IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層電子部品 図1
  • 特開-積層電子部品 図2
  • 特開-積層電子部品 図3
  • 特開-積層電子部品 図4
  • 特開-積層電子部品 図5
  • 特開-積層電子部品 図6
  • 特開-積層電子部品 図7
  • 特開-積層電子部品 図8
  • 特開-積層電子部品 図9
  • 特開-積層電子部品 図10
  • 特開-積層電子部品 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156320
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】積層電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221006BHJP
   H01C 1/14 20060101ALI20221006BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 201G
H01G4/30 201Z
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01C1/14
H01F27/29 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059936
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 則之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 修
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義憲
(72)【発明者】
【氏名】須田 昭
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃
【テーマコード(参考)】
5E001
5E028
5E070
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AF00
5E028AA10
5E028CA02
5E070CB18
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC33
5E082FF05
5E082FG26
5E082FG27
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG12
5E082HH21
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】素体におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制可能な積層電子部品を提供する。
【解決手段】
本実施形態に係る積層電子部品1では、第1の電極層11のガラス含有量は、第2の電極層12のガラス含有量よりも大きい。従って、第1の電極層11は、オーバーコート層5に対して高い密着強度にて接合されている。そのため、図9(b)に示すように、底面電極3に応力F1が作用することで、底面電極3の端部付近の部分P2で応力が集中した場合、応力は、第1の電極層11とオーバーコート層5との密着強度の高い境界部BLを介して、オーバーコート層5の被覆部23(図中、Aで囲む領域)に分散される。これにより、素体2におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制することができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を積層することによって形成され、実装面とされる底面を有する素体と、
前記素体の前記底面に形成され、ガラス及び焼結金属を含む底面電極と、を備え、
前記底面電極は、第1の電極層と、前記第1の電極層よりも前記素体側に形成される第2の電極層と、を備え、
前記第2の電極層の縁部は、前記素体の一部であるオーバーコート層で覆われており、
前記第1の電極層は、前記オーバーコート層を挟んだ状態で、前記第2の電極層に積層され、
前記第1の電極層のガラス含有量は、前記第2の電極層のガラス含有量よりも大きい、積層電子部品。
【請求項2】
前記第1の電極層のガラス軟化点は、前記第2の電極層のガラス軟化点より低い、請求項1に記載の積層電子部品。
【請求項3】
前記第1の電極層と前記第2の電極層とで前記オーバーコート層を挟む領域の断面視において、前記底面電極が広がる方向を第1の方向とし、前記底面電極の厚みに沿った方向を第2の方向とし、
前記第1の電極層の前記第1の方向における端部と、前記第2の電極層の前記第1の方向における端部との間の、前記第2の方向における距離を第1の寸法とし、
前記第2の電極層が前記オーバーコート層で覆われる前記第1の方向における長さを第2の寸法とした場合、
前記第1の寸法は前記第2の寸法より小さく、且つ、前記第1の寸法は10μm以上である、請求項1又は2に記載の積層電子部品。
【請求項4】
前記第2の電極層は、前記第1の電極層より厚い、請求項1~3の何れか一項に記載の積層電子部品。
【請求項5】
前記第1の電極層のガラス含有量は、3.8~10.0wt%である、請求項1~4の何れか一項に記載の積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁層を積層することによって形成され、実装面とされる底面を有する素体と、素体の底面に形成され、ガラス及び焼結金属を含む底面電極と、を備える積層電子部品が記載されている。底面電極は、第1の電極層と、第1の電極層よりも素体側に形成される第2の電極層と、を備える。この構成では、第2の電極層の縁部は、素体の一部であるオーバーコート層で覆われており、第1の電極層は、オーバーコート層を挟んだ状態で、第2の電極層に積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-61409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の積層電子部品では、底面電極を第1の電極層及び第2の電極層による二層構造とすることで、応力集中点から応力を分散させて素体のクラックを抑制することが求められる。しかし、応力分散させようとしても、第1の電極層の素体への密着力が弱い場合、構造的に弱い箇所に応力がかかってしまうことで、めっき剥がれなど、電極側にダメージが発生するという問題が生じる。
【0005】
本発明の一側面は、素体におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制可能な積層電子部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る積層電子部品は、絶縁層を積層することによって形成され、実装面とされる底面を有する素体と、素体の底面に形成され、ガラス及び焼結金属を含む底面電極と、を備え、底面電極は、第1の電極層と、第1の電極層よりも素体側に形成される第2の電極層と、を備え、第2の電極層の縁部は、素体の一部であるオーバーコート層で覆われており、第1の電極層は、オーバーコート層を挟んだ状態で、第2の電極層に積層され、第1の電極層のガラス含有量は、第2の電極層のガラス含有量よりも大きい。
【0007】
積層電子部品において、底面電極は、第1の電極層と、第1の電極層よりも素体側に形成される第2の電極層と、を備える。このような第2の電極層の縁部は、素体の一部であるオーバーコート層で覆われている。これに対し、第1の電極層は、オーバーコート層を挟んだ状態で、第2の電極層に積層される。ここで、第1の電極層のガラス含有量は、第2の電極層のガラス含有量よりも大きい。従って、第1の電極層は、オーバーコート層に対して高い密着強度にて接合されている。そのため、底面電極に応力が作用することで、底面電極の端部付近で応力が集中した場合、応力は、第1の電極層とオーバーコート層との密着強度の高い境界部を介して、オーバーコート層に分散される。これにより、素体におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制することができる。
【0008】
第1の電極層のガラス軟化点は、第2の電極層のガラス軟化点より低くてよい。この場合、第1の電極層を素体に焼き付けるときに、焼き付け温度を低く抑えることができるため、第1の電極層が素体と反応することを抑制できる。
【0009】
第1の電極層と第2の電極層とでオーバーコート層を挟む領域の断面視において、底面電極が広がる方向を第1の方向とし、底面電極の厚みに沿った方向を第2の方向とし、第1の電極層の第1の方向における端部と、第2の電極層の第1の方向における端部との間の、第2の方向における距離を第1の寸法とし、第2の電極層がオーバーコート層で覆われる第1の方向における長さを第2の寸法とした場合、第1の寸法は第2の寸法より小さく、且つ、第1の寸法は10μm以上であってよい。この場合、前述のような応力の分散領域を十分に確保することができる。
【0010】
第2の電極層は、第1の電極層より厚くてよい。このように、ガラス含有率が低く抵抗が低い第2の電極層にて底面電極の厚みを確保することで、ガラス含有率が大きく抵抗が高い第1の電極層を薄く抑えることができる。
【0011】
第1の電極層のガラス含有量は、3.8~10.0wt%であってよい。当該範囲とすることで、第1の電極層のオーバーコート層に対する密着強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、素体におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制可能な積層電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る積層電子部品の斜視図である。
図2図1に示すII-II線に沿った断面図のうち、底面電極付近を拡大した拡大断面図である。
図3】素体の内部の内部電極及びスルーホール導体の構造の一例を示している。
図4】底面電極の端部の拡大断面図である。
図5】第2の電極層の製造工程を説明する概念図である。
図6】積層電子部品の製造方法を示す工程図である。
図7】積層電子部品の製造方法の各段階における様子を示す模式図である。
図8】積層電子部品の製造方法の各段階における様子を示す模式図である。
図9】(a)は比較例に係る積層電子部品における応力の様子を示し、(b)は本実施形態に係る積層電子部品における応力の様子を示す拡大断面図である。
図10】第1の電極層及び第2の電極層の寸法関係の効果を説明するための拡大断面図である。
図11】(a)は試験に用いた積層電子部品を示す底面図であり、(b)は試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る積層電子部品1の斜視図である。図2は、図1に示すII-II線に沿った断面図のうち、底面電極3付近を拡大した拡大断面図である。図1に示すように、積層電子部品1は、素体2と、複数の底面電極3と、を備える。
【0016】
素体2は、後述するように、複数の絶縁層が積層されてなる。素体2は、直方体形状を呈している。直方体形状には、角部及び稜線部が面取りされている直方体の形状、及び、角部及び稜線部が丸められている直方体の形状が含まれる。素体2は、その外表面として、上面2Aと、実装面とされる底面2Bと、4つの側面2C,2D,2E,2Fとを有している。上面2A及び底面2Bは互いに対向している。側面2C,2Dは、互いに対向している。側面2E,2Fは、互いに対向している。側面2C~2Fは、上面2A及び底面2Bの積層方向(絶縁層が積層される方向)に延び、上面2A及び底面2Bと隣り合っている。素体2において、上面2A及び底面2Bは、積層方向の両端に位置する。素体2の材料(絶縁層の材料)は特に限定されないが、例えば、Al、SiO、2MgO・SiO、xBaO・yNdO・zTiO、(Ca,Sr)TiOなどが採用されてよい。なお、本明細書において「上」「底」という語は、説明の便宜上用いているものであり、積層電子部品1の使用時における姿勢を限定するものではない。例えば、積層電子部品1は、上面2Aが横側を向くように実装されてもよいし、下側を向くように実装されてもよい。
【0017】
底面電極3は、素体2の底面2Bに設けられる電極である。底面電極3は、積層方向から見て、矩形状を呈している。図1に示す例では、六つの底面電極3が形成されている。これらの底面電極3は、互いに同形状を呈している。なお、積層電子部品1の用途に応じて、底面電極3の数は適宜変更されてよい。また、複数の底面電極の形状は互いに同形状でなくともよい。例えば、図7に示すように、二種類の大きさを有する四つの底面電極3が形成されてもよいし、図11に示すように、多数の底面電極3が形成されてよい。
【0018】
図2に示すように素体2は、複数の絶縁層4を積層することによって構成される。また、素体2の内部には、複数の内部電極6、及びスルーホール導体7が形成される。素体2は、表面に内部電極6の導体パターンが形成された絶縁層4のシートを積層し、焼成することによって形成される。スルーホール導体7は、一枚当たりの絶縁層4を貫通し、別の絶縁層4に形成された内部電極6同士を接続する導体である。また、スルーホール導体7は、内部電極6と底面電極3とを接続する。なお、絶縁層4同士の境界部は、目視できない程度に一体化されている。なお、素体2は、絶縁層の一つとして、底面2Bの位置にオーバーコート層5を備えている。オーバーコート層5については、底面電極3の構成と共に後述する。
【0019】
図3は、素体2の内部の内部電極6及びスルーホール導体7の構造の一例を示している。図3に示すように、素体2の内部には、複数の内部電極6、及び複数のスルーホール導体が三次元的に組み合わされることによって、所定の機能を発揮する電気回路8が形成される。図3では、一例として、方向性結合器の電気回路8が示されている。複数の底面電極3は、それぞれ当該電気回路8と電気的に接続される。これにより、底面電極3が外部の実装基板と接続されることにより、電気回路8と外部の実装基板とが底面電極3を介して接続される。
【0020】
次に、底面電極3の構成について詳細に説明する。図4に示すように、底面電極3は、第1の電極層11と、第2の電極層12と、を備える。第1の電極層11は、底面2Bから外部に露出するように形成される層である。第1の電極層11は、素体2の焼成後に、素体2(及び第2の電極層12)に対して導電材料を焼き付けることによって形成される。第1の電極層11は、外部の実装基板とはんだ16を介して電気的に接続される層である。従って、第1の電極層11の外表面には、はんだの濡れ性を向上させるためのめっき層14が形成されている。第2の電極層12は、第1の電極層11よりも素体2側に形成される層である。第2の電極層12は、素体2の内部に潜り込むような態様で形成されており、素体2と同時に焼成されることによって形成される。
【0021】
なお、以降の説明においては、図4に示す断面視において、底面電極3が広がる方向を第1の方向D1とし、底面電極3の厚みに沿った方向を第2の方向D2として説明を行う場合がある。
【0022】
第2の電極層12は、第1の方向D1に沿って広がる本体部21と、第1の方向D1において外周側に形成される縁部22と、を有する。第2の電極層12の縁部22は、素体2の一部であるオーバーコート層5で覆われている。第2の方向D2における縁部22の上側の面22aは、素体2の絶縁層4と接触する。第2の方向D2における縁部22の底側の面22bは、素体2のオーバーコート層5と接触する。このように、縁部22は、絶縁層4とオーバーコート層5とで挟み込まれるような態様で、素体2の内部に潜り込んでいる。縁部22は、本体部21から第1の方向D1における外周側へ向かうに従って、第2の方向D2における上側へ傾くと共に、先細りとなるように形成される。そのため、縁部22の底側の面22bは、本体部21から第1の方向D1において遠ざかるに従って、底面2Bから上側へ離れる。
【0023】
上述の様な構成により、本体部21から第1の方向D1における外周側へ向かうに従って、縁部22の面22bと接触するオーバーコート層5の厚みが大きくなる。このように、オーバーコート層5は、縁部22の底側に潜り混んで面22aを支持する領域を有する。当該領域は、縁部22を覆う被覆部23を構成する。被覆部23は、第2の方向D2において本体部21側へ向かうに従って先細りとなる。第2の電極層12の本体部21は、被覆部23から露出するような構成となる。なお、上側の面22aと、底側の面22bとは、第2の電極層12の第1の方向D1における端部12aの位置にて、互いに交差する。
【0024】
このような第2の電極層12とオーバーコート層5の形状は、例えば、図5に示すような製造方法によって形成される。まず、図5(a)に示すように、焼成前の最外の絶縁層4の外表面4aに第2の電極層12のペーストを印刷する。次に、第2の電極層12の縁部22を覆うと共に、本体部21を露出させるように、絶縁層4の外表面4aにオーバーコート層5のペーストを印刷する。そして、第2の電極層12及びオーバーコート層5をプレスすることによって、図5(b)に示すように、縁部22がオーバーコート層5に潰されて先細りな状態となる。
【0025】
図4に示すように、第1の電極層11は、オーバーコート層5を挟んだ状態で、第2の電極層12に積層される。上述のように、オーバーコート層5は、被覆部23において第2の電極層12の縁部22を覆う。第1の電極層11は、底側から、第2の電極層12の本体部21、及びオーバーコート層5の外表面(すなわち底面2B)を覆うように形成される。そのため、第2の電極層12の縁部22の底側の面22bと、第1の電極層11との間には、オーバーコート層5の被覆部23が挟まれるように配置される。
【0026】
次に、底面電極3の寸法関係について説明する。第1の電極層11の第1の方向D1における端部11aと、第2の電極層12の第1の方向D1における端部12aとの間の、第2の方向D2における距離を第1の寸法Laとする。また、第2の電極層12がオーバーコート層5で覆われる第1の方向D1における長さを第2の寸法Lbとする。なお、図4においては、第1の電極層11が第1の方向と略平行に広がっているので、端部11aと他の部分との第2の方向D2における位置は同じである。しかし、端部11aが第1の電極層11の他の部分との第2の方向における位置が異なってもよい。第1の電極層11の第2の方向D2における寸法を厚みt1とする。第2の電極層12の本体部21の第2の方向D2における寸法を厚みt2とする。
【0027】
この場合、第1の寸法Laは第2の寸法Lbより小さい。また、第1の寸法Laは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることが更に好ましい。また、第1の寸法Laは60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることが更に好ましい。第2の寸法Lbは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることが更に好ましい。また、第2の寸法Lbは90μm以下であることが好ましく、60μm以下であることが更に好ましい。第2の電極層12の厚みt2は、第1の電極層11の厚みt1より厚い。また、第1の電極層11の厚みt1は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることが更に好ましい。また、第1の電極層11の厚みt1は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。また、第2の電極層12の厚みt2は、5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。また、第2の電極層12の厚みt2は40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。
【0028】
次に、底面電極3の材料について説明する。底面電極3は、ガラス及び焼結金属を含む導電性の材料によって構成される。焼結金属として、Ag、Cu、Au、Pt、Pd、またはこれらの合金などが挙げられる。第1の電極層11に含まれる焼結金属と、第2の電極層12に含まれる焼結金属とは、互いに異なっていてもよいし、同一であってもよい。また、底面電極3は、他無機成分として微量金属酸化物を含んでよい。
【0029】
第1の電極層11のガラス含有量は、第2の電極層12のガラス含有量よりも大きい。具体的に、第1の電極層11のガラス含有量は、3.8wt%以上であることが好ましく、5.0wt%以上であることが更に好ましい。第1の電極層11のガラス含有量は、8.0wt%以下であることが好ましく、10.0wt%以下であることが更に好ましい。第2の電極層12のガラス含有量は、0.5wt%以上であることが好ましく、1.0wt%以上であることが更に好ましい。第2の電極層12のガラス含有量は、2.8wt%以下であることが好ましく、2.5wt%以下であることが更に好ましい。
【0030】
第1の電極層11のガラス軟化点は、第2の電極層12のガラス軟化点より低い。具体的に、第1の電極層11のガラス軟化点は、540~670℃である。ガラスの含有量を大きくし、軟化点を低くすることで焼き付け電極として電極の高緻密性(製品の電気特性、メッキ液の侵入の抑止など)を維持し、且つ、メッキ付け性を両立させることができる。また、第2の電極層12のガラス軟化点は、810~860℃である。このように、第2の電極層12の軟化点を高くし、ガラスの添加量を少なくすることで素体2との焼結マッチングをとることができる。焼結マッチングとは、素体2のそりの抑制効果と電極の高緻密性を両立させることである。
【0031】
次に、図6図8を参照して、積層電子部品1の製造方法について説明する。図6は、積層電子部品1の製造方法を示す工程図である。図7及び図8は、積層電子部品1の製造方法の各段階における様子を示す模式図である。なお、図7及び図8では、底面電極3が四つの場合の例を示している。図7(a)(b)(c)の上段側の図は平面図を示し、下段側の図は側面図を示す。
【0032】
図6に示すように、まず、絶縁層4のシートを形成する工程が実行される(ステップS10)。この工程では、PETフィルムなどの基材シート31上に、絶縁層4を構成するペーストが塗布されることでシートが形成される(図7(a)参照)。次に、絶縁層4のシートにスクリーン印刷を行うことで、底面電極3の第2の電極層12を形成する工程が実行される(ステップS20)。この工程では、絶縁層4の外表面にスクリーン印刷によって第2の電極層12に対応する形状にペーストが印刷される(図7(b)参照)。なお、当該タイミングにて、他の絶縁層4のシートに、内部電極6の印刷がなされる。次に、絶縁層4の外表面にスクリーン印刷を行うことで、オーバーコート層5を形成する工程が実行される(ステップS30)。この工程では、絶縁層4の外表面にスクリーン印刷によってオーバーコート層5に対応する形状にペーストが印刷される(図7(c)参照)。このとき、オーバーコート層5は、第2の電極層12の縁部を覆うように印刷されて、印刷後にプレスされる(図5参照)。
【0033】
次に、印刷後の絶縁層4のシートを積層することで、焼結前の素体2である、シート積層基板40を作成する工程が実行される(ステップS40)。シート積層基板40は、オーバーコート層5が最外層となるように、各絶縁層4が積層される(図8(a)参照)。次に、シート積層基板40を所定の大きさにダイサー切断すると共に、グリーンバレルで面取り処理を行う工程が実行される(ステップS50)。次に、シート積層基板40を焼結して素体2を作成すると共に、焼成後のバレル処理を行う工程が実行される(ステップS60)。これらの工程によって、角Rが形成された素体2が形成される(図8(b)参照)。次に、スクリーン印刷のために、素体2を整列する工程が実行される(ステップS70)。そして、素体2に対してスクリーン印刷を行うことによって、第1の電極層11を形成する工程が実行される(ステップS80)。この工程では、第2の電極層12を覆うように、スクリーン印刷によって第1の電極層11を形成する工程が実行される(図8(c)参照)。第1の電極層11は、焼き付けのための熱処理によって形成される。次に、第1の電極層11の外表面にめっき処理を施すことによって、めっき層14を形成する工程を実行する(ステップS90)。
【0034】
次に、本実施形態に係る積層電子部品1の作用・効果について説明する。
【0035】
まず、図9(a)に示す比較例に係る積層電子部品について説明する。比較例では、第1の電極層11が形成されていない。この場合、積層電子部品を実装した場合、熱の影響によって底面電極3に応力F1が作用する。そして、素体2の底面2Bと第2の電極層12との部分P1に応力が集中する。その結果、応力が集中する部分P1から素体2の内部へ応力F2が向かって行く。このような応力F2が高サイクルで作用すると、素体2にクラックが発生する。
【0036】
積層電子部品1において、底面電極3は、第1の電極層11と、第1の電極層11よりも素体2側に形成される第2の電極層12と、を備える。このような第2の電極層12の縁部22は、素体2の一部であるオーバーコート層5で覆われている。これに対し、第1の電極層11は、オーバーコート層5を挟んだ状態で、第2の電極層12に積層される。このような構造では、図9(b)に示すように、底面電極3に応力F1が作用することで、底面電極3の端部付近の部分P2で応力が集中する。例えば、第1の電極層11がオーバーコート層5に対して十分な密着強度で密着されていない場合、応力をオーバーコート層5に良好に分散させることができず、素体2にクラックが発生する可能性がある。あるいいは、めっき層14のはがれなど、底面電極3自体にダメージが発生する可能性がある。これに対し、本実施形態に係る積層電子部品1では、第1の電極層11のガラス含有量は、第2の電極層12のガラス含有量よりも大きい。従って、第1の電極層11は、オーバーコート層5に対して高い密着強度にて接合されている。そのため、図9(b)に示すように、底面電極3に応力F1が作用することで、底面電極3の端部付近の部分P2で応力が集中した場合、応力は、第1の電極層11とオーバーコート層5との密着強度の高い境界部BLを介して、オーバーコート層5の被覆部23(図中、Aで囲む領域)に分散される。これにより、素体2におけるクラックの発生、及び電極側のダメージを抑制することができる。
【0037】
第1の電極層11のガラス軟化点は、第2の電極層12のガラス軟化点より低くてよい。この場合、第1の電極層11を素体2に焼き付けるときに、焼き付け温度を低く抑えることができるため、第1の電極層11が素体2と反応することを抑制できる。
【0038】
第1の電極層11と第2の電極層12とでオーバーコート層5を挟む領域の断面視において、底面電極3が広がる方向を第1の方向D1とし、底面電極3の厚みに沿った方向を第2の方向D2とし、第1の電極層11の第1の方向D1における端部11aと、第2の電極層12の第1の方向D1における端部12aとの間の、第2の方向D2における距離を第1の寸法Laとし、第2の電極層12がオーバーコート層5で覆われる第1の方向D1における長さを第2の寸法Lbとした場合、第1の寸法Laは第2の寸法Lbより小さく、且つ、第1の寸法Laは10μm以上であってよい。この場合、前述のような応力の分散領域を十分に確保することができる。例えば、図10(a)に示すように、第1の寸法Laが短すぎる場合、被覆部23への応力の分散が不足する可能性がある。また、図10(b)に示すように、第2の寸法Lbが短すぎる場合、被覆部23への応力の分散が不足する可能性がある。これに対し、図4に示すように、第1の寸法La、及び第2の寸法Lbを適切な寸法とすることで、被覆部23への応力の分散効果を十分に得ることができる。
【0039】
第2の電極層12は、第1の電極層11より厚くてよい。このように、ガラス含有率が低く抵抗が低い第2の電極層12にて底面電極3の厚みを確保することで、ガラス含有率が大きく抵抗が高い第1の電極層11を薄く抑えることができる。
【0040】
第1の電極層11のガラス含有量は、3.8~10.0wt%であってよい。当該範囲とすることで、第1の電極層11のオーバーコート層5に対する密着強度を高めることができる。
【0041】
次に、図11を参照して、実施例及び比較例に係る積層電子部品に対する熱衝撃試験について説明する。図11(a)に示すような底面電極3のパターンを有する積層電子部品を準備した。比較例に係る積層電子部品として、図9(a)のように、第1の電極層11を省略したものを準備した。比較例及び実施例に係る積層電子部品をはんだを介して基板に接続し、-40℃~125℃で昇温と降温を繰り返す。このとき、各温度で30分保持する。このような条件にて、熱衝撃試験を実施した。図11(a)の切断ラインCLで切断して、7個の底面電極について、素地クラック(素体2のクラック)、端子破壊(めっき層の底面電極からのはがれなど)、はんだクラックの発生について観察した。7個中の何個の底面電極に不具合が生じたかをカウントした。試験結果を図11(b)に示す。
【0042】
図11(b)に示すように、比較例では、少ないサイクル数での素地クラック、及び端子破壊が確認された。なお、素地クラックとして、応力が集中する部分P1から上方へ延びて第2の電極層12及び絶縁層4(図9参照)が破壊されるようなクラック、及び部分P1から上方へ延びて第2の電極層12が破壊され、第2の電極層12と絶縁層4との境界部に沿って延びるようなクラックが観察された。端子破壊として、電極-めっき間のはがれが確認された。また、500サイクルにて7個中6個のはんだクラックの発生が確認された。はんだクラックとして、はんだの内部が破壊されるようなクラックが確認された。これに対し、実施例では、高いサイクル数であっても、素地クラック及び端子破壊が防止できていることが確認された。また、低いサイクル数では、はんだクラックの発生が抑制出来ていることが確認された。
【符号の説明】
【0043】
1…積層電子部品、2…素体、3…底面電極、5…オーバーコート層、11…第1の電極層、12…第2の電極層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11