(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156023
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】吹付システム
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20221006BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20221006BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20221006BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20221006BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20221006BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20221006BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E21D11/10 D
C04B28/02
C04B20/00 A
C04B20/00 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B24/24
E04G21/02 103B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059514
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
4G112
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155DB00
2D155KA03
2D155KC06
2E172DC02
2E172DC08
2E172DC11
4G112MB00
4G112MB23
4G112MC00
4G112PA02
4G112PA15
4G112PA24
4G112PB05
4G112PB11
4G112PB26
4G112PC06
4G112PE04
(57)【要約】
【課題】吹き付け時にノズルの詰まりやダレが生じず、鋼材に対しても十分な付着強度を確保できるポリマーセメントモルタルの吹付システムを提供すること。
【解決手段】ポリマーセメントモルタルを供給するモルタル供給装置と、圧縮空気を供給する空気供給装置とを備える吹付システムであって、ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、セメント用ポリマー及び水を含むポリマーセメントモルタルであり、細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対し、120~470質量部であり、細骨材の粒度は、前記細骨材全量に対し、粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合が30質量%以上であり、モルタル供給装置から供給されるポリマーセメントモルタルの吐出量が、0.5~2.8L/分であり、空気供給装置から供給される圧縮空気の空気圧が0.15~0.7MPaである、吹付システム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーセメントモルタルを供給するモルタル供給装置と、圧縮空気を供給する空気供給装置とを備える吹付システムであって、
前記ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、セメント用ポリマー及び水を含むポリマーセメントモルタルであり、
前記細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対し、120~470質量部であり、
前記細骨材の粒度は、前記細骨材全量に対し、粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合が30質量%以上であり、
前記モルタル供給装置から供給されるポリマーセメントモルタルの吐出量が、0.5~2.8L/分であり、
前記空気供給装置から供給される圧縮空気の空気圧が0.15~0.7MPaである、吹付システム。
【請求項2】
前記セメント用ポリマーの含有量が、前記セメント100質量部に対し、5~37質量部である、請求項1に記載の吹付システム。
【請求項3】
前記ポリマーセメントモルタルが、カルシウムアルミネート及び石膏類からなる速硬性混和材を更に含む、請求項1又は2に記載の吹付システム。
【請求項4】
前記ポリマーセメントモルタルが繊維類を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の吹付システム。
【請求項5】
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対し、25~50質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の吹付システム。
【請求項6】
対鋼材用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の吹付システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等では従来のコンクリート床版に代わり、鋼板とコンクリートとが一体となっている合成床版が利用されることがある。一方で合成床版は、鋼板とコンクリートとは付着性が悪いことがあり、鋼板とコンクリートとの間にずれが生じるおそれがある。そのため、合成床版ではずれ止め等を設置して鋼板とコンクリートの一体化させている。
【0003】
しかしながら、鋼板とコンクリートとのずれを抑制できたとしても、コンクリートの劣化によって微細なひび割れが発生した場合、内部に水分や塩分が浸透して鋼板面に滞水が生じ、結果として鋼板が腐食すおそれがある。そこで、鋼板とコンクリートとの一体性を向上させつつ、更に錆や水による腐食から鋼板を守ることを目的としたポリマーセメントモルタルが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モルタルの施工現場では薄層でのモルタル吹き付けが可能であり、且つ、作業員の機動性を重視した方法として、モルタルガンを用いた吹付施工が行われている。しかしながら、この方法では時間当たりの吹付面積が小規模となり、大規模な施工には不向きだった。
【0006】
効率を上げる方法としてモルタルポンプの活用が挙げられる。しかしながら、モルタルポンプを用いる場合、付着性を向上させるためにポリマー濃度を高くしているモルタルではノズル部でツマリやダレが生じやすい。一方、ある一定以上のポリマー濃度を有するモルタルでなければ鋼材との付着性の確保は困難である。また、ポンプを用いたモルタルの吹き付けでは、吹き付ける際の条件も材料によって異なるため、吹き付ける材料と吹付条件の両方の調整が求められる。
【0007】
したがって、本発明は、吹き付け時にノズルの詰まりやダレが生じず、鋼材に対しても十分な付着強度を確保できるポリマーセメントモルタルの吹付システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ポリマーセメントモルタルの細骨材の粒度と含有量を調整し、吹き付け時のモルタル吐出量と圧縮空気量を調整することで、吹付性状に優れた吹付システムとなることを見出した。
【0009】
すなわち、本願発明は以下のとおりである。
[1]ポリマーセメントモルタルを供給するモルタル供給装置と、圧縮空気を供給する空気供給装置とを備える吹付システムであって、ポリマーセメントモルタルが、セメント、細骨材、セメント用ポリマー及び水を含むポリマーセメントモルタルであり、細骨材の含有量が、セメント100質量部に対し、120~470質量部であり、細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合が30質量%以上であり、モルタル供給装置から供給されるポリマーセメントモルタルの吐出量が、0.5~2.8L/分であり、空気供給装置から供給される圧縮空気の空気圧が0.15~0.7MPaである、吹付システム。
[2]セメント用ポリマーの含有量が、セメント100質量部に対し、5~37質量部である、[1]に記載の吹付システム。
[3]ポリマーセメントモルタルが、カルシウムアルミネート及び石膏類からなる速硬性混和材を更に含む、[1]又は[2]に記載の吹付システム。
[4]ポリマーセメントモルタルが繊維類を更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の吹付システム。
[5]水の含有量が、セメント100質量部に対し、25~50質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載の吹付システム。
[6]対鋼材用である、[1]~[5]のいずれかに記載の吹付システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吹き付け時にノズルの詰まりやダレが生じず、鋼材に対しても十分な付着強度を確保できるポリマーセメントモルタルの吹付システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の吹付システムは、ポリマーセメントモルタルを供給するモルタル供給装置と、圧縮空気を供給する空気供給装置とを備える。
【0013】
[吹付システム]
モルタル供給装置としては、ポリマーセメントモルタルを供給する装置であればよく、例えば、スクイズポンプ、ピストンポンプが挙げられる。モルタル供給装置からポリマーセメントモルタルが圧送ホースに送られる。
【0014】
モルタル供給装置から供給されるポリマーセメントモルタルの吐出量は、0.5~2.8L/分である。吐出量が上記範囲外であると、モルタルの跳ね返りやノズルの詰まり等の吹付特性が低下する。吐出量は、吹付特性がより一層向上するという観点から、0.8~2.5L/分であることが好ましく、1.0~2.0L/分であることがより好ましく、1.2~1.8L/分であることが更に好ましい。吐出量は、モルタル供給装置の吐出圧を調整することにより制御することができる。
【0015】
圧送ホースは耐圧ホースであれば特に限定されない。圧送ホースの長さは施工箇所までの距離に応じて適宜調整することができる。圧送ホースの長さは、モルタルの跳ね返り等を更に少なくするという観点から、0.5~20mであることが好ましく、1~15mであることがより好ましく、2~10mであることが更に好ましい。圧送ホースの内径は、10~55mmであることが好ましく、15~40mmであることがより好ましく、18~32mmであることが更に好ましい。圧送ホースは複数本を連結してもよい。
【0016】
圧送ホースにおいて、ポリマーセメントモルタルの吐出方向側の先端には吹付ノズルを備える。吹付ノズルの長さは、10~50cmであることが好ましく、15~40cmであることがより好ましく、20~30cmであることが更に好ましい。吹付ノズルの内径は、5~30mmであることが好ましく、6~20mmであることがより好ましく、6~10mmであることが更に好ましい。吹付ノズルの長さや内径が上記範囲内であれば、モルタルのノズルへの詰まりをより一層減らすことができる。
【0017】
空気供給装置は、モルタル供給装置と吹付ノズルの間に設置されたY字管等の接続部材に接続され、ポリマーセメントモルタルとは異なる経路から圧縮空気を供給する。接続部材の設置位置は、複数連結する圧送ホースの間に設置してもよく、圧送ホースと吹付ノズルの連結部に設置してもよい。接続部材の設置位置は、圧縮空気をより効率よく利用でき、モルタルのダレやノズルの詰まりを更に抑制できるという観点から、圧送ホースと吹付ノズルの連結部に設置することが好ましい。空気供給装置は圧縮空気を送付できるものであればよく、例えば、エアーコンプレッサーが挙げられる。
【0018】
空気供給装置から供給される圧縮空気の空気圧は、0.15~0.7MPaである。空気圧が上記範囲外であると、吹付ノズルの内部にモルタルの付着が生じるおそれや、吹き付けたモルタルが跳ね返えるおそれがある。より一層優れた吹付特性を備えるという観点から、空気圧は、0.18~0.6MPaであることが好ましく、0.2~0.5MPaであることがより好ましい。
【0019】
本実施形態の吹付システムは、対鋼材用の吹付システムとして好適に利用することができる。本明細書において「対鋼材用」とは、後述する付着試験に基づき付着強度が3N/mm2以上であることをいう。鋼材とは、土木、建設等の工業用材料として使用される鉄鋼を指し、普通鋼、種々の元素が添加された特殊鋼、ステンレス鋼、これらが化学的若しくは物理的に表面処理された鋼材等が挙げられる。
【0020】
[ポリマーセメントモルタル]
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは、セメント、細骨材、セメント用ポリマー及び水を含む。
【0021】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント等が挙げられる。セメントとしては、初期の強度発現性が更に増加するという観点から、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0022】
細骨材は、粒度が後述する要件を満たすものであれば種類は特に限定されず、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。これらの細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0023】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、120~470質量部である。細骨材の含有量が上記範囲外であると、良好な施工性と鋼板に対する高い付着性とを両立することが難しくなる。より良好な施工性及び鋼板に対する高い付着性が得られやすいという観点から、細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、150~400質量部であることが好ましく、180~350質量部であることがより好ましく、200~300質量部であることが更に好ましい。
【0024】
細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合が30質量%以上である。粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合が上記範囲外であると、モルタルの跳ね返りやノズルの詰まり等の吹付特性が低下する。吹付特性がより一層向上するという観点から、粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合は、細骨材全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子の質量割合の上限は、細骨材全量に対し、100質量%であってもよく、97質量%以下であってもよい。
【0025】
細骨材の最大粒径は3mm未満であることが好ましく、2.7mm未満であることがより好ましく2.5mm未満であることが更に好ましい。細骨材の最大粒径が上記範囲内であれば、吹付特性及び付着強度がより一層向上する。
【0026】
本明細書において、細骨材の粒度は、細骨材全量をふるい分けし、2.5mmふるいを通過する細骨材を粒径が2.5mm未満である粒子とし、0.6mmふるいを通過し、0.09mmふるい残留分を粒径が0.09mm以上0.6mm未満である粒子とする。
【0027】
セメント用ポリマーは、JIS A 6203:2015「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」に規定されるポリマーが好ましい。このようなセメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂等が挙げられる。ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴム系;天然ゴム系;ゴムアスファルト系;エチレン酢酸ビニル系;アクリル酸エステル系;樹脂アスファルト系等が挙げられる。ポリマーディスパージョンは、中でも、合成ゴム系、エチレン酢酸ビニル系及びアクリル酸エステル系が好ましく、具体的には、合成ゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニルがより好ましい。再乳化形粉末樹脂としては、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム系;アクリル酸エステル系;エチレン酢酸ビニル系;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル等が挙げられる。セメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョンを用いてもよく、再乳化形粉末樹脂を用いてもよく、ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂を併用してもよい。
【0028】
セメント用ポリマーの中でも、コンクリート及び鋼材との付着性がより向上するという観点から、スチレンブタジエンゴムのポリマーディスパージョン及び/又は再乳化粉末樹脂が好ましい。スチレンブタジエンゴムは、スチレン及びブタジエンを共重合した合成ゴムの一種であり、スチレン含有量や加硫量により品質を適宜調整することができる。セメント混和用としては、安定性や付着性を向上させるという観点から、結合スチレン量が50~70質量%のものが多く使用されている。セメント用ポリマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0029】
セメント用ポリマーの含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で5~37質量部であることが好ましく、10~34質量部であることがより好ましく、15~33質量部であることが更に好ましい。セメント用ポリマーの含有量が上記範囲内であれば、より良好な施工性及びコンクリートや鋼板に対するより高い付着性が得られやすい。
【0030】
水は特に限定されるものではない。水の含有量は、セメント100質量部に対し、25~50質量部であることが好ましく、28~45質量部であることがより好ましく、30~42質量部であることが最も好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0031】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる速硬性混和材を含んでもよい。初期の強度発現性を確保しやすいという観点から、速硬性混和材の含有量は、セメント100質量部に対し、10~65質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがより好ましく、20~55質量部であること更に好ましい。
【0032】
速硬性混和材におけるカルシウムアルミネート類と石膏類との質量比率([カルシウムアルミネート類の質量]:[石膏類の質量])は3:7~7:3であることが好ましく、4:6~6:4であることがより好ましい。速硬性混和材におけるカルシウムアルミネート類と石膏類との質量比率が上記範囲内であれば、吹付特性が向上しやすく、且つ早期により付着強度を確保しやすい。
【0033】
カルシウムアルミネート類としては、CaOをC、Al2O3をA、Na2OをN、及びFe2O3をFとして表したとき、C3A、C2A、C12A7、CA、又はCA2等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、C4AF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC3A3・CaF2やC11A7・CaF2等と表示されるカルシウムフルオロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、C8NA3やC3N2A5等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、並びにC3A3・CaSO4等と表示されるカルシウムサルホアルミネートを総称するものである。このカルシウムアルミネート類は、結晶質のもの、非結晶質のもの、非晶質及び結晶質が混在したもののいずれも使用可能である。カルシウムアルミネート類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましく、5000cm2/g以上であることがより好ましい。また、カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で8000cm2/g以下であることが好ましい。
【0034】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏等が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。石膏類の粉末度は、長期の強度発現をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で4500cm2/g以上であることが好ましく、5000cm2/g以上であることがより好ましい。また、石膏類の粉末度は、ブレーン比表面積で15000cm2/g以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは、軽量骨材を含んでもよい。軽量骨材は特に限定されるものではなく、例えば、黒曜石、真珠岩等を焼成発泡させた無機系発泡性骨材であるパーライト、火力発電所で発生するフライアッシュバルーン、発泡ガラス粒(ガラスバルーン)等が挙げられる。軽量骨材は、通常用いられる粒径5mm未満のもの(5mmふるい通過分)を使用することが好ましい。軽量骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。軽量骨材は、例えば、かさ比重(kg/L)が0.1~0.8のものが好ましく、0.15~0.6のものがより好ましい。軽量骨材のかさ比重が上記範囲内であれば、軽量化の効果が得られやすく、モルタルとした際の流動性が低下しにくく、吹き付けた際のダレを抑制できる。
【0036】
軽量骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、1~25質量部であることが好ましく、1.5~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが更に好ましい。軽量骨材の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした際により良好な施工性が得られやすい。
【0037】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは、減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、ナフタレンスルホン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0038】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.5~7.5質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましく、1.5~3質量部であることが最も好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした際により良好な施工性が得られやすく、圧縮強度も向上しやすい。
【0039】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは、凝結遅延剤を含んでもよい。凝結遅延剤を含むことで、夏場等ポリマーセメントモルタルの練り上り温度が高くなる場合においても、可使時間を確保しやすい。凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸又はその塩;ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩;糖類が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩、アルカリ金属炭酸塩が好ましい。凝結遅延剤は、粉体であってもよく、液状体(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)であってもよい。凝結遅延剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0040】
凝結遅延剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.1~7.5質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3.5質量部であることが最も好ましい。凝結遅延剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を更に確保しやすく、初期強度発現性が低下しにくい。
【0041】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルは繊維類を含んでもよい。繊維類としては、例えば、セルロース繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の有機繊維;鋼繊維;ガラス繊維等の無機繊維が挙げられる。繊維類は、分散性がより良好であるという観点から、有機繊維であることが好ましく、セルロース繊維、ビニロン繊維がより好ましい。繊維類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0042】
繊維類の長さは、0.1~10mmであることが好ましく、0.1~5mmであることがより好ましく、0.1~0.8mmであることが更に好ましい。繊維類の長さが上記範囲内であれば、ポリマーセメントモルタルにおける分散性が更に向上する。
【0043】
繊維類の含有量は、セメント100質量部に対し、0.01~5質量部であることが好ましく、0.03~3質量部であることがより好ましく、0.05~2.5質量部であることが更に好ましい。繊維類の含有量が質量基準で上記範囲内であれば、吹付特性がより一層向上し、硬化時に良好な靭性が得られやすい。
【0044】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルには、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては,例えば、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、膨張材、促進剤が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係るポリマーセメントモルタルの調製は、通常のポリマーセメントモルタルと同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ホバートミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、強制2軸ミキサーを用いることができる。
【0046】
本実施形態の吹付システムによれば、吹き付け時にノズルの詰まりやダレ、モルタルの跳ね返り等が生じにくく、鋼材に対しても十分な付着性を有するポリマーセメントモルタルを吹き付けることができる。そのため、このような吹付システムは、コンクリート構造体、道路等の補修・補強、鋼板等を利用した鋼コンクリート複合構造体の補修・補強をする際に、広範囲且つ均一な施工を迅速に行うことができる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
[材料]
・セメント:早強ポルトランドセメント
・速硬性混和材:カルシウムアルミネート(ブレーン比表面積5500cm2/g)及び無水石膏(ブレーン比表面積6000cm2/g)の質量比率が6:4の混和物
・細骨材:珪砂(最大粒径2.5mm以下)
・軽量骨材:パーライト(かさ比重0.23kg/L)
・セメント用ポリマー:SBR系エマルジョン
・減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤
・繊維:セルロース繊維(繊維長0.5mm)
・凝結遅延剤:クエン酸
・水:上水道
【0049】
[ポリマーセメントモルタル組成物の配合設計]
セメント100質量部に対し、細骨材、セメント用ポリマー(固形分換算)を表1に示す割合とし、速硬性混和材を45質量部、軽量骨材を5質量部、減水剤を2質量部、凝結遅延剤を1質量部、繊維を1質量部として配合設計した。
【0050】
[ポリマーセメントモルタルの作製]
20℃環境下において、セメント用ポリマー(ポリマーディスパージョン)を10Lの円筒容器に添加し、表1で示す配合で設計したポリマーセメントモルタル組成物の各材料及び水を添加し、ハンドミキサーで60秒混練してポリマーセメントモルタルを約3L作製した。水の含有量は、セメント100質量部に対し、40質量部とした。
【0051】
【0052】
[ポリマーセメントモルタルの吹き付け]
練り混ぜたポリマーセメントモルタルをホッパー付きのスクイズポンプ(電源:100V、消費電力:0.4KW、圧送距離:5m、圧送ホース内径25mm)で表1に示すモルタル吐出量に調整し圧送した。吹付ノズル(ノズル長:30cm、ノズル径:8mm)と圧送ホースの連結部にY字管を設置し、コンプレッサーから表1に示す圧縮空気を送付して吹き付けた。
【0053】
[評価方法]
各項目について以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
・吹付性状
垂直に設置した木製パネル(縦900×横1800×高さ12mm)にポリマーセメントモルタルを吹き付け、吹付性状を評価した。ノズル部のツマリ等がなく、モルタルの跳ね返りが少なく吹き付けできたものを良好(○)、モルタル厚5mmまでダレを生じずに吹き付けができたものを更に良好(◎)と評価した。それ以外のものは不良(×)と評価した。
・付着強度
内のり寸法40mm×40mm×5mmのプラスチック型枠を設置したジンクリッチペイント塗布鋼板(縦300×横300×高さ6mm)を垂直に設置し、ポリマーセメントモルタルを厚さ5mmで吹き付け、20℃環境下で材齢7日まで気中養生した。その後、付着したポリマーセメントモルタルを簡易型引張試験機にて付着強度を測定した。付着強度が3.0N/mm2以上ものを良好と判断した。
【0054】