(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156355
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】表示体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20221006BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20221006BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20221006BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20221006BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B32B27/18 E
C09J7/38
C09J133/00
G09F9/30 349Z
G09F9/30 330
G09F9/00 366A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059992
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結加
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AA01D
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4J040NA17
5C094AA37
5C094AA38
5C094BA14
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5C094JA07
5G435AA13
5G435AA14
5G435HH20
5G435LL07
(57)【要約】
【課題】マイグレーションを効果的に防止・抑制することのできる表示体を提供する。
【解決手段】第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、上記第1の表示体構成部材および上記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備えた表示体であって、上記第1の表示体構成部材および/または上記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる配線を有し、上記粘着剤層が、防錆剤を含有する粘着剤から構成され、上記粘着剤層の平面視1mm
2当たりの粘着剤体積(μm
3)を、上記配線の平面視1mm
2当たりの配線体積(μm
3)で除して算出される被覆度が、200以上であることを特徴とする表示体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表示体構成部材と、
第2の表示体構成部材と、
前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる配線を有し、
前記粘着剤層が、防錆剤を含有する粘着剤から構成され、
前記粘着剤層の平面視1mm2当たりの粘着剤体積(μm3)を、前記配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)で除して算出される被覆度が、200以上である
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量をα質量%、前記粘着剤層の厚さをZμmとしたときに、下記式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の表示体。
0.5<α×Z≦100
【請求項3】
前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量が、0.001質量%以上、1質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。
【請求項4】
前記防錆剤が、アゾール類であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、静電容量方式のタッチパネルとして好適な表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンやタブレット端末等の各種モバイル電子機器では、ディスプレイとして、タッチパネルが使用されることが多くなってきている。タッチパネルの方式としては、抵抗膜方式、静電容量方式等があるが、上記のようなモバイル電子機器では、静電容量方式が主として採用されている。
【0003】
最近はタッチパネルの大型化が図られており、かかるタッチパネル用の電極材料として、メッシュ状の金属電極、例えば銅電極または銀電極が検討されている。しかし、従来の粘着剤を金属電極、特に銅電極または銀電極に接触させて使用すると、イオンマイグレーション(=エレクトロケミカルマイグレーション;以下単に「マイグレーション」という。)が発生する場合がある。具体的には、正極では電極が溶解して断線したり、負極では正極成分の析出によるデンドライトが形成されて短絡が生じたりする。
【0004】
このマイグレーションは、高温高湿下で電極に電圧が印加されたときに特に発生し易い。このようなマイグレーションが発生すると、抵抗値が変化し、タッチパネルが正常に駆動しなくなってしまう。近年では、特に、電極の微細化や狭ピッチ化が進む中、マイグレーションによる電極の断線・短絡が発生し易くなっており、マイグレーションを十分に防止・抑制することが望まれる。
【0005】
ところで、特許文献1には、防錆剤としてベンゾトリアゾール化合物を含有する、タッチパネル用の粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、防錆剤としてのベンゾトリアゾール化合物は、金属配線の腐食防止効果はあったとしても、マイグレーションを十分に防止・抑制することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、マイグレーションを効果的に防止・抑制することのできる表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備えた表示体であって、前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる配線を有し、前記粘着剤層が、防錆剤を含有する粘着剤から構成され、前記粘着剤層の平面視1mm2当たりの粘着剤体積(μm3)を、前記配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)で除して算出される被覆度が、200以上であることを特徴とする表示体を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)における表示体は、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に金属または金属酸化物からなる配線を有していても、粘着剤層が、防錆剤を含有する粘着剤から構成され、粘着剤層の平面視1mm2当たりの粘着剤体積(μm3)を、配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)で除して算出される被覆度が、200以上であることにより、防錆剤が表層に偏析した粘着剤層が、当該配線を十分に覆うことができる。これにより、防錆剤は、その作用を効果的に発揮し易くなり、マイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量をα質量%、前記粘着剤層の厚さをZμmとしたときに、下記式を満たすことが好ましい(発明2)。
0.5<α×Z≦100
【0012】
上記発明(発明1,2)においては、前記粘着剤中における前記防錆剤の含有量が、0.001質量%以上、1質量%以下であることが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明1~3)においては、前記防錆剤が、アゾール類であることが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明1~4)においては、前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることが好ましい(発明5)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る表示体によれば、マイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表示体を製造することのできる粘着シートの一構成例の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る表示体(タッチパネル)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る表示体は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備える。上記粘着剤層は防錆剤を含有する粘着剤から構成される。ここで、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側(粘着剤層側)の面に金属または金属酸化物からなる配線を有する。上記粘着剤層の平面視1mm2当たりの粘着剤体積(μm3)を、上記配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)で除して算出される被覆度(以下、単に「被覆度」ということがある。)が、200以上であることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る表示体は、金属または金属酸化物からなる配線が、正極では溶解することが防止・抑制され、負極ではデンドライトが形成されることが防止・抑制される。すなわち、電極におけるマイグレーションが効果的に防止・抑制され(本効果を「マイグレーション防止効果」という場合がある。)、電極の抵抗値変化を抑制することができる。また、マイグレーションが効果的に防止・抑制されることにより、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材が、例えば微細化・狭ピッチ化された配線を有していても、配線の断線や短絡が防止される。特に、上記配線がタッチパネルの電極の場合には、断線や短絡に起因するタッチパネルの駆動不良が防止される。
【0019】
上記の効果が生じる理由は明らかではないが、次のように推測される。本実施形態に係る表示体の粘着剤層は、防錆剤を含有する粘着剤から構成される。防錆剤は粘着剤層の表層に偏析し易い傾向がある。そして、上記被覆度が上記の範囲にあることで、防錆剤が表層に偏析した粘着剤層が、金属または金属酸化物からなる配線を十分に覆うことができる。これにより、防錆剤は、その作用を効果的に発揮し易くなり、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。また、金属または金属酸化物からなる配線が、防錆剤が表層に偏析した粘着剤層に十分に覆われることで、防錆剤におけるジアミノ基等の配位部が、配線の金属原子に配位結合してキレート化合物を形成し、防錆被膜を形成すると考えられる。マイグレーションは、電極に水分が浸入することで発生し易くなるが、被膜の形成により水分の浸入が抑制され、本実施形態に係る表示体は、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。
【0020】
ここで、配線が微細化・狭ピッチ化された表示体においては、配線間の間隙の距離(以下、「配線間距離」ということがある。)が短いため、配線に対する粘着剤層の接触面積が大きくなる。接触面積が大きいと、防錆剤が上述した配位結合による防錆被膜を形成することにより多く使用され、配線近傍における防錆剤の濃度が低くなり易いという問題が生じると考えられる。特に配線間の粘着剤は防錆剤濃度が低くなり易いため、水分が浸入して溜まり易くなって、配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤への防錆剤の供給が阻害される傾向があると考えられる。このように、配線近傍の防錆剤の濃度が部分的にでも低くなると、マイグレーションがより発生し易くなると推測される。本実施形態に係る表示体は、粘着剤層が防錆剤を含有する粘着剤から構成され、かつ被覆度が上記であることにより、配線が微細化・狭ピッチ化されたことに起因する上記問題を解決することができる。具体的には、粘着剤層に含まれる防錆剤の全体量が増えることで、配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤へ防錆剤が持続的に供給されて、特に配線間における粘着剤の防錆剤濃度の低下を抑制することができる。これにより、配線近傍の防錆剤濃度を均一に維持することができる。結果として、防錆剤の作用が効果的に発揮され易くなり、優れたマイグレーション防止効果を発揮できるものと推測される。
【0021】
本明細書において、上記被覆度は以下のように算出される。
まず、金属または金属酸化物からなる配線の平面視1mm2(1000μm×1000μmとする。)当たりの配線体積(μm3)は、以下のように算出される。金属または金属酸化物からなる配線において、配線幅をA(μm)、配線間距離をB(μm)および配線厚さをC(μm)とする。配線幅および配線間距離と直行する方向の配線長さは1000μmである。このとき、配線一本あたりの配線体積は、
Aμm×Cμm×1000μm(μm3)
となる。そして、配線幅方向(配線間距離方向)における距離1mm(1000μm)あたりの配線本数は、
1000μm/(A+B)(本)
となる。なお、配線本数は、小数点以下を切り捨てた値とする。
したがって、上記配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)は、下記式(1)により算出される。
配線一本あたりの配線体積{Aμm×Cμm×1000}×配線本数{1000μm/(A+B)}・・・(1)
次に、粘着剤層の平面視1mm2(1000μm×1000μm)当たりの粘着剤体積(μm3)は、粘着剤層の厚さをZμmとすると、下記式(2)により算出される。
Zμm×1000μm×1000μm(μm3)・・・(2)
なお、粘着剤層には配線が埋め込まれている状態であるが、当該配線の体積は粘着剤の体積に対して微量であるので、被覆度の算出における上記粘着剤体積(μm3)は上記式(2)の値とする。
(2)を(1)で除した値を被覆度とした。
【0022】
上記被覆度は、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、特に300以上であることが好ましく、さらには330以上であることが好ましい。また、上記被覆度の上限値は、特に限定されないが、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、特に2000以下であることが好ましく、さらには1500以下であることが好ましい。中でも、より微細化・狭ピッチ化された配線である場合においても優れたマイグレーション防止効果を発揮できる観点からは、1200以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましく、粘着剤層の厚さが薄い場合においても優れたマイグレーション防止効果を発揮できる観点からは、特に800以下であることも好ましく、さらには600以下であることも好ましく、500以下であることが最も好ましい。被覆度が上記範囲にあることにより、表層に防錆剤が偏析した粘着剤層が、配線を十分に覆うことができる。また、配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤に防錆剤が持続的に供給されて、配線近傍の防錆剤の濃度を均一に維持することができる。これにより、防錆剤の作用が効果的に発揮され易くなり、優れたマイグレーション防止効果を発揮することができ、電極の抵抗値変化を効果的に抑制することができる。さらに、配線近傍の防錆剤濃度が均一に維持されることで、防錆剤による被膜形成が経時的に維持され、配線および粘着剤層の色味変化を抑制することができる。
【0023】
本実施形態に係る表示体の粘着剤層は、次に説明する粘着シートの粘着剤層によって好ましく形成することができる。ただし、前述した物性を満たす限り、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
〔粘着シート〕
本発明の一実施形態に係る表示体を製造することのできる粘着シートの一例は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材を互いに貼合するための粘着剤層を備えており、好ましくは、当該粘着剤層の片面または両面に剥離シートを積層してなる。
【0025】
本実施形態に係る表示体を製造することのできる粘着シートの一例としての具体的構成を
図1に示す。
図1に示すように、粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。ただし、粘着シート1において剥離シート12a,12bは必須の構成要素ではなく、粘着シート1の使用時に剥離・除去されるものである。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0026】
1.各部材
1-1.粘着剤層
粘着シート1の粘着剤層11を構成する粘着剤は、防錆剤を含有するものであれば、特に限定されない。粘着剤の種類としては、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。それらの中でも、粘着物性、光学特性等に優れるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0027】
上記粘着剤は、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および防錆剤(B)を含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)から得られるものであることが好ましく、特に(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、防錆剤(B)および架橋剤(C)を含有する粘着性組成物を架橋してなるものであることが好ましく、さらに(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、防錆剤(B)、架橋剤(C)およびシラン化合物(D)を含有する粘着性組成物を架橋してなるものであることが好ましい。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0028】
なお、粘着性組成物Pから得られる粘着剤は、活性エネルギー線の照射によって硬化する活性エネルギー線硬化性粘着剤であってもよいし、活性エネルギー線の照射によって硬化しない活性エネルギー線非硬化性粘着剤であってもよい。活性エネルギー線硬化性粘着剤の場合、粘着性組成物Pは、さらに活性エネルギー線硬化性成分(E)を含有することが好ましい。
【0029】
(1)粘着性組成物の成分
(1-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマーとして、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含有することが好ましい。この反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤(C)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所定の凝集力を有する粘着剤が得られる。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記反応性官能基含有モノマーの中でも、架橋剤(C)との反応性に優れ、電極への悪影響の少ない水酸基含有モノマーが特に好ましい。
【0032】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、架橋剤(C)との反応性の観点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましく、アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよびアクリル酸4-ヒドロキシブチルがより好ましく、特にアクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマー(特に水酸基含有モノマー)を、6質量%以上含有することが好ましく、9質量%以上含有することがより好ましく、特に12質量%以上含有することが好ましく、さらには15質量%以上含有することが好ましく、微細化・狭ピッチ化された配線である場合や粘着剤層の厚さが薄い場合においても後述する防錆剤(B)の効果をより発揮し易くなる観点から、18質量%以上含有することが好ましく、特に20質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマー(特に水酸基含有モノマー)を、35質量%以下含有することが好ましく、特に30質量%以下含有することが好ましく、さらには25質量%以下含有することが好ましい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、得られる粘着剤の粘着力と凝集力とのバランスが良好に図られる。特に、上記反応性官能基含有モノマーが水酸基含有モノマーの場合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として水酸基含有モノマーを上記の量で含有すると、得られる粘着剤中に、親水性基である水酸基が所定量残存することとなる。これにより、水分が存在する場合でも、水分は当該水酸基に捕捉される。特に、配線上部の粘着剤に含まれる水酸基が水分を捕捉し、配線間の粘着剤に水分が溜まることを抑制することができる。これにより、粘着剤層に隣接する電極に水分が浸入することが抑制される。さらに配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤への防錆剤の供給が阻害されにくくなり、配線近傍の防錆剤の濃度を均一に維持し易くなる。その結果、優れたマイグレーション防止効果を発揮することができる。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことが好ましい。カルボキシ基は酸成分であるため、粘着剤が接触する電極の腐食による抵抗値変化が生ずることが懸念されるが、カルボキシ基含有モノマーを含有しないことで、電極の腐食を防止して抵抗値変化を効果的に防止・抑制することができる。ただし、上記の「カルボキシ基含有モノマーを含有しない」とは、得られる粘着剤が接触する電極が悪影響を受けない程度にカルボキシ基含有モノマーを含有することを許容するものである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下の量で含有することが許容される。
【0036】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。これにより、良好な粘着性を発現することができる。
【0037】
特に、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前述した反応性官能基含有モノマー以外に、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマーとを含有することが好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であって、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「低Tgアルキルアクリレート」と称する場合がある。)を含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。かかる観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、低Tgアルキルアクリレートを、30質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、特に50質量%以上含有することが好ましく、さらには60質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として上記低Tgアルキルアクリレートを、上限値として90質量%以下含有することが好ましく、特に80質量%以下含有することが好ましく、さらには70質量%以下含有することが好ましい。上記低Tgアルキルアクリレートの含有量の上限値が上記であると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0039】
低Tgアルキルアクリレートとしては、例えば、アクリル酸エチル(Tg-20℃)、アクリル酸n-ブチル(Tg-55℃)、アクリル酸イソブチル(Tg-26℃)、アクリル酸n-オクチル(Tg-65℃)、アクリル酸イソオクチル(Tg-58℃)、アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-70℃)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(Tg-10℃)、アクリル酸イソノニル(Tg-58℃)、アクリル酸イソデシル(Tg-60℃)、メタクリル酸イソデシル(Tg-41℃)、アクリル酸n-ラウリル(Tg-23℃)、メタクリル酸n-ラウリル(Tg-65℃)、アクリル酸トリデシル(Tg-55℃)、メタクリル酸トリデシル(-40℃)、アクリル酸イソステアリル(Tg-18℃)等が好ましく挙げられる。中でも、低Tgアルキルアクリレートとして、より効果的に粘着性を付与する観点から、ホモポリマーのTgが、-40℃以下となるものであることがより好ましく、-50℃以下となるものであることが特に好ましい。具体的には、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましく、マイグレーションを効果的に抑制する観点から、アクリル酸2-エチルヘキシルがさらに好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基をいう。
【0040】
また、上記低Tgアルキルアクリレートは、得られる粘着剤層の疎水性を向上させることによりマイグレーションを効果的に抑制する観点から、少なくとも一部について、上記アルキル基の炭素数が5以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、上記アルキル基の炭素数が7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましい。具体的には、アクリル酸2-エチルヘキシルが特に好ましい。また、マイグレーションを効果的に抑制する観点から、上記低Tgアルキルアクリレート全体における、アルキル基の炭素数5以上(好ましくは7以上)の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0041】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超えるモノマー(以下「ハードモノマー」と称する場合がある。)を含有することで、得られる粘着剤は適度な凝集力と粘着性とを有するものとなり易くなる。これにより、得られる粘着剤層は、耐久条件の後においても、被着体との界面における浮きや剥がれ等の不具合の発生を抑制し易いものとなる。
【0042】
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、メタクリル酸エチル(Tg65℃)、メタクリル酸n-ブチル(Tg20℃)、メタクリル酸イソブチル(Tg48℃)、メタクリル酸t-ブチル(Tg107℃)、アクリル酸n-ステアリル(Tg30℃)、メタクリル酸n-ステアリル(Tg38℃)、アクリル酸シクロヘキシル(Tg15℃)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg66℃)、アクリル酸フェノキシエチル(Tg5℃)、メタクリル酸フェノキシエチル(Tg54℃)、メタクリル酸ベンジル(Tg54℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリロイルモルホリン(Tg145℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)、ジメチルアクリルアミド(Tg89℃)、アクリルアミド(Tg165℃)等のアクリル系モノマー、酢酸ビニル(Tg32℃)、スチレン(Tg80℃)等が好ましく挙げられ、相溶性の観点から、アクリル系モノマーがより好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
特に、得られる粘着剤に好適な凝集力と粘着性を付与して、被着体との界面における浮きや剥がれ等の不具合の発生を効果的に抑制する観点から、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、60℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する他のモノマーとの相溶性や共重合性を考慮すると、上記ハードモノマーのガラス転移温度(Tg)は、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。
【0044】
上記ハードモノマーの中でも、他の成分との相溶性等の他の特性への悪影響を防止しつつハードモノマーの性能をより発揮させる観点から、メタクリル酸メチル、アクリル酸イソボルニルおよびアクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。特に、メタクリル酸メチルを単独で使用するか、またはアクリル酸イソボルニルとアクリロイルモルホリンとを併用することが好ましい。
【0045】
上記ハードモノマーは、得られる粘着剤に好適な凝集力および粘着性を付与する観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中において、当該重合体を構成するモノマーとして、5質量%以上含まれることが好ましく、10質量%以上含まれることがより好ましく、15質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0046】
また、上記ハードモノマーは、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、他の成分との相溶性を優れたものとする観点から、重合体を構成するモノマーとして、50質量%以下含まれることが好ましく、40質量%以下含まれることがより好ましく、30質量%以下含まれることが特に好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの作用を妨げないためにも、反応性を有する官能基を含まないモノマーが好ましい。かかる他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、溶液重合法によって得られた溶液重合物であることが好ましい。溶液重合物であることにより、高分子量のポリマーが得られ易く、耐久性に優れた粘着剤が得られる。また、微細化・狭ピッチ化された配線である場合や粘着剤層の厚さが薄い場合においても後述する防錆剤(B)の効果をより発揮し易くなる粘着剤を得られ易い。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値は、20万以上であることが好ましく、45万以上であることがより好ましく、特に55万以上であることが好ましく、電極の抵抗値変化の抑制ならびに配線および粘着剤層の色味変化の抑制の観点から、さらには65万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記であると、得られる粘着剤が耐久性に優れたものとなるとともに、防錆剤(B)が粘着剤層表層に偏析し易くなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0051】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値は、200万以下であることが好ましく、特に150万以下であることが好ましく、さらには100万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記であると、得られる粘着剤が好適な粘着性を発揮するものとなる。
【0052】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(1-2)防錆剤(B)
本実施形態における防錆剤(B)としては、粘着剤層の表層に好適に偏析するものが好ましい。このような防錆剤(B)は、粘着剤層の表面に安定的に存在し易くなるため、その作用を効果的に発揮して、マイグレーション防止効果に寄与することができる。このような防錆剤(B)としては、例えば、アゾール系化合物、トリアゾール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物等のアゾール類の他、リン系化合物、亜硝酸塩系化合物などが挙げられる。これらの中でも、粘着剤層の表層に好適に偏析し易く、マイグレーション防止効果により優れる観点から、アゾール類が好ましく、特にベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。防錆剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、1H-ベンゾトリアゾール、1H-トリルトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2、2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール等が挙げられる。中でも、1H-ベンゾトリアゾール、1H-トリルトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールおよび1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾールが好ましく、特に1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾールが好ましい。これにより、マイグレーションの発生をより効果的に抑制することができる。
【0055】
粘着性組成物P中における防錆剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.002質量部以上であることがより好ましく、特に0.006質量部以上であることが好ましく、さらには0.008質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることが最も好ましい。これにより、防錆剤(B)が得られる粘着剤層の表層に適度に偏析し易くなって、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0056】
また、粘着性組成物P中における防錆剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、1質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、抵抗値変化抑制の観点からは、特に0.1質量部以下であることが好ましく、さらには0.06質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以下であることが最も好ましい。防錆剤(B)の含有量が上記であることにより、前述した被覆度と相俟って優れたマイグレーション防止効果を発揮し易くなる。また、配線上部の粘着剤の防錆剤(B)濃度と配線間の粘着剤の防錆剤(B)濃度との差が極端に大きくなることが抑制されるため、結果として配線近傍の防錆剤(B)の濃度を均一にすることができる。これにより、良好なマイグレーション防止効果を発揮することができる。また、良好な粘着性が維持される。さらに、粘着剤層に含まれる防錆剤(B)の絶対量を抑えることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。
【0057】
本実施形態に係る表示体における粘着剤層を構成する粘着剤中における防錆剤(B)の含有量をα質量%、粘着剤層の厚さをZμmとしたときに、下記式を満たす値であることが好ましい。
0.5<α×Z≦100
α×Zの値が上記範囲にあることにより、前述した被覆度と相俟って優れたマイグレーション防止効果を発揮し易くなる。また、微細化・狭ピッチ化された配線である場合においても、配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤へ、防錆剤が持続的に供給されることで、配線近傍の防錆剤の濃度を均一に維持し易くなる。これにより、より優れたマイグレーション防止効果を発揮することができるとともに、防錆剤による被膜形成が経時的に維持され、配線および粘着剤層の色味変化を抑制することができる。なお、本明細書における粘着剤層11の厚さは、JIS K7130に準じて測定した値とする。
【0058】
上記の観点から、α×Zの下限値は、0.6以上であることが好ましく、特に0.7以上であることが好ましく、さらには0.75以上であることが好ましい。また、α×Zの上限値は、50以下であることが好ましく、特に25以下であることが好ましく、抵抗値変化抑制の観点および配線の色味変化抑制の観点からは、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、特に5以下であることが好ましく、さらには3以下が好ましく、2.5以下が最も好ましい。
【0059】
本実施形態に係る表示体における粘着剤層を構成する粘着剤中における防錆剤(B)の含有量は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.002質量%以上であることがより好ましく、特に0.005質量%以上であることが好ましく、さらには0.008質量%以上であることが好ましく、0.009質量%以上であることが最も好ましい。これにより、防錆剤(B)が、得られる粘着剤層の表層に適度に偏析し易くなって、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0060】
また、上記粘着剤中における防錆剤(B)の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、特に0.1質量%以下であることが好ましく、さらには0.06質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることが最も好ましい。これにより、前述した被覆度と相俟って優れたマイグレーション防止効果を発揮し易くなる。また、配線上部の粘着剤の防錆剤(B)濃度と配線間の粘着剤の防錆剤(B)濃度との差が極端に大きくなることが抑制されるため、結果として配線近傍の防錆剤(B)の濃度を均一にすることができる。これにより、良好なマイグレーション防止効果を発揮することができる。また、良好な粘着性が維持される。さらに、粘着剤層に含まれる防錆剤(B)の絶対量を抑えることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。
【0061】
(1-3)架橋剤(C)
粘着性組成物Pは、架橋剤(C)を含有することが好ましい。粘着性組成物Pは、架橋剤(C)を含有することで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を架橋して三次元網目構造を形成し、得られる粘着剤の凝集力を向上させ、耐久性を向上させることができる。
【0062】
架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として水酸基含有モノマーを含有する場合、その水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0064】
粘着性組成物P中における架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.001質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、特に0.2質量部以上であることが好ましく、さらには0.25質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、上限値として10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、特に0.6質量部以下であることが好ましく、抵抗値変化抑制の観点から、0.4質量部以下であることがさらに好ましい。架橋剤(C)の含有量が上記の範囲にあることにより、得られる粘着剤の凝集力が好ましいものとなり、粘着性により優れた粘着剤が得られる。
【0065】
(1-4)シラン化合物(D)
粘着性組成物Pは、シラン化合物(D)を含有することが好ましい。粘着性組成物Pは、シラン化合物(D)を含有することにより、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0066】
シラン化合物(D)は、アルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。これにより、得られる粘着剤層において、被着体である表示体構成部材との密着性が向上し、粘着力がより好ましいものとなる。また、アルコキシシリル基の作用により、得られる粘着剤層に隣接する電極に水分が浸入することが抑制されるものと考えられ、これにより、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0067】
シラン化合物(D)としてのアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物は、例えばシランカップリング剤であってもよく、具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、マイグレーション防止効果の観点および粘着性の観点からエポキシ構造を有するケイ素化合物が好ましく、特に3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0068】
また、シラン化合物(D)は、両末端にアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物であってもよい。好ましくは下記一般式(I)で表される化合物である。
【化1】
(式中のR
1は、窒素原子を有していてもよい2価の炭化水素基である。式中のR
2~R
7は、それぞれ独立してアルキル基である。)
【0069】
マイグレーション防止効果の観点から、上記R1の2価の炭化水素基の炭素数は、1~10であることが好ましく、特に3~8であることが好ましく、さらには5~7であることが好ましい。また、上記炭化水素基は、飽和炭化水素基であることが好ましく、特に鎖式飽和炭化水素基であることが好ましい。さらに、上記炭化水素基は、アルキレン基を含むものであることが好ましく、特にアルキレン基であることが好ましい。そのアルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、特に3~8であることが好ましく、さらには5~7であることが好ましい。
【0070】
上記R1が窒素原子を有する場合、その窒素原子は、上記炭化水素基の側鎖に存在してもよいが、上記炭化水素基の主鎖に存在することが好ましい。上記R1が窒素原子を有する場合、R1中に含まれる窒素原子の数は、1~5であることが好ましく、特に2~3であることが好ましい。上記窒素原子は、アミノ基またはアミド基であることが好ましく、特にアミノ基であることが好ましく、さらには、第二級アミンまたは第三級アミンとして上記炭化水素基の主鎖に存在することが好ましい。
【0071】
上記R1が窒素原子を有する場合、R1は、-(CH)m-NH-の骨格を含むことが好ましく、-(CH)m-NH-(CH)n-の骨格を含むことがより好ましく、特に、-(CH)m-NH-(CH)n-NH-の骨格を含むことが好ましく、さらには、-(CH)m-NH-(CH)n-NH-(CH)p-の骨格を含むことが好ましい。上記m、nおよびpは、正の整数であり、1~5であることが好ましく、特に2~4であることが好ましい。
【0072】
上記R1は、主鎖に硫黄原子を有しないことが好ましい。主鎖に硫黄原子を有すると、耐久試験環境において、粘着剤と、金属(特に銀)または金属酸化物(特にITO)からなる配線との界面を起点に金属硫化物が生成され易くなる。これにより、前述したマイグレーション防止効果が阻害されるおそれがある。
【0073】
上記R2~R7のアルキル基の炭素数は、それぞれ1~6であることが好ましく、特に1~3であることが好ましく、さらには1~2であることが好ましい。また、上記R2~R7は全て同じアルキル基であることが好ましく、全てメチル基であることが最も好ましい。
【0074】
粘着性組成物P中におけるシラン化合物(D)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、特に0.16質量部以上であることが好ましく、さらには0.22質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、上限値として2質量部以下であることが好ましく、特に1質量部以下であることが好ましく、さらには0.5質量部以下であることが好ましい。シラン化合物(D)の含有量が上記の範囲であることにより、シラン化合物(D)による作用が効果的に発揮され、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0075】
(1-5)活性エネルギー線硬化性成分(E)
粘着性組成物Pから得られる粘着剤を活性エネルギー線硬化性粘着剤とする場合には、粘着性組成物Pは、活性エネルギー線硬化性成分(E)を含有することが好ましい。粘着性組成物Pが活性エネルギー線硬化性成分(E)を含有することにより、粘着性組成物Pを架橋(熱架橋)して得られる粘着剤は、活性エネルギー線硬化性の粘着剤となる。この活性エネルギー線硬化性粘着剤においては、被着体貼付後の活性エネルギー線照射による硬化により、活性エネルギー線硬化性成分(E)が互いに重合し、その重合した活性エネルギー線硬化性成分(E)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の架橋構造(三次元網目構造)に絡み付くものと推定される。かかる高次構造を有する粘着剤は、凝集力が高く、高い被膜強度を示すため、耐久性により優れたものとなる。
【0076】
活性エネルギー線硬化性成分(E)は、活性エネルギー線の照射によって硬化し、上記の効果が得られる成分であれば特に制限されず、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよいし、それらの混合物であってもよい。中でも、耐久性により優れた粘着剤を得ることのできる多官能アクリレート系モノマーを好ましく挙げることができる。
【0077】
多官能アクリレート系モノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の2官能型;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の3官能型;ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能型;プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能型;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能型などが挙げられる。上記の中でも、得られる粘着剤に好適な凝集力および粘着性を付与して、被着体との界面での浮きや剥がれ等の不具合の発生を効果的に抑制する観点から、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の分子内にイソシアヌレート構造を含有する多官能アクリレート系モノマーが好ましく、3官能以上、かつ、分子内にイソシアヌレート構造を含有する多官能アクリレート系モノマーがより好ましく、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性の観点から、多官能アクリレート系モノマーは、分子量1000未満のものが好ましい。
【0078】
活性エネルギー線硬化性成分(E)としては、活性エネルギー線硬化型のアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。このようなアクリレート系オリゴマーの例としては、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系等が挙げられる。
【0079】
上記アクリレート系オリゴマーの重量平均分子量は、50,000以下であることが好ましく、特に1,000~50,000であることが好ましく、さらには3,000~40,000であることが好ましい。
【0080】
また、活性エネルギー線硬化性成分(E)としては、(メタ)アクリロイル基を有する基が側鎖に導入されたアダクトアクリレート系ポリマーを用いることもできる。このようなアダクトアクリレート系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルと、分子内に架橋性官能基を有する単量体との共重合体を用い、当該共重合体の架橋性官能基の一部に、(メタ)アクリロイル基および架橋性官能基と反応する基を有する化合物を反応させることにより得ることができる。
【0081】
上記アダクトアクリレート系ポリマーの重量平均分子量は、5万~90万程度であることが好ましく、10万~50万程度であることが特に好ましい。
【0082】
活性エネルギー線硬化性成分(E)は、前述した多官能アクリレート系モノマー、アクリレート系オリゴマーおよびアダクトアクリレート系ポリマーの中から、1種を選んで用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできるし、それら以外の活性エネルギー線硬化性成分と組み合わせて用いることもできる。
【0083】
粘着性組成物Pが活性エネルギー線硬化性成分(E)を含有する場合、活性エネルギー線硬化性成分(E)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることが特に好ましい。また、上記含有量は、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることが特に好ましい。活性エネルギー線硬化性成分(E)の含有量が上記範囲にあることにより、活性エネルギー線硬化後の粘着剤の凝集力や粘着力が向上し、耐久性がより優れたものとなる。
【0084】
(1-6)光重合開始剤(F)
粘着性組成物Pから得られる粘着剤を活性エネルギー線硬化性粘着剤とした場合において、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、粘着性組成物Pは、さらに光重合開始剤(F)を含有することが好ましい。光重合開始剤(F)を含有することにより、活性エネルギー線硬化性成分(E)を効率良く重合させることができ、また重合硬化時間および活性エネルギー線の照射量を少なくすることができる。
【0085】
このような光重合開始剤(F)としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2-(ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリ-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミノ安息香酸エステル、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
粘着性組成物Pが活性エネルギー線硬化性成分(E)および光重合開始剤(F)を含有する場合、光重合開始剤(F)の含有量は、活性エネルギー線硬化性成分(E)100質量部に対して、下限値として1質量部以上であることが好ましく、さらには5質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、上限値として30質量部以下であることが好ましく、特に15質量部以下であることが好ましい。光重合開始剤(F)の含有量が上記範囲にあることにより、活性エネルギー線硬化後の粘着剤の凝集力および粘着力が向上し、耐久性がより優れたものとなる。
【0087】
(1-7)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0088】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾオキサジノン系、トリアジン系、フェニルサリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の化合物が挙げられ、これらの中でも、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物の少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0089】
上記ベンゾフェノン系化合物の例としては、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水和物、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0090】
上記ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパン酸等が挙げられる。
【0091】
上記トリアジン系化合物の例としては、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン、2-[4,6-ジ(2,4-キシリル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-オクチルオキシフェノール等が挙げられる。
【0092】
以上の紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
粘着性組成物Pが紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.8質量部以上であることが好ましい。また、上記含有量は、15質量部以下であることが好ましく、特に8質量部以下であることが好ましく、さらには2質量部以下であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲であることで、粘着剤層が良好な紫外線吸収性を発揮し易いものとなる。
【0094】
なお、粘着性組成物Pは、粘着剤層中に、そのまま、あるいは反応した状態で、残存する各種成分の混合物を表すものであって、乾燥工程等で除去される成分、例えば、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pに含まれない。
【0095】
(2)粘着性組成物の製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、防錆剤(B)とを混合するとともに、所望により、架橋剤(C)、シラン化合物(D)、活性エネルギー線硬化性成分(E)、光重合開始剤(F)、添加剤等を加えることで製造することができる。
【0096】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位の混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0097】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0098】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0099】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0100】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、防錆剤(B)、架橋剤(C)、シラン化合物(D)、活性エネルギー線硬化性成分(E)、光重合開始剤(F)、添加剤、希釈溶剤等を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得ることができる。
【0101】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0102】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10~40質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0103】
(3)粘着剤層の形成
本実施形態に係る表示体における粘着剤層は、好ましくは前述した粘着性組成物P(の塗布層)を架橋した粘着剤からなる。粘着性組成物Pの架橋は、加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、塗布した粘着性組成物Pの希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0104】
加熱処理を行う場合、加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤層が形成される。
【0105】
(4)粘着剤の物性(ゲル分率)
本実施形態に係る表示体における粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率は、下限値として、30%以上であることが好ましく、特に40%以上であることが好ましく、さらには45%以上であることが好ましい。上記粘着剤のゲル分率の下限値が上記であると、凝集力が向上し、耐久性がより高いものとなる。また、上記ゲル分率は、上限値として、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、特に75%以下であることが好ましく、粘着力をより高める観点では、65%以下であることが好ましく、さらには55%以下であることが好ましい。粘着剤のゲル分率の上限値が上記であると、粘着剤が硬くなり過ぎず、粘着力がより高いものとなる。また、防錆剤(B)が、粘着剤層の表層へ好適に偏析し易くなる。この粘着剤のゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0106】
(5)粘着剤層の厚さ
粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)の下限値は、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記であることにより、被覆度が前述した範囲に入り易くなる。また、微細化・狭ピッチ化された配線である場合においても、配線上部の粘着剤から配線間の粘着剤に防錆剤(B)が持続的に供給されることで、配線近傍の防錆剤(B)の濃度を均一に維持し易くなる。これにより、より優れたマイグレーション防止効果を発揮することができるとともに、防錆剤(B)による被膜形成が経時的に維持されて、配線および粘着剤層の色味変化を抑制することができる。また、粘着剤層11の厚さの下限値が上記であることにより、優れた粘着力が十分に発揮される。
【0107】
また、粘着剤層11の厚さの上限値は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、特に80μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記であることにより、被覆度が前述した範囲に入り易くなる。また、粘着剤層11に含まれる防錆剤(B)の絶対量を少なくすることができるため、防錆剤(B)に起因する配線の色味変化を抑制することができる。さらに、粘着シート1の加工性が良好になる。、粘着剤層11の厚さの上限値は、被覆度が前述した範囲に入り易く優れたマイグレーション効果を発揮しながらもより薄い表示体を得ることができる観点においては、60μm以下であることが好ましく、さらには30μm以下であることが好ましい。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0108】
1-2.剥離シート
剥離シート12a,12bとしては、特に限定されることはなく、公知のプラスチックフィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0109】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0110】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0111】
2.粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例としては、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0112】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0113】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0114】
3.粘着シートの物性
3-1.粘着力
本実施形態に係る表示体を製造することのできる粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として10N/25mm以上であることが好ましく、特に15N/25mm以上であることが好ましく、さらには20N/25mm以上であることが好ましい。上記粘着力の下限値が上記であると、粘着剤層11の耐久性がより優れたものとなる。また、上記粘着力は、上限値として、100N/25mm以下であることが好ましく、75N/25mm以下であることがより好ましく、特に50N/25mm以下であることが好ましく、さらには35N/25mm以下であることが好ましく、25N/25mm以下であることが最も好ましい。上記粘着力の上限値が上記であると、マイグレーション抑制効果、色味変化抑制効果、抵抗値変化抑制効果を効果的に発揮しながらも良好なリワーク性が得られ、貼合ミスが生じた場合でも貼り直しが可能な粘着シートとなる。
【0115】
上記粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいうが、測定サンプルは25mm幅、100mm長とし、当該測定サンプルを被着体に貼付し、0.5MPa、50℃で20分加圧した後、常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、剥離速度300mm/minにて測定するものとする。
【0116】
3-2.ヘイズ値
粘着シート1の粘着剤層11のヘイズ値は、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、特に0.3%以下であることが好ましく、さらには0.2%以下であることが好ましい。粘着剤層11のヘイズ値が上記であることにより、光透過性に優れ、ディスプレイ用として好適なものとなる。上記ヘイズ値の下限値は、特に限定されず、0%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましい。
【0117】
なお、上記ヘイズ値は粘着剤層の厚さも含めた特性値であり、粘着剤層の厚さにかかわらず、上記ヘイズ値を満たすことが好ましい。ここで、本明細書におけるヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定した値とする。
【0118】
3-3.全光線透過率
粘着シート1の粘着剤層11の全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、特に90%以上であることが好ましく、さらには95%以上であることが好ましく、99%以上であることが最も好ましい。粘着剤層11の全光線透過率が上記であることにより、光透過性に優れ、ディスプレイ用として好適なものとなる。上記全光線透過率の上限値は、通常、100%である。なお、本明細書における全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定した値である。
【0119】
3-4.CIE1976L*a*b*表色系
粘着シート1の粘着剤層11は、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*の絶対値が、0以上であることが好ましく、特に0.1以上であることが好ましい。また、当該色度a*の絶対値は、0.8以下であることが好ましく、特に0.6以下であることが好ましく、さらには0.4以下であることが好ましい。粘着剤層11の色度b*の絶対値は、0以上であることが好ましく、特に0.1以上であることが好ましい。また、当該色度b*の絶対値は、0.8以下であることが好ましく、特に0.6以下であることが好ましく、さらには0.4以下であることが好ましい。上記により、粘着剤層11は、ディスプレイ用として好適な色味を有するものとなる。なお、本明細書における色度a*およびb*の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0120】
〔表示体〕
本実施形態に係る表示体は、第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備える。当該粘着剤層は、防錆剤を含有する粘着剤から構成されることを要し、前述した粘着性組成物Pから得られる粘着剤から構成されることが好ましい。ここで、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側(粘着剤層側)の面に金属または金属酸化物からなる配線を有する。好ましい構成としては、第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に上記配線を有する。
【0121】
表示体としては、例えば、液晶(LCD)ディスプレイ、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。また、表示体としては、それらの一部を構成する部材であってもよい。
【0122】
第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材は、いずれも、しならない硬質体であってもよい。前述した粘着性組成物Pから得られる粘着剤層によれば、硬質体である第1の表示体構成部材と硬質体である第2の表示体構成部材とを問題なく貼合することができる。
【0123】
第1の表示体構成部材は、ガラス板、プラスチック板等の他、それらを含む積層体などからなる保護パネルであることが好ましい。第1の表示体構成部材は、粘着剤層側の面に段差を有していてもよい。この場合、具体的には、印刷層による段差を有することが好ましい。この印刷層は、額縁状に形成されることが一般的である。
【0124】
上記ガラス板としては、特に限定されることなく、例えば、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等が挙げられる。ガラス板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.1~5mmであり、好ましくは0.2~2mmである。
【0125】
上記プラスチック板としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル板、ポリカーボネート板等が挙げられる。プラスチック板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.2~5mmであり、好ましくは0.4~3mmである。
【0126】
なお、上記ガラス板やプラスチック板の片面または両面には、各種の機能層(電極層、シリカ層、ハードコート層、防眩層等)が設けられていてもよいし、光学部材が積層されていてもよい。
【0127】
印刷層を構成する材料は特に限定されることなく、印刷用の公知の材料が使用される。印刷層の厚さ、すなわち段差の高さの下限値は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが特に好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。下限値が上記以上であることにより、電気配線を視認者側から見えなくする等の隠蔽性を十分に確保することができる。また、上限値は、50μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが特に好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。上限値が上記以下であることにより、当該印刷層に対する粘着剤層の段差追従性の悪化を防止することができる。
【0128】
第2の表示体構成部材は、第1の表示体構成部材が貼付されるべき光学部材、表示体モジュール(例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等)、表示体モジュールの一部としての光学部材、または表示体モジュールを含む積層体であって、少なくとも粘着剤層側の面に金属または金属酸化物からなる配線を有することが好ましい。
【0129】
上記光学部材としては、例えば、フィルムセンサー、電極フィルム、金属ナノワイヤーフィルム、ワイヤーグリッド偏光フィルム等が挙げられる。
【0130】
金属からなる配線としては、例えば、銀、銀合金、銅、銅合金等からなる配線(メッシュ状・グリッド状・ナノワイヤ状のものを含む)が挙げられる。特に、タッチパネルの電極を構成するものが好ましく例示され、具体的には、フィルムセンサーに含まれるものが好ましく例示される。上記金属からなる配線の中でも、銀または銀合金のナノ粒子からなる配線が好ましく、銀合金としては、特に銀にパラジウムおよび銅が添加された銀合金金属配線が好ましい。酸化されていない金属は、ITO等の金属酸化物よりもイオン化傾向が高いが、本実施形態に係る表示体によれば、その場合でも、配線の断線や短絡が効果的に防止される。
【0131】
金属酸化物からなる配線としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛等の金属酸化物からなる透明導電膜をパターニングしたものが挙げられる。上記の中でも、特にITOからなる透明導電膜をパターニングしたものが好ましく、当該ITO透明導電膜に対して、優れたマイグレーション防止効果が発揮され易い。
【0132】
上記金属または上記金属酸化物からなる配線幅は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。また、当該配線幅は、1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、特に8μm以上が好ましく、さらには10μm以上が好ましい。配線幅が上記範囲であると、電極の微細化および狭ピッチ化に寄与しつつ、被覆度が前述した範囲に入り易くなるため、より優れたマイグレーション防止効果を発揮できる。これにより、電極の接続信頼性向上等に寄与することができる。被覆度が前述した範囲に入りながらもより微細化および狭ピッチ化した配線を有した表示体を得る観点からは、特に20μm以下が好ましく、さらには12μm以下が好ましい。
【0133】
上記金属または上記金属酸化物からなる配線間の間隙の距離(配線間距離)は、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。また、当該配線間距離は、1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、特に8μm以上が好ましく、さらには10μm以上が好ましい。配線間距離が上記範囲であると、電極の微細化および狭ピッチ化に寄与しつつ、被覆度が前述した範囲に入り易くなるため、より優れたマイグレーション防止効果を発揮できる。これにより、電極の接続信頼性向上等に寄与することができる。被覆度が前述した範囲に入りながらもより微細化および狭ピッチ化した配線を有した表示体を得る観点からは、特に20μm以下が好ましく、さらには12μm以下が好ましい。
【0134】
上記金属または上記金属酸化物からなる配線厚さは、1μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、特に0.3μm以下が好ましく、さらには0.2μm以下が好ましい。また、当該配線厚さは、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、特に0.1μm以上が好ましく、さらには0.15μm以上が好ましい。配線厚さが上記範囲であると、電極の薄化に寄与しつつ、被覆度が前述した範囲に入り易くなるため、より優れたマイグレーション防止効果を発揮できる。これにより、電極の接続信頼性向上等に寄与することができる。
【0135】
本実施形態に係る表示体の一例として、
図2に静電容量方式のタッチパネル2を示す。タッチパネル2は、表示体モジュール3と、その上に粘着剤層4を介して積層された第1のフィルムセンサー5aと、その上に第1の粘着剤層11を介して積層された第2のフィルムセンサー5bと、その上に第2の粘着剤層11を介して積層されたカバー材6とを備えて構成される。カバー材6の第2の粘着剤層11側の面には、印刷層7が形成されており、したがって、印刷層7の有無による段差が存在する。本実施形態では、カバー材6が上記第1の表示体構成部材に該当し、第2のフィルムセンサー5bが上記第2の表示体構成部材に該当し、あるいは、第2のフィルムセンサー5bが上記第1の表示体構成部材に該当し、第1のフィルムセンサー5aが上記第2の表示体構成部材に該当する。
【0136】
マイグレーション防止効果を考慮すれば、上記タッチパネル2における第1の粘着剤層11および第2の粘着剤層11の両者とも上記粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。なお、第1の粘着剤層11または第2の粘着剤層11が上記粘着シート1の粘着剤層11でない場合、当該粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられ、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0137】
粘着剤層4は、上記粘着シート1の粘着剤層11によって形成してもよいし、他の粘着剤または粘着シートによって形成してもよい。後者の場合、粘着剤層4を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられるが、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0138】
本実施形態における第1のフィルムセンサー5aおよび第2のフィルムセンサー5bは、それぞれ基材フィルム51と、基材フィルム51に形成された電極52とを備える。基材フィルム51としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム等が使用される。
【0139】
第1のフィルムセンサー5aの電極52および/または第2のフィルムセンサー5bの電極52は、金属または金属酸化物からなる配線から構成される。金属または金属酸化物からなる配線は、前述したものが例示される。第1のフィルムセンサー5aの電極52および第2のフィルムセンサー5bの電極52は、通常、一方がX軸方向の回路パターンを構成し、他方がY軸方向の回路パターンを構成する。
【0140】
本実施形態における第2のフィルムセンサー5bの電極52は、
図2中、第2のフィルムセンサー5bの上側に位置している。一方、第1のフィルムセンサー5aの電極52は、
図2中、第1のフィルムセンサー5aの上側に位置しているが、これに限定されるものではなく、第1のフィルムセンサー5aの下側に位置してもよい。
【0141】
上記タッチパネル2の製造方法の一例を、以下に説明する。
粘着シート1として、第1の粘着シート1および第2の粘着シート1を用意する。第1の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第1の粘着剤層)を、第1のフィルムセンサー5aの電極52と接するように、当該第1のフィルムセンサー5aと貼合する。また、第2の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第2の粘着剤層11)を、第2のフィルムセンサー5bの電極52と接するように、当該第2のフィルムセンサー5bと貼合する。
【0142】
そして、第1の粘着シート1における他方の剥離シート12bを剥離し、露出した第1の粘着剤層11が、上記第2のフィルムセンサー5bにおける第2の粘着剤層11が積層された側とは反対側の面(第2のフィルムセンサー5bの基材フィルム51の露出面)に接するように、両者を貼合する。これにより、剥離シート12b、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11および第1のフィルムセンサー5aが順次積層されてなる積層体が得られる。
【0143】
次に、上記積層体の第1のフィルムセンサー5a側の面(第1のフィルムセンサー5aの基材フィルム51の露出面)に、剥離シート上に設けられた粘着剤層4を貼合する。続いて、上記積層体から剥離シート12bを剥離し、露出した第2の粘着剤層11に対して、カバー材6の印刷層7側が当該第2の粘着剤層11に接するように、当該カバー材6を貼合する。上記貼合により、カバー材6、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11、第1のフィルムセンサー5a、粘着剤層4および剥離シートが順次積層されてなる構成体が得られる。
【0144】
続いて、上記構成体から剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層4が表示体モジュール3に接するように、当該構成体を表示体モジュール3に貼合する。これにより、
図2に示されるタッチパネル2が製造される。
【0145】
ここで、第1の粘着剤層11および/または第2の粘着剤層11が活性エネルギー線硬化性粘着剤からなる場合には、上記構成体またはタッチパネル2中の粘着剤層11に対して活性エネルギー線を照射する。これにより、粘着剤層11中の活性エネルギー線硬化性成分(E)が重合し、粘着剤層11が硬化して硬化後粘着剤層となる。粘着剤層11に対するエネルギー線の照射は、通常、上記構成体またはタッチパネル2の一方の面側から行い、好ましくは、カバー材6の面側から行う。
【0146】
なお、活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものをいい、具体的には、紫外線や電子線などが挙げられる。活性エネルギー線の中でも、取扱いが容易な紫外線が特に好ましい。
【0147】
紫外線の照射は、高圧水銀ランプ、フュージョンHランプ、キセノンランプ等によって行うことができ、紫外線の照射量は、照度が50~1000mW/cm2であることが好ましく、100~600mW/cm2であることが好ましい。また、光量は、50~10000mJ/cm2であることが好ましく、80~5000mJ/cm2であることがより好ましく、200~2000mJ/cm2であることが特に好ましい。一方、電子線の照射は、電子線加速器等によって行うことができ、電子線の照射量は、10~1000krad程度が好ましい。
【0148】
上記硬化後粘着剤層を構成する粘着剤(活性エネルギー線照射後の粘着剤)のゲル分率は、下限値として、40%以上であることが好ましく、特に55%以上であることが好ましく、さらには65%以上であることが好ましい。活性エネルギー線照射後の粘着剤のゲル分率の下限値が上記であると、耐久性がより高いものとなる。また、上記ゲル分率は、上限値として、90%以下であることが好ましく、特に80%以下であることが好ましく、さらには75%以下であることが好ましい。活性エネルギー線照射後の粘着剤のゲル分率の上限値が上記であると、硬化後粘着剤層の粘着力が低下して耐久性が悪化するのを防止することができる。この活性エネルギー線照射後の粘着剤のゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0149】
上記硬化後粘着剤層を有する粘着シートのソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として10N/25mm以上であることが好ましく、20N/25mm以上であることがより好ましく、特に30N/25mm以上であることが好ましく、さらには40N/25mm以上であることが好ましい。上記粘着力の下限値が上記であると、得られる製品(タッチパネル2)としての耐久性が高いものとなる。また、上記粘着力の上限値は、特に限定されないが、通常、100N/25mm以下であることが好ましく、特に80N/25mm以下であることが好ましく、さらには60N/25mm以下であることが好ましい。
【0150】
上記粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいうが、測定サンプルは25mm幅、100mm長とし、当該測定サンプルを被着体に貼付し、0.5MPa、50℃で20分加圧した後、後述する試験例に示す条件で活性エネルギー線(紫外線)を照射し、常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、剥離速度300mm/minにて測定するものとする。
【0151】
上記タッチパネル2が高温高湿条件下に置かれ、その状態で電極52に電圧が印加された場合、電極52が金属または金属酸化物からなる配線から構成されていても、電極52のマイグレーションが効果的に抑制され、また、電極52の抵抗値変化が効果的に抑制される。これにより、電極52の断線や短絡に起因するタッチパネル2の駆動不良が防止される。
【0152】
ここで、電極52の抵抗値変化を具体的に説明する。粘着シート1の粘着剤層11を介して、ポリエチレンテレフタレートと電極板(実施例では銀配線電極板)とを貼合し、得られた積層体について、耐久試験(105℃・100%RH,3時間,5Vの電圧を印加)を行ったときに、電極板の下記式により算出される抵抗値変化率が、500%未満であることが好ましく、特に100%未満であることが好ましい。なお、下限値は特に限定されないが、0%以上であることが好ましい。
抵抗値変化率(%)={(R-R0)/R0}×100
(式中、R0は耐久試験前の初期抵抗値(Ω)であり、Rは耐久試験後の抵抗値(Ω)である。)
上記抵抗値変化率の測定方法の詳細は、後述する試験例に示す通りである。
【0153】
粘着シート1の粘着剤層11を介して、ソーダライムガラスとITO蒸着フィルムとを貼合し、得られた積層体について、耐久試験(85℃・85%RH,1000時間)を行ったときに、ITO蒸着フィルムの上記式により算出される抵抗値変化率が、300%未満であることが好ましく、特に100%未満であることが好ましく、さらには50%未満であることが好ましい。なお、下限値は特に限定されないが、0%以上であることが好ましい。同様に、粘着シート1の粘着剤層11を介して、ソーダライムガラスとITO蒸着フィルムとを貼合し、得られた積層体について、耐久試験(95℃,1000時間)を行ったときに、ITO蒸着フィルムの上記式により算出される抵抗値変化率が、100%未満であることが好ましく、特に50%未満であることが好ましく、さらには20%未満であることが好ましい。なお、下限値は特に限定されないが、0%以上であることが好ましい。
【0154】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0155】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方は省略されてもよい。また、タッチパネル2において、カバー材6には印刷層7が形成されていなくてもよい。
【実施例0156】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0157】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル60質量部、メタクリル酸メチル20質量部およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル20質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)80万であった。
【0158】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、防錆剤(B)としての1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール0.01質量部と、架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネート0.25質量部と、シラン化合物(D)としての3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(D1)0.25質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0159】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号、成分等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
MMA:メタクリル酸メチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
IBXA:アクリル酸イソボルニル
ACMO:N-アクリロイルモルホリン
BA:アクリル酸n-ブチル
[シラン化合物(D)]
D1:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン
D2:下記構造式(II)で示される有機ケイ素化合物
【化2】
[活性エネルギー線硬化性成分(E)]
ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(新中村化学社製,製品名「NKエステル A-9300-1CL」)
[光重合開始剤(F)]
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとベンゾフェノンとの1:1(質量比)混合物
[紫外線吸収剤]
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASFジャパン社製,製品名「TINUVIN 384-2」)
【0160】
3.粘着シートの製造
上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET382150」,厚さ:38μm)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、80℃で1分間加熱処理し、さらに110℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:75μm)を形成した。
【0161】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:75μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、上記粘着剤層を構成する粘着剤中における防錆剤(B)の含有量は、0.01質量%であった。
【0162】
〔実施例2~14,比較例1~6〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量、防錆剤(B)の配合量、架橋剤(C)の配合量、シラン化合物(D)の種類、ならびに粘着剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、実施例4については、さらに紫外線吸収剤を添加し、実施例12については、さらに活性エネルギー線硬化性成分(E)および光重合開始剤(F)を添加した。
【0163】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC-8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL-H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0164】
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0165】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0166】
なお、実施例12の粘着シートについては、粘着剤層に対して紫外線(UV)を照射(重剥離型剥離シート側から照射)する前後のゲル分率を測定した。紫外線の照射条件は以下の通りである。
【0167】
<紫外線照射条件>
・高圧水銀ランプ使用
・照度200mW/cm2,光量1000mJ/cm2
・UV照度・光量計はアイグラフィックス社製「UVPF-A1」を使用
【0168】
〔試験例2〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャインPET100A4360」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、100mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0169】
23℃、50%RHの環境下にて、上記サンプルから重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付したのち、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロン」)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0170】
また、実施例12の粘着シートについては、別途、紫外線(UV)照射後の粘着力も測定した。具体的には、上記オートクレーブ処理の後、試験例1と同様の条件でソーダライムガラス側から粘着剤層に紫外線を照射した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、上記と同様にして粘着力(N/25mm;UV後)を測定した。結果を表2に示す。
【0171】
〔試験例3〕(ヘイズ値の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いて、ヘイズ値(全光線ヘイズ値;%)を測定した。結果を表2に示す。
【0172】
〔試験例4〕(全光線透過率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7361-1:1997に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「SH-7000」)を用いて、全光線透過率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0173】
〔試験例5〕(L*a*b*表色系の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層について、同時測光分光式色度計(日本電色工業社製,製品名「SQ2000」)を使用し、CIE1976L*a*b*表色系により規定される色度a*および色度b*を測定した。結果を表2に示す。
【0174】
〔試験例6〕(銀配線電極板を用いたマイグレーション防止効果の評価)
(1)銀配線電極板の作製
ソーダライムガラス(縦70mm×横150mm×厚さ1.0mm;日本板硝子社製)の片面上に、スクリーン印刷法により、銀ペースト(トーヨーケム社製,製品名「RA FS088」)を、正極の配線と負極の配線とがそれぞれ直線状、かつ平行になるように塗布した。その後、135℃で30分加熱処理を行い硬化させることで、銀配線(厚さ:0.15μm)が印刷されたガラス(銀配線電極板)を得た。正極および負極それぞれの配線幅;配線間の間隙の距離(配線間距離)が10μm;10μmである銀配線電極板X10、配線幅;配線間距離が15μm;15μmである銀配線電極板X15、配線幅;配線間距離が30μm;30μmである銀配線電極板X30を作製した。なお、いずれの銀配線電極板も配線厚さは0.15μmとした。
【0175】
(2)被膜度の算出
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャインPET100A4360」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。次いで、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、上記の銀配線電極板X10、X15またはX30における正極の配線および負極の配線上に貼付した。そして、50℃、0.5MPaの条件にて20分間オートクレーブ処理を行った後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置し、これを銀配線電極板サンプルとした。
【0176】
なお、実施例12の粘着シートについては、上記オートクレーブ処理の後、試験例1と同様の条件でPETフィルム側から粘着剤層に紫外線を照射し、これをサンプルとした。
【0177】
ここで、実施例1で作製した粘着シートと銀配線電極板X10からなる銀配線電極板サンプルにおける被覆度を以下のように算出した。
まず、上記銀配線電極板サンプルにおける配線の平面視1mm2(1000μm×1000μm)当たりの配線体積(μm3)を、以下のように算出した。
銀配線電極板X10の配線幅は10μm、配線間距離は10μm、配線厚さは0.15μmである。このとき、配線一本あたりの配線体積は、
10μm×0.15μm×1000μm(μm3)
である。そして、平面視1mm2(1000μm×1000μm)当たりの配線本数は、
1000μm/(10μm+10μm)(本)
である。したがって、上記配線の平面視1mm2当たりの配線体積(μm3)を、下記式(1-1)により算出した。
{10μm×0.15μm×1000μm}×{1000μm/(10μm+10μm)}・・・(1-1)
次に、上記銀配線電極板サンプルの粘着剤層の平面視1mm2(1000μm×1000μm)当たりの粘着剤体積(μm3)を、下記式(2-1)により算出した。なお、前述の通り、実施例1の粘着シートの粘着剤層の厚さは75μmである。
75μm×1000μm×1000μm(μm3)・・・(2-1)
被覆度は、(2-1)を(1-1)で除して算出した。
他の実施例および比較例についても、実施例1と同様に被覆度を算出した。結果を表2に示す。
【0178】
(3)マイグレーション防止効果
上記銀配線電極板サンプルを、105℃、100%RHの湿熱条件下に3時間静置し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加した。その後、正極の配線および負極の配線を光学顕微鏡(倍率:10倍)で観察し、以下に示す評価基準に基づいてマイグレーション防止効果を評価した。結果を表2に示す。なお、いずれの実施例および比較例のサンプルにおいても、浮き、剥がれ、気泡の発生などの不具合は確認されなかった。
〇:正極の配線の溶解および負極の配線におけるデンドライトの形成が全く観られない。
×:正極の配線の溶解または負極の配線におけるデンドライトの形成が観られる。
【0179】
〔試験例7〕(銀配線電極板を用いた配線の色味変化の評価)
試験例6と同様に作製した銀配線電極板サンプルを用いて、105℃、100%RHの湿熱条件下に3時間静置し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加した。その後、正極の配線および負極の配線を光学顕微鏡(倍率:10倍)で観察し、以下に示す評価基準に基づいて配線の色味変化を評価した。結果を表2に示す。
◎:正極の配線および負極の配線の色味に変化がない。
〇:正極の配線または負極の配線に変色が観られる。
-:マイグレーションが発生する(正極の配線の溶解または負極の配線におけるデンドライトの形成が観られる)ため、評価不可。
【0180】
〔試験例8〕(銀配線電極板を用いた抵抗値変化の評価)
試験例6と同様に作製した銀配線電極板サンプルについて、正極の配線および負極の配線間に5Vの電圧を印加することにより、デジタルハイテスター(日置電機株式会社製,製品名「ディジタルハイテスタ3802-50」)を使用して初期の抵抗値R0(Ω)を測定した。
【0181】
次に、上記銀配線電極板サンプルを、105℃・100%RHの湿熱環境に3時間投入し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加した。その後、23℃・50%RHの常温常湿環境で24時間静置し、上記初期の抵抗値と同様にして抵抗値(Ω)を測定した。これを耐久試験後の抵抗値Rとした。得られた測定値から、下記式により抵抗値変化率(%)を算出した。
抵抗値変化率(%)={(R-R0)/R0}×100
【0182】
そして、上記で算出した抵抗値変化率に基づいて、以下の基準により抵抗値変化を評価した。結果を表2に示す。
○:抵抗値変化率が100%未満
△:抵抗値変化率が100%以上、500%未満
×:抵抗値変化率が500%以上
【0183】
〔試験例9〕(ITO蒸着フィルムを用いた抵抗値変化の評価)
実施例および比較例で得られた粘着シートの粘着剤層を介して、ソーダライムガラス(縦70mm×横150mm×厚さ1.0mm;日本板硝子社製)と、ITO蒸着フィルム(尾池工業社製,製品名「テトライト TCF KH150NMH2-125-U6/T2」,ITO蒸着膜側が粘着剤層と接触)とを貼り合わせた。そして、50℃、0.5MPaの条件で20分間オートクレーブ処理を行った後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置し、ITO蒸着フィルムサンプルを得た。
【0184】
なお、実施例12の粘着シートについては、上記オートクレーブ処理の後、試験例1と同様の条件でソーダライムガラス側から粘着剤層に紫外線を照射し、これを測定サンプルとした。
【0185】
上記ITO蒸着フィルムサンプルについて、非接触抵抗測定器(ナプソン社製,製品名「EC-80」)を使用して、初期の抵抗値R0(Ω)を測定した。
【0186】
次に、上記ITO蒸着フィルムサンプルを、85℃・85%RHの湿熱環境に1000時間、または95℃の高温環境に1000時間投入した。その後、23℃・50%RHの常温常湿環境で24時間静置し、上記初期の抵抗値と同様にして、それぞれ抵抗値(Ω)を測定した。これを耐久試験後の抵抗値Rとした。得られた測定値から、試験例8と同様の式により抵抗値変化率(%)を算出した。
【0187】
そして、上記で算出した抵抗値変化率に基づいて、以下の基準により抵抗値変化を評価した。結果を表2に示す。
<85℃・85%RHの湿熱環境>
◎:抵抗値変化率が50%未満
○:抵抗値変化率が50%以上、100%未満
△:抵抗値変化率が100%以上、300%未満
×:抵抗値変化率が300%以上
<95℃の高温環境>
◎:抵抗値変化率が20%未満
○:抵抗値変化率が20%以上、50%未満
△:抵抗値変化率が50%以上、100%未満
×:抵抗値変化率が100%以上
【0188】
【0189】
【0190】
表2から分かるように、実施例で得られた粘着シートによれば、銀配線電極板におけるマイグレーションを防止することができるとともに、配線の変色を防止することができた。また、実施例で得られた粘着シートによれば、銀配線電極板およびITO蒸着フィルムの抵抗値変化を抑制することができた。