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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156170
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221006BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
H02M3/155 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059727
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅也
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊秀
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AA17
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS17
5H730BB13
5H730BB14
5H730EE13
5H730FD01
5H730FD11
5H770BA02
5H770CA01
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770HA06Z
5H770HA07Z
5H770LA08W
(57)【要約】
【課題】放電開始条件が成立した後、制御装置が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源を安定して作動させることができる電源システムを提供すること。
【解決手段】電源システムは、高電圧バッテリが接続された1次側電力線とフロント駆動モータが接続された2次側電力線との間で電圧を変換する高電圧DCDCコンバータと、放電開始条件が成立した場合に、1次側電力線に設けられた1次側コンデンサ及び2次側電力線に設けられた2次側コンデンサの電荷を放電させる放電制御を実行するシステムECUと、1次側電力線における電力をシステムECUに供給するバックアップ電源と、1次側電力線に接続された1次側負荷回路と、を備え、システムECUは、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下になった場合、1次側負荷回路における消費電力である1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に制限しながら放電制御を実行する。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源が接続された1次側電力線と、
第1回転電機が接続された2次側電力線と、
前記1次側電力線と前記2次側電力線との間で電圧を変換する電圧変換器と、
前記2次側電力線と前記第1回転電機との間で電力を変換する第1電力変換器と、
前記1次側電力線の電圧である1次側電圧を取得する1次側電圧取得手段と、
放電開始条件が成立した場合に、前記1次側電力線に設けられた1次側コンデンサ及び前記2次側電力線に設けられた2次側コンデンサの電荷を放電させる放電制御を実行する制御装置と、
前記1次側電力線における電力を前記制御装置に供給するバックアップ電源と、
前記1次側電力線に接続された1次側負荷回路と、を備える電源システムであって、
前記制御装置は、前記1次側電圧が第1電圧以下になった場合、前記1次側負荷回路における消費電力を第1電力未満に制限しながら前記放電制御を実行することを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記第1回転電機は、車両の第1駆動輪と連結され、
前記1次側負荷回路は、前記1次側電力線と接続された負荷電力線と、前記車両の第2駆動輪と連結された第2回転電機と、前記負荷電力線と前記第2回転電機との間で電力を変換する第2電力変換器と、を備え、
前記制御装置は、前記1次側電圧が前記第1電圧以下になった場合、前記第2電力変換器の駆動を停止することにより前記1次側負荷回路における消費電力を前記第1電力未満に制限することを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記1次側負荷回路は、複数の電気負荷を備え、
前記制御装置は、前記1次側電圧が前記第1電圧以下になったことに応じて、前記2次側電力線から前記1次側電力線へ供給される電力によって前記1次側電圧が目標電圧に維持されるように前記電圧変換器を操作する1次側充電制御を実行し、
前記目標電圧は、前記バックアップ電源の動作電圧の下限よりも高くかつ前記複数の電気負荷の各々の復帰電圧よりも低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記目標電圧は、前記複数の電気負荷の各々の動作電圧の下限よりも低いことを特徴とする請求項3に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源システムに関する。より詳しくは、主電源と回転電機とを接続する電力線に接続されたコンデンサの電荷を、所定の放電開始条件が成立した場合に放電させる放電機能を備える電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両は、電源システムを搭載しており、この電源システムから供給される電力を用いてモータを駆動することによって走行する。電源システムは、高電圧バッテリと、この高電圧バッテリの出力電圧を変換するDCDCコンバータと、DCDCコンバータの直流出力を交流に変換し、モータに供給するインバータと、を備える。またこれらDCDCコンバータやインバータ等によって構成される主回路には、複数の大容量の平滑コンデンサが設けられる。
【0003】
車両の走行中は、電源システムの直流電力を安定化させるため、上記複数の平滑コンデンサには電荷を蓄積しておく必要があるが、例えば車両が衝突した場合には、これら平滑コンデンサに蓄積されている電荷は速やかに放電することが求められている。そこで多くの車両では、衝突時には平滑コンデンサに蓄積されている電荷を何らかの負荷に放電させ、主回路の電圧を速やかに低下させる放電制御が実行される。
【0004】
このような放電制御は、高電圧バッテリよりも低電圧の補機バッテリから供給される電力によって作動する制御装置を主体として実行されるが、衝突時には衝撃によって制御装置と補機バッテリとの接続が遮断される場合がある。このため多くの車両には、補機バッテリと制御装置との接続が遮断された場合であっても放電制御を実行できるよう、主回路の電力を降圧して制御装置に供給するバックアップ電源が設けられている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1には、バックアップ電源をDCDCコンバータよりもインバータ側である2次側に接続した例が示され、特許文献2には、バックアップ電源をDCDCコンバータよりも高電圧バッテリ側である1次側に接続した例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-107873号公報
【特許文献2】国際公開第2010/131340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで主回路の1次側には、1次側における電力によって作動するヒータや電動コンプレッサ等の様々な電気負荷を接続する場合がある。このため特許文献2に示す例のようにバックアップ電源を1次側に接続した場合、車両の衝突後、制御装置による放電制御によって主回路の2次側の電圧が十分に低下する前に、1次側に接続された電気負荷で電力を消費してしまうことで1次側の電圧がバックアップ電源の動作電圧以下まで低下してしまい、バックアップ電源から制御装置へ電力を供給できなくなってしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、放電開始条件が成立した後、制御装置が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源を安定して作動させることができる電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る電源システム(例えば、後述の電源システム1)は、主電源(例えば、後述の高電圧バッテリ21)が接続された1次側電力線(例えば、後述の1次側電力線26p,26n)と、第1回転電機(例えば、後述のフロント駆動モータMf)が接続された2次側電力線(例えば、後述の2次側電力線27p,27n)と、前記1次側電力線と前記2次側電力線との間で電圧を変換する電圧変換器(例えば、後述の高電圧DCDCコンバータ22)と、前記2次側電力線と前記第1回転電機との間で電力を変換する第1電力変換器(例えば、後述の第1インバータ23)と、前記1次側電力線の電圧である1次側電圧(例えば、後述の1次側電圧V1)を取得する1次側電圧取得手段(例えば、後述の1次側電圧センサ93)と、放電開始条件が成立した場合に、前記1次側電力線に設けられた1次側コンデンサ(例えば、後述のコンデンサ11)及び前記2次側電力線に設けられた2次側コンデンサ(例えば、後述のコンデンサ12)の電荷を放電させる放電制御を実行する制御装置(例えば、後述のシステムECU8)と、前記1次側電力線における電力を前記制御装置に供給するバックアップ電源(例えば、後述のバックアップ電源5)と、前記1次側電力線に接続された1次側負荷回路(例えば、後述の1次側負荷回路4)と、を備え、前記制御装置は、前記1次側電圧が第1電圧(例えば、後述の低電圧閾値VUV)以下になった場合、前記1次側負荷回路における消費電力(例えば、後述の1次側負荷電力P1)を第1電力(例えば、後述の放電時上限電力Plim)未満に制限しながら前記放電制御を実行することを特徴とする。
【0009】
(2)この場合、前記第1回転電機は、車両(例えば、後述の車両V)の第1駆動輪(例えば、後述の前輪Wf)と連結され、前記1次側負荷回路は、前記1次側電力線と接続された負荷電力線(例えば、後述の負荷電力線40p,40n)と、前記車両の第2駆動輪(例えば、後述の後輪Wr)と連結された第2回転電機(例えば、後述のリア駆動モータMr)と、前記負荷電力線と前記第2回転電機との間で電力を変換する第2電力変換器(例えば、後述の第3インバータ41)と、を備え、前記制御装置は、前記1次側電圧が前記第1電圧以下になった場合、前記第2電力変換器の駆動を停止することにより前記1次側負荷回路における消費電力を前記第1電力未満に制限することが好ましい。
【0010】
(3)この場合、前記1次側負荷回路は、複数の電気負荷(例えば、後述のリア駆動モータMr、第3インバータ41、双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46等)を備え、前記制御装置は、前記1次側電圧が前記第1電圧以下になったことに応じて、前記2次側電力線から前記1次側電力線へ供給される電力によって前記1次側電圧が目標電圧(例えば、後述の目標電圧V1trg)に維持されるように前記電圧変換器を操作する1次側充電制御を実行し、前記目標電圧は、前記バックアップ電源の動作電圧の下限(例えば、後述の電圧VBUP)よりも高くかつ前記複数の電気負荷の各々の復帰電圧よりも低いことが好ましい。
【0011】
(4)この場合、前記目標電圧は、前記複数の電気負荷の各々の動作電圧の下限よりも低いことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明において、バックアップ電源は1次側電力線における電力を制御装置に供給し、制御装置は、放電開始条件が成立した場合には、バックアップ電源から供給される電力によって放電制御を実行することにより、1次側及び2次側電力線に設けられた1次側及び2次側コンデンサの電荷を放電させる。また制御装置は、1次側電力線の1次側電圧が第1電圧以下になった場合、1次側電力線に接続された1次側負荷回路における消費電力を第1電力未満に制限しながら上記放電制御を実行する。これにより、バックアップ電源を介して1次側電力線から供給される電力を消費することによって制御装置が放電制御を実行し、2次側コンデンサの電荷を放電させている最中は、1次側負荷回路における消費電力を第1電力未満に抑制し、1次側電圧がバックアップ電源の動作電圧の下限を下回らないようにできるので、制御装置が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源を安定して作動させることができる。
【0013】
(2)本発明において、制御装置は、1次側電圧が第1電圧以下になった場合、1次側負荷回路に設けられた複数の電気負荷のうち比較的消費電力が大きい第2回転電機の第2電力変換器の駆動を停止することにより、1次側負荷回路における消費電力を第1電力未満に制限する。これにより制御装置が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源を安定して作動させることができる。
【0014】
(3)本発明において、制御装置は、1次側電圧が第1電圧以下になったことに応じて、2次側電力線から1次側電力線へ供給される電力によって1次側電圧が目標電圧に維持されるように電圧変換器を操作する1次側充電制御を実行する。これにより、バックアップ電源が安定して作動するように1次側電圧を目標電圧に維持しながら、2次側コンデンサの電荷の放電を促進することができる。また本発明では、1次側充電制御における目標電圧を、1次側負荷回路に含まれる複数の電気負荷の各々の復帰電圧よりも低くする。これにより、1次側電圧が第1電圧以下になった後、1次側充電制御によって1次側電力線に供給される電力によって1次側負荷回路に含まれる複数の電気負荷が再度稼働してしまい、1次側負荷回路の消費電力が第1電力を超えてしまうのを防止できる。また本発明では、1次側充電制御における目標電圧を、バックアップ電源の動作電圧の下限よりも高くする。これにより、1次側負荷回路に含まれる複数の電気負荷の再稼働を防止しつつ、バックアップ電源のみを安定して作動させることができる。
【0015】
(4)本発明では、1次側充電制御における目標電圧を、上記複数の電気負荷の各々の動作電圧の下限よりも低くする。これにより、1次側充電制御によって1次側電力線に供給される電力によって1次側負荷回路に含まれる複数の電気負荷の再稼働をより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の第1実施形態に係る電源システムを搭載する電動車両の構成を示す図である。
図1B】高電圧DCDCコンバータの回路構成の一例を示す図である。
図1C】1次側負荷回路の回路構成の一例を示す図である。
図2】1次側の急速放電処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図3】2次側の急速放電処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図4】1次側負荷回路を構成する複数の電気負荷の、衝突時における消費電力の一例を示す図である。
図5】1次側充電制御における目標電圧と1次側負荷回路に含まれる電気負荷の動作電圧等とを比較した図である。
図6図2及び図3の急速放電処理によって実現される1次側電圧等の時間変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1Aは、本実施形態に係る電源システム1を搭載する電動車両V(以下、単に「車両」という)の構成を示す図である。なお本実施形態では、車両Vとして、エンジンEとフロント駆動モータMfと発電機Gとを備える所謂ハイブリッド車両を例に説明するが、本発明はこれに限るものではない。本発明に係る電源システムは、ハイブリッド車両に限らず、電気自動車や燃料電池自動車等、バッテリに蓄電された電力を用いて走行する車両であれば、どのような車両にも適用可能である。
【0018】
車両Vは、電源システム1と、エンジンEと、第1回転電機としてのフロント駆動モータMfと、発電機Gと、第1駆動輪としての前輪Wfと、を備える。フロント駆動モータMfは、主として車両Vが走行するための動力を発生する。フロント駆動モータMfの出力軸は、図示しない動力伝達機構を介して前輪Wfに連結されている。電源システム1からフロント駆動モータMfに電力を供給することにより、フロント駆動モータMfで発生させたトルクは、図示しない動力伝達機構を介して前輪Wfに伝達され、前輪Wfを回転させ、車両Vを走行させる。またフロント駆動モータMfは、車両Vの減速回生時には発電機として作用する。フロント駆動モータMfによって発電された電力は、電源システム1が備える後述の高電圧バッテリ21に充電される。
【0019】
またフロント駆動モータMfの出力軸には、出力軸の回転角度を検出するための第1レゾルバR1が取り付けられている。第1レゾルバR1は、電源システム1のシステムECU8から交流電力が供給されると励磁し、フロント駆動モータMfの出力軸の回転角度に応じた信号をシステムECU8に送信する。
【0020】
エンジンEの出力軸であるクランクシャフトは、図示しない動力伝達機構を介して発電機Gに接続されている。発電機Gは、エンジンEの動力によって駆動され、電力を発生する。発電機Gによって発電された電力は、高電圧バッテリ21に充電される。なおエンジンEは、図示しない動力伝達機構を介して前輪Wfに接続されており、エンジンEの動力を用いて前輪Wfを駆動させることも可能となっている。
【0021】
また発電機Gの出力軸には、出力軸の回転角度を検出するための第2レゾルバR2が取り付けられている。第2レゾルバR2は、電源システム1のシステムECU8から交流電力が供給されると励磁し、発電機Gの出力軸の回転角度に応じた信号をシステムECU8に送信する。
【0022】
電源システム1は、高電圧バッテリ21とフロント駆動モータMf及び発電機Gとを接続し、高電圧バッテリ21とフロント駆動モータMf及び発電機Gとの間で電力の授受を行う高電圧回路2と、低電圧バッテリ31が設けられた低電圧回路3と、バックアップ電源5と、フロント駆動モータMf、発電機G、高電圧回路2、低電圧回路3、及びバックアップ電源5等を制御するシステムECU8と、を備える。
【0023】
高電圧回路2は、主電源としての高電圧バッテリ21と、電圧変換器としての高電圧DCDCコンバータ22と、高電圧バッテリ21の正負両極と高電圧DCDCコンバータ22の低圧側の正負両極端子とを接続する1次側電力線26p,26nと、第1電力変換器としての第1インバータ23と、第2インバータ24と、高電圧DCDCコンバータ22の高圧側の正負両極端子と各インバータ23,24の直流入出力側とを接続する2次側電力線27p,27nと、1次側電力線26p,26nに接続された低電圧DCDCコンバータ25と、1次側電力線26p,26nに接続された1次側コンデンサ11と、2次側電力線27p,27nに接続された2次側コンデンサ12と、1次側電力線26p,26nに接続された1次側負荷回路4と、を備える。なお図1Aには、1次側電力線26p,26nにおいて互いに並列に接続されている複数のコンデンサをまとめたものを1次側コンデンサ11として図示し、2次側電力線27p,27nにおいて互いに並列に接続されている複数のコンデンサをまとめたものを2次側コンデンサ12として図示する。また以下では、1次側コンデンサ11の静電容量をC1とし、2次側コンデンサ12の静電容量をC2とする。
【0024】
高電圧バッテリ21は、化学エネルギを電気エネルギに変換する放電と、及び電気エネルギを化学エネルギに変換する充電との両方が可能な二次電池である。以下では、この高電圧バッテリ21として、電極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う所謂リチウムイオン蓄電池を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【0025】
1次側電力線26p,26nには、それぞれ正極コンタクタ28p及び負極コンタクタ28nが設けられている。これらコンタクタ28p,28nは、外部からの指令信号が入力されていない状態では開成して高電圧バッテリ21の両電極と1次側電力線26p,26nとの導通を絶ち、指令信号が入力されている状態では閉成して高電圧バッテリ21と1次側電力線26p,26nとを接続するノーマルオープン型である。これらコンタクタ28p,28nは、後述のバッテリECU36から送信される指令信号に応じ、低電圧バッテリ31から供給される電力を用いて開閉する。なお正極コンタクタ28pは、高電圧回路2に設けられる複数のコンデンサ11,12への突入電流を緩和するためのプリチャージ抵抗を有するプリチャージコンタクタとなっている。
【0026】
図1Bは、高電圧DCDCコンバータ22の回路構成の一例を示す図である。高電圧DCDCコンバータ22は、1次側電力線26p,26nと2次側電力線27p,27nとの間に設けられ、これら1次側電力線26p,26n及び2次側電力線27p,27nの間で電圧を変換する。高電圧DCDCコンバータ22の低圧側正極端子221及び低圧側負極端子222は、それぞれ1次側コンデンサ11の両端に接続される。高電圧DCDCコンバータ22の高圧側正極端子223及び高圧側負極端子224は、それぞれ2次側コンデンサ12の両端に接続される。
【0027】
高電圧DCDCコンバータ22は、リアクトルLと、ハイアーム素子225Hと、ローアーム素子225Lと、負母線227と、を組み合わせて構成される双方向DCDCコンバータである。
【0028】
負母線227は、低圧側負極端子222と高圧側負極端子224とを接続する配線である。リアクトルLは、その一端側が低圧側正極端子221に接続され、その他端側がハイアーム素子225Hとローアーム素子225Lとの接続ノード228に接続される。
【0029】
ハイアーム素子225Hは、IGBTやMOSFET等の既知のパワースイッチング素子と、このパワースイッチング素子に並列に接続されたダイオードと、を備える。ローアーム素子225Lは、IGBTやMOSFET等の既知のパワースイッチング素子と、このパワースイッチング素子に並列に接続されたダイオードと、を備える。これらハイアーム素子225H、及びローアーム素子225Lは、高圧側正極端子223と負極母線227との間で、直列に、この順で接続される。
【0030】
ハイアーム素子225Hのパワースイッチング素子のコレクタは高圧側正極端子223に接続され、そのエミッタはローアーム素子225Lのコレクタに接続される。ローアーム素子225Lのパワースイッチング素子のエミッタは、負母線227に接続される。ハイアーム素子225Hに設けられるダイオードの順方向は、リアクトルLから高圧側正極端子223へ向かう向きである。またローアーム素子225Lに設けられるダイオードの順方向は、負母線227からリアクトルLへ向かう向きである。
【0031】
これらハイアーム素子225H及びローアーム素子225Lは、それぞれシステムECU8が備えるゲートドライブ回路(図示せず)によって生成されるゲート駆動信号によってオン又はオフにされる。
【0032】
高電圧DCDCコンバータ22は、システムECU8のゲートドライブ回路から所定のタイミングで生成されるゲート駆動信号に従って上記素子225H,225Lをオン/オフ駆動することにより、昇圧機能と降圧機能を発揮する。昇圧機能とは、低圧側の端子221,222に印加される電圧を昇圧して高圧側の端子223,224に出力する機能をいい、これにより1次側電力線26p,26nから2次側電力線27p,27nへ電流が流れる。また降圧機能とは、高圧側の端子223,224に印加される電圧を降圧して低圧側の端子221,222に出力する機能をいい、これにより2次側電力線27p,27nから1次側電力線26p,26nへ電流が流れる。なお以下では、1次側電力線26p,26nの間の電位差、より具体的には1次側コンデンサ11の両端の電圧を1次側電圧V1という。また2次側電力線27p,27nの間の電位差、より具体的には2次側コンデンサ12の両端の電圧を2次側電圧V2という。
【0033】
図1Aに戻り、第1インバータ23及び第2インバータ24は、例えば、複数のスイッチング素子(例えば、IGBT)をブリッジ接続して構成されるブリッジ回路を備えた、パルス幅変調によるPWMインバータであり、直流電力と交流電力とを変換する機能を備える。第1インバータ23は、その直流入出力側において2次側電力線27p,27nに接続され、交流入出力側においてフロント駆動モータMfのU相、V相、W相の各コイルに接続されており、これら2次側電力線27p,27nとフロント駆動モータMfとの間で電力を変換する。第2インバータ24は、その直流入出力側において2次側電力線27p,27nに接続され、交流入出力側において発電機GのU相、V相、W相の各コイルに接続されており、これら2次側電力線27p,27nと発電機Gとの間で電力を変換する。
【0034】
第1インバータ23は、フロント駆動モータMfのU相に接続されたハイ側U相スイッチング素子及びロー側U相スイッチング素子と、フロント駆動モータMfのV相に接続されたハイ側V相スイッチング素子及びロー側V相スイッチング素子と、フロント駆動モータMfのW相に接続されたハイ側W相スイッチング素子及びロー側W相スイッチング素子と、を相毎にブリッジ接続して構成される。
【0035】
第1インバータ23は、システムECU8のゲートドライブ回路から所定のタイミングで生成されるゲート駆動信号に従って上記各相のスイッチング素子をオン/オフ駆動することにより、高電圧DCDCコンバータ22から供給される直流電力を交流電力に変換してフロント駆動モータMfに供給したり、フロント駆動モータMfから供給される交流電力を直流電力に変換して高電圧DCDCコンバータ22に供給したりする。
【0036】
第2インバータ24は、発電機GのU相に接続されたハイ側U相スイッチング素子及びロー側U相スイッチング素子と、発電機GのV相に接続されたハイ側V相スイッチング素子及びロー側V相スイッチング素子と、発電機GのW相に接続されたハイ側W相スイッチング素子及びロー側W相スイッチング素子と、を相毎にブリッジ接続して構成される。
【0037】
第2インバータ24は、システムECU8のゲートドライブ回路から所定のタイミングで生成されるゲート駆動信号に従って上記各相のスイッチング素子をオン/オフ駆動することにより、高電圧DCDCコンバータ22から供給される直流電力を交流電力に変換して発電機Gに供給したり、発電機Gから供給される交流電力を直流電力に変換して高電圧DCDCコンバータ22に供給したりする。
【0038】
低電圧DCDCコンバータ25は、1次側電力線26p,26nに対し、高電圧DCDCコンバータ22と並列に接続されている。制御回路25dは、バックアップ電源5から供給される電力を用いることによって低電圧DCDCコンバータ25のスイッチング素子をオン/オフ駆動することによって、1次側電力線26p,26n間の電圧V1を降圧し、低電圧バッテリ31に供給し、低電圧バッテリ31を充電する。
【0039】
低電圧回路3は、低電圧バッテリ31と、第1システム制御電力線32と、第1ダイオード33と、衝突検知部35と、バッテリECU36と、を備える。
【0040】
低電圧バッテリ31は、化学エネルギを電気エネルギに変換する放電と、及び電気エネルギを化学エネルギに変換する充電との両方が可能な二次電池である。本実施形態では、低電圧バッテリ31として、電極に鉛を用いた鉛バッテリを用いた場合について説明するが、本発明はこれに限らない。また以下では、低電圧バッテリ31として、その出力電圧は高電圧バッテリ21の出力電圧よりも低いものを用いた場合について説明する。なお以下では、この低電圧バッテリ31を、作業者によるメンテナンス性を考慮して、車両Vの図示しないエンジンルームのうち車両前方側に設けた場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【0041】
第1システム制御電力線32は、低電圧バッテリ31とシステムECU8とを接続し、低電圧バッテリ31からシステムECU8へ電力を供給する給電線である。なお以下では、第1システム制御電力線32の電圧、すなわち低電圧バッテリ31の出力電圧をVBと表記する。
【0042】
第1ダイオード33は、第1システム制御電力線32に設けられる。第1ダイオード33の順方向は、低電圧バッテリ31からシステムECU8へ向かう向きであり、低電圧バッテリ31からシステムECU8への電流を許容する。
【0043】
衝突検知部35は、加速度センサ(図示せず)の検出信号を用いることによって、車両Vが衝突又は横転したか否かを判定し、衝突又は横転したと判定した場合には、バッテリECU36へ衝突検知信号を送信する。衝突検知部35は、低電圧バッテリ31から供給される電力を用いて作動する。
【0044】
バッテリECU36は、コンタクタ28p,28nのオン/オフや高電圧バッテリ21及び低電圧バッテリ31の状態の監視等に関する制御を担うマイクロコンピュータである。バッテリECU36は、低電圧バッテリ31から供給される電力を用いて作動する。
【0045】
バッテリECU36は、図示しないバッテリセンサユニットを備える。このバッテリセンサユニットは、高電圧バッテリ21の電圧、電流、及び温度など、高電圧バッテリ21の内部状態を推定するために必要な複数のセンサによって構成される。バッテリECU36は、このバッテリセンサユニットによる検出信号を用いることによって高電圧バッテリ21の内部状態(例えば、バッテリ温度や充電状態等)を推定する。
【0046】
バッテリECU36は、運転者によってスタートスイッチがオンにされると、低電圧バッテリ31から供給される電力の下で起動し、高電圧回路2に設けられている複数のコンデンサ11,12のプリチャージを開始する。より具体的には、バッテリECU36は、コンタクタ28p,28nをオンにし、高電圧バッテリ21を1次側電力線26p,26nに接続することによってコンデンサ11,12のプリチャージを行う。なおバッテリECU36は、コンデンサ11,12のプリチャージを行う際には、負極コンタクタ28nをオンにするとともに、正極コンタクタ28pのうちプリチャージ抵抗を有するコンタクタをオンにする。またバッテリECU36は、コンデンサ11,12のプリチャージが完了した後、正極コンタクタ28pのうちプリチャージ抵抗を有さないコンタクタをオンにする。これにより、プリチャージの実行時におけるコンデンサ11,12への突入電流を緩和することができる。
【0047】
バッテリECU36は、以上のようにしてコンタクタ28p,28nをオンにした後、運転者によって電源システム1を停止するためにスタートスイッチがオフにされた場合、は衝突検知部35から衝突検知信号を受信した場合には、コンタクタ28p,28nをオフにし、高電圧バッテリ21を1次側電力線26p,26nから切り離す。また何等かの理由によって低電圧バッテリ31の接続が消失したり、低電圧バッテリ31の電圧が低下したりすると、バッテリECU36が停止する。このような場合、バッテリECU36はコンタクタ28p,28nをオンで保持できず、これらコンタクタ28p,28nはオフになる。
【0048】
またこのバッテリECU36は、システムECU8とCANバス(図示せず)を介してCAN通信を行うことが可能となっている。そこでバッテリECU36は、バッテリセンサユニットを用いることで推定した高電圧バッテリ21の内部状態に関する情報を、CAN通信を介してシステムECU8へ送信する。またバッテリECU36は、衝突検知部35から衝突検知信号を受信した場合には、上記のようにコンタクタ28p、28nをオフにするとともに、CAN通信を介して放電指令信号をシステムECU8へ送信する。放電指令信号とは、後述の急速放電処理(図2参照)の実行を指令する信号である。
【0049】
図1Cは、1次側負荷回路4の回路構成の一例を示す図である。
1次側負荷回路4は、1次側電力線26p,26nと接続された負荷電力線40p,40nと、これら負荷電力線40p,40nに接続された第2回転電機としてのリア駆動モータMr、第2電力変換器としての第3インバータ41、平滑コンデンサ42、双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46等を備える。図1Cに示すように、負荷電力線40p,40nは1次側電力線26p,26nに接続されているため、負荷電力線40p,40nの間の電位差、より具体的には平滑コンデンサ42の両端の電圧は、1次側電圧V1と等しい。
【0050】
リア駆動モータMrの出力軸は、図示しない動力伝達機構を介して第2駆動輪としての後輪Wrに連結されている。
【0051】
第3インバータ41は、上述のインバータ23,24と同様に、例えば、複数のスイッチング素子(例えば、IGBT)をブリッジ接続して構成されるブリッジ回路を備えた、パルス幅変調によるPWMインバータであり、直流電力と交流電力とを変換する機能を備える。第3インバータ41は、その直流入出力側において負荷電力線40p,40nに接続され、交流入出力側においてリア駆動モータMrのU相、V相、W相の各コイルに接続されており、これら負荷電力線40p,40nとリア駆動モータMrとの間で電力を変換する。第3インバータ41は、システムECU8のゲートドライブ回路から所定のタイミングで生成されるゲート駆動信号に従って各相のスイッチング素子をオン/オフ駆動することにより、1次側電力線26p,26nにおける直流電力を交流電力に変換してリア駆動モータMrに供給したり、リア駆動モータMrから供給される交流電力を直流電力に変換して1次側電力線26p,26nに供給したりする。
【0052】
双方向充電器43は、図示しない給電ケーブルを介して外部の電力供給源から供給される交流電力を直流電力に変換し高電圧バッテリ21を充電する外部充電と、高電圧バッテリ21から供給される直流電力を交流電力に変換し図示しない給電ケーブルを介して接続された電気機器に給電する外部給電と、を実行可能なインバータである。
【0053】
電気ヒータ44は、1次側電力線26p,26nにおける電力を消費して発熱し、所定の加熱対象(例えば、高電圧バッテリ21)を加温する。電動エアコンプレッサ46は、1次側電力線26p,26nにおける電力を消費して図示しない車室内の温度を調節する。
【0054】
図1Aに戻り、バックアップ電源5は、バックアップ電力線51p,51nと、第2システム制御電力線53と、第2ダイオード54と、降圧装置55と、電源IC56と、を備える。
【0055】
バックアップ電力線51p,51nは、高電圧回路2の1次側電力線26p,26nと降圧装置55とを接続し、1次側電力線26p,26nにおける電力を降圧装置55へ供給する給電線である。第2システム制御電力線53は、降圧装置55と第1システム制御電力線32のうち第1ダイオード33よりもシステムECCU8側とを接続し、降圧装置55からシステムECU8へ電力を供給する給電線である。
【0056】
降圧装置55は、例えば絶縁型のDCDCコンバータであり、1次側電力線26p,26nにおける電力を降圧し、第2システム制御電力線53を介してシステムECU8へ供給する。電源IC56は、スタートスイッチがオンにされ、上述のようにコンタクタ28p,28nがオンにされた後、1次側電力線26p,26nから供給される電力を用いて降圧装置55のスイッチング素子をオン/オフ駆動する。なお以下では、第2システム制御電力線53の電圧、すなわち降圧装置55の出力電圧をVccと表記する。なお以下では、第2システム制御電力線53を第1システム制御電力線32に接続する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。第2システム制御電力線53は、第1システム制御電力線32を介さずにシステムECU8に直接接続してもよい。
【0057】
第2ダイオード54は、第2システム制御電力線53に設けられる。第2ダイオード54の順方向は、降圧装置55からシステムECU8へ向かう向きであり、降圧装置55からシステムECU8への電流を許容する。
【0058】
ここで降圧装置55の出力電圧Vccの設定について説明する。図1Aに示すように、車両Vの走行制御を担うシステムECU8には、電力供給源である低電圧バッテリ31及び降圧装置55がそれぞれダイオード33,54を介して接続されている。このためシステムECU8には、これら2つの電力供給源のうちより高電位である方から選択的に電力を供給することが可能となっている。本実施形態では、低電圧バッテリ31をシステムECU8に対する主電源とし、降圧装置55を低電圧バッテリ31に不具合が生じ(より具体的には、車両Vが衝突することにより、低電圧バッテリ31とシステムECU8との接続が消失した場合や、低電圧バッテリ31が正常でない状態になった場合等)、低電圧バッテリ31からシステムECU8への電力の供給ができなくなった場合におけるシステムECU8のバックアップ電源として用いるようにするため、降圧装置55の出力電圧Vccは、システムECU8の動作電圧範囲内でありかつ低電圧バッテリ31が正常である状態における出力電圧VBより低くなるように設定される。ここで低電圧バッテリ31が正常でない状態とは、例えば低電圧バッテリ31の劣化が過度に進行することにより、その出力電圧が新品時よりも大きく低下した状態をいう。
【0059】
システムECU8は、車両Vの走行制御や後述の図2に示す急速放電処理を実行するマイクロコンピュータや、このマイクロコンピュータから送信される指令信号に応じて高電圧DCDCコンバータ22、第1インバータ23、第2インバータ24、及び第3インバータ41等のスイッチング素子をオン/オフ駆動する複数のゲートドライブ回路等によって構成される。ここで急速放電処理とは、車両Vの衝突時に、高電圧となっている高電圧回路2のコンデンサ11,12及び1次側負荷回路4のコンデンサ42に蓄えられている電荷を放電させ、1次側電圧V1及び2次側電圧V2を所定電圧まで低下させる一連の処理をいう。
【0060】
システムECU8を構成するメインマイコンやゲートドライブ回路等は、低電圧バッテリ31又はバックアップ電源5から供給される電力を用いて車両Vの走行制御や急速放電処理を実行する。システムECU8は、運転者によって電源システム1を始動するためにスタートスイッチ(図示せず)がオンにされると、低電圧バッテリ31から供給される電力の下で起動し、その後は低電圧バッテリ31又はバックアップ電源5から供給される電力を用いて走行制御や急速放電制御を実行する。
【0061】
以下では、上述のようにマイクロコンピュータやゲートドライブ回路等によって構成されるシステムECU8のうち、主に1次側負荷回路4の第3インバータ41の制御に係る部分を1次側制御部81といい、主に高電圧回路2の高電圧DCDCコンバータ22、第1インバータ23、及び第2インバータ24の制御に係る部分を2次側制御部82という。
【0062】
また高電圧回路2には、高電圧回路2の電圧を検出する1次側電圧センサ93及び2次側電圧センサ94が設けられている。1次側電圧センサ93は、1次側電圧V1を検出し、検出値に応じた信号をシステムECU8へ送信する。2次側電圧センサ94は、2次側電圧V2を検出し、検出値に応じた信号をシステムECU8へ送信する。
【0063】
図2は、1次側制御部81による1次側の急速放電処理の具体的な手順を示すフローチャートであり、図3は、2次側制御部82による2次側の急速放電処理の具体的な手順を示すフローチャートである。1次側の急速放電処理は、車両衝突時にコンデンサ11,42の電荷を放電させ、1次側電圧V1を所定電圧まで低下させる処理であり、2次側の急速放電処理は、車両衝突時にコンデンサ12の電荷を放電させ、2次側電圧V2を所定電圧まで低下させる処理である。これら1次側及び2次側の急速放電処理は、それぞれ1次側制御部81及び2次側制御部82において、所定の放電開始条件が成立したと判定されたことに応じて、所定の制御周期で繰り返し実行される。ここで放電開始条件とは、例えば、システムECU8がCAN通信を介してバッテリECU36から放電指令信号を受信することや、システムECU8においてCAN通信が途絶しかつ低電圧バッテリ31の出力電圧VBが正常時の電圧よりも十分に低く設定された閾値以下まで低下したと判定したこと等、車両が衝突した場合に成立し得る条件によって構成される。
【0064】
先ず、図2を参照しながら1次側の急速放電処理の具体的な手順について説明する。
始めにステップST1では、1次側制御部81は、1次側電圧V1は低電圧閾値VUV以下であるか否かを判定する。この低電圧閾値VUVは、バックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPの近傍、より具体的にはバックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPよりやや高く設定される。
【0065】
1次側制御部81は、ステップST1の判定結果がNOである場合、すなわち1次側電圧V1が低電圧閾値VUVまで低下しておらず、バックアップ電源5の動作が停止するおそれがない場合には、ステップST2に移る。
【0066】
ステップST2では、1次側制御部81は、第3インバータ41を駆動することによって、リア駆動モータMrの回転を停止させた後、コンデンサ11,41の電荷を放電させる1次側の空転停止/放電制御を実行し、ステップST1に戻る。この1次側の空転停止/放電制御では、1次側制御部81は、例えば第3インバータ41の三相短絡制御を実行することによってリア駆動モータMrの回転を停止させる。また1次側制御部81は、1次側電圧V1を低下させる既知の制御手法(例えば、第3インバータ41のスイッチング制御によってコンデンサ11,41の電荷を放電させる手法や、図示しない放電抵抗を用いてコンデンサ11,41に蓄えられている電荷を放電させる手法等)を実行することによって、コンデンサ11,41の電荷を放電させる。すなわち1次側制御部81は、1次側電圧V1が低電圧閾値VUVより高い場合、第3インバータ41を駆動することにより、この第3インバータ41で1次側電力線26p,26nにおける電力を消費することにより、1次側電圧V1を低電圧閾値VUVへ向けて低下させる。
【0067】
また1次側制御部81は、ステップST1の判定結果がYESである場合、すなわち1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下である場合には、ステップST3に移る。上述のように低電圧閾値VUVは、バックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPの近傍に設定されているため、1次側電圧V1が低電圧閾値VUVをさらに下回ると、バックアップ電源5の動作が停止してしまい、2次側制御部82が2次側の急速放電処理(図3参照)を継続できなくなってしまうおそれがある。そこでステップST3では、1次側制御部81は、1次側電圧V1のさらなる低下を抑制するため、第3インバータ41を含む1次側負荷回路4全体の消費電力である1次側負荷電力P1を、予め定められた放電時上限電力Plim未満に制限する。より具体的には、1次側制御部81は、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷(第3インバータ41、双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46)のうち少なくとも1つを停止することによって1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に制限する。
【0068】
図4は、1次側負荷回路4を構成する複数の電気負荷の、衝突時における消費電力の一例を示す図である。図4において、横軸は1次側電圧であり、縦軸は消費電力である。図4において太実線は1次側負荷回路4全体の消費電力を示し、細実線は第3インバータ41の消費電力を示し、太一点鎖線は電動エアコンプレッサ46の消費電力を示し、太破線は1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下であるときに第3インバータ41の駆動を停止した場合における1次側負荷回路4全体の消費電力を示す。なお双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46の消費電力は、図4において太一点鎖線で示す電動エアコンプレッサの消費電力と重複する部分が多い。従って図4では、図示を明確にするため、双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46の消費電力の図示を省略する。
【0069】
図4に示すように、1次側負荷回路4全体の消費電力の中では、第3インバータ41の消費電力の占める割合が最も大きい。そこでステップST3では、1次側制御部81は、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下である場合には、第3インバータ41の駆動を停止することにより、図4において太破線で示すように、1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に制限する。
【0070】
次に、図3を参照しながら2次側の急速放電処理の具体的な手順について説明する。
始めにステップST11では、2次側制御部82は、第1インバータ23及び第2インバータ24を駆動することによって、フロント駆動モータMfの回転を停止させた後、コンデンサ12の電荷を放電させる2次側の空転停止/放電制御を実行し、ステップST12に移る。この2次側の空転停止/放電制御では、2次側制御部82は、例えば第1インバータ23及び第2インバータ24の三相短絡制御を実行することによってフロント駆動モータMfの回転を停止させる。また2次側制御部82は、2次側電圧V2を低下させる既知の制御手法(例えば、第1インバータ23及び第2インバータ24のスイッチング制御によってコンデンサ12の電荷を放電させる手法や、図示しない放電抵抗を用いてコンデンサ12に蓄えられている電荷を放電させる手法等)を実行することによって、コンデンサ12の電荷を放電させる。
【0071】
次にステップST12では、2次側制御部82は、1次側電圧V1は低電圧閾値VUV以下であるか否かを判定する。2次側制御部82は、ステップST12の判定結果がNOである場合、すなわち1次側電圧V1が低電圧閾値VUVまで低下しておらず、システムECU8に2次側の空転停止/放電制御を実行させるための電力供給源であるバックアップ電源5の動作が停止するおそれがない場合には、高電圧DCDCコンバータ22をオフの状態で維持したままオフにし(ステップST13参照)、ステップST11に戻る。このため、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下である場合、2次側電圧V2が1次側電圧V1未満まで低下しない限り、2次側電力線27p,27nから1次側電力線26p,26nへ電流が流れることはない。
【0072】
また2次側制御部82は、ステップST12の判定結果がYESである場合、すなわち1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下である場合には、ステップST14に移る。ステップST14では、2次側制御部82は、2次側電力線27p,27nから1次側電力線26p,26nへ電力が供給されるように高電圧DCDCコンバータ22を駆動する1次側充電制御を実行し、ステップST11に戻る。より具体的には、この1次側充電制御では、2次側制御部82は、2次側電力線27p,27nから1次側電力線26p,26nへ供給される電力によって1次側電圧V1が予め定められた目標電圧V1trgに維持されるように高電圧DCDCコンバータ22を駆動する。
【0073】
図5は、1次側充電制御における目標電圧V1trgと1次側負荷回路4に含まれる電気負荷の動作電圧等とを比較した図である。
【0074】
図5において、低電圧保護範囲とは、1次側負荷回路4に含まれる各電気負荷(例えば、第3インバータ41、双方向充電器43、電気ヒータ44、及び電動エアコンプレッサ46)の動作電圧の下限によって構成される電圧範囲である。すなわち1次側電圧V1が低電圧保護範囲の下限を下回ると、1次側負荷回路4に含まれる全ての電気負荷は全てオフになり、その動作を停止する。また図5において、低電圧復帰範囲とは、1次側負荷回路4に含まれる各電気負荷の復帰電圧によって構成される電圧範囲である。すなわち1次側負荷回路4に含まれる全ての電気負荷の動作が停止した状態で1次側電圧V1が低電圧復帰範囲の下限を超えると、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷のうち少なくとも1つの動作が再開する。図5に示すように、バックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPは、低電圧保護範囲及び低電圧復帰範囲の下限よりも低くなるように設定されている。
【0075】
図5に示すように、1次側充電制御における目標電圧V1trgは、バックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPと1次側負荷回路4の低電圧復帰範囲の下限との間に定められた目標電圧設定範囲内に設定される。これにより1次側充電制御の実行中には、バックアップ電源5を動作させながら1次側負荷回路4に含まれる電気負荷の動作が再開するのを抑制することができる。また1次側充電制御の実行中に1次側負荷回路4に含まれる電気負荷の動作をできるだけ停止させるためには、1次側充電制御における目標電圧V1trgは、上記目標電圧設定範囲内でありかつ低電圧保護範囲の下限よりも低く設定することが好ましい。また1次側充電制御の実行中における1次側電圧V1は、1次側負荷回路4における負荷変動により瞬間的に変動することから、目標電圧V1trgは、目標電圧設定範囲の上限及び下限に対し十分に離れた高さに設定することが好ましい。
【0076】
次に、図2図3に示す急速放電処理によって実現される1次側電圧V1及び2次側電圧V2等の車両衝突後の時間変化の例について、図6のタイムチャートを参照しながら説明する。図6には、上段から順に、1次側電力線26p,26nに設けられたコンタクタ28p,28nの状態、2次側制御部82の制御状態、2次側電圧V2、1次側電圧V1、1次側負荷回路4における1次側負荷電力P1、バックアップ電源5の出力電圧、及び1次側負荷回路4の状態を示す。また図6には、時刻t0において車両が衝突し、またこの衝撃によって低電圧バッテリ31とシステムECU8及びバッテリECU36との接続が消失した場合を示す。
【0077】
始めに時刻t1では、低電圧バッテリ31とバッテリECU36との接続が消失することにより、バッテリECU36がオフになり、またこのバッテリECU36によって制御されるコンタクタ28p,28nはオンからオフになる。これにより高電圧バッテリ21は1次側電力線26p,26nから切り離される。また時刻t1では、低電圧バッテリ31とシステムECU8との接続が消失することにより、システムECU8の電力供給源が低電圧バッテリ31からバックアップ電源5に切り替わる。このためバックアップ電源5の出力電圧は、時刻t1においてステップ状に低下する。
【0078】
なお1次側電力線26p,26nには、1次側負荷回路4が接続されている。このため、1次側負荷回路4に含まれる電気負荷は、時刻t0において車両が衝突した後も1次側電力線26p,26nから供給される電力によって動作を継続する。したがって時刻t1において高電圧バッテリ21が1次側電力線26p,26nから切り離されることにより、時刻t1以降、1次側負荷回路4に含まれる電気負荷はコンデンサ11,42の電荷を消費する。このため時刻t1以降では、1次側電圧V1が低下し始める。また1次側電圧V1が低下し始めることにより、時刻t1から時刻t8にかけて、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷は、動作電圧が高いものから順に停止する。このため時刻t1以降では、1次側負荷電力P1も低下する。図6には、このように1次側電圧V1がその動作電圧の下限を下回っているものの、電気負荷の動作が完全に停止していない状態を「UV(Under Voltage)状態」と表記する。すなわち時刻t1から時刻t8の間では、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷は、適切には動作していないものの、1次側電力線26p,26nにおける電力を僅かながらも消費し、動作を継続している。
【0079】
その後時刻t2では、2次側制御部82は、2次側の空転停止/放電制御を開始し(図3のステップST11参照)、1次側制御部81は、1次側の空転停止/放電制御を開始する(図2のステップST2参照)。
【0080】
その後時刻t3では、1次側電圧V1が低電圧閾値VUVを初めて下回る。またその後時刻t4では、1次側電圧V1がバックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPを下回る。このため時刻t4以降、バックアップ電源5の出力電圧が低下し始める。このため時刻t4からバックアップ電源5の確定時間(電圧が動作電圧の下限を下回った状態で、動作を継続できる時間)が経過するまでの間に1次側電圧V1が上昇しなければ、バックアップ電源5の動作が停止し、その出力電圧は0となってしまう。
【0081】
その後時刻t5では、2次側制御部82は、時刻t3において1次側電圧V1が低電圧閾値VUVを下回ったことに応じて1次側充電制御を開始する(図3のステップST14参照)。これにより時刻t5以降では、1次側電圧V1は、2次側電力線27p,27nから供給される電力によって目標電圧V1trgへ向けて上昇し始める。その後時刻t6では、1次側電圧V1はバックアップ電源5の動作開始電圧を上回り、時刻t7において目標電圧V1trgに到達する。このため、時刻t6以降バックアップ電源5の出力電圧も上昇し始める。
【0082】
また時刻t5では、1次側制御部81は、時刻t3において1次側電圧V1が低電圧閾値VUVを下回ったことに応じて、時刻t2において開始した2次側の空転停止/放電制御を停止する。すなわち1次側制御部81は、第3インバータ41の駆動を停止する。このため時刻t5以降における1次側負荷電力P1は、放電時上限電力Plim未満に制限される。
【0083】
したがって時刻t5から時刻t9において2次側電圧V2が所定電圧まで低下するまで、すなわちコンデンサ11,12,41に蓄えられた電荷が適切に放電されるまで、バックアップ電源5を動作させ続けることができる。
【0084】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)バックアップ電源5は1次側電力線26p,26nにおける電力をシステムECU8に供給し、システムECU8は、放電開始条件が成立した場合には、バックアップ電源5から供給される電力によって放電制御を実行することにより、1次側電力線26p,26n及び2次側電力線27p,27nに設けられたコンデンサ11,12の電荷を放電させる。またシステムECU8は、1次側電力線26p,26nの1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下になった場合、1次側電力線26p,26nに接続された1次側負荷回路4における消費電力である1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に制限しながら上記放電制御を実行する。これにより、バックアップ電源5を介して1次側電力線26p,26nから供給される電力を消費することによってシステムECU8が放電制御を実行し、コンデンサ12の電荷を放電させている最中は、1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に抑制し、1次側電圧V1がバックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPを下回らないようにできるので、システムECU8が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源5を安定して作動させることができる。
【0085】
(2)システムECU8は、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下になった場合、1次側負荷回路4に設けられた複数の電気負荷のうち比較的消費電力が大きいリア駆動モータMrの第3インバータ41の駆動を停止することにより、1次側負荷電力P1を放電時上限電力Plim未満に制限する。これによりシステムECU8が適切に放電制御を実行できるようバックアップ電源5を安定して作動させることができる。
【0086】
(3)システムECU8は、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下になったことに応じて、2次側電力線27p,27nから1次側電力線26p,26nへ供給される電力によって1次側電圧V1が目標電圧V1trgに維持されるように高電圧DCDCコンバータ22を操作する1次側充電制御を実行する。これにより、バックアップ電源5が安定して動作するように1次側電圧V1を目標電圧V1trgに維持しながら、コンデンサ12の電荷の放電を促進することができる。また電源システム1では、1次側充電制御における目標電圧V1trgを、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷の低電圧復帰範囲の下限よりも低くする。これにより、1次側電圧V1が低電圧閾値VUV以下になった後、1次側充電制御によって1次側電力線26p,26nに供給される電力によって1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷が再度稼働してしまい、1次側負荷電力P1が放電時上限電力Plimを超えてしまうのを防止できる。また電源システム1では、1次側充電制御における目標電圧V1trgを、バックアップ電源5の動作電圧の下限VBUPよりも高くする。これにより、1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷の再稼働を防止しつつ、バックアップ電源5のみを安定して動作させることができる。
【0087】
(4)電源システム1では、1次側充電制御における目標電圧V1trgを、上記複数の電気負荷の低電圧保護範囲の下限よりも低くする。これにより、1次側充電制御によって1次側電力線26p,26nに供給される電力によって1次側負荷回路4に含まれる複数の電気負荷の再稼働をより確実に防ぐことができる。
【0088】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0089】
V…車両
Mf…フロント駆動モータ(第1回転電機)
Mr…リア駆動モータ(第2回転電機、電気負荷)
Wf…前輪(第1駆動輪)
Wr…後輪(第2駆動輪)
1…電源システム
11…1次側コンデンサ
12…2次側コンデンサ
2…高電圧回路2
21…高電圧バッテリ(主電源)
22…高電圧DCDCコンバータ(電圧変換器)
23…第1インバータ(第1電力変換器)
26p,26n…1次側電力線
27p,27n…2次側電力線
28p,28n…コンタクタ
4…1次側負荷回路
40p,40n…負荷電力線
41…第3インバータ(第2電力変換器、電気負荷)
42…平滑コンデンサ
43…双方向充電器(電気負荷)
44…電気ヒータ(電気負荷)
46…電動エアコンプレッサ(電気負荷)
5…バックアップ電源
8…システムECU(制御装置)
81…1次側制御部
82…2次側制御部
93…1次側電圧センサ(1次側電圧取得手段)
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6