(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156276
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】金属板の表面温度測定装置、焼鈍設備及び表面温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20221006BHJP
C21D 9/56 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
G01J5/00 101B
C21D9/56 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059875
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 章紀
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
【テーマコード(参考)】
2G066
4K043
【Fターム(参考)】
2G066AC11
2G066BC15
4K043AA01
4K043DA05
4K043EA05
4K043FA03
4K043GA07
4K043GA10
(57)【要約】
【課題】金属板がロールに巻き付いていないロール間の直線パスにおいて、金属板の温度を簡易に精度よく測温することができる、金属板の表面温度測定装置、焼鈍設備及び表面温度測定方法を提供すること。
【解決手段】ロール間の直線パスにおける金属板の表面温度を測定する、金属板の表面温度測定装置1であって、金属板の向きを変えるロール3Bと金属板とによって形成されたくさび部の、金属板のロール3B側の面の放射輝度又は温度を計測する第1放射測定機構10と、くさび部の、金属板のロール3Bと反対側の面の放射輝度又は温度を測定する第2放射測定機構11と、第1放射測定機構10によって計測された放射輝度又は温度と、第2放射測定機構11によって計測された放射輝度又は温度とから、放射率を算出する放射率演算機構12と、算出された放射率を用いて、金属板の表面を測温する放射測温機構13と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール間の直線パスにおける金属板の表面温度を測定する、金属板の表面温度測定装置であって、
前記金属板の向きを変えるロールであると前記金属板とによって形成されたくさび部の、前記金属板の前記ロール側の面の放射輝度又は温度を計測する第1放射測定機構と、
前記くさび部の、前記金属板の前記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度を測定する第2放射測定機構と、
前記第1放射測定機構によって計測された放射輝度又は温度と、前記第2放射測定機構によって計測された放射輝度又は温度とから、放射率を算出する放射率演算機構と、
算出された前記放射率を用いて、前記金属板の表面を測温する放射測温機構と、
を備える、金属板の表面温度測定装置。
【請求項2】
前記第1放射測定機構及び前記放射測温機構は、前記金属板の長手方向に長い視野を持つ一つの放射温度計で構成される、請求項1に記載の金属板の表面温度測定装置。
【請求項3】
前記放射測温機構による測温に用いられる放射率は、前記放射率が算出された前記金属板の表面位置と、前記放射測温機構によって測温される前記金属板の表面位置とが同一となるように、前記第2放射測定機構と前記放射測温機構との位置関係と、金属板の搬送速度又は前記ロールの回転数とに基づいて決定される、請求項1又は2に記載の金属板の表面温度測定装置。
【請求項4】
前記放射率演算機構は、前記放射率を、前記第1放射測定機構により測定される放射輝度に対する前記第2放射測定機構により測定される放射輝度の比として算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属板の表面温度測定装置。
【請求項5】
前記第1放射測定機構及び前記第2放射測定機構の少なくとも一方は、前記金属板の温度を計測し、
前記放射率演算機構は、予め算出される黒体放射輝度と温度との関係から、前記第1放射測定機構及び前記第2放射測定機構の少なくとも一方によって計測される前記金属板の温度に応じた黒体放射輝度を算出し、温度に応じて算出された黒体放射輝度を前記第1放射測定機構及び前記第2放射測定機構の少なくとも一方で計測される放射輝度として前記放射率を算出する、請求項4に記載の金属板の表面温度測定装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属板の表面温度測定装置を有する、金属板の焼鈍設備。
【請求項7】
ロール間の直線パスにおける金属板の表面温度を測定する、金属板の表面温度測定方法であって、
前記金属板の向きを変えるロールと前記金属板とによって形成されたくさび部の、前記金属板の前記ロール側の面の放射輝度又は温度を計測し、
前記くさび部の、前記金属板の前記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度を測定し、
計測された前記ロール側の面の放射輝度又は温度と、計測された前記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度とから、放射率を算出し、
算出された前記放射率を用いて、前記金属板の表面を測温する、金属板の表面温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールを介して連続的に搬送される金属板の表面温度測定装置、焼鈍設備及び表面温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の製造プロセス、中でも鉄鋼業の薄鋼板製造プロセスにおいては、材質の造りこみの観点から温度管理が非常に重要となる。特に焼鈍工程では薄鋼板が各工程において目標の温度となるような制御を行うために、搬送中の薄鋼板の表面温度測定のニーズがある。代表的な温度測定方法として、対象の放射輝度を計測して温度に換算する放射測温が挙げられる。しかしながら、放射測温では、対象の放射率が既知でないと正しく測温することができず、測定の対象が製造工程にて表面性状が大きく変化する場合には放射率設定において課題が存在している。
【0003】
対象の放射率に関わらず測温できる手法として、特許文献1のように、ロール80と鋼板81表面とのわずかな隙間を放射温度計82の視野とすることで疑似的に多重反射条件とし、放射率が1.0に近づいた状態で測温可能な多重反射式放射温度計方式(例えば、
図1参照)が開示されている。また、非特許文献1のように、中空のロール83内に熱電対84を埋め込み、鋼板巻き付き部分で熱電対84と鋼板85の温度とが同一となる条件を作り出すことにより測温する測温ロール方式(例えば、
図2参照)が開示されている。さらに、特許文献2のように、対象の分光放射と主成分分析による学習を用いた分光主成分放射温度計も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-78327号公報
【特許文献2】特開2014-202528号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄と鋼79(7), 765-771, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び非特許文献1の手法は、対象の鋼板温度を正しく測定するうえで非常に有力な方法であるが、ロール表面と対象板温とが同一でないと使用できず、薄鋼板がロールに十分に巻き付いている必要がある。このため、薄鋼板がロールに巻き付いていないロール間の直線パス条件下では使用できない。また特許文献2の手法は、温度真値を取るために接触式熱電対が必要となり装置が大掛かりになることや、学習のために大量のデータが必要になるなどの課題が存在する。
【0007】
しかしながら、ロール間の直線パスにおいても温度が急変する直前など、温度管理上非常に重要な工程もあり、強い測温ニーズが存在する。特に水焼き入れ直前の鋼板温度は材質上極めて重要であるが、設備制約上直前にロールを配置することは困難であり、ロールを用いた測温が適用できない。
従来、直線パスにおける鋼板の測温方法としては、接触式の測温方式や、鋼板の放射率をある値に仮定しての放射測温が用いられてきた。しかし、接触式の測温方式では鋼板表面の疵が避けられず、放射率を仮定しての放射測温では精度に問題があった。
本発明は、以上の状況を鑑み、ロールに巻き付いていないロール間の直線パスにおいて簡易に精度よく測温する手法を提案する。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、金属板がロールに巻き付いていないロール間の直線パスにおいて、金属板の温度を簡易に精度よく測温することができる、金属板の表面温度測定装置、焼鈍設備及び表面温度測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、ロール間の直線パスにおける金属板の表面温度を測定する、金属板の表面温度測定装置であって、上記金属板の向きを変えるロールと上記金属板とによって形成されたくさび部の、上記金属板の上記ロール側の面の放射輝度又は温度を計測する第1放射測定機構と、上記くさび部の、上記金属板の上記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度を測定する第2放射測定機構と、上記第1放射測定機構によって計測された放射輝度又は温度と、上記第2放射測定機構によって計測された放射輝度又は温度とから、放射率を算出する放射率演算機構と、算出された上記放射率を用いて、上記金属板の表面を測温する放射測温機構と、を備える、金属板の表面温度測定装置が提供される。
本発明の一態様によれば、上記表面温度測定装置を有する、金属板の焼鈍設備が提供される。
【0010】
本発明の一態様によれば、ロール間の直線パスにおける金属板の表面温度を測定する、金属板の表面温度測定方法であって、上記金属板の向きを変えるロールと上記金属板とによって形成されたくさび部の、上記金属板の上記ロール側の面の放射輝度又は温度を計測し、上記くさび部の、上記金属板の上記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度を測定し、計測された上記ロール側の面の放射輝度又は温度と、計測された上記ロールと反対側の面の放射輝度又は温度とから、放射率を算出し、算出された上記放射率を用いて、上記金属板の表面を測温する、金属板の表面温度測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、金属板がロールに巻き付いていないロール間の直線パスにおいて、金属板の温度を簡易に精度よく測温することができる、金属板の表面温度測定装置、焼鈍設備及び表面温度測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】多重反射式放射温度計方式による測温手法を示す説明図である。
【
図2】測温ロール方式による測温手法を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る金属板の表面温度測定装置を示す模式図である。
【
図5】第1放射測定機構及び放射測温機構として、一つの放射温度計を用いる例を示す模式図である。
【
図6】温度調整装置を用いた制御機構を示す模式図である。
【
図7】実施例における測温結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0014】
<金属板の表面温度測定装置>
本発明の一実施形態に係る金属板の表面温度測定装置1について説明する。なお、本実施形態では、金属板の一例として鋼板である薄鋼板2を用い、表面温度測定装置1の全体概要を薄鋼板2の焼鈍工程の一例である
図3を用いて説明する。
薄鋼板2の製造プロセスでは、しばしば焼鈍後に急冷することにより、材質の造りこみを行うが、この急冷前には直線パスしか存在しない。
図3に示す焼鈍工程では、ロール3A及びロール3Bを通過した薄鋼板2は、その後、次のロール(不図示)に搬送される間、直線パス(
図3の上下方向に平行な搬送経路)を通る。この直線パスでは、熱処理装置4にて薄鋼板2の急加熱又は急加熱が行われる。また、直線パスにおいて、熱処理装置4よりも搬送経路の上流側の領域を、温度変化帯5という。なお、温度変化帯5には、熱処理装置4に搬送される薄鋼板2の温度を調整するための温度調整装置(不図示)が設けられてもよい。
【0015】
表面温度測定装置1は、薄鋼板2の焼鈍設備に設けられ、第1放射測定機構10と、第2放射測定機構11と、放射率演算機構12と、放射測温機構13と、を備える。
第1放射測定機構10は、直線パスの直前のロール捲き付き位置のロールであり、直線パスの直前に薄鋼板2の向きを変えるロール3Bと、薄鋼板2とによって形成されたくさび部のロール3B側の面の薄鋼板2の放射輝度又は温度を計測する。第1放射測定機構10は、例えば、放射温度計によって構成される。くさび部は、ロール3Bと薄鋼板2とが接触する位置の直前の、ロール3Bと薄鋼板2とが近接するくさび状の領域である。第1放射測定機構10は、このくさび部を望むように、薄鋼板2のロール3B側に設けられる。
【0016】
第2放射測定機構11は、くさび部の薄鋼板2のロール3Bの反対側の面の放射輝度又は温度を計測する。本実施形態では、第2放射測定機構11は、薄鋼板2のロール3Bと反対側に設けられ、設けられた側の薄鋼板2の面を温度又は輝度を測定する。第2放射測定機構11は、例えば、放射温度計によって構成される。なお、第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11による測定では、くさび部の先端側が測定されることが好ましい。
放射率演算機構12は、第1放射測定機構10と第2放射測定機構11とによって計測される放射輝度又は温度に基づいて、放射率を算出する。放射率演算機構12による放射率の算出方法については、後述する。
【0017】
放射測温機構13は、熱処理装置4の直前に設けられ、放射率演算機構12によって算出された放射率を用いて、直線パスを移動する薄鋼板2の表面の温度を測定する。放射測温機構13は、温度変化帯5よりも搬送方向の下流側に設けられる。また、放射測温機構13は、第2放射測定機構11が放射輝度又は温度を測定する側の薄鋼板2の面の温度を測定することが好ましい。放射測温機構13は、例えば、放射温度計によって構成される。
ここで、第2放射測定機構11と放射測温機構13の放射率は、波長依存性を持たせるために、同一波長特性とすることが好ましい。また、第2放射測定機構11の設置位置と放射測温機構13の設置位置とでは、なるべく測定対象である薄鋼板2の表面性状が変化しないことが好ましい。
【0018】
<金属板の表面温度測定方法>
このような表面温度測定装置1では、放射率演算機構12が第1放射測定機構10と第2放射測定機構11とで得られた放射輝度又は温度から放射率を算出し、放射測温機構13の測温時に算出された放射率を用いて、放射測温機構13による放射測温が実施される。
そして、第1放射測定機構10と第2放射測定機構11は、その仕様により、測温結果を出力するか、輝度値を出力する。
【0019】
(測温結果の出力)
第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11が測温結果を出力する場合について説明する。測温結果を出力する場合、第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11をある一定の放射率に設定し、測温を実施する。この放射率は既知であればどのような値でも良いが、第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11の放射率を便宜上1.0とする。こうして得られた第1放射測定機構10の放射温度をT
rとし、第2放射測定機構11の放射温度をT
Aとする。放射率を算出するためには、放射率が1.0(黒体条件)の時の放射輝度(黒体放射輝度)と実際の放射輝度とを比較する必要がある。このため、得られた温度値を輝度値に換算する必要があり、換算式は第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11を設置する前に校正により予め算出しておく。校正に用いる式は、一般的な多項式などでも良いが、精度を求めるのであればプランクの式をよく近似している佐久間服部の式(下記(1)式)などが望ましく、本説明においても佐久間服部の式を用いる(計測自動制御学会論文集 18(7),704-709,(1982))。温度計の校正方法は、「JIS C 1612 放射測定機構の性能試験方法通則」に記載されており、この校正方法を用いた校正結果の一例を
図4に示す。この時、放射測定機構固有のパラメータA,B,Cが得られ、このパラメータを用いて放射率を算出する。なお、(1)式において、C
2は第二プランク定数、Vは放射測定機構における出力電圧(V)である。
【0020】
【0021】
(1)式を用いてTrとTAを放射輝度Sr,SAに換算した結果を(2)式及び(3)式に示す。放射率εは黒体条件の放射輝度Srと実際の放射輝度SAとの比であるので、(4)式で算出することができる。つまり、本実施形態では、予め算出される黒体放射輝度と温度との関係から、第2放射測定機構11によって計測される温度に該当する黒体放射輝度が算出される。そして、温度に応じて算出された黒体放射輝度を第2放射測定機構11で計測される放射輝度として放射率εが算出される。
【0022】
【0023】
なお、本実施形態では、服部佐久間の式を用いて温度と放射輝度との変換を実施したが、他の式を用いても同様の結果が得られる。温度と放射輝度との変換において、どの式を選定するかは計算量、精度及び放射測定機構の波長特性を鑑みて適切なものを選定するとよい。また、上述の温度と放射輝度との変換は、放射率演算機構12で行われてもよく、第1放射測定機構10及び第2放射測定機構11でそれぞれ行われてもよい。
【0024】
(輝度値の出力)
次に、第2放射測定機構11が放射輝度SAを出力する場合について説明する。この場合は(3)式により温度値TAを放射輝度SAに変換する必要がないため、(4)式のSAに直接出力結果であるSAを代入すれば、同様の結果が得られる。第1放射測定機構10が放射輝度Srを直接出力する場合も同様である。つまり、放射率εは、第1放射測定機構10により計測される放射輝度Srに対する、第2放射測定機構11により計測される放射輝度SAの比(SA/Sr)として算出される。
こうして得られた放射率εを用いて、放射測温機構13で測温を実施し、測定位置での温度Tbを得ることが可能となる。
【0025】
なお、第1放射測定機構10と放射測温機構13に関しては、機材が多く、導入やメンテナンスにコストがかかるといった課題がある。したがって、
図5に示すように、第1放射測定機構10及び放射測温機構13として、長手に長い視野を持つ一つの放射温度計14を用いてもよい。この場合、放射温度計14の測温結果のうち、最大輝度あるいは最大温度となる場所(
図5の14a)を第1放射測定機構10の測定結果、薄鋼板2の安定した場所(
図5の14b)の輝度あるいは温度を放射測温機構13の測定結果とすることにより、機器を簡易化することが可能である。
第1放射測定機構10は、確実にロール3と薄鋼板2との間のくさび部を視野とするために厳密な調整が必要である。しかし、本実施形態では調整が容易で、なおかつアライメントが運用中に変化したとしても、長手方向のいずれかの素子がくさび部となりロバスト性が向上するといった利点も存在する。
【0026】
なお、好ましくは、放射測温機構13の位置と、第2放射測定機構11及び測温されるロール3Bの位置とが異なるため、これらの測定位置に対して位置合わせを実施したほうが良い。例えば、薄鋼板2の搬送速度をv(m/s)とし、両放射測定機構間の距離をL(m)とした場合、薄鋼板2の同一個所が両位置を通過するタイミングにはL/v(s)の遅延が存在する。したがって、放射測温機構13で用いる放射率はL/v(s)前のものを用いるとよい。また、ロール3Bの回転数により薄鋼板2上の位置をトラッキングしている場合は、トラッキング情報から位置合わせを実施しても良い。つまり、この位置合わせでは、第2放射測定機構11と放射測温機構13との位置関係と、金属板の搬送速度又はロールの回転数とに基づいて放射測温機構13の計測に用いられる放射率が決定される。この際、放射率が算出された薄鋼板2の表面位置と、放射測温機構13によって計測される薄鋼板2の表面位置とが同一となるように、放射率の決定がなされる。なお、位置合わせは、放射率演算機構12、放射測温機構13又は不図示の他の演算機構で行うことができる。
【0027】
また、本実施形態では、放射測温機構13が第2放射測定機構11及びロールの下流側に存在したが、放射測温機構13が第2放射測定機構11及びロールの上流側に存在しても同様の測温が可能となる。ただし、この場合、放射測温機構13の放射率が得られるタイミングが第2放射測定機構11の通過後となるため、放射測温機構13で仮の放射率で測温しておくか、放射輝度を取得しておき、後から得られる放射率を用いて正しい測温結果に換算するといった工夫が必要となる。この場合も前述の位置合わせを実施することが望ましい。
【0028】
さらに、多くの設備での温度制御は、
図6に示す通り、放射測温機構13で薄鋼板2の温度を計測し、目標温度との差異を温度計設置位置の前工程(搬送方向上流側)にある温度調整装置6の出力にフィードバックすることにより制御している。温度調整装置6では、薄鋼板2の加熱又は冷却が行われる。また、放射測温機構13の計測結果に基づいた温度調整装置6の制御は、コントローラ7によって行われる。しかし、フィードバック制御では、実際に板温を測定してからコントローラ7のゲインを操作するため、フィードフォワード制御と比較してどうしても応答性が低下する。温度や板厚などの製造条件が異なる板の前後では、応答性の低下は温度不良領域の増加につながり、歩留まりを低下させる。
【0029】
応答性を向上させるためには、温度予測によるフィードフォワード制御が必要であるが、高温域では伝熱は(5)式に記すような輻射が支配的であり、放射率が特に重要である。なお、(5)式において、Eは輻射の全エネルギー、c1は第一プランク定数、λは波長、σはステファンボルツマン定数である。
【0030】
【0031】
本実施形態では、放射率を正しく推定することにより、伝熱モデルの制御が向上し、フィードフォワード制御を導入することにより、高い応答性で対象板温の制御が可能となる。また、フィードフォワード制御とフィードバック制御を組み合わせて、より高精度な制御を実現しても良い。
さらに、実際に温度を測定する放射測温機構13は幅方向に視野を持っても良い。具体的には、視野を走査させる、ラインスキャンセンサやエリアスキャンセンサなどを用いることができる。ここで述べるラインスキャンセンサ、エリアスキャンセンサとは、受光部が一次元配列、あるいは二次元配列の構造を持ち、1回の撮像で一次元温度分布、二次元温度分布が取得可能なセンサを指す。
【0032】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0033】
例えば、上記実施形態では、金属板の一例として鋼板である薄鋼板2である場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。金属板は鋼板に限らず、他の金属からなる板であってもよい。
また、上記実施形態では、
図3に示す例において、測定が行われるくさび部は、ロール3Bにおける薄鋼板2の搬送方向上流側のくさび部であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。測定が行われるくさび部は、ロール3Bにおける薄鋼板2の搬送方向下流側のくさび部であってもよい。
さらに、上記実施形態では、表面温度装置1が薄鋼板2の焼鈍設備に設けられるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。表面温度装置1は、薄鋼板2等の金属板をロール間が直線パスで搬送し、直線パスを形成する一方のロールが金属板の向きを変える設備であれば、他の設備においても適用することができる。
【実施例0034】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、装置の配置は
図3と同様とし、第2放射測定機構11及び放射測温機構13として、InGaAs素子を用いた放射温度計を用いた。まず、事前に第2放射測定機構11の校正を実施した。次に、第2放射測定機構11と第1放射測定機構10の測定結果から放射率を算出した。放射率の算出モデルには佐久間服部の式を用いた。このとき、第2放射測定機構11と放射測温機構13との位置が30m程度離れていたため、搬送速度(通板速度)v(m/s)をロール3から常時取得し、30/v(s)前の放射率を放射測温機構13の温度算出時に使用した。
測温した結果を
図7に示す。放射率変動を常時補正することで、金属板がロール3に捲き付いていないロール間においても、金属板の測温が可能となることが確認できた。つまり、本発明の評価技術を利用することで、実施例に記載の通りロール間の垂直パスで正しい放射率で測温することができるようになる。