(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156236
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極の製造方法、非水電解質二次電池の負極作製用スラリー、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20221006BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20221006BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221006BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/485
H01M10/052
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059825
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 充康
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ08
5H029DJ08
5H029EJ11
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ18
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA03
5H050DA09
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA22
5H050EA23
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸化物を電極材料として使用する場合にも、サイクル性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】負極活物質としてチタン酸リチウムを含むリチウムイオン二次電池用負極の製造方法であって、有機溶剤に前記チタン酸リチウムが分散したスラリーを調製する工程と、前記スラリーに有機酸を添加する工程とを含む電池用負極の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としてチタン酸リチウムを含む非水電解質二次電池用負極の製造方法であって、
有機溶剤に前記チタン酸リチウムが分散したスラリーを調整する工程と、前記スラリーに有機酸を添加する工程とを含むことを特徴とする電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤に前記チタン酸リチウムが分散したスラリーの固形分は、前記有機溶剤に対して40重量%以上70重量%以下である請求項1に記載の電池用負極の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸が蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸の何れか又はこれらの2種以上の混合物である、請求項1又は2に記載の電池用負極の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤に前記チタン酸リチウムが分散したスラリーを調整する工程後、前記スラリーに有機酸を添加して撹拌する工程を行う請求項1~3のいずれか1項に記載の電池用負極の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤に前記チタン酸リチウムと前記有機酸を添加したスラリーを溶媒抽出して測定したpHが5~9である、請求項4に記載の電池用負極の製造方法。
【請求項6】
チタン酸リチウムからなる負極活物質と、有機溶剤に分散した高分子バインダーとを混合して成る非水電解質二次電池の負極作製用スラリーであって、
蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸の何れか又はこれらの2種以上の混合物から選ばれる有機酸をさらに含み、pHが5~9であり、該スラリー中の固形分の重量%が40~70であることを特徴とする、非水電解質二次電池の負極作製用スラリー。
【請求項7】
正極の作動電圧が4.5V vs Li/Li+以上である正極と請求項6に記載のスラリーで作成した負極とを組み合わせたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の電極作製用のスラリー、より詳細には、有機酸が添加されている負極作製用スラリー、それを用いて作製した電極、およびその電極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の研究開発は、携帯機器、ハイブリット自動車、電気自動車、家庭用蓄電など幅広い用途において盛んに行われている。これらの分野に用いられる非水電解質二次電池には、安全性の高さ、長期サイクル安定性、高エネルギー密度などが求められている。
【0003】
一般的にリチウムイオン二次電池にはリチウム含有酸化物が活物質として使用されるが、酸化物に残留するアルカリ成分や酸化物の分解により発生するアルカリ成分により電極形成が困難となることがある。(特許文献1)
【0004】
また、負極材料にチタン酸リチウムを使用する場合においても、酸化物に残留するアルカリ成分や酸化物の分解により発生するアルカリ成分が、特に水系バインダーを使用した場合には集電体金属を腐食させることがある。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5036141号
【特許文献2】特開2015-049984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、酸化物を電極材料として使用する場合には、酸化物合成時の残留や化学反応によって発生するアルカリ成分がスラリー内に残留することにより電極形成を困難にすると共に、電池のサイクル性を低下させる。そこで、本発明では、サイクル性を向上させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]上記事情に鑑み、本発明者らは上記したサイクル性を向上する手段について検討を進めた結果、チタン酸リチウムと、有機溶剤を含むスラリーに有機酸を添加することで上記課題を解決できることを見出し、その際にサイクル性を改善できたことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、[1]負極活物質としてチタン酸リチウムを含むリチウムイオン二次電池用負極の製造方法であって、有機溶剤に上記チタン酸リチウムが分散したスラリーを調整する工程と、上記スラリーに有機酸を添加する工程とを含むことを特徴とする電池用負極の製造方法である。
【0009】
[2]本発明においては、上記有機溶剤に上記チタン酸リチウムが分散したスラリーの固形分は、前記有機溶剤に対して40重量%以上70重量%以下であることが好ましく、また、[3]上記有機酸が蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸の何れか又はこれらの2種以上の混合物であることも好ましい。
【0010】
[4]さらに、上記有機溶剤に上記チタン酸リチウムが分散したスラリーを調整する工程後、上記スラリーに有機酸を添加して撹拌する工程を行うようにしてもよく、[5]上記有機溶剤に上記チタン酸リチウムと上記有機酸を添加したスラリーを溶媒抽出して測定したpHが5~9であることが好ましい態様である。
【0011】
[6]本発明の別の態様は、チタン酸リチウムからなる負極活物質と、有機溶剤に分散した高分子バインダーとを混合して成る非水電解質二次電池の負極作製用スラリーであって、蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸の何れか又はこれらの2種以上の混合物から選ばれる有機酸をさらに含み、pHが5~9であり、該スラリー中の固形分の重量%が40~70であることを特徴とする、非水電解質二次電池の負極作製用スラリーである。
【0012】
[7]本発明は、正極の作動電圧が4.5V vs Li/Li+以上である正極と上記に記載のスラリーで作成した負極とを組み合わせた非水電解質二次電池とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、チタン酸リチウムを含む電極作製用スラリーに有機酸を添加することにより、上記スラリーを用いて作製した電池のサイクル性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明の非水電解質二次電池用の電極作製スラリーにはチタン酸リチウムを有機溶剤に分散させたものであり、有機酸を含み、pHが調整されることで残留アルカリ成分の影響が低減されている。
【0016】
一般的に、非水電解質二次電池の電極材料には酸化物が使用されており、上記酸化物と導電助材、バインダーを有機溶剤に分散したスラリーを、金属箔に代表される集電体に塗工し乾燥することにより電極が作製されている。上記酸化物の不純物や分解により発生するアルカリ成分は、電極形成を困難なものとし、さらには電池のサイクル性を低下させる原因となる。
【0017】
<負極材料>
負極活物質としては、チタン酸リチウムを使用する。チタン酸リチウムの中でも、イオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さい点から、スピネル構造のチタン酸リチウムが特に好ましい。チタン酸リチウムのチタンの一部を他の金属イオンで置換していてもよい。置換する金属は特に限定されないが、例えばニオブ、アルミニウム、ニッケル、コバルト、マグネシウム、バナジウム、クロム、銅、マンガンが挙げられる。
【0018】
<有機酸>
上記有機酸は、種類は特に限定されないが、酸素以外のヘテロ原子を含まない、クエン酸、マレイン酸、酒石酸といった有機酸が好ましい。
【0019】
一般的に、電池電極用スラリーは、電池電極を構成する固形分に有機溶剤を添加して、プラネタリミキサに代表される混合装置で撹拌混合し、徐々に有機溶媒を加えてスラリーの固形分濃度(Solid Content(SC))を低下させる方法で作製される。本発明のスラリー作製方法は特に限定されないが、有機酸以外の構成要素を混合後に有機酸を添加する方法が好ましい。また、粒子中に含まれるアルカリ成分の溶解度が低いことに加え、酸化物粒子が造粒体を形成している場合には、造粒体内部のアルカリ成分が溶剤に接触しないため、単純に混合するだけでは明確に効果が得られないことがある。有機酸を添加するタイミングは特に限定されないが、スラリーにせん断応力がかかっている状態で添加されるのが好ましい。スラリー粘度として4000cP以上、SCが40~70%であれば撹拌時にせん断がかかり、凝集粒子の解砕と共に有機酸が作用する。粘度はB型粘度計を使用することが好ましい。
【0020】
有機酸の添加量については、残留アルカリ成分が中和する量を添加することが好ましい。スラリーのpHは直接測定することはできないが、脱イオン水を用いて水相で溶媒抽出を行い、水相のpH測定を行うことにより中和されているかを判断することができる。電極に用いるチタン酸リチウムを水に分散し、水のpHを測定することも可能だが、チタン酸リチウムの凝集粒子中に存在するアルカリ成分まで溶解させることは困難であるため、この方法で中和したとしても電極中にアルカリ成分が残留し、十分に効果が発揮されない。以上のことから、スラリーの溶媒抽出によりpHを測定することが好ましい。スラリーのpHは中性に近いほうが好ましく、pH5以上9以下であれば良好なサイクル性を発現し、さらに好ましくはpH6以上8以下であれば、良好な非水電解質二次電池が得られ、さらに好ましいのはpHが7である。
【0021】
<非水電解質二次電池>
非水電解質二次電池は、主に、正極、負極、非水電解質で構成される。正極は、通常、正極活物質、導電助剤及びバインダー等を含む正極合剤を正極集電体に塗布することで作製され、負極は、通常、負極活物質、導電助剤及びバインダー等を含む負極合剤を負極集電体に塗布することで作製される。本発明の製造方法により得られる被覆正極活物質は、非水電解質二次電池の正極活物質として好適に用いられ、具体的には本発明の製造方法により得られる被覆正極活物質を含む正極合剤を正極集電体に塗布して正極を作製することができる。
【0022】
正極合剤を正極集電体に塗布した後、及び負極合剤を負極集電体に塗布した後は、100~200℃程度で乾燥させればよい。ここでは、リチウムイオン二次電池に適用した場合について記述するが、チタン酸リチウムにはナトリウムイオン等、他のアルカリ金属を吸蔵する能力があるため、リチウムイオン二次電池に限定されず、ナトリウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池にも適用される。
【0023】
上記電池製造用スラリー、スラリーを用いて作製した電極以外に使用する材料、非水電解質二次電池の製造装置及び条件は、従来公知のものが適用でき、特に限定されない。
【0024】
<正極活物質>
本発明の非水電解質二次電池に用いる正極活物質は、特に限定されないが、充放電サイクルに対する安定性の観点から酸化物、リン酸物であることが好ましく、層状構造を有するLiMO2、スピネル型構造を有するLiM2O4、オリビン型構造を有するLiMPO4が好ましい。上記化学式のMは金属元素であり、特に限定されないがMn、Al、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、Cu、Nb、W、Zr及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成されていることが好ましい。特に、エネルギー密度や電池の副反応量のバランスの観点から、作動電圧がリチウムの標準電極電位基準4.5Vであることがより好ましい。
【0025】
リチウムイオンの挿入・脱離反応が、Liの標準電極電位基準4.5V以上5.0V以下で進行する正極活物質は特に限定されないが、下記式(1)で表される置換型リチウムマンガン化合物が従来から検討されており、好ましい。
【0026】
Li1+xMyMn2-x-yO4・・・(1)
上記式(1)中、x、yはそれぞれ0≦x≦0.2、0<y≦0.8を満たし、MはAl、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、Cu、Nb、W、Zr及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0027】
上記式(1)の中でも、MがNiであるNi置換リチウムマンガン化合物が好ましく、特にx=0、y=0.5、M=Niである、すなわちLiNi0.5Mn1.5O4が充放電サイクルの安定性効果が高いことから特に好ましい。
【0028】
標準電極電位に対するリチウムイオン挿入・脱離反応の電位(以下、電圧ともいう)は、例えば、正極活物質を用いた動作極、リチウム金属を対極とした半電池の充放電特性を測定し、プラトー開始時、及び終了時の電圧値を読み取ることによって求めることができる。プラトーが2箇所以上あった場合は、もっとも低い電圧値のプラトーが標準電極電位基準4.5V以上であればよく、もっとも高い電圧値のプラトーが標準電極電位基準5.0V以下であればよい。
【0029】
正極活物質の粒径については特に限定されないが、成形性や出力特性の関係からメジアン径d50は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。またメジアン径d50は100μm以下であることが好ましく、80μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。
【0030】
正極活物質には被覆が施してあっても良い。被覆物は特に限定されないが、電池中での安定性の観点から酸化物やリン酸物、炭素材料であることが好ましい。また、リチウムイオン移動の観点から、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質が好ましい。酸化物系固体電解質は結晶構造別に逆蛍石型、NASICON型、ペロブスカイト型、ガーネット型などがあるが、特に限定されない。酸化物系固体電解質としては、例えば固体電解質Li1+p+q(Al,Ga)p(Ti,Ge)2-pSiqP3-qO12(0≦p≦1、0≦q≦1) ・・・(2)式で表されるLATPを用いることができ、特にLi1+pAlpTi2-pP3O12(0≦p≦1)が好ましい。
【0031】
<導電助剤>
導電助剤としては、特に限定されないが、炭素材料が好ましい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、およびファーネスブラックなどが挙げられる。これら炭素材料は1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。正極に含まれる導電助剤の量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲であれば、正極の導電性が確保される。また、後述のバインダーとの接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。また負極に含まれる導電助剤の量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。
【0032】
<バインダー>
バインダーは、特に限定されないが、正極及び負極のいずれについても、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。バインダーは正極及び負極の作製しやすさから、非水溶媒に溶解または分散されていることが好ましい。非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、およびテトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらに分散剤、増粘剤を加えてもよい。本発明の正極に含まれるバインダーの量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上10重量部以下、より好ましくは2重量部以上5重量部以下である。上記範囲であれば、正極活物質と導電助材との接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。また負極に含まれるバインダーの量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。
【0033】
<集電体>
正極集電体及び負極集電体のいずれも、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金は、正極及び負極反応雰囲気下で安定であることから、特に限定されないが、JIS規格1030、1050、1085、1N90、1N99等に代表される高純度アルミニウムであることが好ましい。集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、電池作製時の取扱い性、コスト、得られる電池特性の点でバランスが取り易い。なお、集電体は、アルミニウム以外の金属(銅、SUS、ニッケル、チタン、およびそれらの合金)の表面に正極及び負極の電位で反応しない金属を被覆したものも用いることもできる。
【0034】
<非水電解液>
非水電解液は、特に限定されないが、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液を高分子に含浸させたゲル電解質などを用いることができる。
【0035】
非水溶媒としては、環状の非プロトン性溶媒及び/又は鎖状の非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。環状の非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、環状スルホン及び環状エーテルなどが例示される。鎖状の非プロトン性溶媒としては、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、及びアセトニトリルなどの一般的に非水電解質の溶媒として用いられる溶媒を用いても良い。より具体的には、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、スルホラン、ジオキソラン、プロピオン酸メチルなどを用いることができる。これら溶媒は1種類で用いてもよいし、2種類以上混合しても用いてもよいが、後述の溶質の溶解させやすさ、リチウムイオンの伝導性の高さから、2種類以上混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0036】
2種類以上混合する場合、高温時の安定性が高く、且つ低温時のリチウム伝導性が高いことから、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、およびメチルプロピルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上、と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトンに例示される環状化合物のうち1種類以上との混合が好ましく、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびジエチルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートに例示される環状カーボネートのうち1種類以上との混合が特に好ましい。
【0037】
上記溶質は、特に限定されないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、LiN(SO2CF3)2などは溶媒に溶解しやすいことから好ましい。非水電解液に含まれる溶質の濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましい。0.5mol/L未満では所望のリチウムイオン伝導性が発現しない場合があり、一方、2.0mol/Lより高いと、溶質がそれ以上溶解しない場合がある。
【0038】
本発明の非水電解質二次電池に用いる非水電解液の量は、特に限定されないが、電池容量1Ahあたり、0.1mL以上10mL以下であることが好ましい。この量であれば、電極反応に伴うリチウムイオンの伝導を確保でき、所望の電池性能が発現する。
【0039】
非水電解液は、あらかじめ正極、負極およびセパレータに含ませてもよいし、正極側と負極側との間にセパレータを配置したものを倦回、あるいは積層した後に添加してもよい。
【0040】
非水電解質二次電池は、上記した構成の他、通常、更にセパレータ、外装材を含む。
【0041】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に設置され、絶縁性かつ後述の非水電解質を含むことが出来る構造であればよく、例えば、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、及びそれらを2種類以上複合したものの織布、不織布、微多孔膜などが挙げられる。サイクル特性の安定性が優れることから、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、及びそれらを2種類以上複合したものの不織布であることが好ましい。
【0042】
セパレータには、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤が含まれてもよいし、金属酸化物等が被覆されていてもよい。セパレータの厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、正極と負極が短絡することを防ぎつつ、電池の抵抗が高くなることを抑えることが出来る。経済性、取り扱いの観点から、15μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
上記セパレータの空隙率は、30%以上、90%以下であることが好ましい。30%未満であると、リチウムイオンの拡散性が低下するためサイクル特性が著しく低下し、一方、90%より高い場合は、電極の凹凸がセパレータを貫通しショートする恐れが非常に高くなる。リチウムイオンの拡散性の確保、およびショートの防止のバランスの観点から、35%以上、85%以下がより好ましく、上記バランスが特に優れていることから、40%以上、80%以下が特に好ましい。
【0044】
(外装材)
外装材は、正極、負極およびセパレータを交互に積層または捲回してなる積層体、ならびに積層体を電気的に接続する端子を封入する部材である。外装材としては、金属箔にヒートシール用の熱可塑性樹脂層を設けた複合フィルム、蒸着やスパッタリングによって形成された金属層のものが使われる。また、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形もしくはシート形の金属缶が好適に用いられる。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
下記実施例及び比較例で得られた電池を以下の方法により評価した。
【0047】
(非水電解質二次電池のサイクル特性評価)
実施例または比較例で作製したリ非水電解質二次電池を、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続し、サイクル運転を行った。60℃の環境下で、1.0C相当の電流値で電池電圧が終止電圧3.4Vに到達するまで定電流充電を行い、充電を停止した。続いて1.0C相当の電流値で定電流放電を行い、電池電圧が2.5Vに達した時点で放電を停止した。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。200サイクル時点での容量維持率(=200サイクル時の放電容量/1サイクル時の放電容量)によりサイクル特性を評価した。
【0048】
実施例1
負極の作製
負極活物質としてスピネル型構造を有するLi4Ti5O12(LTO)を用いた。LTOと、導電助剤としてのアセチレンブラック、およびバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で90重量部、6重量部、および4重量部含む混合物を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーを作製した。なお、上記バインダーは固形分濃度5重量%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に調整したものを使用し、後述の塗工をしやすいように、さらにNMPを加えて粘度調整した。粘度調整を行う際に、粘度9000cPとなった段階で、スラリーのpHを溶媒抽出法により測定しながら有機酸としてクエン酸を添加し、pHを7に調整した。NMP添加により最終的な粘度は4000cPとした。
【0049】
上記スラリーを20μmのアルミニウム箔に塗工した後に、120℃のオーブンで乾燥させた。この操作をアルミ箔の両面に対して実施した後、さらに170℃で真空乾燥することによって負極を作製した。
【0050】
正極の作製
スピネル型のニッケルマンガン酸リチウム(LiNi0.5Mn1.5O4、LNMO)、導電助剤としてのアセチレンブラック、およびバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で90重量部、6重量部、および4重量部含む混合物を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーを作製した。なお、上記バインダーは固形分濃度5重量%のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に調整したものを使用し、後述の塗工をしやすいように、さらにNMPを加えて粘度調整した。
【0051】
上記スラリーを20μmのアルミニウム箔に塗工した後に、120℃のオーブンで乾燥させた。この操作をアルミ箔の両面に対して実施した後、さらに170℃で真空乾燥することによって正極を作製した。
【0052】
リチウムイオン二次電池の作製
上記の方法により作製した正極及び負極と、20μmのポリプロピレン製セパレータを用いて、以下の手順で電池を作製した。まず初めに、上記正極及び負極を80℃で12時間、減圧乾燥した。次に、負極/セパレータ/正極の順に正極を15枚、負極を16枚使用して積層した。最外層はどちらもセパレータとなるようにした。次に、両端の正極および負極にアルミニウムタブを振動溶着させた。
【0053】
外装材となる二枚のアルミラミネートフィルムを準備し、プレスにより電池部となる窪みとガス捕集部となる窪みを形成後、上記電極積層体を入れた。非水電解質注液用のスペースを残した外周部を180℃×7秒でヒートシールし、未シール箇所から、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを、体積基準でエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=15/15/70の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lとなる割合で溶解させた非水電解質を入れた後に、減圧しながら未シール箇所を180℃×7秒でヒートシールした。得られた電池を0.2C相当の電流値で電池電圧が終止電圧3.4Vに到達するまで定電流充電を行い、充電を停止した。その後、60℃の環境で24時間静置した後、0.2C相当の電流値で定電流放電を行い、電池電圧が2.5Vに達した時点で放電を停止した。放電停止後、ガス捕集部に溜まったガスを抜き取り、再シールを行った。以上の操作により、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0054】
実施例2、3
負極の作製において、スラリーのpHを8および5にした以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0055】
比較例1、2
負極の作製において、スラリーのpHを10および4にした以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0056】
実施例4~10
負極の作製において、スラリーのpHを調整するため、種々の有機酸を用いてpHを7に調整した以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0057】
実施例11
正極材料として、層状構造を有する正極材料であるLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
実施例12
負極の作製において、粘度を最終粘度である4000cPまで低下させた後に有機酸を添加した以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0059】
比較例3、4
負極の作製において、スラリーのpHを調整するために、無機酸である塩酸または硝酸を用いてpHを7に調整した以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0060】
比較例5
負極の作製において、粘度を3000cPまで低下させた後に有機酸を添加した以外は、実施例1と同様の操作を実施して、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
実施例1~3のリチウムイオン二次電池は容量維持率が90%を超え、良好な結果となった。中和により容量維持率を悪化させるアルカリ成分が除去できていると考えられる。
【0064】
中和されていない場合や、酸性に振れている比較例1、2は、容量維持率が低い結果となった。アルカリ成分が残留していることや過剰な酸が存在することは容量維持率を低下させることがわかる。
【0065】
添加する有機酸を変更して中和した実施例4~10でも、容量維持率が良好であったことから、他の有機酸でも効果がある。一方、無機酸である塩酸や硝酸で中和した比較例3、4では容量維持率は低い。このことから、無機酸中和により残留するアニオンは電池性能を低下させると考えられ、有機酸を用いることが好ましいことがわかる。
【0066】
実施例11の結果より、有機酸を用いれば、正極材料を層状酸化物としても効果がある。
【0067】
実施例12の結果より、スラリーに有機溶剤を添加し、最終の粘度とした後に有機酸を添加しても効果を発揮することから、添加する時点のスラリーの粘度は任意であることがわかる。一方、比較例5の結果より、4000cP未満の粘度の時点で添加した場合には容量維持率が低下することから、添加後の撹拌でせん断がかかりにくい場合には効果が低いことが分かる。
【0068】
以上の結果から、有機酸で中和したスラリーを用いて作製したリチウムイオン二次電池は、サイクルによる容量維持が良好であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の電池用スラリーおよび電極は、非水電解質二次電池の負極用スラリーおよび負極として好適に用いられる。