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特開2022-156091乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法および、乳頭突起形成促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156091
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法および、乳頭突起形成促進剤
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20221006BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20221006BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221006BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20221006BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221006BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/02 ZNA
A61K36/185
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P17/16
A61Q19/08
A61L27/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059609
(22)【出願日】2021-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩士
(72)【発明者】
【氏名】安倉 由佳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
【テーマコード(参考)】
4B063
4C081
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ09
4B063QQ36
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QX02
4C081AB19
4C081BA17
4C081CD31
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AC012
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AD042
4C083AD092
4C088AB99
4C088AC01
4C088CA03
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法、および新規の乳頭突起改善剤を提供する。
【解決手段】表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度の少なくとも1つを指標とした乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法、およびワサビノキの抽出物を含有するMMP-9産生促進剤及び乳頭突起形成促進剤を提供する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量を指標とした乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
表皮細胞の細胞収縮度を指標とした乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
(1)表皮細胞に被験物質を添加し培養するステップ、
(2)表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度から選ばれる少なくとも1つを測定するステップ、
(3)ステップ(2)で得られた表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度から選ばれる少なくとも1つを被験物質の無添加群と比較し、選ばれた表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度のうちの少なくとも1つを向上させる物質を、乳頭突起形成促進作用を有する物質と判断するステップ
を含んでなる請求項1又は請求項2に記載の乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量から選ばれる少なくとも1つが被験物質の無添加群と比較して10%以上増加する、又は表皮細胞の細胞収縮度が無添加群と比較して5%以上増加する場合に、前記被験物質は乳頭突起形成促進作用を有する物質と判断する請求項1乃至請求項3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法により選択された乳頭突起形成促進剤。
【請求項6】
ワサビノキの抽出物を含有する乳頭突起形成促進剤。
【請求項7】
ワサビノキの抽出物を含有するMMP-9産生促進剤。
【請求項8】
表皮細胞のMMP-9産生促進及び/又は乳頭突起形成を促進するためのワサビノキの抽出物又はワサビノキの抽出物含有組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用な乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法およびこれにより選択される乳頭突起形成促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体が外気と接する表層から順に表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されている。表皮は、ケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、真皮に近い深部から基底層、有棘層、顆粒層、角質層に分類される。表皮では分裂によりケラチノサイトが基底層から角層に向けて押し上げられ、表層から順にいわゆる垢として剥がれ落ちる。
【0003】
真皮は表皮に近い乳頭層と、それより深部に存在する網状層に分類される。乳頭層は主としてコラーゲンから構成される膠原線維とエラスチンから構成される弾性線維、その他の細胞外マトリックス成分、ファイブロブラスト(線維芽細胞)を含む。網状層は乳頭層よりも厚く、真皮の大部分を占める層である。網状層もコラーゲンから構成される膠原線維とエラスチンから構成される弾性線維を含むが、乳頭層の膠原線維よりも太く、乳頭層の弾性線維よりも成熟している。
【0004】
乳頭層の上層部には表皮に向けて突出した乳頭突起が形成されている。この乳頭突起の間に表皮層が入り込み、表皮と真皮の間で、真皮層の乳頭層と表皮層が相互にかみ合った凹凸構造が形成されている。表皮層と真皮層の間は基底膜と呼ばれる膜構造で隔てられており、乳頭突起は表皮層、真皮層、基底膜から構成される構造物であるといえる。
【0005】
真皮と表皮の間は基底膜で隔てられているが、真皮と表皮の間では乳頭突起を介してシグナル伝達、老廃物や栄養の輸送などの物質輸送が行われ、真皮と表皮がかみ合うことによって外部からの物理的刺激の緩和作用があるとされる。加えて、乳頭突起の形状は皮膚状態(角層水分量、経表皮水分蒸散量、角層細胞面積、皮膚色)とも関連があることが報告されており(特許文献1)、皮膚の状態を正常に保つためには、乳頭突起を適切に維持することが重要と考えられる。しかしながら、乳頭突起は加齢や紫外線によって平坦化し(非特許文献1)、変形や数の減少あるいは乳頭突起の喪失が生じることが知られている。そのため、乳頭突起を適切に維持する方法が求められている。
【0006】
このように、乳頭突起を適切に維持することは皮膚状態を維持する方法として非常に有効であるが、これまで乳頭突起の形成機構は明らかになっておらず、乳頭突起改善剤を探索する際には、実際にヒト皮膚に塗布して、乳頭突起状態そのものを観察し、評価する必要があった。しかしながら、乳頭突起は皮膚内部に存在する構造物であることから、その状態の評価は容易ではなく、ヒト皮膚を摘出して切片を作成して観察する、ヒト皮膚を摘出して表皮層を剥離の上電子顕微鏡で観察する、共焦点レーザー生体顕微鏡などの高価な機器を用いて観察する、など、観察試料提供者に対する物理的・精神的負担や、研究者の費用や労力を要する方法がとられてきた。そのため、乳頭突起の形成機構を解明し、簡易な乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法の開発が望まれていた。
【0007】
また、人体の乳頭突起構造の維持だけでなく、人工皮膚の製造においても乳頭突起形成の促進は重要である。人工皮膚は火傷、外傷など損傷を受けた皮膚の代替または再生のために利用されており、人工皮膚に使用し得る乳頭突起を有する皮膚モデルを得るための方法が知られている(特願2020―101725)。しかし、産業上利用可能な安定した品質の乳頭突起を有する皮膚モデルを製造するためには、乳頭突起形成を促す方法が求められていた。
【0008】
マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase、以下「MMP」)は、触媒機構に金属が関与するプロテアーゼの一種であり、好中球ゼラチナーゼ、IV型コラゲナーゼ、ゼラチナーゼBとも呼ばれ、変性コラーゲン(ゼラチン)とネイティブコラーゲン(IV型、V型、XI型コラーゲン)に対して広い基質特異性を示す酵素で、タンパク質の分解に加えて生理活性物質の活性化などの生理現象に関与することが知られる。
例えば、MMP-9はRho/Rockシグナル経路を介して、アクトミオシンの収縮性を生み出し、細胞遊走などの細胞運動を引き起こすことが知られている(非特許文献2)。
しかしながら、これまで乳頭突起形成促進に対するMMP-9や細胞収縮の寄与は知られておらず、加えて、上述の通り、MMP-9は基底膜に特異的に発現するIV型コラーゲンを分解することが報告されており、皮膚疾患や皮膚の炎症、老化に関わるとしてそれらの改善のため、産生阻害が研究されることはあったが(非特許文献3)、皮膚状態の正常化を企図してMMP-9の機能を高めるという思想は存在しなかった。すなわち、従来乳頭突起構成要素の一つである基底膜を分解することが知られているMMP-9が乳頭突起形成促進に貢献するとは、全く知られていなかった。
【0009】
ワサビノキの抽出物の少なくとも1種のタンパク質フラクションのスキンケアへの使用(特許文献2)が知られているが、特定のタンパク質フラクションではないワサビノキの抽出物がMMP-9の機能を高める可能性については全く知られていなかった。また、モリンガ・オレイフェラまたはその抽出物を含む多種の素材から成る群より選択される成分のうちの1つ以上を含む、皮膚の調子を整える方法(特許文献3)が開示されているが、モリンガ・オレイフェラまたはその抽出物の作用は不明で、線維芽細胞による上昇したMMP発現レベルは、加速した加齢と関連付けられているとする思想に基づく方法であることから、全くMMPの発現の促進を企図した使用ではなかった。さらに、ワサビノキの90%エタノールによる抽出物には、上述のMMP-9を産生阻害する効果があり、MMP-9による細胞外マトリックスの分解を抑制する効果が報告されている(特許文献4)。以上述べたように、ワサビノキの抽出物の利用はいくつか知られてはいるものの、専らMMPもしくはMMP-9の機能を低減する意図で用いられてきたものであって、ワサビノキの抽出物がMMP-9の機能を高める可能性については全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-016277号公報
【特許文献2】特表2002-507575号公報
【特許文献3】特表2014-521698号公報
【特許文献4】特表2012-530769号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kawasaki K, Yamanishi K, Yamada H., Int J Dermatol.2015 54(3):295-301.
【非特許文献2】Jose L Orgaz et al.,Nat Commun.2014 jun 25;5:4255.
【非特許文献3】Takashi Kobayashi.,Ensho Saisei.2004 24(5):578―583.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法および、新規の乳頭突起改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、MMP-9が乳頭突起形成促進に関わることを明らかにし、表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度の少なくとも1つを指標とした乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法を発明し、前記課題を解決した。
さらに、該スクリーニング方法を用いたスクリーニングを実施し、本発明の指標によって乳頭突起形成促進作用を有すると判断されたワサビノキの抽出物に実際に乳頭突起形成促進作用を確認し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法および、ワサビノキの抽出物を含有するMMP-9産生促進剤および乳頭突起形成促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】若齢ドナー由来表皮細胞と老齢ドナー由来表皮細胞の表皮細胞のMMP-9タンパク質量を示す図である。
図2】若齢ドナー由来表皮細胞と老齢ドナー由来表皮細胞の表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量を示す図である。
図3】MMP-9抗体による皮膚組織の免疫染色の結果を示す図である。
図4】各条件の表皮細胞の基盤収縮度を示す図である。
図5】加齢により収縮度が減少した表皮細胞の著効例を示す図である。
図6】MMP-9経路阻害剤を作用させた際のアクチン線維の構造を観察した結果を示す図である。
図7】各条件の表皮細胞の乳頭突起様構造形成力を示す図である。
図8】各植物抽出物添加時の表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量を示した図である。
図9】各植物抽出物配合クリーム使用前後の乳頭突起個数変化率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法は、
(1)表皮細胞に被験物質を添加し培養するステップ、
(2)表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度から選ばれる少なくとも1つ以上を測定するステップ、
(3)ステップ(2)で得られた表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度から選ばれる少なくとも1つ以上を被験物質の無添加群と比較し、選ばれた表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度のうちの少なくとも1つを向上させる物質を、乳頭突起形成促進作用を有する物質と判断するステップ
を含む。
【0017】
本発明における乳頭突起形成促進剤のスクリーニング法で用いる細胞種は表皮細胞であれば特に制限されないが、好ましくはヒト由来培養表皮細胞であり、MMP-9遺伝子発現量及び/又はMMP-9タンパク質量が減少した細胞を用いることがさらに好ましい。MMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量が減少した細胞としては、ドナーの年齢が高い細胞のほか、公知の老化誘導手段によってドナーの年齢が高い細胞を模した細胞、あるいは公知の薬品や処置などによってダメージを与えることによりダメージがない場合に比べてMMP-9遺伝子発現量及び/又はMMP-9タンパク質量が減少した細胞などが例示される。
【0018】
表皮細胞を培養する培地は、本発明に用いる表皮細胞の培養に適した公知の培地を使用することが可能である。例えば表皮角化細胞増殖用培地(Humedia KG2(KURABO))、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)などが挙げられる。細胞増殖時には、ウシ胎児血清などの血清や、増殖因子、抗菌剤、インスリンなどの添加剤を添加することが好ましい。
【0019】
被験物質は、特に制限はない。動植物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被検物質として用いることができ、液状の他、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。
【0020】
本発明でいう「表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量を指標とした」とは、任意の方法を用いて表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量を効果判定の基準にするという趣旨である。本発明において指標とする「表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量」は、細胞中で産生されたMMP-9の量を定量的に把握できればよく、直接的にMMP-9の遺伝子発現量や、MMP-9のタンパク質量を定量することに加え、例えば、基質として公知のタンパク質の分解量、MMP-9の酵素活性など、「表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量」の変動により、測定値が変動する対象を定量化することで、間接的に「表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量」として把握することもできる。
【0021】
表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量の定量は、公知の方法で行うことができる。例えば、遺伝子発現量の測定の場合はリアルタイムPCR、半定量的PCR、タンパク質量の測定の場合は免疫染色法、ウエスタンブロッティング、ELISA、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法等を用いて測定することができる。「表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量」の変動により、測定値が変動する対象を定量化することで、間接的に「MMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量」を把握する際には、例えば変性コラーゲンの分解などをMMP-9酵素活性測定、ザイモグラフィー等を用いて測定することができる。
【0022】
本発明における「細胞収縮度を指標とした」とは、任意の方法を用いて細胞収縮度を効果判定の基準にするという趣旨である。本発明において指標とする細胞収縮度は、細胞がゲルなどの変形可能な基盤に接着した際に、細胞が収縮すると同時に、接着した基盤に力をかけて、基盤を変形させて収縮させる力を表し、基盤を収縮させる力が高いほど細胞収縮度が高いと判断する。
【0023】
細胞収縮度の測定は、公知の方法で行うことができる。例えば、顕微鏡や目視で細胞の大きさ変化の観察、細胞周囲の培養基盤の変形度、細胞収縮を引き起こすアクトミオシン活性などから測定することができる。細胞周囲の培養基盤の変形度を測定する場合には、例えば、細胞収縮力の測定方法として市販されているFLECS plateを用いることができる(https://www.funakoshi.co.jp/contents/69303)。FLECS plateは蛍光標識された細胞接着因子からなり、細胞接着因子に結合した細胞が収縮すると接着因子も収縮し、細胞接着因子のサイズの変位量を細胞の収縮度として解析することができる。
【0024】
本発明における被験物質の無添加群は、被験物質の表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量、もしくは細胞収縮度の向上作用を評価できる対照となるものであれば特に限定されないが、例えば、被験物質を溶解するために用いた溶媒を用いるほか、何も添加しないことも含む。
【0025】
本発明においては、例えば、指標とするMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量又は細胞収縮度を被験物質の無添加群と比較し、MMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量又は細胞収縮度を向上させる被験物質を乳頭突起形成促進剤として利用可能であると判断する。前記遺伝子発現量またはタンパク質量が、無添加群と比較して10%以上増加する被験物質、又は細胞収縮度が無添加群と比較して5%以上増加する被験物質を乳頭突起形成促進剤として効果が高いと判断する。
【0026】
本発明における表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量を指標とした乳頭突起形成促進剤のスクリーニング方法は、例えば、MMP-9遺伝子発現量を測定する場合は、以下のように行うことができる。
(1)表皮細胞をシャーレ中の培地内で培養する。
(2)水に溶解した被験物質を添加し、同時に被験物質の無添加群として被験物質と同体積の水を添加する。
(3)一定期間培養し、被験物質を表皮細胞に作用させる。
(4)表皮細胞からtotalRNAを抽出する。
(5)totalRNAからcDNAを合成する。
(6)リアルタイムPCRによりMMP-9遺伝子発現量を定量化し、被験物質の無添加群に対する被験物質添加時のMMP-9遺伝子発現量を算出する。
(7)無添加群に対する被験物質添加時のMMP-9遺伝子発現量が10%以上増加していたら、該被験物質を乳頭突起形成促進剤として利用可能であると判断する。
【0027】
本発明で用いるワサビノキ(学名:Moringa oleifera Lam.)は、インドをはじめとし、フィリピン、台湾などで栽培されている樹木で、属名であるモリンガとも呼ばれる。ポリフェノール、アミノ酸、ビタミンEなどの栄養素を豊富に含んでおり、その高い栄養価と効能から、地域によっては「緑のミルク」、「生命の木」とも呼ばれている。
【0028】
本願発明で用いるワサビノキ抽出物の抽出部位は特に制限されない。例えば、種子、幹、枝、葉、花、根等を用いることができる。中でも種子を用いることが好ましく、さらには外皮を含む種子を粉砕して用いることが好ましい。また、その抽出溶媒は特に限定されず、例えば、水、プロピルアルコール等の低級アルコール或いは、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、等の多価アルコール等があげられるが、特に水を選択することが好ましい。
【0029】
本願発明で用いるワサビノキの抽出物の抽出法は、特に限定されない。例えば、乾燥植物1質量部に対して1~100質量部の水および1,3-ブチレングリコールもしくはエタノールの混合液を用い、5~70℃の、好ましくは10~60℃の温度で、1~7日間、特に3~4日間抽出するのが好ましい。抽出後は、ろ過を行い、そのままの状態でも利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色などの精製処理を行うことも出来る。更には、凍結乾燥等をして粉末の状態で用いることも出来る。
【0030】
本発明の乳頭突起形成促進剤およびMMP-9産生促進剤の使用方法は特に制限されない。最終形態として、液状、乳化物状、ゲル状、固形状、粉末状、顆粒状等のどのような形態であっても問題なく、その効果を損なわない範囲で任意配合成分を必要に応じて適宜配合することができる。前記任意配合成分としては、例えば、油剤、界面活性剤、粉体、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、香料、各種薬効成分、pH調整剤、中和剤などが挙げられる。また、MMP-9産生促進剤として、細胞運動促進を介して乳頭突起以外の組織形成促進の制御も可能である。乳頭突起形成促進剤およびMMP-9産生促進剤を作用させる細胞種は表皮細胞であればその状態は特に制限されず、人体の皮膚組織中の表皮細胞に作用させることだけではなく、皮膚移植等で使用される摘出した皮膚組織中の表皮細胞、培養基材を用いた人工皮膚中の表皮細胞等に作用させることができる。
【実施例0031】
以下、本願発明の実施例について具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
[試験1]
<MMP-9産生量と老化の関連評価>
若齢ドナー(19歳)および老齢ドナー(51歳)の正常ヒト表皮ケラチノサイトをHumedia KG2(KURABO)に8.5×10 Cells/mLとなるように分散し、6 well plate 上に2mLずつ播種した。37℃、5% CO下で72時間培養した。培地2mLを回収した。Human MMP Antibody Array Membrane(abcam)のプロトコルに準じて、回収した培地中のMMP-9タンパク質量を測定し、若齢ドナーのMMP-9タンパク質量を1とした際の老齢ドナーのMMP-9タンパク質量を相対量として求めた。
【0033】
図1に示すように、老齢ドナーでは若齢ドナーに比べて、3分の2以下のタンパク質量であった。このことから、表皮細胞が産生するMMP-9タンパク質量は加齢により減少することが分かった。
【0034】
[試験2]
<MMP-9遺伝子発現量と老化の関連評価>
若齢ドナー(19歳)および老齢ドナー(51歳)の正常ヒト表皮ケラチノサイトをHumedia KG2(KURABO)に懸濁し、8.5×10cells /mLになるように細胞懸濁液を調製し、24穴培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、 5%CO下で2日間培養後、Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、MMP-9およびGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を以下のプライマー及び酵素を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System、アプライドバイオシステムズ)にて測定した。プライマーには、MMP-9用センスプライマー(5’-GACGCAGACATCGTCATCCA-3’)、アンチセンスプライマー(5’-AACTCGTCATCGTCGAAATGG-3’)、GAPDH用センスプライマー(5’-CCACATCGC TCAGACACCAT-3’)、アンチセンスプライマー(5’-TGACCAGGC GCCCAATA-3’)を用いた。PCRの反応にはPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を使用し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による遺伝子発現量の変化は、若齢ドナーのMMP-9のCt値をGAPDHのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0035】
図2に示すように、老齢ドナーはMMP-9の遺伝子発現量が若齢ドナーと比較して少なく、加齢により表皮細胞のMMP―9遺伝子発現量が減少することが分かった。このことからMMP-9のタンパク質量とMMP-9遺伝子発現量は、一方を測定することで、他方を把握できることが分かった。
【0036】
[試験3]
<MMP-9分泌部位と老化の関連評価>
ヒト皮膚組織は、若齢(29歳)と老齢(72歳)のドナーの腹部の皮膚を、BIOPREDIC社から購入して得た。ヒト皮膚組織は、O.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン)に包埋して凍結し、クリオスタットで4μmの切片を作製し、スライドガラスに付着させた。これを95%エタノールに浸漬して固定し、免疫染色した。一次抗体は、Anti MMP-9 rabbit polyclonal antibodyを用い、二次抗体はAlexa Fluor 594 conjugate anti-rabbit IgG(H+L)chicken secondary antibodyを用いた。その後、染色した切片を、蛍光顕微鏡(BZ-X700, KEYENCE)を使用して顕微鏡観察 (20倍)、写真撮影を行った。
【0037】
図3は、MMP-9抗体による皮膚組織の免疫染色の結果を示す。MMP-9を用いた免疫染色は、該抗体が皮膚中のMMP-9に結合し、ここに蛍光を発する二次抗体が結合することでMMP-9存在部が赤色の蛍光を発する。図3より、白矢じるしで示すように、明確な乳頭突起構造を有する若齢ヒト由来の皮膚において、その乳頭突起周辺では、乳頭突起構造が認められない老齢ヒト由来の皮膚では見られない、赤色に強く蛍光を発する部分があり、MMP-9存在部が乳頭突起表皮細胞側の輪郭部によく一致していることがわかった。すなわち、乳頭突起表皮細胞側におけるMMP-9の存在は乳頭突起の有無と相関する。
【0038】
[試験4]
<細胞の収縮力の加齢変化とMMP-9経路阻害による影響評価>
新生児ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト(以下新生児ケラチノサイト)、50歳成人ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト(以下50歳成人ケラチノサイト)及び51歳成人ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイト(以下51歳成人ケラチノサイト)5.0×10 Cells/mLをHumedia KG2(KURABO)に分散し、細胞収縮力測定キットFLECS Plate(Forcyte Biotechnologies)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO条件化で6時間培養後、新生児ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイトにMMP-9経路阻害剤Y-27632を20μMとなるように添加した。さらに37℃、5%CO条件化で20時間培養後、細胞の核を4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)で染色し蛍光顕微鏡(BZ-X700, KEYENCE)を使用して顕微鏡観察(20倍)、写真撮影を行った。撮影した写真の細胞が接着している十字型のゲルの十字を構成する線の長さをimageJ(OPEN SOURCE)で測定し下記のように細胞による基盤収縮度を算出した。また、細胞アクチン染色試薬Alexa Fluor(登録商標) 488 Phalloidinで処理した新生児ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイトについて、蛍光顕微鏡(BZ-X700, KEYENCE)を使用して細胞構造観察(20倍)し、写真撮影を行った。
【0039】
細胞収縮力測定キットFLECS Plateはプラスチック上に十字ゲルが配置された構造をとり、十字ゲルは赤色の蛍光として観察される。また、細胞の核をDAPIで青色に染色することによって細胞が接着している十字ゲルを判定することができる。細胞が接着していない十字ゲル(Controlゲル)の十字を構成する線の長さと、細胞が接着している十字ゲルの十字を構成する線の長さから基盤収縮度(細胞収縮度)を下記の式で示した。
【0040】
【数1】
【0041】
表皮細胞の細胞による基盤収縮度をN=6で行い平均をプロットした結果を図4に示した。新生児ドナー由来ヒト表皮細胞に比べ、加齢した50歳成人ドナー由来ヒト表皮細胞及び51歳成人ドナー由来ヒト表皮細胞では細胞収縮度が低く、加齢によって細胞の収縮度が減少していることがわかった。著効例を図5に示した。また、新生児ドナー由来ヒト表皮細胞にMMP-9経路阻害剤であるY-27632を作用させることで、加齢変化と同様に細胞収縮度が低下することがわかった。すなわち、本試験はMMP-9が表皮細胞の細胞収縮にとって重要な役割を果たすことを示したと同時に、細胞収縮度を測定することで表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量及び/又は表皮細胞のMMP-9タンパク質量を把握できることを示した。
【0042】
新生児ドナー由来ヒト表皮ケラチノサイトにMMP-9経路阻害剤Y-27632を作用させた際のアクチン線維の構造を観察した結果を図6に示した。Y-27632を添加していない新生児ケラチノサイトでは細胞内のアクチン線維 (白矢じるし)が存在しているが、Y-27632添加新生児ケラチノサイトではアクチン線維が形成されず、細胞が肥大化している (収縮していない) 様子が観察された。つまり、細胞収縮度はMMP-9によって制御されており、これまでの結果を総合すると、加齢によって低下するMMP-9が細胞収縮度低下の原因であり、加齢により細胞収縮度が低下することで表皮の形態変化が起こりづらくなり、乳頭突起形成力が低下しているとの仮説が立った。試験5はこの仮説を立証した。
【0043】
[試験5]
<乳頭突起構造形成皮膚モデルを用いたMMP-9経路阻害による突起への影響確認>
乳頭突起構造形成皮膚モデルの作成は特願2020―101725に従った。
【0044】
〔乳頭突起構造形成皮膚モデルの作成〕
乳頭突起構造形成皮膚モデル構成成分である培養基材を以下の手順で作製した。線維型コラーゲンとして、市販のI型コラーゲンの0.3w/v%溶液(倉敷紡績社製、Cellmatrix(登録商標)Type-A)とpH7.4の10×PBS(Phosphate-Buffered Saline:1370mmol/LのNaCl、81mmol/LのNaHPO、26.8mmol/LのKCl、14.7mmol/LのKH2PO4を含む水溶液)を8:1で混合した溶液を用いた。基底膜マトリックス調製物は、市販のマトリゲル(Corning社製、標準Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス調製物:タンパク濃度10mg/mL)は、氷冷下で2時間放置して解凍した溶液を用いた。架橋剤としてグルタルアルデヒドの0.1w/v%水溶液を、架橋停止剤としてグリシンの2w/v%水溶液を用いた。線維型コラーゲン(I型コラーゲン)の溶液と基底膜マトリックス(マトリゲル)の溶液、架橋剤溶液を最終的にコラーゲン0.08(w/v%)、マトリゲル0.7(w/v%)、グルタルアルデヒド0,01(w/v%)含量となるように混合し、水で全量を100w/v%とした。この混合液150μLを、8ウェルタイプのチャンバースライド(IWAKI社製、10mm×10mm)の各ウェルに注入し、4℃で12時間インキュベートした。その後、37℃で2時間インキュベートしてゲル状物を得た。次いで、各ウェル当たり架橋停止剤である2w/v%グリシン水溶液200μLを加え37℃で2時間インキュベートした後、ゲル状物上の液体を排除して、培養基材を保持したチャンバースライドを得た。新生児由来ヒト表皮ケラチノサイトを培養液中1×10Cells/mLとなるように培養液であるHumedia KG2(KURABO)に分散し、上記で調製したチャンバースライドの培養基材上に各ウェルあたり200μLを播種し37℃、5%COの存在下で24時間後することで、乳頭突起構造形成皮膚モデルを得た。
【0045】
〔MMP-9阻害の乳頭突起形成モデルへの影響確認〕
MMP-9経路阻害剤Y-27632を20μMとなるように乳頭突起構造形成皮膚モデルに添加した。その後さらに72時間培養を行い、得られたケラチノサイトの細胞層の観察を行った。チャンバースライドから培地を除去し、各ウェル当たり100μLのPBS(-)でチャンバースライドを1回洗浄した。次いでPBS(-)に溶解した0.5v/v%のTriton X-100の溶液100μLを各ウェルに添加した。室温下で15分間放置した後、各ウェル当たり100μLのPBS(-)を用いた洗浄を3回繰り返した。予め調製しておいたアクチン染色液(2.5w/v%のAlexa Fluor(登録商標) 488 Phalloidin溶液 (Thermo Fisher Scientific, with 1v/v%BSA in PBS(-)溶液))の100μLを各ウェルに添加し、室温下で20分間放置してアクチンを染色した。その後170μLの3v/v%BSA in PBS(-)を添加し20分間反応させてブロッキングした。そこに、1次抗体(抗ラミニン抗体 ウサギ宿主抗体(L9393 Sigma))の溶液(PBS(-)による100倍希釈液)を70μL添加し、室温で2時間反応させた。次いでWash buffer (T-PBS)で5分間接触させることを3回繰り返して洗浄を行った。蛍光標識された2次抗体(Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 594 (Thermofisher))の溶液(PBS(-)による200倍希釈液)を70μL添加して室温で45分間反応させた。再びWash buffer(T-PBS)を5分間接触させることを3回繰り返して洗浄した。さらに100μLのPBS(-)で3回洗浄した。そして、Mounting Fluid (Aqua poly/Mount, Diagnostic Biosystems)を1滴添加して、ケラチノサイトの細胞層とゲルの観察を蛍光顕微鏡(BZ-X700, KEYENCE)のセクショニングモードで行った(20倍)。画像の解析は画像解析ソフト(BZ-X Analyzer,KEYENCE)で行った。
【0046】
〔観察結果〕
観察結果を図7に示した。新生児ケラチノサイトは乳頭突起様の凸状部が形成され凸状部の表面全体に細胞層が形成された(図中白点線で細胞層の形状を示している)が、MMP-9経路阻害剤Y-27632を添加した新生児ケラチノサイトでは乳頭突起様の凸状部が形成されず、平面状に細胞層が形成された。以上の結果より、MMP-9が細胞収縮とそれに引き続く乳頭突起形成を調整していることが明らかとなり、その過程のどこかを促せば乳頭突起の形成を促すことができる、すなわち、表皮細胞のMMP-9遺伝子発現量、表皮細胞のMMP-9タンパク質量、表皮細胞の細胞収縮度から選ばれるすくなくとも一つを指標とすることで、乳頭突起形成促進剤をスクリーニングできることが見出された。
【0047】
[試験6]
<ワサビノキのMMP-9産生促進作用評価>
〔被験物質の調整〕
ワサビノキの抽出物の調製:乾燥させた外皮を含むワサビノキの種子を粉砕し、10倍の質量の精製水を加えて60℃、4時間加熱抽出した。抽出物の乾燥残分1に対して、124倍量の70%グリセリン水溶液を加え、希釈したもの被験物質とした。
ホオズキの抽出物の調製:乾燥させたシマホオズキの果実に10倍の質量の50%エタノール水溶液を加え、室温下で6日間抽出した。この抽出物の乾燥残分1に対して、49の蒸留水と50の1,3-ブチレングリコールを加えて、試料溶液とした。
比較サンプル:比較対象のサンプルとしては、ヒキオコシ葉/茎エキス(一丸ファルコス)、オウゴン根エキス(一丸ファルコス)を用いた。
【0048】
〔MMP-9遺伝子発現量解析〕
若齢ドナー(19歳)および老齢ドナー(51歳)の正常ヒト表皮ケラチノサイトをHumedia KG2(KURABO)に懸濁し、5.0×10cells /mLになるように細胞懸濁液を調製し、24穴培養プレートに500μLずつ播種した。37℃、 5%CO下で24時間培養後、調製した被験物質、もしくは被験物質の溶媒をそれぞれ終濃度0.4%、0.2%になるように添加し、37℃、 5%CO下で2日間培養した。Total RNA Purification Kit(Jena Bioscience)を用いて、Total RNAを抽出した。その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、MMP-9およびGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を以下のプライマー及び酵素を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System、アプライドバイオシステムズ)にて測定した。プライマーには、MMP-9用センスプライマー(5’-GACGCAGACATCGTCATCCA-3’)、アンチセンスプライマー(5’-AACTCGTCATCGTCGAAATGG-3’)、GAPDH用センスプライマー(5’-CCACATCGC TCAGACACCAT-3’)、アンチセンスプライマー(5’-TGACCAGGC GCCCAATA-3’)を用いた。PCRの反応にはPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を使用し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による遺伝子発現量の変化は、被験物質の溶媒添加時のMMP-9のCt値をGAPDHのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0049】
図8に示すように、ワサビノキの抽出物には表皮のMMP-9の遺伝子発現量を増加する効果があることが確認された。
【0050】
[試験7]
<ワサビノキの乳頭突起形成促進作用評価>
ワサビノキ抽出物もしくはホオズキ抽出物を配合した、下記の外用組成物を作製し、乳頭突起改善効果及び皮膚状態の改善効果を確認した。15名のパネラー(40歳~50歳の男性)に、当該組成物の適量を朝晩各1回、2か月間、顔に塗布してもらった。乳頭突起の観察は共焦点レーザー生体顕微鏡(Vivascope1500、Caliber I.D.)を用いて頬部を観察した。
【0051】
【0052】
乳頭突起観察画像の解析は乳頭突起が観察され始めてからおおよそ25μmの位置の水平画像を1.0mm×1.0mmの画像を得て、乳頭突起個数を目視で数え、2か月間の当該組成物使用前の乳頭突起個数を100とした時の、使用後の乳頭突起個数を算出した。
【0053】
図9に示すように、ワサビノキ抽出物配合組成物では、乳頭突起の50%以上の増加が確認された一方、比較対象であるホオズキ抽出物配合組成物やコントロールでは乳頭突起の増加は見られなかった。
この結果より、MMP-9産生促進効果があるワサビノキの抽出物に、皮膚の乳頭突起形成促進作用があることが明らかとなり、老化等に伴う乳頭突起の平坦化を改善するための乳頭突起形成促進剤として利用可能であることが分かった。
【0054】
[試験8]
<ワサビノキの人工皮膚への乳頭突起形成促進作用評価>
試験6に記載のワサビノキ抽出物4.00%水溶液を特願2020―101725の製法に従い作製した人工皮膚に添加したところ、人工皮膚の乳頭突起形成は促進された。ワサビノキ抽出物は人体への塗布用途での利用だけでなく、人工皮膚の乳頭突起形成促進剤としても利用可能であることが確認された。






図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9