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特開2022-156133生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156133
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/358 20210101AFI20221006BHJP
   A61B 5/33 20210101ALI20221006BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A61B5/358
A61B5/33 110
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059671
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭
(72)【発明者】
【氏名】長澤 匡章
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ18
4C127AA02
4C127DD04
4C127GG01
4C127GG02
4C127GG07
4C127GG16
4C127HH06
(57)【要約】
【課題】心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができるようにする。
【解決手段】本発明の生体情報処理装置100は、判定部120、ST計測部130、解析部140を有し、判定部120は、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する。ST計測部130は、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う。解析部140は、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する判定部と、
判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行うST計測部と、
ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する解析部と、
を有する生体情報処理装置。
【請求項2】
さらに、前記解析部が出力する解析結果、心筋虚血に関するアラームまたはメッセージを通知する通知部を有する、請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記被検者の心電図波形を、心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれかに該当する心電図波形に分類して、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループを作成し、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループから作成した代表波形を用いて、心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する、請求項1または2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記判定部は、心室ペーシング拍のグループが有する複数の心電図波形から作成した平均波形を心室ペーシング拍の代表波形とし、または左脚ブロック拍のグループが有する複数の心電図波形から作成した平均波形を左脚ブロック拍の代表波形とする、請求項3に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記被検者に取り付ける電極の数が3または6である場合には、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍に該当する心電図波形を判定し、前記被検者に取り付ける電極の数が10である場合には、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍に該当する心電図波形および左脚ブロック拍に該当する心電図波形を判定する、請求項1~4のいずれかに記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
前記ST計測部は、判定された心電図波形に対して、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準の少なくとも一方に基づく判定と、心室ペーシング拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値または左脚ブロック拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値とを、心筋虚血の評価基準として適用してST計測を行う、請求項1~5のいずれかに記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記ST計測部は、前記被検者に取り付ける電極の数が3の場合には、心室ペーシング拍と判定された心電図波形が、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に合致しているか否かを判断することによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行い、前記被検者に取り付ける電極の数が6または10の場合には、心室ペーシング拍と判定された心電図波形が、電極の数が3の場合とは異なるスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に照らして求めたスコアがいくつになるかによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行い、前記被検者に取り付ける電極の数が10の場合には、左脚ブロック拍と判定された心電図波形が、電極の数が6の場合の心室ペーシング拍と判定された心電図波形と同様のスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に照らして求めたスコアがいくつになるかによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行う請求項6に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
前記ST計測部は、前記被検者に取り付ける電極の数が6または10の場合には、各誘導の心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形に対するスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準のスコアがそれぞれいくつになるかを求め、すべての誘導の合計スコアを算出することによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行う、請求項7に記載の生体情報処理装置。
【請求項9】
前記ST計測部は、ST計測を行う際の心電図波形の形状に関する測定値として、少なくとも前記心電図波形の計測基準点(ISOポイント、Jポイント)、STJ値、STJ/QRS主ピーク振幅を用いる、請求項8に記載の生体情報処理装置。
【請求項10】
前記解析部は、STJ値が設定されているアラーム閾値を超えている場合にはアラームを出力し、STJ値が設定されているアラーム閾値を超えていなくても、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準またはスミス(Smith)の基準に合致している場合にはメッセージを出力する、請求項9に記載の生体情報処理装置。
【請求項11】
前記解析部は、前記被検者に取り付ける電極の数が6または10の場合には、任意の誘導のSTJ値が設定されているアラーム閾値を超えた場合にはアラームを出力し、任意の誘導のSTJ値が設定されているアラーム閾値を超えていなくても、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準またはスミス(Smith)の基準の合計スコアが、設定されている合計スコアを超えている場合には、メッセージを出力する、請求項9に記載の生体情報処理装置。
【請求項12】
前記通知部は、ST計測の解析結果として、前記判定部が作成した代表波形および心電図波形の形状に関する測定値を画面に表示する、請求項3または4に記載の生体情報処理装置。
【請求項13】
前記通知部は、画面に正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を選択的に切り替える機能を有する、請求項12に記載の生体情報処理装置。
【請求項14】
前記通知部は、正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を登録する機能を有する、請求項13に記載の生体情報処理装置。
【請求項15】
前記通知部は、表示する心電図波形の枠線を、心電図波形のST値が大きくなるにしたがって濃く表示する、請求項14に記載の生体情報処理装置。
【請求項16】
心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形であっても、それらの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができるようにした生体情報処理方法であって、
被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する段階と、
判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う段階と、
ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する段階と、
を含む、生体情報処理方法。
【請求項17】
心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形であっても、それらの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができるようにした生体情報処理装置の制御プログラムであって、
前記生体情報処理装置として機能させるコンピュータを、
被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する判定部と、
判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行うST計測部と、
ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する解析部と、
して機能させる、生体情報処理装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができる、生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞や狭心症などの心筋虚血のモニタリングをするためには、心電図波形のST部(S波とT波との間の部分)の基線からの偏移(ST値)を計測する。一般にST値は、正常な刺激伝導系を介して心室が収縮する場合に得られる心電図波形において心筋虚血の有無の指標として用いられる。心電図波形のST部が基線から上がったり下がったりすると、心筋虚血が示唆される(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、心室ペーシングまたは左脚ブロックの場合には、心電図波形の形状が一般の心筋虚血時の心電図波形と比較して大きく変わってしまう。心電図波形の形状が大きく変わってしまうと、その心電図波形から得られるST値が一般の心筋虚血時の心電図波形から得られるST値とは大きく異なってしまう。このため、心室ペーシングまたは左脚ブロックの場合には、従来のように、ST値だけで心筋虚血のモニタリングをすることは困難である。
【0004】
以上の理由から、現在では、心室ペーシングまたは左脚ブロックの場合に、ST値を用いた心筋虚血のモニタリングは行っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6595582号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、心室ペーシングまたは左脚ブロックの場合に、虚血を評価するためのクライテリアとして、スガルボッサ(Sgarbossa)とスミス(Smith)の基準が知られている。
【0007】
心室ペーシングを行っている患者や左脚ブロックの患者でも心筋虚血となることはあるので、心筋虚血のモニタリングができるようにしたいという要望がある。
【0008】
しかし、たとえば、心室ペーシング拍のST値はペースメーカーから出力されるペーシングパルスの影響を受けるため、単純にST値をモニタリングの対象に含めると、表示されるST値が混乱を招きかねない。このため、心室ペーシング拍のST値は一般のST値とは別に扱うことが好ましい。同じく、左脚ブロック拍のST値も心室ペーシング拍のST値と同様に一般のST値とは別に扱うことが好ましい。なお、右心室にリードを留置した心室ペーシング拍の心電図波形は左脚ブロック拍と同様の心電図波形となることが知られている。
【0009】
発明者らは、従来の心電図波形のST値などの計測値に加え、スガルボッサ(Sgarbossa)とスミス(Smith)の基準を応用すれば、心室ペーシングまたは左脚ブロックの場合であっても、工夫を凝らすことによって、心筋虚血のモニタリングができるのではないかと考えた。
【0010】
本発明は、このような要望に応えるために成されたものであり、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形であっても、それらの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができる、生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の生体情報処理装置は、判定部、ST計測部、解析部を有し、判定部は、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する。ST計測部は、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う。解析部は、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の生体情報処理方法は、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する段階と、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う段階と、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する段階と、を含む。
【0013】
上記目的を達成するための本発明の生体情報処理装置の制御プロフラムは、生体情報処理装置として機能させるコンピュータを、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する判定部と、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行うST計測部と、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する解析部と、して機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラムによれば、従来はモニタリングが困難であった、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形に対して心筋虚血のモニタリングができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の生体情報処理装置のブロック図である。
図2】本実施形態の生体情報処理装置のメインフローチャートである。
図3図2のフローチャートの<代表波形を作成>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図4図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図5図4のフローチャートの<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図6図4のフローチャートの<スミス(Smith)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図7図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図8】実施形態2における、図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図9】実施形態2、3におけるフローチャート(図8図12)の<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図10】実施形態2、3におけるフローチャート(図8図12)の<スミス(Smith)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図11】実施形態2における、図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図12】実施形態3における、図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図13図12のフローチャートの<代表波形は心室ペーシングまたは左脚ブロック?>のステップにおける<左脚ブロックの判定>のサブルーチンフローチャートである。
図14】実施形態3における、図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
図15】正常な心電図波形を示す図である。
図16】心筋虚血が示唆される心電図波形を示す図である。
図17図13のフローチャートにおいて、左脚ブロックの判定に用いられるV1誘導がrS型またはQS型の波形を示す図である。
図18図13のフローチャートにおいて、左脚ブロックの判定に用いられるV6誘導がR型の波形を示す図である。
図19】STアラームの設定範囲を示す図である。
図20】STJアラームの設定範囲を示す図である。
図21】STJ/QRSアラームの設定範囲を示す図である。
図22】スガルボッサ(Sgarbossa)/スミス(Smith)の判定閾値の設定範囲を示す図である。
図23】ST値およびSTリコール波形の具体例を示す図である。
図24】STリコールの表示形態の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の生体情報処理装置の実施形態を、[実施形態1]~[実施形態3]に分けて説明する。
【0017】
[実施形態1]
(生体情報処理装置の構成)
図1は、本実施形態の生体情報処理装置のブロック図である。図1の生体情報処理装置の構成は、実施形態1~3のすべてにおいて共通である。生体情報処理装置100は、判定部120、ST計測部130、および解析部140を有する。
【0018】
判定部120は、被検者の体に取り付けられた電極110から心電図波形を入力し、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する。
【0019】
ST計測部130は、判定部120によって判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う。具体的には、ST計測部130は、判定部120によって判定された心電図波形に対して、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定と、心室ペーシング拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値または左脚ブロック拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値とを、独自の心筋虚血の評価基準として適用してST計測を行う。
【0020】
解析部140は、ST計測部130によって計測されたST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に出力する。可聴的な出力としてはアラームを鳴らすことが例示でき、視覚的な出力としてはメッセージを表示することが例示できる。具体的には、解析部140は、STJ値が設定されているアラーム閾値を超えている場合にはアラームを出力し、STJ値が設定されているアラーム閾値を超えていなくても、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に合致している場合にはメッセージを出力する。
【0021】
判定部120は、心拍検出部122、パルス検出部124、および心拍判定部126を有する。心拍検出部122は、電極110からの心電図波形を入力して被検者の心拍を検出する。パルス検出部124は、被検者に取り付けられているペースメーカーからのペーシングパルスの有無を検出する。
【0022】
心拍判定部126は、心拍検出部122によって検出された被検者の心拍とパルス検出部124によって検出されたペーシングパルスの有無とによって、被検者の心電図波形を、心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれかに該当する心電図波形に分類して、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループを作成し、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループから作成した代表波形を用いて、心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する。
【0023】
生体情報処理装置100は、さらに通知部150を有する。通知部150は、解析部140が出力する解析結果、心筋虚血に関するアラームまたはメッセージを通知する。通知部150は、ST計測部130によるST計測の解析結果として、判定部120が作成した代表波形および心電図波形の形状に関する測定値を画面に表示する。また、通知部150は、画面に正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を選択的に切り替える機能を有する。さらに通知部150は、正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を登録する機能を有する。さらに通知部150は、表示する心電図波形の枠線を、心電図波形のST値が大きくなるにしたがって濃く表示する。
【0024】
生体情報処理装置100は、さらに解析制御部160、操作部170および記憶部180を有する。解析制御部160は、パルス検出部124、心拍判定部126、および解析部140の動作を総括的に制御する。操作部170は、解析制御部160に対して各種の設定を指示する。記憶部180は、判定部120、ST計測部130、解析部140の制御プログラムを記憶する。また、記憶部180は、判定部120、ST計測部130、解析部140による処理の過程で入力したり解析したりした心電図波形に関する情報を記憶したり、通知部150に表示させる情報を記憶したりする。
【0025】
(生体情報処理装置の動作)
本実施形態の生体情報処理装置100の概略の構成は以上の通りである。次に、本実施形態の生体情報処理装置の動作について説明する。
【0026】
本実施形態の生体情報処理装置100の動作は、生体情報処理装置100の生体情報処理方法を実施するものでもある。生体情報処理方法は、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形であっても、それらの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができるようにした生体情報処理方法であって、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する段階と、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行う段階と、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関するアラームまたはメッセージを出力する段階と、を含む。
【0027】
また、本実施形態の生体情報処理装置100の動作は、生体情報処理装置100を構成するコンピュータによって制御される。本実施形態の生体情報処理装置100の動作を制御する制御プログラムは、図1の記憶部180に記憶されている。生体情報処理装置100の制御プログラムは、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形であっても、それらの心電図波形から心筋虚血のモニタリングができるようにした生体情報処理装置100の制御プログラムであって、生体情報処理装置100として機能させるコンピュータを、被検者の心電図波形から心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれか一方に該当する心電図波形であることを判定する判定部120と、判定された心電図波形に対して心筋虚血の評価基準を適用してST計測を行うST計測部130と、ST計測の結果を解析して、解析結果、心筋虚血に関するアラームまたはメッセージを出力する解析部140と、して機能させる。
【0028】
(メインフローチャート)
図2は、本実施形態の生体情報処理装置のメインフローチャートである。図2のメインフローチャートは、生体情報処理装置100を構成するコンピュータによって実行される。なお、図2のメインフローチャートは実施形態1~3に共通する。
【0029】
まず、判定部120は、電極110から心電図波形を入力して被検者の心電図波形を測定する。心電図波形をモニタリングする手法としては、主に3電極、6電極、10電極の場合がある。判定部120は、3電極の場合には1誘導の心電図波形を、6電極の場合には8誘導の心電図波形を、10電極の場合には12誘導の心電図波形をそれぞれ測定する(S100)。なお、実施形態1では、3電極を想定しているので、1誘導の心電図波形を測定することになる。
【0030】
次に、記憶部180は、判定部120が測定した心電図波形を記憶する。記憶部180は、3電極の場合には1誘導の1つの心電図波形を、6電極の場合には8誘導の8つの心電図波形を、10電極の場合には12誘導の12の心電図波形を記憶する(S200)。なお、実施形態1では、3電極を想定しているので、1誘導の心電図波形を記憶することになる。
【0031】
次に、判定部120は、ST計測部130が行った前回のST計測から一定時間経過したか否かを判断する(S300)。具体的には、ST計測部130は、心電図波形に対して、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定と、心室ペーシング拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値または左脚ブロック拍と判定された心電図波形の形状に関する測定値とを、心筋虚血の評価基準として適用してST計測を行う。したがって、判定部120は、このようなST計測が行われてから、一定時間が経過したか否かを判断することになる。なお、ST計測の詳細については後述する。
【0032】
前回のST計測から一定時間経過していなければ(S300:NO)、判定部120は、S100のステップの処理を行う。一方、前回のST計測から一定時間経過していれば(S300:YES)、判定部120は、記憶部180に記憶されている心電図波形から代表波形を作成する(S400)。具体的には、判定部120は、記憶部180に記憶されている被検者の心電図波形を、心室ペーシング拍および左脚ブロック拍の少なくともいずれかに該当する心電図波形に分類して、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループを作成し、心室ペーシング拍のグループまたは左脚ブロック拍のグループから代表波形を作成する。なお、記憶部180に記憶されている心電図波形にノイズが多く含まれていたり、心電図波形のグループ分けが適切に行えなかったりした場合には、代表波形が作成できないことがある。代表波形の作成の詳細については後述する。
【0033】
判定部120は、作成された代表波形があるか否かを判断する(S500)。作成された代表波形がなければ(S500:NO)、判定部120は、S100のステップの処理を行う。一方、作成された代表波形があれば(S500:YES)、ST計測部130はST計測を行う(S600)。具体的には、ST計測部130は、被検者に取り付ける電極の数が3の場合、すなわち3電極の場合には、心室ペーシング拍と判定された心電図波形が、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に合致しているか否かを判断することによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行う。
【0034】
被検者に取り付ける電極の数が6または10の場合、すなわち6電極または10電極の場合には、心室ペーシング拍と判定された心電図波形が、3電極の場合とは異なるスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に照らして求めたスコアがいくつになるかによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行い、10電極の場合には、左脚ブロック拍と判定された心電図波形が、6電極の場合の心室ペーシング拍と判定された心電図波形と同様のスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に照らして求めたスコアがいくつになるかによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行う。
【0035】
また、ST計測部130は、被検者に取り付ける電極の数が6または10の場合、すなわち6電極または10電極の場合には、各誘導の心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形に対するスガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準のスコアがそれぞれいくつになるかを求め、すべての誘導の合計スコアを算出することによって、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準およびスミス(Smith)の基準に基づく判定を行う。
【0036】
解析部140は、ST計測部130の判定の結果を受けて、STリコールを登録する(S700)。具体的には、図23に示すようなST値およびSTリコール波形を登録する。解析部140は、登録したSTリコールが通知条件を満たすか否かを判断する(S800)。登録したSTリコールが通知条件を満たしていなければ(S800:NO)、判定部120は、S100のステップの処理を行う。一方、登録したSTリコールが通知条件を満たしていれば(S800:YES)、解析部140は、通知部150に対して、通知(アラーム/メッセージ)を出力する(S900)。通知部150は、この通知を受けて、解析部140が出力する解析結果、心筋虚血に関する情報を可聴的または視覚的に通知する。なお、通知条件を満たすか否かを判断する処理の詳細については後述する。
【0037】
解析制御部160は、測定が終了したか否かを判断する(S1000)。測定が終了していなければ(S1000:NO)、判定部120は、S100のステップの処理を行う。一方、測定が終了していれば(S1000:YES)、測定処理を終了する。
【0038】
以上が実施形態1の生体情報処理装置のメインフローチャートの概略の処理内容である。次に、図2のメインフローチャート内における、S400のステップの<代表波を作成>、S600のステップにおける<ST計測>、S800のステップにおける<通知条件を満たすか?>のそれぞれのサブルーチンフローチャートについて説明する。
【0039】
(サブルーチンフローチャート)
<代表波を作成>
図3は、図2のフローチャートの<代表波形を作成>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図3のサブルーチンフローチャートは、実施形態1~3に共通する。
【0040】
心拍判定部126は、心拍検出部122から入力される心電図波形を監視して、ノイズのある心電図波形を除外する(S410)。ノイズのある心電図波形であるか否かの判断は、図15に示すような標準的な心電図波形と入力される心電図波形との形状、各部の特徴値が許容範囲内にあるか否かを監視することによって行う。たとえば、入力される心電図波形のISOポイント、Jポイント、STポイント等の各ポイント(図16参照)が、許容範囲から大きく外れていれば、その心電図波形はノイズがあると判断して、その心電図波形は除外する。ノイズがあるか否かの判断は、従来から用いられている一般的な手法を適用することによって行うことができる。また、ISOポイント、Jポイント、STポイント等の各ポイントは、操作部170によって任意に設定することができる。
【0041】
次に、心拍判定部126は、ペーシングパルスの有無、心電図波形の形状別にグループ化する(S420)。ペーシングパルスの有無は、パルス検出部124からの出力によって認識できる。被検者がペースメーカーを取り付けている場合には、心電図波形にペーシングパルスが含まれることがある。パルス検出部124によってパーシングパルスが検出された場合には、その旨が心拍判定部126に出力されるので、心拍判定部126は、心拍検出部122によって検出された心電図波形が、ペーシングパルスを含むものであるのか、含まないものであるのかがわかる。このため、心拍判定部126は、入力される心電図波形を、ペーシングパルスの有無、形状別にグループ化することができる。形状別のグループ化は、図15図16に示すような心電図波形の形状自体の類似性によって行っても良いし、心電図波形の各部の特徴値の測定によって行っても良い。なお、このステップの処理で行われるグループ化の一例としては、正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍へのグループ化がある。また、正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍のそれぞれに分類されたグループにおいても、さらに心電図波形の形状自体の類似性または心電図波形の各部の特徴値によってグループ化される。たとえば、正常拍においては、心電図波形の形状自体の類似性または心電図波形の各部の特徴値によってグループ化される。心房ペーシング拍、心室ペーシング拍についても同様である。
【0042】
次に、心拍判定部126は、S420のステップでグループ化された心電図波形に、正常拍または心房ペーシング拍のグループがあるか否かを判断する(S430)。正常拍または心房ペーシング拍のグループがあれば(S430:YES)、正常拍または心房ペーシング拍のグループのうち最も多くの拍が分類されたグループの平均波形から代表波形を作成する(S440)。たとえば、正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍のそれぞれにおいて、心電図波形の形状自体の類似性または心電図波形の各部の特徴値によってグループ化されているので、正常拍であれば、グループ化されている正常拍のグループのうち最も多くの拍が分類されたグループの平均波形(グループにおいて平均化された波形)を作成し、その平均波形を正常波形の代表波形とする。心房ペーシング拍、心室ペーシング拍についても同様である。
【0043】
一方、正常拍または心房ペーシング拍のグループがなければ(S430:NO)、心室ペーシング拍のグループがあるか否かを判断する(S450)。心室ペーシング拍のグループがあれば(S450:YES)、心室ペーシング拍のグループのうち最も多くの拍が分類されたグループの平均波形から代表波形を作成する(S460)。心室ペーシング拍のグループがなければ(S450:NO)、「代表波形を作成」の処理を終了する。
【0044】
<ST計測>
図4は、図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図4のサブルーチンフローチャートは、3電極を想定する実施形態1にのみに適用される。
【0045】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形の計測基準点を決定する(S610)。代表波形の計測基準点とは、図16の心電図波形に示されている、ISOポイントまたはJポイントである。なお、ISOポイントとは、QRS起始部(Q波の始まる点)の平坦点の電位であり、Jポイントとは、S波からT波に向かう曲線の変曲点の電位である。
【0046】
次に、ST計測部130は、代表波形の形状を測定する(S620)。代表波形の形状は、定性的に求めるのではなく、たとえば、図15および図16の心電図波形に示されている、STJ値、ST60値、QRS主ピーク振幅などの、定量的に求めた、代表波形の各部の特徴値である。なお、STJ値とはJポイントの電位であり、ST60値とはJポイントから60msec後方の電位であり、QRS主ピーク振幅とは、Q波、R波、S波のうちの最も高い点の基線を基準とする電位である。
【0047】
次に、ST計測部130は、代表波形が心室ペーシングであるか否かを判断する(S630)。代表波形が心室ペーシングであれば(S630:YES)、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定(S640)と、スミス(Smith)の基準に基づく判定(S650)との処理を行い、代表波形、計測基準点、STJ値、STJ/QRS主ピーク振幅、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準の合致の有無、スミス(Smith)の基準の合致の有無を解析部140に出力する(S660)。なお、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定およびスミス(Smith)の基準に基づく判定の処理については後述する。
【0048】
一方、代表波形が心室ペーシングでなければ(S630:NO)、代表波形、計測基準点、STJ値、ST60値を解析部140に出力する(S670)。
【0049】
<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>
図5は、図4のフローチャートの<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図5のサブルーチンフローチャートは、3電極を想定する実施形態1にのみに適用される。
【0050】
解析部140は、図15および図16に示すように、代表波形のQRS主ピークとSTJ変化は同方向であるか否かを判断する(S641)。QRS主ピークはQ波、R波、S波のうちの最も高い点であり、STJ変化はISOポイントを基準としたSTJ値の変化(Jポイントの電位)であるので、代表波形が図15および図16のような形態の心電図波形であれば、代表波形のQRS主ピークとSTJ変化はともに+方向であるので同方向であると判断される。なお、QRSと同方向のSTJ変化は、図22のスガルボッサ(Sgarbossa)/スミス(Smith)の判定閾値のように、その設定範囲が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで、初期値が0.1で、0.10mVから1.00mVまでである。また、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで、初期値が1.0で、1.0mmから10.0mmまでである。また、QRSと逆方向のSTJ変化は、図22のスガルボッサ(Sgarbossa)/スミス(Smith)の判定閾値のように、その設定範囲が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで初期値が0.5で、0.1mVから1.0mVまでである。また、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで、初期値が5.0で、1.0mmから10.0mmまでである。
【0051】
代表波形のQRS主ピークとSTJ変化が同方向であれば(S641:YES)、次に、STJ変化量が0.1mV以上であるか否かが判断される(S642)。STJ変化量が0.1mV以上であれば(S642:YES)、代表波形はスガルボッサ(Sgarbossa)の基準に合致していると判断する(S643)。
【0052】
代表波形のQRS主ピークとSTJ変化が同方向でなければ(S641:NO)、次に、STJ変化量が0.5mV以上であるか否かが判断される(S644)。STJ変化量が0.5mV以上であれば、代表波形はスガルボッサ(Sgarbossa)の基準に合致していると判断する(S643)。
【0053】
S642のステップでSTJ変化量が0.1mV以上でないと判断されるか(S642:NO)、S644のステップでSTJ変化量が0.5mV以上でないと判断されるか(S644:NO)したときには、代表波形はスガルボッサ(Sgarbossa)の基準には合致しないと判断される(S645)。
【0054】
<スミス(Smith)の基準に基づく判定>
図6は、図4のフローチャートの<スミス(Smith)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図6のサブルーチンフローチャートは、3電極を想定する実施形態1にのみに適用される。
【0055】
解析部140は、図15および図16に示すように、代表波形のQRS主ピークとSTJ変化は同方向であるか否かを判断する(S651)。QRS主ピークはQ波、R波、S波のうちの最も高い点であり、STJ変化はISOポイントを基準としたSTJ値の変化(Jポイントの電位)であるので、代表波形が図15および図16のような形態の心電図波形であれば、代表波形のQRS主ピークとSTJ変化はともに+方向であるので同方向であると判断される。なお、QRSと同方向のSTJ変化は、上記と同様に、図22のスガルボッサ(Sgarbossa)/スミス(Smith)の判定閾値のように、その設定範囲が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。
【0056】
代表波形のQRS主ピークとSTJ変化が同方向であれば(S651:YES)、次に、STJ変化量が0.1mV以上であるか否かが判断される(S652)。STJ変化量が0.1mV以上であれば(S652:YES)、代表波形はスミス(Smith)の基準に合致していると判断する(S653)。
【0057】
代表波形のQRS主ピークとSTJ変化が同方向でなければ(S651:NO)、次に、STJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25よりも大きいか否かが判断される(S654)。STJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25よりも大きければ、代表波形はスミス(Smith)の基準に合致していると判断する(S653)。
【0058】
S652のステップでSTJ変化量が0.1mV以上でないと判断されるか(S652:NO)、S654のステップでSTJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25以下であると判断されるか(S654:NO)したときには、代表波形はスミス(Smith)の基準には合致しないと判断される(S655)。
【0059】
<通知条件を満たすかを判定>
図7は、図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図7のサブルーチンフローチャートは、3電極を想定する実施形態1にのみに適用される。
【0060】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形が心室ペーシングであるか否かを判断する(S810)。代表波形が心室ペーシングであれば(S810:YES)、次に解析部140は、STJ値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S820)。なお、STJ値によるアラームは、図20のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.99mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.99mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0061】
STJ値がアラーム閾値を超えていれば(S820:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。一方、代表波形が心室ペーシングでなければ(S810:NO)、次に解析部140は、ST60値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S860)。なお、ST60値によるアラームは、図19のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.9mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.9mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0062】
ST60値がアラーム閾値を超えていれば(S860:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。一方、STJ値がアラーム閾値を超えていなければ(S820:NO)、解析部140は、スガルボッサ(Sgarbossa)またはスミス(Smith)の基準に合致しているか否かを判断する(S840)。スガルボッサ(Sgarbossa)またはスミス(Smith)の基準に合致していれば(S840:YES)、通知部150はメッセージを出力する(S850)。
【0063】
S860のステップでST60値がアラーム閾値を超えていないと判断されるか(S860:NO)、S840のステップでスガルボッサ(Sgarbossa)またはスミス(Smith)の基準に合致していないと判断されるか(S840:NO)したときには、何も通知せずに処理を終了する。
【0064】
以上が、実施形態1における生体情報処理装置100の各サブルーチンフローチャートの概略の処理内容である。実施形態1における生体情報処理装置100の動作をまとめると、被検者の心電図波形を一定時間経過するまで測定および記憶し、記憶した心電図波形から、少なくとも正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍をグループ化して代表波形を作成し、作成した代表波形についてST計測を行い、STリコールを登録して、通知条件を満たせば、アラームやメッセージを通知する、という処理を行う。この処理によって、従来はモニタリングが困難であった、心室ペーシングの心電図波形に対して心筋虚血のモニタリングができるようになる。
【0065】
[実施形態2]
(生体情報処理装置の構成)
本実施形態の生体情報処理装置の構成は、図1に示したブロック図と同一である。
【0066】
(生体情報処理装置の動作)
本実施形態の生体情報処理装置100の概略の動作は、図2に示したメインフローチャートに示した処理と同一である。ただし、本実施形態では、被検者に取り付ける電極の数が、実施形態1とは異なって6であり、得られる心電図波形が8であるので、図2のメインフローチャート内における、S100のステップでは8誘導の心電図波形を測定し、S200のステップでは8誘導の心電図波形を記憶する。また、S600のステップにおける<ST計測>、S800のステップにおける<通知条件を満たすか?>のそれぞれのサブルーチンフローチャートの処理は、実施形態1とは若干異なる。以下、これらのサブルーチンフローチャートの処理について説明する。
【0067】
<ST計測>
図8は、実施形態2における、図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図8のサブルーチンフローチャートは、6電極を想定する実施形態2にのみに適用される。
【0068】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形の計測基準点を決定する(S610)。本実施形態の場合、代表波形は、8誘導または12誘導の心電図波形の、各誘導について作成される。代表波形の計測基準点とは、図16の心電図波形に示されている、ISOポイントまたはJポイントである。なお、ISOポイントとは、QRS起始部(Q波の始まる点)の平坦点の電位であり、Jポイントとは、S波からT波に向かう曲線の変曲点の電位である。
【0069】
次に、ST計測部130は、代表波形の形状を測定する(S620)。代表波形の形状は、定性的に求めるのではなく、たとえば、図15および図16の心電図波形に示されている、STJ値、ST60値、QRS主ピーク振幅などの、定量的に求めた、代表波形の各部の特徴値である。なお、STJ値とはJポイントの電位であり、ST60値とはJポイントから60msec後方の電位であり、QRS主ピーク振幅とは、Q波、R波、S波のうちの最も高い点の基線を基準とする電位である。
【0070】
次に、ST計測部130は、代表波形が心室ペーシングであるか否かを判断する(S630)。代表波形が心室ペーシングであれば(S630:YES)、各誘導について、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定(S640)と、各誘導について、スミス(Smith)の基準に基づく判定(S650)との処理を行い、各誘導について、代表波形、計測基準点、STJ値、STJ/QRS主ピーク振幅、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準の合致の有無、スミス(Smith)の基準の合致の有無を解析部140に出力する(S660)。
【0071】
ST計測部130は、すべての誘導についてスガルボッサ(Sgarbossa)の合計スコアとスミス(Smith)の合計スコアを算出し(S670)、スガルボッサ(Sgarbossa)の合計スコアとスミス(Smith)の合計スコアを出力する(S680)。なお、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定およびスミス(Smith)の基準に基づく判定の処理については後述する。
【0072】
一方、代表波形が心室ペーシングでなければ(S630:NO)、各誘導について、代表波形、計測基準点、STJ値、ST60値を解析部140に出力する(S690)。
【0073】
<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>
図9は、実施形態2における、図8のフローチャートの<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図9のサブルーチンフローチャートは、6電極または10電極を想定する実施形態2および3に適用される。
【0074】
解析部140は、図15および図16に示すように、代表波形のQRSが正方向であるか否かを判断する(S641)。つまり、図15および図16に示すように、QRSの変化が上方向(正方向)であるか下方向であるかを判断する。
【0075】
QRSが正方向であれば(S641:YES)、次に、解析部140は、STJ上昇が0.1mV以上であるか否かを判断する(S642)。STJ上昇が0.1mV以上であれば(S642:YES)、解析部140は、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアを5とする(S643)。
【0076】
一方、QRSが正方向でなければ(S641:NO)、次に、解析部140は、STJ上昇が0.5mV以上であるか否かを判断する(S644)。STJ上昇が0.5mV以上であれば(S644:YES)、解析部140は、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアを3とする(S645)。
【0077】
また、STJ上昇が0.5mV以上でなければ(S644:NO)、V1、V2、またはV3誘導のとき、STJ下降が0.1mV以上であるか否かを判断する(S646)。なお、V1、V2、またはV3誘導のときのSTJ下降の範囲は、図22のスガルボッサ(Sgarbossa)/スミス(Smith)の判定閾値のように、その設定範囲が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで、初期値が0.1で、0.10mVから1.00mVまでである。また、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで、初期値が1.0で、1.0mmから10.0mmまでである。STJ下降が0.1mV以上であれば(S646:YES)、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアを2とする(S647)。
【0078】
S642のステップでSTJ上昇が0.1mV以上でないとき(S642:NO)、またはV1、V2、またはV3誘導のとき、STJ下降が0.1mV以上でなければ(S646:NO)、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアを0とする(S648)。
【0079】
<スミス(Smith)の基準に基づく判定>
図10は、実施形態2における、図8のフローチャートの<スミス(Smith)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図10のサブルーチンフローチャートは、6電極または10電極を想定する実施形態2および3に適用される。
【0080】
解析部140は、図15および図16に示すような、STJ変化量が0.1mV以上およびSTJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25を超えているか否かを判断する(S651)。なお、STJ/QRS振幅比の上限値は、図21のSTJ/QRSアラームに示すように、0.01刻みで01.0~1.00の範囲で設定できる。またはSTJ/QRSアラームをOFFすることもできる。STJ変化量が0.1mV以上およびSTJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25を超えていれば(S651:YES)、スミス(Smith)のスコアを1とする(S652)。
【0081】
一方、STJ変化量が0.1mV以上およびSTJ変化量/QRS主ピーク振幅が0.25を超えていなければ(S651:NO)、QRSが正方向であるか否かを判断する(S653)。つまり、図15および図16に示すように、QRSの変化が上方向(正方向)であるか下方向であるかを判断する。
【0082】
QRSが正方向であれば(S653:YES)、次に、解析部140は、STJ上昇が0.1mV以上であるか否かを判断する(S654)。STJ上昇が0.1mV以上であれば(S654:YES)、解析部140は、スミス(Smith)のスコアを1とする(S652)。
【0083】
一方、QRSが正方向でなければ(S653:NO)、次に、解析部140は、V1、V2、またはV3誘導のとき、STJ下降が0.1mV以上であるか否かを判断する(S655)。STJ下降が0.1mV以上であれば(S6555:YES)、解析部140は、スミス(Smith)のスコアを1とする(S652)。
【0084】
S654のステップでSTJ上昇が0.1mV以上でないとき(S654:NO)、およびV1、V2、またはV3誘導のとき、STJ下降が0.1mV以上でなければ(S655:NO)、スミス(Smith)のスコアを0とする(S656)。
【0085】
<通知条件を満たすかを判定>
図11は、実施形態2における、図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図11のサブルーチンフローチャートは、6電極を想定する実施形態2にのみに適用される。
【0086】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形が心室ペーシングであるか否かを判断する(S810)。代表波形が心室ペーシングであれば(S810:YES)、次に解析部140は、任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S820)。
【0087】
なお、STJ値によるアラームは、図20のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.99mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.99mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0088】
任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えていれば(S820:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。一方、代表波形が心室ペーシングでなければ(S810:NO)、次に解析部140は、任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S860)。なお、ST60値によるアラームは、図19のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.9mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.9mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0089】
任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えていれば(S860:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。一方、任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えていなければ(S820:NO)、解析部140は、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上であるか否かを判断する(S840)。スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上であれば(S840:YES)、通知部150はメッセージを出力する(S850)。
【0090】
S860のステップで任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えていないと判断されるか(S860:NO)、S840のステップでスガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上でないと判断されるか(S840:NO)したときには、何も通知せずに処理を終了する。
【0091】
以上が、実施形態2における生体情報処理装置100の各サブルーチンフローチャートの概略の処理内容である。実施形態2における生体情報処理装置100の動作をまとめると、被検者の心電図波形を一定時間経過するまで測定および記憶し、記憶した心電図波形から、少なくとも正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍を誘導ごとにグループ化して代表波形を作成し、誘導ごとに作成した代表波形についてST計測を行い、STリコールを登録して、通知条件を満たせば、アラームやメッセージを通知する、という処理を行う。この処理によって、従来はモニタリングが困難であった、心室ペーシングの心電図波形に対して心筋虚血のモニタリングができるようになる。なお、実施形態2の場合でも、胸部誘導がV1とV2であれば左脚ブロックの判定が可能である。
【0092】
[実施形態3]
(生体情報処理装置の構成)
本実施形態の生体情報処理装置の構成は、図1に示したブロック図と同一である。
【0093】
(生体情報処理装置の動作)
本実施形態の生体情報処理装置100の概略の動作は、図2に示したメインフローチャートに示した処理と同一である。ただし、本実施形態では、被検者に取り付ける電極の数が、実施形態1または2とは異なって10であり、得られる心電図波形が12であるので、図2のメインフローチャート内における、S100のステップでは12誘導の心電図波形を測定し、S200のステップでは12誘導の心電図波形を記憶する。また、S600のステップにおける<ST計測>、S800のステップにおける<通知条件を満たすか?>のそれぞれのサブルーチンフローチャートの処理は、実施形態1とは若干異なる。以下、これらのサブルーチンフローチャートの処理について説明する。
【0094】
<ST計測>
図12は、実施形態3における、図2のフローチャートの<ST計測>のステップのサブルーチンフローチャートである。なお、図12のサブルーチンフローチャートは、10電極を想定する実施形態3にのみに適用される。
【0095】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形の計測基準点を決定する(S610)。本実施形態の場合、代表波形は、12誘導の心電図波形の各誘導について作成される。代表波形の計測基準点とは、図16の心電図波形に示されている、ISOポイントまたはJポイントである。なお、ISOポイントとは、QRS起始部(Q波の始まる点)の平坦点の電位であり、Jポイントとは、S波からT波に向かう曲線の変曲点の電位である。
【0096】
次に、ST計測部130は、代表波形の形状を測定する(S620)。代表波形の形状は、定性的に求めるのではなく、たとえば、図15および図16の心電図波形に示されている、STJ値、ST60値、QRS主ピーク振幅などの、定量的に求めた、代表波形の各部の特徴値である。なお、STJ値とはJポイントの電位であり、ST60値とはJポイントから60msec後方の電位であり、QRS主ピーク振幅とは、Q波、R波、S波のうちの最も高い点の基線を基準とする電位である。
【0097】
次に、ST計測部130は、代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックであるか否かを判断する(S630)。代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックであれば(S630:YES)、各誘導について、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定(S640)と、各誘導について、スミス(Smith)の基準に基づく判定(S650)との処理を行い、各誘導について、代表波形、計測基準点、STJ値、STJ/QRS主ピーク振幅、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準の合致の有無、スミス(Smith)の基準の合致の有無を解析部140に出力する(S660)。
【0098】
ST計測部130は、すべての誘導についてスガルボッサ(Sgarbossa)の合計スコアとスミス(Smith)の合計スコアを算出し(S670)、スガルボッサ(Sgarbossa)の合計スコアとスミス(Smith)の合計スコアを出力する(S680)。なお、スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定およびスミス(Smith)の基準に基づく判定の処理は、図9および図10に示すサブルーチンフローチャートと同一である。
【0099】
一方、代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックでなければ(S630:NO)、各誘導について、代表波形、計測基準点、STJ値、ST60値を解析部140に出力する(S690)。
<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>
本実施形態における図12のフローチャートの<スガルボッサ(Sgarbossa)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートは図9に示したものと同一である。
<スミス(Smith)の基準に基づく判定>
図12のフローチャートの<スミス(Smith)の基準に基づく判定>のステップのサブルーチンフローチャートは図10に示したものと同一である。
【0100】
図13は、図12のフローチャートの<代表波形は心室ペーシングまたは左脚ブロック?>のステップにおける<左脚ブロックの判定>のサブルーチンフローチャートである。
【0101】
ST計測部130は、図15に示すようなQRS幅が120msecよりも大きいか否かを判断する(S631)。QRS幅が120msecよりも大きければ(S631:YES)、次に、V1誘導がrS型またはQS型であるか否かを判断する(S632)。V1誘導がrS型とは、図17の左側に示すような心電図波形であり、V1誘導がQS型とは、同じく図17の右側に示すような心電図波形である。次に、V1誘導がrS型またはQS型であれば(S632:YES)、V6誘導がR型であるか否かを判断する(S633)。V6誘導がR型とは、図18に示すような心電図波形である。V6誘導がR型であれば(S633:YES)、次に、V6誘導のQRS起始部からRピークが50msecよりも大きいか否かを判断する(S634)。V6誘導のQRS起始部からRピークが50msecよりも大きければ(S634:YES)、左脚ブロックであると判断する(S635)。
【0102】
一方、QRS幅が120msecよりも大きくなく(S631:NO)、またはV1誘導がrS型またはQS型でなく(S632:NO)、またはV6誘導がR型でなく(S633:NO)、またはV6誘導のQRS起始部からRピークが50msecよりも大きくなければ(S634:NO)、左脚ブロックでないと判断する(S636)。
【0103】
<通知条件を満たすかを判定>
図14は、実施形態3における、図2のフローチャートの<通知条件を満たすかを判定>のステップのサブルーチンフローチャートである。
【0104】
ST計測部130は、<代表波形を作成>のサブルーチンフローチャート(図3参照)において作成された代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックであるか否かを判断する(S810)。代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックであれば(S810:YES)、次に解析部140は、任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S820)。
【0105】
なお、STJ値によるアラームは、図20のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.99mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.99mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0106】
任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えていれば(S820:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。一方、代表波形が心室ペーシングまたは左脚ブロックでなければ(S810:NO)、次に解析部140は、任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えているか否かを判断する(S860)。なお、ST60値によるアラームは、図19のように、その上限値と下限値が操作部170(図1参照)によって、一定の範囲内で設定できるようになっている。設定範囲は、0.01mV刻みで上限値が-1.99mVから+2.00mVまでであり、下限値が-2.00mVから+1.99mVまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。なお、設定範囲は、電圧ではなく心電図波形のグラフ上の距離mmとしても設定することができ、その場合には、設定範囲は、0.1mm刻みで上限値が-19.9mmから+20.0mmまでであり、下限値が-20.0mmから+19.9mmまでである。また、上限値および下限値の設定をOFFにすることもできる。
【0107】
任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えていれば(S860:YES)、通知部150はアラームを出力する(S830)。また、任意の誘導のSTJ値がアラーム閾値を超えていなければ(S820:NO)、解析部140は、スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上であるか否かを判断する(S840)。スガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上であれば(S840:YES)、通知部150はメッセージを出力する(S850)。
【0108】
S860のステップで任意の誘導のST60値がアラーム閾値を超えていないと判断されるか(S860:NO)、S840のステップでスガルボッサ(Sgarbossa)のスコアが3以上またはスミス(Smith)のスコアが1以上でないと判断されるか(S840:NO)したときには、何も通知せずに処理を終了する。
【0109】
以上が、実施形態3における生体情報処理装置100の各サブルーチンフローチャートの概略の処理内容である。実施形態3における生体情報処理装置100の動作をまとめると、被検者の心電図波形を一定時間経過するまで測定および記憶し、記憶した心電図波形から、少なくとも正常拍、心房ペーシング拍、心室ペーシング拍、左脚ブロック拍を誘導ごとにグループ化して代表波形を作成し、誘導ごとに作成した代表波形についてST計測を行い、STリコールを登録して、通知条件を満たせば、アラームやメッセージを通知する、という処理を行う。この処理によって、従来はモニタリングが困難であった、心室ペーシングまたは左脚ブロックの心電図波形に対して心筋虚血のモニタリングができるようになる。
【0110】
次に、本発明の生体情報処理装置100による、心筋虚血に関するアラームまたはメッセージの通知について説明する。心筋虚血に関するアラームまたはメッセージの通知は、通知部150(図1参照)によって聴覚的にまたは視覚的に行われる。通知部150による視覚的な通知、すなわち表示の具体例は、図23図24に示す通りである。これらの図に示す表示の具体例は、実施形態1~3に共通する。以下に、この表示の具体例を説明する。
【0111】
図23は、ST値およびSTリコール波形の具体例を示す図である。通知部150は、ST計測の解析結果として、図23に示すように、判定部120が作成した代表波形および心電図波形の形状に関する測定値(ST値0.05mV)を通知部150の画面に表示する。
【0112】
通知部150は、心室ペーシングと左脚ブロックとでは、ST値の解釈が通常とは異なるため、STリコールの表示を工夫している。具体的には、STリコール波形の枠線をST値に応じてグラデーションをつけるようにし、通常は単純にST値が0から離れるほど色が濃くなるようにする。つまり、図23に示したSTリコール波形の枠線をST値の大きさが大きくなるほど色を濃くする。枠線を濃くする以外にも、ST値の大きさが大きくなるほど枠線を太くしたり、枠線の色を変えるようにしたりしても良い。また、心室ペーシングと左脚ブロックでは、QRSと逆方向への変化の際は0.5mV(またはQRS振幅の1/4)を超えるまでは0と同じ扱いで、0.5mV(またはQRS振幅の1/4)を超えると色が変わり始めるようにしても良い。
【0113】
図24は、STリコールの表示形態の説明に供する図である。図24に示すように、通知部150の画面には、ST計測の解析結果を様々な形態で表示できるようになっている。たとえば、STリコールにはリファレンスとして登録した波形と任意の時間の波形を比較する機能を備えている。このため、「正常拍のリファレンス」および「心室ペーシングのリファレンス」の2種類のリファレンス、または「正常拍のリファレンス」および「左脚ブロックのリファレンス」の2種類のリファレンスを登録できるようにして、どちらを見たいかにより選択可能にしている。
【0114】
このため、通知部150は、画面に正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を選択的に切り替える機能を有し、また、通知部150は、正常拍、心室ペーシング拍または左脚ブロック拍の心電図波形を登録する機能を有する。
【0115】
図24に示すように、通知部150の画面は、誘導名表示欄151、感度表示欄152、リファレンス表示欄153、リファレンス登録部154、リファレンス切替部155、チェックボックス156、コメント表示マーク157、カーソル枠158、スクロール部159、表示操作部161を有する。
【0116】
誘導名表示欄151は、この欄よりも右側に表示されているSTリコールがどの誘導に関するものであるかを表示する。たとえば、実施形態1の場合には、被検者に3電極を装着しているので、1誘導分のみの表示となるが、実施形態2または3の場合には、被検者に6電極または10電極を装着しているので、8誘導分または12誘導分の表示となる。図24では、4誘導分の表示となっているが、他の誘導を表示させるためには、スクロール部159をスライド操作させる。8誘導の場合には、スクロール部159をスライド操作させることによって、図24に表示されていない他の4誘導分の表示が、また12誘導の場合には、スクロール部159をスライド操作させることによって、図24に表示されていない他の8誘導分の表示が可能となる。また、誘導名表示欄151に表示されている誘導名をタッチすることによって、表示させる誘導を変更させることもできる。
【0117】
なお、各誘導のSTリコールは、一定時間ごと(たとえば5分間ごと)に左から右に時系列に表示される。図24では、25分の間に登録されたSTリコールが時系列に表示されている。
【0118】
感度表示欄152は、この表示欄をタッチすることによって、表示感度の変更が可能になっている。図24では、表示感度が1に設定されている。
【0119】
リファレンス表示欄153は、リファレンス登録部154の操作によって登録された正常拍と心室ペーシング拍のいずれかを表示する。リファレンス表示欄153があることによって、リファレンス表示欄153に表示した正常拍と心室ペーシング拍のいずれかと、この欄の右側に時系列に表示されたSTリコール波形との比較が容易に行える。
【0120】
リファレンス登録部154は、この部分を操作することによって、カーソル枠158で選択されているSTリコールをリファレンスとして登録する。
【0121】
リファレンス切替部155は、リファレンス登録部154にて登録した複数種類のリファレンスの内、見たいものを切り替えて選択可能とするものである。
【0122】
チェックボックス156は、記録、印刷するファイルを選択するために用いる。コメント表示マーク157は、コメントが入力されている場合に表示される。カーソル枠158は、リファレンスとして登録したいファイルを指定する。スクロール部159は、スライド操作させることで、画面に表示されていない誘導のSTリコールを表示させる。表示操作部161は、画面を分割表示にしたり全画面表示にしたり、他のレビュー画面に切り替えたり、STリコールの表示時間間隔を設定したりする。
【0123】
以上、本発明の生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラムについて、実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明の生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理装置の制御プログラムの技術的範囲は、以上に記載した実施形態の記載内容には限られない。
【符号の説明】
【0124】
100 生体情報処理装置
110 電極
120 判定部
122 心拍検出部
124 パルス検出部
126 心拍判定部
130 ST計測部
140 解析部
150 通知部
151 誘導名表示欄
152 感度表示欄
153 リファレンス表示欄
154 リファレンス登録部
155 リファレンス切替部
156 チェックボックス
157 コメント表示マーク
158 カーソル枠
159 スクロール部
160 解析制御部
161 表示操作部
170 操作部
180 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図20
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図22
図23
図24