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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156230
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20221006BHJP
   C08G 77/04 20060101ALI20221006BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C08G77/04
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059817
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】西澤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】神谷 幸佑
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4J246
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA03A
4F100AA20A
4F100AA32A
4F100AB01B
4F100AG00B
4F100AK01B
4F100AK52A
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DD07A
4F100DE01A
4F100EJ08A
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB48
4F100GB81
4F100JA04A
4F100JK14A
4F100YY00A
4J038DL031
4J038DL071
4J038GA12
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA09
4J038KA12
4J038KA20
4J038NA05
4J038NA07
4J038NA11
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA160
4J246BA16X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA240
4J246CA249
4J246CA24X
4J246CA400
4J246CA409
4J246CA40X
4J246CA470
4J246CA479
4J246CA47X
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA461
4J246FB081
4J246GB27
4J246GD08
4J246HA22
(57)【要約】
【課題】粉塵汚れ及び繊維汚れに対する優れた防塵性と、耐久性とを両立した機能性膜を有する積層体、及び、該機能性膜を形成するための組成物を提供する。
【解決手段】ケイ素、酸素、炭素、フッ素、及び、第11族元素を含有し、最小自己相関長さSalが300~2500nmである機能性膜と、基材とからなる積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素、酸素、炭素、フッ素、及び、第11族元素を含有し、最小自己相関長さSalが300~2500nmである機能性膜と、基材とからなる積層体。
【請求項2】
前記機能性膜が、無機粒子と、アルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物の硬化物とを含む請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記機能性膜の算術平均高さSaが10~150nmである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記基材が、プラスチック基材、ガラス基材又は金属基材である請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記機能性膜が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有する請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記機能性膜の膜厚が1μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の積層体における機能性膜を形成するための組成物。
【請求項8】
フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物、及び、第11族元素を含む無機粒子を含有する組成物。
【請求項9】
さらに、フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物を含む請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物における、分子中のケイ素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)が0.1~4である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記無機粒子が反応性基を有する無機粒子を含む請求項8~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物を硬化して得られる機能性膜が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記無機粒子が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有する、請求項11又は12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項7~13のいずれかに記載の組成物を含む防塵コーティング用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその積層体の機能性膜を形成するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤は、様々な機能が要求され、家具、インテリア、自動車、住宅建材、交通標識、家電製品や、ディスプレイなどの様々な用途で使用されている。近年、これらの用途において、粉塵、繊維等の汚れの付着を防止する持続性のある防塵性が求められている。
【0003】
特許文献1には、膜内部に空孔を設け、かつ、膜表面に凹凸構造を備えることにより、粉塵付着防止機能による防汚性を付与する発明が記載されている。しかしながら、凹凸構造があるものの、親水性の膜であるため、雨水による洗浄効果が期待できる屋外用途に限られており、防塵性能も十分ではなかった。一方、特許文献2には、形成される表面凹凸によって撥水撥油性を付与することにより、使用する環境によらない防汚性を付与する発明が記載されているが、プラズマ放電でエッチングを行うため、表面が尖った形状になって強度が弱く、耐久性が低いものであった。このように、粉塵汚れに対する防塵性や耐久性には未だ改善の余地がある。また、特許文献1及び2のいずれも、綿埃等の繊維汚れに対する防塵性は課題としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-226764号公報
【特許文献2】特開平6-116430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する優れた防塵性と、耐久性とを両立した機能性膜を有する積層体、及び、該機能性膜を形成するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、粉塵、繊維等の汚れの付着力を低減することについて検討を進めたところ、ケイ素、酸素、炭素、及び、フッ素を含有し、表面に特定の規則性をもった凹凸を有する機能性膜において、さらに第11族元素を含有させることにより、粉塵汚れだけでなく繊維汚れに対しても高い防塵性を長期間持続できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ケイ素、酸素、炭素、フッ素、及び、第11族元素を含有し、最小自己相関長さSalが300~2500nmである機能性膜と、基材とからなる積層体に関する。
【0008】
前記機能性膜が、無機粒子と、アルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物の硬化物とを含むことが好ましい。
【0009】
前記機能性膜の算術平均高さSaが10~150nmであることが好ましい。
【0010】
前記基材が、プラスチック基材、ガラス基材又は金属基材であることが好ましい。
【0011】
前記機能性膜が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有することが好ましい。
【0012】
前記機能性膜の膜厚が1μm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記積層体における機能性膜を形成するための組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物、及び、第11族元素を含む無機粒子を含有する組成物に関する。
【0015】
さらに、フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物を含むことが好ましい。
【0016】
前記フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物における、分子中のケイ素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)が0.1~4であることが好ましい。
【0017】
前記無機粒子が反応性基を有する無機粒子を含むことが好ましい。
【0018】
前記組成物を硬化して得られる機能性膜が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有することが好ましい。
【0019】
前記無機粒子が、示差熱分析DTA測定において、200~600℃に正のDTAピークを有することが好ましい。
【0020】
さらに、本発明は、前記組成物を含む防塵コーティング用組成物に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の積層体は、ケイ素、酸素、炭素、及び、フッ素に加えてさらに第11族元素を含有し、表面に特定の規則性をもった凹凸を有する機能性膜を有するため、粉塵汚れだけでなく繊維汚れに対しても高い防塵性を長期間持続できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<<積層体>>
本発明の積層体は、ケイ素、酸素、炭素、フッ素、及び、第11族元素を含有し、最小自己相関長さSalが300~2500nmである機能性膜と、基材とからなることを特徴とする。フッ素を含有することによって、水接触角を向上させて粉塵、繊維等の汚れを付着しにくくし、特定の規則性をもった凹凸を設けることによって、接地面積を減らすことができる。本発明では、これらの効果に加え、さらに第11族元素を含有することにより、粉塵汚れだけでなく繊維汚れに対しても、積層体を傾けるだけで汚れが重力によって転がり落ちるほどの高い防塵性を発揮する。
【0023】
<基材>
基材の材質は、プラスチック、ガラス、金属、コンクリート、煉瓦、砂岩、モルタル、セメント、綿、麻、絹、ウール等が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、プラスチック、ガラス及び金属が好ましい。プラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等が挙げられる。金属としては、ステンレス、鉄、銅、鋼、特殊鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銀等が挙げられる。
【0024】
基材の形態としては、成形体、シート、フィルム、布帛等が挙げられる。布帛の形態としては、織物、編物、不織布等が挙げられる。
【0025】
<機能性膜>
機能性膜は、ケイ素、酸素、炭素、及び、フッ素に加えて、さらに第11族元素を含有する。第11族元素は、銅、銀、又は金であることが好ましく、銅であることがより好ましい。ここで、各元素を含むことは、原料成分や、機能性膜の元素分析により確認することができる。また、各元素の含有量も、原料成分の配合量から算出することができ、機能性膜の元素分析によって求めることもできる。これらの5種の元素の含有量は、ケイ素が20~50重量%、酸素が30~60重量%、炭素が5~25重量%、フッ素が0.1~20重量%、第11族元素が0.01~30重量%であることが好ましく、ケイ素が25~35重量%、酸素が40~55重量%、炭素が10~20重量%、フッ素が1~15重量%、第11族元素が0.1~20重量%であることがより好ましい。また、機能性膜は、無機粒子と、アルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物の硬化物を含むことが好ましい。
【0026】
機能性膜の最小自己相関長さSalは300~2500nmであり、400~2300nmが好ましく、500~2100nmであることがより好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性に優れる。ここで、最小自己相関長さSalは、表面性状の規格であるISO25178に準拠して測定することができる。Salが小さいと、表面形状は規則的で密になり、逆に大きいと不規則で疎になる。
【0027】
機能性膜の算術平均高さSaは特に限定されないが、10~150nmが好ましく、15~120nmがより好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性に優れる。ここで、算術平均高さSaは、表面性状の規格であるISO25178に準拠して測定することができる。
【0028】
機能性膜の水接触角は特に限定されないが、70~130°が好ましく、90~120°がより好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性に優れる。ここで、水接触角は、液滴法によって測定することができる。なお、水接触角は、不織布を摩擦子として使用し、500gの荷重を加えながら10往復擦った後も、上述の範囲となることが好ましい。
【0029】
機能性膜の膜厚は特に限定されないが、1μm以下が好ましく、0.01~1μmがより好ましく、0.05~0.8μmがさらに好ましく、0.1~0.5μmが特に好ましい。上記範囲内であると、十分な防塵性と耐久性が得られ、後述の用途に最適である。
【0030】
積層体の全光線透過率は特に限定されないが、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。上記範囲内であると、視認性が求められる用途にも適用できる。
【0031】
積層体のヘイズ値は特に限定されないが、4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましい。
【0032】
機能性膜への粉塵汚れの付着率は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、機能性膜への繊維汚れの付着率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。ここで、粉塵汚れ及び繊維汚れの付着率は、試験ほこりを機能性膜に振りかけ、90°に傾けて除去した後、機能性膜全領域に対する残存ほこりの付着割合であり、より具体的には実施例に記載の手法で測定することができる。なお、これらの付着率は、不織布を摩擦子として使用し、500gの荷重を加えながら10往復擦った後も、上述の範囲となることが好ましい。
【0033】
機能性膜に試験ほこりを振りかける方法、並びに、付着した試験ほこりを除去する方法は特に限定されず、種々の方法を好適に用いることができる。例えば、試験ほこりを機能性膜に所定量振りかけてから、90°に傾けて台上3cmの高さから3回軽く落として叩く(タップする)ことにより、試験ほこりをふるい落とせばよい。また、機能性膜の画像撮影についても特に限定されず、機能性膜全領域について試験ほこりを視認可能な方法で複数の画像を撮影すればよい。撮影した画像の二値化処理についても特に限定されず、公知の画像処理ソフトウェア等を用いればよい。
【0034】
機能性膜は、示差熱分析DTA測定において、200℃~600℃に正のDTAピークを有することが好ましく、300℃~600℃に正のDTAピークを有することがより好ましい。ここで、DTAは、示差熱熱重量計で測定することができる。正のDTAピークは、無機粒子表面のシラノール基の脱水縮合反応の際に生じるピークである。
【0035】
機能性膜は、機能性膜を形成するための組成物を基材に塗布した後、又は、基材の形態が布帛である場合には機能性膜を形成するための組成物に基材を含浸させた後に、組成物を硬化させることにより得られる。塗布する場合、基材の少なくとも一つの面上に、直接塗布してもよいし、転写してもよいし、プライマー層等を予め基材上に設けた後で、その上に塗布してもよい。プライマー層としては、基材に対する塗布性や、基材と機能性膜との密着性を付与することができれば、特に限定されないが、バインダーを含むことが好ましい。また、架橋剤、触媒、界面活性剤、レベリング剤、顔料、染料等を適宜含むこともできる。
【0036】
機能性膜を形成するための組成物は、無機粒子として第11族元素を含む無機粒子を含む。機能性膜を形成するための組成物は、さらに、フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物を含むことが好ましく、フルオロ基を有するアルコキシシランの加水分解部分縮合物を含むことがより好ましく、フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物、及び、フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物を含むことがさらに好ましい。
【0037】
基材への組成物の塗布や、組成物への基材の含浸は、一般的な方法により行うことができる。硬化条件は特に限定されないが、加熱硬化の場合には70~1000℃で1~130分間の条件が挙げられる。露光により硬化する場合には5~2000mJ/cmの光照射量が挙げられる。
【0038】
(無機粒子)
無機粒子は、特定の凹凸を形成させる成分である。無機粒子は特に限定されず、例えば、単体金属、金属酸化物、ハロゲン化物、窒化物、2種以上の金属元素から構成される複合酸化物、金属酸化物に異種の元素がドープされた化合物等が挙げられるが、第11族元素を含む無機粒子を必ず含むものとする。単体金属として、具体的には、銅、銀、金等が挙げられる。金属酸化物として、具体的には、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(Fe、FeO、Fe)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ニオブ(Nb)、酸化モリブデン(MoO)、酸化インジウム(In、InO)、酸化スズ(SnO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(WO、W)、酸化鉛(PbO、PbO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO、Ce)、酸化アンチモン(Sb、Sb)、酸化ゲルマニウム(GeO、GeO)等が挙げられる。ハロゲン化物として、具体的には、フッ化銅(CuF、CuF)、塩化銅(CuCl、CuCl)、臭化銅(CuBr、CuBr)、ヨウ化銅(CuI)、フッ化銀(AgF、AgF、AgF2、AgF)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)、ヨウ化銀(AgI)等が挙げられる。無機粒子は、第11族元素を含む無機粒子を含む限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機粒子としては、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性の観点から、酸化ケイ素(シリカ)、銅を含む無機粒子が好ましく、酸化ケイ素(シリカ)と銅を含む無機粒子とを併用することがより好ましく、酸化ケイ素(シリカ)とヨウ化銅(CuI)とを併用することがさらに好ましい。
【0039】
無機粒子の粒子径は、特に限定されないが、1~2000nmが好ましく、2~1500nmがより好ましく、10~500nmがさらに好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性に優れる。
【0040】
無機粒子は、反応性の置換基(反応性基)を有することが好ましく、反応性の置換基には有機反応性置換基が含まれていてもよい。有機反応性置換基としては、エポキシ基、メタクリル基、イソシアネート基等が挙げられる。例えば無機粒子がシリカの場合には、表面に多数の水酸基が存在しているので、水酸基とシランカップリング剤等で反応させることにより、反応性の置換基を導入することができる。
【0041】
無機粒子は、示差熱分析DTAにおいて、200℃~600℃に正のDTAピークを有するものが好ましく、300℃~600℃に正のDTAピークを有することがより好ましい。上記範囲内であると、機能性膜が耐久性に優れたものとなる。
【0042】
第11族元素を含む無機粒子の配合量は、固形分中、0.01~60重量%が好ましく、1~50重量%がより好ましく、3~50重量%がさらに好ましい。一方、第11族元素を含まない無機粒子の配合量は、固形分中、0~90重量%が好ましく、3~80重量%がより好ましく、5~70重量%がさらに好ましく、10~50重量%が特に好ましい。また、上述したように酸化ケイ素(シリカ)と銅を含む無機粒子(例えばヨウ化銅(CuI))とを併用する場合、酸化ケイ素(シリカ)と銅を含む無機粒子との重量比は、99:1~1:99であることが好ましく、98:2~2:98であることがより好ましく、95:5~10:90であることがさらに好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性と耐久性に優れる傾向にある。
【0043】
(フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物)
フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物は、撥水性を付与する成分である。
【0044】
フルオロ基を有するアルコキシシランとしては、フルオロ基とアルコキシ基を有するシラン化合物であれば特に限定されない。フルオロ基としては、フッ素原子、フルオロアルキル基、パーフルオロポリエーテル基等が好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましい。また、アルコキシ基は3つ以下であるものが好ましい。具体的には、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロドデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、撥水性の点で、パーフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランが好ましい。
また、これらのフルオロ基を有するアルコキシシランは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、フルオロ基を有するアルコキシシランを少なくとも1種含んでいれば、フルオロ基を含まないアルコキシシランを併用しても良い。
【0045】
フルオロ基を有するアルコキシシランの加水分解部分縮合物としては、フルオロ基を有するアルコキシシランを既存の手法で加水分解縮合させることにより得られたものが挙げられる。フルオロ基を有するアルコキシシランとしては、前述した化合物を使用することができる。これらのフルオロ基を有するアルコキシシランは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して加水分解部分縮合してもよい。また、フルオロ基を有するアルコキシシランを少なくとも1種含んでいれば、フルオロ基を含まないアルコキシシランを併用して加水分解部分縮合してもよい。フルオロ基を有するアルコキシシランは、アルコキシ基が親水性、フルオロ基が疎水性を有するため、組成物中でミセルを形成する傾向があるが、加水分解部分縮合物として使用することで、ミセル化が抑制され、フルオロアルキル基を膜表面に配向させやすく、機能性膜の耐久性が向上する傾向にある。
【0046】
フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物の配合量は、特に限定されないが、固形分中、0.5~70重量%が好ましく、1~60重量%がより好ましく、3~50重量%がさらに好ましく、3~20重量%が特に好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性と耐久性を両立した機能性膜が形成できる傾向にある。
【0047】
(フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物)
フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物は、耐久性(耐摩耗性、硬度)を付与する成分であり、経時的に防塵性が低下することを抑制する。フルオロ基を含まないアルコキシシランの加水分解部分縮合物としては、フルオロ基を含まないアルコキシシランを加水分解と縮合反応して得られる加水分解部分縮合物であれば限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表されるフルオロ基を含まないアルコキシシランを加水分解と縮合反応して得られるものが挙げられる。
SiR (1)
一般式(1)中、Rは、それぞれ水素、水酸基、アルコキシ基、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であり、1以上のRがアルコキシ基である。アルコキシ基、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基は、それぞれ置換基を有してもよい。
【0048】
一般式(1)の4つのRのうち、1つのRがアルコキシ基である場合はモノアルコキシシラン、2つのRがアルコキシ基である場合はジアルコキシシラン、3つのRがアルコキシ基である場合はトリアルコキシシラン、4つのRがアルコキシ基である場合はテトラアルコキシシランであり、これらのいずれであってもよい。また、これらのアルコキシシランは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。トリアルコキシシランまたはテトラアルコキシシランを含有すると分岐構造の加水分解部分縮合物を得ることができ、分岐構造の加水分解部分縮合物は硬化して塗膜としたときの膜密度が高く、強度や耐湿熱性、耐熱性に優れる。ジアルコキシシランを用いることにより、加水分解部分縮合物の分子量を調整できる他、柔軟性が付与できる。モノアルコキシシランを用いることにより、加水分解部分縮合物の分子量を調整できる。
【0049】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のC1-4アルコキシ基が挙げられる。
【0050】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のC1-20アルキル基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基や、ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0051】
脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有する置換基としては、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、エポキシ基等の架橋性官能基、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基、及びスチリル基等が挙げられる。
【0052】
フルオロ基を含まないアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メトキシトリメチルシラン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、ビス(トリメトキシシリルメチル)エチレン、1-(トリエトキシシリル)-2-(ジエトキシメチルシリル)エタン等の脂肪族炭化水素基を有するシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の芳香族炭化水素基を有するシラン化合物;ビス-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等の2級アミノ基を有するシラン化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノフェニルトリメトキシシラン、3-アミノフェニルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン等の1級アミノ基を有するシラン化合物;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル基を有するシラン化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニル基を有するシラン化合物;β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有するシラン化合物;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するシラン化合物;1,3,5-トリス(メチルジメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(メチルジエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(トリメトキシシリルエチル)イソシアヌレート、1,3-(ジ-2-プロペン-1-イル)-5-(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1-(2-プロペン-1-イル)-3,5-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1-グリシジルメチル-3,5-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3-ビス(グリシジルメチル)-5-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1-グリシジルメチル-3-(2-プロペン-1-イル)-5-(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3-ジメチル-5-(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート基を有するシラン化合物等が挙げられる。これらの中でも、耐久性、基材適用性の観点から、テトラアルコキシシラン、脂肪族炭化水素基を有するシラン化合物、芳香族炭化水素基を有するシラン化合物が好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メトキシトリメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランがより好ましい。
【0053】
フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物において、分子中のケイ素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)は0.1~4が好ましく、0.15~3.0がより好ましく、0.2~2.0がさらに好ましい。上記範囲内であると、機能性膜が粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性、耐久性や基材適用性に優れる傾向がある。ここで、ケイ素原子数と炭素原子数は、それぞれ、原料のアルコキシシランの加水分解物1分子中に含まれるケイ素原子と炭素原子の数である。フルオロ基を含まないアルコキシシランを2種以上併用する場合は、各化合物の分子数をもとに炭素原子の総数とケイ素原子の総数を算出すれば、比を導くことができる。
【0054】
フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物の配合量は、特に限定されないが、固形分中、1~90重量%が好ましく、3~80重量%がより好ましく、5~70重量%がさらに好ましく、10~50重量%が特に好ましい。上記範囲内であると、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性と耐久性を両立した機能性膜が形成できる傾向にある。
【0055】
フルオロ基を有するアルコキシシランの加水分解部分縮合物や、フルオロ基を含まないアルコキシシランの加水分解部分縮合物は、例えばアルコキシシランを酸性条件下で加水分解部分縮合させることにより作製することができる。加水分解部分縮合は、アルコキシシランのアルコキシ基の加水分解による水酸基の形成、及び、形成された水酸基同士の縮合反応により行われる。これらの反応は一段階で行うことができる。加水分解部分縮合物には、アルコキシ基が加水分解した水酸基が一部残存してもよい。
【0056】
反応時の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは25~200℃、より好ましくは30~150℃、さらに好ましくは40~120℃である。時間条件は、特に限定されないが、好ましくは0.1~72時間、より好ましくは0.1~48時間、さらに好ましくは0.1~36時間である。
【0057】
アルコキシシランの加水分解部分縮合反応においては、アルコキシシランのアルコキシ基の当量数以上の水を添加することが好ましい。水の添加量はアルコキシシランのアルコキシ基100モルに対し、100~500,000モルが好ましく、500~100,000モルがより好ましく、1,000~50,000モルがさらに好ましい。
【0058】
加水分解部分縮合反応においては、使用するアルコキシシランの反応性に応じて触媒を使用してもよい。触媒としては、酸性触媒が挙げられ、具体的にはギ酸、酢酸、氷酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどの無機酸、酸性シリカゲル、酸性シリカゾルが挙げられる。これらの中でも、成膜後に触媒が膜内に残存しない揮発性の酸が好ましく、沸点200℃以下の有機酸がより好ましく、ギ酸、酢酸がさらに好ましい。酸性触媒を使用することで、加水分解部分縮合反応が促進される、加水分解部分縮合物が安定化される、といった効果が得られる。
【0059】
加水分解部分縮合反応時のpHは、1~7が好ましく、2~7がより好ましく、3~4がさらに好ましい。この範囲とすることにより、所望の加水分解部分縮合物が得られる。
【0060】
触媒の添加量は、アルコキシシラン100重量部に対し、0.0001~20重量部であることが好ましく、0.0001~10重量部であることがより好ましい。この範囲とすることにより、加水分解部分縮合反応が速やかに進むうえ、加熱により除去しやすい。
【0061】
加水分解部分縮合反応は、溶媒を使用せずに行ってもよいが、必要に応じて溶媒を使用してもよい。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール等のトリオール類;テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、3-メトキシブチル-1-アセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類を挙げることができる。これらの中では、加水分解部分縮合物を効率的に形成できることから、アルコール類、グリコール類、トリオール類等の水溶性有機溶媒が好ましく、アルコール類、グリコール類が特に好ましい。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、前述した溶媒と水との混合液を用いてもよく、混合液として使用する場合、水と水溶性有機溶媒との混合液が好ましく、水とアルコール類との混合液がより好ましい。
【0062】
溶媒の配合量としては、アルコキシシラン100重量部に対し、1~50000重量部が好ましく、10~5000重量部がより好ましく、20~1000重量部がさらに好ましい。
【0063】
加水分解部分縮合物が、水や水溶性有機溶媒の中で沈殿を生じない場合には、加水分解部分縮合物が得られたと判断できる。縮合反応が過剰に進行した場合は水溶性が低下し、水や水溶性有機溶媒の中でゲル化や懸濁が発生する。
【0064】
機能性膜を形成するための組成物には、任意に他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、密着性向上剤、エポキシ樹脂やアクリレート、メラミン等の硬化性樹脂、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂、導電性高分子等の帯電防止剤、炭素材料、重合開始剤、レベリング剤、界面活性剤、光増感剤、消泡剤、中和剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、増粘剤、溶媒等が挙げられる。
【0065】
密着性向上剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシシラン類、アミノシラン類、アクリルシラン類、ビニルシラン類、スチリルシラン類等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤や、アクリロイルイソシアネート、ブロックドイソシアネート等のイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。密着性向上剤の配合量としては、固形分中、0.1~40重量%が好ましく、0.5~30重量%がより好ましく、1~20重量%がさらに好ましい。上記範囲内であると、機能性膜と基材との密着性に優れる傾向にある。
【0066】
本発明の組成物に帯電防止剤を配合することにより、該組成物の硬化物からなる機能性膜の導電性が向上し、静電気による繊維汚れの付着が抑制されるため、繊維汚れに対する防塵性を向上させることができる。帯電防止剤としては特に限定されず、界面活性剤、イオン性化合物、カーボンブラック、導電性フィラー、または導電性高分子が挙げられるが、導電性高分子が防塵性の点で好ましい。導電性高分子としては従来公知の導電性高分子を用いることができ、具体例としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体、及び、これらとドーパントとの複合体等が挙げられる。これらの導電性高分子は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
導電性高分子としては、分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子が好ましい。その理由は、チオフェン環を分子内に含むことで導電性が高い分子ができやすいからである。
【0068】
導電性高分子としては、ポリ(3,4-二置換チオフェン)、又は、ポリ(3,4-二置換チオフェン)とポリ陰イオンとの複合体がより好ましい。導電性や化学的安定性に極めて優れているからである。また、ポリ(3,4-二置換チオフェン)、又は、ポリ(3,4-二置換チオフェン)とポリ陰イオンとの複合体を含有する場合、低温短時間で機能性膜を形成することができ、生産性にも優れる。
【0069】
導電性高分子の配合量としては、固形分中、0.5~70重量%が好ましく、1~60重量%がより好ましく、2~50重量%がさらに好ましく、3~10重量%が特に好ましい。上記範囲内であると、繊維汚れに対する防塵性に優れる傾向がある。
【0070】
レベリング剤としては特に限定されず、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体などのポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジン等のカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、コハク酸エステル等のエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等のスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等のアミド化合物;アクリル系化合物等が挙げられる。
【0071】
レベリング剤の配合量は、組成物の固形分中、0.001~5重量%が好ましく、0.01~1重量%がより好ましく、0.05~0.5重量%がさらに好ましい。
【0072】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエチレングリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチル-1-アセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、シュウ酸ジブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、エチレングリコールエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、ケトン類及びエステル類が好ましく、3-エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びメチルアミルケトンがより好ましい。これらの溶媒は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0073】
組成物の固形分率は、特に限定されないが、0.1~10重量%が好ましく、1~8重量%がより好ましく、2~5重量%がさらに好ましい。上記範囲内であると、液安定性が良くなる傾向がある。
【0074】
本発明の積層体は、基材上に、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する優れた防塵性と、耐久性とを両立した機能性膜を有するため、自動車、住宅建材、家具、インテリア、家電製品、交通標識、医療用器具、看板、シャッター、工場機器、衣服等の繊維製品、前述製品に貼付け可能なフィルムシート等の、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する防塵性と耐久性とが求められる用途に好適に適用できる。
【0075】
<<組成物>>
本発明の組成物は、フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物と、第11族元素を含む無機粒子とを含有することを特徴とする。さらに、フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物を含むことが好ましい。フルオロ基を有するアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物、無機粒子、フルオロ基を含まないアルコキシシラン又はその加水分解部分縮合物については、前述した通りである。該組成物は、粉塵汚れ及び繊維汚れに対する高い防塵性を長期間持続できるため、防塵コーティング用として好適に適用できる。
【実施例0076】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0077】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
(1)アルコキシシラン
テトラエトキシシラン(TEOS)(多摩化学工業株式会社製)
メチルトリエトキシシラン(MTES)(東レ・ダウ株式会社製、OFS-6383)
フェニルトリエトキシシラン(PTES)(東京化成工業株式会社製)
テトラメトキシシラン(TMOS)(東京化成工業株式会社製)
ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン(HDFDTMOS)(東京化成工業株式会社製)
(2)無機粒子
無機粒子1(合成例8にて製造、シリカ分散体、粒子径:100nm、反応性基:シラノール基、DTAピーク:340℃)
無機粒子2(日産化学株式会社製、ST-O、粒子径:12nm、反応性基:シラノール基、DTAピーク600℃以上)
無機粒子3(CuI分散体、株式会社NBCメッシュテック製、Cufitec(登録商標)、粒子径:100nm)
無機粒子4(Cu分散体、Aintech社製、NP Cu2.5、粒子径:2.5nm)
無機粒子5(Cu分散体、Aintech社製、CP Cu250、粒子径:250nm)
無機粒子6(Cu分散体、Aintech社製、CP Cu1500、粒子径:1500nm)
無機粒子7(CuO(I)分散体、Aldrich社製、粒子径:<350nm)
無機粒子8(Ag分散体、Aldrich社製、粒子径:<100nm)
(3)密着性向上剤
ブロックイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製、WM44-L70G)
(4)溶媒
エタノール(AP-7)(日本アルコール販売株式会社製)
純水(PW)
(5)基材
ガラス白板(太佑機材株式会社製)
PETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー)
ABS樹脂板(TP技研株式会社製)
金属アルミ板(太佑機材株式会社製、A-1050P)
ポリカーボネート(PC)板(TP技研株式会社製)
メタクリル樹脂(PMMA)板(TP技研株式会社製)
ステンレス(SUS)板(TP技研株式会社製)
人工大理石(株式会社スタンダードテストピース製、コーリアン)
【0078】
実施例で作製した積層体の機能性膜は以下の方法で評価した。
<膜厚>
触針式表面形状測定器(アルバック株式会社製、DEKTAK)により膜厚を測定した。
【0079】
<算術平均高さ(Sa)及び最小自己相関長さ(Sal)>
ISO25178に準拠し、形状解析レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、VK-X1000)で測定した。
【0080】
<透過率(Tt)及びヘイズ(Haze)>
スガ試験機株式会社製ヘイズメーターHZ-2を用いて測定した。
【0081】
<水接触角>
液滴法に準拠し、協和界面化学株式会社製、DM-501Hiを用いて測定した。
【0082】
<粉塵付着率>
実施例1~29及び比較例1~5で作製した積層体を10cm×10cmの面積内に完全に収まるように機能性膜を上にして設置し、この面積全体に対して関東ローム(JIS Z 8901、試験用粉体1の8種)1gを均一に振りかけた(機能性膜の面積1cm当たりの試験ほこりの使用量が10mgである)。積層体を90°に傾けて台上3cmの高さから3回軽く落として叩く(タップする)ことにより試験ほこりを除去した後に、写真撮影した。撮影した写真を画像ソフトで二値化処理し、機能性膜全領域に対する試験ほこりの付着割合を算出し、付着率とした。
【0083】
<繊維付着率>
実施例1~29及び比較例1~5で作製した積層体を10cm×10cmの面積内に完全に収まるように機能性膜を上にして設置し、この面積全体に対して綿ぼこり(株式会社理仁製)0.2gを振りかけた(機能性膜の面積1cm当たりの試験ほこりの使用量が2mgである)。積層体を90°に傾けて台上3cmの高さから3回軽く落として叩く(タップする)ことにより試験ほこりを除去した後に、写真撮影した。撮影した写真を画像ソフトで二値化処理し、機能性膜全領域に対する残存繊維の付着割合を算出し、付着率とした。
【0084】
<耐擦傷性>
学振形染色摩擦堅ろう度試験機(株式会社安田精機製作所製、平面型)にて機能性膜の耐擦傷性試験を行い、試験後の水接触角、粉塵付着率及び繊維付着率を測定した。学振形染色摩擦堅ろう度試験機の摩擦子には、不織布(旭化成株式会社製、ベンコット)を取り付け、500gの荷重を加えながら10往復擦ることにより試験を行った、試験後の積層体について、前述の方法で、水接触角、粉塵付着率及び繊維付着率を測定した。
【0085】
<DTA測定>
示差熱熱重量計(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)を用いて示差熱分析DTA測定を行った。測定条件は、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分、40℃~600℃の温度範囲である。実施例、比較例の機能性膜のDTA測定については、機能性膜をスパチュラ等で掻き取り、得られた粉末を測定に供した。無機粒子のDTA測定については、減圧乾燥機にて乾燥後、測定に供した。
【0086】
(合成例1~6)
室温で、500mLセパラブルフラスコに、水と酢酸とエタノールと、TEOS、MTES、PTES、およびTMOSを表1記載の重量比で仕込み、60℃まで昇温後、36時間熟成させ、フルオロ基を含まないアルコキシシランの加水分解部分縮合物を得た。酢酸の配合量は、pH3~4となる量とし、水とエタノールの配合量は、水とエタノールの重量比を50:50とし、反応液の固形分濃度が15重量%となる量とした。得られたフルオロ基を含まないアルコキシシランの加水分解部分縮合物における、分子中のケイ素原子数に対する炭素原子数の比(C/Si比)を合わせて表1に示す。
【0087】
(合成例7)
TEOS、MTES、PTES、およびTMOSの代わりに、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン(HDFDTMOS)を使用した他は、上述した手法にて、フルオロ基を有するアルコキシシランの加水分解部分縮合物を合成した。
【0088】
(合成例8)
500mLセパラブルフラスコに、水35mLと28重量%アンモニア水10mLとエタノール120mLを仕込み、45℃まで昇温後、TEOS15gとエタノール20mLの混合液を30分かけて滴下し、20分間攪拌した。次に、減圧留去して、アンモニアを除去することにより、シリカゾル液を得た。このシリカゾル液に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウ株式会社製、OFS-6040)1gを添加して、24時間攪拌することにより、無機粒子1を得た。粒子径は、マイクロトラック・ベル株式会社製Micro trac Nanotrac Wave UT151を用いて、動的光散乱法により測定した。DTAピークは、先述の手法で測定した(粒子径:100nm、反応性基:シラノール基、DTAピーク:340℃)。
【0089】
【表1】
【0090】
(実施例1~29及び比較例1~5)
合成例1~7で作製したアルコキシシランの加水分解部分縮合物とともに、無機粒子等の各成分を、表2および表3に記載の固形分比で配合し、水:エタノール=30:70(重量比)の溶液にて、表2および表3に記載の固形分に希釈することにより組成物を作製した。なお、これらの組成物はpH3~4であった。表2および表3に記載の基材、乾燥温度、乾燥時間にて、これらの組成物を基材上にバーコーターにより塗布し、加熱して硬化させ、積層体を得た。得られた積層体における機能性膜の各物性を評価した。なお、比較例3は組成物を塗布せず、ガラス基材そのものの各物性を評価した。結果を表2および表3に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】