(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156079
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】軸受装置、スピンドル装置、および電動垂直離着陸機
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20221006BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20221006BHJP
B64C 27/04 20060101ALI20221006BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/36
B64C27/04
B64D27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059595
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 勇介
【テーマコード(参考)】
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J217JA02
3J217JA13
3J217JA16
3J217JA24
3J217JA39
3J217JA48
3J217JB47
3J217JB88
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA48
3J701FA60
3J701GA57
(57)【要約】
【課題】軸受の回転に伴う温度上昇、あるいは加速度を正確に測定することが可能な小型の軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受装置1は、外輪2と、内輪3と、複数の転動体4と、外環7と、磁気リング8と、熱伝導率が低く非金属の絶縁体から構成され、径方向に延びる隔壁11aを有する円筒状の断熱部11と、隔壁11aを挟んで軸受Bと反対側に固定されるステータ9と、を備える。磁気リング8は、ステータ9に対向するように配置され、ステータ9と磁気リング8とは発電機Gを構成する。軸受装置1は、隔壁11aよりも軸受B側の空間に固定された回路基板10をさらに備える。回路基板10は、発電機Gで生成される電力を整流処理して直流電源を作る電源回路16と、軸受Bの状態を検出する少なくとも1つのセンサ17と、少なくとも1つのセンサ17の出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路20と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受を備える軸受装置であって、
外輪と、
内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に配置される複数の転動体と、
前記外輪および前記内輪のうちのいずれか一方に固定される固定部材と、
前記外輪および前記内輪のうちのいずれか他方に、前記固定部材に対向するように固定される磁気リングと、
前記固定部材に固定されるとともに、熱伝導率が低く非金属の絶縁体から構成され、径方向に延びる隔壁を有する円筒状の断熱部と、
前記隔壁を挟んで前記軸受と反対側に固定されるステータと、を備え、
前記磁気リングは、前記ステータに対向するように配置され、
前記ステータと前記磁気リングとは発電機を構成し、
前記軸受装置は、前記隔壁よりも前記軸受側の空間に固定された回路基板をさらに備え、
前記回路基板は、
前記発電機で生成される電力を整流処理して直流電源を作る電源回路と、
前記軸受の状態を検出する少なくとも1つのセンサと、
前記少なくとも1つのセンサの出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路と、を含む、軸受装置。
【請求項2】
前記ステータに当接されるように配置され、熱伝導率が高い材料からなる放熱部と、
前記放熱部の外周面に配置され、熱伝導率の低い断熱部材からなる断熱層と、をさらに備え、
前記断熱層は、前記固定部材と当接する、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記外輪および前記内輪のうちのいずれか一方は、前記軸受装置の静止輪として機能し、
前記回路基板は、前記静止輪の端面に当接する前記固定部材の端面と前記断熱部の前記隔壁との間に形成される空間において、前記固定部材に固定される、請求項1または請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記ワイヤレス通信回路は、内部にアンテナ部を含み、
前記アンテナ部は、前記ステータと軸方向に重ならない位置に配置されるとともに、前記断熱部と対向する位置に配置される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記断熱部の外周の一部に形成された切欠き部と、前記ステータを構成する磁性体リング部材の周方向一部を除去してボビンが露出した除去部とが重なり、
前記切欠き部の領域内に前記回路基板が配置される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記固定部材は、外輪間座である、請求項1または請求項2に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記外輪および前記内輪のうちのいずれか一方は、前記軸受装置の静止輪として機能し、
前記回路基板は、前記静止輪に近接する前記外輪間座の一方端に形成された溝の内部に固定され、
前記回路基板を保護する保護部材と、前記保護部材と対向する前記複数の転動体とは、絶縁体で構成され、
前記軸受の前記静止輪の他方端に当接する蓋と、前記蓋と前記軸受により支持される主軸との間には、隙間が設けられている、請求項6に記載の軸受装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の軸受装置を備える、スピンドル装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の軸受装置と、
前記軸受装置により回転可能に支持された回転翼と、を備え、
前記回転翼の回転により飛行する、電動垂直離着陸機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受装置、スピンドル装置、および電動垂直離着陸機に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受に発電機を組み合わせて、センサ、無線通信などの電源として使用することが知られている。特開2006-170624号公報(特許文献1)に開示されているワイヤレスセンサ付き軸受は、転がり軸受と、発電機兼用の回転センサと、この回転センサの出力をワイヤレスで送信するワイヤレス送信回路とを含んで構成される。
【0003】
回転センサは、磁気エンコーダと、内部にコイルが収容された磁性体リングとで構成され、磁性体リングは発電機の回転センサのステータとして機能する。回転センサは、クローポール型の発電機と兼用される。
【0004】
コイルを収容している磁性体リングは、外方部材の内径面に嵌合され、磁気エンコーダと対向する。外方部材には車輪用軸受のインボード側の端部を覆うカバーが取り付けられ、カバーの外径面の鍔部から小径部にわたる段差部には、回転センサの出力をワイヤレスで送信する環状のワイヤレス送信手段が設置されている。
【0005】
特開2019-7580号公報(特許文献2)に開示されているワイヤレスセンサ付き軸受は、軸受本体と、センサと、発電部品と、無線処理回路と、電源回路と、カバーと、カバーに形成された冷却ファンとを含んで構成される。
【0006】
特許文献2のワイヤレスセンサ付き軸受では、軸受本体の内輪が回転すると、外輪および内輪の軌道溝から発生する熱と、発電に伴って発電部(コイル)から発生する熱と、使用環境の温度上昇等とにより、軸受の温度が上昇する。特許文献2のワイヤレスセンサ付き軸受では、熱の影響でカバーに装着した無線回路や電源回路等が故障しないように、カバーの外側に放熱フィンが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-170624号公報
【特許文献2】特開2019-7580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された磁性体リングは、車輪用軸受の外方部材(外輪)の内径面に直接嵌合されているため、発電時に発生する磁性体リングの鉄損等による発熱が直接外方部材に熱伝導し、車輪用軸受の温度が上昇する。特許文献1のワイヤレスセンサ付き軸受では、車輪用軸受の回転による温度上昇を監視するために外方部材に温度センサを配置した場合には、正確に外方部材の温度を測定することは困難である。特許文献1のワイヤレスセンサ付き軸受では、車輪用軸受の加速度を測定する場合、外方部材があるために車輪用軸受の近い位置に加速度センサを配置することは難しい。
【0009】
特許文献2に記載されたワイヤレスセンサ付き軸受は、外輪の外周に設けた溝に金属板のプレス成形により形成されたカバーが固定され、カバーの内側には、センサを実装した回路基板と第1発電部(ヨークと磁石とコイル)とが実装されている。このため、発電に伴って発生する熱は、回路基板に実装した温度センサおよび軸受に熱伝導してしまう。特許文献2に記載されたワイヤレスセンサ付き軸受は、外輪および内輪の軌道溝から発生する熱のみを温度センサで検出することは難しく、軸受の異常有無を適切に判定することが困難になる。
【0010】
特許文献2に記載されたワイヤレスセンサ付き軸受では、カバーの外面に長方形の凹部を形成し、凹部に送信アンテナが配置される構造のため、カバーの形状が複雑になるとともに、組立工数が煩雑になる。特許文献2に記載されたワイヤレスセンサ付き軸受では、カバーとは別に冷却フィンが形成されるため、部品点数が多くなる。
【0011】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、軸受の回転に伴う温度上昇を正確に測定することが可能な小型の軸受装置、スピンドル装置、および電動垂直離着陸機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、軸受を備える軸受装置に関する。軸受装置は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数の転動体と、外輪および内輪のうちのいずれか一方に固定される固定部材と、外輪および内輪のうちのいずれか他方に、固定部材に対向するように固定される磁気リングと、固定部材に固定されるとともに、熱伝導率が低く非金属の絶縁体から構成され、径方向に延びる隔壁を有する円筒状の断熱部と、隔壁を挟んで軸受と反対側に固定されるステータと、を備える。磁気リングは、ステータに対向するように配置される。ステータと磁気リングとは発電機を構成する。軸受装置は、隔壁よりも軸受側の空間に固定された回路基板をさらに備える。回路基板は、発電機で生成される電力を整流処理して直流電源を作る電源回路と、軸受の状態を検出する少なくとも1つのセンサと、少なくとも1つのセンサの出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、軸受の回転に伴う温度上昇を正確に測定することが可能な小型の軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】同じ形状の磁性体リング部材を2つ対向配置した状態を示す図である。
【
図4】2つの磁性体リング部材を嵌合した状態を示す図である。
【
図5】実施の形態1の変形例1の軸受装置の断面図である。
【
図6】
図5のVI-VI断面における断面図である。
【
図8】実施の形態1の変形例2の概略構成を示す断面図である。
【
図10】軸受装置が搭載される電動垂直離着陸機の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されている。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1の軸受装置の回転軸を含む平面における断面図である。
図1に示す軸受装置1として、ワイヤレスセンサ付き軸受を例示する。軸受装置1は、軸受Bと、外環7と、磁気リング8と、ステータ9と、回路基板10とを備える。軸受Bは、外輪2と、内輪3と、転動体4と、保持器5と、シール6とを含む。外環7は、外輪2の内径面に固定される。外環7の内径面には、断熱部11が固定される。
【0017】
断熱部11には、隔壁11aが設けられる。断熱部11には、軸受B側と反軸受側とに2つの空間が形成される。軸受B側の端面11bは、外環7の端面に当接する。磁気リング8は、内輪3の外径面に固定される。ステータ9は、断熱部11の隔壁11aの反軸受側の空間に、磁気リング8と対向するように固定される。ステータ9は、断熱部11を介して外環7に固定されている。なお、軸受装置1では、端面11bを設けずに、軸受B側に空間を設けてもよい。具体的に、軸受装置1では、隔壁11aと兼用した断面L字形状とした断熱部11を外環7に固定し、深さを調節することで軸受B側に空間を設ければよい。
【0018】
回路基板10は、軸受Bの外輪2の端面に隣接する外環7の端面に、ねじまたは接着剤等で固定される。回路基板10は、断熱部11の隔壁11aの軸受B側空間に配置される。ステータ9の外側端面には、蓋12が配置される。蓋12は、外環7の内径面に圧入または接着固定される。蓋12は、放熱部12aおよび断熱層12bを有する二層構造に構成される。放熱部12aは、ステータ9と当接する内径側に配置され、熱伝導率が高い金属材料(たとえばアルミニウム、銅、鉄材など)で形成される。断熱層12bは、外径側に配置され、熱伝導率が低い断熱材料(たとえば樹脂などの絶縁材料)で形成されている。なお、蓋12は、全体を樹脂などの絶縁部材(非導電性部材)で製作されてもよい。
【0019】
磁気リング8とステータ9とで発電機Gが構成される。発電機Gは、クローポール発電機である。軸受Bは、たとえば、転動体4を玉とした深溝玉軸受であり、ここでは内輪3を回転輪とし、外輪2を固定輪とした内輪回転タイプを一例として説明する。
【0020】
磁気リング8は、芯金8aと多極磁石8bとを含み、内輪(回転輪)3に固定される。多極磁石8bは、たとえば磁性粉とゴムとを混練した磁性材料を芯金8aに加硫接着してから、N極とS極とを周方向に交互に着磁したものである。
【0021】
ステータ9は、2つの同じ形状の磁性体リング部材13(13-1,13-2)と、ボビン14とコイル15とを含む。ボビン14には、コイル15の巻線が周方向に複数回巻かれている。ここではボビン14を使用する例を示すが、ボビン14を使用しない空芯コイルを使用してステータ9を構成してもよい。
【0022】
回路基板10には、発電機Gで生成される交流電力を整流して直流に変える電源回路16と、軸受Bの状態を監視するセンサ17と、センサ17の出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路20とが実装される。センサ17は、温度センサ18と、加速度センサ19とを含む。温度センサ18は、軸受Bに近い位置に配置できるよう、回路基板10の裏面に実装される。温度センサ18は、外環7の端面に設けた凹部7a(溝または孔)に挿入される。
【0023】
コイル15の巻き始めと巻き終わりの図示しない各端部は、蓋12の側面に設けた溝12cと断熱部11の外周に設けた溝11cとを経由して回路基板10に接続される。内輪3が回転することによって発電機Gから出力される交流電力は、電源回路16で直流に変換される。回路基板10の表面には、樹脂等の保護膜が塗布されてもよい。
【0024】
ワイヤレス通信回路20を実装した回路基板10は、断熱部11と対向して配置される。断熱部11として熱伝導率が低い樹脂などの絶縁体(非導電性材料)を使用し、蓋12の外周面に形成される断熱層12bに絶縁体材料を使用することで、外環7とステータ9との間には、円筒状の絶縁体が形成される。これにより、ワイヤレス通信回路20は、金属などの導電性材料で密閉されない構造となるので、アンテナ部20aを用いて無線通信が可能となる。なお、ワイヤレス通信回路20を別基板(図示なし)として形成し、蓋12とステータ9との間に配置してもよい。この場合、蓋12において、ワイヤレス通信回路20のアンテナ部20aと対向する部分の材料は、絶縁部材にするのが好ましい。
【0025】
発電機Gのステータ9は、断熱部11により外環7などの金属部材とは熱的に絶縁される。内輪3に固定された磁気リング8が回転して発電する際に発生するステータ9の鉄損等による発熱は、直接、軸受B側に熱伝導しない。このため、軸受Bの回転に伴う発熱のみを温度センサ18で検出することができる。
【0026】
軸受Bにおいて磁気リング8が固定される側には、シール6が配置されていない。しかしながら、磁気リング8とステータ9を覆う蓋12が設けられ、部品間隙間が狭くなっているため、ラビリンスシール(非接触シール)構造となり、異物等の侵入を防止することができる。
【0027】
蓋12は、熱伝導率が高い放熱部12aと、その外周に熱伝導率が低い断熱層12bとを有する2層構造に形成されている。蓋12には、ステータ9を冷却するための放熱部12aの体積および表面積を大きくするために、磁気リング8の芯金8aの内径側に回り込む折り返し部12dが設けられている。折り返し部12dにより、蓋12のシール性が向上する。
【0028】
ステータ9の端面は、放熱部12aと当接しているため、ステータ9によって生じた熱を放熱部12aで効率的に外部に放熱することができる。断熱層12bは、放熱部12aの温度が、外環7に直接伝わらないようにするので、ステータ9によって生じた熱が軸受Bに影響しないようにすることができる。放熱部12aの外側面に図示しない溝を形成して表面積を増やすことによって、放熱性をさらに向上させることができる。
【0029】
図2は、発電機Gの概略構成を示す図である。発電機Gは、クローポール型発電機である。磁気ロータは、リング状の多極磁石8bにより構成される。ステータ9は、コイル15とそれを取り囲む磁気ヨークにより構成される。磁気ヨークは、磁性体リング部材13(13-1,13-2)によって構成される。多極磁石8bのN極から出た磁束は、磁極である爪13bから磁気ヨークに入り、コイルの周りを回って隣接する爪13bより多極磁石8bのS極に入る。磁気ロータの回転角度によって多極磁石8bのN極とS極との位置が入れ替わると磁束の向きが逆になる。このようにして発生する交番磁界により、コイル15の両端に交流電圧が発生する。
【0030】
図3および
図4を用いて、ステータ9の構造を説明する。
図3は、同じ形状の磁性体リング部材13を2つ対向配置した状態を示す図である。実際には、2つの磁性体リング部材13-1,13-2で挟まれる空間にはコイル15を巻いたボビン14が収納されるが、説明を容易にするために、ここではコイル15を巻いたボビン14は省略されている。
図4は、2つの磁性体リング部材13を嵌合した状態を示す図である。
【0031】
磁性体リング部材13(13-1,13-2)の内周端には、軸に向けて開口する溝13aと爪13bとが交互に櫛歯状に形成される。磁性体リング部材13(13-1,13-2)の端面13fには、凹部13cと凸部13dが形成される。磁性体リング部材13では、同一形状の2つの磁性体リング部材13-1と磁性体リング部材13-2とを対向させ、爪13bが交互に配置するようにしたときに、一方の磁性体リング部材13-1の凹部13cに対して他方の磁性体リング部材13-2の凸部13dが配置されるように設計されることで凹部13cと凸部13dとが係合する。
【0032】
各磁性体リング部材13に設けられた爪13bが交互に配置されるように、各磁性体リング部材13の端面13fに設けた凹部13cと凸部13dとが嵌合される。このようにすれば、各磁性体リング部材13の爪13bと爪13bとの隙間が均一になるように配置することが容易になる。また、凹部13cと凸部13dとが周方向に複数配置されているため、磁性体リング部材13同士が周方向にずれることなく、位置を固定することができる。
【0033】
なお、磁気リング8のN極とS極との着磁極数および磁極ピッチは等しい。また、磁性体リング部材13の側面に設けた穴13eは、コイル15の端部を外部に引き出すために使用される。
【0034】
図1に示す軸受装置1は、軸受Bに近い位置に回路基板10が固定されている。このため、軸受装置1は、回路基板10に実装した加速度センサ19により、軸受Bが原因で発生する振動による加速度を、当該振動が減衰する前に測定することができる。そして、測定した加速度に基づく異常診断において、減衰の少ない信号を用いて診断ができるため、軸受Bの異常を正確に診断することが可能となる。
【0035】
軸受装置1は、ステータ9と外環7とが断熱部11により熱的に絶縁されている。このため、軸受装置1は、ステータ9で発生する熱の影響を受けず、回路基板10に実装した温度センサ18により、軸受Bの温度上昇を正確に監視することができる。軸受装置1には、ステータ9の外側端面と当接する部分に熱伝導率に優れ放熱性が良好な放熱部12aを有する蓋12が設けられているため、ステータ9で生じた熱を外部に効果的に放出することができる。軸受装置1の蓋12には、放熱部12aの外周に熱伝導率が低く断熱性に優れる絶縁体からなる断熱層12bが設けられているため、放熱部12aの温度が外環7に直接伝わらないようにし、ステータ9で生じた熱が軸受Bに影響しないようにすることができる。
【0036】
センサ出力をワイヤレスで通信する場合、ワイヤレス通信回路20を実装した回路基板10において、少なくともアンテナ部20aは、軸方向にステータ9と重ならない位置で断熱部11と対向させるのが好ましい。断熱部11、断熱層12bに樹脂などの絶縁体(非導電性材料)を用いることにより、外環7とステータ9との間にリング状の絶縁体の層が形成される。絶縁体の層として電波を通すものを用いることにより、ワイヤレス通信回路20は、金属などの導電性材料で密閉されない構造となり、無線通信が可能になる。
【0037】
たとえば、ワイヤレス通信回路20の通信規格としてBluetooth Low Energy(登録商標)(周波数2.4GHz、波長λ 約125mm)を用いた場合、λ/2以上の絶縁体の隙間があれば、軸受装置1の外部に電波を放射することができる。
【0038】
軸受装置1では、発電機Gとしてクローポール発電機を例として説明したが、これ以外の発電機を用いても構わない。
【0039】
軸受装置1において、ステータ9と対向する磁気リング8の表面を断熱コーティングすることによって、ステータ9からの放射熱による温度上昇を抑え、内輪3に熱が伝達されることを抑制してもよい。
【0040】
軸受装置1は、軸受Bの外輪2を回転部材に固定し、内輪3を静止部材に固定してもよい。軸受装置1は、軸受Bの外輪2の内径面に外環7を固定する代わりに、外輪2の端部を軸方向に伸ばして、外環7を省略した構成としてもよい。
【0041】
[実施の形態1の変形例1]
図5から
図7は、実施形態1の変形例1の軸受装置1Aを説明する図である。
図5は、実施の形態1の変形例1の軸受装置1Aの断面図である。
図6は、
図5のVI-VI断面における断面図である。なお、図を分かり易くするため、ボビン14は二点鎖線で表され、コイル15は省略されている。
図7は、ステータ9Aの形状を説明する斜視図である。
【0042】
図5に示す軸受装置1Aにおいては、センサ17を実装した回路基板10を軸受Bに近接して配置できるように、外環7の端面に回路基板10が固定される。固定方法としては、ねじ止めや接着剤等を採用できる。変形例1では、接着剤による固定を採用しているため、小スペースで固定することができる。
【0043】
断熱部11Aは、
図5に示すように、断面がL字形状である。断熱部11Aは、
図6に示すように、周上の一部には回路基板10との干渉を避けるため切欠き部11Adが形成されたC型形状でもある。切欠き部11Adは、
図6のCの範囲である。隔壁11Aaは、断熱部11Aの一部であり、外環7の端面に当接すように配置される。
図6に示すように、回路基板10は、軸方向から見たときに断熱部11Aの切欠き部11Adの領域内に配置される。
【0044】
図7に示すように、ステータ9Aは、回路基板10と干渉しないように、磁性体リング部材13A(13A-1,13A-2)の一部が削除されている。除去部9A1がある構造であり、ボビン14が露出した状態である。除去部9A1は、
図6のRの範囲である。
【0045】
図6に示すように、断熱部11Aの切欠き部11Adの範囲Cは、ステータ9Aの除去部9A1の範囲Rよりも小さい。この場合、磁性体リング部材13Aと回路基板10とが直接対向することがないため、磁性体リング部材13Aから回路基板10へ伝達される放射熱を抑制できる。除去部9A1では、ボビン14と回路基板10とが対向する。ボビン14の材料には、樹脂等の熱伝導率が比較的低い絶縁体を用いている。これにより、コイル15で発生した熱が、回路基板10に直接放射されることを抑制できる。
【0046】
ステータ9Aの外側端面には、蓋12が配置される。蓋12は、外環7の内径面に固定される。蓋12は、放熱部12aおよび断熱層12bを有する二層構造に形成される。放熱部12aにおいては、ステータ9Aの外側端面と当接する部分に配置され、優れた熱伝導率および良好な放熱性を有している。断熱層12bは、放熱部12aの外周に配置されており、熱伝導率が低く、優れた断熱性を有している。ステータ9Aの端面は、放熱部12aと当接しているため、ステータ9Aで生じた熱を放熱部12aによって効率的に外部に放熱することができる。断熱層12bによって、放熱部12aの温度は、外環7に直接伝わらない構成となっているので、ステータ9Aで生じた熱が軸受Bに影響しないようにすることができる。
【0047】
軸受装置1Aのような構造であれば、回路基板10に実装したワイヤレス通信回路20と対向する外側の近傍には導電性部材が配置されていないため、外部への電波の放射が可能であり、ワイヤレス通信を実行することが可能となる。実施形態1の変形例1の軸受装置1Aは、ステータ9Aを軸受Bにより近づけた配置ができるため、外環7の軸方向幅を短くすることができ、実施の形態1と同様の効果に加えて、軸受装置1Aの小型化を実現することができる。
【0048】
[実施の形態1の変形例2]
前述の軸受装置1、1Aは、単列の軸受を用いた構成であった。軸受装置1、1Aは、スピンドル装置などに用いられる複数列の軸受を用いた軸受装置に適用することも可能である。
図8および
図9は、スピンドル装置50の軸受装置90に本開示の構成を適用した実施形態1の変形例2を説明する図である。
図8は、実施の形態1の変形例2の概略構成を示す断面図である。
図9は、
図8の主要部Sの拡大図を示す図であり、主として軸受装置90が示される。
【0049】
図8に示すスピンドル装置50は、たとえば、工作機械のビルトインモータ方式のスピンドル装置として使用される。この場合、工作機械主軸用のスピンドル装置50で支持されている主軸51の一端側にはモータ52が組み込まれ、他端側には図示しないエンドミル等の切削工具が接続される。
【0050】
図8、
図9を参照して、スピンドル装置50は、軸受53(53a,53b)と、軸受53a,53bに隣接して配置される間座54と、モータ52と、軸受55とを備える。主軸51は、外筒56の内径部に埋設されたハウジング57に設けた複数の軸受53a,53bによって回転自在に支持される。軸受53aは、内輪53iaと、外輪53gaと、転動体Taと、保持器Rtaとを含む。軸受53bは、内輪53ibと、外輪53gbと、転動体Tbと、保持器Rtbとを含む。間座54は、内輪間座54iと、外輪間座54gとを含む。ワイヤレス通信については後述する。ワイヤレス通信を可能にするため、転動体Ta、Tbの材質は、絶縁体であるセラミックとし、保持器Rta、Rtbには樹脂を用いるのが好ましい。
【0051】
主軸51には、軸方向に離隔した軸受53aの内輪53iaおよび軸受53bの内輪53ibが締まり嵌め状態(圧入状態)で嵌合されている。内輪53iaと内輪53ibとの間には内輪間座54iが配置され、外輪53gaと内輪53gbとの間には外輪間座54gが配置される。
【0052】
軸受53a,53bは、後述するように軸方向の力で予圧を付与することが可能な軸受であり、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、またはテーパころ軸受等を用いることができる。
図8、
図9に示す軸受装置90には、アンギュラ玉軸受が用いられ、2個の軸受53a,53bが背面組み合わせ(DB組み合わせ)で設置されている。
【0053】
外輪間座54gは、軸方向に第1外輪間座54g1と第2外輪間座54g2とに2分割される。第1外輪間座54g1と第2外輪間座54g2との間には、発電機Gのステータ9が固定される。内輪間座54iの外周面には、磁気リング8が固定される。
図2と同様に、発電機Gは、ステータ9の爪13bと磁気リング8の多極磁石8bとが隙間を開けて対向するように配置される構成である。発電機Gは、クローポール発電機である。ここでは、外輪間座54gを2分割した構造を説明したが、分割しない構造であってもよい。
【0054】
磁気リング8は、芯金8aと多極磁石8bとを含む。多極磁石8bは、たとえば磁性粉とゴムを混錬した磁性材料を芯金8aに加硫接着してから、N極とS極を交互に着磁したものであり、内輪間座54iに固定される。ステータ9は、2つの同じ形状の磁性体リング部材13(13-1,13-2)と、ボビン14と、コイル15とを含む。ボビン14には、コイル15の巻線が周方向に複数回巻かれている。変形例2ではボビン14を使用する例を示すが、ボビン14を使用しない空芯コイルを使用してもよい。
【0055】
ステータ9と外輪間座54gとの間には、断熱部71(71a、71b)が設けられている。軸受装置90は、鉄損などによるステータ9で生じた熱が、外輪間座54gに直接熱伝導しない構造とされる。軸受装置90においては、ステータ9の一方の側面に接するように熱伝導率の良い円筒状の放熱部72が挿入されている。放熱部72によって、ステータ9で生じた熱を外部に効率よく放熱することができる。ステータ9と放熱部72とは、断面L字状の第1断熱部71aの内径面に配置される。放熱部72と第2外輪間座54g2の側面との間には、第2断熱部71bが配置されている。
【0056】
外輪間座54gとステータ9とは、断熱部71(71a、71b)により熱的に絶縁された構造である。放熱部72の内径面には、凹凸部72aが形成されている。放熱部72は、凹凸部72aにより表面積が増加することで放熱性が向上する。放熱部72に対しステータ9の反対側に、さらに放熱部が配置されるようにしてもよい。放熱部72には、冷却媒体を通過させることのできる流路(図示せず)を設けてもよい。放熱部72の流路に軸受冷却用エアを流すことによって、軸受装置90の放熱性をより一層向上させることができる。
【0057】
第1外輪間座54g1の端面には、溝54g1aが形成される。溝54g1aの内部には、回路基板10が実装される。回路基板10には、発電機Gで生成される交流電力を整流して直流に変える電源回路16と、軸受装置90の状態を監視するセンサ17と、センサ17の出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路20とが実装されている。コイル15の端部15aと端部15bとは、第1断熱部71aの孔71a1、および第1外輪間座54g1の孔54g1bを通して回路基板10に接続される。なお、孔71a1、孔54g1bは、配線後にシール材を用いて密封し、回路基板10側にオイル等が侵入するのを防止するのが好ましい。
【0058】
主軸51が回転することによって電機Gから出力される交流電力は、電源回路16で直流に変換される。回路基板10を保護する保護部材としての蓋73は、樹脂等の非金属(非導電性部材)の絶縁体で形成され、溝54g1aに固定される。なお、軸受装置90は、蓋73の代わりに、回路基板10を含めて溝54g1a内を樹脂モールド材料で密封してもよい。
【0059】
センサ17として、温度センサ18、加速度センサ19、荷重センサ21などが必要に応じて実装される。各センサ出力は、ワイヤレス通信回路20を用いて、ワイヤレスで外部に送信される。
【0060】
単列の転がり軸受55は、円筒ころ軸受である。アンギュラ玉軸受である軸受53a,53bは、スピンドル装置50に作用するラジアル方向の荷重およびアキシアル方向の荷重を支持する。円筒ころ軸受である単列の軸受55は、工作機械主軸用のスピンドル装置50に作用するラジアル方向の荷重を支持する。
【0061】
ハウジング57には、冷却媒体流路GVが形成される。冷却媒体流路GVに冷却媒体を流すことにより、軸受53a,53bを冷却することができる。軸受53a,53bとしてグリース潤滑の軸受を用いた場合には、潤滑油供給路は不要であるが、エアーオイル等の潤滑が必要な場合には、外輪間座54gに潤滑油供給路が設けられる。なお、ここでは潤滑油供給路は図示しない。
【0062】
組立時には、初めに主軸51に対して前蓋60、軸受53a、間座54、軸受53b、間座58が順に挿入され、ナット59を締めることによって初期予圧が与えられる。その後、
図9における軸受53bの外輪53gbの右側がハウジング57に設けた段差部57aに当たるまで、軸受53a,53bが取り付けられた主軸51がハウジング57に挿入される。最後に、前蓋60によって、左側の軸受53aの外輪53gaを押すことで主軸51がハウジング57に固定される。
【0063】
ナット59を締め付けることにより間座58を介して軸受53bの内輪53ibの端面に力が作用し、内輪53ibが内輪間座54iに向けて押圧される。この力は、内輪53ib、転動体Tb、外輪53gbと伝わり、内輪53ibおよび外輪53gbの軌道面と転動体Tbとの間に予圧を与えるとともに、外輪53gbから外輪間座54gにも伝わる。
【0064】
この力は、軸受53aにおいて、外輪53ga、転動体Ta、内輪53iaへと伝わり、左側の軸受5aの内輪53iaおよび外輪53gaの軌道面と転動体Taとの間にも予圧を与える。軸受53a,53bに付与される予圧は、たとえば外輪間座54gの幅と、内輪間座54iの幅との寸法差によって制限される移動量によって定まる。
【0065】
図8に示す単列の軸受55において、内輪55aは、主軸51の外周に嵌合した筒状部材61と内輪押さえ62とにより軸方向に位置決めされている。内輪押さえ62は、主軸51に螺着したナット63により抜け止めされている。軸受55の外輪55bは、端部材64に固定された位置決め部材65と位置決め部材66とに挟まれている。内輪55aは、主軸51の伸縮に応じて一体的に端部材64に対して摺動するようになっている。
【0066】
主軸51と外筒56との間に形成される空間部67における軸受53bと単列の軸受55とで挟まれた軸方向の中間位置には、主軸51を駆動するモータ52が配置されている。モータ52のロータ68は、主軸51の外周に嵌合した筒状部材61に固定され、モータ52のステータ69は、外筒56の内周部に固定されている。なお、モータ52を冷却するための冷却媒体流路は、ここでは図示しない。
【0067】
いままで説明したように、外輪間座54gには、発電機G、電源回路16、センサ17、ワイヤレス通信回路20などが実装された回路基板10が配置される。軸受装置90は、発電した電力を用いて、センサ17の出力を無線で外部に送信することができるため、スピンドル装置50の運転状況を監視することができる。軸受装置90は、各センサ出力から異常有無を回路基板10内で判定し、判定結果をワイヤレスで送信してもよい。
【0068】
ワイヤレス通信回路20から発信される電波が、軸受53aの外輪53gaと内輪53iaとの隙間を通過できるようにするために、少なくとも軸受53の転動体Taの材質は、絶縁体であるセラミックとし、保持器Rtaに絶縁体である樹脂を用いるのが好ましい。電波は、その後、主軸51と前蓋60とで形成されるラビリンスシールの隙間70を通過して外部に放出される。なお、ラビリンスシールの構造を簡素化し、隙間70を大きくする方が、電波環境として好ましい。電波に指向性がある場合には、主軸の下方に図示しないワイヤレス送受信器、または中継器を設けるとよい。
【0069】
スピンドル装置50に実装した発電機Gのステータ9は、断熱部71により外輪間座54gとは熱的に絶縁されている。このため、軸受装置90においては、スピンドル装置50の運転中にステータ9の鉄損等によって生じる熱が外輪間座54gに伝導することが抑制され、軸受53の回転に伴う温度上昇を正確に測定することができる。これにより、軸受53の異常をより正確に検出できる。軸受装置90は、外輪間座54gから配線が引き出されないので、ハウジング57の内径側に配線引き出し用の溝を加工する必要はなく、組立性が向上する。
【0070】
[電動垂直離着陸機の構成]
近年では、自動車に代わる移動手段として飛行可能な自動車、いわゆる空飛ぶクルマが注目されている。空飛ぶクルマは、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用を期待されている。
【0071】
空飛ぶクルマとして、垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場とを垂直に昇降できることから、滑走路を必要とせず、利便性に優れる。特に、近年ではCO2の削減に向けた社会的要請などから、バッテリとモータとで飛行するタイプの電動垂直離着陸機(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0072】
上記実施形態の軸受装置は、このような電動垂直離着陸機に搭載されてもよい。実施形態1における軸受装置1が搭載された電動垂直離着陸機の構成を例に挙げて、
図10を用いて説明する。
【0073】
図10に示されるように、電動垂直離着陸機101は、機体中央に位置する本体部102と、前後左右に配置された4つの駆動部103とを有するマルチコプターである。駆動部103は、電動垂直離着陸機101の揚力および推進力を発生させる装置である。駆動部103の駆動によって電動垂直離着陸機101が飛行する。電動垂直離着陸機101において駆動部103は複数あればよく、4つに限定されない。
【0074】
本体部102は乗員(たとえば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部102からは4本のアーム102aがそれぞれ延び、各アーム102aの先端に駆動部103が設けられている。アーム102aには、回転翼104を保護するため、回転翼104の回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部102の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド102bが設けられている。
【0075】
駆動部103は、上下1対の回転翼104と、該回転翼104を回転させるモータ装置105とを有している。駆動部103において、上下1対の回転翼104はモータ装置105を挟んで軸方向両側に設けられている。上下1対の回転翼104の各々は、径方向外側へ延びる2枚の羽根を有している。
【0076】
本体部102には、バッテリ(図示省略)および制御装置(図示省略)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機101の制御は、制御装置によって、たとえば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢との差から揚力を調整すべきモータ装置105に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ装置105に備えられたアンプがバッテリからモータ装置105へ送る電力量を調整し、モータ装置105(および回転翼104)の回転数が変更される。また、モータ装置105の回転数の調整は、複数のモータ装置105に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0077】
モータ装置105に対して実施の形態1の変形例2の軸受装置90を用いる場合、主軸51を回転軸として適用し、回転軸の一端側に上述の上側回転翼が取り付けられ、他端側にモータ装置105のロータ68が取り付けられるようにすればよい。ロータ68は、筒状部材61に固定されたステータ69に対向配置され、該ステータ69に対して回転可能になる。なお、モータ装置105には、アウターロータ型のブラシレスモータまたはインナーロータ型のブラシレスモータの構成を採用することができる。
【0078】
モータ装置105は、外筒56と、ハウジング57と、ロータ68と、ステータ69と、アンプ(図示省略)と、2個の軸受53a、53bとを有している。外筒56とハウジング57と間には冷却媒体流路が設けられている。この流路に冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇が防止される。外筒56およびハウジング57の材質は特に限定されず、たとえば鉄系材料、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などであってもよい。
【0079】
また、モータ装置105を軸受装置90に用いる場合、軸受装置90は、外筒56内で回転軸を回転自在に支持している。軸受装置90は、鉄損などによるステータ9の発熱が直接、外輪間座54gに熱伝導しない構造とされる。第1外輪間座54g1の端面には、溝54g1aが形成される。溝54g1aの内部には、回路基板10が実装される。回路基板10には、発電機Gで生成される交流電力を整流して直流に変える電源回路16と、軸受装置90の状態を監視するセンサ17と、センサ17の出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路20とが実装される。
【0080】
なお、駆動部における軸受構成は、他の構成であってもよい。
図10では、モータ装置105の回転軸と回転翼104の回転軸とが同一の回転軸であるが、モータ装置105の回転軸と回転翼104の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部における回転軸を支持する軸受装置は、モータ装置105の回転軸を支持する軸受装置でもよく、回転翼の回転軸を支持する軸受装置でもよい。
【0081】
(まとめ)
本開示は、軸受を備える軸受装置1に関する。軸受装置1は、外輪2と、内輪3と、外輪2と内輪3との間に配置される複数の転動体4と、外輪2および内輪3のうちのいずれか一方に固定される外環7と、外輪2および内輪3のうちのいずれか他方に、外環7に対向するように固定される磁気リング8と、外環7に固定されるとともに、熱伝導率が低く非金属の絶縁体から構成され、径方向に延びる隔壁11aを有する円筒状の断熱部11と、隔壁11aを挟んで軸受Bと反対側に固定されるステータ9と、を備える。磁気リング8は、ステータ9に対向するように配置され、ステータ9と磁気リング8とは発電機Gを構成する。軸受装置1は、隔壁11aよりも軸受B側の空間に固定された回路基板10をさらに備える。回路基板10は、発電機Gで生成される電力を整流処理して直流電源を作る電源回路16と、軸受Bの状態を検出する少なくとも1つのセンサ17と、少なくとも1つのセンサ17の出力を無線で外部に送信するワイヤレス通信回路20と、を含む。
【0082】
このような構成を備えることによって、発電機Gのステータ9と軸受Bとは、断熱部11により熱的に絶縁されるため、ステータ9の鉄損による発熱の軸受B、外環7への熱伝導を低減することができる。これにより、軸受B近傍にセンサ17として温度センサ18を配置することで軸受Bの回転に伴う温度上昇のみを正確に検出することができる。軸受B近傍にセンサ17として加速度センサ19を配置することで軸受Bが原因で発生する振動による加速度を、当該振動が減衰する前に測定することができる。軸受装置1は、構造が簡易であるため小型化することができる。
【0083】
好ましくは、ステータ9に当接されるように配置され、熱伝導率が高い材料からなる放熱部12aと、放熱部12aの外周面に配置され、熱伝導率の低い断熱部材からなる断熱層12bと、をさらに備える。断熱層12bは、外環7と当接する。
【0084】
このような構成を備えることによって、軸受装置1は、ステータ9の発熱を放熱部12aで効率的に外部に放熱することができるとともに、断熱層12bにより放熱部12aの温度を直接、外環7に伝わらないようにし、ステータ9の発熱が軸受Bに影響しないようにすることができる。
【0085】
好ましくは、外輪2および内輪3のうちのいずれか一方は、軸受装置1の静止輪として機能する。回路基板10は、静止輪の端面に当接する外環7の端面と断熱部11の隔壁11aとの間に形成される空間において、外環7に固定される。
【0086】
このような構成を備えることによって、回路基板10が軸受Bの近傍に配置されるとともに断熱部11の隔壁11aにより熱的に絶縁されるため、軸受Bの回転に伴う温度上昇、あるいは加速度を正確に測定することができる。
【0087】
好ましくは、ワイヤレス通信回路20は、内部にアンテナ部20aを含む。アンテナ部20Aは、ステータ9と軸方向に重ならない位置に配置されるとともに、断熱部11と対向する位置に配置される。
【0088】
このような構成を備えることによって、アンテナ部20aが金属などの導電性材料の影響を受けることなく軸受装置1の外部に電波を飛ばすことができる。
【0089】
好ましくは、軸受装置1Aは、断熱部11Aの外周の一部に形成された切欠き部11Adと、ステータ9Aを構成する磁性体リング部材13の周方向一部を除去してボビン14が露出した除去部9A1とが重なり、切欠き部11Adの領域内に回路基板10が配置される。
【0090】
このような構成を備えることによって、軸受装置1Aは、ステータ9Aを軸受Bにより近づけた配置ができるため、外環7の軸方向幅を短くすることができ、小型化が可能となる。
【0091】
好ましくは、軸受装置90は、外輪間座54gが固定部材となる。
このような構成を備えることによって、軸受装置90は、軸受53a,53bを備える構成において、軸受53の回転に伴う温度上昇、あるいは加速度を正確に測定することができる。
【0092】
好ましくは、外輪2および内輪3のうちのいずれか一方は、軸受装置90の静止輪として機能する。回路基板10は、静止輪に近接する外輪間座54gの一方端に形成された溝54g1aの内部に固定される。回路基板10を保護する保護部材としての蓋73と、蓋73と対向する複数の転動体Taとは、絶縁体で構成される。軸受53の静止輪の他方端に当接する前蓋60と、前蓋60と軸受53により支持される主軸51との間には、隙間70が設けられている。
【0093】
このような構成を備えることによって、軸受装置90は、ワイヤレス通信回路20から発信される電波を、主軸51と前蓋60とで形成されるラビリンスシールの隙間70から外側に放出することができる。
【0094】
好ましくは、軸受装置90は、スピンドル装置50に適用してもよい。
このような構成を備えることによって、スピンドル装置50において、軸受53の回転に伴う温度上昇、あるいは加速度を正確に測定することができる。
【0095】
好ましくは、軸受装置1は、軸受装置1により回転可能に支持された回転翼104を備え、回転翼104の回転により飛行する、電動垂直離着陸機101に適用してもよい。
【0096】
このような構成を備えることによって、電動垂直離着陸機101において、軸受の回転に伴う温度上昇、あるいは加速度を正確に測定することができる。
【0097】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
1,1A,90 軸受装置、2,53ga,53gb,55b 外輪、3,53ia,53ib,55a 内輪、4,Ta,Tb 転動体、5,Rta,Rtb 保持器、5a,5b,53,53a,53b,55,B 軸受、6 シール、7 外環、8 磁気リング、8a 芯金、8b 多極磁石、9,9A ステータ、9A1 除去部、10 回路基板、11,11A,71 断熱部、11Aa,11a 隔壁、11Ad 切欠き部、12,73 蓋、12a,72 放熱部、12b 断熱層、13,13A 磁性体リング部材、14 ボビン、15 コイル、16 電源回路、17 センサ、18 温度センサ、19 加速度センサ、20 ワイヤレス通信回路、20a アンテナ部、50 スピンドル装置、51 主軸、54g 外輪間座、54i 内輪間座、60 前蓋、71a 第1断熱部、71b 第2断熱部、G 発電機。