IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図1
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図2
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図3
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図4
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図5
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図6
  • 特開-硫化リチウムの製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156240
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/28 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C01B17/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059829
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角木 祥太朗
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 文武
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(57)【要約】
【課題】副生成物の生成が抑制され、かつイオン伝導率の良い固体電解質の原料として使用可能な、硫化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る硫化リチウムの製造方法は、硫酸リチウムを還元剤によって還元することによって硫化リチウムを製造する製造方法であって、硫酸リチウムを還元剤によって還元する際に不活性ガスに5%以上80%未満の一酸化炭素を混合した混合ガスを導入する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸リチウムを還元剤によって還元することによって硫化リチウムを製造する製造方法であって、
前記硫酸リチウムを前記還元剤によって還元する際に不活性ガスに5%以上80%未満の一酸化炭素を混合した混合ガスを導入する工程を含む、
硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記硫酸リチウムと前記還元剤とを製造装置に投入する工程と、
前記不活性ガスに前記一酸化炭素を混合した前記混合ガスを導入しながら前記製造装置の温度を昇温する工程と、
前記製造装置の温度を昇温後の温度で維持する工程と、を含む、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化リチウムはリチウム二次電池の正極材や無機固体電解質の原料として有用である。
【0003】
硫化リチウムの製造方法として、特許文献1には水酸化リチウムを非プロトン性有機溶媒の中で硫化水素と反応させて水酸化リチウムとして、反応を進めることで硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、有機溶剤を使用しない硫化リチウムの製造方法が開示されている。特許文献2では、金属リチウムと硫黄蒸気または硫化水素を反応させて金属リチウム上に硫化リチウムを生成させる。そして、未反応の金属リチウムを高温にして溶融化して、既に生成している硫化リチウムに拡散、浸透させた後、冷却する。そして、再び金属リチウムと硫黄蒸気または硫化水素とを反応させて硫化リチウムを生成させる。このようなサイクルを繰り返して金属リチウムを100%反応させる。
【0005】
特許文献3には、炭酸リチウムを硫化水素で反応させて硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、硫化水素を使用しない硫化リチウムの製造方法が開示されている。特許文献4では、硫酸リチウムと炭素粉末とをそれぞれ微粒子に調整して混合することにより、反応面積を増加させ未反応原料を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-151725号公報
【特許文献2】特開平9-110404号公報
【特許文献3】特開2012-221819号公報
【特許文献4】特開2013-227180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術では、有機溶剤を使用するためコストが増加する。特許文献2に記載の技術では、反応のサイクルを繰り返し行う必要がありコストが増加する。特許文献3に記載の技術では、有毒な硫化水素ガスを使用するので、管理が難しく、安全を確保することが難しくなるおそれがある。特許文献4に記載の技術では、微粒子に調整して混合しなければならないので、工程が増加する。また、ロータリーキルンのような設備で製造する場合、微粒子が設備の内部で飛散して、回収量が低減するおそれがある。特許文献4に記載の方法のように、硫酸リチウムを還元する方法では、多くの条件で副生成物として炭酸リチウム又は酸化リチウムが生成する。このように、リチウム二次電池に使用される硫化リチウムの製造方法には改善の余地がある。
【0009】
本発明は前述の状況を鑑みて、副生成物の生成が抑制され、かつイオン伝導率の良い固体電解質の原料として使用可能な、硫化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る硫化リチウムの製造方法は、硫酸リチウムを還元剤によって還元することによって硫化リチウムを製造する製造方法であって、前記硫酸リチウムを前記還元剤によって還元する際に不活性ガスに5%以上80%未満の一酸化炭素を混合した混合ガスを導入する工程を含む。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る硫化リチウムの製造方法は、前記硫酸リチウムと前記還元剤とを製造装置に投入する工程と、前記不活性ガスに前記一酸化炭素を混合した前記混合ガスを導入しながら前記製造装置の温度を昇温する工程と、前記製造装置の温度を昇温後の温度で維持する工程と、をさらに含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、副生成物の生成が抑制され、かつイオン伝導率の良い固体電解質の原料として使用可能な、硫化リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る製造方法を説明するフローチャートである。
図2図2は、本発明に係る製造方法を実施する際に使用する製造装置の一例の模式図である。
図3図3は、実施例1のX線回析測定の結果を示す図である。
図4図4は、実施例1の交流インピーダンス測定の結果を示す図である。
図5図5は、比較例1のX線回析測定の結果を示す図である。
図6図6は、比較例1の交流インピーダンス測定の結果を示す図である。
図7図7は、実施例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質のイオン伝導率と、比較例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質のイオン伝導率とを比較したグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、原料としての硫酸リチウムと還元剤とを1つの炉に入れて昇温して、硫化リチウムを製造する。硫酸リチウムと還元剤との反応時に、不活性ガスに一酸化炭素を所定の濃度で混合した混合ガスを加える。
【0016】
図1は、本発明に係る製造方法を説明するフローチャートである。本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、硫酸リチウムを還元することにより硫化リチウムを製造する。具体的には、本実施形態の硫化リチウムの製造方法は以下の工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
(秤量工程(ステップS10))
はじめに、十分に乾燥させた硫酸リチウムと還元剤を所定のモル比で秤量する。秤量には例えばロードセル式電子天秤を用いることができる。
【0018】
硫酸リチウムは、平均粒径が10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上80μm以下であることがより好ましく、30μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。本実施形態の硫化リチウムの製造方法の原料である硫酸リチウムは、微粒子状である必要がない。このため、例えば、ロータリーキルン11(図2参照)のような設備を使用して製造する場合においても、粉末状の硫酸リチウムがロータリーキルン11のキルン本体(炉)12(図2参照)の内部において飛散して、回収が困難になる可能性が低減される。
【0019】
還元剤としては、例えば、活性炭を用いることができる。活性炭のような多孔質炭素材料はその細孔内に硫酸リチウムを取り込んで反応場となり、焼成物の飛散を抑止する効果が高い点で好ましい。活性炭は多孔質炭素材料の中で特に焼成物の飛散防止効果が高く、比表面積が大きいものを安価に大量に入手できる観点から好ましい。活性炭は、平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。なお、還元剤は、炭素を主成分とする材料であればよく、活性炭に限定されない。
【0020】
硫酸リチウムと還元剤のモル比(還元剤のモル数/硫酸リチウムのモル数)は2以上2.5以下、好ましくは、2以上2.3以下である。硫酸リチウムに対する混合モル比をこれらの値とすることにより、得られる硫化リチウム中の未反応原料を低減することができる。その結果、高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0021】
(混合工程(ステップS20))
秤量工程が完了したら、秤量した硫酸リチウムと還元剤を混合する。混合工程における混合手段は特に制限されるものではなく、各原料が均一に分散した混合物となるように例えば湿式法、あるいは、乾式法にて行うことができる。
【0022】
湿式法は、例えば、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター、強力撹拌機等の装置を用いて混合する方法である。
【0023】
他方、乾式法は、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、及びリボンブレンダー、V型混合機等の装置を用いて混合する方法である。
【0024】
なお、混合操作は、例示した機械的手段に限定されるものではなく、実験室レベルでは家庭用ミキサー、あるいは、乳鉢を用いた手作業での混合でもよい。
【0025】
(収容工程(ステップS30))
混合工程が完了したら、混合された混合物を反応容器に投入し、反応容器を製造装置に投入する。反応容器の材質は、不純物の混入が少ない容器であれば、特に制限されるものではなく、例えば、アルミナ、コージェライト、ダルマライト、ムライト、金属の表面をセラミックコートしたようなホウロウガラスからなる反応容器等が挙げられる。なお、混合物の反応容器への投入は必須ではなく、製造装置の形態に合わせて、混合物を製造装置に投入すればよい。
【0026】
(昇温工程(ステップS40))
収容工程が完了したら、不活性ガスに一酸化炭素を所定の濃度で混合したガスを製造装置に導入しながら製造装置の温度を所定の温度まで昇温させる。製造装置としては、例えばロータリーキルン等が挙げられる。また、不活性ガスとしては、例えばアルゴンを用いることができる。
【0027】
一酸化炭素の濃度は、導入するガスの全圧を1atmとし、5%以上80%未満とする。なお、一酸化炭素の濃度は、導入するガスの全圧を1atmとし、10%以上50%以下とすることがより好ましく、25%以上50%以下とすることがさらに好ましい。一酸化炭素の濃度の計測は、炉内吹込み部から1m前の位置でマスフローメーターを用いてアルゴンガスと一酸化炭素ガスの流量を計測した値を用いて算出する。一酸化炭素濃度が5%未満の場合は、還元反応の副生成物として酸化リチウムが生成される。他方、一酸化炭素濃度が80%以上の場合は、副生成物として炭酸リチウムが生成されることに加えて、未反応の硫酸リチウムが残留する。
【0028】
製造装置の昇温後の温度としては、700℃以上950℃以下が好ましく、より好ましくは、800℃以上850℃以下の温度範囲に含まれる温度であればよい。なお、ここでの温度は、製造装置の均熱帯中央部の位置で計測した値である。700℃未満の温度の場合は、反応速度が非常に遅くなるおそれがあるので、700℃以上が好ましい。950℃を超える場合は硫化リチウムの融点以上の温度となり硫化リチウムが融解するおそれがあるので、950℃以下が好ましい。850℃以下の温度では硫酸リチウムが融解せず、粒子形状を保ったまま硫化リチウムを得ることができる。
【0029】
昇温工程は、加熱を開始してから10℃/min以上の昇温速度で昇温して、所望の温度範囲に達することが好ましい。昇温工程は、所望の温度範囲での加熱時間が5分以上90分以下であることが好ましい。加熱時間を上記の範囲にすることが好ましいのは、長い時間高温で保持していると次第に粒成長が起こり、反応性の低下が起こるおそれがあるためである。
【0030】
(焼成工程(ステップS50))
昇温工程が完了したら、不活性ガスに一酸化炭素を所定の濃度で混合したガスを製造装置に導入しながら製造装置の温度を昇温後の温度で所定時間の間、維持する。昇温後の温度で維持する時間は未反応の硫酸リチウムが残らない範囲で適宜選択される。
【0031】
還元剤として活性炭を用いた場合は、焼成工程において、下記の(1)式のような反応が起きていると考えられる。
【0032】
【数1】
【0033】
還元反応が進行し、反応系から原料である硫酸リチウムが消失すると、反応による二酸化炭素の発生が止まるため、二酸化炭素の発生量をモニタリングすることにより、反応の進行度合いを知ることができる。
【0034】
(回収工程(ステップS60))
混合物の焼成工程が完了したら、焼成物、すなわち、生成した硫化リチウムを、自然冷却、又は不活性ガスとしてアルゴンの雰囲気下で冷却し、冷却後、必要に応じて、さらに、粉砕、または、解砕、分級、包装等を行い、製品の硫化リチウムを得る。このとき用いる不活性ガスは不純物の混入を防ぐために純度が高いほど好ましい。また、水分との接触を避けるために、不活性ガスの露点は-50℃以下が好ましく、-60℃以下が特に好ましい。
【0035】
(製造装置)
図2は、本発明に係る製造方法を実施する際に使用する製造装置の一例の模式図である。
【0036】
製造装置10は、原料としての硫酸リチウムと、還元剤としての活性炭とを1つの炉に入れて昇温して、硫化リチウムを製造する装置である。製造装置10は、ロータリーキルン11と、材料投入装置18と、材料排出管24と、ガス供給管25と、ガス排気管27と、を含む。
【0037】
ロータリーキルン11は、キルン本体12と、ヒータ14と、駆動部16と、を含む。キルン本体12は、筒状部材である。キルン本体12は、筒形状の中心軸が、材料投入装置18側の端部が、他方の端部よりも鉛直方向の上側となるように、水平方向に対して傾きを有して配置されることが好ましい。ヒータ14は、キルン本体12を加熱する。
【0038】
駆動部16は、キルン本体12を筒形状の中心軸を回転軸として回転させる。駆動部16は、駆動源30と、伝達機構32と、を含む。駆動源30は、モータ等の回転力を発生させる。伝達機構32は、駆動源30の回転力をキルン本体12に伝達する。
【0039】
材料投入装置18は、ロータリーキルン11へ硫酸リチウムと活性炭とを投入する。材料投入装置18は、材料貯留部21と、材料供給管22と、を含む。材料貯留部21は、硫酸リチウムと活性炭とを貯留する。材料供給管22は、材料貯留部21とキルン本体12とを接続する。材料供給管22は、キルン本体12において、硫酸リチウムと活性炭との搬送経路の上流側に接続されている。材料供給管22は、材料貯留部21からキルン本体12に硫酸リチウムと活性炭とを供給する。
【0040】
材料排出管24は、キルン本体12の材料供給管22が接続されている端部とは反対側の端部に接続されている。材料排出管24は、キルン本体12において、硫酸リチウムと活性炭との搬送経路の下流側に接続されている。材料排出管24は、キルン本体12を通過して製造された硫化リチウムが排出される。
【0041】
ガス供給管25は、キルン本体12に接続され、キルン本体12にアルゴン及び一酸化炭素を供給するための管である。ガス供給管25には、弁26が設けられている。ガス排気管27は、キルン本体12に接続され、キルン本体12の気体を排出するための管である。ガス排気管27には、弁28が設けられている。
【0042】
このように構成された製造装置10では、まず、材料投入装置18から、所定のモル比の硫酸リチウムと活性炭とを、ロータリーキルン11のキルン本体12に投入する。キルン本体12に投入された、硫酸リチウムと還元剤とは混合されている。そして、昇温工程において、ガス供給管25から、不活性ガスとしてアルゴンガス、及び一酸化炭素ガスを、ロータリーキルン11のキルン本体12に供給する。一酸化炭素ガスの濃度を5%以上80%未満に制御する。キルン本体12が、ヒータ14により加熱されつつ、駆動部16により回転軸回りに回転される。キルン本体12に供給された硫酸リチウムと活性炭とは、キルン本体12の回転により、搬送経路に沿って、材料供給管22から材料排出管24に向けて移動する。キルン本体12の気体は、ガス排気管27から排気される。搬送経路を移動する硫酸リチウムと活性炭とは、ヒータ14により所望の温度まで加熱される。そして、回収工程において、ヒータ14を停止して、キルン本体12と硫化リチウムとを冷却する。そして、製造された硫化リチウムを材料排出管24から排出して、回収する。
【0043】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1について説明する。なお、以下に記載する実施例1は、本発明を実施した例を示すものであって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
(秤量工程)
硫酸リチウムと活性炭を、グローブボックス内で不活性雰囲気下においてモル比1:2.5で秤量した。硫酸リチウムと活性炭との合計の原料重量は、3.50gである。
【0045】
(混合工程)
秤量工程で秤量した硫酸リチウムと活性炭を、乳鉢に投入し混合した。
【0046】
(収容工程)
混合工程で混合した硫酸リチウムと活性炭の混合物をアルミナの坩堝に移し替えた。アルミナの坩堝に移し替えられた混合物を、アルミナの坩堝に入れられた状態で、管状炉に投入した。
【0047】
(昇温工程)
一酸化炭素濃度が10%となるように、アルゴンと一酸化炭素を混合した混合ガスを管状炉にフローしながら、管状炉を900℃まで昇温させた。
【0048】
(焼成工程)
昇温工程において、管状炉が900℃に昇温されたら、一酸化炭素濃度が10%となるように、アルゴンと一酸化炭素を混合した混合ガスを管状炉にフローしながら、管状炉の温度を900℃で1時間維持した。
【0049】
(回収工程)
管状炉の温度を900℃で1時間維持したら、管状炉を自然冷却させて試料を回収した。
【0050】
回収した試料は、メノウ乳鉢に投入し、粉砕した後、BRUKER社製のD8 ADVANCE装置を使用してX線回析(XRD:X‐Ray Diffraction)測定を実施して副生成物(炭酸リチウム、酸化リチウムなど)のピークの有無、反応残留物としての硫酸リチウムのピークの有無等の確認を行った。実施例1のX線回析測定の測定結果を図3に示す。また、反応中に採取したガスはガスクロマトグラフィーを用いて分析し、CO、及びCO濃度を測定した。
【0051】
図3は、実施例1のX線回析測定の結果を示す図である。図3に示すピークA1、ピークA2、ピークA3は硫化リチウムの存在を示すピークである。図3に示すように、実施例1においては副生成物の生成、及び反応残留物の存在は認められなかった。
【0052】
なお、実施例1において製造された硫化リチウムを原料に硫化リンとモル比3:1で秤量後、大気非暴露容器を用いた遊星ボールミルでアモルファス状態にし、固体電解質LPS(LiS-P)を作製した。作製したLPSをグローブボックス中でSUS製のイオン伝導率測定セルに0.3g充填した後、室温25℃において360MPaの圧力を印加した状態で、バイオロジック社製のSP-300を用いて7MHzから1Hzまでの周波数で交流インピーダンス測定を行った。その結果として、実施例1では図4に示すようなナイキストプロットが得られた。
【0053】
図4は、実施例1の交流インピーダンス測定の結果を示す図である。図4に示すナイキストプロットから、実施例1において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率は1.9×10-3mS/cmと計算された。
【0054】
実施例1の反応条件、及び反応後の副生成物及び反応残留物の有無を表1に示す。なお、表1には実施例2から4についても反応条件、及び反応後の副生成物及び反応残留物の有無を記載している。実施例2から4は、実施例1に対して反応に使用する原材料の重量、混合ガスの一酸化炭素濃度を変更した以外は、実施例1と同じである。実施例1は原料重量3.68g、一酸化炭素濃度10%、実施例2は原料重量3.84g、一酸化炭素濃度5%、実施例3は原料重量3.58g、一酸化炭素濃度25%、実施例4は原料重量3.76g、一酸化炭素濃度は50%である。表1に示すように、実施例1から4は、副生成物及び反応残留物の存在は認められなかった。
【0055】
【表1】
【0056】
(比較例1)
以下、本発明の比較例1について説明する。なお、比較例1の秤量工程、混合工程、収容工程、回収工程は実施例1と同じであるから説明を省略する。比較例1は、一酸化炭素濃度が1%であり、請求項1に規定する一酸化炭素の濃度範囲外の値である。また、比較例1は原料重量、及び一酸化濃度が実施例1から4と異なり、温度、及び流量は実施例1から4と同じである。
【0057】
(昇温工程)
一酸化炭素濃度が1%となるように、アルゴンと一酸化炭素を混合した混合ガスを管状炉にフローしながら、管状炉を900℃まで昇温させた。
【0058】
(焼成工程)
昇温工程において、管状炉が900℃に昇温されたら、一酸化炭素濃度が1%となるように、アルゴンと一酸化炭素を混合した混合ガスを管状炉にフローしながら、管状炉を900℃で1時間維持した。
【0059】
実施例1と同様に、回収した試料は、メノウ乳鉢に投入し、粉砕した後、BRUKER社製のD8 ADVANCE装置を使用して、X線回析測定を実施して副生成物(炭酸リチウム、酸化リチウムなど)のピークの有無、反応残留物としての硫酸リチウムのピークの有無等の確認を行った。比較例1のX線回析測定の測定結果を図5に示す。また、反応中に採取したガスはガスクロマトグラフィーを用いて分析し、CO、及びCO濃度を測定した。
【0060】
図5は、比較例1のX線回析測定の結果を示す図である。図5に示すピークB1、ピークB2、ピークB3は硫化リチウムの存在を示すピークである。また、図5に示すピークC1は、酸化リチウムの存在を示すピークである。図5に示すようにピークC1が確認できることから、比較例1においては副生成物として酸化リチウムの生成が認められる。
【0061】
なお、比較例1において製造した硫化リチウムを原料に固体電解質LPSを作製し、バイオロジック社製SP-300を用いて7MHzから1Hzまでの周波数でインピーダンス測定を行った。その結果、図6に示すナイキストプロットが得られた。
【0062】
図6は、比較例1の交流インピーダンス測定の結果を示す図である。図6に示すナイキストプロットから、比較例1において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率は0.8×10-3mS/cmと計算された。
【0063】
比較例1から3の反応条件、及び反応後の副生成物及び反応残留物の有無を表1に示す。なお、表1には比較例2、及び3についても反応条件、及び反応後の副生成物及び反応残留物の有無を記載している。比較例1は、一酸化炭素濃度が1%であり、一酸化炭素濃度が請求項1に規定する濃度範囲外の値である。なお、比較例1は、原料重量が3.24gである。比較例1は、副生成物として酸化リチウムのみの存在が認められ、反応残留物は存在が認められなかった。この理由は、比較例1は、反応時に系内の酸素ポテンシャルが高いからである。
【0064】
比較例2は、一酸化炭素濃度が80%であり、一酸化炭素濃度が請求項1に規定する濃度範囲外の値である。なお、比較例2は、原料重量が3.19gである。比較例2は、副生成物として炭酸リチウムの存在が認められ、反応残留物として硫酸リチウムの存在が認められた。比較例2で炭酸リチウムが生成する理由は、一酸化炭素濃度が高いため硫酸リチウムの一部が一酸化炭素と反応するからであり、硫酸リチウムが残留する理由は反応速度が遅いからである。
【0065】
比較例3は、一酸化炭素濃度が100%であり、一酸化炭素濃度が請求項1に規定する濃度範囲外の値である。なお、比較例3は、原料重量3.74gである。比較例3は、副生成物として炭酸リチウムの存在が認められ、反応残留物として硫酸リチウムの存在が認められた。比較例3で炭酸リチウムが生成する理由は、比較例2と同様に一酸化炭素濃度が高いため硫酸リチウムの一部が一酸化炭素と反応するからである。比較例3で硫酸リチウムが残留する理由は、比較例2と同様に反応速度が遅いからである。
【0066】
上述したように、表1の結果が示すように、実施例1から4は、副生成物の存在が認められなかったのに対して、比較例1から3は、副生成物としての酸化リチウム、炭酸リチウムの存在、及び反応残留物としての硫酸リチウムの存在が認められた。
【0067】
このような副生成物及び反応残留物の存在が、イオン伝導率の差につながっている。上述したように、実施例1において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率は1.9×10-3mS/cmである。実施例2、3、4において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率はそれぞれ1.5×10-3mS/cm、3.0×10-3mS/cm、2.3×10-3mS/cmである。比較例1において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率は0.8×10-3mS/cmである。比較例2、3において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率はそれぞれ5.0×10-5mS/cm、2.8×10-5mS/cmである。すなわち、実施例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率は、比較例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率より高い。
【0068】
このことは図7に示すグラフにより明確に理解できる。図7は、実施例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質のイオン伝導率と、比較例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質のイオン伝導率とを比較したグラフを示す図である。図7においては、実施例は菱形のプロット、比較例は円形のプロットを用いて示している。なお、簡略化のために実施例は実施例1から実施例4の結果を区別することなく同一の菱形のプロットで示している。また、簡略化のために比較例も比較例1から比較例3の結果を区別することなく同一の円形のプロットで示している。図7に示したグラフから、実施例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率が、比較例において製造された硫化リチウムを原料に作製された固体電解質LPSのイオン伝導率よりも高いことが明確に理解できる。また、一酸化炭素濃度を5%以上80%未満とすることによって、固体電解質のイオン伝導率を高めることができることが理解できる。また、一酸化炭素濃度を10%以上50%以下とすることによって、固体電解質のイオン伝導率をより高めることができることが理解できる。また、一酸化炭素濃度を25%以上50%以下とすることによって、固体電解質のイオン伝導率をさらに高めることができることが理解できる。なお、イオン伝導率が高い固体電解質を用いて全固体電池を作製することで全固体電池のエネルギー密度を高めることができる。つまり、全固体電池の使用時間を延ばすことが可能となる。これは例えば、その全固体電池を電気自動車用の電池として用いた場合に電気自動車の航続距離の延長に繋がることを意味する。
【0069】
(本実施形態の効果)
表1の結果から明らかであるように、本実施形態によれば、副生成物の発生を抑制した上で硫化リチウムを製造することができる。従って、本実施形態によれば、副生成物の生成が抑制された硫化リチウムの製造方法を提供することができる。また、図7の結果から明らかであるように、本実施形態により製造された硫化リチウムを原料に固体電解質LPSを製造することによって、イオン伝導率が高い固体電解質LPSを製造することができる。
【0070】
本実施形態では、原料として使用する硫酸リチウムを微粒子に調合することを要しないので、工程の増加を抑制できる。ロータリーキルン11を有する製造装置10で製造する場合、搬送経路における飛散を抑制して、回収量が低減されることを抑制できる。このように、本実施形態は、ロータリーキルン11を有する製造装置10を使用した硫化リチウムの製造に適した製造方法を提供することができる。
【0071】
本実施形態では、製造工程において、有毒な硫化水素ガスを使用しない。本実施形態によれば、製造工程の管理を容易にでき、安全を確保することができる。
【0072】
本実施形態は、製造工程において、硫酸リチウムと還元剤とを使用して、有機溶剤を使用しないので、コストを抑制できる。
【0073】
本実施形態は、製造工程を繰り返し行う必要がないので、製造に要する時間を短縮して、コストを抑制できる。
【0074】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0075】
10 製造装置
11 ロータリーキルン
12 キルン本体(炉)
14 ヒータ
16 駆動部
18 材料投入装置
21 材料貯留部
22 材料供給管
24 材料排出管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7