(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156302
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電気回路遮断装置
(51)【国際特許分類】
H01H 39/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
H01H39/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059907
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 友秀
(57)【要約】
【課題】切断した導体片における端部間の高い絶縁性を確保可能な電気回路遮断装置を提供する。
【解決手段】電気回路遮断装置は、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に配置され、収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、一方の第一段部と他方の第二接続端部との間に、発射体の移動によって切除される被切除部を有した導体片とを備え、ハウジングに保持された導体片の第一接続端部において、被切除部が切除される被切除部との境界部分を第一切断エッジ部とし、第二接続端部において、被切除部が切除される被切除部との境界部分を第二切断エッジ部とし、ハウジングの内壁面のうちの、収容空間を横切る導体片に対応する位置であって、且つ、第一切断エッジ部と第二切断エッジ部との間に位置する所定のエッジ間内壁領域に溝が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部材として、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、
前記ハウジングに設けられた点火器と、
前記ハウジング内に配置され、前記点火器から受けるエネルギーによって前記収容空間の一端側から発射され、前記収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、
前記ハウジングに保持され、電気回路の一部を形成する導体片であって、一方の第一接続端部と他方の第二接続端部との間に、前記発射体の移動によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記収容空間を横切るように配置された導体片と、
を備え、
前記ハウジングに保持された前記導体片の前記第一接続端部において、前記被切除部が切除される前記被切除部との境界部分を第一切断エッジ部とし、前記第二接続端部において、前記被切除部が切除される前記被切除部との境界部分を第二切断エッジ部とし、
前記ハウジングの内壁面のうちの、前記収容空間を横切る前記導体片に対応する位置であって、且つ、前記第一切断エッジ部と前記第二切断エッジ部との間に位置する所定のエッジ間内壁領域に溝が形成されている、
電気回路遮断装置。
【請求項2】
前記溝は、前記収容空間の延在方向に沿って延在している、請求項1に記載の電気回路遮断装置。
【請求項3】
前記溝が、
前記エッジ間内壁領域の周方向に沿って間隔をおいて複数設けられている、
請求項1又は2に記載の電気回路遮断装置。
【請求項4】
複数の前記溝は、その深さ方向が前記収容空間の延在方向と直交する面において互いに平行、又は、放射状となるように設けられている、
請求項1又は2に記載の電気回路遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路には、その電気回路を構成する機器の異常時や、該電気回路が搭載されたシステムの異常時に作動することによって該電気回路での導通を緊急に遮断する遮断装置が設けられる場合がある。その一態様として、点火器等から付与されるエネルギーによって発射体を高速で移動させて、電気回路の一部を形成する導体片を強制的に且つ物理的に切断する電気回路遮断装置が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。また、近年では、高電圧の電源を搭載する電気自動車に適用される電気回路遮断装置の重要性が益々高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/093079号
【特許文献2】特開2012-230876号公報
【特許文献3】特開2011-204591号公報
【特許文献4】特開2009-16652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気回路遮断装置において、点火器の作動によって導体片を切断すると、切り離される導体片の間でアーク放電が生じることがある。この場合、アークの熱で導体片の銅が蒸散して装置内に付着することで、切断された導体片における端部間の絶縁性が低下するという問題があった。
【0005】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、切断した導体片における端部間の高い絶縁性を確保可能な電気回路遮断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の電気回路遮断装置は、
外殻部材として、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、
前記ハウジングに設けられた点火器と、
前記ハウジング内に配置され、前記点火器から受けるエネルギーによって前記収容空間の一端側から発射され、前記収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、
前記ハウジングに保持され、電気回路の一部を形成する導体片であって、一方の第一接続端部と他方の第二接続端部との間に、前記発射体の移動によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記収容空間を横切るように配置された導体片と、
を備え、
前記ハウジングに保持された前記導体片の前記第一接続端部において、前記被切除部が切除される前記被切除部との境界部分を第一切断エッジ部とし、前記第二接続端部において、前記被切除部が切除される前記被切除部との境界部分を第二切断エッジ部とし、
前記ハウジングの内壁面のうちの、前記収容空間を横切る前記導体片に対応する位置であって、且つ、前記第一切断エッジ部と前記第二切断エッジ部との間に位置する所定のエッジ間内壁領域に溝が形成されている。
【0007】
前記溝は、前記収容空間の延在方向に沿って延在してもよい。
【0008】
前記電気回路遮断装置は、前記溝が、前記エッジ間内壁領域の周方向に沿って間隔をおいて複数設けられてもよい。
【0009】
前記電気回路遮断装置において、複数の前記溝は、その深さ方向が前記収容空間の延在方向と直交する面において互いに平行、又は、放射状となるように設けられてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、切断した導体片における端部間の高い絶縁性を確保可能な電気回路遮断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る電気回路遮断装置内部構造を説明する図である。
【
図5】下側ハウジング本体の
図4に示すC-C線における縦断面図である。
【
図6】下側ハウジング本体の
図4に示すD-D線における縦断面図である。
【
図9】上側ハウジング本体の
図7に示すE-E線における縦断面図である。
【
図10】上側ハウジング本体の
図8に示すF-F線における縦断面図である。
【
図15】実施形態に係る遮断装置1の作動状況を説明する図である。
【
図16】比較例として溝を有していない下側ハウジング本体、及び切断後の導体片を示す図である。
【
図17】
図16の下側ハウジング本体における沿面距離を示す図である。
【
図18】
図4の下側ハウジング本体における沿面距離を示す図である。
【
図19】電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。
【
図20】変形例に係る下側ハウジング本体を示す図である。
【
図21】ハウジング本体における溝形状の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一実施形態>
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る電気回路遮断装置について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0013】
<構成>
図1は、実施形態に係る電気回路遮断装置(以下、単に「遮断装置」という)1の内部構造を説明する図、
図2は、
図1に示すA-A線における断面図、
図3は、
図1に示すB-B線における断面図である。遮断装置1は、例えば、自動車や家庭電化製品、太陽光発電システム等に含まれる電気回路や、当該電気回路のバッテリー(例えば、リチウムイオンバッテリー)を含むシステムの異常時に、電気回路を遮断することで大きな被害を未然に防止するための装置である。本明細書においては、
図1に示す高さ方向(後述する収容
空間13が延在する方向)に沿った断面を遮断装置1の縦断面といい、高さ方向と直交する方向の断面を遮断装置1の横断面という。
図1は、遮断装置1の作動前の状態を示している。
【0014】
遮断装置1は、ハウジング10、点火器20、発射体40、導体片50、クーラント材60等を含んでいる。ハウジング10は、外殻部材として、上端側の第1端部11から下端側の第2端部12の方向に延在する収容空間13を内包している。この収容空間13は、発射体40が移動可能なように直線状に形成された空間であり、遮断装置1の上下方向に沿って延在している。
図1に示すように、ハウジング10の内部に形成された収容空間13の上下方向(延在方向)における上端側には、発射体40が収容されている。本明細書では、上下方向をY軸方向、左右方向をX軸方向、奥行き方向をZ方向とも称す。但し、本明細書において遮断装置1の上下方向及びXYZ方向は、実施形態の説明の便宜上、遮断装置1における各要素の相対的な位置関係を示すものに過ぎない。例えば、遮断装置1を設置する際の姿勢が図に示した方向に限定されるものではない。
【0015】
[ハウジング]
ハウジング10は、ハウジング本体100、トップホルダ110、ボトム容器120を含む。ハウジング本体100には、トップホルダ110およびボトム容器120が結合されており、これによって一体のハウジング10が形成されている。
【0016】
ハウジング本体100は、導体片50が配設された位置を境界として上下方向に分割され、上部に上側ハウジング本体130、下部に下側ハウジング本体140を備えている。本実施形態では、この上側ハウジング本体130及びトップホルダ110を含むハウジング10の上側を第一ハウジング、下側ハウジング本体140及びボトム容器120を含むハウジング10の下側を第二ハウジングとも称す。なお、ハウジング本体は、分割した構成に限らず、トップホルダ110と接続する上端から、ボトム容器120と接続する下端まで一体的に形成されていてもよい。
【0017】
上側ハウジング本体130と下側ハウジング本体140とを組み合わせた状態のハウジング本体100は、例えば、概略角柱形状の外形を有している。但し、ハウジング本体100の形状は特に限定されない。また、ハウジング本体100には、上下方向に沿って空洞部が貫通するように形成されており、この空洞部は収容空間13の一部を形成している。更に、ハウジング本体100は、トップホルダ110のフランジ部111が固定される上面101と、ボトム容器120のフランジ部121が固定される下面102を有する。本実施形態においては、ハウジング本体100における上面101の外周側には、当該上面101から上方に向けて筒状の上筒壁103が立設されている。本実施形態において、上筒壁103は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していても良い。また、ハウジング本体100における下面102の外周側には、当該下面102から下方に向けて筒状の下筒壁104が垂設されている。本実施形態において、下筒壁104は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していても良い。
【0018】
図4は、下側ハウジング本体140の上面図、
図5は、下側ハウジング本体140の
図4に示すC-C線における縦断面図、
図6は、下側ハウジング本体140の
図4に示すD-D線における縦断面図、
図7は、下側ハウジング本体140の下面図である。
【0019】
下側ハウジング本体140は、
図4に示すように、平面視において外形が略四角形であり、その中央に空洞部145が設けられている。この空洞部145は、下側ハウジング本体140がハウジング10を成す他の部材と組み合わされた場合に、収容空間13の一部を形成する。空洞部145の左右には導体片50を嵌め込む窪みである導体片保持部144が設けられている。導体片保持部144は、下側ハウジング本体140の上面を導体片
50の輪郭に沿って下側に凹ませた形状となっている。この導体片保持部144に導体片50の端部を嵌め込むことで、導体片50が空洞部145(収容空間13)を横切るように配置される。
【0020】
下側ハウジング本体140の空洞部145を画する内壁143には、下側ハウジング本体140の上面から下面にかけて複数の溝141が設けられている。各溝141は、
図6に示すように、上下方向に沿って長手であって、互いに平行な直線状に設けられている。即ち、各溝141は、収容空間13の延在方向に沿って延在している。各溝141は、空洞部145(収容空間13)の周方向に沿って所定の間隔をおいて配置されている。この溝141は、後述のように遮断装置1の動作時に切断される導体片50の第一切断エッジ部511と第二切断エッジ部521との間に位置する所定のエッジ間内壁領域SA内の内壁143に形成されている。また、各溝141は、
図4,
図7に示すように、X-Z面において、ハウジング10の内壁143から外壁に向かう深さ方向(Z方向)の形状が、互いに平行な直線状となるように形成されている。各溝141の幅LA、間隔LB、深さLC等の寸法は、特に限定されるものではないが、例えば、幅LAは導体片50に印加される電圧に応じて設定されてもよい。本実施形態の溝141は、深さLCに対して幅LAが狭いスリット型の溝である。溝141は、直線に限らず他の形状であってもよい。
【0021】
各溝141の間隔LBを小さく設定することで、各溝141を密に配置し、溝141の数を増やして後述の沿面距離を長くとることができるが、間隔LBを小さくし過ぎると強度を確保するのが難しくなるので、間隔LBは、要求される沿面距離と強度に応じて設定されてもよい。また、各溝141の深さLCを深く設定することで、後述の沿面距離を長くとることができるが、間隔LCを深くし過ぎると強度を確保するのが難しくなるので、深さLCは、要求される沿面距離と強度に応じて設定されてもよい。
【0022】
下側ハウジング本体140は、
図4,
図7に示すように、上下方向に貫通したボルト通し孔142が四隅に設けられている。下側ハウジング本体140における下面の外縁部分には、当該下面から下方に向けて角筒状の下筒壁104が垂設されている。
【0023】
図8は、上側ハウジング本体130の上面図、
図9は、上側ハウジング本体130の
図7に示すE-E線における縦断面図、
図10は、上側ハウジング本体130の
図8に示すF-F線における縦断面図、
図11は、上側ハウジング本体130の下面図である。
【0024】
上側ハウジング本体130は、
図8,
図11に示すように、平面視において外形が略四角形であり、その中央に空洞部135が設けられている。この空洞部135は、上側ハウジング本体130がハウジング10を成す他の部材と組み合わされた場合に、収容空間13の一部を形成する。
【0025】
上側ハウジング本体130の空洞部135を画する内壁133には、上側ハウジング本体130の下面から上方に向けて溝131が複数設けられている。各溝131は、収容空間13の延在方向に沿って延在している。各溝131は、空洞部145(収容空間13)の周方向に沿って所定の間隔をおいて配置されている。この溝131は、後述のように遮断装置1の動作時に切断される導体片50の第一切断エッジ部511と第二切断エッジ部521との間に位置する所定のエッジ間内壁領域SA内の内壁143に形成されている。各溝131は、
図10に示すように、上下方向に沿って互いに平行に設けられている。また、各溝131は、
図8,
図11に示すように、X-Z面において、ハウジング10の内壁133から外壁に向かう深さ方向(Z方向)の形状が、互いに平行な直線状に形成されている。各溝131の幅、間隔、深さ等の寸法は、下側ハウジング本体140の溝141と同様、特に限定されるものではなく、任意に設定され得る。
【0026】
上側ハウジング本体130は、
図8,
図11に示すように、上下方向に貫通したボルト通し孔132が四隅に設けられている。上側ハウジング本体130における上面の外縁部分には、当該上面から上方に向けて角筒状の上筒壁103が立設されている。
【0027】
以上のように構成される上側ハウジング本体130及び下側ハウジング本体140は、例えば、合成樹脂等といった絶縁部材によって形成することができる。例えば、上側ハウジング本体130及び下側ハウジング本体140は、ポリアミド合成樹脂の一種であるナイロンによって形成されていても良い。
【0028】
[トップホルダ]
次に、トップホルダ110について説明する。トップホルダ110は、例えば、段付き円筒形状を有するシリンダ部材であり、内側が空洞状になっている。トップホルダ110は、上側(第1端部11側)に位置する小径シリンダ部112と、下側に位置する大径シリンダ部113と、これらを接続する接続部114と、大径シリンダ部113の下端から外側に向かって延在するフランジ部111等を含んで構成されている。例えば、小径シリンダ部112および大径シリンダ部113は同軸に配置されており、大径シリンダ部113は小径シリンダ部112よりも直径が一回り大きい。
【0029】
また、トップホルダ110におけるフランジ部111の輪郭は、ハウジング本体100における上筒壁103の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部111は、締結用のボルトを通すボルト通し孔(不図示)が上下方向に貫通して設けられている。
【0030】
トップホルダ110における小径シリンダ部112の内側に形成される空洞部は、
図1に示すように点火器20の一部を収容する収容空間として機能する。また、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部は、下方に位置するハウジング本体100の空洞部と連通しており、収容空間13の一部を形成している。上記のように構成されるトップホルダ110は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、トップホルダ110を形成する材料は特に限定されない。また、トップホルダ110の形状についても上記態様は一例であり、他の形状を採用しても良い。
【0031】
[ボトム容器]
次に、ボトム容器120について説明する。ボトム容器120は、内部が空洞状の概略有底筒形状を有し、側壁部122、側壁部122の下端に接続される底壁部123、側壁部122の上端に接続されるフランジ部121等を含んで構成されている。側壁部122は、例えば円筒形状を有しており、フランジ部121は側壁部122における上端から外側に向かって延在している。ボトム容器120におけるフランジ部121の輪郭は、ハウジング本体100における下筒壁104の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部121は、締結用のボルトを通すボルト通し孔(不図示)が上下方向に貫通して設けられている。
【0032】
なお、ボトム容器120の形状に関する上記態様は一例であり、他の形状を採用しても良い。また、ボトム容器120の内側に形成される空洞部は、上方に位置するハウジング本体100と連通しており、収容空間13の一部を形成している。上記のように構成されるボトム容器120は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、ボトム容器120を形成する材料は特に限定されない。また、ボトム容器120は複層構造となっていても良い。例えば、ボトム容器120は、外部に面する外装部を強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成し、収容空間13側に面する内装部
を合成樹脂等といった絶縁部材によって形成しても良い。勿論、ボトム容器120の全体を絶縁部材によって形成しても良い。
【0033】
上記のように、本実施形態におけるハウジング10は、トップホルダ110、上側ハウジング本体130、下側ハウジング本体140、およびボトム容器120を上下方向に一体に組み付けて構成される。また、この組み付けの過程で、ハウジング本体100内を通して導体片50が配設される。例えば、下側ハウジング本体140の導体片保持部144に導体片50を嵌め込み、導体片が空洞部145を横切るように配置される。この状態で下側ハウジング本体140のボルト通し孔142と上側ハウジングのボルト通し孔132とが同軸となるように、下側ハウジング本体140の上面に上側ハウジング本体130の下面を突き当てる。更に、上側ハウジング本体130における上筒壁103の内側に、トップホルダ110のフランジ部111を嵌挿して、トップホルダ110を上側ハウジング本体130上に配置すると共に、下側ハウジング本体140における下筒壁104の内側に、ボトム容器120のフランジ部121を嵌挿して、ボトム容器120を下側ハウジング本体140下に配置する。そして、トップホルダ110、上側ハウジング本体130、下側ハウジング本体140、およびボトム容器120の各ボルト通し孔にボルトを通して各部を締結する。なお、この締結は、ボルトに限らず、リベット等、他の締結手段によって締結されても良い。
【0034】
また、トップホルダ110と上側ハウジング本体130との間、上側ハウジング本体130と下側ハウジング本体140及び導体片50との間、下側ハウジング本体140と導体片50との間、並びに下側ハウジング本体140とボトム容器120との間にシーラントを塗布した状態で各部を結合しても良い。これにより、ハウジング10内に形成される収容空間13の気密性を高めることができる。また、シーラントの代わりに、或いはシーラントと併用して各部の間にパッキンやガスケットを介在させることによって収容空間13の気密性を高めるようにしても良い。この収容空間13には、以下に詳述する点火器20、発射体40、導体片50における被切除部53、及びクーラント材60等が収容される。
【0035】
[点火器]
次に、点火器20について説明する。点火器20は、点火薬を含む点火部21と、点火部21に接続された一対の導電ピン(図示せず)を有する点火器本体22を備えた電気式点火器である。点火器本体22は、例えば、絶縁樹脂によって包囲されている。また、点火器本体22における一対の導電ピンの先端側は外部に露出しており、遮断装置1の使用時に電源と接続される。
【0036】
点火器本体22は、トップホルダ110における小径シリンダ部112の内部に収容された概略円柱状の本体部221と、本体部221の上部に位置するコネクタ部222を備えている。点火器本体22は、例えば、本体部221を小径シリンダ部112の内周面に圧入することによって小径シリンダ部112に固定されている。また、本体部221の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部が本体部221の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング223が嵌め込まれている。Oリング223は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、小径シリンダ部112における内周面と本体部221との間の気密性を高めるように機能する。
【0037】
点火器20におけるコネクタ部222は、小径シリンダ部112の上端に形成された開口部112Aを通じて外部に突出して配置されている。コネクタ部222は、例えば、導電ピンの側方を覆う円筒形状を有しており、電源側のコネクタと接続できるように構成されている。
【0038】
図1に示すように、点火器20の点火部21は、ハウジング10の収容空間13(より詳しくは、大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部)を臨むようにして配置されている。点火部21は、例えば、点火器カップ内に点火薬を収容する形態として構成されている。例えば、点火薬は、一対の導電ピンの基端同士を連結するように連架されたブリッジワイヤ(抵抗体)に接触した状態で点火部21における点火器カップ内に収容されている。点火薬としては、例えば、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジル
コニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用しても良い。
【0039】
点火器20を作動させる際、点火薬を点火するための作動電流が電源から導電ピンに供給されると、点火部21におけるブリッジワイヤが発熱する結果、点火器カップ内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21の点火器カップ内における点火薬の燃焼に伴って当該点火器カップ内の圧力が上昇し、点火器カップの開裂面21Aが開裂し、点火器カップから燃焼ガスが収容空間13へと放出される。より具体的には、点火器カップからの燃焼ガスは、収容空間13内に配置された発射体40の後述するピストン部41における窪み部411に放出される。
【0040】
[発射体]
次に、発射体40について説明する。
図12は、発射体40の正面図、
図13は、発射体40の下面図、
図14は、発射体40の斜視図である。なお、
図14では、発射体40の下面を示すため、発射体40の下面を図の上側に向けて示している。発射体40は、例えば、合成樹脂等の絶縁部材によって形成されており、ピストン部41と、当該ピストン部41に接続されたロッド部42を含んでいる。ピストン部41は概略円柱形状を有し、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と概ね対応する外径を有している。例えば、ピストン部41の直径は、大径シリンダ部113の内径に比べて僅かに小さくても良い。発射体40の形状はハウジング10の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0041】
また、ピストン部41の上面には、例えば、円柱形状を有する窪み部411が形成されており、この窪み部411に点火部21を受け入れている。窪み部411の底面は、点火器20の作動時に当該点火器20から受けるエネルギーを受圧する受圧面411Aとして形成されている。また、ピストン部41の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部がピストン部41の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング43が嵌め込まれている。Oリング43は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、大径シリンダ部113における内周面とピストン部41との間の気密性を高めるように機能する。
【0042】
発射体40のロッド部42は、例えば、ピストン部41に比べて小径の外周面を有するロッド状部材であり、ピストン部41の下端側に一体に接続されている。ロッド部42の下端面は、遮断装置1の作動時に導体片50から被切除部53を切除するための切除面420として形成されている。なお、本実施形態におけるロッド部42は概略円筒形状を有しているが、その形状は特に限定されず、遮断装置1の作動時に導体片50から切除すべき被切除部53の形状や大きさに応じて変更なし得る。ロッド部42は、例えば、円柱、角柱などの柱形状を有していても良い。なお、
図1に示す発射体40の初期位置においては、発射体40のロッド部42における切除面420を含む先端側の領域は、ハウジング本体100の空洞部(収容空間13の一部を形成する)に位置付けられている。ロッド部42の直径は、例えば、ハウジング本体100の内周面の内径よりも僅かに小さく、発射体40の発射時に当該内周面に沿ってロッド部42の外周面がガイドされるように構成されている。
【0043】
上記のように構成される発射体40は、詳しくは後述するが、点火器20の作動時に当該点火器20からのエネルギーを、受圧面411Aを含むピストン部41の上面が受圧することで、発射体40が
図1に示す初期位置から発射され、収容空間13に沿って第2端部12側(下方)に向かって高速で移動する。具体的には、
図1に示すように、発射体40のピストン部41は、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に収容されており、大径シリンダ部113の内壁面に沿って軸方向に摺動可能である。本実施形態において、発射体40のピストン部41を概略円柱形状としているが、その形状は特に限定されない。ピストン部41の外形は、大径シリンダ部113の内壁面の形状および大きさに応じて適切な形状および大きさを採用し得る。
【0044】
[導体片]
次に、導体片50について説明する。
図2に示すように、導体片50は、下側ハウジング本体140の導体片保持部144に嵌め込まれ、収容空間13を横切るように配置される。導体片50は、遮断装置1の構成要素の一部を構成すると共に、遮断装置1を所定の電気回路に取り付けたときに当該電気回路の一部を形成する導電性の金属体であり、バスバー(bus bar)と呼ばれる場合がある。導体片50は、例えば、銅(Cu)等の金属に
よって形成することができる。但し、導体片50は、銅以外の金属で形成されていても良いし、銅と他の金属との合金で形成されても良い。なお、導体片50に含まれる銅以外の金属としては、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)等が例示できる。
【0045】
図2に示す一態様において、導体片50は全体として細長い平板片として形成されており、両端側の第一接続端部51および第二接続端部52と、これらの中間部分に位置する被切除部53等を含んでいる。導体片50における第一接続端部51および第二接続端部52には、それぞれ接続孔51A,52Aが設けられている。これら接続孔51A,52Aは、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するために使用される。なお、
図1においては、導体片50における接続孔51A,52Aの図示を省略している。また、導体片50の被切除部53は、遮断装置1が適用される電気回路に過大電流等の異常が生じた場合に、発射体40のロッド部42によって強制的に且つ物理的に切断され、第一接続端部51および第二接続端部52から切除される部位である。導体片50における被切除部53の両端には、被切除部53が切断されて切除され易いように、切り込み(スリット)54が形成されている。
【0046】
導体片50は、ハウジング本体100の空洞部145を画する内壁143の内側面(内壁面)と重なる位置、即ちロッド部42の外周面と重なる位置で切断され、被切除部53が切り落とされる。導体片50の第一接続端部51において、被切除部53が切除される被切除部53との境界部分を第一切断エッジ部511とし、第二接続端部52において、被切除部53が切除される被切除部53との境界部分を第二切断エッジ部521とする。
【0047】
ここで、導体片50は種々の形態を採用することができ、その形状は特に限定されない。
図2に示す例では、第一接続端部51、第二接続端部52および被切除部53の表面が同一面を形成しているが、これには限られない。例えば、導体片50は、第一接続端部51および第二接続端部52に対して被切除部53が直交、或いは、傾斜した姿勢で接続されていても良い。また、導体片50における被切除部53の平面形状についても特に限定されない。勿論、導体片50における第一接続端部51、第二接続端部52の形状も特に限定されない。また、導体片50における切り込み54は適宜、省略することができる。
【0048】
[クーラント材]
次に、ハウジング10における収容空間13に配置されるクーラント材60について説明する。ここで、
図1に示すように、遮断装置1(点火器20)の作動前において、ハウジング本体100における一対の導体片保持孔105A,105Bに保持された状態の導
体片50の被切除部53は、ハウジング10の収容空間13を横切るように横架されている。以下、ハウジング10における収容空間13のうち、導体片50の被切除部53を挟んで発射体40が配置されている方の領域(空間)を「発射体初期配置領域R1」と呼び、発射体40とは反対側に位置する領域(空間)を「消弧領域R2」と呼ぶ。なお、上記のように、収容空間13を横切るように配置された被切除部53の側方に隙間が形成されているため、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2は被切除部53によって完全に隔離されているのではなく、双方は連通している。勿論、被切除部53の形状および大きさ次第では、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2が被切除部53によって完全に隔離されていても良い。
【0049】
収容空間13の消弧領域R2は、遮断装置1(点火器20)の作動時に発射される発射体40のロッド部42によって切除された被切除部53を受けるための領域(空間)である。この消弧領域R2には、消弧材としてのクーラント材60が配置されている。クーラント材60は、発射体40が導体片50の被切除部53を切除した際に生じたアークおよび被切除部53の熱エネルギーを奪い、冷却することによって電流遮断時におけるアーク発生の抑制、或いは、発生したアークを消弧(消滅)させるための冷却材である。
【0050】
遮断装置1における消弧領域R2は、発射体40によって導体片50における第一接続端部51および第二接続端部52から切除された被切除部53を受け入れるための空間であると同時に、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークを効果的に消弧するための空間としての意義を有する。そして、導体片50から被切除部53を切除する際に生じたアークを効果的に消弧するために、消弧領域R2に消弧材としてクーラント材60が配置されている。
【0051】
実施形態の一態様として、クーラント材60は、固形状である。また、実施形態の一態様として、クーラント材60が保形体によって形成されている。ここでいう保形体とは、例えば、外力が加わっていないときは一定の形状を保ち、外力が加わったときには変形が起こり得るとしても一体性を保持可能(バラバラにならない)な材料である。例えば、繊維体を所望の形状に成形したものが保形体として例示できる。本実施形態においては、クーラント材60を保形体である金属繊維によって形成している。ここで、クーラント材60を形成する金属繊維としては、スチールウールおよび銅ウールの少なくとも何れか一方を含む態様が挙げられる。但し、クーラント材60における上記態様は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0052】
クーラント材60は、例えば、概略円盤形状に成形されており、ボトム容器120の底部に配置されている。
【0053】
<動作>
次に、遮断装置1を作動させて電気回路を遮断する際の動作内容について説明する。上記のように、
図1は、遮断装置1の作動前の状態(以下、「作動前初期状態」ともいう)を示している。この作動前初期状態において、遮断装置1における発射体40は、ピストン部41が収容空間13における第1端部11側(上端側)に位置付けられると共にロッド部42の下端に形成された切除面420が、導体片50における被切除部53の上面に位置付けられた初期位置にセットされている。
【0054】
更に、実施形態に係る遮断装置1は、遮断する電気回路が接続された装置(車両、発電設備、蓄電設備など)の異常状態を検知する異常検知センサー(図示せず)、および、点火器20の作動を制御する制御部(図示せず)を更に備えている。異常検知センサーは、導体片50を流れる電流の他に、電圧や導体片50の温度に基づいて異常状態を検知することができても良い。また、異常検知センサーは、例えば衝撃センサー、温度センサー、
加速度センサー、振動センサーなどであって、車両等の装置における衝撃、温度、加速度、振動に基づいて事故や火災などの異常状態を検知してもよい。遮断装置1の制御部は、例えば所定の制御プログラムを実行することで所定の機能を発揮できるコンピュータである。制御部による所定の機能は、対応するハードウェアで実現することもできる。そして、遮断装置1が適用される電気回路の一部を形成する導体片50に過大な電流が流れると、その異常電流が異常検知センサーによって検出される。検出された異常電流に関する異常情報は、異常検知センサーから制御部に引き渡される。例えば、制御部は、異常検知センサーによって検出された電流値に基づいて、点火器20の導電ピンに接続された外部電源(図示せず)から通電を受け、点火器20を作動させる。ここで、異常電流とは、所定の電気回路の保護のために設定された所定の閾値を超える電流値であっても良い。なお、上述した異常検知センサーおよび制御部は、遮断装置1の構成要素に含まれていなくても良く、例えば遮断装置1とは別の装置に含まれていても良い。また、上記異常検知センサーや制御部は、遮断装置1に必須の構成ではない。
【0055】
例えば、電気回路の異常電流を検知する異常検知センサーによって電気回路の異常電流が検知されると、遮断装置1の制御部は点火器20を作動させる。すなわち、外部電源(図示せず)から点火器20の導電ピンに作動電流が供給される結果、点火部21内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21内の圧力上昇に起因して開裂面21Aが開裂し、点火部21内から点火薬の燃焼ガスが収容空間13へと放出される。
【0056】
ここで、点火器20の点火部21はピストン部41における窪み部411に受け入れられており、点火部21の開裂面21Aは、発射体40における窪み部411の受圧面411Aに対向して配置されている。そのため、点火部21からの燃焼ガスは窪み部411に放出されると共に、燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)が受圧面411Aを含むピストン部41の上面に伝えられる。その結果、発射体40は、収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って収容空間13を下方に移動する。
【0057】
図15は、実施形態に係る遮断装置1の作動状況を説明する図である。
図15の上段には遮断装置1の作動途中の状況を示し、
図15の下段には遮断装置1の作動が完了した状況を示す。上記のように、点火器20の作動によって、点火薬の燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)を受けた発射体40は勢いよく下方に押し下げられ、その結果、ロッド部42の下端側に形成された切除面420によって導体片50における第一接続端部51および第二接続端部52と被切除部53との間の各境界部を剪断によって押し切る。その結果、導体片50から被切除部53が切除される。なお、発射体40は、点火器20の作動時に収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って円滑に移動することができる限りにおいて、発射体40の形状、寸法を自由に決定することができ、例えば発射体40におけるピストン部41の外径はトップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と等しい寸法に設定されていても良い。
【0058】
そして、発射体40は、
図15の下段に示すように、ハウジング本体100の上面101にピストン部41の下端面が当接(衝突)するまで、所定のストロークだけ収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って下方に移動する。そして、この状態において、発射体40におけるロッド部42によって導体片50から切除された被切除部53は、クーラント材60が配置されている消弧領域R2内に受け入れられる。その結果、導体片50の両端に位置する第一接続端部51および第二接続端部52は電気的に不通状態となり、遮断装置1が適用される所定の電気回路が強制的に遮断される。
【0059】
<作動後の絶縁抵抗>
上述のように、遮断装置1が作動すると、発射体40によって、第一接続端部51が第
一切断エッジ部511(
図2)で切断され、第二接続端部52が第二切断エッジ部521で切断される。また、第一接続端部51及び第二接続端部52は、ハウジング本体100、及び発射体40のロッド部42と接触するが、ハウジング本体100及びロッド部42は絶縁体であるため、遮断装置1の作動後、第一接続端部51と第二接続端部52との間は、本来絶縁状態となる。
【0060】
しかしながら、導体片50の被切除部53を切断した瞬間に、離れつつある被切除部53と第一接続端部51及び第二接続端部52との間でアーク放電が生じ、導体片50が蒸散してハウジング本体100の内壁やロッド部42の外周面に付着する。このようにハウジング本体100の内壁やロッド部42の外周面に導体片50が付着し、汚損度が高まると、ハウジング本体100やロッド部42自体が絶縁体であってもハウジング本体100の内壁やロッド部42の外周面に沿って電流が流れ、第一接続端部51と第二接続端部52との間の絶縁抵抗値が低下してしまうことがある。
【0061】
このため、本実施形態の遮断装置1は、切断後に被切除部53を受け入れる消弧領域R2内にクーラント材60を備え、アークを速やかに消弧し、導体片50の蒸散量を抑えることにより、絶縁抵抗値の低下を抑制している。
【0062】
また、発射体40がハウジング本体100の収容空間13内を移動できるように、ハウジング本体100の内壁とロッド部42の外周面との間には僅かな隙間が設けられており、蒸散した導体片50が、この隙間に進入して付着することが、絶縁抵抗値低下の一因となっている。このため、本実施形態の遮断装置1は、ハウジング本体100の内壁に溝131,141を備え、第一接続端部51と第二接続端部52との間の沿面距離を大きくとることで、絶縁抵抗値の低下を抑制している。
【0063】
図16は、比較例として溝141を有していない下側ハウジング本体140Q、及び切断後の導体片50を示す図である。なお、比較例の下側ハウジング本体140Qは、溝141を省略した以外の構成は
図4の下側ハウジング本体140と同じである。
【0064】
図16に示すように、切断後の第一接続端部51において、第二接続端部52側の端部が、第一切断エッジ部511となっており、切断後の第二接続端部52において、第一接続端部51側の端部が、第二切断エッジ部521となっている。更に、第一切断エッジ部511のうち、内壁143に沿って最も第二接続端部52に近い位置を第一端点P1、第二切断エッジ部521のうち、内壁143に沿って最も第一接続端部51に近い位置を第二端点P2とする。内壁143の汚損度が高まった場合、第一端点P1と第二端点P2との間で内壁143に沿って電流が流れることになる。即ち、第一端点P1と第二端点P2との間に存在する内壁143の長さが沿面距離となる。
【0065】
図17は、
図16の下側ハウジング本体140Qにおける沿面距離を示す図である。
図17において、内壁143のうち、太線L2で示した第一端点P1と第二端点P2との間の弧状部分が電流の経路であり、この長さが沿面距離である。
【0066】
一方、
図18は、
図4の下側ハウジング本体140における沿面距離を示す図である。
図18に示すように、下側ハウジング本体140は、第一切断エッジ部511の第一端点P1と第二切断エッジ部521の第二端点P2とを結ぶ直線L3と直交する方向であって、且つ収容空間の延在方向(Y方向)と直交する方向(Z方向)から内壁143を見た場合に、第一切断エッジ部511と第二切断エッジ部521との間に位置する内壁143に、溝141が複数設けられている。本実施形態では、内壁143のうちZ方向における対向位置に5本ずつ計10本の溝141が設けられている。このため、本実施形態の下側ハウジング本体140では、第一端点P1と第二端点P2との間の電流の経路が太線L4で
示されるように、各溝141内を通るように迂回することになるので、その沿面距離が、
図17の比較例と比べて長くなる。このため、比較例と比べて、本実施形態の遮断装置1は、導体片50の蒸散量が同じであった場合、電流の経路に付着する導体片50の密度(汚損度)が低くなり、絶縁抵抗値の低下を抑制できる。なお、図示は省略するが、上側ハウジング本体130においても、下側ハウジング本体140の場合と同様に、溝131を設けることで、絶縁抵抗値の低下を抑制できる。
【0067】
また、各溝131,141は、ハウジング本体100の内壁に形成される開口の幅LAが狭く、奥行き方向に細長い形状となっているため、蒸散した導体片50の粒子が溝131,141の奥まで進入しにくく、奥側の汚損度が低くなる。電流の経路の一部だけであっても、電流を途切れさせる箇所があれば、高い絶縁抵抗値が確保できるので、各溝131,141の奥側部分は、特に絶縁抵抗の確保に寄与する。
【0068】
なお、アークの影響は、被切除部53が受け入れられる下側で大きくなると考えられるので、少なくとも下側ハウジング本体140に溝141を設けるのが望ましく、上側ハウジング本体130の溝131は省略することもできる。
【0069】
<電気回路遮断試験>
次に、遮断装置1に対して行った電気回路遮断試験について説明する。
図19は、電気回路遮断試験に用いた試験装置の概略を示す図である。符号1000は電源、符号2000は絶縁抵抗計、符号3000は作動用電源である。また、符号4000は、遮断装置1における導体片50と協働して電気回路ECを形成するための配線である。また、符号5000は、遮断装置1の点火器20における導電ピンに作動用電源3000から供給される作動用電流を流すための配線である。また、比較例として、溝131,141の無い遮断装置について試験を行った。比較例の遮断装置は、例えば
図16に示す下側ハウジング本体140Qのように、内部空間145Aを画する内壁に溝141を有さず、内部空間145Aの断面を円形としている。また、図示を省略するが、比較例の上側ハウジング本体についても同様に溝131を有さない構成としている。
【表1】
表1は、電気回路遮断試験の条件および結果一覧を示す。表中の試験サンプルNo.1~No.5は、ハウジング本体の溝131,141を有していない遮断装置について試験を行った。一方、試験サンプルNo.6~No.10は、
図1~
図14に示すようにハウジング本体100に溝131,141を設けた遮断装置1について試験を行った。
【0070】
次に、電気回路遮断試験の手順について説明する。
(手順1)
図19に示すように、遮断装置1における導体片50の第一接続端部51および第二接続端部52をそれぞれ配線4000によって電源1000に接続し、遮断装置1における点火器20を配線5000によって作動用電源3000に接続する。
(手順2)電源1000からの電流を電気回路ECに流す。
(手順3)作動用電源3000をオンにし、遮断装置1における点火器20に作動用電流を通電することによって点火器20を作動させる。
(手順4)電源1000、作動用電源3000をオフにする。
【0071】
本遮断試験では、各試験サンプルに対して上記手順に従って試験を行い、発射体40によって導体片50から被切除部53を切除したときの第一接続端部51および第二接続端部52間における絶縁抵抗値を、市販の絶縁抵抗計2000(横河電機株式会社製のMY40)によって測定した。なお、各試験での共通条件として、電源1000によって電気回路ECを流れる電流値は6[kA]とし、各遮断試験において被切除部53の切除後に導体片50の第一接続端部51および第二接続端部52間に生じる電位差を600[V]とした。また、各サンプルについて、発射体40による導体片50の切断は、何れも正常に行われた。
【0072】
表1に示したように、溝を有しない試験サンプルNo.1~No.5は、絶縁抵抗の最小値が2.7MΩ、最大値が4.8MΩ、平均が3.92MΩであった。一方、溝131,141,421を有する試験サンプルNo.6~No.10では、絶縁抵抗の最小値が6.2MΩ、最大値が22.6MΩ、平均値が12.1MΩであった。このように、131,141,421を有する試験サンプルNo.6~No.10では、第一接続端部51および被切除部53間における絶縁抵抗値が十分に高くなる結果が得られた。また、溝131,141,421を有する試験サンプルNo.6~No.10では、溝を有しない試験サンプルNo.1~No.5と比べて、第一接続端部51および被切除部53間における絶縁抵抗値が高くなる結果が得られた。
【0073】
<実施形態の効果>
実施形態における遮断装置1は、消弧領域R2にクーラント材60が配置されている。そのため、消弧領域R2に受け入れた切除後の被切除部53をクーラント材60によって急速に冷やすことができる。これにより、発射体40によって所定の電気回路の一部を構成する導体片50から被切除部53を切除した際、導体片50の被切除部53における切断面にたとえアークが発生したとしても、発生したアークを迅速且つ効果的に消弧することができる。
【0074】
アークが発生した場合、導体片50が蒸散して壁面等に付着し、被切除部53を切除した後でも第一接続端部51と第二接続端部52との間の絶縁抵抗値が低下することが考えられるが、本実施形態では、ハウジング本体100の内壁に、溝131,141を設けることにより、ハウジング本体100の内壁の汚損度を抑えて、縁抵抗値の低下を抑制し、高い絶縁性を確保することができる。
【0075】
<変形例>
図20は、変形例に係る下側ハウジング本体140Aを示す図である。
図4の下側ハウジング本体140では、各溝141が、延在方向と直交する面(X-Z面)において、内壁143から外壁に向かう深さ方向の形状が、互いに平行な直線状に形成されている。一方、本変形例の下側ハウジング本体140Aは、X-Z面において、内壁143から外壁に向かう深さ方向の形状が、空洞部145(収容空間13)の中心から外側へ広がる放射状に形成されている。なお、図示は省略するが、上側ハウジング本体130の各溝131
も下側ハウジング本体140Aの各溝141と同様、放射状に形成される。なお、本変形例では上側ハウジング本体130の各溝131、及び下側ハウジング本体140Aの各溝141が、平面視において同じ位置に同じ形状で設けられ、各溝131と各溝141とが上下につながった構成となっている。なお、これに限らず、上側ハウジング本体130の各溝131と、下側ハウジング本体140Aの各溝141とは、異なる形状で設けられてもよい。その他の構成は、前述の実施形態と同じである。
【0076】
このようにハウジング本体100の溝131,141を放射状に形成した場合も第一接続端部51と第二接続端部52との間の沿面距離を長くとれるので、前述の実施形態と同様に絶縁抵抗値の低下を抑制し、高い絶縁性を確保できる。
【0077】
図21は、ハウジング本体100における溝131,141の形状の例を示す図である。
図21において、符号300は、上側ハウジング本体130若しくは下側ハウジング本体140の内壁を示している。
【0078】
図21(A)の溝131,141は、X-Z面における奥側端面の形状が方形に形成されている。また、
図21(B)の溝131,141は、X-Z面における奥側端面の形状がV字状に形成されている。また、
図21(C)の溝131,141は、表面300側から奥行き方向に向かって幅が狭くなるように形成され、溝全体としてV字状となっている。
【0079】
このように溝131,141を
図21に示す形状とした場合も第一接続端部51と第二接続端部52との間の沿面距離を長くとれるので、前述の実施形態と同様に絶縁抵抗値の低下を抑制し、高い絶縁性を確保できる。
【0080】
以上、本開示に係る電気回路遮断装置の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 :遮断装置
10 :ハウジング
13 :収容空間
20 :点火器
40 :発射体
42 :ロッド部
50 :導体片
53 :被切除部
60 :クーラント材
100 :ハウジング本体
130 :上側ハウジング本体
131 :溝
140 :下側ハウジング本体
141 :溝