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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156353
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】ゴム補強用アラミド短繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20221006BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20221006BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20221006BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M15/55
D06M13/11
D06M101:36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059989
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】高谷 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA08
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC11
4L033BA08
4L033CA34
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)の未含浸部分を少なくし、かつRFLが過剰に付着しないゴム補強用アラミド短繊維を提供する。
【解決手段】繊維表面に、油剤とレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスが付着したアラミド短繊維であって、前記短繊維のL色空間における明度Lの平均値が45~60、かつ、明度Lの標準偏差を明度Lの平均値で除した値(CV値)の百分率が8%以下であることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に、油剤とレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスが付着したアラミド短繊維であって、
前記短繊維のL色空間における明度Lの平均値が45~60、かつ、
明度Lの標準偏差を明度Lの平均値で除した値(CV値)の百分率が8%以下であることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維。
【請求項2】
前記油剤が、硬化性エポキシ化合物を含む油剤であり、
前記短繊維に付着した、硬化性エポキシ化合物の硬化物(硬化)と未硬化物(遊離)のモル比(硬化/遊離)が、0.3~1.0の範囲である、
請求項1に記載のゴム補強用アラミド短繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用アラミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びない等の高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維であることから、各種タイヤ、ベルト、コンベヤ等のゴム補強用繊維として用いられている。
【0003】
特許文献1には、アラミド繊維に、エポキシ化合物を含有しない仕上げ油剤を2度付与した後、硬化性エポキシ化合物を付与し、その後、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(以下、「RFL」と略称することがある。)を付与し、RFL処理アラミド繊維を作製し、それを長さ3mmにカットした短繊維のL色空間における明度(L値)が52.1、赤色度(a値)が18.6、黄色度(b値)が27.8であったこと、また、このように仕上げ油剤を2浴処理で付与したアラミド繊維は、1浴処理したものに比べて集束性が優れていること、が開示されている。しかし、特許文献1では、エポキシ化合物を含有しない仕上げ油剤を2度付与(2浴処理)した後、硬化性エポキシ化合物を付与しているため、RFL含浸性が低く、明度のバラツキが大きい欠点がある。さらに、仕上げ油剤を2度付与した後、硬化性エポキシ化合物を付与し、RFLを処理するために、工程数が多く、経済性が悪いという欠点がある。
【0004】
特許文献2には、ポリヘキサメチレンアジパミド繊維に対するRFLの含浸性を上げるために、ディップ時のニップロールの圧力を上げ、コードを扁平にすることで、マルチフィラメント内部までRFLを含浸させている。しかし、アラミド繊維は、他の有機繊維に比べてRFLとの反応性が低いため、コードを扁平にするだけでは、RFL含浸性は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-167040号公報
【特許文献2】WO2015/159795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)の未含浸部分が少なく、かつRFLが過剰に付着していない、ゴム補強用アラミド短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アラミド繊維表面に対するRFLの付着検討結果から得られた知見、すなわち、RFLが付着したアラミド短繊維の明度(L値)を適正範囲にコントロールすることで、RFL未含浸部分を少なくし、かつ、RFLが過剰に付着しないようにすることで、ゴム混練時における分散性を向上させることができる、との知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、繊維表面に、油剤とレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスが付着したアラミド短繊維であって、
前記短繊維のL色空間における明度Lの平均値が45~60、かつ、
明度Lの標準偏差を明度Lの平均値で除した値(CV値)の百分率が8%以下であることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維を提供する。
【0009】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、例えば、硬化性エポキシ化合物を含む油剤を用い、前記短繊維に付着した、硬化性エポキシ化合物の硬化物(硬化)と未硬化物(遊離)のモル比(硬化/遊離)を0.3~1.0の範囲にすることにより得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴム補強用アラミド短繊維のRFL含浸状態の総合的な良否を、明度(L値)で判断し、明度(L値)を適正範囲に保ちバラツキを小さくすることで、カット時のファイバーボールが発生しにくく、かつ単糸同士が強固に接着しすぎない(すなわちゴム混練時の分散性が向上する)ゴム補強用アラミド短繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、繊維表面に、油剤とRFLが付着したアラミド繊維が切断された短繊維であり、ゴム組成物に配合し、ゴム特性を補強、改善するものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、アラミド繊維の表面に油剤を付与し、さらにゴムとの接着性を改善するためのRFL処理剤を付与し、前記油剤とRFL処理剤が付着したアラミド繊維を切断したものである。
【0013】
上記のアラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等があり、具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリ-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド/ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等からなる繊維が挙げられる。本発明のアラミド繊維の種類は、特に限定されるものではない。好ましいアラミド繊維は、引張強力が高いためゴム補強用として好適であり、しかも繊維表面にRFLを均一付着させるのがより困難であるパラ系アラミド繊維、特にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維である。
【0014】
本発明で好ましく用いられる油剤は、硬化性エポキシ化合物を含む油剤である。詳細には、(a)硬化性エポキシ化合物と、(b)該硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤と、から構成される油剤で、アミン等のエポキシ硬化剤を含まない油剤であることが好ましい。(a)成分及び(b)成分は、混合物として付与されていても良いし、別々に2工程で付与されていても良い。2工程で付与する場合、順序は問わない。生産時の取り扱い性の面から、(a)成分と(b)成分は、混合物として付与されることがより好ましい。
【0015】
本発明では、アラミド繊維表面に付与した(a)硬化性エポキシ化合物が、アラミド繊維をRFL処理する時点で全て硬化していないこと、すなわち、未硬化の遊離エポキシ化合物がある程度残存していることが肝要である。油剤に遊離エポキシ化合物が含まれている場合、繊維表面に付着した遊離エポキシ化合物によって繊維束へのRFLの含浸性が良好になる。一方、油剤にアミン等の硬化剤が含まれていると、硬化性エポキシ化合物が早期に硬化してしまい、油剤中の遊離エポキシ化合物量が低下することによって、繊維束へのRFLの含浸性が低下する恐れがある。
【0016】
(b)成分;相溶剤としては、繊維用油剤を用いることが好ましく、これにより、アラミド繊維の工程通過性が良好となり、生産効率が向上すると共に、RFL処理後のアラミド繊維のゴムに対する接着性を高めることができる。
【0017】
油剤を構成する、(a)硬化性エポキシ化合物と(b)相溶剤の比率(質量比)は、80/20~20/80が好ましく、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは65/35~45/55である。(a)成分に対する(b)成分の比率が高くなり過ぎると、エポキシ化合物が減少することによりゴムとの接着性が阻害され、反対に低くなり過ぎると、アラミド繊維の収束性が低下し工程通過性が悪化する。また、油剤中に(b)成分が過剰に存在すると、アラミド繊維のゴムに対する接着性が阻害される傾向があるため、(a)成分と(b)成分の比率(質量比)は65/35~55/45の範囲が特に好ましい。
【0018】
なお、油剤には、本発明による効果を阻害しない範囲で、公知の平滑剤、非イオン活性剤、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤等の界面活性剤、制電剤等が配合されていても良い。
【0019】
上記の油剤を付与するアラミド繊維は、紡糸、中和、洗浄後の繊維を、乾燥し、水分率3~15質量%に調整したアラミド繊維であることが好ましい。水分率が3質量%以上であると、繊維表面上の残留水で硬化性エポキシ化合物が硬化され、繊維表面に硬化膜が形成されるため、工程通過時の擦過による毛羽の発生が抑制される。また、水分率15質量%以下であると、繊維表面に自由水が付着している状態になり難く、遊離エポキシ化合物の比率が高まり繊維表面に油剤が付着し易くなることで、繊維束へのRFL含浸性がより良好になるため、明度Lのばらつきが少なくなる。さらに水分率15質量%以下であると、製糸工程でのロールへの巻付き頻度が低減し、経済性が高くなる。油剤を付与するアラミド繊維の水分率は、より好ましくは3~14質量%、特に好ましくは5~13質量%である。
なお、アラミド繊維に油剤を付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0020】
上記の中和、洗浄後、乾燥した状態のアラミド繊維表面の付着水は、中和処理で用いたアルカリ由来のアルカリイオンを含むため、アラミド繊維の水分率が高くなるほど、アラミド繊維周辺のアルカリイオン量が増加する。そのため、アラミド繊維の水分率が高くなるほど、アルカリイオンの触媒作用により硬化性エポキシ化合物が硬化し、硬化膜が形成され易くなることで、遊離エポキシ化合物が減少する傾向になる。一方、アラミド繊維の水分率が低くなるほど、アラミド繊維周辺のアルカリイオン量が減少するため、アラミド繊維表面にエポキシ化合物の硬化膜が形成され難くなる。
【0021】
本発明のアラミド繊維は、水分率3~15質量%に乾燥したアラミド繊維に、油剤を付与した後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げたアラミド繊維の水分率を3~15質量%に保持したアラミド繊維であって、硬化性エポキシ化合物が100%硬化していない(すなわち、少なくとも遊離エポキシ化合物がアラミド繊維表面に付着している)状態にあるものが好ましい。
【0022】
繊維表面に付着している硬化性エポキシ化合物の硬化膜(以下、硬化)と未硬化の遊離エポキシ化合物(以下、遊離)のモル比(硬化/遊離)は、0.3~1.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0、特に好ましくは0.7~0.9である。前記のモル比(硬化/遊離)は、油剤を付与する際のアラミド繊維の水分率及び/または油剤の種類、もしくは組成を変更することにより調整できる。
【0023】
本発明のアラミド繊維では、硬化性エポキシ化合物の硬化膜と、未硬化の遊離エポキシ化合物が併存しており、未硬化の遊離エポキシ化合物の比率が高い(すなわち(硬化/遊離)比率が小さい)ことが好ましい。これは、繊維表面に遊離エポキシ化合物が存在すると、エポキシ基とレゾルシン-ホルマリンの縮合物が化学結合しやすいために、RFLの含浸状態が良好になるのではないかと推察され、結果としてL色空間における明度Lが適正範囲となる。
【0024】
アラミド繊維への油剤の付着量は、アラミド繊維質量(乾燥基準)に対して0.3~5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.4~3質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。
【0025】
油剤を構成する(a)成分;硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種、または2種以上用いることができる。脂肪族エポキシ化合物は、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましく、例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。より好ましいエポキシ化合物は、グリシジル基を2個または3個有する多官能性エポキシ化合物である。芳香環を有するエポキシ化合物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましく、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。これらのエポキシ化合物の中でも、粘度が低く紡糸工程で付与することができ、また工程通過性を向上させることができる点より、脂肪族エポキシ化合物が好ましく、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等の、グリセロール系エポキシ化合物が特に好ましい。
【0026】
油剤を構成する(b)成分;硬化性エポキシ化合物を溶解する相溶剤は、繊維用油剤の中でも、RFL処理する際のロールでの擦過が少ない、かつ、RFL処理を行ったアラミド繊維のゴムとの接着性が良好である観点より、ポリアルキレングリコールと脂肪酸のエステル化物が好ましい。このような脂肪酸エステルとしては、下記一般式(I)で表わされるモノエステル型及び/または下記一般式(II)で表わされるジエステル型のエステル化合物が挙げられる。
-COO(R-O)m-H ・・・・・(I)
-COO(R-O)n-COR ・・・・・(II)
【0027】
一般式(I)、(II)において、R及びRは、共に炭素原子数5~30のアルキル基もしくはアルケニル基であり、RとRは同一であっても異なっていても良い。Rは炭素原子数2~3のアルキレン基、m及びnはオキシアルキレン基(R-O)の平均付加モル数を表す5~100の整数である。なお、(R-O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。
【0028】
一般式(I)、(II)において、R、Rの炭素原子数が、5未満の場合はアラミド繊維の収束性が低いため工程通過性が悪くなり、また、30を超えるとエステル化合物の疎水性が高くなるためエポキシ化合物と混合できない若しくは親和性が低くなる場合がある。脂肪酸エステル化合物のゴムに対する接着性及びエポキシ化合物との溶解性を考慮すると、式中、R及びRの炭素原子数は7~28が好ましく、より好ましくは9~26、さらに好ましくは11~24、特に好ましくは13~22である。
一般式(I)、(II)で示されるエステル化合物を構成する脂肪酸の具体例としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エライジン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。これらの脂肪酸のなかでも、脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物の粘性が極端に高くなることがなく、取扱性に優れている点で、炭素数13~22の飽和または不飽和脂肪酸が好ましい。
【0029】
上記一般式(I)、(II)において、m及びn(オキシアルキレン基の平均付加モル数)は5~100が好ましい。5未満ではエポキシ化合物との混合が困難となり、RFL処理を行う際に繊維とゴムとの接着力が低くなる。また、100を超えると、油剤の粘度が高くなり、油剤の付与性が悪くなるため好ましくない。m及びnは、5~50が好ましく、より好ましくは9~30、さらに好ましくは11~19、特に好ましくは13~17である。
【0030】
ポリアルキレングリコールの具体例としては、酸化エチレンの重合体であるポリエチレングリコール、酸化プロピレンの重合体であるポリプロピレングリコール、酸化エチレンと酸化プロピレンの共重合体等が挙げられ、これらの中でも、エポキシ化合物の溶解性に優れるエステル化合物が得られる点より、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0031】
ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、400~1,300が好ましく、より好ましくは400~920、さらに好ましくは480~840、特に好ましくは570~750である。ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)が400以上であると、エステル化合物の親水性が高くなることによりエポキシ化合物との混合が容易となり、一方、重量平均分子量(Mw)が1,300を超えるとエステル化合物の粘度が高くなり、工程での油剤付与性が低下し、また工程通過性も悪化する。尚、ポリエチレングリコールの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定できる。
【0032】
一般式(I)、(II)で示されるエステル化合物の好ましい具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール(m=10~20)ラウリン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10~20)オレイン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10~20)ステアリン酸モノエステル及び/またはジエステル等が挙げられる。
【0033】
繊維表面に、油剤とRFLが付着したアラミド繊維は、上記の油剤を付与してアラミド繊維表面を活性化処理した後、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤を付与する方法により得ることができる。繊維表面にRFLを付着させることにより、アラミド繊維の集束性及びゴムとの接着性を改善することができる。本発明では、アラミド繊維に対するRFLを含む処理剤の付与回数は1回のみ、あるいは2回以上であっても良いが、経済性を考慮すると1回の方が好ましい。
【0034】
アラミド繊維にRFLを含む処理剤を付与する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法であってよい。例えば、前記処理剤にアラミド繊維を浸漬し、アラミド繊維に前記処理剤を付着させた後、100~260℃で熱処理する方法等がある。
【0035】
RFLを含む処理剤は、一般的には、ゴムラテックス100重量部に対して、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物を2~20重量部含有する混合物を、固形分濃度で5~25重量%程度含有する水系RFL処理液として調製される。アラミド繊維に対するRFL固形分付着量は1~20質量%とすることが好ましく、より好ましくは4~15質量%である。固形分付着量が少なすぎる場合には、収束性が悪化しカッター刃から逃げて短繊維同士が凝集してファイバーボールが発生するため、ゴム混錬時に分散性が悪化する傾向がある。また固形分付着量が多すぎる場合には、処理剤により短繊維同士が強固に固着してしまい、ゴム中に均一に分散しなくなる要因となる。
【0036】
上記のゴムラテックスとしては、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックス及び天然ゴムラテックス等が挙げられる。レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシン-ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物等が挙げられる。なお、処理液には、ゴムとの接着性を更に高めるために、または架橋度を調整する目的等で、エポキシ化合物、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物等から選ばれた1種以上の化合物が混合されていてもよい。
【0037】
本発明において、ゴムとの接着性を改善するための処理剤を付与したアラミド繊維を短繊維に切断する方法は、公知の技術を用いて行うことが可能である。通常、総繊度が1万~60万dtexの範囲で集束させたアラミド繊維集束体を、カッターにて切断する。また、フィルター等を設置し、異常な繊維長の短繊維が通常製品と混入しない方法と組み合わせるのも効果的である。
【0038】
前記アラミド短繊維の単繊維繊度は特に限定されるものでないが、好ましくは0.1~10.0dtex、より好ましくは0.5~5.0dtexの範囲である。単繊維繊度が0.1dtex未満の場合は製糸技術上困難な点が多く、断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を安定して生産することが困難になるだけでなく、コストも高くなる。一方、単繊維繊度が10.0dtexを超えると繊維の機械的物性、特に強度低下が大きくなり、かつゴム中に均一に繊維を分散させることが難しくなる傾向にある。
【0039】
本発明のアラミド短繊維の切断長は、0.1mm~10mm以下が好ましい。繊維長が0.1mmより短い場合には、ゴムに対する短繊維の補強効果が小さくなり、ゴム補強用アラミド短繊維として機能しなくなる。また、繊維長が10mmより長い場合には、アラミド短繊維をゴムと混合する際に、単繊維同士の絡み合いが生じたり、ミキサー内で剪断されることにより、短繊維が切断したり短繊維のファイバーボールが形成される現象等が生じ、結果的に、短繊維が分散不良になる。
【0040】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、L色空間における明度Lの平均値が45~60、かつ、明度Lの標準偏差を明度Lの平均値で除した値(CV値=標準偏差/平均値)の百分率が8%以下である。
明度Lの平均値は、45未満であると、RFLが繊維表面に過剰に付着している、もしくはレゾルシン-ホルマリンの縮合反応が過剰に進んでいることを示す。60を超えると(RFLの繊維表面への付着量が不十分、もしくはレゾルシン-ホルマリンの縮合反応が不十分であることを指す。明度Lの平均値は、45~60であることが好ましく、より好ましくは48~58、さらに好ましくは45~55である。
また、CV値が8%を超えると、繊維の長手方向、もしくはフィラメント間で、RFLの含侵状態、および付着状態にばらつきが多い状態となる。これにより、RFLが未含浸の短繊維がカッター刃で逃げることで、ファイバーボールを形成し、ゴム混錬時に短繊維分散性が低下する。CV値は、8%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下であり、できるだけ小さい値が望ましい。
【0041】
上記のように、本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、RFL付着ムラが少なく、かつRFLが過剰に付着していないため、製糸工程、RFL処理工程での経済面で極めて優れている。さらに、アラミド繊維上の硬化性エポキシ化合物の硬化度をコントロールすることによって、RFL処理したアラミド短繊維のゴム中での分散性をより向上させることができる。結果として、短繊維補強ゴムの引張弾性率を高くすることができる。よって、本発明のゴム補強用アラミド短繊維を配合したゴムは、ベルト、タイヤ、ホース等のゴム製品に幅広く適用することができる。
【実施例0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」、「質量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載のゴム補強用アラミド短繊維の評価方法は以下の通りである。
【0043】
(1)短繊維束明度測定
コニカミノルタ(株)製色彩色差計を用いて、L値、a値及びb値を測定した。すなわち、短繊維束を均一に敷き詰め、色差計に動かぬようにセットして、明度(L値)、赤色度(a値)、黄色度(b値)を測定した。30回測定し、平均値と標準偏差を算出した。
【0044】
(2)アラミド繊維水分率
約5gの試料の質量(乾燥前質量)を測定する。次いで、300℃×20分熱処理した後、25℃、65%RHで5分間放置し、再度質量(乾燥後質量)を測定する。
水分率(質量%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)/(乾燥後質量)]×100
【0045】
(3)繊維表面のエポキシ化合物量(mmol/kg)
ア)アラミド繊維表面のエポキシ化合物量;
アラミド繊維に油剤を付着させる前後の加熱重量法による重量変化から、アラミド繊維1kg当りの油剤付着量(Eg)を求め、1kg当りのエポキシ基のミリモル数(理論エポキシ化合物量)を算出する。なお、エポキシ当量は、硬化性エポキシ化合物の1エポキシ基当りの分子量を示す。
[理論エポキシ化合物量(mmol/kg)]=1000×E×(油剤中の硬化性エポキシ化合物含有量(%)/100)/エポキシ当量
イ)アラミド繊維表面の遊離エポキシ量;
アラミド繊維約10g(実重量Ag)をビーカーに入れ、アセトンで試料表面に付着した遊離エポキシ化合物を抽出した後、アセトンを除去して、抽出物重量を測定する。前記抽出物に、塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液(15/1000(容量比))20mlとエタノール30mlを添加した後、0.5mol/LのNaOH溶液で中和滴定(滴定量:Cml)を行う。抽出物を含まない前記の塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液についてブランク滴定(滴定量:Dml)を行い、アラミド繊維1kg当りに存在する遊離エポキシ基のミリモル数を算出する。
[遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)]=0.5×1000×(D-C)/A
ウ)アラミド繊維表面の硬化エポキシ化合物量;
硬化エポキシ化合物量(mmol/kg)=理論エポキシ化合物量(mmol/kg)-遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)
【0046】
(4)ゴム混錬時の短繊維分散性
ゴム、短繊維束、加硫促進剤を表1の配合に従って、容量0.5Lの加圧ニーダーに投入し、充填率60%、ローター回転数50rpmの条件で、4分間混錬した。ゴムを厚み1mmのシートに引き伸ばし、ゴム表面の短繊維束の分散性を目視観察した。
分散性は5段階で評価し、短繊維が完全に分かれて均一に分散している状態を評価5、短繊維がゴムシート上に1mm程度の塊で残っている状態を評価3、短繊維がゴムシート上に3mm程度の塊で残っている状態を評価2とした。
【0047】
【表1】
【0048】
(5)ゴム引張弾性率
ゴムシートを厚み2mmの金型に入れ、温度170℃で5分加硫した。JIS K6251に従って、ダンベル試験片3号を作製し、引張試験を行った。引張弾性率は5%伸長するときの応力から算出した。
【0049】
(実施例1)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、200℃で乾燥処理を行い、水分率を10%に調整した。
このPPTA繊維に、エポキシ化合物として、グリセロールポリグリシジルエーテルとポリエチレングリコール脂肪酸エステルを、60:40(質量比)で混合した油剤を、水分率0%に換算したときの繊維質量に対し1.3%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。PPTA繊維に付着した、硬化エポキシ化合物量/遊離エポキシ化合物量(モル比)は0.78であった。
【0050】
別途、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックス(数平均粒子径;140nm)100部(固形分)に対し、水酸化ナトリウムの存在下で予めレゾルシンとホルムアルデヒドをモル比で、レゾルシン/ホルムアルデヒド=3/1の割合で反応させた初期縮合物を、15部(固形分)混合、熟成させて、RFL液を調製した。
得られたPPTA繊維(水分率0%換算時の繊度3,300dtex、フィラメント数2,000)を、上記のRFL処理液からなる集束剤に含浸させ、RFLを、PPTA繊維質量に対し6%となるよう付着させた。なお、集束剤に含浸させる直前のPPTA繊維の水分率は10%であった。その後、最高温度215℃で2分間、乾燥、熱処理を行った。
得られたPPTA繊維を公知の方法により3.5mmにカットし短繊維集束体を得た。明度の測定とゴム混錬時の分散性評価及び引張弾性率の測定を行い、表2の結果を得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1において、油剤を付与する際のPPTA繊維の水分率を50%に変更し、他の製造条件は実施例1と変更していない短繊維集束体を得た。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、RFLを熱処理するときの熱処理条件を190℃に変更し、他の製造条件は実施例1と変更していない短繊維集束体を得た。
【0053】
(比較例2)
実施例1において、繊維に付与する油剤を、エポキシ化合物を含んでいないポリエチレングリコール脂肪酸エステルに変更し、他の製造条件は実施例1と変更していない短繊維集束体を得た。
【0054】
評価結果を表2にまとめて示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2の結果から、硬化エポキシ化合物量/遊離エポキシ化合物量を低くし、さらにL色空間の明度L平均値を適正な範囲に保ち、CV値を低くすることで、ゴム分散性に優れ、ゴム弾性率も高くなる結果を得た。明度Lの平均値が高いサンプル、もしくは明度LのCV値が高いサンプルは、ゴム混錬の分散性が劣り、さらに弾性率も低い結果であった。これは、明度Lが適正な範囲に保たれ、ばらつきが少ない状態でないと、RFLの含浸状態が不均一であることを指し、カット時にファイバーボールが発生し、ゴム混錬時に分散性が悪くなる結果を反映している。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維は、該短繊維をゴム中に含有するベルト、タイヤ、ホース等のゴム製品に利用可能である。