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特開2022-156278放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156278
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システム
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20221006BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G21F9/30 551G
G21F9/12 501
G21F9/30 551Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059878
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】永山 貴志
(72)【発明者】
【氏名】政所 良亮
(72)【発明者】
【氏名】上林 史朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
(72)【発明者】
【氏名】釜田 陽介
(57)【要約】
【課題】放射性物質で汚染された焼却主灰や焼却飛灰等を減容化するとともに放射性物質を効率的に分離することができる放射性物質含有物の処理方法を提供する。
【解決手段】放射性物質含有物を、塩素の存在下で溶融炉で溶融して、放射性物質を揮散させる溶融処理工程と、前記溶融処理工程で揮散させた放射性物質を含む排ガスを、シリカ系助剤またはアルミナ系助剤を剥離剤に用いた集じん装置でばいじんを回収する集じん工程と、前記集じん工程で回収したばいじんを処理するばいじん処理工程と、を含み、前記ばいじん処理工程は、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程を経た水溶液から固形物を回収する固液分離工程と、前記固液分離工程を経た水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質含有物を塩素の存在下で溶融炉で溶融して、放射性物質を揮散させる溶融処理工程と、
前記溶融処理工程で揮散させた放射性物質を含む排ガスを、シリカ系助剤またはアルミナ系助剤を剥離剤に用いた集じん装置でばいじんを回収する集じん工程と、
前記集じん工程で回収したばいじんを処理するばいじん処理工程と、
を含み、
前記ばいじん処理工程は、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程を経た水溶液から固形物を回収する固液分離工程と、前記固液分離工程を経た水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着工程と、を含む放射性物質含有物の処理方法。
【請求項2】
前記固液分離工程は、前記溶解工程を経た水溶液のpHを調整することにより、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素を分離する工程を含む請求項1記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項3】
前記固液分離工程で回収した固形物を前記溶融炉で再度溶融する循環溶融工程を含む請求項1または2記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項4】
前記固液分離工程と前記放射性物質吸着工程との間、または前記放射性物質吸着工程の後に、水溶液のpHを調整することにより、水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する重金属除去工程をさらに備えている請求項1から3の何れかに記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項5】
前記放射性物質吸着工程で放射性物質が除去され、前記重金属除去工程で重金属類が除去された高濃度の塩水を蒸発乾固する濃縮工程をさらに含む請求項4記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項6】
前記溶融処理工程で生じた排ガスから前記集じん装置の上流側で廃熱回収する第1廃熱回収工程と、前記水銀吸着塔の下流側で排ガスから廃熱回収する第2廃熱回収工程との少なくとも何れか一方の工程を含み、前記第1または第2廃熱回収工程で回収した廃熱を前記濃縮工程の熱源に用いる請求項5記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項7】
前記濃縮工程は、前記高濃度の塩水を前記集じん装置の上流側に設置した減温塔に供給して噴霧する工程を含む請求項5記載の放射性物質含有物の処理方法。
【請求項8】
放射性物質含有物を塩素の存在下で溶融して、放射性物質を揮散させる溶融炉と、
シリカ系助剤またはアルミナ系助剤が剥離剤に用いられ、前記溶融炉で生じた放射性物質を含む排ガスからばいじんを回収する集じん装置と、
前記集じん装置で回収したばいじんを処理するばいじん処理装置と、
を含み、
前記ばいじん処理装置は、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解装置と、前記溶解装置を経た水溶液から固形物を回収する固液分離装置と、前記固液分離装置で固形物が分離された水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着装置と、
を含む放射性物質含有物の処理システム。
【請求項9】
前記固液分離装置は、前記溶解装置を経た水溶液のpHを調整することにより、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素と、水溶性の重金属類及び放射性物質を分離する装置を含む請求項8記載の放射性物質含有物の処理システム。
【請求項10】
前記固液分離装置で回収した固形物を前記溶融炉で再度溶融する循環機構を含む請求項8または9記載の放射性物質含有物の処理システム。
【請求項11】
前記固液分離装置と前記放射性物質吸着装置との間、または前記放射性物質吸着装置の後段で水溶液のpHを調整することにより、水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する重金属除去装置をさらに備えている請求項8から10の何れかに記載の放射性物質含有物の処理システム。
【請求項12】
前記放射性物質吸着装置で放射性物質が除去され、前記重金属除去装置で重金属類が除去された高濃度の塩水を蒸発乾固する濃縮装置をさらに含む請求項11記載の放射性物質含有物の処理システム。
【請求項13】
前記溶融炉で生じた排ガスから前記集じん装置の上流側で廃熱回収する第1廃熱回収装置と、前記水銀吸着塔の下流側で廃熱回収する第2廃熱回収装置と、を含み、第1及び第2廃熱回収装置で回収した廃熱を前記濃縮装置の熱源に用いる請求項12記載の放射性物質含有物の処理システム。
【請求項14】
前記濃縮装置は、前記集じん装置の上流側に設置され、前記高濃度の塩水の一部を供給して噴霧する減温塔で構成されている請求項11記載の放射性物質含有物の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の核分裂反応を利用する機器等から漏洩した放射性物質で汚染された土壌や草木、海や河川等の自然環境を回復するために、放射性物質を含む被処理物から放射性物質を分離して濃縮する様々な方策が研究されてきた。
【0003】
放射性物質の中でもセシウム134、セシウム137は水溶性で体内に取り込まれやすく健康への影響が大きいため、ヨウ素131と併せて主要三核種と言われている。特にセシウム137は、半減期が30年と長く、土壌に吸着されると容易に除染できない。
【0004】
このような放射性物質で汚染された土壌、草木や廃材など、一時的に蓄積された大量の汚染物も、保管設備に限界があり、減容化する必要性に迫られている。例えば草木や廃材などの可燃物や下水処理場で発生した汚泥であれば、焼却処理して放射性物質が濃縮された焼却主灰や焼却飛灰として減容化した後に厳しい管理下で保管されているが、同様にそれらの保管設備の容量に限界がある。
【0005】
特許文献1には、土壌を含む被処理物に含まれる放射性セシウムを溶融処理により分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法が提案されている。当該放射性セシウム分離濃縮方法は、塩素系塩基度調整助剤を含む塩基度調整助剤を被処理物に添加する塩基度調整工程と、塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1500℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、を備えており、分離工程で放射性物質が除去された残物質は溶融スラグとして減容化される。
【0006】
特許文献1に記載されたような放射性セシウム分離濃縮方法を採用して、放射性物質で汚染された焼却主灰や焼却飛灰、さらには土壌を溶融処理して放射性物質を揮散させるとともに、放射性物質が除去された残物質を溶融スラグとして減容化が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-011924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1に記載されたような放射性セシウム分離濃縮方法を採用すれば、放射性物質で汚染された焼却主灰や焼却飛灰、さらには土壌を溶融処理して放射性物質を揮散分離させるとともに、放射性物質が除去された残物質を溶融スラグとして減容化できるようになる。そして、揮散分離により排ガスに含まれた放射性物質が集じん装置を介して灰処理ばいじん(以下、単に「ばいじん」と記す。)として分離されることにより、放射性物質を大幅に減容化できるようになり、保管設備を増設する必要性も薄れる。
【0009】
そして、そのような放射性物質が濃縮されたばいじんをさらに減容化したいとの要望もあり、具体的な処理方法が検討されつつある。例えば、塩化物として回収された放射性物質が水溶性を示す性質に着目して、放射性物質を水に溶解させて分離する水処理設備を構築することが考えられる。
【0010】
しかし、集じん装置のろ布を保護するために用いる炭酸カルシウムなどの助剤(剥離剤)がばいじんに含まれると、水処理設備に組み込まれる配管などに助剤由来のスケールが付着沈降して閉塞などの不都合な事態が発生するため、頻繁なメンテナンスが必要となり、設備の稼働率が低下する虞がある。
【0011】
また、溶融炉の排ガスに含まれるダイオキシン類や水銀などの重金属類に対して適切に無害化処理する必要もある。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、放射性物質で汚染された焼却主灰や焼却飛灰等を減容化するとともに放射性物質を効率的に分離することができる放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による放射性物質含有物の処理方法の第一特徴構成は、放射性物質含有物を塩素の存在下で溶融炉で溶融して、放射性物質を揮散させる溶融処理工程と、前記溶融処理工程で揮散させた放射性物質を含む排ガスを、シリカ系助剤またはアルミナ系助剤を剥離剤に用いた集じん装置でばいじんを回収する集じん工程と、前記集じん工程で回収したばいじんを処理するばいじん処理工程と、を含み、前記ばいじん処理工程は、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程を経た水溶液から固形物を回収する固液分離工程と、前記固液分離工程を経た水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着工程と、を含む点にある。
【0014】
溶融処理工程で溶融スラグから揮散分離された放射性物質を含む排ガスが集じん工程を経ることによりばいじんとして回収される。塩素の存在下とは、放射性物質含有物に塩素が含まれている場合や、放射性物質含有物に塩素を助剤として添加する場合を含めた概念である。集じん工程で回収されたばいじんには、放射性物質の塩化物、アルミニウムや鉄などの酸化物である鉱物元素、鉛などの重金属類、集じん工程で剥離剤として用いられるシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が含まれる。ばいじん処理工程に含まれる溶解工程で放射性物質が水に溶解され、固液分離工程で水に溶解しない不溶性物質が除去され、放射性物質吸着工程で水に溶解した放射性物質が吸着除去される。集じん工程で炭酸カルシウムなどの助剤に代えてシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が剥離剤として用いられるので、ばいじん処理工程でカルシウムスケールが配管などに付着して閉塞するような不都合な事態の発生が効果的に低減される。
【0015】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記固液分離工程は、前記溶解工程を経た水溶液のpHを調整することにより、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素を分離する工程を含む点にある。
【0016】
例えば、固液分離工程で水溶液のpHを酸性に調整すれば、水溶性の重金属類や放射性物質から不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤等を分離することができる。
【0017】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記固液分離工程で回収した固形物を前記溶融炉で再度溶融する循環溶融工程を含む点にある。
【0018】
固液分離工程で回収した不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素を溶融炉で再度溶融することによりスラグ化することでばいじんの減容化が可能になる。
【0019】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記固液分離工程と前記放射性物質吸着工程との間、または前記放射性物質吸着工程の後に、水溶液のpHを調整することにより、水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する重金属除去工程をさらに備えている点にある。
【0020】
酸性下で溶解工程を実行することにより重金属類を溶解させることができ、固液分離工程の後で放射性物質吸着工程の前、或いは放射性物質吸着工程の後に、水溶液のpHを例えば中性に調整すれば、溶解した重金属類が不溶性となって析出する。例えば、重金属固定剤(キレート剤)を投入して金属錯体として分離し、或いは凝集剤を投入して凝集沈殿させることができる。
【0021】
同第五の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記放射性物質吸着工程で放射性物質が除去され、前記重金属除去工程で重金属類が除去された高濃度の塩水を蒸発乾固する濃縮工程をさらに含む点にある。
【0022】
ばいじんの水溶液から放射性物質及び重金属類が除去され、残存した高濃度の塩水が濃縮工程で蒸発乾固されることで、放流の回避により環境負荷を低減できるようになる。
【0023】
同第六の特徴構成は、上述した第五の特徴構成に加えて、前記溶融処理工程で生じた排ガスから前記集じん装置の上流側で廃熱回収する第1廃熱回収工程と、前記水銀吸着塔の下流側で排ガスから廃熱回収する第2廃熱回収工程との少なくとも何れか一方の工程を含み、前記第1または第2廃熱回収工程で回収した廃熱を前記濃縮工程の熱源に用いる点にある。
【0024】
第1廃熱回収工程または第2廃熱回収工程で回収した熱を濃縮工程で塩水を蒸発乾固するための熱源として有効活用できる。
【0025】
同第七の特徴構成は、上述した第五の特徴構成に加えて、前記濃縮工程は、前記高濃度の塩水を前記集じん装置の上流側に設置した減温塔に供給して噴霧する工程を含む点にある。
【0026】
濃度の塩水を集じん装置の上流側に設置した減温塔に噴霧することにより、高濃度の塩水の一部を処理することができる。
【0027】
本発明による放射性物質含有物の処理システムの第一の特徴構成は、放射性物質含有物を塩素の存在下で溶融して、放射性物質を揮散させる溶融炉と、シリカ系助剤またはアルミナ系助剤が剥離剤に用いられ、前記溶融炉で生じた放射性物質を含む排ガスからばいじんを回収する集じん装置と、前記集じん装置で回収したばいじんを処理するばいじん処理装置と、を含み、前記ばいじん処理装置は、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解装置と、前記溶解装置を経た水溶液から固形物を回収する固液分離装置と、前記固液分離装置で固形物が分離された水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着装置と、
を含む点にある。
【0028】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記固液分離装置は、前記溶解装置を経た水溶液のpHを調整することにより、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素と、水溶性の重金属類及び放射性物質を分離する装置を含む点にある。
【0029】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記固液分離装置で回収した固形物を前記溶融炉で再度溶融する循環機構を含む点にある。
【0030】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記固液分離装置と前記放射性物質吸着装置との間、または前記放射性物質吸着装置の後段で水溶液のpHを調整することにより、水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する重金属除去装置をさらに備えている点にある。
【0031】
同第五の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記放射性物質吸着装置で放射性物質が除去され、前記重金属除去装置で重金属類が除去された高濃度の塩水を蒸発乾固する濃縮装置をさらに含む点にある。
【0032】
同第六の特徴構成は、上述した第五の特徴構成に加えて、前記溶融炉で生じた排ガスから前記集じん装置の上流側で廃熱回収する第1廃熱回収装置と、前記水銀吸着塔の下流側で廃熱回収する第2廃熱回収装置と、を含み、第1及び第2廃熱回収装置で回収した廃熱を前記濃縮装置の熱源に用いる点にある。
【0033】
同第七の特徴構成は、上述した第三の特徴構成に加えて、前記濃縮装置は、前記集じん装置の上流側に設置され、前記高濃度の塩水の一部を供給して噴霧する減温塔で構成されている点にある。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した通り、本発明によれば、放射性物質で汚染された焼却主灰や焼却飛灰等を減容化するとともに放射性物質を効率的に分離することができる放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】放射性物質含有物の処理方法及び処理装置の説明図
図2】ばいじん処理方法及びばいじん処理装置の説明図
図3】ばいじん処理方法及びばいじん処理装置の他の態様の説明図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明による放射性物質含有物の処理方法及び放射性物質含有物の処理システムの実施形態を説明する。
【0037】
[放射性物質含有物の処理システムの構成]
図1には、放射性物質含有物の処理システム1が示されている。当該処理システム1は、溶融炉2と、二次燃焼室3と、空気予熱器4と、第1廃熱回収装置5と、減温塔6と、第1集じん装置7と、第2集じん装置8と、中和物回収装置9と、触媒反応塔10と、水銀吸着塔11と、第2廃熱回収装置12と、誘引送風機13と、煙突14と、第1集じん装置7及び第2集じん装置8で捕捉されたばいじんを処理するばいじん処理装置20を備えている。
【0038】
主にセシウムCsやストロンチウムSr等、核分裂反応を利用する機器から漏洩した放射性物質を含有する焼却主灰、焼却飛灰等の溶融対象物が、放射性物質の揮散を促進する塩素を含む助剤や融点降下剤と共に溶融炉2に投入される。溶融炉2に投入される放射性物質含有物は、放射性物質で汚染された草木や廃材或いは下水汚泥等を焼却炉で焼却処理したことにより発生する焼却主灰、焼却飛灰に限るものではなく、除染で除去された土壌を粒度選別した粒径0.075mm以下の細粒土壌が含まれる場合もある。細粒土壌に放射性物質が高濃度に取り込まれているからである。
【0039】
塩素を含む助剤として塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化鉄等の塩化物、塩素を含むプラスチックや樹脂等の有機塩素化合物が好適に用いられるが、溶融対象物に必要量の塩素が含まれている場合には、塩素を含む助剤を添加する必要はない。融点降下剤としてカルシウム化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、鉄化合物が好適に用いられる。例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素、ほう砂、ホウ酸、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄等の塩基度調整剤が融点降下剤となる。
【0040】
溶融炉2では、1200℃から1500℃の高温環境下で放射性物質含有物が溶融され、その際に水銀や重金属類の塩化物、アルカリ塩が揮散されるとともに、塩素を含む助剤により塩化物となった塩化セシウム(CsCl)や塩化ストロンチウム(SrCl)などの放射性物質が揮散されて排ガスとともに二次燃焼室に流下し、残余の固形物が溶融炉2で溶融されてスラグとして回収される。溶融炉2として特に溶融方式が限定されるものではなく回転式表面溶融炉等が好適に用いられる。
【0041】
溶融炉2から排出された排ガスは、二次燃焼室3で未燃ガス成分が二次燃焼されて約1100℃になって煙道を流下して、溶融炉2に供給される燃焼用空気を予熱する空気予熱器4、高温熱回収装置である第1廃熱回収装置5、減温塔6を通過して集じん装置入り口でダイオキシン類の再合成を抑制することができ、結露せずに低温熱回収が可能になる160~200℃程度の温度領域まで減温される。
【0042】
第1集じん装置7及び第2集じん装置8として、ろ布に珪藻土やガラス粉末等のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤がスプレーコーティングされたバグフィルタが用いられる。通常、炭酸カルシウム等がろ布にコーティングされることが多いが、本発明では後述するように、ばいじん処理装置20との関係で珪藻土やシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が好適に用いられる。
【0043】
排ガスが減温塔6等を通過して160~200℃程度に減温されることにより放射性物質を含む塩類、鉱物元素、重金属類が固体の微粒子となり、排ガスとともに第1集じん装置7及び第2集じん装置8に流入してばいじんとして捕捉される。第1集じん装置7及び第2集じん装置8を冗長設置しているのは、一方が故障した場合に備えて信頼性を確保するためである。第1集じん装置7及び第2集じん装置8は直列接続されていても並列接続されていてもよい。
【0044】
ばいじんには、塩化セシウム(CsCl)や塩化ストロンチウム(SrCl)などの放射性物質の塩類、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化第二鉄(FeCl)等の塩類、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、酸化第二鉄(Fe)等の鉱物元素、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、水銀(Hg)等の元素を含む重金属化合物類、剥離剤としてろ布に噴霧された二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)等のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が含まれる。
【0045】
中和物回収装置9もバグフィルタで構成され、排ガスとともに中和剤である消石灰がバグフィルタに吹き込まれることにより、排ガスに含まれる塩化水素等の腐食性ガス成分が塩化カルシウム等としてろ布に捕捉される。中和物回収装置9で捕捉された塩化カルシウム(CaCl)等の中和物は、塩素を含む助剤として溶融炉2に循環供給され、余剰の中和物は外部に取り出されて処理される。
【0046】
触媒反応塔10には、チタンやバナジウム等の触媒金属を備えており、排ガスに含まれるダイオキシン類が触媒金属との触媒反応により分解される。
【0047】
水銀吸着塔11にはペレット状の活性炭が充填され、比較的沸点の低い水銀が含まれる排ガスが通過する際に活性炭により水銀が吸着除去される。或いは、活性炭を噴霧し、水銀を吸着した活性炭を除去する集じん装置で水銀吸着塔11の機能を代替してもよい。
【0048】
低温熱回収装置である第2廃熱回収装置12では、水銀吸着塔11を通過した約200℃程度の排ガスから余熱が回収され、誘引送風機13を介して煙突14から排気される。第1廃熱回収装置5及び第2廃熱回収装置12は何れも水等の熱媒体を介して排ガスの保有熱を回収する熱交換器で構成されている。
【0049】
図2及び図3に示すように、ばいじん処理装置20は、第1集じん装置7及び第2集じん装置8で捕捉された溶融飛灰である灰処理ばいじんの減容化を図る高度処理装置であり、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解装置22と、溶解装置22を経た水溶液に溶解せずに残存する固形物を回収する固液分離装置24と、固液分離装置24で固形物が分離された水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着装置26とを備えている。
【0050】
固液分離装置24としてフィルタプレスやスクリュープレス等の脱水機で構成される固液分離装置24Aと、水溶液にpH調整剤や凝集剤を添加することで、不溶性となったシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素を凝集沈殿させる凝集沈殿槽を備えた固液分離装置24Bを備えている。
【0051】
当該放射性物質含有物の処理システム1は、少なくとも上述した溶融炉2と、集じん装置7,8と、触媒反応塔10と、水銀吸着塔11と、ばいじん処理装置20とを備えている必要があり、固液分離装置24で回収した固形物を溶融炉2で再度溶融するために搬送する循環機構25を備えていることが好ましい。
【0052】
ばいじん処理装置20には、固液分離装置24と放射性物質吸着装置26との間(図3参照。)、または放射性物質吸着装置26の後段(図2参照。)に、水溶液のpHを調整することにより水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する重金属除去装置28をさらに備えている。
【0053】
放射性物質吸着装置26には放射性物質吸着剤が充填された吸着塔が設けられており、放射性物質吸着剤により放射性物質が吸着除去される。重金属類及び放射性物質が除去された高濃度の塩水を蒸発乾固する濃縮装置29をさらに備えている。濃縮装置29の熱源として上述した第1廃熱回収装置5と第2廃熱回収装置12による回収熱源が用いられる。なお、濃縮装置29を、集じん装置7,8の上流側に設置され、高濃度の塩水の一部を供給して噴霧する減温塔6で構成することも可能である。
【0054】
[放射性物質含有物の処理方法の構成]
上述した放射性物質含有物の処理システム1により本発明の放射性物質含有物の処理方法が実行される。以下詳述する。
【0055】
上述した溶融炉2で、放射性物質含有物から放射性物質を揮散させる溶融処理工程が実行され、第1集じん装置7及び第2集じん装置8で、溶融処理工程で揮散させた放射性物質を含む排ガスから放射性物質を含むばいじんを回収する集じん工程が実行される。
【0056】
また、触媒反応塔10で、排ガスに含まれるダイオキシン類を除去するダイオキシン分解工程が実行され、水銀吸着塔11で、排ガスに含まれる水銀を除去する水銀吸着工程が実行される。
【0057】
さらに、ばいじん処理装置20で、ばいじんを減容化するばいじん処理工程が実行される。
溶解装置22で、ばいじんに含まれる放射性物質を水に溶解させる溶解工程が実行され、固液分離装置24で、溶解工程を経た水溶液から固形物を回収する固液分離工程が実行され、放射性物質吸着装置26で、固液分離工程を経た水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着工程が実行される。
【0058】
つまり、溶融処理工程で溶融スラグから揮散分離された放射性物質を含む排ガスが集じん工程を経ることによりばいじんとして回収される。ばいじんが除去された排ガスは、ダイオキシン分解工程でダイオキシン類が除去され、さらに水銀吸着工程で水銀が除去される等、無害化処理された後に大気に放出される。
【0059】
上述したように、集じん工程で回収されたばいじんには、放射性物質の塩化物、アルミニウムや鉄などの酸化物である鉱物元素、鉛などの重金属類、集じん工程で用いられるシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が含まれる。ばいじん処理工程に含まれる溶解工程で放射性物質が水に溶解され、固液分離工程で水に溶解しない固定物が除去され、放射性物質吸着工程で水に溶解した放射性物質が吸着除去される。
【0060】
集じん工程では、助剤(剥離剤)として炭酸カルシウムなどに代えてシリカ系助剤またはアルミナ系助剤が用いられるので、ばいじん処理工程でカルシウムスケールが配管などに付着して閉塞するような不都合な事態の発生が効果的に低減される。
【0061】
溶解工程では、水にpH調整剤が添加されて酸性に調整されることにより、放射性物質に加えて重金属類が可溶化状態に調整される。つまり、放射性物質、重金属類、一部の塩類が水に溶解される。
【0062】
図2に示すように、固液分離工程では、溶解工程を経た水溶液のpH調整によって不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤(剥離剤)や鉱物元素と、水溶性の重金属類及び放射性物質を分離される工程である。通常、酸性に調整して重金属類とセシウムなどの水溶性物質を可溶化し、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を分離する。また鉛などアルカリに調整して水溶性セシウムとともに可溶化し、不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を分離してもよい。
【0063】
前段の固液分離装置24Aでは、例えばフィルタプレスやスクリュープレス等の脱水機が用いられ、水溶液に溶解せずに残存する固形物が回収される。後段の固液分離装置24Bでは、水溶液にpH調整剤や凝集剤を添加することで、不溶性となったシリカ系助剤またはアルミナ系助剤(剥離剤)や鉱物元素が凝集沈殿される。
【0064】
固液分離工程で回収された固形物は、循環機構25により溶融炉2に搬送されて、溶融炉2で再度溶融する循環溶融工程が実行される。不溶性のシリカ系助剤またはアルミナ系助剤を含む鉱物元素が溶融炉で再度溶融されてスラグ化されることで、さらなるばいじんの減容化が可能になる。
【0065】
放射性物質吸着装置26で、固液分離工程を経た水溶液から放射性物質を吸着除去する放射性物質吸着工程が実行され、ゼオライト、フェロシアン化合物、ケイチタン酸塩等の吸着物質に吸着された放射性物質は厳重な管理下で域外(県外)の保管設備に保管される。
【0066】
図2に示すように、放射性物質が除去された水溶液は、金属キレートが充填された重金属除去装置28に送られて、pH調整剤によって中性に調整されることにより、金属キレートに重金属類が捕捉される重金属除去工程が実行される。金属キレートに捕捉された重金属類は山元還元されて再利用され、或いは産廃処理される。
【0067】
重金属除去工程で重金属類が除去された高濃度の塩水は、濃縮装置29に送られて濃縮工程が実行され、蒸発乾固される。溶融処理工程で生じた排ガスから集じん装置7の上流側に設置された第1廃熱回収装置5で廃熱回収する第1廃熱回収工程と、水銀吸着塔の下流側で排ガスから廃熱回収する第2廃熱回収工程と、を実行することにより排ガスから回収した廃熱が濃縮工程の熱源に用いられる。なお、高濃度の塩水の一部を集じん装置7の上流側に設置した減温塔6に供給して噴霧することにより処理してもよい。
【0068】
図3に示すように、重金属除去工程として、固液分離工程を経た水溶液に対してpH調整剤を添加して酸性から中性に調整することにより、溶解工程において酸性下で溶解した重金属類を凝集沈殿させることも可能になる。この場合、pH調整剤に加えて凝集剤を添加することが好ましい。この場合、重金属除去工程の後に放射性物質吸着工程が実行される。
【0069】
つまり、重金属除去工程は、固液分離工程と放射性物質吸着工程との間、または放射性物質吸着工程の後に、水溶液のpHを調整することにより、水溶性の重金属類を不溶性の重金属類として除去する工程である。
【0070】
酸性下で溶解工程を実行することにより重金属類を溶解させることができ、固液分離工程の後で放射性物質吸着工程の前、或いは放射性物質吸着工程の後に、水溶液のpHを例えば中性に調整すれば、溶解した重金属類が不溶性となって析出する。重金属固定剤(キレート剤)を投入して金属錯体として分離し、或いは凝集剤を投入して凝集沈殿させることができる。
【0071】
上述した実施形態は本発明の一例であり、該記載により本発明の範囲が限定されることを意図するものではなく、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜構成を変更設計することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1:放射性物質含有物の処理システム
2:溶融炉
3:二次燃焼室
4:空気予熱器
5:第1廃熱回収装置
6:減温塔
7:第1集じん装置
8:第2集じん装置
9:中和物回収装置
10:触媒反応塔
11:水銀吸着塔
12:第2廃熱回収装置
20:ばいじん処理装置
22:溶解装置(水溶解槽)
24:固液分離装置
24A:固液分離装置(脱水機)
24B:固液分離装置(凝集沈殿槽)
25:循環機構
26:放射性物質吸着装置(セシウム吸着塔)
28:重金属除去装置(重金属キレート塔)
29:濃縮装置
図1
図2
図3