する材料であって、前記第1の方向に直交する第2の方向の寸法が前記燃料極よりも大きい材料を準備する第1工程と、
レーザーを用いて前記材料を切断することにより、前記溝の入り口が形成される前記燃料極非発電部の露出表面と、前記溝と、を形成する第2工程と、を備える、
ことを特徴とする燃料電池単セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、燃料電池単セル、燃料電池スタック、および燃料電池単セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層の所定の方向(以下、「第1の方向」という。)の一方側に配置された空気極と、電解質層の第1の方向の他方側に配置された燃料極と、を備える。
【0003】
従来、上述した燃料極の内部に改質触媒を備える単セルの構成が知られている(例えば、特許文献1)。この単セルにおいては、例えば、炭化水素(例えばCH)を用いて水素リッチな燃料ガスとするために、または別途の改質器により炭化水素を改質して得られる燃料ガスをさらに改質するために、燃料極周辺に導入される燃料ガスを、燃料極の内部に備えられた改質触媒(例えばNi)により改質する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-36413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した改質触媒による改質反応は吸熱反応である。上述した単セルでは、燃料極のうち、第1の方向に電解質層と空気極とに重なっている部分(以下、「燃料極発電部」という。)内で上記改質反応が生じることにより燃料極発電部内の温度が低くなり、これにより単セルの発電性能が低下するおそれがある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される燃料電池単セルは、電解質層と、前記電解質層の第1の方向の一方側に配置された空気極と、前記電解質層の前記第1の方向の他方側に配置された燃料極であって、改質触媒を備える燃料極と、を備え、前記第1の方向に前記電解質層と前記空気極と前記燃料極とが重なっている発電部と、前記発電部に含まれない非発電部であって、前記燃料極の一部である燃料極非発電部を含む非発電部と、を有する、燃料電池単セルにおいて、前記燃料極非発電部は、前記燃料電池単セルを構成する前記燃料極以外の部材から露出する露出表面を有し、前記燃料極非発電部に、前記露出表面に開口する入り口の長さが当該入り口の幅の5倍以上である溝が形成されている。
【0009】
本燃料電池単セルでは、上記溝が形成されているため、燃料極非発電部の露出表面を通る燃料ガスは当該溝に入り込むことにより燃料極非発電部内に滞留し易くなり、燃料極非発電部内で改質されやすくなる。そのため、本燃料電池単セルにおいては、燃料極発電部内に至る燃料ガスの改質率(全体の燃料ガスの流量に対する、既に改質された燃料ガスの流量の割合)を向上させることができ、これにより燃料極発電部の温度の低下を抑制することができる。よって、本燃料電池単セルによれば、上記溝が形成されていない従来の構成と比較して、燃料極発電部内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部の温度の低下を抑制することができ、ひいては、燃料電池単セルの発電性能を向上させることができる。
【0010】
本燃料電池スタックは、Z軸方向に並べて配置された複数の発電単位から構成される発電ブロックを有する。各発電単位は上述した燃料電池単セルを備える。溝の入り口が形成された燃料極非発電部の露出表面は、燃料ガスが流れる燃料室に面している。このような構成である本燃料電池スタックによれば、上述したように、上記溝が形成されていることにより、燃料極発電部内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部内の温度の低下を抑制することができ、ひいては、燃料電池単セルの発電性能(ひいては、燃料電池スタックの発電性能)を向上させることができる。
【0011】
(2)本明細書に開示される燃料電池スタックは、前記第1の方向に並べて配置された複数の発電単位から構成される発電ブロックを有し、かつ、各前記発電単位は上記燃料電池単セルを備え、前記溝の入り口が形成された前記燃料極非発電部の露出表面は、燃料ガスが流れる燃料室に面している構成としてもよい。本燃料電池スタックによれば、上述したように、上記溝が形成されていることにより、燃料極発電部内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部内の温度の低下を抑制することができ、ひいては、燃料電池単セルの発電性能(ひいては、燃料電池スタックの発電性能)を向上させることができる。
【0012】
(3)上記燃料電池スタックにおいて、前記溝の入り口は、前記燃料極非発電部の露出表面のうち、前記燃料室を流れる燃料ガスの流れに対向する部分である対向面に形成されている構成としてもよい。本燃料電池スタックによれば、より効果的に、燃料ガスが燃料極非発電部内により滞留し易くなり、ひいては、より効果的に、燃料電池単セルの発電性能(ひいては、燃料電池スタックの発電性能)を向上させることができる。
【0013】
(4)上記燃料電池スタックにおいて、前記燃料室を流れる燃料ガスの流れの方向視において、前記溝の面積は、前記対向面の全面積に対して1/10以下である構成としてもよい。本燃料電池スタックによれば、上記溝が形成されていることにより、上述したように燃料極発電部内に至る燃料ガスの改質率を向上させることができる。更に、燃料室を流れる燃料ガスの流れの方向視において、溝の面積は、上記対向面の全面積に対して1/10以下と十分に小さいことにより、溝の面積が上記対向面の全面積に対して1/10より大きい構成と比較して、燃料極の強度を向上させることができる。
【0014】
(5)上記燃料電池スタックにおいて、前記燃料極のうち、前記発電部に含まれる部分を燃料極発電部としたときに、前記溝は、前記燃料極発電部の少なくとも一部に対して、前記燃料室を流れる燃料ガスの流れの上流側に位置している構成としてもよい。本燃料電池スタックによれば、より効果的に、燃料ガスが燃料極非発電部内により滞留し易くなり、ひいては、より効果的に、燃料電池単セルの発電性能(ひいては、燃料電池スタックの発電性能)を向上させることができる。
【0015】
(6)上記燃料電池単セルの製造方法において、前記燃料極を形成する材料であって、前記第1の方向に直交する第2の方向の寸法が前記燃料極よりも大きい材料を準備する第1工程と、レーザーを用いて前記材料を切断することにより、前記溝の入り口が形成される前記燃料極非発電部の露出表面と、前記溝と、を形成する第2工程と、を備える構成としてもよい。本製造方法によれば、上述したように燃料ガスを滞留させる上記溝を容易に形成することができるため、当該溝が形成された燃料極を備える燃料電池単セルを容易に製造することができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池単セル、燃料電池スタック、燃料電池単セルの製造方法、燃料電池スタックの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
図6】単セル110(特に燃料極非発電部118)の構成を概略的に示す斜視図である。
図7】燃料極非発電部118の一部のYZ断面構成を示す説明図
図8】本実施形態における単セル110の製造方法を示すフローチャート
図9】変形例における燃料極非発電部118の一部のYZ断面構成を示す説明図
図10】変形例における燃料電池スタック100AのYZ断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0019】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体(以下、「発電ブロック103」という。)を上下から挟むように配置されている。なお、上下方向(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0020】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0021】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0022】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0023】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。燃料電池スタック100の外部から導入される燃料ガスFGとしては、例えば、炭化水素(例えばCH)を外部の改質器などにより改質して得られるガスが使用され得る。
【0024】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0025】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0026】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0027】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0028】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0029】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上方(上下方向の一方)側に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112の下方(上下方向の他方)側に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備えている。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116によって単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。単セル110は、Z軸方向に電解質層112と空気極114と燃料極116とが重なっている発電部PGと、発電部PGに含まれない非発電部NPGとを有している。発電部PGは発電反応が主に生じる部分であり、発電に対する寄与が比較的大きいのに対し、非発電部NPGは発電反応が比較的生じにくく、発電に対する寄与が比較的小さい。本実施形態では、Z軸方向視において、発電部PGは単セル110の中央に位置し、非発電部NPGは発電部PGの周囲を囲むように位置している。
【0030】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、ABOで表されるペロブスカイト型酸化物(例えば、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(以下、「LSCF」という。))を含むように構成されている。
【0031】
燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。燃料極116は、その内部において、上述したNiまたは他の材料よりなる改質触媒RT(図示せず)を備えている。改質触媒RTは、炭化水素(例えばCH)などのガスを用いて水素リッチな燃料ガスとするための触媒として機能する。燃料電池スタック100の外部から導入される燃料ガスFGは、未改質のガス(例えば炭化水素)を含んでいる場合がある。換言すれば、燃料ガスFGの全体の流量に対する、既に改質された燃料ガスFGの流量の割合(以下、「改質率」という。)が100%でない場合がある。改質率が100%でない燃料ガスFGは、燃料極116内に流れると、改質触媒RTを利用した改質反応により更に改質される。なお、この改質反応は吸熱反応である。このように、燃料極116内に備えられた改質触媒RTによって、燃料ガスFGの改質率が向上する。
【0032】
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように構成されている。中間層180は、空気極114から拡散したSr(ストロンチウム)が電解質層112に含まれるZr(ジルコニウム)と反応して高抵抗な物質であるSrZrOが生成されることを抑制する。
【0033】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0034】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0035】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0036】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0037】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。
【0038】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0039】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。このとき、燃料室176に供給される燃料ガスFGは、燃料室176内に備えられた改質触媒RTを利用した改質反応により、更に改質される。このように改質された燃料ガスFGにより上記発電反応が行われるため、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)が向上する。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0040】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0041】
A-3.単セル110の詳細構成:
以下において、燃料極116のうち、発電部PG(単セル110のうち、Z軸方向に電解質層112と空気極114と燃料極116とが重なっている部分)に含まれる部分を「燃料極発電部117」といい、非発電部NPG(単セル110のうち、発電部PGに含まれない部分)に含まれる部分を「燃料極非発電部118」という。なお、上述したように燃料極116は改質触媒RT(図示せず)を備えるが、より詳細には、燃料極発電部117と燃料極非発電部118とのいずれもが改質触媒RTを備えている。
【0042】
図6は、単セル110(特に燃料極非発電部118)の構成を概略的に示す斜視図である。図6の下部には、燃料極非発電部118のうち、単セル110を構成する燃料極116以外の部材(電解質層112など)から露出する表面(以下、「露出表面」という。)SSの様子が拡大して示されている。図7は、燃料極非発電部118の一部のYZ断面構成を示す説明図である。図6および図7に示すように、燃料極非発電部118の露出表面SSには、複数の溝Gが形成されている。
【0043】
各溝Gを画定する燃料極非発電部118の表面の少なくとも一部は改質触媒RTにより構成されている。
【0044】
各溝Gの露出表面SSに開口する入り口G1は、燃料極非発電部118の露出表面SSのうち、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れ(以下、単に「燃料ガスFGの流れ」という。)に対向する部分(以下、「対向面」という。)FSに形成されている。
【0045】
燃料極非発電部118のうち、溝Gの入り口G1が形成されている表面である上記対向面FSは、燃料ガスFGが流れる燃料室176に面している。
【0046】
図6に示すように、各溝Gの入り口G1の長さLG1は、当該入り口G1の幅GG1の5倍以上(例えば約6倍)である。ここでいう入り口G1の幅GG1は、当該入り口G1における最大幅である。例えば、各溝Gの入り口G1の幅GG1は約0.1~1.0μmであり、入り口G1の長さLG1は約0.5~5.0μmである。なお、本実施形態では、各溝Gの入り口G1の長さLG1の方向(延伸方向)は様々である。
【0047】
Y軸方向視(換言すれば、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れの方向視)において、各溝Gの面積は、燃料極非発電部118の上記対向面FSの全面積に対して1/10以下(例えば1/100)である。なお、本実施形態では、Y軸方向視において、燃料極非発電部118の上記対向面FSの略全体にわたって複数の溝Gが分散するように配置されている。
【0048】
各溝Gは、燃料極発電部117(燃料極116のうち、発電部PGに含まれる部分)に対して、燃料ガスFGの流れの上流側(本実施形態ではY軸負方向側)に位置している。
【0049】
図7に示すように、本実施形態では、各溝Gの幅(GG)は入り口G1から底まで略同一である。各溝Gの深さ(本実施形態ではY軸方向の深さ)GDは、例えば約0.5~5.0μmである。燃料極非発電部118のYZ断面(換言すれば、溝Gの深さ方向に沿った断面)において、各溝Gは入り口G1以外が閉じている袋小路状である。なお、厳密には溝Gと連通する極めて微小な(例えば幅が0.01μm以下)孔が存在する場合があるが、このような場合も上記の「閉じている」に該当するものと解釈してもよい。
【0050】
なお、図6の下図に示すように、単セル110は、電解質層112と燃料極116とを接合する溶接部200を備えている。溶接部200は、Z軸方向視において電解質層112と燃料極116との周方向に沿って互いに離間しつつ並ぶように複数配置されている。溶接部200は、溶融溶接法により、電解質層112の形成材料(例えばYSZ)と燃料極116の形成材料(例えばNi)とが溶融して凝固したものである。
【0051】
A-4.単セル110の製造方法:
図8は、本実施形態における単セル110の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の単セル110の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0052】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ約10μmの電解質層用グリーンシートを得る(S11)。また、NiOの粉末をNi重量に換算して55質量部となるように秤量し、YSZの粉末45質量部と混合して混合粉末を得る。この混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ270μmの燃料極用グリーンシートを得る(S12)。次に、Z軸方向視で燃料極用グリーンシートの少なくとも一方側(溝Gが形成される部分周辺)が電解質層用グリーンシートの外側に位置するように電解質層用グリーンシートと燃料極用グリーンシートとを貼り付けて、乾燥させる。その後、例えば1400℃にて焼成を行う(S13)。このように燃料極用グリーンシートが焼成されることにより形成される材料を「切断前燃料極」という。ここで準備する切断前燃料極は、Z軸方向に直交する方向(本実施形態ではX軸方向およびY軸方向)の寸法が電解質層112よりも大きいものとする。なお、切断前燃料極は、特許請求の範囲における「燃料極を形成する材料」の一例であり、切断前燃料極を準備する工程は、特許請求の範囲における第1工程の一例である。
【0053】
次に、レーザーを用いて切断前燃料極の上記一方側(溝Gが形成される部分周辺)を切断する(S14)。具体的には、例えばCOレーザー(炭酸ガスレーザー),YAGレーザー,ファイバーレーザー等のレーザーを、切断前燃料極の上面(Z軸方向の電解質層112側の表面)に対してZ軸方向に照射する。これにより、切断前燃料極が切断されると共に、その切断面(燃料極非発電部118の露出表面SS(本実施形態では上記対向面FS)に相当)に、上述した溝Gが形成される。なお、レーザーの出力の大きさにより、溝Gの形状を制御することができる。具体的には、レーザーの出力を大きくすることにより、溝Gの入り口G1の長さLG1や幅GG1や深さGDが長くなりやすい。以上により、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。このように燃料極用グリーンシートを切断する工程は、特許請求の範囲における第2工程の一例である。
【0054】
(中間層180の形成)
GDC粉末にYSZ粉末を添加し、高純度ジルコニア玉石にて60時間、分散混合を行う。混合後の粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して中間層用ペーストを調製する。得られた中間層用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112の表面にスクリーン印刷によって塗布し、例えば1200℃で焼成を行う(S15)。これにより、中間層180が形成され、中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0055】
(空気極114の形成)
粉砕したLSCF粉末と、GDC粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、分散剤と、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極用ペーストを調製する。次に、得られた空気極用ペーストを、上述した中間層180と電解質層112と燃料極116との積層体における中間層180の表面にスクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。その後、所定の温度(例えば、1000℃)で所定時間(例えば、3時間)、焼成を行う。焼成により、空気極114が形成される(S15)。以上の工程により、上述した構成の単セル110が製造される。
【0056】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する単セル110は、電解質層112と、電解質層112のZ軸正方向(Z軸方向の一方)側に配置された空気極114と、電解質層112のZ軸負方向(Z軸方向の他方)側に配置された燃料極116とを備える。燃料極116は、改質触媒RTを備える。単セル110は、Z軸方向に電解質層112と空気極114と燃料極116とが重なっている発電部PGと、発電部PGに含まれない非発電部NPGとを有する。非発電部NPGは、燃料極116の一部である燃料極非発電部118を含む。燃料極非発電部118は、単セル110を構成する燃料極116以外の部材(電解質層112など)から露出する露出表面SSを有する。燃料極非発電部118に、露出表面SSに開口する入り口G1の長さLG1が当該入り口G1の幅GG1の5倍以上である溝Gが形成されている。
【0057】
本実施形態の単セル110では、当該溝Gが形成されているため、燃料極非発電部118の露出表面SSを通る燃料ガスFGは当該溝Gに入り込むことにより燃料極非発電部118内に滞留し易くなり、燃料極非発電部118内で改質されやすくなる。そのため、本実施形態の単セル110においては、燃料極発電部117内に至る燃料ガスFGの改質率(全体の燃料ガスFGの流量に対する、既に改質された燃料ガスFGの流量の割合)を向上させることができ、これにより燃料極発電部117の温度の低下を抑制することができる。よって、本実施形態の単セル110によれば、上記溝Gが形成されていない従来の構成と比較して、燃料極発電部117内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部117の温度の低下を抑制することができ、ひいては、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0058】
本実施形態の燃料電池スタック100は、Z軸方向に並べて配置された複数の発電単位102から構成される発電ブロック103を有する。各発電単位102は上述した単セル110を備える。溝Gの入り口G1が形成された燃料極非発電部118の露出表面SS(より詳細には上記対向面FS)は、燃料ガスFGが流れる燃料室176に面している。このような構成である本実施形態の燃料電池スタック100によれば、上述したように、上記溝Gが形成されていることにより、燃料極発電部117内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部117内の温度の低下を抑制することができ、ひいては、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態の燃料電池スタック100では、溝Gの入り口G1は、燃料極非発電部118の露出表面SSのうち、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れに対向する部分である対向面FSに形成されている。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、より効果的に、燃料ガスFGが燃料極非発電部118内により滞留し易くなり、ひいては、より効果的に、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態の燃料電池スタック100では、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れの方向視(本実施形態ではX軸方向視)において、溝Gの面積は、燃料極非発電部118の上記対向面FSの全面積に対して1/10以下である。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、上記溝Gが形成されていることにより、上述したように燃料極発電部117内に至る燃料ガスFGの改質率を向上させることができる。更に、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れの方向視において、溝Gの面積は、燃料極非発電部118の上記対向面FSの全面積に対して1/10以下と十分に小さいことにより、溝Gの面積が燃料極非発電部118の上記対向面FSの全面積に対して1/10より大きい構成と比較して、燃料極116の強度を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態の燃料電池スタック100では、溝Gは、燃料極発電部117(燃料極116のうち、発電部PGに含まれる部分)の少なくとも一部に対して、燃料室176を流れる燃料ガスFGの流れの上流側に位置している。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、より効果的に、燃料ガスFGが燃料極非発電部118内により滞留し易くなり、ひいては、より効果的に、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態の単セル110の製造方法は、下記の第1工程と第2工程とを備える。第1工程は、燃料極116を形成する材料であって、Z軸方向に直交する方向(本実施形態ではX軸方向)の寸法が燃料極116よりも大きい材料を準備する工程である。第2工程は、レーザーを用いて材料を切断することにより、溝Gの入り口G1が形成される燃料極非発電部118の露出表面SS(より詳細には上記対向面FS)と、溝Gとを形成する工程である。本製造方法によれば、上述したように燃料ガスFGを滞留させる上記溝Gを容易に形成することができるため、当該溝Gが形成された燃料極116を備える単セル110を容易に製造することができる。
【0063】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0064】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
【0065】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0066】
また、溝Gの形状は、入り口G1の長さLG1が当該入り口G1の幅GG1の5倍以上であるという条件を満たす限り、どのような形状であってもよい。図9は、変形例における燃料極非発電部118の一部のYZ断面構成を示す説明図である。例えば、上記実施形態では、各溝Gの幅(GG)は入り口G1から底まで略同一であるが、図9に示すように、各溝Gの幅(GG)が入り口G1から底に向かうにつれて狭くなるものであってもよい。
【0067】
また、溝Gが形成される場所は、入り口G1が燃料極非発電部118の露出表面SSに開口するという条件を満たす限り、燃料極非発電部118のどこであってもよい。例えば、上記実施形態において、溝Gが燃料極非発電部118の下面に形成されていてもよい。また、上記実施形態において、溝Gが燃料極非発電部118における燃料ガスFGの流れ方向に沿った側面に形成されていてもよい。
【0068】
また、上記実施形態において、溝Gは、燃料極発電部117(燃料極116のうち、発電部PGに含まれる部分)の全体ではなく一部のみに対して、燃料ガスFGの流れの上流側に位置している構成であってもよい。この構成においても、溝Gが燃料極発電部117の当該一部に対して燃料ガスFGの流れの上流側に位置していることにより、より効果的に、燃料ガスFGが燃料極非発電部118内により滞留し易くなり、ひいては、より効果的に、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0069】
また、上記実施形態では、改質触媒RTを備える燃料極116は、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成され、発電反応が進行する反応場として機能する部材であり、このような燃料極116に上記溝Gが形成されている構成である。このような構成に換えて、改質触媒RTを備える燃料極が上記反応場として機能しない部材であり、このような燃料極に上記溝Gが形成されている構成を採用してもよい。
【0070】
上記実施形態では、いわゆる平板型の単セル110を対象としているが、本明細書に開示される技術を他のタイプの単セルに適用してもよい。図10は、変形例における燃料電池スタック100AのYZ断面構成を示す説明図である。例えば、図10に示すように、いわゆる円筒型の単セル110Aに適用してもよい。円筒型の単セルの基本的構成については、例えば特開2018-129246号公報などにより開示されており、公知であるため、説明は省略する。図10の単セル110Aは、電解質層112Aと、空気極114Aと、燃料極116Aとを備える。燃料極116Aは、改質触媒RTA(図示せず)を備える。単セル110Aは、発電部PGAと、発電部PGに含まれない非発電部NPGAとを有する。非発電部NPGAは、燃料極116Aの一部である燃料極非発電部118Aを含む。燃料極非発電部118Aは、単セル110Aを構成する燃料極116A以外の部材(電解質層112Aなど)から露出する露出表面SSAを有する。燃料極非発電部118Aに、露出表面SSに開口する入り口G1Aの長さLG1A(図示せず)が当該入り口G1Aの幅GG1Aの5倍以上である溝GAが形成されている。図10の単セル110Aにおいても、上記溝GAが形成されていない従来の構成と比較して、燃料極発電部117A内において改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部117Aの温度の低下を抑制することができ、ひいては、単セル110Aの発電性能(ひいては、燃料電池スタック100Aの発電性能)を向上させることができる。
【0071】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルおよび電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様の溝Gが形成された構成を採用すれば、燃料極発電部117内において上記改質反応(吸熱反応)が生じることに起因する燃料極発電部117内の温度の低下を抑制することができ、ひいては、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)を向上させることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
22(22A~22E): ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 100A:燃料電池スタック 102:発電単位 103:発電ブロック 104,106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 110A:単セル 112:電解質層 112A:電解質層 114:空気極 114A:空気極 116:燃料極 116A:燃料極 117:燃料極発電部 117A:燃料極発電部 118:燃料極非発電部 118A:燃料極非発電部 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層 200:溶接部 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス FS:対向面 G1:入り口 G1A:入り口 G:溝 GA:溝 GD:溝の深さ GG1:溝の幅 GG1A:溝の幅 LG1:溝の長さ LG1A:溝の長さ NPG:非発電部 NPGA:非発電部 OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス PG:発電部 PGA:発電部 RT:改質触媒 RTA:改質触媒 SS:露出表面 SSA:露出表面
図1
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図10