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特開2022-156090高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156090
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20221006BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20221006BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20221006BHJP
   F17C 1/06 20060101ALN20221006BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221006BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20221006BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
F16J12/00 A
B29C70/16
B29C70/32
F17C1/06
B29K105:08
B29K101:10
B29L22:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059607
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】辰島 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】小関 徹
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F205
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA20
3E172DA36
3J046AA01
3J046AA14
3J046BA03
3J046BD11
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA02
4F205AA36
4F205AD05
4F205AD12
4F205AD16
4F205AG07
4F205AH55
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA46
4F205HB01
4F205HB12
4F205HC02
4F205HK04
4F205HK05
4F205HK23
4F205HL02
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】補強シャフトを用いたフィラメントワインディング工程の後の熱硬化工程における応力発生を抑制できる、高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具を提供する。
【解決手段】高圧タンク10の製造方法及び製造治具は、口金26aからライナ22の他端に向けて補強シャフト42を挿入し、補強シャフト42によりライナ22の軸方向の長さを固定して、繊維強化樹脂RRを巻き付けるフィラメントワインディング工程と、補強シャフト42とライナ22の他端との固定を解除してライナ22の軸方向の変化を可能として繊維強化樹脂RRを加熱する熱硬化工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造方法であって、
前記ライナの一端と他端とを貫通するように補強シャフトを挿入して前記ライナに固定し、前記補強シャフトにより前記ライナの軸方向の長さを固定する工程と、
前記ライナの内部を加圧状態に保ちつつ、前記ライナの外周部に繊維強化樹脂を巻き付けるフィラメントワインディング工程と、
前記ライナの一端及び他端の少なくとも一方と前記補強シャフトとの固定を解除し、前記ライナの軸方向の変形を可能とする工程と、
前記補強シャフトと前記ライナの他端との固定を解除した状態で前記繊維強化樹脂を加熱して前記ライナの外周部に補強層を形成する熱硬化工程と、
を有する、高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の高圧タンクの製造方法であって、前記高圧タンクは、前記ライナの一端に接合され前記補強シャフトが挿通する第1口金と、前記ライナの他端に接合され前記補強シャフトが挿通する第2口金と、を有しており、
前記第1口金に前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントを取り付け、前記第2口金に前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントを取り付け、
前記フィラメントワインディング工程は、前記補強シャフトを前記第1口金及び前記第2口金で固定した状態で行い、
前記熱硬化工程は、前記第2アタッチメントによる前記補強シャフトの固定を解除した状態で行う、高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の高圧タンクの製造方法であって、前記高圧タンクは、前記ライナの一端に接合され前記補強シャフトが挿通する第1口金と、前記ライナの他端に接合され前記補強シャフトが挿通する第2口金と、を有しており、
前記補強シャフトは、前記第1口金を挿通する第1シャフトと、前記第2口金を挿通する第2シャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとを解除可能に連結する連結機構と、を有しており、
前記第1口金に前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントを取り付け、前記第2口金に前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントを取り付け、
前記フィラメントワインディング工程は、前記連結機構で前記第1シャフトと前記第2シャフトとを連結した状態で行い、
前記熱硬化工程は、前記連結機構による前記第1シャフトと前記第2シャフトとの連結を解除した状態で行う、高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載の高圧タンクの製造方法であって、前記フィラメントワインディング工程及び前記熱硬化工程は、前記第1口金及び前記第2口金を前記補強シャフトによって気密に封止して行う、高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの一端に接合された第1口金と、前記ライナの他端に接合された第2口金と、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造治具であって、
前記第1口金と前記第2口金とを挿通して前記ライナの内部を気密に封止する補強シャフトと、
前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントと、
前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントと、を備え、
前記第1アタッチメント及び前記第2アタッチメントの少なくとも一方に、前記補強シャフトを解除可能に固定する固定機構が設けられている、高圧タンクの製造治具。
【請求項6】
内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの一端に接合された第1口金と、前記ライナの他端に接合された第2口金と、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造治具であって、
前記第1口金と前記第2口金とを挿通して前記ライナの内部を気密に封止する補強シャフトと、
前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントと、
前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントと、を備え、
前記補強シャフトは、前記第1アタッチメントに固定される第1シャフトと、前記第2アタッチメントに固定される第2シャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとを解除可能に連結する連結機構とを備える、高圧タンクの製造治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体を貯留する高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンクは、高圧の水素ガスを貯留するデバイスとして燃料電池車両(燃料電池自動車)に搭載される。この種の高圧タンクは、特許文献1に開示されるように、ライナと、ライナを補強する補強層と、ライナに接合され気体を流通可能な流路を有する口金とを備える。補強層は、繊維強化樹脂をライナの外面に巻き付けるフィラメントワインディング工程により形成される。
【0003】
フィラメントワインディング工程では、ライナに内圧を付与した状態で、繊維強化樹脂に張力をかけながらライナの外表面に巻き付ける。その際にライナの内圧と繊維強化樹脂との張力のバランスによって、高圧タンクの全長が変化することがある。
【0004】
そこで、高圧タンクの全長の変化を防ぐために、ライナの内部を貫通する補強シャフトをライナに固定してフィラメントワインディング工程を行う方法も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/058451号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、補強シャフトを用いてフィラメントワインディング工程を行うと、これに続く熱硬化工程において、補強層に残留応力が発生するという問題がある。
【0007】
すなわち、補強シャフトが熱硬化工程で熱膨張し、軸方向に拡張する方向の力が作用した状態で繊維強化樹脂が硬化する場合がある。また、熱硬化中の高圧タンクの自然な膨張側の変形が補強シャフトによって抑制されることにより、圧縮側の力が作用した状態で繊維強化樹脂が硬化する場合もある。条件によっては、上記と逆に、熱硬化中の繊維強化樹脂の収縮による変形が補強シャフトによって抑制されることにより、拡張側の力が作用する状態で繊維強化樹脂が硬化する場合もある。
【0008】
また、フィラメントワインディング工程の際にライナの内部に付与した内圧は、繊維強化樹脂の熱硬化が完了する前にゼロにはできないため、フィラメントワインディング工程の後に補強シャフトを取り除くことは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、補強シャフトを用いたフィラメントワインディング工程の後の熱硬化工程で、補強層の応力発生を抑制できる、高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下の開示の一観点は、内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造方法であって、前記ライナの一端と他端とを貫通するように補強シャフトを挿入して前記ライナに固定し、前記補強シャフトにより前記ライナの軸方向の長さを固定する工程と、前記ライナの内部を加圧状態に保ちつつ、前記ライナの外周部に繊維強化樹脂を巻き付けるフィラメントワインディング工程と、前記ライナの一端及び他端の少なくとも一方と前記補強シャフトとの固定を解除し、前記ライナの軸方向の変形を可能とする工程と、前記補強シャフトと前記ライナの他端との固定を解除した状態で前記繊維強化樹脂を加熱して前記ライナの外周部に補強層を形成する熱硬化工程と、を有する、高圧タンクの製造方法にある。
【0011】
別の一観点は、内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの一端に接合された第1口金と、前記ライナの他端に接合された第2口金と、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造治具であって、前記第1口金と前記第2口金とを挿通して前記ライナの内部を気密に封止する補強シャフトと、前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントと、前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントと、を備え、前記第1アタッチメント及び前記第2アタッチメントの少なくとも一方に、前記補強シャフトを解除可能に固定する固定機構が設けられている、高圧タンクの製造治具にある。
【0012】
さらに別の一観点は、内部に充填空間を有するライナと、前記ライナの一端に接合された第1口金と、前記ライナの他端に接合された第2口金と、前記ライナの外周部に設けられた補強層と、を有する高圧タンクの製造治具であって、前記第1口金と前記第2口金とを挿通して前記ライナの内部を気密に封止する補強シャフトと、前記補強シャフトを前記第1口金に固定する第1アタッチメントと、前記補強シャフトを前記第2口金に固定する第2アタッチメントと、を備え、前記補強シャフトは、前記第1アタッチメントに固定される第1シャフトと、前記第2アタッチメントに固定される第2シャフトと、前記第1シャフトと前記第2シャフトとを解除可能に連結する連結機構とを備える、高圧タンクの製造治具にある。
【発明の効果】
【0013】
上記観点の高圧タンクの製造方法及び高圧タンクの製造治具によれば、補強シャフトを用いたフィラメントワインディング工程の後の熱硬化工程で、補強層への応力発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るフィラメントワインディング工程の説明図である。
図2】第1実施形態に係る高圧タンクの製造治具をライナに取り付けた状態で示す断面図である。
図3】第2実施形態に係る高圧タンクの製造治具をライナに取り付けた状態で示す断面図である。
図4】第3実施形態に係る高圧タンクの製造治具をライナに取り付けた状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る高圧タンク10は、図1に示すように気体を圧縮して貯留する充填空間12を有する。この高圧タンク10は、例えば、燃料電池システムに適用され、気体として水素ガス(燃料ガス、アノードガス)を貯留する。例えば、高圧タンク10は、図示しない燃料電池車両に搭載されて、ガスステーションから供給される水素ガスを貯留する一方で、車両の走行時等に燃料電池スタック(不図示)に水素ガスを供給する。なお、高圧タンク10は、燃料電池システムへの適用に限定されず、また水素ガス以外の気体を貯留可能なことは勿論である。
【0017】
高圧タンク10は、円筒状の胴部分16と、胴部分16の両端を塞ぐ略半球状の閉塞部分18とを有し、内側の充填空間12が適宜の容積を有するように形成される。高圧タンク10の一端側及び他端側の閉塞部分18には、高圧タンク10の外部と充填空間12との間を連通し、燃料電池システムの他の部材(配管やバルブ)と接続するためのポート部20が設けられる。
【0018】
この高圧タンク10は、充填空間12を内側に有するライナ22と、ライナ22の外面を覆う補強層24と、ポート部20を構成し水素ガスを流通させる口金26a、26bとを含んで構成される。
【0019】
図2に示すように、ライナ22は、高圧タンク10の内層(骨格)を構成する。ライナ22は、本体部28を有し、本体部28の一端と他端とで口金26a、26bに固定されている。ライナ22は、樹脂材料(例えば、ポリアミド系樹脂)により一体的に形成される。なお、ライナ22は、複数の樹脂層を積層した構成でもよい。また図示例では、本体部28は、一体に構成されているが、例えば、二つの部材が胴部分16の軸方向中間部で接合された構成でもよい。
【0020】
本体部28は、その外周部29に補強層24が直接積層される。本体部28の胴部分16の構成箇所は、軸方向に直線状に延在する一方で、本体部28の閉塞部分18の構成箇所は、胴部分16の構成箇所から径方向内側に向かって滑らかに湾曲している。
【0021】
補強層24は、高圧タンク10の外層を構成し、ライナ22の本体部28の全体と、ライナ22に取り付けられた口金26a、26bの一部とを覆う。補強層24としては、例えば、炭素繊維強化樹脂を適用することが好ましい。この補強層24は、フィラメントワインディング工程により、未硬化のテープ状の繊維強化樹脂RRをライナ22に巻き付け、その後熱硬化工程で硬化させることで形成される。
【0022】
第1口金26aは、高圧タンク10の一端側の閉塞部分18において水素ガスのポート部20を構成している。この第1口金26aは、ライナ22の外側に突出する第1部材30と、ライナ22の内側に配置される第2部材32とを有する。第1及び第2部材30、32は、金属材料によって構成される。第1部材30は円筒状に形成され、内部に第1口金26aを貫通する貫通孔34が形成されている。第2部材32は、第1部材30の外周側に向けてフランジ状に延び出ている。
【0023】
第1口金26aの第1部材30の外径部分は、燃料電池システムの他の部材(口元バルブ)を取り付け可能な適宜の形状に設定される。高圧タンク10の製造工程においては、第1口金26aの外径部分には、後述する製造治具40の第1アタッチメント46が装着される。
【0024】
第2口金26bは、高圧タンク10の他端側の閉塞部分18に設けられる。第2口金26bは、第1口金26aと同様に構成される。
【0025】
このフィラメントワインディング工程は、図2に示すように、製造治具40を取り付けた状態で行われる。製造治具40は、ライナ22の一端と他端とを貫通するように取り付けられる補強シャフト42と、補強シャフト42を第1口金26aに固定する第1アタッチメント46と、補強シャフト42を第2口金26bに固定する第2アタッチメント48とを備える。
【0026】
補強シャフト42は、第1アタッチメント46に接合されており、第1アタッチメント46と一体化されている。補強シャフト42は、第1口金26aからライナ22の内部に挿入される。補強シャフト42の他端側は、ライナ22の内部を貫通して第2口金26bから突出するようにして取り付けられる。補強シャフト42は、口金26a、26bの貫通孔34の内径と略同じ外径の円柱状に形成されており、口金26a、26bに挿入すると、貫通孔34を気密に封止する。すなわち、補強シャフト42を口金26a、26bに挿入すると、ライナ22の充填空間12を加圧状態に保つことができる。
【0027】
補強シャフト42の所定の部位には、第2アタッチメント48に固定される固定用孔42bが形成されている。固定用孔42bは、補強シャフト42の外表面に開口しており、径方向に所定深さに形成される。固定用孔42bは、第1アタッチメント46を第1口金26aに締結した際に、第2アタッチメント48の後述するロックピン47が挿入可能な位置に形成されている。なお、固定用孔42bに代えて、同程度の深さを有する溝を補強シャフト42に設けてもよい。この溝は、補強シャフト42の周方向の全域に亘って環状に形成することができる。
【0028】
第1アタッチメント46は、本体部46aと、本体部46aの外周部から突出した締結部46bとを有する。本体部46aには、その中央に補強シャフト42が通る軸孔46cが設けられている。軸孔46cには、接着、嵌合、又は溶接等の手法により、補強シャフト42が接合されている。締結部46bは、第1口金26aの第1部材30の外径部分に締結される締結機構を備えている。第1アタッチメント46は、締結部46bを通じて補強シャフト42を第1口金26aに固定する。
【0029】
第2アタッチメント48は、本体部48aと、本体部48aの外周部から突出した締結部48bと、ロックピン47とを有する。本体部48aには、補強シャフト42を挿通可能な挿通孔48cが形成されている。本体部48aは、挿通孔48cを通じて補強シャフト42の軸方向に移動可能となっている。挿通孔48cは、第2アタッチメント48の補強シャフト42の軸回りの回動を許容する。
【0030】
また、本体部48aには、本実施形態の固定機構50を構成するロック孔49が形成されている。ロック孔49は、本体部48aの側部を貫通して形成されており、ロックピン47を挿通可能な断面寸法に形成されている。ロック孔49は、第1アタッチメント46を第1口金26aに締結し、第2アタッチメント48を第2口金26bに取り付けた際に、補強シャフト42の固定用孔42bと連通可能となっている。第2アタッチメント48の周方向位置を調整することで、ロック孔49と補強シャフト42の固定用孔42bとが連通する。
【0031】
ロックピン47は、ロック孔49と固定用孔42bとに挿入される棒状部材である。ロックピン47は、補強シャフト42と第2アタッチメント48とを軸方向及び周方向に固定する。したがって、補強シャフト42は、第2アタッチメント48を介して第2口金26bに固定される。すなわち、ロックピン47とロック孔49とにより固定機構50が構成され、固定機構50により補強シャフト42と第2口金26bとが解除可能に固定される。また、ロックピン47は、容易に取り外し可能となっており、ロックピン47を取り外すと固定機構50による固定状態が解除される。ロックピン47に代えて、プレート(板)状部材に置き換えることも可能である。また、固定用孔42bに代えて溝を設ける場合には、ロックピン47は棒状部材に限定されず、例えば、溝に沿って挿入可能なクリップ状の部材として、補強シャフト42の周方向の2か所を固定するように構成してもよい。
【0032】
以下、本実施形態の高圧タンク10の製造方法について説明する。
【0033】
図1に示すように、高圧タンク10は、ライナ22と口金26a、26bとを組付けた状態で(以下、まとめてワークWともいう)、ワークWの外面に繊維強化樹脂RRを巻き付けるフィラメントワインディング工程を行うことで、補強層24を形成する。
【0034】
図1に示すフィラメントワインディング工程は、図2のロックピン47を挿入した状態、すなわち固定機構50が補強シャフト42を第2口金26bに固定した状態で行われる。
【0035】
フィラメントワインディング工程に先立って、図2に示すように、製造治具40をワークWに取り付ける工程が行われる。まず、第1口金26aから補強シャフト42を挿入し、第2口金26bを挿通させた後、第1口金26aに第1アタッチメント46を締結する。これにより、補強シャフト42が第1口金26aに固定される。その後、第2アタッチメント48の挿通孔48cに補強シャフト42を通し、第2アタッチメント48を第2口金26bに固定する。そして、ロックピン47をロック孔49及び固定用孔42bに挿入して固定機構50を固定状態とし、補強シャフト42を第1口金26aと第2口金26bに固定する。
【0036】
その後、図示しないガス流路(補強シャフト42の内部等に設けられる)を通じて流体をライナ22の充填空間12に導入して、ライナ22の内部を加圧状態とする。
【0037】
その後、図1に示すように、補強シャフト42の一端と他端とを、回転機構76に取り付ける。その後、回転機構76により補強シャフト42とともにライナ22を回転させる。そして、1以上のクリール78から強化繊維RFをくりだし、含浸部80にて母材樹脂を含浸して繊維強化樹脂RRとし、回転中のワークWにこの繊維強化樹脂RRを巻き付けていく。
【0038】
繊維強化樹脂RRを巻き付けて行く過程において、ライナ22の内圧と繊維強化樹脂RRとの張力とのバランスによって、ワークWの全長を縮小又は伸長させようとする力が作用する。本実施形態においては、補強シャフト42を第1口金26a及び第2口金26bに固定しておくことにより、ワークWの全長の変化を阻止できる。
【0039】
繊維強化樹脂RRの巻き付けが完了した後、補強シャフト42を回転機構76から取り外す。その後、図2に示すように、第2アタッチメント48のロックピン47を引き抜いて、固定機構50による補強シャフト42の固定を解除する。これにより、補強シャフト42と第2口金26bとの固定が解除される。
【0040】
次に、補強シャフト42とともにワークWを加熱炉に搬入し、ワークWを所定温度に加熱して繊維強化樹脂RRを硬化させる。補強シャフト42は、熱硬化工程で熱膨張し、軸方向に拡張するが、補強シャフト42は、第2口金26bと固定されていないため、繊維強化樹脂RRに荷重を付与しない状態で硬化させることができる。また、補強シャフト42は、熱硬化中の高圧タンク10の自然な膨張又は収縮側の変形に干渉しない。これにより、補強層24の残留応力の発生を抑制しつつ補強層24を形成できる。
【0041】
(第2実施形態)
本実施形態では、図2を参照しつつ説明した製造治具40の変形例について説明する。図3に示すように、本実施形態の製造治具40Aは、第1口金26aに装着される第1アタッチメント46Aが、ロックピン47及び固定機構50を有して構成される。補強シャフト42Aの第1口金26aへの固定は、固定機構50を介して行う。
【0042】
補強シャフト42Aは、第1アタッチメント46Aの固定機構50のロックピン47に係合可能な位置に、固定用孔42bを有している。すなわち、補強シャフト42Aは、第1口金26aへの固定及び第2口金26bへの固定は、2つの固定機構50を介して行われる。製造治具40Aのその他の構成は、図2の製造治具40と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付して説明は省略する。本実施形態においても、固定用孔42bに代えて溝を設けることができる。
【0043】
製造治具40Aを用いた高圧タンク10の製造方法は、図1を参照しつつ説明したのと同様である。繊維強化樹脂RRをフィラメントワインディング工程で巻き付ける工程においては、第1アタッチメント46A及び第2アタッチメント48の両方の固定機構50を固定状態として補強シャフト42を固定する。また、熱硬化工程では、第1アタッチメント46A及び第2アタッチメント48の何れか1方又は両方の固定機構50の固定状態を解除して行う。本実施形態の製造治具40Aによっても製造治具40と同様な効果が得られる。
【0044】
(第3実施形態)
本実施形態は、図2を参照しつつ説明した製造治具40のさらに別の変形例について説明する。図4に示すように、本実施形態の製造治具40Bは、補強シャフト42Bが、第1シャフト52と第2シャフト54とを備えて構成される。第1シャフト52は、第1アタッチメント46Bを介して第1口金26aに固定され、第2シャフト54は第2アタッチメント48Bを介して第2口金26bに固定される。
【0045】
第1シャフト52及び第2シャフト54は、連結機構56を介して、ライナ22の内部において連結されている。連結機構56は、ライナ22から突出している部分の第1シャフト52又は第2シャフト54からの操作力の入力によって連結状態を解除可能に構成されている。
【0046】
本実施形態においては、連結機構56は、ネジ構造によって拘束されている。第1シャフト52と第2シャフト54とを互いに所定方向に回転させることにより、第1シャフト52と第2シャフト54とが軸方向に変位可能となり、補強シャフト42Bによる第1口金26aと第2口金26bとの位置関係の固定状態が解除される。
【0047】
第1アタッチメント46B及び第2アタッチメント48Bは、上記の第1シャフト52と第2シャフト54の動作を可能とするべく、第1シャフト52と第2シャフト54のある程度の回転力以上の入力に基づく回転動作を許容するように構成されている。本実施形態の製造治具40Bによっても製造治具40と同様な効果が得られる。
【0048】
以下、上記の諸実施形態の高圧タンク10の製造方法とその製造治具40、40A、40Bの効果について説明する。
【0049】
一実施形態に係る高圧タンク10の製造方法は、内部に充填空間12を有するライナ22と、ライナ22の外周部29に設けられた補強層24と、を有する高圧タンク10の製造方法であって、ライナ22の一端と他端とを貫通するように補強シャフト42を挿入してライナ22に固定し、補強シャフト42によりライナ22の軸方向の長さを固定する工程と、ライナ22の内部を加圧状態に保ちつつ、ライナ22の外周部29に繊維強化樹脂RRを巻き付けるフィラメントワインディング工程と、補強シャフト42とライナ22の他端(例えば、第2口金26b)との固定を解除し、ライナ22の軸方向の変形を可能とする工程と、補強シャフト42とライナ22の他端との固定を解除した状態で繊維強化樹脂RRを加熱してライナ22の外周部29に補強層24を形成する熱硬化工程と、を有する。
【0050】
上記の方法によれば、フィラメントワインディング工程の後に、ライナ22の全長方向の拘束を解くことができるので、フィラメントワインディング工程における高圧タンク10の変形の防止と、熱硬化工程での残留応力発生リスクの排除を両立することができる。これにより、高圧タンク10の品質のバラツキが抑制されて信頼性が向上する。また、残留応力の軽減により、補強層24を肉薄にすることができるため、繊維強化樹脂RRの使用量を削減でき、製造コストを削減できる。
【0051】
上記の高圧タンク10の製造方法において、高圧タンク10は、ライナ22の一端に接合され補強シャフト42が挿通する第1口金26aと、ライナ22の他端に接合され補強シャフト42が挿通する第2口金26bと、を有しており、第1口金26aに補強シャフト42を第1口金26aに固定する第1アタッチメント46、46A、46Bを取り付け、第2口金26bに補強シャフト42を第2口金26bに固定する第2アタッチメント48、48Bを取り付け、フィラメントワインディング工程は、補強シャフト42を第1口金26a及び第2口金26bに固定した状態で行い、熱硬化工程は、第2アタッチメント48による補強シャフト42の固定を解除した状態で行う。この方法によっても、フィラメントワインディング工程における高圧タンク10の変形の防止と、熱硬化工程での残留応力発生リスクの排除を両立することができる。
【0052】
上記の高圧タンク10の製造方法において、高圧タンク10は、ライナ22の一端に接合され補強シャフト42Bが挿通する第1口金26aと、ライナ22の他端に接合され補強シャフト42Bが挿通する第2口金26bと、を有しており、補強シャフト42Bは、第1口金26aを挿通する第1シャフト52と、第2口金26bを挿通する第2シャフト54と、第1シャフト52と第2シャフト54とを解除可能に連結する連結機構56と、を有しており、第1口金26aに補強シャフト42Bを第1口金26aに固定する第1アタッチメント46Bを取り付け、第2口金26bに補強シャフト42Bを第2口金26bに固定する第2アタッチメント48Bを取り付け、フィラメントワインディング工程は、連結機構56で第1シャフト52と第2シャフト54とを連結した状態で行い、熱硬化工程は、連結機構56による第1シャフト52と第2シャフト54との連結を解除した状態で行う。この方法によっても、フィラメントワインディング工程における高圧タンク10の変形の防止と、熱硬化工程での残留応力発生リスクの排除を両立することができる。
【0053】
上記の高圧タンク10の製造方法であって、フィラメントワインディング工程及び熱硬化工程は、第1口金26a及び第2口金26bを補強シャフト42によって気密に封止して行う。これにより、熱硬化工程におけるライナ22の凹みを防止できる。
【0054】
一実施形態に係る高圧タンク10の製造治具40、40Aは、内部に充填空間12を有するライナ22と、ライナ22の一端に接合された第1口金26aと、ライナ22の他端に接合された第2口金26bと、ライナ22の外周部29に設けられた補強層24と、を有する高圧タンク10の製造治具40であって、第1口金26aと第2口金26bとを挿通してライナ22の内部を気密に封止する補強シャフト42と、補強シャフト42を第1口金26aに固定する第1アタッチメント46、46Aと、補強シャフト42を第2口金26bに固定する第2アタッチメント48と、を備え、第1アタッチメント46、46A及び第2アタッチメント48の少なくとも一方に、補強シャフト42を解除可能に固定する固定機構50が設けられている。この構成によれば、フィラメントワインディング工程の後に、簡単な操作でライナ22の全長の拘束を解くことができるため、フィラメントワインディング工程におけるライナ22の全長の変形防止と、熱硬化工程での残留応力発生リスクの排除とを両立できる。
【0055】
別の一実施形態に係る高圧タンク10の製造治具40Bは、内部に充填空間12を有するライナ22と、ライナ22の一端に接合された第1口金26aと、ライナ22の他端に接合された第2口金26bと、ライナ22の外周部29に設けられた補強層24と、を有する高圧タンク10の製造治具40Bであって、第1口金26aと第2口金26bとを挿通してライナ22の内部を気密に封止する補強シャフト42Bと、補強シャフト42Bを第1口金26aに固定する第1アタッチメント46Bと、補強シャフト42Bを第2口金26bに固定する第2アタッチメント48Bと、を備え、補強シャフト42Bは、第1アタッチメント46Bに固定される第1シャフト52と、第2アタッチメント48Bに固定される第2シャフト54と、第1シャフト52と第2シャフト54とを解除可能に連結する連結機構56とを備える。この構成によっても、簡単な操作でライナ22の全長の拘束を解くことができるため、フィラメントワインディング工程におけるライナ22の全長の変形防止と、熱硬化工程での残留応力発生リスクの排除とを両立できる。
【0056】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0057】
10…高圧タンク 22…ライナ
24…補強層 26a、26b…口金
40、40A、40B…製造治具 42、42A、42B…補強シャフト
46、46A、46B…第1アタッチメント
48、48B…第2アタッチメント 50…固定機構
52…第1シャフト 54…第2シャフト
56…連結機構 RR…繊維強化樹脂
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
フィラメントワインディング工程では、ライナに内圧を付与した状態で、繊維強化樹脂に張力をかけながらライナの外表面に巻き付ける。その際にライナの内圧と繊維強化樹脂の張力のバランスによって、高圧タンクの全長が変化することがある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3